(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137773
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/00 20060101AFI20240927BHJP
B29C 39/24 20060101ALI20240927BHJP
C08F 220/20 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08J5/00 CEY
B29C39/24
C08F220/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024032421
(22)【出願日】2024-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2023048415
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】関口 亮子
(72)【発明者】
【氏名】千葉 裕治
(72)【発明者】
【氏名】安藤 充
【テーマコード(参考)】
4F071
4F204
4J100
【Fターム(参考)】
4F071AA33X
4F071AA81
4F071AC08A
4F071AE06A
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4J100AL03P
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4J100FA28
4J100FA43
4J100JA57
4J100JA60
(57)【要約】
【課題】曲げ加工又は深絞り加工等を実施して、湾曲部を有する成形品を製造するとき、ウェビングの発生等の不具合を抑制した成形品を製造することができる樹脂成形体を提供する。
【解決手段】
重合性組成物(S2)を重合してなる(メタ)アクリル系重合体を含む、樹脂成形体であって、前記重合性組成物(S2)が、メタクリル酸メチルを含む単量体組成物(S1)及び架橋剤(A)と、を含み、前記樹脂成形体の160℃における高温引張伸度が700%以下である、樹脂成形体を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性組成物(S2)を重合してなる(メタ)アクリル系重合体を含む、樹脂成形体であって、
前記重合性組成物(S2)が、メタクリル酸メチルを含む単量体組成物(S1)及び架橋剤(A)を含み、
前記樹脂成形体の160℃における高温引張伸度が700%以下である、樹脂成形体。
【請求項2】
前記高温引張伸度が450%以下である、請求項1に記載の樹脂成形体。
【請求項3】
前記架橋剤(A)を、前記重合性組成物(S2)の総質量100質量部に対して、0.2~6.0質量部含有する、請求項1に記載の樹脂成形体。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系重合体中のメタクリル酸メチル由来の構成単位の含有割合が80質量%以上である、請求項1に記載の樹脂成形体。
【請求項5】
前記架橋剤(A)が、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する、請求項1に記載の樹脂成形体。
【請求項6】
前記架橋剤(A)が、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する、請求項1に記載の樹脂成形体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の(メタ)アクリル系重合体が、非架橋(メタ)アクリル系重合体を含み、
前記非架橋(メタ)アクリル系重合体の質量平均分子量が10,000以上700,000以下である、請求項1に記載の樹脂成形体。
【請求項8】
前記樹脂成形体が、サニタリー製品又はキッチン用品である、請求項1に記載の樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体に関する。より具体的には、本発明は、重合性組成物(S2)を重合してなる、架橋(メタ)アクリル系重合体を含む、樹脂成形体であって、前記重合性組成物(S2)が、メタクリル酸メチルを含む単量体組成物(S1)及び架橋剤(A)と、を含み、前記樹脂成形体が特定の高温引張伸度を有する樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル系樹脂は、透明性、耐熱性及び耐侯性に優れ、かつ機械的強度、熱的性質、成形加工性等においてバランスのとれた性能を有している。そのために、照明材料、光学材料、看板、ディスプレイ、装飾部材、建築部材等の多くの用途に使用されており、近年では、サニタリー製品又はキッチン用品にも使用されている。
サニタリー製品又はキッチン用品では、平面から構成される看板等とは異なり、湾曲部を含む等、複雑な形状を有する傾向にある。
したがって、サニタリー製品又はキッチン用品では、曲げ加工又は深絞り加工等の高度な成形加工性が要求される場合がある。
(メタ)アクリル系樹脂は、加熱により曲げ加工又は深絞り加工等を実施して湾曲部を形成した場合、湾曲部に厚みムラが生じる場合があることが知られている。また、加熱延伸中にネッキングしやすく、深絞り加工等が難しい樹脂であることが知られている。
