(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138235
(43)【公開日】2024-10-08
(54)【発明の名称】抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の薬学的組成物及び使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20241001BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241001BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20241001BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20241001BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20241001BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20241001BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20241001BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241001BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20241001BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20241001BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20241001BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20241001BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61P35/00
A61K9/08
A61K47/20
A61K47/22
A61K47/18
A61K47/02
A61K47/26
A61K39/395 N
C07K19/00
C07K16/28
C12N15/13
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】32
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024081582
(22)【出願日】2024-05-20
(62)【分割の表示】P 2023542559の分割
【原出願日】2023-04-12
(31)【優先権主張番号】63/330,748
(32)【優先日】2022-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】514099673
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】デュブッフ, ジェレミー ジャン-ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ムー, エレン ドロテー
(72)【発明者】
【氏名】ラヴリ, サティヤ クリシュナ キショール
(72)【発明者】
【氏名】シェーンハンマー, カリン
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルラース, イローナ エリーザベト
(72)【発明者】
【氏名】ファスト, ラース
(72)【発明者】
【氏名】イルンガルティンガー, マイク
(72)【発明者】
【氏名】プリンツ, ミリアム
(72)【発明者】
【氏名】クィヴェ ネ ボイヨン, アデリン ヴァレンティン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の薬学的組成物及びその使用方法を提供する。
【解決手段】液体薬学的組成物であって、約5.0から約6.0の範囲のpHで、約1から25mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体;約10から50mMの緩衝剤;約≧200mMの等張化剤;約0~15mMのメチオニン;及び約≧0.2mg/mlの界面活性剤;を含み、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体が、a)CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、b)CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、を含む、液体薬学的組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体薬学的組成物であって、
約5.0から約6.0の範囲のpHで、
約1から25mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体;
約10から50mMの緩衝剤;
約≧200mMの等張化剤;
約0~15mMのメチオニン;及び
約≧0.2mg/mlの界面活性剤;
を含み、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体が、
a)CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
b)CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む、液体薬学的組成物。
【請求項2】
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の濃度が、約1から5mg/mlの範囲である、請求項1に記載の液体薬学的組成物。
【請求項3】
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の濃度が、約0.9~1.1mg/mlの範囲である、請求項1又は2に記載の液体薬学的組成物。
【請求項4】
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の濃度が約1mg/mlである、請求項1から3のいずれか一項に記載の液体薬学的組成物。
【請求項5】
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体が、
a)配列番号7の重鎖可変領域配列及び配列番号8の軽鎖可変領域配列を含む、CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
b)配列番号15の重鎖可変領域配列及び配列番号16の軽鎖可変領域配列を含む、CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の液体薬学的組成物。
【請求項6】
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体が、
a)CD3、特にCD3イプシロンに特異的に結合する第1のFab分子であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって交換されている第1のFab分子と;
b)CD20に特異的に結合する第2のFab分子及び第3のFab分子であって、第2のFab分子及び第3のFab分子の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)により置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)又はアルギニン(R)により、特にアルギニン(R)により置換されており(Kabatによる番号付け)、第2のFab分子及び第3のFab分子の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されており(EU番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されている(EU番号付け)、第2のFab分子及び第3のFab分子と;
c)安定な会合が可能な第1のサブユニットと第2のサブユニットから構成されるFcドメインと;
を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の液体薬学的組成物。
【請求項7】
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体がグロフィタマブである、請求項1から6のいずれか一項に記載の液体薬学的組成物。
【請求項8】
緩衝剤が、ヒスチジンバッファー、任意選択的にはヒスチジンHClバッファーである、請求項1から7のいずれか一項に記載の液体薬学的組成物。
【請求項9】
緩衝剤の濃度が約15から25mMである、請求項1から8のいずれか一項に記載の液体薬学的組成物。
【請求項10】
緩衝剤の濃度が約20mMである、請求項1から9のいずれか一項に記載の液体薬学的組成物。
【請求項11】
緩衝剤が約5.2から約5.8のpHを提供する、請求項1から10のいずれか一項に記載の液体薬学的組成物。
【請求項12】
等張化剤が、塩、糖類、及びアミノ酸の群より選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の液体薬学的組成物。
【請求項13】
等張化剤がスクロース又は塩化ナトリウムのいずれかである、請求項12に記載の液体薬学的組成物。
【請求項14】
等張化剤が約200mM以上の濃度のスクロースである、請求項13に記載の液体薬学的組成物。
【請求項15】
等張化剤が約200mM~280mMの濃度のスクロースである、請求項13又は14に記載の液体薬学的組成物。
【請求項16】
等張化剤が約240mMの濃度のスクロースである、請求項13から15のいずれか一項に記載の液体薬学的組成物。
【請求項17】
メチオニンの濃度が約5~15mMである、請求項1から16のいずれか一項に記載の液体薬学的組成物。
【請求項18】
メチオニンの濃度が約10mMである、請求項17に記載の液体薬学的組成物。
【請求項19】
界面活性剤の濃度が約0.2~0.8mg/mlである、請求項1から18のいずれか一項に記載の液体薬学的組成物。
【請求項20】
界面活性剤が、ポリソルベート20又はポロキサマー188である、請求項1から19のいずれか一項に記載の液体薬学的組成物。
【請求項21】
界面活性剤が、0.2~0.8mg/mlの濃度のポリソルベート20である、請求項20に記載の液体薬学的組成物。
【請求項22】
界面活性剤が、約0.5mg/mlの濃度のポリソルベート20である、請求項21に記載の液体薬学的組成物。
【請求項23】
液体薬学的組成物であって、
約5から約6のpHで、
約1から5mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体と;
約15~25mMのヒスチジンバッファーと;
約200~280mMのスクロースと;
約0~15mMのメチオニンと;
約0.2~0.8mg/mlのPS20と;
を含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の液体薬学的組成物。
【請求項24】
液体薬学的組成物であって、
約5.5のpHで、
約1mg/mlのグロフィタマブと;
約20mMのヒスチジンバッファーと;
約240mMのスクロースと;
約10mMのメチオニンと;
約0.5mg/mlのPS20と;
を含む、請求項1から23のいずれか一項に記載の液体薬学的組成物。
【請求項25】
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体に対するPS20のモル比が100未満である、請求項1から24のいずれか一項に記載の液体薬学的組成物。
【請求項26】
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体に対するPS20のモル比が50と100の間である、請求項25に記載の液体薬学的組成物。
【請求項27】
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体に対するPS20のモル比が約79である、請求項26に記載の液体薬学的組成物。
【請求項28】
細胞増殖性障害を治療するのに有用な医薬の調製のための、請求項1から27のいずれか一項に記載の液体薬学的組成物の使用。
【請求項29】
細胞増殖性障害の治療又はその進行の遅延を必要とする対象において、それに使用するための請求項1から27のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項30】
細胞増殖性障害の治療又はその進行の遅延を必要とする対象における、その治療方法又は遅延方法であって、対象に有効量の請求項1から27のいずれか一項に記載の液体薬学的組成物を投与することを含む、方法。
【請求項31】
細胞増殖性障害ががんである、請求項28から30のいずれか一項に記載の、使用、使用のための液体薬学的組成物、又は方法。
【請求項32】
上に記載された発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の薬学的組成物及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジー治療法の開発における主要な課題の1つはタンパク質の安定性であり、市場に投入されるまでの複数のプロセス工程でタンパク質の安定性を維持する必要がある。さらに、タンパク質の安定性は、保存中だけでなく、患者への投与中も維持されなければならない。治療用抗体は、例えば静脈内投与又は皮下投与によって、対象に投与するために水性担体に製剤化することができる。このような薬学的組成物の保存、取り扱い、投与の際には、フィルタ、保存用キャニスター、チューブ、シリンジ、点滴液バッグ、その他の容器の表面へのタンパク質の吸着など、分解及び表面吸着によって起こり得る治療用抗体の損失を軽減する必要がある。低濃度製剤及び高濃度製剤はどちらも、研究開発時及び製造時にそれぞれの課題をもたらす。例えば、低濃度では表面吸着の影響を強く受けるのに対して、高濃度では高い粘度を示すことがある。
【0003】
薬学的組成物が比較的低濃度の治療用タンパク質を含有する場合、タンパク質の損失はこれらの要因によって劇的に増加することがあり、その結果、薬学的組成物の治療効果が低下する。
【0004】
したがって、当分野では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、低用量の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体、例えば、低用量の抗CD20/抗CD3 T細胞エンゲージング二重特異性抗体、例えば、グロフィタマブ)が安定であるとともに吸着による損失から保護された薬学的製剤を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 T細胞エンゲージング二重特異性抗体(TCB)、例えば、グロフィタマブ、RO7082859、又はRG6026)の薬学的組成物、及びその使用方法に関する。開示された組成物及び関連する方法は、低濃度で製剤化された抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)を送達するという問題に対処し、保存中及び投与中にタンパク質をほとんど又は全く損失させることなく、意図した用量の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)を患者が受け取れるようにする。
【0006】
一態様では、本発明は、液体薬学的組成物であって、
約5.0から約6.0の範囲のpHで、
約1から25mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体;
約10から50mMの緩衝剤;
約≧200mMの等張化剤;
約0~15mMのメチオニン;及び
約≧0.2mg/mlの界面活性剤;
を含み、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体が、
a)CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
b)CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む、液体薬学的組成物を特徴とする。
【0007】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)の濃度は、約1から5mg/mlの範囲である。一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)の濃度は、約0.9から1.1mg/mlの範囲である。一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)の濃度は約1mg/mlである。
【0008】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、
a)配列番号7の重鎖可変領域配列及び配列番号8の軽鎖可変領域配列を含む、CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
b)配列番号15の重鎖可変領域配列及び配列番号16の軽鎖可変領域配列を含む、CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む。
【0009】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、
a)CD3、特にCD3イプシロンに特異的に結合する第1のFab分子であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって交換されている第1のFab分子と;
b)CD20に特異的に結合する第2のFab分子及び第3のFab分子であって、第2のFab分子及び第3のFab分子の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)により置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)又はアルギニン(R)により、特にアルギニン(R)により置換されており(Kabatによる番号付け)、第2のFab分子及び第3のFab分子の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されており(EU番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されている(EU番号付け)、第2のFab分子及び第3のFab分子と;
c)安定な会合が可能な第1のサブユニットと第2のサブユニットから構成されるFcドメインと
を含む。
【0010】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、グロフィタマブである。
【0011】
一実施態様では、緩衝剤は、ヒスチジンバッファー、任意選択的にヒスチジンHClバッファーである。一実施態様では、緩衝剤は、約15から25mMの濃度である。一実施態様では、緩衝剤は、約20mMの濃度である。一実施態様では、緩衝剤は、約5.2から約5.8のpHを提供する。
【0012】
一実施態様では、等張化剤は、塩、糖、アミノ酸の群から選択される。一実施態様では、等張化剤は、スクロース又は塩化ナトリウムのいずれかである。一実施態様では、等張化剤は、約200mM以上の濃度のスクロースである。一実施態様では、等張化剤は、約200mM~280mMの濃度のスクロースである。一実施態様では、等張化剤は、約240mMの濃度のスクロースである。
【0013】
一実施態様では、メチオニンは、約5~15mMの濃度である。
【0014】
一実施態様では、メチオニンは、約10mMの濃度である。一実施態様では、界面活性剤は、約0.2~0.8mg/mlの濃度である。一実施態様では、界面活性剤は、ポリソルベート20又はポロキサマー188である。一実施態様では、界面活性剤は、0.2~0.8mg/mlの濃度のポリソルベート20である。一実施態様では、界面活性剤は、約0.5mg/mlの濃度のポリソルベート20である。
【0015】
一実施態様では、液体薬学的組成物は、
約5から約6のpHで、
約1から5mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)であって、
a)CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
b)CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む約1から5mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体と;
約15~25mMのヒスチジンバッファーと;
約200~280mMのスクロースと;
約0~15mMのメチオニンと;
約0.2~0.8mg/mlのPS20と
を含む。
【0016】
一実施態様では、液体薬学的組成物は、
約5.5のpHで、
約1mg/mlのグロフィタマブと;
約20mMのヒスチジンバッファーと;
約240mMのスクロースと;
約10mMのメチオニンと;
約0.5mg/mlのPS20と
を含む。
【0017】
一実施態様では、本発明は、細胞増殖性障害の治療に有用な医薬の調製のための、先述の態様及び実施態様のいずれかの液体薬学的組成物の使用を提供する。
【0018】
別の態様では、本発明は、それを必要とする対象における細胞増殖性障害の治療又は進行遅延に使用するための、先述の態様及び実施態様のいずれかの薬学的組成物を特徴とする。
【0019】
別の態様では、本発明は、先述の態様及び実施態様のいずれかの有効量の薬学的組成物を対象に投与することを含む、それを必要とする対象における細胞増殖性障害の治療又は進行遅延に使用するための、先述の態様及び実施態様のいずれかの薬学的組成物を特徴とする。
【0020】
特定の実施態様では、細胞増殖性障害はがんである。
【0021】
本発明のさらなる態様は、本明細書に記載される発明に関連する。
【0022】
各実施態様及びいずれの実施態様も、文脈から明らかにそうでないことが示唆されない限り、組み合わせることができる。各実施態様及びいずれの実施態様も、文脈から明らかに異なることが示唆されない限り、本発明の各態様及びいずれの態様にも適用することができる。
【0023】
本発明の特定の実施態様は、特定の好ましい実施態様及び特許請求の範囲の、以下のより詳細な説明より明らかになるであろう。
【0024】
本出願ファイルの内容は、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含有する。カラー図面付きの本特許又は本特許出願のコピーは、要請と必要な手数料を支払うことにより、特許庁から提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1A-F】例示的な抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の構成を示す概略図。
【
図1G-N】例示的な抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の構成を示す概略図。
【
図3】製剤開発GLP Tox及びヒト研究への導入。製剤F1からF5の界面活性剤含量、初期と5、25、又は40℃で6週間保存後との比較。
【
図4A】製剤開発GLP Tox及びヒト研究への導入、製剤F1からF5のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、初期と5、25、又は40℃で6週間保存後との比較。
図4A:メインピーク。
【
図4B】製剤開発GLP Tox及びヒト研究への導入、製剤F1からF5のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、初期と5、25、又は40℃で6週間保存後との比較。
図4B:高分子量(HMW)。
【
図4C】製剤開発GLP Tox及びヒト研究への導入、製剤F1からF5のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、初期と5、25、又は40℃で6週間保存後との比較。
図4C:低分子量(LMW)。
【
図5A】製剤開発GLP Tox及びヒト研究への導入、製剤F1からF5のイオン交換クロマトグラフィー(IEC)、初期と5、25、又は40℃で6週間保存後との比較。
図5A:メインピーク。
【
図5B】製剤開発GLP Tox及びヒト研究への導入、製剤F1からF5のイオン交換クロマトグラフィー(IEC)、初期と5、25、又は40℃で6週間保存後との比較。
図5B.HMW。
【
図5C】製剤開発GLP Tox及びヒト研究への導入、製剤F1からF5のイオン交換クロマトグラフィー(IEC)、初期と5、25、又は40℃で6週間保存後との比較。
図5C.LMW。
【
図6】製剤開発84週までの製剤F1の分析結果。F1=5mg/ml RO7022859(すなわち、グロフィタマブ)、20mMのヒスチジンHCl pH5.5、240mMのスクロース、10mMのメチオニン、0.05%(w/v)のポリソルベート20。
【
図7A】製剤開発GLP Tox及びヒト研究への導入、製剤F1からF5のhuCD20結合、初期と5、25、又は40℃で3週間及び6週間保存後との比較
【
図7B】製剤開発GLP Tox及びヒト研究への導入、F1からF5のhuCD3結合、初期と5、25、又は40℃で3週間及び6週間保存後との比較。
【
図8A-B】第III相及び市販製剤のための開発研究。5℃で104週間保存後のタンパク質濃度に応じた、グロフィタマブのサイズ排除(SE)-HPLC % HMWS(
図8A)及びイオン交換(IE)-HPLC % 酸性領域(
図8B)。
【
図9A-B】第III相及び市販製剤のための開発研究。40℃で6w保存後のpH及び安定剤(メチオニン)添加に応じた、グロフィタマブSE-HPLC % HMWS(
図9A)及び% 酸性領域(
図9B)。
【
図10A-B】第III相及び市販製剤のための開発研究。25℃で26週間保存後の等張化剤に応じた、可視粒子形成を含むグロフィタマブのSE-HPLC % HMWS及びIE-HPLC % 酸性領域。
【
図11A-B】第III相及び市販製剤のための開発研究。25℃で7日間の振とう後の界面活性剤に応じた、可視粒子形成を含むグロフィタマブのSE-HPLC % HMWS(
図11A)及びIE-HPLC % 酸性領域(
図11B)。
【
図12】第III相及び市販製剤のための開発研究。初期及び5℃で104週間保存後のタンパク質濃度に応じた、グロフィタマブPS20含量[mg/ml]及び可視粒子形成。
【
図13】長期安定性データ:安定性に関するグロフィタマブDPバッチ例のPS20含量(2-8℃での保存)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の薬学的組成物及びその使用方法に関する。開示された組成物及び関連する方法は、低濃度で製剤化された抗CD20/抗CD3二重特異性抗体を送達するとい問題に対処し、保存中及び投与中に二重特異性抗体をほとんど又は全く損失させることなく、意図した用量の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体を患者が受け取れるようにする。
【0027】
I.一般技法
本開示の実施は、別途記載がない限り、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、及び免疫学の従来の技術を使用し、これらは当業者の技術範囲内である。このような技術は、例えば「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、, 第二版 (Sambrook et al., 1989); 「Oligonucleotide Synthesis」(M. J. Gait, ed., 1984); 「Animal Cell Culture」(R. I. Freshney, ed., 1987);「Methods in Enzymology」(Academic Press, Inc.);「Current Protocols in Molecular Biology」(F. M. Ausubel et al.,1987,及び定期的更新版);「PCR: The Polymerase Chain Reaction」, (Mullis et al., eds., 1994);「A Practical Guide to Molecular Cloning」(Perbal Bernard V., 1988);「Phage Display: A Laboratory Manual」(Barbas et al., 2001)等の文献に十分に説明されている。
【0028】
II.定義
本明細書の用語は、以下で特に定義されない限り、当技術分野で一般に使用されるように使用される。
【0029】
本明細書で使用される場合、「分化20のクラスター」又は「CD20」という用語は、別途指示がない限り、霊長類(例えば、ヒト)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)等の哺乳動物を含む、任意の脊椎動物源に由来する任意の天然CD20を指す。CD20(Bリンパ球抗原CD20、Bリンパ球表面抗原B1、Leu-16、Bp35、BM5、及びLF5としても知られ;ヒトタンパク質は、UniProtデータベースエントリー番号P11836を特徴とする)は、プレB及び成熟Bリンパ球CD20で発現される分子量約35kDの疎水性膜貫通タンパク質である(Valentine, M.A. et al., J. Biol. Chem. 264 (1989)11282-11287; Tedder, T.F., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85 (1988)208-212; Stamenkovic, I., et al., J. Exp. Med. 167 (1988)1975-1980; Einfeld, D.A., et al., EMBO J. 7 (1988)711-717; Tedder, T.F., et al., J. Immunol. 142 (1989)2560-2568)。対応するヒト遺伝子は、MS4A1としても知られる膜貫通4ドメイン、サブファミリーA、メンバー1である。この遺伝子は、膜貫通4A遺伝子ファミリーのメンバーをコードする。この新生タンパク質ファミリーのメンバーは、共通の構造的特徴及び類似のイントロン/エクソンスプライス境界によって特徴付けられ、造血細胞及び非リンパ組織の間で固有の発現パターンを示す。この遺伝子は、B細胞の形質細胞への発達及び分化において役割を果たすBリンパ球表面分子をコードする。このファミリーメンバーは、ファミリーメンバーのクラスターの中で11q12に局在している。この用語は、「完全長」の、未処理のCD20、並びに細胞内でのプロセシングから生じた任意の形態のCD20を包含する。この用語は、CD20の天然に存在するバリアント、例えばスプライスバリアント又は対立遺伝子バリアントも包含する。この遺伝子の選択的スプライシングは、同じタンパク質をコードする2つの転写変異体をもたらす。一実施態様では、CD20はヒトCD20である。
【0030】
「抗CD20抗体」及び「CD20に結合する抗体」という用語は、抗体がCD20の標的化において診断剤及び/又は治療剤として有用であるような充分な親和性で、CD20に結合可能である抗体を指す。一実施態様では、無関係な非CD20タンパク質に対する抗CD20抗体の結合度は、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)によって測定される、CD20に対する抗体の結合の約10%未満である。特定の実施態様では、CD20に結合する抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM(例えば10-8M以下、例えば、10-8から10-13M、例えば10-9から10-13M)の解離定数(KD)を有する。特定の実施態様では、抗CD20抗体は、異なる種に由来するCD20間で保存されているCD20のエピトープに結合する。
【0031】
「II型抗CD20抗体」は、Cragg et al., Blood 103 (2004) 2738-2743; Cragg et al., Blood 101 (2003) 1045-1052, Klein et al., mAbs 5 (2013), 22-33に記載され、以下の表1にまとめられたII型抗CD20抗体の結合特性及び生物活性を有する抗CD20抗体を意味する。
【0032】
II型抗CD20抗体の例には、例えば、オビヌツズマブ(GA101)、トシツモマブ(B1)、ヒト化B-Ly1抗体IgG1(国際公開第2005/044859号に開示されるようなキメラヒト化IgG1抗体)、11B8 IgG1(国際公開第2004/035607号に開示)及びAT80 IgG1が含まれる。
【0033】
I型抗CD20抗体の例には、例えば、リツキシマブ、オファツムマブ、ベルツズマブ、オカラツズマブ、オクレリズマブ、PRO131921、ウブリツキシマブ、HI47 IgG3(ECACC、ハイブリドーマ)、2C6 IgG1(国際公開第2005/103081号に開示)、2F2 IgG1(国際公開第2004/035607号及び同第2005/103081号に開示)、及び2H7 IgG1(国際公開第2004/056312号に開示)が含まれる。
【0034】
別途指示がない限り、「CD3」は、霊長類(例えばヒト)、非ヒト霊長類(例えば、カニクイザル)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)といった哺乳動物を含む任意の脊椎動物源由来の任意の天然CD3を指す。この用語は、「完全長」の、未処理のCD3、並びに細胞内でのプロセシングから生じた任意の形態のCD3を包含する。この用語は、CD3の天然に存在するバリアント、例えばスプライスバリアント又は対立遺伝子バリアントも包含する。一実施態様では、CD3は、ヒトCD3、特にヒトCD3のイプシロンサブユニット(CD3ε)である。ヒトCD3εのアミノ酸配列は、UniProt(www.uniprot.org)のアクセッション番号P07766(バージョン144)、又はNCBI(www.ncbi.nlm.nih.gov/) RefSeq NP_000724.1に示されている。カニクイザルサル[Macaca fascicularis]のアミノ酸配列CD3εは、NCBI GenBank番号BAB71849.1に示されている。
【0035】
「抗CD20/抗CD3抗体」、「抗CD20/抗CD3二重特異性抗体」及び「CD20及びCD3に結合する二重特異性抗体」という用語は、抗体がCD20及び/又はCD3を標的とする際に診断剤及び/又は治療剤として有用であるように、十分な親和性によってCD20及びCD3に結合することができる二重特異性抗体を指す。一実施態様では、無関係の非CD3タンパク質及び/又は非CD20タンパク質への、CD20及びCD3に結合する二重特異性抗体の結合の程度は、例えば、放射免疫測定法(RIA)等によって測定される場合、CD3及び/又はCD20への抗体の結合の約10%未満である。特定の実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM(例えば、10-8M以下、例えば、10-8Mから10-13M、例えば10-9Mから10-13M)の解離定数(KD)を有するCD20及び/又はCD3のそれぞれに結合する。特定の実施態様では、CD20及びCD3に結合する二重特異性抗体は、異なる種由来のCD3の間で保存されているCD3のエピトープ及び/又は異なる種由来のCD20の間で保存されているCD20のエピトープに結合する。抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の一例は、グロフィタマブ(WHO Drug Information(医薬品の国際一般名)、推奨INN:リスト83, 2020, vol. 34, no. 1, p. 39、抗CD20/抗CD3 T細胞エンゲージング二重特異性抗体(TCB)、CD20-TCB、RO7082859、又はRG6026; CAS #: 2229047-91-8)である。
【0036】
本明細書で使用される用語「アミノ酸変異」は、アミノ酸置換、欠失、挿入及び修飾を包含することを意味する。置換、欠失、挿入及び修飾の任意の組合せは、最終構築物が、所望の特徴、例えば、Fc受容体に対する結合の、低下を有する限り、最終構築物に到達するように行うことができる。アミノ酸配列の欠失及び挿入には、アミノ末端及び/又はカルボキシ末端の欠失、並びにアミノ酸の挿入が含まれる。特にアミノ酸の変異は、アミノ酸置換である。例えばFc領域の結合特性を変化させる目的で、非保存的アミノ酸置換、すなわち1つのアミノ酸を異なる構造及び/又は化学特性を有する別のアミノ酸に置き換えることが特に好ましい。アミノ酸置換には、天然に存在しないアミノ酸による置き換え、又は20種類の一般的なアミノ酸の天然に存在するアミノ酸誘導体による置き換えが含まれる(例えば、4-ヒドロキシプロリン、3-メチルヒスチジン、オルニチン、ホモセリン、5-ヒドロキシリジン)。アミノ酸変異は、当技術分野で周知の遺伝学的方法又は化学的方法を用いて生じさせることができる。遺伝学的方法には、部位特異的変異誘発、PCR、遺伝子合成等が含まれ得る。遺伝子工学以外の方法、例えば化学修飾によるアミノ酸の側鎖基を変化させる方法も有用であり得ると考えられる。本明細書では、同じアミノ酸変異を示すために、様々な表記が使用される。例えば、Fc領域の329位のプロリンからグリシンへの置換は、329G、G329、G329、P329G、又はPro329Glyと示すことができる。
【0037】
「親和性」は、分子(例えば受容体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えばリガンド)との間の非共有結合的相互作用の総和の強度を指す。本明細書で使用される場合、「結合親和性」は、別途指示がない限り、結合対(例えば、受容体及びリガンド)のメンバー間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのパートナーYに対する親和性は、通常、解離定数(KD)で表すことができ、これは解離速度定数と会合速度定数(それぞれkoff及びkon)の比である。したがって、速度定数の比が同じままである限り、同等の親和性は異なる速度定数を含み得る。親和性は、当該技術分野で既知の十分に確立された方法によって測定され得る。親和性を測定するための特定の方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)である。
【0038】
「親和性成熟」抗体とは、改変等を有しない親抗体と比較して、1つ又は複数の超可変領域(HVR)に1つ又は複数の改変を有し、このような改変により抗体の抗原に対する親和性が改善される抗体を指す。
【0039】
本明細書で使用される用語「抗原結合部分」は、抗原決定基に特異的に結合するポリペプチド分子を指す。一実施態様では、抗原結合部分は、それが結合する実体(例えば、サイトカイン又は第2の抗原結合部分)を標的部位へ、例えば特定の型の腫瘍細胞又は抗原決定基を有する腫瘍間質へと方向付けることができる。抗原結合部分には、本明細書でさらに定義する抗体及びその断片が含まれる。好ましい抗原結合部分には、抗体重鎖可変領域と抗体軽鎖可変領域とを含む、抗体の抗原結合ドメインが含まれる。一部の実施態様では、抗原結合部分は、後述でさらに定義される、当技術分野で既知の抗体定常領域を含む。有用な重鎖定常領域は、α、δ、ε、γ又はμの5つのアイソタイプのいずれかを含む。有用な軽鎖定常領域は、κ及びλの2つのアイソタイプのいずれかを含む。
【0040】
「特異的結合」とは、その結合が抗原選択性であり、望ましくない相互作用又は非特異的な相互作用とは判別できることを意味する。抗原結合部分の、特定の抗原決定基への結合能は、酵素結合免疫吸着法(ELISA)又は当業者によく知られた他の技術、例えば、表面プラズモン共鳴技術(BIACORE(商標登録)計器での解析)(Liljeblad et al., Glyco J.17, 323-329 (2000))、及び古典的結合アッセイ(Heeley, Endocr Res.28, 217-229 (2002))により測定することができる。一実施態様では、抗原結合部分の無関係なタンパク質への結合の程度は、例えばSPRによって測定した場合、抗原結合部分の抗原への結合の約10%未満である。特定の実施態様では、抗原に結合する抗原結合部分、又は抗原結合部分を含む抗原結合分子は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM(例えば10-8M以下、例えば10-8Mから10-13M、例えば10-9Mから10-13M)の解離定数(KD)を有する。
【0041】
「結合の低減」、例えばFc受容体への結合の低減は、例えばSPRによって測定した場合の、それぞれの相互作用に対する親和性の低下を指す。明確性のために、本用語はまた、親和性がゼロ(又は分析方法の検出限界を下回る)までの低減、すなわち、相互作用の完全な終止も含む。逆に、「結合の増加」とは、それぞれの相互作用に対する結合親和性の増加を指す。
【0042】
本明細書で使用される場合、用語「抗原結合分子」は、その最も広い意味で、抗原決定基に特異的に結合する分子を指す。抗原結合分子の例は、免疫グロブリン及び誘導体、例えばそれらの断片である。
【0043】
