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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138584
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】複合ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20241002BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
H01B7/00 310
H01B7/18 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049135
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 崇範
(72)【発明者】
【氏名】千葉 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】松本 花奈
【テーマコード(参考)】
5G309
5G313
【Fターム(参考)】
5G309KA02
5G313AB04
5G313AC07
5G313AD03
5G313AE02
(57)【要約】
【課題】端末加工性に優れ、低温下での耐屈曲性にも優れた複合ケーブルを提供する。
【解決手段】導体21、31の外周に樹脂層22,32を有する複数の電線2,3と、複数の電線2,3の外面を被覆するシース4とを備えた複合ケーブル1であって、シース4に、23℃において引張弾性率30MPa以上、-40℃において引張弾性率1000MPa以下である架橋ポリオレフィン材料が使用されている。上記各温度での引張弾性率の設定により、端末加工性、耐低温屈曲性、耐熱性について向上を図ることができる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周に樹脂層を有する複数の電線と、
複数の前記電線の外面を被覆するシースとを備えた複合ケーブルであって、
前記シースは、23℃において引張弾性率30MPa以上、-40℃において引張弾性率1000MPa以下である架橋ポリオレフィン材料が使用されていることを特徴とする複合ケーブル。
【請求項2】
前記架橋ポリオレフィン材料が、ベース樹脂100質量部のうち、ポリプロピレンを5質量部以上30質量部以下含むことを特徴とする請求項1に記載の複合ケーブル。
【請求項3】
前記架橋ポリオレフィン材料が、ベース樹脂100質量部に対して無機フィラーを10質量部以上150質量部以下含有していることを特徴とする請求項1に記載の複合ケーブル。
【請求項4】
複数の前記電線は、前記導体の外径の異なるものを含むことを特徴とする請求項1に記載の複合ケーブル。
【請求項5】
複数の前記電線は、車両のブレーキ制御用の電線を含むことを特徴とする、請求項4に記載の複合ケーブル。
【請求項6】
複数の前記電線は、アンチロックブレーキシステムのセンサから制御デバイスに信号を送信するため信号線と、電動パーキングブレーキの制御デバイスからアクチュエータに電力を供給する電源線とを含むことを特徴とする、請求項4に記載の複合ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数のケーブルをシースでまとめた複合ケーブルが機械、装置類に使用されている。
例えば、車両において、アンチロックブレーキシステム(Anti-lock Brake System。以下ABSという)を機能させるために、車輪の近傍に配置されたABSセンサからABS制御デバイスに信号を送信するためのABSケーブル(信号線)が使用されている。
また、電動パーキングブレーキ(Electric Parking Brake。以下EPBという)の普及に伴い、EPB制御デバイスからEPBのアクチュエータに電力を供給するEPBケーブル(電源線)が使用されている。
【0003】
上記ABSケーブルとEPBケーブルのように、接続先が近接したケーブルの場合は、複合ケーブルが好適に利用されていた(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5541331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記複合ケーブルは、外周近くに切れ目を入れるだけではシースを容易に除去することができず、シース除去を行うための端末加工性(シースの皮剥き性)が要求されていた。
さらに、複合ケーブルは、使用環境に応じて、低温下での耐屈曲性を要求される場合があった。
複合ケーブルの端末加工性は、シース材料の弾性係数を高く設定することで改善する。一方、シース材料の弾性係数を高く設定すると低温下での耐屈曲性の低下を生じるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、端末加工性に優れ、低温下での耐屈曲性にも優れた複合ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の問題を解決するために、本発明は、
導体の外周に樹脂層を有する複数の電線と、
複数の電線の外面を被覆するシースとを備えた複合ケーブルであって、
前記シースに、23℃において引張弾性率30MPa以上、-40℃において引張弾性率1000MPa以下である架橋ポリオレフィン材料が使用されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、端末加工性、低温耐屈曲性、耐熱性についてに優れた複合ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】複合ケーブルの信号線をABSセンサとABS制御デバイスに接続し、電源線をEPB制御デバイスとアクチュエータに接続した状態を表す図である。
