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特開2024-137126プラスチック光ファイバケーブル及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137126
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】プラスチック光ファイバケーブル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/44 20060101AFI20240927BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G02B6/44 331
G02B6/44 301A
G02B6/44 301B
G02B6/02 391
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048521
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 登
(72)【発明者】
【氏名】森中 剛
【テーマコード(参考)】
2H250
【Fターム(参考)】
2H250AB33
2H250AB43
2H250AD32
2H250AD33
2H250AD37
2H250BA02
2H250BA34
2H250BB03
2H250BB10
2H250BB15
2H250BC02
2H250BD00
2H250BD07
(57)【要約】
【課題】プラスチック光ファイバの外周に、黒色の一次被覆層を有し、該一次被覆層の外周に二次被覆層を有するプラスチック光ファイバケーブルにおいて、外部装置又は外部装置への連結用部材の着脱時の二次被覆層の欠けを防止する。
【解決手段】プラスチック光ファイバの外周に、黒色の一次被覆層を有し、該一次被覆層の外周に二次被覆層を有するプラスチック光ファイバケーブルであって、該二次被覆層のJIS K7215デュロメータ硬さDに基づく硬度が45以上であり、該二次被覆層の厚さA(mm)と該プラスチック光ファイバケーブルの外径B(mm)が、下記式(1)を満たし、該二次被覆層の一部に外部装置又は外部装置への連結用部材が固定されていることを特徴とする光ファイバケーブル。
0.10≦A/B≦0.21 (1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック光ファイバの外周に、黒色の一次被覆層を有し、該一次被覆層の外周に二次被覆層を有するプラスチック光ファイバケーブルであって、
該二次被覆層のJIS K7215デュロメータDに基づく硬度が45以上であり、
該二次被覆層の厚さA(mm)と該プラスチック光ファイバケーブルの外径B(mm)が、下記式(1)を満たし、
該二次被覆層の一部に外部装置又は外部装置への連結用部材が固定されていることを特徴とする光ファイバケーブル。
0.10≦A/B≦0.21 (1)
【請求項2】
前記一次被覆層及び前記二次被覆層が、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂から選ばれる1種又は2種以上を含む、請求項1に記載のプラスチック光ファイバケーブル。
【請求項3】
前記一次被覆層及び前記二次被覆層が、ポリエチレン樹脂を含む、請求項2に記載のプラスチック光ファイバケーブル。
【請求項4】
前記プラスチック光ファイバが、メチルメタクリレート単独重合体、またはメチルメタクリレートと他の共重合可能な単量体との共重合体を含む、請求項1に記載のプラスチック光ファイバケーブル。
【請求項5】
前記プラスチック光ファイバの外周に、前記一次被覆層及び前記二次被覆層を、共押出方式で一括被覆する工程を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のプラスチック光ファイバケーブルの製造方法。
【請求項6】
