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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138063
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】炭化ケイ素エピタキシャル基板
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C30B29/36 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024115561
(22)【出願日】2024-07-19
(62)【分割の表示】P 2022009513の分割
【原出願日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2021053223
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】三浦 剛
(72)【発明者】
【氏名】市川 穂高
(72)【発明者】
【氏名】木村 直矢
(72)【発明者】
【氏名】奥田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 泰典
(57)【要約】
【課題】高品質な炭化ケイ素単結晶を高速成長させることが可能な炭化ケイ素単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】 第1面を有する炭化ケイ素基板と、前記第1面に位置する炭化ケイ素エピタキシャル層とを備え、前記第1面は、(000-1)C面であり、前記炭化ケイ素エピタキシャル層の上面において、積層欠陥密度が1.2cm-2未満であり、前記炭化ケイ素基板の前記第1面における基底面転位密度に対する前記積層欠陥密度の割合が0.05%未満である、炭化ケイ素エピタキシャル基板。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面を有する炭化ケイ素基板と、
前記第1面に位置する炭化ケイ素エピタキシャル層と、
を備え、
前記第1面は、(000-1)C面であり、
前記炭化ケイ素エピタキシャル層の上面において、積層欠陥密度が1.2cm-2未満であり、
前記炭化ケイ素基板の前記第1面における基底面転位密度に対する前記積層欠陥密度の割合が0.05%未満である、炭化ケイ素エピタキシャル基板。
【請求項2】
前記積層欠陥密度が1.0cm-2未満である、請求項1に記載の炭化ケイ素エピタキシャル基板。
【請求項3】
前記積層欠陥密度が0.35cm-2未満である、請求項1に記載の炭化ケイ素エピタキシャル基板。
【請求項4】
前記炭化ケイ素基板の直径が100mm以上である、請求項1から3のいずれかに記載の炭化ケイ素エピタキシャル基板。
【請求項5】
前記炭化ケイ素基板の前記第1面における、基底面転位密度が3000cm-2未満である、請求項1から3のいずれか1項に記載の炭化ケイ素エピタキシャル基板。
【請求項6】
前記炭化ケイ素基板の前記第1面における、基底面転位密度が2000cm-2未満である、請求項1から3のいずれか1項に記載の炭化ケイ素エピタキシャル基板。
【請求項7】
前記第1面は、4°以下のオフ角を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の炭化ケイ素エピタキシャル基板。
【請求項8】
前記第1面の表面粗さRaは1nm以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の炭化ケイ素エピタキシャル基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、炭化ケイ素エピタキシャル基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)半導体は、シリコン半導体よりも大きな絶縁破壊電界強度、電子の飽和ドリフト速度および熱伝導率を備える。このため、炭化ケイ素半導体は、従来のシリコンデバイスよりも高温、高速で大電流動作が可能なパワーデバイスを実現することが可能であり、電気自動車やハイブリッドカー等に使用されるモータを高効率で駆動するスイッチング素子を実現する半導体として注目されている。
