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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137914
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】ホエイ加工食品
(51)【国際特許分類】
   A23C 21/00 20060101AFI20240927BHJP
   A23C 21/08 20060101ALI20240927BHJP
   A23C 21/04 20060101ALI20240927BHJP
   A23C 21/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A23C21/00
A23C21/08
A23C21/04
A23C21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024046623
(22)【出願日】2024-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2023048488
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮川 淳美
(72)【発明者】
【氏名】神田 玲奈
(57)【要約】
【課題】 本発明は、栄養価に優れながらも従来十分活用ができていなかったホエイの有効活用を図るために、単純な咀嚼運動で摂食可能で、幅広い層の消費者に受け入れられるホエイ加工食品を提供することを課題とする。
【解決手段】 固形分換算でたんぱく質5~21質量%、乳糖29~70質量%、及び脂質9~60質量%を含有するホエイ加工食品であって、
オーラルマップス(登録商標)を用いた評価方法で得られる物性値(1)~(3)が、下記の範囲であるホエイ加工食品:
(1)一噛み目の力積:10.6N・s以上、
(2)咀嚼1回~60回の力積の傾き:-0.1以下、
(3)咀嚼61回~120回の力積の傾き:-0.03以下。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分換算でたんぱく質5~21質量%、乳糖29~70質量%、及び脂質9~60質量%を含有するホエイ加工食品であって、
食品分析装置オーラルマップス(登録商標)を用いた下記測定条件での評価方法で得られる物性値(1)~(3)が、下記の範囲であるホエイ加工食品:
(1)一噛み目の力積:10.6N・s以上、
(2)咀嚼1回~60回の力積の傾き:-0.1以下、
(3)咀嚼61回~120回の力積の傾き:-0.03以下;
[測定条件]
圧縮力:30N、
圧縮速度:1回/s、
圧縮回数:120回、
オーラルマップス(登録商標)の上部治具の上部咬合部の形状:先端が半球状の凸部形状、
オーラルマップス(登録商標)の下部治具の下部咬合部の形状と大きさ:上部治具の上部咬合部の先端の凸部形状と咬合する凹部形状及び大きさを有する、
擬似唾液初期添加量:1ml
擬似唾液添加速度:1ml/min、
被験試料量:3.5±0.5g。
【請求項2】
前記物性値(1)~(3)が下記の範囲である、請求項1に記載するホエイ加工食品:
(1)一噛み目の力積:12~15N・s、
(2)咀嚼1回~60回の力積の傾き:-0.2~-0.1、
(3)咀嚼61回~120回の力積の傾き:-0.08~-0.03。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホエイを原料として製造されるホエイ加工食品に関する。より詳細には、本発明は、咀嚼による粉砕と唾液への溶解性又は混和性が良好であり、このため、舌の運動機能が弱い者を含む幅広い層の消費者に食べやすいホエイ加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
生乳は加工技術によって、牛乳、チーズ、ヨーグルト、バター、又はクリームなど、多彩な乳製品へと加工され、人々に食されている。しかし、チーズの製造工程において、生乳からチーズになるのは約10%のみであり、残りの約90%がホエイ(乳清)として排出される。ホエイは、チーズの製造工程における副生物であるため、各種の必須アミノ酸、タンパク質、ビタミン類、及び糖類を多量に含んでおり、栄養学的に優れた食品素材でもある。しかしながら、ホエイは変質しやすく保存性が低いことや、特有の風味を有することから、食品分野で十分に利用されていない。このため、工業利用されているホエイは世界中で排出されるホエイ全体の59%に留まり、残り41%は家畜飼料や農業肥料として利用されるか、若しくは産業廃棄物として処理されているのが実情である。このため、ホエイの有効活用や活用先の拡大を図ることは、未利用乳資源の有効利用、廃棄物を減少して環境保全を図るなど、サステナブルな社会の実現を目指すうえで、特に乳製品を製造する会社の責務として重要な課題である。
【0003】
ホエイの変質の一つとして、ホエイに含まれる乳糖の変質が挙げられる。一般に、乳糖濃度の高い飲食物中では、乳糖の結晶が生成し、巨大化することで、舌にザラツキを感じ、滑らかな食感を失うことが知られている。この現象は、乳糖濃度が高くなるほど顕著に発生する。乳糖濃度が高いホエイ加工食品の一つであるブラウンホエイチーズについても、乳糖結晶が食感に及ぼす影響が指摘されており、理想的な結晶サイズは20-30μmであること、結晶サイズが100μmを超えると舌にザラツキを感じるようになることが知られている(非特許文献1)。このため、乳糖を多く含むホエイを食品素材として有効利用するためには、ホエイに含まれる乳糖の結晶化やその巨大化を防止し、良好な食感を保つことが求められる。
【0004】
ホエイ中の乳糖の結晶化を抑制する方法として、ホエイをナノフィルトレーションにより脱塩処理し、のち乳糖分解酵素で乳糖分解処理をする方法が知られている(特許文献1)。この方法によると、脱塩することで風味がよく、乳糖を分解することで濃縮した場合も粘度が低く、また濃縮液の輸送時等に乳糖の結晶化が惹起されないという特徴を有する乳糖分解脱塩ホエイを得ることができる。また、乳糖の結晶化抑制方法ではないものの、マンニトールの結晶化抑制方法として、非結晶性糖質を結晶析出調整剤として用いることが知られている(特許文献2)。
【0005】
しかし、一方で、結晶性の低い糖や非結晶性糖質を多く含むホエイ加工食品は、咀嚼により組織が崩壊しにくく、唾液との馴染みが悪いため、咀嚼だけでは十分に食塊形成されず、複雑な舌運動を要するため、舌の運動機能が弱い者には食べにくいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-129579号公報
【特許文献2】特開2007-215450号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Siv Skeie, Roger K. Abrahamsen, “Chapter 45: Brown Whey Cheese”, Cheese 4th edition: Chemistry, Physics and Microbiology
【非特許文献2】Jason R. Stokes, Michael W. Boehm, Stefan K. Baier, Oral processing, texture and mouthfeel: From rheology to tribology and beyond, Current Opinion in Colloid & Interface Science, Volume 18, Issue 4,2013,Pages 349-359,ISSN 1359-0294, https://doi.org/10.1016/j.cocis.2013.04.010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、栄養価に優れながらも従来十分活用ができていなかったホエイの有効活用を図るために、舌の運動機能が弱い者でも食べやすく、幅広い層の消費者に受け入れられ得るホエイ加工食品を提供することを課題とする。より具体的には、咀嚼によって組織が崩壊しやすく、唾液に溶解又は混和してペースト状になりやすいホエイ加工食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねていたところ、ホエイを主原料として製造されるホエイ加工食品において、ホエイたんぱく質、乳糖、及び脂質を後述する所定の割合で配合し、且つ、食品分析装置であるオーラルマップス(登録商標)(以下、「OM」と称する)を用いた評価方法で得られる(1)一噛み目の力積、(2)咀嚼前期の力積の傾き、(3)咀嚼後期の力積の傾きといった物性値を、各々後述する所定の範囲になるように調整することで、咀嚼によって組織が崩壊しやすく、且つ唾液に溶解又は混和してペースト状になりやすいホエイ加工食品が得られることを見出した。
