IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

特開2024-137673次元造形用フィラメント及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013767
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】3次元造形用フィラメント及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/118 20170101AFI20240125BHJP
   C08L 71/10 20060101ALI20240125BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20240125BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240125BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240125BHJP
   B33Y 40/00 20200101ALI20240125BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20240125BHJP
【FI】
B29C64/118
C08L71/10
C08L27/12
C08K3/013
B33Y70/00
B33Y40/00
B29C64/314
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116113
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正登志
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 徹
(72)【発明者】
【氏名】河合 剛
【テーマコード(参考)】
4F213
4J002
【Fターム(参考)】
4F213AA16
4F213AB11
4F213AB16
4F213AC02
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL24
4F213WL25
4F213WL27
4J002BD12X
4J002BD14X
4J002BD15X
4J002BD16X
4J002CH09W
4J002DA016
4J002DA026
4J002DA066
4J002DE076
4J002DE086
4J002DE096
4J002DE106
4J002DE136
4J002DE156
4J002DE186
4J002DE236
4J002DF016
4J002DG026
4J002DG046
4J002DG056
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002DK006
4J002DL006
4J002FD016
4J002FD020
4J002FD130
4J002GK01
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】熱溶解積層方式の3次元印刷装置を用いて3次元造形物としたときに、層間剥離が生じにくい3次元造形用フィラメントの提供。
【解決手段】熱溶解積層方式の3次元印刷装置を用いた3次元造形用のフィラメントであって、ポリアリールエーテルケトンを含む樹脂組成物からなり、前記樹脂組成物は、熱機械分析装置を用い、JIS K 7196:1991に準じて測定されるTMA曲線において、50℃以上、前記樹脂組成物の融点-40℃以下の温度範囲における寸法変化率が1.7%未満であることを特徴とする、3次元造形用フィラメント。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶解積層方式の3次元印刷装置を用いた3次元造形用のフィラメントであって、
ポリアリールエーテルケトンを含む樹脂組成物からなり、
前記樹脂組成物は、熱機械分析装置を用い、JIS K 7196:1991に準じて測定されるTMA曲線において、50℃以上、前記樹脂組成物の融点-40℃以下の温度範囲における寸法変化率が1.7%未満であることを特徴とする、3次元造形用フィラメント。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、含フッ素重合体をさらに含み、
前記ポリアリールエーテルケトンに前記含フッ素重合体が分散している、請求項1に記載の3次元造形用フィラメント。
【請求項3】
前記樹脂組成物が無機充填剤をさらに含み、
前記無機充填剤の含有量が、前記ポリアリールエーテルケトン及び前記含フッ素重合体の合計100質量部に対して0.001~30質量部である、請求項2に記載の3次元造形用フィラメント。
【請求項4】
前記含フッ素重合体が、融点を有さない、請求項2又は3に記載の3次元造形用フィラメント。
【請求項5】
前記含フッ素重合体のムーニー粘度(ML1+10,121℃)が10~300である、請求項4に記載の3次元造形用フィラメント。
【請求項6】
前記樹脂組成物の温度372℃、荷重49Nにおける溶融流速が60g/10分未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の3次元造形用フィラメント。
【請求項7】
熱溶解積層方式の3次元印刷装置を用いた3次元造形用のフィラメントの製造方法であって、
ポリアリールエーテルケトン及び含フッ素重合体を含み、前記ポリアリールエーテルケトンに前記含フッ素重合体が分散した樹脂組成物を溶融押出成形してフィラメントを製造することを特徴とする、3次元造形用フィラメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶解積層方式の3次元印刷装置を用いた3次元造形用のフィラメント及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン等のポリアリールエーテルケトンは、耐熱性、機械的物性等に優れるため、摺動部材等の成形体の材料として様々な分野で広く用いられている。
【0003】
近年、3次元造形物の製造に3次元印刷装置が利用されている。3次元印刷装置の方式の1つに熱溶解積層方式がある。熱溶解積層方式では、造形材料として熱可塑性樹脂のフィラメントが用いられる(特許文献1)。
【0004】
