(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137251
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】単芯電力ケーブルのダイナミックレイティングシステム、単芯電力ケーブルのダイナミックレイティング方法、送電システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
H02G 9/00 20060101AFI20240927BHJP
H02G 1/10 20060101ALI20240927BHJP
H02G 1/06 20060101ALI20240927BHJP
H01B 9/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H02G9/00
H02G1/10
H02G1/06
H01B9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048698
(22)【出願日】2023-03-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代洋上直流送電システム開発事業/システム開発」の委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸田 寛
【テーマコード(参考)】
5G352
5G369
【Fターム(参考)】
5G352CA08
5G352EA05
5G369AA16
5G369BA01
5G369BA04
5G369BB01
5G369CA09
(57)【要約】
【課題】高精度の導体温度の推定値の算出を実現すること。
【解決手段】導体と、前記導体の外側を取り囲む絶縁層と、前記絶縁層よりも外側に配置された分布型温度センサを備えた単芯電力ケーブルのダイナミックレイティングシステムであって、前記分布型温度センサが検知した検知温度を取得する温度取得部と、前記導体に流れる電流の電流値を測定する電流測定部と、前記単芯電力ケーブルの単位長さの箇所毎に、少なくとも、前記温度取得部が取得した或る測定時刻での検知温度と、前記電流測定部が測定した前記測定時刻までの電流に対応する電力の履歴と、前記電流によって前記導体で発生した熱による前記検知温度の変化を示す温度応答関数とから、前記測定時刻での前記導体の導体温度の推定値を算出し、前記箇所の少なくとも一つに対して、前記推定値を用いて、前記測定時刻から任意時間後の許容電流値を算出する処理部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電システムにおいて用いられる単芯電力ケーブルであって、導体と、前記導体の外側を取り囲む絶縁層と、前記絶縁層よりも外側に配置された分布型温度センサを備えた単芯電力ケーブルのダイナミックレイティングシステムであって、
前記分布型温度センサが検知した検知温度を取得する温度取得部と、
前記導体に流れる電流の電流値を測定する電流測定部と、
前記単芯電力ケーブルの単位長さの箇所毎に、少なくとも、前記温度取得部が取得した或る測定時刻での検知温度と、前記電流測定部が測定した前記測定時刻までの電流に対応する電力の履歴と、前記電流によって前記導体で発生した熱による前記検知温度の変化を示す温度応答関数とから、前記測定時刻での前記導体の導体温度の推定値を算出し、
前記箇所の少なくとも一つに対して、前記推定値を用いて、前記測定時刻から任意時間後の許容電流値を算出する処理部と、
を備える
単芯電力ケーブルのダイナミックレイティングシステム。
【請求項2】
前記推定値は、少なくとも、前記検知温度と、前記電力の履歴と前記温度応答関数との積の過去の時刻から前記測定時刻までの総和と、の和で表され、
前記温度応答関数は、前記導体に電力をインパルス状に加えたときの、前記導体温度と前記検知温度との温度差の時間変化を表す関数である
請求項1に記載の単芯電力ケーブルのダイナミックレイティングシステム。
【請求項3】
前記送電システムは、着床式洋上風力発電システムまたは浮体式洋上風力発電システムである
請求項1に記載の単芯電力ケーブルのダイナミックレイティングシステム。
【請求項4】
前記単芯電力ケーブルは、海上の気中から海中にわたって保護管に覆われた気中管路部、海水に囲まれた海中部、直に土砂に埋設された直埋設部、保護管に覆われた状態で土砂に埋設された埋設管路部の少なくとも一つを含む
請求項3に記載の単芯電力ケーブルのダイナミックレイティングシステム。
【請求項5】
前記気中管路部、前記海中部、前記直埋設部、および前記埋設管路部では、前記温度応答関数が互いに異なる
請求項4に記載の単芯電力ケーブルのダイナミックレイティングシステム。
【請求項6】
前記気中管路部または前記埋設管路部において前記単芯電力ケーブルの周囲温度を検知する温度センサを備え、
前記処理部は、前記気中管路部または前記埋設管路部に対しては、前記周囲温度の変動と、前記単芯電力ケーブルとその周囲との熱伝達を示す周囲温度応答関数との積の過去の時刻から前記測定時刻までの総和を含む補正項も適用して、前記測定時刻での前記導体温度の前記推定値を算出する
請求項4に記載の単芯電力ケーブルのダイナミックレイティングシステム。
【請求項7】
前記処理部は、前記単芯電力ケーブルの単位長さ毎に前記許容電流値を算出し、
算出した前記許容電流値のうち最も小さい前記許容電流値を、前記単芯電力ケーブルの許容電流値と決定する
請求項1に記載の単芯電力ケーブルのダイナミックレイティングシステム。
【請求項8】
前記処理部は、前記単芯電力ケーブルの単位長さ毎に算出した前記導体温度の前記推定値のうち、最も高い前記推定値が算出された箇所に対して、前記許容電流値を算出する
請求項1に記載の単芯電力ケーブルのダイナミックレイティングシステム。
【請求項9】
前記測定時刻から前記任意時間後に前記単芯電力ケーブルに流れる電流を、算出した前記許容電流値以下になるように調整する電流制御部を備える
請求項1に記載の単芯電力ケーブルのダイナミックレイティングシステム。
【請求項10】
前記単芯電力ケーブルにおいて、複数の前記分布型温度センサが前記導体を中心とする対称の位置に配置されており、
前記処理部は、複数の前記分布型温度センサが検知した検知温度の平均値を前記導体温度の前記推定値の算出に用いる
