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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138111
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】焼結体、粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/486 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C04B35/486
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024121189
(22)【出願日】2024-07-26
(62)【分割の表示】P 2020068126の分割
【原出願日】2020-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2019084550
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019142437
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019211944
(32)【優先日】2019-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松井 光二
(72)【発明者】
【氏名】細井 浩平
(57)【要約】
【課題】
常圧焼結によって得られるジルコニア焼結体であって、SEPB法により測定される破壊靭性値が高いジルコニア焼結体を得るための原料、当該原料から得られる焼結体、及びこれらの製造方法の少なくともいずれかを提供する。
【解決手段】
安定化剤を含有するジルコニアを含み、単斜晶率が0.5%以上であることを特徴とする焼結体。このような焼結体は、安定化剤を含有し、単斜晶率が70%を超えるジルコニアを含み、単斜晶ジルコニアの結晶子径が23nmを超え80nm以下であることを特徴とする粉末を使用することを特徴とする製造方法により得られることが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリア、カルシア、マグネシア及びセリアの群から選ばれる1種以上の安定化剤を含有するジルコニアを含み、前記安定化剤の含有量が1.0mol%以上1.8mol%以下、ジルコニアの結晶相に占める、単斜晶ジルコニアの(111)面に相当するXRDピークの面積強度に対する、単斜晶ジルコニアの(11-1)面に相当するXRDピークの面積強度の比が0以上、単斜晶率が0.5%以上、相対密度が99%以上100%以下、平均結晶粒径が0.1μm以上0.8μm以下であることを特徴とする焼結体。
【請求項2】
単斜晶率が5.7%以上である請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
前記安定化剤が、イットリアである請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項4】
前記安定化剤の含有量が1.5mol%以上1.8mol%以下である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の焼結体。
【請求項5】
JIS R1607で規定されたSEPB法に準じた方法で測定される破壊靭性値が6MPa・m0.5以上11MPa・m0.5以下である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の焼結体。
【請求項6】
アルミナ、ゲルマニア及びシリカの群から選ばれる1以上の添加成分を含む請求項1乃至5のいずれか一項に記載の焼結体。
【請求項7】
前記添加成分がアルミナである請求項6に記載の焼結体。
【請求項8】
前記ジルコニアが、単斜晶ジルコニアと、正方晶ジルコニア及び立方晶ジルコニアの少なくともいずれかと、を含む請求項1乃至7のいずれか一項に記載の焼結体。
【請求項9】
140℃の熱水中で6時間浸漬処理前の正方晶率に対する、140℃の熱水中で6時間浸漬処理後の正方晶率の割合が15%以上である請求項1乃至8のいずれか一項に記載の焼結体。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の焼結体を含む部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ジルコニアを主相とする焼結体、その原料となる粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニア焼結体は、粉砕媒体や構造材料など強度を必要とする従来用途に加え、時計、携帯電子機器、自動車、家電等の装飾部品などの装飾用途への適用が検討されている。装飾用途へ適用される焼結体は脆さを低減すること、すなわち破壊靭性値を高くすること、が求められる。
【0003】
これまで、破壊靭性値の改善を目的とて種々のジルコニア焼結体が報告されている。例えば、特許文献1には、中和共沈法で製造された市販の3mol%イットリア含有ジルコニア粉末と、市販のアルミナ粉末と混合した混合粉末とし、当該混合粉末をマイクロ波焼結することで得られたジルコニア-アルミナ複合焼結体が報告されている。当該複合焼結体のIF法により測定される破壊靭性値(KIC)が6.02~6.90MPa・m1/2であることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、リン、二酸化ケイ素、アルミナを含むジルコニア粉末を熱間静水圧プレス(HIP)処理することで得られたたジルコニア焼結体が報告されている。当該焼結体は、JIS R 1607に規定される方法で測定された破壊靭性値が6~11MPa・m1/2であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-226555号公報
【特許文献2】特開2011-178610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2で開示されたジルコニア焼結体は、マイクロ波焼結やHIP処理等の特別な焼結方法を適用することにより作製する必要があるため、工業的な適用が困難である。ところで、装飾部品への適用に際しては、信頼度の高い破壊靭性値での焼結体の脆さが評価することも求められている。これに対し、破壊靭性の測定方法は標準化されているものでも複数の方法が存在し、測定方法毎で得られる値が大きく異なる。特許文献1の破壊靭性値は簡易的な方法で測定された値であり、また、特許文献2の破壊靭性値は測定方法自体が不明確であり、いずれも開示された値は信頼性が低い。
【0007】
本開示では、常圧焼結によって得られるジルコニア焼結体であって、SEPB法により測定される破壊靭性値が高いジルコニア焼結体を得るための原料、当該原料から得られる焼結体、及びこれらの製造方法の少なくともいずれかを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の要旨は以下のとおりである。
[1] 安定化剤を含有するジルコニアを含み、単斜晶率が0.5%以上であることを特徴とする焼結体。
[2] 単斜晶ジルコニアの(111)面に相当するXRDピークの面積強度に対する、単斜晶ジルコニアの(11-1)面に相当するXRDピークの面積強度の比が0以上である上記[1]に記載の焼結体。
[3] 前記安定化剤が、イットリア、カルシア、マグネシア及びセリアの群から選ばれる1種以上である上記[1]又は[2]に記載の焼結体。
[4] 前記安定化剤の含有量が1.0mol%以上2.5mol%未満である上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[5] JIS R1607で規定されたSEPB法に準じた方法で測定される破壊靭性値が6MPa・m0.5以上11MPa・m0.5以下である上記[1]乃至[4]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[6] アルミナ、ゲルマニア及びシリカの群から選ばれる1以上の添加成分を含む上記[1]乃至[5]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[7] 前記添加成分がアルミナである上記[1]乃至[6]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[8] 前記ジルコニアが、単斜晶ジルコニアと、正方晶ジルコニア及び立方晶ジルコニアの少なくともいずれかと、を含む上記[1]乃至[7]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[9] 140℃の熱水中で6時間浸漬処理前の正方晶率に対する、140℃の熱水中で6時間浸漬処理後の正方晶率の割合が15%以上である上記[1]乃至[8]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[10] 安定化剤を含有し、単斜晶率が70%を超えるジルコニアを含み、単斜晶ジルコニアの結晶子径が23nmを超え80nm以下であることを特徴とする粉末を使用することを特徴とする上記[1]乃至[9]のいずれかひとつに記載の焼結体の製造方法。
[11] 安定化剤を含有し、単斜晶率が70%を超えるジルコニアを含み、単斜晶ジルコニアの結晶子径が23nmを超え80nm以下であることを特徴とする粉末。
[12] 前記ジルコニアの結晶相が、単斜晶ジルコニア及び正方晶ジルコニアを含む上記[11]に記載の粉末。
[13] 前記安定化剤が、イットリア、カルシア、マグネシア及びセリアの群から選ばれる1種以上である上記[11]又は[12]に記載の粉末。
[14] 前記安定化剤の含有量が1.0mol%以上2.5mol%未満である上記[11]乃至[13]のいずれかひとつに記載の粉末。
[15] アルミナ、ゲルマニア及びシリカの群から選ばれる1以上の添加成分を含む上記[11]乃至[14]のいずれかひとつに記載の粉末。
[16] 前記添加成分の含有量が0.1質量%以上30質量%以下である上記[15]に記載の粉末。
[17] BET比表面積が6m/g以上20m/g未満である上記[11]乃至[16]のいずれかひとつに記載の粉末。
[18] メジアン径が0.05μm以上0.3μm以下である上記[11]乃至[17]のいずれかひとつに記載の粉末。
