(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138622
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】積層造形用金属粉末
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20241002BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20241002BHJP
B22F 1/105 20220101ALI20241002BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20241002BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20241002BHJP
H01B 5/00 20060101ALI20241002BHJP
C22C 9/00 20060101ALN20241002BHJP
【FI】
B22F1/00 L
B22F1/05
B22F1/105
B22F10/28
B33Y70/00
H01B5/00 D
C22C9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049194
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 裕文
(72)【発明者】
【氏名】桑山 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】土田 克之
【テーマコード(参考)】
4K018
5G307
【Fターム(参考)】
4K018AA03
4K018BA02
4K018BB04
4K018BC28
4K018KA33
5G307AA02
(57)【要約】
【課題】比較的高い導電率を有する造形物を作製することができる積層造形用金属粉末を提供する。
【解決手段】積層造形に用いる金属粉末であって、銅を含有する銅含有粒子1と、前記銅含有粒子1の周囲の少なくとも一部を被覆する熱保持層2とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形に用いる金属粉末であって、
銅を含有する銅含有粒子と、前記銅含有粒子の周囲の少なくとも一部を被覆する熱保持層とを含む積層造形用金属粉末。
【請求項2】
前記熱保持層がクロム酸化物を含有する請求項1に記載の積層造形用金属粉末。
【請求項3】
前記熱保持層が、前記クロム酸化物としてCr2O3を含有する請求項2に記載の積層造形用金属粉末。
【請求項4】
クロム含有量が50質量ppm~1000質量ppmである請求項2又は3に記載の積層造形用金属粉末。
【請求項5】
酸素含有量が50質量ppm~2000質量ppmである請求項2又は3に記載の積層造形用金属粉末。
【請求項6】
前記熱保持層が、W、Y及びNdからなる群から選択される少なくとも一種を含有する請求項1~3のいずれか一項に記載の積層造形用金属粉末。
【請求項7】
前記熱保持層の周囲の少なくとも一部を被覆する還元層をさらに含む請求項1~3のいずれか一項に記載の積層造形用金属粉末。
【請求項8】
前記還元層がグラファイトを含有する請求項7に記載の積層造形用金属粉末。
【請求項9】
炭素含有量が20質量ppm~800質量ppmである請求項8に記載の積層造形用金属粉末。
【請求項10】
平均粒子径D50が、10μm~150μmである請求項1~3のいずれか一項に記載の積層造形用金属粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書は、積層造形に用いる金属粉末を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
Additive Manufacturing(いわゆるAM)技術の一つとしての金属積層造形では、たとえば、造形対象の造形物の断面データをもとに、薄く敷き詰めた金属粉末に対してレーザービーム又は電子ビームを照射して、その一部の溶融及び凝固又は焼結によって層を形成し、その上での金属粉末の堆積及びレーザービーム等の照射を繰り返すことで、層を積み重ねて造形物を造形することがある。
【0003】
このような積層造形で、電気伝導性及び熱伝導性に優れる銅製又は銅合金製の造形物を造形するには、金属粉末として、銅粉末又は銅合金粉末を使用する。
【0004】