【0010】
本開示は、これらの研究成果に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を有する。
項1.固形分換算でたんぱく質5~21質量%、乳糖29~70質量%、及び脂質9~60質量%を含有するホエイ加工食品であって、
OMを用いた下記測定条件での評価方法で得られる物性値(1)~(3)が、下記の範囲であるホエイ加工食品:
(1)一噛み目の力積:10.6N・s以上、
(2)咀嚼前期(1回~60回)の力積の傾き:-0.1以下、
(3)咀嚼後期(61回~120回)の力積の傾き:-0.03以下;
[測定条件]
圧縮力:30N、
圧縮速度:1回/s、
圧縮回数:120回、
OMの上部治具の上部咬合部の形状:先端が半球状の凸部形状、
OMの下部治具の下部咬合部の形状と大きさ:上部治具の上部咬合部の先端の凸部形状と咬合する凹部形状及び大きさを有する、
擬似唾液初期添加量:1ml、
擬似唾液添加速度:1ml/min、
被験試料量:3.5±0.5g。
【0011】
項2.前記物性値(1)~(3)が下記の範囲である、項1に記載するホエイ加工食品:
(1)一噛み目の力積:12~15N・s、
(2)咀嚼前期の力積の傾き:-0.2~-0.1、
(3)咀嚼後期の力積の傾き:-0.08~-0.03。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、固形分換算でたんぱく質を5~21質量%、乳糖を29~70質量%、及び脂質を9~60質量%の範囲で含有するホエイ加工食品を、OMを用いて評価した物性値(1)~(3)が前記所定の範囲になるように調整することで、咀嚼により組織が崩壊しやすく、且つ唾液に溶解又は混和してペースト状になりやすいことが分かった。既存品は、咀嚼により組織が崩れにくく、唾液に溶解又は混和しにくいため、咀嚼に加え複雑な舌運動が必要なのに対し、前述するホエイ加工食品は、単純な咀嚼運動により摂食可能であるため、舌に要する処理力を弱めても咀嚼可能である。このため、例えば舌の運動機能が弱い者でも食べやすく、幅広い層の消費者に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】OMの構成を示す模式図。
図2】OMの上部治具10と下部治具20の構成を示す模式図。
図3A図2のOMの上部治具10及び下部治具20の動作を示す模式図。
図3B図3Aの続きの動作を示す模式図。
図3C図3Bの続きの動作を示す模式図。
図3D図3Cの続きの動作を示す模式図。
図4A】被験試料A~CについてOMを用いて試験を行った結果。同被験試料について試験開始から60秒(咀嚼回数1~60回に相当)までの期間(咀嚼前期)に測定した力積(N・s)の移動平均の経時的変化を示す。点線はそれら力積移動を直線状の線で示したもの(以下、同じ)。
図4B】被験試料A~CについてOMを用いて試験を行った結果。同被験試料について試験開始後61秒から120秒(咀嚼回数61~120回に相当)までの期間(咀嚼後期)に測定した力積(N・s)の移動平均の経時的変化を示す。
図5A】被験試料D~FについてOMを用いて試験を行った結果。同被験試料について咀嚼前期に測定した力積(N・s)の移動平均の経時的変化を示す。
図5B】被験試料D~FについてOMを用いて試験を行った結果。同被験試料について、咀嚼後期に測定される力積(N・s)の移動平均の経時的変化を示す。
図6A】被験試料GについてOMを用いて試験を行った結果。同被験試料について咀嚼前期に測定した力積(N・s)の移動平均の経時的変化を示す。
図6B】被験試料GについてOMを用いて試験を行った結果。同被験試料について咀嚼後期に測定した力積(N・s)の移動平均の経時的変化を示す。
図7A】被験試料HについてOM試験を行った結果。同被験試料について咀嚼前期に測定した力積(N・s)の移動平均の経時的変化を示す。
図7B】被験試料HについてOM試験を行った結果。同被験試料について咀嚼後期に測定した力積(N・s)の移動平均の経時的変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(I)ホエイ加工食品の組成
本発明が対象とするホエイ加工食品(以下、「本食品」とも称する)は、ホエイを原料の一つとして用いて製造される加工食品であり、少なくともたんぱく質、乳糖、及び脂質を、固形分換算で、それぞれ5~21質量%、29~70質量%、及び9~60質量%の範囲で含有することを特徴とする。
【0015】
なお、本発明において「固形分」とは水分を除いた成分を意味する。対象物(例えば、ホエイ加工食品)中の成分の固形分換算による含有量(これを「固形分換算量」ともいう)は、当該対象物に含まれる成分の割合を固形分で換算した値を意味する。当該「固形分換算量」は、具体的には、対象物の固形分の総量(乾質量)を100質量%とした場合に、当該固形分総量に占める成分の割合(質量%)で示される。本明細書において「固形分濃度」とは、対象物(例えば、ホエイ加工食品)に含まれる固形分の割合を意味し、対象物の総量(湿質量)を100質量%とした場合に、当該総量に占める固形分の割合(質量%)で示される。ホエイ加工食品の固形分の質量及びその濃度(固形分濃度)は、常圧加熱乾燥法(混砂法)により求めることができる。その詳細は、後述する実施例の欄にて説明する。
【0016】
本発明において「ホエイ」とは、乳から脂肪、カゼイン、脂溶性ビタミンなどを除去した際に残留する水溶性成分(乳清)を意味する。但し、ホエイには、除去しきれなかった脂肪、カゼイン、及び/又は脂溶性ビタミン等が含まれていてもよい。ホエイとしては、例えば、ナチュラルチーズやレンネットカゼインを製造した際に副産物として得られるチーズホエイおよびレンネットホエイ(スイートホエイとも呼ばれる)や、発酵乳やクワルクなどを製造した際に得られるカゼインホエイ、酸ホエイおよびクワルクホエイが挙げられる。
【0017】
(a)たんぱく質
本食品中のたんぱく質には、ホエイたんぱく質、及びカゼイン等の乳由来たんぱく質が含まれる。なお、本発明でいう「乳」には、牛乳のほか、山羊乳、及び羊乳が含まれる。好ましくは牛乳である。なお、牛の種類は特に制限されず、乳用牛(ホルスタイン、ジャージー牛)が含まれる。
【0018】
ホエイたんぱく質は、ホエイに含まれるたんぱく質成分であり、代表的な成分として、α-ラクトアルブミン(α-LA)、β-ラクトグロブリン(β-LG)、免疫グロブリンおよびラクトフェリンが挙げられる。本発明においては、たんぱく質の一部および全部をホエイたんぱく質として用いることができる。なお、ホエイたんぱく質100質量%中に含まれるα-LA及びβ-LGの割合は、制限されないものの、α-LAは12~28質量%、好ましくは13~15質量%;β-LGは37~74質量%、好ましくは42~44質量%の範囲を挙げることができる。このように、ホエイたんぱく質中に含まれるα-LA及びβ-LGの割合は、乳の種類に応じてほぼ定まっている。例えば、乳用牛由来のホエイたんぱく質の場合、ホエイたんぱく質中に含まれるα-LA及びβ-LGの割合は、総量で約49~90質量%である。
【0019】
ホエイたんぱく質の原料(ホエイたんぱく質源)として、ホエイの原液(甘性ホエイ、酸ホエイなど)、その濃縮物、その乾燥物(ホエイ粉など)、及びその凍結物を用いることができる。また、ホエイたんぱく質源として、脱塩ホエイ、ホエイたんぱく質濃縮物(WPC)、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、及びホエイたんぱく質精製物(WPI)を用いることもできる。なお、一般的に、WPCは固形分の約25%~約80%がホエイたんぱく質であるものの総称であり、WPIは固形分の約80%以上がホエイたんぱく質であるものの総称である。
【0020】
本食品におけるたんぱく質の固形分換算量は、前述するように5~21質量%である。下限値は5質量%以上、好ましくは6質量%以上、より好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上である。上限値は21質量%以下、好ましくは13質量%以下、より好ましくは11質量%以下、さらに好ましくは9質量%以下である。なお、これらの下限値及び上限値は各々任意に組みあわせて範囲を設定することができる(以下、本明細書の記載において同様に適用される)。かかる範囲としては、例えば5~21質量%、7~21質量%、5~11質量%、7~11質量%、及び8~9質量%を挙げることができる。
本食品中に含まれるたんぱく質の総量は、ケルダール法を用いて測定することができる。その詳細は、実施例の欄において説明する。本食品におけるたんぱく質の固形分換算量は、本食品中のたんぱく質総量と、常圧加熱乾燥法(混砂法)から求められる本食品の固形分濃度から算出することができる。
