(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137893
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】熱硬化性組成物、シート状硬化物、複合成形体及び半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20240927BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240927BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20240927BHJP
C08G 59/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/013
C08K3/38
C08G59/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024046093
(22)【出願日】2024-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2023046555
(32)【優先日】2023-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダオ ティ キム フォン
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊行
(72)【発明者】
【氏名】澤村 敏行
(72)【発明者】
【氏名】日高 克彦
(72)【発明者】
【氏名】谷口 紗絵
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
4J002CD021
4J002CD051
4J002CD061
4J002CD071
4J002DA016
4J002DE076
4J002DE096
4J002DE146
4J002DJ006
4J002DK006
4J002FD016
4J002FD140
4J002FD150
4J002GQ01
4J036AA01
4J036AB02
4J036AC02
4J036AD07
4J036AD08
4J036AD11
4J036AD12
4J036AD21
4J036AF05
4J036AF06
4J036AF13
4J036FA02
4J036FA03
4J036FA04
4J036JA08
(57)【要約】
【課題】熱伝導率を高めつつ、曲げ耐性を確保することができる熱硬化性組成物を提供する。
【解決手段】無機フィラー及び熱硬化性化合物を含有する熱硬化性組成物であり、熱硬化性組成物中の固形分100質量%に対し、前記無機フィラーの含有量が60質量%以上であり、前記熱硬化性化合物としてエポキシ化合物を含み、前記熱硬化性組成物から溶剤と無機フィラーを除いた樹脂成分のエポキシ当量(WPE)がWPE≦250g/当量であり、該熱硬化性組成物の硬化前のマンドレル試験(JIS K5600-5-1)による曲げ耐性φが、φ<20mmである熱硬化性組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機フィラー及び熱硬化性化合物を含有する熱硬化性組成物であり、
熱硬化性組成物中の固形分100質量%に対し、前記無機フィラーの含有量が60質量%以上であり、
前記熱硬化性化合物としてエポキシ化合物を含み、
前記熱硬化性組成物から溶剤と無機フィラーを除いた成分(「樹脂成分」と称する)のエポキシ当量(WPE)がWPE≦250g/当量であり、
該熱硬化性組成物の硬化前のマンドレル試験(JIS K5600-5-1)による曲げ耐性φが、φ<20mmである熱硬化性組成物。
【請求項2】
前記樹脂成分中に、質量平均分子量(Mw)5000以上の高分子エポキシ化合物(「エポキシポリマー」と称する)が5質量%以上19質量%以下の割合で含まれる、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項3】
前記エポキシポリマーは、下記式(1)及び/又は(2)で示される化学構造を有する、請求項2に記載の熱硬化性組成物。
(式(1)中、R
1及びR
2はそれぞれ有機基を表し、少なくとも一方は分子量16以上の有機基である。式(2)中、R
3は2価の環状有機基を表す。)
【請求項4】
前記エポキシポリマーは、下記式(3)で示される化学構造を有する、請求項2に記載の熱硬化性組成物。
(式(3)中、R
4、R
5、R
6、R
7は、それぞれ分子量15以上の有機基を表す。)
【請求項5】
硬化後の厚み方向の熱伝導率が15W/m・K以上である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項6】
1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物を含有する、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項7】
1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物の質量平均分子量(Mw)は800以下である、請求項6に記載の熱硬化性組成物。
【請求項8】
1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物のエポキシ当量が50g/当量以上200g/当量以下である、請求項6に記載の熱硬化性組成物。
【請求項9】
1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物として、1分子内に4つのエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物を含有する、請求項6に記載の熱硬化性組成物。
【請求項10】
1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物の含有割合は、熱硬化性組成物中の固形分から無機フィラーを除いた固形分100質量%に対し5質量%以上50質量%以下である、請求項6に記載の熱硬化性組成物。
【請求項11】
窒素原子を含有する複素環構造を有する化合物を含む、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項12】
前記無機フィラーは窒化ホウ素凝集粒子である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項13】
前記窒化ホウ素凝集粒子はカードハウス構造を有するものである、請求項12に記載の熱硬化性組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1に記載の熱硬化性組成物からなるシート状硬化物。
【請求項15】
請求項14に記載のシート状硬化物からなる硬化物部と、金属部とを有する複合成形体。
【請求項16】
請求項15に記載の複合成形体を有する半導体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性を有する熱硬化性組成物、例えば、当該熱硬化性組成物を硬化した硬化物をパワー半導体デバイス用の放熱体などとして好適に用いることができる熱硬化性組成物、並びに、当該熱硬化性組成物を用いたシート状硬化物、複合成形体及び半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体を用いたデバイスの中で、電源などの電力の制御や変換を行うデバイスは“パワー半導体デバイス”と呼ばれている。
パワー半導体デバイスは、電力の変換や制御を行うパワー半導体デバイス(半導体装置)と電子部品とを、ヒートシンクとして機能する基盤に搭載してパワーモジュール(半導体モジュール)とした構成のものが一般的である。
近年、鉄道・自動車・産業用、一般家電用等の様々な分野で使用されているパワー半導体デバイスは、更なる小型化・低コスト化・高効率化等の為に、従来のSiパワー半導体から、SiC、AlN、GaN等を使用したパワー半導体へ移行しつつある。
【0003】
このようなパワー半導体デバイスの実用化に向けて、種々の課題が指摘されているが、そのうちの一つにデバイスからの発熱の問題がある。パワー半導体デバイスは、高温で作動させることにより高出力・高密度化が可能となる一方、デバイスのスイッチングなどに伴う発熱は、パワー半導体デバイスの信頼性を低下させることが懸念されている。
【0004】
また、近年、電気・電子分野において、集積回路の高密度化に伴う発熱も大きな問題となっており、如何に熱を放散するかが緊急の課題となっている。例えば、パソコンの中央演算装置、電気自動車のモーター等の制御に用いられる半導体装置の安定動作を行う際、放熱のためにヒートシンク、放熱フィン等が不可欠になっており、半導体装置とヒートシンク等とを結合する部材として、熱伝導性及び絶縁性を両立可能な部材が求められている。
【0005】
熱伝導性及び絶縁性を両立可能な部材として、従来から、アルミナ基板や窒化アルミニウム基板などの熱伝導性の高いセラミック基板が使用されてきた。しかし、セラミックス基板では、衝撃で割れやすい、薄膜化が困難で小型化が難しい、といった課題を抱えていた。
【0006】
上記のようなセラミック基板での課題を解決するために、熱伝導性がよく、かつ絶縁性に優れる放熱シートについて多くの検討がなされてきた。特にフィラーを樹脂に混合し、それにより熱伝導性と絶縁性を高い水準で満足する放熱樹脂シートを得るための試みが続けられている。このような放熱樹脂シートに含有されるフィラーとしては、各種酸化物や窒化物が用いられており多くの検討が行われている(例えば特許文献1)。
【0007】
放熱シートに含有されるフィラーとして、六方晶の窒化ホウ素を用いることが試みられている。六方晶の窒化ホウ素は一般に薄板上の結晶であり、その薄板の平面方向の熱伝導率は高いが、薄板の厚さ方向の熱伝導率が低い。また、放熱シートに薄板状の窒化ホウ素を配合すると、シート化する際にシート面に平行に配向することから、シートの厚さ方向の熱伝導性は決してよいものにはならなかった。
【0008】
シートの厚さ方向の熱伝導性を上げる材料として、凝集窒化ホウ素フィラーが挙げられる。凝集窒化ホウ素フィラーを使用することで、シートの厚さ方向への熱伝導性を向上できることが広く知られている。とりわけ本出願人は、先にカードハウス構造の凝集窒化ホウ素フィラーを開発した(例えば特許文献2参照)。
さらに、比較的平均粒子径が大きく、かつ圧力が加わっても崩れることの少ないカードハウス構造の凝集窒化ホウ素フィラーを開発した(例えば特許文献3参照)。
【0009】
これらの凝集窒化ホウ素フィラーは、カードハウス構造による熱伝導パスが確保されることから、放熱シートに含有させることで、シートの厚さ方向への熱伝導性が優れたものとなる。また、凝集窒化ホウ素フィラーは、別途バインダーを使用することなく窒化ホウ素粒子が凝集している。そのため、シート化する際に外力がかかってもカードハウス構造は容易に崩壊せず熱伝導パスを維持し、シートの厚さ方向への放熱ができ、優れた熱伝導性を達成することができる(例えば特許文献4、5参照)。
また、シートの厚さ方向の熱伝導性を上げる成形方法として、シート内の凝集窒化ホウ素フィラー同士を面接触させることで熱伝導率を高める方法が知られている(例えば特許文献6参照)。
【0010】
本出願人はまた、無機フィラー及び熱硬化性樹脂を含有する樹脂組成物であり、前記樹脂組成物の固形分のうち、前記無機フィラー含有量が50体積%以上であり、前記無機フィラーのうち、窒化ホウ素フィラー(A)が82体積%以上であり、前記窒化ホウ素フィラーが凝集フィラーを含み、前記熱硬化性樹脂は、質量平均分子量5000以上のエポキシ樹脂を含有し、樹脂組成物中の樹脂成分のエポキシ当量(WPE)が100≦WPE≦300であり、前記樹脂組成物の硬化物の貯蔵弾性率E'が1≧(270℃でのE')/(30℃でのE')≧0.2である、樹脂組成物を提案している(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2013-089670号公報
