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特開2024-137777二次卵胞内卵母細胞の培養方法及び培養用器具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137777
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】二次卵胞内卵母細胞の培養方法及び培養用器具
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/075 20100101AFI20240927BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C12N5/075
C12M3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024032918
(22)【出願日】2024-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2023047840
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平尾 雄二
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB11
4B029CC02
4B029DF08
4B029HA02
4B065AA90X
4B065BC41
4B065CA43
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】哺乳類の二次卵胞内に存在する発育途上の卵母細胞の生存を維持し、発育を促し、かつ発育状態を視覚的に確認できる二次卵胞内卵母細胞の培養方法及びそれに用いる培養器具を提供すること。
【解決手段】発育途上にある卵母細胞を含む二次卵胞を、培養用メンブレンに作成したスリット上で培養する工程を含む、卵母細胞の培養方法。本発明の卵母細胞の培養方法は、培養用メンブレンの上にハイドロゲル層を形成させ、それらを貫通するスリットに卵胞を配置し、ヒアルロニダーゼを添加した培養液を用いて振とうを加えて培養する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発育途上にある卵母細胞を含む二次卵胞を、培養用メンブレンに作成したスリット上で培養する工程を含む、卵母細胞の培養方法。
【請求項2】
前記培養用メンブレンを装着した培養インサートを設置した培養皿に、回転数が毎分30~60回転、静置:稼働の割合が1:9~9:1で、振とうを加えて培養することを特徴とする、請求項1に記載の培養方法。
【請求項3】
前記培養用メンブレンが、該メンブレン上にハイドロゲル層を有し、該ハイドロゲル層と該培養用メンブレンを貫通する複数のスリットが設けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の培養方法。
【請求項4】
前記ハイドロゲル層が、コラーゲン、ジェランガム、又は寒天を含む、請求項3に記載の培養方法。
【請求項5】
ヒアルロニダーゼを0.1μg/ml~10μg/mlの濃度で含む培養液で培養することを特徴とする、請求項1又は2に記載の培養方法。
【請求項6】
培養用メンブレンを装着した二次卵胞培養用の培養インサートであって、
該培養用メンブレンは、該メンブレン上にハイドロゲル層を有し、
該ハイドロゲル層と該培養用メンブレンを貫通する複数のスリットが設けられている、培養インサート。
【請求項7】
前記ハイドロゲル層が、コラーゲン、ジェランガム、又は寒天を含む、請求項6に記載の培養インサート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵母細胞の培養方法に関し、より詳しくは、発育途上の卵母細胞の発育を促進すると同時に卵胞内の卵母細胞の観察が可能な二次卵胞内卵母細胞の培養方法、及びそれに使用するための培養用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
卵母細胞とは発育期を経て卵子となる前駆細胞であり、哺乳類の卵巣には発育開始前又は発育途上の卵母細胞が数多く存在する。卵母細胞のほとんどは排卵に至ることなく発育途中又は発育前に卵巣内で死滅するため、死滅する前に培養技術によって生存させ発育させることができれば、卵子の大きな供給源となる。そのような培養技術があれば、例えば優良家畜の効率的な増産等に利用できると考えられる。生体内の卵母細胞は卵胞と呼ばれる球形組織の内部に位置し、卵母細胞と卵胞の発育は同時に進行する。卵母細胞は周囲の体細胞(顆粒膜細胞)から栄養素を取り込むため、卵母細胞と顆粒膜細胞は生存・死滅の運命共同体である。培養液に取り出された卵母細胞も、単独では発育できないために、卵胞単位で培養する技術開発が進められてきた。1990年代には世界各地で卵胞培養が試みられていたが、卵胞培養で卵母細胞を十分に発育させる技術はマウスを除きいまだ存在しない。マウスの卵母細胞の体積は、ブタ・ウシのような中型・大型動物の体積の5分の1程度にすぎず、発育に要する期間もマウスの3週間に対し、ブタ・ウシではその2倍以上であることがその要因のひとつである。