ここで、銅や銅合金は、レーザー吸収率が低いだけでなく、高い熱伝導率の故に、レーザービームによる熱が逃げやすい。このため、銅粉末や銅合金粉末は、通常よりも高い出力のレーザービームを比較的長時間にわたって照射しなければ十分に溶融ないし焼結させることができず、積層造形を効率的に行うことができない場合がある。これに対し、たとえば特許文献1では、「レーザー照射時の吸収率が高く、効率的に入熱を行うことを可能にすることで低いエネルギーのレーザーで溶融結合できる3Dプリンター用銅粉末及びその製造方法を提供すること」を目的として、「波長λ=1060nmである光に対する吸収率が18.9%~65.0%であり、波長λ=1060nmである光に対する吸収率/酸素濃度で示される指数が3.0以上である銅粉末」が提案されている。
【0005】
また、銅合金粉末に関し、特許文献2には、「積層造形用の金属粉末であって、クロムおよび珪素の少なくともいずれかを0.10質量%以上1.00質量%以下含有し、前記クロムおよび前記珪素の合計量が1.00質量%以下であり、残部が銅からなる、金属粉末」が記載されている。特許文献2によれば、そのような「金属粉末」により、「機械強度および導電率を両立できる、銅合金から構成される積層造形物が提供される。」とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-178239号公報
【特許文献2】特開2016-211062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
銅粉末又は銅合金粉末を用いて積層造形を行うと、造形時にレーザービームが銅粉末又は銅合金粉末に照射された際に、銅の熱伝導率が高いことに起因して、レーザービームによる熱が銅粉末又は銅合金粉末の内部に十分に保持されずに放散し、いわゆる熱の逃げが発生することがある。この場合、銅粉末又は銅合金粉末の溶融ないし焼結が十分に進行しない結果、密度及び導電率が低い造形物となるおそれがある。
【0008】
この明細書では、比較的高い導電率を有する造形物を作製することができる積層造形用金属粉末を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この明細書で開示する積層造形用金属粉末は、銅を含有する銅含有粒子と、前記銅含有粒子の周囲の少なくとも一部を被覆する熱保持層とを含むものである。
【発明の効果】
【0010】
上記の積層造形用金属粉末によれば、比較的高い導電率を有する造形物を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一の実施形態の積層造形用金属粉末に含まれる表面処理粒子を模式的に示す断面図である。
【
図2】他の実施形態の積層造形用金属粉末に含まれる表面処理粒子を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照しつつ、上述した積層造形用金属粉末の実施の形態及び、その製造方法について詳細に説明する。なおここでは、必要に応じて符号を付して説明するが、符号は、必要ではないときは省略することがある。
【0013】
(金属粉末)
一の実施形態の積層造形用金属粉末(以下、単に「金属粉末」ともいう。)は、
図1に模式的に示すように、銅を含有する銅含有粒子1の周囲の少なくとも一部が、熱保持層2で被覆されてなる表面処理粒子3を含むものである。典型的には、銅含有粒子1及び熱保持層2を含む表面処理粒子3の集合体を含んで構成されている。
【0014】
銅含有粒子1は、銅を含有する銅製又は銅合金製のものである。銅製の銅含有粒子1の場合、金属粉末の銅含有量は、たとえば99.9質量%以上である。また、銅合金製の銅含有粒子1の場合、金属粉末は、たとえば、銅を90質量%~99.9質量%で含有するとともに、合金元素として、Al、Cr、Fe、Ni、Nb、P、Si、Zn及びZrからなる群から選択される一種以上を、複数種含む場合はそれらの合計で0.1質量%~1質量%で含有することがある。金属粉末の銅や合金元素の含有量は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-OES)により測定することができる。
【0015】
金属粉末は銅含有粒子1の周囲の少なくとも一部に熱保持層2を設けたことによって、レーザー吸収率を向上させることができる。これは、銅含有粒子1がその周囲を熱保持層2でコーティングされていることにより、造形時に、熱伝導率が比較的低い熱保持層2の被膜によって、レーザービームによる熱が銅含有粒子1から放散し難くなり、銅含有粒子1の溶融ないし焼結が進行することによるものと推測される。