【特許文献2】特開2015-006985号公報
【特許文献3】特開2016-135730号公報
【特許文献4】国際公開2015/119198号
【特許文献5】特開2017-036415号公報
【特許文献6】国際公開2019/189746号
【特許文献7】国際公開2022/210686号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、無機フィラー及び熱硬化性化合物を含有する熱硬化性組成物に関し、従来の組成物では、硬化後の熱伝導率を高くするために無機フィラー含有量を増やした場合に、硬化前のシートの柔軟性が悪化し、量産する際の製造プロセスにおいて、シートをロール状に巻回する際に割れてしまう場合があることを見出した。
このように、無機フィラー及び熱硬化性化合物を含有する熱硬化性組成物に関しては、硬化後の熱伝導率を高めつつ、曲げ耐性を確保することが難しいという課題を抱えている。この課題は、無機フィラーとして窒化ホウ素凝集粒子を用いた場合も同様である。
【0013】
そこで本発明の目的は、熱伝導率を高めつつ、曲げ耐性を確保することができる熱硬化性組成物、並びに、当該熱硬化性組成物を用いたシート状硬化物、複合成形体及び半導体デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するために、次の態様の熱硬化性組成物、シート状硬化物、複合成形体及び半導体デバイスを提案する。
【0015】
[1]本発明の第1の態様は、無機フィラー及び熱硬化性化合物を含有する熱硬化性組成物であり、
熱硬化性組成物中の固形分100質量%に対し、前記無機フィラーの含有量が60質量%以上であり、
前記熱硬化性化合物としてエポキシ化合物を含み、
前記熱硬化性組成物から溶剤と無機フィラーを除いた成分(「樹脂成分」と称する)のエポキシ当量(WPE)がWPE≦250g/当量であり、
該熱硬化性組成物の硬化前のマンドレル試験(JIS K5600-5-1)による曲げ耐性φが、φ<20mmである熱硬化性組成物である。
【0016】
[2]本発明の第2の態様は、前記第1の態様において、前記樹脂成分中に、質量平均分子量(Mw)5000以上の高分子エポキシ化合物(「エポキシポリマー」と称する)が5質量%以上19質量%以下の割合で含まれる、熱硬化性組成物である。
【0017】
[3]本発明の第3の態様は、前記第2の態様において、前記エポキシポリマーは、下記式(1)及び/又は(2)で示される化学構造を有する、熱硬化性組成物である。
【0018】
【0019】
式(1)中、R1及びR2はそれぞれ有機基を表し、少なくとも一方は分子量16以上の有機基である。式(2)中、R3は2価の環状有機基を表す。
【0020】
[4]本発明の第4の態様は、前記第2又は第3の態様において、前記エポキシポリマーは、下記式(3)で示される化学構造を有する、熱硬化性組成物である。
【0021】
【0022】
式(3)中、R4、R5、R6、R7は、それぞれ分子量15以上の有機基を表す。
【0023】
[5]本発明の第5の態様は、前記第1~4のいずれか1の態様において、硬化後の厚み方向の熱伝導率が15W/m・K以上である、熱硬化性組成物である。
【0024】
[6]本発明の第6の態様は、前記第1~5のいずれか1の態様において、1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物を含有する、熱硬化性組成物である。
[7]本発明の第7の態様は、前記第6の態様において、1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物の質量平均分子量(Mw)は800以下である、熱硬化性組成物である。
[8]本発明の第8の態様は、前記第6又は第7の態様において、1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物のエポキシ当量が50g/当量以上200g/当量以下である、熱硬化性組成物である。
[9]本発明の第9の態様は、前記第1~8のいずれか1の態様において、1分子内に4つのエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物を含有する、すなわち、前記第6~8のいずれか1の態様の前記多官能エポキシ化合物として、1分子内に4つのエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物を含有する熱硬化性組成物である。
[10]本発明の第10の態様は、前記第6~9のいずれか1の態様において、1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物の含有割合は、熱硬化性組成物中の固形分から無機フィラーを除いた固形分100質量%に対し5質量%以上50質量%以下である、熱硬化性組成物である。
【0025】
[11]本発明の第11の態様は、前記第1~10のいずれか1の態様において、窒素原子を含有する複素環構造を有する化合物を含む、熱硬化性組成物である。
[12]本発明の第12の態様は、前記第1~11のいずれか1の態様において、前記無機フィラーは窒化ホウ素凝集粒子である、熱硬化性組成物である。
[13]本発明の第13の態様は、前記第12の態様において、前記窒化ホウ素凝集粒子はカードハウス構造を有するものである、熱硬化性組成物である。
【0026】
[14]本発明の第14の態様は、前記第1~13のいずれか1の態様の熱硬化性組成物からなるシート状硬化物である。
[15]本発明の第15の態様は、前記第14の態様のシート状硬化物からなる硬化物部と、金属部とを有する複合成形体である。
[16]本発明の第16の態様は、前記第15の態様の複合成形体を有する半導体デバイスである。
【発明の効果】
【0027】
本発明が提案する熱硬化性組成物は、無機フィラーの含有量を60質量%以上とすることにより、熱伝導率を高めることができる。そして、本発明が提案する熱硬化性組成物は、そのように無機フィラー含有量を増やした場合であっても曲げ耐性を得ることができ、例えば、シート状として、ロール状に巻回する際に割れてしまうなどの問題を無くすことができる。よって、硬化後に優れた熱伝導率を発揮することができるシート状熱硬化性組成物を、工業的に量産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】カードハウス構造を有する窒化ホウ素凝集粒子の一例に係る粒子断面図の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0030】
<<本組成物>>
本発明の実施の形態の一例に係る組成物(「本組成物」と称する)は、熱硬化性化合物と、無機フィラーとを含有する熱硬化性組成物である。
【0031】
本発明において「熱硬化性組成物」とは、熱により硬化する性質を有する化合物乃至樹脂を含有する組成物の意味である。すなわち、熱により硬化する余地が残された硬化性を有する組成物であればよく、硬化する余地が残された状態に既に硬化(「仮硬化」とも称する)されたものであってもよいし、未だ何ら硬化されていない(「未硬化」と称する)状態のものであってもよい。
また、本組成物は、粉末状、スラリー状、液状、固形状、或いは、シート状などに成形された成形体のいずれであってもよい。
よって、本組成物は、例えば、後述する塗布工程に供するスラリー状の熱硬化性組成物、塗布工程を経たシート、塗布及び乾燥等の工程を経たシート等も包含する。
【0032】
本組成物は、加熱することにより硬化物(「本硬化物」とも称する)とすることができる。
また、本組成物をシート状に成形することによりシート状熱硬化性組成物(「熱硬化性シート」とも称する)とすることができ、この熱硬化性シートを硬化させることにより、熱伝導性を備えたシート(「本熱伝導性シート」と称する)を形成することができる。すなわち、本熱伝導性シートは前記熱硬化性シートの硬化物である。
【0033】
(曲げ耐性)
本組成物は、硬化前のマンドレル試験(JIS K5600-5-1)、すなわちJIS K5600-5-1に従ったマンドレル試験による曲げ耐性φを、φ<20mmとすることができ、当該曲げ耐性を有することができることが特徴の一つである。
本組成物の曲げ耐性φがかかる範囲であれば、熱伝導率を高くするために無機フィラー含有量を増やした場合、例えば無機フィラーの含有量を本組成物中の固形分100質量%に対して60質量%以上とした場合であっても、曲げ耐性を得ることができ、例えば、シート状として、ロール状に巻回する際に割れてしまうなどの問題を無くすことができる。
かかる観点から、本組成物は、硬化前のマンドレル試験(JIS K5600-5-1)に従ったマンドレル試験による曲げ耐性φが、φ<20mmであることが好ましく、特にφ<19mmであることがより好ましく、中でもφ<16mmであることがさらに好ましい。
【0034】
本組成物の曲げ耐性φを、φ<20mmとするには、例えば、樹脂成分のエポキシ当量を調整したり、後述するエポキシポリマーの含有量を調整したりする方法を挙げることができる。但し、これらの方法に限定するものではない。
【0035】
(熱伝導率)
本組成物は、硬化して得られる硬化物の25℃における厚み方向の熱伝導率を、15W/m・K以上とすることができ、当該熱伝導率を有することができることが特徴の一つである。
厚み方向の熱伝導率が上記範囲であることにより、高温で作動させるパワー半導体デバイス等にも好適に用いることができる。
かかる観点から、本組成物を硬化して得られる硬化物の25℃における厚み方向の熱伝導率は、15W/m・K以上であるのが好ましく、中でも15.5W/m・K以上、中でも16W/m・K以上、中でも16.5W/m・K以上、中でも17W/m・K以上、中でも17.5W/m・K以上、その中でも18W/m・K以上であるのがさらに好ましい。
【0036】
当該熱伝導率は、熱硬化性化合物の種類、無機フィラーの種類及び含有量、熱硬化性化合物と無機フィラーとの混合方法、後述する加熱混練工程における条件等によって調整することができる。中でも、無機フィラー、特に窒化ホウ素凝集粒子の含有量を調整することにより、厚み方向の熱伝導パスを必要十分に確保することができ、前記熱伝導率を調整することができる。
なお、硬化物の厚み方向の熱伝導率は、次の方法により測定できる。
例えば、熱抵抗測定装置(株式会社メンターグラフィックス製、製品名「T3ster」)を用いて、熱抵抗値を厚さに対してプロットしたグラフの傾きから、熱伝導率を求めることができる。
【0037】
(貯蔵弾性率E’)
本組成物は、硬化後の30℃での貯蔵弾性率E’を10,000~100,000MPaとすることができる。
硬化物の30℃での貯蔵弾性率E’が前記範囲であることで、信頼性試験での耐久性向上の効果を得ることができる。
かかる観点から、本組成物の硬化物の30℃での貯蔵弾性率E’は10,000MPa以上であることが好ましく、中でも15,000MPa以上であるのがさらに好ましい。他方、100,000MPa以下であることが好ましく、中でも90,000MPa以下、その中でも80,000MPa以下であるのがさらに好ましい。
【0038】
本組成物は、硬化後の200℃での貯蔵弾性率E’を1,000~50,000MPaとすることができる。
硬化物の200℃での貯蔵弾性率E’が前記範囲であることで、信頼性試験でも耐久性向上の効果を得ることができる。
かかる観点から、本組成物の硬化物の200℃での貯蔵弾性率E’は1,000MPa以上であることが好ましく、中でも2,000MPa以上、その中でも3,000MPa以上、中でも4,500MPa以上、中でも5,500MPa以上であるのがさらに好ましい。他方、50,000MPa以下であることが好ましく、中でも45,000MPa以下、その中でも40,000MPa以下であるのがさらに好ましい。
【0039】
