(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137714
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】ガスセンサモジュール及びガス検出機能付き機器
(51)【国際特許分類】
G01N 21/61 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
G01N21/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024009583
(22)【出願日】2024-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2023049046
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】益田 征典
(72)【発明者】
【氏名】古屋 貴明
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059CC04
2G059CC13
2G059CC15
2G059DD12
2G059EE01
2G059GG02
2G059HH01
2G059JJ03
2G059JJ14
2G059KK01
2G059NN03
(57)【要約】
【課題】耐振動性を高めたガスセンサモジュール及びガス検出機能付き機器が提供される。
【解決手段】ガスセンサモジュール(20)は、枠部(14)と、枠部を支持する支持部(13)と、枠部と支持部とで囲まれた空間であって外気が導入される中空部(15)と、を備え、中空部に導入された外気に含まれる被検出ガスを検出するガスセンサ(10)と、支持部と接続される基板(21)と、を備え、基板は、基板の厚さに対するガスセンサの厚さである第1の比に基板のヤング率に対するガスセンサのヤング率である第2の比を乗じて得られる曲げ剛性評価値が2以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠部と、前記枠部を支持する支持部と、前記枠部と前記支持部とで囲まれた空間であって外気が導入される中空部と、を備え、前記中空部に導入された前記外気に含まれる被検出ガスを検出するガスセンサと、
前記支持部と接続される基板と、を備え、
前記基板は、前記基板の厚さに対する前記ガスセンサの厚さである第1の比に前記基板のヤング率に対する前記ガスセンサのヤング率である第2の比を乗じて得られる曲げ剛性評価値が2以上である、ガスセンサモジュール。
【請求項2】
前記第1の比は2以上である、請求項1に記載のガスセンサモジュール。
【請求項3】
前記第2の比は2以上である、請求項1又は2に記載のガスセンサモジュール。
【請求項4】
前記基板はポリイミド及び銅を含んで構成される、請求項1又は2に記載のガスセンサモジュール。
【請求項5】
前記ガスセンサは、発光素子と、前記発光素子から出射されて前記中空部を通る光に基づく信号を検出する検出素子と、を備える、請求項1又は2に記載のガスセンサモジュール。
【請求項6】
前記検出素子が受光素子であって、前記ガスセンサがNDIR方式である、請求項5に記載のガスセンサモジュール。
【請求項7】
前記被検出ガスが二酸化炭素である、請求項6に記載のガスセンサモジュール。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のガスセンサモジュールを備える、ガス検出機能付き機器。
【請求項9】
筐体を備え、
前記ガスセンサモジュールは前記筐体の内部に配置される、請求項8に記載のガス検出機能付き機器。
【請求項10】
前記基板と接続される硬質部を備え、
前記基板は、平面視で前記ガスセンサに重なる部分の少なくとも一部が前記ガスセンサに接続され、
前記硬質部は、前記基板より高いヤング率を有し、
前記硬質部は、平面視で前記ガスセンサに重なる部分の少なくとも一部が前記基板との間に隙間が生じるように、前記基板に接続される、請求項8に記載のガス検出機能付き機器。
【請求項11】
前記硬質部は、平面視で前記ガスセンサに重なる部分の全てが前記基板との間に隙間が生じるように、前記基板に接続される、請求項10に記載のガス検出機能付き機器。
【請求項12】
平面視で前記ガスセンサの中心を基準として、前記ガスセンサと前記基板の固定点より、前記基板と前記硬質部の固定点の方が外側に位置する、請求項10に記載のガス検出機能付き機器。
【請求項13】