前記プラスチック光ファイバの外周に前記一次被覆層を形成する工程と、該一次被覆層を形成したプラスチック光ファイバを加熱し、加熱された該光ファイバケーブルの該一次被覆層の外周に二次被覆層を形成する工程とを有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のプラスチック光ファイバケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック光ファイバケーブルとこのプラスチック光ファイバケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチルメタクリレート等の透明性の高い樹脂からなるコアを有するプラスチック光ファイバ(POF)は、列車内、航空機内、自動車等の車両内等での光情報通信や、ファクトリーオートメーション(FA)分野の光情報通信に用いられている。上記の光情報通信分野では、通常プラスチック光ファイバは、その外周に樹脂を被覆したプラスチック光ファイバケーブル(以下、「光ファイバケーブル」と称す場合がある。)の形態で使用される。
【0003】
例えば、特許文献1には、プラスチック光ファイバの外周に一次被覆層と二次被覆層を設けた光ファイバケーブルにおいて、一次被覆層と二次被覆層が剥離しないように密着強度が高められ、且つ着色性に優れたプラスチック光ファイバケーブルを提供するために、「プラスチック光ファイバの外側に、黒色ポリアミド樹脂からなる一次被覆層と、一次被覆層の外側に着色ポリアミド樹脂からなる二次被覆層を有するプラスチック光ファイバケーブルであって、30mm被覆長における一次被覆層と二次被覆層との密着強度が98N以上であるプラスチック光ファイバケーブル」が開示されている。
特許文献1には、このプラスチック光ファイバケーブルの両端または片端にプラグ部を有するプラグ付プラスチック光ファイバケーブルとすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-98865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなプラスチック光ファイバケーブルでは、プラグ等の外部装置又は外部装置への連結用部材の着脱の際に、二次被覆層の一部が欠けるという問題があった。二次被覆層の一部が欠けて生じた破片がファイバ周辺に残存することは、光を遮断する要因となり、光ファイバケーブルの光量低下をもたらす大きな問題となる。
【0006】
なお、この二次被覆層の欠けの原因としては、二次被覆層自体が脆弱であることによる欠けと、一次被覆層と二次被覆層の界面での剥離との2つが挙げられる。
【0007】
本発明は、プラスチック光ファイバの外周に、黒色の一次被覆層を有し、該一次被覆層の外周に二次被覆層を有するプラスチック光ファイバケーブルにおいて、外部装置又は外部装置への連結用部材の着脱時の二次被覆層の欠けを防止したプラスチック光ファイバケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、二次被覆層の硬度を高めると共に、二次被覆層の厚さとプラスチック光ファイバケーブルの外径との比を所定範囲とすることで、上記課題を解決することができることを知見した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0009】
[1] プラスチック光ファイバの外周に、黒色の一次被覆層を有し、該一次被覆層の外周に二次被覆層を有するプラスチック光ファイバケーブルであって、
該二次被覆層のJIS K7215デュロメータ硬さDに基づく硬度が45以上であり、
該二次被覆層の厚さA(mm)と該プラスチック光ファイバケーブルの外径B(mm)が、下記式(1)を満たし、
該二次被覆層の一部に外部装置又は外部装置への連結用部材が固定されていることを特徴とする光ファイバケーブル。
0.10≦A/B≦0.21 (1)
【0010】
[2] 前記一次被覆層及び前記二次被覆層が、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂から選ばれる1種又は2種以上を含む、[1]に記載のプラスチック光ファイバケーブル。
【0011】
[3] 前記一次被覆層及び前記二次被覆層が、ポリエチレン樹脂を含む、[2]に記載のプラスチック光ファイバケーブル。
【0012】
[4] 前記プラスチック光ファイバが、メチルメタクリレート単独重合体、またはメチルメタクリレートと他の共重合可能な単量体との共重合体を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のプラスチック光ファイバケーブル。
【0013】