本明細書において使用される用語「抗原決定基」は、「抗原」及び「エピトープ」と同義であり、抗原結合部分が結合し、抗原結合部分-抗原複合体を形成するポリペプチド巨大分子上の部位(例えば、アミノ酸の連続的広がり又は非連続的アミノ酸の異なる領域から形成される立体配座構造)を指す。有用な抗原決定基は、例えば、腫瘍細胞の表面上に、ウイルス感染細胞の表面上に、その他の疾患細胞の表面上に、血清中に遊離して、及び/又は細胞外マトリックス(ECM)中に、見出すことができる。別途指示がない限り、本明細書において抗原と呼ばれるタンパク質(例えば、CD3)は、霊長類(例えば、ヒト)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)などの哺乳動物を含む任意の脊椎動物源由来のタンパク質の任意の天然型を指す。特定の実施態様では、抗原は、ヒトタンパク質である。この用語は、本明細書における特定のタンパク質を指す場合、「全長」、未加工のタンパク質も、細胞内でのプロセシングから得られるいかなる形態のタンパク質も包含する。この用語は、タンパク質の天然に存在するバリアント、例えば、スプライスバリアント又は対立遺伝子バリアントも包含する。抗原として有用な例示的なヒトタンパク質は、CD3、特にCD3のイプシロンサブユニットである(ヒト配列についてはUniProt no.P07766(バージョン130)、NCBI RefSeq no. NP_000724.1を;カニクイザル[Macaca fascicularis] 配列についてはUniProt no.Q95LI5(バージョン49)、NCBI GenBank no. BAB71849.1を参照)。特定の実施態様では、本明細書に記載されるT細胞活性化二重特異性抗原結合分子は、様々な種由来のCD3又は標的細胞抗原の中でも保存された、CD3又は標的細胞抗原のエピトープに結合する。
【0044】
本明細書において使用される用語「ポリペプチド」は、アミノ結合(ペプチド結合としても知られる)により線形に結合したモノマー(アミノ酸)からなる分子を指す。用語「ポリペプチド」は、2つ以上のアミノ酸から成る鎖を指すのであって、該生成物の特定の長さのものを指すのではない。したがって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、又は2つ以上のアミノ酸の鎖を指す他のいかなる用語も「ポリペプチド」の定義の範囲内に含まれ、用語「ポリペプチド」は、これらのいずれの用語の代わりに、又はそれらと互換的に使用することができる。用語「ポリペプチド」は、ポリペプチドの発現後修飾の産物を指すことも意図されており、このような産物には、限定されないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護基/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質切断、又は天然に存在しないアミノ酸による修飾が含まれる。ポリペプチドは、天然の生物学的供給源から得られるものでも組換え技術により生産されるものでもよいが、必ずしも指定された核酸配列から翻訳されたものであるとは限らない。ポリペプチドは、化学合成を含むあらゆる手法で製造することができる。本発明のポリペプチドは、約3以上、5以上、10以上、20以上、25以上、50以上、75以上、100以上、200以上、500以上、1000以上、又は2000以上のアミノ酸から成るサイズのものである。ポリペプチドは、明確に定義された三次元構造を有する場合もあるが、必ずしもそのような構造を有するとは限らない。明確に定義された三次元構造を有するポリペプチドは、「フォールディングされた」と言われ、明確に定義された三次元構造を有せずに多数の異なるコンフォメーションを採り得るポリペプチドは、「フォールディングされていない」と言われる。
【0045】
「単離された」ポリペプチド若しくは変異体、又はその誘導体は、その自然の環境にないポリペプチドであることが意図される。特に精製は必要ではない。例えば、単離ポリペプチドは、その天然又は自然の環境から取り出すことができる。宿主細胞で発現した組換え生産ポリペプチド及びタンパクは、任意の適切な技術により分離、画分化又は部分的若しくは実質的に精製された天然又は組換えポリペプチドと同様に、本発明のために単離されたものと見なされる。
【0046】
基準となるポリペプチド配列に関する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、配列同一性最大パーセントが得られるように、配列をアライメントし、必要に応じてギャップを導入した後に、いかなる保存的置換も配列同一性の部分として考慮せずに、基準となるポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同一である、候補配列におけるアミノ酸残基の割合として定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するためのアラインメントは、当分野の技術の範囲内にある様々な方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN又はMEGALIGN(登録商標)(DNASTAR(登録商標))ソフトウェアのような一般に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して得ることができる。当業者であれば、比較される配列の完全長に対して最大の整列を達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列を整列させるための適切なパラメータを決定することができる。しかしながら、本明細書の目的のために、アミノ酸配列同一性%値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用して生成される。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、Genentech,Inc.が作成したものであり、ソースコードは、使用者用書類と共に、米国著作権局、Washington D.C.、20559に提出され、米国著作権登録番号TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、Genentech,Inc.(South San Francisco,California)から公的に入手可能であり、又はそのソースコードからコンパイルすることができる。ALIGN-2プログラムは、デジタルUNIX(登録商標)V4.0Dを含め、UNIX(登録商標)オペレーティングシステムで使用するためにコンパイルされるべきである。全ての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムによって設定されており、変わらない。アミノ酸配列比較にALIGN-2が用いられる状況では、所与のアミノ酸配列Aの、所与のアミノ酸配列Bとの(又はこれに対する)アミノ酸配列同一性%(或いは、所与のアミノ酸配列Aは、所与のアミノ酸配列Bと(又はこれに対して)特定のアミノ酸配列同一性%を有するか又は含む所与のアミノ酸配列A、ということもできる)は次のように計算される:
100×分数X/Y
ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN-2により、AとBのそのプログラムのアラインメントにおいて同一と一致したスコアのアミノ酸残基の数であり、YはBの全アミノ酸残基数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと異なる場合、AのBに対する%アミノ酸配列同一性は、BのAに対する%アミノ酸配列同一性とは異なることは理解されるであろう。別途明記しない限り、本明細書で使用されるすべての%アミノ酸配列同一性値が、ALIGN-2コンピュータプログラムを使用し、直前の段落で説明したように、得られる。
【0047】
本明細書における「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、様々な抗体構造を包含し、限定されないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び所望の抗原結合活性を示す限り、抗体断片を含む。
【0048】
「完全長抗体」、「インタクトな抗体」、及び「全抗体」という用語は、本明細書で、天然抗体構造と実質的に同様の構造を有するか、又は本明細書に定義されるFc領域を含有する重鎖を有する抗体を指すように同義に使用される。
【0049】
「抗体断片」は、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部分を含む、インタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例としては、限定されないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SHは、F(ab’)2、ダイアボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子(例えば、scFv)、及び抗体断片から形成された多重特異性抗体が含まれる。本明細書で使用される場合の用語「抗体断片」は、単一ドメイン抗体も包含する。
【0050】
「免疫グロブリン分子」という用語は、天然に存在する抗体の構造を有するタンパク質を指す。例えば、IgGクラスの免疫グロブリンは、ジスルフィド結合している2つの軽鎖及び2つの重鎖から構成される約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端にかけて、各重鎖は、可変重鎖ドメイン又は重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)、続いて重鎖定常領域とも呼ばれる3つの定常ドメイン(CH1、CH2及びCH3)を有する。同様に、N末端からC末端に、各軽鎖は可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)を有し、その後に、軽鎖定常領域とも呼ばれる定常軽鎖(CL)ドメインが続いている。免疫グロブリンの重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)又はμ(IgM)と呼ばれる5つのクラスのうちの1つに割り当てることができ、そのうちのいくつかはサブクラス、例えば、γ1(IgG1)、γ2(IgG2)、γ3(IgG3)、γ4(IgG4)、α1(IgA1)及びα2(IgA2)にさらに分類することができる。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)とラムダ(λ)と呼ばれる2種類のうちの1つに割り当てることができる。免疫グロブリンは、本質的に、免疫グロブリンのヒンジ領域を介して結合された2つのFab分子とFcドメインからなる。
【0051】
用語「抗原結合ドメイン」は、抗原の一部又は全部に特異的に結合し且つ抗原の一部又は全部に相補的な領域を含む、抗体の部分を指す。抗原結合ドメインは、例えば、1又は複数の抗体可変ドメイン(抗体可変領域ともいう)によって提供されてもよい。好ましくは、抗原結合ドメインは、抗体軽鎖可変領域(VL)と、抗体重鎖可変領域(VH)とを含む。
【0052】
「可変領域」又は「可変ドメイン」という用語は、抗体の抗原への結合に関与する抗体の重鎖又は軽鎖のドメインを指す。天然型抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH及びVL)は、一般に、各々が四つの保存されたフレームワーク領域(FR)と三つの超可変領域(HVR)とを含む類似構造を有する。例えば、Kindt et al., Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007)を参照されたい。抗原結合特異性を与えるために、単一のVH又はVLドメインで十分な場合がある。
【0053】
「ヒト抗体」は、ヒト若しくはヒト細胞により産生された抗体の、又はヒト抗体レパートリーを利用する非ヒト源に由来する抗体のアミノ酸配列、あるいは他のヒト抗体をコードする配列に対応するアミノ酸配列を有する抗体である。このヒト抗体の定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を明確に除外する。
【0054】
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVR由来のアミノ酸残基、及びヒトFR由来のアミノ酸残基を含むキメラ抗体を指す。所定の実施態様において、ヒト化抗体は、少なくとも一つ、典型的には2つの可変ドメインの全てを実質的に含み、HVR(例えば、CDR)の全て又は実質的に全てが、非ヒト抗体のものに対応し、全て又は実質的にFRの全てが、ヒト抗体のものに対応する。ヒト化抗体は、任意選択的に、ヒト抗体由来の抗体定常領域の少なくとも一部を含んでもよい。抗体、例えば、非ヒト抗体の「ヒト化形態」は、ヒト化を受けた抗体を指す。
【0055】
「超可変領域」又は「HVR」という用語は、本明細書で使用される場合、配列において超可変性であり(「相補性決定領域」又は「CDR」)、及び/又は構造的に所定のループ(「超可変ループ」)を形成し、及び/又は抗原に接触する残基(「抗原接触」)を含有する抗体可変ドメインのそれぞれの領域を指す。通常、抗体は、6つのHVR:VHに3つ(H1、H2、H3)、及びVLに3つ(L1、L2、L3)を含む。本発明の例示的なHVRとして、以下のものが挙げられる:
(a)アミノ酸残基26-32(L1)、50-52(L2)、91-96(L3)、26-32(H1)、53-55(H2)及び96-101(H3)に生じる超可変ループ(Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987));
(b)アミノ酸残基24-34(L1)、50-56(L2)、89-97(L3)、31-35b(H1)、50-65(H2)、及び95-102(H3)に生じるCDR(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991));
(c)アミノ酸残基27c-36(L1)、46-55(L2)、89-96(L3)、30-35b(H1)、47-58(H2)、及び93-101(H3)に生じる抗原コンタクト(MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));並びに
(d)HVRアミノ酸残基46-56(L2)、47-56(L2)、48-56(L2)、49-56(L2)、26-35(H1)、26-35b(H1)、49-65(H2)、93-102(H3)、及び94-102(H3)を含む(a)、(b)及び/又は(c)の組み合わせ。
【0056】
別途指示がない限り、HVR残基及び可変ドメイン内の他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書において、上記のKabatらに従って番号付けされている。
【0057】
「フレームワーク」又は「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般に4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、FR4で構成される。したがって、HVR及びFR配列は、一般的に、VH(又はVL)中において以下の配列で現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4で現れる。
【0058】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVL又はVHフレームワーク配列の選択において最も一般的に生じるアミノ酸残基を表すフレームワークである。一般に、ヒト免疫グロブリンVL又はVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからである。一般に、配列のサブグループは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, NIH Publication 91-3242, Bethesda MD (1991), vols. 1-3のサブグループである。一実施態様では、VLについては、サブグループは、Kabatら(上記参照)におけるサブグループカッパIである。一実施態様において、VHについて、該サブグループは上記のKabatらにあるようなサブグループIIIである。
【0059】
本明細書の目的では、「アクセプターヒトフレームワーク」とは、以下に定義するように、ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークに由来する軽鎖可変ドメイン(VL)フレームワーク又は重鎖可変ドメイン(VH)フレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワーク「由来の」アクセプターヒトフレームワークは、その同じアミノ酸配列を含んでいてもよく、又はアミノ酸配列の変更を含んでいてもよい。いくつかの実施態様では、アミノ酸変化の数は、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、又は2以下である。いくつかの実施態様では、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列又はヒトコンセンサスフレームワーク配列に対して、配列が同一である。
【0060】
抗体の「クラス」は、その重鎖によって保有される定常ドメイン又は定常領域の型を指す。抗体の5つの主なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、これらのいくつかは、更にサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2に分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。
【0061】
本明細書で使用される場合、IgG「アイソタイプ」又は「サブクラス」という用語は、それらの定常領域の化学的及び抗原的特性によって定義される免疫グロブリンのサブクラスのうちのいずれかを意味する。
【0062】
「Fcドメイン」又は「Fc領域」という用語は、本明細書において、定常領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。この用語は、天然配列Fc領域及びバリアントFc領域を含む。IgG重鎖のFc領域の境界はわずかに変動し得るが、ヒトIgG重鎖のFc領域は通常、重鎖のCys226から又はPro230から、カルボキシル末端までと定義される。しかしながら、宿主細胞によって産生された抗体は、重鎖のC末端から1つ又は複数、特に1つ又は2つのアミノ酸の翻訳後切断を受けることがある。したがって、完全長重鎖をコードする特定の核酸分子の発現により、宿主細胞によって産生される抗体は、完全長重鎖を含むことも、完全長重鎖の切断されたバリアント(本明細書では「切断されたバリアント重鎖」とも呼ぶ)を含むこともある。これは、重鎖の最後の2つのC末端アミノ酸がグリシン(G446)とリジン(K447、EU番号付け)である場合に当てはまる。したがって、Fc領域のC末端リジン(Lys447)、又はC末端グリシン(Gly446)とリジン(K447)は、存在してもしなくてもよい。本明細書に明記されていない限り、Fc領域又は定常領域内のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al.,配列s of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991に記載されるように、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムに従う。Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991 (上記も参照)。本明細書において使用されるFcドメインの「サブユニット」は、二量体Fcドメインを形成する二つのポリペプチドの一方、即ち、免疫グロブリン重鎖のC末端定常領域を含み、安定な自己会合能を有するポリペプチドを指す。例えば、IgG Fcドメインのサブユニットは、IgG CH2及びIgG CH3定常ドメインを含む。
【0063】
「Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットとの会合を促進する修飾」は、Fcドメインサブユニットを含むポリペプチドと同一のポリペプチドとの会合によるホモダイマーの形成を低減又は防止する、ペプチド骨格の操作又はFcドメインサブユニットの翻訳後修飾である。ここで使用される会合を促進する修飾は、会合することが望ましい二つのFcドメインサブユニット(即ちFcドメインの第1及び第2のサブユニット)の各々に対して行われる別々の修飾を特に含み、これらの修飾は、二つのFcドメインサブユニットの会合を促進するために、互いに対して相補的である。例えば、会合を促進する修飾は、これらFcドメインサブユニットの一方又は両方の構造又は電荷を、それらの会合がそれぞれ立体的に又は静電気的に望ましいものになるように変化させる。したがって、(ヘテロ)二量体化が第1のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドと第2のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドとの間に起こり、これは、サブユニットの各々に融合したさらなる成分(例えば、抗原結合部分)が同じでないという意味で非同一であり得る。いくつかの実施態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメイン内のアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。特定の実施態様では、会合を促進する修飾は、Fcドメインの2つのサブユニットの各々における別々のアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。
【0064】
「活性化Fc受容体」は、抗体のFc領域による関与に続いて、受容体保有細胞を刺激してエフェクター機能を実行するシグナル伝達事象を誘発するFc受容体である。活性化Fc受容体には、FcγRIIIa(CD16a)、FcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)、及びFcαRI(CD89)が含まれる。
【0065】
用語「エフェクター機能」とは、抗体についての言及に使用される場合、抗体のアイソタイプにより変わる、抗体のFc領域に起因する生物学的活性を指す。抗体エフェクター機能の例には:C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);抗体依存性細胞貪食(ADCP);サイトカイン分泌;抗原提示細胞による免疫複合体媒介抗原取り込み;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御;及びB細胞の活性化が含まれる。
【0066】
本明細書において使用される場合、「エフェクター細胞」という用語は、エフェクター部分受容体、例えばサイトカイン受容体、及び/又はFc受容体を表面上に発現し、それによりエフェクター部分、例えばサイトカイン、及び/又は抗体のFc領域に結合して標的細胞、例えば腫瘍細胞の破壊に貢献するリンパ球の集団を指す。エフェクター細胞は、例えば細胞傷害性又は食作用効果を媒介する。エフェクター細胞には、限定されないが、エフェクターT細胞、例えばCD8+細胞傷害性T細胞、CD4+ヘルパーT細胞、γδT細胞、NK細胞、リンホカイン活性化キラー(LAK)細胞、及びマクロファージ/単球が含まれる。
【0067】
本明細書で使用される場合、「工学(的に)操作(する)」、「工学(的に)操作された(る)」、及び「工学(的に)操作すること」という用語は、天然に存在するポリペプチド又は組換えポリペプチド又はそれらの断片の、ペプチド骨格の任意の操作又は翻訳後修飾を含むと考えられる。工学的操作には、アミノ酸配列の修飾、グリコシル化パターンの修飾又は個々のアミノ酸の側鎖基の修飾と、これらの手法の組み合わせとが含まれる。特に接頭語「グリコ」を伴う「操作」、並びに用語「グリコシル化操作」は、細胞内で発現される糖タンパク質のグリコシル化の変化を達成するためのオリゴ糖合成経路の遺伝子操作を含む、細胞のグリコシル化機構の代謝操作を含む。さらに、グリコシル化操作には、グリコシル化に対する変異及び細胞環境の影響が含まれる。一実施態様では、グリコシル化操作は、グリコシルトランスフェラーゼ活性の変化である。特定の実施態様では、操作は、グルコサミニルトランスフェラーゼ活性及び/又はフコシルトランスフェラーゼ活性の変化をもたらす。グリコシル化操作を使用して、「増大したGnTIII活性を有する宿主細胞」(例えばβ(1,4)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII)活性を有する上昇したレベルの1つ又は複数のポリペプチドを発現するように操作された宿主細胞)、「増大したManII活性を有する宿主細胞」(例えばα-マンノシダーゼII(ManII)活性を有する上昇したレベルの1つ又は複数のポリペプチドを発現するように操作された宿主細胞)、又は「低減したα(1,6)フコシルトランスフェラーゼ活性を有する宿主細胞」(例えば低下したレベルのα(1,6)フコシルトランスフェラーゼを発現するように操作された宿主細胞)を得ることができる。
【0068】
「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養物」という用語は互換的に使用され、外因性の核酸が導入された細胞を指し、そのような細胞の子孫を含む。宿主細胞には、「形質転換体」及び「形質転換細胞」が含まれ、これらは、継代数によらず、一次形質転換細胞及びそれに由来する子孫を含む。子孫は、核酸の含有量が親細胞と完全に同一でなくてもよく、変異を含んでいてもよい。元の形質転換細胞においてスクリーニング又は選択されたのと同じ機能又は生物学的活性を有する変異子孫が本明細書に含まれる。宿主細胞は、本発明に使用されるタンパク質を生成するために使用できる任意の種類の細胞系である。一実施態様では、宿主細胞は修飾オリゴ糖を有する抗体の産生を可能にするように操作される。特定の実施態様では、宿主細胞は、β(1,4)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII)活性を有する1つ又は複数のポリペプチドの発現レベルが増加するように操作されている。特定の実施態様では、宿主細胞は、α-マンノシダーゼII(ManII)活性を有する1つ又は複数のポリペプチドの発現レベルを増加させるようにさらに操作されている。宿主細胞は、培養細胞、例えば、哺乳動物培養細胞、例えばCHO細胞、BHK細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、YO骨髄腫細胞、P3X63マウス骨髄細胞、PER細胞、PER.C6細胞又はハイブリドーマ細胞、酵母細胞、昆虫細胞、及び植物細胞だけでなく、トランスジェニック動物、トランスジェニック植物又は培養植物若しくは動物組織内に含まれる細胞も含む。
【0069】
本明細書で使用される場合、「GnTIII活性を有するポリペプチド」という用語は、N結合型オリゴ糖のトリマンノシルコアのβ結合型マンノシドへのβ-1,4の結合中のN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基の付加を触媒できるポリペプチドを指す。これには、特定の生物学的アッセイで測定した場合に、用量依存性あり又はなしで、Nomenclature Committee of the International Union of Biochemistry and Molecular Biology(NC-IUBMB)によればβ-1,4-マンノシル-糖タンパク質 4-ベータ-N-アセチルグルコサミニル-トランスフェラーゼ(EC 2.4.1.144)としても知られる、β(1,4)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIIIの活性に必ずしも同一ではないが類似の酵素活性を呈する融合ポリペプチドが含まれる。用量依存性が存在する場合には、GnTIIIのものと同一である必要はなく、むしろGnTIIIと比較したとき、所与の活性おける用量依存性と実質的に類似している必要がある(即ち候補ポリペプチドは、より大きな活性を呈するか又はGnTIIIの約25分の1以下、好ましくは約10分の1以下、最も好ましくは約3分の1以下の活性を呈することになる)。特定の実施態様では、GnTIII活性を有するポリペプチドは、GnTIIIの触媒ドメイン及び異種ゴルジ常在ポリペプチドのゴルジ局在化ドメインを含む融合ポリペプチドである。特に、ゴルジ局在化ドメインはマンノシダーゼII又はGnTIの局在化ドメインであり、最も具体的にはマンノシダーゼIIの局在化ドメインである。あるいは、ゴルジ局在化ドメインは、マンノシダーゼIの局在化ドメイン、GnTIIの局在化ドメイン、及びα1,6コアフコシルトランスフェラーゼの局在化ドメインからなる群より選択される。このような融合ポリペプチドを生成し、それを用いてエフェクター機能を高めた抗体を産生する方法は、国際公開第2004/065540号、米国仮特許第60/495142号、米国特許公開第60/495142号に開示されており、それらの全内容は参照により本明細書に明示的に援用される。
【0070】
本明細書で使用される場合、「ゴルジ局在化ドメイン」という用語は、ポリペプチドをゴルジ複合体内のある位置に固定する役割を担う、ゴルジ常在ポリペプチドのアミノ酸配列を指す。概して、局在化ドメインは酵素のアミノ末端「テール」を構成する。
【0071】
本明細書で使用される場合、「ManII活性を有するポリペプチド」という用語は、N-結合オリゴ糖の分岐GlcNAcMan5GlcNAc2マンノース中間体の末端1,3-及び1,6-結合α-D-マンノース残基の加水分解を触媒することができるポリペプチドを指す。これには、Nomenclature Committee of the International Union of Biochemistry and Molecular Biology(NC-IUBMB)によればマンノシルオリゴ糖1,3-1,6-α-マンノシダーゼII(EC 3.2.1.114)としても知られる、ゴルジα-マンノシダーゼIIの活性と必ずしも道津ではないが類似の活性を示すポリペプチドが含まれる。
【0072】
抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)は、免疫エフェクター細胞による抗体でコーティングされた標的細胞の溶解につながる免疫メカニズムである。標的細胞は、Fc領域を含む抗体又はその断片が通常Fc領域に対するN末端であるタンパク質部分を介して特異的に結合する細胞である。本明細書で使用される用語「増加した/減少したADCC」は、標的細胞を囲む媒質中の所定の抗体濃度において、上記に定義したADCCの機構により所定の時間内に溶解する標的細胞数の増加/減少、及び/又はADCCの機構により所定の時間内に所定の数の標的細胞を溶解させるために必要な、標的細胞を囲む媒質中の抗体濃度の低下/上昇のいずれかと定義される。増加した/減少したADCCは、同じ標準的な生成、精製、製剤化、及び貯蔵方法(当業者に既知の)を用いて、但し操作されていない、同じ型の宿主細胞により生成される同じ抗体により媒介されるADCCと相対的なものである。例えば、本明細書に記載される方法により操作されたグリコシル化パターン(例えばグリコシルトランスフェラーゼ、GnTIII、又はその他のグリコシルトランスフェラーゼ)を有するように操作された宿主細胞により生成される抗体が媒介するADCCの増加は、同じ種類の非操作宿主細胞により生成された同じ抗体によって媒介されるADCCに対するものである。
【0073】
「増加した/減少した抗体依存性細胞傷害性(ADCC)を有する抗体」とは、当業者に知られた任意の適切な方法によって決定されるADCCの増加/減少を有する抗体を意味する。許容されるin vitro ADCCアッセイの一つは以下の通りである:
1)アッセイは、抗体の抗原結合領域によって認識される標的抗原を発現することが知られている標的細胞を使用する;
2)アッセイは、エフェクター細胞として、無作為に選択された健常ドナーの血液から単離されたヒト末梢血単核細胞(PBMC)を使用する;
3)アッセイは、以下のプロトコルに従って行われる。
i)PBMCを標準的な密度遠心分離手順を用いて単離し、5×106細胞/mlでRPMI細胞培養培地に懸濁させる;
ii)標的細胞を標準的な組織培養法によって増殖させ、90%より高い生存率で指数増殖期から回収し、RPMI細胞培養培地で洗浄し、100マイクロキュリーの51Crで標識し、細胞培養培地で2回洗浄し、105細胞/mlの密度で細胞培養培地に再懸濁する;
iii)上の最終的な標的細胞懸濁液100マイクロリットルを、96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに移す;
iv)抗体を細胞培養培地中で4000ng/mlから0.04ng/mlに連続希釈し、得られた抗体溶液50マイクロリットルを96ウェルマイクロタイタープレート中の標的細胞に添加し、上記の全濃度範囲をカバーする様々な抗体濃度を三連で試験する;
v)最大放出(MR)コントロールのために、標識された標的細胞を含有するプレート中の3つの更なるウェルに、非イオン性洗浄剤(Nonidet, Sigma, St. Louis)の2%(v/v)水溶液50マイクロリットルを、抗体溶液(上記iv)の代わりに入れる;
vi)自然放出(SR)対照として、標識された標的細胞を含有するプレート中の3つの更なるウェルに、抗体溶液の代わりに(上記iv)、50マイクロリットルのRPMI細胞培養培地を入れる;
vii)その後、96ウェルマイクロタイタープレートを50×gで1分間遠心分離し、4℃で1時間インキュベートする;
viii)50マイクロリットルのPBMC懸濁液(上記i)を各ウェルに添加して、25:1のエフェクター:標的細胞比を得て、プレートを5%CO2雰囲気下のインキュベーター内に37℃で4時間置く;
ix)各ウェルから無細胞上清を回収し、実験的に放出された放射能(ER)をガンマカウンターを用いて定量する;
x)特異的溶解のパーセンテージを、各抗体濃度について、式(ER-MR)/(MR-SR)×100(ERは、その抗体濃度について定量化された平均放射能(上記ix参照)であり、MRはMRコントロール(上記v参照)について定量化された平均放射能(上記ix参照)であり、SRはSR コントロール(上記vi参照)について定量化された平均放射能(上記ix参照)である)に従って算出する;
4)「増加/減少したADCC」は、上記試験した抗体濃度範囲内で観察される特異的溶解の最大パーセンテージの増加、及び/又は上記試験した抗体濃度範囲内で観察される特異的溶解の最大パーセンテージの2分の1/を達成するのに必要な抗体濃度の減少/増加のいずれかと定義される。上記のアッセイで測定された、増加した/減少したADCCは、当業者に知られている、同じ標準的な生成、精製、製剤化、及び貯蔵方法を用いて、但し操作されていない、同じ型の宿主細胞により生成される同じ抗体により媒介されるADCCと相対的なものである。
【0074】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味し、すなわち該集団を構成する個々の抗体が、可能性の或る変異体抗体(これらは例えば天然に存在する変異を含むか又はモノクローナル抗体調製物の製造中に生じ、そのような変異体は通常少量存在する)を除き、同一であり及び/又は同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を通常含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。したがって、修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の製造を必要とするものとして解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組み換えDNA法、ファージディスプレイ法、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含有するトランスジェニック動物を利用する方法を含むが、これらに限定されない多様な技法によって作製することができ、モノクローナル抗体を作製するためのこのような方法及び他の例示的な方法が、本明細書に記載されている。
【0075】
「ネイキッド抗体」とは、異種の部分(例えば細胞傷害性部分)又は放射性標識にコンジュゲートしていない抗体を指す。ネイキッド抗体は、薬学的製剤中に存在してもよい。
【0076】
「天然抗体」は、様々な構造を有する天然に生じる免疫グロブリン分子を指す。例えば、天然IgG抗体は、ジスルフィド結合している2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖から構成される約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に向かって、各重鎖は、可変重鎖ドメイン又は重鎖可変ドメインとも呼ばれる、可変領域(VH)、それに続く3つの定常ドメイン(CH1、CH2、及びCH3)を有する。同様に、N末端からC末端まで、各軽鎖は、可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)と、それに続く1つの定常軽(CL)ドメインとを有する。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2種類の1つに割り当てられてもよい。
【0077】
本明細書で使用される、抗原結合部分又はドメインに関する「第1」、「第2」、「第3」等の用語は、各タイプの部分又はドメインが1つを超えて存在するときに区別の便宜のために使用される。これらの用語の使用は、そのように明示的に示されていない限り、特定の順序又は向きを与えることを意図していない。
【0078】
用語「多重特異性」及び「二重特異性」とは、抗原結合分子が、少なくとも2つの別個の抗原決定基に特異的に結合することができることを意味する。典型的には、二重特異性抗原結合分子は2つの抗原結合部位を含み、それらの各々が異なる抗原決定基に対して特異的である。特定の実施態様では、二重特異性抗原結合分子は、2つの抗原決定基(特に、2つの別個の細胞で発現する2つの抗原決定基)に同時に結合することができる。
【0079】
本明細書で使用する用語「価(「valent」又は「valency」)」は、抗原結合分子中の特定数の抗原結合部位の存在を意味する。したがって、「抗原への一価の結合」という用語は、抗原結合分子中の抗原に特異的な1つの(かつ、1つを超えない)抗原結合部位の存在を意味する。
【0080】
「抗原結合部位」は、抗原との相互作用を与える抗原結合分子の部位、すなわち、1つ又は複数のアミノ酸残基を指す。例えば、抗体の抗原結合部位は、相補性決定領域(CDR)のアミノ酸残基を含む。天然免疫グロブリン分子は、典型的には2つの抗原結合部位を有し、Fab分子は、典型的には単一の抗原結合部位を有する。
【0081】
本明細書において使用される「活性化T細胞抗原」は、Tリンパ球、特に細胞傷害性Tリンパ球によって発現される抗原決定基を指し、抗原結合分子との相互作用時にT細胞活性化を誘導又は増強することができる。具体的には、抗原結合分子のT細胞活性化抗原との相互作用は、T細胞受容体複合体のシグナル伝達のカスケードをトリガーすることによりT細胞活性化を誘導することができる。例示的な活性化T細胞抗原はCD3である。特定の一実施態様では、T細胞活性化抗原は、CD3、特にCD3のエプシロンサブユニットである(ヒト配列についてUniProt no. P07766(バージョン130), NCBI RefSeq no. NP_000724.1を;カニクイザル[Macaca fascicularis] 配列についてはUniProt no. Q95LI5(バージョン49), NCBI GenBank no. BAB71849.1を参照)。
【0082】
本明細書で使用する「T細胞活性化」は、Tリンパ球、特に細胞傷害性Tリンパ球の、増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子の放出、細胞傷害性活性、及び活性化マーカーの発現から選択される1又は複数の細胞応答を指す。本発明で使用されるT細胞活性化治療剤は、T細胞活性化を誘導することができる。T細胞活性化を測定するための適切なアッセイは、当技術分野で既知であり、本明細書に記載されている。
【0083】
本明細書で使用される場合、「標的細胞抗原」は、標的細胞、例えば、癌細胞又は腫瘍間質の細胞等の腫瘍内の細胞の表面に提示される抗原決定基を指す。特定の実施態様では、標的細胞抗原はCD20、特にヒトCD20(UniProt番号P11836を参照されたい)である。
【0084】
本明細書において使用される「B細胞抗原」は、Bリンパ球、特に悪性Bリンパ球の表面上に存在する抗原決定基を指す(この場合、抗原は「悪性B細胞抗原」とも呼ばれる)。
【0085】
本明細書において使用される「T細胞抗原」は、Tリンパ球、特に細胞傷害性Tリンパ球の表面に提示される抗原決定基を指す。
【0086】
「Fab分子」は、免疫グロブリンの重鎖のVH及びCH1ドメイン(「Fab重鎖」)と軽鎖のVL及びCLドメイン(「Fab軽鎖」)とからなるタンパク質を指す。
【0087】
「融合した」とは、成分同士(例えばFab分子とFcドメインサブユニット)が、ペプチド結合により、直接又は1つ若しくは複数のペプチドリンカーを介して結合されていることを意味する。
【0088】
薬剤の「有効量」は、その薬剤が投与される細胞又は組織において生理学的変化を引き起こすために必要な量を指す。
【0089】
作用剤、例えば、医薬組成物の「治療有効量」は、所望の治療結果又は予防結果を達成するための、必要な薬用量かつ必要な時間で、有効な量を指す。薬剤の治療的有効量は、例えば、疾患の副作用を除去し、低下させ、遅延させ、最小限にし、又は予防する。
【0090】
