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  • 特開-無アルカリガラス及びガラス板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138014
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】無アルカリガラス及びガラス板
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/091 20060101AFI20240927BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20240927BHJP
   C03C 3/095 20060101ALI20240927BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20240927BHJP
   C03C 3/118 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C03C3/091
C03C3/093
C03C3/095
C03C3/097
C03C3/118
【審査請求】有
【請求項の数】29
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024114255
(22)【出願日】2024-07-17
(62)【分割の表示】P 2021513656の分割
【原出願日】2020-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2019076423
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019120828
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019214690
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 優作
(72)【発明者】
【氏名】小野 和孝
(57)【要約】
【課題】本発明は、高周波領域での低誘電正接と耐酸性を両立する、無アルカリガラスの提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、酸化物基準のモル百分率で、SiO57~70%、Al5~15%、B15~24%、MgO0.2~10%、CaO0.1~7%、SrO0.1~2.5%、BaO0~10%、ZnO0~0.1%を含み、[Al]/[B ]で表される式(A)の値が0.35超、1.4以下である、無アルカリガラスに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル百分率で、
SiO 61~70%、
Al 5~11%
21.9%以下、
MgO 0.2~10%、
CaO 0.1~7%、
SrO 0~3.3%、
BaO 0~3%、
ZnO 0~0.1%を含み、
式(A)は[Al]/[B]であり、前記式(A)の値が0.41以上、0.65以下であり、
式(B)は[MgO]+[CaO]+[SrO]+[BaO]であり、前記式(B)の値が8以上、11.5以下である、無アルカリガラス。
【請求項2】
式(C)は[Al]-([MgO]+[CaO]+[SrO]+[BaO])であり、
前記式(C)の値が-3~2%である、請求項1に記載の無アルカリガラス。
【請求項3】
式(C)は[Al]-([MgO]+[CaO]+[SrO]+[BaO])であり、
前記式(C)の値が-3~0%である、請求項1に記載の無アルカリガラス。
【請求項4】
式(C)は[Al]-([MgO]+[CaO]+[SrO]+[BaO])であり、
前記式(C)の値が-3~-0.5%である、請求項1に記載の無アルカリガラス。
【請求項5】
式(C)は[Al]-([MgO]+[CaO]+[SrO]+[BaO])であり、
前記式(C)の値が-3~-1%である、請求項1に記載の無アルカリガラス。
【請求項6】
前記式(A)の値が0.54以上0.65以下である、請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項7】
Fe換算でFeを1モル%以下含有する、請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項8】
ガラスの β-OH値が0.05mm-1以上、1.0mm-1以下である、請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項9】
[LiO]+[NaO]+[KO]で表される含有量の合計が0~0.2モル%である、請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項10】
SnO、ClおよびSOからなる群から選択される少なくとも一種を合計で1モル%以下含有する、請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項11】
Sc、TiO、ZnO、Ga、GeO、Y、ZrO、Nb、In、TeO、HfO、Ta、WO、Bi、La、Gd、Yb、およびLuからなる群から選択される少なくとも一種を合計で1モル%以下含有する、請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項12】
Fを1モル%以下含有する、請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項13】
35GHzにおける誘電正接が0.006以下である、請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項14】
1500℃における抵抗値が400Ω・cm以下である、請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項15】
1500℃における抵抗値が300Ω・cm以下である、請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項16】
ヤング率が58GPa以上である、請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項17】
密度が2.58g/cm以下、50~350℃における平均熱膨張係数が30×10-7/℃~40×10-7/℃である、請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項18】
ガラス粘度が10dPa・sとなる温度T2が1500~1700℃、ガラス粘度が10dPa・sとなる温度T4が1290℃以下である、請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項19】
ガラス転移温度が700℃以下、または歪点が700℃以下である、請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項20】
表面失透温度が1300℃以下である、請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項21】
HNOを6重量%とHSOを5重量%とを含有する45℃の水溶液に170秒浸漬した際の、単位表面積当たりのガラス成分の溶出量が0.025mg/cm以下である、請求項1または2に記載の無アルカリガラス。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか1項に記載の無アルカリガラスを含み、主表面と端面を有するガラス板であり、少なくとも1つの主表面は算術平均粗さRaが1.5nm以下であるガラス板。
【請求項23】
少なくとも一辺が900mm以上、厚みが0.7mm以下である、請求項22に記載のガラス板。
【請求項24】
フロート法又はフュージョン法で製造される、請求項22または23に記載のガラス板。
【請求項25】
請求項1~21のいずれか1項に記載の無アルカリガラスを含む高周波デバイス用ガラス基板。
【請求項26】
請求項1~21のいずれか1項に記載の無アルカリガラスを含むパネル型アンテナ。
【請求項27】
請求項1~21のいずれか1項に記載の無アルカリガラスを含む窓ガラス。
【請求項28】
請求項1~21のいずれか1項に記載の無アルカリガラスを含む車両用窓ガラス。
【請求項29】
