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  • 特開-惣菜類の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137228
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】惣菜類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 35/00 20160101AFI20240927BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20240927BHJP
【FI】
A23L35/00
A23L19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048671
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川倹太郎
(72)【発明者】
【氏名】田村 翔平
(72)【発明者】
【氏名】徳田 慎也
【テーマコード(参考)】
4B016
4B036
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LG05
4B016LG08
4B016LG10
4B016LG12
4B016LG14
4B016LK06
4B016LK20
4B016LP03
4B016LP05
4B016LP11
4B036LC01
4B036LF19
4B036LH29
4B036LH38
4B036LK01
4B036LP01
4B036LP02
4B036LP17
(57)【要約】
【課題】炒め感のある惣菜類を提供すること。
【解決手段】本発明の惣菜類の製造方法は、野菜類を含む食材に100~300℃の水蒸気を接触させて加熱する水蒸気加熱工程と、前記水蒸気加熱工程を経た前記食材に炎を接触させて炙る炙り工程とを有する。前記炙り工程は、炙り機1を用いて行うことができる。炙り機1は、食材10の搬送路2を備え、搬送路2の一部に、搬送路2を搬送中の食材10に炎3を接触させる炙り域2Aが1つ以上配置され、炙り域2Aを食材10が1回通過することで、前記炙り工程が1回実施されるようになされている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜類を含む食材に100~300℃の水蒸気を接触させて加熱する水蒸気加熱工程と、
前記水蒸気加熱工程を経た前記食材に炎を接触させて炙る炙り工程とを有する、惣菜類の製造方法。
【請求項2】
前記水蒸気の温度が200~300℃である、請求項1に記載の惣菜類の製造方法。
【請求項3】
前記水蒸気加熱工程において、前記野菜類の中心温度が85℃になるまで前記食材を加熱する、請求項1又は2に記載の惣菜類の製造方法。
【請求項4】
前記炙り工程における前記食材の炎との総接触時間が、該食材1平方センチメートルあたり0.01~5秒である、請求項1~3の何れか1項に記載の惣菜類の製造方法。
【請求項5】
前記炙り工程の実施回数が1~10回である、請求項1~4の何れか1項に記載の惣菜類の製造方法。
【請求項6】
前記炙り工程の実施回数が2回以上であり、
前記炙り工程1回あたりの前記食材の炎との接触時間が、該食材1平方センチメートルあたり0.01~0.5秒である、請求項1~5の何れか1項に記載の惣菜類の製造方法。
【請求項7】
前記炙り工程の実施回数が2回以上であり、
先行の前記炙り工程とその次の前記炙り工程との間に、前記食材を攪拌する攪拌工程を有する、請求項1~6の何れか1項に記載の惣菜類の製造方法。
【請求項8】
前記炙り工程は、炙り機を用いて行われ、
前記炙り機は、前記食材の搬送路を備え、該搬送路の一部に、該搬送路を搬送中の該食材に炎を接触させる炙り域が1つ以上配置され、該炙り域を該食材が1回通過することで、前記炙り工程が1回実施されるようになされている、請求項1~7の何れか1項に記載の惣菜類の製造方法。
【請求項9】
