(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137796
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】触媒含有温度制御材料および発熱反応または吸熱反応の反応温度制御方法
(51)【国際特許分類】
C09K 5/06 20060101AFI20240927BHJP
B01J 35/53 20240101ALI20240927BHJP
B01J 23/83 20060101ALI20240927BHJP
C07C 1/12 20060101ALN20240927BHJP
C07C 9/04 20060101ALN20240927BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C09K5/06 Z
B01J35/53
B01J23/83 Z
C07C1/12
C07C9/04
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024038238
(22)【出願日】2024-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2023048736
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「潜熱蓄熱によるパッシブかつ迅速な反応熱制御のための蓄熱触媒開発とプロセス設計」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100136777
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 純子
(72)【発明者】
【氏名】能村 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】アデ クルニアワン
(72)【発明者】
【氏名】川口 貴大
(72)【発明者】
【氏名】清水 友斗
(72)【発明者】
【氏名】中村 友一
(72)【発明者】
【氏名】三村 憲吾
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA11
4G169AA14
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA02A
4G169BA04A
4G169BA05B
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4G169BA14A
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB05A
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4G169BC31A
4G169BC31B
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4G169EE10
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4G169FB07
4G169FB14
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4G169FB32
4H006AA02
4H006BA21
4H006BA55
4H006BA56
4H006BE20
4H006BE41
4H039CL35
(57)【要約】
【課題】発熱反応または吸熱反応に用いられ、反応温度を安定化できる触媒含有温度制御材料を提供する。
【解決手段】発熱反応または吸熱反応に用いられる触媒含有温度制御材料であって、少なくとも1つの潜熱蓄熱粒子を有する潜熱蓄熱体と、該潜熱蓄熱体の少なくとも表面の一部に存在する触媒とを有し、前記潜熱蓄熱粒子は、コア部と、該コア部の表面の少なくとも一部を被覆する被覆部とを有し、前記コア部の成分は、所定の成分で構成され、融点が、前記発熱反応または吸熱反応の(最低反応温度+10℃)以上であって、かつ(最高反応温度-10℃)以下の範囲内であり、前記被覆部の成分は、融点が前記コア部の成分よりも高く、前記コア部の成分と異なる、元素、合金、無機化合物、およびこれらの混合物よりなる群から選択される1以上であって、前記発熱反応または吸熱反応の反応温度域で前記コア部の成分と化学反応を生じない、触媒含有温度制御材料。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱反応または吸熱反応に用いられる触媒含有温度制御材料であって、
少なくとも1つの潜熱蓄熱粒子を有する潜熱蓄熱体と、該潜熱蓄熱体の少なくとも表面の一部に存在する触媒とを有し、
前記潜熱蓄熱粒子は、
コア部と、該コア部の表面の少なくとも一部を被覆する被覆部とを有し、
前記コア部の成分は、Al、Mg、Si、Ti、Fe、Ni、Cu、Zn、Sn、Sb、Ga、In、Bi、Pb、およびCdよりなる群から選択される元素、これらを主成分とする合金と化合物、ならびに、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の、炭酸化合物、水酸化物、(亜)硝酸化物、およびハロゲン化物よりなる群から選択される1以上で構成され、融点が、前記発熱反応または吸熱反応の(最低反応温度+10℃)以上であって、かつ(最高反応温度-10℃)以下の範囲内であり、
前記被覆部の成分は、融点が前記コア部の成分よりも高く、前記コア部の成分と異なる、元素、合金、無機化合物、およびこれらの混合物よりなる群から選択される1以上であって、前記発熱反応または吸熱反応の反応温度域で前記コア部の成分と化学反応を生じない、触媒含有温度制御材料。
【請求項2】
前記潜熱蓄熱体が潜熱蓄熱粒子であり、該潜熱蓄熱粒子の少なくとも表面の一部に触媒を有する、請求項1に記載の触媒含有温度制御材料。
【請求項3】
前記コア部の成分の融点は、400℃~550℃である、請求項1または2に記載の触媒含有温度制御材料。
【請求項4】
前記発熱反応は、CO2と水素を反応させてメタン化するメタネーション反応である、請求項1または2に記載の触媒含有温度制御材料。
【請求項5】
前記コア部の成分は、Al、Mg、Zn、Sb、Pb、およびCdよりなる群から選択される元素を主成分とし、Si、Ti、Fe、Ni、Cu、Sn、Ga、In、およびBiよりなる群から選択される1以上の合金元素を含む合金である、請求項1または2に記載の触媒含有温度制御材料。
【請求項6】
前記コア部の成分は、Al、Al-Si合金、Al-Cu-Si合金、およびZn-Al合金よりなる群から選択される1以上である、請求項1または2に記載の触媒含有温度制御材料。
【請求項7】
前記コア部の平均粒子径は、10μm以上、200μm以下である、請求項1または2に記載の触媒含有温度制御材料。
【請求項8】
前記被覆部は少なくとも一部に粒子形状の部位を有し、該粒子形状の部位は、平均粒子径が0.1μm以上、2μm以下である、請求項1または2に記載の触媒含有温度制御材料。
【請求項9】
前記被覆部の成分は、Al、α-Al2O3、AlOOH、Al(OH)3、およびガラスよりなる群から選択される1以上である、請求項1または2に記載の触媒含有温度制御材料。
【請求項10】
前記触媒は、Ni、Co、Fe、Ag、Ru、Rh、Mn、Pd、Cu、およびPtよりなる群から選択される1種以上の金属が担体に担持されたものである、請求項1または2に記載の触媒含有温度制御材料。
【請求項11】
請求項1または2に記載の触媒含有温度制御材料を用いた、発熱反応または吸熱反応の反応温度制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、触媒含有温度制御材料および発熱反応または吸熱反応の反応温度制御方法に関する。詳細には、発熱反応または吸熱反応に用いられる、潜熱蓄熱体と触媒を有する触媒含有温度制御材料に関する。
【背景技術】
【0002】
有用物質の製造や排出ガスの再利用等を目的に、化学反応として発熱反応または吸熱反応が多く行われている。発熱反応の一例として、二酸化炭素と水素を反応させ、例えば燃料として使用可能なメタンを合成するメタネーション反応(CO2+4H2→CH4+2H2O)が挙げられる。該メタネーション反応は、原料とともに触媒を用いることで進行する。例えば特許文献1には、前記メタネーション反応に用いる触媒として、単位質量当たりのメタン収量の向上を図ることができる触媒が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記メタネーション反応は、過剰な発熱を伴う発熱反応である。過剰な発熱が生じて反応温度が高温となり、触媒の温度が適正温度域を外れると、触媒の劣化が生じ得、また反応器の劣化も生じ得る。よって、上記メタネーション反応の様な発熱反応の場合、反応温度の上昇を抑制し、適正な温度域で触媒が作用し、反応が進行することが求められる。また、例えば炭化水素の水蒸気改質反応の様な吸熱反応の場合も同様に、反応温度の低下を抑制し、適正温度域で触媒が作用し、反応が進行することが求められる。
【0005】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、発熱反応または吸熱反応に用いられる触媒材料であって、反応温度を安定化できる触媒含有温度制御材料と、該触媒含有温度制御材料を用いた発熱反応または吸熱反応の反応温度制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様1は、
発熱反応または吸熱反応に用いられる触媒含有温度制御材料であって、
少なくとも1つの潜熱蓄熱粒子を有する潜熱蓄熱体と、該潜熱蓄熱体の少なくとも表面の一部に存在する触媒とを有し、
前記潜熱蓄熱粒子は、
コア部と、該コア部の表面の少なくとも一部を被覆する被覆部とを有し、
前記コア部の成分は、Al、Mg、Si、Ti、Fe、Ni、Cu、Zn、Sn、Sb、Ga、In、Bi、Pb、およびCdよりなる群から選択される元素、これらを主成分とする合金と化合物、ならびに、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の、炭酸化合物、水酸化物、(亜)硝酸化物、およびハロゲン化物よりなる群から選択される1以上で構成され、融点が、前記発熱反応または吸熱反応の(最低反応温度+10℃)以上であって、かつ(最高反応温度-10℃)以下の範囲内であり、
前記被覆部の成分は、融点が前記コア部の成分よりも高く、前記コア部の成分と異なる、元素、合金、無機化合物、およびこれらの混合物よりなる群から選択される1以上であって、前記発熱反応または吸熱反応の反応温度域で前記コア部の成分と化学反応を生じない、触媒含有温度制御材料である。
【0007】
本発明の態様2は、
前記潜熱蓄熱体が潜熱蓄熱粒子であり、該潜熱蓄熱粒子の少なくとも表面の一部に触媒を有する、態様1に記載の触媒含有温度制御材料である。
【0008】
本発明の態様3は、
前記コア部の成分の融点は、400℃~550℃である、態様1または2に記載の触媒含有温度制御材料である。
【0009】
本発明の態様4は、
前記発熱反応は、CO2と水素を反応させてメタン化するメタネーション反応である、態様1~3のいずれか1つに記載の触媒含有温度制御材料である。
【0010】
本発明の態様5は、
前記コア部の成分は、Al、Mg、Zn、Sb、Pb、およびCdよりなる群から選択される元素を主成分とし、Si、Ti、Fe、Ni、Cu、Sn、Ga、In、およびBiよりなる群から選択される1以上の合金元素を含む合金である、態様1~4のいずれか1つに記載の触媒含有温度制御材料である。