請求項1~21のいずれか1項に記載の無アルカリガラスを含むタッチパネル用カバーガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無アルカリガラスに関する。また、かかる無アルカリガラスを含むガラス板、高周波デバイス用ガラス基板、パネル型アンテナ、窓ガラス、車両用窓ガラス、及びタッチパネル用カバーガラスにも関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機、スマートフォン、携帯情報端末、Wi-Fi機器のような通信機器、弾性表面波(SAW)デバイス、レーダ部品、アンテナ部品等の電子デバイスがある。このような電子デバイスにおいては、通信容量の大容量化や通信速度の高速化等を図るために、信号周波数の高周波化が進められている。高周波用途の電子機器に用いられる回路基板には、一般的に樹脂基板、セラミックス基板、ガラス基板等の絶縁基板が使用されている。高周波デバイスに用いられる絶縁基板には、高周波信号の質や強度等の特性を確保するために、誘電損失や導体損失等に基づく伝送損失を低減することが求められている。
【0003】
これらの絶縁基板のうち、樹脂基板はその特性から剛性が低い。そのため、半導体パッケージ製品に剛性(強度)が必要な場合には、樹脂基板は適用しにくい。セラミックス基板は表面の平滑性を高めることが難しく、これにより基板表面に形成される導体に起因する導体損失が大きくなりやすいという難点を有している。一方、ガラス基板は剛性が高いため、パッケージの小型化や薄型化等を図りやすく、表面平滑性にも優れ、また基板自体として大型化することが容易であるというような特徴を有している。
【0004】
しかしながら、従来の無アルカリガラス基板は20GHz程度までは誘電損失およびそれに基づく伝送損失の低減に効果を示すものの、それ以上、例えば30GHzを超えるような領域では誘電損失の低減に限界がある。そのため、従来の無アルカリガラス基板を用いた回路基板では、30GHzを超えるような高周波信号の質や強度等の特性を維持することが困難になる。一方、石英ガラス基板は30GHzを超えるような領域においても低誘電損失を維持することができる反面、熱膨張係数が小さすぎることから、電子デバイスを構成する際に他の部材との熱膨張係数差が大きくなりすぎる。これは、電子デバイスの実用性を低下させる要因となる。
【0005】
特許文献1には、35GHzにおいて誘電正接が0.0007以下の高周波デバイス用ガラス基板が開示されている。特許文献1に記載の高周波デバイス用ガラス基板では、AlおよびBの量や比率が所定の条件を満足することにより、誘電正接が0.0007以下とすることができる、とされている。
したがって、30GHzを超えるような高周波領域における誘電損失を低減するには、B含有量を高くすればよいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2018/051793号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、B含有量を高くするとガラスの耐薬品性が低下する。液晶アンテナ、高周波デバイス等の回路基板の製造工程では、ガラス基板上に配線層を形成する前処理として、薬品洗浄が実施される。ガラスの耐薬品が低いと、例えば、酸洗浄時に、基板表面が溶解して基板表面の平滑性が損なわれ、これにより基板表面に形成される膜の密着性が低下するおそれがある。また、溶出物が基板表面に付着するおそれもある。これにより、基板表面に形成される導体に起因する導体損失が大きくなるおそれがある。
【0008】
本発明は、高周波領域での低誘電正接と耐酸性を両立する、無アルカリガラスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより、上記目的が達成されることを見出した。
[1] 酸化物基準のモル百分率で、SiO 57~70%、Al 5~15%、B 15~24%、MgO 0.2~10%、CaO 0.1~7%、SrO 0.1~2.5%、BaO 0~10%、ZnO 0~0.1%を含み、式(A)は[Al]/[B]であり、前記式(A)の値が0.35超、1.4以下である、無アルカリガラス。
[2] 酸化物基準のモル百分率で、SiO 57~70%、Al 5~15%、B 15~24%、MgO 0.1~10%、CaO 0.1~10%、SrO 0.1~10%、BaO 0.1~10%、ZnO 0~0.1%を含み、式(A)は[Al]/[B]であり、前記式(A)の値が0.35超、1.4以下である、無アルカリガラス。
[3] 式(B)は[MgO]+[CaO]+[SrO]+[BaO]であり、前記式(B)の値が7%以上、16%以下である、前記[1]または[2]に記載の無アルカリガラス。
[4] 前記式(B)の値が8%以上、16%以下である、前記[1]~[3]のいずれか1に記載の無アルカリガラス。
[5] 式(C)は[Al]-([MgO]+[CaO]+[SrO]+[BaO])であり、前記式(C)の値が-3%超、2%未満である、前記[1]~[4]のいずれか1に記載の無アルカリガラス。
[6] 前記式(A)の値が0.49以上である、前記[1]~[5]のいずれか1に記載の無アルカリガラス。
[7] 式(D)は、[SrO]/([MgO]+[CaO]+[SrO]+[BaO])であり、前記式(D)の値が0.64以上である、前記[1]~[5]のいずれか1に記載の無アルカリガラス。
[8] Fe換算でFeを1モル%以下含有する、前記[1]~[7]のいずれか1に記載の無アルカリガラス。
[9] ガラスのβ-OH値が0.05mm-1以上、1.0mm-1以下である、前記[1]~[8]のいずれか1に記載の無アルカリガラス。
[10] [LiO]+[NaO]+[KO]で表される含有量の合計が0~0.2モル%である、前記[1]~[9]のいずれか1に記載の無アルカリガラス。
[11] SnO、ClおよびSOからなる群から選択される少なくとも一種を合計で1モル%以下含有する、前記[1]~[10]のいずれか1に記載の無アルカリガラス。
[12] Sc、TiO、ZnO、Ga、GeO、Y、ZrO、Nb、In、TeO、HfO、Ta、WO、Bi、La、Gd、Yb、およびLuからなる群から選択される少なくとも一種を合計で1モル%以下含有する、前記[1]~[11]のいずれか1に記載の無アルカリガラス。
[13] Fを1モル%以下含有する、前記[1]~[12]のいずれか1に記載の無アルカリガラス。
[14] 35GHzにおける誘電正接が0.006以下である、前記[1]~[13]のいずれか1に記載の無アルカリガラス。
[15] 1500℃における抵抗値が400Ω・cm以下である、前記[1]~[14]のいずれか1に記載の無アルカリガラス。
[16] 1500℃における抵抗値が300Ω・cm以下である、前記[1]~[15]のいずれか1に記載の無アルカリガラス。
[17] ヤング率が58GPa以上である、前記[1]~[16]のいずれか1に記載の無アルカリガラス。
[18] 密度が2.58g/cm以下、50~350℃における平均熱膨張係数が30×10-7/℃~40×10-7/℃である、前記[1]~[17]のいずれか1に記載の無アルカリガラス。
[19] ガラス粘度が10dPa・sとなる温度Tが1500~1700℃、ガラス粘度が10dPa・sとなる温度Tが1290℃以下である、前記[1]~[18]のいずれか1に記載の無アルカリガラス。
[20] ガラス転移温度が700℃以下、または歪点が700℃以下である、前記[1]~[19]のいずれか1に記載の無アルカリガラス。
[21] 表面失透温度が1300℃以下である、前記[1]~[20]のいずれか1に記載の無アルカリガラス。
[22] HNOを6重量%とHSOを5重量%とを含有する45℃の水溶液に170秒浸漬した際の、単位表面積当たりのガラス成分の溶出量が0.025mg/cm以下である、前記[1]~[21]のいずれか1に記載の無アルカリガラス。
[23] 前記[1]~[22]のいずれか1に記載の無アルカリガラスを含み、主表面と端面を有するガラス板であり、少なくとも1つの主表面は算術平均粗さRaが1.5nm以下であるガラス板。
[24] 少なくとも一辺が900mm以上、厚みが0.7mm以下である、前記[23]に記載のガラス板。
[25] フロート法又はフュージョン法で製造される、前記[22]または[23]に記載のガラス板。
[26] 前記[1]~[22]のいずれか1に記載の無アルカリガラスを含む高周波デバイス用ガラス基板。
[27] 前記[1]~[22]のいずれか1に記載の無アルカリガラスを含むパネル型アンテナ。
[28] 前記[1]~[22]のいずれか1に記載の無アルカリガラスを含む窓ガラス。[29] 前記[1]~[22]のいずれか1に記載の無アルカリガラスを含む車両用窓ガラス。
[30] 前記[1]~[22]のいずれか1に記載の無アルカリガラスを含むタッチパネル用カバーガラス。
【発明の効果】
【0010】
本発明の無アルカリガラスは、高周波信号の誘電損失を低減できる。そのため、高周波デバイス用ガラス基板に好適である。そのようなガラス基板を用いた回路基板によれば、高周波信号の伝送損失を低減でき、実用的な電子デバイス等の高周波デバイスを提供できる。
