(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137913
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】ホエイ加工食品
(51)【国際特許分類】
A23C 21/00 20060101AFI20240927BHJP
A23C 21/02 20060101ALI20240927BHJP
A23J 3/08 20060101ALI20240927BHJP
A23J 3/00 20060101ALI20240927BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240927BHJP
【FI】
A23C21/00
A23C21/02
A23J3/08
A23J3/00 511
A23L5/00 J
A23L5/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024046618
(22)【出願日】2024-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2023048486
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮川 淳美
【テーマコード(参考)】
4B035
【Fターム(参考)】
4B035LC03
4B035LC06
4B035LG15
4B035LG19
4B035LG44
4B035LG51
4B035LP41
(57)【要約】
【課題】 本発明は、栄養価に優れながらも従来十分活用ができていなかったホエイの有効活用を図るために、咀嚼力が弱い者にも食べやすく、幅広い層の消費者に受け入れられるホエイ加工食品を提供することを課題とする。
【解決手段】 固形分換算でホエイたんぱく質5~21質量%、乳糖29~70質量%、及び脂質9~60質量%を含有するホエイ加工食品であって、
テクスチャー試験で得られる物性値(1)~(3)が下記の範囲であるホエイ加工食品:(1)硬さ:14N以上、
(2)付着性:-8N・mm以上、
(3)凝集性:0.3以下。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分換算でたんぱく質5~21質量%、乳糖29~70質量%、及び脂質9~60質量%を含有するホエイ加工食品であって、
テクスチャー試験で得られる物性値(1)~(3)が下記の範囲であるホエイ加工食品:
(1)硬さ:14N以上、
(2)付着性:-8N・mm以上、
(3)凝集性:0.3以下。
【請求項2】
前記物性値(1)~(3)が下記の範囲である、請求項1に記載するホエイ加工食品:
(1)硬さ:14~25N、
(2)付着性:-5~-1N・mm、
(3)凝集性:0.1~0.3。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホエイを原料として製造されるホエイ加工食品に関する。より詳細には、本発明は、歯にくっつきにくく、咀嚼により組織が崩壊しやすく、咀嚼力が弱い者を含む幅広い層の消費者に食べやすいホエイ加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
生乳は加工技術によって、牛乳、チーズ、ヨーグルト、バター、又はクリームなど、多彩な乳製品へと加工され、人々に食されている。しかし、チーズの製造工程において、生乳からチーズになるのは約10%のみであり、残りの約90%がホエイ(乳清)として排出される。ホエイは、チーズの製造工程における副生物であるため、各種の必須アミノ酸、タンパク質、ビタミン類、及び糖類を多量に含んでおり、栄養学的に優れた食品素材でもある。しかしながら、ホエイは変質しやすく保存性が低いことや、特有の風味を有することから、食品分野で十分に利用されていない。このため、工業利用されているホエイは世界中で排出されるホエイ全体の59%に留まり、残り41%は家畜飼料や農業肥料として利用されるか、若しくは産業廃棄物として処理されているのが実情である。このため、ホエイの有効活用や活用先の拡大を図ることは、未利用乳資源の有効利用、廃棄物を減少して環境保全を図るなど、サステナブルな社会の実現を目指すうえで、特に乳製品を製造する会社の責務として重要な課題である。
【0003】
ホエイの変質の一つとして、ホエイに含まれる乳糖の変質が挙げられる。一般に、乳糖濃度の高い飲食物中では、乳糖の結晶が生成し、巨大化することで、舌にザラツキを感じ、滑らかな食感を失うことが知られている。この現象は、乳糖濃度が高くなるほど顕著に発生する。乳糖濃度が高いホエイ加工食品の一つであるブラウンホエイチーズについても、乳糖結晶が食感に及ぼす影響が指摘されており、理想的な結晶サイズは20-30μmであること、結晶サイズが100μmを超えると舌にザラツキを感じるようになることが知られている(非特許文献1)。このため、乳糖を多く含むホエイを食品素材として有効利用するためには、ホエイに含まれる乳糖の結晶化やその巨大化を防止し、良好な食感を保つことが求められる。
【0004】
ホエイ中の乳糖の結晶化を抑制する方法として、ホエイをナノフィルトレーションにより脱塩処理し、のち乳糖分解酵素で乳糖分解処理をする方法が知られている(特許文献1)。この方法によると、脱塩することで風味がよく、乳糖を分解することで濃縮した場合も粘度が低く、また濃縮液の輸送時等に乳糖の結晶化が惹起されないという特徴を有する乳糖分解脱塩ホエイを得ることができる。また、乳糖の結晶化抑制方法ではないものの、マンニトールの結晶化抑制方法として、非結晶性糖質を結晶析出調整剤として用いることが知られている(特許文献2)。
【0005】
しかし、一方で、結晶性の低い糖や非結晶性糖質を多く含むホエイ加工食品は粘性や付着性が高いため、喫食時に歯にくっつきやすく、咀嚼力が弱い者にとっては食べにくいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-129579号公報
【特許文献2】特開2007-215450号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Siv Skeie, Roger K. Abrahamsen, “Chapter 45: Brown Whey Cheese”, Cheese 4th edition: Chemistry, Physics and Microbiology