【0021】
本食品中に含まれるホエイたんぱく質の固形分換算量は5~21質量%の範囲から選択することができる。下限値は5質量%以上、好ましくは7.6質量%より多く、より好ましくは8質量%以上である。上限値は21質量%以下、好ましくは13質量%以下、より好ましくは11質量%以下である。かかる範囲としては、例えば5~11質量%、7.6質量%より多く11質量%以下、及び8~11質量%を挙げることができる。
【0022】
また、制限されないものの、本食品中に含まれるα-LAの固形分換算量は0.7~2質量%の範囲から選択することができる。下限値は0.7質量%以上、好ましくは1.0質量%より多く、より好ましくは1.1質量%以上である。上限値は2質量%以下、好ましくは1.8質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下である。かかる範囲としては、例えば0.7~1.8質量%、0.7~1.5質量%、1.1~1.8質量%、及び1.1~1.5質量%を挙げることができる。
【0023】
また、制限されないものの、本食品中に含まれるβ-LGの固形分換算量は2.2~5質量%の範囲から選択することができる。下限値は2.2質量%以上、好ましくは3.2質量%より多く、より好ましくは3.3質量%以上である。上限値は5質量%以下、好ましくは4.8質量%以下、より好ましくは4.6質量%以下である。かかる範囲としては、例えば2.2~4.8質量%、2.2~4.6質量%、3.3~4.8質量%、及び3.3~4.6質量%を挙げることができる。
【0024】
本食品中に含まれるα-LA及びβ-LGの量は、いずれもSDS-PAGE法を用いて測定することができる。その詳細は、実施例の欄において説明する。なお、SDS-PAGEに供する被験試料は、加熱濃縮する前のものであることが好ましい。本食品におけるα-LA又はβ-LGの固形分換算量は、本食品中のα-LA又はβ-LGの含量と、常圧加熱乾燥法(混砂法)から求められる本食品の固形分濃度から算出することができる。
【0025】
前述するようにホエイたんぱく質中のα-LA及びβ-LGの含有割合はほぼ決まっていることから、本食品中に含まれるホエイたんぱく質の量は、本食品中に含まれるα-LA及びβ-LGの総量から計算により求めることができる。例えば、ホエイ粉を用いて本食品を製造する場合、当該本食品中に含まれるホエイたんぱく質の量は、α-LA及びβ-LGの総量の1.75倍の量として計算することができる。
【0026】
本食品中のカゼインの固形分換算量は0~5質量%の範囲から選択することができる。下限値は0質量%以上、好ましくは0.1質量%より多く、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上である。上限値は5質量%以下、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。かかる範囲としては、例えば0~5質量%、0~3質量%、0~2質量%、0.3~5質量%、0.3~3質量%、0.3~2質量%を挙げることができる。
【0027】
本食品中に含まれるカゼインの量は、差し引き法(全たんぱく質―非カゼイン態たんぱく質)を用いて測定することができる。その詳細は、実施例の欄において説明する。本食品におけるカゼインの固形分換算量は、本食品中のカゼイン総含量と、常圧加熱乾燥法(混砂法)から求められる本食品の固形分濃度から算出することができる。
なお、カゼインの種類として、αs-1カゼイン、αs-2カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、及びγ-カゼインを挙げることができる。
【0028】
(b)乳糖
本食品における乳糖の固形分換算量は、前述するように29~70質量%である。下限値は29質量%以上、好ましくは45質量%、より好ましくは47質量%以上、さらに好ましくは49質量%以上である。上限値は70質量%以下、好ましくは68質量%以下、より好ましくは67質量%以下である。かかる範囲としては、例えば29~68質量%、29~67質量%、49~70質量%、49~68質量%、及び49~67質量%を挙げることができる。
【0029】
本発明において乳糖の含有量は、酵素電極法を用いて測定することができる。その具体的な測定方法は、実験例2において詳細に説明する。本食品における乳糖の固形分換算量は、本食品中の乳糖含量と、常圧加熱乾燥法(混砂法)から求められる本食品の固形分濃度から算出することができる。
【0030】
乳糖の原料(乳糖源)としては、前述するホエイの原液(甘性ホエイ、酸ホエイなど)、その濃縮物、その乾燥物(ホエイ粉など)、及びその凍結物を用いることができる。また、乳糖源として、脱塩ホエイ、WPC、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、及びWPIを用いることもできる。その他、たんぱく質濃縮物の副産物であるパーミエート粉、ホエイまたはパーミエートを濃縮、精製することによって得られる食品用乳糖等、乳糖を含む原料等、乳糖を含む原料を、由来の別を問わず、任意に用いることもできる。
【0031】
(c)脂質
本食品における脂質の固形分換算量は、前述するように9~60質量%である。下限値は9質量%以上、好ましくは25質量%、より好ましくは28質量%以上、さらに好ましくは39質量%以上である。上限値は60質量%以下、好ましくは58質量%以下、より好ましくは55質量%以下である。かかる範囲としては、例えば9~55質量%、25~55質量%、28~55質量%、39~60質量%、39~55質量%を挙げることができる。
本食品中の脂質含量は、レーゼゴットリーブ法により測定することができる。その詳細は、実施例の欄において説明する。本食品における脂質の固形分換算量は、本食品中の脂質含量と、常圧加熱乾燥法(混砂法)から求められる本食品の固形分濃度から算出することができる。
【0032】
脂質の原料(脂質源)としては、ホエイ調製時に除去しきれなかったホエイ中の残留物のほか、生乳、牛乳、又は乳製品(濃縮乳、還元乳、全粉乳、クリーム、バター、バターオイル等)、植物油脂(サフラワー油、コーン油、綿実油、ごま油、米油、オリーブオイルなど)、植物油を原料とする加工品(マーガリン、ショートニング、ファストスプレッドなど)等、脂質を含む原料を、由来の別を問わず、任意に用いることもできる。
【0033】
(d)その他の成分
本食品は、たんぱく質、乳糖、及び脂質を前述する割合で含有し、且つ後述する物性を備えることを限度として、前述以外のその他の成分を含有するものであってもよい。かかるその他の成分としては、乳たんぱく質以外の動植物性たんぱく質;糖類(例えば、単糖類や二糖類等)、糖質(例えば、澱粉、オリゴ糖、多糖類等)、及び食物繊維等の炭水化物;ゼラチンや増粘多糖類等の増粘剤;安定剤;甘味料、酸味料、辛料、及び矯味料等の調味料:着色料;香料等を例示することができる。
【0034】
また本食品は、水を含有するものであってもよい。制限されないものの、本食品には、固形分濃度が80質量%以上、好ましくは82質量%以上である固形状のものが含まれる。固形分濃度の上限値は100質量%を限度として、95質量%以下、90質量%以下、及び87質量%以下を例示することができる。つまり、前記固形状のホエイ加工食品(100湿質量%)に含まれる水分含量は20質量%未満、好ましくは18質量%未満である。水分含量の下限値は0質量%を限度として、5質量%以上、10質量%以上、及び13質量%以上を例示することができる。ホエイ加工食品中の水の含有量は、常圧加熱乾燥法により求めることができる。
水の原料(水分源)としては、制限されないが、前述するホエイたんぱく質源、乳糖源及び脂質源として使用する各種原料(例えばホエイの原液、その濃縮物、生乳、牛乳、又は乳製品)を例示することができる。
【0035】
(II)ホエイ加工食品の物性
本食品は、OMを用いた下記測定条件での評価方法で得られる物性値(1)~(3)が、下記の範囲であることを特徴とする:
(1)一噛み目の力積:10.6N・s以上、
(2)咀嚼1回~60回(咀嚼前期)の力積の傾き:-0.1以下、
(3)咀嚼61回~120回(咀嚼後期)の力積の傾き:-0.03以下。
【0036】
OM(オーラルマップス(ORAL-MAPS)(登録商標))は、出願人が開発した食品分析装置であり、これにより食品の物性を評価することができる。当該OMは、口腔内の歯あるいは舌の咀嚼時の動作に関連する上下圧縮運動、唾液添加及び温度等の食塊を形成する際の要素を模擬することで、口腔内における食品の性状変化、つまり食塊形成のプロセスの再現性を高めるように工夫された装置であり、OMを用いて咀嚼時の食品の物性を計測することで、食品が持つ物性特徴とその変化を評価できる。OMを用いた試験により、食品を口腔内で咀嚼することによって崩壊(粉砕)し、唾液とともに混和することで食塊にしていくプロセスを可視化、数値化することができる。こうした数値の連続的な推移(力積の時間変化、力積の傾き)を求めることで、口腔内における食品の性状変化を物性値によって評価することができる。