【0011】
本発明の態様6は、
前記コア部の成分は、Al、Al-Si合金、Al-Cu-Si合金、およびZn-Al合金よりなる群から選択される1以上である、態様1~5のいずれか1つに記載の触媒含有温度制御材料である。
【0012】
本発明の態様7は、
前記コア部の平均粒子径は、10μm以上、200μm以下である、態様1~6のいずれか1つに記載の触媒含有温度制御材料である。
【0013】
本発明の態様8は、
前記被覆部は少なくとも一部に粒子形状の部位を有し、該粒子形状の部位は、平均粒子径が0.1μm以上、2μm以下である、態様1~7のいずれか1つに記載の触媒含有温度制御材料である。
【0014】
本発明の態様9は、
前記被覆部の成分は、Al、α-Al2O3、AlOOH、Al(OH)3、およびガラスよりなる群から選択される1以上である、態様1~8のいずれか1つに記載の触媒含有温度制御材料である。
【0015】
本発明の態様10は、
前記触媒は、Ni、Co、Fe、Ag、Ru、Rh、Mn、Pd、Cu、およびPtよりなる群から選択される1種以上の金属が担体に担持されたものである、態様1~9のいずれか1つに記載の触媒含有温度制御材料である。
【0016】
本発明の態様11は、
態様1~10のいずれか1つに記載の触媒含有温度制御材料を用いた、発熱反応または吸熱反応の反応温度制御方法である。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、発熱反応または吸熱反応に用いられる触媒材料であって、反応温度を安定化できる触媒含有温度制御材料と、該触媒含有温度制御材料を用いた発熱反応または吸熱反応の反応温度制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】潜熱蓄熱粒子の製造に用いうる高速気流中衝撃装置を模式的に示した図である。
【
図2】本実施形態に係る触媒含有温度制御材料の一つの態様を示す。
【
図3】本実施形態に係る触媒含有温度制御材料の別の態様を示す。
【
図4】本実施形態に係る触媒含有温度制御材料の別の態様を示す。
【
図5】実験例1におけるAl-Cu-Si潜熱蓄熱粒子のSEM写真の一例である。
【
図6】実験例1で用いた実験装置の模式的な断面図である。
【
図7】実験例1における試料A、Bのそれぞれの反応部内の測定点の温度の測定結果を示す図である。
【
図8A】実験例1における試料Aと試料BのCO
2転化率(反応率)時間変化を示す図である。
【
図8B】実験例1における試料Aと試料BのCH
4選択率の時間変化を示す図である。
【
図9】実験例2における充填層の温度の時間変化を示す図である。
【
図10】実験例4におけるヒータの温度制御プログラムを示す図である。
【
図11】実験例4における試料(触媒含有潜熱蓄熱体)のSEM写真とEDS分析結果の一例である。
【
図12】実験例4における試料(触媒含有潜熱蓄熱体)のXRD回折結果である。
【
図13A】実験例4における試料温度およびヒータの温度を示すグラフである。
【
図14A】実験例4における試料H1~H3(Ni/MEPCM)を用いた場合の測定期間m1、m2における転化率を示すグラフである。
【
図14B】実験例4における試料I1~I3(Co/MEPCM)を用いた場合の測定期間m1、m2における転化率を示すグラフである。
【
図14C】実験例4における試料J1~J3(Fe/MEPCM)を用いた場合の測定期間m1、m2における転化率を示すグラフである。
【
図15】実験例5における試料(触媒含有潜熱蓄熱体)のSEM写真の一例である。
【
図16】実験例5における本実施形態に係る試料(触媒含有潜熱蓄熱体)のEDS分析結果の一例である。
【
図17】実験例5におけるMEPCM、Ag/MEPCM、燃焼試験後のAg/MEPCMのXRD解析結果である。
【
図18】実験例5における本実施形態に係る試料(触媒含有潜熱蓄熱体)の燃焼試験結果を示す図である。
【
図19】実験例5における比較例に係る試料(触媒含有潜熱蓄熱体)の燃焼試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示に係る触媒含有温度制御材料について詳述するが、本開示はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明者らは、まず、化学反応、特に触媒反応には好適な温度範囲が存在し、更には例えばフロー式の反応装置における反応管中で、反応熱により、発熱反応では反応温度が(部分的に)過度に上昇、また吸熱反応においては(部分的に)低下するといった問題があることに鑑みて、潜熱蓄熱体と触媒を含む材料を用い、反応温度の上昇または低下を抑制し、適正温度域で触媒が作用して反応が進行するような、触媒含有温度制御材料を得るべく鋭意研究を行った。その結果、
発熱反応または吸熱反応に用いられる触媒含有温度制御材料であって、
触媒含有温度制御材料は、
少なくとも1つの潜熱蓄熱粒子を有する潜熱蓄熱体と、該潜熱蓄熱体の少なくとも表面の一部に存在する触媒とを有し、
前記潜熱蓄熱粒子は、
コア部と、該コア部の表面の少なくとも一部を被覆する被覆部とを有し、
前記コア部の成分は、Al、Mg、Si、Ti、Fe、Ni、Cu、Zn、Sn、Sb、Ga、In、Bi、Pb、およびCdよりなる群から選択される元素、これらを主成分とする合金と化合物、ならびに、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の、炭酸化合物、水酸化物、(亜)硝酸化物、およびハロゲン化物よりなる群から選択される1以上で構成され、融点が、前記発熱反応または吸熱反応の(最低反応温度+10℃)以上であって、かつ(最高反応温度-10℃)以下の範囲内であり、
前記被覆部の成分は、融点が前記コア部の成分よりも高く、前記コア部の成分と異なる、元素、合金、無機化合物、およびこれらの混合物よりなる群から選択される1以上であって、上記反応の温度域で前記コア部の成分と化学反応を生じない、触媒含有温度制御材料とすればよいことを見出した。以下、本実施形態の触媒含有温度制御材料を構成する、潜熱蓄熱体、触媒等について順に説明する。
【0021】
[潜熱蓄熱体]
潜熱蓄熱体は、少なくとも1つの潜熱蓄熱粒子を含む。すなわち、潜熱蓄熱体は、1つの潜熱蓄熱粒子であるか、または複数の潜熱蓄熱粒子(の集合体)でありうる。潜熱蓄熱体を構成する潜熱蓄熱粒子は、コア部と、該コア部の表面の少なくとも一部を被覆する被覆部とを有する。コア部と被覆部について以下に説明する。
【0022】
〔コア部〕
コア部は、その成分が、Al、Mg、Si、Ti、Fe、Ni、Cu、Zn、Sn、Sb、Ga、In、Bi、Pb、およびCdよりなる群から選択される元素、これらを主成分とする合金と化合物、ならびに、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の、炭酸化合物、水酸化物、(亜)硝酸化物、およびハロゲン化物よりなる群から選択される1以上で構成される。ハロゲン化物として、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、アスタチン化物が挙げられる。前記「主成分」とは、コア部全体に占める割合が50質量%以上であることをいう。コア部を構成する材料は潜熱蓄熱材であり、相変化物質(PCM:Phase Change Material)とも呼ばれる。潜熱蓄熱材(以下、「PCM」)は、固液相変化潜熱を利用しており、融解潜熱による潜熱蓄熱と凝固潜熱による放熱により、顕熱を利用した潜熱蓄熱技術と比べて高密度に熱を蓄えることが可能である。また、PCMは、一定温度(PCMの融点)で潜熱蓄熱・放熱可能であるため、恒温熱源として使用され得る。
【0023】
前記コア部の成分は、好ましくは、Al、Mg、Si、Ti、Fe、Ni、Cu、Zn、Sn、Sb、Ga、In、Bi、Pb、およびCdよりなる群から選択される元素、または、これらを主成分とする合金または化合物である。より好ましくは、Al、Mg、Zn、Sb、Pb、およびCdよりなる群から選択される元素、または、これらを主成分とする合金または化合物である。更に好ましくは、Al、Mg、Zn、Sb、Pb、およびCdよりなる群から選択される元素を主成分とし、Si、Ti、Fe、Ni、Cu、Sn、Ga、In、およびBiよりなる群から選択される1以上の合金元素を含む合金である。前記コア部の成分は、環境に配慮する観点からは、Al、Mg、およびZnよりなる群から選択される元素で構成された金属であるか、Al、Mg、およびZnよりなる群から選択される主成分の元素と、Sn、Bi、In、およびCuよりなる群から選択される1以上の合金元素とで構成された合金が好ましい。前記コア部の成分は、合金成分を含まずAl濃度が100%の金属Alであってもよい。前記コア部の成分は、Al、Al-Si合金、Al-Cu-Si合金、およびZn-Al合金よりなる群から選択される1以上が更に好ましい。
【0024】
前記コア部のより更に好ましい成分の1つとして、上記AlとSiの合金(Al-Si合金)が挙げられる。この場合、Si含有量は特に限定されず、0質量%超、100質量%未満であればよい。例えばSi含有量は10質量%以上、90質量%以下の範囲とすることができる。該範囲内のうち、Si含有量は、10質量%以上、25質量%以下としてもよい。例えば、Al-25質量%Siをコアとする潜熱蓄熱体は融点が577℃である。
【0025】
前記コア部のより更に好ましい成分の1つとして、上記CuとSiを含むAl合金(Al-Cu-Si合金)が挙げられる。Al-Cu-Si合金に含まれるCuとSiの含有量は特に限定されず、CuとSiがそれぞれ0質量%超であって、CuとSiの合計が50質量%以下であればよい。例えば、Al-26.5質量%Cu-5.4質量%Siをコアとする潜熱蓄熱体は融点が約520℃であり、Al-29.5質量%Cu-6質量%Siをコアとする潜熱蓄熱体は融点が約520~540℃である。
【0026】
前記コア部のより更に好ましい成分の1つとして、上記ZnとAlの合金(Zn-Al合金)が挙げられる。この場合、Al含有量は特に限定されず、0質量%超、100質量%未満であればよい。Al含有量は50質量%以下であってもよい。例えば、Zn-10質量%Al合金をコアとする潜熱蓄熱体は融点が約380℃であり、Zn-30質量%Al合金をコアとする潜熱蓄熱体は融点が417℃以上、特には429℃以上であって、509℃以下である。
【0027】
本実施形態に係る触媒含有温度制御材料は、コア部の成分の融点が、前記発熱反応または吸熱反応の(最低反応温度+10℃)以上であって、かつ(最高反応温度-10℃)以下の範囲内であるところに特徴がある。本発明者らは、発熱反応または吸熱反応において、反応温度が過度に上昇または低下するといった問題があることに鑑み、この潜熱蓄熱粒子の特性を用いて、反応温度を可能な限り安定化させこの問題を解消すべく検討を行った。
【0028】
そして本発明者らは、該問題を解消すべく、触媒含有温度制御材料について検討を行った。特に触媒含有温度制御材を構成する潜熱蓄熱粒子のコア部の融点について、まず、潜熱蓄熱粒子の製造時において被覆部形成時に溶融しないこと、および、発熱反応または吸熱反応時の反応温度で、過剰に生じた発熱または吸熱の潜熱蓄熱または放熱のため、固液相変化させる必要があることを前提に、検討を行ったところ、反応温度と対応させて制御することが必要であり、前記発熱反応または吸熱反応の(最低反応温度+10℃)以上であって、かつ(最高反応温度-10℃)以下の範囲内にする必要があることがわかった。
【0029】