図2】本実施形態に係る複合ケーブルの構成例を表す断面図であり、四芯の場合を表す。
図3】本実施形態に係る複合ケーブルの構成例を表す断面図であり、六芯の場合を表す。
図4】電源線又は信号線の導体が複数の素線を撚り合わされて構成されていることを表す図である。
図5図5(a)は複合ケーブル内で四芯の信号線及び電源線が撚り合わされた状態を表す図、図5(b)は複合ケーブル内で六芯の信号線及び電源線が撚り合わされた状態を表す図である。
図6】実施例及び比較例のシース材料の配合及び各種評価の一連を示した図表である。
図7図7(a)は引張弾性率の測定に使用される試料の平面図、図7(b)は引張により伸びを生じる部位の断面図である。
図8】低温耐屈曲性試験の試験装置をマンドレルの軸方向から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[複合ケーブルの概略]
以下、図面を参照して、本発明に係る複合ケーブルについて説明する。
ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態や図示例に限定するものではない。
なお、以下の説明において、「数値A~数値B」という場合には、「数値A以上、数値B以下」の範囲を示すものとする。
【0011】
複合ケーブル1は、導体21,31の外周に樹脂層22,32を有する複数の電線としての信号線2及び電源線3と、複数の信号線2及び電源線3の外面を一括的に被覆するシース4とを備えている。
複数の信号線2と複数の電源線3とが導体コアを構成する。
【0012】
複合ケーブル1は、各種の機械又は装置、例えば、産業機械、産業用ロボット、車両等の電子制御用のケーブルとして使用可能である。
本実施形態では、外気温に近い環境で振動が高い頻度で生じる環境下での使用が想定される車両のブレーキ制御用の電線が含まれる複合ケーブル1を例示する。
【0013】
具体的には、図1に示すように、複合ケーブル1の複数の信号線2には、アンチロックブレーキシステムのセンサ11から制御デバイス12に信号を送信するため信号線が含まれ、複数の電源線3には、電動パーキングブレーキの制御デバイス13からアクチュエータ14に電力を供給する電源線が含まれる構成を例示するが、この場合に限定されない。
【0014】
図2及び図3は、本実施形態に係る複合ケーブル1の構成例を表す断面図である。図2は信号線2が二本、電源線3が二本の四芯の場合を表す。図3は信号線2が四本、電源線3が二本の六芯の場合を表す。
本実施形態では、複合ケーブル1は、複数の信号線2と複数の電源線3を備えており、各信号線2と各電源線3とはいずれも導体21、31の外周に絶縁性の樹脂層22、32を有している。そして、複数の信号線2と複数の電源線3がシース4で一括して被覆されている。
【0015】
信号線2の外径は、特に制限はないが、強度と可撓性の点から0.5~2.5[mm]、より好ましくは1.0~2.0[mm]を例示する。
電源線3の外径は、特に制限はないが、強度と可撓性の点から1.0~5.0[mm]、より好ましくは2.0~4.0[mm]を例示する。
【0016】
図4に示すように、信号線2及び電源線3の導体21,31は、複数の素線21a,31aの撚り合わせ導体である。素線21a,31aは、銅、銅合金又はアルミニウム、アルミニウム合金からなる。
導体21,31の素線21a,31aの断面形状は、いずれも、円形(丸線)でもよく、矩形(平角線)であってもよい。素線の径は0.05~0.2[mm]を例示する。素線の本数は複数であればよい。
素線の引張強度は、350~900[MPa]であることが好ましい。素線の引張強度はJISC 3002に準拠して測定することができる。
【0017】
強度と可撓性を考慮して、導体21の外径は0.3~2.0[mm]、より好ましくは0.3~1.5[mm]、導体31の外径は0.5~4.0[mm]、より好ましくは1.0~3.5[mm]を例示する。
また、導体21の断面積は0.05~2.0SQ、より好ましくは0.05~1.25SQ、導体31の断面積は0.3~8.0SQ、より好ましくは0.5~3.0SQを例示する。電源線3の導体31は、信号線2の導体21よりも大電流が流されることが想定されている。
【0018】
信号線2及び電源線3の樹脂層22,32は、導体21,31を被覆する。樹脂層22,32は、耐熱性樹脂が好ましい。耐熱性樹脂としては、絶縁性と耐熱性があれば特に制限はないが、例えば、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられる。具体的には、(架橋)ポリエチレン、ポリアミド、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリウレタン、クロロプレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体からなるゴム(EVAゴム)等が挙げられる。樹脂層は、通常用いられる各種の添加剤を含有していてもよい。
【0019】
樹脂層22,32の(合計)層厚は、特に制限されず、用途等に応じて適宜に決定することができる。例えば、耐熱性、可撓性、耐摩耗性の点で、0.2~1.5[mm]が好ましく、0.2~1.0[mm]がより好ましい。
本発明において、樹脂層22,32の層厚は、導体21,31が撚線である場合、信号線2又は電源線3の軸垂直断面において、導体21,31を構成する全素線21a,31aの仮想外接円と樹脂層22,32の外側輪郭線との最短距離を示す。