[19] 上記[1]乃至[9]のいずれかひとつに記載の焼結体を含む部材。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、常圧焼結によって得られるジルコニア焼結体であって、SEPB法により測定される破壊靭性値が高いジルコニア焼結体を得るための原料、当該原料から得られる焼結体、及びこれらの製造方法の少なくともいずれかを提供するができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示について、実施形態の一例を示して説明する。
【0011】
本実施形態における各用語は以下の通りである。
【0012】
「単斜晶率」及び「正方晶率」は、それぞれ、ジルコニアの結晶相に占める、単斜晶ジルコニア及び正方晶ジルコニアの割合である。また、「単斜晶強度比」は、ジルコニアの結晶相に占める、単斜晶ジルコニアの(111)面に相当するXRDピークの面積強度に対する、単斜晶ジルコニアの(11-1)面に相当するXRDピークの面積強度の比である。
【0013】
粉末については、粉末の粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)パターンを使用し、一方、焼結体については、鏡面研磨後の焼結体の表面のXRDパターンを使用し、単斜晶率は以下の式(1)から、正方晶率は以下の式(2)から、及び、単斜晶強度比は以下の式(3)から、それぞれ、求めることができる。
【0014】
={I(111)+I(11-1)}/[I(111)
+I(11-1)+I(111)+I(111)]×100 (1)
=I(111)/[I(111)+I(11-1)
+I(111)+I(111)]×100 (2)
(11-1)/(111)={I(11-1) / I(111)} (3
【0015】
式(1)乃至(3)において、fは単斜晶率(%)、fは正方晶率(%)、M(11-1)/(111)は単斜晶強度比、I(111)及びI(11-1)は、それぞれ、単斜晶ジルコニアの(111)面及び(11-1)面に相当するXRDピークの面積強度、I(111)は正方晶ジルコニアの(111)面に相当するXRDピークの面積強度、並びにI(111)は立方晶ジルコニアの(111)面に相当するXRDピークの面積強度である。
【0016】
XRDパターンの測定の条件として、以下の条件を挙げることができる。
【0017】
線源 : CuKα線(λ=0.15418nm)
測定モード : 連続スキャン
スキャンスピード : 4°/分
ステップ幅 : 0.02°
測定範囲 : 2θ=26°~33°
【0018】
上述のXRDパターン測定において、好ましくは、ジルコニアの各結晶面に相当するXRDピークは、以下の2θにピークトップを有するピークとして測定される。
【0019】
単斜晶ジルコニアの(111)面に相当するXRDピーク : 2θ=31±0.5°
単斜晶ジルコニアの(11-1)面に相当するXRDピーク: 2θ=28±0.5°
正方晶ジルコニア及び立方晶ジルコニアの(111)面に相当するRDピークは重複して測定され、そのピークトップの2θは、2θ=30±0.5°である。
【0020】
各結晶面のXRDピークの面積強度は、計算プログラムに“PRO-FIT”を使用し、H. Toraya,J. Appl. Crystallogr.,19,440-447(1986)に記載の方法で、各XRDピークを分離した上で求めることができる。
【0021】
また、上述のXRD測定に供する表面研磨後の焼結体は、平面研削盤を使用して焼結後の表面を削った後、研磨布紙による自動研磨、平均粒径3μmのダイヤモンドスラリーによる自動研磨、及び、0.03μmのコロイダルシリカによる自動研磨、の順で測定面の鏡面研磨処理が施された、表面粗さRaが0.04μm以下の状態の焼結体である。
【0022】
「単斜晶ジルコニアの結晶子径」(以下、「D」ともいう。)は、粉末のXRDパターンから以下の式(4)を使用して求まる値であり、「正方晶ジルコニアの結晶子径」(以下、「D」ともいう。)は、粉末のXRDパターンから、以下の式(5)を使用して求まる値である。
【0023】
=κλ/(βcosθ) (4)
=κλ/(βcosθ) (5)
【0024】
式(4)及び式(5)において、Dは単斜晶ジルコニアの結晶子径(nm)、Dは正方晶ジルコニアの結晶子径(nm)、κはシェラー定数(κ=1)、λはXRD測定に使用した光源の波長(nm)、βは粒度を25~90μmとした石英砂(和光純薬工業社製)を使用して機械的広がりを補正した後の半値幅(°)、θはXRD測定における単斜晶ジルコニアの(11-1)面に相当する反射のブラック角(°)、及びθはXRD測定における正方晶ジルコニアの(111)面に相当する反射のブラック角(°)である。XRD測定の光源にCuKα線を用いた場合、λは0.15418nmである。
【0025】
「BET比表面積」は、JIS R 1626-1996に準じ、吸着物質を窒素(N)としたBET法1点法により求められる値である。
【0026】
「体積分布による粒子径」とは、レーザー回折法による体積粒子径分布測定で得られる粉末の粒子径である。レーザー回折法により得られる粒子径は非球状近似された径である。体積粒子径分布測定の条件として以下の条件が挙げられる。
【0027】
測定試料 : 粉末スラリー
ジルコニアの屈折率 : 2.17
溶媒(水)の屈折率 : 1.333
測定時間 : 30秒
前処理 : 超音波分散処理
【0028】
「メジアン径」とは、レーザー回折法による体積粒子径分布測定で得られる累積体積粒子径分布曲線の体積割合が50%に相当する粒子径である。
【0029】
「粒子径分布曲線」とは、レーザー回折法による体積粒子径分布測定で得られる粉末の粒子径分布を示す曲線である。
【0030】
「破壊靭性値」は、JIS R 1607で規定されるSEPB法に準じた方法によって測定される破壊靭性の値(MPa・m0.5)である。破壊靭性値の測定は、支点間距離30mmで、幅4mm、厚さ3mmの柱形状の焼結体試料を使用して行い、10回測定した平均値をもって本実施形態の焼結体の破壊靭性値とすればよい。なお、JIS R 1607では、IF法及びSEPB法の二通りの破壊靭性の測定が規定されている。IF法は、SEPB法と比べて測定される値が大きくなる傾向がある。さらにIF法は簡易的な測定方法であるため測定毎の測定値のバラツキが大きい。そのため、本実施形態における破壊靭性値と、IF法で測定された破壊靭性値とは、値の絶対値の比較はできない。同様に、SEPB法以外で測定された破壊靭性値と、SEPB法で測定された破壊靭性値とは、その値の絶対値の比較はできない。
【0031】
「曲げ強度」とは、JIS R 1601に準じた三点曲げ試験により求められる三点曲げ強度の値である。曲げ強度の測定は、支点間距離30mmで、幅4mm、厚さ3mmの柱形状の焼結体試料を使用して行い、10回測定した平均値をもって本実施形態の焼結体の曲げ強度とすればよい。
【0032】
「全光線透過率」とは、試料厚み1.0mmにおける600nm波長の光に対する全光線透過率であり、JIS K 7361に準じた方法で測定することができる。波長600nmの光を入射光とし、当該入射光に対する拡散透過率と直線透過率を合計した透過率の値として求めることができる。厚み1mm及び、両面(測定面及び測定面の反対面)の表面粗さ(Ra)≦0.02μmのサンプルを測定試料とし、一般的な分光光度計(例えば、V-650、日本分光社製)を使用して波長600nmの光を当該試料に照射し、積分球により透過光を集光することで試料の透過率(拡散透過率及び直線透過率)が測定され、これを全光線透過率とすればよい。
【0033】
「直線透過率」とは、試料厚み0.05mm以上0.2mm以下、好ましくは0.05mm以上0.15mm以下、特に0.09mm、における600nm波長の光に対する全光線透過率であり、JIS K 7361に準じた方法で測定することができる。波長600nmの光を入射光とし、当該入射光に対する直線透過率の値として求めることができる。厚み1mm及び、両面(測定面及び測定面の反対面)の表面粗さ(Ra)≦0.02μmのサンプルを測定試料とし、一般的な分光光度計(例えば、V-650、日本分光社製)を使用して波長600nmの光を当該試料に照射し、積分球により透過光を集光することで試料の直線透過率を測定すればよい。
【0034】
「相対密度」とは、理論密度に対する実測密度の割合(%)である。成形体の実測密度は質量測定で測定される質量に対する寸法測定から求められる体積の割合(g/cm)であり、焼結体の実測密度は質量測定で測定される質量に対する、アルキメデス法で測定される体積の割合(g/cm)であり、及び理論密度は以下の式(6)~(9)から求められる密度(g/cm)である。
【0035】
A=0.5080+0.06980X/(100+X) (6)
C=0.5195-0.06180X/(100+X) (7)
ρ=[124.25(100-X)+225.81X]
/[150.5(100+X)AC] (8)
ρ=100/[(Y/3.987)+(Y/3.637)+(Y/2.2)
+(100-Y-Y-Y)/ρ] (9)
【0036】
式(6)~(9)において、ρは理論密度、ρはジルコニアの理論密度、A及びCは定数、Xはジルコニア(ZrO)及びイットリア(Y)の合計に対するイットリアのモル割合(mol%)、並びに、Y、Y及びYは成形体又は焼結体のジルコニア、イットリア、アルミナ、ゲルマニア及びシリカを、それぞれ、ZrO、Y、Al、GeO及びSiO換算した合計に対するAl換算したアルミナ、GeO換算したゲルマニア及びSiO換算したシリカの質量割合(質量%)である。
【0037】
以下、本実施形態の焼結体について説明する。
【0038】
本実施形態は、安定化剤を含有するジルコニアを含み、単斜晶率が0.5%以上であることを特徴とする焼結体、である。
【0039】
本実施形態の焼結体は、安定化剤を含有するジルコニアを含む焼結体であり、安定化剤を含有するジルコニアを主相とする焼結体、いわゆるジルコニア焼結体、である。
【0040】
安定化剤は、ジルコニアを安定化する機能を有するものであり、カルシア(CaO)、マグネシア(MgO)、セリア(CeO)及びイットリア(Y)の群から選ばれる1種以上が挙げられ、セリア及びイットリアの少なくともいずれかであることが好ましく、イットリアであることがより好ましい。本実施形態の焼結体において、安定化剤の含有量はジルコニアが部分安定化される含有量であればよい。安定化剤の含有量として、例えば、安定化剤がイットリアの場合、焼結体中のジルコニア(ZrO)及びイットリア(Y)の合計に対するイットリアのモル割合(={Y/(ZrO+Y)}×100[mol%];以下、「イットリア含有量」ともいう。)として、1.0mol%以上2.5mol%以下、更には1.1mol%以上2.2mol%以下、また更には1.1mol%以上2.0mol%以下であることが例示でき、1.2mol%以上2.0mol%未満であることが好ましく、1.2mol%以上1.8mol%以下であることがより好ましい。この範囲の安定化剤含有量であることで、SEPB法で測定される破壊靭性値が高くなりやすい。イットリア含有量は1.4mol%以上2.1mol%以下、更には1.5mol%以上1.8mol%以下であることが好ましい。