前記コア部の成分の融点の決定において、前記「最低反応温度」とは、目的とする反応が充分に開始した時点での反応管内の最低温度を示す。前記「反応が充分に開始した時点」とは、反応目的とする反応指標が所望の範囲に入った時点を指す。例えばメタネーション反応の場合、反応目的とする反応指標としてCO2転化率とCH4選択率が挙げられ、これらCO2転化率が65%以上かつCH4選択率が90%以上となった時点をいう。つまり前記「反応が充分に開始した時点での反応管内の最低温度」とは、例えばメタネーション反応の場合、CO2転化率が65%以上かつCH4選択率が90%以上となった時点での反応管内の最低温度をいう。
【0030】
より具体的に、後述する実施例に示すメタネーション反応の場合、参照例1は、潜熱蓄熱体を用いずに、上記CO2転化率が65%以上かつCH4選択率が90%以上となる条件での反応温度を、実験により求めたものである。なお参照例1は、反応指標が目標を達成する場合の反応温度を把握するための例であるが、潜熱蓄熱体を含まない触媒を用いているため、触媒の劣化が懸念される例である。この参照例1から、CO2転化率が65%以上かつCH4選択率が90%以上となった時点での反応管内の最低温度は、時間150秒後であって測定点T75における温度:390℃である。
【0031】
一方、前記「最高反応温度」とは、反応目的とする反応指標が所望の範囲にある状態での反応管内の最高温度をいう。例えばメタネーション反応の場合、CO2転化率が65%以上かつCH4選択率が90%以上となった状態での反応管内の最高温度をいう。後述する実施例に示すメタネーション反応の場合、CO2転化率が65%以上、CH4選択率が90%以上を達成できている場合の反応管内の最高温度は、参照例1(表2)から、時間450~1200秒後であって測定点T25における温度:550℃である。
【0032】
すなわち後述する実施例において、本実施形態に係る触媒含有温度制御材料のコア部の成分の融点の範囲は、(最低反応温度390℃+10℃)以上、つまり400℃以上であって、(最高反応温度550℃-10℃)以下、つまり545℃以下であると求められる。後述する実施例に示すメタネーション反応の場合、融点が(最低反応温度390℃+10℃)以上であることによって、反応温度を適温にまで高めて、触媒反応を十分促進させることができる。また、融点が(最高反応温度550℃-10℃)以下であることによって、触媒含有温度制御材料による温度制御効果を十分に発揮させることができる。なお、最低反応温度と最高反応温度は、反応目的とする反応指標の設定値に応じて変化しうる。
【0033】
対象とする化学反応に用いる触媒含有温度制御材料のコア部の成分の融点範囲は、例えば予備実験を行う等し、原料を充填した反応管における温度、およびその際の反応物の分析の結果(後述する実施例におけるメタネーション反応の場合にはCO2転化率、CH4選択率)から、最低反応温度と最高反応温度を求めることで得られる。
【0034】
前記融点は、例えば(最低反応温度+15℃)以上としてもよい。また前記融点は、例えば(最高反応温度-15℃)以下としてもよい。前記コア部の成分の具体的な融点は、対象とする発熱反応または吸熱反応によって定まり、300~700℃の範囲内であり得るがこれに限定されず700℃超であってもよく、または300℃以下、更には100℃以下であってもよい。例えば発熱反応として、メタネーション反応を行う場合、400℃~550℃であることが好ましい範囲として挙げられる。
【0035】
コア部の平均粒子径は10μm以上、200μm以下であってもよい。本実施形態によれば、コア部(PCM)が上記成分であってマイクロオーダーの潜熱蓄熱粒子を実現できる。上記平均粒子径は、例えば、更に100μm以下であってもよく、より更には50μm以下であってもよい。なお、本明細書において、コア部、および、後述するコア原料粒子と子粒子の「平均粒子径」とは、レーザー回折式粒度分布計(例:HORIBA LA-920)で測定したときの値である。より具体的には、レーザー回折式粒度分布計により、粒子群の体積分布を測定し、累積50体積%径の値(D50)を、平均粒子径とみなす。潜熱蓄熱粒子を構成するコア部の平均粒子径は、潜熱蓄熱粒子の製造に用いるコア原料粒子の平均粒子径とほぼ同じであるか、コア原料粒子の平均粒子径よりも小さくてもよい。本実施形態によれば、潜熱蓄熱粒子はコア-シェル構造であればよく、潜熱蓄熱粒子の製造段階や使用時に、コア原料粒子の表面の一部が、例えば子粒子、外気等と反応し、例えば、金属からなるコア原料粒子の表面の一部が酸化物に変化し、コア原料粒子を構成する金属の一部が消耗されたとしても、コア-シェル構造を維持していれば、潜熱蓄熱粒子としての作用を発揮できる。
【0036】
〔被覆部(シェル部)〕
被覆部の成分は、前記コア部の成分よりも融点が高く、前記コア部の成分と異なる、元素、合金、無機化合物、およびこれらの混合物よりなる群から選択される1以上であって、上記反応の温度域で前記コア部の成分と化学反応を生じない成分で構成される。
【0037】
前記元素として、Al、Mg、Si、Ti、Fe、Ni、Cu、Zn、Sn、Sb、Ga、In、Bi、Pb、およびCdよりなる群から選択される元素が挙げられる。前記無機化合物には、2以上の異なる無機化合物の混合物も含まれる。前記無機化合物として、セラミックス、ガラス、および焼成によりα-Al2O3となるαアルミナ前駆体よりなる群から選択される1以上が好ましい。コア部を被覆部内に封入することで、潜熱蓄熱時に溶融して液体状となったPCMの漏出を防ぐことができる。
【0038】
前記セラミックスとして、α-Al2O3、θ-Al2O3等のアルミナ、窒化アルミニウム、ジルコニア、窒化ケイ素、SiO2(シリカ)及び炭化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一種、またはその複合物が挙げられる。また、前記αアルミナ前駆体は、例えば880℃以上の温度での焼成によってα-Al2O3となる化合物であり、該αアルミナ前駆体として、Al含有化合物、更にはAl含有酸化物および/またはAl含有水酸化物、更には、AlOOH、および/またはAl(OH)3が挙げられる。被覆部の成分は、より好ましくは、Al、α-Al2O3、AlOOH、Al(OH)3、およびガラスよりなる群から選択される1以上である。
【0039】
コア部が金属・合金系PCMなどの中高温用PCMを含む場合、被覆部の材料として、セラミックスを用いてもよい。セラミックスとして、前述した、アルミナ、窒化アルミニウム、ジルコニア、窒化ケイ素、及び炭化ケイ素からなる群より選ばれる少なくとも一種、またはその複合物が挙げられる。低温用PCMを用いる場合、被覆部の材料は疎水性樹脂などの樹脂材料であってもよい。
【0040】
コア部が金属または合金で、被覆部がセラミックスである場合、コア部に含まれる金属と、被覆部を構成するセラミックスに含まれる金属元素とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、コア部がAl合金であり、被覆部がAl酸化物である場合、被覆部の成分は酸化物であり、コア部の成分である合金と異なっているが、コア部に含まれる金属であるAlと、被覆部を構成するセラミックスとして酸化物に含まれる金属元素(Al)とは同じである。
【0041】
本実施形態に係る潜熱蓄熱粒子の被覆部は、厚みが200nm~5μmの範囲であり得る。被覆部は、例えば厚みが1~2μmの被覆層でありうる。
【0042】
本実施形態に係る潜熱蓄熱粒子の被覆部は、コア部の表面の少なくとも一部を被覆していればよい。コア部の表面に占める被覆部の被覆率は、50面積%以上であることが好ましい。前記被覆率は、より好ましくは70面積%以上、更に好ましくは80面積%以上、より更に好ましくは90面積%以上であり、最も好ましくは100面積%である。本実施形態に係る潜熱蓄熱粒子は、コア部が被覆部の成分で隙間なく覆われ、緻密なシェルが形成されていてもよいし、上記好ましい被覆率の範囲を満たす限り、被覆部の成分で隙間なく覆われずコア部の露出箇所が点在すること、および、子粒子の堆積により生じる例えばナノレベルの隙間が存在することが許容される。上記コア部の露出箇所、隙間等が存在していたとしても、使用によるコア部の劣化は防止できると考えられる。例えば金属からなるコア部の場合、コア部の外気にさらされる露出箇所等に酸化物が形成され、コア部の金属の消耗等による劣化の進行が阻止されると考えられる。
【0043】
本実施形態に係る潜熱蓄熱粒子は、コア原料粒子の表面に子粒子を固着させるハイブリダイゼーションにより製造された場合、該ハイブリダイゼーションにより製造されたことに由来して、被覆部の少なくとも一部が粒子形状でありうる。すなわち被覆部は、少なくとも一部に粒子形状の部位を有しうる。前記被覆部の少なくとも一部の粒子形状は、潜熱蓄熱粒子製造時に使用する子粒子に由来しうる。ハイブリダイゼーションにより製造された潜熱蓄熱粒子は、この様に被覆部の少なくとも一部が粒子形状である点で、従来の、例えば湿式で製造された潜熱蓄熱粒子とは異なる。前記被覆部の少なくとも一部の粒子形状は、後述する熱処理の有無に関係なく確認され、後述する熱処理を行った場合であっても、被覆部の少なくとも最表層域で確認されうる。前記被覆部の少なくとも一部の粒子形状は、粒子の集合体であり得、潜熱蓄熱粒子製造時に使用した子粒子の集合体であり得る。よって、潜熱蓄熱粒子の「被覆部の少なくとも一部は粒子形状である」とは、走査型電子顕微鏡にて倍率10000倍で観察したときに、少なくとも10個の粒子(一部が、他の粒子と接合されていてもよい。)が確認されることをいう。
【0044】
前記被覆部の少なくとも一部の粒子形状の部位は、平均粒子径が0.1μm以上、2μm以下でありうる。この平均粒子径は、上記電子顕微鏡で観察された少なくとも10個の粒子の平均円相当直径をいう。前記被覆部における、上記少なくとも一部の粒子形状の部位以外の領域は、例えば、子粒子が溶融、凝集することにより形成された、多孔質であるか緻密な密実層でありうる。
【0045】
前記被覆部には、前記コア部を構成する元素、該元素を含む合金および無機化合物、ならびにこれらの混合物よりなる群から選択される1以上(コア部由来成分)が含まれていてもよい。コア部を構成する元素として、前述の通り、Al、Mg、Si、Ti、Fe、Ni、Cu、Zn、Sn、Sb、Ga、In、Bi、Pb、およびCdよりなる群から選択される元素が挙げられる。前記無機化合物として、前記元素を含むセラミックス、前記元素を含むガラスが挙げられる。被覆部に含まれるコア部由来成分は、コア部を構成する元素が含まれていればよく、コア部由来成分の形態はコア部の成分と同一であってもよいし、異なっていてもよい。両者の形態が異なる場合として、コア部の成分が金属で、コア部由来成分が該金属の酸化物であることが挙げられる。
【0046】
前記被覆部にコア部由来成分が「含まれる」とは、前記コア部由来成分が、前記被覆部を構成する成分と少なくとも一部が接していることをいい、例えば、前記コア部由来成分の全部が前記被覆部を構成する成分で覆われること、前記コア部由来成分の一部が前記被覆部を構成する成分で覆われ、前記コア部由来成分のその他の部分は外気にさらされていること(例えば、被覆部の表面の一部に接するように存在すること)が挙げられる。
【0047】
潜熱蓄熱粒子の形状は、球状に限定されず、多角形状、ラグビーボール状、円盤状、円筒状であってもよい。
【0048】
〔潜熱蓄熱粒子の製造〕
