(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137712
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】布帛用インクジェットインク、インクジェット記録方法及び記録物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20240927BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240927BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240927BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20240927BHJP
D06P 1/44 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C09D11/322
B41M5/00 120
B41M5/00 114
B41J2/01 501
D06P5/30
D06P1/44 H
D06P1/44 M
B41J2/01 125
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024008158
(22)【出願日】2024-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2023048607
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中川 智裕
(72)【発明者】
【氏名】小林 広紀
(72)【発明者】
【氏名】百武 大希
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EE18
2C056FB03
2C056FC01
2C056HA41
2C056HA46
2H186AB13
2H186BA08
2H186DA17
2H186FA07
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
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2H186FB18
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB55
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2H186FB58
4H157AA01
4H157AA02
4H157BA15
4H157BA22
4H157BA24
4H157BA26
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4H157CB14
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4H157DA34
4H157GA06
4J039AD09
4J039AE04
4J039AE06
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4J039BE01
4J039BE12
4J039BE19
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA15
4J039EA16
4J039EA17
4J039EA19
4J039EA36
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】風合いを損なうことなく摩擦堅牢性に優れた画像を付与することができる布帛用インクジェットインクの提供。
【解決手段】少なくとも水、水溶性有機溶剤、樹脂、顔料を含み、前記樹脂はアクリルシリコーン樹脂とウレタン樹脂を含み、前記ウレタン樹脂はポリエステル系ウレタン樹脂及びポリエーテル系ウレタン樹脂の少なくとも1種以上を含み、前記アクリルシリコーン樹脂と前記ウレタン樹脂の質量比率が1:1~1:3であり、前記水溶性有機溶剤がグリコールエーテル類及び炭素数6以上のグリコール類の少なくとも1種以上を含むことを特徴とする布帛用インクジェットインク。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水、水溶性有機溶剤、樹脂、顔料を含み、
前記樹脂はアクリルシリコーン樹脂とウレタン樹脂を含み、
前記ウレタン樹脂はポリエステル系ウレタン樹脂及びポリエーテル系ウレタン樹脂の少なくとも1種以上を含み、
前記アクリルシリコーン樹脂と前記ウレタン樹脂の質量比率が1:1~1:3であり、
前記水溶性有機溶剤がグリコールエーテル類及び炭素数6以上のグリコール類の少なくとも1種以上を含むことを特徴とする布帛用インクジェットインク。
【請求項2】
前記アクリルシリコーン樹脂の樹脂粒子の体積平均粒径、及び前記ウレタン樹脂の樹脂粒子の体積平均粒径が10nm~300nmである、請求項1に記載の布帛用インクジェットインク。
【請求項3】
前記布帛用インクジェットインクの乾燥物のガラス転移温度(Tg)が-40~25℃である、請求項1から2のいずれかに記載の布帛用インクジェットインク。
【請求項4】
前記布帛用インクジェットインクに含まれる顔料が樹脂被覆型顔料である、請求項1から2のいずれかに記載の布帛用インクジェットインク。
【請求項5】
請求項1から2のいずれかに記載の布帛用インクジェットインクを付与した基材を120℃以上に加熱することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項6】
請求項5に記載のインクジェット記録方法により記録されたものであることを特徴とする記録物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛用インクジェットインク、インクジェット記録方法及び記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンターは低騒音、低ランニングコスト、カラー印刷が容易であるなどの利点を有するので、デジタル信号の出力機器として一般家庭に広く普及している。
近年では、家庭用のみならず、コート紙等の緩浸透性メディアやプラスチックフィルム等の非吸収性メディア、織物や編物等ファブリックに対しても、インクジェット記録方法により、従来のアナログ印刷並の画質を獲得することが要求されるようになっている。
【0003】
捺染分野においても、水性インクを用いてTシャツ等の衣類に直接印字するいわゆるDTG(Direct to Garment)分野の市場規模は年々拡大しており、従来の綿や綿・ポリエステル混紡メディアだけでなく、スポーツウェア向けの需要が急増し、ポリエステルメディア対応性が求められている。このような動向は、DTG分野のみならず、巻出巻取機構を備えたインクジェット印刷機により、綿やポリエステルを始めとする様々な素材のファブリックに対して、発色性及び種々堅牢性に優れた画像を形成可能なインクジェット記録システムへの需要がますます高まりつつある。
このような分野に向けたインクは反応性染料や酸性染料を用いた染料インクが広く用いられているが、染料インクは後処理工程で大量の水による洗浄工程を含むため、環境負荷が大きいという欠点があり、また加熱工程だけという簡便さ、さらには基材を選ばない汎用性の観点で顔料インクへの期待が高まっている。
【0004】
しかしながら顔料インクは繊維上に固形分が付着する構成になっているため、最終印字物を擦ったときの画像の剥がれが目立ちやすく、これを改善するために定着成分を多量に入れると印字物がゴワゴワとした触感になり、アパレル分野で重要視される手触り感(以下、風合いと呼ぶ)が大きく損なわれるという欠点がある。
【0005】
このような課題を解決するため、例えば特許文献1や特許文献2などが開示されているが、適用できる色が限られていたり、効果が不十分であるという課題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明は、風合いを損なうことなく摩擦堅牢性に優れた画像を付与することができる布帛用インクジェットインクの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、下記<1>の構成を有する布帛用インクジェットインクを提供する。
<1>少なくとも水、水溶性有機溶剤、樹脂、顔料を含み、
前記樹脂はアクリルシリコーン樹脂とウレタン樹脂を含み、
前記ウレタン樹脂はポリエステル系ウレタン樹脂及びポリエーテル系ウレタン樹脂の少なくとも1種以上を含み、
前記アクリルシリコーン樹脂と前記ウレタン樹脂の質量比率が1:1~1:3であり、
