(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137541
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】繊維集合体
(51)【国際特許分類】
D04H 1/4382 20120101AFI20240927BHJP
G10K 11/162 20060101ALI20240927BHJP
D04H 1/4242 20120101ALI20240927BHJP
D04H 1/46 20120101ALI20240927BHJP
【FI】
D04H1/4382
G10K11/162
D04H1/4242
D04H1/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049098
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】新免 祐介
(72)【発明者】
【氏名】川邊 徳道
(72)【発明者】
【氏名】濱田 益豊
(72)【発明者】
【氏名】小谷 知之
【テーマコード(参考)】
4L047
5D061
【Fターム(参考)】
4L047AA03
4L047AA28
4L047AB02
4L047AB07
4L047AB08
4L047BA03
4L047BA04
4L047CA19
4L047CB01
4L047CB03
4L047CB05
5D061AA22
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、耐炎性と吸音性を併せ持つ繊維集合体を提供することを目的とする。
【解決手段】単繊維繊度が1.0dtex以上の耐炎性繊維(A)と、単繊維繊度が1.0dtex未満の耐炎性繊維(B)とを含む繊維集合体。耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)の限界酸素指数が45以上であること、耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)との繊度差が0.3dtex以上であること、不織布であること、耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)が混合されていること、耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)のみからなることなどが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維繊度が1.0dtex以上の耐炎性繊維(A)と、単繊維繊度が1.0dtex未満の耐炎性繊維(B)とを含む繊維集合体。
【請求項2】
耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)の限界酸素指数が45以上である請求項1に記載の繊維集合体。
【請求項3】
耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)との単繊維繊度差が0.3dtex以上である請求項1に記載の繊維集合体。
【請求項4】
不織布である請求項1に記載の繊維集合体。
【請求項5】
耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)が混合されている請求項1に記載の繊維集合体。
【請求項6】
耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)のみからなる請求項1に記載の繊維集合体。
【請求項7】
耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)の質量比率が、20:80~80:20である請求項1に記載の繊維集合体。
【請求項8】
耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)の繊維密度がそれぞれ1.35~1.45g/cm3である請求項1に記載の繊維集合体。
【請求項9】
密度が0.05~0.2g/cm3である請求項1に記載の繊維集合体。
【請求項10】
目付が50~500g/m2である請求項1に記載の繊維集合体。
【請求項11】
厚さが0.5~10mmである請求項1に記載の繊維集合体。
【請求項12】
厚みを30mmにしたときの1000Hzにおける吸音率が0.5以上である請求項1に記載の繊維集合体。
【請求項13】
単位質量当りの強度が30~80g/gである請求項1に記載の繊維集合体。
【請求項14】
前記耐炎性繊維(A)、前記耐炎性繊維(B)の少なくとも1つが炭素繊維である請求項1に記載の繊維集合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐炎性を有する繊維集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、鉄道車両、航空機、空調機、建材等の用途に好適な、軽量で且つ耐炎性・吸音性・断熱性に優れた材料として、耐炎性繊維不織布は望まれている。