特許文献1には、架橋剤を含む樹脂組成物を成形した樹脂成形体が、特定のゴム状平坦領域における貯蔵弾性率及び動的粘弾性特性におけるtanδのピーク値を有するメタクリル系樹脂を使用した成形品が、曲げ加工又は深絞り加工等を実施して湾曲部を形成したときに、得られる湾曲部の寸法精度を高めることが開示されている。
特許文献2には、架橋剤と特定の沸点を有するクエン酸エステルとを含むメタクリル系樹脂組成物を使用することにより、より高い寸法精度で曲げ加工及び深絞り加工等を実施することが可能な注型板を提供できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/122174号
【特許文献2】国際公開第2018/168954号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、(メタ)アクリル系樹脂を含む成形品には、なおウェビング等の成形時の不具合が生じる場合があり、そのような不具合を抑制することが求められる。
本発明は、このような問題点を解決することを目的とする。すなわち、本発明の1つの目的は、成形時におけるウェビングの発生等の不具合を抑制した樹脂成形体を提供することである。
本発明の他の1つの目的は、成形時におけるウェビングの発生等の不具合を抑制し、かつメタクリル系重合体が本来有する耐熱性を維持している樹脂成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を行ったところ、本発明の樹脂成形体は、メタクリル酸メチルを含む単量体組成物(S1)及び架橋剤(A)を含む、重合性組成物(S2)を重合させることにより、架橋(メタ)アクリル系重合体を含む樹脂成形体を得ることができ、さらに、得られる樹脂成形体の高温引張伸度を特定の範囲に制御することにより、成形時におけるウェビングの発生等の不具合を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。また、前記樹脂成形体が、通常、メタクリル系重合体が本来有する耐熱性を維持していることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
(1)重合性組成物(S2)を重合してなる(メタ)アクリル系重合体を含む、樹脂成形体であって、
前記重合性組成物(S2)が、メタクリル酸メチルを含む単量体組成物(S1)及び架橋剤(A)を含み、
前記樹脂成形体の160℃における高温引張伸度が700%以下である、樹脂成形体;
(2)前記高温引張伸度が450%以下である、(1)に記載の樹脂成形体;。
(3)前記架橋剤(A)を、前記重合性組成物(S2)の総質量100質量部に対して、0.2~6.0質量部含有する、(1)又は(2)に記載の樹脂成形体;
(4)前記(メタ)アクリル系重合体中のメタクリル酸メチル由来の構成単位の含有割合が80質量%以上である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の樹脂成形体;
(5)前記架橋剤(A)が、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する、(1)~(4)のいずれか1つに記載の樹脂成形体;
(6)前記架橋剤(A)が、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも一種を含有する、(1)~(5)のいずれか1つに記載の樹脂成形体;
(7)(1)~(6)のいずれか1つに記載の(メタ)アクリル系重合体が、非架橋(メタ)アクリル系重合体を含み、
前記非架橋(メタ)アクリル系重合体の質量平均分子量が10,000以上700,000以下である、(1)~(6)のいずれか1つに記載の樹脂成形体;又は
(8)前記樹脂成形体が、サニタリー製品又はキッチン用品である、(1)~(7)のいずれか1つに記載の樹脂成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、成形時におけるウェビングの発生等の不具合を抑制した樹脂成形体を提供することができる。また、成形時におけるウェビングの発生等の不具合を抑制し、かつメタクリル系重合体が本来有する耐熱性を維持している樹脂成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
以下の用語の定義は、特に断りのない限り、本明細書及び特許請求の範囲の全般にわたって適用され得る。
【0009】
「(メタ)アクリル系重合体」は、同一の(メタ)アクリル系単量体が重合した重合体、異なる(メタ)アクリル系単量体が重合した共重合体、同一又は異なる(メタ)アクリル系単量体と(メタ)アクリル系単量体以外の単量体とが重合した共重合体を含む概念である。すなわち、「(メタ)アクリル系重合体」は、同一の(メタ)アクリル系単量体が重合した重合体、異なる(メタ)アクリル系単量体が重合した共重合体、及び同一又は異なる(メタ)アクリル系単量体と(メタ)アクリル系単量体以外の単量体とが重合した共重合体から選択される重合体又は共重合体のいずれか1種であるか、又は2種以上の混合物であり得る。
したがって、「(メタ)アクリル系重合体」は、同一又は異なる(メタ)アクリル系単量体由来の構成単位を含み、さらに、(メタ)アクリル系単量体以外の単量体由来の構成単位を含んでいてもよい重合体又は共重合体である。ここで、「由来」とは、重合するために化学構造が変化していることを意味する。
【0010】
「(メタ)アクリル系重合体」のうち、架橋されているものを「架橋(メタ)アクリル系重合体」といい、架橋されていないものを、「非架橋(メタ)アクリル系重合体」という。ここで、「架橋」とは、本技術分野における通常の意味を有し、重合体分子同士を化学的に結合することをいう。架橋される互いの分子は、それぞれの分子それ自体が架橋されていてもよく、非架橋であってもよい。