前記水溶性有機溶剤がグリコールエーテル類及び炭素数6以上のグリコール類の少なくとも1種以上を含むことを特徴とする布帛用インクジェットインク。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、風合いと摩擦堅牢性を高いレベルで満たす布帛用インクジェットインクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る布帛用インクジェットインクを用いるインクジェット記録装置の一例を示す斜視説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る布帛用インクジェットインクを用いるインクジェット記録装置におけるメインタンクの一例を示す斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は上記<1>に記載の布帛用インクジェットインクに係るものであるが、下記<2>~<6>を本発明の実施形態として含むのでこれらの実施形態についても併せて説明する。
<2>前記アクリルシリコーン樹脂の樹脂粒子の体積平均粒径、及び前記ウレタン樹脂の樹脂粒子の体積平均粒径が10nm~300nmである、上記<1>に記載の布帛用インクジェットインク。
<3>前記布帛用インクジェットインクの乾燥物のガラス転移温度(Tg)が-40~25℃である、上記<1>から<2>のいずれかに記載の布帛用インクジェットインク。
<4>前記布帛用インクジェットインクに含まれる顔料が樹脂被覆型顔料である、上記<1>から<3>のいずれかに記載の布帛用インクジェットインク。
<5>上記<1>から<4>のいずれかに記載の布帛用インクジェットインクを付与した基材を120℃以上に加熱することを特徴とするインクジェット記録方法。
<6>上記<5>に記載のインクジェット記録方法により記録されたものであることを特徴とする記録物。
【0011】
(布帛用インクジェットインク)
まず、本発明の布帛用インクジェットインクについて説明する。
本発明の布帛用インクジェットインクは、
少なくとも水、水溶性有機溶剤、樹脂、顔料を含み、
前記樹脂はアクリルシリコーン樹脂とウレタン樹脂を含み、
前記ウレタン樹脂はポリエステル系ウレタン樹脂及びポリエーテル系ウレタン樹脂の少なくとも1種以上を含み、
前記アクリルシリコーン樹脂と前記ウレタン樹脂の質量比率が1:1~1:3であり、
前記水溶性有機溶剤がグリコールエーテル類及び炭素数6以上のグリコール類の少なくとも1種以上を含むものである。
【0012】
<布帛>
本発明は、布帛用インクジェットインクであり、特に布帛に好適に使用できるものである。
本明細書において「布帛」とは、繊維を、織物、編物、織布、不織布などの形態にしたものを表し、前記繊維の太さや網目の大きさに制限はない。
前記繊維としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、天然繊維、化学繊維、生分解性繊維、又はこれらの混紡繊維などが挙げられる。
【0013】
前記天然繊維としては、例えば、綿、麻、羊毛、絹などからなる繊維、又はこれらの混紡繊維が挙げられるが、綿が好適であり、綿繊維が特に好適である。
【0014】
前記化学繊維としては、例えば、再生繊維、合成繊維、半合成繊維、又はこれらの混紡繊維が挙げられる。
【0015】
前記再生繊維としては、例えば、ビスコース、リヨセル、ポリノジック、レーヨン、キュプラなどからなる繊維、又はこれらの混紡繊維が挙げられる。
【0016】
前記合成繊維としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル、アセテート、トリアセテート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、アクリル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ナイロン、Nomex(登録商標)(Dupon社製)、Kevlar(登録商標)(Dupon社製)などからなる繊維、又はこれらの混紡繊維が挙げられる。
【0017】
前記半合成繊維としては、例えば、アセテート、ジアセテート、トリアセテートなどからなる繊維、又はこれらの混紡繊維が挙げられる。
【0018】
前記生分解性繊維としては、例えば、ポリ乳酸などからなる繊維が挙げられる。
【0019】
<水>
本発明の布帛用インクジェットインクは水を含む。前記水として、例えば、蒸留水、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、純水、高純粋、超純水などを使用することができ、これらは、1種を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
本発明の布帛用インクジェットインクにおける水の含有量について特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0020】
<水溶性有機溶剤>
本発明の布帛用インクジェットインクは水溶性有機溶剤を含み、前記水溶性有機溶剤は、グリコールエーテル類及び炭素数6以上のグリコール類の少なくとも1種以上を含む。
前記水溶性有機溶剤のインク総量に対する総含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び保存安定性の点から、1質量%以上40質量%以下が好ましく、2質量%以上30質量%以下がより好ましい。
【0021】
前記水溶性有機溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用しても構わない。
前記水溶性有機溶剤がグリコールエーテル類及び炭素数6以上のグリコール類の少なくとも1種以上を含むことにより、インクの基材に対する濡れ性が向上してインクと基材との密着性が向上するとともに、前記樹脂粒子の可塑化効果により樹脂の融着が促進し、より強固な膜が得られる。
前記グリコールエーテル類及び/又は前記炭素数6以上のグリコール類は、インクの貯蔵安定性を担保する観点からインク総量に対して0.5質量%以上15質量%以下の添加が好ましく、1質量%以上10質量%以下の添加がより好ましい。
【0022】
<<グリコールエーテル類、炭素数6以上のグリコール類>>
前記グリコールエーテル類、前記炭素数6以上のグリコール類としては特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【0023】
前記グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
【0024】
前記炭素数6以上のグリコール類としては、例えば、トリエチレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール等が挙げられる。
【0025】
<<その他の水溶性有機溶剤>>
本発明の布帛用インクジェットインクは、例えばノズル部での吐出安定性を担保する観点でその他の水溶性有機溶剤を含んでも構わない。
【0026】
本発明に使用できるその他の水溶性有機溶剤としては特に制限されず、例えば、多価アルコール類、多価アルコールアリールエーテル類などのエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類、その他の有機溶剤が挙げられる。
【0027】
前記多価アルコールとして、炭素数5以下のグリコール類等が挙げられる。前記多価アルコールの具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、グリセリンなどが挙げられる。
【0028】
前記多価アルコールアリールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等が挙げられる。
【0029】
前記含窒素複素環化合物としては、例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。
【0030】
前記アミド類としては、例えば、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等が挙げられる。
【0031】
前記アミン類としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0032】
前記含硫黄化合物類としては、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等が挙げられる。
【0033】
前記その他の有機溶剤としては、例えば、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン等が挙げられる。
【0034】
<樹脂>
本発明で使用される布帛用インクジェットインクは、樹脂を含み、前記樹脂は、アクリルシリコーン樹脂とウレタン樹脂を含むものである。
本発明の布帛用インクジェットインクに含まれる樹脂はインク中にどのような状態で添加されていても構わないが、エマルジョン状態で含まれることが好ましい。
ここで、エマルジョン状態であるとは、前記樹脂が微粒子としてインク組成物中に分散している状態を示すものである。
樹脂がエマルジョン状態であると、一般的に水性インクの主溶剤である水、あるいはインク中の水溶性有機溶剤が揮発ないし浸透することにより樹脂粒子同士が結着し、顔料の記録媒体への定着を促進することができる。