【0020】
図2図3における信号線2の対を含む破線の円は、信号線2が所定本ごとに撚り合わされていることを表している。
このように、複数の信号線2のうち二本以上の信号線2同士を撚り合わせるように構成することで、信号線2同士を撚り合わせない場合に比べて、撚り合わされた信号線2が可撓性を有するようになる。
【0021】
また、それとともに、複合ケーブル1が長手方向に引っ張られると、撚り合わされた信号線2がその方向に伸びることができるため、複合ケーブル1に繰り返し曲げる力が加わった場合、撚り合わされた信号線2同士が伸びて断線等が生じにくくなる。
【0022】
また、信号線2と電源線3は、架橋ポリエチレン電線を用いてもよい。このような電線としては、例えば、日本自動車技術会(JASO) D 611に規定されるような、自動車用架橋ポリエチレン絶縁耐熱低圧電線(AEX)や自動車用極薄肉形架橋ポリエチレン絶縁耐熱低圧電線(AESSX)に該当する、120℃相当の耐熱温度を持つ架橋ポリエチレンをベース樹脂とする電線が挙げられる。架橋ポリエチレン電線は、適宜に製造してもよいし、市販のものを使用してもよい。
また、導体コアは、信号線2と電源線3の他に絶縁電線を有していてもよい。絶縁電線は、外径が信号線2より大きく、電源線3よりも小さい点を除いて、信号線2、電源線3と同じ構成である。
【0023】
また、図5(a)及び図5(b)に示すように、複合ケーブル1は、シース4の内部で、撚り合わされた信号線2と電源線3とが全体的に更に撚り合わされている。
これにより、複合ケーブル1は、全体的に伸びて全体的な可撓性や繰り返し屈曲性を向上させることが可能となる。
なお、図5(a)は、複合ケーブル1が四芯の場合(図2参照)、図5(b)は、複合ケーブル1が六芯の場合(図3参照)を示している。
なお、上記の例に限らず、信号線2同士は撚り合わせずに平行に配置してもよいし、信号線2と電源線3も撚り合わせずに平行に配置してもよい。
【0024】
[シース]
シース4は単層でも複層でもよく、その層厚は用途等に応じて適宜に決定することができる。シース4の層厚は、可撓性、耐屈曲性及び耐摩耗性の点で、例えば、0.5~3.0[mm]、より好ましくは0.8~2.0[mm]とする。シース4の層厚は、複合ケーブル1の軸線に垂直な断面において、複数の信号線2及び複数の電源線3の全体に対する外接円とシース4の外側輪郭線との最短距離を意味する。
複合ケーブル1の断面形状は円形とするが、他の形状であってもよい。
シース4の外径は、複合ケーブル1の外径と等しく、その大きさは、可撓性、耐屈曲性及び耐摩耗性の点で、5.0~30.0[mm]、より好ましくは、5.0~15.0[mm]を例示する。
【0025】
シース4は、架橋ポリオレフィン材料が使用されている。そして、シース4の架橋ポリオレフィン材料は、23℃における引張弾性率が30MPa以上、-40℃において引張弾性率が1000MPa以下となる特性を有する。即ち、シース4は、23℃では、架橋ポリオレフィン材料としては比較的高い引張弾性率を維持しつつ、-40℃の低温化では、架橋ポリオレフィン材料としては比較的低い引張弾性率を維持している。
【0026】
[シース形成用の樹脂組成物]
シースを形成する樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂が使用される。この樹脂組成物は、シースの形成に際して、電子線の照射による電子線架橋、シラン架橋法によるシラン架橋、その他の架橋法によって架橋される。
【0027】
[ベース樹脂]
ベース樹脂は、電子線架橋でき、又は後述するシランカップリング剤がグラフト化反応しうる点で、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。
ポリオレフィン系樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物の単独重合体又は共重合体からなる樹脂であれば特に制限されず、通常の電線若しくはケーブルに使用されるものを使用することができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、酸共重合成分もしくは酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体等の各樹脂、及び、これら重合体のゴム若しくはエラストマー等が挙げられる。ゴム若しくはエラストマーとしては、エチレンゴム、スチレン系エラストマー、アクリル酸アルキルとエチレンとの共重合ゴム(エチレンアクリルゴム)等が挙げられる。中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、酸共重合成分を有するポリオレフィン共重合体等の各樹脂が好ましい。エチレンゴム又はスチレン系エラストマーと併用されることにより耐摩耗性の改善効果が大きい点で、ポリエチレン樹脂がより好ましい。
ポリオレフィン系樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
本発明において、ポリオレフィン樹脂又は樹脂成分は、それぞれ、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
また、ポリオレフィン樹脂は、後述する有機鉱物油を含んでいてもよい。
【0028】
エチレンゴムは、エチレン性不飽和結合を有する化合物を共重合して得られる共重合体からなるゴム(エラストマーを含む)であれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。エチレンゴムとしては、好ましくは、エチレンとα-オレフィンとの二元共重合体ゴム、エチレンとα-オレフィンとジエンとの三元共重合体ゴム等が挙げられる。三元共重合体のジエン構成成分は、共役ジエン構成成分であっても非共役ジエン構成成分であってもよいが、非共役ジエン構成成分が好ましい。