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、栄養価に優れながらも従来十分活用ができていなかったホエイの有効活用を図るために、咀嚼力が弱い者にも食べやすく、幅広い層の消費者に受け入れられるホエイ加工食品を提供することを課題とする。より具体的には、噛みだしの歯に対してくっつきにくく、噛むことにより早くほぐれて柔らかくなりやすい(崩壊しやすい)ホエイ加工食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねていたところ、ホエイを主原料として製造されるホエイ加工食品において、たんぱく質、乳糖、及び脂質を後述する所定の割合で配合し、且つ、テクスチャー試験で得られる(1)硬さ、(2)付着性、及び(3)凝集性といった物性値を各々後述する所定の範囲に調整することで、歯にくっつきにくく、咀嚼により組織が崩壊しやすく、咀嚼力が弱い者にも食べやすい食感を有するホエイ加工食品が得られることを見出した。
【0010】
本開示は、これらの研究成果に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を有する。
項1.固形分換算でたんぱく質5~21質量%、乳糖29~70質量%、及び脂質9~60質量%を含有するホエイ加工食品であって、
テクスチャー試験で得られる物性値(1)~(3)が下記の範囲であるホエイ加工食品:
(1)硬さ:14N以上、
(2)付着性:-8N・mm以上、
(3)凝集性:0.3以下。
項2.前記物性値(1)~(3)が下記の範囲である、項1に記載するホエイ加工食品:
(1)硬さ:14~25N、
(2)付着性:-5~-1N・mm、
(3)凝集性:0.1~0.3。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、固形分換算でたんぱく質を5~21質量%、乳糖を29~70質量%、及び脂質を9~60質量%の範囲で含有するホエイ加工食品を、テクスチャー試験で得られる物性値(1)~(3)が前記所定の範囲になるように調整することで、喫食時に歯にくっつきにくく咀嚼により組織が崩壊しやすく、このため咀嚼力が弱い者も食べやすく、幅広い消費者層に受け入れられるホエイ加工食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】テクスチャー試験で、2回圧縮変形したときの圧縮曲線(テクスチャープロファイル)の一例を示す。図中、Hは硬さ、Bはもろさ、Cは粘着力、T1及びT2は窪み、A3は付着性、A2/A1は凝集性を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(I)ホエイ加工食品の組成
本発明が対象とするホエイ加工食品(以下、「本食品」とも称する。)は、ホエイを原料の一つとして用いて製造される加工食品であり、少なくともたんぱく質、乳糖、及び脂質を、固形分換算で、それぞれ5~21質量%、29~70質量%、及び9~60質量%の範囲で含有することを特徴とする。
【0014】
なお、本発明において「固形分」とは水分を除いた成分を意味する。対象物(例えば、ホエイ加工食品)中の成分の固形分換算による含有量(これを「固形分換算量」ともいう)は、当該対象物に含まれる成分の割合を固形分で換算した値を意味する。当該「固形分換算量」は、具体的には、対象物の固形分の総量(乾質量)を100質量%とした場合に、当該固形分総量に占める成分の割合(質量%)で示される。本明細書において「固形分濃度」とは、対象物(例えば、ホエイ加工食品)に含まれる固形分の割合を意味し、対象物の総量(湿質量)を100質量%とした場合に、当該総量に占める固形分の割合(質量%)で示される。ホエイ加工食品の固形分の質量及びその濃度(固形分濃度)は、常圧加熱乾燥法(混砂法)により求めることができる。その詳細は、後述する実施例の欄にて説明する。
【0015】
本発明において「ホエイ」とは、乳から脂肪、カゼイン、脂溶性ビタミンなどを除去した際に残留する水溶性成分(乳清)を意味する。但し、ホエイには、除去しきれなかった脂肪、カゼイン、及び/又は脂溶性ビタミン等が含まれていてもよい。ホエイとしては、例えば、ナチュラルチーズやレンネットカゼインを製造した際に副産物として得られるチーズホエイおよびレンネットホエイ(スイートホエイとも呼ばれる)や、発酵乳やクワルクなどを製造した際に得られるカゼインホエイ、酸ホエイおよびクワルクホエイが挙げられる。
【0016】
(a)たんぱく質
本食品中のたんぱく質には、ホエイたんぱく質、及びカゼイン等の乳由来たんぱく質が含まれる。なお、本発明でいう「乳」には、牛乳のほか、山羊乳、及び羊乳が含まれる。好ましくは牛乳である。なお、牛の種類は特に制限されず、乳用牛(ホルスタイン、ジャージー牛)が含まれる。
【0017】
ホエイたんぱく質は、ホエイに含まれるたんぱく質成分であり、代表的な成分として、α-ラクトアルブミン(α-LA)、β-ラクトグロブリン(β-LG)、免疫グロブリンおよびラクトフェリンが挙げられる。本発明においては、たんぱく質の一部および全部をホエイたんぱく質として用いることができる。なお、ホエイたんぱく質100質量%中に含まれるα-LA及びβ-LGの割合は、制限されないものの、α-LAは12~28質量%、好ましくは13~15質量%;β-LGは37~74質量%、好ましくは42~44質量%の範囲を挙げることができる。このように、ホエイたんぱく質中に含まれるα-LA及びβ-LGの割合は、乳の種類に応じてほぼ定まっている。例えば、乳用牛由来のホエイたんぱく質の場合、ホエイたんぱく質中に含まれるα-LA及びβ-LGの割合は、総量で約49~90質量%である。
【0018】
ホエイたんぱく質の原料(ホエイたんぱく質源)として、ホエイの原液(甘性ホエイ、酸ホエイなど)、その濃縮物、その乾燥物(ホエイ粉など)、及びその凍結物を用いることができる。また、ホエイたんぱく質源として、脱塩ホエイ、ホエイたんぱく質濃縮物(WPC)、タンパク質濃縮ホエイパウダー、及びホエイたんぱく質精製物(WPI)を用いることもできる。なお、一般的に、WPCは固形分の約25%~約80%がホエイたんぱく質であるものの総称であり、WPIは固形分の約80%以上がホエイたんぱく質であるものの総称である。
【0019】