例えば、自動車分野においては、業界の動向である軽量化の推進によって引き起こされる騒音の悪化に対応するため、各部品メーカーは軽量かつ高性能な吸音材料の開発が強く求められる。
【0003】
自動車において加速時やトランスミッション変動時の騒音は、100~2,000Hzの比較的低い周波数領域で発生する。そのため、従来の騒音対策に用いられる多孔質材料では、厚く、重い対策材料となり、軽量化の面から輸送用機械にはそぐわない。
自動車用吸音材料では一般的に不織布や発泡ウレタンなどが使用されている。これらの材料では高周波領域(2,000Hz以上)で良い吸音性能を示すが、100~2,000Hzのような低周波数領域では効果が小さくなっている。
また、電気自動車(EV)化に伴い、これまでエンジン音の影に隠れていた騒音が顕在化してきた。風切り音やロードノイズ、モーター音などである。これらの騒音の周波数領域も100~2,000Hzである。
【0004】
自動車のエンジンルーム内には、エンジンから発する音の共鳴防止、あるいは発生した音そのものを外部へ出さないように、ボンネット裏、エンジン下、エンジンとキャビンとの間、あるいはマフラーなどに各種の防音材が使用されている。これらエンジン、マフラーなどは通常の使用時には300℃以上に達するが、更に昨今は、エンジンルームの狭小化によりエンジンカバー部品のサイズダウン化によりエンジンルーム内の温度上昇が顕著となり、使用される吸音材には耐熱性、難燃性が必須となっている。
また、電気自動車(EV)化に伴い、リチウムイオン電池の高容量化が進んでいる。そこでは、安全性向上について指摘されており、リチウムイオン電池の発火による電気自動車の火災事故が頻発していることから、リチウムイオン電池の激烈な発火に対応した耐炎性材料が望まれている。
【0005】
従来のポリエステル繊維100%使用の吸音材では充分な耐熱性がなく、その改善が求められている。これら耐熱難燃防音材の製法としては、古くは安価なロックウールあるいはガラス繊維を用いたものが多く使用されていたが、自動車のより軽量化、更には廃車時の産廃処理の問題から次第に耐熱性有機繊維が使用されるようになってきた。
【0006】
そこで、近時、特にアラミド繊維などの溶融温度350℃以上の耐熱性有機繊維を用い、更に耐熱性を付与すべく難燃・耐熱性成分としてケイ酸塩鉱物、アルミナ粒子、雲母粒子などを複合した不織布が耐熱性吸音材として紹介されている。(例えば特許文献1~3)
また別途、アクリル系合成繊維を酸化して得られる耐炎繊維を用いたステッチボンド不織布(例えば特許文献4参照)や耐炎繊維と難燃繊維が混合した不織布(例えば特許文献5)も紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-138935号公報
【特許文献2】特開2006-321053号公報
【特許文献3】特開平6-212593号公報
【特許文献4】特開2006-195104号公報
【特許文献5】特開2003-129362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前者の方法は耐熱性の無機粒子を耐熱有機繊維間に挿入、付着させることは複雑な工程を取らざるを得ないという問題があった。
後者の方法は、非常に脆い耐炎繊維を用いるために不織布化の方法がステッチボンドに限られ、かつ高密度の不織布を得難いという問題がある外、更に価格的に非常に高価なものとなってしまうという問題があった。
また、後者の方法は、現在求められている100~2,000Hzのような低周波数領域での吸音特性では効果が小さくなるという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、耐炎性と吸音性に優れる繊維集合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前述の課題を解決するために、本発明者等が鋭意検討した結果実現したものである。本発明においては、繊維径の細い耐炎性繊維を不織布の材料の一部として使用することにより、特定周波数での吸音率を高めることができることを見出し、本発明に至った。
[1]単繊維繊度が1.0dtex以上の耐炎性繊維(A)と、単繊維繊度が1.0dtex未満の耐炎性繊維(B)とを含む繊維集合体。
[2]耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)の限界酸素指数が45以上である[1]に記載の繊維集合体。
[3]耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)との繊度差が0.3dtex以上である[1]または[2]に記載の繊維集合体。
[4]不織布である[1]~[3]のいずれかに記載の繊維集合体。
[5]耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)が混合されている[1]~[4]のいずれかに記載の繊維集合体。