3次元印刷装置の造形材料にポリアリールエーテルケトンを用いることが検討されている。特許文献2には、芳香族ポリエーテルケトン樹脂及び含フッ素共重合体を含む3次元造形用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-130871号公報
【特許文献2】国際公開第2022/071139号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献2の3次元造形用組成物をフィラメントとし、熱溶解積層方式の3次元印刷装置を用いて3次元造形物としたときに、層間剥離が生じやすい問題がある。
【0007】
本発明は、熱溶解積層方式の3次元印刷装置を用いて3次元造形物としたときに、層間剥離が生じにくい3次元造形用フィラメント及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]熱溶解積層方式の3次元印刷装置を用いた3次元造形用のフィラメントであって、
ポリアリールエーテルケトンを含む樹脂組成物からなり、
前記樹脂組成物は、熱機械分析装置を用い、JIS K 7196:1991に準じて測定されるTMA曲線において、50℃以上、前記樹脂組成物の融点-40℃以下の温度範囲における寸法変化率が1.7%未満であることを特徴とする、3次元造形用フィラメント。
[2]前記樹脂組成物が含フッ素重合体をさらに含み、
前記ポリアリールエーテルケトンに前記含フッ素重合体が分散している、前記[1]の3次元造形用フィラメント。
[3]前記樹脂組成物が無機充填剤をさらに含み、
前記無機充填剤の含有量が、前記ポリアリールエーテルケトン及び前記含フッ素重合体の合計100質量部に対して0.001~30質量部である、前記[2]の3次元造形用フィラメント。
[4]前記含フッ素重合体が、融点を有さない、前記[2]又は[3]の3次元造形用フィラメント。
[5]前記含フッ素重合体のムーニー粘度(ML1+10,121℃)が10~300である、前記[4]の3次元造形用フィラメント。
[6]前記樹脂組成物の温度372℃、荷重49Nにおける溶融流速が60g/10分未満である、前記[1]~[5]のいずれかの3次元造形用フィラメント。
[7]熱溶解積層方式の3次元印刷装置を用いた3次元造形用のフィラメントの製造方法であって、
ポリアリールエーテルケトン及び含フッ素重合体を含み、前記ポリアリールエーテルケトンに前記含フッ素重合体が分散した樹脂組成物を溶融押出成形してフィラメントを製造することを特徴とする、3次元造形用フィラメントの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、FDM方式の3次元印刷装置を用いて3次元造形物としたときに、層間剥離が生じにくい3次元造形用フィラメント及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における用語の意味や定義は以下の通りである。
「融点」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した融解ピークの最大値に対応する温度である。以下、融点をTmとも記す。
「ムーニー粘度(ML1+10,121℃)」は、JIS K 6300-1:2000(対応国際規格ISO 289-1:2005、ISO 289-2:1994)に準拠して測定される値である。
「溶融流速」は、ASTM D3307に準拠して測定されるメルトマスフローレートである。以下、溶融流速をMFRとも記す。MFRの測定条件は、温度372℃、荷重49Nとする。
「寸法変化率」は、樹脂組成物からなる厚さ0.5mmのシート状の試料について、熱機械分析(以下、TMAとも記す。)装置を用い、JIS K 7196:1991に準じてTMA曲線(横軸:温度、縦軸:変形量)を測定し、得られたTMA曲線の所定の温度範囲において、変形量の値が最も変化した最大の寸法変化率である。具体的には、以下の式により算出される。
寸法変化率(%)=(試験後厚み方向長さ-試験前厚み方向長さ)/試験前厚み方向長さ×100
「単量体に基づく単位」は、単量体1分子が重合して直接形成される原子団と、該原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。本明細書において、単量体に基づく単位を、単に、単量体単位とも記す。例えば、TFEに基づく単位を、TFE単位とも記す。
「単量体」とは、重合性炭素-炭素二重結合を有する化合物を意味する。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0011】
本発明のフィラメント(以下、本フィラメントとも記す。)は、熱溶解積層(以下、FDMとも記す。)方式の3次元(以下、3Dとも記す。)印刷装置を用いた3D造形に用いられるものであり、ポリアリールエーテルケトン(以下、PAEKとも記す。)を含む樹脂組成物からなる。樹脂組成物は、50℃以上、樹脂組成物のTm-40℃以下の温度範囲における寸法変化率が1.7%未満である。
寸法変化率については後で詳しく説明する。
【0012】
樹脂組成物は、前記寸法変化率を1.7%未満とする観点から、含フッ素重合体を含むことが好ましい。また、PAEKに含フッ素重合体が分散していることが好ましい。
PAEKに含フッ素重合体が分散することで、PAEKの優れた特性(耐熱性等)を充分に保ちつつ、樹脂組成物の寸法安定性を高めることができる。
【0013】
樹脂組成物中、PAEKに分散している含フッ素重合体の数平均粒子径は、特に限定されないが、例えば0.5~10μm、更には1~5μmである。
樹脂組成物中の含フッ素重合体の数平均粒子径は、本フィラメントを走査型電子顕微鏡で観察し、無作為に選んだ100個の粒子の最大直径を測定し、算術平均した値である。
【0014】
樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、PAEK及び含フッ素重合体以外の他の成分をさらに含むことができる。
PAEK、含フッ素重合体、他の成分については後で詳しく説明する。
【0015】
本フィラメントの断面形状は、典型的には円形である。
本フィラメントの断面の直径は、適用される3D印刷装置に応じて適宜選定できるが、例えば0.5~5.0mmである。
【0016】
(PAEK)
PAEKとしては、機械的物性及び耐熱性の点から、ポリエーテルケトン(以下、PEKとも記す。)、ポリエーテルエーテルケトン(以下、PEEKとも記す。)、又はポリエーテルケトンケトン(以下、PEKKとも記す。)が好ましく、PEEKが特に好ましい。PAEKは、2種以上を併用してもよいが、1種を単独で用いることが好ましい。
【0017】