【0003】
炭化ケイ素半導体は、同じ化学組成であっても、積層方向(<0001>方向)における炭素原子とケイ素原子の配置が異なる複数のポリタイプが存在する。さらに、これらポリタイプ間の内部エネルギー差が小さいことから、単結晶中に異種ポリタイプが生成され易く、生じた異種のポリタイプは、転位や積層欠陥(SF、Stacking Fault)となる。一般に炭化ケイ素基板には、シリコン基板などに比べて、こうした転位や積層欠陥が多く含まれる。このため、炭化ケイ素半導体を用いてスイッチング素子などの半導体デバイスを製造する場合、炭化ケイ素基板上にこうした欠陥の少ない炭化ケイ素エピタキシャル層を形成し、炭化ケイ素エピタキシャル層に半導体デバイスの主な構造が形成される。
【0004】
しかし、転位や積層欠陥は拡張欠陥であり、炭化ケイ素基板の表面近傍に生じた転位や積層欠陥は、エピタキシャル成長の際、炭化ケイ素エピタキシャル層に伝播し、炭化ケイ素エピタキシャル層の結晶品質を低下させやすい。このため、炭化ケイ素基板自体の結晶品質を向上させる技術、および、高品質な炭化ケイ素エピタキシャル層を形成する技術の開発が炭化ケイ素半導体デバイスの普及には重要である。
【0005】
積層欠陥は、面状の欠陥であり、炭化ケイ素エピタキシャル層に生成する代表的な欠陥である。また、炭化ケイ素半導体を用いたバイポーラデバイスが、基底面転位(Basal Plane Dislocation、BPDと略される)を含む場合、バイポーラデバイスが順方向にバイアスされることによって、基底面転位が拡張し、積層欠陥が形成される。積層欠陥は高抵抗であるため、積層欠陥が増大すると、デバイスの内部抵抗も増大し、デバイスにおける電力損失による発熱が大きくなる結果、デバイスが破壊する可能性がある。このようなデバイスの特性の変化は、バイポーラ劣化現象として知られている(非特許文献1)。このため、電子デバイスの長期信頼性の観点から、炭化珪素エピタキシャル成長膜中の基底面転位の発生を抑えるとともに、高抵抗層となる積層欠陥の発生も抑える必要がある。
【0006】
線状表面欠陥は炭化珪素エピタキシャル層の表面に現れる。表面線状欠陥は積層欠陥を伴う場合がありエピタキシャル成長膜における線状表面欠陥の発生も抑制することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6295969号明細書
【特許文献2】特許第4539140号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】大谷昇、「パワーデバイス用低抵抗率SiC単結晶開発の現状」、日本結晶成長学会誌、Vol.45,No.3(2018)45-3-01
【非特許文献2】石田夕起、「化学気相法によるSiC高速エピタキシャル成長技術の現状」、J.Vac.Soc.Jpn.,Vol.54,No.6,2011
【非特許文献3】中村俊一、他2名、「4H-SiC{0001}近傍面へのホモエピタキシャル成長」、「材料」、J.Soc.Mat.Sci.,Japan,Vol.53,No.12,pp.1323-1327,Dec.2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願は、欠陥の少ない炭化ケイ素エピタキシャル層を備えた炭化ケイ素エピタキシャル基板およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一実施形態による炭化ケイ素エピタキシャル基板は、第1面を有する炭化ケイ素基板と、前記第1面に位置する炭化ケイ素エピタキシャル層と、を備え、前記第1面は、(000-1)C面であり、前記炭化ケイ素エピタキシャル層の上面において、線状表面欠陥密度が1.0cm-2未満であり、かつ、積層欠陥密度が1.2cm-2未満である。