請求項1に記載の単芯電力ケーブルのダイナミックレイティングシステム。
【請求項11】
請求項1に記載の単芯電力ケーブルのダイナミックレイティングシステムを備える送電システム。
【請求項12】
送電システムにおいて用いられる単芯電力ケーブルであって、単芯の導体と、前記導体の外側を取り囲む絶縁層と、前記絶縁層よりも外側に配置された分布型温度センサを備えた単芯電力ケーブルのダイナミックレイティング方法であって、
前記分布型温度センサが検知した検知温度を取得する検知温度取得ステップと、
前記導体に流れる電流の電流値を取得する電流値取得ステップと、
前記単芯電力ケーブルの単位長さ毎に、少なくとも、或る測定時刻での前記検知温度と、前記測定時刻までの前記電流に対応する電力の履歴と、前記電流によって前記導体で発生した熱による前記検知温度の変化を示す温度応答関数とから、前記測定時刻での前記導体の導体温度の推定値を算出する推定値算出ステップと、
前記推定値を用いて、前記測定時刻から任意時間後の許容電流値を算出する許容電流値算出ステップと、
を備える
単芯電力ケーブルのダイナミックレイティング方法。
【請求項13】
前記単芯電力ケーブルに流れる電流を算出した前記許容電流値以下に制御する制御ステップを備える
請求項12に記載の単芯電力ケーブルのダイナミックレイティング方法。
【請求項14】
送電システムにおいて用いられる単芯電力ケーブルであって、単芯の導体と、前記導体の外側を取り囲む絶縁層と、前記絶縁層よりも外側に配置された分布型温度センサを備えた単芯電力ケーブルの前記分布型温度センサが検知した検知温度を取得する検知温度取得ステップと、
前記導体に流れる電流の電流値を取得する電流値取得ステップと、
前記単芯電力ケーブルの単位長さ毎に、少なくとも、或る測定時刻での前記検知温度と、前記測定時刻までの前記電流に対応する電力の履歴と、前記電流によって前記導体で発生した熱による前記検知温度の変化を示す温度応答関数とから、前記測定時刻での前記導体の導体温度の推定値を算出する推定値算出ステップと、
前記推定値を用いて、前記測定時刻から任意時間後の許容電流値を算出する許容電流値算出ステップと、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項15】
前記プログラムは、さらに、前記単芯電力ケーブルに流れる電流を算出した前記許容電流値以下に制御する制御ステップをコンピュータに実行させる
請求項14に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単芯電力ケーブルのダイナミックレイティングシステム、単芯電力ケーブルのダイナミックレイティング方法、送電システムおよびプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
送電システムにおけるダイナミックレイティングシステム(DRS)として、風力発電における発電量や、気象が変化する状況下で、電力ケーブルの導体温度をリアルタイムで推定し、電力ケーブルでの送電に許容される許容電流値を動的に予測するシステムが知られている。DRSを用いれば、たとえば導体温度が許容値を超えると推定される場合だけ送電する電流を許容電流値以下とする運用が可能である。これにより、電力ケーブルの導体面積を過度に大きくして、導体の温度上昇に過剰に余裕を持たせておく必要がなくなるので、導体面積の削減ひいては電力ケーブルの低コスト化を実現することができる。
【0003】
特許文献1には、多芯の電力ケーブルにおける導体温度の推定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、直流電力を送電するような単芯の電力ケーブルにおいては、高精度の導体温度の推定値については検討されていなかった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、高精度の導体温度の推定値の算出を実現できる単芯電力ケーブルのダイナミックレイティングシステム、単芯電力ケーブルのダイナミックレイティング方法、送電システムおよびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様は、送電システムにおいて用いられる単芯電力ケーブルであって、導体と、前記導体の外側を取り囲む絶縁層と、前記絶縁層よりも外側に配置された分布型温度センサを備えた単芯電力ケーブルのダイナミックレイティングシステムであって、前記分布型温度センサが検知した検知温度を取得する温度取得部と、前記導体に流れる電流の電流値を測定する電流測定部と、前記単芯電力ケーブルの単位長さの箇所毎に、少なくとも、前記温度取得部が取得した或る測定時刻での検知温度と、前記電流測定部が測定した前記測定時刻までの電流に対応する電力の履歴と、前記電流によって前記導体で発生した熱による前記検知温度の変化を示す温度応答関数とから、前記測定時刻での前記導体の導体温度の推定値を算出し、前記箇所の少なくとも一つに対して、前記推定値を用いて、前記測定時刻から任意時間後の許容電流値を算出する処理部と、を備える単芯電力ケーブルのダイナミックレイティングシステムである。
【0008】
前記推定値は、少なくとも、前記検知温度と、前記電力の履歴と前記温度応答関数との積の過去の時刻から前記測定時刻までの総和と、の和で表され、前記温度応答関数は、前記導体に電力をインパルス状に加えたときの、前記導体温度と前記検知温度との温度差の時間変化を表す関数でもよい。
【0009】
前記送電システムは、着床式洋上風力発電システムまたは浮体式洋上風力発電システムでもよい。
【0010】
前記単芯電力ケーブルは、海上の気中から海中にわたって保護管に覆われた気中管路部、海水に囲まれた海中部、直に土砂に埋設された直埋設部、保護管に覆われた状態で土砂に埋設された埋設管路部の少なくとも一つを含んでもよい。
【0011】
前記気中管路部、前記海中部、前記直埋設部、および前記埋設管路部では、前記温度応答関数が互いに異なってもよい。
【0012】
前記ダイナミックレイティングシステムは、前記気中管路部または前記埋設管路部において前記単芯電力ケーブルの周囲温度を検知する温度センサを備え、前記処理部は、前記気中管路部または前記埋設管路部に対しては、前記周囲温度の変動と、前記単芯電力ケーブルとその周囲との熱伝達を示す周囲温度応答関数との積の過去の時刻から前記測定時刻までの総和を含む補正項も適用して、前記測定時刻での前記導体温度の前記推定値を算出してもよい。