PAEKのTmは、200~430℃が好ましく、250~400℃がより好ましく、280~380℃がさらに好ましい。PAEKのTmが前記下限値以上であれば、得られる3D造形物の耐熱性がより優れる。PAEKのTmが前記上限値以下であれば、本フィラメントが含フッ素重合体を含む場合に、PAEKと含フッ素重合体の混練時や、FDM方式の3D印刷装置での本フィラメントの加熱時の熱によって含フッ素重合体が熱分解するのを抑制できる。
【0018】
PAEKのMFRは、1~200g/10分が好ましく、3~100g/10分がより好ましい。PAEKのMFRが前記下限値以上であれば、強度がより優れ、前記上限値以下であれば、加工性がより優れる。
【0019】
PAEKは、市販されているものであってもよく、公知の方法によって各種原料から製造したものであってもよい。PEEKの市販品としては、例えば、VictrexPEEK(Victrex社製)、VestaKeep(EVONIK社製)、Ketaspire(Solvay specailty polymers社製)が挙げられる。PEKKの市販品としては、例えば、Kepstan(Arkema社製)が挙げられる。
【0020】
(含フッ素重合体)
含フッ素重合体は、寸法安定性の点から、Tmを有さないことが好ましい。
Tmを有さない含フッ素重合体は、典型的には、含フッ素エラストマーである。
含フッ素エラストマーは、100℃、50cpmにおける貯蔵弾性率G’が80以上を示す、Tmを持たない含フッ素弾性共重合体であり、フッ素樹脂とは区別される。
貯蔵弾性率G’は、ASTM D6204に準拠して測定される値である。
【0021】
含フッ素エラストマーとしては、下記単量体m1に基づく単位の1種以上を有する含フッ素弾性共重合体が好ましい。
単量体m1は、テトラフルオロエチレン(以下、TFEとも記す。)、ヘキサフルオロプロピレン(以下、HFPとも記す。)、フッ化ビニリデン(以下、VdFとも記す。)及びクロロトリフルオロエチレン(以下、CTFEとも記す。)からなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体である。
含フッ素エラストマーは、2種以上を併用してもよいが、1種を単独で用いることが好ましい。
【0022】
含フッ素エラストマーは、単量体m1に基づく単位の2種以上を有する含フッ素弾性共重合体であってもよく、単量体m1に基づく単位の1種以上と、単量体m1と共重合可能な下記単量体m2に基づく単位の1種以上とを有する含フッ素弾性共重合体であってもよい。
単量体m2は、エチレン(以下、Eとも記す。)、プロピレン(以下、Pとも記す。)、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、PAVEとも記す。)、フッ化ビニル(以下、VFとも記す。)、1,2-ジフルオロエチレン(以下、DiFEとも記す。)、1,1,2-トリフルオロエチレン(以下、TrFEとも記す。)、3,3,3-トリフルオロ-1-プロピレン(以下、TFPとも記す。)、1,3,3,3-テトラフルオロプロピレン及び2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンからなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体である。
【0023】
PAVEは、下式1で表される化合物である。
CF=CF(OR) 式1
ただし、Rは、炭素数1~8の直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキル基である。
PAVEとしては、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)(以下、PMVEとも記す。)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)(以下、PEVEとも記す。)、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)(以下、PPVEとも記す。)、ペルフルオロ(ブチルビニルエーテル)(以下、PBVEとも記す。)等が挙げられる。
【0024】
含フッ素エラストマーは、単量体m1と共重合可能であり、単量体m1との共重合体が弾性共重合体となる、単量体m1及び単量体m2以外の単量体(以下、単量体m3とも記す。)に基づく単位の1種以上を有していてもよい。
単量体m3に基づく単位の割合は、含フッ素エラストマーを構成する全単位に対して、20モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、0モル%が特に好ましい。
【0025】
含フッ素エラストマーは、含フッ素エラストマーを構成する全単位が、単量体m1に基づく単位の2種又は3種からなること、又は単量体m1に基づく単位の1種以上と単量体m2に基づく単位の1種以上とからなることが好ましい。ただし、本組成物の特性に影響を与えない範囲であれば、不純物等としてこれら以外の単位を有していてもよい。
【0026】
含フッ素エラストマーの例としては、下記の3種の共重合体が挙げられる。ここで、下記の3種の共重合体において具体的に示された各単位の合計の割合は、共重合体を構成する全単位に対して、50モル%以上が好ましい。
TFE単位とP単位とを有する共重合体(以下、TFE/P含有共重合体とも記す)。
HFP単位とVdF単位とを有する共重合体(ただし、P単位を有するものを除く。)(以下、HFP/VdF含有共重合体とも記す。)。
TFE単位とPAVE単位とを有する共重合体(ただし、P単位又はVdF単位を有するものを除く。)(以下、TFE/PAVE含有共重合体とも記す)。
【0027】
TFE/P含有共重合体としては、下記のものが挙げられる。
TFE/P(TFE単位とP単位からなる共重合体を意味する。他についても同様である)、TFE/P/VF、TFE/P/VdF、TFE/P/E、TFE/P/TFP、TFE/P/PAVE、TFE/P/1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、TFE/P/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、TFE/P/TrFE、TFE/P/DiFE、TFE/P/VdF/TFP、TFE/P/VdF/PAVEが挙げられ、なかでもTFE/Pが好ましい。
【0028】
HFP/VdF含有共重合体としては、HFP/VdF、TFE/VdF/HFP、TFE/VdF/HFP/TFP、TFE/VdF/HFP/PAVE、VdF/HFP/TFP、VdF/HFP/PAVEが挙げられ、なかでもHFP/VdFが好ましい。