[5] 前記プラスチック光ファイバの外周に、前記一次被覆層及び前記二次被覆層を、共押出方式で一括被覆する工程を有する、[1]~[4]のいずれかに記載のプラスチック光ファイバケーブルの製造方法。
【0014】
[6] 前記プラスチック光ファイバの外周に前記一次被覆層を形成する工程と、該一次被覆層を形成したプラスチック光ファイバを加熱し、加熱された該光ファイバケーブルの該一次被覆層の外周に二次被覆層を形成する工程とを有する、[1]~[4]のいずれかに記載のプラスチック光ファイバケーブルの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、プラスチック光ファイバの外周に、黒色の一次被覆層を有し、該一次被覆層の外周に二次被覆層を有するプラスチック光ファイバケーブルにおいて、外部装置又は外部装置への連結用部材の着脱時の二次被覆層の欠けを防止することができる。
このため、二次被覆層から欠け落ちた破片がファイバ周辺に残存することで、光を遮断し、光ファイバケーブルの光量低下をもたらすことが防止され、伝送光量を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
本発明において、特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「X~Y」は、X以上Y以下であることを意味する。
【0017】
[プラスチック光ファイバケーブル]
本発明のプラスチック光ファイバケーブルは、プラスチック光ファイバの外周に、黒色の一次被覆層を有し、該一次被覆層の外周に二次被覆層を有するプラスチック光ファイバケーブルであって、該二次被覆層のJIS K7215デュロメータ硬さD(以下、単に「デュロメータD硬度」と称す場合がある。)が45以上であり、該二次被覆層の厚さA(mm)と該プラスチック光ファイバケーブルの外径B(mm)が、下記式(1)を満たし、該二次被覆層の一部に外部装置又は外部装置への連結用部材が固定されていることを特徴とする。
0.10≦A/B≦0.21 (1)
【0018】
<メカニズム>
本発明のプラスチック光ファイバケーブルにより、外部装置又は外部装置への連結用部材の着脱時の二次被覆層の欠けが防止されるメカニズムについては、以下のように考えられる。
二次被覆層のデュロメータD硬度が45以上で二次被覆層自体が高硬度であることから、二次被覆層の欠けを防止することができる。
また、二次被覆層の厚さA(mm)とプラスチック光ファイバケーブルの外径B(mm)とが前記式(1)を満たすことから、外部装置又は外部装置への連結用部材の着脱時に、最外周面である二次被覆層に大きな力が加わったとしても、最外周面から一次被覆層と二次被覆層との界面までの距離に相当する二次被覆層の厚さAがある程度大きく、この距離が長くなることで、力の影響が小さくなり、一次被覆層と二次被覆層の界面剥離が防止される。
【0019】
<二次被覆層のデュロメータD硬度>
本発明における二次被覆層のデュロメータD硬度は45以上であることを特徴とする。二次被覆層のデュロメータD硬度は、二次被覆層の欠け防止の観点から50以上であることが好ましく、55以上であることがより好ましい。一方、ケーブル敷設時にケーブルの柔軟性が一定以上あることで取り扱い易くなるため、取り扱い性の観点から二次被覆層のデュロメータD硬度は通常70以下であり、好ましくは65以下である。
このような高硬度の二次被覆層は、後述の二次被覆層の構成材料のうち、特に高硬度のポリエチレン樹脂等を用いて形成することができる。
なお、ここで、二次被覆層のデュロメータD硬度とは、二次被覆層を構成する材料のデュロメータD硬度に該当する。後述の一次被覆層のデュロメータD硬度についても同様である。
【0020】
<式(1)>
本発明のプラスチック光ファイバケーブルは、二次被覆層の厚さA(mm)とプラスチック光ファイバケーブルの外径B(mm)が下記式(1)を満たすことを特徴とする(以下、式(1)の「A/B」を「A/B比」と称す場合がある。)。
A/B比が0.10以上であれば、前述の最外周面から一次被覆層と二次被覆層との界面までの距離を大きくすることができ、二次被覆層の欠け防止効果に優れる。この観点からA/B比は0.14以上が好ましく、0.16以上がより好ましい。一方で、一次被覆層に必要な厚さと、プラスチック光ファイバに必要な直径を確保する観点から、A/B比は0.21以下であり、0.19以下が好ましく、0.185以下がより好ましい。