本組成物において、硬化後の30℃又は200℃での貯蔵弾性率E’を上記範囲に調整するには、例えば樹脂成分のエポキシ当量を調整したり、多官能エポキシの量を調整したり、ポリマーとモノマー成分の割合を調節したりすればよい。但しこれらの方法に限定するものではない。
硬化後の30℃又は200℃での貯蔵弾性率E’の測定は、組成物をシート状に成形したものを積層しサンプル厚みを0.1~1.0mmに調整して加熱硬化させ、硬化物を幅4mmの短冊状に切り出して、引張モードでの動的粘弾性試験によって実施して測定することができる。
【0040】
<樹脂成分>
本組成物から溶剤と無機フィラーを除いた成分(「樹脂成分」と称する)、言い方を変えれば、本組成物の固形分から無機フィラーを除いた固形分のエポキシ当量(WPE)はWPE≦250g/当量であるのが好ましい。
本組成物の固形分とは、本組成物から溶剤を除いた成分の意味である。
本組成物の樹脂成分のエポキシ当量(WPE)を上記範囲に調整することで、ポリマーとモノマー成分の割合を調整することができ、本組成物の柔軟性を調整することができ、曲げ耐性を高めることができる。
かかる観点から、本組成物の樹脂成分のエポキシ当量(WPE)は、250g/当量以下であるのが好ましく、中でも245g/当量以下、中でも240g/当量以下、中でも235g/当量以下、その中でも230g/当量以下であるのがさらに好ましい。
他方、未硬化シートの靭性を担保する観点から、本組成物の樹脂成分のエポキシ当量(WPE)は、100g/当量以上であるのが好ましく、中でも110g/当量以上、中でも120g/当量以上、中でも150g/当量以上、その中でも180g/当量以上であるのがさらに好ましい。
また、本組成物の樹脂成分のエポキシ当量(WPE)を上記範囲に調整することで、無機フィラーの保持力を調整することができ、シートの熱伝導率を向上させることができる。
【0041】
本組成物の樹脂成分のエポキシ当量(WPE)を上記範囲に調整するためには、所定のエポキシ当量を有するエポキシ化合物、例えばエポキシポリマー及び多官能エポキシ化合物の含有割合を調整する方法を挙げることができる。但し、これらの方法に限定するものではない。
【0042】
また、本組成物から無機フィラーを除いた樹脂組成物の硬化後の200℃における貯蔵弾性率は、100MPa以上1000MPa以下であることが好ましい。硬化物の200℃での貯蔵弾性率E’が前記範囲であることで、信頼性試験でも耐久性向上の効果を得ることができる。
かかる観点から、本組成物から無機フィラーを除いた樹脂組成物の硬化物の200℃での貯蔵弾性率E’は100MPa以上であることが好ましく、中でも110MPa以上、その中でも120MPa以上であるのがさらに好ましく、中でも130MPa以上であるのがさらに好ましい。他方、1,000MPa以下であることが好ましく、中でも900MPa以下、その中でも800MPa以下であるのがさらに好ましい。
【0043】
<熱硬化性化合物>
本組成物が含有する熱硬化性化合物としては、例えばエポキシ化合物、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ベンゾオキサジン化合物等を挙げることができる。
【0044】
熱硬化性化合物の含有量は、本組成物中の揮発成分すなわち溶剤及び溶媒を除いた成分(「固形分」と称する)100質量%に対し、5~40質量%であるのが好ましい。
熱硬化性化合物の含有量が5質量%以上であれば、成形性が良好となるから好ましく、他方、40質量%以下であれば、他の成分の含有量を確保することができ、熱伝導性を高めることができるから好ましい。
かかる観点から、熱硬化性化合物の含有量は、本組成物中の固形分100質量%に対し、5~40質量%であるのが好ましく、中でも10質量%以上、中でも20質量%以上、中でも25質量%以上であるのがさらに好ましい一方、40質量%以下の割合で含有することがさらに好ましい。
【0045】
(エポキシ化合物)
本組成物は、熱硬化性化合物として、エポキシ化合物を含むのが好ましい。
【0046】
本組成物に含まれる熱硬化性化合物のうち、30~100質量%をエポキシ化合物が占めるのが好ましく、中でも40質量%以上、その中でも50質量%以上、その中でも60質量%以上、その中でも70質量%以上をエポキシ化合物が占めるのがさらに好ましい。
なお、この際のエポキシ化合物には、後述するエポキシポリマーも包含される。
【0047】
本組成物に含まれる熱硬化性化合物としてのエポキシ化合物は、1分子内に1個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有する化合物であればよい。
【0048】
エポキシ化合物に含まれるオキシラン環(エポキシ基)は、脂環式エポキシ基、グリシジル基のどちらでも構わない。反応速度もしくは耐熱性の観点から、グリシジル基であることがより好ましい。
【0049】
エポキシ化合物としては、例えば、エポキシ基含有ケイ素化合物、脂肪族型エポキシ化合物、ビスフェノールA又はF型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、多官能型エポキシ化合物、高分子型エポキシ化合物等を挙げることができる。
【0050】
前記エポキシ化合物は、芳香族オキシラン環(エポキシ基)含有化合物であってもよい。その具体例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールAD、テトラメチルビスフェノールS、テトラフルオロビスフェノールAなどのビスフェノール類をグリシジル化したビスフェノール型エポキシ化合物、ビフェニル型のエポキシ化合物、ジヒドロキシナフタレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの2価のフェノール類をグリシジル化したエポキシ化合物、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタンなどのトリスフェノール類をグリシジル化したエポキシ化合物、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタンなどのテトラキスフェノール類をグリシジル化したエポキシ化合物、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック、臭素化ビスフェノールAノボラックなどのノボラック類をグリシジル化したノボラック型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ化合物、ナフタレン骨格を有するエポキシ化合物などを挙げることができる。中でも、ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ化合物及びナフタレン骨格を有するエポキシ化合物から選ばれる少なくとも一つの構造を有するエポキシ化合物を含むことが好ましい。
【0051】
(エポキシポリマー)
本組成物は、シートの製膜性を担保する観点から、質量平均分子量(Mw)5,000以上の高分子量エポキシ化合物(「エポキシポリマー」と称する)を含むのが好ましい。
【0052】
エポキシポリマーとしては、例えばビスフェノールA型骨格、ビスフェノールF型骨格、ビスフェノールA/F混合型骨格、ナフタレン骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格、キサンテン骨格、アダマンタン骨格及びジシクロペンタジエン骨格からなる群から選択された少なくとも1つの骨格を有するフェノキシ樹脂を挙げることができる。
【0053】
中でも、エポキシポリマーとして、例えば、下記式(1)で表される構造(「構造(1)」とも称する)及び下記式(2)で表される構造(「構造(2)」とも称する)から選ばれる少なくとも一つの構造を有するエポキシポリマーであるのが好ましい。
【0054】
【0055】
式(1)中、R1及びR2はそれぞれ有機基を表し、少なくとも一方は分子量16以上の有機基であり、式(2)中、R3は2価の環状有機基を表す。
なお、「有機基」とは、炭素原子を含む基であれば如何なる基でも含むものであり、具体的に例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基等が挙げられ、それらはハロゲン原子や、ヘテロ原子を有する基や、他の炭化水素基で置換されていても構わない。以下においても同様である。
【0056】
上記式(1)において、R1及びR2のうちの少なくとも一方は、分子量が16以上、好ましくは分子量16~1000の有機基を表し、例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基やフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、フルオレニル基等のアリール基を挙げることができる。R1及びR2は共に分子量16以上の有機基であってもよく、一方が分子量16以上の有機基で、他方が分子量15以下の有機基又は水素原子であってもよい。好ましくは、一方が分子量16以上の有機基で他方が分子量15以下の有機基であり、特にいずれか一方がメチル基で、他方がフェニル基であることが、樹脂粘度等の取扱い性の制御が容易になることや、硬化物の強度の観点から好ましい。
【0057】
上記式(2)において、R3は2価の環状有機基であり、ベンゼン環構造、ナフタレン環構造、フルオレン環構造等の芳香族環構造であってもよいし、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂肪族環構造であってもよい。また、それらは独立に、炭化水素基、又はハロゲン原子等の置換基を有していても構わない。2価の結合部は、単一の炭素原子にある2価基であっても構わないし、異なる炭素原子にある2価基であっても構わない。好ましくは、炭素数6~100の2価の芳香族基、シクロプロパンやシクロヘキサンのような炭素数2~100のシクロアルカンに由来する基を挙げることができる。特に、下記式(4)で表される3,3,5-トリメチル-1,1-シクロへキシレン基(「構造(4)」とも称する)が、樹脂粘度等の取扱い性の制御や硬化物の強度の観点から好ましい。
【0058】
【0059】
また、下記式(5)で表示されるフルオレン骨格の剛直性によって優れた耐熱性、低線膨張性が発現すると共に、単位ユニット当たりの分子量が通常のエポキシ樹脂よりも大きいことで、吸湿性の原因となる二級水酸基の分子構造全体に占める割合が相対的に低くなり、低吸湿性が発現する観点から好ましい。
【0060】
【0061】
また、エポキシポリマーとして、下記式(3)で表される構造(「構造(3)」とも称する)を有するエポキシポリマーを挙げることができる。
【0062】
【0063】
上記式(3)において、R4、R5、R6、R7は、それぞれ分子量15以上の有機基である。好ましくは分子量15~1000のアルキル基であり、特にR4、R5、R6、R7のすべてがメチル基であることが、樹脂粘度等の取扱い性の制御や硬化物の強度の観点から好ましい。
【0064】
エポキシポリマーは、特に構造(1)及び構造(2)のいずれか一方と、構造(3)とを含むエポキシポリマーであることが、本硬化物及び本熱伝導性シートの吸湿性の低減と強度保持の性能の両立の観点から好ましい。
【0065】
このようなエポキシポリマーは、一般的なビスフェノールA、ビスフェノールF骨格を有するエポキシポリマーと比較して、疎水性の炭化水素及び芳香族構造を多く含むため、エポキシポリマーを配合することにより、得られる硬化物である本熱伝導性シートの吸湿量を低減することができる。
また、吸湿量を低減するという観点から、エポキシポリマーは疎水性構造である構造(1)、(2)、(3)を多く含むものが好ましい。
【0066】
エポキシポリマーの質量平均分子量は5,000以上であることが好ましく、中でも10,000以上、その中でも15,000以上、その中でも20,000以上、その中でも25,000以上、その中でも30,000以上であるのがさらに好ましい。上限としては、100,000以下が挙げられる。これらの範囲であることで、本組成物の製膜性向上及び未硬化シートのハンドリング性が向上する傾向にある。また、膜性が向上することにより未硬化シートの段階でフィラー同士を繋ぎとめる効果があるため、ボイドが生じにくい。