潜熱蓄熱体を構成する潜熱蓄熱粒子の製造方法は特に限定されない。例えば特開平11-23172号公報に記載のように、電解めっき法によって、潜熱蓄熱材の表面に金属被膜を形成してもよい。また、本出願人による特開2019-173017号公報に記載されているように、金属・合金系のPCMを含むコア部に、コア部に含まれる組成元素の酸化被膜で被覆することによって、潜熱蓄熱粒子を形成してもよい。このプロセスでは、コア部の表面を化成被膜処理して一次被膜を形成し、次いで、一次被膜を熱処理してコア部の表面に二次被膜としての酸化被膜を形成している。化成被膜処理は、ゾル・ゲル法、陽極酸化処理、アルカリ-クロム塩酸法、ベーマイト法、クロム塩酸法、リン酸-クロム塩酸法、リン酸亜鉛法、ノンクロメート化成被膜処理法の何れかであってもよい。あるいは、本出願人による国際出願第PCT/JP2022/033596号に記載されているように、金属または合金を含むPCMからなるコア原料粒子と、コア部の成分と異なる1以上である子粒子とを準備し、コア原料粒子と子粒子とを高速気流中衝撃法で衝突させて、コア原料粒子の表面に子粒子を固着させるハイブリダイゼーションを行うことによって、潜熱蓄熱粒子を形成してもよい。
【0049】
本実施形態で用いられる潜熱蓄熱粒子を、ハイブリダイゼーションで製造する方法について以下に説明する。本実施形態で用いられる潜熱蓄熱粒子は、所定の成分のコア原料粒子と、所定の成分の子粒子とを準備すること、および、前記コア原料粒子と前記子粒子を、高速気流中衝撃法で衝突させて、コア原料粒子の表面に子粒子を固着させるハイブリダイゼーションを行うことを含む方法で製造することができる。この製造方法によれば、従来の潜熱蓄熱粒子の製造方法と異なり、例えば、コア部の主成分と被覆部の主成分が異なる潜熱蓄熱粒子を容易に実現できる。以下では、潜熱蓄熱粒子の製造方法の各工程について説明する。
【0050】
(原料粒子の準備)
原料粒子として、コア原料粒子と、被覆部を形成するための子粒子を準備する。コア原料粒子は、所望の潜熱蓄熱粒子のコア部に対応させて、例えば平均粒子径が10μm以上、200μm以下の粒子を用意することが挙げられる。なお、コア原料粒子に、粒子径が10μm未満の微細な粒子が含まれていても、ハイブリダイゼーション時に、例えば微細な粒子どうしがぶつかり合うことで、例えば30μm程度の比較的大きな粒子が得られうる。上記平均粒子径は、例えば、更に100μm以下であってもよく、より更には50μm以下であってもよい。また子粒子の平均粒子径は、0.1μm以上、2μm以下であって、(子粒子の平均粒子径/コア原料粒子の平均粒子径)の比率は、0.001以上、0.2以下であることが好ましい。前記子粒子の平均粒子径は、更に1.0μm以下、より更には0.4μm以下であってもよい。前記コア原料粒子が球状以外の場合、前記平均粒子径は、球相当直径である。コア原料粒子の成分は、潜熱蓄熱粒子のコア部の成分と同じであり、前記潜熱蓄熱粒子のコア部の成分について述べた通りである。また、子粒子の成分は、潜熱蓄熱粒子の被覆部の成分(特には主成分)と同じであり、前記潜熱蓄熱粒子の被覆部の成分で述べた通りである。なお、ハイブリダイゼーションの後に、コア原料粒子の成分の融点以上の温度で熱処理を行った場合、また実施例で行った繰り返し試験等の様に、融解凝固を繰り返し行った場合、潜熱蓄熱粒子の被覆部の成分は、子粒子の成分の酸化物であり得、また潜熱蓄熱粒子の被覆部の成分には、前述の通り、コア原料粒子の酸化物が含まれうる。
【0051】
装置に投入するコア原料粒子と子粒子の配合比率として、コア原料粒子と子粒子の合計に対する子粒子の割合が、10体積%以上、50体積%以下の範囲とすることが挙げられる。
【0052】
コア原料粒子と子粒子以外の第三成分として、バインダー、酸化防止剤などの添加剤が含まれうる。前記第三成分の許容量は、子粒子の量を100体積%としたときに、40体積%以下でありうる。
【0053】
(高速気流中衝撃法によるコア原料粒子と子粒子のハイブリダイゼーション)
本実施形態では、コア原料粒子と被覆部を形成するための子粒子とを用い、乾式の機械的方法である高速気流中衝撃法で、コア原料粒子の表面に子粒子を機械的に打ち付け、コア原料粒子の表面に子粒子が固着した潜熱蓄熱粒子を得る。前記「固着」には、子粒子の形状変化等により物理的に接着することの他、コア原料粒子と子粒子との化学反応により接着することも含まれる。固着の程度は限定されず、コア部の表面の少なくとも一部が被覆されていればよい。コア部の表面に占める被覆部の被覆率は、高いほど好ましく、前述のとおり、50面積%以上であることが好ましく、より好ましくは70面積%以上、更に好ましくは80面積%以上、より更に好ましくは90面積%以上であり、最も好ましくは100面積%である。
【0054】
以下、本実施形態に係る製造方法で使用する高速気流中衝撃法について、高速気流中衝撃装置を模式的に示した
図1を用いて説明するが、本開示はかかる実施形態に限定されない。
【0055】
図1は、高速気流中衝撃法によるハイブリダイゼーションを実施するための、高速気流中衝撃装置100の模式断面図である。高速気流中衝撃装置100は、原料粒子投入口1、高速回転するローター2、ブレード3、ステーター4、循環回路5、排出弁6、排出口7を備えている。
【0056】
高速気流中衝撃法では、まず、粉体であるコア原料粒子8と、微粉体である子粒子9が、試料投入口1から衝突室へ供給され、ローター2の回転により衝突室中のコア原料粒子8と子粒子9が、高速で衝突室内を回転しながら飛散し、その間に、コア原料粒子8の表面に子粒子9が衝突する。一部の原料粒子は、この衝突室と接続された循環回路5の一方の接続口から管内に入り循環した後、他方の接続口から再び衝突室内に導入される。この循環回路5により、コア原料粒子8と子粒子9の衝突処理を繰り返し行うことができる。このようにして回転による衝突を一定時間続けることで、コア原料粒子8の表面に、子粒子9が固着し、更には子粒子9が変形等することによって形成された、潜熱蓄熱粒子10が得られる。コア原料粒子8と子粒子9の衝突中は排出弁6により排出口7への導入路が閉じられているが、一定時間後、得られた潜熱蓄熱粒子10は、排出弁6を移動させることにより開通した排出口7への導入路を通って、排出口7から装置外に排出される。図示していないが、衝突室内が高温とならないように、冷却水の通路を設け、冷却水を流して冷却しながら衝突処理を行ってもよい。上記高速気流中衝撃法によれば、従来得られなかったコア原料粒子と子粒子の材料の組み合わせの潜熱蓄熱粒子を製造できる。また、上記潜熱蓄熱粒子を乾式で得ることができ、有機溶媒等を使用する必要がなく、短い時間で得ることができるため、効率的かつ安定的に潜熱蓄熱粒子を製造できる。
【0057】
上記装置におけるローター2の周速度は、例えば40m/s以上、100m/s以下の範囲とすることが挙げられる。処理時間は、処理量にもよるが、例えば1~120分の範囲とすることができる。処理温度は例えば室温から70℃までの範囲とすることができ、更には室温から50℃までの範囲とすることができる。衝突室の圧力、雰囲気は特に限定されない。衝突室の雰囲気は、例えばAr雰囲気などの不活性ガス雰囲気とすることができる。
【0058】
上記ハイブリダイゼーションにより得られた潜熱蓄熱粒子は、被覆部が子粒子の凝集により形成された多孔質であり得、被覆部の少なくとも一部、例えば被覆部の最表層は粒子形状である。本実施形態に係る潜熱蓄熱粒子として、上記ハイブリダイゼーションにより得られたものを、例えば熱交換材料の形成に使用することができる。
【0059】
本実施形態に係る潜熱蓄熱粒子は、これまでの潜熱蓄熱粒子のように、熱処理(か焼)を行うことを必須としない。一方、必要に応じて、例えば多孔質の被覆部に含まれる空隙を低減させ、被覆部としてより緻密な膜を形成することを目的に、熱処理を施してもよい。熱処理を行う場合、次の条件で行うことが挙げられる。
【0060】
(必要に応じて行う熱処理(か焼))
熱処理条件は、コア原料粒子の成分と所望とする被覆部に応じて、温度と雰囲気を設定することができる。例えば、熱処理は、潜熱蓄熱材料の融点以上の温度で実行することが挙げられ、例えばコア原料粒子の成分の融点に応じて700℃以上に加熱することが挙げられる。この熱処理で、上記ハイブリダイゼーションにより形成された被覆部が酸化され、例えばより強固なアルミニウム酸化膜を形成することができる。熱処理により形成されるアルミニウム酸化膜は、概ね800℃以下の比較的低温ではγ-Al2O3の結晶形であり、化学的に安定とされるα-Al2O3膜は概ね880℃以上の比較的高温で得られる。化学的に安定なα-Al2O3膜を得るには、熱処理の温度を880℃以上とすることが好ましい。例えば880℃以上、1230℃以下とすることが好ましい。コア原料粒子が例えばAl-Si合金の場合、熱処理は900℃以上、1230℃以下の温度で行うことが挙げられる。
【0061】
熱処理の雰囲気は、特に限定されない。例えば、大気雰囲気、または熱処理炉へ酸素ガスを供給して酸素雰囲気とすることなどが挙げられる。ヒータにより炉内の温度を高め、試料の温度が所定の温度に達した時点から、例えば3~5時間の熱処理(酸化処理)を施して、熱処理後の潜熱蓄熱粒子を得ることができる。熱処理の方法は、例えば具体的に、上記ハイブリダイゼーションにより得られた潜熱蓄熱粒子を、坩堝内に充填し、この坩堝を挿入棒の先端に設けられた熱電対の上部に載置し、ヒータを備えた熱処理炉内にセットして行うことがあげられる。
【0062】
〔潜熱蓄熱体の態様〕
本実施形態の触媒含有温度制御材料に含まれる潜熱蓄熱体は、少なくとも1つの潜熱蓄熱粒子で構成される。すなわち潜熱蓄熱体は、1つの潜熱蓄熱粒子であってもよいし、複数の潜熱蓄熱粒子であってもよい。潜熱蓄熱体が1つの潜熱蓄熱粒子である場合、触媒含有温度制御材料は、複数の、潜熱蓄熱粒子の表面に触媒が配置された触媒含有潜熱蓄熱粒子でありうる。潜熱蓄熱体が複数の潜熱蓄熱粒子である場合、潜熱蓄熱体は、複数の潜熱蓄熱粒子のみで構成されていてもよいし、複数の潜熱蓄熱粒子と添加物を混合して得られる混合物、更には該混合物を成形して得られる成形体であってもよい。具体的に、潜熱蓄熱体が複数の潜熱蓄熱粒子のみで構成される場合、例えば粉体状の潜熱蓄熱粒子として用いるか、または錠剤成型機等により成形し、粒状、円柱状、円盤状、板状等のペレット(成形体)としてもよい。潜熱蓄熱体が複数の潜熱蓄熱粒子と添加物の混合物の成形体である場合、添加物として、ガラスフリット、アルミナ、チタン酸塩、アルミン酸塩、ジルコン酸塩、PVA(焼成等により除去され得る)等のバインダーや、アルミナ、チタニア等の不活性物質が挙げられる。バインダー等の割合は用途によって適宜決定すればよい。前記複数の潜熱蓄熱粒子とバインダー等との成形体を得る場合、それらを混合し、押出成型機にて成形して粒状、円柱状、円盤状、板状、ハニカム形状等のペレット(成形体)を得ることができる。または、ハニカム形状等の基材の表面が、前記複数の潜熱蓄熱粒子で被覆されていてもよい。
【0063】
[触媒]
本実施形態に係る触媒含有温度制御材料は、潜熱蓄熱体の少なくとも表面の一部に触媒が存在する。前記触媒は潜熱蓄熱体の表面の少なくとも一部に存在しうる。触媒として、発熱反応または吸熱反応に好適な種類の触媒が適宜選択されうる。例えば触媒活性を有する活性金属は、より具体的には、Ti等の第4族元素、V等の第5族元素、Cr等の第6族元素、Mn等の第7族元素、Ru、Fe等の第8族元素、Rh、Co等の第9族元素、Ni、Pd、Pt等の第10族元素、Cu、Ag等の第11族元素、Zn等の第12族元素、In等の第13族元素よりなる群から選択される1種以上の金属およびこれらの酸化物、錯体であってもよい。触媒活性を有する活性金属として、好ましくは、Ni、Co、Fe、Ag、Ru、Rh、Mn、Pd、Cu、およびPtよりなる群から選択される1種以上の活性金属が挙げられる。それらは、例えば二酸化炭素のメタネーション反応に一般的に用いられる触媒、アンモニア分解反応に一般的に用いられる触媒、炭素燃焼反応に一般的に用いられる触媒等として用いられ得る。前記活性金属は、担体に担持されうる。前記金属を担持させるための担体として、Zr、Al、Cr、Zr、Si、Mg、Ti、Y、Ce、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuよりなる群から選択される1種以上の元素の、単独酸化物(2種以上の単独酸化物の混合物を含む)または複合酸化物が挙げられる。好ましくは、ZrO2、少量の上記酸化物が安定化剤としてZrO2に含まれる安定化ジルコニア、例えば少量の酸化イットリウムが安定化剤としてZrO2に含まれるイットリア安定化ジルコニア(YSZ)が用いられうる。潜熱蓄熱体と触媒の比率は、対象とする発熱反応または吸熱反応に応じて適宜決定することができる。