【0021】
<プラスチック光ファイバ>
本発明において、プラスチック光ファイバとしては公知の構造を有するものを使用することができる。例えば、芯鞘構造を有するSI型光ファイバ、中心から外周部に向かってなだらかに芯の屈折率が低下するGI型光ファイバ、中心から外周部に向かって芯の屈折率が階段状に低下する多層光ファイバ、複数の島部が共通の海部により互いに隔てられた状態で一体化されてなるマルチコア光ファイバなどが挙げられる。光ファイバを広帯域化して高速の信号伝送を行うためにはGI型光ファイバまたは多層光ファイバの外周部に鞘を被覆した構造が好ましい。
【0022】
また、本発明においてプラスチック光ファイバは、プラスチック光ファイバの外周部にさらに保護層を被覆した構造としてもよい。この場合、上記の鞘を第一鞘層と称し、保護層を第二鞘層と称す場合がある。
保護層を形成することにより、被覆層の形成工程における芯あるいは鞘に対する保護効果だけでなく、光ファイバに取り込むことができる光を増やすことができる。なお本発明において、保護層とは、光透過性の層であって、光ファイバが光を伝送する際に光の反射屈折に寄与することが可能な光ファイバの最外周部に被覆される層をいう。
【0023】
プラスチック光ファイバの芯材としては、公知のプラスチック光ファイバに使用されている各種の透明性の高い重合体を使用することができ、好ましくはメチルメタクリレート系の重合体が使用される。特に、メチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレート単位を主成分とする、メチルメタクリレートと他の共重合可能な単量体との共重合体、ベンジルメタクリレート単位を主成分とする共重合体、またはフッ素化アルキルメタクリレート系重合体が好適なものとして用いることができる。中でもメチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと他の共重合可能な単量体との共重合体が好ましく、特にメチルメタクリレート単独重合体が好ましい。なお、共重合体の場合は、メチルメタクリレート70質量%以上と他の単量体30質量%以下との共重合体であることが好ましい。
【0024】
鞘材(第一鞘層の材料)としては、公知のプラスチック光ファイバに使用されている、芯材より屈折率の低い透明重合体を使用することができ、フッ化アルキルメタクリレートとメチルメタクリレートとの共重合体などのフッ化アルキルメタクリレート系重合体、フッ化ビニリデン系重合体とポリメチルメタクリレート系重合体とのブレンド物等を使用することができる。例えば、短鎖フッ化アルキルメタクリレートと長鎖フッ化アルキルメタクリレートとメチルメタクリレートとの共重合体などのフッ化アルキルメタクリレート系重合体、フッ化ビニリデン系重合体が挙げられる。
【0025】
保護層(第二鞘層の材料)の材料としては、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロアセトン、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン/テトオラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等の屈折率1.40以下の低屈折率鞘材を用いることにより、プラスチック光ファイバの開口数を0.6以上とすることが好ましい。
【0026】
本発明に係るプラスチック光ファイバの直径は、光ファイバの取り扱い性に優れ、光素子との結合効率や光軸ずれに対する許容度の観点から、0.1~5mmが好ましく、0.2~3mmがより好ましく、0.3~2mmが更に好ましく、0.9~1.1mmが特に好ましい。
【0027】
本発明に係る光ファイバの直径に対する芯(コア)の直径は、光素子との結合効率や光軸ずれに対する許容度の観点から、光ファイバの直径に対して85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。一方、鞘層の厚みを確保する観点から、芯の直径は、光ファイバの直径に対して99.9%以下とすることが好ましい。
【0028】