【0041】
安定化剤はジルコニアに固溶していることが好ましく、本実施形態の焼結体は、未固溶の安定化剤を含まないこと、安定化剤が全てジルコニアに固溶していることが好ましく、本実施形態の焼結体のXRDパターンにおいて安定化剤のXRDピークを有さないことがより好ましい。本実施形態において、ジルコニアのXRDピークとは別のXRDピークとして、安定化剤のXRDピークが確認できる場合に未固溶の安定化剤を含むとみなすことができる。
【0042】
本実施形態の焼結体は、アルミナ(Al)、ゲルマニア(GeO)及びシリカ(SiO)の群から選ばれる1以上の添加成分を含んでいてもよい。添加成分は、アルミナ及びゲルマニアの少なくともいずれかであることが好ましく、アルミナであることがより好ましい。添加成分を含むことで、ジルコニアの安定化剤の含有量が少ない場合であっても結晶粒間の粒界強度が高くなりやすい。添加成分を含む場合、本実施形態の焼結体は、添加成分を含み、残部が安定化剤を含有するジルコニアである焼結体、となる。添加成分の含有量は、焼結体のジルコニア、イットリア及び添加成分の合計質量に対する添加成分の質量割合である。例えば、添加成分としてアルミナを含み、残部がイットリアを含有するジルコニアである焼結体、{Al/(ZrO+Y+Al)}
×100[質量%])として求められる。添加成分の含有量は、0.05質量%以上30質量%以下であることが挙げられ、0.1質量%を超え25質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。添加成分の含有量が0.02質量%以上0.3質量%以下であれば、機械的強度が高くなる傾向や、単斜晶ジルコニアへの変態が生じにくくなる傾向がある。
【0043】
本実施形態の焼結体は、不可避不純物以外は含まないことが好ましい。不可避不純物としてハフニア(HfO)が例示できる。
【0044】
本実施形態の焼結体は、単斜晶率が0.5%以上であり、好ましくは0.5%以上15%以下、より好ましくは0.8%以上12%以下である。破壊靭性が高くなる傾向があるため、単斜晶率は1%以上15%以下、2%以上14%以下、5%以上12%以下、7%以上11%以下、のいずれかであることが好ましい。一方、曲げ強度が高くなる傾向があるため、単斜晶率は0.5%以上5%以下であることが好ましく、0.8%以上3%以下であることがより好ましい。
【0045】
焼結直後の焼結体表面(as-sintered-surface;以下、「焼肌面」ともいう。)は粗く、凹凸等の破壊源を多く含む。焼結体が破壊されることを防ぐため、評価や各種用途への使用に先立ち、焼結体は、研削等の加工で焼肌面を取り除かれ、研磨し、鏡面状の表面(polished-surface;以下、「鏡面」ともいう。)が露出した状態とされる。鏡面は、平滑な表面であり、Ra≦0.04μmである表面であること、が例示できる。単斜晶率は、焼結体の鏡面における値である。部分安定化ジルコニアを主相とする従来の焼結体は、加工や研磨等の鏡面加工後、その結晶相は正方晶ジルコニア及び立方晶ジルコニアの少なくともいずれかからなり、単斜晶ジルコニアを実質的に含まないか、又は、単斜晶ジルコニアが少ない。さらに、機械的特性が低い焼結体は鏡面加工の際に破壊され、測定試料への加工がでず、単斜晶率の測定ができない焼結体でさえあり得る。これに対し、本実施形態の焼結体は、その鏡面において上述の単斜晶率を満足する単斜晶ジルコニアを有する。そのため、本実施形態の焼結体は、焼結体全体に単斜晶ジルコニアを有する焼結体であること、又は、単斜晶ジルコニアへの変態が生じやすい正方晶ジルコニアを含む焼結体であることが考えられる。
【0046】
本実施形態の焼結体において、ジルコニアは、単斜晶ジルコニアと、正方晶ジルコニア及び立方晶ジルコニアの少なくともいずれかと、を含み、単斜晶ジルコニア及び正方晶ジルコニアからなることが好ましい。
【0047】
本実施形態の焼結体に含まれる単斜晶ジルコニアは、そのXRDパターンにおいて、少なくとも単斜晶ジルコニア(111)面に相当するXRDピークを有する単斜晶ジルコニアである。劣化処理を施す前の状態で、このような単斜晶ジルコニアを含むことで、焼結体が高い破壊靭性値を示しやすくなることに加え、水熱劣化しにくくなる傾向がある。焼結体の劣化により単斜晶ジルコニアが生成する場合、XRDパターンにおける主に単斜晶ジルコニア(11-1)面に相当するXRDピークの強度が強くなる。これに対し、本実施形態の焼結体に含まれる単斜晶ジルコニアはそのXRDパターンにおいて、少なくとも単斜晶ジルコニア(111)面に相当するXRDピークを有することが好ましく、その単斜晶強度比が0以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.4以上であることが更に好ましく、0.5以上であることが更により好ましい。単斜晶強度比は、10以下、8以下、5以下、3以下、1.5以下のいずれかであることが好ましく、1.2以下、更には1.0以下が挙げられる。単斜晶強度比は式(3)から求められる。そのため、I(111)がゼロ、すなわち単斜晶ジルコニア(111)面に相当するXRDピークを有さない焼結体においては、単斜晶強度比が無限大となり、値を求めることができない。すなわち、本実施形態の焼結体は、単斜晶強度比が無限大の焼結体を含まないことが好ましい。
【0048】
本実施形態の焼結体のジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径は、焼結温度により異なるが、例えば、0.1μm以上0.8μm以下、0.15μm以上0.60μm以下、0.20μm以上0.55μm以下、0.25μm以上0.45μm、のいずれかであることが挙げられる。
【0049】
本実施形態の焼結体は、相対密度(以下、「焼結体密度」ともいう。)が98%以上100%以下であることが好ましく、98.4%以上100%以下であることがより好ましく99%以上100%以下であることが更に好ましい。
【0050】
さらに、本実施形態の焼結体は、常圧焼結で得られた状態の焼結体(いわゆる、常圧焼結体)であることが好ましく、大気雰囲気の常圧焼結で得られた状態の焼結体であることがより好ましい。また、常圧焼結以外の焼結処理が施されていない状態であることが好ましく、常圧焼結後の焼結処理が施されていない状態であることがより好ましい。常圧焼結以外の焼結処理として、加圧焼結、真空焼結及びマイクロ波焼結の群から選ばれる1以上が例示できる。
【0051】
本実施形態の焼結体は、破壊靭性値(JIS R1607で規定されたSEPB法に準じた方法で測定される破壊靭性値)が6MPa・m0.5以上11MPa・m0.5以下であることが例示でき、好ましくは6.2MPa・m0.5以上、より好ましくは7MPa・m0.5以上、更に好ましくは8MPa・m0.5以上である。破壊靭性値は高いことが好ましいが、例えば、11MPa・m0.5以下、更には10.5MPa・m0.5以下、また更には9.5MPa・m0.5以下、また更には9MPa・m0.5以下、また更には8.5MPa・m0.5以下であることが挙げられる。このような破壊靭性値を有することで、例えば、焼結体厚み1mm以下、更には焼結体厚み0.5mm以下の焼結体への加工が容易になりやすい。これにより本実施形態の焼結体は、例えば、焼結体厚み0.05mm以上0.3mm以下の焼結体、焼結体更には0.08mm以上0.25mm以下の焼結体とできる場合もある。
【0052】
本実施形態の焼結体は、曲げ強度が1000MPa以上1550MPa以下、更には1100MPa以上1500MPa以下であることが例示でき、1100MPa以上1460MPa以下であることが好ましく、1200MPa以上1400MPa以下であることがより好ましい。
【0053】
本実施形態の焼結体は、全光線透過率が20%以上50%以下、更には25%以上45%以下、更には30%以上40%以下であることが好ましい。特に、添加成分が0質量%を超え25質量%以下、更には0.2質量%以上5質量%以下、また更には0.23質量%以上3質量%以下である場合に、全光線透過率が20%以上45%以下、更には25%以上40%以下であることが好ましい。
【0054】
本実施形態の焼結体は、直線透過率が1%以上20%以下、1%以上15%以下、1%以上10%以下、のいずれかであることが例示できる。直線透過率は、試料厚み0.05mm以上0.2mm以下、好ましくは0.05mm以上0.15mm以下、特に0.09mmの焼結体において測定される値である。本実施形態における直線透過率は、このような試料厚みにおける測定値であり、試料厚み0.5mm以上の焼結体等、より厚い試料厚みの焼結体で測定された直線透過率から得られる推測値や計算値とは異なる。
【0055】
本実施形態の焼結体は、試料厚み0.09mmにおける直線透過率が1%以上10%以下、1.5%以上8%以下、2%以上7.5%以下、2.5%以上7.3%以下のいずれかであることが特に好ましい。
【0056】
本実施形態の焼結体に含まれる正方晶ジルコニアは水熱処理による単斜晶ジルコニアへの変態(以下、「水熱劣化」ともいう。)が生じにくいことが好ましく、140℃の熱水中で6時間浸漬処理前の正方晶率に対する、140℃の熱水中で6時間浸漬処理後の正方晶率の割合(以下、「残存正方晶率」又は「△T%」ともいう。)が15%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましい。140℃の熱水中で6時間浸漬処理により、正方晶ジルコニアが単斜晶ジルコニアへ変態しない場合、残存正方晶率は100%となるため、本実施形態の焼結体における残存正方晶率は100%以下であり、更には95%以下であることが挙げられる。
【0057】
添加成分の含有量が多くなるほど水熱劣化が抑制される傾向がある。本実施形態の焼結体において、添加成分の含有量が0質量%、すなわち添加成分を含まない場合、残存正方晶率は15%以上100%以下、好ましくは20%以上100%以下、より好ましくは50%以上80%以下であることが例示できる。本実施形態の焼結体が、添加成分を含み、添加成分の含有量が0質量%を超え5質量%未満の場合、残存正方晶率は65%以上100%以下、好ましくは70%以上90%以下であることが例示できる。本実施形態の焼結体が、添加成分を含み、添加成分の含有量が5質量%以上30質量%以下の場合、残存正方晶率は70%以上100%以下、好ましくは76%以上95%以下であることが例示できる。