前記硬質部は、前記基板と異なる別の基板である、請求項10に記載のガス検出機能付き機器。
【請求項14】
温度、湿度、気圧又は前記外気のいずれかに含まれる粒子を検出する測定装置をさらに備える、請求項9に記載のガス検出機能付き機器。
【請求項15】
バッテリーをさらに備える、請求項9に記載のガス検出機能付き機器。
【請求項16】
前記基板の音響特性インピーダンスをzb、前記硬質部の音響特性インピーダンスをzhとして、前記基板と前記硬質部の音響特性インピーダンスの比であるzb/zhが0.6以下である、請求項10に記載のガス検出機能付き機器。
【請求項17】
前記基板と前記硬質部の音響特性インピーダンスの比であるzb/zhが0.15以下である、請求項16に記載のガス検出機能付き機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はガスセンサモジュール及びガス検出機能付き機器に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスを検出するガスセンサが様々な分野で利用されている。半導体技術、MEMS技術の進展に伴いガスセンサの小型化が進み、様々な電子機器の筐体内への搭載が進められている。例えば特許文献1は、発光パネル内の表裏を貫通する孔にガスセンサが組み込まれている情報表示装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガスセンサは、例えばスマートフォンなどのバッテリー駆動の小型電子機器に搭載されることが求められている。しかし、小型電子機器に内蔵された場合に、例えば落下又は衝突などによる筐体への衝撃(外力)によってガスセンサに振動が伝わり、ガスセンサにかかる応力となり得る。ガスセンサに応力がかかると出力特性が変動する。振動によって測定精度を低下させないために、ガスセンサの耐振動性を高める技術が求められている。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、耐振動性を高めたガスセンサモジュール及びガス検出機能付き機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の一実施形態に係るガスセンサモジュールは、
枠部と、前記枠部を支持する支持部と、前記枠部と前記支持部とで囲まれた空間であって外気が導入される中空部と、を備え、前記中空部に導入された前記外気に含まれる被検出ガスを検出するガスセンサと、
前記支持部と接続される基板と、を備え、
前記基板は、前記基板の厚さに対する前記ガスセンサの厚さである第1の比に前記基板のヤング率に対する前記ガスセンサのヤング率である第2の比を乗じて得られる曲げ剛性評価値が2以上である。
【0007】
(2)本開示の一実施形態として、(1)において、
前記第1の比は2以上である。
【0008】
(3)本開示の一実施形態として、(1)又は(2)において、
前記第2の比は2以上である。
【0009】
(4)本開示の一実施形態として、(1)から(3)のいずれかにおいて、
前記基板はポリイミド及び銅を含んで構成される。
【0010】
(5)本開示の一実施形態として、(1)から(4)のいずれかにおいて、
前記ガスセンサは、発光素子と、前記発光素子から出射されて前記中空部を通る光に基づく信号を検出する検出素子と、を備える。
【0011】
(6)本開示の一実施形態として、(5)において、
前記検出素子が受光素子であって、前記ガスセンサがNDIR方式である。
【0012】
(7)本開示の一実施形態として、(5)又は(6)において、
前記被検出ガスが二酸化炭素である。
【0013】
(8)本開示の一実施形態に係るガス検出機能付き機器は、
(1)又は(2)のガスセンサモジュールを備える。
【0014】
(9)本開示の一実施形態として、(8)において、
筐体を備え、
前記ガスセンサモジュールは前記筐体の内部に配置される。
【0015】
(10)本開示の一実施形態として、(8)において、
前記基板と接続される硬質部を備え、
前記基板は、平面視で前記ガスセンサに重なる部分の少なくとも一部が前記ガスセンサに接続され、
前記硬質部は、前記基板より高いヤング率を有し、
前記硬質部は、平面視で前記ガスセンサに重なる部分の少なくとも一部が前記基板との間に隙間が生じるように、前記基板に接続される。
【0016】
(11)本開示の一実施形態として、(10)において、
前記硬質部は、平面視で前記ガスセンサに重なる部分の全てが前記基板との間に隙間が生じるように、前記基板に接続される。
【0017】
(12)本開示の一実施形態として、(10)において、