前記炙り工程よりも前に、前記食材と油脂とを混合する、請求項1~8の何れか1項に記載の惣菜類の製造方法。
【請求項10】
前記食材は更に肉類を含む、請求項1~9の何れか1項に記載の惣菜類の製造方法。
【請求項11】
前記炙り工程よりも前に、前記食材と調味料とを混合する、請求項10に記載の惣菜類の製造方法。
【請求項12】
前記炙り工程を経た前記食材を冷蔵又は冷凍する工程を有する、請求項1~11の何れか1項に記載の惣菜類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炒め感のある惣菜類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炒飯、野菜炒め、焼きそば等の炒め物食品は、食材を高温で炒め調理することで生じた香ばしい炒め香等の風味と、適度な焦げ目のある外観とが相俟って、独特の炒め感を有しており、家庭内及び飲食店で人気のメニューであるとともに、小売店が提供する市販の惣菜類としても人気がある。
【0003】
特許文献1には、過熱水蒸気を含む水系熱媒体と、それを生成する発熱体からの輻射熱と、マイクロ波の3つを併用して行う、食品の加熱処理方法が記載されている。特許文献1に記載の方法によれば、炊飯を、迅速にムラなく美味しく炊き上げ、且つその美味しさを長持ちさせることができるとされているが、水蒸気加熱、輻射熱及びマイクロ波加熱の組み合わせでは、食品に十分な炒め感を付与できないおそれがある。
【0004】
特許文献2には、炒め物食品の製造方法として、食用油を一旦一括して大量に150℃以上で5分以上加熱しておき、冷却後これを再加熱した状態で生産ロットや生産速度に併せて少量ずつ炒め機に投入し、順次食材を炒める方法が記載されている。特許文献2に記載の方法によれば、好ましい炒め香が強く感じられ、冷凍保存後もその炒め香を保持できる炒め物食品を製造できるとされている。特許文献2に記載の方法は、炒め物食品に対し、食用油由来の炒め香を付与することはできるが、食用油以外の食材由来の炒め香を十分に付与することが難しく、食品に十分な炒め感を付与できないおそれがある。
【0005】
炒め物食品は、炒め調理を必要とするために生産効率が悪く、他の調理法を利用する食品に比べて、工業的に大量生産することが難しいとされている。特許文献3には、この課題を解決した冷凍又は冷蔵炒め物食品の製造方法として、原料の一部を油ちょうして添加する工程を有するものが記載されている。しかし、特許文献3に記載の方法では、原料全体に炒め感を付与し難く、食品に十分な炒め感を付与できないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-253202号公報
【特許文献2】特開2007-049924号公報
【特許文献3】特開平8-228694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、炒め感のある惣菜類を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、野菜類を含む食材に100~300℃の水蒸気を接触させて加熱する水蒸気加熱工程と、前記水蒸気加熱工程を経た前記食材に炎を接触させて炙る炙り工程とを有する、惣菜類の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、炒め感のある惣菜類を提供することができる。
本発明の製造方法によって製造された惣菜類は、風味(香り、味わい)及び外観の双方において十分な炒め感を有する。すなわち本発明の製造方法によって製造された惣菜類は、食材を炒め調理することによって生じた炒め香が強く感じられ、且つ炒め物食品に特有の好ましい食味を有し、つまり「炒め感のある風味」を有するとともに、適度な焦げ目があり、「炒め感のある外観」を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明に係る炙り工程で使用可能な炙り機の一例の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の惣菜類の製造方法では、野菜類を含む食材を加熱調理して惣菜類を製造する。