【0058】
本実施形態の焼結体の形状は所望の形状であればよく、立方体状、直方体状、多角体上、板状、円板状、柱状、錐体状、球状、略球状その他の基本的形状に加え、各種用途に応じた部材の形状であればよい。
【0059】
本実施形態の焼結体の製造方法は任意であるが、原料として、安定化剤を含有し、単斜晶率が70%を超えるジルコニアを含み、単斜晶ジルコニアの結晶子径が23nmを超え80nm以下であることを特徴とする粉末、を使用する製造方法により、製造することが好ましい。このような粉末を成形した後、公知の方法で焼結すればよい。また、必要に応じて焼結前に仮焼及び加工の少なくともいずれかを施してもよい。
【0060】
成形は公知の方法、例えば、一軸プレス、冷間静水圧プレス、スリップキャスティング及び射出成形の群から選ばれる少なくとも1種、によって行えばよく、一軸プレス、冷間静水圧プレス及び射出成形の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0061】
仮焼は、粉末を焼結温度未満で熱処理すればよく、例えば、大気中、800℃以上1200℃未満で熱処理すればよい。
【0062】
焼結は、公知の方法、例えば加圧焼結、真空焼結及び常圧焼結の群から選ばれる1以上、が適用できる。簡便であり、工業的に適用しやすいため、焼結は常圧焼結であることが好ましく、大気中、1200℃以上1550℃以下、好ましくは1250℃以上1500℃以下の常圧焼結がより好ましく、大気中、1300℃以上1450℃以下の常圧焼結であることが更に好ましい。また、常圧焼結以外の焼結を施さないことが好ましい。
【0063】
本実施形態の焼結体は、これを含む部材として、公知のジルコニア焼結体の用途に使用することができる。本実施形態の焼結体は、粉砕機用部材,精密機械部品,光コネクター部品等の構造材料、歯科材等の生体材料、装飾部材及び電子機器外装部品等の外装材料に適している。
【0064】
以下、本実施形態の粉末について説明する。
【0065】
本実施形態は、安定化剤を含有し、単斜晶率が70%を超えるジルコニアを含み、単斜晶ジルコニアの結晶子径が23nmを超え80nm以下であることを特徴とする粉末、である。
【0066】
本実施形態の粉末は、安定化剤を含有し、単斜晶率が70%を超えるジルコニアを含む。すなわち、本実施形態の粉末は、主として単斜晶ジルコニアからなる安定化剤含有ジルコニア、を含む。ジルコニアが安定化剤を含有しない粉末の場合、これを焼結しても、破壊靭性を発現する要因となる正方晶ジルコニアを含む焼結体が得られ難い。本実施形態の粉末は、主としてジルコニアからなる、いわゆるジルコニア粉末である。
【0067】
安定化剤は、カルシア(CaO)、マグネシア(MgO)、セリア(CeO)及びイットリア(Y)の群から選ばれる1種以上が挙げられ、セリア及びイットリアの少なくともいずれかであることが好ましく、イットリアであることがより好ましい。安定化剤がイットリアの場合、粉末中のジルコニア(ZrO)及びイットリア(Y)の合計に対するイットリアのモル割合(イットリア含有量)として、1.0mol%以上2.5mol%以下、更には1.1mol%以上2.0mol%以下であることが例示でき、1.2mol%以上2.0mol%未満であることが好ましく、1.2mol%以上1.8mol%以下であることがより好ましい。
【0068】
安定化剤はジルコニアに固溶していることが好ましく、本実施形態の粉末は、未固溶の安定化剤を含まないことが好ましい。
【0069】
ジルコニアの主な結晶相として、単斜晶ジルコニア、正方晶ジルコニア及び立方晶ジルコニアが知られている。本実施形態の粉末におけるジルコニアは単斜晶ジルコニアを含み、単斜晶ジルコニアと、正方晶ジルコニア及び立方晶ジルコニアの少なくともいずれかを含むことが好ましく、単斜晶ジルコニア及び正方晶ジルコニアを含むことがより好ましい。
【0070】
ジルコニアの単斜晶率は70%を超え、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。単斜晶率は100%以下であり、ジルコニアが正方晶ジルコニア及び立方晶ジルコニアの少なくともいずれかを含む場合、単斜晶率は100%未満となる。また、正方晶率は30%以下、更には20%未満であり、15%以下であることが好ましく、10%以下、更には7%以下であってもよい。ジルコニアが正方晶ジルコニアを含まない場合、正方晶率は0%となり、正方晶率は0%以上であってもよい。
【0071】
単斜晶ジルコニアの結晶子径(D)は23nmを超え80nm以下であり、30nm以上60nm以下であることがより好ましく、35nm以上55nm以下であることが更に好ましい。別の実施形態において単斜晶ジルコニアの結晶粒径(D)は30nm以上50nm以下、更には35nm以上50nm以下であることが挙げられ、35nm以上45nm以下、更には36nm以上40nm以下であってもよい。
【0072】
本実施形態の粉末は、アルミナ(Al)、ゲルマニア(GeO)及びシリカ(SiO)の群から選ばれる1以上の添加成分を含んでいてもよい。添加成分は、アルミナ及びゲルマニアの少なくともいずれかであることが好ましく、アルミナであることがより好ましい。添加成分を含むことで、ジルコニアの安定化剤の含有量が少ない場合であっても、焼結時の割れなどの欠陥が生じにくく、焼結時の歩留まりが低下しにくくなる。添加成分の含有量は、粉末のジルコニア、イットリア及び添加成分の合計質量に対する添加成分の質量割合として、0.05質量%以上30質量%以下であることが挙げられ、好ましくは0.1質量%を超え25質量%以下、より好ましくは0.2質量%以上20質量%以下、更に好ましくは0.23質量%以上6質量%以下であることが挙げられる。
【0073】
本実施形態の粉末は、不純物を含まないことが好ましく、例えばリン(P)の含有量が、それぞれ、0.1質量%以下及び0.1質量%未満であることが例示できる。一方、ジルコニアのハフニア(HfO)等の不可避不純物を含んでいてもよい。
【0074】
本実施形態の粉末は、BET比表面積が6m/g以上20m/g未満であることが例示できる。BET比表面積が6m/g以上であることで、比較的低い温度から焼結が進行しやすくなる。また、20m/g未満であることで、粉末の物理的な凝集が抑制される傾向がある。これらの効果がより得られやすくなるため、BET比表面積は好ましくは8m/以上18m/g以下、より好ましくは10m/g以上17m/g以下、更に好ましくは10m/g以上15m/g以下、更により好ましくは10m/gを超え15m/g以下である。
【0075】
本実施形態の粉末は、メジアン径が0.05μm以上0.3μm以下であることが好ましく、0.1μm以上0.2μm以下であることが好ましい。
【0076】
本実施形態の粉末は、体積粒子径分布曲線がマルチモーダルの分布であることが例示でき、体積粒子径分布曲線が少なくとも粒子径0.05μm以上0.2μm以下及び粒子径0.2μmを超え0.5μm以下にピークを有する分布、更には粒子径0.05μm以上0.2μm以下及び粒子径0.3μm以上0.5μm以下にピーク(極値)を有する分布であることが好ましい。体積粒子径分布曲線が、例えばバイモーダルの分布など、マルチモーダルの分布である粉末は、成形時の充填性が高くなりやすい。得られる成形体の密度が高くなる傾向があるため、体積粒子径分布曲線における粒子径0.05μm以上0.2μm以下のピークに対する、粒子径0.3μm以上0.5μmのピークの割合(以下、「粒子径ピーク比」ともいう。)は、好ましくは0を超え1未満、より好ましくは0.1以上0.9以下、更に好ましくは0.2以上0.8以下である。
【0077】
本実施形態の粉末は成形性が高いことが好ましく、本実施形態の粉末を圧力70±5MPaで一軸加圧成形した後に、圧力196±5MPaで冷間静水圧プレス(以下、「CIP」ともいう。)で処理して成形体とした場合の該成形体の相対密度(以下、「成形体密度」ともいう。)が49%以上56%以下であることが好ましく、50%以上54%以下であることがより好ましい。
【0078】
本実施形態の粉末は、流動性を改善するための樹脂等を含んでいてもよく、本実施形態の粉末と樹脂を含む組成物(以下、「コンパウンド」ともいう。)としてもよい。コンパウンドが含有する樹脂は、セラミックス組成物に使用される公知の樹脂であればよく、例えば、熱可塑性樹脂が挙げられる。好ましい樹脂として、アクリル樹脂、ポリスチレン及びポリアルキルカーボネートからなる群のいずれか1以上、好ましくはアクリル樹脂が例示できる。
【0079】
コンパウンド中の粉末の含有量として、コンパウンドの質量に対する粉末の質量割合として、50質量%以上97質量%以下、70質量%以上95質量%以下、80質量%以上90質量%以下、などが例示できる。コンパウンド中の粉末の含有量は、コンパウンドの質量に対する、樹脂を除去後のコンパウンドの質量割合から求めればよい。樹脂の除去方法は任意であるが、例えば、大気中200℃以上500℃以下の熱処理が挙げられる。
【0080】
コンパウンドは樹脂以外に、ワックス等の成分を添加剤として含んでいてもよい。これらの成分を含むことで成形型からの離形性が良くなる等の付加的な効果が得られる。ワックス等の成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル-スチレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリアセタール樹脂、石油系ワックス、合成系ワックス、植物系ワックス、ステアリン酸、フタル酸エステル系可塑剤及びアジピン酸エステルの群から選ばれる1以上が例示できる。
【0081】
本実施形態の粉末は、仮焼体や焼結体の前駆体として使用することができ、粉砕機用部材,精密機械部品,光コネクター部品等の構造材料、歯科材等の生体材料、装飾部材及び電子機器外装部品等の外装材料の原料粉末に適している。
【0082】
本実施形態の粉末を焼結体等とする場合、粉末を成形した後、公知の方法で仮焼又は焼結すればよい。
【0083】
本実施形態の粉末を成形体とする場合、成形は公知の方法、例えば、一軸プレス、冷間静水圧プレス、スリップキャスティング及び射出成形の群から選ばれる少なくとも1種、によって行えばよい。コンパウンドなど、樹脂を使用して成形を作製した場合は、必要に応じ、得られる成形体を熱処理して樹脂を除去してもよい。熱処理条件として、大気中、400℃以上800℃未満が例示できる。
【0084】