「治療剤」とは、例えば薬学的組成物の、活性成分を意味し、薬剤は、治療されている対象における疾患の自然経過を変えることを目的として対象に投与され、予防のために、又は臨床病理の過程の中で実施され得る。「免疫療法剤」とは、例えば腫瘍に対する対象の免疫応答を回復又は増強する目的で対象に投与される治療剤のことである。
【0091】
「医薬組成物」との用語は、その中に含まれる有効成分の生体活性を有効にし、組成物が投与される被験体に対して受け入れられないほど毒性である追加の構成要素を含まないような形態での製剤を指す。
【0092】
「薬学的に許容される担体」は、薬学的組成物中の活性成分以外の成分であって、対象にとって非毒性である成分を指す。薬学的に許容される担体には、緩衝剤、添加物、安定剤、又は防腐剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0093】
「添付文書」又は「使用説明書」という用語は、治療製品の商品包装に通例含まれる説明書を指すのに用いられ、適応症、用法、用量、投与、併用療法、当該治療製品の使用に関する禁忌及び/又は注意事項についての情報を含む。
【0094】
本明細書で述べる「併用治療」という用語は、併用投与(2つ以上の治療剤が同じ又は別個の製剤に含まれる場合)及び別個の投与を包含し、その場合、本明細書で報告する抗体の投与は、1つ又は複数の追加の治療剤、好ましくは1つ又は複数の抗体の投与の前、同時に及び/又は後に起こり得る。
【0095】
「クロスオーバー」Fab分子(「Crossfab」とも称される)とは、Fab重鎖と軽鎖の可変ドメイン又は定常ドメインが交換されている(即ち互いによって置き替えられている)Fab分子を意味し、即ちクロスオーバーFab分子は、軽鎖可変ドメインVL及び重鎖定常ドメイン1 CH1(VL-CH1、N末端からC末端の方向に)から構成されるペプチド鎖と、重鎖可変ドメインVH及び軽鎖定常ドメインCL(VH-CL、N末端からC末端の方向に)から構成されるペプチド鎖とを含む。簡潔には、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖定常ドメイン1 CH1を含むペプチド鎖を、本明細書では(クロスオーバー)Fab分子の「重鎖」と呼ぶ。逆に、Fab軽鎖とFab重鎖の定常ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖可変ドメインVHを含むペプチド鎖を、ここでは(クロスオーバー)Fab分子の「重鎖」と呼ぶ。
【0096】
これに対して、「従来の」Fab分子とは、天然フォーマットのFab分子、すなわち重鎖の可変ドメイン及び定常ドメイン(N末端からC末端方向に、VH-CH1)からなる重鎖と、軽鎖の可変ドメイン及び定常領域(N末端からC末端方向に、VL-CL)からなる軽鎖とを含むFab分子を意味する。
【0097】
用語「ポリヌクレオチド」は、単離された核酸分子又はコンストラクト、例えばメッセンジャーRNA(mRNA)、ウイルス由来のRNA、又はプラスミドDNA(pDNA)を指す。ポリヌクレオチドは、一般的なホスホジエステル結合又は一般的ではない結合(例えば、ペプチド核酸(PNA)に見られるようなアミド結合)を含み得る。用語「核酸分子」とは、ポリヌクレオチドに存在する、任意の1つ又は複数の核酸セグメント、例えば、DNA又はRNA断片を指す。
【0098】
「単離された」核酸分子又はポリヌクレオチドとは、その天然環境から取り出された核酸分子、DNA又はRNAを意図する。例えば、ベクターに含有されるポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドは、本発明のために単離されたものと見なされる。単離されたポリヌクレオチドの更なる例には、異種宿主細胞内に維持される組換えポリヌクレオチド、又は溶液中の(部分的に又は実質的に)精製されたポリヌクレオチドが含まれる。単離ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド分子を通常含む細胞に含まれるポリヌクレオチド分子を含むが、そのポリヌクレオチド分子は、染色体外に、又はその本来の染色体上の位置とは異なる染色体上の位置に存在している。単離されたRNA分子は、in vivo又はin vitroでの本発明のRNA転写物、及びポジティブ及びネガティブの鎖形態、二本鎖形態を含む。本発明の単離ポリヌクレオチド又は核酸は、合成により製造されたそのような分子を更に含む。また、ポリヌクレオチド又は核酸は、プロモーター、リボソーム結合部位又は転写ターミネーター等の調節エレメントを含んでも含まなくてもよい。
【0099】
本発明の参照ヌクレオチド配列と、例えば、少なくとも95%「同一」であるヌクレオチド配列を有する核酸又はポリヌクレオチドとは、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が、参照ヌクレオチド配列の各100ヌクレオチドあたり5つまでの点突然変異を含み得ること以外は、参照配列と同一であることを意味する。換言すれば、参照ヌクレオチド配列と少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るために、参照配列中最大5%のヌクレオチドが削除されるか又は別のヌクレオチドで置換されてもよく、或いは参照配列中の全ヌクレオチドの最大5%の数のヌクレオチドが参照配列に挿入されてよい。参照配列のこのような改変は、参照ヌクレオチド配列の5’若しくは3’末端位置で発生しても、これらの末端位置の間の任意の位置で発生してもよく、参照配列内の残基間に個別に散在しているか又は参照配列内に1若しくは複数の連続したグループで散在しているかのいずれかである。実際問題として、任意の特定のポリヌクレオチド配列が、本発明のヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%同一であるかは、ポリペプチドについて上述されるものなどのコンピュータプログラム(例えば、ALIGN-2)を使用して決定することができる。
【0100】
用語「発現カセット」とは、標的細胞内の特定の核酸の転写を可能にする一連の特定の核酸エレメントを用いて、組換え又は合成により生成されたポリヌクレオチドを指す。組換え発現カセットは、プラスミド、染色体、ミトコンドリアDNA、プラスチドDNA、ウイルス又は核酸断片に組み込むことができる。典型的には、発現ベクターの組換え発現カセット部分には、他の配列の中でも、転写される核酸配列及びプロモーターが含まれる。特定の実施態様では、本発明の発現カセットは、本発明の二重特異性抗原結合分子をコードするポリヌクレオチド配列又はその断片を含む。
【0101】
用語「ベクター」又は「発現ベクター」は、「発現コンストラクト」と同義であり、DNA分子であって、それが標的細胞内で作用可能に結合する特定の遺伝子の発現を導入し、指示するために使用されるDNA分子を指す。この用語は、自己複製核酸構造物としてのベクター、及び導入された宿主細胞のゲノムに組み込まれたベクターを含む。本発明の発現ベクターは、発現カセットを含む。発現ベクターは、大量の安定なmRNAの転写を可能にする。発現ベクターが標的細胞内部に入ると、遺伝子によってコードされているリボ核酸分子又はタンパク質が、細胞転写及び/又は翻訳機構によって産生される。ある実施態様では、本発明の発現ベクターは、本発明の二重特異性抗原結合分子又はその断片をコードするポリヌクレオチド配列含む発現カセットを含む。
【0102】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、この技術分野の当業者であれば容易に理解する、それぞれの値の通常の誤差範囲を指す。本明細書中の「約」の値又はパラメータへの言及は、その値又はパラメータ自体に対する実施態様を含む(記載する)。
【0103】
「B細胞増殖性障害」とは、患者のB細胞の数が健常者のB細胞の数と比較して増加する疾患、特にB細胞数の増加が疾患の原因又は証明である疾患を意味する。「CD20陽性B細胞増殖性疾患」は、B細胞、特に悪性B細胞(通常のB細胞に加えて)がCD20を発現するB細胞増殖性疾患である。
【0104】
例示的なB細胞増殖障害には、非ホジキンリンパ腫(NHL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL;例えば、他に特定されない再発性又は難治性のDLBCL(NOS))、高悪性度B細胞リンパ腫(HGBCL;例えば、HGBCL NOS、二重適合HGBCL及び三重適合HGBCL)、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫(PMBCL)、及びFLから発生したDLBCL形質転換FL;trFL));濾胞性リンパ腫(FL)(Grade 1-3b FLを含む);マントル細胞リンパ腫(MCL);並びに辺縁帯リンパ腫(MZL)(脾臓、結節又は結節外MZLを含む)。一実施態様では、CD20陽性B細胞増殖性障害は、再発性又は難治性のNHL(例えば、再発性若しくは難治性のDLBCL、再発性若しくは難治性のFL、又は再発性若しくは難治性のMCL)である。
【0105】
「難治性疾患」は、一次療法に対する完全寛解なしと定義される。一実施態様では、難治性疾患は、先行する治療に対する応答がないこと、又は先行する治療の6ヶ月以内に再発することとして定義される。一実施態様では、難治性疾患は以下の1つ又は複数によって特徴づけられる:一次療法に対する最良の応答としての進行性疾患(PD)、少なくとも4サイクルの一次療法(例えば、リツキシマブ、シクロホスファミド、塩酸ドキソルビシン(ヒドロキシダウノルビシン)、硫酸ビンクリスチン(オンコビン)、及びプレドニゾン(R-CHOPとも略される)の4サイクル)後の最良の反応としての安定性疾患(SD)、又は少なくとも6サイクル後の最良の応答としての部分応答(PR)、及び部分応答後の生検で証明された残存疾患若しくは疾患進行。「再発性疾患」は、一次療法に対する完全寛解と定義される。一実施態様では疾患の再発は生検によって証明される。一実施態様では、患者は、少なくとも2つの以前の全身治療レジメン(アントラサイクリンを含む少なくとも1つの事前レジメン、及び抗CD20指向性療法を含む少なくとも1つの事前レジメンを含む)の後に再発したか、又はそれに応答しなかった。
【0106】
「個体」又は「対象」は、哺乳動物である。哺乳動物には、限定されないが、家畜動物(例えばウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマ)、霊長類(例えばヒト、及びサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、及びげっ歯類(例えばマウス及びラット)が含まれる。好ましくは、個体又は対象はヒトである。一例では、対象集団中の各対象はヒトである。一例では、基準対象集団中の各対象はヒトである。
【0107】
本明細書で用いられる場合、「治療」(及び「治療する」又は「治療すること(treating)」などの文法的変形)は、治療されている個体の疾患の自然経過を変えようと試みる臨床的介入を指し、予防のために、又は臨床病理の過程の中で実施され得る。治療の望ましい効果には、限定されないが、疾患の発症又は再発を予防すること、症状の緩和、疾患の直接的又は間接的な病理学的帰結の縮小、転移の予防、疾患の進行の速度を遅らせること、疾患状態の改善又は緩和、及び寛解又は予後の改善が含まれる。いくつかの実施態様において、本発明の方法は、疾患の発症を遅延させるか、又は疾患の進行を遅らせるために使用される。
【0108】
本明細書で使用される場合、障害又は疾患の「進行を遅延させること」とは、疾患又は障害(例えば、CD20陽性B細胞増殖性障害、例えば、NHL、例えば、DLBCL)の発症を延期する、妨げる、減速させる、遅滞させる、安定化させる、及び/又は延滞させることを意味する。このような遅延は、治療される疾患及び/又は個体の病歴に応じて、様々な期間であり得る。当業者には明らかであるように、十分な又は有意な遅延は、事実上、個体が疾患を発症しないという点で予防を包含することができる。例えば、後期のがんでは、中枢神経系(CNS)転移の発症が遅延され得る。
【0109】
「低減させる」又は「阻害する」とは、例えば、20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又はそれを超える全体的な低減を引き起こす能力を意味する。明確にするために、この用語は、0への低減(又は分析方法の検出限界未満)、すなわち完全な消失又は排除も含む。特定の実施態様では、低減又は阻害は、二重特異性抗体の標的用量を変更せずに予め設定して投与した場合と比較して、本発明のステップアップ投与レジメンを用いた抗CD20/抗CD3二重特異性抗体による治療後の、サイトカイン主導型毒性(例えば、サイトカイン放出症候群(CRS))、点滴関連反応(IRR)、マクロファージ活性化症候群(MAS)、神経毒性、重度の腫瘍溶解症候群(TLS)、好中球減少症、血小板減少症、肝臓酵素の上昇、及び/又は中枢神経系(CNS)毒性などの望ましくない事象の低減又は阻害を指し得る。他の実施態様では、低減する又は阻害するとは、抗体Fc領域によって媒介される抗体のエフェクター機能を指すことができ、かかるエフェクター機能は、具体的に補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、及び抗体依存性細胞食作用(ADCP)を含む。他の実施態様において、低減又は阻害は、治療されるCD20陽性B細胞増殖性障害(例えば、NHL(例えば、DLBCL)、FL(例えば、再発性及び/又は難治性FL、又は形質転換FL)、MCL、高悪性度B細胞リンパ腫、又はPMLBCL)の症状、転移の存在若しくは大きさ、又は原発腫瘍の大きさを指し得る。
【0110】
本明細書で使用される場合、「投与」とは、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の薬学的組成物の投与量を対象に与える方法を意味する。本明細書に記載の薬学的組成物は、静脈内投与(例えば、静脈内点滴)することができる。
【0111】
本明細書で使用される場合、「バッファー」は、その酸塩基コンジュゲート成分の作用によりpHの変化に抵抗する緩衝液(本明細書では「緩衝剤」とも呼ばれる)を指す。いくつかの実施態様では、本発明のバッファーは、約5から約6の範囲のpHを有する。本発明で使用するための例示的な緩衝剤には、ヒスチジン(例えば、ヒスチジンHCl)、酢酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、又はそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施態様において、ヒスチジンは、ヒスチジン塩酸塩(ヒスチジンHCl)、ヒスチジン酢酸塩、リン酸一塩基性ナトリウム、リン酸二塩基性ナトリウム、リン酸三塩基性ナトリウム、リン酸一塩基性カリウム、リン酸二塩基性カリウム、リン酸三塩基性カリウム、又はこれらの混合物である。
【0112】
本発明による薬学的組成物はまた、1つ又は複数の等張化剤を含んでもよい。「等張化剤」という用語は、製剤の張度を調節するために使用される薬学的に許容される添加物を示す。製剤は、低張性、等張性又は高張性であってもよい。概して、等張性は、通常はヒト血清(約250-350 mOsmol/kg)の浸透圧に対する溶液の浸透圧に関する。本発明の製剤は、低張性、等張性又は高張性であってもよいが、好ましくは等張性である。高張性製剤は、液体であるか、又は固体形態(例えば、凍結乾燥した形態)から再構築された液体であり、比較されるいくつかの他の溶液、例えば、生理学的塩溶液及び血清と同じ張度を有する溶液を示す。適切な等張化剤は、塩化ナトリウム若しくは塩化カリウムなどの塩、グリセリン及びアミノ酸又は糖類由来のいずれかの成分、特にグルコースを含むがこれらに限定されない。等張化剤は、概して、≧200mMの量で使用される。
【0113】
安定剤及び等張化剤の中に、両方に機能し得る、即ち同時に安定剤及び等張化剤となり得る化合物のグループが存在する。その例は、糖類、アミノ酸類、ポリオール類、シクロデキストリン類、ポリエチレングリコール類及び塩類の群に見出すことができる。同時に安定剤及び等張化剤であり得る糖の一例は、トレハロースである。
【0114】
本明細書で使用される場合、「界面活性剤」とは、表面活性剤、好ましくは、非イオン性界面活性剤を指す。本明細書における界面活性剤の例には、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート85);ポロキサマー(例えば、ポロキサマー188);TRITON(登録商標);オクチルグリコシドナトリウム;ラウリルスルホベタイン、ミリスチルスルホベタイン、リノレイルスルホベタイン、又はステアリルスルホベタイン;ラウリルサルコシン、ミリスチルサルコシン、リノレイルサルコシン、又はステアリルサルコシン;リノレイルベタイン、ミリスチルベタイン、又はセチルベタイン;ラウロアミドプロピルベタイン、コカミドプロピルベタイン、リノールアミドプロピルベタイン、ミリスタミドプロピルベタイン、パルミドプロピルベタイン、又はイソステアラミドプロピルベタイン(例えば、ラウロアミドプロピル);ミリスタミドプロピルジメチルアミン、パルミドプロピルジメチルアミン、又はイソステアラミドプロピルジメチルアミン;メチルココイルタウリンナトリウム、又はメチルオレイルタウリン二ナトリウム;及びMONAQUATTMシリーズ(ニュージャージー州パターソンのMona Industries,Inc.);ポリエチルグリコール、ポリプロピレングリコール、及びエチレン及びプロピレングリコールのコポリマー(例えば、PLURONIC(登録商標)タイプのブロックコポリマー、例えば、PLURONIC(登録商標)F-68);などが含まれる。一実施態様では、本明細書における界面活性剤は、ポリソルベート20(PS20)である。さらに別の実施態様では、本明細書における界面活性剤は、ポロキサマー188(P188)である。
【0115】
「防腐剤」は、製剤中の細菌作用を実質的に低減し、したがって例えば多用途製剤の生産を容易にするために、任意選択的に製剤に含めることができる化合物である。可能性のある保存剤の例としては、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ヘキサメトニウムクロリド、ベンザルコニウムクロリド(アルキル基が長鎖化合物であるアルキルベンジルジメチルアンモニウムクロリドの混合物)及びベンゼトニウムクロリドが挙げられる。他の種類の防腐剤には、フェノール、ブチル、及びベンジルアルコールなどの芳香族アルコール、メチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール;3-ペンタノール、及びm-クレゾールが含まれる。一実施態様では、本明細書の防腐剤はベンジルアルコールである。いくつかの実施態様では、製剤は保存剤を含まない。
【0116】
「安定な」薬学的組成物は、その中の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)が、保存時に物理的安定性及び/又は化学的安定性及び/又は生物学的活性を本質的に保持する薬学的製剤である。好ましくは、製剤は、保存時(例えば、凍結貯蔵時)に、その物理的及び化学安定性、並びにその生物学的活性を本質的に保持する。保存期間は、一般に、製剤の意図される貯蔵寿命に基づいて選択される。タンパク質の安定性を測定するための種々の分析技術が当技術分野で利用可能であり、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery, 247-301, Vincent Lee Ed., Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., Pubs. (1991)及びJones, A. Adv. Drug Delivery Rev. 10: 29-90 (1993)に概説がある。安定性は、選択された期間にわたり、選択された量の光暴露及び/又は温度で測定される。安定性は、凝集体形成の評価(例えば、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して、濁度を測定することにより、かつ/又は目視検査により);ROS形成の評価(例えば、光ストレスアッセイ又は2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩(AAPH)ストレスアッセイを使用することにより);抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の特定のアミノ酸残基の酸化(例えば、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)のMet残基);カチオン交換クロマトグラフィー、画像キャピラリー等電点電気泳クロマトグラフィー、又はキャピラリゾーン電気泳動を使用した電荷不均一性の評定;アミノ末端又はカルボキシ末端配列分析;質量分光分析;還元されたインタクトな抗CD20/抗CD3二重特異性抗体を比較するためのSDS-PAGE分析;ペプチドマップ(例えば、トリプシン又はLYS-C)分析;抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の生物学的活性又は標的結合機能(例えば、T細胞及び/又はB細胞への結合)の評価等を含む様々な異なる方法で質的及び/又は量的に評価され得る。不安定性は、凝集、脱アミド(例えば、Asn脱アミド)、酸化(例えば、Met酸化及び/又はTrp酸化)、異性化(例えば、Asp異性化)、クリッピング/加水分解/断片化(例えば、ヒンジ領域断片化)、スクシンイミド形成、不対システイン、N末端伸長、C末端プロセシング、及びグリコシル化差異などのうちのいずれか1つ又は複数を伴い得る。
【0117】
本発明による製剤との関連においてここで使用される用語「液体」は、気圧下において少なくとも約2から約8℃の温度で液体である製剤を意味する。
【0118】
本出願において、別途明記されない限り、利用される技術は、以下のようないくつかのよく知られた参考文献のいずれかに見出すことができる:Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Sambrook, et al., 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Press)、PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications (Innis, et al. 1990. Academic Press, San Diego, CA)、及びHarlow and Lane (1988)Antibodies: A Laboratory Manual ch.14 (Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY)。
【0119】
必要に応じて、市販のキット及び試薬の使用を含む手順は、別途明記されない限り、一般に、製造業者が定義したプロトコル及び/又はパラメータに従って実施される。したがって、本方法及び使用を記載する前に、本発明は、特定の方法論、プロトコル、細胞株、動物種又は属、構築物、及びそのように記載された試薬に限定されず、当然ながら、変化し得ることを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の実施態様を説明することのみを目的とし、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図しないことも理解されるべきである。
【0120】
III.薬学的組成物
本発明は、例えばB細胞増殖性障害(例えば、非ホジキンリンパ腫、NHL)の治療のための、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)を低濃度で含む薬学的組成物、及びその使用を提供する。本発明の医薬組成物は、低濃度の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)を担持するように製剤化することができ、保存中及び臨床投与中の吸着によるタンパク質の損失に対して安定である。吸着は、臨床投与前にさらなる希釈と取り扱いを必要とする低濃度の抗体では重大な問題となり、低い力価をもたらす可能性がある。グロフィタマブは、2.5mg及び10mgの用量(段階分割投与)と、30mgの維持量(目標量、一律投与)で投与される。グロフィタマブは、0.9%又は0.45%の塩化ナトリウムで希釈した後、IVバッグ点滴によるIV投与が意図されている。投与量は、0.05mg/mlから0.6mg/mlの投与溶液濃度によってIVバッグ内で可能になる。
【0121】
一実施態様では、以下を含む液体薬学的組成物が提供される:
約5.0から約6.0の範囲のpHで、
約1から25mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えばグロフィタマブ);
約10から50mMの緩衝剤;
約≧200mMの等張化剤;
約0~15mMのメチオニン;及び
約≧0.2mg/mlの界面活性剤。
【0122】
一実施態様では、以下を含む液体薬学的組成物が提供される:
約5.0から約6.0の範囲のpHで、
約5mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えばグロフィタマブ);
約10から50mMの緩衝剤;
約≧200mMの等張化剤;
約0~15mMのメチオニン;及び
約≧0.2mg/mlの界面活性剤。
【0123】
一実施態様では、以下を含む液体薬学的組成物が提供される:
約5.0から約6.0の範囲のpHで、
約0.9から1.1mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えばグロフィタマブ);
約10から50mMの緩衝剤;
約≧200mMの等張化剤;
約0~15mMのメチオニン;及び
約≧0.2mg/mlの界面活性剤。
【0124】
一実施態様では、以下を含む液体薬学的組成物が提供される:
約5.0から約6.0の範囲のpHで、
約1mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えばグロフィタマブ);
約10から50mMの緩衝剤;
約≧200mMの等張化剤;
約0~15mMのメチオニン;及び
約≧0.2mg/mlの界面活性剤。
【0125】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の濃度は、約1から5mg/mlの範囲である。一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の濃度は、約0.5、約0.6、約0.7、約0.8、約0.9、約1mg/ml、約1.1mg/ml、約1.5mg/ml、約2mg/ml、約3mg/ml、約4mg/ml、又は約5mg/mlである。一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の濃度は、約6mg/ml、約7mg/ml、約8mg/ml、約9mg/ml、約10mg/ml、約11mg/ml、約12mg/ml、約13mg/ml、約14mg/ml、約15mg/ml、約16mg/ml、約17mg/ml、約18mg/ml、約19mg/ml、約20mg/ml、約21mg/ml、約22mg/ml、約23mg/ml、約24mg/ml、約25mg/ml、約26mg/ml、約27mg/ml、約28mg/ml、約29mg/ml、又は約30mg/mlである。
【0126】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の濃度は、約0.9-1.1mg/mlの範囲である。一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の濃度は、約1mg/mlである。
【0127】
一実施態様では、液体薬学的組成物は、CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)であって、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含む抗CD20/抗CD3二重特異性抗体を含む。
【0128】
一実施態様では、液体薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、配列番号7の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号8の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む。さらなる実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、配列番号7の重鎖可変領域配列と、配列番号8の軽鎖可変領域配列とを含む、CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む。
【0129】
一実施態様では、液体薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む。
【0130】
一実施態様では、液体薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、配列番号15の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号16の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む。さらなる実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、配列番号15の重鎖可変領域配列と、配列番号16の軽鎖可変領域配列とを含む、CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む。
【0131】
一実施態様では、液体薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、
a)CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
b)CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む。
【0132】
一実施態様では、液体薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、
(i)配列番号7の重鎖可変領域配列及び配列番号8の軽鎖可変領域配列を含む、CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
(ii)配列番号15の重鎖可変領域配列及び配列番号16の軽鎖可変領域配列を含む、CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む。
【0133】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)のCD3に特異的に結合する抗原結合ドメインは、抗体断片、特にFab分子又はscFv分子、より具体的にはFab分子である。特定の実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)のCD3に特異的に結合する抗原結合ドメインは、Fab重鎖及び軽鎖の可変ドメイン又は定常ドメインが交換される(すなわち、互いに置き換えられる)クロスオーバーFab分子である。
【0134】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)のCD20に特異的に結合する抗原結合ドメインは、抗体断片、特にFab分子又はscFv分子、より具体的にはFab分子である。特定の実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)のCD20に特異的に結合する抗原結合ドメインは、従来のFab分子である。
【0135】
一実施態様では、液体薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインとを含む。一実施態様では、液体薬学的組成物の抗CD20/抗CD3抗体は、CD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインと、CD20に特異的に結合する第2及び第3の抗原結合ドメインとを含む。一実施態様では、第1の抗原結合ドメインはクロスオーバーFab分子であり、第2及び第3の抗原結合ドメインはそれぞれ、従来のFab分子である。一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、Fcドメインをさらに含む。液体薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、本明細書に記載されるように、Fc領域及び/又は抗原結合ドメインにおける修飾を含み得る。一実施態様では、液体薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、Fc受容体への結合及び/又はエフェクター機能を低下させる1つ又は複数のアミノ酸置換を含むIgG1 Fcドメインを含む。一実施態様では、液体薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、アミノ酸置換L234A、L235A、及びP329G(EU番号付け)を含むIgG1 Fcドメインを含む。
【0136】
一実施態様では、液体薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、
(i)Fab重鎖のC末端において、Fcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しているCD3に特異的に結合する抗原結合ドメインと;
(ii)Fab重鎖のC末端において、CD3に特異的に結合する抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合しているCD20に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインと;
(iii)Fab重鎖のC末端において、Fcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合しているCD20に特異的に結合する第2の抗原結合ドメインと;
を含む。
【0137】
特定の実施態様では、液体薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二、特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、
a)CD3、特にCD3イプシロンに特異的に結合する第1のFab分子であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって交換されている第1のFab分子と;
(b)CD20に特異的に結合する第2のFab分子及び第3のFab分子であって、第2のFab分子及び第3のFab分子の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)により置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)又はアルギニン(R)により、特にアルギニン(R)により置換されており(Kabatによる番号付け)、第2のFab分子及び第3のFab分子の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されており(EU番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されている(EU番号付け)、第2のFab分子及び第3のFab分子と;
c)安定な会合が可能な第1のサブユニットと第2のサブユニットから構成されるFcドメインと
を含む。
【0138】
一実施態様では液体薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、CD20に特異的に結合する2つの抗原結合ドメインと、CD3に特異的に結合する1つの抗原結合ドメインとを含む。
【0139】
一実施態様では、液体薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、CD20については二価であり、CD3については一価である。
【0140】
一実施態様では、a)の第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインのサブユニットの一方のN末端に融合しており、b)の第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端においてa)の第1のFab分子の重鎖のN末端に融合しており、b)の第3のFab分子は、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの他方のサブユニットのN末端に融合している。一実施態様では、a)の第1のFab分子は、配列番号15の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、又は99%同一である重鎖可変領域と、配列番号16の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、又は99%同一である軽鎖可変領域とを含む。
【0141】
またさらなる実施態様では、a)の第1のFab分子は、配列番号15の重鎖可変領域配列と、配列番号16の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0142】
一実施態様では、b)の第2のFab分子及び第3のFab分子はそれぞれ、配列番号7の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、又は99%同一である重鎖可変領域と、配列番号8の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、又は99%同一である軽鎖可変領域とを含む。
【0143】
一実施態様では、b)の第2のFab分子及び第3のFab分子はそれぞれ、配列番号7の重鎖可変領域配列と、配列番号8の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0144】
特定の実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、配列番号17の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるポリペプチドと、配列番号18の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるポリペプチドと、配列番号19の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるポリペプチドと、配列番号20の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるポリペプチドとを含む。さらなる特定の実施態様では、二重特異性抗体は、配列番号17のポリペプチド配列と、配列番号18のポリペプチド配列と、配列番号19のポリペプチド配列と、配列番号20のポリペプチド配列とを含む。さらに特定の実施態様では、二重特異性抗体は、配列番号17のアミノ酸配列を含む1つのポリペプチド鎖と、配列番号18のアミノ酸配列を含む1つのポリペプチド鎖と、配列番号19のアミノ酸配列を含む1つのポリペプチド鎖と、それぞれ配列番号20のアミノ酸配列を含む2つのポリペプチド鎖とを含む。
【0145】
特定の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、PCT公報国際公開第2016/020309号並びに欧州特許出願番号EP15188093及びEP16169160(それぞれ、参照によりその全体が本明細書に援用される)に記載されている。
【0146】
一実施態様では、液体薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、CDεに特異的に結合する。
【0147】
一実施態様では、液体薬学的組成物の抗CD20/抗CD3CD3抗体は、抗体H2C(国際公開第2008/119567号)、抗体V9(Rodrigues et al., Int J Cancer Suppl 7, 45-50 (1992)及び米国特許第6054297号)、抗体FN18(Nooij et al., Eur J Immunol 19, 981-984 (1986))、抗体SP34(Pessano et al., EMBO J 4, 337-340 (1985))、抗体OKT3(Kung et al., Science 206, 347-349 (1979))、抗体WT31(Spits et al., J Immunol.135, 1922 (1985))、抗体UCHT1(Burns et al., J Immunol.129, 1451-1457 (1982))、抗体7D6(Coulie et al., Eur J Immunol.21-1709 (1991))、又は抗体Leu-4と結合について競合し得る。いくつかの実施態様では、液体薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、国際公開第2005/040220号、同第2005/118635号、同第2007/042261号、同第2008/119567号、同第2008/119565号、同第2012/162067号、同第2013/158856号、同第2013/188693号、同第2013/186613号、同第2014/110601号、同第2014/145806号、同第2014/191113号、同第2014/047231号、同第2015/095392号、同第2015/181098号、同第2015/001085号、同第2015/104346号、同第2015/172800号、同第2016/020444号、又は同第2016/014974号に記載されるようにCD3に特異的に結合する抗原結合部分も含み得る。