【0011】
前記線状表面欠陥密度が0.5cm-2未満であってもよい。
【0012】
前記線状表面欠陥密度が0.35cm-2未満であってもよい。
【0013】
前記積層欠陥密度が1.0cm-2未満であってもよい。
【0014】
前記積層欠陥密度が0.35cm-2未満であってもよい。
【0015】
前記炭化ケイ素基板の前記第1面における、基底面転位密度が3000cm-2未満であってもよい。
【0016】
前記炭化ケイ素基板の前記第1面における、基底面転位密度が2000cm-2未満であってもよい。
【0017】
前記炭化ケイ素基板の前記第1面における基底面転位密度に対する前記線状表面欠陥密度の割合が0.04%未満であってもよい。
【0018】
前記炭化ケイ素基板の前記第1面における基底面転位密度に対する前記積層欠陥密度の割合が0.05%未満であってもよい。
【0019】
前記第1面は、4°以下のオフ角を有していてもよい。
【0020】
前記第1面の表面粗さRaは1nm以下であってもよい。
【0021】
本開示の一実施形態による炭化ケイ素エピタキシャル基板の製造方法は、第1面が(000-1)C面である炭化ケイ素基板を用意する工程と、成長室内に前記炭化ケイ素基板を保持し、前記成長室内に、C/Si比が1以上1.6以下の割合で炭素およびケイ素を含むガスを導入し、前記第1面上に炭化ケイ素エピタキシャル層を成長させる工程とを備える。
【0022】
前記炭化ケイ素基板の前記第1面における、基底面転位密度が3000cm-2未満であってもよい。
【0023】
前記炭化ケイ素基板の前記第1面における、基底面転位密度が2000cm-2未満であってもよい。
【0024】
前記第1面は、4°以下のオフ角を有していてもよい。
【0025】
前記第1面の表面粗さRaは1nm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本開示の実施形態によれば、欠陥の少ない炭化ケイ素エピタキシャル層を備えた炭化ケイ素エピタキシャル基板およびその製造方法を提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本実施形態の炭化ケイ素エピタキシャル基板の模式的断面図である。
図2図2は、本実施形態の炭化ケイ素エピタキシャル基板で用いられる炭化ケイ素基板の結晶方位を示す模式図である。
図3図3は、実施例および比較例の基板中の基底面転位密度と線状表面欠陥密度との関係を示す図である。
図4図4は、実施例および比較例の基板中の基底面転位密度と積層欠陥密度との関係を示す図である。
図5図5は、実施例および比較例の基板中の基底面転位密度と、基板中の基底面転位密度に対する線状表面欠陥密度の割合との関係を示す図である。
図6図6は、実施例および比較例の基板中の基底面転位密度と、基板中の基底面転位密度に対する積層欠陥密度の割合との関係を示す図である。
図7図7は、実施例および比較例の炭化ケイ素エピタキシャル基板で観察された線状表面欠陥の微分干渉光学顕微画像の一例を示す。
図8図8は、実施例および比較例の炭化ケイ素エピタキシャル基板で観察された積層欠陥の近紫外線フィルタによるPL画像の一例を示す。
図9図9は、実施例および比較例の炭化ケイ素エピタキシャル基板で観察された積層欠陥の可視光線フィルタによるPL画像の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(炭化ケイ素エピタキシャル基板10の構造)
図1は、本実施形態の炭化ケイ素エピタキシャル基板10の模式的断面図である。炭化ケイ素エピタキシャル基板10は炭化ケイ素基板20と、炭化ケイ素エピタキシャル層30とを備える。
【0029】
