(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137726
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】通信用シールドケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 11/06 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
H01B11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024017681
(22)【出願日】2024-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2023048697
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 滉
(72)【発明者】
【氏名】鳥光 悟
(72)【発明者】
【氏名】平岩 徹也
(72)【発明者】
【氏名】笠原 甫
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 清
【テーマコード(参考)】
5G319
【Fターム(参考)】
5G319EA01
5G319EA02
5G319EB02
5G319EC06
5G319ED01
5G319ED02
(57)【要約】
【課題】撚線導体とシールド層とのペア間での離間距離の変動による通信特性の悪化の影響を緩和すること。
【解決手段】通信用シールドケーブル1は、複数本の素線211が撚り合わされた撚線導体21と撚線導体21を被覆する絶縁体22とを有する一対のコア線2A,2Bが撚り合わされたツイストペア線2と、ツイストペア線2を被覆する第1シース3と、第1シース3を被覆するシールド層4と、シールド層4を被覆する第2シース5とを備える。コア線2A,2Bにおける撚り合わせの回転の軸方向に沿うコア線ピッチLcの、素線211におけるコア線2A,2Bに沿う素線ピッチLsに対する比Lc/Lsは、0より大きく1以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の素線が撚り合わされた撚線導体と前記撚線導体を被覆する絶縁体とを有する一対のコア線が撚り合わされたツイストペア線と、
前記ツイストペア線を被覆する第1シースと、
前記第1シースを被覆するシールド層と、
前記シールド層を被覆する第2シースとを備え、
前記コア線における撚り合わせの回転の軸方向に沿うコア線ピッチLcの、前記素線における前記コア線に沿う素線ピッチLsに対する比Lc/Lsは、
0より大きく1以下である
ことを特徴とする通信用シールドケーブル。
【請求項2】
前記撚線導体は、
非圧縮撚線導体である
ことを特徴とする請求項1に記載の通信用シールドケーブル。
【請求項3】
前記撚線導体は、
圧縮撚線導体である
ことを特徴とする請求項1に記載の通信用シールドケーブル。
【請求項4】
前記通信用シールドケーブルは、
自動車における通信に用いられる
ことを特徴とする請求項1に記載の通信用シールドケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信用シールドケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野では、高速通信の需要が増えてきている。そして、このような高速通信では、ノイズ対策の観点から、差動信号を伝送可能な通信用シールドケーブルが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の通信用シールドケーブルは、ツイストペア線と、当該ツイストペア線を被覆する第1シースと、当該第1シースを被覆するシールド層と、当該シールド層を被覆する第2シースとを備える。ここで、ツイストペア線は、複数の素線が撚り合わされた撚線導体と当該撚線導体を被覆する絶縁体とを有する一対のコア線が撚り合わされた構成を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような通信用シールドケーブルでは、当該通信用シールドケーブルの長手方向の各位置において、撚線導体とシールド層との離間距離は、ペア間で一定とはならない。このような離間距離のペア間での変動は、モード変換の原因となるため、通信用シールドケーブルの通信特性の悪化に影響を及ぼす。