「(メタ)アクリル系重合体」は、「架橋(メタ)アクリル系重合体」を含み、さらに「非架橋(メタ)アクリル系重合体」を含んでいてもよい。
【0011】
「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの総称であり、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸とメタクリル酸の総称であり、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基とメタクリロイル基の総称である。
「(メタ)アクリル系単量体」とは、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有する単量体を意味する。
【0012】
「構成単位」とは、重合性単量体が重合することによって形成された重合性単量体由来の構成単位、又は重合体を処理することによって構成単位の一部が別の構造に変換された構成単位を意味する。
【0013】
「樹脂成形体」とは、樹脂組成物を成形して構成され、例えば、平面形状のもの、すなわちシートであってもよく、立体形状(三次元形状)、円柱状又は粒状の一次成形品であってもよい。シートは、フィルムであってもよく、板であってもよい。尚、ここで「フィルム」とは、厚み1mm未満のシートを指し、「板」とは、厚み1mm以上のシートを指す。さらに前記一次成形品、及び前記一次成形品から成形された二次成形品を含む概念である。
【0014】
「サニタリー製品」とは、キッチン又は業務用の厨房以外の衛生設備に適用される製品であり、例えば、浴室、洗面所若しくはトイレブースに適用されるか、又は浴室、洗面所若しくはトイレブースで使用される製品であり得る。
「キッチン用品」とは、キッチン若しくは業務用の厨房の設備に適用されるか、又はキッチン若しくは業務用の厨房で使用される製品であり得る。ここで、「キッチン」とは、一般家庭のキッチンであってもよく、業務用のキッチンであってもよく、事業所におけるキッチンであってもよい。
【0015】
「ウェビング」とは、典型的には、成形時において、成形体の角に発生する水掻き状の突起物であり得る。
【0016】
<樹脂成形体>
1つの実施態様において、樹脂成形体は、後述する重合性組成物(S2)を重合してなる(メタ)アクリル系重合体を含む、樹脂成形体であって、前記樹脂成形体の160℃における高温引張伸度が700%以下の特性を有する。
前記樹脂成形体の160℃における高温引張伸度が700%以下であると、成形時におけるウェビングの発生等の不具合を抑制することができる。また、前記樹脂成形体の160℃における高温引張伸度が700%以下であると、メタクリル系重合体が本来有する耐熱性を維持することができる。
【0017】
前記樹脂成形体の160℃における高温引張伸度は、650%以下が好ましく、600%以下がさらに好ましく、450%以下であることが最も好ましい。160℃における高温引張伸度が450%以下であると、ウェビングの発生の抑制効果又は耐熱性の維持効果がより顕著であり得る。
前記樹脂成形体の160℃における高温引張伸度は、250%以上が好ましく、270%以上がさらに好ましく、290%以上が特に好ましく、310%以上であることが最も好ましい。160℃における高温引張伸度が310%以上であると、得られる樹脂組成物の成形性が好ましい。
したがって、前記樹脂成形体の160℃における高温引張伸度としては、例えば、250~700%が好ましく、270~650%がより好ましく、290~600%がさらに好ましく、310~450%が特に好ましい。
本明細書において、樹脂成形体の160℃における高温引張伸度は、後述の<高温引張伸度(破断伸度(%))の測定方法>に記載の方法によって測定することができる。
【0018】
<(メタ)アクリル系重合体>
本発明の(メタ)アクリル系重合体は重合性組成物(S2)を重合してなる重合体である。「(メタ)アクリル系重合体」の定義は前記の意味を有し、後述する非架橋(メタ)アクリル系重合体を含んでもよい。
【0019】
中でも(メタ)アクリル系重合体として、メタクリル酸メチル由来の構成単位と、メタクリル酸メチルと共重合可能なメタクリル酸メチル以外のビニル単量体(以下、単に「ビニル単量体」とも記す。)由来の構成単位を含む共重合体であることが好ましい。ビニル単量体は後述する。なお本明細書において、「構成単位」は単量体が重合することによって形成された前記単量体に由来する単位を意味する。構成単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
【0020】
樹脂組成物及び樹脂成形体の耐熱性及び熱安定性の観点から、(メタ)アクリル系重合体の総質量に対して、メタクリル酸メチル由来の構成単位の含有割合は50~100質量%、ビニル単量体由来の構成単位の含有割合は0~50質量%であることが好ましい。(メタ)アクリル系重合体の総質量に対して、メタクリル酸メチル由来の構成単位の含有割合は60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が最も好ましい。また、(メタ)アクリル系重合体の総質量に対して、ビニル単量体由来の構成単位の含有割合は40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましく、10質量%以下が最も好ましい。