【0067】
また、エポキシポリマーのエポキシ当量は、シートの製膜性担保することと柔軟性を付与することの観点から、5,000g/当量以上が好ましく、7,000g/当量以上、中でも8,000g/当量以上であるのがさらに好ましい。他方、溶剤への溶解性の観点から、25,000g/当量以下であるのが好ましく、中でも20,000g/当量以下であるのがさらに好ましい。
【0068】
なお、エポキシポリマーの質量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されたポリスチレン換算の値である。
また、エポキシ当量とは、「1当量のエポキシ基を含むエポキシポリマーの質量」と定義され、JIS K7236に準じて測定することができる。
【0069】
以上のエポキシポリマーは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
(多官能エポキシ化合物)
本組成物は、次に説明する多官能エポキシ化合物を含むことが好ましい。
【0071】
多官能エポキシ化合物とは、1分子内に2個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有し、質量平均分子量5000未満のエポキシ化合物をいう。
このような多官能エポキシ化合物を含むことにより、極性の高いオキシラン環(エポキシ基)を高密度で導入することが可能であり、それにより、ファンデルワールス力や水素結合といった物理的相互作用の効果が増し、例えば、本組成物から形成した本熱伝導性シートと導電体との密着性を向上させることができる。また、多官能エポキシ化合物を含有することにより、本熱伝導性シートの貯蔵弾性率を高くすることができ、それにより被着体である導電体表面の凹凸に本組成物の硬化物が入り込んだ後、強固なアンカー効果を発現し、本熱伝導性シートと導電体との密着性を向上させることができる。
一方で、多官能エポキシ化合物を含むことにより、本組成物の吸湿性が高くなる傾向にあるが、オキシラン環(エポキシ基)の反応性を向上させることで、反応途中の水酸基量を減らし、吸湿性の増加を抑制することができる。
また、前述したエポキシポリマーと多官能エポキシ化合物を組み合わせて本組成物を製造することにより、本熱伝導性シートの高弾性化と低吸湿化を両立することが可能となる。
【0072】
前記多官能エポキシ化合物としては、熱硬化後の硬化物の貯蔵弾性率を高くする、特にパワー半導体など発熱量の多い場合に重要になる高温時の貯蔵弾性率を高くする観点から、1分子内に2個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有するエポキシ化合物であればよく、中でも、1分子内に3個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有するエポキシ化合物を含むことが好ましく、さらに1分子内に4個以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物を含むことがより一層好ましい。1分子内に複数のオキシラン環(エポキシ基)、特にグリシジル基を有することで、硬化物の架橋密度が向上し、得られる硬化物である本熱伝導性シートがより高強度となる。それにより、吸湿リフロー試験において本熱伝導性シートに内部応力が発生した際に、本熱伝導性シートが変形したり、破壊したりせずに、形態を保持することで、本熱伝導性シート内にボイド等の空隙が発生するのを抑制することができる。
【0073】
また、シートの柔軟性を調整するという観点から、多官能エポキシ化合物、特に1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物の分子量は800以下であることが好ましく、中でも700以下、その中でも650以下、特に100以上或いは630以下、中でも200以上或いは600以下であることがさらに好ましい。また、シートのハンドリング性をよくするためには25℃で液状であるものを含むことが好ましい。
【0074】
1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物のエポキシ当量は、シートの耐熱性の観点から、25g/当量以上が好ましく、50g/当量以上、中でも75g/当量以上であるのがさらに好ましい。他方、溶剤への溶解性の観点から、200g/当量以下であるのが好ましく、中で180g/当量以下、中でも160g/当量以下、中でも150g/当量以下であるのがさらに好ましい。
また、より低吸湿及び高架橋を達成する観点から、窒素原子を含有するようなアミン系もしくはアミド系の構造を含まない方が好ましい。
【0075】
1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物の具体例としては、例えば1分子当たりエポキシ基を3つ以上有し、質量平均分子量(Mw)は800以下、中でも650以下の多官能エポキシ化合物が好ましい。例えばナガセケムテックス社製の、EX321L、DLC301、DLC402等を用いることができる。
これらの多官能エポキシ化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
(含有量)
エポキシポリマーの含有量は、本組成物から溶剤と無機フィラーを除いた成分(樹脂成分)、言い方を変えれば、本組成物の固形分から無機フィラーを除いた固形分100質量%に対し5質量%以上19質量%以下であるのが好ましい。
エポキシポリマーを、本組成物の樹脂成分100質量%に対し、5質量%以上含有することで、シートの成膜性を保つことができるから、好ましい。他方、19質量%以下の割合で含有することで、未硬化のシートの柔軟性を保つことができるから、好ましい。
かかる観点から、エポキシポリマーの含有量は、本組成物の樹脂成分100質量%に対し、5質量%以上であるのが好ましく、中でも6質量%以上、中でも7質量%以上、中でも8質量%以上、その中でも10質量%以上であるのがさらに好ましい。他方、19質量%以下であるのが好ましく、中でも18.5質量%以下、中でも18質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0077】
多官能エポキシ化合物の含有量は、本組成物中の固形分から無機フィラーを除いた固形分100質量%に対し、5質量%以上95質量%以下であるのが好ましい。多官能エポキシ化合物の含有量が5質量%以上であることで硬化性を保つことができ、95質量%以下であることで成膜性を保つための他の成分を有することができる。かかる観点から、多官能エポキシ化合物の含有量は、5質量%以上、中でも10質量%以上、その中でも15質量%以上であることが好ましく、95質量%以下、中でも90質量%以下であることが好ましい。
中でも、1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物の含有量は、本組成物中の固形分から無機フィラーを除いた固形分100質量%に対し、5質量%以上50質量%以下であるのが好ましい。
1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物の含有量が5質量%以上であれば、熱硬化性組成物の硬化物の弾性率を保持できることから好ましい。かかる観点から、1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物の含有量は、本組成物中の固形分から無機フィラーを除いた固形分100質量%に対し、5質量%以上であるのが好ましく、中でも6質量%以上、その中でも7質量%以上であるのがさらに好ましい。
他方、1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物の含有量が50質量%以下であれば、未硬化シートの靭性を保ち、硬化後のシートの吸水率を抑えることができることから、好ましい。かかる観点から、1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物の含有量は、本組成物中の固形分から無機フィラーを除いた固形分100質量%に対し、50質量%以下であるのが好ましく、中でも45質量%以下、その中でも40質量%以下であるのがさらに好ましい。
中でも、1分子内に3つ以上のエポキシ基を有し、エポキシ当量が25~200である多官能エポキシ化合物の含有量は、本組成物の樹脂成分のエポキシ当量(WPE)を好適な範囲に調整する観点から、本組成物中の固形分から無機フィラーを除いた固形分100質量%に対し、5質量%以上50質量%以下であるのが好ましく、中でも6質量%以上或いは45質量%以下、その中でも7質量%以上或いは40質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0078】
後述するように、エポキシポリマー及び多官能エポキシ化合物を併用する場合、シートの成膜性とシート硬化物の弾性率の観点から、エポキシポリマーの含有量100質量部に対し、1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物の含有量は20質量部以上500質量部以下であるのが好ましく、中でも30質量部以上或いは400質量部以下、その中でも40質量部以上或いは350質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0079】
無機フィラーとエポキシポリマーとの含有量比率(エポキシポリマー/無機フィラー)は、未硬化シートの製膜性を保つ観点から、0.01以上であるのが好ましく、中でも0.02以上、その中でも0.03以上であるのがさらに好ましい。他方、未硬化シートの曲げ耐性を向上する観点から、0.1未満であるのが好ましく、中でも0.095以下、その中でも0.09以下であるのがさらに好ましい。
【0080】
無機フィラーと1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物との含有量比率(1分子内に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物/無機フィラー)は、無機フィラーの保持力を向上する観点から、0.02以上であるのが好ましく、中でも0.03以上、その中でも0.04以上であるのがさらに好ましい。他方、シートの熱伝導率向上の観点から、0.2以下であるのが好ましく、中でも0.18以下、その中でも0.15以下であるのがさらに好ましい。
【0081】
無機フィラーとエポキシ化合物との含有量比率(エポキシ化合物/無機フィラー)は、シートハンドリング性向上の観点から、0.2以上であるのが好ましく、中でも0.22以上、その中でも0.25以上であるのがさらに好ましい。他方、シートの熱伝導率向上の観点から、0.53以下であるのが好ましく、中でも0.52以下、その中でも0.51以下であるのがさらに好ましい。
【0082】
<無機フィラー>
本組成物に含まれる無機フィラーは、熱伝導率が2.0W/m・K以上であるものが好ましく、特に3.0W/m・K以上、特に5.0W/m・K以上、特に10.0W/m・K以上であるものがさらに好ましい。
【0083】
無機フィラーとしては、炭素のみからなる電気絶縁性であるフィラー、金属炭化物又は半金属炭化物、金属酸化物又は半金属酸化物、及び金属窒化物又は半金属窒化物等からなるフィラーを挙げることができる。
【0084】
前記炭素のみからなり電気絶縁性であるフィラーとしては、例えばダイヤモンド(熱伝導率:約2000W/m・K)等を挙げることができる。
前記金属炭化物又は半金属炭化物としては、例えば炭化ケイ素(熱伝導率:約60~270W/m・K)、炭化チタン(熱伝導率:約21W/m・K)、炭化タングステン(熱伝導率:約120W/m・K)等を挙げることができる。