平面視で前記ガスセンサの中心を基準として、前記ガスセンサと前記基板の固定点より、前記基板と前記硬質部の固定点の方が外側に位置する。
【0018】
(13)本開示の一実施形態として、(10)において、
前記硬質部は、前記基板と異なる別の基板である。
【0019】
(14)本開示の一実施形態として、(9)において、
温度、湿度、気圧又は前記外気のいずれかに含まれる粒子を検出する測定装置をさらに備える。
【0020】
(15)本開示の一実施形態として、(9)において、
バッテリーをさらに備える。
【0021】
(16)本開示の一実施形態として、(10)において、
前記基板の音響特性インピーダンスをzb、前記硬質部の音響特性インピーダンスをzhとして、前記基板と前記硬質部の音響特性インピーダンスの比であるzb/zhが0.6以下である。
【0022】
(17)本開示の一実施形態として、(16)において、
前記基板と前記硬質部の音響特性インピーダンスの比であるzb/zhが0.15以下である。
【発明の効果】
【0023】
本開示の実施形態によれば、耐振動性を高めたガスセンサモジュール及びガス検出機能付き機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るガスセンサモジュールを備えるガス検出機能付き機器の概略構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、ガスセンサを説明するための図である。
【
図3】
図3は、
図1のガス検出機能付き機器のバネ等価モデルを示す図である。
【
図4】
図4は、基板の伸びに対するガスセンサの伸びの計算値を示す図である。
【
図5】
図5は、音響特性インピーダンスの比とエネルギー反射率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態が説明される。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものである。例えば厚さと幅との関係等は現実のものと異なる。また、以下に示す実施形態は、本開示の技術的思想を具体化するための装置を例示するものであって、構成部品の形状、構造、配置等を下記のものに限定するものでない。
【0026】
図1は、本実施形態に係るガス検出機能付き機器1(以下、単に「機器1」と称されることがある)の構成を示す図である。ガス検出機能とは、例えば検出対象である被検出ガスの外気中の濃度を検出する機能である。機器1は、筐体と、筐体の内部に配置されるガスセンサモジュール20と、を備える。筐体は、機器1の外装である。ここで、ガスセンサモジュール20は、ガスセンサ10と、基板21と、を備える。基板21は硬質部30に接続されるが、硬質部30が筐体であってよい。
【0027】
本実施形態において、機器1は、バッテリー駆動の小型の電子機器である。すなわち、本実施形態において、機器1はさらにバッテリーも備える。また、機器1はガス検出の専用機でなくてよい。すなわち、機器1は、追加的な機能としてガス検出を実行できる様々な装置であってよい。具体例として、機器1は、スマートフォン、タブレット又はノートパソコンなどであってよい。ガスセンサ10は、例えば体積が1000mm3以下であって、基板21と合わせても厚さ(高さ)が8mm以下であるため、スマートフォンなどの小型電子機器であっても内蔵可能である。また、ガスセンサモジュール20が十分に小型であるため、機器1はガスセンサモジュール20だけでなく、他の測定装置をさらに備えてよい。他の測定装置は例えば温度、湿度、気圧又は外気に含まれる粒子を検出する装置であってよい。
【0028】
また、本実施形態に係るガスセンサモジュール20は、上記のように、ガスセンサ10と、基板21と、を備える。ガスセンサ10は、枠部14と、支持部13と、中空部15と、を備える。枠部14は、ガスセンサ10の枠部分を構成する部材である。支持部13は枠部14を支持する部材である。中空部15は、枠部14と支持部13とで囲まれた空間であって外気が導入される。枠部14及び支持部13の少なくとも一方に、外気が通るための孔が設けられていてよい。ガスセンサ10は、中空部15に導入された外気に含まれる被検出ガスを検出する。基板21は、ガスセンサ10の支持部13と接続される。ここで、基板21とガスセンサ10との接続とは、電気的な接続を含めばよく、本実施形態においてガスセンサ10の基板21に対する位置を定める(固定する)接続及び電気的な接続を含む。また、接続され、固定された部分は固定点と定義される。