そこで、撚線導体とシールド層との離間距離のペア間での変動による通信特性の悪化の影響を緩和することができる技術が要望されている。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、撚線導体とシールド層との離間距離のペア間での変動による通信特性の悪化の影響を緩和することができる通信用シールドケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る通信用シールドケーブルは、複数本の素線が撚り合わされた撚線導体と前記撚線導体を被覆する絶縁体とを有する一対のコア線が撚り合わされたツイストペア線と、前記ツイストペア線を被覆する第1シースと、前記第1シースを被覆するシールド層と、前記シールド層を被覆する第2シースとを備え、前記コア線における撚り合わせの回転の軸方向に沿うコア線ピッチLcの、前記素線における前記コア線に沿う素線ピッチLsに対する比Lc/Lsは、0より大きく1以下であることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る通信用シールドケーブルでは、上記発明において、前記撚線導体は、非圧縮撚線導体であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る通信用シールドケーブルでは、上記発明において、前記撚線導体は、圧縮撚線導体であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る通信用シールドケーブルでは、上記発明において、前記通信用シールドケーブルは、自動車における通信に用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る通信用シールドケーブルによれば、撚線導体とシールド層との離間距離のペア間での変動による通信特性の悪化の影響を緩和することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る通信用シールドケーブルの構成を示す図である。
【
図3】
図3は、コア線ピッチ及び素線ピッチを説明する図である。
【
図4】
図4は、シミュレーション結果を示す図である。
【
図5】
図5は、シミュレーション結果を示す図である。
【
図6】
図6は、シミュレーション結果を示す図である。
【
図7】
図7は、シミュレーション結果を示す図である。
【
図8】
図8は、シミュレーション結果を示す図である。
【
図9】
図9は、シミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施の形態)について説明する。なお、以下に説明する実施の形態によって本発明が限定されるものではない。さらに、図面の記載において、同一の部分には同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実と異なる場合がある。さらに、図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0013】
〔通信用シールドケーブルの構成〕
図1は、実施の形態に係る通信用シールドケーブル1の構成を示す図である。
図2は、
図1のII-II線の断面図である。
通信用シールドケーブル1は、例えば、自動車に配索され、当該配索された自動車においてイーサネット(登録商標)の規格に従った通信に用いられる。この通信用シールドケーブル1は、
図1及び
図2に示すように、ツイストペア線2と、第1シース3と、シールド層4と、第2シース5とを備える。
【0014】
ツイストペア線2は、
図1及び
図2に示すように、一対のコア線2A,2Bが撚り合わされて構成されている。
なお、一対のコア線2A,2Bは、同一の構成を有しているため、以下では、コア線2Aの構成についてのみ説明する。
【0015】
コア線2Aは、
図1及び
図2に示すように、撚線導体21と、絶縁体22とを備える。
撚線導体21は、
図2に示すように、複数本の素線211が撚り合わされて構成されている。ここで、素線211の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、及びアルミニウム合金等を用いることができる。なお、撚線導体21としては、複数本の素線211を圧縮した圧縮撚線導体としてもよく、あるいは、複数本の素線211を圧縮していない非圧縮撚線導体としてもよい。また、素線211の本数としては、
図2では7本としているが、これに限らず、その他の本数でも構わない。
【0016】