【0003】
卵胞は、最内部の卵母細胞を顆粒膜細胞層が包み、その外側を基底膜が覆い、さらにその外側を卵胞膜細胞層が包む構造となっている。その構造は生体内の他の組織と比べて極めて特徴的であり、(i)卵母細胞が巨大なサイズであること、(ii)顆粒膜細胞層がレンガ作りの建築物のように直接積み上がった構造であること、(iii)基底膜が球形組織を完全に包囲する構造であること、によって特徴づけられる。従来の卵母細胞の培養技術の問題は、卵胞のこのような特徴と関連している。すなわち、培養中の卵母細胞の発育が最終目的でありながら発育段階が確認されないまま培養の開発が進められてきたこと、極めて密な細胞層で構成される上に基底膜に完全に包囲された組織の培養は類例がほとんどなく、組織培養の歴史において情報が蓄積されていないことである。
【0004】
これまで、マウス、ラット、ハムスター、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヒトなどで卵胞を壊さずに培養する様々な方法が試みられてきた(例えば、非特許文献1~2参照)。例えば、卵胞を培養皿の底面に置く方法(原初的な培養方法)、培養用メンブレン上に置く方法、コラーゲンゲルやアルギン酸ナトリウム又は寒天などのゲル状の基質で包む方法などがある。また、培養液へ添加物として、性腺刺激ホルモン、ステロイドホルモン、卵巣内で機能するサイトカイン等が研究されたことにより、卵胞の生存や発育に関する報告は多い。しかし、卵母細胞に関する情報は極めて少なく、記載されていたとしても卵胞培養終了後のサイズ等に留まる。また、取り出した卵母細胞をもとの卵胞培養に戻すことも不可能であり、発育過程を継続して調べることにならない。したがって、従来の技術では卵母細胞の発育に及ぼす効果を逐次確認する方法がないまま培養条件の検討が行われていたことなる。発育段階だけでなく、卵母細胞の健康状態も判断できなかったことを考えると、卵母細胞の視認性の悪さも培養技術の開発を妨げてきた要因のひとつとなっている。
【0005】
ブタ・ウシでは卵胞を一度破り、内部の発育途上卵母細胞と顆粒膜細胞群の複合体を採取し、高分子化合物を高濃度で添加した培養液中で培養する方法も存在するが(例えば、特許文献1及び非特許文献3参照)、二次卵胞(前胞状卵胞とほぼ同意)と呼ばれる発育段階では複合体の採取が困難である。ブタ・ウシに限らず、中型・大型の哺乳類の二次卵胞を酵素処理して複合体の状態で分離して培養することに成功した報告はない。したがって、少なくとも発育途上の卵母細胞と顆粒膜細胞群の複合体を採取できる段階まで卵胞構造のまま培養し、内部の卵母細胞の発育を促す条件を整え、その発育を逐次確認する技術があれば、上記の問題が解消され、二次卵胞の卵母細胞を用いた体外培養を実現できることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4122425号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】de Figueiredoら, Animal Reproduction, 2019年,第16巻,p.52-65
【非特許文献2】Xuら, Human Reproduction, 2013年,第28巻,p.2187-2200
【非特許文献3】Hiraoら, Biology of Reproduction, 2004年,第70巻,p.83-91
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、哺乳類(特に中型・大型動物)の二次卵胞内に存在する発育途上の卵母細胞の生存を維持し、発育を促し、かつ発育状態を視覚的に確認できる二次卵胞内卵母細胞の培養方法及びそれに用いる培養器具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、培養用メンブレンの上にハイドロゲル層を形成させ、それらを貫通するスリットに卵胞を配置することにより、卵胞内の卵母細胞を観察しつつ培養することが可能であること、また、上記培養用メンブレンを装着した培養インサートと、細胞外マトリックスの一種であるヒアルロン酸の分解酵素であるヒアルロニダーゼの培養液への添加を併用することにより、卵母細胞の発育を顕著に促進させることができることを見出した。本発明はかかる知見により完成されたものである。
【0010】
即ち本発明は以下の発明を包含する。
(1)発育途上にある卵母細胞を含む二次卵胞を、培養用メンブレンに作成したスリット上で培養する工程を含む、卵母細胞の培養方法。