【0085】
前記金属酸化物又は半金属酸化物の例としては、酸化マグネシウム(熱伝導率:約40W/m・K)、酸化アルミニウム(熱伝導率:約20~35W/m・K)、酸化亜鉛(熱伝導率:約54W/m・K)、酸化イットリウム(熱伝導率:約27W/m・K)、酸化ジルコニウム(熱伝導率:約3W/m・K)、酸化イッテルビウム(熱伝導率:約38.5W/m・K)、酸化ベリリウム(熱伝導率:約250W/m・K)、「サイアロン」(ケイ素、アルミニウム、酸素、窒素からなるセラミックス、熱伝導率:約21W/m・K)等を挙げることができる。
前記金属窒化物又は半金属窒化物の例としては、窒化ホウ素(六方晶窒化ホウ素(h-BN)の板状粒子の面方向の熱伝導率:約200~500W/m・K)、窒化アルミニウム(熱伝導率:約160~285W/m・K)、窒化ケイ素(熱伝導率:約30~80W/m・K)等を挙げることができる。
【0086】
これらの無機フィラーは、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
電気絶縁性の観点から、無機フィラーの20℃における体積抵抗率は1013Ω・cm以上であるのが好ましく、特に1014Ω・cm以上であるのがより好ましい。
中でも、本熱伝導性シートの電気絶縁性を十分なものとし易い点から、金属酸化物、半金属酸化物、金属窒化物又は半金属窒化物が好ましい。このような無機フィラーとして、具体的には、酸化アルミニウム(Al2O3、体積抵抗率:>1014Ω・cm)、窒化アルミニウム(AlN、体積抵抗率:>1014Ω・cm)、窒化ホウ素(BN、体積抵抗率:>1014Ω・cm)、窒化ケイ素(Si3N4、体積抵抗率:>1014Ω・cm)、シリカ(SiO2、体積抵抗率:>1014Ω・cm)などを挙げることができる。
中でも、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素が好ましく、本熱伝導性シートに高い絶縁性を付与できる点から、とりわけ酸化アルミニウム、窒化ホウ素が好ましい。
【0088】
伝導性フィラーの形状は、不定形粒子状、球状、ウィスカー状、繊維状、板状、又はそれらの凝集体、混合体であってもよい。中でも、本発明の無機フィラーの形状は球状であることが好ましい。
【0089】
なお、本発明において「球状」とは、通常アスペクト比(長径と短径の比)が1以上2以下、好ましくは1以上1.75以下、より好ましくは1以上1.5以下、さらに好ましくは1以上1.4以下であることをいう。
当該アスペクト比は、本組成物或いは本熱伝導性シートの断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した画像から10個以上の粒子を任意に選択し、それぞれの長径と短径の比を求めて平均値を算出することにより求めることができる。
【0090】
(窒化ホウ素凝集粒子)
本組成物に含まれる無機フィラーは、加熱成型時の吸湿の問題が少なく、毒性も低い点、熱伝導率を効率的に高めることができる点、及び、本熱伝導性シートに高い絶縁性を付与できる点から、窒化ホウ素の一次粒子が凝集してなる「窒化ホウ素凝集粒子」を含有することが好ましい。
【0091】
また、窒化ホウ素凝集粒子と、他の無機フィラーを併用してもよい。但し、本熱伝導性シート中の伝熱挙動は、後述のとおり単に無機フィラー内部での熱伝導率のみに依存するものではない。そのため、上記で例示した粒子の中で、熱伝導率は極端に高いものの、価格も極端に高いダイヤモンド粒子等を使用した場合も、本熱伝導性シートの厚み方向の熱伝導率が極端に上がることはない。従って、窒化ホウ素凝集粒子と他の無機フィラーを併用する場合は、主に組成物のコストカットの点からの実施が主眼となる。そのため、比較的廉価で、かつ熱伝導率が比較的高い点から、窒化ホウ素と併用する無機フィラーとしては、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、炭化タングステン、炭化ケイ素、窒化アルミニウム等の中から適宜選択することが好ましい。
【0092】
中でも、高い熱伝導性の観点から、無機フィラーの75質量%以上を窒化ホウ素凝集粒子が占めるのが好ましく、中でも80質量%以上、その中でも85質量%以上(100質量%を含む)を窒化ホウ素凝集粒子が占めるのが好ましい。
【0093】
窒化ホウ素凝集粒子の形状は、球状であることが好ましい。
【0094】
窒化ホウ素凝集粒子の凝集構造は、熱伝導率を向上させる観点から、カードハウス構造であるのが好ましい。
なお、窒化ホウ素凝集粒子の凝集構造は、走査型電子顕微鏡(SEM)により確認することができる。
【0095】
カードハウス構造とは、板状粒子が配向せず複雑に積層されたものであり、「セラミックス・43・No.2」(2008年、日本セラミックス協会発行)に記載されている。
より具体的には、凝集粒子を形成する一次粒子の平面部と、該凝集粒子内に存在する他の一次粒子の端面部が接触している構造をいう。カードハウス構造の模式図を
図1に示す。
該カードハウス構造の凝集粒子は、その構造上破壊強度が非常に高く、本熱伝導性シートのシート成形時に行われる加圧工程でも圧壊しない。そのため、通常本熱伝導性シートの長手方向に配向してしまう一次粒子を、ランダムな方向に存在させることができる。したがって、カードハウス構造の凝集粒子を用いると、本熱伝導性シートの厚み方向に一次粒子のab面が配向する割合をより高めることができるので、該シートの厚み方向に効果的に熱伝導を行うことができ、厚み方向の熱伝導率を一層高めることができる。
【0096】
なお、カードハウス構造を有する窒化ホウ素凝集粒子は、例えば国際公開第2015/119198号に記載される方法で製造することができる。
【0097】
カードハウス構造を有する窒化ホウ素凝集粒子を用いる場合、当該粒子は表面処理剤により表面処理が施されていてもよい。
当該表面処理剤としては、例えば、シランカップリング処理などの公知の表面処理剤を用いることができる。無機フィラーとマトリクス樹脂との界面の密着性を化学的処理により高めることで、界面での熱伝導性減衰をより低減できると考えられる。
【0098】
本熱伝導性シートに用いる無機フィラーとして、窒化ホウ素凝集粒子を用いることで、一次粒子をそのまま用いた無機フィラーに比べて、粒径を大きくすることができる。
無機フィラーの粒径を大きくすることによって、熱伝導率の低い熱硬化性化合物を介した無機フィラー間の伝熱経路を少なくでき、従って、厚み方向の伝熱経路中での熱抵抗増大を低減できる。
【0099】
上記の観点から、窒化ホウ素凝集粒子の最大粒子径の下限は、好ましくは20μm以上であり、より好ましくは30μm以上であり、さらに好ましくは40μm以上である。一方、前記最大粒子径の上限は、好ましくは300μm以下であり、より好ましくは200μm以下であり、さらに好ましくは100μm以下であり、よりさらに好ましくは90μm以下である。
【0100】
また、窒化ホウ素凝集粒子の平均粒子径は、特に限定されない。中でも、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、特に15μm以上がさらに好ましい。また、100μm以下が好ましく、90μm以下がより好ましい。窒化ホウ素凝集粒子の平均粒子径が5μm以上であることで、本組成物及び本組成物の硬化物内において相対的に粒子数が少なくなるため、粒子間界面が少なくなることにより熱抵抗が小さくなり、本熱伝導シートが高熱伝導率になる場合がある。また、前記平均粒子径が上記上限値以下であることで、本組成物を用いた硬化物の表面平滑性が得られる傾向にある。
【0101】
窒化ホウ素凝集粒子の平均粒子径又は最大粒子径が上記上限以下であることにより、マトリクス樹脂中に窒化ホウ素凝集粒子を含有させた場合に、表面荒れなどのない良質な膜を形成できる。平均粒子径又は最大粒子径が上記下限以上であることにより、マトリクス樹脂と窒化ホウ素凝集粒子の界面が減少する結果、熱抵抗が小さくなり、高熱伝導化を達成できるとともに、パワー半導体デバイスに求められる無機フィラーとしての十分な熱伝導性向上効果を得ることができる。
【0102】
また、本熱伝導性シートの厚みに対してマトリクス樹脂と窒化ホウ素凝集粒子の界面の熱抵抗の影響が顕著になるのは、本熱伝導性シートの厚みに対する窒化ホウ素凝集粒子の大きさが1/10以下の場合であると考えられる。特に、パワー半導体デバイス向けの場合、厚みが100μm~300μmの本熱伝導性シートが適用されるケースが多いため、熱伝導性の観点からも、窒化ホウ素凝集粒子の最大粒子径は上記下限より大きいことが好ましい。
また、窒化ホウ素凝集粒子の最大粒子径が上記下限以上であることにより、窒化ホウ素凝集粒子とマトリクス樹脂との界面によりもたらされる熱抵抗の増大が抑制されるだけでなく、必要となる粒子間の熱伝導パス数が減少して、本熱伝導性シートの厚み方向に一方の面から他方の面まで繋がる確率が大きくなる。
一方で、窒化ホウ素凝集粒子の最大粒子径が上記上限以下であることにより、本熱伝導性シートの表面への窒化ホウ素凝集粒子の突出が抑えられ、表面荒れのない良好な表面形状が得られるため、銅基板と貼り合わせたシートを作製する際に、十分な密着性を有し、優れた耐電圧特性を得ることができる。
【0103】
本熱伝導性シートの厚みに対する、窒化ホウ素凝集粒子の大きさ(最大粒子径)の比率(最大粒子径/厚さ)は0.3以上1.0以下であるのが好ましく、中でも0.35以上或いは0.95以下、その中でも0.4以上或いは0.9以下であるのがさらに好ましい。
【0104】
なお、窒化ホウ素凝集粒子の最大粒子径及び平均粒子径は、例えば以下の方法で測定することができる。
原料として用いる窒化ホウ素凝集粒子の最大粒子径及び平均粒子径は、窒化ホウ素凝集粒子を溶剤に分散させた試料、具体的には、分散安定剤を含有する純水媒体中に窒化ホウ素凝集粒子を分散させた試料に対して、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置にて粒度分布を測定し、得られた粒度分布から窒化ホウ素凝集粒子の最大粒子径Dmax及び平均粒子径D50として求めることができる。
ここで、Dmax及びD50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布における最大粒子径及び累積体積50%粒子径である。
また、モフォロギG3(マルバーン社製)等の乾式の粒度分布測定装置で最大粒子径及び平均粒子径を求めることもできる。
【0105】
他方、本組成物或いは本熱伝導性シート中の窒化ホウ素凝集粒子の最大粒子径及び平均粒子径についても、溶媒(加熱溶媒を含む)中で硬化性化合物を含む樹脂成分を溶解除去、或いは、膨潤させて窒化ホウ素凝集粒子との付着強度を低減せしめた後に物理的に除去し、さらには樹脂成分を大気下で加熱し灰化させて除去することで、上記と同様の方法で最大粒子径Dmax及び平均粒子径D50を測定することが可能である。
また、本組成物或いは本熱伝導性シート中の窒化ホウ素凝集粒子の最大粒子径については、本組成物或いは本熱伝導性シートの断面を、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、顕微ラマン分光器、原子間力顕微鏡などにより、10個以上の任意の窒化ホウ素凝集粒子を直接観察し、そのうちの最大粒子径を求めることも可能である。
また、本組成物或いは本熱伝導性シート中の窒化ホウ素凝集粒子の平均粒子径については、本組成物或いは本熱伝導性シートの断面を、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、顕微ラマン分光器、原子間力顕微鏡などにより、10個以上の任意の窒化ホウ素凝集粒子を直接観察し、粒子の径の算術平均値によって求めることも可能である。
なお、粒子が非球形の場合は、最長径と最短径を測定し、その平均値を当該粒子の粒子径とする。
【0106】
(無機フィラーの含有量)
前記無機フィラーの含有量は、本組成物中の固形分100質量%に対し、60質量%以上であるのが好ましい。