第一鞘層の厚さは、芯を通過する光を全反射させ、光ファイバの芯部の断面積占有率を十分に確保できることや、光素子との結合効率や光軸ずれに対する許容度の観点から、光ファイバの直径に対して10%以下が好ましく、7%以下がより好ましく、5%以下が更に好ましい。一方、第一鞘層の厚さは、光ファイバ内の光の伝搬の観点から伝搬する光の波長以上とすることが好ましい。例えば、可視光を伝搬する場合、伝搬する最小の波長が400nmであるので、第一鞘層の厚さは、0.4~50μmが好ましく、1.0~25μmがより好ましく、2.0~15μmがさらに好ましい。
【0029】
第二鞘層(保護層)の厚さは、高融点かつ高硬度の第二鞘層を形成することによる効果を十分に得た上で、光ファイバの第一鞘層及び芯の断面積占有率を十分に確保できることから、第一鞘層と第二鞘層の厚さの比が1:0.1~1:5となる厚さであることが好ましく、1:0.1~1:4となる厚さであることがより好ましく、1:0.1~1:3となる厚さであることが更に好ましく、1:0.2~1:3となる厚さであることが特に好ましい。例えば、可視光を伝搬する場合、第二鞘層の厚さは、2~30μmが好ましく、3~20μmがより好ましく、4~15μmがさらに好ましい。
【0030】
本発明に係るプラスチック光ファイバの製造は、公知の製造方法を用いて行うことができ、例えば、溶融紡糸法で行うことができる。
溶融紡糸法によるプラスチック光ファイバの製造は、例えば、芯材及び鞘材をそれぞれ溶融し、複合紡糸することにより行うことができる。
光ファイバケーブルを温度差の大きい環境で用いる場合、ピストニングを抑制するため、プラスチック光ファイバをアニール処理することが好ましい。アニール処理の処理条件は、プラスチック光ファイバの材料によって適宜設定すればよい。アニール処理は連続で行ってもよく、バッチで行ってもよい。
【0031】
<被覆層>
プラスチック光ファイバは、光ファイバが建物内の配線や、自動車等の車両内の各装置間の接続のために用いられるときに、光ファイバを機械的に保護したり、ガソリン、バッテリー液やウィンドウォッシャー液等による被液から光ファイバを保護するために、光ファイバの外周に被覆層を設けたプラスチック光ファイバケーブルの形態として実用に供される。
本発明のプラスチック光ファイバケーブルでは、この被覆層は、プラスチック光ファイバの外周に設けられた黒色の一次被覆層と、この一次被覆層の外周に設けられた二次被覆層との2層構造とされている。
【0032】
一次被覆層及び二次被覆層の材料としては、プラスチック光ファイバの被覆層として一般的に使用されている種々の熱可塑性樹脂を用いることができるが、光ファイバケーブルが使用される環境や要求に応じて、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、及びフッ化ビニリデン樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物を用いることができる。これらのうち、加工性の観点から、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂が好ましく、入手しやすさの観点から、ポリエチレン樹脂が好ましい。
【0033】
一次被覆層には、光ファイバへの外光の入射を防止するために、カーボンブラック等の黒色の着色剤を0.2~1.0質量%含有させることで、黒色の一次被覆層とする。
【0034】
プラスチック光ファイバケーブルの最外層を構成する二次被覆層には、プラスチック光ファイバケーブルの識別性、意匠性を高めるために、各色の着色剤を含有させてもよい。
【0035】
一次被覆層及び二次被覆層のいずれにおいても、着色剤としては、染料系着色剤、無機顔料系着色剤のいずれも用いることができるが、高温条件下でプラスチック光ファイバに移行しにくい無機顔料系着色剤が好ましい。
【0036】
また、本発明の光ファイバケーブルでは、難燃性を付与あるいは向上するために、被覆層を形成する材料に難燃剤を含有させてもよい。難燃剤としては、金属水酸化物、燐化合物、トリアジン系化合物などの公知の難燃剤を用いることができる。
【0037】
本発明のプラスチック光ファイバケーブルにおいて、二次被覆層は前述の通り、デュロメータD硬度45以上の高硬度被覆層であるが、一次被覆層については、ケーブル敷設時にケーブルの柔軟性が一定以上あることで取り扱い易くなるため取り扱い性の観点から、デュロメータD硬度が90以下、特に70以下であることが好ましい。
また、一次被覆層の厚さは、二次被覆層の厚さAの33~140%程度であることが遮光性の観点から好ましい。