【0029】
TFE/PAVE含有共重合体としては、TFE/PAVEが挙げられ、特にPAVEがPMVE又はPPVEである、TFE/PMVE及びTFE/PMVE/PPVEが好ましく、なかでもTFE/PMVEが好ましい。
【0030】
含フッ素エラストマーの他の例としては、TFE/VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン、VdF/PAVE、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン、E/HFPも挙げられる。
【0031】
含フッ素エラストマーとしては、TFE/P含有共重合体、HFP/VdF含有共重合体、TFE/PAVE含有共重合体が好ましく、TFE/P含有共重合体がより好ましく、TFE/Pが特に好ましい。TFE/Pは、混練時の熱安定性が良好であり、混練時の搬送性が安定する。また、得られる3D造形物の着色及び発泡が低減される。
【0032】
含フッ素エラストマーを構成する各単位の割合は、耐熱性の点から、下記範囲が好ましい。
TFE/Pにおける各単位のモル比(TFE:P。以下同様)は、30~80:70~20が好ましく、40~70:60~30がより好ましく、50~60:50~40がさらに好ましい。
TFE/P/VFにおいてTFE:P:VFは、30~60:60~20:0.05~40が好ましい。
TFE/P/VdFにおいてTFE:P:VdFは、30~60:60~20:0.05~40が好ましい。
TFE/P/EにおいてTFE:P:Eは、20~60:70~30:0.05~40が好ましい。
TFE/P/TFPにおいてTFE:P:TFPは、30~60:60~30:0.05~20が好ましい。
TFE/P/PAVEにおいてTFE:P:PAVEは、40~70:60~29.95:0.05~20が好ましい。
TFE/P/1,3,3,3-テトラフルオロプロペンにおいてTFE:P:1,3,3,3-テトラフルオロプロペンは、30~60:60~20:0.05~40が好ましい。
TFE/P/2,3,3,3-テトラフルオロプロペンにおいてTFE:P:2,3,3,3-テトラフルオロプロペンは、30~60:60~20:0.05~40が好ましい。
TFE/P/TrFEにおいてTFE:P:TrFEは、30~60:60~20:0.05~40が好ましい。
TFE/P/DiFEにおいてTFE:P:DiFEは、30~60:60~20:0.05~40が好ましい。
TFE/P/VdF/TFPにおいてTFE:P:VdF:TFPは、30~60:60~20:0.05~40:0.05~20が好ましい。
TFE/P/VdF/PAVEにおいてTFE:P:VdF:PAVEは、30~70:60~20:0.05~40:0.05~20が好ましい。
【0033】
HFP/VdFにおいてHFP:VdFは、99~5:1~95が好ましい。
TFE/VdF/HFPにおいてTFE:VdF:HFPは、20~60:1~40:20~60が好ましい。
TFE/VdF/HFP/TFPにおいてTFE:VdF:HFP:TFPは、30~60:0.05~40:60~20:0.05~20が好ましい。
TFE/VdF/HFP/PAVEにおいてTFE:VdF:HFP:PAVEは、30~70:60~20:0.05~40:0.05~20が好ましい。
VdF/HFP/TFPにおいてVdF:HFP:TFPは、1~90:95~5:0.05~20が好ましい。
VdF/HFP/PAVEにおいてVdF:HFP:PAVEは、20~90:9.95~70:0.05~20が好ましい。
【0034】
TFE/PAVEにおいてTFE:PAVEは、40~70:60~30が好ましい。また、PAVEがPMVEの場合、TFE:PMVEは、40~70:60~30が好ましい。
TFE/PMVE/PPVEにおいてTFE:PMVE:PPVEは、40~70:3~57:3~57が好ましい。
【0035】
TFE/VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンにおいてTFE:VdF:2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンは、1~30:30~90:5~60が好ましい。
VdF/PAVEにおいてVdF:PAVEは、3~95:97~5が好ましい。
VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンにおいてVdF:2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンは、30~95:70~5が好ましい。
E/HFPにおいてE:HFPは、40~60:60~40が好ましい。
【0036】
含フッ素重合体におけるフッ素含有量は、50~74質量%が好ましく、55~70質量%がより好ましい。フッ素含有量は、TFE/Pにおいては57~60質量%が好ましく、HFP/VdFにおいては66~71質量%が好ましく、TFE/PMVEにおいては66~70質量%が好ましい。フッ素含有量が前記下限値以上であれば、樹脂組成物の耐熱性及び耐薬品性がより優れ、前記上限値以下であれば、樹脂組成物の耐衝撃性がより優れる。
含フッ素重合体におけるフッ素含有量は、含フッ素重合体を構成するすべての原子の総質量に対するフッ素原子の質量の割合を示す。フッ素含有量は、溶融NMR測定及び全フッ素含有量測定によって求めた含フッ素重合体中の各単位のモル比から算出される。
【0037】
含フッ素重合体のムーニー粘度(ML1+10,121℃)は、10~300が好ましく、20~280がより好ましく、30~250が更に好ましい。ムーニー粘度は、分子量の尺度であり、ムーニー粘度の値が大きいと分子量が大きいことを示し、小さいと分子量が小さいことを示す。含フッ素重合体のムーニー粘度が前記下限値以上であれば、耐衝撃性がより優れ、前記上限値以下であれば、加工性がより優れる。
【0038】
含フッ素重合体は、市販されているものであってもよく、公知の方法によって各種原料から製造したものであってもよい。
例えば前記した含フッ素エラストマーは、単量体m1の1種以上、必要に応じて単量体m2及び単量体m3の一方又は両方の1種以上を重合して製造できる。
重合法としては、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法等が挙げられる。含フッ素弾性共重合体の数平均分子量、共重合体組成の調整が容易で、生産性に優れる点から、水性媒体及び乳化剤の存在下で、単量体を重合する乳化重合法が好ましい。