(2)前記培養用メンブレンを装着した培養インサートを設置した培養皿に、回転数が毎分30~60回転、静置:稼働の割合が1:9~9:1で、振とうを加えて培養することを特徴とする、(1)に記載の培養方法。
(3)前記培養用メンブレンが、該メンブレン上にハイドロゲル層を有し、該ハイドロゲル層と該培養用メンブレンを貫通する複数のスリットが設けられていることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の培養方法。
(4)前記ハイドロゲル層が、コラーゲン、ジェランガム、又は寒天を含む、(3)に記載の培養方法。
(5)ヒアルロニダーゼを0.1μg/ml~10μg/mlの濃度で含む培養液で培養することを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載の培養方法。
(6)培養用メンブレンを装着した二次卵胞培養用の培養インサートであって、
該培養用メンブレンは、該メンブレン上にハイドロゲル層を有し、
該ハイドロゲル層と該培養用メンブレンを貫通する複数のスリットが設けられている、培養インサート。
(7)前記ハイドロゲル層が、コラーゲン、ジェランガム、又は寒天を含む、(6)に記載の培養インサート。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、二次卵胞内の卵母細胞の発育を促し、また、リアルタイムでかつ任意のタイミングで確認しながら培養する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、ヒアルロニダーゼ添加培養液(濃度0、0.1、1、10μg/ml)で培養したウシ二次卵胞内の卵母細胞の培養7日後の体積の増大率を示す(培養1日後の体積を100%として示す)。異なる文字がついた添加区の平均値の差は有意である(Tukey test)。
図2図2は、培養開始直後に培養用メンブレン上に配置された卵胞を示す。
図3図3は、培養用メンブレンに作成したスリットとスリット上に配置した卵胞の写真を示す。内部に卵母細胞の輪郭(ほぼ完全な円形)を確認することができる。
図4図4は、通常の培養用メンブレン(スリット無)又はスリットを作成した培養用メンブレン(スリット有)で培養したウシ二次卵胞内の卵母細胞の培養7日後の体積の増大率を示す(培養1日後の体積を100%として示す)。
図5図5は、培養用メンブレンのスリット上で卵胞を培養する際に、振とう(40回転/分、1分間稼働、9分間静置)有又は無で培養したウシ二次卵胞内の卵母細胞の培養7日後の体積の増大率を示す(培養1日後の体積を100%として示す)。
図6図6(上段)は、スリットと共にコラーゲン処理(コラーゲン被膜とコラーゲンゲル層の形成)を施した培養用メンブレン、及び培養用メンブレンを含む培養インサートの横方向からの模式図を示す。図6(中段及び下段)は、培養インサートにおける培養用メンブレンの位置、培養液とともに培養皿に設置された培養インサートの位置をそれぞれ示す。
図7図7は、コラーゲン被膜及びコラーゲンゲル層の作成後に培養用メンブレンを含めて貫通させて作成したスリットにおける二次卵胞を示す。そのうちの一つの卵胞を拡大させた写真とスリットの位置を明確にした模式図も合わせて示す。
図8図8は、スリット形成及びコラーゲン処理(コラーゲン被膜とコラーゲンゲル層の形成)を行った培養用メンブレンを用いた卵胞培養における卵母細胞の体積増大に及ぼすヒアルロニダーゼの影響を示す。
図9図9は、スリット形成及びコラーゲン処理(コラーゲン被膜とコラーゲンゲル層の形成)を行った培養用メンブレンにおける二次卵胞を示す。
図10図10は、通常の培養用メンブレン(スリット形成なし)を用いた従来法、従来法に改変(ヒアルロニダーゼ(HYD)添加、スリット形成、振とう、コラーゲン処理)を加えた改良法によってそれぞれ培養したウシ二次卵胞内の卵母細胞の培養7日後の生存率を示す。
図11図11は、通常の培養用メンブレン(スリット形成なし)を用いた従来法、従来法に改変(ヒアルロニダーゼ(HYD)添加、スリット形成、振とう、コラーゲン処理)を加えた改良法によってそれぞれ培養したウシ二次卵胞内の卵母細胞の培養7日後の体積の増大率を示す(培養1日後の体積を100%として示す)。
図12図12(上段)は、スリットと共にジェランガム層を形成した培養用メンブレン、及び培養用メンブレンを含む培養インサートの横方向からの模式図を示す。図12(中断、下段)は、培養インサートにおける培養用メンブレンの位置、培養液とともに培養皿に設置された培養インサートの位置をそれぞれ示す。