[6]耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)のみからなる[1]~[5]のいずれかに記載の繊維集合体。
[7]耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)の質量比率が、20:80~80:20である[1]~[6]のいずれかに記載の繊維集合体。
[8]耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)の繊維密度がそれぞれ1.35~1.45g/cm3である[1]~[7]のいずれかに記載の繊維集合体。
[9]密度が0.05~0.2g/cm3である[1]~[8]のいずれかに記載の繊維集合体。
[10]目付が50~500g/m2である[1]~[9]のいずれかに記載の繊維集合体。
[11]厚さが0.5~10mmである[1]~[10]のいずれかに記載の繊維集合体。
[12]厚みを30mmにしたときの1000Hzにおける吸音率が0.5以上である[1]~[11]のいずれかに記載の繊維集合体。
[13]単位質量当りの強度が30~80g/gである[1]~[12]のいずれかに記載の繊維集合体。
[14]前記耐炎性繊維(A)、前記耐炎性繊維(B)の少なくとも1つが炭素繊維である[1]~[13]のいずれかに記載の繊維集合体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐炎性と吸音性を併せ持つ繊維集合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。ただし、この実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるため具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、発明内容を限定するものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、数や、位置や、大きさ等についての変更、省略、追加及びその他の変更が可能である。
【0013】
本発明の繊維集合体は、単繊維繊度が1.0dtex以上の耐炎性繊維(A)と、単繊維繊度が1.0dtex未満の耐炎性繊維(B)とを含む。
単繊維繊度が1.0dtex以上の繊維を含むと繊維集合体の強度を高くすることができる。単繊維繊度が1.0dtex未満の繊維を含むと吸音性を高くすることができる。
これらの観点から、耐炎性繊維(A)の単繊維繊度は、1.1dtex以上が好ましく、1.2dtex以上がより好ましい。また、耐炎性繊維(B)の単繊維繊度は、0.8dtex以下が好ましく、0.5dtex以下がより好ましく、0.3dtex以下がさらに好ましい。
【0014】
(耐炎性繊維)
本発明で使用する耐炎性繊維はその限界酸素指数が45以上であることが必要である。
ここで、限界酸素指数(LOI)とは、JIS-K-7201の方法に準じて、下記の測定方法にて求められる値であり、繊維が燃焼を維持するために必要な最低限の酸素体積パーセントをあらわす。
具体的には、測定すべき繊維約1gを直径約0.3mmの針金を支持体としてまきつけて、直径約7mmのひも状とし、経150mmの枠に固定した状態で燃焼円筒内に配置する。次いでその中に酸素と窒素の混合ガスを11.4リットル/mmで約30秒間流した後、試験片の上端に点火し、試験片が3分以上燃え続けるか又は着火後の燃焼長さが50mm以上となるのに必要な最低の酸素流量とそのときの窒素流量とを測定し、下記式より算出する。
LOI=[(燃え続けるのに必要な酸素流量)÷(燃え続けるのに必要な酸素流量+窒素流量)]×100
尚、試験片に点火した瞬間、試験片表面の毛羽を火が走る場合は再点火して上記測定を行なう。
【0015】
本発明の繊維集合体は、耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)の限界酸素指数が45以上であることが好ましい。
限界酸素指数とは、燃焼に必要な酸素の最小濃度をパーセンテージで表したものである。
限界酸素指数が45以上であれば、耐炎性能として十分である。限界酸素指数が46以上が好ましく、47以上がさらに好ましい。
【0016】
本発明の繊維集合体は、耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)との単繊維繊度差が0.3dtex以上であることが好ましい。
前記繊度差があると、吸音性と集合体の強度の両方をバランスよく高くできる。この観点から、前記単繊維繊度差は0.5dtex以上がより好ましく、0.7dtex以上がさらに好ましい。
【0017】
本発明の繊維集合体は、不織布であることが好ましい。
不織布は、適度な空間があるので吸音性を高くできやすく、強度と柔軟性を合わせ持つので、曲面や凹凸のある場所にも使いやすい。
不織布を製造する方法は特に限定されず、柱状流(ウォータジェット)、ニードルパンチでも良い。