本発明で用いる野菜類は、加熱調理できるものであればよく、その種類は特に制限されない。野菜類の具体例として、ダイコン、ニンジン、ゴボウ、レンコン、ジャガイモ、サツマイモ等の根菜類;キャベツ、コマツナ、ミズナ、ハクサイ、チンゲンサイ、ニラ、ホウレンソウ、ミツバ、レタス、セロリ、パセリ、アスパラガス、タケノコ、ニンニク、ネギ、タマネギ、ブロッコリー、カリフラワー、食用菊、ミョウガ等の葉茎菜類;ナス、トマト、トウガラシ、ピーマン、カボチャ、ズッキーニ、キュウリ、オクラ、スイートコーン、サヤインゲン、サヤエンドウ、グリーンピース、ソラマメ、エダマメ等の果菜類;ショウガ等の香辛野菜;イチゴ、メロン等の果実的野菜;緑豆モヤシ、大豆モヤシ、トウミョウ等の芽物類が挙げられる。
【0012】
本発明では、食材として、野菜類の他に、野菜類以外の他の食材、例えば、牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉、鹿肉、馬肉、ガチョウ肉等の畜肉・獣肉類;マグロ、カジキ、タラ、イカ、エビ、貝類等の魚介類の肉類;シイタケ、シメジ、エリンギ、マイタケ、マツタケ等のキノコ類;トウモロコシ、コメ、ムギ等の穀類;バナナ、リンゴ、ウメ等の果物類等を用いることができる。
本発明は、特に、野菜類及び肉類を含む惣菜類の製造に好適である。肉類としては、畜肉・獣肉類が特に好ましい。
【0013】
本発明では、1種類の食材を用いてもよく、2種類以上の食材を用いてもよい。また、本発明で用いる食材は、生(未加工品)でもよく、生(未加工品)の食材に、切断、皮むき、加熱、乾燥、冷蔵、冷凍、下味付け等の前処理の1種以上を施した加工品でもよい。
【0014】
本発明の惣菜類の製造方法は、野菜類を含む食材の加熱調理法として、水蒸気加熱と直火による炙り加熱との組み合わせを採用している点で特徴付けられる。すなわち本発明の惣菜類の製造方法は、食材に水蒸気を接触させて加熱する水蒸気加熱工程と、該水蒸気加熱工程を経た食材に炎を接触させて炙る炙り工程とを有する。本発明の惣菜類の製造方法はこの特徴により、炒め感のある惣菜類を効率よく製造することができる。
【0015】
前記水蒸気加熱工程では、食材に100~300℃、好ましくは200~300℃の水蒸気を接触させて加熱する。水蒸気の温度が100℃未満では、最終的に得られる惣菜類の炒め感が不足するおそれがあり、水蒸気の温度が300℃超では、部分的に過加熱となり、最終的に得られる惣菜類が焦げることで炒め感を得ることができないおそれがある。
【0016】
前記水蒸気加熱工程は、雰囲気温度が100~300℃に調整され且つ水蒸気が導入された密閉空間に食材を収容することで実施できる。前記水蒸気加熱工程の実施には、市販の水蒸気加熱調理器を用いることができる。水蒸気加熱調理器としては、水蒸気又は微細水滴による加熱を利用したものでもよく、水蒸気と熱風とを併用したものでもよく、代表的なものとして過熱水蒸気処理、高温微細水滴処理、スチームコンベクション方式などが知られている。また、水蒸気加熱調理器としては、水蒸気を食材に直接吹き付ける水蒸気噴射型と、水蒸気を食材に直接吹き付けるのではなく、食材が収容された庫内に水蒸気を導入して該庫内を水蒸気で満たす水蒸気充満型とが知られているが、本発明では何れも使用できる。
【0017】
前記水蒸気加熱工程では、食材に含まれる野菜類の中心温度が85℃になるまで食材を加熱することが、衛生面の向上、食材に適度な食感及び香ばしさを付与する等の観点から好ましい。ここで言う「野菜類の中心」とは、当該野菜類を前記水蒸気加熱工程に供した場合に85℃に到達するのに最も時間を要する部分(以下、「難昇温性部」とも言う。)を指し、食材に複数種類の野菜類が含まれる場合は、その複数種類の野菜類のうち、前記水蒸気加熱工程に供した場合に難昇温性部が85℃に到達するのに最も時間を要するものの難昇温性部を指す。例えば、野菜類としてキャベツを用いる場合、一般的には、キャベツの芯部が難昇温性部となり得る。野菜類の中心温度は、例えば、記憶式温度計データトレース(西華産業)によって測定することができる。