【0148】
いくつかの実施態様では、液体薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、リツキシマブ、オビヌツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オカラツズマブ、ベルツズマブ、及びブリツキシマブからの抗体又は抗原結合部分を含み得る。
【0149】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、グロフィタマブである。
【0150】
いくつかの実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、本明細書で命名された抗体のジェネリック、バイオシミラー、又は比較できない生物学的バージョンから構成され得る。
【0151】
一実施態様では、本明細書で提供される液体薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、グロフィタマブである。グロフィタマブ(WHO医薬品情報(医薬品の国際非専有名称)、推奨INN:リスト83、2020年、34巻、1号、p.39、別名:CD20-TCB、RO7082859、又はRG6026;CAS番号:2229047-91-8)は、B細胞上のCD20に2価で結合し、T細胞上のCD3、特にCD3イプシロン鎖(CD3e)に1価で結合する2:1の分子構成を有する新規のT細胞エンゲージング二重特異性(TCB)完全長抗体である。そのCD3結合領域は、可動性リンカーを介して、CD20結合領域のうちの1つに頭からテールまで融合している。この構造により、グロフィタマブは、1:1構成の他のCD20-CD3二重特異性抗体に対して優れたin vitro効力を有し、前臨床DLBCLモデルにおいて大きな抗腫瘍効果をもたらす。CD20の二価性は、競合する抗CD20抗体の存在下でこの効力を保全し、これらの薬剤による前治療又は共治療の機会を提供する。グロフィタマブは、FcgR及びC1qとの結合が完全に消失した、操作されたヘテロ二量体Fc領域を含む。T細胞上のT細胞受容体(TCR)複合体のCD3eとヒトCD20発現腫瘍細胞とに同時に結合することにより、T細胞の活性化、増殖、及びサイトカイン放出に加えて、腫瘍細胞の溶解を誘導する。グロフィタマブによるB細胞の溶解はCD20特異的であり、CD20が発現していない場合又はT細胞のCD20発現細胞への結合(架橋)が同時に起こらない場合には生じない。死滅に加えて、T細胞は、T細胞活性化マーカー(CD25及びCD69)の増加、サイトカイン放出(IFNγ、TNFα、IL-2、IL-6、IL-10)、細胞傷害性顆粒放出(グランザイムB)、及びT細胞増殖によって検出されるCD3架橋による活性化を受ける。グロフィタマブの分子構造の概略図を
図2に示す。グロフィタマブの配列を表2にまとめる。
【0152】
いくつかの実施態様では、緩衝剤は、ヒスチジン、酢酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、又はそれらの組み合わせである。いくつかの実施態様では、ヒスチジンは、酢酸ヒスチジンである。代替的な緩衝剤には、ヒスチジン塩酸塩(ヒスチジンHCl)、ヒスチジン酢酸塩、リン酸一塩基性ナトリウム、リン酸二塩基性ナトリウム、リン酸三塩基性ナトリウム、リン酸一塩基性カリウム、リン酸二塩基性カリウム、リン酸三塩基性カリウム、又はこれらの混合物が含まれる。特定の実施態様では、液体薬学的組成物は、ヒスチジンバッファー、すなわち、緩衝剤として、ヒスチジン、概してL-ヒスチジンを有するバッファーを含む。特定の実施態様では、緩衝剤は、L-ヒスチジン、すなわち、L-ヒスチジン、又はL-ヒスチジンとL-ヒスチジンHClとの混合物を含み、pH調整が塩酸を用いて達成されているバッファーを含む。L-ヒスチジンHClバッファーは、適量のL-ヒスチジン及びL-ヒスチジン塩酸塩を水に溶解することにより、又は適量のL-ヒスチジンを水に溶解し、塩酸の付加によりpHを所望の値に調整することにより、調製することができる。
【0153】
特定の実施態様では、緩衝剤(例えば、ヒスチジン、例えば、L-ヒスチジンHCl)は、10mMから50mMの濃度である。例えば、緩衝剤は、10mMから15mM、又は15mMから20mM、例えば、6mMから18mM、7mMから16mM、8mMから15mM、又は9mMから12mM、例えば、約10mM、約11mM、約12mM、約13mM、約14mM、約15mM、約16mM、約17mM、約18mM、約19mM、又は約20mMであり得る。特に、緩衝剤(例えば、ヒスチジン、例えば、L-ヒスチジンHCl)の濃度は、約15から25mMである。一実施態様では、緩衝剤(例えば、ヒスチジン、例えば、L-ヒスチジンHCl)は、約20mMの濃度である。
【0154】
使用されるバッファーに関係なく、pHは、当技術分野で既知の酸又は塩基、例えば、塩酸、酢酸、リン酸、硫酸、及びクエン酸、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムを用いて、約5.0から約6.0の範囲、好ましくは約5.2から約5.8のpHの値に調整され得る。
【0155】
本発明の発明者によって、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)であって、
a)CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
b)CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、約5.2から約5.8のpHの組成物中で特に安定していることを発見した。一実施態様では、緩衝剤は、約5.2から約5.8のpH、特に約5.5のpHを提供する。
【0156】
いくつかの実施態様では、薬学的組成物は、糖、アミノ酸、塩などの等張化剤を含む。等張化剤が糖である実施態様では、糖は、例えば、スクロース、グルコース、グリセロール又はトレハロースであり得る。特定の実施態様では、糖は、スクロース、任意選択的にD-スクロースである。いくつかの実施態様では、等張化剤は、スクロース又は塩化ナトリウムのいずれかである。等張化剤(例えば、糖、例えばスクロース)は、少なくとも約≧200mMの濃度であり得る。例えば、等張化剤(例えば、糖、例えば、スクロース)は、例えば、200mMから220mM、220mMから240mM、240mMから260mM、260mMから280mM、280mMから300mM、300mMから320mM、320mMから340mM、340mMから360mM、360mMから380mM、380mMから400mM、400mMから420mM、420mMから440mM、440mMから460mM、460mMから480mM、又は480mMから500mM、例えば、200mMから300mM、例えば、約200mM、約210mM、約220mM、約230mM、約240mM、約250mM、約260mM、約270mM、約280mM、約290mM、約300mM、約350mM、約400mM、約450mM、又は約500mMであり得る。いくつかの実施態様では、等張化剤の濃度は約200mMから280mMである。いくつかの実施態様では、等張化剤の濃度は約240mMである。特定の一実施態様では、等張化剤はスクロースであり、少なくとも約200mMの濃度、すなわち≧約200mMの濃度で存在する。他の特定の実施態様では、等張化剤はスクロース(例えば、D-スクロース)であり、約200mM~280mMの濃度で存在する。特定の一実施態様では、等張化剤はスクロース(例えば、D-スクロース)であり、約240mMの濃度で存在する。
【0157】
いくつかの実施態様では、液体薬学的組成物は、安定剤としてメチオニンを含む。
【0158】
任意の適切な濃度の安定剤メチオニンが使用され得る。例えば、先述の薬学的組成物のいずれかのいくつかの実施態様では、安定剤(例えば、メチオニン)の濃度は、約0.01mMから約15mM、例えば、約0.01mM、約0.05mM、約0.1mM、約0.2mM、約0.3mM、約0.4mM、約0.5mM、約0.6mM、約0.7mM、約0.8mM、約0.9mM、約1mM、約2mM、約3mM、約4mM、約5mM、約6mM、約7mM、約8mM、約9mM、約10mM、約11mM、約12mM、約13mM、約14mM、又は約15mMである。
【0159】
特定の実施態様では、メチオニンの濃度は約5mMから15mMである。特定の実施態様では、メチオニンの濃度は約10mMである。
【0160】
本明細書に記載される薬学的組成物はいずれも、界面活性剤を含み得る。任意の適切な界面活性剤が使用され得る。いくつかの実施態様では、界面活性剤は、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート(ポリオキシエチレン(n)ソルビタンモノラウレート)、ポロキサマー、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルフェニルポリオキシエチレンエーテル、又はそれらの組み合わせ)である。いくつかの実施態様では、非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(PS20)、TWEEN 20(商標登録);例えば、特に精製されたPS20(独自のフラッシュクロマトグラフィーププロセスにより純度を高めたPS20であり、Avantor Performance Materials, LLC(Center Valley, PA, US)から入手可能))又はポリソルベート80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(PS80)、例えば、TWEEN 80(登録商標);例えば、特に精製されたPS80(Avantor))である。特定の実施態様では、ポリソルベートは、ポリソルベート20である。他の実施態様では、非イオン性界面活性剤は、ポロキサマー(例えば、ポロキサマー188、ポリ(エチレングリコール)-ブロック-ポリ(プロピレングリコール)-ブロック-ポリ(エチレングリコール))である。
【0161】
薬学的界面活性剤は、少なくとも約≧0.2mg/ml、すなわち少なくとも≧約0.02%(w/v)の濃度であり得る。
【0162】
本明細書に記載される薬学的組成物のいずれかのいくつかの実施態様では、界面活性剤(例えば、PS20又はP188)の濃度は、約0.01%(w/v)から約2%(w/v)、例えば、約0.01%、約0.02%、約0.03%、約0.04%、約0.05%、約0.06%、約0.07%、約0.08%、約0.09%、約0.1%、約0.15%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、約1%、約1.1%、約1.2%、約1.3%、約1.4%、約1.5%、約1.6%、約1.7%、約1.8%、約1.9%、又は約2%(w/v)である。
【0163】
いくつかの実施態様では、界面活性剤(例えば、PS20又はP188)の濃度は、約0.1から1mg/ml、すなわち、0.01%(w/v)から約0.1%(w/v)である。いくつかの実施態様では、界面活性剤(例えば、PS20又はP188)の濃度は、約0.2から1mg/ml、すなわち、0.02%(w/v)から約0.1%(w/v)である。いくつかの実施態様では、界面活性剤(例えば、PS20又はP188)の濃度は、約0.2から0.8mg/ml、すなわち、0.02%(w/v)から約0.08%(w/v)である。いくつかの実施態様では、界面活性剤(例えば、PS20又はP188)の濃度は、約0.5mg/ml、すなわち、約0.05%(w/v)である。
【0164】
特定の実施態様では、界面活性剤はP188であり、P188の濃度は約0.05%(w/v)、0.07%(w/v)、又は0.1%(w/v)である。
【0165】
特定の実施態様では、界面活性剤はPS20であり、PS20の濃度は少なくとも約≧0.2mg/ml、すなわち、少なくとも約≧0.02%(w/v)PS20の濃度である。
【0166】
特定の実施態様では、界面活性剤はPS20であり、PS20の濃度は約0.2~0.8 mg/ml、すなわち、約0.02%(w/v)から約0.08%(w/v)である。特定の実施態様では、界面活性剤はPS20であり、PS20の濃度は約0.5mg/ml、すなわち、約0.05%(w/v)である。特定の実施態様では、界面活性剤はPS20であり、PS20の濃度は少なくとも約≧0.02%(w/v)PS20である。特定の実施態様では、界面活性剤はPS20であり、PS20の濃度は約約0.02%(w/v)から約0.08%(w/v)である。特定の実施態様では、界面活性剤はPS20であり、PS20の濃度は約約0.05%(w/v)である。
【0167】
一実施態様では、本発明による液体薬学的組成物は、
約5から約6のpHで、
約1から5mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)であって、
a)CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
b)CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む約1から5mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体と;
約15~25mMのヒスチジンバッファーと;
約200~280mMのスクロースと;
約0~15mMのメチオニンと;
約0.2~0.8mg/mlのPS20と
を含む。
【0168】
一実施態様では、本発明による液体薬学的組成物は、
約5.2から約5.8のpHで、
約1から5mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)であって、
a)CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
b)CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む約1から5mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体と;
約15~25mMのヒスチジンバッファーと;
約200~280mMのスクロースと;
約0~15mMのメチオニンと;
約0.2~0.8mg/mlのPS20と
を含む。
【0169】
一実施態様では、本発明による液体薬学的組成物は、
約5.2から約5.8のpHで、
約0.9から1.1mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)であって、
a)CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
b)CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む約1mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体と;
約15~25mMのヒスチジンバッファーと;
約200~280mMのスクロースと;
約0~15mMのメチオニンと;
約0.2~0.8mg/mlのPS20と
を含む。
【0170】
一実施態様では、液体薬学的組成物は、
約5.2から約5.8のpHで、
約1mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)であって、
a)CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
b)CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む約1mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体と;
約15~25mMのヒスチジンバッファーと;
約200~280mMのスクロースと;
約0~15mMのメチオニンと;
約0.2~0.8mg/mlのPS20と
を含む。
【0171】
一実施態様では、液体薬学的組成物は、
約5.5のpHで、
約1mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)であって、
a)CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
b)CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む約1mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体と;
約20mMのヒスチジンバッファーと;
約240mMのスクロースと;
約10mMのメチオニンと;
約0.5mg/mlのPS20と
を含む。
【0172】
一実施態様では、本発明による液体薬学的組成物は、
約5.2から約5.8のpHで、
約1から5mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)であって、
(i)配列番号7の重鎖可変領域配列及び配列番号8の軽鎖可変領域配列を含む、CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
(ii)配列番号15の重鎖可変配列及び配列番号16の軽鎖可変領域配列を含む、CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む約1から5mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体と;
約15~25mMのヒスチジンバッファーと;
約200~280mMのスクロースと;
約0~15mMのメチオニンと;
約0.2~0.8mg/mlのPS20と
を含む。
【0173】
一実施態様では、本発明による液体薬学的組成物は、
約5.2から約5.8のpHで、
約0.9から約1.1mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体であって、
(i)配列番号7の重鎖可変領域配列及び配列番号8の軽鎖可変領域配列を含む、CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
(ii)配列番号15の重鎖可変領域配列及び配列番号16の軽鎖可変領域配列を含む、CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む約0.9から約1.1mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体と;
約15~25mMのヒスチジンバッファーと;
約200~280mMのスクロースと;
約0~15mMのメチオニンと;
約0.2~0.8mg/mlのPS20
とを含む。
【0174】
一実施態様では、本発明による液体薬学的組成物は、
約5.2から約5.8のpHで、
約1mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)であって、
(i)配列番号7の重鎖可変領域配列及び配列番号8の軽鎖可変領域配列を含む、CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
(ii)配列番号15の重鎖可変領域配列及び配列番号16の軽鎖可変領域配列を含む、CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む約1mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体と;
約15~25mMのヒスチジンバッファーと;
約200~280mMのスクロースと;
約0~15mMのメチオニンと;
約0.2~0.8mg/mlのPS20と
を含む。
【0175】
一実施態様では、本発明による液体薬学的組成物は、
約5.5のpHで、
約1mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)であって、
(i)配列番号7の重鎖可変領域配列及び配列番号8の軽鎖可変領域配列を含む、CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
(ii)配列番号15の重鎖可変領域配列及び配列番号16の軽鎖可変領域配列を含む、CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む約1mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体と;
約20mMのヒスチジンバッファーと;
約240mMのスクロースと;
約10mMのメチオニンと;
約0.5mg/mlのPS20と
を含む。
【0176】
一実施態様では、本発明による液体薬学的組成物は、
約5.2から約5.8のpHで、
約1から5mg/mlのグロフィタマブと;
約15~25mMのヒスチジンバッファーと;
約200~280mMのスクロースと;
約0~15mMのメチオニンと;
約0.2~0.8mg/mlのPS20と
を含む。
【0177】
一実施態様では、本発明による液体薬学的組成物は、
約5.2から約5.8のpHで、
約0.9から約1.1mg/mlのグロフィタマブと;
約15~25mMのヒスチジンバッファーと;
約200~280mMのスクロースと;
約0~15mMのメチオニンと;
約0.2~0.8mg/mlのPS20と
を含む。
【0178】
一実施態様では、本発明による液体薬学的組成物は、
約5.2から約5.8のpHで;
約1mg/mlのグロフィタマブと;
約15~25mMのヒスチジンバッファーと;
約200~280mMのスクロースと;
約0~15mMのメチオニンと;
約0.2~0.8mg/mlのPS20と
を含む。
【0179】
一実施態様では、本発明による液体薬学的組成物は、
約5.5のpHで、
約1mg/mlのグロフィタマブと;
約20mMのヒスチジンバッファーと;
約240mMのスクロースと;
約10mMのメチオニンと;
約0.5mg/mlのPS20と
を含む。
【0180】
製剤は、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、及び分散剤といったアジュバントも含有し得る。微生物の存在は、滅菌手順と、種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などを含めることとの両方により、確実に防止することができる。防腐剤は、概して約0.001から約2%(w/v)の量で使用される。防腐剤は、エタノール、ベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、p-クロル-m-クレゾール、メチル又はプロピルパラベン、及びベンザルコニウムクロライドを含むがこれらに限定されない。
【0181】
IV.本発明の薬学的組成物における使用のための治療剤
A.抗CD20/抗CD3二重特異性抗体
本発明は、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 T細胞エンゲージング二重特異性抗体(TCB)、例えば、グロフィタマブ)の新規の薬学的組成物に関する。一実施態様では、抗体は、モノクローナル抗体である。一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、ポリクローナル抗体である。一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、ヒト抗体である。一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、ヒト化抗体である。一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、キメラ抗体である。一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、完全長抗体である。一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、IgGクラス抗体、特にIgG1サブクラス抗体である。一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、組み換え抗体である。
【0182】
特定の実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、ヒト抗体を含む。抗体断片は、限定されないが、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、Fv、及びscFv断片と、下記の他の断片とを含む。特定の抗体断片の総説としては、Hudson et al.Nat.Med.9:129-134(2003)を参照されたい。scFv断片の総説については、例えば、Plueckthun, in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., (Springer-Verlag, New York), pp. 269-315 (1994)を参照のこと。また、国際公開第93/16185号並びに米国特許第5,571,894号及び同第5,587,458号を参照のこと。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、インビボ半減期が長くなったFab及びF(ab’)2断片の説明については、米国特許第5,869,046号を参照のこと。一実施態様では、抗体断片は、Fab断片又はscFv断片である。
【0183】
ダイアボディは、二価又は二重特異性であり得る2つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、欧州特許第404,097号、国際公開第1993/01161号、Hudson et al.Nat.Med.9:129-134(2003);及びHollinger et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448(1993)を参照のこと。トリアボディ及びテトラボディもHudson et al., Nat. Med. 9:129-134 (2003)に記載されている。
【0184】
単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全部若しくは一部又は軽鎖可変ドメインの全部若しくは一部を含む抗体断片である。特定の実施態様では、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis,Inc.,Waltham,MA;例えば、米国特許第6,248,516号を参照)。
【0185】
抗体断片は、本明細書に記載されるように、組み換え宿主細胞(例えばE.coli又はファージ)による、インタクトな抗体のタンパク分解、及び産生を含むがこれらに限定されない各種技術により作製され得る。
【0186】
特定の実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、キメラ抗体である。あるキメラ抗体が、例えば米国特許第4816567号及びMorrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855 (1984)に記載されている。一例では、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ又は非ヒト霊長類(サルなど)由来の可変領域)とヒト定常領域とを含む。更なる例では、キメラ抗体は、クラス又はサブクラスが親抗体のそれらから変更されている「クラススイッチ」抗体である。キメラ抗体は、その抗原結合断片を含む。
【0187】
特定の実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、ヒト化抗体である。典型的には、非ヒト抗体は、ヒトに対する免疫原性を低減するために、親の非ヒト抗体の特異性と親和性を保持したままヒト化されている。概して、ヒト化抗体は、HVR(例えばCDR)(又はその一部)が非ヒト抗体に由来し、FR(又はその一部)がヒト抗体配列に由来する、1つ又は複数の可変ドメインを含む。ヒト化抗体はまた、任意選択的にヒト定常領域の少なくとも一部を含む。いくつかの実施態様では、ヒト化抗体のいくつかのFR残基は、例えば、抗体特異性又は親和性を回復するか、又は改善するために、非ヒト抗体(例えば、HVR残基が由来する抗体)由来の対応する残基で置換されている。
【0188】
ヒト化抗体及びそれらの製造方法は、例えばAlmagro and Fransson, Front. Biosci. 13:1619-1633 (2008)にて総説されており、さらに、例えばRiechmann et al., Nature 332:323-329 (1988); Queen et al., Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 86:10029-10033 (1989)、米国特許第5821337号、第7527791号、第6982321号及び第7087409号、Kashmiri et al., Methods 36:25-34 (2005)(特異性決定領域(SDR)のグラフティングを記述)、Padlan, Mol. Immunol. 28:489-498 (1991)(「リサーフェシング」を記述)、Dall’Acqua et al., Methods 36:43-60 (2005)(「FRシャッフリング」を記述)、並びにOsbourn et al., Methods 36:61-68 (2005)及びKlimka et al., Br. J. Cancer, 83:252-260 (2000)(FRシャッフリングに対する「誘導選択」アプローチを記述)に記載されている。
【0189】
ヒト化に用いることのできるヒトフレームワーク領域には、限定されないが、「ベストフィット」法を用いて選択されるフレームワーク領域(例えばSims et al., J. Immunol. 151:2296 (1993)を参照);軽鎖又は重鎖可変領域の特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列に由来するフレームワーク領域(例えばCarter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992);及びPresta et al., J. Immunol., 151:2623 (1993)を参照);ヒト成熟(体細胞変異)フレームワーク領域又はヒトの生殖細胞系フレームワーク領域(例えばAlmagro and Fransson, Front. Biosci. 13:1619-1633 (2008)を参照);及びFRライブラリのスクリーニングに由来するフレームワーク領域(例えばBaca et al., J. Biol. Chem. 272:10678-10684 (1997)及びRosok et al., J. Biol. Chem. 271:22611-22618 (1996)を参照)が含まれる。
【0190】
特定の実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、ヒト抗体である。ヒト抗体を、当技術分野で公知の様々な技術を使用して製造することができる。ヒト抗体は、概して、van Dijk及びvan de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol. 5: 36874 (2001)、並びにLonberg, Curr. Opin. Immunol. 20:450459 (2008)に記載されている。
【0191】
ヒト抗体は、抗原チャレンジに応答して、インタクトなヒト抗体又はヒト可変領域を有するインタクトな抗体を産生するように修飾されたトランスジェニック動物に免疫原を投与することによって調製してもよい。このような動物は、典型的には、内因性免疫グロブリン遺伝子座に取って代わるか、又は染色体外に存在するか、又は動物の染色体にランダムに組み込まれるヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含有する。このようなトランスジェニックマウスでは、内因性免疫グロブリン遺伝子座は、一般的に不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得るための方法の総説については、Lonberg, Nat. Biotech. 23:1117-1125 (2005)を参照のこと。また、例えば、XENOMOUSE(商標)技術を記載する米国特許第6,075,181号及び米国特許第6,150,584号、HuMab(登録商標)技術を記載する米国特許第5,770,429号、K-M MOUSE(登録商標)技術を記載する米国特許第7,041,870号、及び、VelociMouse(登録商標)技術を記載する米国特許出願公開第2007/0061900号も参照されたい。このような動物によって生成されたインタクトな抗体からのヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせることによって、更に修飾されてもよい。
【0192】
ヒト抗体は、ハイブリドーマに基づく方法によっても作製することができる。ヒトモノクローナル抗体を産生するためのヒト骨髄腫細胞株及びマウス-ヒト異種骨髄腫細胞株が記載されている。(例えば、Kozbor J. Immunol., 133: 3001 (1984); Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987);及びBoerner et al., J. Immunol., 147: 86 (1991)を参照のこと。)ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を介して生成されたヒト抗体は、Li et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562 (2006)にも記載されている。さらなる方法は、例えば、米国特許第7189826号 (ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒトIgM抗体の産生を記載)及びNi, Xiandai Mianyixue, 26(4):265-268 (2006)(ヒト-ヒトハイブリドーマを記載)に記載されるものを含む。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)は、Vollmers and Brandlein, Histology and Histopathology, 20(3):927-937 (2005)及びVollmers and Brandlein, Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology, 27(3):185-91 (2005)にも記載されている。
【0193】
ヒト抗体は、ヒト由来のファージディスプレイライブラリから選択されるFvクローン可変ドメイン配列を単離することによっても作製され得る。その後、そのような可変ドメイン配列は、所望のヒト定常ドメインと組み合わせられ得る。抗体ライブラリからヒト抗体を選択するための技術を以下に記載する。
【0194】
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)に含まれる結合ドメインは、所望の活性を有する結合部位についてコンビナトリアルライブラリをスクリーニングすることにより単離することができる。例えば、ファージディスプレイライブラリを作成し、所望の結合特性を有する抗体についてこのようなライブラリをスクリーニングするための様々な方法が当技術分野で知られている。このような方法については、例えば、Hoogenboom et al.in Methods in Molecular Biology 178:1-37(O’Brien et al.,ed.,Human Press,Totowa,NJ,2001)で概説し、McCafferty et al.,Nature 348:552-554;Clackson et al.,Nature 352:624-628(1991);Marks et al.,J.Mol.Biol.222:581-597(1992);Marks and Bradbury,in Methods in Molecular Biology 248:161-175(Lo,ed.,Human Press,Totowa,NJ,2003);Sidhu et al.,J.Mol.Biol. 338(2):299-310(2004);Lee et al.,J.Mol.Biol. 340(5):1073-1093(2004);Fellouse,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101(34):12467-12472(2004);及びLee et al.,J.Immunol.Methods 284(1-2):119-132(2004)に更に記載されている。
【0195】
特定のファージディスプレイ法では、VH及びVL遺伝子のレパートリーは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって別個にクローニングされ、ファージライブラリ中でランダムに再結合され、次いで、Winter et al.,Ann.Rev.Immunol.,12:433-455(1994)に記載されているように抗原結合ファージのスクリーニングを行うことができる。ファージは、典型的には単鎖Fv(scFv)断片又はFab断片のいずれかとして抗体断片を提示する。免疫源からのライブラリは、ハイブリドーマを構築する必要なしに、免疫原に対する高親和性抗体を提供する。代替的に、ナイーブレパートリーは、Griffiths et al.,EMBO J,12:725-734(1993)によって記載されているように、免疫化を行わずに、広範囲の非自己抗原及びまた自己抗原に対する抗体の単一の供給源を提供するために、(例えば、ヒトから)クローン化することができる。最後に、ナイーブライブラリは、幹細胞から再配列されていないV遺伝子セグメントをクローニングし、ランダムな配列を含むPCRプライマーを使用して、非常に可変的なCDR3領域をコードし、Hoogenboom and Winter,J.Mol.Biol.,227:381-388(1992)に記載されているように、in vitroで再配列を達成することによって、合成的に作製することもできる。ヒト抗体ファージライブラリについて記載する特許公報としては、例えば:米国特許第5,750,373号、並びに米国特許出願公開第2005/0079574号、同第2005/0119455号、同第2005/0266000号、同第2007/0117126号、同第2007/0160598号、同第2007/0237764号、同第2007/0292936号、及び同第2009/0002360号が挙げられる。
【0196】
ヒト抗体ライブラリから単離された抗体又は抗体断片は、本明細書においてヒト抗体又はヒト抗体の断片とみなされる。
【0197】
二重特異性抗体を作製するための技術には、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え共発現(Milstein and Cuello, Nature 305: 537(1983)))、国際公開第93/08829号、及びTraunecker et al., EMBO J. 10: 3655(1991)を参照)、及び「ノブ・イントゥ・ホール」操作(例えば、米国特許第5,731,168号を参照)が含まれるが、これらに限定されるものではない。多重特異性抗体はまた、静電ステアリング効果を操作して抗体Fc-ヘテロ二量体分子を作製すること(国際公開第2009/089004A1号);2つ以上の抗体又は断片を架橋すること(例えば、米国特許第4,676,980号、及びBrennan et al., Science, 229: 81 (1985)を参照);ロイシンジッパを使用して二重特異性抗体を産生すること(例えば、Kostelny et al., J. Immunol., 148(5):1547-1553 (1992)を参照);「ダイアボディ」技術を使用して二重特異性抗体断片を作製すること(例えば、Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)を参照);並びに、一本鎖Fv(sFv)二量体を使用すること(例えば、Gruber et al., J. Immunol., 152:5368 (1994)を参照);並びに、例えば、Tutt et al. J. Immunol. 147: 60 (1991)に記載されるような三重特異性抗体を調製することによって作製してもよい。
【0198】
「オクトパス抗体」を含む、3つ以上の機能性抗原結合部位を持つ操作抗体もまた本明細書に含まれる(例えば、米国特許出願公開第2006/0025576A1号を参照)。
【0199】
本明細書における抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、2つの異なる抗原に結合する抗原結合部位を含む「二重作用性FAb」又は「DAF」も含む(例えば、米国特許公開第2008/0069820号参照)。
【0200】
「Crossmab」抗体も本明細書に含まれる(例えば、国際公開第2009080251号、同第O2009080252号、同第2009080253号、同第2009080254号を参照)。
【0201】