本食品におけるたんぱく質の固形分換算量は、前述するように5~21質量%の範囲である。下限値は5質量%以上、好ましくは6質量%以上、より好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上である。上限値は21質量%以下、好ましくは13質量%以下、より好ましくは11質量%以下、さらに好ましくは9質量%以下である。なお、これらの下限値及び上限値は各々任意に組みあわせて範囲を設定することができる(以下、本明細書の記載において同様に適用される)。かかる範囲としては、例えば5~21質量%、7~21質量%、5~11質量%、7~11質量%、及び8~9質量%を挙げることができる。
本食品中に含まれるたんぱく質の総量は、ケルダール法を用いて測定することができる。その詳細は、実施例の欄において説明する。本食品におけるたんぱく質の固形分換算量は、本食品中のたんぱく質総量と、常圧加熱乾燥法(混砂法)から求められる本食品の固形分濃度から算出することができる。
【0020】
本食品中に含まれるホエイたんぱく質の固形分換算量は5~21質量%の範囲から選択することができる。下限値は5質量%以上、好ましくは7.6質量%より多く、より好ましくは8質量%以上である。上限値は21質量%以下、好ましくは13質量%以下、より好ましくは11質量%以下である。かかる範囲としては、例えば5~11質量%、7.6質量%より多く11質量%以下、及び8~11質量%を挙げることができる。
【0021】
また、制限されないものの、本食品中に含まれるα-LAの固形分換算量は0.7~2質量%の範囲から選択することができる。下限値は0.7質量%以上、好ましくは1.0質量%より多く、より好ましくは1.1質量%以上である。上限値は2質量%以下、好ましくは1.8質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下である。かかる範囲としては、例えば0.7~1.8質量%、0.7~1.5質量%、1.1~1.8質量%、及び1.1~1.5質量%を挙げることができる。
【0022】
また、制限されないものの、本食品中に含まれるβ-LGの固形分換算量は2.2~5質量%の範囲から選択することができる。下限値は2.2質量%以上、好ましくは3.2質量%より多く、より好ましくは3.3質量%以上である。上限値は5質量%以下、好ましくは4.8質量%以下、より好ましくは4.6質量%以下である。かかる範囲としては、例えば2.2~4.8質量%、2.2~4.6質量%、3.3~4.8質量%、及び3.3~4.6質量%を挙げることができる。
【0023】
本食品中に含まれるα-LA及びβ-LGの量は、いずれもSDS-PAGE法を用いて測定することができる。その詳細は、実施例の欄において説明する。なお、SDS-PAGEに供する被験試料は、加熱濃縮する前のものであることが好ましい。本食品におけるα-LA又はβ-LGの固形分換算量は、本食品中のα-LA又はβ-LGの含量と、常圧加熱乾燥法(混砂法)から求められる本食品の固形分濃度から算出することができる。
【0024】
前述するようにホエイたんぱく質中のα-LA及びβ-LGの含有割合はほぼ決まっていることから、本食品中に含まれるホエイたんぱく質の量は、本食品中に含まれるα-LA及びβ-LGの総量から計算により求めることができる。例えば、ホエイ粉を用いて本食品を製造する場合、当該本食品中に含まれるホエイたんぱく質の量は、α-LA及びβ-LGの総量の1.75倍の量として計算することができる。
【0025】
本食品中のカゼインの固形分換算量は0~5質量%の範囲から選択することができる。下限値は0質量%以上、好ましくは0.1質量%より多く、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上である。上限値は5質量%以下、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。かかる範囲としては、例えば0~5質量%、0~3質量%、0~2質量%、0.3~5質量%、0.3~3質量%、0.3~2質量%を挙げることができる。
【0026】
本食品中に含まれるカゼインの量は、差し引き法(全たんぱく質―非カゼイン態たんぱく質)を用いて測定することができる。その詳細は、実施例の欄において説明する。本食品におけるカゼインの固形分換算量は、本食品中のカゼイン総含量と、常圧加熱乾燥法(混砂法)から求められる本食品の固形分濃度から算出することができる。
なお、カゼインの種類として、αs-1カゼイン、αs-2カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、及びγ-カゼインを挙げることができる。
【0027】
(b)乳糖
本食品における乳糖の固形分換算量は、前述するように29~70質量%である。下限値は29質量%以上、好ましくは45質量%、より好ましくは47質量%以上、さらに好ましくは49質量%以上である。上限値は70質量%以下、好ましくは68質量%以下、より好ましくは67質量%以下である。かかる範囲としては、例えば29~68質量%、29~67質量%、49~70質量%、49~68質量%、及び49~67質量%を挙げることができる。
【0028】
本発明において乳糖の含有量は、酵素電極法を用いて測定することができる。その具体的な測定方法は、実験例2において詳細に説明する。本食品における乳糖の固形分換算量は、本食品中の乳糖含量と、常圧加熱乾燥法(混砂法)から求められる本食品の固形分濃度から算出することができる。
【0029】
乳糖の原料(乳糖源)としては、前述するホエイの原液(甘性ホエイ、酸ホエイなど)、その濃縮物、その乾燥物(ホエイ粉など)、及びその凍結物を用いることができる。また、乳糖源として、脱塩ホエイ、WPC、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、及びWPIを用いることもできる。その他、たんぱく質濃縮物の副産物であるパーミエート粉、ホエイまたはパーミエートを濃縮、精製することによって得られる食品用乳糖等、乳糖を含む原料等を、由来の別を問わず、任意に用いることもできる。
【0030】
(c)脂質
本食品における脂質の固形分換算量は、前述するように9~60質量%である。下限値は9質量%以上、好ましくは25質量%、より好ましくは28質量%以上、さらに好ましくは39質量%以上である。上限値は60質量%以下、好ましくは58質量%以下、より好ましくは55質量%以下である。かかる範囲としては、例えば9~55質量%、25~55質量%、28~55質量%、39~60質量%、39~55質量%を挙げることができる。
ホエイ加工食品中の脂質含量は、レーゼゴットリーブ法により測定することができる。その詳細は、実施例の欄において説明する。本食品における脂質の固形分換算量は、本食品中の脂質含量と、常圧加熱乾燥法(混砂法)から求められる本食品の固形分濃度から算出することができる。