乳化重合法においては、水性媒体、乳化剤及びラジカル重合開始剤の存在下に単量体を重合して、エラストマーのラテックスを得る。単量体の重合の際にpH調整剤を添加してもよい。
【0039】
(他の成分)
他の成分としては、無機充填剤、高分子充填剤、可塑剤、難燃剤等の添加剤が挙げられる。他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、石膏繊維、マイカ、タルク、ガラスフレーク、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化鉛、酸化銅、ヨウ化銅、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト類、酸化スズ、水酸化マグネシウム、クレー、ホワイトカーボン、カーボンブラック、無機顔料、二硫化モリブデン、金属粉末、磁性材料、ゼオライトが挙げられる。
【0041】
ガラス繊維としては、例えば、チョップドファイバー、ミルドファイバー、異形断面を持つフラットガラス繊維が挙げられる。また、電気特性の点から低誘電率のガラス繊維を用いることもできる。
炭素繊維としては、例えば、PAN系炭素繊維、ピッチ系等方性炭素繊維、ピッチ系異方性炭素繊維が挙げられる。炭素繊維の形状について、チョップドファイバー、ミルドファイバーを所望の物性に応じて選択することができる。
【0042】
カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラックが挙げられる。なかでも、ファーネスブラックが好ましい。ファーネスブラックとしては、HAF-LSカーボン、HAFカーボン、HAF-HSカーボン、FEFカーボン、GPFカーボン、APFカーボン、SRF-LMカーボン、SRF-HMカーボン、MTカーボン等が挙げられ、MTカーボンが好ましい。
【0043】
無機充填剤の形状は特に限定されず、繊維状でもよく、板状でもよく、粒子状(球状を含む。)でもよい。機械的物性、摩擦摩耗特性の点から、繊維状が好ましい。3D造形物の等方性が求められる用途においては、板状の無機フィラー、粒子状の無機フィラーが好ましい。
無機充填剤の大きさは特に限定されない。ナノサイズ、マイクロメーターサイズ、ミリメーターサイズのいずれの大きさの無機充填剤でも、3D造形物の用途に応じて用いることができる。
【0044】
高分子充填剤としては、例えば、液晶ポリマー、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステルエラストマー、ポリアリレート、ポリカプロラクトン、フェノキシ樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド46、芳香族ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブタジエン、ブタジエン-スチレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、アクリルゴム、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-フェニルマレイミド共重合体、エチレン/アクリル酸/グリシジルメタクリレートコポリマー、シリコーンエラストマー、アラミドが挙げられる。なかでも、ポリテトラフルオロエチレンは、3D造形物の誘電率、誘電正接をさらに低下させるために好適に用いられる。
【0045】
可塑剤としては、フタル酸エステル、アジピン酸エステル等が挙げられる。
難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、三酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、五酸化アンチモン、ホスファゼン化合物、リン酸エステル(トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート等)、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム、赤リン、モリブデン化合物、ホウ酸化合物、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。
【0046】
樹脂組成物が含フッ素重合体を含む場合、樹脂組成物は無機充填剤を含むことが好ましい。PAEKと含フッ素重合体の混練時や、FDM方式の3D印刷装置での本フィラメントの加熱時には、含フッ素重合体からフッ化物イオンが解離し、腐食性のフッ化水素(HF)ガスが発生するおそれがある。樹脂組成物が無機充填剤を含むことで、HFガス発生量を低減できる。
【0047】
無機充填剤の中でも、HFガス発生量の低減効果に優れる点から、受酸剤として作用し得る無機化合物が好ましい。受酸剤は、HFガス等の酸を取り込む、又は酸を中和することで、酸を捕捉する。受酸剤として作用し得る無機化合物としては、例えば酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化鉛、酸化銅、ヨウ化銅が挙げられる。これらの中でも、HFガス発生量を低減しやすく、耐熱性にさらに優れる点から、酸化マグネシウムが好ましく、純度が98%以上である酸化マグネシウムがより好ましい。酸化マグネシウムの純度は99%以上がより好ましい。酸化マグネシウムの純度の上限値は特に限定されないが、通常、100%である。
【0048】
無機化合物の平均粒子径D50は、4.5μm未満が好ましく、3.0μm以下がより好ましく、1.0μm以下が更に好ましい。無機化合物の平均粒子径D50が前記上限値以下であれば、HFガス発生量の低減効果、樹脂組成物の耐熱性がより優れる。
無機化合物の平均粒子径D50は、レーザー回折・散乱法により求められる体積基準累積50%径(D50)である。すなわち、レーザー回折・散乱法により粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
【0049】
無機化合物のBET比表面積は、100m/g以上が好ましく、105m/g以上がより好ましく、110m/g以上がさらに好ましい。無機化合物のBET比表面積が前記範囲の下限値以上であれば、HFガス発生量の低減効果、樹脂組成物の耐熱性がより優れる。無機化合物のBET比表面積の上限は特に限定されないが、例えば、300m/gである。
無機化合物のBET比表面積は、ガス吸着法により測定される値である。
【0050】