炭化ケイ素基板20は、第1面20aと第1面20aと反対側に位置する第2面20bとを有し、第1面20a上に炭化ケイ素エピタキシャル層30が位置している。炭化ケイ素基板20は、炭化ケイ素単結晶によって構成されている。ポリタイプは4Hであることが好ましい。炭化ケイ素基板20のサイズに特に制限はない。しかし、炭化ケイ素エピタキシャル基板10を用いて作製される半導体デバイスの量産性の観点から、炭化ケイ素基板20は100mm以上の直径を有していることが好ましく、150mmの直径を有していることがより好ましい。炭化ケイ素基板20は規格による直径に応じて定められた厚さを有している。例えば、直径が100mmあるいは150mmの場合には、炭化ケイ素基板20の厚さは、350μm±25μmあるいは500μm±25μmである。
【0030】
図2は、本実施形態の炭化ケイ素エピタキシャル基板で用いられる炭化ケイ素基板の結晶方位を示す模式図である。第1面20aは、下記に示す面方位を有している。
【0031】
【数1】
【0032】
ここでCは炭素を意味しており、第1面20aの最表面には炭素が露出した炭素面であることを示す。
【0033】
以下、明細書中での記載を簡略にするため、(000-1)C面と標記する。一方、第2面20bは、(0001)Si面であり、第2面20bの最表面にはケイ素が露出したケイ素面である。
【0034】
炭化ケイ素基板には、炭素面とケイ素面があることは知られているが、従来、炭化ケイ素エピタキシャル層は、炭化ケイ素基板のケイ素面上に形成される。これは、ケイ素面上に炭化ケイ素エピタキシャル層を成長させるほうが成長の制御が容易であること、および、ドーピングの制御が容易であることなどによる。このため、特許文献や非特許文献において、炭化ケイ素基板の上面が、炭素面であるかケイ素面であるかに言及がない場合、炭化ケイ素基板のケイ素面を用いていると考えられる。
【0035】
本願発明者は、炭化ケイ素半導体における主要な欠陥である線状表面欠陥と積層欠陥を抑制する技術について詳細に検討した。その結果、炭化ケイ素エピタキシャル層を炭素面にエピタキシャル成長させれば、以下において説明するように、線状表面欠陥および積層欠陥を抑制することが可能であることを見出した。
【0036】
炭化ケイ素基板20は、好ましくはオフ基板である。図2は、炭化ケイ素基板20の断面を模式的に示した図である。炭化ケイ素基板20は、オフ角θを有するオフ基板であることが好ましい。具体的には、第1面20a、あるいは、第1面20aの法線20nが、[000-1]方向から、[1120]方向にθ傾いていることが好ましい。オフ角θは、0.5°以上8°以下であることが好ましく、0.5°以上5°以下であることがより好ましい。
【0037】
炭化ケイ素基板20の第1面20aにおける特性を詳述する。第1面20aは、CMP(化学機械研磨)が施されていることが好ましい。具体的には、第1面20aの表面粗さRaが1nm以下になるまで、CMPによって研磨されていることが好ましい。より好ましくは第1面20aのRaは0.2nm以下である。Raは、例えば、白色干渉顕微鏡によって測定することができる。例えば、第1面20aを100μm長で3か所測定し、平均を求めることによって得られた値である。Raは理想的には0nmでもあり得るが、現実的にRaが0nmとなることはない。このため、Raの好ましい範囲の下限値は0よりも大きい。
【0038】
また、第1面20aにおけるBPD密度が3000個/cm以下(3000cm-2以下)であることが好ましく、2000cm-2以下であることがより好ましく、1000cm-2以下であることがさらに好ましい。BPD密度は、例えば、第1面20aを溶融KOHによってエッチングし、エッチピットとして現れたBPDの数を光学顕微鏡により測定することができる。Raと同様、BPD密度の好ましい範囲の下限は0個cm-2より大きい。
【0039】
炭化ケイ素エピタキシャル層30は、炭化ケイ素基板20の第1面20aにエピタキシャル成長によって形成される。炭化ケイ素エピタキシャル層30の厚さは、炭化ケイ素エピタキシャル基板10を用いて作製される半導体デバイスに求められる性能に応じて任意に設定し得る。例えば、炭化ケイ素エピタキシャル層30の厚さは、1μm以上100μm以下程度である。
【0040】