【0013】
前記処理部は、前記単芯電力ケーブルの単位長さ毎に前記許容電流値を算出し、算出した前記許容電流値のうち最も小さい前記許容電流値を、前記単芯電力ケーブルの許容電流値と決定してもよい。
【0014】
前記処理部は、前記単芯電力ケーブルの単位長さ毎に算出した前記導体温度の前記推定値のうち、最も高い前記推定値が算出された箇所に対して、前記許容電流値を算出してもよい。
【0015】
前記ダイナミックレイティングシステムは、前記測定時刻から前記任意時間後に前記単芯電力ケーブルに流れる電流を、算出した前記許容電流値以下になるように調整する電流制御部を備えてもよい。
【0016】
前記単芯電力ケーブルにおいて、複数の前記分布型温度センサが前記導体を中心とする対称の位置に配置されており、前記処理部は、複数の前記分布型温度センサが検知した検知温度の平均値を前記導体温度の前記推定値の算出に用いてもよい。
【0017】
本発明の一態様は、前記単芯電力ケーブルのダイナミックレイティングシステムを備える送電システムである。
【0018】
本発明の一態様は、送電システムにおいて用いられる単芯電力ケーブルであって、単芯の導体と、前記導体の外側を取り囲む絶縁層と、前記絶縁層よりも外側に配置された分布型温度センサを備えた単芯電力ケーブルのダイナミックレイティング方法であって、前記分布型温度センサが検知した検知温度を取得する検知温度取得ステップと、前記導体に流れる電流の電流値を取得する電流値取得ステップと、前記単芯電力ケーブルの単位長さ毎に、少なくとも、或る測定時刻での前記検知温度と、前記測定時刻までの前記電流に対応する電力の履歴と、前記電流によって前記導体で発生した熱による前記検知温度の変化を示す温度応答関数とから、前記測定時刻での前記導体の導体温度の推定値を算出する推定値算出ステップと、前記推定値を用いて、前記測定時刻から任意時間後の許容電流値を算出する許容電流値算出ステップと、を備える単芯電力ケーブルのダイナミックレイティング方法である。
【0019】
前記ダイナミックレイティング方法は、前記単芯電力ケーブルに流れる電流を算出した前記許容電流値以下に制御する制御ステップを備えてもよい。
【0020】
本発明の一態様は、送電システムにおいて用いられる単芯電力ケーブルであって、単芯の導体と、前記導体の外側を取り囲む絶縁層と、前記絶縁層よりも外側に配置された分布型温度センサを備えた単芯電力ケーブルの前記分布型温度センサが検知した検知温度を取得する検知温度取得ステップと、前記導体に流れる電流の電流値を取得する電流値取得ステップと、前記単芯電力ケーブルの単位長さ毎に、少なくとも、或る測定時刻での前記検知温度と、前記測定時刻までの前記電流に対応する電力の履歴と、前記電流によって前記導体で発生した熱による前記検知温度の変化を示す温度応答関数とから、前記測定時刻での前記導体の導体温度の推定値を算出する推定値算出ステップと、前記推定値を用いて、前記測定時刻から任意時間後の許容電流値を算出する許容電流値算出ステップと、をコンピュータに実行させるプログラムである。
【0021】
前記プログラムは、さらに、前記単芯電力ケーブルに流れる電流を算出した前記許容電流値以下に制御する制御ステップをコンピュータに実行させてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、単芯電力ケーブルにおいて、高精度の導体温度の推定値の算出を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、実施形態に係るダイナミックレイティングシステムにて用いる単芯電力ケーブルの模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るダイナミックレイティングシステムが適用される着床式洋上風力発電システムの模式的な構成図である。
【
図3】
図3は、送電システムが浮体式洋上風力発電システムである場合を示す模式的な構成図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係るダイナミックレイティングシステムの模式的な構成図である。
【
図5】
図5は、温度応答関数および式(1)の第2項を説明する図である。
【
図7】
図7は、異径導体接続構造を説明する図である。
【
図8】
図8は、異径導体接続構造を用いた単芯電力ケーブルの使用例を説明する図である。
【
図11】
図11は、実施形態に係るダイナミックレイティングシステムを備えた送電システムの模式的な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図面を参照して実施形態について説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略している。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0025】
(実施形態)
[単芯電力ケーブルの構成]
図1は、実施形態に係るダイナミックレイティングシステムにて用いる単芯電力ケーブル1の模式的な断面図である。単芯電力ケーブル1は、導体1aと、内部半導電層1bと、絶縁層1cと、外部半導電層1dと、遮水層1eと、防食層1fと、座床テープ1gと、スペーサ1hと、温度測定用光ファイバ1iと、座床プラスチック紐1jと、亜鉛メッキ鉄線1kと、外装1lと、通信用光ファイバ1mと、を備えている。単芯電力ケーブル1はたとえば海底ケーブルとして構成されている。
【0026】
導体1aは、単芯電力ケーブル1の略中心軸上に配置されている、電流が流れる部分であり、良導体からなる複数の撚線で構成されている。良導体は、たとえば銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などである。内部半導電層1bは、導体1aの外側を取り囲んでおり、たとえば、カーボンが混入された半導電性のゴムからなる。絶縁層1cは、内部半導電層1bの外側を取り囲んでおり、たとえば、架橋ポリエチレンなどの絶縁性の高い樹脂からなる。外部半導電層1dは、絶縁層1cの外側を取り囲んでおり、たとえば、カーボンが混入された半導電性のゴムからなる。遮水層1eは、外部半導電層1dの外側を取り囲んでおり、たとえば鉛被で構成されている。防食層1fは、遮水層1eの外側を取り囲んでおり、たとえばポリエチレンからなる。座床テープ1gは、防食層1fに巻き付けられており、たとえば不織布からなる。