α-オレフィン構成成分としては、炭素数3~12の各α-オレフィン構成成分が好ましい。共役ジエン構成成分としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等の各構成成分が挙げられ、ブタジエン構成成分等が好ましい。非共役ジエン構成成分の具体例としては、例えば、ジシクロペンタジエン(DCPD)、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4-ヘキサジエン等の各構成成分が挙げられる。
二元共重合体ゴムとしては、エチレン-プロピレンゴム(EPM)が好ましく、三元共重合体ゴムとしては、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が好ましい。
エチレンゴムは、1種を単独で用いても2種以上を用いてもよい。
【0029】
スチレン系エラストマーとしては、分子内に芳香族ビニル化合物を構成成分とする重合体からなるものをいう。このようなスチレン系エラストマーとしては、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのブロック共重合体及びランダム共重合体、又は、それらの水素添加物等が挙げられる。このようなスチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、水素化SIS、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、水素化SBS、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、水素化スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)等が挙げられる。
スチレン系エラストマーは、1種を単独で用いても2種以上を用いてもよい。
【0030】
ポリエチレン樹脂は、エチレン構成成分を含む重合体の樹脂であればよく、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)が挙げられる。中でも、直鎖型低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンが好ましい。
【0031】
酸共重合成分若しくは酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体の樹脂としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体(好ましくは炭素数1~12)共重合体等からなる各樹脂が挙げられる。
【0032】
ポリプロピレン樹脂は、主成分としてプロピレン構成成分を含む重合体であればよく、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン樹脂)、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体等の樹脂を使用することができる。
エチレン-プロピレンランダム共重合体は、エチレン成分の含有量が1~10質量部程度のものをいい、エチレン成分がプロピレン鎖中にランダムに取り込まれているものをいう。また、エチレン-プロピレンブロック共重合体は、エチレンやエチレン-プロピレンゴム(EPM)成分の含有量が5~20質量部程度のものをいい、プロピレン成分の中にエチレンやEPM成分が独立して存在する海島構造であるものをいう。ポリプロピレン樹脂として特に好ましいものは、外観の点で、エチレン-プロピレンランダム共重合体の樹脂である。
エチレン成分含有量は、ASTM D3900に記載の方法に準拠して、測定される値である。
ポリプロピレン樹脂は、ベース樹脂100質量部に対して、5~30質量部を含むことが好ましい。
【0033】
有機鉱物油としては、樹脂組成物に通常用いられるものを特に制限されることなく用いることができ、パラフィン系オイル及びナフテン系オイルが挙げられ、パラフィン系オイルが好ましい。有機鉱物油は、一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0034】
[無機フィラー]
樹脂組成物は、上記ベース樹脂以外に、下記無機フィラーを含有することが好ましく、酸化防止剤等の各種添加剤を含有していてもよい。
無機フィラーとしては、特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミニウムウイスカ、水和ケイ酸アルミニウム、水和ケイ酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、タルク等の水酸基あるいは結晶水を有する化合物のような金属水和物が挙げられる。また、窒化ほう素、シリカ(結晶質シリカ、非晶質シリカ等)、カーボンブラック、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボン、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛等が挙げられる。
無機フィラーは、一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を併用してもよい。
無機フィラーは、ベース樹脂100質量部に対して10質量部以上150質量部以下含有することが好ましい。
【0035】