ニードルパンチの方が、不織布内に空間を形成しやすいのでより好ましい。
このように製造した繊維集合体を、要求性能に応じて積層体にすることもできる。
【0018】
本発明の繊維集合体は、耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)が混合されていることが好ましい。
本発明の繊維集合体は、耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)がそれぞれ積層されていても良いが、耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)が混合されている方が不織布内に空間を大きくできやすく、吸音性を高くできやすいので好ましい。
【0019】
本発明の繊維集合体は、耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)のみからなることが好ましい。
繊維集合体は、熱が発生するものの周りに使用されるため、燃える繊維は混合しない方が好ましい。
ただし、繊維集合体として耐炎性がある範囲では、他の繊維または樹脂、セラミック、金属を混合することは可能である。
耐炎性繊維(A)及び前記耐炎性繊維(B)はアクリル繊維であることが好ましい。また、これらのうちの少なくとも1つが炭素繊維であっても良い。
【0020】
本発明の繊維集合体は、耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)の質量比率が、20:80~80:20であることが好ましい。
この比率であれば、良好な吸音性と良好な繊維集合体の強度とを兼ね備えることができやすい。
吸音特性の観点から、前記耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)の質量比率は、20:80~50:50がより好ましく。20:80~40:60がさらに好ましい。
【0021】
本発明の繊維集合体は、耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)の繊維密度がそれぞれ1.35~1.45g/cm3であることが好ましい。
前記繊維密度が1.35g/cm3以上であれが、耐炎性が良好であり、1.37g/cm3以上がより好ましく、1.39g/cm3以上がさらに好ましい。
【0022】
本発明の繊維集合体は、密度が0.05~0.2g/cm3であることが好ましい。
繊維集合体の密度が0.05g/cm3以上であれば、繊維集合体の強度が高くできやすく、0.2g/cm3以下であれば、吸音特性が高くできやすい。
これらの観点から、前記密度は0.06~0.17g/cm3がより好ましく。0.07~0.13g/cm3がさらに好ましい。
【0023】
本発明の繊維集合体は、目付が50~500g/m2であることが好ましい。
繊維集合体の目付が50g/m2以上であれば、繊維集合体の強度が高くできやすく、500g/m2以下であれば、軽量にでき、柔軟性もあるので取り扱いやすい。
これらの観点から、前記目付は70~450g/m2がより好ましく。100~300g/m2がさらに好ましい。
【0024】
本発明の繊維集合体は、厚さが0.5~10mmであることが好ましい。
繊維集合体の厚さが0.5mm以上であれば、吸音特性が高くでき、10mm以下であれば、軽量にでき、柔軟性もあるので取り扱いやすい。
これらの観点から、前記厚さは1~8mmがより好ましく、1.5~6mmがより好ましい。
【0025】
本発明の繊維集合体は、厚みを30mmにしたときの1000Hzにおける吸音率が0.5以上であることが好ましい。
厚みが30mmに足らない場合は、複数を積層して30mmとして測定する。
繊維集合体の1000Hzにおける吸音率が0.5以上であれば、自動車のエンジンの音を吸収しやすい。
【0026】
本発明の繊維集合体は、単位質量当りの強度が30~80g/gであることが好ましい。
繊維集合体の単位質量当りの強度が30g/gであれば、破断することなく取扱い性が良好であり、80g/g以下であれば、繊維集合体が柔軟性を有しているので取扱い性が良好である。
【0027】
(耐炎性繊維の製造方法)
耐炎性繊維の製造方法は、アクリル繊維束を200~300℃の空気中で緊張を与えながら加熱することで得られる。
加熱温度と加熱時間で、繊維の密度を調整でき、限界酸素指数を調整することができる。
【0028】
(繊維集合体の製造方法)
得られた耐炎性繊維を20~150mmの長さに切断し、公知のニードルパンチ法や柱状流法を使用して繊維集合体を製造できる。
【0029】
(耐炎性繊維前駆体アクリル繊維束)
本発明の耐炎性繊維前駆体アクリル繊維は、溶剤にアクリロニトリル系重合体が溶解したアクリロニトリル系重合体溶液を紡糸して得られる。
本発明で用いられるアクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルを主な単量体とし、これを重合して得られる重合体である。アクリロニトリル系重合体は、アクリロニトリルのみから得られるホモポリマーであっても、主成分であるアクリロニトリルに加えて他の単量体が共重合したコポリマーであってもよい。