本発明の無アルカリガラスは、耐酸性に優れている。そのため、液晶アンテナ、高周波デバイス等の回路基板の製造工程でガラス基板を酸洗浄した際に、基板表面が溶解して基板表面の平滑性が悪化する、溶出物が基板表面に付着するおそれがない。そのため、基板表面に形成される膜の密着性低下を防止できる。また、導体損失が大きくなることを防止できる。
本発明の無アルカリガラスは、高周波の周波数帯域の電波の伝送損失を低減でき、損傷・破壊もし難い。そのため、高周波の周波数帯域の電波を送受信するガラス製品にも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、高周波デバイス用回路基板の構成の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。無アルカリガラスやガラス板における各成分の含有率は、特に断らない限り、酸化物基準のモル百分率(モル%)を示す。また、式(A)~式(D)における[金属酸化物]との記載、例えば[MgO]などは、金属酸化物成分、例えば酸化マグネシウムなどのモル%を表す。
なお、本明細書における「高周波」とは、10GHz以上、好ましくは30GHzより大きく、より好ましくは35GHz以上とする。
【0013】
以下、本実施形態に係る無アルカリガラス(以下、単に「ガラス」と称することがある。)を説明する。
【0014】
ネットワーク形成物質としてのSiOの含有量が57モル%(以下、単に、%という)以上であれば、ガラス形成能や耐候性を良好にでき、また失透を抑制できる。SiOの含有量は58%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、61%以上がさらに好ましい。また、SiOの含有量が70%以下であれば、ガラスの溶解性を良好にできる。SiOの含有量は68%以下が好ましく、66%以下がより好ましく、65%以下がさらに好ましく、64%以下が特に好ましく、63%以下が最も好ましい。
【0015】
Alは、耐候性の向上、ヤング率の向上、ガラスの分相性の抑制、熱膨張係数の低下等に効果を発揮する成分である。Alの含有量は5%以上であれば、Alを含有させる効果が十分得られる。Alの含有量は6%以上が好ましく、7%以上がより好ましく、8%以上がさらに好ましい。また、Al含有量が15%以下であれば、ガラスの溶解性等が良好である。Alの含有量は14%以下が好ましく、13%以下がより好ましく、12%以下がさらに好ましい。
【0016】
の含有量が24%以下であれば、耐薬品性を良好にできる。Bの含有量は23%以下が好ましく、22%以下がより好ましく、21%以下がさらに好ましく、20%以下がさらに好ましく、19%以下が特に好ましく、18%以下が最も好ましい。また、Bの含有量が15%以上であれば、溶解性が向上する。また、高周波領域での誘電正接を低減できる。Bの含有量は16%以上が好ましく、17%以上がより好ましく、17.5%以上がさらに好ましい。
【0017】
MgOは比重を上げずにヤング率を上げる成分である。つまり、MgOは、比弾性率を高くする成分であり、それによりたわみの問題を軽減でき、破壊靭性値を向上させてガラス強度を上げる。また、MgOは溶解性も向上させる成分である。MgOの含有量が0.1%以上であれば、MgOを含有させる効果が得られ、かつ熱膨張係数が低くなりすぎるのを抑えられる。MgOの含有量は0.2%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましい。MgOの含有量が10%以下であれば、失透温度の上昇を抑えられる。MgOの含有量は9%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、6%以下がよりさらに好ましく、5%以下がことさらに好ましく、4%以下が特に好ましく、3%以下が最も好ましい。
【0018】
CaOは、アルカリ土類金属中ではMgOに次いで比弾性率を高くし、かつ歪点を過大には低下させないという特徴を有し、MgOと同様に溶解性も向上させる成分である。さらに、MgOと比べて失透温度を高くしにくいという特徴も有する成分である。CaOの含有量が0.1%以上であれば、CaOを含有させる効果が十分に得られる。CaOの含有量は0.2%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましく、2%以上が特に好ましい。また、CaOの含有量が10%以下であれば、平均熱膨張係数が高くなりすぎず、かつ失透温度の上昇を抑えてガラスの製造時の失透を防ぐ。CaOの含有量は8%以下が好ましく、7%以下がより好ましく、6%以下がさらに好ましく、5%以下がよりさらに好ましく、4%以下がことさらに好ましく、3%以下が特に好ましい。
【0019】
SrOは、ガラスの失透温度を上昇させず、溶解性を向上させる成分である。SrOの含有量が0.1%以上であれば、SrOを含有させる効果が十分得られる。SrOの含有量は0.2%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましく、2%以上が特に好ましい。SrOの含有量が10%以下であれば、比重を大きくしすぎることなく、平均熱膨張係数が高くなりすぎるのも抑えられる。SrOの含有量は9%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、6%以下がよりさらに好ましく、5%以下がことさらに好ましく、4%以下がなおさらに好ましく、3%以下が特に好ましく、2.5%以下が最も好ましい。
【0020】
BaOは必須成分ではないが、ガラスの失透温度を上昇させず、溶解性を向上させる成分である。BaOを含有する場合、その含有量が0.1%以上であれば、上述したBaOを含有させる効果が十分得られるため好ましい。BaOの含有量は0.2%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましく、2%以上が特に好ましい。しかし、BaOを多く含有すると比重が大きくなり、ヤング率が下がり、比誘電率が高くなり、平均熱膨張係数が大きくなりすぎる傾向がある。そのため、BaOの含有量は10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、3%以下がよりさらに好ましい。
【0021】
ZnOは必須成分ではないが、耐薬品性を向上させる成分である。しかし、ZnOを多く含有すると分相しやすくなり、また、失透温度が高くなるおそれがある。そのため、ZnOの含有量は0.1%以下である。ZnOの含有量は0.05%以下が好ましく、0.03%以下がより好ましく、0.01%以下がさらに好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。本発明において、ZnOを実質的に含有しないとは、例えば0.01%未満である。
【0022】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、式(A)が[Al]/[B]で表される含有量の比であるとき、式(A)の値が0.35超、1.4以下である。式(A)で表される値が上記範囲であれば、30GHzを超えるような高周波領域での誘電損失を低減でき、ガラスの耐酸性が向上する。また、分相が抑制され均一性に優れるガラスとなる。式(A)で表される値が0.35以下だと、ガラスの耐酸性が悪化する。また、分相により均一性に優れるガラスを得ることが難しくなる。式(A)で表される値は、1.4超だと、30GHzを超える高周波領域での誘電損失を低減できない。式(A)で表される値は、1.2以下が好ましく、1.0以下がより好ましく、0.8以下がさらに好ましい。式(A)で表される値は、0.40以上が好ましく、0.45以上がより好ましく、0.49以上がよりさらに好ましい。
また、式(A)で表される値が0.49以上であると、ヤング率が向上し、例えばヤング率が64GPa以上となるため、さらに好ましい。式(A)で表される値は、0.52以上がよりさらに好ましく、0.56以上がことさらに好ましく、0.59以上が特に好ましく、0.61以上が最も好ましい。
【0023】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、式(B)が[MgO]+[CaO]+[SrO]+[BaO]で表される合計の含有量であるとき、式(B)で表される値が7%以上、16%以下が好ましい。式(B)で表される値が上記範囲であれば、溶融温度域の抵抗値、例えば、1500℃の抵抗値が低くなり、かつ、ガラスの耐酸性が向上する。溶融温度域の抵抗値が低い本実施形態に係る無アルカリガラスは、ガラス原料の溶解時に電気溶解を適用することにより、無アルカリガラスの生産性、品質を向上できる。具体的には、式(B)で表される値が7%以上だと、溶融温度域の抵抗値を低くできる。式(B)で表される値が16%以下だと、ガラスの耐酸性をより良好にできる。また、30GHzを超える高周波領域での誘電損失を好適に低減できる。式(B)で表される値は、14%以下がより好ましく、13%以下がさらに好ましく、12%以下がよりさらに好ましく、11%以下が特に好ましく、10.5%以下が最も好ましい。式(B)で表される値は、8%以上がより好ましく、8.5%以上がさらに好ましく、9%以上がよりさらに好ましい。