図13図13は、スリット形成及びジェランガム層形成を行った培養用メンブレンにおける二次卵胞を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の卵母細胞の培養方法は、発育途上にある卵母細胞を含む二次卵胞を、培養用メンブレンに作成したスリット上で培養することを特徴とする。本発明の卵母細胞の培養方法は、二次卵胞内の発育途上にある卵母細胞の発育を促すことができるので、卵母細胞の発育方法と言い換えることができる。
【0014】
本発明において「卵母細胞」とは、発育期・成熟過程を経て受精可能な卵子となる前駆細胞をいう。卵母細胞は、胎子期に形成され、発育に入る前や発育途上では「減数分裂」前期にあり、細胞分裂を行わないが、発育後に卵子に成熟する段階で「減数分裂」が再開され、発育途上卵胞は細胞増殖によって発育する。
【0015】
本発明において「二次卵胞」とは、顆粒膜細胞層が一層の一次卵胞の後であり、胞状卵胞(三次卵胞)が形成される胞状卵胞時期の前の卵胞をいい、二次卵胞では顆粒膜細胞の活発な増殖が開始されて重層化が進むとともに、卵母細胞の増大が認められる。卵胞の発達過程において、原始卵胞から一次卵胞を経て二次卵胞までの時期は前胞状卵胞時期と呼ばれ、卵母細胞の発育に重要な時期と考えられている。卵胞の発達期の後半は、著しく増数した顆粒膜細胞の層に出現した間隙が発達して卵胞腔となる。卵胞腔を有する卵胞は胞状卵胞(三次卵胞)と呼ばれ、二次卵胞とは区別される。卵胞腔は卵胞液と呼ばれる液体で満たされ、次第に大きくなって最終的には卵胞の体積の大部分を占めるようになる。卵胞腔が形成されると、卵母細胞は数層の顆粒膜細胞に包まれて、卵胞内壁の顆粒膜細胞層の一点に付着する。そのような胞状卵胞から卵母細胞・顆粒膜細胞の複合体を採取するのは容易であるが、二次卵胞からの卵母細胞・顆粒膜の複合体の切り出しは困難である。本発明においては、胞状卵胞となる前の切り出しが困難な二次卵胞を扱う。
【0016】
本発明において「卵母細胞の発育」とは、体積が著しく増大するプロセスを指し、細胞分裂によって細胞集団が増大することを意味しない。そのため、卵母細胞の発育については直径(体積)が最重要視される。発育達成の目安となる卵母細胞の直径及び体積は、小型動物と大型動物では異なる。卵母細胞の直径(透明帯を含まない部分)の測定方法としては、特に限定はされないが、顕微鏡に接続した測微接眼レンズを用いて直径を測定する方法、顕微鏡を通して見える画面をコンピュータに取り込み、画像から算出する方法、画像解析ソフトウェアで測定する方法などが挙げられる。
【0017】
本発明において「発育途上にある卵母細胞」とは、動物種固有の卵母細胞の最大体積に達していない未成熟の卵母細胞を意味する。能力で定義するならば、第一減数分裂前期(卵核胞期)で停止したまま減数分裂を再開する能力を有さない、又は第二減数分裂中期へと進む潜在能力を有さないものが発育途上である。よって、死滅してそれらの能力を失ったものは包含されず、二次卵胞内に存在し、死滅途中でないものは発育途上の卵母細胞に包含される。
【0018】
以下に本発明の卵母細胞の培養方法の工程及び実施態様を詳細に説明する。
【0019】
まず、卵胞を含む卵巣を採取する。卵巣は動物から採取する。本発明において「動物」とは、卵母細胞を有する動物であれば限定されるものではないが、特に哺乳動物、例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ハムスター、ラット、マウス、又はヒトなどが好ましい。
【0020】
卵巣の採取では、動物の生死を問わず、通常開腹して切り離す。切り離された時点から卵巣は虚血状態となるため、虚血による障害を軽減するには速やかに以下の操作を行う。
【0021】
卵巣をリン酸緩衝液(phosphate buffered saline;PBS)等で洗浄した後、1~2mmの表層(卵胞が含まれる)の組織片を切り離して組織培養液に移す。組織培養液は、最少必須培地(Minimum Essential Medium)、199培地(Medium 199)など組織培養に用いられるものであれば使用でき、特に限定はされない。また、炭酸ガスインキュベータ外で操作する際の培養液は、pHが大気中の気相で7前後に安定するようHEPES(2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸)などの緩衝液を含むことが好ましい。組織の切断はどのような刃物を用いて行ってもよく、外科手術用のメスやスカルペルなどが利用できる。
【0022】
続いて、培養液中の組織をさらに細切し、基底膜を傷つけて卵胞(卵母細胞・顆粒膜細胞の複合体を含む)を破壊することのないよう留意して切り出す。卵胞内部に細胞の脱落などの明らかな退行の兆候が認められるものは使用しない。
【0023】
さらに、本発明において「卵胞」には、本発明において使用する前に、予め一時的に培養(卵巣器官培養)したもの、又は他の動物種の臓器に一定期間にわたり移植された後に採取されたものも含まれる。従って、本発明の「卵胞」は、卵胞を構成する要素が含まれており、基底膜が破損されていない限り、その由来は任意である。