【0031】
脂質の原料(脂質源)としては、ホエイ調製時に除去しきれなかったホエイ中の残留物のほか、生乳、牛乳、又は乳製品(濃縮乳、還元乳、全粉乳、クリーム、バター、バターオイル等)、植物油脂(サフラワー油、コーン油、綿実油、ごま油、米油、オリーブオイルなど)、植物油を原料とする加工品(マーガリン、ショートニング、ファストスプレッドなど)等、脂質を含む原料を、由来の別を問わず、任意に用いることもできる。
【0032】
(d)その他の成分
本食品は、たんぱく質、乳糖、及び脂質を前述する割合で含有し、且つ後述する物性を備えることを限度として、前述以外のその他の成分を含有するものであってもよい。かかるその他の成分としては、乳たんぱく質以外の動植物性たんぱく質;糖類(例えば、単糖類や二糖類等)、糖質(例えば、澱粉、オリゴ糖、多糖類等)、及び食物繊維等の炭水化物;ゼラチンや増粘多糖類等の増粘剤;安定剤;甘味料、酸味料、辛料、及び矯味料等の調味料:着色料;香料等を例示することができる。
【0033】
また本食品は、水を含有するものであってもよい。本食品には、固形分濃度が80質量%以上、好ましくは82質量%以上である固形状のものが含まれる。固形分濃度の上限値は100質量%を限度として、95質量%以下、90質量%以下、及び87質量%以下を例示することができる。つまり、前記固形状のホエイ加工食品(100湿質量%)に含まれる水分含量は20質量%未満、好ましくは18質量%未満である。水分含量の下限値は0質量%を限度として、5質量%以上、10質量%以上、及び13質量%以上を例示することができる。ホエイ加工食品中の水の含有量は、常圧加熱乾燥法により求めることができる。
水の原料(水分源)としては、制限されないが、前述するホエイたんぱく質源、乳糖源及び脂質源として使用する各種原料(例えばホエイの原液、その濃縮物、生乳、牛乳、又は乳製品)を例示することができる。
【0034】
(II)ホエイ加工食品の物性
本食品は、テクスチャー試験で得られる下記(1)~(3)の物性値が下記の範囲にあることを特徴とする。
(1)硬さ:14N以上、
(2)付着性:-8N・mm以上、
(3)凝集性:0.3以下。
【0035】
好ましい態様としては、下記を挙げることができる
(1)硬さ:
下限値として好ましくは14.5N以上、より好ましくは15N以上、さらに好ましくは15.5N以上;上限値として好ましくは30N以下、より好ましくは25N以下、さらに好ましくは21N以下を挙げることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができる。制限されないものの、上記含有量の範囲は、例えば14~25N、好ましくは15~25N、より好ましくは15.5~21Nとすることができる。
【0036】
(2)付着性:
下限値として好ましくは-6N・mm以上、より好ましくは-5N・mm以上、さらに好ましくは-4N・mm以上;上限値として好ましくは-0.5N・mm以下、より好ましくは-1N・mm以下、さらに好ましくは-1.5N・mm以下を挙げることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができる。制限されないものの、上記含有量の範囲は、例えば-8~-0.5N・mm、-6~-0.5N・mm、-5~-1N・mm、好ましくは-4~-1N・mm、より好ましくは-3.5~-1.5N・mmとすることができる。
【0037】
(3)凝集性:
下限値として好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上;上限値として好ましくは0.25以下、より好ましくは0.2以下を挙げることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができる。制限されないものの、上記含有量の範囲は、例えば0.05~0.3、0.1~0.3、0.05~0.25、好ましくは0.1~0.25、より好ましくは0.1~0.2とすることができる。
【0038】
前記各種の物性を測定するために使用されるテクスチャー試験は、食品を歯で噛んだときの感覚(食感)を評価するための物性測定試験である。本発明において、この試験は、測定対象のホエイ加工食品に、外部から唾液に相当する水分を添加しない状態で実施される。
【0039】
簡単に説明すると、テクスチャー試験は、下記の方法で実施することができる:
(a)測定装置の試料台(下圧盤)の上に、被験試料を動かないようにセットする。
(b)その後、プランジャー(円柱押し治具)を所定速度で下方向に移動させて(下降)、試料台上にセットした被験試料に触れた点から5mm突き刺し、被験試料を圧縮する。(c)次いで、プランジャーを所定速度で上昇させて、被験試料とプランジャーを離す。(d)再度、(b)及び(c)を繰り返す。
【0040】
こうしたテクスチャー試験を実施することで、ホエイ加工食品を歯で噛んだ際に感じる硬さ及び歯に付着することにより感じる抵抗感(歯付き感)を評価することができる。テクスチャー試験で、2回圧縮変形したときの圧縮曲線(テクスチャープロファイル)の例を
図1に示す。
図1中、符号の意味と、これから評価できる特性を表1に示す。なお、
図1中、A1~A3の面積はエネルギー量を示し、測定荷重の積分値である。
【0041】
【0042】
具体的には、対象とするホエイ加工食品を、恒温条件下(10℃)で放置した後、所定サイズ(横15mm、縦15mm、高さ(厚み)9mm)の立方体形状にカットし、これを被験試料片とする。これをテクスチャー試験装置の試料台の上にセットし(厚み9mm)、その上表面に試験装置のプランジャーを当てて荷重をかけて測定し、解析装置を用いて荷重曲線を記録及び解析することで、前記(1)~(3)の物性値を求めることができる。
【0043】
テクスチャー試験に供する被験試料の調製方法、テクスチャー試験に使用する装置、その治具(種類及び大きさ等)、及び操作方法や条件(圧縮率、プランジャーの昇降速度等)、並びに評価方法の詳細は、後述する実施例の欄において説明する。
【0044】
こうした方法及び条件で測定される「硬さ」は、被験試料に対する荷重(圧縮)に伴う変形に要する力を評価するものであり、被験試料に一定の変形を与えるために必要な歯の力を反映する。このことから、特に官能評価における「噛みだしの硬さ」と相関すると考えられる。なお、この硬さによって、ホエイ加工食品を形作っている内部結合力を評価することもできる。
【0045】