【0030】
アクリロニトリル系重合体中のアクリロニトリル単位の含有量は、得られる耐炎性繊維束に求める品質等を勘案して決定でき、例えば、90質量%以上97.5質量%以下であることが好ましく、95質量%以上97質量%以下であることがより好ましい。アクリロニトリル単位の含有量が90質量%以上であれば、耐炎性繊維前駆体アクリル繊維を耐炎性繊維に転換するための耐炎化工程で、単繊維同士の融着を防ぐことができる。さらに、加熱ローラーや加圧水蒸気による延伸等の処理において、単繊維間の接着を回避できる。アクリロニトリル単位の含有量が97質量%以下であれば、溶剤への溶解性が低下せず、アクリロニトリル系重合体の析出・凝固を防止できるため、耐炎性繊維前駆体アクリル繊維を安定して製造できる。
【0031】
アクリロニトリル共重合体中のアクリロニトリル以外の単量体単位としては、アクリロニトリルと共重合可能なビニル系単量体から適宣選択することができ、アクリロニトリル系重合体の親水性を向上させるビニル系単量体、耐炎化反応を促進するビニル系単量体が好ましい。 例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸類及びそれらの塩類;マレイン酸イミド、フェニルマレイミド、(メタ)アクリルアミド、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル;スチレンスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、β-スチレンスルホン酸ナトリウム、メタアリルスルホン酸ナトリウム等のスルホン基を含む重合性不飽和単量体;2-ビニルピリジン、2-メチル-5-ビニルピリジン等のピリジン基を含む重合性不飽和単量体等が挙げられる。重合によって得られたアクリロニトリル系重合体からは、未反応モノマー、重合触媒残留物、その他の不純物などを極力取り除くことが望ましい。なお、アクリロニトリル共重合体を合成する方法はどのような重合方法であってもよく、重合方法の相違によって本発明が制約されるものではない。
【0032】
まず、上述した本発明のポリアクリロニトリル共重合体を溶剤に溶解して、紡糸原液とする。すなわち、本発明に用いる紡糸原液は、ポリアクリロニトリル系共重合体と、溶剤とからなることができる。溶剤としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの有機溶剤や、塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウムなどの無機化合物の水溶液を用いることができる。しかし、得られる前駆体繊維中に金属を含有せず、また、工程が簡略化される点で有機溶剤が好ましく、その中でも凝固糸及び湿熱延伸糸の緻密性が高いという点で、ジメチルアセトアミドを溶剤に用いることが好ましい。
【0033】
紡糸原液は、緻密な凝固糸を得るため、また、適正な粘度、流動性を有するために、あ
る程度以上の共重合体濃度を有することが好ましい。紡糸原液におけるポリアクリロニト
リル共重合体の濃度は、15質量%以上30質量%以下であることが好ましく、より好
ましくは18質量%以上25質量%以下である。
【0034】
続いて、その紡糸原液を紡糸して、凝固糸を得る。紡糸方法としては、公知の方法を採
用でき、具体的には湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法などが挙げられる。これらの
中でも湿式紡糸法、乾湿式紡糸法が紡糸の生産性の観点から好ましく用いられる。
【0035】
(耐炎性繊維前駆体アクリル繊維束製造方法の説明)
本発明の耐炎性繊維前駆体繊維束の製造方法は、凝固浴を出た繊維束を洗浄および延伸する第一洗浄延伸工程、油剤付与工程、乾燥緻密化工程、および、第二延伸工程を順に有する耐炎性繊維前駆体繊維束の製造方法であって、
前記第一洗浄延伸工程において、延伸は、空気中延伸および/または熱水延伸により延伸倍率4.1倍以上で延伸し、前記第二延伸工程において、乾熱延伸により延伸倍率1.1~2.0倍で延伸することが好ましい。
【0036】
(第一洗浄延伸工程)
前記第一洗浄延伸工程においては、空気中延伸および/または熱水延伸により延伸倍率4.1倍以上で延伸することが好ましい。
前記延伸倍率の上限は、単繊維切れの観点から6.0倍以下とするのが好ましい。前記延伸倍率を4.1倍以上にすれば、第二延伸工程での延伸性を向上することができ、安定生産し易くできる。
この観点より、前記延伸倍率は、より好ましくは、4.2~5.8倍であり、さらに好ましくは4.5~5.5倍である。
熱水延伸は、凝固糸に含まれている溶媒を沸水洗浄する槽で洗浄と同時に延伸を行っても良く、別々に行っても良い。
熱水延伸する熱水温度は80~100℃が好ましい。80℃以上であれば、延伸し易くできる。100℃とは沸水状態を意味する。この観点から、前記熱水温度は85~99℃がより好ましく、90~98℃がさらに好ましい。