二重特異性抗体断片を作製するための別の技術は、「二重特異性T細胞エンゲージャー」又はBiTE(登録商標)手法である(例えば、国際公開第2004/106381号、同第2005/061547号、同第2007/042261、及び同第WO2008/119567号を参照)。このアプローチは、単一のポリペプチド上に配列された2つの抗体可変ドメインを利用する。例えば、単一ポリペプチド鎖は、各々が、二つのドメイン間の分子内会合を可能にするために十分な長さのポリペプチドリンカーにより分離された可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)ドメインを有する、二つの短鎖Fv(scFv)断片を含む。この単一のポリペプチドは、2つのscFv断片間のポリペプチドスペーサー配列をさらに含む。各scFvは異なるエピトープを認識し、これらのエピトープは異なる細胞タイプに特異的である可能性があるため、各scFvがその同族のエピトープに関与するとき、二つの異なる細胞タイプの細胞が近接又は係留される。このアプローチの1つの特定の実施態様は、免疫細胞によって発現される細胞表面抗原を認識するscFv、例えば、T細胞上のCD3ポリペプチドを含み、これは、悪性又は腫瘍細胞などの標的細胞によって発現される細胞表面抗原を認識する別のscFvに結合される。
【0202】
それは単一ポリペプチドであるため、二重特異性T細胞エンゲージャーは、当該技術分野で知られる任意の原核生物又は真核生物細胞発現系、例えばCHO細胞株、を使用して発現され得る。しかしながら、特定の精製技術(例えばEP1691833を参照)は、モノマーの意図した活性以外の生物活性を有し得る他の多量体種からモノマーの二重特異性T細胞エンゲージャーを分離する必要がある可能性がある。1つの例示的な精製スキームにおいて、分泌ポリペプチドを含有する溶液はまず、金属親和性クロマトグラフィーにかけられ、ポリペプチドは、イミダゾール濃度の勾配を用いて溶出される。この溶出物は、アニオン交換クロマトグラフィーを使用してさらに精製され、ポリペプチドは、塩化ナトリウム濃度の勾配を用いて使用して溶出される。最後に、この溶出物は、サイズ排除クロマトグラフィーにかけられ、多量体種から単量体が分離される。
【0203】
特定の実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、当技術分野で既知であるとともに容易に入手可能な更なる非タンパク質性部分を含有するように更に修飾され得る。抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)の誘導体化に適した部位には、水溶性ポリマーが含まれるが、これらに限定されない。水溶性ポリマーの非限定的な例には、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマー又はランダムコポリマーのいずれか)、及びデキストラン又はポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール、並びにこれらの混合物が含まれる(ただし、これらに限定されない)。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、水中でのその安定性のため、製造時に有利であり得る。ポリマーは、任意の分子量であってよく、分枝状でも非分枝状でもよい。抗体に結合するポリマーの数は変化してもよく、複数のポリマーが結合する場合、それらは同じ分子でも異なる分子でもよい。一般に、誘導体化のために使用されるポリマーの数及び/又は種類は、限定するものではないが、改良される抗体の特定の特性又は機能、抗体誘導体が定義される条件下で治療に使用されるかどうか等を含む考慮事項に基づいて判定することができる。
【0204】
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、1つ又は複数の細胞傷害剤、例えば、化学療法薬剤又は薬物、成長阻害剤、毒素(例えば、タンパク質毒素、又は細菌、真菌、植物若しくは動物由来の酵素的に活性な毒素、又はその断片)、又は放射性同位体にコンジュゲートされ得る。
【0205】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)を含み、ここで、抗体は、限定されるわけではないが、マイタンシノイド(米国特許第5,208,020号、同第5,416,064号、及び欧州特許第0425235B1号を参照);モノメチルオーリスタチン薬剤部分DE及びDF(MMAE及びMMAF)等のオーリスタチン(米国特許第5,635,483号、同第5,780,588号、及び同第7,498,298号を参照);ドラスタチン;カリケアマイシン又はその誘導体(米国特許第5,712,374号、同第5,714,586号、同第5,739,116号、同第5,767,285号、同第5,770,701号、同第5,770,710号、同第5,773,001号、及び同第5,877,296号;Hinman et al., Cancer Res. 53:3336-3342 (1993);並びにLode et al., Cancer Res. 58:2925-2928 (1998)を参照);ダウノマイシン及びドキソルビシン等のアントラサイクリン(例えばKratz et al., Current Med. Chem. 13:477-523 (2006); Jeffrey et al., Bioorganic & Med. Chem. Letters 16:358-362 (2006); Torgov et al., Bioconj. Chem. 16:717-721 (2005); Nagy et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:829-834 (2000); Dubowchik et al., Bioorg. & Med. Chem. Letters 12:1529-1532 (2002); King et al., J. Med. Chem. 45:4336-4343 (2002);及び米国特許第6,630,579号を参照);メトトレキサート;ビンデシン;ドセタキセル、パクリタキセル、ラロタキセル、テセタキセル、及びオルタタキセル等のタキサン;トリコテセン;並びにCC1065を含む1つ又は複数の薬剤にコンジュゲートしている。
【0206】
別の実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、外毒素A鎖(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファ-サルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンシンタンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、及びPAP-S)、ツルレイシ(Momordica charantia)阻害剤、クルシン、クロチン、サポンソウ(Saponaria officinalis)阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン、及びトリコテセンを含むがこれらに限定されない酵素活性毒素又はその断片にコンジュゲートしている。
【0207】
別の実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、放射性原子にコンジュゲートされ、放射性コンジュゲートを形成する。種々の放射性同位体が、放射性コンジュゲートの産生のために入手可能である。例としては、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212、及びLuの放射性同位元素が挙げられる。放射性コンジュゲートは、検出に使用されるとき、シンチグラフ検査のための放射性原子、例えばTc99m若しくはI123、又は核磁気共鳴(NMR)画像法(磁気共鳴画像法、MRIとしても知られる)のためのスピン標識、例えば、再びヨウ素-123、ヨウ素-131、インジウム-111、フッ素-19、炭素-13、窒素-15、酸素-17、ガドリニウム、マンガン又は鉄を含み得る。
【0208】
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体及び細胞傷害性剤のコンジュゲートは、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えば、アジプイミド酸ジメチルHCl)、活性エステル(例えば、スベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド)、ビス-アジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トルエン2,6-ジイソシアネート)、及びビス-活性フッ素化合物(例えば、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)などの多様な二官能性タンパク質カップリング剤を使用して作製され得る。例えば、リシンイムノトキシンは、Vitetta et al., Science 238:1098 (1987)に記載されているようにして調製することができる。炭素-14-標識1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレントリアミン五酢酸(MX-DTPA)は、放射性ヌクレオチドの抗体へのコンジュゲーションのための例示的キレート剤である。国際公開第94/11026号を参照されたい。リンカーは、細胞内での細胞傷害性薬物の放出を促進する「開裂性リンカー」であってもよい。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカー又はジスルフィド含有リンカー(Chari et al., Cancer Res. 52:127-131(1992);米国特許第5208020号)が使用され得る。
【0209】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、細胞増殖性障害(例えば、がん)の治療に適応される。一実施態様では、細胞増殖性障害はがんである。一実施態様では、がんは、B細胞増殖性障害である。一実施態様では、がんは、CD20陽性B細胞増殖性障害である。一実施態様では、がんは、非ホジキンリンパ腫(NHL)である。一実施態様では、NHLは、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、高悪性度B細胞リンパ腫(HGBCL)、濾胞性リンパ腫(FL)[形質転換FL;trFL]から生じたDLBCL、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫(PMBCL)、又は辺縁帯リンパ腫(MZL)である。MZLは、脾性MZL、結節性MZL、結節外MZLに分類される。一実施態様では、NHLは、マントル細胞リンパ腫(MCL)である。一実施態様では、NHLは、グレード1~3aの濾胞性リンパ腫(FL)である。いくつかの実施態様では、CD20陽性B細胞増殖性障害は、再発性又は難治性B細胞増殖性障害である。一実施態様では、再発性又は難治性B細胞増殖性障害は、再発性又は難治性NHL(例えば、再発性若しくは難治性DLBCL、再発性若しくは難治性FL、又は再発性若しくは難治性MCL)である。
【0210】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、CD3εに特異的に結合する。
【0211】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3CD3抗体は、抗体H2C(国際公開第2008/119567号)、抗体V9(Rodrigues et al., Int J Cancer Suppl 7, 45-50 (1992)及び米国特許第6054297号)、抗体FN18(Nooij et al., Eur J Immunol 19, 981-984 (1986))、抗体SP34(Pessano et al., EMBO J 4, 337-340 (1985))、抗体OKT3(Kung et al., Science 206, 347-349 (1979))、抗体WT31(Spits et al., J Immunol.135, 1922 (1985))、抗体UCHT1(Burns et al., J Immunol.129, 1451-1457 (1982))、抗体7D6(Coulie et al., Eur J Immunol.21-1709 (1991))、又は抗体Leu-4と結合について競合し得る。いくつかの実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、国際公開第2005/040220号、同第2005/118635号、同第2007/042261号、同第2008/119567号、同第2008/119565号、同第2012/162067号、同第2013/158856号、同第2013/188693号、同第2013/186613号、同第2014/110601号、同第2014/145806号、同第2014/191113号、同第2014/047231号、同第2015/095392号、同第2015/181098号、同第2015/001085号、同第2015/104346号、同第2015/172800号、同第2016/020444号、又は同第2016/014974号に記載されるようにCD3に特異的に結合する抗原結合部分も含み得る。
【0212】
いくつかの実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、リツキシマブ、オビヌツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オカラツズマブ、ベルツズマブ、及びブリツキシマブからの抗体又は抗原結合部分を含み得る。
【0213】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、グロフィタマブである。
【0214】
いくつかの実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、本明細書で命名された抗体のジェネリック、バイオシミラー、又は比較できない生物学的バージョンから構成され得る。
【0215】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含む少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む。
【0216】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、配列番号7の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号8の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む。さらなる実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、配列番号7の重鎖可変領域配列と、配列番号8の軽鎖可変領域配列とを含む、CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む。
【0217】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号11アミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含む少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む。
【0218】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、配列番号15の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である重鎖可変領域配列と、配列番号16の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である軽鎖可変領域配列とを含む、少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む。さらなる実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、配列番号15の重鎖可変領域配列と、配列番号16の軽鎖可変領域配列とを含む、CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む。
【0219】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、
a)CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号3アミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
b)CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号11アミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインとを含む。
【0220】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、
(i)配列番号7の重鎖可変領域配列及び配列番号8の軽鎖可変領域配列を含む、CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
(ii)配列番号15の重鎖可変領域配列及び配列番号16の軽鎖可変領域配列を含む、CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む。
【0221】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体のCD3に特異的に結合する抗原結合ドメインは、抗体断片、特にFab分子又はscFv分子、より具体的にはFab分子である。特定の実施態様では、CD3に特異的に結合する、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)の抗原結合ドメインは、Fab重鎖及び軽鎖の可変ドメイン又は定常ドメインが交換される(すなわち、互いに置き換えられる)クロスオーバーFab分子である。
【0222】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインとを含む。一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、CD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインと、CD20に特異的に結合する第2及び第3の抗原結合ドメインとを含む。一実施態様では、第1の抗原結合ドメインはクロスオーバーFab分子であり、第2及び第3の抗原結合ドメインはそれぞれ、従来のFab分子である。一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、Fcドメインをさらに含む。抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、本明細書に記載されるように、Fc領域及び/又は抗原結合ドメインの修飾を含み得る。一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、Fc受容体への結合及び/又はエフェクター機能を低下させる1つ又は複数のアミノ酸置換を含むIgG1 Fcドメインを含む。一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、アミノ酸置換L234A、L235A、及びP329G(EU番号付け)を含むIgG1 Fcドメインを含む。
【0223】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、
(i)Fab重鎖のC末端において、Fcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しているCD3に特異的に結合する抗原結合ドメインと;
(ii)Fab重鎖のC末端において、CD3に特異的に結合する抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合しているCD20に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインと;
(iii)Fab重鎖のC末端において、Fcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合しているCD20に特異的に結合する第2の抗原結合ドメインと;
を含む。
【0224】
特定の実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、:
a)CD3、特にCD3イプシロンに特異的に結合する第1のFab分子であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって交換されている第1のFab分子と;
b)CD20に特異的に結合する第2のFab分子及び第3のFab分子であって、第2のFab分子及び第3のFab分子の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)により置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)又はアルギニン(R)により、特にアルギニン(R)により置換されており(Kabatによる番号付け)、第2のFab分子及び第3のFab分子の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されており(EU番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されている(EU番号付け)、第2のFab分子及び第3のFab分子と;
c)安定な会合が可能な第1のサブユニットと第2のサブユニットから構成されるFcドメインと
を含む。
【0225】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、CD20に特異的に結合する2つの抗原結合ドメインと、CD3に特異的に結合する1つの抗原結合ドメインとを含む。
【0226】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、CD20については二価であり、CD3については一価である。
【0227】
一実施態様では、a)の第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインのサブユニットの一方のN末端に融合しており、b)の第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端においてa)の第1のFab分子の重鎖のN末端に融合しており、b)の第3のFab分子は、Fab重鎖のC末端においてc)のFcドメインの他方のサブユニットのN末端に融合している。一実施態様では、a)の第1のFab分子は、配列番号15の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、又は99%同一である重鎖可変領域と、配列番号16の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、又は99%同一である軽鎖可変領域とを含む。
【0228】
またさらなる実施態様では、a)の第1のFab分子は、配列番号15の重鎖可変領域配列と、配列番号16の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0229】
一実施態様では、b)の第2のFab分子及び第3のFab分子はそれぞれ、配列番号7の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、又は99%同一である重鎖可変領域と、配列番号8の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、又は99%同一である軽鎖可変領域とを含む。
【0230】
一実施態様では、b)の第2のFab分子及び第3のFab分子はそれぞれ、配列番号7の重鎖可変領域配列と、配列番号8の軽鎖可変領域配列とを含む。
【0231】
特定の実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、配列番号17の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるポリペプチドと、配列番号18の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるポリペプチドと、配列番号19の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるポリペプチドと、配列番号20の配列と少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%同一であるポリペプチドとを含む。さらなる特定の実施態様では、二重特異性抗体は、配列番号17のポリペプチド配列と、配列番号18のポリペプチド配列と、配列番号19のポリペプチド配列と、配列番号20のポリペプチド配列とを含む。さらに特定の実施態様では、二重特異性抗体は、配列番号17のアミノ酸配列を含む1つのポリペプチド鎖と、配列番号18のアミノ酸配列を含む1つのポリペプチド鎖と、配列番号19のアミノ酸配列を含む1つのポリペプチド鎖と、それぞれ配列番号20のアミノ酸配列を含む2つのポリペプチド鎖とを含む。
【0232】
特定の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、PCT公報国際公開第2016/020309号並びに欧州特許出願番号EP15188093及びEP16169160(それぞれ、参照によりその全体が本明細書に援用される)に記載されている。一実施態様では、本発明の薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、グロフィタマブである。
【0233】
B.抗体フォーマット
1.抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の構造
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の構成要素を、様々な構造で互いに融合させることができる。例示的な構造を
図1に示す。
【0234】
特定の実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体に含まれる抗原結合部分はFab分子である。このような実施態様では、第1、第2、第3などの抗原結合部分は、本明細書において、それぞれ第1、第2、第3などのFab分子と呼ばれることがある。さらに、特定の実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、安定に会合することのできる第1のサブユニットと第2のサブユニットから構成されるFcドメインを含む。
【0235】
いくつかの実施態様では、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合している。
【0236】
このような一実施態様では、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端において第1のFab分子のFab重鎖のN末端に融合している。具体的なそのような実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、第1及び第2のFab分子と、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意選択的に1つ又は複数のペプチドリンカーとから本質的になり、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合しており、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端において第1のFab分子のFab重鎖のN末端に融合している。このような構造は、
図1G及び1Kに概略的に示されている。任意選択的に、第1のFab分子のFab軽鎖及び第2のFab分子のFab軽鎖は、さらに互いに融合され得る。
【0237】
別の実施態様では、第2のFab分子はFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合している。具体的なそのような実施態様では、抗体は、第1及び第2のFab分子と、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意選択的に1つ又は複数のペプチドリンカーとから実質的になり、第1及び第2のFab分子は、各々がFab重鎖のC末端でFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合している。そのような構造は、
図1A及び1Dに概略的に示されている。第1及び第2のFab分子は、直接又はペプチドリンカーを介してFcドメインに融合され得る。特定の実施態様では、第1及び第2のFab分子は、免疫グロブリンヒンジ領域によって、それぞれFcドメインに融合する。具体的な実施態様では、免疫グロブリンヒンジ領域は、ヒトIgG
1ヒンジ領域であり、特に、Fcドメインは、IgG
1Fcドメインである。
【0238】
他の実施態様では、第2のFab分子はFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合している。このような一実施態様では、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端において第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合しいている。具体的なそのような実施態様では、抗体は、第1及び第2のFab分子と、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意選択的に1つ又は複数のペプチドリンカーとから本質的になり、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合しており、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合している。このような構造は、
図1H及び1Lに概略的に示されている。任意選択的に、第1のFab分子のFab軽鎖及び第2のFab分子のFab軽鎖は、さらに互いに融合され得る。
【0239】
Fab分子は、Fcドメインに、又は、互いに直接又は一若しくは複数のアミノ酸、典型的には約2~20のアミノ酸を含むペプチドリンカーを通じて融合され得る。ペプチドリンカーは当技術分野で知られており、本明細書に記載されている。適切な非免疫原性ペプチドリンカーには、例えば、(G4S)n(配列番号21)、(SG4)n(配列番号22)、又はG4(SG4)n(配列番号23)ペプチドリンカーが含まれる。「n」は通常1から10、典型的には2から4の整数である。一実施態様では、前記ペプチドリンカーは、少なくとも5のアミノ酸長を、一実施態様では5から100、さらなる実施態様では10から50のアミノ酸長を有する。一実施態様では、前記ペプチドリンカーは、(GxS)n又は(GxS)nGm[式中、G=グリシン、S=セリン、(x=3、n=3、4、5又は6、m=0、1、2又は3)又は(x=4、n=2、3、4又は5、m=0、1、2又は3)]であり、一実施態様では、x=4、n=2又は3であり、さらなる実施態様ではx=4、n=2である。一実施態様では、前記ペプチドリンカーは、(G4S)2(配列番号24)である。第1及び第2のFab分子のFab軽鎖を互いに融合させるのに特に適切なペプチドリンカーは(G4S)2(配列番号24)である。第1及び第2のFab分子のFab重鎖を接続するのに適切な例示的ペプチドリンカーは、配列(D)-(G4S)2(配列番号24及び25)を含む。別の適切なそのようなリンカーは、配列(G4S)4(配列番号26)を含む。加えて、リンカーは免疫グロブリンヒンジ領域(の一部)を含み得る。特にFab分子がFcドメインサブユニットのN末端に融合している場合、追加のペプチドリンカーの有無にかかわらず、免疫グロブリンヒンジ領域又はその一部を介して融合され得る。
【0240】
標的細胞抗原に特異的に結合することができる単一の抗原結合部分(例えばFab分子)を有する抗体(例えば
図1A、1D、1G、1H、1K、又は1Lに示すようなもの)は、特に高親和性抗原結合部分の結合に続いて標的細胞抗原の内在化が予想される場合に有用である。このような場合、標的細胞抗原に特異的な1つより多い抗原結合部分の存在は、標的細胞抗原の内部移行を促進し、それによってその利用可能性を低下させ得る。
【0241】
しかしながら、他の多くの場合では、例えば、標的部位への標的化を最適化するために、又は標的細胞抗原の架橋を可能にするために、標的細胞抗原(
図1B、1C、1E、1F、1I、13J、1M又は1Nに示す例を参照のこと)に特異的な2つ以上の抗原結合部分(例えば、Fab分子)を含む抗体を有することが有利であろう。
【0242】
したがって、特定の実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、2つの抗CD20結合部分、例えば、CD20を標的とする2つのFab分子を含む。一実施態様では、CD20を標的とする2つのFab分子は、従来のFab分子である。一実施態様では、CD20を標的とする2つのFab分子は、同じ重鎖及び軽鎖アミノ酸配列を含み、同じドメイン構成を有する(すなわち、従来の又はクロスオーバー)。
【0243】
代替的な実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、2つの抗CD3結合部分、例えば、CD3を標的とする2つのFab分子を含む。このような一実施態様では、CD3を標的とする2つのFab分子はどちらもクロスオーバーFab分子(Fab重鎖と軽鎖の可変ドメインVH及びVL又は定常ドメインCLとCH1が交換されている/互いによって置き換えられているFab分子)である。このような一実施態様では、CD3を標的とする2つのFab分子は、同じ重鎖及び軽鎖アミノ酸配列を含み、同じドメイン構成を有する(すなわち、従来の又はクロスオーバー)。
【0244】
一実施態様では、第3のFab分子はFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合している。
【0245】
特定の実施態様では、第2及び第3のFab分子は、それぞれFab重鎖のC末端においてFcドメインのサブユニットのうちの一つのN末端に融合しており、第1のFab分子はFab重鎖のC末端において第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合している。具体的なそのような実施態様では、抗体は、第1、第2及び第3のFab分子と、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意選択的に1つ又は複数のペプチドリンカーとから本質的になり、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合しており、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している。このような構造は、
図1B及び
図1E(第3のFab分子が従来のFab分子であり、第2のFab分子と同一である実施態様)と、
図1I及び
図1M(第3のFab分子がクロスオーバーFab分子であり、好ましくは第1のFab分子と同一である実施態様)に概略的に示されている。第2及び第3のFab分子は、直接又はペプチドリンカーを介してFcドメインに融合され得る。特定の実施態様では、第2及び第3のFab分子は、免疫グロブリンヒンジ領域を介して、それぞれFcドメインに融合している。具体的な実施態様では、免疫グロブリンヒンジ領域は、ヒトIgG
1ヒンジ領域であり、特に、Fcドメインは、IgG
1Fcドメインである。任意選択的に、第1のFab分子のFab軽鎖及び第2のFab分子のFab軽鎖は、さらに互いに融合され得る。
【0246】
別の実施態様では、第2及び第3のFab分子は、それぞれFab重鎖のC末端においてFcドメインのサブユニットのうちの一つのN末端に融合しており、第1のFab分子はFab重鎖のC末端において第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合している。具体的なそのような実施態様では、抗体は、第1、第2及び第3のFab分子と、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意選択的に1つ又は複数のペプチドリンカーとから本質的になり、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合しており、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している。このような構造は、
図1C及び
図1F(第3のFab分子が従来のFab分子であり、第2のFab分子と同一である実施態様)と、
図1J及び
図1N(第3のFab分子がクロスオーバーFab分子であり、第1のFab分子と同一である実施態様)に概略的に示されている。第1及び第3のFab分子は、直接又はペプチドリンカーを介してFcドメインに融合され得る。特定の実施態様では、第2及び第3のFab分子は、免疫グロブリンヒンジ領域を介して、それぞれFcドメインに融合している。具体的な実施態様では、免疫グロブリンヒンジ領域は、ヒトIgG
1ヒンジ領域であり、特に、Fcドメインは、IgG
1Fcドメインである。任意選択的に、第1のFab分子のFab軽鎖及び第2のFab分子のFab軽鎖は、さらに互いに融合され得る。
【0247】
Fab分子がFab重鎖のC末端で免疫グロブリンヒンジ領域を介してFcドメインのサブユニットのそれぞれのN末端に融合されている抗体の構造では、2つのFab分子、ヒンジ領域、及びFcドメインが、免疫グロブリン分子を本質的に形成する。特定の実施態様では、免疫グロブリン分子はIgGクラスの免疫グロブリンである。さらに特定の実施態様では、免疫グロブリンはIgG1サブクラスの免疫グロブリンである。別の実施態様では、免疫グロブリンはIgG4サブクラスの免疫グロブリンである。さらなる特定の実施態様では、免疫グロブリンはヒト免疫グロブリンである。他の実施態様では、免疫グロブリンは、キメラ免疫グロブリン又はヒト化免疫グロブリンである。
【0248】
抗体のいくつかにおいて、第1のFab分子のFab軽鎖及び第2のFab分子のFab軽鎖は、任意選択的にペプチドリンカーを介して互いに融合される。第1及び第2のFab分子の構成に応じて、第1のFab分子のFab軽鎖は、そのC末端で第2のFab分子のFab軽鎖のN末端に融合され得るか、又は第2のFab分子のFab軽鎖は、そのC末端で第1のFab分子のFab軽鎖のN末端に融合され得る。第1及び第2のFab分子のFab軽鎖の融合は、合致しないFab重鎖及び軽鎖の誤対合をさらに低減し、また、抗体のいくつかの発現に必要なプラスミドの数を減少させる。
【0249】
特定の実施態様では、抗体は、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第1のFab分子が、クロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられている)、次に、第1のFab分子のFab重鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有する(VL(1)-CH1(1)-CH2-CH3(-CH4))ポリペプチド、並びに第2のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有する(VH(2)-CH1(2)-CH2-CH3(-CH4))ポリペプチドを含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第1のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VH(1)-CL(1))及び第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))をさらに含む。特定の実施態様では、ポリペプチドは、例えばジスルフィド結合により、共有結合している。
【0250】
特定の実施態様では、抗体は、第1のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第1のFab分子が、クロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換えられている)、第1のFab分子のFab軽鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有する(VH(1)-CL(1)-CH2-CH3(-CH4))ポリペプチド、並びに第2のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有する(VH(2)-CH1(2)-CH2-CH3(-CH4))ポリペプチドを含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(1)-CH1(1))及び第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))をさらに含む。特定の実施態様では、ポリペプチドは、例えばジスルフィド結合により、共有結合している。
【0251】