【0037】
口腔内での咀嚼プロセスは、第一咀嚼、咀嚼前期、及び咀嚼後期の3段階に分けることができる。口腔内での食品の粉砕(崩壊)と唾液との混和は同時に並行して生じるため、厳密には分離することはできないが、口腔内での食塊形成の過程は、大きく「食品の粉砕(崩壊)」と「唾液との混和」の2つに分けることができる(非特許文献2参照)。このため、口腔内での咀嚼ステージの前半に該当する咀嚼前期では、食品を口腔内にいれて咀嚼することで粉砕(崩壊)される食品の性状変化を評価することができる。また口腔内での咀嚼ステージの後半に該当する咀嚼後期では、咀嚼により粉砕された(崩壊した)食品が唾液と混和されることによる性状変化を評価することができる。
【0038】
第一咀嚼は、食品を最初に歯で噛んで口に入る大きさに切断するステージである。
被験食品について、当該「第一咀嚼」における物性(噛み出しの硬さ)は、OMにより一噛み目の力積を求めることで評価することができる。
【0039】
咀嚼前期は、食品を口腔内で咀嚼し始めてから食塊が形成されるまでの期間を2つに区分した場合における前半1/2までの期間に該当する。食品を口腔内に入れて咀嚼開始から食塊が形成されるまでに要する咀嚼回数(これを「総咀嚼回数」という)のうち咀嚼開始から総咀嚼回数の1/2の咀嚼回数までに相当する期間である。例えば、総咀嚼回数を120回に設定した場合、咀嚼前期は、咀嚼回数1~60回の期間に相当する。
咀嚼前期では、主に、食品の咀嚼による粉砕(崩壊)が起こる。被験食品について、当該「咀嚼前期」における食品の性状変化は、OMにおいて、咀嚼回数に相当する圧縮回数の総数を120回に設定した場合、咀嚼回数(圧縮回数)1~60回の期間について、各咀嚼回における力積から咀嚼10回毎の移動平均(単純移動平均)を算出し、当該移動平均値を縦軸に、咀嚼回数を横軸にして作成した線グラフから線形近似式の傾きを求めることで評価することができる(数式のR2>0.75)。こうして求められる傾きを、本発明では「咀嚼1回~60回の力積の傾き」又は「咀嚼前期の力積の傾き」と称する。この傾き(数値の絶対値)が大きい被験食品は、咀嚼による崩壊速度が早いこと、つまり咀嚼により崩壊されやすいと判断することができる。
【0040】
咀嚼後期は、咀嚼開始からの咀嚼回数が総咀嚼回数の1/2から2/2までに相当する期間である。咀嚼後期では、咀嚼により粉砕された(崩壊した)食品が、OMの咬合部で唾液とともに咀嚼混和され、唾液を吸収してペースト状に変化することで硬さが減少する。
被験食品について、当該「咀嚼後期」における食品の性状変化は、OMにおいて、咀嚼回数に相当する圧縮回数の総数を120回に設定した場合、咀嚼回数(圧縮回数)61~120回の期間について、各咀嚼回における力積から咀嚼10回毎の移動平均(単純移動平均)を算出し、当該移動平均値を縦軸に、咀嚼回数を横軸にして作成した線グラフから線形近似式の傾きを求めることで評価することができる(数式のR2>0.75)。こうして求められる傾きを、本発明では「咀嚼61回~120回の力積の傾き」又は「咀嚼後期の力積の傾き」と称する。この傾き(数値の絶対値)が大きい被験食品は、唾液に溶解しやすい又は混和しややすいこと、つまり唾液との混和によってペースト状になりやすいと判断することができる。
【0041】
OMは、擬似唾液供給部から流入チューブを通じて上部治具の上部咬合部及び下部治具の下部咬合部の間の空間に擬似唾液を所定流量で添加流入できるようになっており、OMの運転開始から一定の流速で擬似唾液が添加される。ここで「擬似唾液」としては、0.02質量%のキサンタンガム水溶液を用いる。キサンタンガム水溶液を調製する水にはイオン交換水が用いられる。
【0042】
以下に、OM、およびそれを用いた食品物性の評価方法を説明する。なお、詳細は本出願人の特許出願である特願2022-087273号の出願明細書の記載を参考のために援用することができる。
【0043】
[OM]
図1に、OMの模式図を、また図2に上部治具10と下部治具20の構成を示す模式図を示す。
食品物性の評価に用いるOM1は、上部治具10と、下部治具20と、センサ12と、駆動部30と、計測制御部40とを有する。さらに、上部治具10及び下部治具20の間に擬似唾液を所定流量で添加流入する擬似唾液供給部50を有する。
【0044】
ホエイ加工食品は、舌や口腔内粘膜との接触によって垂直応力やせん断応力を受け、同時に唾液と混和されることで乳化された食塊がペースト状へと変化する食品である。ホエイ加工食品の咀嚼時の物性の変化を計測により評価するためには、上記の連続的に起こる事象に応じた食品の性状変化を考慮する必要がある。
【0045】
上部治具10には、上部咬合部11が設けられている。上部治具10の上部咬合部11は、先端が半球状の凸部を有する形状である。下部治具20は、上部咬合部11と咬合する形状の下部咬合部21が上部咬合部11に対向するように設けられている。下部咬合部21は、上部咬合部11と咬合するように凹部を有する形状である。凹部は、半球状の面を内壁面とする形状である。
上部治具10及び下部治具20は、口腔内モデルを構成するのに適した硬度の樹脂、例えばABS(アクリルニトリル-ブタジエン-スチレン共重合)樹脂、アクリル樹脂、あるいはポリビニリデンフルオライド等のフッ素含有樹脂等により構成されている。
上部治具10及び下部治具20は、ホエイ加工食品の物性評価に適した形状の口腔内モデルであり、下記に示す動作によって口腔内の咀嚼運動を模擬している。
【0046】
センサ12は、上部治具10に組み込まれており、上部治具10に印加される物理量を計測する。センサ12は、例えば6軸センサである。6軸センサにより計測される物理量は、例えば、上部治具10に印加される、力、又はトルクの少なくともいずれかを含む。
【0047】
駆動部30は、下部治具20が上部治具10と咬合及び離間する方向の往復直線運動LRを行うように、下部治具20を駆動する。また、駆動部30は、上部治具10が下部治具20の往復直線運動LRの方向を回転軸AXとした往復回転運動RRを行うように、上部治具10を駆動する。
【0048】
計測制御部40は、駆動部30による下部治具20の往復直線運動LR及び上部治具10の往復回転運動RRを制御する。また、計測制御部40は、センサ12の出力から上部治具10に印加される物理量を計測する。計測制御部40では、計測された力のデータから時間で積分して力積のデータを得ることができる。
【0049】
擬似唾液供給部50からは流入チューブ51が保護部22を貫通して上部治具10及び下部治具20の間の空間に延びている。計測制御部40の制御により、上部治具10及び下部治具20の間に擬似唾液が所定流量で添加流入される。本発明において、擬似唾液としては前述するように0.02質量%のキサンタンガム水溶液を用いる。
【0050】
OM1は、下部咬合部21の上に評価対象の食品FAを置いて往復直線運動LRを行うように下部治具20を駆動するとともに、往復回転運動RRを行うように上部治具10を駆動したときのセンサ12の出力から得られた計測値から食品FAの物性を評価する。
【0051】
OM1において、例えば、上部治具10と下部治具20とは、最も近づいたときでも上部治具10の上部咬合部11と下部治具20の下部咬合部21とが互いに接しないような位置に配設されている。下部咬合部21の上に評価対象の食品FAが存在するときに、設定された咬合力に応じた力が下部治具20から食品FAに印加され、さらに食品FAを介して上部治具10に印加される。上部治具10と下部治具20との咬合において、設定された咬合力を超える力が印加されない構成となっている。
【0052】
またOM1は、例えば、少なくとも上部治具10及び下部治具20を含む部分が体温若しくはその近傍の温度に調節可能に設けられている。上部治具10及び下部治具20を含む部分は、OM1の全体であってもよい。
【0053】
[OM試験法]
前述のOMを用いた食品物性の評価方法(以下、これをOM試験法)を説明する。
本実施形態の食品物性の評価方法は、前述するOM1を用いて行う。
評価にあたり、まず、OM1の下部咬合部21の上に、評価対象の食品FAを置く。 次に、下部治具20が上部治具10と咬合する方向の往復直線運動LRを行うように下部治具20を駆動するとともに、上部治具10が下部治具20の往復直線運動LRの方向を回転軸AXとした往復回転運動RRを行うように上部治具10を駆動する。
【0054】
図3A図3Dを用いて、上記の下部治具20の往復直線運動LRと上部治具10の往復回転運動RRの動作の具体例について説明する。