【0064】
潜熱蓄熱体の少なくとも表面の一部に触媒を形成する方法として、含浸法、ゾル・ゲル法、混練法、共沈法、イオン交換法、蒸着法等の物理的方法、化学反応を利用した調製方法等を適用することができる。触媒製造のための出発原料として、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、錯塩、水酸化物、有機化合物などの種々の化合物、金属及び金属酸化物を用いることができ、これらを水性または有機性の媒体に溶解または分散させて用いることができる。潜熱蓄熱体の少なくとも表面の一部に触媒を形成する方法は、下記の触媒含有温度制御材料の製造方法で詳述する。
【0065】
本実施形態に係る触媒の態様は、下記の[触媒含有温度制御材料の態様]で説明する通り、潜熱蓄熱体の態様により異なる。
【0066】
[触媒含有温度制御材料の態様]
前述の通り、本実施形態に係る触媒含有温度制御材料を構成する潜熱蓄熱体は、1つの潜熱蓄熱粒子、または複数の潜熱蓄熱粒子であり得、本実施形態に係る触媒含有温度制御材料は、潜熱蓄熱体の態様によって種々の態様をとりうる。そのうちのいくつかの例を
図2~
図4に示す。
【0067】
図2は、前記潜熱蓄熱体が1つの潜熱蓄熱粒子であって、該潜熱蓄熱粒子の表面に前記触媒を有する態様を、部分的に示した模式断面図である。本明細書では、この様に潜熱蓄熱粒子の少なくとも表面の一部に触媒が配置された構造体を「触媒含有潜熱蓄熱粒子」という。この
図2に示す通り、触媒含有潜熱蓄熱粒子50aは、潜熱蓄熱粒子と、潜熱蓄熱粒子の被覆部53の表面に位置する担体層55と、担体層55の表面の少なくとも一部に位置する粒子状の触媒60とを有する。なお、触媒60の形状、担持量などはこの図に限定されない。また、被覆部53が担体層を兼ねており、被覆部53の表面に触媒が直接位置してもよい。本実施形態に係る触媒含有温度制御材料は、複数の触媒含有潜熱蓄熱粒子50aで構成されうる。
【0068】
触媒60は、前記潜熱蓄熱体の全面に配置されている必要はない。触媒60は、潜熱蓄熱粒子体50の被覆部53(または担体層55)の表面の少なくとも一部に担持または析出されていればよい。被覆部53(または担体層55)の全表面積に対する触媒60の被覆割合は、対象とする反応等によるが、例えば50面積%以上、更には70面積%以上であり得る。
【0069】
触媒含有潜熱蓄熱粒子50aを用いると、発熱または吸熱の反応熱が生じる位置とコア部51のPCMとの距離(伝熱距離)dを十分小さくできるので、上記位置からPCMにより効率よく熱を回収または付与することができる。また、例えばメタネーション反応後に放熱モードとして利用する場合に、吸熱反応が生じる吸熱位置とコア部51のPCMとの伝熱距離dをさらに小さくできるので、PCMから吸熱位置により効率よく熱を供給することができる。この例では、伝熱距離dは、PCMを被覆する被覆部53および担体層55の合計厚さに相当する。各触媒含有潜熱蓄熱粒子50aにおける触媒60とPCMとの距離(伝熱距離d)は、例えば、マイクロメートルオーダー(例えば1mm未満)であってもよい。触媒含有潜熱蓄熱粒子50aを反応部に直接充填または設置することができる。
【0070】
図3は、本実施形態に係る触媒含有温度制御材料が、前記触媒含有潜熱蓄熱粒子の集合体である態様を示している。この
図3に示す例では、潜熱蓄熱粒子50の表面に触媒60が位置する触媒含有潜熱蓄熱粒子50aを複数含む成形体42が反応部11に配置されている。以下、触媒含有潜熱蓄熱粒子50aを複数含む成形体42を「触媒含有潜熱蓄熱粒子群ペレット」と呼ぶ。集合体は、粒状、円柱状、円盤状、板状等の成形体(ペレット)でありうる。触媒含有潜熱蓄熱粒子群ペレットを用いると、触媒ペレットと、潜熱蓄熱粒子を複数含む潜熱蓄熱ペレットとを別々に用いる場合よりも、触媒の充填量を減少させることができる。触媒の体積が減少することで、潜熱蓄熱体の充填量を増やすことができ、反応温度の変動をさらに効率よく抑制することが可能になる。図示していないが、
図3に示す触媒含有潜熱蓄熱粒子群ペレット42の表面に触媒粒子をさらに配置してもよい。
図4に示した例では、触媒粒子が潜熱蓄熱体の表面に位置しているが、触媒含有潜熱蓄熱粒子群ペレット42は、触媒粒子および潜熱蓄熱体を含んでいればよく、例えばペレット内で触媒粒子と潜熱蓄熱体とがランダムに混ざり合っていてもよい。
【0071】
触媒60は、潜熱蓄熱粒子50の被覆部53(または担体層55)の表面の少なくとも一部に担持または析出されていればよい。被覆部53(または担体層55)の全表面積に対する触媒60の被覆割合は、例えば50面積%以上、更には70面積%以上であり得る。
【0072】
図4は、本実施形態に係る触媒含有温度制御材料が、複数の潜熱蓄熱粒子の集合体(潜熱蓄熱粒子を複数含む潜熱蓄熱ペレット)の表面に触媒を有する態様を示している。この
図4に示される通り、潜熱蓄熱粒子を複数含む潜熱蓄熱ペレットの表面に触媒を有する成形体を、「触媒担持潜熱蓄熱ペレット」と呼ぶ。
図4では、触媒担持潜熱蓄熱ペレットの斜視図、横断面図、および、触媒担持潜熱蓄熱ペレットの表面近傍の拡大断面図を示す。
図4に示すように、複数の潜熱蓄熱粒子50を含む潜熱蓄熱ペレット41の表面の少なくとも一部に、触媒60が配置(例えば担持または析出)されていてもよい。例えば、潜熱蓄熱ペレット41は、粒子状の触媒60で被覆されていてもよい。これにより、触媒ペレットを別途配置する場合と比べて、触媒60と潜熱蓄熱粒子50のPCMとの距離(伝熱距離)dを小さく抑えることができる。また、触媒60を潜熱蓄熱ペレット41の表面に配置することで、触媒60と原料流体とを接触させやすくなり、触媒機能をより効果的に発揮できる。潜熱蓄熱ペレット41の全表面積に対する触媒60の被覆割合は、例えば50面積%以上、更には70面積%以上であり得る。
【0073】
前記
図3および
図4では、各ペレットを模式的に円筒形状で示しているが、前述の通りペレットの形状は特に限定されず、必要な強度を維持し、流体の圧損失が少なく、かつ流体との熱交換および反応が効率よく進められるものが好ましく、種々の公知形状のペレットを使用することができる。ペレットの形状は、例えば球状、楕円状、円柱状、直方体状、立方体状、ハニカム状、中空円柱状、中空角柱状、顆粒状、破砕状等であってもよい。例えば、円筒状ペレットの代わりに、複数の潜熱蓄熱粒子50を用いてハニカム形状とした潜熱蓄熱ペレットの表面に、触媒粒子が配置された構造を有してもよい。あるいは、他の材料で構成された支持体(例えばハニカム形状の支持体)の表面に潜熱蓄熱体(および触媒)を固着させた構造体を形成し、反応部内に配置してもよい。また、形状、サイズまたは構造の異なる複数のペレットを使用してもよい。
【0074】
(触媒含有温度制御材料の製造方法)
触媒含有温度制御材料は、例えば次の様な方法で製造することができる。
【0075】
触媒含有温度制御材料が、潜熱蓄熱粒子の表面に触媒を有する場合についてまず説明する。触媒部形成のための原料成分を用意する。まず触媒における担体を前述の通り製造した潜熱蓄熱粒子の表面に形成する。担体は、前述したZr、Al、Cr、Zr、Si、Mg、Ti、Y、Ce、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuよりなる群から選択される1種以上の元素の酸化物および/または塩を用意する。上記元素の塩として、硝酸塩、塩酸塩、酢酸塩などを用いることができる。
【0076】
一例として、潜熱蓄熱粒子と担体(粉末)とを混合し、ペレットを得ることが挙げられる。詳細には、潜熱蓄熱粒子と担体(粉末)とを混合し、冷間成型した後に焼成して潜熱蓄熱粒子と担体(粉末)の混合ペレットを得ることができる。他の例として、潜熱蓄熱粒子の表面に担体を形成することが挙げられる。すなわち、上記潜熱蓄熱粒子と、ゾル状の上記酸化物および/または塩の水溶液を混合し、製造量にもよるが、例えば30分以上例えば10時間以下撹拌する。その後、例えば恒温乾燥炉により、加熱することや、蒸留等により一部の水分を除去し、乾燥させる。次いで、焼成工程において、例えば電気炉などの加熱炉により焼成して、担体形成潜熱蓄熱粒子を得ることが挙げられる。
【0077】
次いで、活性金属の担持を含浸法により行うことが挙げられる。詳細には、担体形成潜熱蓄熱粒子に対し、活性金属の化合物(例えば、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、錯塩、水酸化物、有機化合物)の水溶液を調製する。調製した前記水溶液に、前記担体形成潜熱蓄熱粒子を含浸させる。その後、例えば蒸留等により一部の水分を除去し乾燥させてから、大気中で、例えば500℃でか焼する。次いで、水素雰囲気下、例えば500℃で、か焼により生成した活性金属の酸化物を還元させて、触媒含有潜熱蓄熱粒子を得ることが挙げられる。
【0078】
前記
図3に例示する通り、触媒含有潜熱蓄熱粒子の集合体を触媒含有温度制御材料として得る場合、上述の通り製造した複数の触媒含有潜熱蓄熱粒子と、ガラスフリット、アルミナ、チタン酸塩、アルミン酸塩、ジルコン酸塩、PVA(焼成等により除去され得る)等のうちの1以上のバインダーとを混合し、成形し、必要に応じて焼成することで、所望のサイズおよび形状(粒子状、ハニカム形状、リング状、円筒形状など)を有する成形体を作製することができる。バインダーの割合は用途によって適宜決定すればよい。成形体を用いると、反応器に流入した流体の流路を確保しつつ、所定の量の潜熱蓄熱体を充填することが可能である。
【0079】
前記
図4に例示する通り、潜熱蓄熱粒子の集合体(潜熱蓄熱ペレット)の表面に前記触媒を有する触媒担持潜熱蓄熱ペレットを得る場合、上述の通り製造した複数の潜熱蓄熱粒子の集合体(潜熱蓄熱ペレット)をまず製造する。そして、前述の潜熱蓄熱粒子の表面に前記触媒を有する場合と同様に、潜熱蓄熱粒子の集合体(潜熱蓄熱ペレット)の表面に触媒を形成し、触媒担持潜熱蓄熱ペレットを得ることができる。
【0080】
本実施形態に係る触媒含有温度制御材料は、発熱反応または吸熱反応に用いられる。本明細書において、化学反応である発熱反応、吸熱反応とは、原料物質を例えば反応器内に供給すると、原料物質の化学変化によって、原料物質とは異なる物質(生成物)が生成される反応を指す。該発熱反応または吸熱反応の具体的な反応は限定されず、触媒を用いて行われる反応であればよい。本明細書では、発熱反応の一例として、メタネーション反応を例に説明しているが、化学反応は、メタネーション反応に限定されない。吸熱反応であってもよい。メタネーション反応以外の発熱反応として、後述する実施例に示す炭素燃焼反応、炭化水素、アルコール等の触媒燃焼、酸化反応、還元反応、水和反応、一酸化炭素の水性シフト反応、付加環化反応、クラッキング等の低分子量化反応、触媒重合反応等が挙げられる。また吸熱反応として、後述する実施例に示すアンモニア分解反応、炭化水素の水蒸気改質反応、メタン、プロパン等の水蒸気改質反応、メタノールの分解反応、エチルベンゼンの脱水素によりスチレンを生成する反応等が挙げられる。特に大きな発熱、もしくは吸熱反応を伴う反応であり、または、さらに反応温度に対して反応の依存性を強く持つ反応において、本発明の効果がより好適に発揮される。