【0018】
前記水蒸気加熱工程は、該水蒸気加熱工程後の原材料の歩留まりが好ましくは75質量%以上、より好ましくは80~90質量%となるように、原材料を水蒸気加熱することが好ましい。これにより、次工程の炙り工程で食材が焦げる不都合が効果的に防止され得る。
前記「原材料の歩留まり」とは、前記水蒸気加熱工程に供される前の原材料の質量に対する、該水蒸気加熱工程後の該原材料の質量の割合(質量%)である。ここで言う「原材料」とは、水蒸気加熱工程に供される全ての原材料を含む概念であり、該原材料として野菜類等の食材のみを用いる場合は「原材料=食材」であり、該原材料として食材に加えて更に他の原材料(油脂、調味料等)を用いる場合は、「原材料=食材及び他の原材料」である。原材料の歩留まりは、前記水蒸気加熱工程における加熱温度(水蒸気の温度)、加熱時間(水蒸気との接触時間)等を調整することで調整可能である。
【0019】
前記水蒸気加熱工程における加熱時間は、食材の種類等に応じて適宜調整すればよく特に制限されないが、本発明の所定の効果(炒め感のある惣菜類を提供する)を一層確実に奏させるようにする観点から、好ましくは30~300秒、より好ましくは60~250秒である。ここで言う「加熱時間」とは、食材が100~300℃の水蒸気と接触した状態にある時間を指し、食材に水蒸気を複数回にわたって間欠的に接触させる場合は、その複数回の接触時間の合計である。
同様の観点から、前記水蒸気加熱工程では、水蒸気温度と加熱時間との積(水蒸気温度(℃)×加熱時間(秒))が、8000~90000(℃・秒)、より好ましくは16000~48000(℃・秒)であることが好ましい。
同様の観点から、前記水蒸気加熱工程で使用する水蒸気の量は、好ましくは20~300kg/時間、より好ましくは30~200kg/時間である。
【0020】
本発明では、加熱調理する食材の全部を一度に前記水蒸気加熱工程に供してもよく、あるいは加熱調理する食材を複数のグループに分けて、各グループに対して前記水蒸気加熱工程を行ってもよい。食材を複数のグループに分ける場合、そのグループ分けの方法に特に制限は無く、例えば、複数のグループどうしで食材の種類の異同は問わずに各グループの総質量が均等になるように分けてもよく、あるいは複数種類の食材を使用する場合に、食材の種類ごとにグループ分けしてもよい。後者の例として、食材が野菜類と肉類とを含む場合に、食材を野菜類のグループと肉類のグループとに分けて、両グループそれぞれに対して前記水蒸気加熱工程を実施する方法が挙げられる。
【0021】
前記炙り工程において、食材と炎との接触時間すなわち炙り時間は、所望の炒め感が得られるよう、食材の種類等に応じて適宜設定すればよい。典型的には、前記炙り工程における食材の炎との総接触時間(以下、「総炙り時間」とも言う。)は、該食材1平方センチメートルあたり、好ましくは0.01~5秒、より好ましくは0.03~3秒である。これにより、過度な加熱による食材の焦げ付きを効果的に抑制しつつ、食材に炒め感を付与することが可能となる。前記「総炙り時間」とは、食材を炎で炙った時間の合計値を指す。本発明の惣菜類の製造方法では、炙り工程を1回以上実施し得るところ、炙り工程の実施回数が1回の場合は、その1回の炙り工程における食材と炎との接触時間が総炙り時間であり、炙り工程の実施回数が2回以上の場合、すなわち複数の炙り工程を不連続に実施する場合は、その2回以上の炙り工程それぞれにおける食材と炎との接触時間の合計が総炙り時間である。
【0022】
前記炙り工程において、食材を炙る強さは、衛生面を考慮しつつ、所望の炒め感が得られるよう、食材の種類等に応じて適宜設定すればよい。食材を炙る強さに関連する要素として、「炎の強さ」(炎出力)及び「熱源と食材との距離」が挙げられる。後者は、図1中符号Dで示す、炎3の噴出口(熱源)と食材10との最短距離を指す。
例えば、後述するバーナー装置を用いて前記炙り工程を行う場合、典型的には、炎出力は10000~30000kcal/h程度が好ましく、熱源と食材と(被炙り物)の距離は50~200mm程度が好ましい。
【0023】