図3AはOMの上部治具10及び下部治具20の動作を示す模式図である。まず、下部治具20の下部咬合部21の上に、評価対象の食品FAを置く。次に、下部治具20を第1の直線運動方向LR1に上昇させ、下部治具20の下部咬合部21を上部治具10の上部咬合部11に咬合させる。次に、図3Bに示すように、下部治具20の下部咬合部21が上部治具10の上部咬合部11に咬合することで、食品FAは所定の力で下部咬合部21及び上部咬合部11の間隙に押しつぶされる。この状態で、上部治具10を第1の回転運動方向RR1に回転させることで、上部治具10の上部咬合部11を食品FAに接触させながらずり動作をさせる。続いて、図3Cに示すように、上部治具10の第1の回転運動方向RR1の回転を停止し、下部治具20を第2の直線運動方向LR2に下降させ、下部治具20の下部咬合部21と上部治具10の上部咬合部11との咬合を解除させる。次に、図3Dに示すように、下部治具20を第1の直線運動方向LR1に上昇させ、下部治具20の下部咬合部21を上部治具10の上部咬合部11に咬合させる。この状態で、上部治具10を第2の回転運動方向RR2に回転させることで、上部治具10の上部咬合部11を食品FAに接触させながらずり動作をさせる。
【0055】
なお、下部咬合部21の上に配置する評価対象の食品FAの量は、例えば図3Aに示すように、下部咬合部21の凹部内に収まる量の範囲に設定することが好ましい。より好ましくは、図3Bに示すように、食品FAを配置した下部咬合部21に上部咬合部11が咬合することで、食品FAが両咬合部の間隙に押しつぶされた状態でも下部咬合部21の凹部内からはみ出ずに凹部内に収まる量に設定される。言い換えれば、下部治具20の下部咬合部21は、上記状態になるように、その上に配置する食品FAとの接触面積よりも十分広い面積の凹部を有することが好ましい。
【0056】
以降は、上記の図3A図3Dの動作を繰り返し行う。上記の動作のうち、下部治具20が最下端の位置から上昇して上部治具10と咬合し、再び下降して再下端の位置に戻るまでの工程を、1回の圧縮とも称する。
前述する一連の動作の期間中、擬似唾液が、擬似唾液供給部50から流入チューブを通じて上部治具10の上部咬合部11及び下部治具20の下部咬合部21の間に、所定流量で添加流入される。このため、前記一連の動作は、擬似唾液存在下での咀嚼運動を模擬したものである。
【0057】
上記のように下部治具20の往復直線運動LRと上部治具10の往復回転運動RRの動作を行うと同時に、センサ12の出力から物理量を計測する。得られた計測値から、擬似唾液存在下での食品FAの物性、言い換えると擬似唾液を吸収した食塊の物性を評価することができる。
【0058】
OM1によれば、所定の回数の咀嚼中及び咀嚼後の食塊の外観を目視で確認できる。また、センサ12の出力から、咬合時に上部治具10に働く力、及び上部治具10及び下部治具20間の回転ずりによってかかるトルクを計測する。また、計測制御部40で、計測された力のデータから時間で積分して力積のデータを得る。
【0059】
以上説明するように、OM1の上部治具10及び下部治具20の動作は、咀嚼運動を模擬したものであるため、OM及びOM試験法によれば、咀嚼運動を模擬して口腔内における食品の性状変化を再現し、食塊形成の過程で起こる食品の物性値の変化を観察することができる。具体的には、評価対象の食品に対して、力(積分すると力積)の時間変化が得られる。これらのデータから、食品物性を評価することができる。
【0060】
実験例1に示すように、本発明のホエイ加工食品(実施例1~6)は、「一噛み目の力積」で評価される「噛みだしの硬さ」は10.6N・s以上、好ましくは12~15N・sと、比較例のホエイ加工食品(比較例1~2)の「噛みだしの硬さ」よりも硬い。しかしながら、「咀嚼前期(咀嚼1回~60回)の力積の傾き」(-0.1以下、好ましくは-0.2~-0.1)から評価される咀嚼による食品の崩壊性、並びに「咀嚼後期(咀嚼61回~120回)の力積の傾き」(-0.03以下、好ましくは-0.08~-0.03)から評価される崩壊した食品の唾液との混和性は、いずれも比較例のホエイ加工食品(比較例1~2)のそれらよりも、有意に高く、良好であることを特徴とする。
こうしたOM試験を実施し、前記物性値を評価することで、ホエイ加工食品を歯で噛んだ際に感じる硬さ及び口腔内での咀嚼性(崩壊性と唾液混和性)を評価することができ、咀嚼性が良好なホエイ加工食品を調製することができる。
【0061】
(III)ホエイ加工食品の製造方法
本食品は、固形分換算でたんぱく質を5~21質量%、乳糖を29~70質量%、及び脂質を9~60質量%の範囲で含有し、さらに前述するOMを用いた評価方法により物性値(1)~(3)が、前述の範囲になるように調製することで製造することができる。この限りにおいて、特に制限されるものではない。
【0062】
制限されないものの、本食品には、ホエイ加工食品中の乳糖結晶の割合が3~5%であり、且つホエイ加工食品中の乳糖結晶に占める、粗大乳糖結晶の割合が10%以下、微細乳糖結晶の割合が70%以上であるホエイ加工食品が含まれる。
粗大乳糖結晶の割合は好ましくは1~9%である。微細乳糖結晶の割合は好ましくは70~98%である。
【0063】
ここで、前記乳糖結晶の割合は、X線回折装置で測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=19.9~20.4°の範囲に検出される乳糖一水和物結晶(標準品)のメインピークの面積を基準として、被験ホエイ加工食品について得られる該当位置における、前記メインピークに相当するピークの面積から求められる割合である。その測定方法の詳細は、後述する実験例2において説明する。
【0064】
当該測定に供する被験試料(測定試料)の調製方法としては、固形分濃度が例えば80質量%以上の硬い固形状のホエイ加工食品については実験例2と同様に厚さ0.5mmにスライスすることで調製することができる。一方、固形分濃度が例えば55~80質量%未満の半固形状又は柔らかい固形状のホエイ加工食品については、粉末X線回折測定法に用いられる試料調製法のうち、フロンド・ローディング法に従って調製することができる。具体的には、深さ0.5mm、底面20mm×20mmの正方形柱状のくぼみ(試料充填部)を有するガラス製試料ホルダーの当該試料充填部に、被験試料を充填し、別のガラス板の縁を用いて表面を擦り切ることで、X線回折に供する被験試料の表面を面一に(平滑に、均一に)仕上げた後、5℃で冷却することで調製することができる。
【0065】
前記乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合は、位相差顕微鏡観察により求められる、被験ホエイ加工食品中の乳糖結晶粒子の総面積100%に対する粗大乳糖結晶粒子の総面積の割合及び微細乳糖結晶粒子の総面積の割合である。その測定方法の詳細は、測定試料の調製方法も含めて、後述する実験例2において説明する。
【0066】
前記特性を有するホエイ加工食品を製造する方法としては、制限されないものの、例えば、先行特許として挙げた特許文献1に記載する乳糖分解酵素を用いて乳糖分解処理を行うことで、乳糖の結晶生成を抑制して、乳糖結晶の割合、並びに乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合(以下、これらを総称して「乳糖結晶の特性」ともいう)が前述する本発明の範囲になるように調整する方法を挙げることができる。また、同様に特許文献2に記載する結晶析出調整剤を用いて、乳糖の結晶生成を抑制することで前述する乳糖結晶の特性を備えるように調整することもできる。結晶析出調整剤としては、特許文献2に記載されている水飴、還元水飴、還元麦芽糖水飴、カップンリングシュガー、オリゴ糖、及び多糖類等を用いることもできるが、高いガラス転移温度と氷結晶成長抑制効果を有するトレハロースを用いることもできる。
【0067】
前記特性を有するホエイ加工食品を製造する方法としては、他に粉砕乳糖を用いたシーディング方法を例示することができる。当該方法は、下記の工程により実施することができる。
(1)たんぱく質、乳糖及び脂質を含有するホエイ含有液について、当該ホエイ含有液中に含まれる乳糖のうち10~20質量%を加水分解する工程(乳糖分解工程)、
(2)前記乳糖分解処理後のホエイ含有液を加熱濃縮して、固形分55~90質量%のホエイ濃縮液を調製する工程(濃縮工程)、及び
(3)60℃~90℃に調整した前記ホエイ濃縮液に粉砕乳糖を添加し、撹拌後冷却する工程(シーディング及び結晶化工程)。
【0068】
各工程の操作の詳細は実験例2に記載するが、そこで説明するように、乳糖分解率とシーディング工程の温度を調整することで、前述する乳糖結晶の特性を有する本発明のホエイ加工食品を調製することができる。