【0024】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、式(C)が[Al]-([MgO]+[CaO]+[SrO]+[BaO])で表される含有量であるとき、式(C)で表される値が-3%超、2%未満が好ましい。式(C)で表される値が上記範囲であれば、ガラスの失透を抑制でき、かつ、ガラスの耐酸性が向上する。具体的には、式(C)で表される値が-3%超だと、ガラスの耐酸性をより良好にできる。式(C)で表される値が2%未満だと、ガラスが失透しにくくなる。式(C)で表される値は、1.5%以下がより好ましく、1.0%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましい。式(C)で表される値は、-2%以上がより好ましく、-1%以上がさらに好ましく、-0.5%以上が特に好ましい。
【0025】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、式(D)が[SrO]/([MgO]+[CaO]+[SrO]+[BaO])で表される含有量の比であるとき、式(D)の値が0.64以上が好ましい。式(D)で表される値が上記範囲であれば、表面失透温度が低下し、例えば、表面失透温度が1219℃以下となり、ガラスの生産性が向上する。式(D)の値は、0.7以上がより好ましく、0.75以上がさらに好ましく、0.8以上が特に好ましい。また、上限は特に限定されないが、例えば0.95以下が好ましい。
【0026】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、溶融温度域の抵抗値、例えば、1500℃の抵抗値を下げるために、Feを含有させてもよい。但し、Fe含有量は、可視域の透過率の低下を抑制する観点から、Fe換算で1モル%以下が好ましく、0.5モル%以下がより好ましく、0.1モル%以下がさらに好ましい。
【0027】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、β-OH値(mm-1)が0.05mm-1以上、1.0mm-1以下が好ましい。
β-OH値は、ガラス中の水分含有量の指標であり、ガラス試料について波長2.75~2.95μmの光に対する吸光度を測定し、吸光度の最大値βmaxを該試料の厚さ(mm)で割ることで求める。β-OH値が上記範囲だと、ガラス原料を溶融する温度域、例えば、1500℃付近の抵抗値が低くなり、通電加熱によりガラスを溶解するのに好適であり、かつ、ガラス中の泡欠点が少ない。具体的には、β-OH値が0.05mm-1以上だと、ガラス原料を溶融する温度域での抵抗値が低くなる。また、高周波領域での誘電正接を好適に低減できる。β-OH値が1.0mm-1以下だと、ガラス中の泡欠点を抑制できる。β-OH値は、0.8mm-1以下がより好ましく、0.6mm-1以下がさらに好ましく、0.5mm-1以下が特に好ましい。β-OH値は、0.1mm-1以上がより好ましく、0.2mm-1以上がさらに好ましく、0.3mm-1以上が特に好ましい。
【0028】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、LiO、NaO、KO等のアルカリ金属酸化物を実質的に含有しないことが好ましい。本実施形態において、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しないとは、原料等から混入する不可避的不純物以外には含有しないこと、すなわち、意図的に含有させないことを意味する。但し、特定の作用効果、すなわち、歪点を下げる、Tgを下げる、徐冷点を下げる、ガラス原料を溶融する温度域の抵抗値を下げるなどの効果を得る目的でアルカリ金属酸化物を所定量となるように含有させてもよい。
具体的には、LiO、NaOおよびKOからなる群から選択される少なくとも1つを、[LiO]+[NaO]+[KO]で表される合計の含有量で0.2%以下含有してもよい。より好ましくは0.15%以下、さらに好ましくは0.1%以下、よりさらに好ましくは0.08%以下、ことさらに好ましくは0.05%以下、最も好ましくは0.03%以下である。LiO、NaOおよびKOからなる群から選択される少なくとも1つを、酸化物基準のモル%表示で合計0.001%以上含有してもよい。より好ましくは0.003%以上、さらに好ましくは0.005%以上、よりさらに好ましくは0.008%以上、ことさらに好ましくは0.01%以下、最も好ましくは0.02%以上である。なお、本明細書において、[LiO]+[NaO]+[KO]で表される合計の含有量をROで表すこともある。Rはアルカリ金属を指す。
【0029】
ガラスの清澄性を向上させるため、本実施形態に係る無アルカリガラスは、SnO、Cl、およびSOからなる群から選択される少なくとも一種を合計含有量で好ましくは1モル%以下、より好ましくは0.5モル%以下、さらに好ましくは0.3モル%以下含有してもよい。下限は0%(含有しない)である。本実施形態に係る無アルカリガラスは、ガラス中の泡欠点の低減、および高周波領域での誘電正接の低減の観点から、Clの含有量は0.5モル%以下が好ましく、0.4モル%以下がより好ましく、0.3モル%以下がさらに好ましく、0.2モル%以下がよりさらに好ましく、0.1モル%以下が特に好ましい。下限は0%(実質的に含有しない)である。
【0030】
ガラスの耐酸性を向上させるため、本実施形態に係る無アルカリガラスは、微量成分として、Sc、TiO、ZnO、Ga、GeO、Y、ZrO、Nb、In、TeO、HfO、Ta、WO、Bi、La、Gd、Yb、およびLuからなる群から選択される少なくとも一種を含有してもよい。但し、微量成分の含有量が多すぎると、ガラスの均一性が低下し、分相が起こりやすくなるので、微量成分は合計含有量で1モル%以下が好ましい。上記した微量成分を1種のみ含有してもよく、2種以上含有してもよい。
【0031】
ガラスの溶解性を向上させる、ガラスの歪点を低くする、ガラス転移温度を低くする、徐冷点を低くするなどの目的で、本実施形態に係る無アルカリガラスは、Fを1モル%まで含有させてもよい。F含有量が1モル%を超えると、ガラス中の泡欠点が多くなるおそれがある。
【0032】
ガラスの溶解性、清澄性、成形性等を改善するため、また、特定の波長における吸収を得る、密度、硬度、曲げ剛性、耐久性等を改善するため、本実施形態に係る無アルカリガラスには、Se、TeO、Ga、In、GeO、CdO、BeOおよびBiのうちの1種以上を含有していてもよい。これらの合計の含有量は2%以下が好ましく、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、よりさらに好ましくは0.3%以下、ことさらに好ましくは0.1%以下、特に好ましくは0.05%以下、最も好ましくは0.01%以下である。
【0033】
ガラスの溶解性、清澄性、成形性等を改善するため、また、ガラスの硬度、例えばヤング率などを改善するため、本実施形態に係る無アルカリガラスは、希土類酸化物、遷移金属酸化物を含んでもよい。
【0034】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、希土類酸化物として、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Re、Tm、YbおよびLuのうちの1種以上を含有していてもよい。これらの合計の含有量は2%以下が好ましく、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、よりさらに好ましくは0.3%以下、ことさらに好ましくは0.1%以下、特に好ましくは0.05%以下、最も好ましくは0.01%以下である。
【0035】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、遷移金属酸化物として、V、Ta、Nb、WO、MoOおよびHfOのうちの1種以上を含有していてもよい。これらの合計の含有量はで2%以下が好ましく、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、よりさらに好ましくは0.3%以下、ことさらに好ましくは0.1%以下、特に好ましくは0.05%以下、最も好ましくは0.01%以下である。
【0036】
ガラスの溶解性等を改善するため、本実施形態に係る無アルカリガラスは、アクチノイド酸化物であるThOを含有していてもよい。ThOの含有量は2%以下が好ましく、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、よりさらに好ましくは0.3%以下、ことさらに好ましくは0.1%以下、なおさらに好ましくは0.05%以下、特に好ましくは0.01%以下、最も好ましくは0.005%以下である。