【0038】
<プラスチック光ファイバケーブルの製造方法>
一次被覆層と二次被覆層をプラスチック光ファイバに被覆して本発明のプラスチック光ファイバケーブルを製造する方法としては、二段階の被覆工程に分けて一次被覆層と二次被覆層を逐次被覆する方法と、共押し出しにより一次被覆層と二次被覆層を同時に被覆する方法がある。
【0039】
二段階の被覆工程に分けて一次被覆層と二次被覆層を逐次被覆する場合、加圧型のクロスヘッドダイを好適に用いることができる。
【0040】
二段階の被覆工程に分けて一次被覆層と二次被覆層を逐次被覆する方法において、一次被覆層と二次被覆層との密着強度を高めるためには、二次被覆層の被覆形成後に冷却温度30℃~90℃で光ファイバケーブルを冷却する方法(方法A)や、二次被覆層を形成する際に、一次被覆層が形成された光ファイバケーブルを加熱し、加熱された光ファイバケーブルの外側に二次被覆層を形成する方法(方法B)をとることができる。
【0041】
二次被覆層の形成後に冷却を行う方法(方法A)において、冷却温度が高すぎると、一次被覆層と二次被覆層の密着強度を十分に高めることが困難になり、高温で光ファイバが放置されることにより延伸配向が緩和し、光ファイバの機械的強度の低下が生じることがある。冷却温度が低すぎると、光ファイバケーブルが急激に冷却され、一次被覆層と二次被覆層の密着強度が十分に向上しない場合がある。また、一次被覆層と二次被覆層の密着強度を十分に高め、高温で光ファイバが放置されることにより延伸配向が緩和し光ファイバの機械的強度の低下が生じることを防ぐためには、冷却工程に用いられる冷却槽の滞在時間は、2秒以上とすることが好ましい。生産性を高めるためにはプラスチック光ファイバケーブルの滞在時間は、10秒以下とすることが好ましい。方法Aにおいて、冷却工程により冷却された光ファイバケーブルを、前記冷却工程の冷却温度よりも低い冷却温度でさらに冷却する再冷却工程を配置し、二次被覆層形成後の光ファイバケーブルを、高温に設定された冷却槽から低温に設定された冷却槽の順で通過させるようにすると、光ファイバケーブルをより緩やかに冷却することができ、一次被覆層と二次被覆層の密着強度をより向上させることができるので好ましい。この場合、冷却工程の冷却温度は、70℃~90℃とすることが好ましく、再冷却工程の冷却温度は40℃~60℃とすることが好ましい。
【0042】
一次被覆層が形成されたプラスチック光ファイバケーブルを加熱した後に二次被覆層を被覆する方法(方法B)においては、加熱温度は80℃以上とすることが好ましく、120℃以下とすることが好ましい。加熱温度が低すぎると、一次被覆層と二次被覆層との密着強度を十分に高めることができない場合があり、加熱温度が高すぎるとプラスチック光ファイバが軟化しやすくなり被覆時の引っ張り力に耐えられず、機械的強度を向上させるために予め与えられている配向処理が緩和してしまったり、光ファイバが伸びてしまったりする場合がある。
【0043】
一次被覆層と二次被覆層との密着強度を高めるためのその他の方法として、一次被覆層と二次被覆層とを共押出法により同時に被覆する方法をとることができる。共押出法は、一次被覆材および二次被覆材を溶融状態で積層して被覆する方法であり、例えば溶融状態の一次被覆材と二次被覆材を2機のスクリュー型押し出し機を用いて積層し、二層一括被覆用クロスヘッド型被覆装置の口金内で積層された一次被覆材及び二次被覆材を光ファイバに被覆することにより実施できる。
【0044】
<外部装置又は外部装置への連結用部材>
本発明において、外部装置又は外部装置への連結用部材は、用途に応じて公知のものから選択でき、二次被覆層に固定可能な構造を有し、光ファイバケーブルの一端または両端に設けられる。外部装置又は外部装置への連結用部材としては、例えば、各種装置と連結するためのプラグやメディアコンバーターなどが挙げられる。
プラグの構造としては、光ファイバケーブルに固定するための機構として、例えばクリンプ構造や、かしめ機構などが挙げられる。
また、メディアコンバーターは、光ファイバーと非シールドより対線(UTP:Unshielded Twisted Pair Cable)や光と光(シングルモードとマルチモード)などの異なる伝送媒体(メディア)を伝播する信号を変換する装置である。
このような外部装置又は外部装置への連結用部材としては機械的強度が強いものを用いることが好ましい。