一例を挙げると、乳糖含量が固形分換算で36~74質量%であるホエイ含有液を、乳糖分解酵素(例えば、ラクターゼ)を用いて乳糖分解率が10~20%になるまで処理した後、得られたホエイ調合液を、撹拌加熱しながら固形分濃度が55~90質量%程度、好ましくは85質量%以上になるまで減圧濃縮した後、60℃~90℃に調整した状態で10μm以下に粉砕した粉砕乳糖(α-含水結晶乳糖)を0.01~0.5質量%程度添加し、同温度で撹拌する方法が挙げることができる。
【0069】
なお、乳糖分解工程(1)で用いられるホエイ含有液中のたんぱく質含量、乳糖含量、及び脂質含量は、制限されないものの、固形分換算で、それぞれ5~21質量%、36~74質量%、及び9~60質量%の範囲を例示することができる。
但し、かかる方法に限定されるものではない。
【0070】
本発明のホエイ加工食品が得られているか否かは、前述するOMを用いた評価方法でホエイ加工食品の物性を評価し、さらに必要に応じてホエイ加工食品の乳糖含量や乳糖結晶の割合、並びに乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合を測定することで確認することができる。
【0071】
なお、本発明のホエイ加工食品には、下記の方法によって製造される油脂混合物は含まれない(特開2015-164405号公報の試験例6参照);
アモルファス化度100%の乳糖含有量が76.9質量%のホエイパウダー60.6質量%(アモルファス糖含有量:46.6質量%)を、ココアバター38.9質量%と混合し、微細化した後、エタノールを添加して成形し、冷却固化する。
当該油性混合物には、成形直後のエタノール含有量が0.9~4.0質量%、好ましくは1.6質量%であるものが含まれる。
【0072】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例0073】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0074】
実験例1
8種類のホエイ加工食品A~Hを製造して、オーラルマップス(登録商標)(OM)を用いてOM試験法を実施して、(1)一噛み目の力積、(2)咀嚼前期の力積の傾き、及び(3)咀嚼後期の力積の傾きを求めた。また、これらのホエイ加工食品の食感(噛みだしの硬さ(歯への抵抗感))、咀嚼による崩壊しやすさ、唾液との混和性)を評価した。
【0075】
(1)原材料
なお、ホエイ加工食品の製造に使用した原料は以下の通りである:
ホエイ粉:ホエイを乾燥した粉(ホエイ100%)、全固形分99%、脂質含量2%、乳糖含量80%、たんぱく質含量12%(株式会社 明治製)、
クリーム:全固形分52%、脂質含量47%、乳糖含量3%、たんぱく質含量2%(株式会社 明治製)
なお、クリームは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)の規定「生乳、牛乳又は特別牛乳から乳脂肪分以外の成分を除去したもの」に該当する。
ラクターゼ:Saphera(登録商標)2600 L(ノボザイムズ ジャパン株式会社製)
粉砕乳糖:粉砕乳糖(株式会社 ラクトジャパン製)。
また、乳糖含量、及び乳糖結晶の割合の測定に使用した標準品は以下の通りである:
乳糖一水和物結晶(α型):ラクトース一水和物(100%)、富士フイルム和光純薬工業株式会社製。以下、「乳糖結晶(標準品)」と称する。
【0076】
(2)被験試料の固形分の質量及び濃度の測定方法
下記の実験例において、被験試料(ホエイ加工食品)に含まれる固形分の質量とその濃度(固形分濃度)は、下記の方法を用いて測定した。
【0077】
常圧加熱乾燥法(混砂法)
秤量皿に海砂及びガラス棒を入れた状態で恒量を求めたのち、これに被験試料及び蒸留水を加え、99℃で4時間、乾燥器内で乾燥させる。その後、被験試料の乾燥前後の重量差から被験試料中の水分含量を求める。測定した水分含量から、被験試料(乾燥前)に含まれている固形分の質量を求め、それから被験試料100質量%中に含まれる固形分の割合(質量%)を算出し、これを被験試料の固形分濃度とする。
【0078】
(3)ホエイ加工食品A~Hの製造
(3-1)ホエイ加工食品A~F(実施例1~6)の製造
表1に記載する割合で各原料を混合してホエイ含有液を調製した。ホエイ含有液100%中に含まれているたんぱく質含量は7%(固形分換算量9%)、乳糖含量は42%(固形分換算量58%)、及び脂質含量は21%(固形分換算量29%)である。
【0079】
【表1】
【0080】
得られたホエイ含有液にラクターゼを添加し、50℃で10~20分間保持して、ホエイ含有液に含まれる全乳糖100%のうち10%、及び20%を分解した。これらをそれぞれ連続加熱式バキュームクッカー装置(株式会社ミハマ製)にて、20~60rpm、回転半径0.175m、0.37~1.1m/sで撹拌しながら、70℃条件で、真空(減圧)圧力(前記装置のゲージ圧力[相対圧力]:-20kPa~-50kPa、絶対圧力:約80kpa~50kpa)の条件下で、固形分濃度が80%になるまで加熱濃縮した。次いで、加圧条件下(前記装置のゲージ圧力[相対圧力]:10kPa~20kPa、絶対圧力:約110kpa~120kpa)で110~120℃に加熱し、ホエイ調合濃縮物が褐変化するまで処理し、固形分濃度85%の固形状のホエイ濃縮物を得た。調製したホエイ濃縮物(A~C:乳糖分解率10%、D~F:乳糖分解率20%)を、それぞれ品温が50℃(ホエイ濃縮物A及びD)、60℃(ホエイ濃縮物B及びE)、及び80℃(ホエイ濃縮物C及びF)になるように調整し、各温度条件下で、各ホエイ濃縮物に対して、0.5%の粉砕乳糖を添加し、二軸混錬機(株式会社入江商会製、直径60mm、軸間距離50mm、長さ120mm、ねじれ角60°の羽根をもつ、回転方向は同方向)を用いて、同温度条件下で15分間撹拌した(シーディング処理)。シーディング処理後、10℃以下に冷却して、固形状のホエイ加工食品A~F(実施例1~6)を得た。
【0081】
(3-2)ホエイ加工食品G~H(比較例1~2)の製造
表1に記載する割合で各原料を混合して調製したホエイ含有液にラクターゼを添加し、50℃で30~90分間保持して、ホエイ含有液に含まれる全乳糖100%のうち40%及び60%を分解した。これらを、前記実施例と同様にして、連続加熱式バキュームクッカー装置にて撹拌しながら、真空(減圧)圧力条件下で固形分濃度80%になるまで加熱濃縮した後、加圧条件下で加熱してホエイ調合濃縮物が褐変化するまで処理し、固形分濃度85%の固体形状のホエイ濃縮物を得た。調製したホエイ濃縮物(G:乳糖分解率40%、H:乳糖分解率60%)を10℃以下に冷却して、固形状のホエイ加工食品G~H(比較例1~2)を得た。
【0082】
(4)ホエイ加工食品A~Hの評価
(4-1)OM試験法による物性評価
(A)被験試料の調製
前記で調製したホエイ加工食品A~F(実施例1~6)及びG~H(比較例1~2)を、それぞれ一辺15mmの立方形状(重量3.5±0.5g)にカットし、実験直前まで4℃の冷蔵庫で保管し、被験試料A~Hとした。
【0083】
(B)測定方法
各被験試料について、下記のOM及び条件を用いて、下記方法によりOM試験法を実施し、各咀嚼時(咀嚼回数[圧縮回数]120)の力積を測定し、得られた力積から咀嚼10回毎の移動平均を算出し、(1)一噛み目の力積、(2)咀嚼前期(咀嚼1回~60回)の力積の傾き、及び(3)咀嚼後期(咀嚼61回~120回)の力積の傾きを算出し、各ホエイ加工食品の咀嚼性(崩壊しやすさ、唾液との混和性)を評価した。
【0084】
[測定装置及び測定条件]
測定装置:OM(図1~3D参照)
上部治具の上部咬合部の形状:先端が半球状の凸部形状、
下部治具の下部咬合部の形状と大きさ:上部治具の上部咬合部の先端の凸部形状と咬合する凹部形状及び大きさを有する、
圧縮力:30N、
圧縮速度:1回/s、
圧縮回数:120回、
擬似唾液:0.02質量%のキサンタンガム水溶液、
擬似唾液初期添加量:1ml、
擬似唾液添加速度:1ml/min、
被験試料量:3.5±0.5g。
【0085】
OM試験は、前述するOMを用いて、上記のように調整した各被験試料を、下部治具20の下部咬合部21の上に置いて、図3A図3Dに示す動作で上部治具10及び下部治具20を駆動することで実施した(被験試料を間に挟んで上部治具と下部治具を回転しながら咬合させる。つまり、被験試料を上部治具と下部治具の間ですり潰しながら圧縮する。)。
なお、上記において、下部治具20の下部咬合部21の凹部の面積は、図3Aに示すように、その上に配置する被験試料との接触面積よりも広く設定されている。
【0086】
圧縮速度1回/秒(圧縮インターバル:1秒/回)、圧縮力30N、角速度180°/s(圧縮ごとに回転方向を反転:回転擦り)の条件で120秒間(圧縮回数120回:咀嚼回数に相当)の処理を行った。なお、圧縮インターバルとは、上部治具と下部治具との咬合(圧縮:咀嚼に相当)から次の咬合までに要する時間(秒)である。