[シースの形成:樹脂組成物に電子線架橋を行う場合]
電子線架橋法によるシース4の形成は、次の手順で行う。
まず、各成分を混合して樹脂組成物を調製する。混合する方法は、組成物の調製に通常用いられる方法であれば、特に制限されず、各種の混合装置を用いることができる。混合条件も特に制限されず、適宜に設定されるが、通常、ベース樹脂の溶融下で混合する。
次いで、得られた樹脂組成物を導体コアの外面に配置(成形)する。配置する方法は、特に制限されず、押出成形法、射出成形法、その他の成形機を用いた成形法が挙げられ、導体コアと同時に押出成形する方法が好ましい。成形温度は、ベース樹脂の種類、押出速度(引取り速度)の諸条件に応じて、ベース樹脂が溶融する温度に設定され、例えば、80~250[℃]に設定できる。
樹脂組成物の調製及び成形は、同時に又は連続して行うことができる。
【0036】
このようにして、導体コアの外面に配置された樹脂組成物の層に電子線を照射して架橋する。
電子線架橋の樹脂組成物においては架橋助剤としてメタクリレート系の架橋助剤を適宜加えることで、架橋度を向上させることができる。
架橋助剤としては、樹脂の架橋に通常用いられる多官能性化合物を用いることができ、例えば、ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート等の多官能性ビニル化合物、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレート等の多官能(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
架橋剤の含有量は、ベース樹脂100質量部に対して、1~5質量部が好ましい。
電子線の照射条件は、ベース樹脂の種類、架橋度等に応じて適宜に設定される。
こうして、樹脂組成物の電子線架橋物からなるシース4を備えた本発明の複合ケーブル1を製造できる。
【0037】
[シースの形成:樹脂組成物にシラン架橋を行う場合]
シラン架橋法によるシース4の形成は、次の手順で行う。
まず、シラン架橋性樹脂組成物を調整する。シラン架橋性樹脂組成物は、市販のシラングラフト樹脂を用いて調整してもよい。また、シラン架橋性樹脂組成物は、ベース樹脂と、シランカップリング剤と、シラノール縮合触媒と、好ましくは無機フィラーとを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して調整してもよい。
【0038】
調整によって得られたシラン架橋性樹脂組成物は、導体コアの外周面に配置する。
シラン架橋性樹脂組成物の配置は、シラン架橋性樹脂組成物で導体コアを被覆できる方法であればよく、適宜の成形方法が適用される。
例えば、シラン架橋性樹脂組成物の配置は、押出機を用いた押出成形、射出成形機を用いた射出成形、その他の成形機を用いた成形が挙げられる。導体コアとシラン架橋性樹脂組成物とを共押出しする押出成形が好ましい。
押出成形は、汎用の押出成形機を用いて、行うことができる。
【0039】
次に、シラン架橋性樹脂組成物を水分と接触させて架橋させる。
これにより、シランカップリング剤の加水分解性シリル基を加水分解してシラノール(ケイ素原子に結合するOH基)とし、シラン架橋性樹脂組成物中に存在するシラノール縮合触媒により、シラノールの水酸基同士を縮合させる。
上記縮合反応はシラノール縮合触媒の存在下では常温で進行するので、導体コアの外周面に配置されたシラン架橋性樹脂組成物を水に積極的に接触させる必要はない。但し、架橋反応を促進させるために、シラン架橋性樹脂組成物を水分と接触させてもよい。例えば、温水への浸水、湿熱槽への投入、高温の水蒸気への暴露等の積極的に水に接触させる方法を採用できる。
シラン架橋性樹脂組成物と水分との接触により、無機フィラーと強く結合したシランカップリング剤は、シラノール縮合反応しにくく、無機フィラーとの結合を維持して、ベース樹脂と無機フィラーとの強固な密着(高い親和性)を可能とする。一方、無機フィラーと弱く結合したシランカップリング剤は、シラノール縮合反応して、シラノール結合(シロキサン結合)を介してベース樹脂同士を架橋させる。
【0040】
上記手順により、導体コアの外周面にシラン架橋性樹脂組成物のシラン架橋物からなるシース4が形成される。
【0041】
[実施例]
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。図6は実施例1~11と比較例1~5とについてシース4の材料の成分とその特定試験の評価の結果を示した図表である。
図6において、各例の配合量に関する数値は特に断らない限り質量部を表す。また、各成分欄において空欄は対応する成分の配合量が0質量部であることを意味する。
【0042】
図6に示す各成分(化合物)を含むシース材料の詳細を以下に示す。
〔ベース樹脂〕
エボリューSP0540(商品名)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、プライムポリマー社製
エバフレックスEV360(商品名)、EVA(エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂)、三井デュポンポリケミカル社製
ハイゼックス5305E(商品名)、HDPE(高密度ポリエチレン)、プライムポリマー社製
サンアロマーPB222A(商品名)、PP(ポリプロピレン)、サンアロマー社製
三井3092M(商品名)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、三井化学社製
タフテック(登録商標)N504(商品名)、SEBS(スチレン系エラストマー)、旭化成社製