【0035】
前記樹脂をエマルジョン状態にして添加する場合、樹脂粒子の体積平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10nm以上1,000nm以下が好ましく、10nm以上300nm以下がより好ましい。
この範囲にあるとき、インクの粘度が高くなりすぎず、一方で粒子の成膜性が良好なため高い摩擦堅牢性が得られる。
前記樹脂粒子の体積平均粒径は、例えば、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて樹脂粒子の体積平均粒径を測定する場合、例えば、測定試料となる樹脂エマルジョン溶液を高純水にて散乱光強度が任意の測定範囲になるまで希釈した後、セルに入れて測定することで、樹脂粒子の体積平均粒径を測定することができる。
【0036】
前記樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、定着性、インクの保存安定性の点から、インク全量に対して、1質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0037】
前記アクリルシリコーン樹脂と前記ウレタン樹脂の比率はインク中に質量比率として1:1~1:3の範囲に存在し、1:3を超えてウレタン樹脂の方が多くなると印字物の風合いが十分なものにならなくなる可能性があり、1:1を超えてアクリルシリコーン樹脂の方が多いとウレタン樹脂による靭性の付与が不十分となり、摩擦堅牢性が低下する可能性がある。
【0038】
<<アクリルシリコーン樹脂>>
本発明の布帛用インクジェットインクは樹脂としてアクリルシリコーン樹脂を含む。本発明のインクにアクリルシリコーン樹脂が含まれないと、シリコーン樹脂特有の潤滑性が得られないため摩擦係数を下げることが出来ず、摩擦堅牢性が低くなり、風合いも劣ってしまう。
上記アクリルシリコーン樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルの繰り返し単位(アクリル系構成単位)と、シロキサンの繰り返し単位(シロキサン系構成単位)と、を構造中に有する共重合体であればよい。
このようなアクリルシリコーン樹脂としては、例えば、アクリル系構成単位を主成分として含むアクリル系樹脂と、シロキサン系構造単位によるポリシロキサン構造を主骨格として有するポリシロキサン系樹脂と、の両者を含むものとすることができる。
なお、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」の両者を意味するものである。なお、本明細書において、「アクリル変性シリコーン樹脂」を「アクリルシリコーン樹脂」と称することがある。
【0039】
前記アクリルシリコーン樹脂は、インク中に樹脂粒子として存在することが好ましく、前記アクリルシリコーン樹脂の樹脂粒子の体積平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10nm以上1,000nm以下が好ましく、10nm以上300nm以下がより好ましい。
インク中のアクリルシリコーン樹脂粒子の体積平均粒径がこの範囲にあるとき、インクの粘度が高くなりすぎず、一方で粒子の成膜性が良好なため高い摩擦堅牢性が得られる。
【0040】
より具体的には、前記アクリルシリコーン樹脂としては、アクリル系樹脂及びポリシロキサン系樹脂の間が共有結合により結合されたものとすることができ、例えば、アクリル系樹脂及びポリシロキサン系樹脂の端部同士が結合したアクリルシリコーン系ブロック共重合体、ポリシロキサン系樹脂を主骨格としてアクリル系樹脂が側鎖に結合したアクリルシリコーン系グラフト共重合体、アクリル系樹脂を主骨格としてポリシロキサン系樹脂が側鎖に結合したアクリルシリコーン系グラフト共重合体、及びこれらの共重合体同士をさらに結合したもの等を挙げることができる。
【0041】
前記アクリルシリコーン樹脂が、上述の共重合体であることにより、本発明のインクジェットインクを使用した記録物のインクを付与した部分は、シリコーン樹脂の優れた潤滑性が付与されるため摩擦係数が小さくなり、アクリル樹脂の優れた相溶性が付与されるため後述するウレタン樹脂と混ざり合った均一塗膜を形成することができる。
なお、前記アクリルシリコーン樹脂については、1種類のみ含むものであってもよく、2種類以上を混合して含むものであってもよい。
【0042】
前記アクリル系構成単位としては、特に限定されるものではないが、本発明のインクを乾燥させたときの膜の強度及びウレタン樹脂との相溶性を高める観点で、酸基及び水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステルモノマーに由来する構成単位を主成分として含むものであることが好ましい。
【0043】
上記酸基及び水酸基を有さない(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等を用いることができる。
【0044】
前記ポリシロキサン構造を構成するための構成単位(シロキサン構成単位)としては、特に限定されるものではないが、最終インク塗膜に優れた潤滑性と風合いをもたらす観点で、下記一般式(1)に示される構成単位を主成分として含むものであることが好ましい。
【化1】
(一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、フェニル基であり、複数あるR
1及びR
2は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、pは2以上の整数である。)
【0045】
シロキサン構成単位として、上記一般式(1)で表わされる構成単位以外の他のシロキサン構成単位を含むものであってもよく、このような他のシロキサン構成単位としては、例えば、ラジカル重合性基を有するラジカル重合性シロキサン構成単位を含むものであってもよい。
ラジカル重合性シロキサン構成単位を含むことにより、ラジカル重合性基を介して、アクリル系樹脂を構成する(メタ)アクリル酸エステルモノマーと重合可能となる。
このため、例えば、アクリル系樹脂及びポリシロキサン系樹脂が結合したアクリルシリコーン樹脂を容易に得ることが可能となる。
このようなラジカル重合性シロキサン構成単位を構成可能なラジカル重合性シラン化合物としては、上記一般式(1)で表わされる構成単位とポリシロキサン結合により結合可能なものであればよい。
【0046】
前記アクリルシリコーン樹脂の合成方法としては、公知の方法を用いることができる。
例えば、特開平9-87586号公報等に記載するように、末端に(メタ)クリロイル基、ビニル基、スチリル基、エポキシ基、アルコキシシリル基、メルカプト基等の重合性基を有するポリシロキサンマクロモノマーを、(メタ)アクリル酸エステルと共に乳化重合する方法を用いることができる。
また、上記合成方法としては、ポリシロキサン系樹脂として、重合性シロキサン構成単位を有するポリシロキサン系樹脂を合成した後、アクリル系樹脂を構成可能な(メタ)アクリル酸エステルモノマーと共に乳化重合する方法も用いることができる。
【0047】
上記アクリルシリコーン樹脂エマルジョンの市販品の例としては、CHALINE FE-502(日信化学工業(株)製)、CHALINE R-170BX(日信化学工業(株)製)、アクリット KS-3705(大成ファインケミカル(株)製)、MOWINYL LDM7523(日本合成化学工業(株)製)、AE980(JSR(株)製)、AE981A(JSR(株)製)、AE982(JSR(株)製)、ポリゾール AP-3900(昭和電工(株)製)などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0048】
<<ウレタン樹脂>>
本発明の布帛用インクジェットインクは上記の通り、樹脂としてウレタン樹脂も含み、前記ウレタン樹脂はポリエステル系ウレタン樹脂及びポリエーテル系ウレタン樹脂の少なくとも1種以上を含む必要がある。
本発明のインクにウレタン樹脂が含まれないと、インクに十分な靭性を付与できず、摩擦堅牢性が劣ってしまう。
本発明のインクは、布帛の湿摩擦堅牢性の観点から、ポリエステル系ウレタン樹脂やポリエーテル系ウレタン樹脂が含まれることが好ましい。
【0049】
本発明におけるウレタン樹脂とは、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られるポリウレタン樹脂などが挙げられ、ポリエステル系ウレタン樹脂(ポリエステルウレタン)とはポリオールとしてポリエステルポリオールを使用したものを指し、ポリエーテル系ウレタン樹脂(ポリエーテルウレタン)とはポリオールとしてポリエーテルポリオールを使用したものを指す。
前記ウレタン樹脂は、インク中に樹脂粒子として存在することが好ましく、前記ウレタン樹脂の樹脂粒子の体積平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10nm以上1,000nm以下が好ましく、10nm以上300nm以下がより好ましい。