【実施例0045】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
[被覆層材料]
以下の実施例及び比較例で使用した被覆層材料は以下のとおりである。
【0047】
<一次被覆層材料>
一次被覆材(B-1):ポリエチレン樹脂(商標名:UBEポリエチレン UBEC180、宇部丸善ポリエチレン社製)にカラーバッチ(大日精化工業社製、黒PE-RM8R509)を3質量%含有させたもの(デュロメータD硬度:57)
一次被覆材(B-2):ポリエチレン樹脂(商標名:ノバテック LD400、日本ポリエチレン社製)にカラーバッチ(大日精化工業社製、黒PE-RM8R509)を3質量%含有させたもの(デュロメータD硬度:50)
【0048】
<二次被覆層材料>
二次被覆材(C-1):ポリエチレン樹脂(商標名:UBEポリエチレン UBEC180、宇部丸善ポリエチレン社製)にカラーバッチ(大日精化工業社製、白PEM-82201)を3質量%含有させたもの(デュロメータD硬度:57)
二次被覆材(C-2):ポリエチレン樹脂(商標名:ノバテック LD400、日本ポリエチレン社製)にカラーバッチ(大日精化工業社製、白PEM-82201)を3質量%含有させたもの(デュロメータD硬度:50)
【0049】
[製造例1:プラスチック光ファイバの製造]
芯材としてメチルメタクリレート(MMA)の単独重合体(PMMA)を用い、鞘層は2層構造とし、第一鞘層の材料として、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(3FM)/2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(13FM)/MMA/メタクリル酸(MAA)=41/39/18/2(質量%)の共重合体、第二鞘層の材料としてフッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン=80/20(mol%)を用い、これらを溶融して同心円状に中心から順次積層して複合紡糸し、芯径:970μm、第一鞘層厚さ:5μm、第二鞘層厚さ:10μmからなる直径:1.0mmのプラスチック光ファイバを得た。
【0050】
[実施例1]
<プラスチック光ファイバケーブルの製造>
一次被覆層を構成する材料を一次被覆材(B-1)とし、二次被覆層を構成する材料を二次被覆材(C-1)とした。これらの材料を210℃に設定した樹脂被覆用クロスヘッド型40mmケーブル被覆装置((株)聖製作所製)に供給し、製造例1で製造したプラスチック光ファイバの外周に一次被覆層、及び二次被覆層を押し出し被覆し、一次被覆層厚さ:0.2mm、二次被覆層厚さA:0.4mmで、外径B:2.2mmの光ファイバケーブルを得た。得られた光ファイバケーブルを用いて、以下の通り、外部装置又は外部装置への連結用部材抜き差し後の光量損失の評価を行った。その結果を、表1に示す。
【0051】
<外部装置又は外部装置への連結用部材抜き差し後の損失光量の評価>
長さ1mの光ファイバケーブルの一端から波長660nmのLED光を入射させ、その状態のまま、光ファイバケーブルの一端をギガビットメディアコンバーター(Homefibre社製、商品名OMC1001GIG)に対して101回抜き差しを行い、他端から出射される光量を測定した。このように抜き差しした光ファイバケーブルの出射光量と、上記抜き差しを行っていない同光ファイバケーブルについて同様に測定した出射光量の差から損失光量を算出した。
【0052】
[実施例2]
一次被覆層の構成材料、二次被覆層の構成材料として、表1に示すものを用いたこと以外は実施例1と同様にしてプラスチック光ファイバケーブルを製造し、同様に評価を行って結果を表1に示した。
【0053】
[比較例1]
実施例2におけると同様の被覆層材料を用い、ケーブル被覆装置の押し出し口を変更し、一次被覆層厚さ:0.4mm、二次被覆層厚さA:0.2mmで、外径B:2.2mmの光ファイバケーブルとしたこと以外は実施例1と同様にしてプラスチック光ファイバケーブルを製造し、同様に評価を行って結果を表1に示した。
【0054】
【表1】
【0055】
表1より、本発明によれば、外部装置又は外部装置への連結用部材の着脱による二次被覆層の欠けを防止して、外部装置又は外部装置への連結用部材の着脱による光量の損失を小さく抑えることができることが分かる。