前記無機フィラーの含有量が、本組成物中の固形分100質量%に対し、60質量%以上であれば、絶縁性と熱伝導性を高めることができる。かかる観点から、前記無機フィラーの含有量は、本組成物中の固形分100質量%に対し、60質量%以上であるのが好ましく、中でも63質量%以上、その中でも65質量%以上であるのがさらに好ましい。
他方、85質量%以下であれば、ハンドリング性及び製膜性を維持することができる。かかる観点から、前記無機フィラーの含有量は、85質量%以下であるのが好ましく、中でも83質量%以下、その中でも81質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0107】
前記窒化ホウ素凝集粒子の含有量は、全無機フィラー100質量%に対して、50質量%以上であるのが好ましい。
前記窒化ホウ素凝集粒子の含有量が、全無機フィラー100質量%に対して、50質量%以上であれば、絶縁性と熱伝導性を高めることができる。
かかる観点から、前記窒化ホウ素凝集粒子の含有量は、全無機フィラー100質量%に対して、50質量%以上であるのが好ましく、中でも60質量%以上、その中でも70質量%以上であるのがさらに好ましい。
【0108】
<硬化剤>
本組成物は、必要に応じて、硬化剤を含有するのが好ましい。
硬化剤としては、例えば、フェノール樹脂、窒素原子を含有する複素環構造を有する化合物(「窒素含有複素環化合物」と称する)、芳香族骨格もしくは脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物などを挙げることができる。硬化剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの好ましい硬化剤の使用により、耐熱性、耐湿性及び電気物性のバランスに優れた本硬化物を得ることができる。
【0109】
前記フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック、o-クレゾールノボラック、p-クレゾールノボラック、t-ブチルフェノールノボラック、ジシクロペンタジエンクレゾール、ポリパラビニルフェノール、ビスフェノールA型ノボラック、キシリレン変性ノボラック、デカリン変性ノボラック、ポリ(ジ-o-ヒドロキシフェニル)メタン、ポリ(ジ-m-ヒドロキシフェニル)メタン、又はポリ(ジ-p-ヒドロキシフェニル)メタン等を挙げることができる。中でも、本組成物、本硬化物及び本熱伝導性シートの柔軟性及び難燃性をより一層の向上、硬化物の力学物性及び耐熱性向上のためには剛直な主鎖骨格を持つノボラック型フェノール樹脂やトリアジン骨格を有するフェノール樹脂が好ましい。また、未硬化の熱硬化性組成物の柔軟性及び樹脂硬化物の靭性向上のためには、アリル基を有するフェノール樹脂が好ましい。
【0110】
前記窒素含有複素環化合物の有する複素環構造としては、例えば、イミダゾール、トリアジン、トリアゾール、ピリミジン、ピラジン、ピリジン、アゾールから誘導される構造などを挙げることができる。本硬化物の絶縁性、金属との密着性の向上の観点から、イミダゾール系化合物やトリアジン系化合物が好ましい。
好ましいイミダゾール系化合物、トリアジン系化合物としては、例えば2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-ビニル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ビニル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2,4-ジアミノ-6-メタクリロイルオキシエチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メタクリロイルオキシエチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物等を挙げることができる。
【0111】
これらの中でも、樹脂相溶性が高く、かつ反応活性化温度が高いことで、硬化速度や硬化後の物性を容易に調整することができ、これにより、本組成物の保存安定性向上や加熱成形後の接着強度の更なる向上を実現できることから、特にイミダゾールから誘導される構造を有するもの、トリアジンから誘導される構造を有するものが好ましく、とりわけトリアジンから誘導される構造を有するものが好ましい。
窒素含有複素環化合物の有する複素環構造としては、1,3,5-トリアジンから誘導される構造が特に好ましい。また、これらの例示された構造部分を複数有するものであっても構わない。
【0112】
なお、窒素含有複素環化合物には、構造によっては後述する熱硬化性触媒が含まれる場合があり、従って、本組成物は熱硬化性触媒として窒素含有複素環化合物を含むことができる。
窒素含有複素環化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、1分子中に複数の復素環構造を同時に有していても構わない。
前記窒素含有複素環化合物の分子量は1,000以下であることが好ましく、500以下であることがより好ましい。
【0113】
前記芳香族骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物は、特に限定されない。
【0114】
前記脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物は、多脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物、又はテルペン系化合物と無水マレイン酸との付加反応により得られる脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物であることが好ましい。
【0115】
硬化剤は、本組成物中の固形分から無機フィラーを除いた固形分100質量%中に0~70質量%、特に0~55質量%含まれることが好ましい。硬化剤の含有量が上記下限以上であると、十分な硬化性能を得ることができ、上記上限以下であれば反応が効果的に進行し、架橋密度を向上させ、強度を増すことができ、さらに製膜性が向上する。
【0116】
<硬化促進剤>
本組成物は、必要に応じて、硬化速度や硬化物の物性などを調整するために、硬化促進剤として熱硬化性触媒を含有することができる。
【0117】
熱硬化性触媒は、熱硬化性化合物や硬化剤の種類に応じて適宜に選択するのが好ましい。
熱硬化性触媒の具体例としては、鎖状又は環状の3級アミン、有機リン系化合物、4級ホスホニウム塩類又は有機酸塩等のジアザビシクロアルケン類等、イミダゾール類を挙げることができる。また、有機金属化合物類、4級アンモニウム塩類又は金属ハロゲン化物等を用いることもできる。上記有機金属化合物類としては、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫又はアルミニウムアセチルアセトン錯体等を挙げることができる。
また、前述において、硬化剤として説明した窒素含有複素環化合物は、熱硬化性触媒としても作用するため、熱硬化性触媒として配合してもよい。
【0118】
中でも、特に保存安定性、耐熱性、硬化速度の観点から、イミダゾールを有する化合物(「イミダゾール系化合物」と称する)が好ましい。
好ましいイミダゾール系化合物としては、例えば2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等を挙げることができる。
特に融点が100℃以上、さらに好ましくは200℃以上のイミダゾール化合物を用いることで、保存安定性、密着性に優れた本硬化物を得ることができる。
さらに前述のイミダゾール環以外の窒素含有複素環化合物を含むものが接着性の観点からより好ましい。
なお、熱硬化性触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0119】
熱硬化性触媒は、本組成物中の固形分から無機フィラーを除いた固形分100質量%中に0.1~10質量%、特に0.1~5質量%含まれることが好ましい。熱硬化性触媒の含有量が前記下限以上であると、硬化反応の進行を十分に促進して良好に硬化させることができ、前記上限以下であると、硬化速度が速すぎることがなく、従って、本組成物の保存安定性を良好なものとすることができる。
【0120】
<有機溶剤>
本組成物は、必要に応じて、例えば、塗布工程を経てシート状硬化物を成形する際の塗布性の向上のために、有機溶剤を含有してもよい。
本組成物が含有し得る有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどを挙げることができる。これらの有機溶剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0121】
本組成物が有機溶剤を含有する場合、その含有量は、本熱伝導性シート作製時の取り扱い性等に応じて適宜決定される。通常、有機溶剤は、本組成物中の固形分(溶剤以外の成分の合計)濃度が10~90質量%、特に40質量%以上或いは80質量%以下となるように用いることが好ましい。
また、シート状に形成した場合には、有機溶剤は、本組成物中の固形分(溶剤以外の成分の合計)濃度が95質量%以上、より好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上となるように用いることが好ましい。
【0122】
<その他の成分>
本組成物は、上記成分以外に、他の成分を含有してもよい。
当該他の成分としては、例えば、分散剤、熱可塑性樹脂、有機フィラー、無機フィラー、無機フィラーと樹脂成分との界面接着強度を改善するシランカップリング剤などの添加剤、樹脂シートと金属板状材との密着強度を高める効果を期待できる添加剤、還元剤等の絶縁性炭素成分、粘度調整剤、チキソ性付与剤、難燃剤、着色剤、リン系、フェノール系他の各種酸化防止剤、フェノールアクリレート系他のプロセス安定剤、熱安定剤、ヒンダードアミン系ラジカル補足剤(HAAS)、衝撃改良剤、加工助剤、金属不活化剤、銅害防止剤、帯電防止剤、増量剤等を挙げることができる。これらの添加剤を使用する場合の添加量は、通常、これらの目的に使用される量の範囲であればよい。
【0123】
<<本組成物の用途>>
本組成物は、加熱することにより本硬化物とすることができ、シート状の硬化物とすることにより、本熱伝導性シートとすることができる。すなわち、シート状硬化物である本熱伝導性シートは、本組成物からなる。
【0124】
<熱伝導性シート>
本発明の実施形態の一例に係る本熱伝導性シートは、本組成物の硬化物から形成された熱伝導性シートであればよい。
【0125】
本熱伝導性シートの25℃における厚み方向の熱伝導率は、15W/m・K以上であることが好ましく、15.5W/m・K以上であることがより好ましく、16W/m・K以上であることがより好ましく、16.5W/m・K以上であることがより好ましく、17W/m・K以上であることがより好ましく、特に17.5W/m・K以上であることがより好ましく、中でも18W/m・K以上であることがより好ましい。厚み方向の熱伝導率が上記下限値以上であることにより、高温で作動させるパワー半導体デバイス等にも好適に用いることができる。
当該熱伝導率は、熱硬化性化合物の種類、無機フィラーの種類及び含有量、熱硬化性化合物と無機フィラーとの混合方法、後述する加熱混練工程における条件等によって調整することができる。
【0126】
なお、本熱伝導性シートの厚み方向の熱伝導率は、次の方法により測定できる。
例えば、熱抵抗測定装置(株式会社メンターグラフィックス製、製品名「T3ster」)を用いて、熱抵抗値を厚さに対してプロットしたグラフの傾きから、熱伝導率を求めることができる。
【0127】
(絶縁破壊電圧(BDV))
本熱伝導性シートは、絶縁破壊電圧が50kV/mm以上となるものであるのが好ましい。
本熱伝導性シートの絶縁破壊電圧が50kV/mm以上であれば、充分な絶縁性能が得られ、例えばパワー半導体デバイス、産業機器、車載、発電エネルギー等の用途に用いることができる。