【0087】
被験試料と接する治具表面の温度は32~36℃に調温した。擬似唾液を、擬似唾液供給部50から流入チューブ51を通じて、試験開始から試験中、1ml/minの流量で上部治具10の上部咬合部11及び下部治具20の下部咬合部21の間に添加した。試験中に、センサ12によって上部治具10に印加される力を計測した。
【0088】
OMにおいて1回の圧縮(咬合)で出現する力のピークを、圧縮毎に積分することで、圧縮毎の力積を算出することができる。一噛み目の力積(N・s)は、OMにおいて1回目のストロークで出現する力のピークを積分することにより得られる値である。
【0089】
(C)測定結果
図4Aに、被験試料A~Cについて、試験開始から60秒(咀嚼回数1~60回に相当)までの期間(咀嚼前期)に測定される力積(N・s)の移動平均(区間数10)の経時的変化を示す。また、図4Bに、同被験試料について、試験開始後61秒から120秒(咀嚼回数61~120回に相当)までの期間(咀嚼後期)に測定される力積(N・s)の移動平均(区間数10)の経時的変化を示す。ちなみに、力積の移動平均は「10秒毎の移動平均」(区間数10)を求めた。具体的には、1~10秒までの平均値、2~11秒までの平均値、3~12秒までの平均値を試験開始から60秒まで(咀嚼前期)、並び61~70秒までの平均値、62~71秒までの平均値、63~72秒までの平均値を試験開始後61秒から120秒まで(咀嚼後期)求めて算出した。 同様に、被験試料D~F、G、並びにHの測定結果を、図5A及び図5B図6A及び図6B、並びに図7A及び図7Bに示す。
【0090】
咀嚼による食品組織の崩壊のしやすさを評価するため、咀嚼前期の力積(N・s)の移動平均の線形近似式から傾きを求めた(咀嚼前期の力積の傾き)。また、崩壊した食品の唾液への混和性(ペースト状になりやすさ)を評価するため、咀嚼後期の力積(N・s)の移動平均の線形近似式から傾きを求めた(咀嚼後期の力積の傾き)。
【0091】
被験試料A~Hについて得られた咀嚼前期及び咀嚼後期の線形近似式は以下の通りである:
[被験試料A]
咀嚼前期:Y=-0.1488X+10.825、R=0.882
咀嚼後期:Y=-0.0364X+5.2031、R=0.9755
[被験試料B]
咀嚼前期:Y=-0.1699X+13.61、R=0.908
咀嚼後期:Y=-0.0487X+7.403、R=0.9908
[被験試料C]
咀嚼前期:Y=-0.1327X+14.686、R=0.9197
咀嚼後期:Y=-0.0502X+8.7967、R=0.9437
[被験試料D]
咀嚼前期:Y=-0.1274X+11.053、R=0.8813
咀嚼後期:Y=-0.0483X+7.4451、R=0.9661
[被験試料E]
咀嚼前期:Y=-0.1361X+12.451、R=0.9316
咀嚼後期:Y=-0.069X+9.0993、R=0.9911
[被験試料F]
咀嚼前期:Y=-0.1401X+11.705、R=0.9444
咀嚼後期:Y=-0.0296X+5.2741、R=0.9179
[被験試料G]
咀嚼前期:Y=-0.059X+5.6142、R=0.8892
咀嚼後期:Y=-0.0219X+3.7271、R=0.7661
[被験試料H]
咀嚼前期:Y=-0.0648X+5.7593、R=0.8787
咀嚼後期:Y=-0.017X+3.4072、R=0.8622
【0092】
被験試料A~Hの測定結果を表2に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
この結果から、被験試料A~F(実施例1~6)の一噛み目の力積は10.6N・s以上、特に12~15N・sの範囲;咀嚼前期の力積の傾きは-0.1以下、特に-0.2~-0.1の範囲;咀嚼後期の力積の傾きは-0.03以下、特に-0.08~-0.03の範囲にあることが確認された。
【0095】
このことから、ホエイ加工食品A~F(実施例1~6)について、一噛み目の力積が前記の範囲にあることで被験試料G~H(比較例1~2)と比較して、噛みだしの硬さ(歯への抵抗感)は強いものの、咀嚼前期の力積の傾きが前記範囲にあることで被験試料G~Hと比較して、咀嚼により崩壊しやすく、また咀嚼後期の力積の傾きが前記範囲にあることで被験試料G~Hと比較して、口腔内での唾液との混和性がよく容易にペースト状になりやすいことが確認された。
【0096】
このような口腔内における食品の性状変化の特徴から、ホエイ加工食品G及びHは、口腔内での食塊形成プロセスにおいて、咀嚼に加えて複雑な舌運動が必要なのに対し、ホエイ加工食品A~Fは、単純な咀嚼運動が主となるため、舌に要する処理力を弱めても咀嚼可能である。このため、例えば舌の運動機能が弱い者でも食べやすく、幅広い層の消費者に提供することができると考えられる。
【0097】
(4-2)官能試験による食感評価
(A)評価方法
社内で訓練した4名の分析型官能評価専門パネル(訓練期間:5~15年間)を用いて、ホエイ加工食品A~Hについて、摂食時の食感(噛みだしの硬さ(歯への抵抗感)、咀嚼による崩壊しやすさ、唾液との混和性)を評価した。なお、各ホエイ加工食品は、食感評価に供する前に温度10℃、湿度50%の恒温恒湿条件下に1時間保存したものを使用した。
【0098】
ホエイ加工食品について、「噛みだしの硬さ(歯への抵抗感)」、「咀嚼による崩壊しやすさ」、及び「唾液との混和性」を下記の基準に基づいて5段階評価した。
【0099】
(i)噛みだしの硬さ:食品を最初に歯で噛んだ際に感じる硬さ(歯への抵抗感)
5:まったく硬くなく、歯への抵抗感を感じない。
4:ほとんど硬くなく、歯への抵抗感をやや感じる。
3:やや硬く、歯への抵抗感をやや感じる。
2:硬く、歯への抵抗感を感じる。
1:著しく硬く、歯への抵抗感を強く感じる。
【0100】
(ii)咀嚼による崩壊しやすさ:咀嚼前期における、咀嚼による食品の崩壊しやすさ
5:咀嚼により、食品が著しく崩壊しやすい。
4:咀嚼により、食品が崩壊しやすい。
3:咀嚼により、食品がやや崩壊しにくい。
2:咀嚼により、食品が崩壊しにくい。
1:咀嚼により、食品が著しく崩壊しにくい。
【0101】
(iii)唾液との混和性:咀嚼後期における、咀嚼により崩壊した食品の唾液への溶解又は混和しやすさ
5:口腔内で、唾液と著しく混和しやすい。
4:口腔内で、唾液と混和しやすい。
3:口腔内で、唾液とやや混和しにくい。
2:口腔内で、唾液と混和しにくい。
1:口腔内で、唾液と著しく混和しにくい。
【0102】
なお、食感評価を実施するにあたり、パネル全体で、各評価項目の特性について摺り合わせを行って、各パネルが共通認識を持つようにした。各評価は、各パネル毎に行い、次いでその結果をもとにパネル全体で話し合い、その結果をパネル全体の総合評価として、最終結果とした。
【0103】
(B)評価結果
官能評価結果を表3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
この官能評価から、ホエイ加工食品A~F(実施例1~6)は、被験試料G~H(比較例1~2)と比較して、噛みだしの硬さ(歯への抵抗感)は強いものの、咀嚼により崩壊しやすく、口腔内での唾液との混和性がよく容易にペースト状になりやすいことが確認された。また、OMから得られる物性値と食感に関連があることが確認された。
【0106】
実験例2
前記8種類のホエイ加工食品A~Hについて、乳糖含量(質量%)、乳糖結晶の割合(%)、乳糖結晶中に含まれる粗大結晶及び微細結晶の割合、たんぱく質含量(%)、及び脂質含量(%)を測定した。
【0107】
(1)試験・評価方法
下記の実験例で使用した試験及び評価方法は、以下の通りである。
(1-1)ホエイ加工食品中の乳糖含量(質量%)の測定
各ホエイ加工食品中の乳糖含量は、酵素電極法を用いて測定した。
具体的には、各ホエイ加工食品2.5gを蒸留水で100mLに定容したものを被験試料として、下記条件の測定装置に供した。また、事前に、乳糖結晶(標準品)を蒸留水で希釈し、0.25、0.50、1.0及び1.5g/100mLに調製し、これを検量線用の標準液とし、下記条件の測定装置に供して検量線を作成した。この検量線に基づいて、被験試料について得られた測定値から、被験試料中の乳糖含量を求め、次いでホエイ加工食品中の乳糖含量を算出した。
【0108】
[測定装置及び条件]
装置:酵素電極法バイオセンサBF-7(王子計測機器社製)
バッファー::BF用緩衝液pH7.0(王子計測機器社製)
電極:ラクトース電極(王子計測機器社製)
【0109】
(1-2)ホエイ加工食品中の乳糖結晶の割合(%)
ホエイ加工食品を厚さ0.5mmにスライスしたものを被験試料として、X線回折測定装置(SmartLab X-ray DIFFRACTOMETER、リガク製)を用いて乳糖結晶量を求めた。