【0037】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、35GHzにおける誘電正接(tanδ)は0.006以下が好ましい。35GHzにおける誘電正接が0.006以下であれば、30GHzを超えるような高周波領域での誘電損失を低減できる。35GHzにおける誘電正接は、0.0054以下がより好ましく、0.005以下がさらに好ましく、0.0045以下がよりさらに好ましく、0.004以下がことさらに好ましく、0.003以下が特に好ましい。
また、10GHzにおける誘電正接は0.006以下が好ましく、0.005以下がより好ましく、0.004以下がさらに好ましく、0.003以下が最も好ましい。
【0038】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、35GHzにおける比誘電率は10以下が好ましい。35GHzにおける比誘電率が10以下であれば、高周波領域での誘電損失を低減できる。35GHzにおける比誘電率は7以下がより好ましく、6以下がさらに好ましく、5以下が特に好ましい。
また、10GHzにおける比誘電率は5.5以下が好ましく、5.3以下がより好ましく、5以下がさらに好ましい。
【0039】
また、無アルカリガラスを高周波デバイスに用いられるガラス基板に用いる場合、ヤング率が高いことが求められる。ヤング率が低いと、デバイスの製造工程で実施される金属(例えば、Cu)膜の成膜後に、ガラス基板が反る、たわむ、割れるなどの不具合を生じるおそれがある。誘電正接を低くした無アルカリガラスは、ヤング率が低くなる傾向がある。
本実施形態に係る無アルカリガラスは、ヤング率が58GPa以上が好ましい。ヤング率が上記範囲であれば、高周波デバイスの製造工程で実施される金属膜、例えば、Cu膜の成膜後に、ガラス基板が反る、たわむ、割れるなどの不具合が生じることを抑制できる。ヤング率は、60GPa以上がより好ましく、62GPa以上がさらに好ましく、63GPa以上がよりさらに好ましく、64GPa以上がことさらに好ましく、65GPa以上がなおさらに好ましく、66GPa以上がとりわけ好ましく、67GPa以上が特に好ましく、68GPa以上が最も好ましい。
【0040】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、ガラスの撓み量を抑制する点から比弾性率が23GPa・cm/g以上が好ましく、24GPa・cm/g以上がより好ましく、25GPa・cm/g以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、例えば32GPa・cm/g以下が好ましい。
【0041】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、密度は2.58g/cm以下が好ましい。これにより、自重たわみが小さくなり、大型基板の取り扱いが容易になる。また、ガラスを用いたデバイスの重量を軽量化できる。密度は2.57g/cm以下がより好ましく、2.56g/cm以下がさらに好ましい。なお、大型基板とは、例えば、少なくとも一辺が900mm以上の基板である。
【0042】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、50~350℃における平均熱膨張係数が30×10-7/℃以上が好ましい。これにより、ガラス基板とした際に、ガラス基板上に形成される金属膜との膨張率の差が大きくなり過ぎて割れるのを抑制することができる。
50~350℃での平均熱膨張係数は33×10-7/℃以上がより好ましく、35×10-7/℃以上がさらに好ましく、36×10-7/℃以上がよりさらに好ましく、特に好ましくは37×10-7/℃以上、最も好ましくは38×10-7/℃以上である。
一方、50~350℃での平均熱膨張係数は、高周波デバイスなどの製品製造工程でガラスが割れるのを抑制する観点から、43×10-7/℃以下が好ましい。
50~350℃での平均熱膨張係数は42×10-7/℃以下がより好ましく、41.5×10-7/℃以下がさらに好ましく、41×10-7/℃以下がよりさらに好ましく、40.5×10-7/℃以下がことさらに好ましく、40.3×10-7/℃以下が特に好ましく、40×10-7/℃以下が最も好ましい。
【0043】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、ガラス粘度が10dPa・sとなる温度Tが1700℃以下が好ましい。Tが1700℃以下であることにより、ガラスの溶解性に優れ、製造設備への負担を低くできる。例えば、ガラスを溶解する窯など設備寿命を延ばすことができ、生産性を向上できる。また、窯由来の欠陥、例えば、ブツ欠陥、Zr欠陥などを低減できる。Tは1680℃以下がより好ましく、1670℃以下がさらに好ましくい。Tは、1500℃以上が好ましい。
【0044】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、ガラス粘度が10dPa・sとなる温度Tが1290℃以下が好ましい。これにより、ガラスの成形性に優れる。また、例えば、ガラス成形時の温度を低くすることでガラス周辺の雰囲気中の揮散物を低減でき、それによりガラスの欠点を低減できる。低い温度でガラスを成形できるので、製造設備への負担を低くできる。例えば、ガラスを成形するフロートバスなどの設備寿命を延ばすことができ、生産性を向上できる。Tは1280℃以下がより好ましい。また、下限は特に限定されないが、例えば1050℃以上が好ましい。
およびTはASTM C 965-96に規定されている方法に従い、回転粘度計を用いて粘度を測定し、10d・Pa・sまたは10d・Pa・sとなるときの温度として求めることができる。なお、後述する実施例では、装置校正用の参照試料としてNBS710およびNIST717aを使用した。
【0045】
本実施形態に係る無アルカリガラスのガラス転移温度は700℃以下が好ましい。これにより、徐冷装置の温度を高くする必要が回避され、徐冷装置の寿命が低下するのを抑制できる。ガラス転移温度は680℃以下がより好ましく、670℃以下がさらに好ましい。ガラス転移温度は600℃以上が好ましい。これにより、高周波デバイス製造工程でガラス板を高温で処理した際の、ガラス板の変形や収縮(熱収縮)を抑制できる。ガラス転移温度は620℃以上がより好ましく、630℃以上が特に好ましい。
また、本実施形態に係る無アルカリガラスは、歪点が低い方がガラスの成形性に優れる。歪点は、700℃以下が好ましく、より好ましくは670℃以下であり、さらに好ましくは660℃以下である。歪点の下限は特に限定されないが、例えば550℃以上が好ましい。
【0046】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、表面失透温度は1300℃以下が好ましい。これにより、ガラスの成形性に優れる。成形中にガラス内部に結晶が生じて、透過率が低下するのを抑制できる。また、製造設備への負担を低くできる。例えば、ガラスを成形するフロートバスなどの設備寿命を延ばすことができ、生産性を向上できる。
表面失透温度は、さらに、1295℃以下、1290℃以下、1285℃以下、1280℃以下、1275℃以下、1270℃以下、1265℃以下、1260℃以下、1255℃以下、1250℃以下、1245℃以下、1240℃以下、1235℃以下、1230℃以下、1225℃以下、1220℃以下、1215℃以下、1210℃以下、1205℃以下、1200℃以下の順に、好ましい。また、下限は特に限定されないが、例えば1000℃以上が好ましい。
本実施形態における表面失透温度は、下記のように求めることができる。すなわち、白金製の皿に粉砕されたガラス粒子を入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間熱処理を行い、熱処理後に光学顕微鏡を用いて、ガラスの表面に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度とを観察し、その平均値を表面失透温度とする。
【0047】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、HNOを6重量%、HSOを5重量%含有する45℃の水溶液に170秒浸漬した時の、単位表面積当たりのガラス成分の溶出量が0.025mg/cm以下が好ましい。ガラス成分の溶出量が0.025mg/cm以下であれば耐酸性が良好である。ガラス成分の溶出量は0.020mg/cm以下がより好ましく、少ないほど好ましい。
【0048】
無アルカリガラスのB含有量を高くすると、溶解槽内のガラス原料をバーナー等で加熱して溶解させると、ガラス原料の溶解時にBの揮散量が多く、生産性が低い。