ダイアナプロセスオイルPW-90(商品名)、有機鉱物油(パラフィン系オイル)、出光興産社製
〔無機フィラー〕
マグシーズFK-621(商品名)、水酸化マグネシウム、神島化学工業社製
〔シランカップリング剤〕
KBM-1003(商品名)、ビニルトリメトキシシラン、信越化学工業社製
〔有機過酸化物〕
パーヘキサ25B(商品名)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、日本油脂社製
〔シラノール縮合触媒〕
アデカスタブOT-1(商品名)、ジオクチルスズジラウレート、ADEKA社製
【0043】
[導体コアの作製]
まず、導体断面積が0.25SQ、導体外径が1.4[mm]、樹脂層の厚さ0.3[mm]の架橋ポリエチレン電線からなる二本の信号を二本対撚りして、撚線(撚り込み率1%)を得た。得られた信号線2の撚線と、導体断面積が1.8SQ、導体外径が2.6[mm]、樹脂層の厚さ0.3[mm]の架橋ポリエチレン電線からなる二本の電源線3とを撚り合わせて、図2に示す導体コア(撚り込み率1.5%、各細径電線の撚り込み率は合計で約2.5%)を作製した。
【0044】
[実施例2,4,7]
以下のようにして、電子線架橋によりシースを形成して、図2に示す四芯複合ケーブルを製造した。
図6の実施例2,4又7のベース樹脂欄及び無機フィラー欄の各成分をバンバリーミキサーに投入して120~200[℃]で10分溶融混合した後、材料排出温度200[℃]で排出し、フィーダールーダーを通して、樹脂組成物のペレットを得た。
調製した導体コア及び得られたペレットを用いて次のようにしてシースを形成した。すなわち、得られたペレットを、直径が90[mm]のスクリューを備えた押出機(スクリュー有効長Lと直径Dとの比:L/D=24、圧縮部スクリュー温度190[℃]、ヘッド温度200[℃])に導入した。この押出機内にてペレットを溶融しつつ、導体コアの外周面に肉厚1[mm]で直接押出(配置)して、外径8[mm]のケーブルを得た。
次いで、導体コアの外周面に配置した樹脂組成物に、電子線を加速電圧500[kV]の条件で照射した。
こうして、電子線架橋物で形成した層厚1[mm]のシースを備えた実施例2,4,7の複合ケーブル(外径8[mm])を製造した。
【0045】
[実施例1,3,5,6,8~11、比較例1,2,5]
以下のようにして、シラン架橋法によりシースを形成して、図2に示す四芯複合ケーブルを製造した。
シラン架橋法によりシースを形成する場合、ベース樹脂として、図6の各実施例欄に示す合計100質量部のうち95質量部をシランマスターバッチの調製に用い、残りの5質量部を触媒マスターバッチの調製に用いた。
【0046】
シランマスターバッチの調製として、まず、前述したシランカップリング剤と有機過酸化物を25[℃]で混合(ドライブレンド)し、次いでそこへ無機フィラーを投入して30[℃]で混合(ドライブレンド)した。
次いで、得られた混合物と、図6のベース樹脂欄に示す配合量(触媒マスターバッチの分を除く)のベース樹脂とをバンバリーミキサーに投入して120~200[℃]で10分溶融混合した後、材料排出温度200[℃]で排出し、フィーダールーダーを通して、シランマスターバッチのペレットを得た。
上記バンバリーミキサーでの溶融混合により、シラングラフト化反応を惹起させて、シラングラフト樹脂を合成した。
【0047】
触媒マスターバッチの調製として、図6のベース樹脂欄に示す配合量(触媒マスターバッチの分)のベース樹脂と、前述したシラノール縮合触媒をバンバリーミキサーに投入して170[℃]で溶融混合した後、材料排出温度180[℃]で排出し、フィーダールーダーを通して、触媒マスターバッチのペレットを得た。
【0048】
次いで、調製した、シランマスターバッチのペレットと触媒マスターバッチのペレットをドライブレンドした。得られたドライブレンド物を、直径が90[mm]のスクリューを備えた押出機(スクリュー有効長Lと直径Dとの比:L/D=24、圧縮部スクリュー温度190[℃]、ヘッド温度200[℃])に導入した。この押出機内にてドライブレンド物を溶融混合(シラン架橋性樹脂組成物を調製)しつつ、撚り合わせた導体コアの外周面に肉厚1[mm]で直接押出(配置)して、外径8[mm]の被覆導体を得た。
さらに、得られた被覆導体を、温度60[℃]、相対湿度95%の雰囲気に24時間放置して、水と接触させた。
こうして、シラン架橋物で形成した層厚1[mm]のシースを備えた実施例1,3,5,6,8~11、比較例1,2,5の複合ケーブル(外径8[mm])を製造した。
【0049】
[比較例3,4]
導体コアの外周面に配置した樹脂組成物に電子線を照射しないこと以外は、実施例2,4と同様にして、非架橋の樹脂組成物で形成した層厚1[mm]のシースを備えた比較例3,4の複合ケーブル(外径8[mm])を製造した。
【0050】
[評価試験]
実施例1~11及び比較例1~5の複合ケーブルについて下記の各種評価を行い、その結果を図6に示した。
【0051】
[23℃引張弾性率]
実施例1~11及び比較例1~5の複合ケーブルのシースについて、JIS K 7161-1(ISO 527-1)の定義による引張弾性率の測定を行った。
上記規格によれば、引張弾性率は、0.05%と0.25%のひずみ2点間に対応する応力/ひずみ曲線の傾きと定義されている。
Em=Δσ/Δε
Em:引張弾性率[MPa]
Δσ:0.05%と0.25%の2点間の元の平均断面積による応力差
Δε:0.05%と0.25%の2点間のひずみの差
【0052】
上記測定のために、各複合ケーブルのシースを打ち抜いて、JIS K 7113に定めた2号形試験片(図7(a)及び図7(b)参照)を用意した。
試験機は,JIS B 7721及びISO 9513に適合するものを使用した。