【0081】
触媒含有温度制御材料は、例えば反応器の内部流路に配置され得、反応器に供給された流体が触媒含有温度制御材料に直接接触または近接して通過しうる。それにより、触媒含有温度制御材料は、反応熱をその場で(発熱反応または発熱現象が生じた発熱位置で)吸収し、あるいは吸熱反応にその場で(吸熱反応または吸熱現象が生じる吸熱位置で)熱を放出することが可能である。つまり、発熱位置または吸熱位置と潜熱蓄熱粒子50のPCMとの距離(伝熱距離)を、伝熱壁を介した従来の間接的熱交換よりも小さくできる。従って、反応熱をより効率よく触媒含有温度制御材料に回収し、または、触媒含有温度制御材料からの熱をより効率よく吸熱位置に供給することができ、温度の変動を抑制できる。
【0082】
本実施形態の触媒含有温度制御材料を用いた熱制御により、局所的に発生する急激な温度変化(ホットスポット)を低減できる。従って、ホットスポットに起因する触媒の劣化を抑制することができる。
【0083】
発熱反応または吸熱反応において、本実施形態に係る触媒含有温度制御材料を、固液共存状態(半溶融状態)に維持することが挙げられる。固液共存状態では、PCMが熱を吸い取る速度とPCMから熱を放出する速度とが釣り合っており、温度の局所的な変動をより効果的に抑制することができる。例えば、局所的かつ突発的に温度上昇が生じても、PCMの固体部分が速やかに吸熱し、温度の上昇を緩和することが可能である。
【0084】
更に、本実施形態の触媒含有温度制御材料は、反応に応じてPCMの融点の範囲が制御されているため、反応熱を過度に吸収または放出させることなく、適切な反応温度域とすることができ、該材料に配置された触媒による反応を促進させることができる。
【0085】
本実施形態には、触媒含有温度制御材料を用いた発熱反応または吸熱反応の反応温度制御方法も含まれる。本実施形態では、上述した触媒含有温度制御材料を発熱反応または吸熱反応に用いることによって、反応温度の上昇または低下を抑制し、反応温度を適正温度範囲に制御、すなわち反応温度の安定化を図ることができる。
【実施例0086】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0087】
(実験例1)
実験例1では、発熱反応としてメタネーション反応時の、本実施形態に係る触媒含有温度制御材料の高温化抑制効果を確認するための検討実験を行った。
【0088】
<1.試料の作製>
以下の方法で、反応器に充填する試料を用意した。
(試料A:触媒担持Al-Cu-Si潜熱蓄熱ペレットの作製)
触媒担持Al-Cu-Si潜熱蓄熱ペレット(
図4)(融点:521℃)を、次のようにして作製した。コア原料粒子としてAl-Cu-Si合金系粒子、子粒子としてα-Al
2O
3粒子を用意した。次いで、上記と同様にハイブリダイゼーション処理および熱処理を行うことにより、Al-Cu-Si潜熱蓄熱粒子を作製した。合金の組成、処理条件を以下に示す。
・コア原料粒子 Al-26.5mass%Cu-5.4mass%Si粒子(平均粒子径:25~38μm)
・子粒子 α-Al
2O
3粒子(平均粒子径:0.3μm)
・コア原料粒子および子粒子の合計に対する子粒子の割合 20vol%
・ハイブリダイゼーション 周速度:80m/s、処理時間:3分間
・熱処理条件 O
2雰囲気中で1000℃、3時間
【0089】
上記方法で作製したAl-Cu-Si潜熱蓄熱粒子のSEM-EDS観察を行った。
図5は得られたAl-Cu-Si潜熱蓄熱粒子のSEM写真である。この
図5に示される通り、直径が約30μmの略球形状のAl-Cu-Si合金部分(コア部)の表面に、厚さが1~2μmのα-Al
2O
3層(被覆部)が形成されていることを確認した。また、得られたAl-Cu-Si潜熱蓄熱粒子は、コア原料粒子の表面に子粒子を固着させるハイブリダイゼーションにより製造することに由来して、シェル部(被覆部)の少なくとも一部の部位は粒子形状であった。コア部のAl-Cu-Si合金(PCM)の融点は521℃であった。
【0090】
次いで、Al-Cu-Si潜熱蓄熱粒子と、触媒担体としてのYSZ粉体とを混合して、Al-Cu-Si潜熱蓄熱ペレットを成形した。
【0091】
続いて、Al-Cu-Si潜熱蓄熱ペレットの表面に、以下のようにしてNiを担持させた。まず、20wt%エチレングリコール(EG)水溶液に、0.5MとなるようにNi(NO3)2・6H2O(硝酸ニッケル六水和物)を添加した。次いで、モノエチルアミンをpH調整剤として、水溶液のpHを約9.5に調整し、40kHzで超音波混合することで、ゲル化させた。この後、上記方法で作製したAl-Cu-Si潜熱蓄熱ペレットを、ペレットの体積とゲルの体積が1:1となるようゲル中に投入した。この混合試料を100℃で24時間乾燥させ、大気中500℃でのか焼によって酸化ニッケル(NiO)を生成させる。次いで、水素雰囲気中、500℃の温度でNiOを還元することによって、ペレット表面にニッケル(Ni)を担持させた。Al-Cu-Si潜熱蓄熱ペレットに対するNiの担持量を10mass%とした。このようにして、1.18~1.4mmのサイズの触媒担持Al-Cu-Si潜熱蓄熱ペレットを作製した。触媒担持Al-Cu-Si潜熱蓄熱ペレットにおける空隙率は0.3であった。
【0092】
(試料B:参照用触媒担持Al2O3ペレットの作製)
比較例として、PCMを実質的に含まない参照用触媒ペレットを用意した。ここでは、まず、以下の原料を混合し、約1.18~1.41mm程度の粒子に冷間成型した。
・PCMを含まない顕熱潜熱蓄熱材 α-Al2O3粒子(平均粒子径:約30μm) 70vol%
・焼結バインダー α-Al2O3粒子(平均粒子径:約0.3μm) 20vol%
・触媒担体 YSZ(ZrO2-3mol%Y2O3)粉末 10vol%
・成型用バインダー 10wt%PVA水溶液
・PVA水溶液(PVA:10wt%) 重量比で上記原料の合計重量の1/5(上記の原料:PVA水溶液=5:1)
次いで、得られた粒子を以下の温度プログラムで焼成し、Al2O3およびYSZを含むAl2O3ペレットを得た。
・温度プログラム 165℃まで加熱して165℃で2時間保持した後、400℃まで加熱して400℃で2時間保持、続いて、1100℃まで加熱して1100℃で1時間保持。温度上昇率:5℃/min。
【0093】
続いて、Al
2O
3ペレットの表面に、試料Aと同様の方法で、Niを担持させた。Al
2O
3ペレットに対するNiの担持量を10mass%とした。これにより、1.18~1.4mmのサイズの参照用触媒担持Al
2O
3ペレットを作製した。
<2.実験装置>
図6は、本実験で使用した実験装置の模式的な断面図である。実験装置は、流通系固定床型反応器であり、石英製の反応管(内径:20mm)70と、反応管70内に配置された多点熱電対73と、反応管70の周囲に絶縁体を介して配置された加熱部87とを備える。反応管70は、予熱部71と、予熱部71の下流側に配置された反応部72とを有する。予熱部71には、予熱用の石英ビーズ85(直径:3mm)が充填されている。反応部72には、上記方法で作製した試料(ペレット)88が充填される。
【0094】
この実験装置では、反応部72に供給された原料ガス(第1の流体f1)は、反応管70内の流路をx方向に(ここでは下方向に)流通する。第1の流体f1は、予熱部71で予熱された後、反応部72内に流入し、反応部72内で触媒反応を生じる。触媒反応によって得られた生成物を含む生成ガス(第3の流体f3)は、反応管70の下端部から排出される。予熱部71の高さ(x方向における距離)は70mm、反応部72の高さは100mmである。多点熱電対73は、予熱部71および反応部72に亘ってx方向に延設されており、予熱部71内の温度(流入温度)Tin、反応部72の上端の温度T0、および、反応部72の上端からx方向にa(mm)離れた測定点の温度Ta(この図では、a=0、25、50、75、100)を測定するように構成されている。実験例1では、流入温度は500℃、
【0095】
<3.実験方法>
図6に示す実験装置の反応部72に充填する試料、流入温度T
in等の条件を異ならせて、熱制御試験(以下、「試験」と略す。)1~4を行った。各試験では、反応部72内で触媒反応を行い、潜熱蓄熱体による熱制御効果および触媒活性を調べた。
【0096】
まず、上記方法で調整した試料を反応部72に充填した。反応部の体積に対する試料の充填率は0.6であった。潜熱蓄熱ペレット内のPCMの融点Tmは521℃であった。
【0097】
次に、触媒の予備加熱を行った。反応管70にH2ガスを流通させて、加熱部87を用いて反応管70を加熱し、触媒を活性化させた。この加熱は、流入温度Tinが500℃に達するまで行った。
【0098】
続いて、第1の流体f1として、Ar、H2、およびCO2を含むガスを反応管70に流入させて試験を開始した。Ar、H2およびCO2の流量(f1)は、Ar:690Nml/min、H2:888Nml/min、CO2:222Nml/minとした。空間速度(GHSV:Gas Hourly Space Velocity)(h-1)3439h-1とした。GHSVは、反応部72を通過する1時間あたりのガス量を触媒の体積で除した値である。
【0099】
反応管70に流入した第1の流体f1は、予熱部71を経て、反応部72内でメタネーション反応(CO2+4H2→CH4+2H2O)を生じた。反応部72の下流側からは、第3の流体f3として、メタネーション反応によって得られたメタン(CH4)および水がArガスとともに排出された。試験中、多点熱電対73により、流入温度Tin、および反応部72内の各測定点の温度T0、T25、T50、T75を測定し、各測定点の温度履歴を調べた。
【0100】
また、反応管70から排出される第3の流体f3を、四重極質量分析計を用いて分析することにより、試料A(触媒担持Al-Cu-Si潜熱蓄熱ペレット)、試料B(参照用触媒担持Al2O3ペレット)のそれぞれを用いた場合の、CO2転化率(反応率)およびCH4選択率の時間変化を調べた。
【0101】
<4.実験結果>
図7は、試料A(触媒担持Al-Cu-Si潜熱蓄熱ペレット)および試料B(参照用触媒担持Al
2O
3ペレット)のそれぞれの反応部内の測定点の温度の測定結果を示す図である。
図7において、実線は試料A、点線は試料Bの測定結果である。この
図7によれば、試験開始直後に、反応部の上端から25mm付近の温度T
25が急激に高くなっており、この付近で顕著な温度上昇(ホットスポット)が発生していることが確認された。それに対して、試料A(触媒担持Al-Cu-Si潜熱蓄熱ペレット)は、ホットスポット地点を含む全ての温度測定点において、温度上昇速度および到達温度が、試料Bよりも抑制されていた。その理由の1つとして、試料A(触媒担持Al-Cu-Si潜熱蓄熱ペレット)を用いると、触媒と潜熱蓄熱体との伝熱距離をより小さくできることが推測される。
【0102】
図8Aは、試料A(触媒担持Al-Cu-Si潜熱蓄熱ペレット)、試料B(参照用触媒担持Al
2O
3ペレット)のそれぞれを用いた場合の、CO
2転化率(反応率)時間変化、
図8Bは、試料A(触媒担持Al-Cu-Si潜熱蓄熱ペレット)、試料B(参照用触媒担持Al
2O
3ペレット)のそれぞれを用いた場合の、CH
4選択率の時間変化を示す図である。これらの図から分かるように、潜熱蓄熱機能を有する触媒担持潜熱蓄熱ペレット(試料A)を用いた試験1では、潜熱蓄熱機能を持たない参照用触媒ペレット(試料B)を用いた試験2よりも数%~10%程度高いCO
2転化率およびCH