いくつかの実施態様では、抗体は、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第1のFab分子が、クロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられている)、次に、第1のFab分子のFab重鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖と共有し、次に、第2のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有する(VL(1)-CH1(1)-VH(2)-CH1(2)-CH2-CH3(-CH4))ポリペプチドを含む。他の実施態様では、抗体は、第2のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖可変領域と共有し、次に、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第1のFab分子が、クロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられている)、次に、第1のFab分子のFab重鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有する(VH(2)-CH1(2)-VL(1)-CH1(1)-CH2-CH3(-CH4))ポリペプチドを含む。
【0252】
これらの実施態様のいくつかでは、抗体は、第1のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有する第1のFab分子のクロスオーバーFab軽鎖ポリペプチド(VH(1)-CL(1))と、第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))をさらに含む。これらの実施態様の他では、適切であれば、抗体は、第1のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し、次に、第1のFab分子のFab軽鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチドと共有する(VH(1)-CL(1)-VL(2)-CL(2))ポリペプチド、又は第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチドが、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖可変領域と共有し、次に、第1のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有する(VL(2)-CL(2)-VH(1)-CL(1))ポリペプチドをさらに含む。
【0253】
これらの実施態様による抗体は、(i)Fcドメインサブユニットポリペプチド(CH2-CH3(-CH4))、又は(ii)第3のFab分子のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(3)-CH1(3)-CH2-CH3(-CH4))及び第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))を更に含み得る。特定の実施態様では、ポリペプチドは、例えばジスルフィド結合により、共有結合している。
【0254】
いくつかの実施態様では、抗体は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第1のFab分子が、クロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖定常領域が軽鎖定常領域と置き換えられている)、次に、第1のFab分子のFab軽鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖と共有し、次に、第2のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有する(VH(1)-CL(1)-VH(2)-CH1(2)-CH2-CH3(-CH4))ポリペプチドを含む。他の実施態様では、抗体は、第2のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖可変領域と共有し、次に、第1のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第1のFab分子が、クロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換えられている)、次に、第1のFab分子のFab軽鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有する(VH(2)-CH1(2)-VH(1)-CL(1)-CH2-CH3(-CH4))ポリペプチドを含む。
【0255】
これらの実施態様の一部では、抗体は、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有する第1のFab分子のクロスオーバーFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CH1(1))及び第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(2)-CL(2))をさらに含む。これらの実施態様の他では、適切であれば、抗体は、第1のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し、次に、第1のFab分子のFab重鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチドと共有する(VL(1)-CH1(1)-VL(2)-CL(2))ポリペプチド、又は第2のFab分子のFab軽鎖ポリペプチドが、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖可変領域と共有し、次に、第1のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有する(VL(2)-CL(2)-VH(1)-CL(1))ポリペプチドをさらに含む。
【0256】
これらの実施態様による抗体は、(i)Fcドメインサブユニットポリペプチド(CH2-CH3(-CH4))、又は(ii)第3のFab分子のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(3)-CH1(3)-CH2-CH3(-CH4))及び第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))を更に含み得る。特定の実施態様では、ポリペプチドは、例えばジスルフィド結合により、共有結合している。
【0257】
特定の実施態様では、抗体は、第1のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域と共有し、次に、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有する(すなわち、第2のFab分子がクロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられている)ポリペプチド(VH(1)-CH1(1)-VL(2)-CH1(2))を含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2))及び第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))をさらに含む。
【0258】
特定の実施態様では、抗体、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第2のFab分子がクロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられている)、次に、第2のFab分子のFab重鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第1のFab分子のFab重鎖と共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2)-VH(1)-CH1(1))を含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2))及び第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))をさらに含む。
【0259】
特定の実施態様では、抗体は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第2のFab分子がクロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換えられている)、次に、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第1のFab分子のFab重鎖と共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2)-VH(1)-CH1(1))を含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2))及び第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))をさらに含む。
【0260】
特定の実施態様では、抗体は、第3のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第1のFab分子のFab重鎖と共有し、次に、第1のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域と共有し、次に、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有する(すなわち、第2のFab分子がクロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられている)ポリペプチド(VH(3)-CH1(3)-VH(1)-CH1(1)-VL(2)-CH1(2))を含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2))及び第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))をさらに含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))をさらに含む。
【0261】
特定の実施態様では、抗体は、第3のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第1のFab分子のFab重鎖と共有し、次に、第1のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab重鎖可変領域と共有し、次に、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有する(すなわち、第2のFab分子がクロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換えられている)ポリペプチド(VH(3)-CH1(3)-VH(1)-CH1(1)-VH(2)-CL(2))を含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2))及び第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))をさらに含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))をさらに含む。
【0262】
特定の実施態様では、抗体は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第2のFab分子が、クロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖可変領域が、軽鎖可変領域によって置き換えられている)、次に、第2のFab分子のFab重鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第1のFab分子のFab重鎖と共有し、次に、第1のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第3のFab分子のFab重鎖と共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2)-VH(1)-CH1(1)-VH(3)-CH1(3))を含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2))及び第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))をさらに含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))をさらに含む。
【0263】
特定の実施態様では、抗体は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第2のFab分子が、クロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖定常領域が、軽鎖定常領域によって置き換えられている)、次に、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第1のFab分子のFab重鎖と共有し、次に、第1のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第3のFab分子のFab重鎖と共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2)-VH(1)-CH1(1)-VH(3)-CH1(3))を含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2))及び第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))をさらに含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))をさらに含む。
【0264】
特定の実施態様では、抗体は、第1のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖可変領域と共有し、次に、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第2のFab分子が、クロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられている)、次に、第2のFab分子のFab重鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第3のFab分子のFab軽鎖可変領域と共有し、次に、第3のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第3のFab分子のFab重鎖定常領域と共有する(すなわち、第3のFab分子がクロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられている)(VH(1)-CH1(1)-VL(2)-CH1(2)-VL(3)-CH1(3))ポリペプチドを含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2))及び第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))をさらに含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第3のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第3のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VH(3)-CL(3))をさらに含む。
【0265】
特定の実施態様では、抗体は、第1のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖可変領域と共有し、次に、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第2のFab分子が、クロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換えられている)、次に、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第3のFab分子のFab重鎖可変領域と共有し、次に、第3のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第3のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有する(すなわち、第3のFab分子がクロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換えられている)(VH(1)-CH1(1)-VH(2)-CL(2)-VH(3)-CL(3))ポリペプチドを含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2))及び第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))をさらに含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第3のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第3のFab分子のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(3)-CH1(3))をさらに含む。
【0266】
特定の実施態様では、抗体は、第3のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第3のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第3のFab分子が、クロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられている)、次に、第3のFab分子のFab重鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖可変領域と共有し、次に、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第2のFab分子がクロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖可変領域が軽鎖可変領域によって置き換えられている)、次に、第2のFab分子のFab重鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖と共有する(VL(3)-CH1(3)-VL(2)-CH1(2)-VH(1)-CH1(1))ポリペプチドを含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2))及び第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))をさらに含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第3のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第3のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VH(3)-CL(3))をさらに含む。
【0267】
特定の実施態様では、抗体は、第3のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第3のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第3のFab分子が、クロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換ええられている)、次に、第3のFab分子のFab軽鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖可変領域と共有し、次に、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第2のFab分子がクロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖定常領域が軽鎖定常領域によって置き換えられている)、次に、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖と共有する(VH(3)-CL(3)-VH(2)-CL(2)-VH(1)-CH1(1))ポリペプチドを含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2))及び第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))をさらに含む。いくつかの実施態様では、抗体は、第3のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第3のFab分子のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(3)-CH1(3))をさらに含む。
【0268】
上記の実施態様のいずれかによれば、抗体の構成要素(例えば、Fab分子、Fcドメイン)は、直接的に融合されていてもよく、又は、種々のリンカー、特に、本明細書に記載されている若しくは当技術分野で知られている1若しくは複数のアミノ酸(典型的には約2-20アミノ酸)を含むペプチドリンカーを介して融合されていてもよい。適切な非免疫原性ペプチドリンカーには、例えば、(G4S)n(配列番号21)、(SG4)n(配列番号22)、又はG4(SG4)n(配列番号23)ペプチドリンカーが含まれ、ここで、nは、概して1から10、典型的には2から4の整数である。
【0269】
2.Fcドメイン
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、抗体分子の重鎖ドメインを含む一対のポリペプチド鎖からなるFcドメインを含み得る。例えば、免疫グロブリンG(IgG)分子のFcドメインは二量体であり、その各サブユニットはCH2及びCH3 IgG重鎖定常ドメインを含む。Fcドメインの2つのサブユニットは、互いに安定した結合が可能である。
【0270】
一実施態様では、Fcドメインは、IgG Fcドメインである。特定の実施態様では、Fcドメインは、IgG1 Fcドメインである。別の実施態様では、Fcドメインは、IgG4 Fcドメインである。より具体的な態様において、Fcドメインは、S228位(Kabat番号付け)にアミノ酸置換、特にアミノ酸置換S228Pを含むIgG4 Fcドメインである。このアミノ酸置換は、IgG4抗体のin vivoでのFabアーム交換を減少させる(Stubenrauch et al., Drug Metabolism and Disposition 38, 84-91 (2010)を参照)。さらに特定の実施態様では、Fcドメインはヒトである。
【0271】
(i)ヘテロ二量体化を促進するFcドメイン修飾
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、Fcドメインの2つのサブユニットの一方又は他方に融合した異なる成分(例えば、抗原結合ドメイン)を含んでもよく、したがって、Fcドメインの2つのサブユニットは、典型的には2つの非同一なポリペプチド鎖に含まれている。これらのポリペプチドの組換え共発現及びその後の二量体化により、2つのポリペプチドのいくつかの可能な組み合わせが生じる。したがって、組み換え生成においてこのような抗体の収率及び純度を高めるために、抗体のFcドメインに、所望のポリペプチドの会合を促す修飾を含めることが有利であろう。
【0272】
したがって、特定の実施態様では、Fcドメインは、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットの会合を促す修飾を含む。ヒトIgG Fcドメインの2つのサブユニット間のタンパク質間相互作用が最も広範囲に及ぶ部位は、FcドメインのCH3ドメインにある。したがって、ある実施態様では、前記修飾はFcドメインのCH3ドメイン内にある。
【0273】
ヘテロ二量体化を強化するための、FcドメインのCH3ドメインにおける修飾のためのいくつかの手法が、例えば、国際公開第96/27011号、同第98/050431号、EP1870459、国際公開第2007/110205号、同第2007/147901号、同第2009/089004号、同第2010/129304号、同第2011/90754号、同第2011/143545号、同第2012058768号、同第2013157954号、同第2013096291号に十分説明されている。典型的には、全てのこのような手法では、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインと、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインは両方とも、各CH3ドメイン(又はそれを含む重鎖)が、それ自体とホモ二量体化せず、相補的に操作された他のCH3ドメインとヘテロ二量体化するように仕向けられている相補的な様式で操作されている(その結果、第1のCH3ドメイン及び第2のCH3ドメインがヘテロ二量体化し、2つの第1のCH3ドメイン又は2つの第2のCH3ドメインの間のホモ二量体は形成されない)。重鎖ヘテロ二量体化の改善のためのこれらの異なる手法は、重鎖-軽鎖修飾(例えば、1つのFabアームにおける可変又は定常領域の交換/置き換え、又はCH1/CL接触面における反対の電荷を持つ荷電アミノ酸の置換の置換の導入)と組み合わせた、異なる代替例として考慮され、軽鎖の誤対合及びベンス・ジョーンズ型の副産物を低減させる。
【0274】
具体的な実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニット及び第2のサブユニットの会合を促進する前記修飾は、いわゆる「ノブ・イントゥ・ホール」修飾であり、Fcドメインの2つのサブユニットの1つに「ノブ」修飾と、Fcドメインの2つのサブユニットの他の1つに「ホール」修飾とを含む。
【0275】
「ノブ・イントゥ・ホール」技術は、例えば米国特許第5731168号;同第7695936号;Ridgway et al., Prot Eng. 9, 617-621 (1996)、及びCarter, J Immunol Meth. 248, 7-15 (2001)に記載されている。一般的に、この方法は、第1のポリペプチドの接触面に突起(「ノブ」)を、第2のポリペプチドの接触面に対応する空洞(「ホール」)を導入し、その結果突起が空洞内に配置することができ、ヘテロ二量体形成を促進しホモ二量体形成を妨げるようにする。突起は、第1のポリペプチドの接触面からの小さなアミノ酸側鎖を、より大きな側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)で置き換えることによって構築される。大きなアミノ酸側鎖をより小さなアミノ酸側鎖(例えばアラニン又はスレオニン)で置き換えることにより、突起と同じ又は同様の大きさの相補的な空洞が第2のポリペプチドの接触面に作られる。
【0276】
したがって、特定の一実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基がそれよりも大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第1のサブユニットのCH3ドメイン内部に、第2のサブユニットのCH3ドメイン内部の空洞内に配置可能な突起が生成され、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基がそれよりも小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それにより、第2のサブユニットのCH3ドメイン内部に、第1のサブユニットのCH3ドメイン内部の突起を配置可能な空洞が生成される。
【0277】
好ましくは、より大きな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、及びトリプトファン(W)からなる群から選択される。
【0278】
好ましくは、より小さな側鎖体積を有する前記アミノ酸残基は、アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T)、及びバリン(V)からなる群から選択される。
【0279】
突起及び空洞は、例えば部位特異的(site-specific)変異導入又はペプチド合成などでポリペプチドをコードする核酸を変化させることにより、作製することができる。
【0280】
特定の実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニット(「ノブ」サブユニット)のCH3ドメインでは、366位のスレオニン残基がトリプトファン残基と置き換えられ(T366W)、Fcドメインの第2のサブユニット(「ホール」サブユニット)のCH3ドメインでは、407位のチロシン残基がバリン残基と置き換えられる(Y407V)。一実施態様では、Fcドメインの第2のサブユニットにおいてさらに、366位のスレオニン残基がセリン残基と置き換えられ(T366S)、368位のロイシン残基がアラニン残基と置き換えられる(L368A)(EU番号付け)。
【0281】
さらなる実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいてさらに、354位のセリン残基がシステイン残基と置き換えられる(S354C)か、又は356位のグルタミン酸残基がシステイン残基と置き換えられ(E356C)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいてさらに、349位のチロシン残基がシステイン残基で置き換えられる(Y349C)(EU番号付け)。これら2つのシステイン残基の導入により、Fcドメインの2つのサブユニット間にジスルフィド架橋が形成され、さらにダイマーを安定させる(Carter, J Immunol Methods 248, 7-15 (2001))。
【0282】
特定の一実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニットは、アミノ酸置換S354C及びT366Wを含み、Fcドメインの第2のサブユニットは、アミノ酸置換Y349C、T366S、L368A及びY407Vを含む(EU番号付け)。
【0283】
特定の実施態様では、本明細書に記載されるCD3抗原結合部分は、Fcドメインの第1のサブユニット(「ノブ」修飾を含む)に融合される。理論に縛られることを望まないが、CD3抗原結合部分の、Fcドメインのノブ含有サブユニットへの融合は(さらに)、2つのCD3抗原結合部分を含む二重特異性抗体の生成を最小化する(2つのノブ含有ポリペプチドの立体的衝突)。
【0284】
ヘテロ二量体を強化するためのCH3修飾の他の技術は、代替例として考慮されており、例えば、国際公開第96/27011号、同第98/050431号、EP1870459、国際公開第2007/110205号、同第2007/147901号、同第2009/089004号、同第2010/129304号、同第2011/90754号、同第2011/143545号、同第2012/058768号、同第2013/157954号、同第2013/096291号に記載されている。
【0285】
一実施態様では、EP1870459号A1に記載されるヘテロ二量体化手法を代わりに使用する。この手法は、Fc ドメインの2つのサブユニット間のCH3/CH3 ドメイン接触面の特定のアミノ酸位置に反対の電荷を有する荷電アミノ酸を導入することに基づいている。1つの好ましい実施態様は、(Fcドメインの)2つのCH3ドメインの一方にあるアミノ酸変異R409D及びK370Eと、FcドメインのCH3ドメインの他方にあるアミノ酸変異D399K及びE357Kとである(EU番号付け)。
【0286】
別の実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異T366Wと、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異T366S、L368A、及びY407Vとを含み、さらにはFcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異R409D及びK370Eと、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異D399K及びE357Kとを含む(EU番号付け)。
【0287】
別の実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異S354C及びT366Wと、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異Y349C、T366S、L368A、及びY407Vを含むか、又は抗体は、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異Y349C及びT366Wと、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異S354C、T366S、L368A、及びY407Vと、さらにFcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異R409D及びK370Eと、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異D399K及びE357Kとを含む(すべてEU番号付け)。
【0288】
一実施態様では、国際公開第2013/157953号に記載されるヘテロ二量体化手法が代替的に使用される。一実施態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異T366Kを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異L351Dを含む(EU番号付け)。さらなる実施態様では、第1のCH3ドメインは、さらなるアミノ酸変異L351Kを含む。さらなる実施態様では、第2のCH3ドメインは、Y349E、Y349D、及びL368Eより選択されるアミノ酸変異(好ましくはL368E)をさらに含む(EU番号付け)。
【0289】
一実施態様では、国際公開第2012/058768号に記載されるヘテロ二量体化手法が代替的に使用される。一実施態様では、第1のCH3ドメインは、アミノ酸変異L351Y、Y407Aを含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異T366A及びK409Fを含む。さらなる実施態様では、第2のCH3ドメインは、T411、D399、S400、F405、N390、又はK392の位置に、例えば、(a)T411N、T411R、T411Q、T411K、T411D、T411E又はT411W;(b)D399R、D399W、D399Y又はD399K;(c)S400E、S400D、S400R、又はS400K;(d)F405I、F405M、F405T、F405S、F405V又はF405W;(e)N390R、N390K又はN390D;(f)K392V、K392M、K392R、K392L、K392F又はK392Eから選択される、さらなるアミノ酸変異を含む(EU番号付け)。さらなる実施態様では、第1のCH3ドメインは、アミノ酸変異L351Y及びY407Aを含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異T366V及びK409Fを含む。さらなる実施態様では、第1のCH3ドメインは、アミノ酸変異Y407Aを含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異T366A及びK409Fを含む。さらなる一実施態様では、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異K392E、T411E、D399R、及びS400Rをさらに含む(EU番号付け)。
【0290】
一実施態様では、例えば、368及び409からなる群より選択される位置にアミノ酸修飾を伴う、国際公開第2011/143545号に記載されたヘテロ二量体化の手法が代替的に使用される(EU番号付け)。
【0291】
一実施態様では、上に記載するノブ・イントゥ・ホール技術も使用する、国際公開第2011/090762号に記載されるヘテロ二量体化手法が、代替的に使用される。一実施態様では、第1のCH3ドメインは、アミノ酸変異T366Wを含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異Y407Aを含む。一実施態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異T366Yを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異Y407Tを含む(EU番号付け)。
【0292】
一実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体、又は抗CD20/抗CD3二重特異性抗体のFcドメインは、IgG2サブクラスであり、国際公開第2010/129304号に記載のヘテロ二量体化手法が使用される。
【0293】
代替的な実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニット及び第2のサブユニットの会合を促進する修飾は、例えば、PCT国際公開第2009/089004号に記載されるような静電ステアリング効果を媒介する修飾を含む。通常、この方法は、ホモ二量体形成が静電的に望ましくなくなり、ヘテロ二量体化が静電的に望ましくなるような、荷電アミノ酸残基による2つのFcドメインサブユニットの接触面における1つ又は複数のアミノ酸残基の置き換えを伴う。このような一実施態様では、第1のCH3ドメインは、負に帯電したアミノ酸でのK392又はN392のアミノ酸置換(例えばグルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)、好ましくはK392D又はN392D)を含み、第2のCH3ドメインは、正に帯電したアミノ酸でのD399、E356、D356又はE357のアミノ酸置換(例えばリジン(K)又はアルギニン(R)、好ましくはD399K、E356K、D356K又はE357K、より好ましくはD399K及びE356K)を含む。さらなる実施態様では、第1のCH3ドメインは、負に帯電したアミノ酸でのK409又はR409のアミノ酸置換(例えばグルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)、好ましくはK409D又はR409D)をさらに含む。さらなる一実施態様では、第1のCH3ドメインは、負に帯電したアミノ酸(例えばグルタミン酸(E)、又はアスパラギン酸(D))でのK439及び/又はK370のアミノ酸置換を、さらに又は代替的に含む(EU番号付け)。
【0294】
なおさらなる実施態様では、国際公開第2007/147901号に記載されるヘテロ二量体化手法が、代替的に使用される。一実施態様では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異K253E、D282K、及びK322Dを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異D239K、E240K、及びK292Dを含む(EU番号付け)。
【0295】
さらに別の実施態様では、国際公開第2007/110205号に記載されるヘテロ二量体化手法が使用され得る。
【0296】
一実施態様では、Fcドメインの第1のサブユニットは、アミノ酸置換K392D及びK409Dを含み、Fcドメインの第2のサブユニットは、アミノ酸置換D356K、及びD399Kを含む(EU番号付け)。
【0297】
(ii)Fc受容体の結合及び/又はエフェクター機能を低下させるFcドメイン修飾
Fcドメインは、抗CD20/抗CD3二重特異性などの抗体に対して、標的組織中への良好な蓄積に貢献する長い血清半減期、及び望ましい組織-血液分布比を含む望ましい薬物動態特性を付与する。しかしながら、同時に、Fcドメインは、好ましい抗原保有細胞ではなく、Fc受容体を発現する細胞への抗体の望ましくない標的化の原因となることがある。さらに、Fc受容体シグナル伝達経路の同時活性化はサイトカイン放出につながる場合があり、サイトカイン放出は、抗体が有し得る他の免疫賦活特性及び抗体の長い半減期と組み合わさって、サイトカイン受容体の過剰な活性化をもたらし、全身投与されると重い副作用を引き起こし得る。
【0298】