また「付着性」は、プランジャーを被験試料から離すときに、プランジャーが試料に引っ張られる力を評価するものであり、被験試料の歯や口蓋への付着性を反映する。本発明で採用するテクスチャー試験は、唾液に相当する水分を用いないで実施することから、ここで評価する「付着性」から、特にホエイ加工食品の歯への付着性(噛みだしの歯に対するくっつきやすさ)を評価することができる。このことから、特に官能評価における「歯付き感」と相関すると考えられる。このため「付着性」が低いとは、噛みだしの歯に対してくっつきにくいことを意味する。また、唾液量の少ない人(例えば、唾液量が低減した高齢者)においては、歯や口蓋等の口腔内での付着性を反映することもできる。
【0046】
また「凝集性」は、1回目の圧縮と2回目の圧縮のエネルギーの比を示す。一般に試料に負荷を加えると変形したり破損する。このため「凝集性」は、ホエイ加工食品を一度噛んで変形させた後に残っている弾力の割合に相当する。このため「凝集性」を評価することで、ホエイ加工食品について、噛むことで早くほぐれて柔らかくなりやすいこと、つまり崩壊しやすさを評価することができる。このことから、特に官能評価における「崩壊しやすさ」と相関する。
【0047】
これらのことから、前述するテクスチャー試験によれば、ホエイ加工食品について、噛みだしの硬さ、歯付き感、及び崩壊しやすさを評価することができ、簡便に喫食時の咀嚼性を評価することができる。
【0048】
(III)ホエイ加工食品の製造方法
本食品は、固形分換算でたんぱく質を5~21質量%、乳糖を29~70質量%、及び脂質を9~60質量%の範囲で含有し、さらに、前述するテクスチャー試験による物性値(1)~(3)が、前述の範囲になるように調製することで製造することができる。この限りにおいて、特に制限されるものではない。
【0049】
制限されないものの、本品には、ホエイ加工食品中の乳糖結晶の割合が3~5%であり、且つホエイ加工食品中の乳糖結晶に占める、粗大乳糖結晶の割合が10%以下、微細乳糖結晶の割合が70%以上であるホエイ加工食品が含まれる。
粗大乳糖結晶の割合は好ましくは1~9%である。微細乳糖結晶の割合は好ましくは70~98%である。
【0050】
ここで、前記乳糖結晶の割合は、X線回折装置で測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=19.9~20.4°の範囲に検出される乳糖一水和物結晶(標準品)のメインピークの面積を基準として、被験ホエイ加工食品について得られる該当位置における前記メインピークに相当するピークの面積から求められる割合である。その測定方法の詳細は、後述する実験例2において説明する。
【0051】
当該測定に供する被験試料(測定試料)の調製方法としては、固形分濃度が例えば80質量%以上の硬い固形状のホエイ加工食品については実験例2と同様に厚さ0.5mmにスライスすることで調製することができる。一方、固形分濃度が例えば55~80質量%未満の半固形状又は柔らかい固形状のホエイ加工食品については、粉末X線回折測定法に用いられる試料調製法のうち、フロンド・ローディング法に従って調製することができる。具体的には、深さ0.5mm、底面20mm×20mmの正方形柱状のくぼみ(試料充填部)を有するガラス製試料ホルダーの当該試料充填部に、ホエイ加工食品を充填し、別のガラス板の縁を用いて表面を擦り切ることで、X線回折に供する被験試料の表面を面一に(平滑に、均一に)仕上げた後、5℃で冷却することで調製することができる。
【0052】
前記乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合は、位相差顕微鏡観察により求められる、被験ホエイ加工食品中の乳糖結晶粒子の総面積100%に対する粗大乳糖結晶粒子の総面積の割合及び微細乳糖結晶粒子の総面積の割合である。その測定方法の詳細は、測定試料の調製方法も含めて、後述する実験例2において説明する。
【0053】
前記特性を有するホエイ加工食品を製造する方法としては、制限されないものの、例えば、先行特許として挙げた特許文献1に記載する乳糖分解酵素を用いて乳糖分解処理を行うことで、乳糖の結晶生成を抑制して、乳糖結晶の割合、並びに乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合(以下、これらを総称して「乳糖結晶の特性」ともいう)が前述する本発明の範囲になるように調整する方法を挙げることができる。また、同様に特許文献2に記載する結晶析出調整剤を用いて、乳糖の結晶生成を抑制することで前述する乳糖結晶の特性を備えるように調整することもできる。結晶析出調整剤としては、特許文献2に記載されている水飴、還元水飴、還元麦芽糖水飴、カップンリングシュガー、オリゴ糖、及び多糖類等を用いることもできるが、高いガラス転移温度と氷結晶成長抑制効果を有するトレハロースを用いることもできる。
【0054】
前記特性を有するホエイ加工食品を製造する方法としては、他に粉砕乳糖を用いたシーディング方法を例示することができる。
当該方法は、下記の工程により実施することができる。
(1)たんぱく質、乳糖及び脂質を含有するホエイ含有液について、ホエイ含有液中に含まれる乳糖のうち10~20質量%を加水分解する工程(乳糖分解工程)、
(2)前記乳糖分解処理後のホエイ含有液を加熱濃縮して、固形分濃度55~90質量%のホエイ濃縮液を調製する工程(濃縮工程)、及び
(3)60℃~90℃に調整した前記ホエイ濃縮液に粉砕乳糖を添加し、撹拌後冷却する工程(シーディング及び結晶化工程)。
【0055】
各工程の操作の詳細は実験例2に記載するが、そこで説明するように、乳糖分解率とシーディング工程の温度を調整することで、前述する乳糖結晶の特性を有する本発明のホエイ加工食品を調製することができる。
一例を挙げると、乳糖含量が固形分換算で36~74質量%であるホエイ含有液を、乳糖分解酵素(例えば、ラクターゼ)を用いて乳糖分解率が10~20%になるまで処理した後、得られたホエイ調合液を、撹拌加熱しながら固形分濃度が55~90質量%程度、好ましくは85質量%以上になるまで減圧濃縮した後、60℃~90℃に調整した状態で10μm以下に粉砕した粉砕乳糖(α-含水結晶乳糖)を0.01~0.5質量%程度添加し、同温度で撹拌する方法が挙げることができる。なお、乳糖分解工程(1)で用いられるホエイ含有液中のたんぱく質含量、乳糖含量、及び脂質含量は、制限されないものの、固形分換算で、それぞれ5~21質量%、36~74質量%、及び9~60質量%の範囲を例示することができる。