23[℃]の環境下で上記試験片の両端部に対して、0.25[mm/min]の速度で1分間、引張荷重を加え、その間の引張荷重と伸びによる変形量とを計測した。
引張応力は、引張荷重を試験片の長さGで示した部位の断面積D×Iで除して求めた。
ひずみは、試験片の長さGで示した部位の伸び量をもとの長さGで除して求めた。
上記計測における0.05%の歪みの発生時の引張応力と0.25%の歪みの発生時の引張応力とから引張弾性率を算出した。
【0053】
求められた引張弾性率の値から、23℃引張弾性率について良否の評価を行った。下記の「A」が良(合格)、「B」が否(不合格)である。
A:23℃引張弾性率が30[MPa]以上である場合
B:23℃引張弾性率が30[MPa]未満である場合
【0054】
[-40℃引張弾性率]
実施例1~11及び比較例1~5の複合ケーブルのシースについて、23℃引張弾性率と同じ計測を-40[℃]の環境下で行い、引張弾性率を算出した。
求められた引張弾性率の値から、-40℃引張弾性率について良否の評価を行った。下記の「A」が良(合格)、「B」が否(不合格)である。
A:-40℃引張弾性率が1000[MPa]以下となる「良」判定の場合
B:-40℃引張弾性率が1000[MPa]を超えた「否」判定の場合
【0055】
[端末加工性試験]
実施例1~11及び比較例1~5の複合ケーブルの端部100[mm]において、シースを剥ぎ取る際の皮むき性を評価した。
具体的には、複合ケーブルの軸線方向に対して垂直な周方向に一周する切込みを、複合ケーブルの被覆厚の90%の深さに入れた。次いで、23[℃]相対湿度50%の環境下で、この切込みを境に一方の複合ケーブルのシースを把持して、他方の複合ケーブルを引き抜いた。
こうして引き抜いた複合ケーブルについて、シースの端末加工性試験を下記基準により良否の評価を行った。下記の「A」が優(合格)、「B」が良(合格)、「C」が否(不合格)である。
A:引き抜いたケーブルに、引き抜かれるべきシースの残りがなく、引き抜いたケーブルのシース端部の伸びが0.6[mm]以下である場合
B:引き抜いたケーブルに、引き抜かれるべきシースの残りがなく、引き抜いたケーブルのシース端部の伸びが0.6[mm]を超えて0.8[mm]以下である場合
C:引き抜いたケーブルに、引き抜かれるべきシースが残存するか、引き抜いたケーブルのシース端部の伸びが0.8[mm]を超える場合
【0056】
[耐低温屈曲性試験]
実施例1~11及び比較例1~5の複合ケーブルに対して耐低温屈曲性試験を行った。
図8は本試験に用いる試験装置をマンドレルの軸方向から見た概略図である。
図8に示すように、試験装置は、所定の間隔をあけて水平かつ互いに平行に配置された二本のマンドレル51,52と、マンドレル51,52の鉛直下方において所定の間隔をあけて配置された揺れ防止用の押え61,62とを有する。
実施例1~11又は比較例1~5の複合ケーブル1を鉛直方向に沿った状態でマンドレル51,52の間及び押さえ61,62の間に通して配置し、複合ケーブル1の下端部に重りWを取り付けた。この状態で複合ケーブル1の上端を左右のマンドレル51又は52の上側外周に交互に接するように左右に繰り返し屈曲させた。屈曲回数は、複合ケーブル1を左右のマンドレル51、52のいずれかの外周に接するように屈曲させた場合を1回として、カウントした。なお、試験条件は、マンドレル径20[mm]、左右曲げ角度90[°]、速度60[屈曲/分]で行い、重りは2[kg]、ケーブルとマンドレルとのクリアランスは1[mm]とし、複合ケーブル1の上方の側面が各マンドレル51,52の上方外周に接するように屈曲させる長さを調製して、-40[℃]の雰囲気で、試験を行った。複合ケーブル1をループ状に直列につないで通電した。即ち、複合ケーブル1の信号線2の導体21の端部同士、電源線3の導体31の端部同士又は信号線2の導体21の端部と電源線3の導体31の端部とを接続することで、複数の信号線2と複数の電源線3とが一本の電線となるように連結する。そして、一本化された電線の両端部を通じて通電を行いながら繰り返しの屈曲を行った。
そして、断線が生じるまでの屈曲回数を測定した。
複合ケーブル1について、断線が生じるまでの屈曲回数により良否の評価を行った。下記の「A」が良(合格)、「B」が否(不合格)である。
A:5万回以上
B:5万回未満
【0057】
[耐熱性試験]
実施例1~11又は比較例1~5の複合ケーブルを複合ケーブルと同一の外径を有するマンドレルに巻付け、250[℃]の恒温槽内に30分投入し、シースの割れの有無により良否の評価を行った。下記の「A」が良(合格)、「B」が否(不合格)である。
A:シースに割れが発生しなかった(確認できなかった)場合
B:シースに割れが発生した場合
【0058】
[耐摩耗性試験]
耐摩耗性試験は、複合ケーブルについて用途に応じて適宜求められる参考評価の試験である。
JASO D 625-2に規定される摩耗試験機及び摩耗テープを使用して、実施例1~11又は比較例1~5の複合ケーブルのシースが完全に摩耗し、導体コアに摩耗テープが接触するまでの摩耗テープ長を測定した。摩耗テープはアルミナ質研削材(粒度P180)を使用し、送り速度を1500±75[mm/min]、押し付け荷重を0.45[kgf](4.4[N])とした。
導体コアに摩耗テープが接触するまでの摩耗テープの送り長さが下記基準のいずれに含まれるかにより良否の評価を行った。下記の「A」が良(合格)、「B」が否(不合格)である。
A:20[m]以上
B:20[m]未満
【0059】
[低温限界試験]
低温限界試験は、複合ケーブルについて用途に応じて適宜求められる参考評価の試験である。