絶縁体22は、撚線導体21を被覆する絶縁体である。ここで、絶縁体22の材料としては、PE(ポリエチレン)、EVA(エチレン酢酸ビニル)、またはPP(ポリプロピレン)等のポリオレフィン系樹脂や塩化ビニル系樹脂をベースとした樹脂等を用いることができる。
【0017】
第1シース3は、ツイストペア線2を被覆する。本実施の形態では、ツイストペア線2と第1シース3の内面との間には、
図2に示すように、空隙31が形成されている。ここで、第1シース3の材料としては、PE(ポリエチレン)、EVA(エチレン酢酸ビニル)、またはPP(ポリプロピレン)等のポリオレフィン系樹脂や塩化ビニル系樹脂をベースとした樹脂等を用いることができる。
【0018】
シールド層4は、第1シース3を被覆する。本実施の形態では、シールド層4は、第1シース3の外周を覆う編組線により構成されている。当該編組線は、複数の金属(合金を含む)金属素線が筒状に編み込まれたものである。ここで、当該金属素線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、及びステンレス等を用いることができる。
【0019】
第2シース5は、シールド層4を被覆する。ここで、第2シース5の材料としては、PE(ポリエチレン)、EVA(エチレン酢酸ビニル)、またはPP(ポリプロピレン)等のポリオレフィン系樹脂や塩化ビニル系樹脂をベースとした樹脂等を用いることができる。
【0020】
〔通信用シールドケーブルのシミュレーション結果〕
以上説明した通信用シールドケーブル1について、以下のモデルにおいて、シミュレーションによって評価を行った。
モデルの構成としては、上述した通信用シールドケーブル1において、シールド層4及び第2シース5を除いたツイストペア線2及び第1シース3のみの構成である。ここで、第1シース3については、直径:2.6mm、厚さ:0.34mm、及び誘電率:2.25とした。また、素線211については、直径:0.16mmとした。さらに、撚線導体21については、直径:0.48mm、導電率:53%IACSとした。また、絶縁体22については、直径:0.95mm、誘電率:2.25とした。
【0021】
図3は、コア線ピッチLc及び素線ピッチLsを説明する図である。具体的に、
図3は、上述したモデルの長手方向に直交する方向からコア線2A,2Bを見た図である。なお、
図3では、説明の便宜上、一方のコア線2Bの絶縁体22を削除している。
ここで、コア線ピッチLcは、
図3に示すように、コア線2A,2Bが1回撚られる長さであり、係る長さとは当該コア線2A,2Bにおける撚り合わせの回転の軸方向(
図3中、左右方向)に沿った長さを意味する。
一方、素線ピッチLsは、
図3に示すように、素線211が1回撚られる長さであり、係る長さとはコア線2A,2B(
図3の例ではコア線2B)に沿った長さを意味する。
【0022】
そして、上述したモデルにおいて、コア線ピッチLc(
図3)を5.8mm、6mm、7mm、8mm、9mm、10mm、11mm、11.5mm、14mm、23mm、30mm、及び37mm、素線ピッチLs(
図3)を3mm、6mm、9mm、13mm、19mm、45mm、50mmに変更し、シミュレーションによって、モード変換特性である透過モード変換(Sdc21)及び反射モード変換(Sdc22)を計算した。
【0023】
図4ないし
図7は、シミュレーション結果を示す図である。具体的に、
図4及び
図5は、撚線導体21を「非圧縮撚線導体」とした場合のシミュレーション結果を示す図である。一方、
図6及び
図7は、撚線導体21を「圧縮撚線導体」とした場合のシミュレーション結果を示す図である。ここで、
図4及び
図6では、横軸をLc/Lsとし、縦軸を0.4GHzで抽出した透過モード変換(Sdc21)の振幅値としている。また、
図5及び
図7では、横軸をLc/Lsとし、縦軸を0.4GHzで抽出した反射モード変換(Sdc22)の振幅値としている。なお、0.4GHzは、通信用シールドケーブル1が配索される自動車におけるイーサネット(登録商標)の規格に応じた周波数である。
【0024】
例えば、
図4ないし
図7において、点P1は、コア線ピッチLc及び素線ピッチLsをそれぞれ9mmとし、Lc/Ls=1となる場合での0.4GHzで抽出した透過モード特性(Sdc21)及び反射モード特性(Sdc22)の振幅値をプロットしたものである。
【0025】
シミュレーション結果としては、
図4ないし