成形体は、必要に応じて、仮焼してもよい。仮焼は、粉末の焼結温度未満で熱処理すればよく、例えば、大気中、800℃以上1200℃未満で熱処理すればよい。これにより、仮焼体が得られる。
【0085】
焼結は、公知の方法、例えば加圧焼結、真空焼結及び常圧焼結の群から選ばれる1以上、が適用できる。簡便であり、工業的に適用しやすいため、焼結は常圧焼結であることが好ましく、大気中、1200℃以上1550℃以下、好ましくは1250℃以上1500℃以下の常圧焼結がより好ましく、大気中、1300℃以上1450℃以下の常圧焼結であることが更に好ましい。また、常圧焼結以外の焼結を施さないことが好ましい。焼結時間は任意であるが0.5時間以上5時間以下、が例示できる。
【0086】
次に、本実施形態の粉末の製造方法について説明する。
【0087】
本実施形態の粉末は上述の特徴を有していれば、製造方法は任意である。本実施形態の粉末の好ましい製造方法として、平均ゾル粒径が150nm以上400nm以下であり単斜晶ジルコニアを含有するジルコニアを含むジルコニアゾル、及び安定化剤源、を含む組成物を、950℃以上1250℃以下で熱処理して仮焼粉末とする工程、及び、該仮焼粉末を粉砕する工程、を含む製造方法、が挙げられる。
【0088】
平均ゾル粒径が150nm以上400nm以下であり単斜晶ジルコニアを含有するジルコニアを含むジルコニアゾル、及び安定化剤源、を含む組成物を、950℃以上1250℃以下で熱処理して仮焼粉末とする工程(以下、「粉末仮焼工程」ともいう。)により、本実施形態の粉末の前駆体である仮焼粉末が得られる。
【0089】
粉末仮焼工程では、950℃以上1250℃以下、更には1000℃以上1250℃以下で熱処理する。熱処理が950℃以上であることで、常圧焼結で緻密化しやすい粉末が得られる。一方、熱処理が1250℃以下であることで、粉砕によって分散しやすい粉末が得られやすくなる。熱処理の時間は熱処理温度により異なるが、例えば30分以上2時間以下が挙げられる。
【0090】
熱処理の雰囲気は任意であり、酸化雰囲気、還元雰囲気、不活性雰囲気及び真空雰囲気の群から選ばれるいずれかが例示でき、酸化雰囲気であることが好ましく、大気雰囲気であることがより好ましい。
【0091】
ジルコニアゾルは、平均ゾル粒径が150nm以上400nm以下であり、好ましくは180nm以上400nm以下、より好ましくは185nm以上300nm以下である。平均ゾル粒径は、150nm以上270nm以下、更には150nm以上200nm以下、又は、190nm以上400nm以下、更には200nm以上300nm以下であってもよい。
【0092】
ジルコニアゾルは単斜晶ジルコニアを含有するジルコニアを含み、結晶性ジルコニアからなるジルコニアを含むジルコニアゾル(以下、「結晶性ジルコニアゾル」ともいう。)であることが好ましく、主相が単斜晶ジルコニアである結晶性ジルコニアを含むジルコニアゾルであることがより好ましい。
【0093】
粉砕しやすくなる傾向があるため、ジルコニアゾルは、以下の式で求められるジルコニウム元素量(以下、「吸着ジルコニウム量」ともいう。)が0質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上0.01質量%以下であることが更に好ましい。
【0094】
Zr=(m/m)×100
上記式において、WZrは吸着ジルコニウム量(質量%)である。mはジルコニアゾルを純水に分散させたスラリーを、分画分子量が500以上300万以下である限外濾過膜を使用した限外濾過することで得られる濾液中のジルコニウム量をジルコニア(ZrO)換算した質量(mg)である。濾液中のジルコニウム量はICP分析で測定すればよい。mは、限外濾過前のジルコニアゾルを大気雰囲気下、1000℃、1時間で熱処理した後の質量(mg)である。m及びmの測定は、それぞれ、限外濾過前のジルコニアゾルを同量用意して行えばよい。
【0095】
粉末仮焼工程に供するジルコニアゾルは、上述の特徴を有していればよく、その製造方法は任意である。ジルコニアゾルの製造方法として水熱合成法及び加水分解法の少なくともいずれかが例示できる。水熱合成法では、溶媒存在下でジルコニウム塩とアルカリ等とを混合して得られる共沈物を100~200℃で熱処理することでジルコニアゾルが得られる。また、加水分解法では、溶媒存在下でジルコニウム塩を加熱することで該ジルコニウム塩が加水分解してジルコニアゾルが得られる。このように、ジルコニアゾルは水熱合成法又は加水分解法で得られるジルコニアゾルであることが例示でき、加水分解法で得られるジルコニアゾルであることが好ましい。
【0096】
ジルコニアゾルの製造方法で使用される前駆体としてジルコニウム塩が挙げられる。ジルコニウム塩は、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニル、塩化ジルコニウム及び硫酸ジルコニウムの群から選ばれる1種以上が例示でき、硝酸ジルコニル及びオキシ塩化ジルコニウムの少なくともいずれかであることが好ましく、オキシ塩化ジルコニウムであることがより好ましい。
【0097】
以下、ジルコニアゾルの好ましい製造方法として、加水分解法を例に挙げて説明する。
【0098】
加水分解の条件は、ジルコニウム塩の加水分解が十分に進行する任意の条件であればよく、例えば、ジルコニウム塩水溶液を130時間以上200時間以下で煮沸還流することが挙げられる。ジルコニウム塩水溶液中の陰イオン濃度を0.2mol/L以上0.6mol/L以下、更には0.3mol/L以上0.6mol/L以下として加水分解することで、平均ゾル粒子径が大きくなる傾向がある。
【0099】
安定化剤源は、安定化剤及びその前駆体となる化合物の少なくともいずれかであればよく、安定化剤の前駆体となる酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、塩化物、酢酸塩、硝酸塩及び硫酸塩の群から選ばれる1種以上が例示でき、塩化物及び硝酸塩の少なくともいずれかであることが好ましい。安定化剤源は、イットリア及びその前駆体となるイットリウム化合物の少なくともいずれかであることが好ましい。好ましい安定化剤源(以下、イットリア等を含む安定化剤を、それぞれ「イットリア源」等ともいう。)として、塩化イットリウム、硝酸イットリウム及び酸化イットリウムの群から選ばれる1種以上、更には塩化イットリウム及び酸化イットリウムの少なくともいずれかが挙げられる。安定化剤源がイットリア源である場合、組成物のイットリア源の含有量は、組成物のジルコニウム(Zr)及びイットリウム(Y)を、それぞれ、ZrO及びY換算した値の合計に対する、イットリア源をY換算したモル割合として、1.0mol%以上2.5mol%以下、更には1.1mol%以上2.0mol%以下であることが例示でき、1.2mol%以上2.0mol%未満であることが好ましく、1.2mol%以上1.8mol%以下であることがより好ましい。
【0100】
粉末仮焼工程に供する組成物は、上述のジルコニアゾル、及び安定化剤源を含んでいればよく、安定化剤源の全部又は一部がジルコニアゾルに固溶していてもよい。
【0101】
例えば、ジルコニウム塩と安定化剤源とを混合して加水分解すること、又は、ジルコニウム塩、安定化剤源及びアルカリ等とを混合して共沈物とすること、などの方法により、安定化剤源の少なくとも一部がジルコニアに固溶しやすくなる。
【0102】
粉末仮焼工程に供する組成物は、アルミナ源、ゲルマニア源及びシリカ源の群から選ばれる1以上の添加成分源を含有してもよい。添加成分源は、アルミナ源及びゲルマニア源の少なくともいずれかであることが好ましく、アルミナ源であることが好ましい。
【0103】
アルミナ源は、アルミナ及びその前駆体となるアルミニウム化合物の少なくともいずれかであり、アルミナ、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム及び塩化アルミニウムの群から選ばれる1種以上が例示でき、アルミナであることが好ましく、アルミナゾル及びアルミナ粉末の少なくともいずれかであることがより好ましい。
【0104】
ゲルマニア源は、ゲルマニア及びその前駆体となるゲルマニウム化合物の少なくともいずれかであり、ゲルマニア、水酸化ゲルマニウム及び塩化ゲルマニウムの群から選ばれる1種以上が例示でき、ゲルマニアであることが好ましく、ゲルマニアゾル及びゲルマニア粉末の少なくともいずれかであることがより好ましい。
【0105】
シリカ源は、シリカ及びその前駆体となるケイ素化合物の少なくともいずれかであり、シリカ、及びオルトケイ酸テトラエチルの群から選ばれる1種以上が例示でき、シリカであることが好ましく、シリカ粉末、シリカゾル、ヒュームドシリカ及び沈降法シリカの少なくともいずれかであることがより好ましい。
【0106】
添加成分源の含有量は、組成物のZr、Y、並びに、Al、Ge及びSiを、それぞれ、ZrO、Y、並びに、Al、GeO及びSiOとして換算した合計質量に対する、Al、Ge及びSiをそれぞれAl、GeO及びSiO換算した質量の合計割合として0.05質量%以上30質量%以下であることが挙げられ、0.1質量%を超え25質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0107】
例えば、アルミナ源の含有量は、組成物のZr、Y及びAlをそれぞれZrO、Y及びAlとして換算した合計質量に対するアルミナ源をAl換算した質量の割合として0.05質量%以上30質量%以下であることが挙げられ、0.1質量%を超え25質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0108】
また、ゲルマニア源の含有量は、組成物のZr、Y及びGeをそれぞれZrO、Y及びGeOとして換算した合計質量に対するゲルマニア源をGeO換算した質量の割合として0.05質量%以上30質量%以下であることが挙げられ、0.1質量%を超え25質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0109】
また、シリカ源の含有量は、組成物のZr、Y及びSiをそれぞれZrO、Y及びSiOとして換算した合計質量に対するシリカ源をSiO換算した質量の割合として0.05質量%以上30質量%以下であることが挙げられ、0.1質量%を超え25質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0110】
仮焼粉末の物性として、それぞれ、BET比表面積が3m/g以上15m/g以下であること、単斜晶の結晶子径が20nm以上60nm以下であることが例示できる。
【0111】