この範囲にあるとき、インクの粘度が高くなりすぎず、一方で粒子の成膜性が良好なため高い摩擦堅牢性が得られる。
【0050】
-ポリエーテルポリオール-
前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、活性水素原子を2個以上有する化合物の少なくとも1種を出発原料として、アルキレンオキサイドを付加重合させたものなどが挙げられる。
【0051】
前記活性水素原子を2個以上有する化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
前記アルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
-ポリエステルポリオール-
前記ポリエステルポリオールとしては、例えば、低分子量のポリオールとポリカルボン酸とをエステル化反応して得られるもの、ε-カプロラクトン等の環状エステル化合物を開環重合反応して得られるポリエステル、これらの共重合ポリエステルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0054】
前記低分子量のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記ポリカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、これらの無水物又はエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
-ポリイソシアネート-
前記ポリイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環式ジイソシアネートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、本発明のインクは、ポスターや看板などの屋外向けの用途としても用いられるため、非常に高い長期耐候性を持つ塗膜を必要としており、前記長期耐候性の点から、脂環式ジイソシアネートが好ましい。
【0056】
更に、少なくとも1種の脂環式ジイソシアネートを使用することにより、目的とする塗膜強度、及び耐擦過性を得やすくなる。
前記脂環式ジイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
前記脂環式ジイソシアネートの含有量としては、イソシアネート化合物全量に対して、60質量%以上が好ましい。
【0057】
前記ポリウレタン樹脂(樹脂粒子含む)は、従来一般的に用いられている製造方法により得ることができ、例えば、次の方法などが挙げられる。
まず、無溶剤下又は有機溶剤の存在下で、前記ポリオールと前記ポリイソシアネートとを、イソシアネート基が過剰になる当量比で反応させて、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを製造する。
次いで、前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマー中のアニオン性基を必要に応じて中和剤により中和し、その後、鎖延長剤と反応させて、最後に必要に応じて系内の有機溶剤を除去することによって得ることができる。
【0058】
前記ポリウレタン樹脂(樹脂粒子含む)の製造に使用できる有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;アセトニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン等のアミド類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記鎖延長剤としては、例えば、ポリアミンやその他の活性水素基含有化合物などが挙げられる。
【0059】
前記ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン等のジアミン類;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のポリアミン類;ヒドラジン、N,N’-ジメチルヒドラジン、1,6-ヘキサメチレンビスヒドラジン等のヒドラジン類;コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のジヒドラジド類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0060】
前記その他の活性水素基含有化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等のグリコール類;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン等のフェノール類;水などが挙げられる。これらは、インクの保存安定性が低下しない範囲内であれば、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0061】
前記ポリウレタン樹脂(樹脂粒子含む)としては、市販品を使用してもよく、例えば、ユーコートUWS-145(ポリエステル系ポリウレタン樹脂粒子)、パーマリンUA-200(ポリエーテル系ポリウレタン樹脂粒子)(以上、三洋化成工業株式会社製)、スーパーフレックス130(ポリエーテル系ポリウレタン、体積平均粒径30nm)、スーパーフレックス210(ポリエステル系ポリウレタン、体積平均粒径40nm)(以上、第一工業製薬株式会社製)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)により前記ポリイソシアネートが検出された場合、前記ウレタン樹脂が含有されていると判断可能である。
【0062】
<顔料>
本発明の布帛用インクジェットインクは顔料を含み、前記顔料としては、無機顔料又は有機顔料を使用することができる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。また、顔料として、混晶を使用してもよい。
本発明の布帛用インクジェットインクに含まれる顔料はインク中にどのような状態で添加されても構わないが、顔料分散体の状態にして添加されることが好ましい。
本発明の布帛用インクジェットインクに含まれる前記顔料の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、安定した吐出の観点から、1質量%以上10質量%以下が好ましく、2質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0063】
前記布帛用インクジェットインクにおける前記顔料としては、例えば、ブラック顔料、イエロー顔料、マゼンタ顔料、シアン顔料、白色顔料、緑色顔料、橙色顔料、金色や銀色等の光沢色顔料やメタリック顔料などを用いることができる。
【0064】
前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
【0065】
前記有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。
【0066】
前記布帛用インクジェットインクにおける顔料は、これらの顔料のうち、前記水溶性有機溶剤や水等の溶媒と親和性の良いものが好ましく用いられる。その他、樹脂中空粒子、無機中空粒子の使用も可能である。
【0067】
前記顔料の具体例として、黒色用としては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、又は銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料があげられる。白色用としては、酸化チタン、二酸化チタン、中空樹脂粒子等が挙げられる。
【0068】
また、カラー用の具体例としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、150、153、155、180、185、213;C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51;C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、207、208、209、213、219、224、254、264;C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38;C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルー)、15:1、15:2、15:3、15:4(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63;C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36などが挙げられる。