低温限界試験は、JIS C 3005(ISO 527-1)に準拠して行われた。
実施例1~11又は比較例1~4の複合ケーブル(外径8[mm])に対して、-60[℃]の低温槽で1時間冷却した後に取り出し、直ちに試料の外径40[mm]の円筒に隙間なく一様の速さで三回巻き付けてシースの表面を観察した。
シースの表面にひび割れが生じているかにより良否の評価を行った。下記の「A」が良(合格)、「B」が否(不合格)である。
A:シース表面にひび割れなし
B:シース表面にひび割れあり
【0060】
[試験結果]
実施例1~11又は比較例1~5に対する上記各試験の評価は、図6の図表に示す通りである。
実施例1~11は、図6に示すポリオレフィンを含むベース樹脂を架橋してシースの形成を行った結果、23℃引張弾性率を30[MPa]以上とし、-40℃引張弾性率を1000[MPa]以下とすることができた。
そして、23℃引張弾性率と-40℃引張弾性率とについてそれぞれの適正な数値範囲の条件を満たす実施例1~11は、いずれも、端末加工性試験、耐低温屈曲性試験、耐熱性試験が示す端末加工性、低温耐屈曲性、耐熱性について良好となることが示された。
また、ポリオレフィンを含むベース樹脂であっても非架橋のシースの場合には、比較例3及び比較例4に示すように、耐熱性試験が示す耐熱性が低下することが示された。
【0061】
また、実施例1~11の内、(1)シースの架橋ポリオレフィン材料がベース樹脂100質量部のうち、ポリプロピレンを5質量部以上30質量部以下含むこと、(2)シースの架橋ポリオレフィン材料がベース樹脂100質量部に対して無機フィラーを10質量部以上150質量部以下含有すること、の二つの要件を満たす実施例1~5,8,9については、参考評価である耐摩耗性試験が示す耐摩耗性、及び低温限界試験による-60[℃]下でのひび割れ抑制効果を示す低温限界性についても良好となることが示された。
【0062】
[発明の実施形態の技術的効果]
複合ケーブル1は、シース4に、23℃において引張弾性率30[MPa]以上、-40[℃]において引張弾性率1000[MPa]以下である架橋ポリオレフィン材料を使用した。このため、常温下での樹脂材料としては、比較的、引張弾性率を高く維持し、例えば、複合ケーブル1の接続作業時には、端末加工性に優れることから作業性の向上を図り、高い作業性によって、良好な接続を行うことが可能となる。
一方、低温化での樹脂材料としては、比較的、引張弾性率を低く維持し、曲げに対して割れやひび等の発生を抑制することができる。
このため、複合ケーブル1は、接続後は、外気と振動にさらされる過酷な環境下においても、良好な接続状態と相まって、高い耐久性を発揮することが可能となる。
また、複合ケーブル1は、シース4が上記特性を有するので、端末加工性、低温耐屈曲性、耐熱性について向上を図ることが可能となる。
【0063】
また、複合ケーブル1は、シース4の架橋ポリオレフィン材料が、ベース樹脂100質量部のうち、ポリプロピレンを5質量部以上30質量部以下含むため、耐摩耗性の向上を図ることが可能となった。
【0064】
また、複合ケーブル1は、シース4の架橋ポリオレフィン材料が、ベース樹脂100質量部に対して無機フィラーを10質量部以上150質量部以下含有しているため、耐摩耗性の向上又は低温限界性の向上を図ることが可能となった。
【0065】
また、複合ケーブル1は、電線として導体の外径の異なるものを含んでいるので、用途等の違いによって送電電流が異なる電線を一括的に配線することが可能となる。
【0066】
また、複合ケーブル1は、電線として車両のブレーキ制御用の信号線2を含んでいる。
ブレーキ制御用の信号線2を含んだ複合ケーブル1は、車体の本体フレームから車輪近傍にかけて配線される。その場合、外気の影響による低温環境下であって、本体フレームと車輪との間の相対的に振動が頻発する過酷な環境下にさらされ得る。そのような場合でも、複合ケーブル1のシース4の低温耐屈曲性により信号線2を効果的に保護することが可能となる。
【0067】
また、複合ケーブル1は、複数の電線として、アンチロックブレーキシステムのセンサから制御デバイスに信号を送信するため信号線2と、電動パーキングブレーキの制御デバイスからアクチュエータに電力を供給する電源線3とを含んでいる。
ブレーキ制御用の信号線2及びアクチュエータに電力を供給する電源線3を含んだ複合ケーブル1は、車体の本体フレームから車輪近傍にかけて配線される。その場合、外気の影響による低温環境下であって、本体フレームと車輪との間の相対的に振動が頻発する過酷な環境下にさらされ得る。そのような場合でも、複合ケーブル1のシース4の低温耐屈曲性により信号線2及び電源線3を効果的に保護することが可能となる。
【0068】
[その他]
なお、本発明が上記の実施形態等に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更可能であることは言うまでもない。
例えば、図2図3では、シース4を1層だけ形成する場合を示したが、シース4を複数の層として形成することも可能である。
【0069】
また、複合ケーブル1が配置される車両内の部分が比較的高温になる場合があるため、信号線2や電源線3の樹脂層22、32等を、耐熱性を有する樹脂等で形成するように構成することも可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 複合ケーブル
2 信号線
21 導体
21a 素線
22 樹脂層
3 電源線
31 導体
31a 素線
32 樹脂層
11 センサ
12 制御デバイス
13 制御デバイス
14 アクチュエータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8