前記炙り工程は、炙り機を用いて行うことができる。図1には、炙り機の一例の概略構成が示されている。図1に示す炙り機1は、食材10の搬送路2を備え、搬送路2の一部に、搬送路2を搬送中の食材10に炎3を接触させる炙り域2Aが配置され、炙り域2Aを食材10が1回通過することで、前記炙り工程が1回実施されるようになされている。
【0024】
図示の形態では、搬送路2はベルトコンベアであり、被搬送物である食材10を一方向MDに搬送可能になされている。本発明では、搬送路2はベルトコンベアに限定されず、この種の食品の加工装置で従来使用されている搬送手段を適宜用いることができる。また、図示の形態では、食材10はトレー状の容器11に収容されているが、容器11は無くてもよく、搬送路2上に食材10を直接載置してもよい。
【0025】
炙り機1は、炎3を噴射するバーナー装置4を備えている。バーナー装置4は、搬送路2の上方に配置され、搬送路2を搬送中の食材10に向けて炎3を噴射してこれを炙る。バーナー装置4としては、ブンゼンバーナー、ガストーチバーナー等、炎を噴射可能な公知のバーナー装置を特に制限無く用いることができる。
炙り域2Aは、搬送路2における、バーナー装置4から噴射される炎3が届く領域であり、炙り機1では、2つの炙り域2Aが方向MDに間欠配置されている。したがって炙り機1では、食材10がバーナー装置4の下方を方向MDに1回通過すると、炙り域2Aを2回通過することになるので、食材10に対して前記炙り工程が2回実施されることになる。搬送路2における炙り域2Aの配置数は、食材10に施す炙り工程の回数に対応している。
【0026】
前記炙り工程の実施回数は特に制限されないが、典型的には、好ましくは1~10回、より好ましくは2~6回である。なお、図1に示す炙り機1の如き一般的な炙り機、すなわち「食材の搬送路の一部に炙り域を1つ以上設け、該炙り域にて食材に炎を接触させるように構成された炙り機」を用いて炙り工程を実施する場合、前記「炙り工程の実施回数」は、典型的には、食材が該炙り域を通過する回数である。
【0027】
例えば、前記炙り工程の実施回数(食材が炙り域を通過する回数)が2回以上である場合、該炙り工程1回あたりの食材の炎との接触時間(炙り時間)は、食材1平方センチメートルあたり、好ましくは0.01~0.5秒、より好ましくは0.02~0.1秒である。前記炙り工程は、1回のみ実施するよりも、複数回実施し且つ1回当たりの炙り時間を1回のみ実施する場合のそれよりも短くした方が、食材を焦がさずに炒め感を付与しやすくなるため好ましい。前記「炙り工程1回あたりの食材の炎との接触時間」とは、炙り機1の如き、食材の搬送路に炙り域が2つ以上設けられた炙り機において、該搬送路を搬送中の食材が1つの炙り域を通過するのに要する時間に相当する。
【0028】
前記炙り工程の実施回数(食材が炙り域を通過する回数)が2回以上である場合、先行の炙り工程とその次の炙り工程との間に、食材を攪拌する攪拌工程を有することが好ましい。このように炙り工程、攪拌工程、炙り工程の順で進行することで、先行の炙り工程で食材中に炎と接触しなかった部分が存在しても、攪拌工程によって該部分の位置が変更されてから次の炙り工程に供されるようになるため、食材全体を均一に炙ることが可能となる。特に、食材における炎との接触面側とは反対側、すなわち図1の食材10を例に取れば、食材10における容器11の底面との接触面側(食材10の下部)は、食材10におけるバーナー装置4との対向面側(食材10の上部)に比べて炎3が届きにくいため、食材10を攪拌せずに単に炙り工程を複数回実施する(炙り域2Aを複数回通過させる)だけでは、食材に部分的に炙り加熱が不十分となる箇所が生じることが懸念されるが、前記のように食材の攪拌工程を実施することで、斯かる懸念を払拭することが可能となる。
前記攪拌工程では、攪拌器具を用いて食材全体を均一に攪拌することが好ましい。攪拌器具は特に制限されず、木製又はシリコン製のヘラ、攪拌翼等の公知の攪拌器具を用いることができる。
【0029】