【0024】
続いて、上述のようにして採取した卵胞を、培養用メンブレンにおいて培養する。まず、複数の卵胞内の卵母細胞についてその輪郭を効率的に観察する必要があるため、平面上に配列させることが望ましい。多くの二次卵胞(例えばウシ)では直径100μmから250μm程度の小型ではあるが多層的な器官でもあることから、器官培養法でしばしば用いられる気相液相境界面培養法が望ましい。また、同時にある程度の培養液量が必要となる。よって、これらの培養条件を全て満たす上で、本発明の培養方法の実施には、培養用メンブレンを底面に装着した培養インサートを用いることが好ましい。
【0025】
(第1の実施態様:培養用メンブレンへのスリットの作成)
本発明の培養方法の第1の実施態様は、培養用メンブレン(以下、単に「メンブレン」と記載する場合がある)に、卵胞の移動防止策として、メンブレンに卵胞が落ちない程度の幅のスリットを設ける。スリットを設けることにより、メンブレン下に位置する培養液と直接的に卵胞が接触する面積が増えるというメリットがあり、卵母細胞の発育が促進される。メンブレン上に卵胞をただ置く従来法では、培養の経過につれ、また培養液交換のタイミングで卵胞の移動がしばしば生ずる。その結果卵胞の特定が困難となるため、継続的な卵母細胞の観察ができず、また、観察できた場合にも卵母細胞の発育が十分でないという問題があったところ、このスリット上で培養することにより従来法による上記問題が解決される。
【0026】
また、スリットで卵胞の位置がほぼ固定される結果、一枚のメンブレン上により多数の卵胞を配置することが可能となる。例えば、ウシの卵胞の場合、通常であれば直径23mmのメンブレン上に15個程度の卵胞を配置するのに対し、スリットを入れると30個程度の卵胞を配置することが可能となる。また、それぞれの卵胞を取り違えることなく連続的に観察できる。適切なスリットの幅は卵胞の大きさによっても異なるが、卵胞が落下しない程度のスリットの幅として、50~100μm程度が例示できる。また、またスリットが長くなればすり抜けやすくなることから、長さにも留意すべきである。本発明においては、卵胞の大きさに応じて、適宜スリットの幅及び/長さに適宜修正を加えることが好ましい。
【0027】
上記メンブレンは、メンブレン下の培養液が透過可能であり、かつ卵母細胞を含む卵胞の支持体となり得る多孔質膜であればよく、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン等の膜が挙げられる。
【0028】
(第2の実施態様:振とう)
本発明においては、スリットで卵胞位置の変動が少なくなることによって、振とう培養が可能となる。本発明の培養方法の第2の実施態様では、上記第1の実施態様の培養用メンブレンを装着した培養インサートを入れた培養皿を、振とうさせる。スリット上での卵胞培養では振とうによって卵母細胞の発育が促進される。ただし、培養液の蒸散などの培養環境の著しい変化が生じぬよう、回転数は毎分30~60回転程度、静置:稼働の割合は1:9~9:1の範囲で適宜調整することが好ましい。また、上下方向の振とうは液面の位置が変化することから水平方向の振とうが好ましい。しかし、卵母細胞・卵胞の生存や発育という条件を満たすものであれば、上述した振とうに特に限定されるものではない。また、振とうに使用する装置としては、上記の条件で振とうを行うことができれば、特に限定はされないが、例えば、インキュベータ内用シェーカー OS-762(オプティマ社製)等が挙げられる。
【0029】
(第3の実施態様:培養用メンブレンへのハイドロゲル層形成)
また、本発明の培養方法の第3の実施態様では、上記第1の実施態様の培養用メンブレンに、スリットに加えて、ハイドロゲル層を形成させる。卵巣の最外部を構成する細胞はコラーゲンやラミンなどに接着する性質をもち、そのような変化は細胞の形態や機能に影響を及ぼす。
【0030】
本発明において「ハイドロゲル層」とは、網目構造を形成する親水性高分子と、当該網目構造に取り込まれた水とを含むものをいう。ハイドロゲル層に含まれる材料は、天然高分子であっても合成高分子であってもよいが、天然高分子が好ましい。天然高分子としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、アルブミン、フィブリン、ラミニン等のタンパク質、ペクチン、寒天、アガロース、ジェランガム、キサンタンガム、アラビアガム、トラガントガム、カラヤガム、タマリンドシードガム、グアーガム、ローカストビーンガム、カルボキシメチルセルロース、グルコマンナン、キトサン、カラギーナン、デキストリン、カードラン等の多糖類が挙げられ、合成高分子としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。また、上記親水性高分子は、1種を用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、卵胞の培養用メンブレンへの接着と卵胞位置の確実な固定の観点から、コラーゲン、ジェランガム、及び寒天が好ましい。コラーゲンはI型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、V型コラーゲンなどのサブタイプが知られており、いずれのサブタイプのものも使用できる。また、これらのサブタイプのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