4選択率が得られた。これにより、潜熱蓄熱体が反応部に配置された場合でも、潜熱蓄熱体が触媒反応を阻害することなく、参照用触媒ペレット(試料B)と同程度以上の触媒活性が得られることが確認された。触媒担持Al-Cu-Si潜熱蓄熱ペレットの触媒は、参照用触媒ペレットの触媒よりも高い(数%程度高い)触媒活性を示し得ると考えられる。従って、本実験で作製した触媒担持Al-Cu-Si潜熱蓄熱ペレットを用いると、潜熱蓄熱機能を持たない通常の触媒ペレットと同等以上の触媒活性を確保しつつ、より高い熱制御効果を実現できることが確認された。
【0103】
本実施形態によると、潜熱蓄熱機能を持たない参照用触媒ペレットよりも、発熱反応による温度上昇速度または吸熱反応による温度下降速度を小さく抑えることができる。ホットスポットのような急激な温度上昇を抑制でき、かつ、反応雰囲気における反応温度を、適正温度域とすることのできる、触媒含有温度制御材料を提供できる。
【0104】
(実験例2)
触媒含有潜熱蓄熱粒子を用いた場合の熱応答性(潜熱蓄熱速度)を調べた。
【0105】
<1.試料の調整>
触媒含有Al-Si潜熱蓄熱粒子(
図2)(融点:577℃)の表面に、ゾル・ゲル法によりZrO
2をコーティングし、ZrO
2担体層を形成した。次いで、含浸法により、担体層にNi粒子を担持させた。Al-Si潜熱蓄熱粒子に対するNiの担持量を10mass%とした。このようにして、ZrO
2担体層表面にNi粒子が配置された触媒含有Al-Si潜熱蓄熱粒子を得た。また、比較のため、潜熱蓄熱機能をもたない触媒試料として、Ni触媒を用意した。
【0106】
<2.実験方法>
触媒含有Al-Si潜熱蓄熱粒子を、径6mmの反応管に充填し、充填層を形成した。充填量を0.2g、充填高さを5mmとした。この状態で、反応管に、Ar、H2、およびCO2を含むガス(温度:570℃)を流入させ、充填層の中央部の温度を測定しながら、メタネーション反応を生じさせた。Ar、H2、およびCO2の流量を、それぞれ、50ml/min、60ml/minおよび15ml/minとした。このようにして、反応開始からの時間(反応時間)による充填層の温度変化を調べた。Ni触媒についても同様の方法で、充填層の温度変化を調べた。
【0107】
<3.実験結果>
図9は、触媒含有Al-Si潜熱蓄熱粒子およびNi触媒における充填層の温度変化を示すグラフである。この結果から、触媒含有Al-Si潜熱蓄熱粒子を用いることによって、充填層の温度上昇を緩和でき、反応熱のより高速な制御が可能になることが確認された。
図9に示す結果では、潜熱による熱制御効果、すなわち潜熱蓄熱体によって回収された熱量は、斜線部分の領域Rで示される。領域Rの温度差を熱量に換算すると27.5Jであった。また、触媒含有Al-Si潜熱蓄熱粒子の潜熱蓄熱速度を試料体積基準で算出すると、2.29MWm
-3であった。
【0108】
(実験例3)
対象とする化学反応の反応温度と、該化学反応に用いる潜熱蓄熱体のPCMの融点との関係について、検討実験を行った。
【0109】
<1.試料の調整>
・比較例1と参照例1
比較例1として、下記の手順により試料D(触媒担持Zn-Al潜熱蓄熱ペレット)を用意した。また参照例1として、実験例1と同様の参照用触媒担持Al2O3ペレットを用意した。
(試料C:触媒担持Zn-Al潜熱蓄熱ペレットの作製)
コア原料粒子としてZn-Al合金系粒子、子粒子として、焼成によってα-Al2O3となるAl化合物粒子を用意した。次いで、Al-Cu-Si潜熱蓄熱粒子の作製方法と同様に、ハイブリダイゼーション処理および熱処理を行うことにより、Zn-Al潜熱蓄熱粒子を作製した。合金の組成、処理条件を以下に示す。なおコア部のZn-Al合金(PCM)の融点は380℃であった。
・コア原料粒子 Zn-10mass%Al粒子(篩下38μm未満)
・子粒子 AlOOH(平均粒子径:0.7μm)
・コア原料粒子および子粒子の合計に対する子粒子の割合 40vol%
・ハイブリダイゼーション 周速度:80m/s(13000rpm)、処理時間:3分間、Ar雰囲気
・熱処理条件 O2雰囲気中で800℃、3時間、昇温速度と冷却速度は50℃/min
【0110】
次いで、Zn-Al潜熱蓄熱粒子と、触媒担体としてのYSZ粉体とを混合して、Zn-Al潜熱蓄熱ペレットを成形した。
【0111】
続いて、Zn-Al潜熱蓄熱ペレットの表面に、試料Aと同様の方法で、Niを担持させた。Zn-Al潜熱蓄熱ペレットに対するNiの担持量を10mass%とした。これにより、1.18~1.4mmのサイズの触媒担持Zn-Al潜熱蓄熱ペレットを作製した。触媒担持Zn-Alペレットにおける空隙率は0.3であった。
【0112】
・実施例1と参照例2
実施例1として、実験例1で用いた試料A(触媒担持Al-Cu-Si潜熱蓄熱ペレット)を用意した。また参照例2として、実験例1と同様の参照用触媒担持Al2O3ペレットを用意した。
【0113】
・比較例2と参照例3
比較例2として、下記の試料Eを用意した。また参照例3として、実験例1と同様の参照用触媒担持Al2O3ペレットを用意した。
(試料D:触媒担持Al-Si潜熱蓄熱ペレットの調製)
コア原料粒子としてAl-Si合金系粒子を用意した。次いで、アンモニア水にてpH8に調整した水溶液中で、Al-Si合金系粒子に、90℃、3時間の化成被膜処理を施した。これにより、コア原料粒子の表面にAlOOH被膜が生成された前駆体を得た。次に、前駆体を、コア原料粒子の合金(Al-Si合金)の融点以上の温度で熱処理を行うことにより、Al-Si潜熱蓄熱体を作製した。合金の組成、処理条件を以下に示す。
・コア原料粒子 Al-12mass%Si粒子(平均粒子径:20~37μm)
・熱処理条件 Air雰囲気中で1150℃、3時間
【0114】
上記方法で作製したAl-Si潜熱蓄熱体のSEM-EDS観察を行ったところ、直径が約30μmの略球形状のAl-Si合金部分(コア部)の表面に、厚さが1~2μmのα-Al2O3層(被覆部)が形成されていることを確認した。コア部のAl-Si合金(PCM)の融点は577℃であった。
【0115】
次いで、Al-Si潜熱蓄熱体と、触媒担体としてのYSZ粉体とを混合して、Al-Si潜熱蓄熱ペレットを成形した。
【0116】
続いて、Al-Si潜熱蓄熱ペレットの表面に、試料Aと同様の方法で、Niを担持させた。Al-Si潜熱蓄熱ペレットに対するNiの担持量を10mass%とした。これにより、1.18~1.4mmのサイズの触媒担持Al-Si潜熱蓄熱ペレットを作製した。触媒担持Al-Siペレットにおける空隙率は0.3であった。
【0117】
<2.実験方法>
実験例1と同様の実験装置を用い、流入温度Tin、Ar、H2およびCO2の流量(f1)、空間速度を下記の通りとする以外は、実験例1と同様にして、反応時間ごとのT25、T50、T75を測定し、各測定点の温度履歴を調べた。またCO2転化率(反応率)およびCH4選択率の時間変化を、実験例1と同様にして求めた。そして、CO2転化率が65%以上であってかつCH4選択性が90%以上の場合を、好適であると判断した。
【0118】
【0119】
<3.実験結果>
実験条件とともにCO2転化率(反応率)およびCH4選択率の時間変化を、参照例1と比較例1はそれぞれ表2、表3、参照例2と実施例1はそれぞれ表4、表5、参照例3と比較例2はそれぞれ表6、表7に示す。
【0120】
上述した通り、参照例1は、潜熱蓄熱体を用いずに、上記CO2転化率が65%以上かつCH4選択率が90%以上となる条件での反応温度を、実験により求めたものである。なお参照例1は、反応指標が目標を達成する場合の反応温度を把握するための例であるが、潜熱蓄熱体を含まない触媒を用いているため、触媒の劣化が懸念される例である。この参照例1の結果を示した表2から、本実験例では、CO2転化率が65%以上かつCH4選択率が90%以上となった時点での反応管内の最低温度は、時間150秒後であって測定点T75における温度:390℃である。一方、CO2転化率が65%以上かつCH4選択率が90%以上を達成している反応管内の最高温度は、時間450~1200秒後であって測定点T25における温度:550℃である。これらの結果から、本実施形態に係る触媒含有温度制御材料のコア部の成分の融点の範囲は、(最低反応温度390℃+10℃)以上、つまり400℃以上であって、(最高反応温度550℃-10℃)以下、つまり545℃以下である。
【0121】
【0122】
【0123】
比較例1は、コア部の成分の融点(380℃)が、所定の温度範囲の下限400℃を下回った、触媒担持Zn-Al潜熱蓄熱ペレットを用いた例である。上記表2と表3の対比から、比較例1の通り、コア部の成分の融点が所定の温度範囲の下限を下回る潜熱蓄熱体を用いた場合、表3(比較例1)において、時間150秒後、測定点T75での温度が382℃であり、参照例1から決定した最低反応温度よりも低くなった。反応温度が低すぎると反応が十分に進行せず、この場合にはCO2転化率が59%となり、CO2転化率とCH4選択率を一定以上に高められなかった。本実施形態はいかなる理論によっても拘束されないが、上記表3の結果となった理由の一つとして、コア部の融点が本実施形態で規定する範囲に対して低すぎるため、好適な反応温度範囲に至る前で、相変化による吸熱が生じ、好適な反応温度に至る時間が長くなったことが考えられ得る。
【0124】
【0125】
【0126】
実施例1は、コア部の成分の融点が、所定の温度範囲内にある、触媒担持Al-Cu-Si潜熱蓄熱ペレットを用いた例である。上記表4と表5の対比から、実施例1の通り、コア部の成分の融点が所定の温度範囲内にある触媒含有温度制御材料を発熱反応に用いた場合、潜熱蓄熱体による吸熱の効果が良好に発揮されて、反応温度の上昇が抑制され、潜熱蓄熱体を含まない場合(参照例2)よりも、CO2転化率、CH4選択率ともに高くなった。
【0127】
【0128】
【0129】
比較例2は、コア部の成分の融点(577℃)が、所定の温度範囲の上限545℃を上回った、触媒担持Al-Si潜熱蓄熱ペレットを用いた例である。上記表6と表7の対比から、比較例2の通り、コア部の成分の融点が所定の温度範囲の上限を上回った場合には、潜熱蓄熱体による吸熱の効果が十分に発揮されず、過度の発熱を十分吸収できず、潜熱蓄熱体を含まない場合(参照例3)よりも、CO2転化率が劣る結果となった。
【0130】
(実験例4)
実験例1~3では、発熱反応であるメタネーション反応に触媒含有潜熱蓄熱体を利用する例を示した。本実験例では、吸熱反応であるアンモニア分解反応に触媒含有潜熱蓄熱体を利用した場合の効果を確認するための検討実験を行った。
【0131】
<1.試料の作製>
・試料H1~H3:Ni含有潜熱蓄熱体(Ni/MEPCM)
コア原料粒子としてAl-Si合金系粒子を用意した。次いで、Al-Si合金系粒子にベーマイト処理および酸化処理を行い、Al-Si潜熱蓄熱体を作製した。詳細には、まず蒸気凝縮器と攪拌機を備えたバッチ式反応器を用い、300mLの蒸留水を沸騰させた。その後、Al-25Si粒子を50g加え、400rpmの撹拌速度で3時間反応させた。そして、反応後の溶液を濾過して濾過物を乾燥させ、下記の熱処理条件で酸化処理を行って、Al2O3シェルを形成した。合金の組成、処理条件を以下に示す。
コア原料粒子 Al-25mass%Si粒子(平均粒子径:45μm未満)
熱処理条件 Air雰囲気中で960℃、3時間
【0132】
続いて、Ni(NO3)26H2O(純度:99.9%、高純度化学株式会社製)を所定の濃度で含む金属前駆体を用いて、インシピエント湿式含浸法により、Ni/MEPCMを作製した。ここでは、上記Al-Si潜熱蓄熱体5g、蒸留水25mL、および金属前駆体を含む混合物を作製し、ロータリーエバポレーターを用いて、70℃でゆっくりと水を蒸発させた。続いて、乾燥させた混合物を500℃で4時間焼成し、硝酸化合物を分解してNiをAl-Si潜熱蓄熱体の表面に結合させた。このようにして、試料H1~H3のNi含有潜熱蓄熱体(Ni/MEPCM)を得た。試料H1~H3のNiの担持量を表8に示す。