熱水延伸するローラー間距離が1000~10000mmであることが好ましい。1000mm以上であれば、延伸し易くなる。
熱水は繊維束を貫通するように付与することが好ましい。熱水を貫通させることで、繊維束の中まで熱水が入り、延伸斑を少なくできる。
【0037】
(油剤付与工程)
第一洗浄延伸工程後、油剤を付与する。油剤は特に限定されるものではなく、その後の工程通過性を考慮し適宜選択することができる。
【0038】
(乾燥緻密化工程)
第一延伸工程後の繊維束を乾燥緻密化する工程において、熱ロール、熱板、熱風、赤外線、マイクロ波等を使用できる。熱ロールは一個でも複数個でもよい。乾燥緻密化の温度は、繊維のガラス転移温度の60~90℃を超えた温度で行う必要があるが、実質的には含水状態から乾燥状態によって異なることもあり、温度は100~200℃程度の熱ロールが好ましい。
【0039】
(第二延伸工程)
第二延伸工程は、乾燥緻密化工程後の繊維束を乾熱延伸する工程である。乾熱延伸では、熱ロール、熱板、熱風、赤外線、マイクロ波等を使用できる。乾熱延伸の延伸倍率は1.1~2.0倍が好ましく、さらに好ましくは1.3~1.5倍である。乾熱延伸の延伸倍率が1.1倍以上であれば、繊維配向を高めることができ、1.5倍以下であれば、毛羽の発生を少なくすることができやすい。
【0040】
本発明の耐炎性繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法は、第一延伸倍率と第二延伸倍率の積が7.0~9.0であることが好ましい。
第一延伸倍率と第二延伸倍率の積が6.0~9.0であれば、耐炎性繊維前駆体アクリル繊維束の毛羽を抑制しながら、繊維配向を十分に高めることができる。
この観点から、第一延伸倍率と第二延伸倍率の積は6.5~8.5がより好ましく、7.0~8.0がさらに好ましい。
【0041】
(乾燥緻密化工程後の繊維束の総繊度)
本発明の耐炎性繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法は、乾燥緻密化工程後の繊維束の総繊度が8,000~120,000dtexであることが好ましい。10,000~60,000dtexであれば製造効率良く製造することができやすい。より好ましくは、12,000~30,000texである。さらに好ましくは、15,000~24,000dtexである。
【0042】
本発明の耐炎性繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法は、第二延伸工程において、乾熱延伸時の繊維束温度を100~200℃とすることが好ましい。
前記繊維束温度が100℃以上であれば、ガラス転移点を越えた温度であるため延伸性への効果があり、200℃以下であれば、延伸性への効果を再現性高くすることができる。
これらの観点から、前記繊維束温度は120~190℃がより好ましく、150~180℃がさらに好ましい。
【0043】
本発明の耐炎性繊維前駆体アクリル繊維束の製造方法は、湿式紡糸法であることが好ましい。
湿式紡糸法であれば、生産性が高く生産できる。
【実施例0044】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例における各測定は以下の方法によって行った。
【0045】
(限界酸素指数(LOI)の測定方法)
JIS-K-7201に準じて測定した。
【0046】
(目付の測定方法)
JIS-L-1096に準じて測定した。
【0047】
(厚みの測定方法)
JIS-L-1096に準じて測定した。
【0048】
(密度の測定方法)
目付を厚みで除して算出した。
【0049】
(繊維集合体の強力の測定方法)
JIS-L-1096に準じて測定した。経および緯方向の強力を平均した値を算出した。
【0050】
(単位重量あたりの強度の測定方法)
経および緯方向の強力を平均した値を、5cm×10cm角の試料の重量で除して算出した。
【0051】
(強度特性の評価方法)
上記単位重量当たりの強度(g/g)が、30未満を「×」、30以上45未満を「○」、45以上を「◎」として耐炎性繊維不織布の強度特性を評価した。
【0052】
(垂直入射吸音率の測定方法)
試料の厚みが約30mmになるように、耐炎性不織布を必要枚数重ねて測定サンプルとした。JIS-A-1405-2に準じて、内径29mmの細管を用いて剛壁密着条件で、周波数が1000Hzにおける垂直入射吸音率を測定した。
【0053】
(10)吸音特性
上記垂直入射吸音率が、0.5未満を「×」、0.5以上0.6未満を「○」、0.6以上を「◎」として耐炎性繊維不織布の吸音特性を評価した。
【0054】
(耐炎性繊維(A)の準備)
単繊維繊度が1.3dtex、総繊度が65,000dtexであるアクリル繊維束を、200~300℃の空気中、緊張下で70分間加熱し、太繊度の耐炎性繊維(A)を得た。耐炎性繊維の密度は、1.405g/cm3であり、限界酸素指数(LOI値)は、49であった。耐炎性繊維(A)の繊維束を長さ70mmに切断した。