炭化ケイ素エピタキシャル層30の上面30aにおいて、線状表面欠陥密度が1.0cm-2未満であることが好ましい。線状表面欠陥密度は、0.5cm-2未満であることがより好ましく、0.35cm-2未満であることがさらに好ましく、0.1cm-2未満であることがさらに好ましい。また、炭化ケイ素エピタキシャル層30の上面30aにおいて、積層欠陥密度は1.2cm-2未満であることが好ましい。積層欠陥密度は1.0cm-2未満であることがより好ましく、0.35cm-2未満であることがさらに好ましく、0.1cm-2未満であることがさらに好ましい。Raと同様、線状表面欠陥密度および積層欠陥密度の好ましい範囲の下限は0cmより大きい。
【0041】
線状表面欠陥は、本実施形態では、炭化ケイ素エピタキシャル層30の上面30aをその垂直な方向から見た場合に、上面30aに対して凹凸を持っており、細長い線状形状を有している。線状表面欠陥の長手方向(伸びる方向)は、ステップフロー成長方向(オフ角の方向)と一致するもの、ステップフロー成長方向に対して±5°~60°程度傾いているもの、およびステップフロー成長方向に対してV字形状に2方向に伸びるものがある。線状表面欠陥は、本実施形態では、炭化ケイ素基板20の第1面20aの欠陥あるいは傷を起点としている。このため、線状表面欠陥の長手方向の長さLは、炭化ケイ素エピタキシャル層30の厚さdと炭化ケイ素基板20のオフ角θに依存し、L=d/tanθの関係がある。線状表面欠陥は、キャロット欠陥とも呼ばれる。
【0042】
線状表面欠陥密度は、例えば、微分干渉光学顕微画像を取得が可能なウエハ検査装置/レビュー装置によって測定することが可能である。このようなウエハ検査装置/レビュー装置は、取得した微分干渉光学顕微画像において、線状に表れる輝度変化の領域の位置や数を取得し、線状表面欠陥の密度を算出することが可能である。
【0043】
積層欠陥は、面状の欠陥であり、炭化ケイ素基板20の第1面20aの欠陥または傷を起点とするか、炭化ケイ素エピタキシャル層30の内部の欠陥を起点として、炭化ケイ素エピタキシャル層30の上面30aに向かって三角形状にひろがって伸び、上面30aに達している。積層欠陥の大部分は炭化ケイ素エピタキシャル層30内に位置している。積層欠陥密度は、例えば、355nmの励起光源と近紫外線フィルタを備え、フォトルミネッセンス画像を取得可能なウエハ検査装置/レビュー装置によって測定することが可能である。このようなウエハ検査装置/レビュー装置は、取得したフォトルミネッセンス画像において、三角形状の輝度変化の領域の位置や数を取得し、積層欠陥の密度を算出することが可能である。
【0044】
(炭化ケイ素エピタキシャル基板10の製造方法)
以下、本実施形態の炭化ケイ素エピタキシャル基板10の製造方法を説明する。まず、炭化ケイ素基板20を用意する。炭化ケイ素基板20は、上述した面方位およびオフ角の第1面20aを有している。また、第1面20aはCMPによって、表面粗さRaが1nm以下に調製されている。表面粗さRaの値は小さいほうが好ましい。このため、例えば市販の炭化ケイ素基板20を入手し、更に第1面20aにCMPを施してもよい。例えば、特許第6295969号に記載された方法を用いて第1面20aにCMPを施してもよい。また、さらに、CMPを施す工程に加えて、第1面20aをウエットエッチングする工程と、第1面20aをガスによって酸化する工程とを行ってもよく、これら3つの工程を適宜組み合わせて2回以上行ってもよい。
【0045】
次に、炭化ケイ素エピタキシャル層30を形成する。炭化ケイ素エピタキシャル層30をエピタキシャル成長させることができる装置であれば、形成方法は問わない。直径の大きい炭化ケイ素基板20に均一な特性の炭化ケイ素エピタキシャル層30を形成し得るという観点では、化学気相成長法を用いたCVD装置を利用して炭化ケイ素エピタキシャル層30を形成することが好ましい。
【0046】