【0133】
・試料I1~I3:Co含有潜熱蓄熱体(Co/MEPCM)
金属前駆体としてCo(NO3)26H2O(純度:99.9%、関東化学株式会社製)を用いた点以外は試料H1~H3と同様の方法で、試料I1~I3として、表8に示すCo含有潜熱蓄熱体(Co/MEPCM)を作製した。
【0134】
・試料J1~J3:Fe含有潜熱蓄熱体(Fe/MEPCM)
金属前駆体としてFe(NO3)26H2O(純度:99.9%、関東化学株式会社製)を用いた点以外は試料H1~H3と同様の方法で、試料J1~J3として、表8に示すFe含有潜熱蓄熱体(Fe/MEPCM)を作製した。
【0135】
【0136】
<2.実験方法>
本実験例では、電気炉内に、内径6mmの反応管を設置し、反応管内に測定対象となる試料を充填した。まず、ArガスおよびH2ガスを500℃で1時間流通させて試料に含まれる触媒の還元を行った。次いで、5分間H2ガスをパージした後、ArガスおよびNH3ガスを反応管に流入させてアンモニア分解反応を開始した。流入させるガスの流量を表8に示す。
【0137】
水素パージから試験終了までの電気炉のヒータの温度制御プログラムを
図10に示す。
図10に示すプログラムに沿って反応管内の温度を制御すると、金属含有MEPCMがPCMの融点(ここでは577℃)以上まで加熱されずに、コア部のPCMが固体の状態(以下、「固体コア状態」と呼ぶ。)で吸熱反応が行われる期間m1と、金属含有MEPCMがPCMの融点を超えて加熱され、PCMが液体の状態(以下、「液体コア状態」と呼ぶ。)で吸熱反応が行われる期間m2とで、試料温度および転化率の変化を比較することができる。以下、金属含有MEPCMが固体コア状態のときの冷却過程において、試料温度および転化率を測定する期間m1を「固体コア状態測定期間」、金属含有MEPCMが液体コア状態のときの冷却過程において、試料温度および転化率を測定する期間m2を「液体コア状態測定期間」と呼ぶ。測定期間m1、m2の温度範囲は、570℃~500℃とした。また、測定期間m1、m2では、ヒータをオフに設定した。
【0138】
固体コア状態の金属含有MEPCMは潜熱蓄熱性能をもたないが、液体コア状態の金属含有MEPCMは、潜熱蓄熱体として機能する。したがって、測定期間m1、m2の測定結果を比較することで、潜熱蓄熱効果を確認することができる。なお、金属含有MEPCMは、PCM(ここではAl-Si)の凝固点が融点より25℃低い過冷却特性を有する。このため、
図10に示すように、液体コア状態測定期間m2において、522~557℃の温度範囲で異なる相(液相および固層)が生じ得る。シェル部を有するPCMの過冷却の程度は、シェル部を有していないPCMよりも大きくなる傾向がある。
【0139】
<3.実験結果>
(試料の成分・形状の評価)
上記試料H1~H3、I1~I3、J1~J3の試料(C/Ag/MEPCM)の形状を、SEM-EDS(日本電子株式会社製、JSM-7400F)を用いて観察した。得られたSEM観察写真を
図11に示す。更にSEM装置に付随のEDSによるAl、SiおよびOと、NiまたはCoまたはFeとのマッピングを示した写真も
図11に示す。
図11下方において、各元素(Al、Si、O、Ni、Co、Fe)のマッピングでは、粒子表面上の白色部分またはグレー部分が各元素の存在を示している。
【0140】
図11から、試料の表面には、触媒の量に関係なく、Ni、CoまたはFeが担持されていることがわかる。
【0141】
更に、試料の組成を、XRD回折(リガク製Mini Flex)を用いて分析した。
図12は、上記試料H1~H3、I1~I3、J1~J3の試料のXRD回折結果である。
図12から、MEPCMにはAl、Si、Al
2O
3のピークが検出され、含浸処理後の試料には、MEPCMを示すAl、Si、Al
2O
3に加えてNi等の触媒のピークも検出された。
【0142】
(試料の特性評価)
【0143】
図13Aは、試料温度の測定結果およびヒータの温度を示すグラフである。
図13Bは、
図13Aにおける2点鎖線で囲まれた2つの領域を重ねて示す拡大図である。
【0144】
図13Bから分かるように、固体コア状態測定期間m1では、反応開始から略同じ速度で温度が下がっていくのに対し、液体コア状態測定期間m2では、温度の低下速度が小さくなる時間(停滞時間)が生じて、温度の低下が緩和されていた。したがって、液体コア状態の金属含有MEPCMの冷却過程では、固体コア状態の金属含有MEPCMの冷却過程よりも高い温度が保持され得ることが確認された。また、液体コア状態測定期間m2では、過冷却温度範囲において、PCMの凝固が生じる際に放熱されていることから、金属含有MEPCMに蓄えられた潜熱を放出しながらアンモニア分解反応が進行していることが確認された。
【0145】
図14A~
図14Cは、測定期間m1、m2における転化率を示すグラフである。
図14Aは、試料H1~H3(Ni/MEPCM)を用いた場合の転化率、
図14Bは、試料I1~I3(Co/MEPCM)を用いた場合の転化率、
図14Cは、試料J1~J3(Fe/MEPCM)を用いた場合の転化率を示す。横軸は反応開始からの時間、縦軸は転化率(Conversation)を表す。
【0146】
図14A~
図14Cから分かるように、いずれの試料においても、液体コア状態測定期間m2における転化率が、固体コア状態測定期間m2における転化率よりも高くなった。これは、液体コア状態測定期間m2では、金属含有MEPCMに蓄えられた潜熱を利用して、より長い時間、試料温度をより高い適切な温度で保持することができ、この結果、触媒活性が高められたからと考えられる。
【0147】
(実験例5)
実験例5では、発熱反応として炭素燃焼反応時の、本実施形態に係る触媒含有温度制御材料の高温化抑制効果を確認するための検討実験を行った。
【0148】
<1.試料の作製>
上記実験例4と同様に作製したAl-Si潜熱蓄熱体に対し、含浸法でAgを担持させた。詳細には、硝酸銀(99.8%,関東化学)0.16gを蒸留水10mlに溶解させて得た溶液にMEPCM 0.9gを投入し全ての水を蒸発させた。得られた粉末を105℃で12時間乾燥し、500℃にて4時間空気雰囲気で焼成して10mass%Ag/MEPCMを得た。燃焼試験のために、カーボンブラック(99.9%,Alfa Aesar)を燃焼用炭素として用いた。Ag/MEPCMとカーボンブラックをアセトン中で混合してコーティングした後に乾燥することで、0.6mass%C/Ag/MEPCM,1.0mass%C/Ag/MEPCM,及び1.7mass%C/Ag/MEPCMを得た。また比較例として、MEPCMの代わりにAl2O3を用い、1.0mass%C/Ag/Al2O3、1.6mass%C/Ag/Al2O3を得た。
【0149】
<2.実験方法>
燃焼試験は流通系固定床型反応器にて実施した。試料を石英管(φ6mm×554mm)に充填させた。不活性雰囲気下で試料をあらかじめ560℃まで昇温した後、O2雰囲気(流量100mlmin-1)で3min燃焼試験をした。その際に触媒充填層内に設置した熱電対を用いて燃焼中の充填層の温度を測定した。触媒と炭素の混合試料の質量は100mg、試料充填層の高さは6mmであった。
【0150】
<3.実験結果>
(試料の成分・形状の評価)
上記燃焼試験での燃焼反応前後の本実施形態に係る試料(C/Ag/MEPCM)の形状を、FE-SEM(日本電子株式会社製JSM-7001F)を用いて観察した。得られたSEM観察写真を
図15に示す。更にSEM装置に付随のEDSによるAgとCのマッピングを示した写真を
図16に示す。
図15と
図16において、(a)はAg/MEPCM、(b)はカーボン混合後のAg/MEPCM(C/Ag/MEPCM)、(c)はカーボン燃焼後のAg/MEPCMを示す。
図16において、Agマッピングでは粒子表面上の白色部分がAgの存在を示しており、Cマッピングでは粒子表面上の濃グレーの微細なドットがCの存在を示している。
【0151】
図15に示される通り、含浸処理後にMEPCM表面に100~500nmの粒子が発生した。
図16のEDSによるマッピングから、これらの粒子はAgだった。即ち、含浸処理でMEPCM表面にAgを担持できたことがわかる。アセトン中でのカーボンブラックとの混合後、Ag/MEPCM表面にはカーボンブラックが付着した。酸素流通下でした燃焼試験後の試料表面には、燃焼試験前に見られたカーボンブラックは見られなかった。このことから、調製したAg/MEPCM触媒は、カーボンブラックに対して良好な燃焼性能を示した。また、燃焼試験後のMEPCMに破壊や内部の金属の漏出は見られなかった。このことから、MEPCMは表面での燃焼反応に耐えられる熱耐久性を持つことが分かる。
【0152】
更に、燃焼反応前後の本実施形態に係る試料(C/Ag/MEPCM)の組成を、XRD回折(リガク製Mini Flex)を用いて分析した。そのXRD回折結果として
図17に、MEPCMと、含浸処理後のAg/MEPCMと、触媒試験後のAg/MEPCMとのXRD回折結果を示す。
図17から、MEPCMにはAl、Si、α-Al
2O
3のピークが検出され、含浸処理後の試料には、MEPCMを示すAl、Si、α-Al
2O
3に加えてAgのピークが検出された。熱処理の温度である500℃がAg
2Oの熱分解温度を上回っているため、空気雰囲気で熱処理したにも関わらず金属状態のAgのピークが検出された。硝酸溶液を用いて含浸処理をしたが、金属Alは含浸処理中に溶解しなかった。このことはα-Al
2O
3シェルによってコアの金属が保護され、外側との接触が防がれたことを示す。
【0153】
更に
図17から、燃焼試験後の試料には、Al、Si、α-Al
2O
3、Agのピークが検出された。これらのピークは含浸処理後の試料が示すピークと全て一致するため、燃焼試験でどの相にも変化がなかった。燃焼試験は酸素雰囲気だったが、MEPCMのコアであるAlやSiは酸化しなかった。緻密なα-Al
2O
3シェルによってコアが雰囲気と接触しなかったためである。また、MEPCM表面に担持したAgも酸化しなかった。これは含浸処理後の試料と同様に、燃焼試験の温度である560℃がAg
2Oの熱分解温度を超えていることによって酸化しなかったためである。
【0154】
(試料の特性評価)
上記燃焼試験の結果として、本実施形態に係る試料の経過時間と試料の温度との関係を
図18に示す。また、比較例である試料の経過時間と試料の温度との関係を
図19に示す。
図18と
図19の対比から、1.0mass%C/Ag/MEPCMを用いて燃焼試験をした場合にはPCMの融点付近で温度停滞が見られた。これは炭素の燃焼によって触媒の温度がPCMの融点に到達し、融解潜熱として熱を吸収したため、温度の上昇が抑制されたと考えられる。この結果から、PCMを触媒担体として用いることで、発熱反応による温度上昇の制御が可能であることが分かった。これに対して、比較例である1.0mass%C/Ag/Al
2O
3を用いて燃焼試験をした場合には温度上昇が抑制されなかった。
【0155】
なお、
図18では、C量が1.7mass%の場合は温度が高くなっているが、これは炭素が燃焼して発生した熱をPCMが融解し、潜熱として吸収することでわずかに温度上昇を抑制したが、発熱量がPCMの熱容量を上回ったために更に温度が上昇したためと考えられる。よって、C量に対するMEPCM量を増加させるなど、割合を制御することにより、C量が1.7mass%の場合であっても、温度上昇を抑制できると考えられる。