【0027】
スペーサ1hと温度測定用光ファイバ1iと通信用光ファイバ1mとは、絶縁層1cよりも外側に配置され、かつ座床テープ1gの外側を取り囲むように配置されている。4本の温度測定用光ファイバ1iは、ラマン散乱などを用いて温度検出を行うための光ファイバであり、単芯電力ケーブル1の断面において導体1a中心とする対称の位置に、長手方向において螺旋状に配置されている。1本の通信用光ファイバ1mは、通常の通信用光ファイバであり、長手方向において螺旋状に配置されている。スペーサ1hは、温度測定用光ファイバ1iと通信用光ファイバ1mとの配置スペースを確保するために長手方向において螺旋状に配置されており、たとえばプラスチックからなる。4本の温度測定用光ファイバ1iは、複数の分布型温度センサの一例である。
【0028】
座床プラスチック紐1jは、スペーサ1hと温度測定用光ファイバ1iと通信用光ファイバ1mの外側を取り囲んでおり、たとえばポリエチレンからなる。亜鉛メッキ鉄線1kは、座床プラスチック紐1jの外側を取り囲むように長手方向において螺旋状に配置されている。外装1lは、亜鉛メッキ鉄線1kの外側を取り囲んでおり、たとえばポリエチレンからなる。
【0029】
[送電システムの例]
図2は、実施形態に係るダイナミックレイティングシステムが適用される送電システムの一例である着床式洋上風力発電システム1000の模式的な構成図である。
図2(a)に示すように、着床式洋上風力発電システム1000は、単芯電力ケーブル1と、洋上風力発電所1001と、洋上変電所1002と、陸上変電所1003とを備えている。
【0030】
洋上風力発電所1001は、海Seの海底SBから海上に立設した着床式の風力発電所であり、風車によって発電を行ない、発電した電力(直流電力)を単芯電力ケーブル1によって洋上変電所1002に送電する。洋上変電所1002は、海Seの海底SBから海上に立設した着床式の変電所であり、洋上風力発電所1001から送電されてきた電力を変圧し、変圧した電力を単芯電力ケーブル1によって陸上変電所1003に送電する。陸上変電所1003は、陸上Lに設けられており、洋上変電所1002から送電されてきた電力をさらに変圧し、変圧した電力を単芯電力ケーブル1によって他の変電所等に送電する。
【0031】
単芯電力ケーブル1は、洋上風力発電所1001から陸上変電所1003に到る各部分が様々な態様にて敷設されている。たとえば、
図2(b)は、単芯電力ケーブル1の気中管路部11を示している。気中管路部11は、
図2(a)においてたとえば領域A1、A2に存在する。気中管路部11は、単芯電力ケーブル1において、海上の気中から海中にわたって保護管1004に覆われた部分である。保護管1004はたとえば鋼管である。気中管路部11は、太陽Suから日光が照射されたり、海水に浸されたりしているので、比較的温度変動が大きかったり、保護管1004内の空気の対流の影響を受けたりする部分である。気中管路部11はJtube部とも呼ばれる。
【0032】
図2(c)は、単芯電力ケーブル1の海中部12を示している。海中部12は、
図2(a)においてたとえば領域A3、A4に存在する。海中部12は、単芯電力ケーブル1において、海水に囲まれた部分である。海中部12は、温度が低温で比較的安定した部分である。
【0033】
図2(d)は、単芯電力ケーブル1の直埋設部13を示している。直埋設部13は、
図2(a)においてたとえば領域A5に存在する。直埋設部13は、単芯電力ケーブル1において、直に土砂に埋設された部分である。直埋設部13は、温度が比較的安定した部分である。
【0034】
図2(e)は、単芯電力ケーブル1の埋設管路部14を示している。直埋設部13は、
図2(a)においてたとえば領域A6に存在する。埋設管路部14は、単芯電力ケーブル1において、保護管1005に覆われた状態で土砂に埋設された部分である。保護管1005はたとえば鋼管である。埋設管路部14は、保護管1005内の空気の対流の影響を受ける部分である。
【0035】
図3は、送電システムが浮体式洋上風力発電システム1000Aである場合を示す模式的な構成図である。浮体式洋上風力発電システム1000Aの場合は、洋上風力発電所1001Aは海Seに浮かぶ浮体式の風力発電所であり、洋上変電所1002は海Seに浮かぶ浮体式の変電所である。なお、陸上変電所は図示を省略している。浮体式洋上風力発電システム1000Aの場合は、たとえば領域A7、A8に気中管路部があり、領域A9に海中部があり、領域A10に直埋設部がある。海中部はダイナミックケーブルとも呼ばれる。
【0036】
[ダイナミックレイティングシステムの構成]
図4は、実施形態に係るダイナミックレイティングシステム100の模式的な構成図である。ダイナミックレイティングシステム100は、単芯電力ケーブル1と、温度取得部10と、電流測定部20と、処理部30と、電流制御部40と、を備えている。
【0037】
単芯電力ケーブル1は、発電部Pに接続されている。発電部Pは、たとえば風力発電機によって発電を行なう。発電した電力は直流電流として単芯電力ケーブル1の上流から下流に流れる。電流測定部20は、発電部Pと単芯電力ケーブル1との間に設けられており、単芯電力ケーブル1の導体1aに流れる電流の電流値を測定する。
【0038】
温度取得部10は、分布型温度センサの一例である温度測定用光ファイバ1iが検知した検知温度を取得する。なお、
図4では2本だけを示しているが、4本の温度測定用光ファイバ1iは直列に接続されて折り返し形状を成しており、両端の温度測定用光ファイバ1iが温度取得部10に接続されている。温度取得部10はたとえばDTS(Distributed Temperature Sensing)システムで構成されている。
【0039】