具体的には、前記被験試料(1片)を、スライスした断面が上下面になるように、前記装置付属のガラスセルに乗せ、当該X線回折測定装置でX線回折像を測定した。なお、X線回折測定装置で、乳糖結晶(標準品)のX線回折像を測定すると、2θ=19.9~20.4°の範囲に乳糖結晶に由来するピークが複数検出されるが、そのうち、最も大きいピークをメインピークとして設定する。次いで、被験試料について得られたX線回折像について、平滑化処理とベース部分を差し引く処理をした後、2θ=19.9~20.4°の範囲に検出されるピークのうち、乳糖結晶(標準品)の前記メインピークに相当するピークを対象として、その面積値を求めた。
【0110】
次いで、下式に従って、乳糖結晶(標準品)(100%)について同様に測定した上記メインピークの面積値を基準として、各ホエイ加工食品について得られた前記面積値の割合をもとめ、各ホエイ加工食品中に含まれる乳糖結晶の割合(%)を算出した。
【0111】
[式1]
ホエイ加工食品100質量%中に含まれる乳糖結晶の割合(%)
= B/A × 100
A:乳糖結晶(標準品)の2θ=19.9~20.4°のメインピークの面積値
B:ホエイ加工食品(被験試料)について前記メインピークに相当するピークの面積値
【0112】
(1-3)ホエイ加工食品中の乳糖結晶に占める粗大乳糖結晶及び微細乳糖結晶の割合
前記で製造したホエイ加工食品1mg程度をスライドガラス上に載せ、カバーガラスで試料を押しつぶすようにして作製した(押し潰し法)プレパラートを、位相差顕微鏡(対物倍率×10、総合倍率10倍)により15視野を観察した。15視野の観察において取得した画像を2値化により背景と粒子(乳糖結晶の粒子)とに区分した後、粒子の総数を数えた。次いで、各粒子(各乳糖結晶)の水平投影面積を計測し、それぞれについて円相当径を算出した。円相当径が30μm以上である粒子を粗大乳糖結晶、10μm以下である粒子を微細乳糖結晶として、各粒子を分類し、粗大乳糖結晶の粒子数、及び微細乳糖結晶の粒子数を求めた。
【0113】
次いで、観察視野に含まれる全ての粒子(乳糖結晶)について各粒子の水平投影面積を積算することで、乳糖結晶粒子すべての総面積を求めた。これを「乳糖結晶総面積」とも称する。また、観察視野に含まれる全ての粒子(乳糖結晶)のうち粗大乳糖結晶に該当する粒子について各粒子の水平投影面積を積算することで、粗大乳糖結晶粒子の総面積を求めた。これを「粗大乳糖結晶総面積」とも称する。さらに、観察視野に含まれる全ての粒子(乳糖結晶)のうち微細乳糖結晶に該当する粒子について各粒子の水平投影面積を積算することで、微細乳糖結晶粒子の総面積を求めた。これを「微細乳糖結晶総面積」とも称する。
【0114】
乳糖結晶総面積を100%(基準)として、それに対する粗大乳糖結晶総面積の割合(%)及び微細乳糖結晶総面積の割合(%)を算出し、それぞれを乳糖結晶中に占める粗大乳糖結晶の割合(%)及び微細乳糖結晶の割合(%)とした。
【0115】
(1-4)ホエイ加工食品中のたんぱく質含量:ケルダール法
前記で製造したホエイ加工食品約1.5gを精秤して、70℃の温湯にて希釈または溶解した後、100ml容メスフラスコへ移し、室温まで冷却した後に水で定容した。この希釈液20mlを分解フラスコに入れた。これに分解促進剤(ケルタブC)と硫酸12mlを徐々に加え混合した後、過酸化水素8mlを入れ混合した。次いで、分解装置で加熱分解して窒素をアンモニアに変換した。分解フラスコ中の液が透明となり、硫酸銅による青色を呈した後、冷却し、水50mlを徐々に加えて希釈した。その後、ケルダール蒸留装置で蒸留した。
【0116】
具体的には、上記の分解液((NH42SO4を含むH2SO4)に、過剰量の水酸化ナトリウムを加えてアルカリ性にしてから蒸気で加熱して再びアンモニアを放出させ、遊離したアンモニアを水蒸気蒸留してホウ酸水溶液に捕集した。得られたアンモニア捕集液を硫酸標準溶液で滴定して窒素量を求め、窒素たんぱく質換算係数(6.38)を乗じてたんぱく質含量を算出した。
【0117】
(1-5)α-LA及びβ-LGの定量:SDS-PAGE法
α-LA及びβ-LGの定量は、下記のSDS-PAGE法により実施することができる。
【0118】
(i)試薬の調製
(a)還元試薬の組成
50 mM Tris-HCl緩衝液(pH6.8)、20%グリセリン、1%SDS、50mM DTT、0.005%BPB
【0119】
(b)試料溶液の調製
α-LA又はβ-LGの推定値約75mg/100gに調製した被験試料(ホエイ加工食品)100μlと還元試薬900μLを混合し、これを試料溶液とする(α-LA又はβ-LGの推定値約7.5mg/100gに調製)
【0120】
(c)検量線用標準溶液の調製
α-LA又はβ-LGが、25、50、100、150μg/mlの濃度になるように、検量線用標準溶液を調製する。使用した標準品は以下の通りである。
α-LA標準品:α-Lactalbumin from bovine milk-type1 lyophilized powder(Sigma-Aldrich製)
β-LG標準品:β-Lactoglobulin from bovine milk-type1 lyophilized powder(Sigma-Aldrich製)
【0121】
(ii)還元及び電気泳動
試料溶液をマイクロチューブに採取し、100℃で5分間加熱した後に、冷却する(還元)。
検量線用標準溶液についても、同様に還元処理をする。
【0122】
次いで、各溶液を、それぞれ下記条件の電気泳動に供する。
(電気泳動条件)
ゲル:SPG520L(アトー株式会社)
緩衝液:EzRunC(アトー株式会社)
試料溶液注入量:10μL
通電:一定電流40mA(20mA/ゲル)約70分間。
【0123】
通電後、ゲルを染色液(AE-1340 EzStain Aqua:アトー株式会社)に3時間浸漬し、その後蒸留水ですすぎ、24時間浸漬することで、脱色した。
脱色後、ゲルを透明性の高いガラス板に載せ、スキャナで読み取り、画像解析ソフトを用いてバックグラウンド補正をした後、バンドを検出し、シグナル強度を算出した。
【0124】
検量線用標準溶液を用いて作製した検量線をもとに、試験溶液について得られたα-LA又はβ-LGのバンドのシグナル強度から、試験溶液中のα-LA又はβ-LG濃度を求め、被験試料中の濃度を換算する。
【0125】
(1-6)カゼインの定量:差し引き法
前記で製造したホエイ加工食品約1.5gを精秤して、70℃の温湯にて希釈または溶解した後、100ml容メスフラスコに入れ、全液量を約80mlとする。これを40℃に保ち、10%酢酸1mlを加えて混和した後、約10分間放置する。さらに1N酢酸ナトリウム1mlを加え再び混和する。室温まで冷却した後、水で定容し、乾燥ろ紙(東洋ろ紙NO.6)を用いてろ過し、ろ液20mlをとり、これを分解フラスコに入れる。その後は、前記(1-4)と同様にして、これに分解促進剤、硫酸及び過酸化水素を入れて分解装置で加熱分解した後、ケルダール蒸留装置で蒸留し、得られたアンモニア捕集液を硫酸標準溶液で滴定して窒素量を求めて、たんぱく質量を求める。このたんぱく質量を「非カゼイン態たんぱく質含量」として、下式からカゼイン含量を算出する。
【0126】
カゼイン含量=たんぱく質含量―非カゼイン態たんぱく質含量
【0127】
(1-7)ホエイ加工食品中の脂質含量:レーゼゴットリーブ法
前記で製造したホエイ加工食品約1gを精秤し、アンモニア水2mlとエタノールを10ml添加した後、ジエチルエーテル25mlと石油エーテル25mlで抽出した。2回目の抽出として、ジエチルエーテル15mlと石油エーテル15mlで抽出した。回収した抽出液を乾燥乾固させて、乾固物の重量を測定し、これを被験試料中の脂質含量とした。
【0128】
(2)ホエイ加工食品A~Hの試験結果
ホエイ加工食品A~Eについて、乳糖含量(%)、乳糖結晶の割合(%)、並びに乳糖結晶中の粗大結晶及び微細結晶の割合を測定した結果を表4に示す。また、ホエイ加工食品A~Eのたんぱく質含量は固形分換算で9%、脂質含量は固形分換算で29%であった。
た。
【0129】
【表4】
【0130】
表4の結果から、ホエイ加工食品A~Fに含まれる乳糖結晶の割合は4~5%、乳糖結晶中の粗大乳糖結晶の割合は10%以下(好ましくは1~9%)、微細乳糖結晶の割合は70%以上(好ましくは70~98%)であることが確認された。こうした乳糖結晶の割合も咀嚼性に影響している可能性も考えられる。
【符号の説明】
【0131】
1.食品分析装置オーラルマップス(登録商標)
10.上部治具
11.上部咬合部
12.センサ
20.下部治具
21.下部咬合部
30.駆動部
40.計測制御部
50.擬似唾液供給部
51.流入チューブ
AX.回転軸
FA、FB.食品
LR.往復直線運動
RR.往復回転運動
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B