【0029】
ここで、
図1には、
図2と共通の直交座標が示されている。z軸方向は、ガスセンサ10と基板21とが積層される方向であって、積層方向と称することができる。z軸方向は、ガスセンサ10の厚さ方向(高さ方向)でもある。x軸方向は、ガスセンサ10の幅方向に対応する。また、y軸方向は、ガスセンサ10の奥行き方向に対応する。以下において、z軸正方向に位置する場合を上と、z軸負方向に位置する場合を下として、相対的な位置関係を説明することがある。例えば
図1のガスセンサ10、基板21及び硬質部30の位置関係は、ガスセンサ10が基板21の上にあり、硬質部30が基板21の下にある。また、xy平面を正面から見る見方を、以下において平面視と称することがある。例えば、z軸負方向に向かう視線で、ガスセンサ10を透過させて、基板21の主面の状態を説明する場合の見方は平面視である。ここで、主面は最も面積の大きい面である。
【0030】
ここで、
図2を参照して、ガスセンサ10の構成の詳細が説明される。本実施形態において、ガスセンサ10は、発光素子11と、発光素子11から出射されて中空部15を通る光に基づく信号を検出する検出素子12と、を備える。さらに具体的に述べると、検出素子12が受光素子であって、ガスセンサ10はNDIR(Non Dispersive InfraRed)方式である。NDIR方式は、ガスの種類によって吸収される赤外線の波長が異なることを利用し、この吸収量を検出することにより被検出ガスのガス濃度を測定する。被検出ガスは、本実施形態において二酸化炭素(CO
2)であるが、これに限定されず、別の例としてアルコール(エタノール等)、メタン、プロパン、水素、エチレン、MCH(メチルシクロヘキサン)などの可燃性ガスであってよい。また、一酸化炭素、硫化水素、ホルムアルデヒド、アンモニアなどの毒性ガスであってよい。さらに、一酸化二窒素、エアコンや冷蔵庫などに使用される冷媒ガスなどの温室効果ガスであってよい。本実施形態において、被検出ガス(CO
2)によって吸収された後の赤外線が、発光素子11から出射されて中空部15を通る光に基づく信号に対応する。
【0031】
発光素子11は、測定対象のガスによって吸収される波長を含む光を出力する。発光素子11は、具体的な例として、LED(Light Emitting Diode)又はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)光源であってよい。本実施形態において、発光素子11は赤外線LEDである。赤外線の波長は、本実施形態においてCO2の吸収帯である4.3μmであるが、例えば2μm~12μmの範囲において被検出ガスに応じて選択されればよい。
【0032】
受光素子は、測定対象のガスによって吸収される波長を含む光の帯域に感度を有する。受光素子は、具体的な例として、PIN構造を持ったフォトダイオードのような量子型センサであってよい。本実施形態において、受光素子は量子型赤外線センサである。
【0033】
また、発光素子11から出射された光を反射して受光素子に入射させるように、枠部14の中空部15の側の面に反射部が設けられていてよい。反射部は、発光素子11から受光素子まで光を導く導光部として機能する。反射部は例えば凹面鏡であって、反射面が例えばアルミ及び金などの高い反射率を有する金属で構成されてよい。
【0034】
また、ガスセンサ10は光の波長を制限するフィルタ16を備えてよい。
図2の例において、フィルタ16は発光素子11に設けられているが、光路上にあればよく、例えば発光素子11、受光素子及び導光部の少なくとも1つに設けられていればよい。
【0035】
支持部13は、枠部14を支持するとともに、フィルタ16の土台部分と発光素子11及び受光素子12を封止するモールド樹脂であってよい。また、支持部13は、発光素子11及び受光素子12が接続される一般的なプリント基板であってよい。また、支持部13は、内部に電気的配線を通してよい。また、支持部13は、受光素子から出力される検出信号に基づいてガス濃度を演算する演算装置なども封止又は接続してよい。
【0036】
再び、
図1を参照すると、ガスセンサモジュール20は、機器1の部材である硬質部30に接続されて、筐体内に収容される。硬質部30は、例えば機器1の筐体又は基板21と異なる別の基板である。ここで、例えば機器1の落下又は衝突などによって筐体に外力が加わると、硬質部30を介してガスセンサ10に振動が伝わり、ガスセンサ10にかかる応力となり得る。ガスセンサ10に応力がかかると出力特性が変動し、測定精度を低下させる。ガスセンサ10における振動を低減させる方途について鋭意究明したところ、以下に説明するように、基板21の厚さ及びヤング率がガスセンサ10に対して所定の関係を有する場合に、ガスセンサ10に振動が伝わりにくくなることを見出した。