かかる観点から、本熱伝導性シートは、絶縁破壊電圧が50kV/mm以上となるものであるのが好ましく、中でも53kV/mm以上、その中でも55kV/mm以上であるのがより一層好ましい。
【0128】
本熱伝導性シートは、絶縁破壊電圧が上記範囲となるように本発明組成物を調製するには、例えば熱硬化性化合物の種類、無機フィラーの種類及び含有量、熱硬化性化合物と無機フィラーとの混合方法、後述する加熱混練工程における条件等を調整すればよい。但し、これらの方法に限定するものではない。
当該絶縁破壊電圧測定方法は、後述する実施例での方法を参照されたい。
【0129】
(厚み)
本熱伝導性シートの厚みの下限値は、50μm以上が好ましく、60μm以上がより好ましく、70μm以上がさらに好ましい。他方、厚みの上限値は、400μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、250μm以下がさらに好ましい。
本熱伝導性シートの厚みを50μm以上とすることで、十分な耐電圧特性を確保できる。一方、400μm以下とすることで、特に熱伝導性シートをパワー半導体デバイス等に用いる場合、小型化や薄型化が達成可能であり、また、セラミックス材料による絶縁性熱伝導性層に比較して、薄膜化による厚み方向の熱抵抗低減の効果を得ることができる。
【0130】
<熱伝導性シートの製造方法>
以下、本熱伝導性シートの製造方法の一例について説明する。
【0131】
本熱伝導性シートは、本組成物をシート状に製膜し(この工程を「製膜工程」と称する)、必要に応じて乾燥し(この工程を「乾燥工程」と称する)、さらに必要に応じて加圧する(この工程を「加圧工程」と称する)。そして、こうして得たシート状組成物を硬化させてシート状硬化物としての本熱伝導性シートを作製することができる(この工程を「硬化工程」と称する)。
【0132】
(製膜工程)
例えばスラリー状の本組成物をブレード法などの塗布法、溶剤キャスト法又は押し出し成膜法等の方法でシート状に成形することができる。
【0133】
上記塗布法によりシート状に製膜する場合は、先ず基材の表面に、スラリー状の本組成物を塗布して塗膜を形成する。即ち、スラリー状の本組成物を用いて、ディップ法、スピンコート法、スプレーコート法、ブレード法、その他の任意の方法で基材上に塗膜を形成する。
スラリー状の本組成物の塗布には、スピンコーター、スリットコーター、ダイコーター、ブレードコーターなどの塗布装置を用いることができる。このような塗布装置により、基材上に所定の膜厚の塗膜を均一に形成することが可能である。
なお、基材としては、後述の銅板乃至銅箔やPETフィルムが一般的に用いられるが、何ら限定されるものではない。
【0134】
(乾燥工程)
上記のようにシート状に製膜した本組成物は、溶剤や低分子成分の除去のために、通常10~150℃、好ましくは25~120℃、より好ましくは30~110℃の温度で乾燥する。
乾燥温度が上記上限値以下であることで、本組成物中の樹脂の硬化が抑制され、その後の加圧工程でシート状の組成物中の樹脂が流動してボイドを除去しやすくなる傾向がある。乾燥温度が上記下限値以上であることで、効果的に溶剤を取り除くことができ生産性が向上する傾向にある。
乾燥時間は、特に限定されず、本組成物の状態、乾燥環境等によって適宜調整することができる。乾燥時間は、好ましくは1分以上であり、より好ましくは2分以上、さらに好ましくは5分以上である。乾燥時間は、好ましくは24時間以下であり、より好ましくは10時間以下であり、さらに好ましくは4時間以下であり、特に好ましくは2時間以下である。
乾燥時間が上記下限値以上であることで、十分に溶剤が除去でき、残留溶剤が樹脂硬化物内のボイドとなることを抑制できる傾向にある。乾燥時間が上記上限値以下であることで、生産性が向上し、製造コストを抑制できる傾向にある。
【0135】
(加圧工程)
乾燥工程の後には、無機フィラー同士を接合させ熱伝導パスを形成する目的、シート内のボイドや空隙をなくす目的、基材との密着性を向上させる目的等から、得られたシート状の本組成物に加圧を行うことが望ましい。但し、目的によっては、加圧しなくてもよい。
【0136】
加圧工程では、基材上のシート状の本組成物に2MPa以上の加重をかけて実施することが望ましい。
加重は、好ましくは5MPa以上であり、より好ましくは7MPa以上であり、さらに好ましくは9MPa以上である。また、加重は、好ましくは1500MPa以下であり、より好ましくは1000MPa以下であり、さらに好ましくは800MPa以下である。
加圧時の加重を上記上限値以下とすることにより、窒化ホウ素凝集粒子の二次粒子が破壊することなく、シート状の本組成物中に空隙などがない高い熱伝導性を有するシートを得ることができる。加重を上記下限値以上とすることにより、無機フィラー間の接触が良好となり、熱伝導パスを形成しやすくなるため、高い熱伝導性を有する本熱伝導性シートを得ることができる。
【0137】
加圧工程における基板上のシート状の本組成物の加熱温度は特に限定されない。加熱温度は、好ましくは10℃以上であり、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上である。加熱温度は、好ましくは300℃以下であり、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは200℃以下、よりさらに好ましくは100℃以下、特に好ましくは90℃以下である。
この温度範囲で加圧工程を行うことにより、シート状の本組成物中の樹脂の溶融粘度を低下させることができ、本熱伝導性シート内のボイドや空隙をより低減することができる。また、上記上限値以下で加熱することで、シート状組成物及び本硬化物中の有機成分の分解、残留溶剤により発生するボイドを抑制できる傾向にある。
【0138】
加圧工程の時間は、特に限定されない。加圧工程の時間は、好ましくは30秒以上であり、より好ましくは1分以上、さらに好ましくは3分以上、特に好ましくは5分以上である。加圧工程の時間は、好ましくは1時間以下であり、より好ましくは30分以下、さらに好ましくは20分以下である。
加圧時間が上記上限値以下であることで、本熱伝導性シートの製造時間が抑制でき、生産コストを短縮できる傾向にある。加圧時間が上記下限値以上であることで、本熱伝導性シート内の空隙やボイドを十分に取り除くことができ、熱伝達性能や耐電圧特性を向上できる傾向にある。
【0139】
(硬化工程)
本組成物は加熱することで硬化させることができる。
この際、加熱温度は30~400℃であるのが好ましく、中でも50℃以上であるのが好ましく、その中でも90℃以上であるのがさらに好ましい。他方、中でも300℃以下であるのが好ましく、その中でも250℃以下であるのがさらに好ましい。
【0140】
本組成物を完全に硬化反応を行わせる硬化工程は、加圧下で行ってもよく、無加圧で行ってもよい。加圧する場合は、上記と同様の理由から、上記の加圧工程と同様の条件で行うことが望ましい。なお、加圧工程と硬化工程を同時に行っても構わない。
特に加圧工程と硬化工程を経るシート化工程においては、上記の範囲の加重をかけて、加圧、硬化を行うことが好ましい。
【0141】
加圧工程と硬化工程を同時に行う場合の加重は特に限定されない。この場合、基材上のシート状の本組成物に5MPa以上の加重をかけて実施することが好ましく、加重はより好ましくは7Pa以上であり、さらに好ましくは9MPa以上であり、特に好ましくは20MPa以上である。また、加重は好ましくは2000MPa以下であり、より好ましくは1500MPa以下である。
加圧工程と硬化工程を同時に行う場合の加重を上記上限値以下とすることにより、窒化ホウ素凝集粒子の二次粒子が破壊することなく、シート状の本組成物中に空隙などがない高い熱伝導性を有するシート状硬化物を得ることができる。また、加重を上記下限値以上とすることにより、無機フィラー間の接触が良好となり、熱伝導パスを形成しやすくなるため、高い熱伝導性を有する本熱伝導性シートを得ることができる。
【0142】
加圧工程と硬化工程を同時に行う場合の加圧時間は特に限定されない。加圧時間は好ましくは30秒以上であり、より好ましくは1分以上、さらに好ましくは3分以上、特に好ましくは5分以上である。また、加圧時間は好ましくは1時間以下であり、より好ましくは30分以下、さらに好ましくは20分以下である。
加圧時間が上記上限値以下であることで、本熱伝導性シートの製造時間が抑制でき、生産コストを短縮できる傾向にある。加圧時間が上記下限値以上であることで、シート状の本硬化物すなわち本熱伝導性シート内の空隙やボイドを十分に取り除くことができ、熱伝達性能や耐電圧特性を向上できる傾向にある。
【0143】
<<複合成形体>>
本発明の実施形態の一例としての複合成形体(「本複合成形体」と称する)は、本組成物のシート状硬化物、すなわち、本熱伝導性シートからなる硬化物部と金属部とが積層一体化されてなるものである。すなわち、本熱伝導性シートからなる硬化物部と、金属部とを有するものである。
この際、当該金属部は、本熱伝導性シートからなる硬化物部の一つの面にのみ設けられていてもよく、2以上の面に設けられてもよい。例えば、本熱伝導性シートの一方の面にのみ金属部を有するものであってもよく、両面に金属部を有するものであってもよい。また、金属部は、パターニングされていてもよい。
【0144】
このような本複合成形体は、金属部を上記基材として用い、この基材上に、上記の方法に従って、シート状の本組成物又は本熱伝導性シートを形成することで製造することができる。また、金属部とは別の基材上に形成したシート状の本組成物又は本熱伝導性シートを基材から剥した後、金属部となる金属部材上に加熱圧着することにより製造することもできる。
【0145】
この場合は、剥離剤により処理されていてもよいPET等の基材上に塗布すること以外は、上記と同様にしてシート状の本組成物又は本熱伝導性シートを形成した後、基材から剥し取り、このシート状の本組成物又は本熱伝導性シートを別の金属板上に載置し、或いは2枚の金属板間に挟んだ状態で、加圧することにより一体化すればよい。
【0146】
この場合、金属板としては、銅、アルミニウム、ニッケルメッキされた金属等よりなる厚さ10μm~10cm程度の金属板を用いることができる。また金属板の表面は物理的に粗化処理がなされていてもよいし、化学的に表面処理剤等で処理されていてもよく、熱硬化性組成物と金属板の密着の観点から、これらの処理がなされていることがより好ましい。
【0147】
本複合成形体の具体例として、放熱積層体、放熱性回路基板、半導体デバイス、パワーモジュールなどを挙げることができる。以下、これらについて順次説明する。但し、これらに限定するものではない。
【0148】
<放熱積層体>
本発明の実施形態の一例に係る放熱積層体(「本放熱積層体」と称する)は、本熱伝導性シートを備えた積層体であればよい。
【0149】
本放熱積層体の一例として、本熱伝導性シートの一方の表面に、放熱性材料を含む放熱用金属層を積層したものを挙げることができる。
【0150】
当該放熱性材料は、熱伝導性の良好な材質から成るものであれば特段限定されない。中でも、積層構成での熱伝導性を高くするために、放熱用金属材料を用いることが好ましく、中でも平板状の金属材料を用いることがより好ましい。
金属材料の材質は、特に限定されない。中でも、熱伝導性が良く、かつ比較的廉価である点から、銅板、アルミニウム板、アルミニウム合金板等が好ましい。
【0151】
本熱伝導性シートと放熱用金属層との積層一体化に関しては、バッチプロセスであるプレス成形を好ましく用いることができる。この場合のプレス設備やプレス条件等は、前述の熱伝導性シートを得るためのプレス成形条件の範囲と同一である。
【0152】
<放熱性回路基板>
本発明の実施形態の一例に係る放熱性回路基板(「本放熱性回路基板」と称する)は、本熱伝導性シートを備えたものであればよい。