【0069】
<顔料分散体>
前記顔料分散体は、水、有機溶剤、顔料、及び必要に応じて顔料分散剤、更に必要に応じてその他の成分を混合、分散し、粒径を調整して得られる。
前記顔料を分散させて顔料分散体を調製する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、前記顔料に、水、有機溶剤等の材料を混合して製造する方法、前記顔料と、その他水や顔料分散剤等を混合して顔料分散体としたものに、水、有機溶剤等の材料を混合して製造する方法などが挙げられる。
前記分散は、分散機を用いることが好ましい。
また、前記顔料分散体に対し、必要に応じて、フィルター、遠心分離装置などで粗大粒子をろ過し、脱気することが好ましい。
【0070】
前記顔料分散体における前記顔料の粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、顔料の分散安定性が良好となり、吐出安定性、画像濃度等の画像品質も高くなる点から、前記顔料分散体における前記顔料の体積平均粒径D50が20nm以上500nm以下であることが好ましく、20nm以上150nm以下であることがより好ましい。
前記顔料分散体における前記顔料の体積平均粒径D50は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて、上記と同様に測定することができる。
【0071】
前記顔料分散体における前記顔料の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な吐出安定性が得られ、また、画像濃度を高める点から、0.1質量%以上60質量%以下が好ましく、0.1質量%以上50質量%以下がより好ましい。
【0072】
前記顔料を分散して前記顔料分散体を得る方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記顔料に親水性官能基を導入して自己分散型顔料とする方法、前記顔料の表面を樹脂で被覆して樹脂被覆型の顔料にして分散させる方法、例えば界面活性剤等の分散剤を用いて前記顔料を分散させる方法で顔料分散体を得る方法などが挙げられる。
本発明の製造においては、別途加えられる樹脂と顔料の相溶性を高める観点で樹脂被覆型の顔料による顔料分散体を用いることが好ましい。
【0073】
前記顔料に親水性官能基を導入して自己分散型顔料にして分散させる方法としては、例えば、前記顔料(例えば、カーボン)に、例えば、スルホン基やカルボキシル基等の官能基を付加することで、水中に分散可能とする方法などが挙げられる。
【0074】
前記顔料の表面を樹脂で被覆して樹脂被覆型顔料にして分散させる方法としては、例えば、前記顔料を樹脂のマイクロカプセルに包含させ、水中に分散可能とする方法などが挙げられる。これは、樹脂被覆型の顔料と言い換えることができる。この場合、前記顔料分散体、及び前記インクに配合される顔料は、全てが樹脂に被覆されている必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲において、樹脂に被覆されていない顔料や、部分的に樹脂に被覆された顔料が前記顔料分散体、及び前記インク中に分散していてもよい。
【0075】
分散剤を用いて前記顔料を分散させる方法としては、例えば、界面活性剤に代表される、公知の低分子型の分散剤を用いて分散する方法、公知の高分子型の分散剤を用いて分散する方法などが挙げられる。
前記分散剤としては、特に制限はなく、顔料に応じて適宜選択することができ、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などを使用することが可能である。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記分散剤としては、適宜合成したものを使用してもよく、市販品を使用してもよい。前記分散剤の市販品としては、例えば、商品名で、ニューカルゲンD-1203(竹本油脂株式会社製、ノニオン系界面活性剤)などが挙げられる。また、ナフタレンスルホン酸Naホルマリン縮合物も、分散剤として好適に使用できる。
【0076】
<添加剤>
前記インクジェットインクには、必要に応じて、添加材として、界面活性剤、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤等を加えてもよい。
【0077】
‐界面活性剤‐
前記添加剤である界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等が、使用可能である。
前記シリコーン系界面活性剤には特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。中でも高pHでも分解しないものが好ましい。シリコーン系界面活性剤としては、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するものが、水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。また、シリコーン系界面活性剤として、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤を用いることもでき、例えば、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルシロキサンのSi部側鎖に導入した化合物等が挙げられる。
【0078】
前記フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物が、起泡性が小さいので特に好ましい。パーフルオロアルキルスルホン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩等が挙げられる。パーフルオロアルキルカルボン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等が挙げられる。パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩等が挙げられる。これらフッ素系界面活性剤における塩の対イオンとしては、Li、Na、K、NH4、NH3CH2CH2OH、NH2(CH2CH2OH)2、NH(CH2CH2OH)3等が挙げられる。
【0079】
前記両性界面活性剤としては、例えばラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなどが挙げられる。
【0080】
前記ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
【0081】
本発明のインクジェットインク中における添加剤としての界面活性剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、濡れ性、吐出安定性に優れ、画像品質が向上する点から、0.001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上5質量%以下がより好ましい。
【0082】
‐消泡剤‐
前記添加剤である消泡剤としては、特に制限はなく、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、破泡効果に優れる点から、シリコーン系消泡剤が好ましい。
【0083】
‐防腐防黴剤‐
前記添加剤である防腐防黴剤としては、特に制限はなく、例えば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンなどが挙げられる。
【0084】
‐防錆剤‐
前記添加剤である防錆剤としては、特に制限はなく、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0085】
‐pH調整剤‐
前記添加剤であるpH調整剤としては、pHを7以上に調整することが可能であれば、特に制限はなく、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミンなどが挙げられる。
【0086】
また、本発明の布帛用インクジェットインクは、前述のとおり、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、本発明のインクジェットインクを乾燥することにより得られる乾燥物であるインクの乾燥膜のガラス転移点(以下、Tgと記載)が-40~25℃であることが好ましい。
【0087】
本発明のインクを乾燥することにより得られる乾燥物は、Tgが-40~25℃であることが好ましい。Tgがこの範囲にあるとき、基材に対する追従性のある柔軟な膜となるため基材が引っ張られた時にはがれにくく、さらに膜に適度な靭性も付与されるため摩擦堅牢性に優れる膜となる。
インクを乾燥させることにより得られる乾燥物のTgを制御する方法としては、樹脂のTg、複数添加したときの樹脂の配合比率、樹脂/顔料配合比、溶剤種などが挙げられる。
【0088】