前記炙り工程に供する食材は、厚みが均一であることが好ましい。すなわち図1の食材10を例に取れば、搬送路2を搬送される食材10の厚み(図1の上下方向の長さ)は均一であることが好ましい。ここで言う「厚みが均一」とは、具体的には、食材において厚みが最も小さい部分と最も大きい部分との差が、好ましくは40mm以下、より好ましくは20mm以下である場合を指す。食材の厚みが不均一で食材中に比較的大きな高低差が存在すると、炙り工程において食材の炎との接触の程度が部分的に異なることとなり、焦げ付き又は炙り加熱不十分の箇所が生じるおそれがある。
【0030】
前記炙り工程において、食材に接触させる炎は、食材の搬送方向に対して直交せずに交差する方向に向けて噴射することが好ましい。図1の炙り機1ではそのようになっている。すなわち炙り機1では、2つの炙り域2Aそれぞれにおいて、炎3は食材10の搬送方向MDに対して直交せずに交差する方向に向けて噴射されている。このように炎3の噴射方向を搬送方向MDに対して斜めにすることで、炎3の噴射方向を搬送方向MDに対して直交させる場合に比べて、食材10の上部の比較的広い範囲に炎3を接触させる(炙り域2Aの面積を大きくする)ことが可能となる。
【0031】
前記炙り工程よりも前に、食材と油脂とを混合してもよい。これにより、前記炙り工程で油脂が炙られて油脂由来の炒め香が発生するようになり、食材由来の炒め香と相俟って、最終的に得られる惣菜類の炒め感が一層高まり得る。油脂は、食品に用いられるものであればよく、菜種油等の植物性油脂でもよく、ラード等の動物性油脂、ネギ油等の香味油脂でもよい。
食材と油脂とを混合するタイミングは、前記水蒸気加熱工程の後で前記炙り工程の前でもよいが、作業効率の向上、炒め感の向上等の観点から、前記水蒸気加熱工程の前が好ましい。
【0032】
本発明では前述したとおり、食材は、野菜類に加えて更に肉類を含んでいてもよいところ、その場合、前記炙り工程よりも前に、野菜類及び肉類を含む食材と調味料とを混合することが好ましい。これにより、前記炙り工程で肉類及び調味料が炙られてそれらに起因する炒め香が発生するようになり、食材由来の炒め香と相俟って、最終的に得られる惣菜類の炒め感が一層高まり得る。調味料の種類は特に制限されず、常温常圧で粉体でもよく、液状でもよい。
野菜類及び肉類を含む食材と調味料とを混合するタイミングは、前記水蒸気加熱工程の後で前記炙り工程の前でもよいが、作業効率の向上、炒め感の向上等の観点から、前記水蒸気加熱工程の前が好ましい。
【0033】
本発明の惣菜類の製造方法は、前記炙り工程を経た食材すなわち惣菜類を、冷蔵又は冷凍する工程を有していてもよい。すなわち本発明によって製造される惣菜類は、加熱調理済みの冷蔵又は冷凍惣菜類であり得る。惣菜類(食材)の冷蔵方法、冷凍方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用できる。
【実施例0034】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
〔実施例1~7及び比較例1~2〕
下記表1に示す原料(食材、油脂、下味調味料)を用い、以下の手順1~7に従って、惣菜類の一種である冷凍肉野菜炒めを製造した。
手順1:野菜類と油脂とを混合し、その混合物を金属製のバット内に広げた。その際、バット内で食材(野菜類)どうしが重ならないようにした。
手順2:肉類と下味調味料とを混合し、その混合物を、前記手順1のバットは別の金属製のバット内に広げた。その際、バット内で食材(肉類)どうしが重ならないようにした。
手順3:水蒸気充満型の水蒸気加熱調理器(株式会社フジマック製、コンビオーブン)を用い、下記表2に示す条件で、前記手順1及び2のバットの内容物に対し、個別に水蒸気を接触させて加熱した(水蒸気加熱工程)。
手順4:水蒸気加熱工程を経た前記手順1及び2のバットの内容物を1つのバット内にまとめて収容し、該バット内で混合した後、食材(野菜類及び肉類)どうしが重ならないように該バット内に広げた。