例えば、CVD装置の成長室内に炭化ケイ素基板20を導入し、(000-1)C面である第1面20aを上にしてホルダに配置する。炭化ケイ素基板20を1500℃以上1800℃以下の温度に加熱し、成長室内にキャリアガス、炭素源となるガスおよびケイ素源となるガス、およびドーパントとなるガスを導入し、炭化ケイ素エピタキシャル層30を成長させる。例えば、キャリアガスには、水素(H)などを用いることができる。原料ガス中の炭素源となるガスには、プロパン(C)などを用いることができる。また、原料ガス中のケイ素源となるガスには、シラン(SiH)などを用いることができる。ドーパントとなるガスには、窒素(N)などを用いることができる。炭化ケイ素エピタキシャル層30を成長させる前に、キャリアガスだけを成長室内に導入し、炭化ケイ素基板20の第1面20aのクリーニングを行ってもよい。
【0047】
導入する炭素源となるガス中の炭素のケイ素源となるガス中のケイ素に対する割合C/Siは、1以上であることが好ましい。具体的には、C/Siは1以上1.6以下であることが好ましい。後述するようにC/Siが1.6を超えると、成長する炭化ケイ素エピタキシャル層30の第1面20aにおける線状表面欠陥密度が増大する。また、非特許文献「化学気相法によるSiC高速エピタキシャル成長技術の現状(J.Vac.Soc.Jpn.,Vol.54,No.6,2011)」に記載されているように、C/Siが1未満になり、シラン(SiH4)が過剰に供給された状態になると、エピタキシャル成長過程でエピタキシャル層の表面にSiが凝集したSi液滴が生じる。Si液滴起因の欠陥が生じるため好ましくない。
【0048】
炭化ケイ素エピタキシャル層30の成長中の成長室内の圧力は、10kPa以上50kPa以下であることが好ましい。
【0049】
以下の実施例において詳細に説明するように、本実施形態の炭化ケイ素エピタキシャル基板10の製造方法によれば、炭化ケイ素基板20の(000-1)C面に炭化ケイ素エピタキシャル層30を成長させることによって、炭化ケイ素基板20の第1面20aにおける線状表面欠陥、積層欠陥または傷を起点として、炭化ケイ素エピタキシャル層30中に線状表面欠陥および積層欠陥が生成するのを抑制することができる。特に、積層欠陥密度を低減させることができる。また、炭化ケイ素エピタキシャル層30の成長時に、原料ガス中のC/Siを1以上1.6以下に設定することによって、炭化ケイ素エピタキシャル層30中の特に線状表面欠陥密度を低減させることができる。C/Siは1.5以下であることがより好ましく、1.4以下であることがさらに好ましく、1.3以下であることがさらに好ましい。さらに、(000-1)C面である第1面20aにCMPを施しておき、第1面20aの表面粗さRaを1nm以下にしておくことによって、線状表面欠陥および積層欠陥の炭化ケイ素基板20から炭化ケイ素エピタキシャル層30への伝播を抑制することができる。
【0050】
(実施例)
<試料の作製>
以下、本実施形態の炭化ケイ素エピタキシャル基板の製造方法を用いて炭化ケイ素エピタキシャル基板10を作製し、線状表面欠陥密度および積層欠陥密度を測定した結果を説明する。
【0051】
(実施例1~6)
第1面20aが(000-1)C面であり、オフ角θが4°である直径150mmの炭化ケイ素基板20を用意した。第1面20aに、表面粗さRaが1nm以下になるまでCMPを施した。CMPは、コロイダルシリカを主成分として酸化剤を添加したスラリーと研磨パッドを用いて行った。その後、炭化ケイ素基板20の第1面20aに炭化ケイ素エピタキシャル層30を成長させた。成長温度は1600℃に設定し、成長速度は40μm/hとして、成長時の成長室内の圧力は30kPaに設定した。表1に示すように、原料ガス中のC/Siを1.25または1.4に設定した。キャリアガスには、水素を用い、原料ガスとしてプロパンおよびシランを用いた。また、ドーパント源として窒素を用いた。実施例1~6はそれぞれ1枚の炭化ケイ素基板20を用いて作製した。
【0052】
(参考例1~3)
原料ガス中のC/Siを1.7に設定し、他の条件は実施例1~6と同じにして参考例1の炭化ケイ素エピタキシャル基板を作製した。
【0053】
第1面にCMPを施さなかった表面粗さRaが10nm程度の炭化ケイ素基板を用意し、他の条件は実施例3~5と同じにして参考例2の炭化ケイ素エピタキシャル基板を作製した。
【0054】