Tgの測定試験に供するインク乾燥膜は、インクをテフロン(登録商標)シャーレに入れ、40℃で12時間、150℃で12時間乾燥の後、150℃で3時間減圧乾燥させることで得ることができる。
前記ガラス転移温度は、例えば、DSCシステムQ-2000(TAインスツルメント社製)を用いて測定することができる。具体的には、まず、アルミニウム製の試料容器に入れたインク乾燥膜約5.0mgを装置にセットし、窒素気流下にて以下の測定条件にて測定を行う。2回目の昇温時におけるDSC曲線を選択し、中点法にてガラス転移温度を求めることができる。
[測定条件]
・-70℃まで冷却後5分間保持
・10℃/分間で120℃まで昇温
・-70℃まで冷却後5分間保持
・10℃/分間で120℃まで昇温
【0089】
また、本発明のインク中に含有されている水、有機溶剤、樹脂、顔料、その他成分等の定性方法あるいは定量方法としては、例えば、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)などが挙げられる。
例えば、前記ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)による測定装置としては、例えば、GCMS-QP2020NX(株式会社島津製作所製)などが挙げられる。インクに含まれる水分量は、一般的な方法として、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)による揮発成分の定量や、熱重量・示差熱同時測定法(TG-DTA)による質量変動等により測定することができる。
【0090】
(記録物)
本発明の布帛用インクジェットインクが付与された記録物は、記録媒体となる基材上に、本発明の布帛用インクジェットインク又はそのインクセットを用いて形成された画像を有するものである。
前記記録物は、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法によって本発明のインクジェットインクを基材に付与して画像を記録することで、本発明の記録物とすることができる。
‐基材‐
本発明の記録物に使用できる基材としては、本発明の効果を損なうことがない限り特に制限されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができるが、特に布帛が好ましく、具体的な例として、上述した布帛を挙げることができる。
本発明の記録物に好適な布帛は、上述の本発明のインクの適用に好適な布帛と同様である。
【0091】
(記録装置、記録方法)
本発明の布帛用インクジェットインク及びそのインクセットは、インクジェット記録方式による各種記録装置、例えば、プリンタ、ファクシミリ装置、複写装置、プリンタ/ファックス/コピー複合機、立体造形装置などに好適に使用することができる。
本発明において、記録装置、記録方法とは、記録媒体となる基材に対してインクや各種処理液等を吐出することが可能な装置(インクジェット記録装置等)、当該装置を用いて記録を行う方法(インクジェット記録方法等)である。記録媒体とは、インクや各種処理液が一時的にでも付着可能なものを意味する。
この記録装置には、インクを吐出するヘッド部分だけでなく、記録媒体の給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置と称される装置などを含むことができる。
【0092】
前記記録装置、前記記録方法は、加熱工程に用いる加熱手段、乾燥工程に用いる乾燥手段を有してもよい。前記加熱手段、前記乾燥手段には、例えば、記録媒体の印字面や裏面を加熱、乾燥する手段が含まれる。加熱手段、乾燥手段としては、特に限定されないが、例えば、温風ヒーター、赤外線ヒーターを用いることができる。加熱、乾燥は、印字前、印字中、印字後などに行うことができる。
また、記録装置、記録方法は、インクによって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、幾何学模様などのパターン等を形成するもの、3次元像を造形するものも含まれる。
【0093】
また、前記記録装置には、特に限定しない限り、吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、吐出ヘッドを移動させないライン型装置のいずれも含まれる。
更に、この記録装置には、卓上型だけでなく、A0サイズの記録媒体への印刷も可能とする広幅の記録装置や、例えばロール状に巻き取られた連続用紙を記録媒体として用いることが可能な連帳プリンタも含まれる。
【0094】
記録装置の一例について
図1乃至
図2を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る布帛用インクジェットインクを用いるインクジェット記録装置の一例を示す斜視説明図である。
図2は本発明の一実施形態に係る布帛用インクジェットインクを用いるインクジェット記録装置におけるメインタンクの一例を示す斜視説明図である。インクジェット記録装置の一例としてのインクジェット記録装置400は、シリアル型画像形成装置である。インクジェット記録装置400の外装401内に機構部420が設けられている。ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色用のメインタンク410(410k、410c、410m、410y)の各インク収容部411は、例えばアルミニウムラミネートフィルム等の包装部材により形成されている。インク収容部411は、例えば、プラスチックス製の収容容器ケース414内に収容される。これによりメインタンク410は、各色のインクカートリッジとして用いられる。
【0095】
一方、インクジェット記録装置本体のカバー401cを開いたときの開口の奥側にはカートリッジホルダ404が設けられている。カートリッジホルダ404には、メインタンク410が着脱自在に装着される。これにより、各色用の供給チューブ436を介して、メインタンク410の各インク排出口413と各色用の吐出ヘッド434とが連通し、吐出ヘッド434から記録媒体へインクを吐出可能となる。
【0096】
この記録装置には、色材と樹脂を含むインクを吐出する部分だけでなく、記録媒体にインクを付与する前に前処理を行う処理液組成物を付与する部分を含むことができる。
処理液組成物を記録媒体に付与する方法としては、例えば、処理液組成物中に記録媒体を浸漬させる方法(浸漬塗布)、処理液組成物をロールコーター等で塗布する方法(ローラ塗布)、処理液組成物をスプレー装置等によって噴射する方法(スプレー塗布)、処理液組成物をインクジェット方式により噴射する方法(インクジェット塗布)等が挙げられ、いずれの方法も使用してもよい。
これらの中でも、装置構成が簡便であり、処理液組成物の付与が迅速に行えるという点から、浸漬塗布、ローラ塗布、スプレー塗布を使用することが好ましい。
【0097】
また、本発明の用語における、画像形成、記録、印字、印刷等は、いずれも同義語とする。
【0098】
記録媒体、メディア、被印刷物は、いずれも同義語とする。
【実施例0099】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
なお、特に記載が無い場合、各種液体の調製及び評価は、室温25℃、湿度60%の条件下で行った。
【0100】
(アクリルシリコーン樹脂エマルジョンCの調製)
(1)オルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物の調製
オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)555g、KBM-502(γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン)0.6g、KBE-13(メチルトリエトキシシラン)44g、ラウリル硫酸ナトリウム6gをイオン交換水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、イオン交換水430gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。
このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~70℃で24時間重合反応を行った後、10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpH6~8に中和してシリコーンエマルジョン組成物を得た。
尚、該シリコーンエマルジョン組成物の105℃で3時間乾燥後の不揮発分は44.5質量%であり、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。
(2)シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造
上記で得たシリコーンエマルジョン組成物にメタクリル酸メチル(MMA)225gを3~5時間かけて滴下しながら、30℃にて、過酸化物と還元剤を添加して酸化還元反応を行いアクリルグラフト共重合させて、アクリルシリコーン樹脂エマルジョンCを得た。