【0055】
(耐炎性繊維(B)の準備)
単繊維繊度が0.13dtexであり、総繊度が65,000dtexであるアクリル繊維束を、200~300℃の空気中、緊張下で70分間加熱しし、細繊度の耐炎性繊維(B)を得た。耐炎性繊維(B)の密度は、1.401g/cm3であり、限界酸素指数(LOI値)は、47であった。耐炎性繊維(B)の繊維束を長さ70mmで切断した。
【0056】
(実施例1)
上述で準備した太繊度の耐炎性繊維(A)と細繊維の耐炎性繊維(B)とを、75/25の重量比で混合し、カードを通過させてウエブを作成した。この際、カード通過性には特に問題はなかった。
得られたウエブを、クロスレイヤーを使用して折り重ねた後、折り重ねたウエブ2枚をさらに重ね合わせ、3バーブ、40番の針を使用して300ポイント/cm2のニードルパンチを施して繊維同士を交絡させ、耐炎性繊維不織布を得た。
得られた不織布の物性を表1に示す。垂直入射吸音率は、得られた不織布16枚を重ねて測定用サンプルとし測定した。
【0057】
(実施例2)
耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)との混合比率を50/50に変更した以外は実施例1と同様にして耐炎性繊維不織布を得た。
得られた不織布の物性を表1に示す。垂直入射吸音率は、得られた不織布16枚を重ねて測定用サンプルとし測定した。
【0058】
(実施例3)
耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)との混合比率を25/75に変更し以外は実施例1と同様に実施して耐炎性繊維不織布を得た。
得られた不織布の物性を表1に示す。垂直入射吸音率は、得られた不織布16枚を重ねて測定用サンプルとし測定した。
【0059】
(実施例4)
耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)との混合比率を50/50に変更し、折り重ねたウエブを重ね合わせる枚数を3枚に変更し以外は実施例1と同様にして耐炎性繊維不織布を得た。
得られた不織布の物性を表1に示す。垂直入射吸音率は、得られた不織布9枚を重ねて測定用サンプルとし測定した。
【0060】
(実施例5)
耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)との混合比率を50/50に変更し、折り重ねたウエブを重ね合わせる枚数を5枚に変更した以外は実施例1と同様にして耐炎性繊維不織布を得た。
得られた不織布の物性を表1に示す。垂直入射吸音率は、得られた不織布6枚を重ねて測定用サンプルとし測定した。
【0061】
(実施例6)
上述の耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)とを、70/30の重量比で混合し、カードを通過させてウエブを作成した。この際、カード通過性には特に問題はなかった。
得られたウエブを、クロスレイヤーを使用して折り重ねた後、50kg/cm2(ゲージ圧)の高圧水を用い、直径0.15mm、ピッチ0.4mmのノズル群でウオータージェットの柱状流処理を表、裏それぞれ2回行ない、繊維を交絡させた。さらに乾燥処理を行い、耐炎性繊維不織布を得た。
得られた不織布の物性を表1に示す。垂直入射吸音率は、得られた不織布37枚を重ねて測定用サンプルとし測定した。
【0062】
(実施例7)
耐炎性繊維(A)と耐炎性繊維(B)との混合比率を30/70に変更した以外は実施例6と同様にして耐炎性繊維不織布を得た。
得られた不織布の物性を表1に示す。垂直入射吸音率は、得られた不織布37枚を重ねて測定用サンプルとし測定した。
【0063】
(比較例1)
太繊度の耐炎性繊維(A)のみを使用した以外は実施例1と同様に実施して耐炎性繊維不織布を得た。
得られた不織布の物性を表1に示す。垂直入射吸音率は、得られた不織布16枚を重ねて測定用サンプルとし測定した。
細繊度の耐炎性繊維(B)がないため、吸音特性が劣る結果となった。
【0064】
(比較例2)
細繊度の耐炎性繊維(B)のみを使用した以外は実施例1と同様に実施して耐炎性繊維不織布を得た。
得られた不織布の物性を表1に示す。垂直入射吸音率は、得られた不織布16枚を重ねて測定用サンプルとし測定した。
細繊度の耐炎性繊維(B)のみのため、吸音特性は良好であったが、強度が劣る結果となった。
【0065】
(実施例8)
実施例2において得られた耐炎性繊維不織布を、窒素雰囲気中、1400℃で熱処理を行い、炭素繊維不織布を得た。
得られた不織布の物性は、目付:94(g/m2)、厚み:0.15(cm)、密度:0.06(g/cm3)、強力 経/緯の平均:50.8(g/5cm)、5×10cm重さ:0.48(g)、単位重量あたりの強度:106(g/g)、垂直入射吸音率:0.72(-)であり、強度、吸音特性とも良好であった。
垂直入射吸音率は、得られた不織布20枚を重ねて測定用サンプルとし測定した。
【0066】