一方、溶解槽内の電極から溶融ガラスに直接通電し、発生するジュール熱によって、ガラス原料を溶解させる電気溶解は、溶融ガラスの素地上にコールドトップ層を形成するため、Bの揮散量を抑制できる(日本国特開平5-163024号公報)。
しかしながら、誘電正接を低くした無アルカリガラスは、溶融温度域の抵抗値が高くなる傾向がある。溶融温度域の抵抗値が高いと、溶解槽本体を構成する炉材の抵抗値との差が小さくなり、溶解槽の壁面を構成する炉材にも電流が流れる場合がある。炉材にも電流が流れると、ガラス原料の溶融が阻害される、炉材が浸食される、消費電力が増大し、製造コストが増加するといった問題が生じる(国際公開第2019/004434号)。また、炉材に通電されると、炉材が破壊されてガラスに混入し、ガラス製品の異物が混入するおそれもある。
上記に対し、本実施形態に係る無アルカリガラスは、1500℃の抵抗値が400Ω・cm以下が好ましい。1500℃の抵抗値が上記範囲であれば、ガラス製造時に、通電加熱による溶解が可能である。1500℃の抵抗値は、300Ω・cm以下がより好ましく、250Ω・cm以下がさらに好ましく、200Ω・cm以下がよりさらに好ましい。また、下限は特に限定されないが、10Ω・cm以上となる。
【0049】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、板厚1mmtとしたガラス基板のヘイズ値は1.0%以下が好ましい。これにより、ガラスの均一性が高く、例えば、ガラス基板を酸洗浄した際に、基板表面に局所的な凹凸が生じることを好適に防止できる。これにより、高周波信号の伝送損失を低減できる。本実施形態に係る無アルカリガラスは、板厚1mmtとしたガラス基板のヘイズ値が0.8%以下がより好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.4%以下が最も好ましく、小さいほど好ましい。
【0050】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、上述した特徴により、高周波デバイス用ガラス基板や、パネル型アンテナ、窓ガラス、車両用窓ガラス、タッチパネル用カバーガラス等に好適である。
図1は、高周波デバイス用回路基板の構成の一例を示す断面図である。図1に示す回路基板1は、絶縁性を有するガラス基板2と、ガラス基板2の第1の主表面2aに形成された第1の配線層3と、ガラス基板2の第2の主表面2bに形成された第2の配線層4とを備えている。第1および第2の配線層3、4は、伝送線路の一例としてマイクロストリップ線路を形成している。第1の配線層3は信号配線を構成し、第2の配線層4はグランド線を構成している。ただし、第1および第2の配線層3、4の構造はこれに限定されない。また配線層はガラス基板2の一方の主表面のみに形成されてもよい。
【0051】
第1および第2の配線層3、4は、導体で形成された層であり、その厚さは通常0.1~50μm程度である。第1および第2の配線層3、4を形成する導体は、特に限定されず、例えば鋼、金、銀、アルミニウム、チタン、クロム、モリブデン、タングステン、白金、ニッケル等の金属、それらの金属を少なくとも1つ含む合金や金属化合物等が用いられる。第1および第2の配線層3、4の構造は、一層構造に限らず、例えばチタン層と銅層との積層構造のような複数層構造を有してもよい。第1および第2の配線層3、4の形成方法は、特に限定されず、例えば導体ペース卜を用いた印刷法、ディップ法、メッキ法、蒸着法、スパッタ等の各種公知の形成方法を適用できる。
【0052】
ガラス基板2として、本実施形態に係る無アルカリガラスを含むガラス基板を用いれば、35GHzにおける誘電正接(tanδ)が0.006以下となる。ガラス基板2の35GHzにおける比誘電率は10以下が好ましい。ガラス基板2の35GHzにおける誘電正接が0.006以下によって、30GHzを超えるような高周波領域での誘電損失を低減できる。ガラス基板2の35GHzにおける比誘電率が10以下によっても、高周波領域での誘電損失を低減できる。ガラス基板2の35GHzにおける誘電正接は、0.0054以下がより好ましく、0.005以下がさらに好ましく、0.0045以下がよりさらに好ましく、0.004以下がことさらに好ましく、0.003以下が特に好ましい。ガラス基板2の35GHzにおける比誘電率は7以下がより好ましく、6以下がさらに好ましく、5以下が特に好ましい。
【0053】
さらに、ガラス基板2は主表面2a、2bと端面とを有する。ガラス基板2の第1および第2の配線層3、4が形成される主表面2a、2bの少なくとも一方の主表面は、その表面粗さとして算術平均粗さRaが1.5nm以下が好ましく、両方の主表面の算術平均粗さRaが1.5nm以下がより好ましい。これによって、30GHzを超えるような高周波領域で第1および第2の配線層3、4に表皮効果が生じた場合にも、第1および第2の配線層3、4の表皮抵抗を低下でき、これにより導体損失が低減される。ガラス基板2の主表面2a、2bの算術平均粗さRaは、1.0nm以下がより好ましく、0.5nm以下がさらに好ましい。ガラス基板2の主表面とは、配線層が形成される表面を指すものである。一方の主表面に配線層が形成される場合、一方の主表面の算術平均粗さRaの値が1.5nm以下を満たせばよい。なお、本明細書における表面粗さRaは、JIS B0601(2001年)に準拠した値を意味する。
【0054】
ガラス基板2の主表面2a、2bの表面粗さは、必要に応じてガラス基板2の表面の研磨処理等により実現できる。ガラス基板2の表面の研磨処理には、例えば酸化セリウムやコロイダルシリカ等を主成分とする研磨剤、および研磨パッドを用いた研磨;研磨剤と酸性またはアルカリ性の分散媒とを含む研磨スラリー、および研磨パッドを用いた研磨;酸性またはアルカリ性のエッチング液を用いた研磨等を適用できる。これら研磨処理は、ガラス基板2の素板の表面粗さに応じて適用され、例えば予備研磨と仕上げ研磨とを組み合わせて適用してもよい。また、ガラス基板2の端面は、プロセス流動中に端面を起因とするガラス基板2の割れ、クラック、欠けを防止するため、面取りすることが好ましい。面取りの形態は、C面取り、R面取り、糸面取り等のいずれでもよい。
【0055】
このようなガラス基板2の使用により、回路基板1の35GHzにおける伝送損失を低減、具体的には1dB/cm以下まで低減できる。従って、高周波信号、特に30GHzを超える高周波信号、さらには35GHz以上の高周波信号の質や強度等の特性が維持されるため、そのような高周波信号を扱う高周波デバイスに好適なガラス基板2および回路基板1を提供できる。すなわち、そのような高周波信号を扱う高周波デバイスの特性や品質を向上できる。回路基板1の35GHzにおける伝送損失は、0.5dB/cm以下がより好ましい。
【0056】
本実施形態に係る無アルカリガラスを含むガラス板の形状は、特に限定されないが、厚さは0.7mm以下が好ましい。ガラス板の厚さが0.7mm以下であれば、高周波デバイス用ガラス基板として用いた際に、高周波デバイスの薄型化や小型化、さらに生産効率の向上等を図れる。また、紫外線透過率が向上し、デバイスの製造工程で紫外線硬化材料を使用して製造性を高められる。ガラス板の厚さは0.6mm以下がより好ましく、0.5mm以下がさらに好ましく、0.4mm以下がよりさらに好ましく、0.3mm以下がなおさらに好ましく、0.2mm以下がことさらに好ましく、0.1mm以下が特に好ましい。また、下限は0.01mm程度である。
【0057】
ガラス板は、大型基板とする場合には、少なくとも一辺が900mm以上が好ましく、1000mm以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、通常一辺の大きさは4000mm以下である。またガラス板は、矩形状が好ましい。
【0058】
次に、無アルカリガラスを含むガラス板の製造方法について説明する。ガラス板を製造する場合、ガラス原料を加熱して溶融ガラスを得る溶解工程、溶融ガラスから泡を除く清澄工程、溶融ガラスを板状にしてガラスリボンを得る成形工程、およびガラスリボンを室温状態まで徐冷する徐冷工程を経る。あるいは、溶融ガラスをブロック状に成形し、徐冷した後、切断、研磨を経てガラス板を製造する方法でもよい。
【0059】
溶解工程は、目標とするガラスの組成となるように原料を調製し、原料を溶解炉に連続的に投入し、好ましくは1450℃~1750℃程度に加熱して溶融ガラスを得る。本実施形態に係る無アルカリガラスは、ガラス原料を溶融する温度域、例えば、1500℃付近の抵抗値が低いため、溶解炉として電気溶解炉を使用し、通電加熱によりガラスを溶解するのが好ましい。但し、通電加熱とバーナーによる加熱を併用してもよい。
【0060】
原料には酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、塩化物等のハロゲン化物等も使用できる。溶解や清澄工程で溶融ガラスが白金と接触する工程がある場合、微小な白金粒子が溶融ガラス中に溶出し、得られるガラス板中に異物として混入する場合があるが、硝酸塩原料の使用は白金異物の生成を防止する効果がある。