【0037】
具体的には、発明者らがガスセンサ10、基板21及び硬質部30をモデル化してシミュレーションによって検証したところ、ガスセンサ10と基板21の断面積及び弾性率の比によって、ガスセンサ10にかかる歪みが変化することがわかった。断面積は、
図1に示すyz平面に平行な仮想の面(CL)で切った断面の面積としてよい。CLは、x軸方向においてガスセンサ10の幅の中間位置、すなわちガスセンサ10の幅方向の中点に位置するとしてよい。シミュレーションによると、ガスセンサ10の断面積に対して基板21の断面積が小さいと、ガスセンサ10に伝わる振動が小さくなる傾向が見られた。また、シミュレーションによると、ガスセンサ10の弾性率に対して基板21の弾性率が小さい、すなわち基板21が相対的に変形しやすいと、ガスセンサ10に伝わる振動が小さくなる傾向が見られた。これは、振動がより伝わりやすい部分に伝わることに起因すると考えられる。
【0038】
ここで、ガスセンサモジュール20において、小型化の観点から、奥行き方向の長さ(y軸方向の長さ)は、ガスセンサ10と基板21とでほぼ同じであることが多い。したがって、ガスセンサ10と基板21の断面積の比は、厚さの比に置き換えることができる。また、弾性率については、主に曲げ剛性が振動に影響するため、ヤング率で示すことができる。そこで、ガスセンサ10に対する基板21の断面積及び弾性率の比を数値で示すことが可能であるように、基板21についての曲げ剛性評価値を導入する。曲げ剛性評価値(EV)は、基板21の厚さ(Tb)に対するガスセンサ10の厚さ(Ts)である第1の比(R1)に、基板21のヤング率(Eb)に対するガスセンサ10のヤング率(Es)である第2の比(R2)、及び、基板21の幅(Wb)に対するガスセンサ10の幅(Ws)である第3の比(R3)を乗じて得られる。すなわち、曲げ剛性評価値は、EV=R1×R2×R3=(Ts/Tb)×(Es/Eb)×(Ws/Wb)によって算出される。換言すると、EVとは基板21とガスセンサ10の硬さの比であり、EVの値が大きいほど基板21がガスセンサ10に対し相対的に柔らかいことを示す。ここで、幅とは
図1における紙面奥行方向の長さである。
【0039】
上記の曲げ剛性評価値に関し、
図3は、
図1の機器1のバネ等価モデルを示す。以下、
図3を参照しながら、バネ等価モデルが詳細に説明される。バネkhは硬質部30と基板21との2か所の接続部分の間における硬質部30の一部をモデル化したものである。バネksはガスセンサ10をモデル化したものである。バネkb1とバネkb2は、それぞれ左又は右の、硬質部30と接続された部分とガスセンサ10と接続された部分との間における基板21の一部をモデル化したものである。また、バネkb3は、ガスセンサ10と基板21との2か所の接続部分の間における基板21の一部をモデル化したものである。
【0040】
硬質部30が圧力、衝撃又は音等の影響によって変形する場合にバネkhが伸び縮みするが、このときのバネkhの変位量を変位量Xとする。この場合に、バネks、バネkb1、バネkb2及びバネkb3の錬成バネKは同量である変位量Xの伸び縮みをする。錬成バネKにおける各バネが伸び縮みする変位量は、各バネの剛性により決定される。ここで、ガスセンサの変位量がxs、バネksのバネ定数がkks、バネkb1のバネ定数がkkb1、バネkb2のバネ定数がkkb2、バネkb3のバネ定数がkkb3、錬成バネKのバネ定数がkKであるとする。硬質部30が圧力、衝撃又は音等の影響によって衝撃力Fを受けたとすると、バネ同士にかかる力は釣り合う。そのため、錬成バネKにかかる力とガスセンサ10にかかる力は等価となる。すなわち、以下の式(a)となるので、式(b)と表すことができる。
【0041】
【0042】
ここで、xs/Xは、基板の伸びに対するガスセンサの伸びに相当する。簡単な系として、Lb=3Lsとしてガスセンサの3倍の長さの基板の中央にガスセンサを固定し、kkb1=kkb2=kkbとなる系について以下に検討が行われる。このとき、ガスセンサの材料に対して基板の材料が十分に柔らかい(kks>>kkb3)と仮定すると、式(c)と表すことができる。
【0043】
【0044】
さらに、錬成バネKは、以下の式(d)となるので、式(e)と表すことができる。
【0045】
【0046】