したがって、前記(メタ)アクリル系重合体において、メタクリル酸メチル由来の構成単位の含有割合は、例えば、(メタ)アクリル系重合体の総質量に対して、60~100質量%がより好ましく、70~100質量%がさら好ましく、80~100質量%が特に好ましく、90~100質量%が最も好ましい。また、ビニル単量体由来の構成単位の含有割合は、例えば、(メタ)アクリル系重合体の総質量に対して、0~40質量%がより好ましく、0~30質量%がさらに好ましく、0~20質量%が特に好ましい。
【0021】
(メタ)アクリル系重合体が共重合体である場合、共重合体の配列は特段制限されず、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体、又は交互共重合体等であってよいが、ランダム共重合体が好ましい。
【0022】
<重合性組成物(S2)>
本発明の重合性組成物(S2)は、メタクリル酸メチルを含む単量体組成物(S1)及び架橋剤(A)を必須成分として含む。
【0023】
[その他の添加剤]
本発明の重合性組成物(S2)は、必要に応じて、連鎖移動剤、重合開始剤、離型剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤、重合禁止剤、酸化防止剤、充填剤、顔料、染料、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤及び蛍光剤から選択される添加剤をさらに含有していてもよい。これらは単独で又は2種以上を任意の比率及び組み合わせで使用することができる。
【0024】
重合開始剤としては、それ自体公知のものを使用することができ、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)等のアゾ系化合物;過酸化ベンゾイル、クメンヒドロパーオキシド、ラウリルパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート等の有機過酸化物等が挙げられる。重合開始剤の含有量は、特に限定されず、適宜設定することができる。
【0025】
1つの実施態様において、重合性組成物(S2)における重合開始剤の配合量は、重合性組成物(S2)の総質量100質量部に対して、0.001~1.0質量部であり、さらに好ましくは、0.015~0.50質量部であり、特に好ましくは、0.030~0.40質量部であり得る。重合開始剤の配合量が前記の範囲内であると、(メタ)アクリル系単量体、(メタ)アクリル系単量体及び/又は(メタ)アクリル系単量体以外の単量体と、架橋剤(A)との重合反応を適切に制御することができる。
【0026】
連鎖移動剤としては、それ自体公知のものを使用でき、例えば、n-ドデシルメルカプタン(1-ドデカンチオールともいう)等のメルカプタン類、チオグリコール酸オクチル等のチオグリコール酸エステル類、α-メチルスチレンダイマー、ターピノーレン等が挙げられる。連鎖移動剤の含有量は、特に限定されず、適宜設定することができる。
【0027】
<単量体組成物(S1)>
単量体組成物(S1)は、メタクリル酸メチルを含有する組成物である。本発明の樹脂成形体が後述の(メタ)アクリル系重合体を含有するため、単量体組成物(S1)は、(メタ)アクリル系重合体の原料である単量体を含む組成物である。
【0028】
単量体組成物(S1)に含有されるメタクリル酸メチルの含有割合は特に制限されないが、得られる樹脂成形体の耐熱性及び透明性及び機械的強度を良好にできる観点から、単量体組成物(S1)はメタクリル酸メチルを主成分とすることが好ましく、単量体組成物(S1)の総質量100質量%に対して、メタクリル酸メチルの含有率は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましく、100質量%であってもよい。
【0029】
単量体組成物(S1)は、メタクリル酸メチルと前記ビニル単量体を含有していてもよい。すなわち、単量体組成物(S1)としては、メタクリル酸メチル50~100質量%とビニル単量体0~50質量%とからなる単量体組成物、又はその部分重合体若しくはそれらの混合物であってもよい。
【0030】
単量体組成物(S1)を構成するビニル単量体としては、メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体であれば特段限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸3,5,5-トリメチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、テルペンアクリレートやその誘導体、水添ロジンアクリレートやその誘導体、(メタ)アクリル酸ドコシル等の炭化水素基含有(メタ)アクリル酸エステル;
【0031】
(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、グリセロール(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;
【0032】
(メタ)アクリル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルマレイン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルコハク酸等が挙げられ、前記(メタ)アクリル系単量体から少なくとも1つが選択される。
【0033】