無機化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。耐熱性がさらに優れ、また、HFガス発生量をさらに充分に低減できることから、酸化マグネシウムを単独で用いることが好ましい。
【0051】
樹脂組成物において、PAEKと含フッ素重合体との合計質量に対するPAEKの割合は、55質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましい。PAEKの割合が前記下限値以上であれば、得られる3D造形物の耐熱性、機械的物性がより優れる。また、樹脂組成物が含フッ素重合体を含む場合に、含フッ素重合体がPAEKに分散した状態としやすい。
PAEKと含フッ素重合体との合計質量に対するPAEKの割合は、99質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましく、95質量%以下が更に好ましい。PAEKの割合が前記上限値以下であれば、樹脂組成物の寸法安定性がより優れる。
前記下限値及び上限値は適宜組み合わせることができる。
【0052】
樹脂組成物の総質量に対するPAEK及び含フッ素重合体の合計質量の割合は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、100質量%であってもよい。
なお、樹脂組成物が含フッ素重合体を含まない場合、樹脂組成物の総質量に対するPAEK及び含フッ素重合体の合計質量の割合は、樹脂組成物の総質量に対するPAEKの質量の割合である。
【0053】
樹脂組成物が無機充填剤を含む場合、無機充填剤の含有量は、PAEK及び含フッ素重合体の合計100質量部に対して0.001~30質量部が好ましく、0.1~25質量部がより好ましく、1~20質量部が更に好ましい。無機充填剤の含有量が前記下限値以上であれば、アウトガスの抑制効果がより優れ、前記上限値以下であれば、加工性がより優れる。
【0054】
樹脂組成物は、50℃以上、樹脂組成物のTm-40℃以下の温度範囲における寸法変化率が1.7%未満である。樹脂組成物の寸法変化率が1.7%未満であれば、本フィラメントが高温下での寸法安定性に優れており、本フィラメントをFDM方式の3D印刷装置で加熱溶融させ、ノズルから吐出したときに、変形(部分的な凹凸、そり等)が生じにくい。そのため、積層されたフィラメント同士が良好に密着し、層間剥離やウェルド(筋、へこみ等)の発生を抑制できる。
樹脂組成物が2つ以上のTmを有する場合、上記「Tm-40℃」におけるTmは、2つ以上のTmのうち最も高いTmである。
樹脂組成物の寸法変化率は、1.5%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。
樹脂組成物の寸法変化率は低いほど好ましく、0%であってもよい。
樹脂組成物の寸法変化率は、例えば、含フッ素重合体の種類及び含有量により調整できる。
【0055】
樹脂組成物のTmは、200~430℃が好ましく、250~400℃がより好ましく、280~380℃がさらに好ましい。樹脂組成物のTmが前記下限値以上であれば、得られる3D造形物の耐熱性がより優れる。樹脂組成物のTmが前記上限値以下であれば、FDM方式の3D印刷装置での本フィラメントの加熱時の熱によって含フッ素重合体が熱分解するのを抑制できる。
樹脂組成物が有するTmは1つであることが好ましい。
【0056】
樹脂組成物のMFRは、60g/10分未満が好ましく、20g/10分未満がより好ましい。また、樹脂組成物のMFRは、0.5g/10分以上が好ましく、1g/10分以上がより好ましく、3g/10分以上がさらに好ましい。樹脂組成物のMFRが60g/10分未満であれば、強度がより優れる。樹脂組成物のMFRが0.5g/10分以上であれば、加工性がより優れる。
【0057】
樹脂組成物は、例えば、PAEK及び含フッ素重合体を溶融混練して製造される。
他の成分を樹脂組成物に含ませる場合、他の成分は、PAEK及び含フッ素重合体を溶融混練する際に添加してもよく、PAEK及び含フッ素重合体を溶融混練した後に添加してもよい。
【0058】
溶融混練は、公知の溶融混練装置を用いて実施できる。
溶融混練装置としては、溶融混練機能を有するものであればよい。溶融混練装置としては、混練効果の高いスクリューを備えていてもよい単軸押出機又は二軸押出機が好ましく、二軸押出機がより好ましく、混練効果の高いスクリューを備えた二軸押出機が特に好ましい。混練効果の高いスクリューとしては、溶融混練対象物に対する充分な混練効果を有し、かつ過剰なせん断力を与えないものを選択できる。溶融混練装置の例としては、ラボプラストミル混練機(東洋精機製作所社製)、KZWシリーズ二軸混練押出機(テクノベル社製)が挙げられる。
【0059】
溶融混練前の含フッ素重合体は、コンパウンド作製時の扱いやすさの点から、クラム状であることが好ましい。
溶融混練前の含フッ素重合体の数平均粒子径は、10mm以下が好ましく、8mm以下がより好ましく、6mm以下がさらに好ましい。溶融混練前の含フッ素重合体の数平均粒子径が前記上限値以下であれば、溶融混練時にスクリューによる搬送性が安定する。
溶融混練前の含フッ素重合体の数平均粒子径は、含フッ素重合体を光学顕微鏡で観察し、無作為に選んだ100個の粒子の最大直径を測定し、算術平均した値である。
【0060】
溶融混練装置へのPAEK及び含フッ素重合体の供給方法としては、例えば、PAEKと含フッ素重合体とをあらかじめ混合して溶融混練装置に供給する方法、PAEK及び含フッ素重合体を別々に溶融混練装置に供給する方法が挙げられる。
樹脂組成物が他の成分を含む場合、他の成分は、PAEK及び含フッ素重合体の一方とあらかじめ混合して溶融混練装置に供給してもよく、PAEK及び含フッ素重合体とは別に溶融混練装置に供給してもよい。また、他の成分は、PAEK及び含フッ素重合体を溶融混練した後に添加してもよい。
【0061】
PAEK及び含フッ素重合体を溶融混練する際の温度(以下、溶融混練温度とも記す。)は、PAEKや含フッ素重合体に応じて設定することができる。溶融混練温度は、220~480℃が好ましく、280~450℃がより好ましく、290~420℃が更に好ましく、300~400℃が特に好ましい。溶融混練温度が前記下限値以上であれば、PAEK中に含フッ素重合体が分散しやすく、含フッ素重合体の粗大粒子が残存しにくい。溶融混練温度が前記上限値以下であれば、含フッ素重合体の熱分解が促進されにくく、樹脂組成物の耐熱性がさらに優れ、また、含フッ素重合体が小粒径化されすぎない。