仮焼粉末を粉砕する工程(以下、「粉砕工程」ともいう。)では、仮焼粉末を粉砕処理する。安定化剤含有量が低いジルコニアは、焼結時に割れや欠けなどが発生やすい。これに対し、本実施形態における仮焼粉末を粉砕処理することで焼結時の歩留まりが高くなりやすく、更には得られる焼結体が水熱劣化しにくくなる傾向がある。
【0112】
所望の組成の粉末を得るため、粉砕工程では、仮焼粉末に代わり、仮焼粉末並びに、アルミナ源、添加成分源の混合粉末を粉砕してもよい。添加成分源は、上述の添加成分源が例示できる。粉砕工程において添加成分源を混合する場合は、添加成分源の含有量が、混合粉末のZr、Y、並びに、Al、Ge及びSiの群から選ばれる1以上をそれぞれZrO、Y、並びに、Al、GeO及びSiOに換算した合計質量に対する、AlをAlに換算した質量割合、GeをGeOに換算した質量割合及びSiをSiOに換算した質量割合の合計が0.05質量%以上30質量%以下、好ましくは0.1質量%を超え25質量%以下、より好ましくは0.2質量%以上20質量%以下となるように、添加成分源及び仮焼粉末を混合すればよい。
【0113】
粉砕方法は任意であり、湿式粉砕及び乾式粉砕の少なくともいずれかであればよく、湿式粉砕であることが好ましい。具体的な湿式粉砕として、ボールミル、振動ミル及び連続式媒体撹拌ミルの群から選ばれる1以上が例示でき、ボールミルであることが好ましい。ボールミルによる粉砕条件として、例えば、仮焼粉末を、溶媒と混合して、スラリー質量に対する仮焼粉末の質量割合が30質量%以上60質量%以下であるスラリーとし、該スラリーを直径1mm以上15mm以下のジルコニアボールを粉砕媒体として、10時間以上100時間以下、粉砕することが挙げられる。
【0114】
湿式粉砕後、任意の方法で乾燥して粉末とすればよい。乾燥条件として、大気中、110℃~130℃が例示できる。
【0115】
粉末の操作性を向上させるため、本実施形態の粉末の製造方法において、粉末を顆粒化する工程(以下、「顆粒化工程」ともいう。)を含んでいてもよい。顆粒化は任意の方法であるが、粉末と溶媒とを混合したスラリーを噴霧造粒すること、が挙げられる。該溶媒は水及びアルコールの少なくともいずれか、好ましくは水である。顆粒化された粉末(以下、「粉末顆粒」ともいう。)は、平均顆粒径が30μm以上80μm以下、更には50μm以上60μm以下であること、及び、嵩密度が1.00g/cm以上1.40g/cm以下、更には1.10g/cm以上1.30g/cm以下であることが挙げられる。
【実施例0116】
以下、実施例を使用して本開示について説明する。しかしながら、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
(平均ゾル粒径)
ジルコニアゾルの平均ゾル粒径は、動的光散乱式粒子径分布測定装置(装置名:UPA-UT151、マイクロトラック・ベル社製)を用いて測定した。試料の前処理として、水和ジルコニアゾル含有溶液を純水に懸濁させ、超音波ホモジナイザーを用いて3分間分散させた。
(粉末の単斜晶率、正方晶率、D及びD
一般的なX線回折装置(商品名:UltimaIIV、リガク社製)を使用し、粉末試料のXRDパターンを得た。XRD測定の条件は以下のとおりである。
【0117】
線源 : CuKα線(λ=0.15418nm)
測定モード : 連続スキャン
スキャンスピード : 4°/分
ステップ幅 : 0.02°
測定範囲 : 2θ=26°~33°
【0118】
得られたXRDパターン及び計算プログラムとして“PRO-FIT”を使用し、式(1)、(2)、(4)及び(5)により、それぞれ、単斜晶率、正方晶率、D及びDを求めた。
(BET比表面積)
一般的な流動式比表面積自動測定装置(装置名:フローソーブIII2305、島津製作所社製)、及び吸着ガスとして窒素を使用し、JIS R 1626-1996に準じた方法で粉末試料のBET比表面積を測定した。測定に先立ち、粉末試料は大気中、250℃で30分間の脱気処理を施し、前処理とした。
(粒子径分布測定)
マイクロトラック粒度分布計(商品名:MT3000II、マイクロトラック・ベル社製)のHRAモードにより、粉末試料の体積粒子径分布曲線を測定し、メジアン径を測定した。測定に先立ち、粉末試料を純水に懸濁させ、超音波ホモジナイザーを用いて10分間分散させ、前処理とした。
(成形体密度)
成形体試料の質量を天秤で測定し、また、体積をノギスで測定して寸法から求めた。得られた質量及び体積から実測密度を求めた。理論密度は、式(5)~(8)から求め、理論密度(ρ)に対する実測密度(ρ)の値から相対密度(%)を求め、成形体密度とした。
【0119】
(焼結体の単斜晶率及び単斜晶強度比)
粉末試料のXRD測定条件と同じ条件で焼結体試料をXRD測定した。得られたXRDパターン及び計算プログラムとして“PRO-FIT”を使用し、式(1)及び(3)により、それぞれ、単斜晶率、及び単斜晶強度比を求めた。
【0120】
XRD測定には、平面研削盤を使用して表面を削った後、耐水ペーパー(800番)による自動研磨、平均粒径3μmのダイヤモンドスラリーによる自動研磨、及び、0.03μmのコロイダルシリカによる自動研磨、の順で鏡面研磨処理を施し、表面粗さ(Ra)≦0.04μmとした焼結体試料を使用した。自動研磨には、自動研磨装置(装置名:MECATECH 334、PRESI社製)を使用した。
(焼結体密度)
焼結体試料の実測密度をアルキメデス法により測定した。測定に先立ち、乾燥後の焼結体の質量を測定した後,焼結体を水中に配置し、これを1時間煮沸し、前処理とした。理論密度は、式(5)~(8)から求め、理論密度(ρ)に対する実測密度(ρ)の値から相対密度(%)を求め、焼結体密度とした。
【0121】
(平均結晶粒径)
電界放出型走査型電子顕微鏡観察により得られた焼結体試料のSEM観察図を使用したプラニメトリック法により平均結晶粒径を求めた。すなわち、SEM観察図に面積が既知の円を描き、当該円内の結晶粒子数(Nc)及び当該円の円周上の結晶粒子数(Ni)を計測した。
【0122】
合計の結晶粒子数が(Nc+Ni)が250±50個とした上で、以下の式を使用して平均結晶粒径を求めた。
【0123】
平均結晶粒径=(Nc+(1/2)×Ni)/(A/M
上式において、Ncは円内の結晶粒子数、Niは円の円周上の結晶粒子数、Aは円の面積、及び、Mは走査型電子顕微鏡観察の倍率(5000倍)である。なお、ひとつのSEM観察図における結晶粒子数(Nc+Ni)が200個未満である場合、複数のSEM観察図を用いて(Nc+Ni)を250±50個とした。
【0124】
測定に先立ち、焼結体試料は鏡面研磨した後、熱エッチング処理を施すことで前処理とした。鏡面研磨は、平面研削盤で焼結体表面を削ったあとに、鏡面研磨装置で平均粒径9μm、6μm及び1μmのダイヤモンド砥粒を順番に用いて研磨した。
【0125】
(破壊靱性値)
焼結体試料の破壊靱性値は、JIS R1607に規定されたSEPB法に準じた方法で測定した。測定は、支点間距離30mmで、幅4mm、厚さ3mmの柱形状の焼結体試料を使用して行い、10回測定した平均値を破壊靭性値した。
【0126】
(曲げ強度)
焼結体試料の曲げ強度は、JIS R1601に準じた三点曲げ試験で測定した。の測定は、支点間距離30mmで、幅4mm、厚さ3mmの柱形状の焼結体試料を使用して行い、10回測定した平均値をもって曲げ強度とした。
(全光線透過率)
全光線透過率の測定は、分光光度計(装置名:V-650、日本分光社製)を使用し、JIS K 7361に準じた方法により行った。測定には円板形状の試料を使用した。測定に先立ち、当該試料の両面を研磨し、試料厚み1mm及び表面粗さ(Ra)が0.02μm以下とした。波長220~850nmの光を当該試料に透過させて、積分球で集光することで各波長における透過率を測定し、波長600nmにおける透過率を、全光線透過率とした。
【0127】
実施例1
ジルコニウム濃度及び塩化物イオン濃度が、それぞれ、0.4mol/Lであるオキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解した。加水分解後の水溶液は限外濾過膜(分画分子量:6000)を使用して限外濾過し、平均ゾル粒径250nmであるジルコニアゾルを得た。得られたジルコニアゾルのWZrは検出限界以下(0.01質量%以下)であった。
【0128】
限外濾過後のジルコニアゾル水溶液に、イットリアが1.6mol%となるように塩化イットリウム6水和物及びアンモニア水溶液を添加して沈殿物を得た。得られた沈殿物は、純水洗浄及び大気中での乾燥後、大気中、仮焼温度1025℃で2時間仮焼して仮焼粉末とした。得られた仮焼粉のBET比表面積は12.5m/g、及び単斜晶の結晶子径は35nmであった。
【0129】
当該仮焼粉末を純水に混合してスラリーとした後に、これをジルコニアボールを使用してボールミル処理した後、これを大気中、120℃で乾燥させて、イットリア含有量1.6mol%のイットリア含有ジルコニアからなる粉末を得、これを本実施例の粉末とした。本実施例の粉末は、イットリアが全てジルコニア固溶しており、その結晶相は単斜晶ジルコニア及び正方晶ジルコニアであった。また、メジアン径は0.15μmであり、体積粒子径分布曲線は粒子径0.14μm及び粒子径0.33μmにピークを有するバイモーダルの分布であり、粒子径ピーク比は0.39であった。
【0130】
本実施例の粉末を、圧力70MPaの金型プレス、及び圧力196MPaのCIP処理し、成形体とした。得られた成形体を大気中、焼結温度1300℃、2時間の常圧焼結をして焼結体を得た。
【0131】
実施例2
仮焼粉末と、Al換算で0.25質量%のアルミナゾルとの混合粉末をボールミル処理したこと以外は実施例1と同様な方法で、Al換算で0.25質量%のアルミナを含み、残部が1.6mol%イットリア含有ジルコニアからなる粉末を得た。本実施例の粉末のメジアン径は0.15μmであり、体積粒子径分布曲線は粒子径0.14μm及び粒子径0.32μmにピークを有するバイモーダルの分布であり、粒子径ピーク比は0.37であった。
【0132】
当該粉末を使用したこと、及び焼結温度を1250℃にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で成形体及び焼結体を得た。
【0133】
実施例3
仮焼温度を1130℃としたこと、及び、仮焼粉末と、Al換算で0.25質量%のアルミナゾルとの混合粉末をボールミル処理したこと以外は実施例1と同様な方法で、Al換算で0.25質量%のアルミナを含み、残部が1.6mol%イットリア含有ジルコニアからなる粉末を得た。
【0134】