よって、以下の式(f)が成り立つ。
【0047】
【0048】
各バネのバネ定数は、各バネとしてモデル化されている部材の断面積とヤング率の積を長さで割って得ることができる。つまり、以下の式(g)となるので、式(h)と表すことができる。
【0049】
【0050】
さらに曲げ剛性評価値EVを用いて、以下の式(i)と記述することができ、式(j)となる。
【0051】
【0052】
つまり曲げ剛性評価値EVが大きく、ガスセンサ10に対して基板21が柔らかいほど、ガスセンサ10に伝わる変位及び振動が小さくなることを示す。例えば、バネkb1とバネkb2がバネksより十分柔らかい場合に、EVが大きくなり、xs/Xの値は小さくなる。このとき、バネkb1とバネkb2の合計変位量が変位量Xとほぼ等しくなり、バネksとバネkb3の変位量は近似的に0となる。つまりガスセンサ10に変位を生じさせないようすることができ、振動の抑制効果が発揮される。すなわち、バネkb1とバネkb2に相当する部分が振動の抑制効果を発揮するために重要となる。このような構造とするために、ガスセンサ10と基板21との接続部より、基板21と硬質部30の接続部の方が、上面視で外側にある必要がある。換言すると、平面視でガスセンサ10の中心を基準として、ガスセンサ10と基板21の固定点より、基板21と硬質部30の固定点の方が外側に位置する必要がある。
図4は基板21の伸び(変位)に対するガスセンサ10の伸びのいくつかの計算値を例示する。
【0053】
ここで、ガスセンサ10と基板21の厚さは、
図1のCL、すなわちガスセンサ10における幅方向の中点で測定されてよいが、測定位置が限定されるものでない。特に基板21の厚さについて、
図1は一例を示すものであり、別の例としてバネkb1とバネkb2に対応する部分で測定されてよい。基板21が均一な厚さではない場合に、最も薄い部分の値が基板21の厚さとして用いられてよい。また、ガスセンサ10と基板21のヤング率は、実験などによって公知の手法で実測されてよい。この場合に、
図1のCL、すなわち幅方向の中点におけるヤング率の値が代表して用いられてよい。ただし、ヤング率についても、上記の厚さと同様に幅方向の中点における値に限定されるものでなく、幅方向の中点以外の位置の値が代表して用いられてよい。別の手法として、基板21のヤング率は、基板21の材質などから計算によって求められてよい。また、ガスセンサ10のヤング率は、支持部13を主要な部分と扱って、支持部13の材質などから計算によって求められてよい。
【0054】
基板21について、曲げ剛性評価値が所定値以上であれば、ガスセンサ10に伝わる振動を小さくすることができる。つまり、ガスセンサモジュール20において、曲げ剛性評価値が2以上の基板21が用いられる。曲げ剛性評価値は、2以上であればよいが、一例として2又は2以上の正数である。例えば、第1の比(R1=Ts/Tb)が2以上である場合に、基板21の厚さはガスセンサ10の半分以下であって、振動を伝えにくくする効果が十分に発揮されると考えられる。また、例えば、第2の比(R2=Es/Eb)が2以上である場合に、基板21のヤング率はガスセンサ10の半分以下であって、振動を伝えにくくする効果が十分に発揮されると考えられる。ここで、第1の比、第2の比及び第3の比において必ずしも閾値(上記の例で2)を設定する必要はない。すなわち、第1の比が十分に大きければ、第2の比又は第3の比が例えば1に近くても、振動を伝えにくくする効果が発揮され得る。また、第2の比が十分に大きければ、第1の比又は第3の比が例えば1に近くても、振動を伝えにくくする効果が発揮され得る。したがって、第1の比と第2の比と第3の比を乗じて得られる曲げ剛性評価値が所定値以上であればよい。曲げ剛性評価値の所定値は、2以上であればよいが、10以上であることが望ましい。曲げ剛性評価値の所定値は、100以上であることがさらに望ましく、1×103以上であることがさらに望ましい。曲げ剛性評価値の所定値は、1×104以上であることがさらに望ましく、1×105以上であることがさらに望ましい。ここで、曲げ剛性評価値が大きすぎる場合、すなわちガスセンサ10よりも基板が極端に柔らかい場合、基板は大ひずみを起こし、基板21とガスセンサ10との接続が弱くなる。その結果、衝撃がおこった際に接続部分が破損する可能性がある。破損を防ぐ観点からは、曲げ剛性評価値は、1×107以下であることが望ましく、1×106以下であることがさらに望ましい。
【0055】