アクリルシリコーン樹脂エマルジョンCの樹脂粒子の体積平均粒径については、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定した。アクリルシリコーン樹脂エマルジョンCの溶液を高純水にて散乱光強度が測定可能な範囲になるまで希釈し、その後、その希釈溶液をセルに入れて測定することで、アクリルシリコーン樹脂エマルジョンC中の樹脂粒子の体積平均粒径を求めた。
アクリルシリコーン樹脂エマルジョンC中の樹脂粒子の体積平均粒径は55nmであった。
【0101】
(アクリルシリコーン樹脂エマルジョンDの調製)
前記シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造において、メタクリル酸メチル225gの代わりに、メタクリル酸100gとアクリル酸エチルへキシル115gを使用したほかは、アクリルシリコーン樹脂エマルジョンCの調製と同様にして、アクリルシリコーン樹脂エマルジョンDを得た。
アクリルシリコーン樹脂エマルジョンCと同様にして、アクリルシリコーン樹脂エマルジョンD中の樹脂粒子の体積平均粒径を求めた。アクリルシリコーン樹脂エマルジョンD中の樹脂粒子の体積平均粒径は210nmであった。
【0102】
(アクリルシリコーン樹脂エマルジョンEの調製)
前記シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂の製造において、メタクリル酸メチルの量を100gに減らした他はアクリルシリコーン樹脂エマルジョンCの調製と同様にして、アクリルシリコーン樹脂エマルジョンEを得た。
アクリルシリコーン樹脂エマルジョンCと同様にして、アクリルシリコーン樹脂エマルジョンE中の樹脂粒子の体積平均粒径を求めた。アクリルシリコーン樹脂エマルジョンE中の樹脂粒子の体積平均粒径は310nmであった。
【0103】
(ウレタン樹脂エマルジョンCの調製)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、Mn3500のポリエステルポリオール(ポリライト OD-X-2523、DIC株式会社製)を75g、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)90g、アセトン200gを加え、75℃で4時間反応させ、ウレタンプレポリマーのアセトン溶液を得た。
この溶液を40℃まで冷却し、水450gを徐々に加えてホモジナイザーを使用して乳化分散を行った。
その後、2‐メチル‐1,5‐ペンタンジアミン15gを水100gに溶解した水溶液を添加し、1時間撹拌を継続した。
これを減圧下、50℃で脱溶剤を行い、不揮発分約45質量%のウレタン樹脂エマルジョンCを得た。
アクリルシリコーン樹脂エマルジョンCと同様にして、ウレタン樹脂エマルジョンC中の樹脂粒子の体積平均粒径を求めた。ウレタン樹脂エマルジョンC中の樹脂粒子の体積平均粒径は100nmであった。
【0104】
(ウレタン樹脂エマルジョンDの調製)
ウレタン樹脂エマルジョンCの調製において、ポリエステルポリオール(ポリライト OD-X-2523、DIC株式会社製)の代わりに、Mn3200のポリエーテルポリオール(エクセノール3020、AGC株式会社製)を使用する以外は同様にしてウレタン樹脂エマルジョンDを得た。
アクリルシリコーン樹脂エマルジョンCと同様にして、ウレタン樹脂エマルジョンD中の樹脂粒子の体積平均粒径を求めた。ウレタン樹脂エマルジョンD中の樹脂粒子の体積平均粒径は10nmであった。
【0105】
(ウレタン樹脂エマルジョンF)
ウレタン樹脂エマルジョンCの調製において、ポリエステルポリオール(ポリライト OD-X-2523、DIC株式会社製)の代わりに、ポリカーボネートポリオール(エタナコールUH-100、宇部興産株式会社製)を使用する以外は同様にしてウレタン樹脂エマルジョンFを得た。
アクリルシリコーン樹脂エマルジョンCと同様にして、ウレタン樹脂エマルジョンF中の樹脂粒子の体積平均粒径を求めた。ウレタン樹脂エマルジョンF中の樹脂粒子の体積平均粒径は13nmであった。
【0106】
<ブラック顔料分散体Aの調製>
-ポリマー溶液Aの調製-
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管、及び滴下ロートを備えた1Lのフラスコ内を充分に窒素ガス置換した後、スチレン11.2g、アクリル酸2.8g、ラウリルメタクリレート12.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート4.0g、スチレンマクロマー4.0g、及びメルカプトエタノール0.4gを混合し、65℃に昇温した。
次に、スチレン100.8g、アクリル酸25.2g、ラウリルメタクリレート108.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート36.0g、ヒドロキシルエチルメタクリレート60.0g、スチレンマクロマー36.0g、メルカプトエタノール3.6g、アゾビスメチルバレロニトリル2.4g、及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を2.5時間かけて、フラスコ内に滴下した。
滴下後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8g及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を0.5時間かけて、フラスコ内に滴下した。
65℃で1時間熟成した後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8gを添加し、更に1時間熟成した。反応終了後、フラスコ内にメチルエチルケトン364gを添加し、濃度が50質量%のポリマー溶液Aを800g得た。
【0107】
-顔料含有ポリマー微粒子分散液の調製-
ポリマー溶液Aを28gと、カーボンブラック顔料(商品名:Monarch800、キャボット社製)を42g、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液13.6g、メチルエチルケトン20g、及びイオン交換水13.6gを十分に攪拌した後、ロールミルを用いて混練した。
得られたペーストを純水200gに投入し、充分に攪拌した後、エバポレータ用いてメチルエチルケトン及び水を留去し、更に粗大子を除くためにこの分散液を平均孔径5.0μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターにて加圧濾過し、顔料濃度15質量%、固形分濃度20質量%の樹脂被覆型ブラック顔料分散体Aを得た。
【0108】
<シアン顔料分散体Aの調製>
前記ブラック顔料分散体Aの調製において、カーボンブラックの代わりにピグメントブルー15:4(SENSIENT社製SMART Cyan 3154BA)を使用するほかは同様にして樹脂被覆型シアン顔料分散体Aを得た。
【0109】
<マゼンタ顔料分散体Aの調製>
前記ブラック顔料分散体Aの調製において、カーボンブラックの代わりにピグメントレッド122(Sun Chemical社製Pigment Red 122)を使用するほかは同様にして樹脂被覆型マゼンタ顔料分散体Aを得た。
【0110】
<イエロー顔料分散体Aの調製>
前記ブラック顔料分散体Aの調製において、カーボンブラックの代わりにピグメントイエロー74(SENSIENT社製SMART Yellow 3074BA)を使用するほかは同様にして樹脂被覆型イエロー顔料分散体Aを得た。
【0111】
<ホワイト顔料分散体Aの調製>
前記ブラック顔料分散体Aの調製において、カーボンブラックの代わりにピグメントホワイト6(堺化学工業株式会社製酸化チタンTITONE R-25)を使用するほかは同様にして樹脂被覆型ホワイト顔料分散体Aを得た。
【0112】
<ブラック顔料分散体Bの調製>
東海カーボン社製のカーボンブラック:シーストSP(SRF-LS)100gを、2.5N(規定)の次亜塩素酸ナトリウム溶液3000mLに添加し、温度60℃、速度300rpmで攪拌し、10時間反応させて酸化処理を行い、カーボンブラックの表面にカルボキシル基が付与された顔料を得た。
この反応液を濾過し、濾別したカーボンブラックを水酸化ナトリウム溶液で中和し、限外濾過を行った。
次いで、該顔料分散体とイオン交換水を用いて透析膜による限外濾過を行い、更に、超音波分散を行って、顔料固形分を20質量%に濃縮することにより、自己分散型ブラック顔料分散体Bを得た。
【0113】
<ブラック顔料分散体Cの調製>
以下の処方混合物をプレミックスした後、ディスクタイプのビーズミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製、KDL型、メディア:直径0.3mmジルコニアボール使用)で7時間循環分散して界面活性剤型ブラック顔料分散体としてブラック顔料分散体C(顔料濃度:15質量%)を得た。