得られた仮焼粉のBET比表面積は6.7m/g、及び単斜晶の結晶子径は44nmであった。また、本実施例の粉末のメジアン径は0.18μmであり、体積粒子径分布曲線は粒子径0.14μm及び粒子径0.36μmにピークを有するバイモーダルの分布であり、粒子径ピーク比は0.85であった。
【0135】
当該粉末を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で成形体及び焼結体を得た。
【0136】
参考例1
限外濾過後のジルコニアゾル水溶液に、イットリアが2mol%となるように塩化イットリウム6水和物を添加したこと、及び、仮焼粉末と、Al換算で0.25質量%のアルミナゾルとの混合粉末をボールミル処理したこと以外は実施例1と同様な方法で、Al換算で0.25質量%のアルミナを含み、残部が2mol%イットリア含有ジルコニアからなる粉末を得た。本実施例の粉末のメジアン径は0.15μmであり、体積粒子径分布曲線は粒子径0.14μm及び粒子径0.33μmにピークを有するバイモーダルの分布であり、粒子径ピーク比は0.33であった。
【0137】
当該粉末を使用したこと、及び焼結温度を1500℃としたこと以外は、実施例1と同様の方法で成形体及び焼結体を得た。
【0138】
実施例5
仮焼粉末と、Al換算で20質量%のアルミナ粉末との混合粉末をボールミル処理したこと以外は実施例1と同様な方法で、Al換算で20質量%のアルミナを含み、残部が1.6mol%イットリア含有ジルコニアからなる粉末を得た。本実施例の粉末のメジアン径は0.15μmであり、体積粒子径分布曲線は粒子径0.14μm及び粒子径0.35μmにピークを有するバイモーダルの分布であり、粒子径ピーク比は0.41であった。また、正方晶ジルコニアの結晶子径(D)は42nmであった。
【0139】
当該粉末を使用したこと、及び焼結温度を1350℃としたこと以外は、実施例1と同様の方法で成形体及び焼結体を得た。
【0140】
実施例6
仮焼温度を1130℃としたこと、及び、仮焼粉末と、Al換算で20質量%のアルミナ粉末との混合粉末をボールミル処理したこと以外は実施例1と同様な方法で、Al換算で20質量%のアルミナを含み、残部が1.6mol%イットリア含有ジルコニアからなる粉末を得た。本実施例の粉末のメジアン径は0.16μmであり、体積粒子径分布曲線は粒子径0.14μm及び粒子径0.35μmにピークを有するバイモーダルの分布であり、粒子径ピーク比は0.67であった。
【0141】
当該粉末を使用したこと及び焼結温度を1400℃としたこと以外は、実施例1と同様の方法で成形体及び焼結体を得た。
【0142】
参考例2
限外濾過後のジルコニアゾル水溶液に、イットリアが2mol%となるように塩化イットリウム6水和物を添加したこと、及び、仮焼粉末と、Al換算で5質量%のアルミナゾルとの混合粉末をボールミル処理したこと以外は実施例1と同様な方法で、Al換算で5質量%のアルミナを含み、残部が2mol%イットリア含有ジルコニアからなる粉末を得た。本実施例の粉末のメジアン径は0.15μmであり、体積粒子径分布曲線は粒子径0.14μm及び粒子径0.35μmにピークを有するバイモーダルの分布であり、粒子径ピーク比は0.41であった。
【0143】
当該粉末を使用したこと、及び焼結温度を1500℃にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で成形体及び焼結体を得た。
【0144】
実施例8
仮焼粉末と、Al換算で0.5質量%のアルミナゾルとの混合粉末をボールミル処理したこと以外は実施例1と同様な方法で、Al換算で0.5質量%のアルミナを含み、残部が1.6mol%イットリア含有ジルコニアからなる粉末を得た。本実施例の粉末のメジアン径は0.15μmであり、体積粒子径分布曲線は粒子径0.14μm及び粒子径0.32μmにピークを有するバイモーダルの分布であり、粒子径ピーク比は0.49であった。
【0145】
当該粉末を使用したこと、及び焼結温度を1250℃にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で成形体及び焼結体を得た。
【0146】
実施例9
仮焼粉末と、Al換算で1質量%のアルミナゾルとの混合粉末をボールミル処理したこと以外は実施例1と同様な方法で、Al換算で1質量%のアルミナを含み、残部が1.6mol%イットリア含有ジルコニアからなる粉末を得た。本実施例の粉末のメジアン径は0.15μmであり、体積粒子径分布曲線は粒子径0.14μm及び粒子径0.34μmにピークを有するバイモーダルの分布であり、粒子径ピーク比は0.49であった。
【0147】
当該粉末を使用したこと、及び焼結温度を1250℃にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で成形体及び焼結体を得た。
【0148】
実施例10
仮焼粉末と、GeO換算0.25質量%の酸化ゲルマニウムとの混合粉末をボールミル処理したこと以外は実施例1と同様な方法で、GeO換算0.25質量%の酸化ゲルマニウムを含み、残部が1.6mol%イットリア含有ジルコニアからなる粉末を得た。本実施例の粉末のメジアン径は0.14μmであり、体積粒子径分布曲線は粒子径0.14μm及び粒子径0.34μmにピークを有するバイモーダルの分布であり、粒子径ピーク比は0.37であった。
【0149】
当該粉末を使用したこと、及び焼結温度を1250℃にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で成形体及び焼結体を得た。
【0150】
実施例11
仮焼粉末と、SiO換算で0.25質量%のシリカゾルとの混合粉末をボールミル処理したこと以外は実施例1と同様な方法で、SiO換算で0.25質量%のシリカを含み、残部が1.6mol%イットリア含有ジルコニアからなる粉末を得た。本実施例の粉末のメジアン径は0.18μmであり、体積粒子径分布曲線は粒子径0.14μm及び粒子径0.35μmにピークを有するバイモーダルの分布であり、粒子径ピーク比は0.89であった。
【0151】
当該粉末を使用したこと、及び焼結温度を1350℃にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で成形体及び焼結体を得た。
【0152】
実施例12
仮焼粉末と、Al換算で0.25質量%のアルミナゾル及びGeO換算0.25質量%の酸化ゲルマニウムとの混合粉末をボールミル処理したこと以外は実施例1と同様な方法で、Al換算で0.25質量%のアルミナ及びGeO換算0.25質量%の酸化ゲルマニウムを含み、残部が1.6mol%イットリア含有ジルコニアからなる粉末を得た。本実施例の粉末のメジアン径は0.15μmであり、体積粒子径分布曲線は粒子径0.14μm及び粒子径0.34μmにピークを有するバイモーダルの分布であり、粒子径ピーク比は0.37であった。
【0153】
当該粉末を使用したこと、及び焼結温度を1200℃にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で成形体及び焼結体を得た。
【0154】
比較例1
ジルコニウム濃度及び塩化物イオン濃度が、それぞれ、0.37mol/L及び0.74mol/Lであるオキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解した。加水分解後の水溶液は限外濾過膜(分画分子量:6000)を使用して限外濾過し、平均ゾル粒径100nmであるジルコニアゾルを得た。得られたジルコニアゾルのWZrは9質量%であった。
【0155】
限外濾過後のジルコニアゾル水溶液に、イットリアが2mol%となるように塩化イットリウム6水和物及びアンモニア水溶液を添加して沈殿物を得た。得られた沈殿物は、純水洗浄及び大気中での乾燥後、大気中、仮焼温度1000℃で2時間仮焼して仮焼粉末とした。
【0156】
当該仮焼粉末を純水に混合してスラリーとした後に、これをジルコニアボールを使用してボールミル処理した後、これを大気中、120℃で乾燥させて、イットリア含有量2mol%のイットリア含有ジルコニアからなる粉末を得、これを本比較例の粉末とした。
【0157】
本比較例の粉末を、圧力70MPaの金型プレス、及び圧力196MPaのCIP処理し、成形体とした。得られた成形体を大気中、焼結温度1450℃、2時間の常圧焼結をして焼結体を得た。
【0158】
比較例2
仮焼粉末と、Al換算で0.25質量%のアルミナ粉末との混合粉末をボールミル処理したこと以外は比較例1と同様な方法で、Al換算で0.25質量%のアルミナを含み、残部が2mol%イットリア含有ジルコニアからなる粉末を得た。
【0159】
当該粉末を使用したこと以外は、比較例1と同様の方法で成形体及び焼結体を得た。
【0160】
比較例3
仮焼粉末と、Al換算で5質量%のアルミナ粉末との混合粉末をボールミル処理したこと以外は比較例1と同様な方法で、Al換算で5質量%のアルミナを含み、残部が2mol%イットリア含有ジルコニアからなる粉末を得た。
【0161】
当該粉末を使用したこと以外は、比較例1と同様の方法で成形体及び焼結体を得た。
【0162】
比較例4
限外濾過後のジルコニアゾル水溶液に、イットリアが0.9mol%となるように塩化イットリウム6水和物及びアンモニア水溶液を添加して沈殿物を得たこと以外は実施例1と同様な方法で0.5mol%イットリア含有ジルコニアからなる粉末を得た。
【0163】
当該粉末を、圧力70MPaの金型プレス、及び圧力196MPaのCIP処理し、成形体とした。得られた成形体を大気中、焼結温度1300℃、2時間の常圧焼結をして焼結体を得たが、密度が低く、かつ、多数のクラックが発生して焼結体特性を評価することができなかった。
【0164】
これらの実施例及び比較例の粉末の評価結果を表1に、焼結体の評価結果を表2に示す。
【0165】
【表1】
【0166】
上表より、実施例及び比較例1乃至3は、いずれの粉末も安定化剤含有量(イットリア含有量)及び添加剤の含有量は同程度であるが、実施例に対して比較例1乃至3は、Dが小さく、なおかつ、単斜晶率が低いことが分かる。更に、実施例に対して比較例4はDが小さいことが分かる。
【0167】
【表2】
【0168】
上表より、成形体密度は実施例が49%以上、更には50%以上、比較例が49%未満、更には48%未満であり、本実施例の粉末は充填性が高いことが分かる。一方、安定化剤含有量が1.0mol%以上である焼結体の焼結体密度は実施例及び比較例のいずれも同程度であったが、実施例の破壊靭性値が6.5MPa・m0.5以上であるのに対し、比較例の破壊靭性値は6MPa・m0.5未満であり、本実施例の粉末から高い破壊靭性を有する焼結体が常圧焼結で得られることが分かる。比較例1の焼結体は、単斜晶ジルコニアの(111)面に相当するXRDピークを有していないため、単斜晶強度比が算出できなかった。さらに、比較例4の焼結体は、クラック等の欠陥を大量に含み、鏡面研磨等の測定試料への加工で焼結体が崩壊するため、焼結体密度以外の測定ができなかった。