図7に示すように、撚線導体21を「非圧縮撚線導体」とした場合及び「圧縮撚線導体」とした場合の双方において、Lc/Lsが1を超える値で、透過モード特性(Sdc21)及び反射モード特性(Sdc22)の振幅値が大きくなるとともに、当該振幅値のバラつきも大きくなり、モード変換特性が悪化する結果となった。一方、Lc/Lsが0より大きく1以下の値で、透過モード特性(Sdc21)及び反射モード特性(Sdc22)の振幅値が小さくなるとともに、当該振幅値のバラつきも小さくなり、モード変換特性が良好となる結果となった。
【0026】
また、
図8ないし
図11は、シミュレーション結果を示す図である。具体的に、
図8及び
図9は、
図4及び
図5と同様に撚線導体21を「非圧縮撚線導体」とした場合のシミュレーション結果を示す図であるが、横軸がLs/Lcである点が異なる。同様に、
図10及び
図11は、
図6及び
図7と同様に撚線導体21を「圧縮撚線導体」とした場合のシミュレーション結果を示す図であるが、横軸がLs/Lcである点が異なる。
【0027】
また、
図8ないし
図11において、点P2は、
図4ないし
図7における点P1に対応する点であって、コア線ピッチLc及び素線ピッチLsをそれぞれ9mmとし、Ls/Lc=1となる場合での0.4GHzで抽出した透過モード特性(Sdc21)及び反射モード特性(Sdc22)の振幅値をプロットしたものである。
【0028】
なお、Ls/Lcは、例えば8.6以下である。この値は、一般に製造される素線ピッチLsの上限値50mm、及びコア線ピッチLcの下限値5.8mmに基づく(50/5.8=8.6)。また、素線ピッチLsの典型値15mm及びコア線ピッチLcの下限値5.8mmに基づけば、Ls/Lcは2.6以下でもよい。さらには、素線ピッチLsの上限値50mm及びコア線ピッチLcの典型値30mmに基づけば、Ls/Lcは1.7以下でもよい。同様に、Lc/Lsは、例えば素線ピッチLsの上限値50mm、及びコア線ピッチLcの下限値5.8mmに基づけば0.12以上である。また、素線ピッチLsの典型値15mm及びコア線ピッチLcの下限値5.8mmに基づけばLc/Lsは0.39以上でもよく、素線ピッチLsの上限値50mm及びコア線ピッチLcの典型値30mmに基づけばLc/Lsは0.60以上でもよい。
【0029】
以上のシミュレーション結果を踏まえ、通信用シールドケーブル1としては、Lc/Lsが0より大きく1以下であることが好ましい。
【0030】
以上説明した本実施の形態によれば、以下の効果を奏する。
本実施の形態に係る通信用シールドケーブル1では、Lc/Lsは、0より大きく1以下である。このため、シミュレーション結果から分かるように、モード変換特性を良好なものにすることができる。
したがって、本実施の形態に係る通信用シールドケーブル1によれば、当該通信用シールドケーブル1の長手方向の各位置における撚線導体21とシールド層4との離間距離DA,DB(
図2)のペア間での変動による通信特性の悪化の影響を緩和することができる。
【0031】
ところで、Lc/Lsが1より大きい値である場合には、シミュレーション結果から分かるように、モード変換特性が良好なものもある。しかしながら、透過モード特性(Sdc21)及び反射モード特性(Sdc22)の振幅値のバラつきが大きい。このように当該振幅値のバラつきが大きい場合には、モード変換特性が良好であるか否かを検査によって判別する必要があり、通信用シールドケーブル1の製造コストが高くなってしまう。
これに対して、Lc/Lsが1以下の値である場合には、シミュレーション結果から分かるように、透過モード特性(Sdc21)及び反射モード特性(Sdc22)の振幅値のバラつきが小さい。このため、モード変換特性が良好であるか否かの検査を削減することができ、通信用シールドケーブル1の製造コストを低減することができる。
【0032】
(その他の実施形態)
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。
本実施の形態に係る通信用シールドケーブル1では、第1シース3は、パイプ型によって構成され、ツイストペア線2と当該第1シース3の内面との間に空隙31を有していたが、これに限らない。例えば、第1シース3を充実型によって構成し、ツイストペア線2と当該第1シース3との間に空隙が設けられない構成を採用しても構わない。
【0033】
本実施の形態に係る通信用シールドケーブル1は、自動車に配索されていたが、これに限らず、その他の電子機器に配索されても構わない。
【符号の説明】
【0034】
1 通信用シールドケーブル
2 ツイストペア線
2A,2B コア線
3 第1シース
4 シールド層
5 第2シース
21 撚線導体
22 絶縁体
31 空隙
211 素線
DA,DB 離間距離
Lc コア線ピッチ
Ls 素線ピッチ
P1、P2 点