【0061】
硝酸塩としては、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム等を使用できる。硝酸ストロンチウムの使用がより好ましい。原料粒度も溶け残りが生じない程度の数百μmの大きな粒径の原料から、原料搬送時の飛散が生じない、二次粒子として凝集しない程度の数μm程度の小さな粒径の原料まで、適宜使用できる。造粒体の使用も可能である。原料の飛散を防ぐために原料含水量も適宜調整可能である。β-OH値、Feの酸化還元度(レドックス[Fe2+/(Fe2++Fe3+)])の溶解条件も適宜調整可能である。
【0062】
次の清澄工程は、上記溶解工程で得られた溶融ガラスから泡を除く工程である。清澄工程としては、減圧による脱泡法を適用してもよく、原料の溶解温度より高温とすることで脱泡してもよい。また、清澄剤としてSOやSnOを使用できる。SO源としては、Al、Na、K、Mg、Ca、Sr、およびBaから選ばれる少なくとも1つの元素の硫酸塩が好ましく、アルカリ土類金属の硫酸塩がより好ましく、中でも、CaSO・2HO、SrSO、およびBaSOが、泡を大きくする作用が著しく、特に好ましい。
【0063】
減圧による脱泡法における清澄剤としては、ClまたはF等のハロゲンの使用が好ましい。Cl源としては、Al、Mg、Ca、Sr、およびBaから選ばれる少なくとも1つの元素の塩化物が好ましく、アルカリ土類金属の塩化物がより好ましく、中でも、SrCl・6HO、およびBaCl・2HOが、泡を大きくする作用が著しく、かつ潮解性が小さいため、特に好ましい。F源としては、Al、Na、K、Mg、Ca、Sr、およびBaから選ばれた少なくとも1つの元素のフッ化物が好ましく、アルカリ土類金属のフッ化物がより好ましく、中でも、CaFがガラス原料の溶解性を大きくする作用が著しいことからさらに好ましい。
【0064】
SnOに代表されるスズ化合物は、ガラス融液中でOガスを発生する。ガラス融液中では、1450℃以上の温度でSnOからSnOに還元され、Oガスを発生し、泡を大きく成長させる作用を有する。ガラス板の製造時においては、ガラス原料を1450~1750℃程度に加熱して溶融するため、ガラス融液中の泡がより効果的に大きくなる。SnOを清澄剤として用いる場合、原料中に、スズ化合物を、母組成の総量100%に対してSnO換算で、0.01%以上含むように調製することが好ましい。SnO含有量が0.01%以上だと、ガラス原料の溶解時における清澄作用が得られるため好ましく、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上である。SnO含有量が0.3%以下であれば、ガラスの着色や失透の発生が抑えられるため好ましい。ガラス中のスズ化合物の含有量は、ガラス母組成の総量100%に対してSnO換算で、0.25%以下がより好ましく、0.2%以下がさらに好ましく、0.15%以下が特に好ましい。
【0065】
次の成形工程は、上記清澄工程で泡を除いた溶融ガラスを板状にしてガラスリボンを得る工程である。成形工程としては、溶融ガラスをスズ等の溶融金属上に流して板状にしてガラスリボンを得るフロート法、溶融ガラスを樋状の部材から下方に流下させるオーバーフローダウンドロー法(フュージョン法)、スリッ卜から流下させるスリッ卜ダウンドロー法等、公知のガラスを板状に成形する方法を適用することができる。中でも、無研磨、および軽研磨の点からフロート法またはフュージョン法が好ましい。
【0066】
次に、徐冷工程は、上記成形工程で得られたガラスリボンを室温状態まで制御された冷却条件にて冷却する工程である。徐冷工程としては、ガラスリボンになるように冷却し、さらに室温状態まで所定の条件で徐冷する。徐冷したガラスリボンを切断後、ガラス板を得る。
【0067】
徐冷工程における冷却速度Rが大きすぎると冷却後のガラスに歪が残りやすくなる。また、仮想温度を反映するパラメータである等価冷却速度が高くなりすぎ、その結果、ガラスのシュリンクを低減できない。そのため、等価冷却速度が800℃/分以下となるようにRを設定することが好ましい。等価冷却速度は400℃/分以下がより好ましく、100℃/分以下がさらに好ましく、50℃/分以下が特に好ましい。一方、冷却速度が小さすぎると、工程の所要時聞が長くなりすぎて、生産性が低くなる。そのため、0.1℃/以上となるように設定することが好ましく、0.5℃/分以上がより好ましく、1℃/分以上がさらに好ましい。
【0068】
ここで、等価冷却速度の定義ならびに評価方法は以下のとおりである。対象とする組成のガラスを10mm×10mm×0.3~2.0mmの直方体に加工してガラス試料とする。ガラス試料に対し、赤外線加熱式電気炉を用い、歪点+1700℃にて5分間保持し、その後、ガラス試料を室温(25℃)まで冷却する。このとき、冷却速度をl0℃/分から1000℃/分の範囲で条件を変えた複数のガラスサンプルを作製する。
【0069】
精密屈折率測定装置(例えば島津デバイス社製KPR2000)を用いて、複数のガラスサンプルのd線(波長587.6nm)の屈折率nを測定する。測定には、Vブロック法や最小偏角法を用いてもよい。得られたnを前記冷却速度の対数に対してプロッ卜することにより、前記冷却速度に対するnの検量線を得る。
【0070】
次に、実際に溶解、成形、冷却等の工程を経て製造された同一組成のガラスのnを、上記測定方法により測定する。得られたnに対応する対応冷却速度(本実施形態において等価冷却速度という)を、上記検量線より求める。
【0071】
本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良等は許容される。例えば、本実施形態に係るガラス板を製造する場合、溶融ガラスを直接板状に成形するプレス成形法にてガラスを板状にしてもよい。
【0072】
また、本実施形態に係るガラス板を製造する場合、耐火物製の溶解槽を使用する製造方法に加えて、白金または白金を主成分とする合金製の坩堝(以下、白金坩堝と呼ぶ)を溶解槽または清澄槽に用いてもよい。白金坩堝を用いた場合、溶解工程は、得られるガラス板の組成となるように原料を調製し、原料を入れた白金坩堝を電気炉にて加熱し、好ましくは1450℃~1700℃程度に加熱する。白金スターラーを挿入し1時間~3時間撹拌して溶融ガラスを得る。
【0073】
白金坩堝を用いたガラス板の製造工程における成形工程では、溶融ガラスを例えばカーボン板上や型枠中に流し出し、板状またはブロック状にする。徐冷工程は、典型的にはTg+50℃程度の温度に保持した後、歪点付近まで1~10℃/分程度で冷却し、その後は室温状態まで、歪が残らない程度の冷却速度にて冷却する。所定の形状への切断および研磨の後、ガラス板を得る。また、切断して得られたガラス板を、例えばTg+50℃程度となるように加熱した後、室温状態まで所定の冷却速度で徐冷してもよい。このようにすることで、ガラスの等価冷却温度を調節できる。
【0074】
本実施形態に係る無アルカリガラスをガラス基板2として用いた回路基板1は、高周波信号、特に30GHzを超える高周波信号、さらには35GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに好適であり、そのような高周波信号の伝送損失を低減して高周波信号の質や強度等の特性を向上できる。本実施形態に係る無アルカリガラスをガラス基板2として用いた回路基板1は、例えば携帯電話機、スマー卜フォン、携帯情報端末、Wi-Fi機器のような通信機器に用いられる半導体デバイスのような高周波デバイス(電子デバイス)、弾性表面波(SAW)デバイス、レーダ送受信機のようなレーダ部品、液晶アンテナやパネル型アンテナのようなアンテナ部品等に好適である。
すなわち、本発明は、本実施形態に係る無アルカリガラスを含む高周波デバイス用ガラス基板の他、本実施形態に係る無アルカリガラスを含むパネル型アンテナにも関する。
【0075】
また、本発明は、本実施形態に係る無アルカリガラスを、高周波信号の伝送損失を低減させる目的で他の製品にも好適に適用できる。すなわち、本発明は、かかる無アルカリガラスを含む窓ガラス、車両用窓ガラス、タッチパネル用カバーガラスにも関する。
無アルカリガラスを含むガラス板は、高周波の周波数帯域の電波を安定して送受信でき、損傷・破壊もし難いため、窓ガラスや車両用窓ガラス、タッチパネル用カバーガラスにも好適である。車両用窓ガラスとしては、例えば自動運転の車両用窓ガラスがより好ましい。
【実施例0076】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、例1~43及び例49~61が実施例であり、例44~48が比較例である。
【0077】
[例1~61]