処理部30は、導体1aの導体温度の推定値の算出と、許容電流値の算出と、電流制御部40の制御とを行う。処理部30は、たとえばコンピュータとその周辺機器とで構成されている。処理部30は、演算部と、記憶部を備えている。演算部は、処理部30が実行する処理や機能の実現のための各種演算処理を行うものであり、たとえばCPU(Central Processing Unit)で構成される。記憶部は、演算部が演算処理を行うために使用する各種プログラムやデータなどが格納される、たとえばROM(Read Only Memory)で構成される部分を備えている。また、記憶部は、演算部が演算処理を行う際の作業スペースや演算部の演算処理の結果などを記憶するなどのために使用される、たとえばRAM(Random Access Memory)で構成される部分を備えている。プログラムは、ダイナミックレイティング方法に含まれる所定のステップをコンピュータに実行させるプログラムを含む。
【0040】
電流制御部40は、発電部Pと単芯電力ケーブル1との間に設けられており、処理部30の制御によって、単芯電力ケーブル1に流れる電流を調整する。電流制御部40は、たとえば可変抵抗装置やDC/DCコンバータで構成されている。
【0041】
[ダイナミックレイティング方法]
つぎに、ダイナミックレイティングシステム100において実行されるダイナミックレイティング方法について説明する。
【0042】
[検知温度の取得および電流値の取得]
はじめに、温度取得部10は、温度測定用光ファイバ1iが検知した検知温度を取得する(検知温度取得ステップ)。なお、温度測定用光ファイバ1iは、単芯電力ケーブル1の単位長さの箇所毎の検知温度を検知しており、温度測定用光ファイバ1iも単芯電力ケーブル1の単位長さの箇所毎の検知温度を取得する。単芯電力ケーブル1の単位長さは、特に限定されないが、温度測定用光ファイバ1iの分解能以上の長さであり、たとえば0.1m~500mである。温度取得部10は、取得した検知温度の情報を処理部30に送信する。
【0043】
一方、電流測定部20は、単芯電力ケーブル1の導体1aに流れる電流の電流値を測定する。電流測定部20は、測定した電流値の情報を処理部30に送信する。処理部30は、電流値を取得する(電流値取得ステップ)。
【0044】
[導体温度の推定値の算出]
つぎに、処理部30は、単芯電力ケーブル1の単位長さの箇所毎に、少なくとも、或る測定時刻での検知温度と、当該或る測定時刻までの、測定した電流値に対応する電力の履歴と、電流によって導体1aで発生した熱(joule熱)による検知温度の変化を示す温度応答関数とから、当該或る測定時刻での導体1aの導体温度の推定値を算出する(推定値算出ステップ)。
【0045】
具体的には、処理部30は、導体温度の推定値を、式(1)に基づいて算出する。
【数1】
【0046】
ここで、tkは測定時刻であり、Tcond.(tk)は測定時刻tkでの導体温度の推定値である。Tdetect.(tk)は、測定時刻tkでの検知温度である。R(T)は、導体温度がTのときの導体1aの電気抵抗である。I(t)は、時刻tで測定した、導体1aに流れる電流の電流値である。fcf
joule(t)は、時刻tにおける温度応答関数である。また、Δtは、或る測定時刻から次の測定時刻までの測定時間間隔であり、たとえば15分である。Njouleは、所定時間を時間間隔Δtで除算した値である。所定時間とは、導体1aの電気抵抗および導体1aに流れる電流について、測定時刻tkまでの履歴を考慮する上での時間である。したがって、所定時間とは、導体1aに通電を開始した時刻から測定時刻tkまでの時間、または測定時間間隔Δtよりも十分に長い時間(たとえば60時間)である。Δtを15分とし、所定時間を60時間とすると、Njouleは240である。(tk-ti)は、測定時刻tkからti(=i・Δt/Njoule)だけ過去の時刻である。
【0047】
したがって、式(1)の第2項は、測定した電流値に対応する電力RI2の履歴および温度応答関数fcf
joule(t)の履歴を考慮した項である。第2項においては、R(T)については、測定時刻tkから所定時間+測定時間間隔Δtだけ前までの履歴が考慮されている。I(t)、fcf
joule(t)については、測定時刻tkから所定時間だけ前までの履歴が考慮されている。
【0048】
式(1)は、測定時刻tkにおける推定値Tcond.(tk)は、検知温度Tdetect。(tk)と、電力RI2の履歴と温度応答関数fcf
joule(t)との積の、過去の時刻から測定時刻までの総和と、の和で表されることを示している。
【0049】
また、温度応答関数fcf
joule(t)は、導体1aに電力(電流)をインパルス状に加えたときの、導体温度と検知温度との温度差の時間変化を表す関数として得ることができる。
【0050】
図5は、温度応答関数および式(1)の第2項を説明する図である。
図5(a)に示すように、線L1で示されるようなインパルス状の電力を導体1aに加えたときに、導体温度と検知温度との温度差ΔT(=T
cond.-T
detect.)は線L2で示すように時間変化する。温度応答関数f
cf
joule(t)は線L2で示されるような関数である。インパルス状の電力の時間幅は、たとえば測定時間間隔Δtと同じが望ましいが、異なっていてもよい。、インパルス状の電力は、その時間幅の間は、電力が一定である。なお、
図5ではインパルス状の電力の時間幅がΔtの場合を示している。
【0051】
したがって、
図5(b)に示すように、線L3で示されるような時間的に変化する電力が導体1aに加えられたときに、温度応答関数f
cf
joule(t)は線L4に示すように変化する。すると、式(1)の第2項に対応する温度差ΔTは線L5に示すように変化する。
【0052】
したがって、処理部30は、取得した検知温度Tdetect.と線L5のように得られる式(1)の第2項から、導体温度の推定値Tcond.を算出できる。なお、R(T)は温度Tの関数として定義して処理部30の記憶部に記憶されていてもよい。また、fcf
joule(t)は、事前実験で得られた、またはシミュレーション等によって有限要素法などを用いて数値解析的に得られた離散的データとして、処理部30の記憶部に記憶されていてもよい。また、推定値Tcond.は、単芯電力ケーブル1の単位長さの箇所毎に算出される。
【0053】
なお、単芯電力ケーブル1に、