本発明において、ハイドロゲル層に含まれる材料としてコラーゲンを使用する場合、まずメンブレンにコラーゲン被膜を形成させる。メンブレンへのコラーゲン被膜の形成は、メンブレン上にコラーゲン溶液を塗布して乾燥させることにより行う。コラーゲン溶液の濃度としては、0.001~0.3%が好ましい。コラーゲン被膜は卵胞をメンブレン上に固定し、コラーゲンとの接触面を増やす役割を果たす。また、ハイドロゲル層に含まれる材料としてジェランガムを使用する場合は、メンブレンに被膜の形成なしに、直接ジェランガム層を形成させることができる。
【0032】
ハイドロゲル層の形成は、上記の親水性高分子の溶液を、培養用メンブレン上に流し入れ、ゲル化させることにより行う。親水性高分子の溶液の濃度、及びゲル化温度は、使用する親水性高分子により適宜調整すればよい。例えば、コラーゲンを使用する場合、コラーゲン溶液の濃度は、0.16~0.24%が好ましい。
【0033】
ハイドロゲル層の厚みは、特に限定されないが、0.2~0.6mmが好ましく、0.2~0.4mmがより好ましい。十分なゲル化が行われたのちに、外科用メス又は注射針でスリットをハイドロゲル層側から作成し、メンブレンまで貫通させる。メンブレン側からハイドロゲル層側に貫通させてもよい。スリットの大きさについての留意点は上記の通りである。培養開始時にハイドロゲル層に入れたスリットに乗せる(又は挟みこむ)ように卵胞を配置する。
【0034】
ハイドロゲル層に入れたスリットは区切りの役割を果たし、卵胞の移動防止がより確実なものとなる。
【0035】
上記培養用メンブレンのスリット上での卵胞の培養は、卵胞を培養液中に浸漬させた状態で培養することが好ましい。よって、培養インサートは、培養インサート内及び外に培養液を添加した状態にして培養インサート内で卵胞を培養すればよい。
【0036】
(第4の実施態様:ヒアルロニダーゼの培養液への添加)
本発明の培養方法の第4の実施態様では、上記第1~第3の実施態様の培養に使用する基本となる組織培養液に、ヒアルロン酸の分解酵素であるヒアルロニダーゼを添加する。
【0037】
本発明において利用可能な基本組織培養液は、通常の細胞培養に使用されているものであれば特に限定されるものではなく、例えば、最少必須培地、199培地、ウェイマウス培地(Waymouth medium)などが挙げられる。
【0038】
本発明においてヒアルロニダーゼの培養液への添加濃度は0.1~10μg/mlが好ましい。卵胞培養におけるヒアルロニダーゼの効果として、卵母細胞の生存率及び体積の増大を促し、卵母細胞の輪郭を明瞭にして観察を容易にするなどが挙げられる。
【0039】
ヒアルロニダーゼ以外にも、細胞外マトリックス分解酵素は存在し、ヒアルロニダーゼと同等な機能を有する限り、他の細胞外マトリックス分解酵素を使用してもよい。本発明において使用可能な「同等の機能」を示す酵素であるかどうかを確認するには、培養に使用した際、卵母細胞の継続的かつ長期的な観察が可能であること、卵母細胞の生存性を損なわないことを指標に行う。
【0040】
また、ヒアルロニダーゼの添加のほか、培養液には一般の細胞培養で行われる修正もなされるが、特定の修正に限定されるものではない。例えば、5%ウシ胎子血清、抗生物質の添加などが挙げられる。また、培養液には、卵母細胞の細胞培養に適した培養液にするための修正を行ってもよい。例えば限定されるものではないが、ピルビン酸ナトリウムは、特定の動物種に限らず、卵母細胞の培養液に一般的に添加されている。
【0041】
その他にも、例えばウシ卵母細胞の培養においては、2mM~4mMのヒポキサンチン及び10~100ng/mlのエストラジオール17βなどを添加した場合に、細胞の増殖が良好であることが知られている。またブタ卵母細胞の培養においては、低濃度の卵胞刺激ホルモン(follicle stimulating hormone;FSH)(例えば10ng/ml)をさらに添加した場合に、細胞の増殖が良好であることが知られている。本発明においては、このような動物種に応じて、適宜培養液に修正を加えることが好ましい。
【0042】