したがって、特定の実施態様では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体のFcドメインは、負のIgG1 Fcドメインと比較した場合に、Fc受容体に対する結合親和性の低下及び/又はエフェクター機能の低下を呈する。このような一実施態様では、Fcドメイン(又は前記Fcドメインを含む分子、例えば抗体)は、天然のIgG1 Fcドメイン(又は天然のIgG1 Fcドメインを含むそれに対応する分子)と比較して、50%未満、好ましくは20%未満、さらに好ましくは10%未満、最も好ましくは5%未満の、Fc受容体への結合親和性を呈し、且つ/又は、天然のIgG1 Fcドメイン(又は天然のIgG1 Fcドメインを含むそれに対応する分子)と比較して、50%未満、好ましくは20%未満、さらに好ましくは10%未満、最も好ましくは5%未満の、エフェクター機能を呈する。一実施態様では、Fcドメイン(又は前記Fcドメインを含む分子、例えば、抗体)は、Fc受容体に実質的に結合しない、及び/又はエフェクター機能を誘導しない。特定の実施態様において、該Fc受容体は、Fcγ受容体である。ある実施態様において、該Fc受容体は、ヒトFc受容体である。ある実施態様において、該Fc受容体は、活性化Fc受容体である。具体的な実施態様では、該Fc受容体は、活性化ヒトFcγ受容体、更に具体的にはヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIa、最も具体的にはヒトFcγRIIIaである。ある実施態様において、エフェクター機能は、CDC、ADCC、ADCP及びサイトカイン分泌の群から選択される1又は複数である。特定の一実施態様では、エフェクター機能はADCCである。一実施態様では、Fcドメインは、天然IgG1 Fcドメインと比較して実質的に同様の、新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合親和性を呈する。実質的に同様の、FcRnに対する結合親和性は、Fcドメイン(又は前記Fcドメインを含む分子、例えば、抗体)が、天然IgG1 Fcドメイン(又は天然IgG1 Fcドメインを含むそれに対応する分子)の約70%、特に約80%、さらには特に約90%を上回る、FcRnに対する結合親和性を呈するとき、達成される。
【0299】
特定の実施態様では、該Fcドメインは、Fc受容体に対する結合親和性及び/又はエフェクター機能が非工学操作型Fcドメインと比較して低下するように工学的に操作されている。特定の実施態様では、該Fcドメインは、FcドメインのFc受容体に対する結合親和性及び/又はエフェクター機能を低下させる1又は複数のアミノ酸変異を含む。典型的には、同じ1又は複数のアミノ酸変異がFcドメインの2つのサブユニットの各々に存在する。一実施態様では、アミノ酸変異はFcドメインのFc受容体に対する結合親和性を低下させる。ある実施態様において、アミノ酸変異は、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を、少なくとも2分の1、少なくとも5分の1又は少なくとも10分の1低下させる。Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を低下させる、1つより多いアミノ酸変異が存在する実施態様において、これらのアミノ酸変異の組み合わせは、Fc受容体へのFcドメインの結合親和性を少なくとも10分の1、少なくとも20分の1又は更には少なくとも50分の1低下させ得る。一実施態様では、操作されたFcドメインを含む分子、例えば、抗体は、非操作Fcドメインを含むそれに対応する分子と比較して、20%未満、特に10%未満、さらには5%未満のFc受容体に対する結合親和性を呈する。特定の実施態様において、Fc受容体は、Fcγ受容体である。いくつかの実施態様では、Fc受容体は、ヒトFc受容体である。いくつかの実施態様では、Fc受容体は、活性化Fc受容体である。具体的な実施態様では、該Fc受容体は、活性化ヒトFcγ受容体、更に具体的にはヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIa、最も具体的にはヒトFcγRIIIaである。好ましくは、これらの各受容体への結合が低下する。いくつかの実施態様では、相補性構成要素に対する結合親和性(具体的にはC1qに対する結合親和性)も低下する。一実施態様では、新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合親和性は低下しない。FcRnに対する実質的に同様の結合、即ち、前記受容体に対するFcドメインの結合親和性の保存は、Fcドメイン(又は前記Fcドメインを含む分子、例えば、抗体)が、Fcドメインの非操作型形態(又はFcドメインの前記非操作型形態を含むそれに対応する分子)のFcRnに対する結合親和性の約70%を上回る親和性を呈するとき、達成される。Fcドメイン、又は前記Fcドメインを含む分子(例えば抗体)は、このような親和性の約80%、及び場合によっては約90%を上回る親和性を呈し得る。特定の実施態様では、Fcドメインは、非操作Fcドメインと比較して、低下したエフェクター機能を有するように操作される。エフェクター機能の低下は、限定されないが、補体依存性細胞傷害(CDC)の低下、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)の低下、抗体依存性細胞貪食(ADCP)の低下、サイトカイン分泌の低下、抗原提示細胞による免疫複合体媒介性抗原取り込みの減少、NK細胞への結合の低下、マクロファージへの結合の低下、単球への結合の低下、多形核細胞への結合の低下、アポトーシスを誘導する直接的シグナル伝達の減少、標的結合抗体の架橋の減少、樹状細胞成熟の低下、又はT細胞プライミングの低下のうちの1又は複数を含み得る。一実施態様では、エフェクター機能の低下は、CDCの低下、ADCCの低下、ADCPの低下及びサイトカイン分泌の低下の群から選択される1つ又は複数である。特定の一実施態様では、エフェクター機能の低下はADCCの低減である。一実施態様では、低減したADCCは、非操作Fcドメイン(又は非操作Fcドメインを含むそれに対応する分子)によって誘導されるADCCの20%未満である。
【0300】
一実施態様では、Fc受容体に対するFcドメインの結合親和性及び/又はエフェクター機能を低下させるアミノ酸変異は、アミノ酸置換である。一実施態様では、Fcドメインは、E233、L234、L235、N297、P331、及びP329の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む(EU番号付け)。より具体的な実施態様では、Fcドメインは、L234、L235、及びP329の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む(EU番号付け)。いくつかの実施態様では、Fcドメインは、アミノ酸置換L234A及びL235Aを含む(EU番号付け)。このような実施態様では、Fcドメインは、IgG1 Fcドメイン、特にヒトIgG1 Fcドメインである。一実施態様では、Fcドメインは、P329位にアミノ酸置換を含む。より具体的な実施態様では、アミノ酸置換は、P329A又はP329G、特にP329Gである(EU番号付け)。一実施態様では、Fcドメインは、P329位にアミノ酸置換を、E233、L234、L235、N297、及びP331から選択される位置にさらなるアミノ酸置換を含む(EU番号付け)。より具体的な実施態様では、さらなるアミノ酸置換は、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297D、又はP331Sである。特定の実施態様では、Fcドメインは、P329、L234、及びL235の位置にアミノ酸置換を含む(EU番号付け)。より具体的な実施態様では、Fcドメインは、アミノ酸変異L234A、L235A、及びP329G(「P329G LALA」)を含む。このような実施態様では、Fcドメインは、IgG1 Fcドメイン、特にヒトIgG1 Fcドメインである。アミノ酸置換の「P329G LALA」の組み合わせは、国際公開第2012/130831号に記載のように、ヒトIgG1 FcドメインのFcγ受容体(及び補体)結合をほぼ完全に無効にする。この文献は、参照によりその全体が本明細書に援用される。国際公開第2012/130831号には、このような変異体Fcドメインを調製する方法及びその特性(Fc受容体結合又はエフェクター機能など)を決定する方法も記載されている。
【0301】
IgG4抗体は、IgG1抗体と比較して、Fc受容体に対する結合親和性の低下及びエフェクター機能の低下を呈する。したがって、いくつかの実施態様では、Fcドメインは、IgG4 Fcドメイン、特にヒトIgG4 Fcドメインである。一実施態様では、IgG4 Fcドメインは、S228の位置におけるアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換S228Pを含む(EU番号付け)。Fc受容体に対するその結合親和性及び/又はそのエフェクター機能をさらに低下させるために、一実施態様では、IgG4Fcドメインは、L235の位置におけるアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換L235Eを含む(EU番号付け)。別の実施態様では、IgG4 Fcドメインは、P329の位置におけるアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換P329Gを含む(EU番号付け)。特定の実施態様では、IgG4 Fcドメインは、位置S228、L235、及びP329にアミノ酸置換、具体的にはアミノ酸置換S228P、L235E、及びP329Gを含む(EU番号付け)。このようなIgG4 Fcドメイン変異体及びそれらのFcγ受容体結合特性は、PCT国際公開第2012/130831号に記載されており、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0302】
特定の実施態様では、天然IgG1 Fcドメインと比較して、Fc受容体に対する結合親和性の低下及び/又はエフェクター機能の低下を呈するFcドメインは、アミノ酸置換L234A、L235A及び任意選択的にP329Gを含むヒトIgG1 Fcドメインであるか、又はアミノ酸置換S228P、L235E及び任意選択的にP329Gを含むヒトIgG4 Fcドメインである(EU番号付け)。
【0303】
特定の実施態様では、FcドメインのN-グリコシル化は、除去されている。このような一実施態様では、FcドメインはN297の位置におけるアミノ酸置換、特にアラニン(N297A)又はアスパラギン酸(N297D)又はグリシンN297G)によりアスパラギンを置き換えるアミノ酸置換を含む(EU番号付け)。
【0304】
本明細書及び国際公開第2012/130831号において記載されるFcドメインに加えて、Fc受容体結合及び/又はエフェクター機能が低下したFcドメインは、Fcドメイン残基238、265、269、270、297、327及び329の1つ又は複数の置換を有するものも含む(米国特許第6737056号)(EU番号付け)。そのようなFc変異体は、残基265及び297のアラニンへの置換を有するいわゆる「DANA」Fc変異体を含め、アミノ酸位265、269、270、297及び327のうちの2つ以上に置換を有するFc変異体を含む(米国特許第7332581号)。
【0305】
変異体Fcドメインは、当技術分野で周知の遺伝学的又は化学的方法を使用して、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は修飾によって調製することができる。遺伝学的方法は、コード化DNA配列の部位特異的変異誘発、PCR、遺伝子合成等を含み得る。正確なヌクレオチドの変化は、例えば配列決定により検証することができる。
【0306】
Fc受容体への結合は、例えばELISAによって、又はBIACORE(登録商標)装置(GE Healthcare)などの標準的な装置を用いた表面プラズモン共鳴(SPR)によって容易に決定することができ、そのようなFc受容体は組換え発現によって得ることができる。代替的に、Fcドメイン、又はFcドメインを含む分子のFc受容体に対する結合親和性は、特定のFc受容体を発現することが知られている細胞株、例えばFcγIIIa受容体を発現するヒトNK細胞を用いて評価してもよい。
【0307】
Fcドメイン、又はFcドメインを含む分子(例えば抗体)のエフェクター機能は、当技術分野で既知の方法により測定することができる。ADCCを測定するための適切なアッセイは、本明細書に記載されている。目的の分子のADCC活性を評価するためのin vitroアッセイの他の例が、米国特許第5500362号;Hellstrom et al. Proc Natl Acad Sci USA. 83, 7059-7063 (1986)and Hellstrom et al., Proc Natl Acad Sci USA. 82, 1499-1502 (1985);米国特許第5821337号;Bruggemann et al., J Exp Med 166, 1351-1361 (1987)に記載されている。あるいは、非放射性アッセイ法を利用してもよい(例えば、フローサイトメトリー用のACTITM非放射性細胞傷害性アッセイ(CellTechnology, Inc. Mountain View, CA);及びCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞毒性アッセイ(Promega, Madison, WI)を参照のこと)。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞を含む。代替的又は追加的に、目的の分子のADCC活性は、iで、例えば動物モデル(Clynes et al.,Proc Natl Acad Sci USA 95, 652-656(1998)に開示されているものなど)において評価されてもよい。
【0308】
いくつかの実施態様では、補体成分に対するFcドメインの結合、具体的にはC1qに対する結合が低下する。したがって、Fcドメインが低下したエフェクター機能を有するようにs操作されているいくつかの実施態様では、前記エフェクター機能の低下はCDCの低下を含む。C1q結合アッセイが、Fcドメイン、又はFcドメインを含む分子(例えば抗体)がC1qに結合できるかどうか、それによりCDC活性を有するかどうかを決定するために実行され得る。例えば、国際公開第2006/029879号及び国際公開第2005/100402号のC1q及びC3c結合ELISAを参照。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを行うことができる(例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202, 163 (1996);Cragg et al., Blood 101:1045-1052 (2003);及びCragg and Glennie, Blood 103:2738-2743 (2004)を参照)。
【0309】
3.置換、挿入、及び欠失
特定の例では、本明細書で提供される薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体バリアントは、1つ又は複数のアミノ酸置換を有する。置換による変異導入のための目的の部位には、HVR及びFRが含まれる。保存的置換は、表3において、「好ましい置換」の見出しの下に示される。より実質的な変化は、表3において、「例示的な置換」の見出しの下に提供され、またアミノ酸側鎖クラスを参照して以下に更に記載される通りである。アミノ酸置換は、目的の抗体中に導入され得、その産物は、所望の活性、例えば、保持/改善された抗原結合、減少した免疫原性、又は改善されたADCC若しくはCDCについてスクリーニングされ得る。
【0310】
アミノ酸は、一般的な側鎖特性に従って分類され得る。
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響する残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0311】
非保存的置換は、これらのクラスのうちの1つのメンバーを別のクラスと交換することを伴う。
【0312】
ある種の置換バリアントは、親抗体(例えば、ヒト化抗体又はヒト抗体)の1つ又は複数の超可変領域残基を置換することを含む。概して、さらなる研究のために選択された、結果として得られたバリアントは、親抗体と比較して特定の生物学的特性(例えば、親和性の増加、免疫原性の低下)において修飾(例えば、改善)を有し、及び/又は親抗体の特定の生物学的特性を実質的に保持することになるであろう。例示的な置換型バリアントは、親和性成熟した抗体であり、例えば、本明細書に記載されるようなファージディスプレイに基づく親和性成熟技法を使用して、簡便に生成され得る。要するに、1つ又は複数のHVR残基が変異され、バリアント抗体がファージにディスプレイされ、特定の生物活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングされる。
【0313】
改変(例えば、置換)は、抗体親和性を改善するために、例えば、HVRにおいて行われてもよい。このような改変は、HVR内の「ホットスポット」、すなわち体細胞成熟過程中に高頻度で変異を受けるコドンによってコードされた残基(例えばChowdhury, Methods Mol. Biol. 207:179-196 (2008)を参照)、及び/又は抗原に接する残基内で行うことができ、結果として得られたバリアントVH又はVLの結合親和性が試験される。二次ライブラリの構築及びそこからの再選択による親和性成熟は、例えば、Hoogenboom et al., in Methods in Molecular Biology 178:1-37(O’Brien et al., ed., Human Press, Totowa, NJ,(2001))に記載されている。親和性成熟のいくつかの例では、多様な方法(例えば、エラープローンPCR、鎖シャッフリング、又はオリゴヌクレオチド指向性変異誘発)のいずれかによって、成熟のために選択される可変遺伝子に多様度が導入される。次いで、二次ライブラリが作製される。その後、このライブラリがスクリーニングされて、所望の親和性を有する任意の抗体バリアントを同定する。多様性を導入するための別の方法は、複数のHVR残基(例えば、一度に4~6個の残基)がランダム化されるHVRを対象とする手法を含む。抗原結合に関与するHVR残基は、例えば、アラニンスキャニング変異誘発又はモデリングを使用して、特異的に同定され得る。特にCDR-H3及びCDR-L3が標的とされることが多い。
【0314】
特定の例では、置換、挿入、又は欠失は、このような改変が抗体の抗原に結合する能力を実質的に低減させない限り、1つ又は複数のHVR内で生じ得る。例えば、結合親和性を実質的に低下させない保存的改変(例えば、本明細書に記載される保存的置換)が、HVR中で行われてもよい。このような改変は、例えば、HVR内の抗原接触残基の外側であり得る。上述のバリアントVH及びVL配列の特定の例では、各HVRは、改変されていないか、又は1つ、2つ、若しくは3つ以下のアミノ酸置換を有するかのいずれかである。
【0315】
変異導入の標的となり得る抗体の残基又は領域を同定するための有用な方法は、Cunningham and Wells(1989)Science, 244:1081-1085に記載されているように「アラニンスキャニング変異導入」と呼ばれる。この方法では、標的残基の残基又はグループ(例えばArg、Asp、His、Lys及びGlu等の荷電残基)が同定され、中性又は負に荷電したアミノ酸(例えばアラニン又はポリアラニン)によって置き換えられて抗原と抗体との相互作用が影響を受けるかどうかが判定される。更なる置換が、初期置換に対する機能的感受性を示すアミノ酸位置に導入されてもよい。これに代えて、又はこれに加えて、抗体と抗原との間の接点を同定するための抗原-抗体複合体の結晶構造。このような接触残基及び隣接残基は、置換の候補として標的にしても排除してもよい。バリアントは、所望の特性を有するか否かを決定するためにスクリーニングされてもよい。
【0316】
アミノ酸配列挿入には、1個の残基から100個以上の残基を含むポリペプチドまでの長さの範囲のアミノ末端及び/又はカルボキシル末端融合、並びに1個又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入が含まれる。末端挿入の例には、N末端メチオニル残基を有する抗体が含まれる。抗体分子の他の挿入バリアントには、抗体の血清半減期を増加させる酵素(例えば、ADEPTのための)又はポリペプチドへの抗体のN末端又はC末端の融合が含まれる。
【0317】
4.グリコシル化
特定の例では、本発明の薬学的組成物に含まれる抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、抗体がグリコシル化する程度を増加又は減少させるために改変され得る。抗CD20/抗CD3二重特異性抗体へのグリコシル化部位の付加又は欠失は、1つ又は複数のグリコシル化部位を作り出すか又は除去するように、アミノ酸配列を改変することによって、簡便に達成され得る。
【0318】
抗体がFc領域を含む場合、それに付着した炭水化物が改変され得る。哺乳動物細胞によって産生された天然型抗体は、典型的には、N結合によってFc領域のCH2ドメインのAsn297に一般に付着される分岐状の二分岐オリゴ糖を含む。例えば、Wright et al., TIBTECH 15:26-32(1997)を参照されたい。オリゴ糖には、様々な炭水化物、例えば、マンノース、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、及びシアル酸、並びに二分岐オリゴ糖構造の「幹」のGlcNAcに付着したフコースが含まれ得る。いくつかの例では、特定の特性が改善された抗体バリアントを作製するために、抗体中におけるオリゴ糖の修飾が行われ得る。
【0319】
一例では、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体バリアントは、Fc領域に(直接的に又は間接的に)付着したフコースを欠く炭水化物構造を有する。例えば、このような抗体内のフコースの量は、1%から80%、1%から65%、5%から65%、又は20%から40%であり得る。フコースの量は、例えば、国際公開第2008/077546号に記載されているように、MALDI-TOF質量分析法によって測定されたAsn297(例えば、複合体構造、ハイブリッド構造、及び高マンノース構造)に付着した全ての糖鎖構造の合計に対するAsn297における糖鎖内のフコースの平均量を計算することによって決定される。Asn297は、Fc領域の約297位に位置するアスパラギン残基を指す(Fc領域残基のEU番号付け);ただし、Asn297はまた、抗体のマイナーな配列変化のために、位置297の上流又は下流、すなわち位置294と300の間の約±3個のアミノ酸に位置していてもよい。このようなフコシル化バリアントは、改善されたADCC機能を有し得る。例えば、米国特許出願公開第2003/0157108号(Presta,L.);同第2004/0093621号(Kyowa Hakko Kogyo Co.,Ltd)を参照されたい。「脱フコシル化」又は「フコース欠乏」抗体バリアントに関する刊行物の例としては:米国特許出願公開第2003/0157108号;国際公開第2000/61739号;同第2001/29246号;米国特許出願公開第2003/0115614号;同第2002/0164328号;同第2004/0093621号;同第2004/0132140号;同第2004/0110704号;同第2004/0110282号;同第2004/0109865号;国際公開第2003/085119号;同第2003/084570号;同第2005/035586号;同第2005/035778号;同第2005/053742号;同第2002/031140号;Okazaki et al. J. Mol. Biol. 336:1239-1249(2004);Yamane-Ohnuki et al. Biotech. Bioeng. 87: 614(2004)が挙げられる。脱フコシル化抗体を産生する能力を有する細胞株の例には、タンパク質フコシル化が欠乏したLec13 CHO細胞(Ripka et al., Arch. Biochem. Biophys. 249:533-545 (1986);米国特許公開第2003/0157108号、Presta, L;及び国際公開第2004/056312号、Adams et al.特にExample 11)、及びノックアウト細胞株、例えば、アルファ-1,6-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、FUT8、ノックアウトCHO細胞(例えば、Yamane-Ohnuki et al., Biotech. Bioeng. 87: 614 (2004); Kanda, Y. et al., Biotechnol. Bioeng., 94(4):680-688 (2006);及び国際公開第2003/085107号を参照のこと)。
【0320】
上記の観点から、いくつかの実施態様では、本発明の薬学的組成物は、アグリコシル化部位変異を含む抗CD20/抗CD3二重特異性抗体バリアントを含む。いくつかの例では、アグリコシル化部位突然変異は、抗体のエフェクター機能を低下させる。いくつかの例では、アグリコシル化部位の突然変異は、置換突然変異である。いくつかの例では、抗体は、エフェクター機能を低下させるFc領域における置換突然変異を含む。いくつかの例では、置換突然変異は、アミノ酸残基N297、L234、L235、及び/又はD265(EU番号付け)におけるものである。いくつかの例では、置換突然変異は、N297G、N297A、L234A、L235A、D265A、及びP329Gからなる群から選択される。いくつかの例では、置換突然変異は、アミノ酸残基N297におけるものである。好ましい例では、置換突然変異は、N297Aである。
【0321】
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体バリアントは、二分されたオリゴ糖類、例えば、抗体のFc領域に付着した二分岐オリゴ糖がGlcNAcによって二分されている。このような抗体バリアントは、低減されたフコシル化及び/又は改善されたADCC機能を有し得る。そのような抗体バリアントの例は、例えば、国際公開第2003/011878号;米国特許第6,602,684号;及び米国特許出願公開第2005/0123546号に記載されている。その他の抗体バリアントは、Fc領域に付着したオリゴ糖中に少なくとも1つのガラクトース残基を含む。このような抗体バリアントは、改善されたCDC機能を有し得る。このような抗体バリアントの例は、例えば、国際公開第1997/30087号;同第1998/58964号;及び同第1999/22764号に記載されている。
【0322】
5.抗体誘導体
特定の例では、本明細書で提供される薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、当技術分野で既知であるとともに容易に入手可能な追加の非タンパク質性部分を含有するようにさらに修飾される。抗体の誘導体化に適した部位としては、水溶性ポリマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。水溶性ポリマーの非限定的な例としては、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol:PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマー又はランダムコポリマーのいずれか)、及びデキストラン又はポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロプロピレン(propropylene)グリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)、ポリビニルアルコール、並びにそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、水中でのその安定性のため、製造時に有利であり得る。ポリマーは、任意の分子量であってもよく、分岐していても、分岐していなくてもよい。抗体に付着しているポリマーの数は様々であり、複数のポリマーが付着している場合には、それらは同じ分子であっても、異なった分子であってもよい。一般に、誘導体化のために使用されるポリマーの数及び/又は種類は、限定するものではないが、改良される抗体の特定の特性又は機能、抗体誘導体が定義される条件下で治療に使用されるかどうか等を含む考慮事項に基づいて判定することができる。
【0323】
別の例では、抗体及び非タンパク質性部分のコンジュゲートは、放射線への曝露によって選択的に加熱され得る。一例では、非タンパク質性部分はカーボンナノチューブである(Kam et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102: 11600-11605 (2005))。放射線は、任意の波長であってもよく、通常の細胞に害を与えないが、抗体非保護性部位に近位の細胞が死滅する温度まで非保護性部位を加熱する波長を含むが、これらに限定されない。
【0324】
C.組換え産生方法
本発明の薬学的組成物の抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、例えば、参照によりその全体が本明細書に援用される米国特許第4,816,567号に記載されるような組換え方法及び組成物を使用して産生され得る。
【0325】
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の組換え産生のために、抗体をコードする核酸が単離され、宿主細胞内での更なるクローニング及び/又は発現のために、1つ又は複数のベクター内に挿入される。このような核酸は、従来の手順を使用して(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に単離され、配列決定され得る。
【0326】
抗体コード化ベクターのクローニング又は発現のための適切な宿主細胞には、本明細書に記載される原核細胞又は真核細胞が含まれる。例えば、抗体は、特に、グリコシル化及びFcエフェクター機能が必要とされていない場合には、細菌中で産生されてもよい。細菌における抗体断片及びポリペプチドの発現については、例えば、米国特許第5,648,237号、同第5,789,199号、及び同第5,840,523号を参照されたい。(E. coli.における抗体断片の発現について記載するCharlton, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ, 2003), pp. 245-254も参照のこと。)発現後、本発明の抗体は、細菌細胞ペーストから可溶性画分で単離されてもよく、更に精製されてもよい。
【0327】
原核生物に加えて、糸状菌や酵母等の真核生物は、抗体をコードするベクターのクローニング又は発現宿主として適しており、その中には、グリコシル化経路が「ヒト化」された菌株や酵母株が含まれ、その結果、部分的又は完全にヒトのグリコシル化パターンを有する抗体が産生される。Gerngross,Nat.Biotech.22:1409-1414(2004)及びLi et al.,Nat.Biotech.24:210-215(2006)を参照されたい。
【0328】
また、グリコシル化抗体を発現させるのに適した宿主細胞は、多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)に由来する。無脊椎動物細胞の例としては、植物細胞及び昆虫細胞が挙げられる。多数のバキュロウイルス株が同定されており、これを昆虫細胞と組み合わせて使用することができ、特にスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションに使用され得る。
【0329】
植物細胞培養物も、宿主として利用することができる。例えば、米国特許第5,959,177号、同第6,040,498号、同第6,420,548号、同第7,125,978号、及び同第6,417,429号(トランスジェニック植物で抗体を産生するためのPLANTIBODIES(商標)技術を記載している)を参照されたい。
【0330】
脊椎動物細胞も、宿主として使用される。例えば、懸濁液中で増殖するように適合されている哺乳動物細胞株は有用であり得る。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40(COS-7)で形質転換されたサル腎臓CV1株;ヒト胚腎臓株(例えば、Graham et al., J. Gen Virol. 36:59 (1977)に記載される293細胞又は293細胞);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK);マウスのセルトリ細胞(例えば、Mather, Biol. Reprod. 23:243-251 (1980)に記載されるTM4細胞);サル腎細胞(CV1);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76);ヒト子宮頚癌細胞(HELA);イヌ腎臓細胞(MDCK);バッファローラット肝細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(HepG2);マウス乳腺腫瘍細胞(MMT060562);例えばMather et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982)に記載されるTRI細胞;MRC 5細胞;及びFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株としては(DHFR- CHO細胞を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(Urlaub et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216(1980);及びY0、NS0及びSp2/0などの骨髄腫細胞株が挙げられる。抗体産生に好適な特定の哺乳動物宿主細胞株の概説については、例えば、Yazaki and Wu,Methods in Molecular Biology,Vol.248(B.K.C.Lo,ed.,Humana Press,Totowa,NJ),pp.255-268(2003)を参照のこと。
【0331】
V.治療方法及び使用
本明細書に記載される抗CD20/抗CD3二重特異性抗体を含む薬学的組成物は、さまざまな疾患及び障害を治療するための医薬としての使用のために製剤化され得る。したがって、本発明は、それを必要とする対象、例えば、がんなどの疾患又は障害を有する対象への薬学的組成物の静脈内投与を含む方法を特徴とする。本発明の薬学的組成物は、それを必要とする対象(例えば、それを必要とするヒト対象)における細胞増殖性障害の治療する若しくはその進行を遅延させるため、又は細胞増殖性障害(例えば、がん)を有する対象における免疫機能を増強するために使用され得る。
【0332】
一態様では、本発明は、細胞増殖性障害の治療又はその進行遅延に使用するための、本明細書に記載の薬学的組成物を提供する。一態様では、本発明は、細胞増殖性障害の治療又は進行遅延のための医薬の製造における、本明細書に記載の薬学的組成物の使用を提供する。一態様では、本発明は、本明細書に記載の薬学的組成物を対象に投与することを含む、それを必要とする対象における細胞増殖性障害の治療又は進行を遅延させる方法を提供する。
【0333】
一実施態様では、細胞増殖性障害は、非ホジキンリンパ腫(NHL)であるがんである。いくつかの実施態様では、NHLは、非ホジキンリンパ腫(NHL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、B細胞リンパ腫、脾びまん性赤脾髄小型B細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫とバーキットリンパ腫との中間の特徴を有するB細胞リンパ腫、11q異常を伴うバーキット様リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫と古典的ホジキンリンパ腫との中間の特徴を有するB細胞リンパ腫、胚中心B細胞様(GCB)びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、活性化B細胞様(ABC)DLBCL、原発性皮膚濾胞中心リンパ腫、T細胞/組織球リッチ大細胞型B細胞リンパ腫、中枢神経系原発性DLBCL、原発性皮膚DLBCL(下腿型)、高齢者のエプスタイン・バーウイルス(EBV)陽性DLBCL、慢性炎症に伴うDLBCL、原発性縦隔(胸腺)大細胞型B細胞リンパ腫、血管内大細胞型B細胞リンパ腫、ALK陽性大細胞型B細胞リンパ腫、HHV8関連多中心性キャッスルマン病に発生した大細胞型B細胞リンパ腫、B細胞白血病、乳がん、大腸がん、非小細胞肺がん、多発性骨髄腫、腎臓がん、前立腺がん、肝臓がん、頭頸部がん、黒色腫、卵巣がん、中皮腫、膠芽腫、濾胞性リンパ腫(FL)、in situ濾胞性新生物、マントル細胞リンパ腫(MCL)、in situマントル細胞新生物、急性骨髄性白血病(AML)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、小リンパ球性白血病(SLL)、リンパ形質細胞性リンパ腫(LL)、中枢神経系リンパ腫(CNSL)、バーキットリンパ腫(BL)、B細胞性リンパ球性白血病、脾縁縁帯リンパ腫、毛様細胞白血病、脾リンパ腫/白血病、毛様細胞白血病変種、α重鎖症、γ重鎖症、μ重鎖症、形質細胞骨髄腫、孤立性骨形質細胞腫、骨外形質細胞腫、粘膜関連リンパ組織の節外辺縁帯リンパ腫(MALTリンパ腫)、結節性辺縁帯リンパ腫、小児結節性辺縁帯リンパ腫、小児濾胞性リンパ腫、リンパ腫様肉芽腫症、形質芽球性リンパ腫、原発性胸水リンパ腫からなる群より選択される。特定の実施態様では、がんは、胚中心B細胞様(GCB)DLBCL、活性化B細胞様(ABC)DLBCL、濾胞性リンパ腫(FL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、小リンパ球性白血病(SLL)、リンパ形質細胞性リンパ腫(LL)、ワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症(WM)、中枢神経系リンパ腫(CNSL)、又はバーキットリンパ腫(BL)である。
【0334】
いくつかの実施態様では、がんは、乳がん、結腸直腸がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、多発性骨髄腫、腎臓がん、前立腺がん、肝臓がん、頭頸部がん、黒色腫、卵巣がん、中皮腫、及び膠芽腫からなる群より選択される。
【0335】
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、0.5mg、2.5mg、10mg、又は30mgの用量で対象に投与するために製剤化され得る。
【0336】
本明細書に記載される方法及び薬学的製剤のすべてについて、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、良好な医療行為と一致する様式で製剤化され、投薬され、投与されることになる。これに関連して考慮すべき要因としては、治療される特定の障害、治療される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール、及び医療従事者に既知である他の要因が挙げられる。抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)は、問題の疾患を予防又は治療するために現在使用されている1つ又は複数の薬剤とともに製剤化される必要はないが、任意選択的には、ともに製剤化される。これらのような他の薬剤の有効量は、製剤中に存在する抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)の量、障害又は治療の種類、及び上で考察される他の要因に依存する。抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCBは、例えば、グロフィタマブ)は、一連の治療にわたって患者に適切に投与され得る。
【0337】
V.製造品
本発明の別の態様では、上述した障害の処置、予防及び/又は診断に有用な物質を含有する製造品が提供される。製造品は、容器と、容器上又は容器に付随するラベル又は添付文書を含む。好適な容器は、例としてボトル、バイアル、シリンジ、IV溶液バッグなどを含む。容器はガラス又はプラスチックなどの様々な材料から形成され得る。容器は、症状を処置、予防、及び/又は診断するのに有効な別の組成物と単独で又は組み合わせて使用される薬学的組成物を保持し、無菌アクセスポートを有していてもよい(例えば、容器は、静脈内溶液バッグ又は皮下注射針によって穿孔可能なストッパーを有するバイアルであってもよい)。組成物中の少なくとも1つの活性薬剤は、本明細書に記載されるような抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)である。ラベル又は添付文書は、組成物が選択された症状(例えば、がん)を治療するために使用されることを示し、本明細書に記載される投与レジメンのうちの少なくとも1つに関連する情報をさらに含む。
【0338】
薬学的組成物は、1mlから100ml(例えば、1mlから5ml、5mlから10ml、10mlから15ml、15mlから20ml、20mlから25ml、25mlから30ml、30mlから40ml、40mlから50ml、50mlから60ml、60mlから70ml、70mlから80ml、80mlから90ml、又は90mlから100ml、例えば、約5ml、約10ml、約15ml、約20ml、約25ml、約30ml、約40ml、約50ml、約60ml、約70ml、約80ml、約90ml、又は約100ml)の容積を有する容器内に供給され得る。
【0339】
いくつかの実施態様では、容器は、タンク、ミニタンク、キャニスター、缶などのステンレス鋼容器又はニッケル鋼合金容器(例えば、HASTELLOY(登録商標)である。いくつかの例では、このような容器内の薬学的組成物は原薬(DS)であり、使用前にさらに希釈して、例えば、医薬品(DP)(例えば、最終バイアル構成)にすることができる。あるいは、容器内の薬学的組成物はDPである。いくつかの実施態様では、DPはIVバッグ又はシリンジ(例えば、シリンジポンプを介した送達用)などの容器に入っている。
【0340】