本放熱性回路基板の一例として、本熱伝導性シートの一方の表面に、上記放熱用金属層を積層し、前記熱伝導性シートの放熱用金属層とは他方の表面に、例えばエッチング処理等により回路基板を形成してなる構成を有するものを挙げることができる。具体的には、「放熱用金属層/熱伝導性シート/導電回路」で一体化されたものがより好ましい。回路エッチング前の状態としては、例えば「放熱用金属層/熱伝導性シート/導電回路形成用金属層」の一体化構成で、導電回路形成用金属層が平板状であり、熱伝導性シートの片面側全表面に形成されたものや、一部面積で形成されたものが挙げられる。
【0153】
導電回路形成用金属層の材料は、特に限定されない。中でも、一般的には電気伝導性やエッチング性の良さ、コスト面などの観点から、厚み0.05mm以上1.2mm以下の銅の薄板により形成されることが好ましい。
【0154】
<半導体デバイス>
本発明の実施形態の一例に係る半導体デバイス(「本半導体デバイス」と称する)は、本放熱性回路基板を備えたものであればよい。
本半導体デバイスの一例として、本放熱性回路基板上に、予め個片化された半導体チップが搭載されたシリコンウエハー又は再配線層を形成してなる構成を備えたものを挙げることができる。
【0155】
<パワーモジュール>
本発明の実施形態の一例に係るパワーモジュール(「本パワーモジュール」と称する)は、本熱伝導性シートを備えたものであればよい。
本パワーモジュールの一例として、本熱伝導性シートを放熱性回路基板としてパワー半導体デバイス装置に実装したものを挙げることができる。
このパワー半導体デバイス装置において、熱伝導性シート又は積層放熱シート以外のアルミ配線、封止材、パッケージ材、ヒートシンク、サーマルペースト、はんだというような部材は従来公知の部材を適宜採用できる。
【0156】
<<語句の説明>>
本発明において、「α~β」(α,βは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「α以上β以下」の意と共に、「好ましくはαより大きい」或いは「好ましくはβより小さい」の意も包含するものである。
また、「α以上」又は「α≦」(αは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはαより大きい」の意を包含し、「β以下」又は「≦β」(βは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはβより小さい」の意も包含するものである。
本発明において「シート」とは、シート、フィルム、テープを概念的に包含するものである。
また、本明細書において「乃至」の表現は、「及び/又は」の意味である。
【実施例0157】
以下、本発明の実施例の一例について説明する。但し、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0158】
<原材料>
実施例及び比較例で用いた原材料は以下の通りである。
【0159】
(無機フィラー)
・無機フィラー1:国際公開第2015/561028号の実施例に開示される窒化ホウ素凝集粒子の製造方法に準拠して製造した、カードハウス構造を有する窒化ホウ素凝集粒子
最大粒子径:90μm
平均粒径(D50):45μm
・無機フィラー2:アドマテックス社製
球状アルミナ粒子
平均粒径(D50):7~13μm
【0160】
(エポキシ化合物)
・樹脂成分1:三菱ケミカル社製のビフェニル型固体エポキシ化合物、1分子当たりグリシジル基を2個有する
分子量:約400
エポキシ当量:200g/当量
・樹脂成分2:ナガセケムテックス社製、1分子当たりグリシジル基を4個以上有する構造を含む多官能エポキシ化合物
窒素原子を含有するアミン系もしくはアミド系の構造を含まない
分子量:約400
エポキシ当量:100g/当量
【0161】
(硬化剤)
・硬化剤1:明和化成社製「MEH-8000H」、フェノール樹脂系硬化剤
・硬化剤2:山田化学工業社製 2,7―DHN 2,7-Dihydroxynaphthalene
・硬化剤3:UBE社製 H-4 フェノール樹脂系硬化剤
【0162】
(ポリマー)
・エポキシポリマー1:三菱ケミカル社製、特開2020-63438号公報の樹脂成分1として開示される二官能エポキシポリマー、上記式(2)及び(3)の構造を有する
ポリスチレン換算の質量平均分子量:30,000
エポキシ当量:9,000g/当量
・エポキシポリマー2:三菱ケミカル社製、特許第6497292号公報に開示される二官能エポキシポリマー、上記式(1)(2)及び(3)の構造を有する
ポリスチレン換算の質量平均分子量:40,000
エポキシ当量:11,000g/当量
【0163】
(熱硬化性触媒)
・熱硬化性触媒1:2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン。イミダゾールから誘導される構造トリアジンから誘導される構造の両方を1分子中に有する(四国化成社製「キュアゾール 2E4MZ-A」)
・熱硬化性触媒2:2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成社製「キュアゾール 2PHZ-PW」
【0164】
<実施例1~5、比較例1~4>
表1に示す組成(質量部)となるように各原材料秤量し、自転公転式撹拌装置を用いて混合して混合物とした。この混合物を調製する際、上記混合物が塗布スラリーのうち、60質量%(固形分濃度)となるように、メチルエチルケトンとシクロヘキサノンを各20質量%ずつ用いてスラリー状の熱硬化性組成物を調製した。
【0165】
得られたスラリー状の熱硬化性組成物を、ドクターブレード法でPET製基材に塗布し、60℃で120分間加熱乾燥を行い、シート状の熱硬化性組成物を得た。シート状の熱硬化性組成物中のメチルエチルケトン及びシクロヘキサノンの合計の含有量は1質量%以下であった。このシートの加圧後の厚さは150μmであった。
【0166】
実施例・比較例で得たシート状の熱硬化性組成物について、次のように、WPE測定、シートの曲げ耐性の評価、熱硬化性組成物の硬化物の貯蔵弾性率E’測定、熱伝導率の測定、BVD測定を行った。各実施例及び比較例の結果を表1に示す。
【0167】
なお、表1において、「樹脂成分中のポリマーの割合」は、熱硬化性組成物から溶剤と無機フィラーを除いた成分(樹脂成分)100質量%、すなわち、樹脂成分、硬化剤、エポキシポリマー及び熱硬化性触媒の合計量100質量%に対する、エポキシポリマーの合計含有量の割合(質量%)である。
表1において、「フィラーを除く樹脂成分のWPE」は、熱硬化性組成物から溶剤と無機フィラーを除いた成分のエポキシ当量(g/当量)である。
【0168】
<測定・評価>
実施例・比較例で用いた原材料、及び、実施例・比較例で作製したシート状の熱硬化性組成物について、次のように、各物性値を測定し、評価した。
【0169】
(樹脂成分のエポキシ当量(WPE)測定)
各実施例及び比較例で用いた樹脂成分(溶剤と無機フィラーを除いた成分)、すなわち、樹脂成分1-2、エポキシポリマー1-2、硬化剤1-3、熱硬化性触媒1-2を、下記表1に示す質量比で混合して得た樹脂組成物について、電位差滴定法により測定し、樹脂成分全体の値に換算してエポキシ当量(g/当量)を求めた。
【0170】
(シートの曲げ耐性の評価(マンドレル試験))
各実施例及び比較例で作製したシート状の熱硬化性組成物を、幅2cm、長さ15cm以上で切り出して、JIS K5600-5-1の試験方法に従って曲げ耐性評価を実施した。
◎(合格) :シートが割れた治具の直径は16mm未満
〇(合格) :シートが割れた治具の直径は20mm未満16mm以上
×(不合格):シートが割れた治具の直径は20mm以上
【0171】
(熱硬化性組成物の硬化物の貯蔵弾性率(E’)測定)
各実施例及び比較例で作製したシート状の熱硬化性組成物を3枚積層し、その上下から10MPaの荷重で加圧しながら、175℃(品温)で30分、200℃で30分間加熱して硬化させることで熱硬化性組成物の硬化物を得、この硬化物を4mm幅×50~60mm程度の長さに切り出して得た試験片を評価サンプルとした。
この評価サンプルについて、測定装置:日立ハイテクサイエンス社製「DMS6100」を用いて、以下の条件で貯蔵弾性率(E’)を測定した。
測定温度条件:-110~270℃
測定モード:引張モード
測定周波数:1Hz
チャック間:35mm
歪振幅(μm):5μm
力振幅初期値(mN):50mN
【0172】
(熱硬化性組成物層の厚さ方向の熱伝導率の測定)
各実施例及び比較例で作製したシート状の熱硬化性組成物を、10MPaの荷重で加圧しながら、175℃(品温)で30分間、200℃で30分間加熱して硬化させることで、厚み150μmのシート状硬化物を得た。
また、各実施例及び比較例で作製したシート状の熱硬化性組成物を2枚重ね、3枚重ね、又は、4枚重ねて、上記同様に加圧することで、厚みの異なる4種類の熱硬化性組成物のシート状硬化物(フィラー入りシート)を得た。
これら厚みの異なる4種類のシート状硬化物について、下記測定を実施して、シートの厚みに対する熱抵抗値で表される傾きから、定常法でのシート厚み方向の25℃における熱伝導率を測定した(ASTMD5470準拠)。
(1)厚み:Mentor Graphics社製T3Ster-DynTIMを用いて、プレス圧力3400kPaでプレスしたときの厚み(μm)
(2)測定面積:Mentor Graphics社製T3Ster-DynTIMを用いて測定する際の、熱を伝達する部分の面積(cm2)
(3)熱抵抗値:Mentor Graphics社製T3Ster-DynTIMを用いて、プレス圧力3400kPaでプレスしたときの熱抵抗値(K/W)
(4)熱伝導率:厚みの異なる4つのシートの熱抵抗値を測定し、下記の式から熱伝導率(W/m・K)を算出する。
式:熱伝導率(W/m・K)=1/((傾き(熱抵抗値/厚み):K/(W・μm))×(面積:cm2))×10-2
【0173】
(熱硬化性組成物の硬化物のBDV(絶縁破壊電圧)測定)
各実施例及び比較例で作製したシート状の熱硬化性組成物を、2mm厚の銅板上に重ね、10MPaの荷重で加圧しながら、175℃(品温)で30分間、200℃で30分間加熱して加熱加圧硬化により接着させて、シート状の熱硬化性組成物の硬化物を銅板上に積層して複合成形体(評価サンプル)を作製した。
複合成形体(評価サンプル)を絶縁油(3M社製「フロリナートFC-40」)に浸し、超高電圧耐圧試験器7470(計測技術研究所社製)を用いて、パターニングしたφ25mmの銅上に電極を置いて、0.5kV電圧を印加し、1分ごとに500Vずつ昇圧していき、熱硬化性組成物の硬化物が破壊されるまでの電圧(BDV:絶縁破壊電圧)を測定した。
また、上記曲げ耐性試験後の熱硬化性組成物について、上記同様に銅板に加熱加圧硬化によりより接着させて複合成型体のBDV(:曲げ試験後のBDV)測定した。
【0174】
【0175】
実施例1~5と比較例1~4との比較並びにこれまで本発明者らが行ってきた試験結果から、樹脂成分のWPEが所定の範囲であることにより、架橋密度が高くなるため、無機フィラー粒子の接触を保持することができ、フィラー間の熱抵抗を減らすことにより、熱伝導率が増加することが分かった。
また、ポリマー成分の割合が所定の範囲であることにより、硬化前のシートの柔軟性を維持することができ、曲げ耐性が良くなることも分かった。
さらにまた、樹脂成分のWPEが所定の範囲であることにより、樹脂成分の弾性率が高くなる傾向があり、耐熱性が高められることにつながる。
また、硬化前の曲げ耐性が高められることにより、硬化物の絶縁性が維持されることも分かった。
さらに、曲げ試験で割れた比較例2のシートの絶縁性(曲げ試験後のシートを用いて同様の方法で銅板上で硬化した複合成形体評価サンプルのBDV)は、曲げ試験実施前のシートの絶縁性や曲げ試験で割れない実施例1~5より低いことがわかった。
【0176】
本発明の熱硬化性組成物は、特定のフィラー及び樹脂を含有する熱硬化性組成物を用いることで、未硬化シートの曲げ耐性を維持しつつ、高熱伝導・高絶縁性・高耐熱性を兼ね備えたシート硬化物が得られることが確認された。