【0016】
なお、この金属粉末では、銅含有粒子1は、熱保持層2によって酸素の侵入が妨げられ、その酸化が抑えられることも期待される。これにより、金属粉末の保管時や、金属粉末を積層造形に用いた場合の造形時等に、銅含有粒子1の酸化による酸化銅の形成、ひいては当該酸化銅に起因する造形物への空隙の発生が有効に抑制され、高密度の造形物を作製することができると考えられる。
【0017】
熱保持層2は、銅含有粒子1よりも熱伝導率が低い物質で高温でも安定性のある物質の層であればよく、具体的には、たとえば、Cr2O3等の酸化物や、W、Y、Ndといった銅への固溶限が小さい金属などがある。したがって、熱保持層2は、Cr及びOを含有する場合、並びに/あるいは、W、Y及びNdからなる群から選択される少なくとも一種を含有する場合がある。
【0018】
なかでも、クロム酸化物を含有する熱保持層2は、高温まで還元が進まないため、高温まで高レーザー吸収率を保てることから好ましい。クロム酸化物としては、クロムの酸化数に応じたいくつかの酸化クロム(CrO、Cr2O3、CrO2、CrO3等)が存在するが、熱保持層2は、それらのうちのCr2O3を含有することが好適である。Cr2O3を含有する場合、高温まで安定しているため好ましい。
【0019】
銅含有粒子1の周囲を被覆する熱保持層2が、上記のクロム酸化物や、銅への固溶限が小さい金属を含有することは、X線光電子分光法(XPS)により確認することができる。クロム酸化物の場合、Binding Energy:40-50eV付近にピークが現れる。
【0020】
表面処理粒子3の熱保持層2がクロム酸化物を含有する場合、そのような表面処理粒子3を含む金属粉末は、クロムを含有するものになる。金属粉末のクロム含有量は、好ましくは50質量ppm~1000質量ppm、より好ましくは100質量ppm~700質量ppmである。クロム含有量が少なすぎると、レーザー吸収率がそれほど向上しないことがある。一方、クロム含有量が多すぎる場合は、当該金属粉末を用いて作製される造形物の導電率が低下するおそれがある。金属粉末のクロム含有量は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-OES)により測定することができる。
【0021】
また、熱保持層2による銅含有粒子1の放熱抑制の度合いには、熱保持層2の被覆率が関係する。熱保持層2が、銅含有粒子1の周囲の少なくとも一部を被覆するように形成されていれば、造形時の銅含有粒子1からの放熱を抑制できるが、放熱をより一層抑制するとの観点から、熱保持層2は、銅含有粒子1の表面積の全体に対して50%以上銅含有粒子1の周囲を被覆していることが好ましい。熱保持層2の被覆率は、ほぼ100%であることが特に好適である。クロムの被覆率は、WDS(波長分散型X線分析)といった元素の位置を特定できる検出手法を用いて取得した像に対して二値化などの画像処理を施すことによって算出することができる。WDSは、金属粉のどの部分にどの程度の量でCr元素が存在するかを特定することができるため、金属粉末を被覆するCrの被覆率の指標とすることができる。より詳細には、例えば日本電子株式会社製のJXA-8530Fで取得したWDSのマッピングに対し、付属のソフトで最大信号強度の1/10の位置で二値化を行い、金属粉末が占める全体の面積からCrが占める面積(最大信号強度の1/10以上の部分の面積)を求めることで、被覆率を計算できる。ここで、最大信号強度の1/10以上の部分の面積とは、WDSで金属粉末の全体を分析した際に検出器が検出した最大の信号強度の1/10未満の部分を二値化により排除し算出した面積を意味する。例えば、金属粉末の全体をスキャンした時の信号強度が15~400であった場合、該当部分は40~400の信号強度をもつ部分になる。
【0022】
金属粉末は、酸素を含む場合がある。酸素は、たとえば、熱保持層2に含まれ得るクロム酸化物や、製造条件、自然に生成される酸化皮膜、不可避的に混入する酸素等に起因して、金属粉末に含まれることがある。金属粉末の酸素含有量は、50質量ppm~2000質量ppm、さらに50質量ppm~1000質量ppm、さらに100質量ppm~500質量ppmであることが好ましい。酸素含有量が少なすぎる場合は、熱保持層2等の被膜が付着しておらず造形時の熱を保持する効果が得られないことになる可能性がある。これに対し、酸素含有量が多すぎる場合は、造形時の酸化銅の生成によって、造形物に空隙が発生しやすくなることが懸念される。