【0169】
また、実施例1及び5の焼結体についてJIS R1607で規定されたIF法に準じた方法で破壊靭性を測定した。IF法により測定される破壊靭性は、それぞれ、17.9MPa・m1/5及び11.1MPa・m1/5あった。IF法とSEPB法とで測定される破壊靭性の上昇度合は異なるが、いずれも、IF法により測定される破壊靭性はSEPB法とで測定される破壊靭性よりも高い値であった。
【0170】
実施例13
実施例1と同様な方法で粉末を得た。得られた粉末を使用したこと、及び、焼結温度を1400℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で焼結体を得た。
【0171】
実施例14
実施例2と同様な方法で粉末を得た。得られた粉末を使用したこと、及び、焼結温度を1350℃としたこと以外は実施例2と同様な方法で焼結体を得た。
【0172】
実施例15
実施例3と同様な方法で粉末を得た。得られた粉末を使用したこと、及び、焼結温度を1400℃としたこと以外は実施例3と同様な方法で焼結体を得た。
【0173】
実施例16
実施例5と同様な方法で粉末を得た。得られた粉末を使用したこと、及び、焼結温度を1500℃としたこと以外は実施例5と同様な方法で焼結体を得た。
【0174】
実施例17
実施例6と同様な方法で粉末を得た。得られた粉末を使用したこと、及び、焼結温度を1500℃としたこと以外は実施例6と同様な方法で焼結体を得た。
【0175】
実施例18
実施例8と同様な方法で粉末を得た。得られた粉末を使用したこと、及び、焼結温度を1350℃としたこと以外は実施例8と同様な方法で焼結体を得た。
【0176】
実施例19
実施例9と同様な方法で粉末を得た。得られた粉末を使用したこと、及び、焼結温度を1350℃としたこと以外は実施例9と同様な方法で焼結体を得た。
【0177】
実施例20
実施例10と同様な方法で粉末を得た。得られた粉末を使用したこと、及び、焼結温度を1350℃としたこと以外は実施例10と同様な方法で焼結体を得た。
【0178】
実施例21
実施例12と同様な方法で粉末を得た。得られた粉末を使用したこと、及び、焼結温度を1250℃としたこと以外は実施例12と同様な方法で焼結体を得た。
【0179】
実施例22
実施例12と同様な方法で粉末を得た。得られた粉末を使用したこと、及び、焼結温度を1350℃としたこと以外は実施例12と同様な方法で焼結体を得た。
【0180】
比較例5
比較例1と同様な方法で粉末を得た。得られた粉末を使用したこと、及び、焼結温度を1500℃としたこと以外は比較例1と同様な方法で焼結体を得た。
【0181】
【表3】
【0182】
実施例の焼結体は、SEPB法で測定された破壊靭性値が7MPa・m0.5以上であった。
【0183】
測定例1(水熱劣化試験)
実施例2と同様な方法で焼結体を得、これを鏡面研磨した後、140℃の熱水中に浸漬させることで水熱劣化試験を行い、浸漬6時間後及び10時間後の焼結体表面の単斜晶率を求めた。また、比較測定例として、3mol%イットリア含有ジルコニア焼結体を同様に処理及び評価した。結果を下表に示す。
【0184】
比較測定例の焼結体は、限外濾過後のジルコニアゾル水溶液に、イットリアが3mol%となるように塩化イットリウム6水和物を添加したこと以外は比較例1と同様な方法で得られた3mol%イットリア含有ジルコニアからなる粉末を、圧力70MPaの金型プレス、及び圧力196MPaのCIP処理をして成形体とし、これを大気中、焼結温度1500℃、2時間の常圧焼結することで作製した。なお、比較測定例の焼結体の破壊靭性値は4.8MPa・m0.5であった。
【0185】
【表4】
【0186】
水熱劣化試験前の焼結体は、測定例及び比較測定例のいずれも、結晶相の主相が正方晶ジルコニアであった。水熱劣化試験により正方晶ジルコニアが単斜晶ジルコニアに相変位することで焼結体が劣化する。比較測定例と比べ、測定例は安定化剤含有量が低い焼結体であるにも関わらず、水熱劣化試験後の単斜晶率が低く、劣化しにくい焼結体であることが分かる。なお、水熱劣化試験前の比較測定例の焼結体は単斜晶率が0%及び正方晶率が70%であり、残部が立方晶であったため、残存正方晶率(△T%)は4%であり、10時間の水熱劣化試験により、該焼結体の正方晶ジルコニアのほぼすべてが単斜晶ジルコニアに相転移したと考えられる。これに対し、水熱劣化試験前の測定例の焼結体は正方晶率が94%及び単斜晶率が6%であったため、残存正方晶率(△T%)は85%であり、また、10時間の水熱劣化試験後であっても、相転移しない正方晶ジルコニアを多く有することが考えられる。
【0187】
測定例2(残存正方晶率)
実施例1及び13、比較例1及び5の焼結体を鏡面研磨した後、140℃の熱水中に6時間浸漬させ、残存正方晶率を求めた。結果を下表に示す。
【0188】
【表5】
【0189】
実施例の焼結体の残存正方晶率は65%以上であり、安定化剤含有量が多い比較例よりも正方晶ジルコニアから単斜晶ジルコニアへの変態が生じにくいことが分かる。
【0190】
測定例3(残存正方晶率)
実施例2乃至4、14及び15、比較例2の焼結体を鏡面研磨した後、140℃の熱水中に6時間浸漬させ、残存正方晶率を求めた。結果を下表に示す。
【0191】
【表6】
【0192】
実施例の焼結体の残存正方晶率は65%以上であり、比較例と比べて正方晶ジルコニアから単斜晶ジルコニアへの変態が生じにくいことが分かる。さらに、参考例1は、比較例2と安定化剤含有量が同じであり、焼結温度が高いにもかかわらず、残存正方晶率が高いことが分かる。
【0193】
測定例4(残存正方晶率)
実施例5乃至12、16乃至22、比較例3の焼結体を鏡面研磨した後、140℃の熱水中に6時間浸漬させ、残存正方晶率を求めた。結果を下表に示す。
【0194】
【表7】
【0195】
実施例の焼結体の残存正方晶率は70%以上であり、比較例と比べて正方晶ジルコニアから単斜晶ジルコニアへの変態が生じにくいことが分かる。また、実施例22の焼結体は添加成分として計0.5質量%のアルミナ及びゲルマニアを含む焼結体である。アルミナを20質量%含む実施例6の焼結体と比べ、実施例22の焼結体はより高温で焼結して得られたにもかかわらず、残存正方晶率を示すことが分かる。
【0196】
また、焼結温度及び安定化剤含有量が同じである実施例1、3及び6(並びに、実施例5、18及び19)から、添加成分(アルミナ)の含有量が高いほど、残存正方晶率が高くなる傾向があった。
【0197】
測定例5(全光線透過率)
実施例2、8、9及び14、並びに、比較例2の焼結体を使用し、全光線透過率を測定した。結果を下表に示す。
【0198】
【表8】
【0199】
実施例の焼結体はいずれも添加成分が0.2質量%以上であるにも関わらず、全光線透過率が25%以上40%以下であった。また、実施例2及び14より、焼結温度の上昇に伴い、全光線透過率が高くなった。これに対し、比較例2の焼結体は、より高い焼結温度であるにも関わらず、全光線透過率が20%未満であった。
【0200】
さらに、実施例2の焼結体を加工し厚さ0.2mmとして、同様に全光線透過率を測定した。その結果、厚さ0.2mmにおける全光線透過率は46%あった。なお、比較例2の焼結体を同様に加工しようとしたところ、加工中に焼結体が割れ、厚さ0.2mm以下の測定試料とすることができなかった。
【0201】
測定例6(直線透過率)
実施例の焼結体を、それぞれ、試料厚さ0.09mmに加工した。いずれも亀裂等が入ることなく、試料厚み0.09mmの測定試料への加工ができた。なお、比較例の焼結体は加工中に亀裂や割れ等の欠陥が生じたため、0.2mmへの加工もできなかった。
【0202】
試料厚さ0.09mmの焼結体について直線透過率を測定した。主な実施例の直線透過率の値を下表に示す。
【0203】
【表9】
【0204】
実施例2、3及び14より、焼結温度の上昇に伴い、直線透過率が低下することが分かる。また、実施例3と比べ、アルミナを含有しない実施例1の焼結体は直線透過率が高く、実施例8の焼結体は直線透過率が低いことが分かる。さらに、実施例11、14、20及び21の比較より、添加剤の種類により直線透過率が異なることが分かる。
【0205】
測定例7(コンパウンドの評価)
実施例2及び3の粉末を、それぞれ、使用しコンパウンドを作製した。すなわち、粉末を150℃で1時間以上乾燥させた後、混練機(装置名:ラボニーダーミルTDR-3型、トーシン社製)に、得られるコンパウンド質量に対する粉末の質量が85質量%となるように、粉末とアクリル樹脂添加し、160℃で混練することでコンパウンドを得た。混練開始から15分後において、混練機にかかるトルク(N・m)を測定することで、コンパウンドの混練性を評価した。トルクの値が小さいほど、容易に混錬できるコンパウンド、すなわち混練性に優れるコンパウンドとなる。
【0206】
流動性は、フローテスターによるコンパウンド試料の流動速度を測定することで評価した。測定には一般的なフローテスター(装置名:フローテスターCFT500D、島津製作所社製)を用い、シリンジにコンパウンドを充填した。以下の条件でコンパウンドに荷重を加え、シリンジから射出されるコンパウンドの体積速度(cm/s)を測定することで、流動性を確認した。測定条件を以下に示す。体積速度の値が大きいほど、溶融状態で流れやすいコンパウンド、すなわち流動性に優れるコンパウンドとなる。
【0207】
シリンジ面積 :1cm
ダイ穴径 :直径1mm
ダイ長さ :2mm
荷重 :50kg
測定温度 :160℃
コンパウンド密度 :3.0g/cm
また、比較測定例としてBET比表面積が15.0m/g及び平均粒子径(メジアン径)が1.1μmである3mol%イットリア含有ジルコニア粉末を同様に評価した。コンパウンドの評価結果を下表に示す。なお、比較測定例の粉末は混練性が低く、160℃での混練ができなかった。そのため、下表における比較測定例の混練性は170℃で混錬した際の値を示している。
【0208】
【表10】
【0209】
比較測定例の粉末に対し、BET比表面積の低い実施例3の粉末は、混練性及び流動性のいずれも優れており、特に流動性が顕著に高かった。さらに、実施例2と比較測定例の粉末は互いに同程度のBET比表面積を有しているにも関わらず、比較測定例の粉末に対し、実施例2の粉末は流動性が非常に高かった。これらの結果より、実施例の粉末は、粉末と樹脂からなる組成物(コンパウンド)としても優れた効果を有することが分かる。