表1~5、表11、及び表12に示す組成(酸化物基準のモル%表示)を有し、厚さが1.0mm、形状が50×50mm、主表面の算術平均粗さRaが1.0nmのガラス板を用意した。ガラス板は、白金坩堝を用いた溶融法にて作製した。表1~5、表11及び表12に示す組成を有するガラスが得られるように珪砂等の原料を混合し、1kgのバッチを調合した。原料を白金坩堝に入れ、電気炉中にて1650℃の温度で3時間加熱して溶融し、溶融ガラスとした。溶融にあたっては、白金坩堝に白金スターラーを挿入して1時間撹拌し、ガラスの均質化を行った。溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、板状に成形した後、板状のガラスをTg+50℃程度の温度の電気炉に入れ、1時間保持した。冷却速度1℃/分でTg-100℃まで電気炉を降温させ、その後ガラスが室温になるまで放冷した。その後、切断、研磨加工によりガラスを板状に成形し、ガラス板を得た。
【0078】
例1~48のガラス板について、50~350℃における平均熱膨張係数、密度、ガラス転移温度、ヤング率、比弾性率、T、T、β-OH値、10GHzもしくは35GHzにおける比誘電率、10GHzもしくは35GHzにおける誘電正接、表面失透温度、耐酸性、ヘイズ値、1500℃の抵抗率を表6~12に示す。なお、ヘイズ値は、ガラスの分相の指標である。また、表中の空欄は、未測定であることを意味する。
【0079】
以下に各物性の測定方法を示す。
(密度)
泡を含まない約20gのガラス塊の密度をアルキメデス法によって測定した。
(平均熱膨張係数)
JIS R3102(1995年)に規定されている方法に従い、示差熱膨張計を用いて測定した。測定温度範囲は50~350℃で、単位をppm/℃、または×10-7/℃として表した。
(ガラス転移温度)
JIS R3103-3(2001年)に規定されている方法に従い、熱膨張法により測定した。
(ヤング率)
JIS Z2280(1993年)に規定されている方法に従い、厚さ0.5~10mmのガラスについて、超音波パルス法により測定した。単位をGPaとして表した。
(比弾性率)
上記記載方法で測定したヤング率を、同じく上記方法で測定した密度で割ることで比弾性率(GPa・cm/g)を算出した。
(T
ASTM C 965-96に規定されている方法に従い、回転粘度計を用いて粘度を測定し、10d・Pa・sとなるときの温度T(℃)を測定した。
(T
ASTM C 965-96に規定されている方法に従い、回転粘度計を用いて粘度を測定し、10d・Pa・sとなるときの温度T(℃)を測定した。
(比誘電率、誘電正接)
JlS R1641(2007年)に規定されている方法に従い、空洞共振器およびベクトルネットワークアナライザを用いて測定した。測定周波数は空洞共振器の空気の共振周波数である10GHzもしくは35GHzである。
(表面失透温度)
ガラスを粉砕し、試験用篩を用いて粒径が2~4mmの範囲となるように分級した。得られたガラスカレットをイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行い、イオン交換水で洗浄した後、乾燥させ、白金製の皿に入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間の熱処理を行った。熱処理の温度は10℃間隔で設定した。
熱処理後、白金皿よりガラスを取り外し、光学顕微鏡を用いて、ガラスの表面に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度とを観察した。
ガラスの表面に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度は、それぞれ1回測定した。(結晶析出の判断が難しい場合、2回測定することもある)
ガラス表面に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度との測定値を用いて平均値を求め、表面失透温度とした。
(耐酸性)
酸水溶液(6質量%HNO+5質量%HSO、45℃)にガラス試料を170秒浸漬し、単位表面積当たりのガラス成分の溶出量(mg/cm)を評価した。ガラス成分の溶出量が0.02mg/cm以下であれば耐酸性が良好である。
(β-OH値)
ガラス試料について波長2.75~2.95μmの光に対する吸光度を測定し、吸光度の最大値βmaxを該試料の厚さ(mm)で割ることでβ-OH値を求めた。
(1500℃の抵抗率)
溶融ガラスの1350~1700℃の温度域における抵抗率を測定した。溶融ガラスは、各成分の所定の組成になるように調合し、白金坩堝を用いて1650℃の温度で溶解して得た。ガラスの溶解では、白金スターラーを用いて撹拌して、ガラスを均質にした。次に、溶融ガラスを1500℃の温度に保持した状態で抵抗率を、下記文献に記載の方法で測定した。「イオン性融体の導電率測定法、大田能生、宮永光、森永健次、柳ヶ瀬勉、日本金属学会誌第45巻第10号(1981)1036~1043」
(ヘイズ値)
ヘイズメータ(メーカ:スガ試験機株式会社、型式:HZ-V3 Hazemeter)を用いてガラスのヘイズ値を測定した。ヘイズ値の測定は、板厚が1mmtで、両面を鏡面研磨したガラス板で行う。ヘイズ値が35%以下を良品とした。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
【表4】
【0084】
【表5】
【0085】
【表6】
【0086】
【表7】
【0087】
【表8】
【0088】
【表9】
【0089】
【表10】
【0090】
【表11】
【0091】
【表12】
【0092】
実施例である例1~43のガラスは、一部未測定のものもあるが、いずれも、50~350℃における平均熱膨張係数が30×10-7/℃~40×10-7/℃、密度が2.58g/cm以下、ガラス転移温度が700℃以下、ヤング率が58GPa以上、Tが1500~1700℃、Tが1290℃以下、35GHzにおける誘電正接が0.006以下、及び1500℃の抵抗値が400Ω・cm以下の範囲うち、多くを満たす結果であった。また、ヘイズ値の測定結果から分相が無いことが確認できた。
Al-(MgO+CaO+SrO+BaO)が-3超、2未満を満たすと、表面失透温度が1300℃以下であり、耐酸性が良好となる傾向であった。Al-(MgO+CaO+SrO+BaO)が2以上となると、表面失透温度が1300℃超となる傾向であった。Al/Bの値が0.49以上となるとガラスのヤング率も高い傾向であった。SrO/(MgO+CaO+SrO+BaO)が0.64以上であるとガラスの表面失透温度も低い傾向であった。Bが15%未満、かつ、Al/Bの値が1.4超のガラスは、35GHzにおける誘電正接が0.006より高く、高周波領域での誘電損失を低減できない。また、ガラス転移温度が700℃超であった。他方、Al/Bの値が0.35以下のガラスは、耐酸性が劣っていた。また、ヘイズ値の測定結果から分相が確認できた。Bが24%超、かつ、Al/Bの値が1.4超のガラスは、耐酸性が劣っていた。また、ヘイズ値の測定結果から分相が確認できた。さらに、ヤング率は58GPa未満であった。
また実施例である例49~52のガラスは、例30のガラス組成をベースとして、Cl含有量やβ-OH値を変更したガラスである。これらから、β-OH値が高くすると、相対的に誘電正接を低くできる可能性がある、また、Cl含有量が多くなると誘電正接が大きくなる可能性あることが分かる。
実施例である例53~61のガラスは、例30のガラス組成をベースとして、LiO含有量やNaO含有量を変更したガラスである。LiO含有量やNaO含有量が増えると、1500℃の抵抗率が下がる。また、LiOは誘電正接が低いまま、1500℃の抵抗率を下げることができる。
【0093】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2019年4月12日出願の日本特許出願(特願2019-076423)、2019年6月28日出願の日本特許出願(特願2019-120828)、及び2019年11月27日出願の日本特許出願(特願2019-214690)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本実施形態に係る無アルカリガラスは、耐酸性に優れており、かつ、高周波信号の誘電損失を低減できる。このような無アルカリガラスを含むガラス板は、10GHzを超えるような高周波信号、特に30GHzを超える高周波信号、さらには35GHz以上の高周波信号を扱う高周波電子デバイス全般、例えば通信機器のガラス基板、SAWデバイスおよびFBAR等の周波数フィルター部品、導波管等のバンドパスフィルターやSIW(Substrate Integrated waveguide)部品、レーダ部品、アンテナ部品(特に衛星通信に最適とされる液晶アンテナ)、窓ガラス、車両用窓ガラス等に有用である。
【符号の説明】
【0095】
1:回路基板
2:ガラス基板
2a,2b:主表面
3,4:配線層
図1