第1面が(0001)Si面である炭化ケイ素基板を用意し、他の条件は実施例3~5と同じにして参考例3の炭化ケイ素エピタキシャル基板を作製した。
【0055】
参考例1、2は、それぞれ1枚の炭化ケイ素基板を用いて作製し、参考例3は、種々のグレードの33枚の炭化ケイ素基板を用いて作製した。
【0056】
<測定>
炭化ケイ素基板の第1面の基底面転位密度は、基板メーカが開示する数値を参考にした。作製した炭化ケイ素エピタキシャル基板の炭化ケイ素エピタキシャル層の上面における線状表面欠陥密度を測定した。測定に用いた装置、測定条件は以下の通りである。測定は基板の外周から3mm内側までの領域を除外して行った。
測定装置名:レーザテック株式会社製 SICA88
測定条件:光源波長532nmによる光学検査
【0057】
取得した微分干渉光学顕微画像を、装置に付属する画像解析ソフトウエアを用いて解析した。線状表面欠陥は表面に対して凹凸を有するため、平坦である正常な結晶部に比べて画像上で輝度が異なって現れる。図7に線状表面欠陥の微分干渉光学顕微画像の一例を示す。ステップフロー成長方向に平行な線状表面欠陥、ステップフロー成長方向に対して傾いて伸びる線状表面欠陥、および、ステップフロー成長方向に対して開くようにして伸びるV字状の線状表面欠陥の合計数を線状表面欠陥の発生数とした。
【0058】
作製した炭化ケイ素エピタキシャル基板の炭化ケイ素エピタキシャル層の上面における積層欠陥密度を測定した。測定に用いた装置、測定条件は以下の通りである。測定は基板の外周から3mm内側までの領域を除外して行った。
測定装置名:KLA TENCOR社製 Candela CS920
測定条件:励起光波長355nmによるフォトルミネッセンス(PL)検査。フィルタには近紫外線および可視光線フィルタを用いた。
【0059】
図8に積層欠陥の近紫外線フィルタによるPL画像を示す。図9に積層欠陥の可視光線フィルタによるPL画像を示す。
【0060】
<結果および考察>
ここでは、炭化ケイ素基板の結晶品質グレードの一指標として、炭化ケイ素基板の第1面の基底面転位密度を用いた。表1に、実施例1~6および参考例1~3の炭化ケイ素基板の第1面の基底面転位密度と、炭化ケイ素エピタキシャル層の上面における線状表面欠陥密度および積層欠陥密度とを示す。また、図3に、これらの試料の基底面転位密度と線状表面欠陥密度との関係を示す。図4に、これらの試料の基底面転位密度と積層欠陥密度との関係を示す。図5に、これらの試料の基底面転位密度と基底面転位密度に対する線状表面欠陥密度の割合との関係を示す。図6に、これらの試料の基底面転位密度と基底面転位密度に対する積層欠陥密度の割合との関係を示す。
【0061】
【表1】
【0062】
実施例1~6および参考例1と参考例3との比較から、(000-1)C面に形成された炭化ケイ素エピタキシャル層の上面における積層欠陥密度および線状表面欠陥密度は、(0001)Si面に形成された炭化ケイ素エピタキシャル層の上面における積層欠陥密度および線状表面欠陥密度に比べて大幅に小さくなっていることが分かる。特に、積層欠陥密度は、実施例1~6では1.2cm-2未満に抑制されており、炭化ケイ素基板の第1面の基底面転位が炭化ケイ素エピタキシャル層へ伝播し積層欠陥となることが効果的に抑制されていることが分かる。実施例1、4、6では、線状欠陥密度が0.16cm-2以下に抑えられている。また、実施例1、3、4、6では、積層欠陥密度が0.24cm-2以下に抑えられている。発明者の検討によると、特許第6295969号に記載されたCMPと、酸化・エッチングを加えた研磨手法とを施すこと、且つ基板の基底面転位密度500cm-2以下の炭化ケイ素基板を用いることにより、線状欠陥密度を0.1cm-2未満にすることが可能であることがわかった。また、特許第6295969号に記載されたCMPと、酸化・エッチングを加えた研磨手法とを施すこと、且つ基板の基底面転位密度500cm-2以下の炭化ケイ素基板を用いることにより、積層欠陥密度を0.1cm-2未満にすることが可能であることがわかった。図6から、この欠陥抑制効果は、炭化ケイ素基板の第1面の基底面転位密度によらず概ね一定であることが分かる。具体的には、少なくとも、炭化ケイ素基板の第1面の基底面転位密度が3000cm-2以下の範囲において、炭化ケイ素基板の第1面における基底面転位密度に対する積層欠陥密度の割合が0.05%未満である。