図2に示すような気中管路部11、海中部12、直埋設部13、または埋設管路部14が含まれている場合は、各部では温度応答関数が互いに異なっていてもよい。これにより、各部の敷設状態に応じてより正確な推定温度を得ることができる。
【0054】
さらには、
図6に示すように、埋設管路部14は、保護管1005内の空気Aiの対流の影響を受ける。同様に、気中管路部11も、保護管1004(
図2(b)参照)内の空気の対流によって保護管1004の外部の周囲環境の影響を受ける。そこで、処理部30は、気中管路部11または埋設管路部14に対しては、式(1)に加え、補正項も適用して、推定値を算出してもよい。これにより、気中管路部11および埋設管路部14に対して、より正確な推定温度を得ることができる。
【0055】
補正項が適用される場合、式(1)の代わりに式(2)が適用される。
【数2】
【0056】
式(2)の第3項が補正項である。ここで、hは空気の熱伝達係数であり、δTは気中管路部11や埋設管路部14の周囲温度の変動であり、f
cf
conv.は、単芯電力ケーブル1とその周囲との熱伝達を示す周囲温度応答関数である。Σは、補正項についても過去の時刻から測定時刻までの総和を考慮することを示している。ただし、考慮する過去の時刻は、温度応答関数f
cf
joule(t)の場合と同じでも異なっていてもよい。つまり、補正項のΣにおける総和の時刻を取る範囲をN
jouleと異ならせることによって、対流が関与するなど温度応答関数の時定数が異なる現象を伴うような場合でも導体温度の推定値をより効率的に算出することができる。なお、周囲温度の変動は、
図6に示すように保護管1005に熱電対や温度測定用光ファイバなどの温度センサ1005aを設けて周囲温度を検知することで得ることができる。なお、温度センサ1005aは、周囲温度を或る一つの位置、または長手方向における複数の位置で検知できるように構成されてもよい。温度センサ1005aにより検知した周囲温度の情報は、たとえば処理部30や温度取得部10の近傍に設置された不図示の温度取得部によって取得され、処理部30に送信される。また、熱伝達係数hや周囲温度応答関数f
cf
conv.は、事前実験やシミュレーション等によって得られた定数や数値解析的に得られた離散的データとして、処理部30の記憶部に記憶されていてもよい。温度センサ1005aは、気中管路部または埋設管路部において単芯電力ケーブルの周囲温度を検知する温度センサの一例である。
【0057】
[許容電流値の算出]
つぎに、処理部30は、導体温度の推定値を算出した単芯電力ケーブル1の箇所の少なくとも一つに対して、推定値を用いて、測定時刻から任意時間後の許容電流値を算出する(許容電流値算出ステップ)。
【0058】
ここで、許容電流値とは、導体温度の推定値が許容温度値Tpとなるときに、導体に流れる電流値である。許容温度値Tpとは、たとえば、導体温度がそれを超えると単芯電力ケーブル1に不具合が発生する温度値であり、たとえば絶縁層1cの耐熱温度に相当するような温度値である。許容温度値Tpはたとえば90℃である。
【0059】
任意時間を測定時間間隔と同じΔtとし、許容電流値をIpとすると、式(2)から式(3)が成り立つ。式(3)から式(4)が求められる。処理部30は、Ipを、式(4)に基づいてIpを算出する。なお、補正項を加えない場合は式(3)、(4)において補正項を零とすればよい。
【数3】
【数4】
【0060】
ここで、処理部30は、単芯電力ケーブル1の単位長さ毎に算出した導体温度の推定値のうち、最も高い推定値が算出された箇所に対して、許容電流値を算出してもよい。すなわち、単芯電力ケーブル1のうち最も高い推定値が算出された箇所が、単芯電力ケーブル1に不具合が発生する可能性が最も高いので、この箇所に対する許容電流値を算出することで、単芯電力ケーブル1の保護の上で効果的である。また、当該箇所に対してだけ許容電流値を算出するようにすることで、処理部30の演算量ひいては演算負荷を軽減できる。
【0061】
また、処理部30は、単芯電力ケーブル1の単位長さ毎に許容電流値を算出し、算出した許容電流値のうち最も小さい許容電流値を、単芯電力ケーブル1の許容電流値と決定してもよい。この場合も、単芯電力ケーブル1の保護の上で効果的である。
【0062】
[電流の制御]
つぎに、処理部30は、電流制御部40に制御信号を送信して、測定時刻tkから任意時間Δt後に単芯電力ケーブル1に流れる電流を、許容電流値以下になるように制御する(制御ステップ)。これにより、発電部Pが許容電流値を超える電流の電力を発電し、出力したとしても、単芯電力ケーブル1に過度に電流が流れて不具合が発生することが防止される。
【0063】
以上のように、実施形態に係るダイナミックレイティングシステム100では、高精度の導体温度の推定値の算出を実現できる。さらに、ダイナミックレイティングシステム100によれば、単芯電力ケーブル1に過度に電流が流れて不具合が発生することが防止される。
【0064】
さらに、ダイナミックレイティングシステム100によれば、高精度の導体温度の推定値の算出を実現できるので、単芯電力ケーブル1の導体面積を過度に大きくして、導体1aの温度上昇に過剰に余裕を持たせておく必要がなくなるので、導体面積の削減ひいては単芯電力ケーブル1の低コスト化を実現することができる。
【0065】
[異径導体接続構造との組み合わせ]
上記実施形態に係るダイナミックレイティングシステム100は、単芯電力ケーブル1を、異径導体接続構造を有する単芯電力ケーブルに置き換えても有効である。
【0066】
図7は、異径導体接続構造を説明する図である。異径導体接続構造60は、導体1Aaを有する単芯電力ケーブル1Aと、導体1Baを有する単芯電力ケーブル1Bとを接続する構造である。ここで、導体1Aaの導体径と導体1Baの導体径とは異なる。単芯電力ケーブル1Aは、
図1に示す単芯電力ケーブル1と同様の構造を有するが、
図7では、段剥ぎされた導体1Aa、絶縁層1Ac、外部半導電層1Ad、遮水層1Ae、温度測定用光ファイバ1Ai、および亜鉛メッキ鉄線1Akを図示し、その他の層は図示を省略している。同様に、単芯電力ケーブル1Bも、単芯電力ケーブル1と同様の構造を有するが、
図7では、段剥ぎされた導体1Ba、絶縁層1Bc、外部半導電層1Bd、遮水層1Be、温度測定用光ファイバ1Bi、および亜鉛メッキ鉄線1Bkを図示し、その他の層は図示を省略している。
【0067】