(メタ)アクリル系重合体を構成する「(メタ)アクリル系単量体以外の単量体」としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、(メタ)アクリロニトリル、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニル系単量体;
アクリロニトリル、メタクリロニトニル等のシアノ基含有ビニル単量体;
【0034】
(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド、マレイミド等のアミド基を含有するビニル系単量体;
無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物基含有ビニル単量体等が挙げられる。
【0035】
中でもビニル単量体としては、アクリル酸エステル又はスチレンが好ましい。これにより、得られる樹脂成形体の熱安定性が向上する。
【0036】
前記ビニル単量体がアクリル酸エステルである場合、単量体組成物(S1)の総質量に対して、メタクリル酸メチルを70~100質量%、及びアクリル酸エステルを0~30質量%含むことが好ましい。前記ビニル単量体がスチレンである場合、単量体組成物(S1)は、メタクリル酸メチルを50~100質量%、及びスチレンを0~50質量%含むことが好ましい。
【0037】
アクリル酸エステルとしては、炭素数1~11のアルキル基を側鎖に有するアクリル酸エステルが好ましく、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで使用することができる。これらの中でも、樹脂組成物及び樹脂成形体の熱安定性の観点から、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、及びアクリル酸n-ブチルからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルであることがより好ましい。
【0038】
なお、ビニル単量体は、1種を単独で又は2種以上を任意の比率及び組み合わせで使用することができる。
【0039】
<架橋剤(A)>
本発明で使用される架橋剤(A)としては、特に制限されないが、例えば、分子内に少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を有する単量体が好ましく、より具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート(1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレートともいう)、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、1,1-ジメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、2,2-ジメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-((メタ)アクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-((メタ)アクリロキシペンテノキシ)フェニル]プロパン、1,4-ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0040】
また、前記の架橋剤(A)を含有する樹脂組成物を含む樹脂成形体において、成形時の不具合(ウェビング)を抑制する観点から、架橋剤(A)としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート(1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレートともいう)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましく、さらに、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート(1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレートともいう)及びポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0041】
前記架橋剤(A)から、1又は2以上の化合物が選択され、架橋(メタ)アクリル系重合体の製造に使用され得る。
【0042】
前記架橋剤(A)は、市販品を入手するか、又はそれ自体公知の方法によって、製造・入手することができる。
【0043】
前記1種又は2種以上の単量体及び架橋剤(A)の種類と量等を適宜選択し重合し、(メタ)アクリル系重合体の分子量等を調整することで、かかる樹脂組成物を成形した樹脂成形体の特性を調整することができ、160℃における高温引張伸度を700%以下となるように調整することができる。
【0044】
1つの実施態様において、(メタ)アクリル系重合体は、メタクリル酸メチル、及び、所望により、メタクリル酸メチル以外の単量体から選択される単量体を含む、単量体組成物(S1)及び架橋剤(A)を含む、重合性組成物(S2)を重合させることにより製造することができる。
【0045】
1つの実施態様において、(メタ)アクリル系重合体中には、非架橋(メタ)アクリル系重合体を含んでいてもよい。
【0046】
「非架橋(メタ)アクリル系重合体」
本発明の(メタ)アクリル系重合体中には、非架橋(メタ)アクリル系重合体を含んでいてもよい。