但し、かかる方法に限定されるものではない。
【0056】
本発明のホエイ加工食品が得られているか否かは、前述するテクスチャー試験を用いた評価方法でホエイ加工食品の物性を評価し、さらに必要に応じてホエイ加工食品の乳糖含有量や乳糖結晶の割合、並びに乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合を測定することで確認することができる。
【0057】
なお、本発明のホエイ加工食品には、下記の方法によって製造される油脂混合物は含まれない(特開2015-164405号公報の試験例6参照);
アモルファス化度100%の乳糖含有量が76.9質量%のホエイパウダー60.6質量%(アモルファス糖含有量:46.6質量%)を、ココアバター38.9質量%と混合し、微細化した後、エタノールを添加して成形し、冷却固化する。
当該油性混合物には、成形直後のエタノール含有量が0.9~4.0質量%、好ましくは1.6質量%であるものが含まれる。
【0058】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例0059】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0060】
実験例1
13種類のホエイ加工食品A~Mを製造して、各ホエイ加工食品について、テクスチャー試験を実施して、(1)硬さ、(2)付着性、及び(3)凝集性を求めた。また、これらのホエイ加工食品の食感を評価した。
【0061】
(1)原材料
なお、ホエイ加工食品の製造に使用した原料は以下の通りである:
ホエイ粉:ホエイを乾燥した粉(ホエイ100%)、全固形分99%、脂質含量2%、乳糖含量80%、たんぱく質含量12%(株式会社 明治製)。
クリーム:全固形分52%、脂質含量47%、乳糖含量3%、たんぱく質含量2%(株式会社 明治製)。
なお、クリームは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)の規定「生乳、牛乳又は特別牛乳から乳脂肪分以外の成分を除去したもの」に該当する。
ラクターゼ:Saphera(登録商標)2600 L(ノボザイムズ ジャパン株式会社製)
粉砕乳糖:粉砕乳糖(株式会社 ラクトジャパン製)。
また、乳糖含量、及び乳糖結晶の割合の測定に使用した標準品は以下の通りである:
乳糖一水和物結晶(α型):ラクトース一水和物(100%)、富士フイルム和光純薬株式会社製。以下、「乳糖結晶(標準品)」と称する。
【0062】
(2)被験試料の固形分の質量と濃度(固形分濃度)の測定方法
下記の実験例において、被験試料(ホエイ加工食品)に含まれる固形分の質量とその濃度(固形分濃度)は、下記の方法を用いて測定した。
常圧加熱乾燥法(混砂法)
秤量皿に海砂及びガラス棒を入れた状態で恒量を求めたのち、これに被験試料(乾燥前)及び蒸留水を加え、99℃で4時間、乾燥器内で乾燥させる。その後、被験試料の乾燥前後の重量差から被験試料(乾燥前)中の水分含量を求める。測定した水分含量から、被験試料(乾燥前)に含まれている固形分の質量を求め、それから被験試料100質量%中に含まれる固形分の割合(質量%)を算出し、これを被験試料の固形分濃度とする。
【0063】
(3)ホエイ加工食品A~Oの製造
(3-1)ホエイ加工食品A~I(実施例1~9)の製造
表2に記載する割合で各原料を混合してホエイ含有液を調製した。ホエイ含有液100%中に含まれているたんぱく質含量は7%(固形分換算量9%)、乳糖含量は42%(固形分換算量58%)、及び脂質含量は21%(固形分換算量29%)である。
【0064】
【0065】
得られたホエイ含有液にラクターゼを添加し、50℃で10~20分間保持して、ホエイ含有液に含まれる全乳糖100%のうち10%、15%、及び20%を分解した。これらをそれぞれ連続加熱式バキュームクッカー装置(株式会社ミハマ製)にて、20~60rpm、回転半径0.175m、0.37~1.1m/sで撹拌しながら、70℃条件で、真空(減圧)圧力(前記装置のゲージ圧力[相対圧力]:-20kPa~-50kPa、絶対圧力:約80kpa~50kpa)の条件下で、固形分濃度が80%になるまで加熱濃縮した。その後、加圧条件下(前記装置のゲージ圧力[相対圧力]:10kPa~20kPa、絶対圧力:約110kpa~120kpa)で110~120℃に加熱し、ホエイ調合濃縮物が褐変化するまで処理し、固形分濃度85%の固形状のホエイ濃縮物を得た。調製したホエイ濃縮物(A~C:乳糖分解率10%、D~F:乳糖分解率15%、G~I:乳糖分解率20%)を、それぞれ品温が50℃(ホエイ濃縮物A、D及びG)、60℃(ホエイ濃縮物B、E及びH)、及び80℃(ホエイ濃縮物C、F及びI)になるように調整し、各温度条件下で、各ホエイ濃縮物に対して、0.5%の粉砕乳糖を添加し、二軸混錬機(株式会社入江商会製、直径60mm、軸間距離50mm、長さ120mm、ねじれ角60°の羽根をもつ。回転方向は同方向)を用いて、同温度条件下で15分間撹拌した(シーディング処理)。シーディング処理後、10℃以下に冷却して、固形状のホエイ加工食品A~I(実施例1~9)を得た。
【0066】
(3-2)ホエイ加工食品J~O(比較例1~6)の製造
表2に記載する割合で各原料を混合して調製したホエイ含有液にラクターゼを添加し、50℃で30~90分間保持して、ホエイ含有液に含まれる全乳糖100%のうち40%、及び60%を分解した。これらを、前記実施例と同様にして、連続加熱式バキュームクッカー装置にて撹拌しながら、真空(減圧)圧力条件下で固形分濃度が80%になるまで加熱濃縮した後、加圧条件下で加熱して、ホエイ調合濃縮物が褐変化するまで処理し、固形分濃度85%の固形状のホエイ濃縮物を得た。調製したホエイ濃縮物(J~L:乳糖分解率40%、M~O:乳糖分解率60%)を、それぞれ品温が50℃(ホエイ濃縮物J及びM)、60℃(ホエイ濃縮物K及びN)、及び80℃(ホエイ濃縮物L及びO)になるように調整し、各温度条件下で、前記実施例と同様に、各ホエイ濃縮物に対して0.5%の粉砕乳糖を添加して同温度条件下で15分間撹拌した(シーディング処理)。シーディング処理後、10℃以下に冷却して、固形状のホエイ加工食品J~O(比較例1~6)を得た。
【0067】
(4)ホエイ加工食品A~Oの評価
(4-1)テクスチャーアナライザによる物性評価
(A)被験試料の調製
前記で調製したホエイ加工食品A~I(実施例1~9)及びJ~O(比較例1~6)を、温度10℃に調整した冷蔵庫内に2時間以上保管した。物性評価直前に、これを横15mm、縦15mm、及び高さ(厚み)9mmの立方形状にカットし、被験試料A~Oとした。