図7に示すように、異径導体接続構造60は、接続部材61と、補強絶縁部材62と、内部半導電材63と、コンパウンド64と、管部材65と、光ファイバ接続部66とを備えている。
【0068】
接続部材61は、導体1Aaと導体1Baとを電気的かつ機械的に接続する。接続部材61は、たとえば接続管などであり、導電性を有する材質からなる。補強絶縁部材62は、導体1Aa、導体1Ba、接続部材61、絶縁層1Ac、および絶縁層1Acを覆うように設けられている。補強絶縁部材62は、たとえば絶縁性のゴムユニットである。内部半導電材63は、単芯電力ケーブル1Aの内部半導電層と単芯電力ケーブル1Bの内部半導電層とを電気的に接続する。コンパウンド64は、内部半導電材63と管部材65との間の領域に、防水のために充填されている。管部材65は、たとえば銅管などの導電性の管材であり、異径導体接続構造60の外装を構成する。光ファイバ接続部66は、温度測定用光ファイバ1Aiと温度測定用光ファイバ1Biとを機械的かつ光学的に接続する。なお、単芯電力ケーブル1A、1Bの通信用光ファイバ1m同士も図示しない光ファイバ接続部で接続されている。
【0069】
図8は、異径導体接続構造を用いた単芯電力ケーブルの使用例を説明する図である。たとえば、異径導体接続構造を用いた単芯電力ケーブルは、
図2や
図3に示すシステムにおいて、陸上や気中管路部の間の海中で使用される。
図8におけるグラブの横軸はケーブル長さ(ケーブル距離)であり、縦軸は導体径である。ケーブル距離が0kmの位置は、異径導体接続構造の適用を開始する位置である。
【0070】
海中の単芯電力ケーブルが異径導体接続構造を用いない構成の場合、その導体径は線L6で示すように長手方向で一定である。しかし、海中は比較的低温であり、水深が大きくなるにつれて海温が低下する。特に、水深200m以上になるとその傾向が顕著になる。そこで、線L7で示すように単芯電力ケーブルとして、たとえば、より海底に近い位置に設けられる長手方向中央付近に向かって導体径が1kmごとに小さくなるように異径導体接続構造を用いることが効果的である。
【0071】
さらに、ダイナミックレイティングシステム100と異径導体接続構造を有する単芯電力ケーブルとを組み合わせれば、導体径を、線L8で示すように、長手方向中央付近でさらに小さくできるので、たとえば単芯電力ケーブルの低コスト化の点で有利である。なお、異径導体接続構造を採用する場合は、導体径が異なる部分ごとに、異なる温度応答関数を適用して、導体温度の推定値を算出してもよい。
【0072】
(実験例)
図4に示す実施形態に係るダイナミックレイティングシステム100と同様の構成のダイナミックレイティングシステムを2組作製し、実験を行った。発電部および電流制御部として直流電源(高砂製作所製「HX010-3600」)を用いた。直流電源は直流電力を発生し、直流電流を単芯導体ケーブルに流す。また、2本の単芯電力ケーブルを準備した。いずれの単芯電力ケーブルにも、長手方向の複数個所に、外装から導体に到る深さの孔を開けて熱電対を差し込み、導体温度を実測可能にした。また、単芯電力ケーブルの外装に熱電対を設け、周囲温度を測定可能とした、導体温度と周囲温度と単芯電力ケーブルに流れる電流の電流値とはデータロガーで収集し、処理部に送信する構成とした。また、単芯電力ケーブルのうち1本は長さ10mの部分を地面から約1.5mの深さで直埋設して直埋設部を形成した。また、もう一本は保護管で覆って地上約1mの部分に敷設し、気中管路部を形成した。温度取得部はDTSシステムで構成し、収集した検知温度のデータを処理部に送信する構成とした。また、処理部では式(1)に基づく推定値の算出を行った。
【0073】
図9は、直埋設部に関する実験である実験例1の結果を示す図である。
図9(a)において、横軸は単芯導体ケーブルに直流電流を流し始めた時点をゼロとした時刻を示しており、縦軸は温度および電流値を示している。「Tc_
Measure」は熱電対で実測した導体温度を示し、「Tc_
estimate」は処理部で推定した導体温度を示す。「I_
generated」は直流電源が発生した直流電力の電流値を示し、「I_
apply」は処理部によって制御された電流値を示す。
図9(b)において、「error」は導体温度の推定値と実測値との差(温度差ΔT)を示しており、「ΔI」は発生した電流値と流した電流値との差(電流差Δ_Current)を示している。
【0074】
図9(a)、(b)に示すように、導体温度の推定値と実測値との差は200時間以上にわたっておおよそ±2℃に収まっており、高精度の温度推定ができることが確認された。具体的には、二乗平均平方根誤差(RMSE)は1℃程度であった。また、発生した電流が2000A程度になると導体温度の推定値が約90℃となったが、このとき流す電流値が200~300A程度下がるように制御され、導体温度の推定値および実測値がそれ以上に上がるのが防止されることが確認された。
【0075】
図10は、気中管路部に関する実験である実験例2の結果を示す図である。縦軸、横軸および凡例は
図9の場合と同じである。気中管路部に関するにおいても、導体温度の推定値と実測値との差は200時間以上にわたっておおよそ±2℃に収まっており、高精度の温度推定ができることが確認された。具体的には、RMSEは1℃程度であった。また、発生した電流が2000A程度になると導体温度の推定値が約90℃となったが、このとき流す電流値が200~400A程度下がるように調整され、導体温度の推定値および実測値がそれ以上に上がるのが防止されることが確認された。
【0076】
つぎに、実験例3として、気中管路部に関する実験である実験例2と同様であるが、処理部では式(2)に基づく補正項を適用した推定値の算出を行った。すると、導体温度の推定値と実測値との差はさらに小さくなり、具体的にはRMSEが0.6℃程度というさらに高精度の温度推定ができることが確認された。
【0077】
(送電システムへの適用)
図11は、ダイナミックレイティングシステム100を備えた送電システム10000の模式的な構成図である。送電システム10000は、洋上風力発電システム2000と、電力網10001と、電力通信網10002と、SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)システム10003とを備えている。