またガスセンサ10に伝わる振動は、例えば筐体又は他の基板である硬質部30において発生又は伝達される落下又は持ち歩きにより発生する衝撃、音等である。この振動は基板21を介してガスセンサ10に伝達される。つまり硬質部30から基板21へ振動が伝わらなければガスセンサ10への振動を低減することができるが、振動の低減は硬質部30と基板21の音響特性インピーダンスの差が大きいことで達成される。すなわち硬質部30と基板21の音響特性インピーダンスの差が大きい場合に、振動は硬質部30と基板21の接続部で反射が起こり、基板21へ振動の侵入が抑制される。硬質部30の密度をρh、硬質部30の音速をch、基板21の密度をρb、基板21の音速をcbとすると、硬質部30の音響特性インピーダンスzhはzh=ρh×chである。また、基板21の音響特性インピーダンスzbはzb=ρb×cbである。硬質部30と基板21の接続部でのエネルギー反射率Rは、以下の式(1)で表すことができる。
【0056】
【0057】
図5はエネルギー反射率Rの数値計算結果を示す。基板21と硬質部30の音響特性インピーダンスの比である(zb/zh)が0.6以下でエネルギー反射率Rが立ち上がりはじめ、(zb/zh)が約0.15以下でエネルギー反射率Rが50%を上回って、振動を伝えにくくする効果が発揮され得る。ここで、各媒質iでの音速c
iは、媒質iでのヤング率E
i、密度ρ
i、ポアソン比μ
i、を用いて、以下の式(2)で与えられる。
【0058】
【0059】
例えば、硬質部30が柔らかい金属であるアルミニウムであり、基板21がフレキシブル基板であるとき、アルミニウムのヤング率は75.5GPaである。また、フレキシブル基板の材料であるポリイミドのヤング率は5GPaである。上記の音響特性インピーダンスの比である(zb/zh)は約0.066である。また、エネルギー反射率Rは76.7%であり、大きな振動抑制効果が発揮される。
図5は、音響特性インピーダンスの比(zb/zh)とエネルギー反射率Rとの関係を示す。
【0060】
ここで、曲げ剛性評価値を十分に小さくする構成として、基板21がフレキシブル基板であってよい。フレキシブル基板は、薄くて柔軟であり、例えばポリイミド及び銅を含んで構成される。また、基板21が硬質部30に接続されるが、硬質部30は例えば筐体又は他の基板であって、少なくとも基板21より高いヤング率を有する。もし基板21が硬質部30の上に空間を設けることなく固定されると、基板21による柔軟性が発揮されずに、外力による振動が直接的にガスセンサ10に伝わる。そのため、
図1に示すように、基板21は隙間31が生じるように(空間を設けて)、固定点を通して硬質部30に接続される。本明細書において、隙間31は、力学的に接続されていない部分であると定義される。例えば接触していても物理的に固定されていない部分は、隙間31に含まれる。
図1の例では、基板21は、平面視でガスセンサ10に重なる部分の全てが硬質部30との間に隙間31を有するように、固定点を通して硬質部30に接続されている。ここで、基板21は、平面視でガスセンサ10に重なる部分の全てでなく、少なくとも一部が硬質部30との間に隙間31を有するように、固定点を通して硬質部30に接続されていればよい。また、基板21と硬質部30とを接続する固定点は、半田又は接着剤などで接着してよいし、ソケットピン、ネジ又は磁石などで取り外し可能な状態で接続してよい。
【0061】
本実施形態に係るガスセンサモジュール20及びガス検出機能付き機器1は、上記の構成によって、ガスセンサ10へ伝わる振動を低減して、耐振動性を高めることができる。したがって、本実施形態に係るガスセンサモジュール20及びガス検出機能付き機器1は、持ち運びされる(固定して設置されるものでない)バッテリー駆動の小型電子機器への搭載に特に適している。
【0062】
以上、実施形態を諸図面及び実施例に基づき説明したが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意すべきである。
【0063】
上記の実施形態において、ガスセンサ10がNDIR方式であって、検出素子12が受光素子であるとして説明したが、ガスセンサ10は別の構成であってよい。例えばガスセンサ10は光音響方式であってよい。このとき、検出素子12が例えばマイクで構成される。光音響方式では、光を吸収したガス分子の振動を高性能なマイクで音として拾うことでガス濃度を測定する。
【符号の説明】
【0064】
1 ガス検出機能付き機器
10 ガスセンサ
11 発光素子
12 検出素子
13 支持部
14 枠部
15 中空部
16 フィルタ
20 ガスセンサモジュール
21 基板
30 硬質部
31 隙間