・カーボンブラック顔料(商品名:Monarch800、キャボット社製) 15部
・アニオン性界面活性剤(商品名:パイオニンA-51-B、竹本油脂株式会社製) 2部
・イオン交換水 83部
【0114】
<インクジェットインクの調製>
下記表1、2に示す処方及び配合量(質量%)で材料を混合攪拌し、0.8μmのフィルター(ザルトリウス社製ミニザルト)で濾過することにより実施例1~15、及び比較例1~6に使用するインクとなる液体組成物を得た。
表1、2の樹脂エマルジョン、顔料分散体の添加量については、樹脂及び顔料の固形分としての添加量を記載した。
なお、使用した添加剤の詳細を以下に示す。
・アクリルシリコーン樹脂エマルジョンA:シャリーヌFE230N(日信化学工業株式会社製、樹脂粒子の体積平均粒径250nm)
・アクリルシリコーン樹脂エマルジョンB:ボンコート SA6360(DIC(株)製、体積平均粒径80nm)
・ウレタン樹脂エマルジョンA:スーパーフレックス210(第一工業社製ポリエステル系ポリウレタン、樹脂粒子の体積平均粒径40nm)
・ウレタン樹脂エマルジョンB:スーパーフレックス130(第一工業社製ポリエーテル系ポリウレタン、樹脂粒子の体積平均粒径30nm)
・ウレタン樹脂エマルジョンE:スーパーフレックス130(第一工業社製ポリエーテル系ポリウレタン、樹脂粒子の体積平均粒径13nm)
・界面活性剤A:BYK348(BYK社製シリコーン系界面活性剤)
・界面活性剤B:Zonyl FS-100(Chemors製フッ素系界面活性剤)
・プロキセルLV(アビシア製防腐剤)
【0115】
<樹脂粒子の体積平均粒径>
上述のインクに添加した各樹脂エマルジョン中の樹脂粒子の粒径の体積平均粒径を、各インクに含まれるアクリルシリコーン樹脂粒子、ウレタン樹脂粒子の体積平均粒径とした(表1、2)。なお、実施例14のインクは、ウレタン樹脂エマルジョンAとウレタン樹脂エマルジョンBを含むことから、ウレタン樹脂粒子の体積平均粒径は、予め表1に記載の比率でウレタン樹脂エマルジョンAとウレタン樹脂エマルジョンBを混合したエマルジョン混合物を調整し、35段落に記載の方法にて求めた。実施例15のインクは、ウレタン樹脂エマルジョンAとウレタン樹脂エマルジョンCを含むことから、ウレタン樹脂粒子の体積平均粒径は、同様に予め表1に記載の比率でウレタン樹脂エマルジョンAとウレタン樹脂エマルジョンCを混合した混合物を調整したのちに、35段落に記載の方法で測定することにより求めた(表1、2)。
【0116】
<ガラス転移温度(Tg)の測定>
実施例1~15、及び比較例1~6で作製したインク5gをテフロン(登録商標)シャーレに入れ、40℃で12時間、150℃で12時間乾燥の後、150℃で3時間減圧乾燥させることで、インク乾燥物であるインク乾燥膜を得た。
前記インク乾燥物のガラス転移温度(Tg)を、DSCシステムQ-2000(TAインスツルメント社製)を用いて以下の通り測定した。各測定結果は表1、2に示す通りである。
まず、アルミニウム製の試料容器に入れたインク乾燥膜約5.0mgを装置にセットし、窒素気流下にて以下の測定条件にて測定を行った。2回目の昇温時におけるDSC曲線を選択し、中点法にてガラス転移温度を求めた。
[測定条件]
・-70℃まで冷却後5分間保持
・10℃/分間で120℃まで昇温
・-70℃まで冷却後5分間保持
・10℃/分間で120℃まで昇温
【0117】
実施例1~15、及び比較例1~6のインクについて、以下のようにしてインクが付与された基材(布帛)の特性を評価した。結果をまとめて表1、2に示す。
【0118】
<風合い評価>
実施例1~15及び比較例1~6の液体組成物(インク)のセットを、リコー社製Ri100に充填し、液体組成物の付着量が1.9mg/cm2となるように調整後、布帛基材の色染社製綿ブロード生地に対して、600×600dpiで各インクを用いてベタ画像の印刷を行った後、ヒートプレスにて120℃、120秒乾燥させた記録物を作製した。
上記記録物の印刷部を手のひらで直接触れ、その際の感触を以下の基準に従って判定した。判定は3人で行い、最も支持の多い意見を判定の結果とした。判定が1人ずつに分かれた場合は、それらの中間となる意見を判定した。
B以上が実施可能範囲である。
(評価基準)
A:印刷部の硬さ、手触りが元の布帛とほぼ変わらず、良好である
B:印刷部の硬さ、又は手触りが元の布帛に比べやや変化していることが分かる
C:印刷部の硬さ、又は手触りが元の布帛に比べ明らかに悪化している
【0119】
<乾摩擦堅牢性評価>
上記の風合い評価にて作製した、綿ブロード生地上にベタ画像を印刷した記録物において、日本工業規格(JIS)JIS L0849に準拠し学振型摩擦堅牢度試験機を用いて摩擦堅牢性試験(乾摩擦)を行い、綿ブロード生地上のベタ画像の転写OD(転写後吸光度)を測色し下記評価基準に基づいて判断した。
B以上が実施可能範囲である。
(評価基準)
A:試験後の綿ブロード生地上のベタ画像の転写ODが0.15未満
B:試験後の綿ブロード生地上のベタ画像の転写ODが0.15以上0.20未満
C:試験後の綿ブロード生地上のベタ画像の転写ODが0.20以上
【0120】
<湿摩擦堅牢性評価>
上記の乾摩擦堅牢性評価において綿ブロード生地を予め湿らせておいてから同様に摩擦堅牢性試験を行い、下記評価基準に基づいて判断した。
B以上が実施可能範囲である。
(評価基準)
A:試験後の綿ブロード生地上のベタ画像の転写ODが0.15未満
B:試験後の綿ブロード生地上のベタ画像の転写ODが0.15以上0.20未満
C:試験後の綿ブロード生地上のベタ画像の転写ODが0.20以上
【0121】
【0122】
【0123】
実施例1~15のインクを付与した布帛の風合い、乾摩擦堅牢性、湿摩擦堅牢性の各評価は、「A」又は「B」であり、本発明の実施可能範囲内であった。
比較例1のインクにはアクリルシリコーン樹脂が含まれなかったため、アクリルシリコーン樹脂による潤滑性が得られないことから摩擦係数を下げることができず、風合いと湿摩擦堅牢性の評価が「C」となった。
比較例2のインクには、ポリエステル系ウレタン樹脂もポリエーテル系ウレタン樹脂も含まれていなかったため、湿摩擦堅牢性の評価が「C」となった。
比較例3のインクにはウレタン樹脂が含まれなかったため、インクの靭性が劣って摩擦堅牢性が低くなり、乾摩擦堅牢性及び湿摩擦堅牢性の評価が「C」となった。
比較例4のインクはアクリルシリコーン樹脂とウレタン樹脂の質量比率が1:3.5となり、1:3を超えてウレタン樹脂の方が多かったため、風合いの評価が「C」となった。
比較例5のインクはアクリルシリコーン樹脂とウレタン樹脂の質量比率が1:0.8となり、1:1を超えてアクリルシリコーン樹脂の方が多かったため、ウレタン樹脂による靭性の付与が不十分となり、乾摩擦堅牢性が「C」となった。
比較例6のインクには、水溶性有機溶剤にグリコールエーテル類も炭素数6以上のグリコール類のどちらも含まれていなかったため、インクの基材に対する濡れ性が低くなってインクと基材との密着性が低下し、樹脂の基材への融着が低下することで膜の堅牢性が劣ってしまい、風合いと湿摩擦堅牢性の評価が「C」となった。
【0124】
以上より、本発明の構成を満たすインクは、風合いを損なうことなく摩擦堅牢性に優れた画像を付与することができる布帛用インクジェットインクであることが示された。
【0125】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1>少なくとも水、水溶性有機溶剤、樹脂、顔料を含み、
前記樹脂はアクリルシリコーン樹脂とウレタン樹脂を含み、
前記ウレタン樹脂はポリエステル系ウレタン樹脂及びポリエーテル系ウレタン樹脂の少なくとも1種以上を含み、
前記アクリルシリコーン樹脂と前記ウレタン樹脂の質量比率が1:1~1:3であり、
前記水溶性有機溶剤がグリコールエーテル類及び炭素数6以上のグリコール類の少なくとも1種以上を含むことを特徴とする布帛用インクジェットインク。
<2>前記アクリルシリコーン樹脂の樹脂粒子の体積平均粒径、及び前記ウレタン樹脂の樹脂粒子の体積平均粒径が10nm~300nmである、上記<1>に記載の布帛用インクジェットインク。
<3>前記布帛用インクジェットインクの乾燥物のガラス転移温度(Tg)が-40~25℃である、上記<1>から<2>のいずれかに記載の布帛用インクジェットインク。
<4>前記布帛用インクジェットインクに含まれる顔料が樹脂被覆型顔料である、上記<1>から<3>のいずれかに記載の布帛用インクジェットインク。
<5>上記<1>から<4>のいずれかに記載の布帛用インクジェットインクを付与した基材を120℃以上に加熱することを特徴とするインクジェット記録方法。
<6>上記<5>に記載のインクジェット記録方法により記録されたものであることを特徴とする記録物。
【0126】
前記<1>から<4>のいずれかに記載の布帛用インクジェットインク、前記<5>に記載のインクジェット記録方法、及び前記<6>に記載の記録物によると、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。