非架橋(メタ)アクリル系重合体は前記の重合性組成物(S2)のうち単量体組成物(S1)が架橋することなく重合し得られたものである。つまり、単量体組成物(S1)が1種であれば単独重合体を含有してもよく、2種以上であれば共重合体として含有してもよい。
【0047】
予め本発明の重合性組成物(S2)に含有される重合開始剤とは別に、単量体組成物(S1)に重合開始剤を添加しておき、この重合開始剤により、単量体組成物(S1)の一部を重合させることで、予備重合体(B)を含む組成物(以下、「シラップ」という)を重合性組成物(S2)に含んでいてもよい。
本発明の1つの実施態様において、(メタ)アクリル系重合体は、重合性組成物(S2)中に予備重合体(B)と、単量体組成物(S1)及び架橋剤(A)を混合した重合性組成物(S2)を重合反応に付すことによって製造することができる。
【0048】
前記一部を重合させる重合方法としては、特に限定されないが、例えば、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法及び分散重合法が挙げられる。中でも、本発明の樹脂成形体の生産性の観点から、塊状重合法が好ましく適用される。
1つの実施態様において、塊状重合法は、窒素等の不活性ガスの雰囲気で行うことが好ましく、例えば、前記単量体又は2種以上の単量体を組み合わせた単量体組成物を加熱し、50~120℃、好ましくは、60~100℃、より好ましくは65℃~80℃になるまで昇温し、前記単量体又は単量体組成物が前記温度に達した時点で、ラジカル重合開始剤及び連鎖移動剤を添加した後、更に前記温度から20~40℃昇温し、5~40分間保持することにより行うことができる。
【0049】
予備重合体(B)の質量平均分子量は、10,000以上700,000以下が好ましく、50,000以上550,000以下がより好ましく、70,000以上300,000以下がさらに好ましく、80,000以上150,000以下が特に好ましく、90,000以上120,000以下が最も好ましい。
前記予備重合体(B)の質量平均分子量が前記下限値以上であると、得られる樹脂成形体の耐薬品性及び耐熱性に優れる傾向にあり、前記上限値以下であると、樹脂成形体は密着性及び剥離性に優れる傾向にある。
【0050】
前記予備重合体(B)の質量平均分子量は、後述の<予備重合体(B)の質量平均分子量測定方法>に記載した方法によって測定することができる。
なお、本明細書において、質量平均分子量は、標準試料として標準ポリスチレンを用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値である。
【0051】
前記樹脂成形体における(メタ)アクリル系重合体の含有量は、前記樹脂成形体の総質量に対して、80~99.999質量%が好ましく、85~99.99質量%がより好ましく、90~99.9質量%がさらに好ましく、95~99.0質量%が特に好ましい。
前記樹脂成形体における(メタ)アクリル系重合体の含有量が前記の範囲内であると、樹脂成形体の成形時におけるウェビングの発生等の不具合を抑制することが容易であり、また、メタクリル系重合体が本来有する耐熱性を維持することが容易である。
【0052】
前記の(メタ)アクリル系単量体、(メタ)アクリル系単量体及び/又は(メタ)アクリル系単量体以外の単量体と、架橋剤(A)との重合に適用される重合方法としては、特に限定されないが、例えば、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法及び分散重合法が挙げられる。中でも、本発明の樹脂成形体の生産性の観点から、塊状重合法が好ましく適用され、塊状重合法の中でもキャスト重合法(注型重合法ともいう)が好ましい。
【0053】
注型重合法を適用する場合、重合性組成物(S2)を鋳型に注入する必要があることから、重合性組成物(S2)の粘度が適切な範囲であることが好ましく、予備重合体(B)と、(メタ)アクリル系単量体及び(メタ)アクリル系単量体以外の単量体から選択される単量体とを含むシラップと、架橋剤(A)と、重合開始剤とを混合した重合性組成物(S2)を重合し、樹脂組成物とすることが好ましい。
【0054】
前記シラップにおける、予備重合体(B)の含有量は、例えば、前記シラップの総質量に対し、5~50質量%であり、好ましくは10~35質量%であり得る。(メタ)アクリル系重合体の含有量が前記の範囲内であると、重合性組成物(S2)の粘度が鋳型への注入に適した範囲となり、また、架橋剤(A)の重合反応も良好に進行する。
【0055】
1つの実施態様において、重合性組成物(S2)における架橋剤(A)の配合量は、重合性組成物(S2)の総質量100質量部に対して、0.01~6.0質量部であり、より好ましくは、0.05~5.0質量部であり、より好ましくは、0.07~4.0質量部であり、より好ましくは、0.1~3.0質量部であり、さらに好ましくは、0.3~1.5質量部であり、特に好ましくは、0.4~0.6質量部であり得る。また、別の実施態様において、重合性組成物(S2)における架橋剤(A)の配合量は、重合性組成物(S2)の総質量100質量部に対して、0.2~6.0質量部であってもよい。架橋剤(A)の配合量や前記単量体組成物(S1)の組成比を適宜調整することで、予備重合体(B)の質量平均分子量等を適切な範囲に調整することができ、さらに架橋剤(A)の配合量や種類や単量体組成物(S1)の種類を適宜調整することで、架橋(メタ)アクリル系重合体を含む樹脂成形体の160℃における高温引張伸度を700%以下に調整することができる。
【0056】
前記重合性組成物(S2)には、所望により、その他の添加物を添加することができる。