これを下記のテクスチャー試験装置の下圧盤上に配置し(厚み9mm)、被験試料が上下しないように固定した。
【0068】
(B)測定方法装置及び測定条件
下記のテクスチャー試験装置及び条件を用いて咀嚼評価試験(圧縮試験を2回繰り返す)を実施し、得られた試験力(応力)-時間曲線から、各被験試料の物性(硬さ(H)、付着性(A3)、凝集性(A2/A1))を評価した。
なお、圧縮試験は、試料台(下圧盤)上に配置し固定した被験試料の上からプランジャーを下降させて、被験試料にプランジャーを5mm突き刺した後、プランジャーを上昇させることを2回繰り返すことで実施した。
【0069】
[測定装置及び測定条件]
小型卓上試験機EZ Test:島津製作所製
下圧盤:寸法φ80mm
試料抑え治具:<下板>寸法φ70mm<上板>寸法φ40mm(中央に円柱押し治具の突き刺し用の穴(φ10mm))
円柱押し治具(プランジャー):寸法φ5mm
円柱押し治具の昇降速度:10cm/min(等速直線運動)
【0070】
(C)測定結果
ホエイ加工食品A~I(実施例1~9)に相当する被験試料A~Iの評価結果を表3に、ホエイ加工食品J~O(比較例1~6)に相当する被験試料J~Oの評価結果を表4に、それぞれ示す。なお、付着性は、絶対値が小さいほど付着しにくいことを示す。
【0071】
【0072】
【0073】
(4-2)官能試験による食感評価
(A)評価方法
社内で訓練した4名の分析型官能評価専門パネル(訓練期間:5~15年間)を用いて、ホエイ加工食品A~Oについて、喫食時の歯への付着性(歯付き感:噛みだしの歯に対するくっつきやすさ)を評価した。なお、各ホエイ加工食品は、食感評価に供する前に温度10℃、湿度50%の恒温恒湿条件下に1時間保存したものを使用した。
【0074】
ホエイ加工食品について、「歯付き感」を下記の基準に基づいて5段階評価した。
歯付き感:噛んだ際に歯(噛みだしの歯)に付着することにより感じる歯切れ抵抗感
5(最良):まったく歯に付着せず、歯付き感がない。
4(良):ほとんど歯に付着せず、歯付き感がほとんどない。
3(佳):やや歯に付着するもの、歯付き感がほとんどない。
2(悪):歯に付着して、歯付き感がある。
1(最悪):著しく歯に付着して、歯付き感が強くある。
【0075】
なお、食感評価を実施するにあたり、パネル全体で、各評価項目の特性について摺り合わせを行って、各パネルが共通認識を持つようにした。各評価は、各パネル毎に行い、次いでその結果をもとにパネル全体で話し合い、その結果をパネル全体の総合評価として、最終結果とした。
【0076】
(B)評価結果
官能評価結果を表5に示す。
【0077】
【0078】
表3~5の結果から、固形分換算でホエイたんぱく質を5~11%、乳糖を29~67%、及び脂質を9~55%の割合で含有するホエイ加工食品について、テクスチャー試験で得られる物性値のうち、硬さが14N以上、好ましくは14~25N;付着性が-8N・mm以上、好ましくは-5~-1N・mm;及び凝集性が0.3以下、好ましくは0.1~0.3の範囲になるように調製することで、歯への付着性が低くて食べやすいホエイ加工食品を提供できることが確認された。
【0079】
実験例2
前記15種類のホエイ加工食品A~Oについて、乳糖含量(質量%)、乳糖結晶の割合(%)、乳糖結晶中に含まれる粗大結晶及び微細結晶の割合、たんぱく質含量(%)、及び脂質含量(%)を測定した。
【0080】
(1)試験・評価方法
下記の実験例で使用した試験及び評価方法は、以下の通りである。
(1-1)ホエイ加工食品中の乳糖含量(質量%)の測定
各ホエイ加工食品中の乳糖含量は、酵素電極法を用いて測定した。
各ホエイ加工食品2.5gを蒸留水で100mLに定容したものを被験試料として、下記条件の測定装置に供した。また、事前に、乳糖結晶(標準品)を蒸留水で希釈し、0.25、0.50、1.0及び1.5g/100mLに調製し、これを検量線用の標準液とし、下記条件の測定装置に供して検量線を作成した。この検量線に基づいて、被験試料について得られた測定値から、被験試料中の乳糖含量を求め、次いでホエイ加工食品中の乳糖含量を算出した。
【0081】
[測定装置及び条件]
装置:酵素電極法バイオセンサBF-7(王子計測機器社製)
バッファー::BF用緩衝液pH7.0(王子計測機器社製)
電極:ラクトース電極(王子計測機器社製)
【0082】
(1-2)ホエイ加工食品中の乳糖結晶の割合(%)
ホエイ加工食品を厚さ0.5mmにスライスしたものを被験試料として、X線回折測定装置(SmartLab X-ray DIFFRACTOMETER、リガク製)を用いて乳糖結晶量を求めた。
【0083】
具体的には、前記被験試料(1片)を、スライスした断面が上下面になるように、前記装置付属のガラスセルに乗せ、当該X線回折測定装置でX線回折像を測定した。なお、X線回折測定装置で、乳糖結晶(標準品)のX線回折像を測定すると、2θ=19.9~20.4°の範囲に乳糖結晶に由来するピークが複数検出されるが、そのうち、最も大きいピークをメインピークとして設定する。次いで、被験試料について得られたX線回折像について、平滑化処理とベース部分を差し引く処理をした後、2θ=19.9~20.4°の範囲に検出されるピークのうち、乳糖結晶(標準品)の前記メインピークに相当するピークを対象として、その面積値を求めた。
【0084】
次いで、下式に従って、乳糖結晶(標準品)(100%)について同様に測定した上記メインピークの面積値を基準として、各ホエイ加工食品について得られた前記面積値の割合をもとめ、各ホエイ加工食品中に含まれる乳糖結晶の割合(%)を算出した。
【0085】
[式1]
ホエイ加工食品中に含まれる乳糖結晶の割合(%)
= B/A × 100
A:乳糖結晶(標準品)の2θ=19.9~20.4°のメインピークの面積値
B:ホエイ加工食品(被験試料)について前記メインピークに相当するピークの面積値
【0086】
(1-3)ホエイ加工食品中の乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合
前記で製造したホエイ加工食品1mg程度をスライドガラス上に載せ、カバーガラスで試料を押しつぶすようにして作製した(押し潰し法)プレパラートを、位相差顕微鏡(対物倍率×10、総合倍率10倍)により15視野を観察した。15視野の観察において取得した画像を2値化により背景と粒子(乳糖結晶の粒子)とに区分した後、粒子の総数を数えた。次いで、各粒子(各乳糖結晶)の水平投影面積を計測し、それぞれについて円相当径を算出した。円相当径が30μm以上である粒子を粗大乳糖結晶、10μm以下である粒子を微細乳糖結晶として、各粒子を分類し、粗大乳糖結晶の粒子数、及び微細乳糖結晶の粒子数を求めた。