PAEK及び含フッ素重合体を溶融混練する際の押出せん断速度は、溶融混練温度におけるPAEK及び含フッ素重合体からなる溶融混練対象物の溶融粘度に応じて設定することが好ましい。溶融混練における押出せん断速度は、3~2500秒-1が好ましく、10~2000秒-1がより好ましく、15~1500秒-1が更に好ましい。押出せん断速度が前記下限値以上であれば、PAEK中に含フッ素重合体が分散しやすく、含フッ素重合体の粗大粒子が残存しにくい。押出せん断速度が前記上限値以下であれば、含フッ素重合体が小粒径化されすぎない。
溶融混練装置内での溶融混練対象物の滞留時間は、10~290秒が好ましく、20~240秒がより好ましく、30~210秒がさらに好ましい。滞留時間が前記下限値以上であれば、PAEK中に含フッ素重合体が分散しやすく、含フッ素重合体の粗大粒子が残存しにくい。滞留時間が前記上限値以下であれば、含フッ素重合体の熱分解が促進されにくい。
【0062】
典型的には、架橋剤及び架橋助剤を実質的に存在させずに溶融混練する。
架橋剤及び架橋助剤を実質的に存在させずに溶融混練するとは、樹脂組成物中のPAEK及び含フッ素重合体を実質的に架橋させずに溶融混練することを意味する。樹脂組成物中のPAEK及び含フッ素重合体が実質的に架橋していないかどうかは、樹脂組成物の曲げ弾性率の値によって確認できる。
【0063】
架橋剤及び架橋助剤のいずれか一方又は両方の存在下で溶融混練してもよい。
架橋剤としては、例えば有機過酸化物、硫黄、芳香族ジーオール、チオール類、トリアジン系、キノキサリン系が挙げられる。これらの中では有機過酸化物が好ましい。
有機過酸化物の具体例としては、ジアルキルパーオキシド類、α,α’-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-m-ジイソプロピルベンゼン、ベンゾイルパーオキシド、tert-ブチルパーオキシベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシドが挙げられる。
ジアルキルパーオキシド類の具体例としては、1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロキシパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、tert-ブチルパーオキシマレイン酸、tert-ブチルパーオキシソプロピルカーボネートが挙げられる。
架橋助剤としては、例えばトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、モノグリシジルジアリルイソシアヌレート、ジグリシジルモノアリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートプレポリマー、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチルアリルイソシアヌレートが挙げられる。
【0064】
(フィラメントの製造方法)
本フィラメントは、例えば、前記した樹脂組成物を溶融押出成形して製造される。
溶融押出成形は、公知の溶融押出成形装置を用いて実施できる。溶融押出成形装置としては、前記した溶融混練装置と同様に、混練効果の高いスクリューを備えていてもよい単軸押出機又は二軸押出機が好ましく、二軸押出機がより好ましく、混練効果の高いスクリューを備えた二軸押出機が特に好ましい。
溶融押出成形装置におけるシリンダー温度は、300~420℃が好ましく、330~370℃がより好ましい。ダイ温度は、350~420℃が好ましく、350~380℃がより好ましい。温度が前記範囲内であれば、溶融物とダイとの摩擦応力が低減され、得られるフィラメントの表面平滑性に優れる。また、成形時の熱履歴による含フッ素重合体の分解が抑えられ、得られるフィラメントの表面平滑性に優れる。
溶融押出成形装置における押出しせん断速度は、3~2500秒-1が好ましく、10~1000秒-1がより好ましく、10~100秒-1が更に好ましい。
押出機内の樹脂組成物の滞留時間は、10~1000秒が好ましく、60~500秒がより好ましい。
【0065】
含フッ素重合体及びPAEKを溶融混練して樹脂組成物を製造する場合、溶融押出成形を、含フッ素重合体及びPAEKの溶融混練に次いで連続して行ってもよい。例えば、溶融押出成形装置で含フッ素重合体及びPAEKを溶融混練し、溶融混練物をフィラメント状に押し出し、冷却することで、本フィラメントが得られる。
【0066】
(3D造形)
本フィラメントは、FDM方式の3D印刷装置を用いた3D造形に用いられる。
3D印刷装置は、コンピュータ上に取り込まれた立体図面データに従って造形材料から3D造形物を造形する。FDM方式の場合、造形材料であるフィラメントを加熱溶融させ、基材上に配置されたノズルから吐出するとともにノズルを基材の面内方向(xy方向)に移動させることで、フィラメントが所定の形状に堆積した層を形成し、形成された層の上(z方向)に次の層を積層していくことで3D造形物を得る。
本フィラメントの加熱温度は、例えば370~470℃である。
【0067】
FDM方式の3D印刷装置は、公知のものを使用できる。
一実施形態に係るFDM方式の3D印刷装置は、データ処理部と、前記データ処理部より供給される制御信号に基づいて3次元印刷を行う印刷部とを備えている。前記印刷部は、ヒータとノズルとを備えたヘッド部を有する。また、印刷部は、フィラメントの搬送手段として、ドライブギア及びローラを備えている。ドライブギアには、溝部が設けられている。本実施形態に係る3D印刷装置にあっては、フィラメントをドライブギアとローラとにより挟持しながら繰り出してヘッド部へと搬送し、ヒータによって加熱溶解し、ノズルから吐出するように構成されている。
【0068】
本フィラメントから得られる3D造形物の具体例としては、アクセサリー、宝飾品、模型(教育用模型なども含む)がある。また、メディカル分野において、人工骨等のインプラント、歯型、歯のインプラント、手術の事前確認のための模型等が挙げられる。また、工業的には、航空機部品、自動車部品用途が挙げられ、例えば、シール、特にシールリング、好ましくはバックアップシールリング、ファスナー等の取付部品;スナップフィット部品;相互可動部品;機能要素、操作要素;追跡要素;調整要素;キャリア要素;フレーム要素;フィルム;スイッチ;コネクタ;ワイヤ、ケーブル;ベアリング、ハウジング、コンプレッサーバルブ及びコンプレッサープレート等のコンプレッサー構成要素、シャフト、シェル又はピストン等の多数の物品のリストから選択することができる。
【実施例0069】
以下、実施例および比較例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