培養インサートを設置した培養皿は、一般に動物細胞培養に使用されるインキュベータに入れて培養する。培養条件は、例えば、37℃~39℃、5%炭酸ガス(CO)・95%空気の気相で、高湿度の環境が好ましく、このような条件を設定可能なインキュベータを使用する。培養期間は、使用する動物種及び採取した卵母細胞の状態により異なるが、例えば、1日~14日間、好ましくは4日~12日間、より好ましくは6日~10日間であり、当業者であれば適宜設定することが可能である。培養期間中、例えば培養2~4日後に培養液の一部を新鮮なものに交換することが常識的に行われており、本発明においても適宜培養液を交換することが好ましい。上記培養条件は、一例として記載しており、細胞の増殖や生存を妨げない範囲で変更可能である。卵母細胞の培養に好ましい培養条件は、当技術分野で公知である。
【0043】
本発明の培養方法によれば、多くの卵母細胞の体積を顕著に増大させることができる。例えば従来法では培養1日後を100%とした場合の培養7日後における平均の体積増大率は約50%であるのに対し、本発明の方法を利用した場合にはその2倍以上(約110%)となる。
【実施例0044】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
【0045】
(実施例1)培養液へのヒアルロニダーゼ添加によるウシ二次卵胞内の卵母細胞の発育促進
ウシの卵巣をPBSで洗浄した後、表面から1~2mmの厚さで組織片を切り離して、2% ポリビニルピロリドン(PVP、平均分子量360,000)及び100μg/ml ピルビン酸ナトリウム(シグマアルドリッチ製)を含むHEPES緩衝MEM(pH7.2、ニッスイ製)に浸漬した。実体顕微鏡下に、手術用刃を用いて直径0.17~0.30mm程度の二次卵胞を切り出した。採取卵胞内にある卵母細胞を観察し、正常な形態の卵母細胞を含む卵胞のみを選別し、培養に供した。
【0046】
基本組織培養液として、3mM ヒポキサンチン、50ng/ml アンドロステンジオン、50μg/ml アスコルビン酸 2-リン酸 セスキマグネシウム塩、10mM HEPES(以上、シグマアルドリッチ製)、1 IU/ml hCG製剤(ゴナトロピン、あすか製薬製)、0.2 mAU/ml FSH製剤(アントリン、共立製薬製)、500 μMモノチオグリセロール(富士フイルム和光純薬製)、5%子ウシ血漿(ロックランド製)及び抗生物質を添加したαMEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用いた。実験区ではヒアルロニダーゼ(シグマアルドリッチ製)の効果を調べるために、0μg/ml、0.1μg/ml、1μg/ml又は10μg/mlの濃度で培養液に添加した。
【0047】
培養皿としてファルコン#1007(コーニング製)を用い、メンブレン(商品名ミリセル、ミリポア製)を装着した。ミリセルの外側に3.1mlの培養液を加えて卵胞をメンブレン上に配置し、5%CO・95%空気を満たしたモデュラー培養チャンバー(ビラップス-ローゼンバーグ製)に移して38.5℃のインキュベータで培養した。
【0048】
培養期間は合計で7日間とし、培養1日後、4日後、7日後に卵胞を写真撮影し、卵母細胞の直径を割り出して体積に換算した。培養4日後に、培養液の半分を新鮮なものに交換した。
【0049】
培養液へ添加したヒアルロニダーゼの濃度が卵母細胞の体積増大に及ぼす影響を図1に示す。培養1日後の卵母細胞の体積を100%とした場合、培養7日後の無添加区の152.4%に対し、0.1μg/ml添加区、1μg/ml添加区、10μg/ml添加区においてそれぞれ167.9%、176.2%、177.9%に増加した。1μg/ml添加区及び10μg/ml添加区の増大率と無添加区における増大率の差は有意であった(Tukey test)。
【0050】
なお、本実施例の卵胞の培養は、通常の培養インサートと培養用メンブレンを使用する方法(従来法)を用いて行った。培養開始直後にメンブレン上に配置された卵胞の状態を図2に示す。矢印は14個の卵胞のうち「卵胞」の表記に近い5個を示す。図2では、配置直後の卵胞を示しているが、メンブレンに強固に接着していないことから、培養の進行とともに位置が変わる場合がある。
【0051】
(実施例2)メンブレンへのスリットの作成と培養皿の振とうによるウシ二次卵胞内の卵母細胞の発育促進
メンブレンにスリットを施す以外は、実施例1と同様の方法で卵胞培養を実施し(ヒアルロニダーゼ添加濃度は10μg/ml)、卵母細胞の体積を算出した。
【0052】
メンブレンに施したスリット及びスリットに配置した卵胞の例を図3に示す。内部に卵母細胞の輪郭(ほぼ完全な円形)を確認することができた。培養1日後の卵母細胞の体積を100%とした場合、培養7日後のスリット無区の169.4%に対し、スリット有区では175.7%であり(図4)、有意な差は認められなかったが(student’s t-test)、スリット上で培養することが可能であることが示されるとともに、卵胞の移動による継続的な観察への支障はほぼ解消された。
【0053】