手順5:連続式の炙り機(株式会社フジマック製)を用い、下記表2に示す条件で、前記4)のバットの内容物に炎を接触させてこれを炙った(炙り工程)。使用した炙り機は、図1に示す炙り機1と同様の基本構成を有するもので、食材の搬送路(ベルトコンベア)に炙り域が1つ配置され、該炙り域にて食材の上方から炎を噴射して該食材の上部に接触させるように構成されており、炎出力は2万kcal/h(コンベア幅85cmに対しバーナー装置1列の総出力)、熱源と食材(被炙り物)との距離D(図1参照)は10cmであった。炙り工程を複数回実施する場合は、食材が前記炙り域を通過する回数を所望の複数回数とした。
手順6:炙り工程を複数回実施する場合は、先行の炙り工程とその次の炙り工程との間で攪拌工程を実施した。前記攪拌工程は、バットの内容物の全体をゴムベラで攪拌することで実施した。
手順7:炙り工程後、バットの内容物である加熱調理済みの食材(惣菜類)をプラスチック製の個食トレーに移し、該トレーを真空冷却機に入れて該トレーの内容物の品温が10℃になるまで冷却した後、該トレー及びその内容物を急速凍結庫に入れて冷凍することで、目的の冷凍肉野菜炒め(冷凍惣菜類)を製造した。
【0036】
【表1】
【0037】
〔評価試験〕
各実施例及び比較例で得られた冷凍惣菜類を耐熱皿に載置し、ラップフィルムで上面を軽く覆った状態で、出力600Wの電子レンジで2分間加熱して喫食可能な惣菜類とした。こうして加熱解凍して得た惣菜類を、専門パネラーに目視観察してもらうとともに食してもらい、外観及び風味を下記評価基準により評価してもらった。その結果を下記表2に示す。
【0038】
<外観の評価基準>
A:適度な焦げ目があって非常に好ましい炒め感があり、非常に良好。
B:焦げ目がやや少ないか又はやや多いが好ましい炒め感があり、良好。
C:焦げ目がなく炒め感に乏しいか、又は焦げ付きが目立ち、不良。
<風味の評価基準>
A:食した際に炒め香が強く感じられ、非常に良好。
B:食した際に炒め香が感じられ、良好。
C:食した際に炒め香がほとんど感じられず、不良。
【0039】
【表2】
【0040】
表2に示すとおり、各実施例は、野菜類を含む食材に100~300℃の水蒸気を接触させる水蒸気加熱工程と、該水蒸気加熱工程を経た食材に炎を接触させて炙る炙り工程とを含むため、これを満たさない比較例に比べて、惣菜類の外観及び風味の双方において炒め感に優れていた。炙り工程無しの比較例1で得られた惣菜類は、不快な青臭い風味を呈し、水蒸気加熱工程無しの比較例2で得られた惣菜類は、焦げが顕著であった。
【0041】
〔実施例8~9及び比較例3~4〕
以下の変更点以外は前記手順1~7と同様の手順で冷凍肉野菜炒めを製造し、前記評価試験により評価した。その結果を下記表3に示す。
(変更点)
・前記手順1において、野菜類と油脂との混合物に更に液状調味料を、該混合物100質量部に対して5.86質量部添加し混合した。前記液状調味料は、醤油、オイスターソース、鶏がらスープ及び水を含有するものであった。
・前記手順3において、水蒸気加熱調理器として、水蒸気充満型に代えて、水蒸気噴射型(株式会社中西製作所製、SVロースター)を用い、下記表3に示す条件で、水蒸気加熱工程を実施した。
・前記手順5において、炙り機として、ガスボンベにノズル本体部を接続して使用する構成のガストーチバーナー(岩谷産業株式会社製)を用い、下記表3に示す条件で、炙り工程を実施した。使用したガストーチバーナーの炎出力は1600kcal/hであった。このガストーチバーナーを用いた炙り工程では、該ガストーチバーナーの炎噴出口(熱源)と食材(被炙り物)との距離を15cmにするとともに、バット内の食材の上面全体を重複なく満遍に炎で炙る操作を「炙り工程1回」とし、炙り工程を複数回実施する場合は、該操作を所望の複数回数繰り返すとともに、先行の炙り工程とその次の炙り工程との間で攪拌工程を実施した。
【0042】
【表3】
【0043】
表3においても、表2の実施例及び比較例と同様の傾向がみられた。このことから、実施例に代表される本発明の惣菜類の製造方法は、水蒸気充満型及び水蒸気噴射型の何れの水蒸気加熱調理器にも適用できることがわかる。
【符号の説明】
【0044】
1 炙り機
2 搬送路
2A 炙り域
3 炎
4 バーナー装置
10 食材
11 容器
図1