いくつかの実施態様では、製造品は、約1ml以上、例えば、約1ml、約2ml、約3ml、約4ml、約5ml、約6ml、約7ml、約8ml、約9ml、約10ml、約11ml、約12ml、約13ml、約14ml、約15ml、約16ml、約17ml、約18ml、約19ml、約20ml、約25ml、約30ml、約35ml、約40ml、約50ml、又はそれを超える容積を有するバイアルを含む。いくつかの実施態様では、容器は約10mlの容積を有するバイアルである。いくつかの実施態様では、バイアルは使い捨てである。いくつかの実施態様では、バイアルは、約1mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、約10mg、約11mg、約12mg、約13mg、約14mg、約15mg、約16mg、約17mg、約18mg、約19mg、約20mg、又はそれを超える抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)を含有する。いくつかの実施態様では、容器閉鎖システムは、ガラスバイアル、ストッパー、及びキャップのうちの1つ又は複数、又はすべてを含む。
【0341】
さらに、製造品は、(a)本明細書に記載される抗CD20/抗CD3二重特異性抗体(例えば、抗CD20/抗CD3 TCB、例えば、グロフィタマブ)を含む組成物を中に含有する第1の容器と、(b)さらなる細胞傷害性薬剤又はその他の治療剤を含む組成物を中に含有する第2の容器とを含み得る。代替的に又は追加的に、製造品は、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル溶液、及びデキストロース溶液などの薬学的に許容されるバッファーを含む第2の(又は第3の)容器をさらに含んでもよい。製造品は、他のバッファー、希釈剤、フィルタ、針及びシリンジを含む、商業的及びユーザーの観点から望ましい他の材料をさらに含んでもよい。
【0342】
本発明のさらなる態様は、本明細書に記載される発明に関連する。
【0343】
実施態様
本明細書に記載の技術のいくつかの実施態様は、以下の番号付き実施態様のいずれかに従って定義することができる。
【0344】
I.液体薬学的組成物であって、
約5.0から約6.0の範囲のpHで、
約1から25mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体;
約10から50mMの緩衝剤;
約≧200mMの等張化剤;
約0-15mMのメチオニン;及び
約≧0.2mg/mlの界面活性剤;
を含み、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体が、:
a)CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号4のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
b)CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインであって、
(i)配列番号9のアミノ酸配列を含むHVR-H1;
(ii)配列番号10のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び
(iii)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR-H3
を含む重鎖可変領域と、
(i)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR-L1;
(ii)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び
(iii)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR-L3
を含む軽鎖可変領域と、
を含むCD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む、液体薬学的組成物。
【0345】
II.抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の濃度が、約1から5mg/mlの範囲である、実施態様Iに記載の液体薬学的組成物。
【0346】
III.抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の濃度が、約0.9-1.1mg/mlの範囲である、実施態様I又はIIに記載の液体薬学的組成物。
【0347】
IV.抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の濃度が約1mg/mlである、実施態様IからIIIのいずれか一つに記載の液体薬学的組成物。
【0348】
V.抗CD20/抗CD3二重特異性抗体が、
a)配列番号7の重鎖可変領域配列及び配列番号8の軽鎖可変領域配列を含む、CD20に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
b)配列番号15の重鎖可変領域配列及び配列番号16の軽鎖可変領域配列を含む、CD3に特異的に結合する少なくとも1つの抗原結合ドメインと、
を含む、実施態様IからIVのいずれか一つに記載の液体薬学的組成物。
【0349】
VI.抗CD20/抗CD3二重特異性抗体が、
a)CD3、特にCD3イプシロンに特異的に結合する第1のFab分子であって、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVHが互いによって交換されている第1のFab分子と;
b)CD20に特異的に結合する第2のFab分子及び第3のFab分子であって、第2のFab分子及び第3のFab分子の定常ドメインCLでは、124位のアミノ酸がリジン(K)により置換されており(Kabatによる番号付け)、123位のアミノ酸がリジン(K)又はアルギニン(R)により、特にアルギニン(R)により置換されており(Kabatによる番号付け)、第2のFab分子及び第3のFab分子の定常ドメインCH1では、147位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されており(EU番号付け)、213位のアミノ酸がグルタミン酸(E)により置換されている(EU番号付け)、第2のFab分子及び第3のFab分子と;
c)安定な会合が可能な第1のサブユニットと第2のサブユニットから構成されるFcドメインと;
を含む、実施態様IからVのいずれか一つに記載の液体薬学的組成物。
【0350】
VII.抗CD20/抗CD3二重特異性抗体がグロフィタマブである、実施態様IからVIのいずれか一つに記載の液体薬学的組成物。
【0351】
VIII.緩衝剤が、ヒスチジンバッファー、任意選択的にはヒスチジンHClバッファーである、実施態様IからVIIのいずれか一つに記載の液体薬学的組成物。
【0352】
IX.緩衝剤の濃度が約15から25mMである、実施態様IからVIIIのいずれか一つに記載の液体薬学的組成物。
【0353】
X.緩衝剤の濃度が約20mMである、実施態様IからIXのいずれか一つに記載の液体薬学的組成物。
【0354】
XI.緩衝剤が約5.2から約5.8のpHを提供する、実施態様IからXのいずれか一つに記載の液体薬学的組成物。
【0355】
XII.等張化剤が、塩、糖類、及びアミノ酸の群より選択される、実施態様IからXIのいずれか一つに記載の液体薬学的組成物。
【0356】
XIII.等張化剤がスクロース又は塩化ナトリウムのいずれかである、実施態様XIIに記載の液体薬学的組成物。
【0357】
XIV.等張化剤が約200mM以上の濃度のスクロースである、実施態様XIIIに記載の液体薬学的組成物。
【0358】
XV.等張化剤が約200mM~280mMの濃度のスクロースである、実施態様XIII又はXIVに記載の液体薬学的組成物。
【0359】
XVI.等張化剤が約240mMの濃度のスクロースである、実施態様XIIIからXVのいずれか一つに記載の液体薬学的組成物。
【0360】
XVII.メチオニンの濃度が約5~15mMである、実施態様IからXVIのいずれか一つに記載の液体薬学的組成物。
【0361】
XVIII.メチオニンの濃度が約10mMである、実施態様XVIIに記載の液体薬学的組成物。
【0362】
XIX.界面活性剤の濃度が約0.2~0.8mg/mlである、実施態様IからXVIIIのいずれか一つに記載の液体薬学的組成物。
【0363】
XX.界面活性剤が、ポリソルベート20又はポロキサマー188である、実施態様IからXIXのいずれか一つに記載の液体薬学的組成物。
【0364】
XXI.界面活性剤が、0.2~0.8mg/mlの濃度のポリソルベート20である、実施態様XXに記載の液体薬学的組成物。
【0365】
XXII.界面活性剤が、約0.5mg/mlの濃度のポリソルベート20である、実施態様XXIに記載の液体薬学的組成物。
【0366】
XXIII.液体薬学的組成物であって、
約5から約6のpHで、
約1から5mg/mlの抗CD20/抗CD3二重特異性抗体と;
約15~25mMのヒスチジンバッファーと;
約200~280mMのスクロースと;
約0~15mMのメチオニンと;
約0.2~0.8mg/mlのPS20と;
を含む、実施態様IからXXIIのいずれか一つに記載の液体薬学的組成物。
【0367】
XXIV.液体薬学的組成物であって、
約5.5のpHで、
約1mg/mlのグロフィタマブと;
約20mMのヒスチジンバッファーと;
約240mMのスクロースと;
約10mMのメチオニンと;
約0.5mg/mlのPS20と;
を含む、実施態様IからXXIIIのいずれか一つに記載の液体薬学的組成物。
【0368】
XXV.細胞増殖性障害を治療するのに有用な医薬の調製のための実施態様IからXXIVのいずれか一つに記載の液体薬学的組成物の使用。
【0369】
XXVI.細胞増殖性障害の治療又はその進行の遅延を必要とする対象において、それに使用するための実施態様IからXXIVのいずれか一つに記載の薬学的組成物。
【0370】
XXVII.細胞増殖性障害の治療又はその進行の遅延を必要とする対象における、その治療方法又は遅延方法であって、対象に実施態様IからXXIVのいずれか一つに記載の薬学的組成物を投与することを含む、方法。
【0371】
XXVIII.細胞増殖性障害ががんである、実施態様XXVからXXVIIのいずれか一つに記載の、使用、使用のための液体薬学的組成物、又は方法。
【0372】
XXIX.上に記載された発明。
【実施例0373】
以下は、本発明の方法及び組成物の実施例である。上に提供された一般的な説明を前提として、他の様々な実施態様が実施され得ることが理解される。
【0374】
実施例1:グロフィタマブのin silico分析
RO7082859/グロフィタマブは、腫瘍細胞のヒトCD20と、T細胞のT細胞受容体複合体(TCR)のヒトCD3イプシロンサブユニット(CD3ε)とに結合するT細胞二重特異性ヒト化モノクローナル抗体(TCB)である。これは、2つの異なる重鎖と2つの異なる軽鎖から構成されている。CH3ドメイン中の点変異(「ノブ・イントゥ・ホール」)は、2つの異なる重鎖のアセンブリを促進させる。CD3結合FabにおけるVHドメインとVLドメインの交換(「CrossMabアプローチ」)と、CD20結合FabにおけるCHドメイン及びCLドメイン内の点変異(「荷電バリアント」)は、二つの異なる軽鎖と対応する重鎖の正確なアセンブリを促進させる。「ノブ・イントゥ・ホール」変異は、重鎖HC1におけるアミノ交換Y349C、T366S、L368A及びY407Vと、重鎖HC2におけるアミノ交換S354C及びT366Wとからなる(Kabat EUインデックス番号付け)。「荷電バリアント」の変異は、軽鎖LC2におけるアミノ酸交換E123R及びQ124K(Kabat番号付け)と、重鎖HC1及びHC2におけるアミノ酸交換K147E及びK213E(Kabat EUインデックス番号付け)とからなる。
【0375】
ヒトCD20への結合は高い親和性で二価の結合様式で起こるのに対して、CD3εへの結合は一価で低親和性である。RO7082859は、Fcガンマ受容体(FcγR)へのin vitroでの結合を阻害するとともにナチュラルキラー(NK)細胞、単球/マクロファージ、及び好中球を含む先天的な免疫エフェクター細胞のFcγRを介した共活性化を防止する修飾(「PG LALA」変異)をFc領域に有するヒトIgG1であり、FcRn(新生児Fc受容体)への機能的結合は変化しない。「PG LALA」変異は、重鎖HC1及び重鎖HC2におけるアミノ酸交換P329G、L234A、及びL235A(「PG LALA」、Kabat EUインデックス番号付け)からなる。
【0376】
組換え抗体は、CHO細胞で産生され、
図2に示すように、2つの重鎖(それぞれ449及び674アミノ酸残基)と3つの軽鎖(それぞれ232及び219(2コピー)アミノ酸残基)とからなり、非対称に配置されている。
【0377】
活性ホットスポットの概要
分子のCD3結合部分について、in silico予測では、重鎖のCDR3に分解されやすいAsn残基が2つ、露出したTrp残基が1つあることが示された。14日間にわたるストレス実験では、pH6.0でのインキュベーション後、標的結合活性に大きな変化は見られなかったが、生理的pH(PBS pH7.4、データは示さず)でのインキュベーション後、標的結合活性の強い低下が観察された。
【0378】
実施例2:グロフィタマブ製剤開発GLP Tox及びヒト研究への導入
表4に示されたスキームに従ってスクリーンを実施した。スクリーンの間、製剤を以下の条件に曝露させた:3週間及び6週間の保存(5℃、25℃、及び40℃)、5℃及び25℃での1週間の振とう及び凍結/融解(F/T)ストレス(5サイクル)。指定された製剤をその後52週間まで追跡する。
【0379】
5℃、25℃、及び40℃で6週間保存した後、すべての製剤は、試験したほとんどの物理的特性、つまり可視粒子及び肉眼では見えない粒子、色、濁度、pH、並びにタンパク質含量に大きな変化はなかった。CE-SDS(キャピラリー電気泳動ドデシル硫酸ナトリウム)のデータは、指定に重要ではなかったので示していない。
【0380】
Seidenader法による可視粒子分析では、いずれの製剤もすべての保存条件下で可視粒子の形成は見られなかった。肉眼では見えない粒子の数は少なかった(図示せず)。機械的応力条件下では、F2-F5は5℃と25℃の両方で多くの粒子を示した。F1はどちらの条件でも粒子が存在しなかった。EP及びOptimaを使用すると、F3とF4(ともにP188あり)以外は、すべての組成物に事実上粒子がほとんどなく(粒子0)、粒子はみられるが限界値を下回っている(図示せず)。5℃での振とうでは、肉眼では見えない粒子はF3(P188+Met)の方がF4(P188)よりも有意に悪かった。他のすべての製剤は各条件で同様の数を示した(図示せず)。
【0381】
濁度及び色は、6週間後、すべての条件下ですべての製剤に有意な変化は見られなかった。界面活性剤の含量は、5℃及び25℃で安定で、P188を含有する製剤(F3、F4)については40℃でも安定であった。すべてのPS20含有活性製剤(F1、F2、及びF5)では、製剤がメチオニンを含有していたか否かにかかわらず、40℃で界面活性剤の含量の低下が観察された。
【0382】
メチオニンの有益な効果は、PS20を含有するプラセボ製剤においてのみ見られ、40℃でPSの含量が低下したのはP2のみであった(
図3)。生化学的特性評価では、40℃で保存した後でのみ製剤の違いが明らかになった。
【0383】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)では、モノマーの損失はF2及びF5でより顕著であり、HMW(高分子量)面積の増加と相関していた。新たなHMW種が出現し、F3及びF4ではわずかであったが、F1ではより強く、F2及びF5では非常に大きかった。LMW(低分子量)種は、すべての製剤でもほぼ同じ割合で増加することがわかった(
図4)。同様の傾向はイオン交換クロマトグラフィー(IEC)で観察され、塩基性ピーク面積は全体的に増加し、酸性面積の増加はF2及びF5でより顕著であった(
図5)。
【0384】
まとめると、データはF2とF5を明確に除外し、F1、F3、及びF4が同等に安定していることを示し、3つのどれかが明確に優先されることはなかった。F1(5mg/mlのグロフィタマブ、20mMのヒスチジン/ヒスチジンHCl、pH5.5、240mMのスクロース、10mMのメチオニン、0.05%(w/v)のPS20)を指定した。F1についてのすべての分析結果の概要は
図6で見ることができる。
【0385】
実施例3:GLP Tox /ヒト研究への導入
BIACORE(登録商標)による結合
前述の純度の結果は、F2及びF5の40℃におけるCD20結合の損失と、それらの製剤におけるCD3結合の50%までの強い損失にも反映されており、これに対して残りの製剤の損失は10から20%の間であった(
図7A及び
図7B)。
【0386】
実施例4:第III相及び市販製剤のための開発研究
本実施例では、グロフィタマブ製剤の薬学的開発の概要を提供する。この開発の結果、グロフィタマブ医薬品は、IV点滴用の無菌の濃縮液として提供される。医薬品は、pH5.5の、20mMのL-ヒスチジン/L-ヒスチジン塩酸塩(HCl)バッファー中1mg/mlのグロフィタマブ、240mMのスクロース、10mMのL-メチオニン、0.5mg/mlのポリソルベート20からなる。グロフィタマブは、原薬及び医薬品中の唯一の活性成分である。製剤開発研究により、剤形及び製剤が使用目的に適していることが確認された。製剤は、製造、保存、輸送、及び投与中に医薬品が安定であることを保証するために十分に頑丈である。
【0387】
より高いタンパク質濃度を有する製剤(例えば、5、25、又は50mg/mlのグロフィタマブ)についても試験したが、PS20の分解による肉眼では見えない粒子及び可視粒子の形成のため、その後追跡しなかった。タンパク質濃度とともに増加するレベルでの遊離脂肪酸(ラウリン酸及びミリスチン酸)の放出は、肉眼では見えない粒子及び可視粒子の形成の根本原因がPS20の加水分解によるものであることが確認された。
【0388】
液体剤形が選択されたことにより、製造中及び医薬品の保存期間終了まで製品の品質を確保しながら、取り扱い手順が少なくなった。
【0389】
グロフィタマブ医薬品は、製品の無駄を最小限に抑えつつ、2.5mg、10mg、及び30mgの必要臨床用量に適合させるために、2.5mg/バイアルを6mlの使い捨てガラスバイアルに充填する、及び10mg/バイアルを15mlの使い捨てガラスバイアルに充填する、2種類の強度の2つのバイアル構成で市販されることになる。市販の医薬品製剤では、添加物組成を変更せずにグロフィタマブの濃度を1mg/mlに低下させた。
【0390】
製剤開発研究は、医薬品の適切な剤形、タンパク質濃度、界面活性剤濃度、バッファー種、溶液pH、安定剤、等張化剤、及びバイアル構成を選択する根拠となった。原薬の配合は、施設への適合、希釈、及び保存の考慮事項を考慮して最適化された。
【0391】
剤形の選択
液体剤形が選択されて点滴用の濃縮液が提供されることにより、製造中及び医薬品の保存期間終了まで製品の品質を確保しながら、取り扱い手順が少なくなった。
【0392】
タンパク質濃度の選択
第I相では5mg/mlのタンパク質濃度を選択し、第III相まで保持した。その後、製剤開発研究及び最新の臨床投与要件に基づいて、1mg/mlのタンパク質濃度を市販製剤として選択した。
【0393】
タンパク質濃度を臨床上の必要性に適合させるように調製するために、20mMのL-ヒスチジン/L-ヒスチジン塩酸塩、10mMのL-メチオニン、240mMのD-スクロース及び0.5mg/mlのポリソルベート20(PS20)を含有するpH5.5の製剤の安定性を、1mg/ml、5mg/ml、及び25mg/mlのグロフィタマブ濃度で試験した。これらの製剤を、SE-HPLC及びIE-HPLCによるグロフィタマブの純度、PS20含量、可視粒子/肉眼では見えない粒子の形成を評価することにより、初期時点(T0)、いくつかの中間時点、及び2℃~8℃で104週間保存した後の研究終了時点で、評価した。
【0394】
SE-HPLC及びIE-HPLCによる純度は、研究全体を通して1mg/ml製剤と5mg/ml製剤の間で同等であった(
図8A及び
図8B)。肉眼では見えない粒子の数も同程度であった。さらに、1mg/ml製剤は、5mg/ml製剤及び25mg/ml製剤と比較して、方法のばらつきを超えるPS20分解を示さない(
図12、下記「ポリソルベート20分解の評価」も参照)。これらの結果と、2.5mg、10mg、及び30mgの最新の臨床用量レジメンとに基づき、1mg/ml製剤が市販製剤として選択された。
【0395】
0.9~1.1mg/mlタンパク質の濃度範囲を、その後の多変量製剤頑強性研究でさらに評価した(実施例5、製剤頑強性研究参照)。この研究では、この濃度範囲で許容できる安定挙動が確認された。
【0396】
pH、バッファー、安定剤、及び等張化剤の選択
製剤開発研究に基づき、pH5.5のL-ヒスチジン/L-ヒスチジン塩酸塩の20mM溶液をバッファーとして選択し、安定剤として10mMのL-メチオニン、等張化剤として240mMのD-スクロースを第I相で併用し、第III相及び市販製剤のために保持した。
【0397】
5mg/mlのグロフィタマブでの研究を、20mMのL-ヒスチジン/L-ヒスチジン塩酸塩バッファーのpH範囲を5.5から6.0、L-メチオニンのレベルを0及び10mMに設定して試験した。さらに、240mMのD-スクロースと130mMの塩化ナトリウムの比較も実施した。
【0398】
pH及び安定化剤の影響を、初期時点(T0)及び40℃で6週間保存後に、SE-HPLC及びIE-HPLCによるグロフィタマブの純度と、可視粒子/肉眼では見えない粒子の形成とを評価することにより評価した。等張化剤の選択は、初期時点(T0)及び25℃で26週間保存後に、SE-HPLC及びIE-HPLCによって測定し、可視粒子/肉眼では見えない粒子の形成を決定することによって評価した。20mMのL-ヒスチジン/L-ヒスチジン塩酸塩バッファー(pH5.5)と10mMのL-メチオニンの組み合わせは、安定剤無添加の対応する製剤又は20mMのL-ヒスチジン/L-ヒスチジン塩酸塩バッファー/10mMのL-メチオニンの組み合わせ(pH6)と比較して、高分子量種(HMWS)の形成(
図9A)と、荷電バリアントの変化(
図9B)とが最も少ないことを示した。20mMのL-ヒスチジン/L-ヒスチジン塩酸塩一水和物の濃度は、医薬品の製造中並びに原薬及び医薬品の保存中に維持するのに十分であることが示された。
【0399】
240mMのD-スクロースは、240mMのD-スクロースと130mMの塩化ナトリウムの比較に基づいて選ばれた。肉眼では見えない粒子の数は、製剤間で同程度であった。D-スクロース含有製剤では、25℃で26週間保存後に肉眼では見えない粒子の形成は観察されなかったが、NaCl含有製剤では可視粒子が観察された(
図10)。
【0400】
界面活性剤の選択
0.5mg/ml濃度のPS20が、安定性研究の結果に基づいて、第I相用に選択され、商業的製剤化まで保持された。20mMのL-ヒスチジン/L-ヒスチジン塩酸塩バッファー、pH5.5、10mMのL-メチオニン及び240mMのD-スクロース中、50mg/mlのグロフィタマブの研究で、PS20に対するポロキサマー188(P188)の安定化効果を検討した。P188を0.5、0.7、及び1.0mg/mlのレベルで、PS20を0.1、0.3、及び0.5mg/mlのレベルで試験した。
【0401】
添加した界面活性剤の影響を、初期時点(T0)及び25℃で7日間振とう後に、SE-HPLC及びIE-HPLCによるグロフィタマブの純度と、可視粒子/肉眼では見えない粒子の形成とを評価することにより評価した。
【0402】
すべてのP188濃度で可視粒子の形成が観察された。したがって、P188はグロフィタマブの適切な界面活性剤としては除外した(
図11)。25℃で7日間の振とう後、PS20含有製剤では可視粒子は検出されなかった(
図11)。25℃で7日間の振とう後の0.5mg/mlのPS20含有製剤と比較して、0.1mg/mlのPS20含有製剤では、HMWS及び荷電バリアントの大幅な増加が観察されたが、0.3mg/mlのPS20含有製剤では、HMWS及び荷電バリアントのレベルのわずかな増加が観察された(
図11)。肉眼では見えない粒子の数は、異なるPS20の濃度間で同程度であった。25℃で7日間の振とう後の0.5mg/mlのPS20含有製剤と比較して、0.1mg/mlのPS20含有製剤では、HMWS及び荷電バリアントの大幅な増加が観察されたが、0.3mg/mlのPS20含有製剤では、HMWS及び荷電バリアントのレベルのわずかな増加が観察された(
図11)。したがって、0.5mg/mlのPS20含有製剤が選択された。0.5mg/mlのレベルのポリソルベート20は、加工中(撹拌、凍結融解、又はせん断応力など)、取り扱い中、保存中、及び輸送中に起こり得るストレスからグロフィタマブを保護するのに十分であることが示された。0.2~0.8mg/mlのPS20の濃度範囲を、その後の多変量製剤頑強性研究でさらに評価した(実施例5、製剤頑強性研究参照)。この研究では、この濃度範囲で許容できる安定挙動が確認された。
【0403】
実施例5:製剤頑強性研究
原薬及び医薬品の組成は、バッファー成分の計量公差などの製造要因に基づく範囲内で変動し得る。多変量製剤頑強性研究を実施し、グロフィタマブの関連する品質特性(QA)は、これらの組成範囲の境界で許容されることが実証された。医薬品の保存中に重要な品質特性(CQA)に影響を及ぼす可能性があると同定された3つの因子について、2つのレベルでの多変量安定性研究を実施した。以下の3つの製剤パラメータを評価した:
1.タンパク質濃度
2.pH
3.PS20濃度。
さらに、単変量安定性研究において、3つの製剤パラメータを個別に評価した:
4.バッファー強度
5.L-メチオニン濃度
6.D-スクロース濃度。
【0404】
多変量製剤頑強性研究により、グロフィタマブの関連CQAは、特許請求した製剤組成の全範囲において許容されることが実証された。
【0405】
研究デザイン
リスク評価を実施して、保存期間中に製品の品質を維持するために重要な原薬及び医薬品の製剤パラメータを同定した。それに応じて多変量解析及び単変量解析を設定した。
【0406】
多変量解析(F6からF12)
タンパク質濃度、pH、及びPS20濃度の3つの製剤パラメータを入力因子として使用し、2つのレベルでの一部実施要因計画(resolution III)安定性研究を実施した。
【0407】
単変量解析(F13からF20)
L-メチオニンとD-スクロースの濃度(低濃度及び高濃度)、並びにバッファーの強度(低レベル及び高レベル)を試験した。
【0408】
低タンパク質濃度、低pH、及び低PS20濃度の1つの製剤を、高pH、高タンパク質濃度、及び高PS20濃度の対応する製剤と直接比較して評価した。
【0409】
許容基準の設定をサポートするために、0.3mg/mlのPS20濃度の1つの製剤が含まれていた。
【0410】
試験された製剤パラメータ範囲は、表5に記載されているように、医薬品規格の許容基準及び/又は製造許容範囲のいずれかをカバーするように定義されている。表6は、3つの中心点を含む15の実験を含むデザイン計画を示しており、3つの中心点は目標とする市販製剤組成に対応している。
【0411】
表6に記載した製剤組成物中のグロフィタマブの安定性を以下のように評価した:
● 安定性研究:
〇 保存条件:リアルタイム(2℃~8℃)、加速(25℃)
〇 試験頻度:上記保存条件での0、4、13、26(25℃保存終了)、39、52、78、及び104週間の保存
● 応力試験:
〇 5回の凍結融解サイクル、
〇 2-8℃で1週間の振とう、及び25℃で1週間の振とう
● DSをサポートする安定性:-40℃で、0、26、52、及び104週間保存
評価されたQA:
〇 SE-HPLCによるHMWS(高分子量種)及びメインピーク
〇 非還元型CE-SDSによるLMWS(低分子量種)及びメインピーク
〇 IE-HPLCによる酸性ピーク2及び3、酸性領域、塩基性領域、及びメインピーク
〇 紫外可視分光法によるタンパク質含有量
〇 HPLC-ELSDによるポリソルベート20含有量
〇 RP-HPLCによるL-メチオニン及びL-ヒスチジンの濃度
〇 ペプチドマッピング(LC-MS)による酸化及び異性化
〇 バイオアッセイによる力価
〇 可視粒子
〇 肉眼では見えない粒子
〇 色、透明度/タンパク光
〇 pH
〇 浸透圧
〇 密度
【0412】
全体的なデータ分析手順
各製剤について、すべての品質属性のデータを経時的に収集した。各QAの経時的な相対的変化を評価した。
【0413】
多変量解析:
各品質属性と各製剤について、単純な線形回帰を経時的に当てはめる。こうして、各品質属性と各製剤の分解率が算出される。明記されていない場合、分解率は1週間あたりの分解率として報告されている。これらの分解率を実験計画法(DoE)研究において応答として評価し、タンパク質濃度、pH、及びPS20濃度の3つのパラメータがこれらの分解に及ぼす影響を調べた。品質属性が経時的に目標製剤と比較して意味のある変化を示さなかった場合、回帰分析及び効果推定は実施しなかった。経時的に意味のある変化を示した品質属性については、線形回帰を用いて、分解率に対する3つの要因の主効果を推定した。さらに、主効果プロットを示し、これらの効果をグラフで示した。
【0414】
単変量解析:
単変量解析で試験したパラメータについて、2℃~8℃で39週間保存後の結果をT0と比較して評価し、潜在的な変化を同定した。変化が同定された場合、境界での調査した製剤パラメータの影響を推定するために、分解率を計算し、目標製剤の分解率と比較する。場合によっては、1週間あたりの分解率を、それに104の係数をかけることにより104週間で観察された分解率に変換した。回帰分析は、JMP(登録商標)ソフトウェア(SAS Institute, Cary, NC, Version 10.0以上)を用いて行った。
【0415】
推奨保存条件(2℃~8℃)における頑強な製剤の安定性:
2℃~8℃で39週間保存した後の目標製剤と比較した相対的変化の評価の概要を表7に示す。pH6で製剤化したすべての製剤(F8、F9、F20)について、酸性バリアントレベルの増加(IE-HPLCによる酸性領域及び酸性ピーク2)が観察された。観察された酸性バリアントの増加は、影響を受けた製剤におけるIE-HPLCメインピークの対応する減少によって反映されている。2℃~8℃で39週間保存した後、他のすべての製剤の他のすべてのCQAに変化は観察されなかった。結論として、pHは重要な製剤パラメータであることが確認された。他のすべての製剤パラメータ、タンパク質含量、PS20、L-メチオニン及びD-スクロースの濃度、並びにバッファー強度は、調査した範囲において、試験したCQAに影響を与えなかった。
【0416】
加速保存条件(25℃)における頑強な製剤の安定性:
2℃~8℃のデータと同様に、脱アミド化による酸性バリアントレベルの増加(IE-HPLCによる酸性領域及び酸性ピーク2)が、pH6で製剤化されたすべての製剤(F8、F9、F20)で観察され、これは影響を受けた製剤におけるIE-HPLCメインピークの減少に反映されている。さらに、pH5で製剤化されたF1及びF2では、CE-SDSによるLMWSの増加によって断片化レベルの増加が観察された。この増加はCE-SDSメインピークの減少に反映されている。25℃で26週間保存した後、他のすべての製剤の他のいずれのCQAでも変化は観察されなかった。
【0417】
結論として、25℃のデータは、pHが重要な製剤パラメータであることを裏付けた。その他の製剤パラメータはすべて、CQAに影響を与えなかった。
【0418】
推奨原薬保存条件(-40℃)における頑強な製剤の安定性:
特許請求する製剤組成範囲全体にわたる原薬の安定性をサポートするために、-40℃で保存された原薬頑強性製剤の安定性研究を実施した。研究結果は、製剤を-40℃で26週間の推奨原薬保存条件で保存したとき、試験した品質属性に有意な変化は観察されなかったことを裏付けた。
【0419】
振とう及び凍結/融解ストレス後の頑強な製剤の安定性:
製剤を2℃~8℃、又は25℃で1週間振とうした。さらに、製剤を-40℃と5℃の間の凍結/融解サイクルを5回行った後に評価した。すべてのサンプルは、振とう又は凍結/融解ストレスにより、可視粒子が事実上なくなった。
【0420】
すべての製剤において、振とう及び凍結/融解ストレスにより、肉眼では見えない粒子は変化しなかった。PS20の含有量が低い製剤(0.2mg/ml、F7、F8、F13)は、0.3~0.8mg/mlのレベルのPS20を含有する他のすべての製剤と比較して、振とう及び凍結/融解ストレス後に製品の品質への影響を示さなかった。
【0421】
この結果は、≧0.2mg/mlのレベルのポリソルベート20が、振とう及び凍結融解ストレスからタンパク質を保護するのに十分であることを裏付けている。同様に、D-スクロース含量が低い製剤(200mM、F19)は、240~280mMのレベルのD-スクロースを含有する他のすべての製剤と比較して、振とう及び凍結/融解ストレス後の製品の品質への影響を示さなかった。この結果は、≧200mMのレベルのD-スクロースが、凍結/融解ストレスからタンパク質を保護するのに十分であることを裏付けている。その他の品質特性には、対照サンプルと比較して、振とう又は凍結/融解ストレスによる大きな変化は見られなかった。
【0422】
推奨保存条件(2℃~8℃)におけるデータに基づく、同定されたCQAの線形回帰分析:
影響を受けたCQA(溶液pH、タンパク質濃度、及びPS20濃度)について、単純な線形回帰分析を実施した。pHが主な影響を与えることが確認された。算出された1週間あたりの分解率は、104週間(=24ヶ月)をかけることにより、保存期限(EoS)まで外挿された。外挿された結果を表8に要約する。
【0423】
線形回帰分析は、すべてのCQAが安定性の許容基準内であるため、試験したpH範囲が同定されたCQAに与える意味のある影響はないことを実証した。しかし、酸性領域の増加を制御するために、医薬品放出時のpH許容基準を5.2~5.8に厳格化した。
【0424】
結論:
外挿されたデータは、24ヶ月後(特許請求された医薬品の保存期間)の酸性バリアントのレベルに対する6.0の高いpHの影響を示唆している。したがって、医薬品放出時のpH許容基準を5.2~5.8に厳格化し、医薬品安定時の酸性製剤の形成を制限した。
【0425】
この製剤は保存期限終了時まで頑強であると考えられる:
● CQAは、製剤範囲の境界のすべての製剤について、t=0と、2℃~8℃で9ヵ月間保存した後とで放出許容基準を満たす。
● CQAは、製剤範囲の境界のすべての製剤について、EoSへの外挿に分解率を用いた場合、安定性の許容基準を満たす。
【0426】
実施例6:ポリソルベート20の分解評価
ポリソルベート20は酸化的又は加水分解的なメカニズムを介して分解し得る。ポリソルベート20の加水分解は、ラウリン酸などの遊離脂肪酸(FFA)の形成をもたらす。特定の高濃度では、FFAは、肉眼では見えない粒子又は可視粒子を形成し得る。さらに、ポリソルベート20の分解は、製剤中のポリソルベートが撹拌ストレスからタンパク質を保護するのに必要な量より少なくなる場合にも懸念される。
【0427】
これらの懸念から、ポリソルベート20の分解を製剤開発中にモニターした。PS20の分解は、製剤開発中のグロフィタマブ製剤において、タンパク質濃度に依存して観察された。25mg/ml製剤ではPS20の顕著な分解が観察され(
図12)、2℃~8℃で可視粒子が観察された。5mg/ml製剤では、PS20の分解はそれほど顕著ではなく、20ヵ月後に可視粒子が観察された。肉眼では見えない粒子の数には影響が及ばなかった。可視粒子を単離し、フーリエ変換赤外(FTIR)分析によって特性評価すると、FFAであることが判明した。1mg/ml製剤は、24ヶ月の研究期間全体を通して、PS20の分解は見られず(方法の精度を超えている)、可視粒子の形成も見られなかった。肉眼では見えない粒子の数は一貫して少なかった。4つの異なる原薬(DS)バッチから得られた9つの医薬品(DP)バッチの長期安定性データは、可視粒子が存在しないことを裏付けた。
図13は、例示のDPバッチの長期安定性データの視覚化を提供する。
【0428】
実施例7:物理化学的使用安定性の研究
グロフィタマブ医薬品は、IV点滴用の無菌の濃縮液として提供される。医薬品は、pH5.5の、20mMのL-ヒスチジン/L-ヒスチジン塩酸塩バッファー中1mg/mlのグロフィタマブ、240mMのスクロース、10mMのL-メチオニン、0.5mg/mlのポリソルベート20からなる。グロフィタマブは、使い捨ての2.5ml及び10mlのガラスバイアルで供給される、防腐剤を含まない医薬品である。グロフィタマブは、0.9%又は0.45%の塩化ナトリウムで希釈した後、IVバッグ点滴によるIV投与が意図されている。ステップアップ投与スケジュールに基づく提案された登録用量及びスケジュールは、2.5/10/30mgである。投与量は、0.05mg/mlから0.6mg/mlの投与溶液濃度でIVバッグに入れることが可能である。ブラケッティング法では、0.05mg/ml、0.1mg/ml、及び0.6mg/mlの投与溶液を、全用量範囲をカバーするための適合性について試験した(表9)。
【0429】
推奨される使用条件下での点滴用溶液の物理化学的安定性を裏付けるため、安定性及び適合性研究を実施した。これらの研究では、グロフィタマブの点滴用溶液は典型的な調製及び投与手順中安定であり、周囲室内光の条件下で2℃~8℃で72時間、30℃でさらに24時間保持することができ、その後25℃での点滴にかかる時間は16時間以内であることが実証された。点滴用溶液が安定であることが証明されている公称タンパク質濃度範囲は、0.05から0.6mg/mlである。
【0430】
研究材料及びセットアップ:
グロフィタマブの物理化学的安定性を、商業環境で使用される取り扱い手順を模倣して、0.9%塩化ナトリウム溶液及び0.45%塩化ナトリウム溶液を含有する100ml又は250mlのIVバッグに希釈した後に評価した。各希釈剤について、グロフィタマブの製品品質は、表9に概説されている製品の予想濃度範囲に相当する約0.05mg/ml(低用量、0.9%塩化ナトリウムのみで試験)、0.1mg/ml(低用量)、及び0.6mg/ml(高用量)の希釈濃度で評価した。
【0431】
0.9% 塩化ナトリウムの場合、医薬品接触面がポリ塩化ビニル(PVC)又はポリオレフィン-ポリエチレン-ポリプロピレン(PO-PE-PP)でできている2つの異なるタイプのバッグを試験した。0.45% 塩化ナトリウムの場合は、医薬品接触面がPVCでできているバッグを試験した。この安定性評価のために、各希釈剤について3つの医薬品バッチをマトリックスアプローチで設定した。医薬品バッチは、2℃~8℃で20か月又は7か月保存した。
【0432】
投与溶液の点滴を、希釈したグロフィタマブ溶液を以下のように通すことでシミュレートした:
1.ポリスルホン又はポリエーテルスルホン(PES)製の0.2μmインラインフィルタの有無にかかわらず、製品接触面が、PVC、ポリエチレン(PE)、ポリブタジエン(PBD)、ポリウレタン(PUR)、シリコーン、及びアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)の点滴セット。
2.ポリカーボネート(PC)製の三方活栓点滴補助器具。
3.ポリエーテルウレタン(PEU)又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のカテーテル。
【0433】
模擬点滴を16時間にわたって実施した。これは、点滴セット及び補助器具の構成材料と長時間接触する際の投与溶液の適合性を確保するために、意図された点滴時間の4~8時間よりも長い。
【0434】
希釈後、累積保持時間後、及び模擬点滴終了時に、各IVバッグから分析用にサンプルを採取した。
【0435】
SE-HPLC、IE-HPLC、及びCE-SDSによる純度、UVによるタンパク質の含有量、遮光による肉眼では見えない粒子、色、透明度/タンパク光、pH、及びバイオアッセイによる力価を含む、適切な安定性を示す方法を用いて、サンプルを試験した。CE-SDSによるLMWは、高用量(0.6mg/ml)のみで測定された。これは、サンプル濃度≦0.1mg/mlでは、シグナル強度が低すぎて、データを有意義に解釈することができなかったためである。しかし、製品の品質は提示された力価データによって保証された。
【0436】
結果:
使用中の研究では、グロフィタマブは、0.9%又は0.45%の塩化ナトリウム溶液に希釈後、及び周囲室内光条件で2℃~8℃で72時間保持し、さらに周囲室内光条件で30℃で24時間保持した後、続いて25℃で16時間以内の模擬点滴の後、物理化学的に安定であることが実証された。≦0.5mg/ml投与溶液の場合、インラインフィルタは使用しない。
【0437】
これらの適合性研究で使用された医薬品バッチは、推奨保存温度(2℃~8℃)で7~20か月間保存されており、医薬品の年数が使用中の取り扱い及び投与中の安定性に影響を与えないことが実証された。
【0438】
実施例8:微生物学的安定性
医薬品は、投与前に無菌技術を使用して希釈する必要がある。グロフィタマブのIV投与用溶液は、0.9%塩化ナトリウム又は0.45%塩化ナトリウムを含有する点滴バッグに医薬品を希釈して調製される。調製された点滴溶液は、直ちに使用されるべきである。医薬品は抗菌防腐剤を含有しない。したがって、使用中の取り扱いにおいては、適切な無菌状態を維持することにより、溶液の無菌性を確保する必要がある。
【0439】
偶発的な汚染が発生した場合に備えて、微生物の増殖をサポートする溶液の傾向を評価するために、微生物負荷研究を実施した。2℃~8℃で96時間まで、及び20℃~25℃で48時間までの7つの異なる試験微生物(USP<51>に列挙)の増殖を評価した。初期値よりも0.5log10単位以下の差が測定されたとき、結果は「成長なし」の許容基準を満たした。
【0440】
他の実施態様
理解を明確にするために、上記発明は図示及び例示によって程度詳細に説明されているが、これらの説明及び例示は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書に引用されるすべての特許及び科学文献の開示は、参照によりその全体が明示的に援用される。