例1~2は実施例、例3~5は比較例である。
【0070】
〔評価方法〕
(Tm)
示差走査熱量計(日立ハイテクサイエンス社製「DSC7020」)を用い、試料を10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークを記録し、融解ピークの最大値に対応する温度(℃)をTmとした。
【0071】
(MFR)
メルトインデクサー(宝工業社製「X416」)を用い、ASTM D3307に準じ、温度372℃、荷重49Nの条件下、直径2mm、長さ8mmのノズルから10分間で流出する試料(樹脂組成物、PAEK又は含フッ素重合体)の質量(g)を測定した。
【0072】
(ムーニー粘度)
ムーニー粘度(ML1+10,121℃)は、JIS K 6300-1:2000(対応国際規格ISO 289-1:2005、ISO 289-2:1994)に準じて測定した。
【0073】
(貯蔵弾性率G’)
RPA2000(Alpha Technologies社製)を用い、ASTM D6204に準拠し、100℃、50cpmの条件で測定した。
【0074】
(樹脂組成物の寸法変化率)
ストランドを1mm程度の長さにカットし、テスター産業社製熱プレス機を用い、加工温度370℃、予熱10分、圧力10MPa、プレス時間3分の条件で成形し、厚さが0.5mmのシートを得た。得られたシートから4mm×4mm×厚さ0.5mmの正方形のサンプルを切り出した。
得られたサンプルについて、TMA装置(日立ハイテクサイエンス社製、TMA/SS6100)を用い、JIS K 7196:1991(測定モード:針入モード)に準じ、温度設定:30~390℃、昇温速度:5℃/min、荷重:100mNの条件でTMA曲線(横軸:温度、縦軸:変形量)を測定した。
得られたTMA曲線の50~303℃の温度範囲において、変形量の値が最も変化以下最大の寸法変化率を求めた。
【0075】
(熱処理前後の寸法安定性)
得られた造形物に対し、200℃で120分間の熱処理を行った。熱処理後、造形物のZ方向(フィラメントの積層方向)の寸法を測定し、以下の式により熱処理前後の寸法変化率を算出した。
熱処理前後の寸法変化率(%)=(熱処理後のZ方向の寸法(mm)-熱処理前のZ方向の寸法(mm))/熱処理前のZ方向の寸法(mm)×100
【0076】
以下の基準で熱処理前後の寸法変化率を評価した。
○:熱処理前後の寸法変化率が3%未満。
×:熱処理前後の寸法変化率が3%以上。
【0077】
(層間剥離)
得られた造形物を、Z方向に対して直角方向に曲げた後、目視で観察し、層間剥離の有無を評価した。
【0078】
(HFガス発生量)
1gのストランドを400℃の温度条件下で30分間加熱した。このとき発生したガス(HFアウトガス)を吸収液に吸収し、HFアウトガスを吸収した溶液に含まれるフッ化物イオン(F)をイオンクロマトグラフ分析法により定量し、HFアウトガス量を求めた。
イオンクロマトグラフ分析の各条件を以下に示す。
・装置名:ダイオネクス社製「ICS-3000」。
・キャリアガス:空気。
・ガス流量:500mL/min。
・吸収液:純水30mL×2連。
【0079】
以下の基準でHFガス発生量を評価した。
A:HFアウトガス量が100ppm(検出限界)未満である。
B:HFアウトガス量が100ppm超200ppm以下である。
C:HFアウトガス量が200ppm超である。
【0080】
〔使用材料〕
PAEK:PEEK、Tm:343℃、MFR:22g/10分、比重:1.32、ダイセルエボニック社製「ベスタキープ3300G」。
含フッ素重合体1:TFE/P共重合体、MFR:11g/10分、比重:1.55、ムーニー粘度(ML1+10,121℃):100、貯蔵弾性率G’(100℃、50cpm):390、AGC社製「AFLAS(登録商標)150FC」。
含フッ素重合体2:TFE/HFP共重合体(FEP)、Tm:255℃、MFR:32g/10分、ケマーズ株式会社製「TEFLON(登録商標)FEP9494」。
含フッ素重合体3:TFE/PPVE共重合体(PFA)、Tm:310℃、MFR:24g/10分、TFE/PPVE=98/2(mol%)。
無機充填剤:酸化マグネシウム、純度:≧95%。
【0081】
〔例1~5〕
(樹脂組成物の製造)
上述の材料を表1に示す配合(質量比)で混合し、二軸押出機(テクノベル社製「KZW15TW-45HG1100」、スクリュー径:15mm、L/D:45)のスクリューの基端に供給して下記条件で溶融混練し、溶融混練物をダイ先端から押し出し、押し出されたストランドを水槽にて冷却し、ペレタイザーにてカットし、樹脂組成物のペレットを得た。
スクリュー回転数:200rpm、シリンダー:基端側から第1ブロックC1、第2ブロックC2、第3ブロックC3、第4ブロックC4、第5ブロックC5、第6ブロックC6を順に備えたもの、温度パターン(シリンダーの各ブロックC1~C6、ダイ(D)、ヘッド(H)の設定温度):C1=340℃、C2=350℃、C3=360℃、C4=370℃、C5=370℃、C6=370℃、D=350℃、H=350℃。
樹脂組成物のTm、MFR及び寸法変化率を表1に示す。
なお、PAEK、含フッ素重合体それぞれがTmを有する例4~5については、Tmの測定において2つの融解ピークが観察された。
【0082】
(フィラメントの製造)
樹脂組成物のペレットを、押出機(IKG社製「30mm押出機」、スクリュー径:30mm、L/D=24)のスクリューの基端に供給して溶融混練し、溶融混練物をダイ先端から押し出し、押し出されたストランドを水槽にて冷却し、直径1.75mm±0.01mmのフィラメントを得た。
【0083】
(造形物の製造)
市販のFDM方式の3D印刷装置(Apium社製「Apium P220」)を用い、作製したストランドを造形材料として、100mm×50mm×10mmの板状の造形物を製造した。製造条件(印刷条件)は、ノズル温度380℃、槽内温度165℃とした。
得られた造形物について、寸法安定性、層間剥離、HFガス発生量を評価した。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
例1~2のストランドの造形物は、層間剥離が無く、熱処理前後の寸法安定性にも優れていた。特に例2のストランドの造形物は、HFガスの発生が見られなかった。
一方、含フッ素重合体を含まず、寸法変化率が3.0%である例3のストランドの造形物は、層間剥離が有り、熱処理前後の寸法安定性にも劣っていた。
含フッ素重合体を含むものの寸法変化率が1.7%である例4~5のストランドの造形物は、例3と同様に、層間剥離が有り、熱処理前後の寸法安定性にも劣っていた。