その他の添加物としては、例えば、可塑剤、顔料若しくは染料等の着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、分散剤、充填剤、離型剤、上述の樹脂とは異なるその他の樹脂等が挙げられ、所望により、1種又は2種以上が選択され得る。
その他の添加物は、例えば、注型重合の重合性組成物(S2)に添加することが好ましい。その他の添加物の含有量は、その目的に応じて、適宜調整され得る。
【0057】
1つの実施態様において、注型重合法には、周辺を軟質樹脂製等のガスケットでシールして対向させた2枚の無機ガラス板又は金属板(例えば、SUS板)から構成される鋳型に前記重合性組成物(S2)を注入して加熱するセルキャスト法が適用され得る。
前記加熱は、前記重合性組成物(S2)が注入された鋳型を、60~150℃、好ましくは70~140℃、より好ましくは80~130℃で、30分間~2時間、好ましくは45~75分間、より好ましくは60分間加熱することによって実施され得る。前記加熱は、段階的に行ってもよく、例えば、前記鋳型を、60~90℃、好ましくは70~90℃、より好ましくは80℃で、15~45分間、好ましくは20~40分間、より好ましくは30分間加熱した後、110~150℃、好ましくは120~140℃、より好ましくは130℃で、15~45分間、好ましくは20~40分間、より好ましくは30分間加熱することによって実施され得る。加熱手段としては、温度を適切に制御した、水浴、又は空気炉等が適用され得る。
鋳型の空隙の間隔は、所望の厚さの樹脂成形体が得られるように適宜調整することができ、通常、1~30mmであり、特に1~15mmが好ましい。
【0058】
別の実施態様において、注型重合法には、同一方向に同一速度で進行する片面鏡面研磨された2枚のステンレス製エンドレスベルトとガスケットでシールされた空間を鋳型として上流から連続的に前記重合性組成物(S2)を注入して加熱することによって連続的に重合する連続キャスト法が適用され得る。
前記連続キャスト法においては、鋳型に注入された前記重合性組成物(S2)が、上記のセルキャスト法における加熱温度及び加熱時間に相当する加熱を受けるように、前記エンドレスベルトの進行速度を調整し得る。
鋳型の空隙の間隔は、所望の厚さの樹脂成形体が得られるように適宜調整することができ、通常、1~30mmであり、特に1~15mmが好ましい。
【0059】
上記重合が終了後、鋳型から板状の樹脂成形体を取り出すことができる。本明細書において、前記板状の樹脂成形体を一次成形品又は注型板と称する場合がある。前記板状の樹脂成形体の厚さは、注型重合法において適用された鋳型の空隙の間隔に応じて決定され、通常、1~30mmであり得る。
前記板状の樹脂成形体(一次成形品)に対し、曲げ加工及び/又は深絞り加工等を施すことにより、所望により、湾曲部を有する二次成形品を製造することができる。
一次成形品の加工方法としては、真空成形、圧空成形及び熱プレス成形等が適用され得る。真空成形、圧空成形及び熱プレス成形等の成形条件には、それ自体公知の成形条件が適用され得る。
【0060】
1つの実施態様において、前記一次成形品の真空成形では、150~250℃、好ましくは160~230℃、より好ましくは実質的に220℃に加熱した一次成形品を金型の上に置き、一次成形品と金型の間を真空状態にすることによって、前記一次成形品を金型に吸いつけることで成形することができる。金型には、雄型(凸型)又は雌型(凹型)のいずれかを適用することができ、薄肉の二次成形品や、バスタブ等の比較的大きな二次成形品をも製造することができる。
【0061】
<樹脂成形体の使用>
本発明によって提供される樹脂成形体の一次成形品は、曲げ加工又は深絞り加工等を実施して、湾曲部を有する成形品を製造するとき、ウェビング等の不具合の発生が抑制されているので、各種の二次成形品の形成材料として有用である。また、本発明によって提供される樹脂成形体の一次成形品を用いることにより、湾曲部の厚みムラが小さく、寸法精度の高い二次成形品を製造することができる。この二次成形品は、サニタリー分野、キッチン分野、看板や建材用途、小ボート用船体、電気器具本体部品、自動車本体部品などに適用でき、中でも浴槽、浴室、及び洗面所等のサニタリー分野、並びにシステムキッチンの天板等のキッチン分野等に好ましく利用することができるので、バスタブ等を含むサニタリー製品又はキッチン用品等の製造に有用である。
すなわち、1つの実施態様において、本発明の樹脂成形体は、サニタリー製品又はキッチン用品等の成形材料として使用され得る。特にバスタブの成形材料としての使用が好ましい。
別の実施態様において、本発明の樹脂成形体は、サニタリー製品又はキッチン用品等である。特にバスタブとしての使用が好ましい。
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0063】
<化合物の略号>
実施例及び比較例で使用する化合物の略号等を以下に示す。
MMA:メタクリル酸メチル(三菱ケミカル株式会社製、商品名:アクリエステルM)
BA:アクリル酸n-ブチル(三菱ケミカル株式会社製)
EDMA:エチレングリコールジメタクリレート(三菱ケミカル株式会社製、商品名:アクリエステルED)
【0064】
<予備重合体の質量平均分子量測定方法>
シラップ(X)3.0993gをアセトン50ml中に溶出させ、これを500ml以上のn-ヘキサンに滴下して沈殿物を得た。この沈殿物を濾過して真空乾燥させて得たポリマーについて、高速液体クロマトグラフ(型:8020シリーズ、東ソー社製)を使用して質量平均分子量を測定した。