【0078】
洋上風力発電システム2000は、複数のウィンドプラットフォーム2010と、洋上プラットフォーム2020と、陸上プラットフォーム2030とを備えている。ウィンドプラットフォーム2010は、海に設けられた着床式または浮体式の発電設備であり、たとえば風力発電機によって発電を行なう複数の発電部Pと、データ取得装置101Aと、光通信部2011とを備えている。
【0079】
洋上プラットフォーム2020は、海に設けられたたとえば着床式または浮体式の変電設備であり、ウィンドプラットフォーム2010と単芯電力ケーブル1で接続されている。洋上プラットフォーム2020は、データ取得装置101Aと、制御装置201Aと、光通信部2021とを備えている。また、洋上プラットフォーム2020は、図示しない他の洋上プラットフォーム2020と単芯電力ケーブル1で接続されている。
【0080】
陸上プラットフォーム2030は、陸上に設けられた変電設備であり、洋上プラットフォーム2020と単芯電力ケーブル1で接続されている。陸上プラットフォーム2030は、データ取得装置101Aと、光通信部2031とを備えている。また、陸上プラットフォーム2030は、図示しない他の陸上プラットフォーム2030と単芯電力ケーブル1で接続されている。また、陸上プラットフォーム2030は、単芯電力ケーブル1によって電力網10001と接続されており、通信ケーブルによって電力通信網10002と接続されている。電力通信網10002は、通信ケーブルによってSCADAシステム10003と接続されている。
【0081】
データ取得装置101Aは、温度取得部10と、電流測定部20とを備えている。制御装置201Aは、処理部30Aと、電流制御部40Aとを備えている。データ取得装置101Aおよび制御装置201Aはダイナミックレイティングシステム100Aを構成している。
【0082】
ウィンドプラットフォーム2010では、発電部Pによって発電された直流電力が単芯電力ケーブル1で洋上プラットフォーム2020に送電される。この際、ウィンドプラットフォーム2010のデータ取得装置101Aは、ウィンドプラットフォーム2010と洋上プラットフォーム2020とを接続する単芯電力ケーブル1における検知温度および電流値のデータを取得し、取得したデータを光通信部2021にて送信する。
【0083】
洋上プラットフォーム2020では、ウィンドプラットフォーム2010から送電されてきた直流電力が単芯電力ケーブル1で陸上プラットフォーム2030または他の洋上プラットフォーム2020に送電される。この際、洋上プラットフォーム2020のデータ取得装置101Aは、洋上プラットフォーム2020と陸上プラットフォーム2030または他の洋上プラットフォーム2020とを接続する単芯電力ケーブル1における検知温度および電流値のデータを取得し、取得したデータを光通信部2021にて送信する。
【0084】
陸上プラットフォーム2030では、洋上プラットフォーム2020から送電されてきた直流電力が単芯電力ケーブル1で電力網10001または他の陸上プラットフォーム2030に送電される。この際、陸上プラットフォーム2030のデータ取得装置101Aは、陸上プラットフォーム2030と電力網10001または他の陸上プラットフォーム2030とを接続する単芯電力ケーブル1における検知温度および電流値のデータを取得し、取得したデータを光通信部2021にて送信する。
【0085】
洋上プラットフォーム2020の制御装置201Aは、光通信部2021から、他のプラットフォームから送信されてきた検知温度および電流値のデータを取得する。処理部30Aは、各データから、各単芯電力ケーブル1における導体温度の推定値と許容電流値とを算出する。電流制御部40Aは、必要な単芯電力ケーブル1に対して、流れる電流が許容電流値以下になるように調整する。これにより、送電システム10000は低コストな単芯電力ケーブル1を用いて適正に運用される。
【0086】
なお、SCADAシステム10003は、各プラットフォームから、各検知温度や各電流値のデータを取得してもよい。この場合、SCADAシステム10003が、処理部30Aの代わりに推定温度の算出と許容電流の算出を行い、さらに各電流制御部40Aに制御信号を送信して、単芯電力ケーブル1に流れる電流を許容電流値以下になるように制御してもよい。この場合、SCADAシステム10003はダイナミックレイティングシステムにおける処理部の機能を有する。また、各プラットフォームが制御装置201Aを備えていてもよい。
【0087】
なお、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0088】
1、1A、2:単芯電力ケーブル
1a、1Aa、1Ba:導体
1b :内部半導電層
1c、1Ac、1Bc:絶縁層
1d、1Ad、1Bd:外部半導電層
1e、1Ae、1Be:遮水層
1f :防食層
1g :座床テープ
1h :スペーサ
1i、1Ai、1Bi:温度測定用光ファイバ
1j :座床プラスチック紐
1k、1Ak、1Bk:亜鉛メッキ鉄線
1l :外装
1m :通信用光ファイバ
10 :温度取得部
11 :気中管路部
12 :海中部
13 :直埋設部
14 :埋設管路部
20 :電流測定部
30、30A:処理部
40、40A:電流制御部
60 :異径導体接続構造
61 :接続部材
62 :補強絶縁部材
63 :内部半導電材
64 :コンパウンド
65 :管部材
66 :光ファイバ接続部
100、100A:ダイナミックレイティングシステム
101A :データ取得装置
201A :制御装置
1000 :着床式洋上風力発電システム
1000A :浮体式洋上風力発電システム
1001、1001A :洋上風力発電所
1002 :洋上変電所
1003 :陸上変電所
1004、1005:保護管
1005a :温度センサ
2000 :洋上風力発電システム
2010 :ウィンドプラットフォーム
2011、2021、2031 :光通信部
2020 :洋上プラットフォーム
2030 :陸上プラットフォーム
10000 :送電システム
10001 :電力網
10002 :電力通信網
10003 :SCADAシステム
A1~A9 :領域
Ai :空気
L :陸上
L1~L5 :線
P :発電部
SB :海底
Se :海
Su :太陽