【0087】
次いで、観察視野に含まれる全ての粒子(乳糖結晶)について各粒子の水平投影面積を積算することで、乳糖結晶粒子すべての総面積を求めた。これを「乳糖結晶総面積」とも称する。また、観察視野に含まれる全ての粒子(乳糖結晶)のうち粗大乳糖結晶に該当する粒子について各粒子の水平投影面積を積算することで、粗大乳糖結晶粒子の総面積を求めた。これを「粗大乳糖結晶総面積」とも称する。さらに、観察視野に含まれる全ての粒子(乳糖結晶)のうち微細乳糖結晶に該当する粒子について各粒子の水平投影面積を積算することで、微細乳糖結晶粒子の総面積を求めた。これを「微細乳糖結晶総面積」とも称する。
乳糖結晶総面積を100%(基準)として、それに対する粗大乳糖結晶総面積の割合(%)及び微細乳糖結晶総面積の割合(%)を算出し、それぞれを乳糖結晶中に占める粗大乳糖結晶の割合(%)及び微細乳糖結晶の割合(%)とした。
【0088】
(1-4)ホエイ加工食品中のたんぱく質含量:ケルダール法
前記で製造したホエイ加工食品約1.5gを精秤して、70℃の温湯にて希釈または溶解した後、100ml容メスフラスコへ移し、室温まで冷却した後に水で定容した。この希釈液20mlを分解フラスコに入れた。これに分解促進剤(ケルタブC)と硫酸12mlを徐々に加え混合した後、過酸化水素8mlを入れ混合した。次いで、分解装置で加熱分解して窒素をアンモニアに変換した。分解フラスコ中の液が透明となり、硫酸銅による青色を呈した後、冷却し、水50mlを徐々に加えて希釈した。その後、ケルダール蒸留装置で蒸留した。
【0089】
具体的には、上記の分解液((NH4)2SO4を含むH2SO4)に、過剰量の水酸化ナトリウムを加えてアルカリ性にしてから蒸気で加熱して再びアンモニアを放出させ、遊離したアンモニアを水蒸気蒸留してホウ酸水溶液に捕集した。得られたアンモニア捕集液を硫酸標準溶液で滴定して窒素量を求め、窒素たんぱく質換算係数(6.38)を乗じてたんぱく質含量を算出した。
【0090】
(1-5)α-LA及びβ-LGの定量:SDS-PAGE法
α-LA及びβ-LGの定量は、下記のSDS-PAGE法により実施することができる。
【0091】
(i)試薬の調製
(a)還元試薬の組成
50mM Tris-HCl緩衝液(pH6.8)、20%グリセリン、1%SDS、50mM DTT、0.005%BPB
【0092】
(b)試料溶液の調製
α-LA又はβ-LGの推定値約75mg/100gに調製した被験試料(ホエイ加工食品)100μlと還元試薬900μLを混合し、これを試料溶液とする(α-LA又はβ-LGの推定値約7.5mg/100gに調製)
【0093】
(c)検量線用標準溶液の調製
α-LA又はβ-LGが、25、50、100、150μg/mlの濃度になるように、検量線用標準溶液を調製する。使用した標準品は以下の通りである。
α-LA標準品:α-Lactalbumin from bovine milk-type1 lyophilized powder(Sigma-Aldrich製)
β-LG標準品:β-Lactoglobulin from bovine milk-type1 lyophilized powder(Sigma-Aldrich製)
【0094】
(ii)還元及び電気泳動
試料溶液をマイクロチューブに採取し、100℃で5分間加熱した後に、冷却する(還元)。
検量線用標準溶液についても、同様に還元処理をする。
【0095】
次いで、各溶液を、それぞれ下記条件の電気泳動に供する。
(電気泳動条件)
ゲル:SPG520L(アトー株式会社)
緩衝液:EzRunC+(アトー株式会社)
試料溶液注入量:10μL
通電:一定電流40mA(20mA/ゲル)約70分間。
【0096】
通電後、ゲルを染色液(AE-1340 EzStain Aqua:アトー株式会社)に3時間浸漬し、その後蒸留水ですすぎ、24時間浸漬することで、脱色した。
脱色後、ゲルを透明性の高いガラス板に載せ、スキャナで読み取り、画像解析ソフトを用いてバックグラウンド補正をした後、バンドを検出し、シグナル強度を算出した。
【0097】
検量線用標準溶液を用いて作製した検量線をもとに、試験溶液について得られたα-LA又はβ-LGのバンドのシグナル強度から、試験溶液中のα-LA又はβ-LG濃度を求め、被験試料中の濃度を換算する。
【0098】
(1-6)カゼインの定量:差し引き法
前記で製造したホエイ加工食品約1.5gを精秤して、70℃の温湯にて希釈または溶解した後、100ml容メスフラスコに入れ、全液量を約80mlとする。これを40℃に保ち、10%酢酸1mlを加えて混和した後、約10分間放置する。さらに1N酢酸ナトリウム1mlを加え再び混和する。室温まで冷却した後、水で定容し、乾燥ろ紙(東洋ろ紙NO,6)を用いてろ過し、ろ液20mlをとり、これを分解フラスコに入れる。その後は、前記(1-4)と同様にして、これに分解促進剤、硫酸及び過酸化水素を入れて分解装置で加熱分解した後、ケルダール蒸留装置で蒸留し、得られたアンモニア捕集液を硫酸標準溶液で滴定して窒素量を求めて、たんぱく質含量を求める。
【0099】
このたんぱく質含量を「非カゼイン態たんぱく質の含量」として、下式からカゼイン含量を算出する。
カゼイン含量=全たんぱく質含量―非カゼイン態たんぱく質含量
【0100】
(1-7)ホエイ加工食品中の脂質含量:レーゼゴットリーブ法
前記で製造したホエイ加工食品約1gを精秤し、アンモニア水2mlとエタノールを10ml添加した後、ジエチルエーテル25mlと石油エーテル25mlで抽出した。2回目の抽出として、ジエチルエーテル15mlと石油エーテル15mlで抽出した。回収した抽出液を乾燥乾固させて、乾固物の重量を測定し、これを被験試料中の脂質含量とした。
【0101】
(2)ホエイ加工食品A~Oの試験結果
ホエイ加工食品A~Oについて、乳糖含量(%)、乳糖結晶の割合(%)、並びに乳糖結晶中の粗大結晶及び微細結晶の割合を測定した結果を表6に示す。また、ホエイ加工食品A~Oのたんぱく質含量は固形分換算で9%、脂質含量は固形分換算で29%であった。
【0102】
【0103】
表6の結果から、ホエイ加工食品A~Iに含まれる乳糖結晶の割合は4~5%、乳糖結晶中の粗大乳糖結晶の割合は10%以下(好ましくは1~9%)、微細乳糖結晶の割合は70%以上(好ましくは70~98%)であることが確認された。