【0063】
また、実施例1~6と、参考例1との比較から、原料ガス中のC/Siを1以上1.6以下の範囲に設定することによって、線状表面欠陥密度を1.0cm-2未満に抑制することができることが分かる。逆に原料ガス中のC/Siが1.6よりも大きいと、形成した炭化ケイ素エピタキシャル層の上面における線状表面欠陥密度が顕著に大きくなることが分かる。参考例1の試料の線状表面欠陥密度は、12を超えているため、図3には示されていない。
【0064】
図5から、炭化ケイ素基板の第1面の基底面転位密度が3000cm-2以下の範囲において、炭化ケイ素基板の第1面における基底面転位密度に対する線状表面欠陥密度の割合が0.04%未満である。
【0065】
つまり、これらの結果から、(000-1)C面に炭化ケイ素エピタキシャル層を形成し、原料ガス中のC/Siを1以上1.6以下にすることによって、炭化ケイ素基板の基底面転位の影響を効果的に抑制し、炭化ケイ素エピタキシャル層の上面における線状表面欠陥および積層欠陥を低減できることが分かる。
【0066】
さらに、実施例1~6と、参考例2との比較から、炭化ケイ素エピタキシャル層の上面における線状表面欠陥および積層欠陥を低減するには、炭化ケイ素基板の第1面をCMPによって平滑化すること、あるいは、CMPによって機械研磨等による加工変質層の除去が重要であることが分かる。
【0067】
なお、特許第4539140号は、炭化ケイ素エピタキシャル層の成長に炭化ケイ素基板の(000-1)C面を用いることによって、1°未満の低オフ角の炭化ケイ素基板に炭化ケイ素半導体層をエピタキシャル成長させることができること、および、低オフ角の基板を用いることによって、ステップバンチングの発生を低減できることを開示している。しかし、この特許文献によれば、得られる炭化ケイ素エピタキシャル層の表面欠陥密度は100cm-2であり、上述した実施例1~6および参考例1~3の試料における線状表面欠陥密度および積層欠陥密度と比較してもかなり大きな値である。
【0068】
また、例えば、非特許文献「4H-SiC{0001}近傍面へのホモエピタキシャル成長(「材料」(J.Soc.Mat.Sci.,Japan),Vol.53,No.12,pp.1323-1327,Dec.2004)」には、(000-1)C近傍面へのホモエピタキシャル成長膜における表面欠陥に関する記述がある。この非特許文献は、エピタキシャル成長前に熱酸化膜形成を施すことにより、表面欠陥密度が低減したと報告しているが、その密度に関して具体的な数値は示されていない。Fig.4「(000-1)C近傍面へのホモエピタキシャル成長膜の表面観察画像」から表面欠陥密度を概算すると、100cm-2程度(6mm中に表面欠陥6個)である。
【0069】
これらのことから、本実施形態の炭化ケイ素エピタキシャル基板10の製造方法によって作製された炭化ケイ素エピタキシャル基板では、従来に比べて、炭化ケイ素エピタキシャル層の上面における線状表面欠陥密度および積層欠陥密度がかなり小さくなっており、高品位な炭化ケイ素エピタキシャル層を備えた炭化ケイ素エピタキシャル基板が実現し得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本開示の炭化ケイ素エピタキシャル基板は、種々の用途に使用可能な高品質な炭化ケイ素エピタキシャル基板であり、特にパワーデバイスなどの半導体デバイスの製造に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0071】
10 炭化ケイ素エピタキシャル基板
20 炭化ケイ素基板
20a 第1面
20b 第2面
20n 法線
30 炭化ケイ素エピタキシャル層
30a 上面


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9