【0065】
<高温引張伸度(破断伸度(%))の測定方法>
得られた樹脂成形体を用いてJIS K7161-2に準じて試験片を作製し、引張試験機(インストロン・ジャパンカンパニイ・リミテッド製、モデル名:5567)と高低温度恒温槽(三田産業(株)製、型式:G00061―2)、専用ソフトウェア(インストロン・ジャパンカンパニイ・リミテッド製、Bluehill2、バージョン2.12)を使用し、引張速度500mm/分、温度160℃で破断時の試験片の長さを測定し、破断伸度を以下式(1)より算出した。
破断伸度(%)=100×(L-Lo)/Lo・・・(1)
Lo:試験前の試験片の長さ
L:破断時の試験片の長さ
【0066】
<ウェビング評価>
得られた注型板を真空成形機(布施真空(株)製、型式:CSVF1015)のヒータで実質的に220℃に加熱した後、箱型の型(台座外寸:直径190mm、箱型外寸:縦90mm、横90mm、高さ80mm)の上に載せ、注型板の全周をクランプで把持した。この状態で型を押し上げた後、真空ポンプを用いて型と注型板との間の空間内の空気を抜くことで、注型板を枡状の型の内形状に沿わせ、箱型に二次成形した。これを送風機を用いて実質的に室温まで冷却し、冷えて固まった二次成形品を型から取り外した。以上のようにして、外寸:縦90mm、横90mm、高さ80mmの箱型の二次成形品を得た。
二次成形品の角に発生し得る水掻き状の突起(ウェビング)に起因する外観状態について、以下を基準として目視で評価した。
◎:水掻き状の突起(ウェビング)が確認できなかった。
〇:水掻き状の突起(ウェビング)が確認できたが、その度合いが小さかった。
×:水掻き状の突起(ウェビング)が確認され、その度合いが大きかった。
【0067】
<耐熱性の評価方法>
樹脂成形体の耐熱性の指標として、実施例及び比較例で得られた樹脂成形体の試験片について、荷重たわみ温度(以下、「HDT」と示す)(℃)を測定した。
荷重たわみ温度の測定方法を以下に示す。
樹脂成形体を長さ80mm×幅10mm(厚み4mm)に切断後、80℃で16時間アニールを行い、アニール後の成形体(B)を耐熱性評価の試験片として用いた。
荷重たわみ温度試験機(HDT/VICAT試験機;機種名:No.148-HD-PC3 ヒートデストーションテスター、(株)安田精機製作所製)を用い、ISO75-1.2に準拠し、荷重1.8MPaの条件で、前記試験片の荷重たわみ温度(HDT、単位:℃)を測定した。
【0068】
実施例1(樹脂成形体の製造)
(1)シラップ(X)の製造
冷却管、温度計及び攪拌機を備えた反応器(重合釜)に、MMA98質量部及びBA2質量部を合計で100質量部となるように配合した単量体組成物(S1)を供給し、撹拌しながら、窒素ガスでバブリングした後、反応器内の単量体組成物(S1)の温度が80℃になるまで昇温した。単量体組成物(S1)の温度が80℃に達した時点で、単量体組成物(S1)100質量部に対して、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.1質量部及び連鎖移動剤として1-ドデカンチオール0.07質量部を添加し、さらに反応器内の単量体組成物(S1)の温度が100℃になるまで昇温した後、10分間保持した。次いで、反応器を室温まで冷却して予備重合体を25質量%含有するシラップ(X)を得た。
得られた予備重合体の質量平均分子量(Mw)は、約10万~11万であった。
【0069】
(2)注型重合
二枚のSUS板を対向させ、その周囲を軟質樹脂製のガスケットで封じ、注型重合用の鋳型を作製した。この鋳型内に、上記のシラップ(X)とMMA、BA、架橋剤(A)としてEDMAを、表1に記載の割合で配合し、さらに重合開始剤としてt-ヘキシルパーオキシピバレート0.3質量部を添加した重合性組成物(S2)を鋳型に流し込み、80℃の水浴中で30分間、さらに130℃の空気炉で30分間加熱することによって、鋳型内の混合物を重合させ樹脂組成物を得た。その後、鋳型を冷却し、SUS板を取り除くことにより、厚さ2.5mmの、(メタ)アクリル系重合体を含有する樹脂組成物からなるシート状の樹脂成形体を得た。
【0070】
実施例2、3及び4、比較例1及び2
重合性組成物(S2)中のシラップ(X)、メタクリル酸メチル、アクリル酸エステル及び架橋剤(A)の添加量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の製造条件で、シート状の樹脂成形体を得た。
実施例及び比較例における樹脂成形体に関する高温引張伸度(破断伸度(%))、ウェビング及び耐熱性の評価結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
表1に示したように、樹脂成形体の160℃における高温引張伸度が700%以下である実施例1~4では、成形時におけるウェビングの発生を抑制することができたのに対し、樹脂成形体の160℃における高温引張伸度が700%を超える比較例1、2では、成形時におけるウェビングが発生した。
また、樹脂成形体の160℃における高温引張伸度が700%以下である実施例1~3では、比較例1、2の樹脂成形体の荷重たわみ温度と同等の荷重たわみ温度を示しているため、メタクリル系重合体が従来有する耐熱性を維持していると評価できる。
本発明が提供する樹脂成形体は、ウェビング等の成形時の不具合を抑制でき、また、メタクリル系重合体が本来有する耐熱性を維持し得るので、サニタリー分野、キッチン分野、看板や建材用途、小ボート用船体、電気器具本体部品、自動車本体部品等の製造に有用である。