一方、スリットを作成して卵胞を配置することにより、振とうを加えることが可能となったので、培養中に水平方向の振とう(ローテーション、40回転/分、1分間稼働、9分間静置)を実施し、同様にして卵母細胞の体積を算出した。培養1日後の卵母細胞の体積を100%とした場合、培養7日後の振とう無区の170.5%に対し、振とう有区では187.5%であり(図5)、高い体積増大率を示す傾向が認められた(P=0.1273、student’s t-test)。
【0054】
(実施例3)培養用メンブレンへのコラーゲン処理によるウシ二次卵胞内の卵母細胞の発育促進
実施例2の卵胞培養(スリット有、振とう有)において、培養用メンブレンへのコラーゲン処理(コラーゲン被膜とコラーゲンゲル層の形成)を追加し、同様にして培養し、卵母細胞の体積を算出した。まず、コラーゲン被膜を、メンブレン上にコラーゲン溶液(セルマトリックス(登録商標)、Type I-A、新田ゼラチン製)(0.3%)を塗布して乾燥させることによって形成した。コラーゲンゲル層は、コラーゲン溶液(セルマトリックス(登録商標)、Type I-A、新田ゼラチン製)(0.3%)と、炭酸水素ナトリウムを含まない10倍濃度のMEMと、炭酸水素ナトリウム(2.2%)およびHEPES(200mM)を含む水酸化ナトリウム溶液(0.05N)とを8:1:1の割合で混合し、この混合溶液を、被膜形成後の培養用メンブレン上に流し入れた後、培養装置内(38.5℃)に30分以上静置することによって形成した。コラーゲン処理(コラーゲン被膜とコラーゲンゲル層の形成)は、卵胞表面が接着するためのコラーゲン基質を提供すること、卵胞位置の確実な固定を目的に行った。
【0055】
スリットは、コラーゲンゲル層から培養用メンブレンに貫通するよう作成した。培養用メンブレン及び培養用メンブレンを装着した培養インサートを横から見た模式図を図6に示す。
【0056】
また、卵胞の配置(スリットの配置)と卵胞の拡大写真及びその模式図を図7に示す。なお、本実施例では実施例1の基本組織培養液に次の修正を加えた。3% PVP (平均分子量360,000)を添加し、hCG製剤を50 ng/ml ヒトリコンビナントLHに、FSH製剤を50 ng/ml ヒトリコンビナントFSH(いずれもR&Dシステムズ)にそれぞれ変更し、その上でヒアルロニダーゼ無添加区と1μg/ml添加区を比較した。その結果、培養7日後の無添加区の182.0%に対し、1μg/ml添加区では209.9%に増加し(図8)、その差は有意であった(P=0.0005、student’s t-test)。
【0057】
実施例1~3で検討した培養液へのヒアルロニダーゼの添加、培養用メンブレンへのスリット作成、振とう、及び培養用メンブレンへのコラーゲン処理のすべてを実施した場合の培養卵胞の形態を図9に示す(培養1日後、4日後、7日後)。卵胞内部に存在する卵母細胞が確認された。
【0058】
また、通常の培養用メンブレン(スリット形成なし)を用いた従来法、従来法に実施例1~3で検討した改変(ヒアルロニダーゼ添加、スリット形成、振とう、コラーゲン処理)を加えた改良法によってそれぞれ培養したウシ二次卵胞内の卵母細胞の培養7日後の生存率をまとめた結果を図10に、体積増大率をまとめた結果を図11にそれぞれ示す。改変により細胞の生存率は低下することなく、むしろ上昇する傾向が認められ(図10)、すべての改変を併せて行った場合に卵母細胞の体積は顕著な増大を示した(図11、P<0.0001、Dunnett’s test)。
【0059】
なお、実施例では培養1日後、4日後、7日後の観察結果を示しているが、観察のタイミングはこれにとどまらず、任意の時間に実施することができる。
【0060】
(実施例4)培養用メンブレンへのゲル化させたジェランガム層形成によるウシ二次卵胞内の卵母細胞の培養
実施例3の培養用メンブレンへのコラーゲン処理(コラーゲン被膜とコラーゲンゲル層の形成)に代えて、図12に示すように、ジェランガム層を形成させる以外は、実施例3と同様にして培養し、卵母細胞の発育を確認した。ジェランガム層は、蒸留水(40g)に、スターラーで攪拌しながらジェランガム(ゲルライト(登録商標)、富士フイルム和光純薬製)(200mg)を加え、得られた溶液を90℃まで昇温して成分が溶解するまで加熱し、同じく加熱しておいたPBSで希釈して最終濃度を0.1%とした後、この溶液を培養用メンブレン上に流し入れ、ゲル化温度(30~50℃以下)まで冷却することによって形成した。培養卵胞の形態を図13に示す(培養1日後、7日後)。コラーゲン処理と同様に、ジェランガム層形成によっての同様に卵胞内部に存在する卵母細胞が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、畜産動物などの受精卵の育成分野において利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
図13