【0023】
金属粉末の酸素含有量は、不活性ガス融解法により測定することができる。ここでは、LECO社製のTCH600を用いて、金属粉末の1gのサンプルに対して2回の測定を行い、その平均値を酸素含有量とすることができる。
【0024】
金属粉末の酸素含有量を少なくして、造形物への空隙の発生を抑制するため、熱保持層2は、上述したクロム酸化物等の形態で酸素を含む場合に、銅含有粒子1の周囲に、10nm~200nm、さらに10nm~100nmの厚みである程度薄く形成されていることが望ましい。熱保持層2の厚みの測定は、X線光電子分光法(XPS)を用いて下記の装置及び条件にて、表面処理粒子3にArイオンを照射して粒子内部に掘り進めながら厚みを検出することにより行うことができる。金属粉末の粒径によるが、下記の検出面積は、1個~3個の表面処理粒子3が含まれることがある。
装置:アルバック・ファイ株式会社製のPHI 5000 Versa Probe II
到達真空度:8.2×10-8Pa
励起源:単色化 AlKα
出力:25.0W
検出面積:100μmΦ
スパッタレート 2kV 2mm×2mm(4.2nm/min)(SiO2換算)
【0025】
金属粉末は、
図2に示すように、表面処理粒子13がさらに、熱保持層12の周囲の少なくとも一部を被覆する還元層14を含むことが好ましい。熱保持層12上に還元層14を設けたときは、熱保持層12等に含まれることがある酸素が、造形時に還元層14で除去されることが期待される。特にクロム酸化物を含む熱保持層12上に還元層14を形成した場合、熱保持層12のクロム酸化物は造形時に還元層14で還元され、酸素が除去されるとともに、クロムが銅含有粒子11ないし造形物中に拡散すると推測される。クロムの拡散により、造形物の放熱性が改善され得る。
【0026】
還元層14は、グラファイトなどの無機炭素及び有機物を含む炭素材料群のうちの一種以上を含有するものとすることができる。それらのなかでも、還元層14はグラファイトを含有することが、レーザー吸収率、耐熱性の点で好適である。還元層14がグラファイトを含有する場合、造形時に、熱保持層12中のクロム酸化物等に含まれる酸素は、一酸化炭素や二酸化炭素等の形態でガス化して消失し得る。これを考慮して、造形後に得られる造形物に炭素が残存しないように、金属粉末中のグラファイトないし炭素の含有量を調整することが望ましい。
【0027】
還元層14がグラファイトを含有することは、ラマン分光法により確認することができる。より詳細には、ラマン分光法により得られるラマンスペクトルで、ラマンシフトが1300cm-1~1700cm-1である範囲内に、散乱強度のピークが存在するとき、グラファイトを含有すると認められる。ラマン分光法による分析には、Renishaw社製のinVia(登録商標)を用いることができる。
【0028】
金属粉末は、還元層14がグラファイトを含有すること等により、炭素を含む場合がある。金属粉末の炭素含有量は、好ましくは20質量ppm~800質量ppmである。炭素含有量が少なすぎると、造形時に還元による酸素の除去が不十分になることが懸念される。一方、炭素含有量が多すぎると、造形物に炭素が残存して造形物に空隙が発生しやすくなるおそれがある。
【0029】
金属粉末の炭素含有量は、不活性ガス融解法により測定することができる。ここでは、LECO社製のTCH600を用いて、金属粉末の1gのサンプルに対して2回の測定を行い、その平均値を炭素含有量とすることができる。
【0030】
金属粉末の平均粒子径D50は、10μm~150μmであることが好ましい。平均粒子径D50を小さくしすぎないことにより、造形時に舞い難くなって金属粉末の取扱いが容易になる他、所要の流動性が発揮されて、意図した箇所に敷き詰めることができ、造形性が高まる。平均粒子径D50をある程度の大きさに留めることにより、レーザービームで金属粉末を溶融ないし焼結させることに必要なエネルギーを小さく抑えることができるとともに、造形の精度を高めることができる。
【0031】
上記の平均粒子径D50は、レーザー回折/散乱式の粒径分布測定装置を用いて金属粉末の粒子径を測定し、それにより得られる粒子径ヒストグラム(粒子径分布グラフ)で、金属粉末の体積基準の頻度の累積が50%になる粒子径を意味し、JIS Z8825(2013)に基づいて測定する。より詳細には、平均粒子径D50の測定では、マイクロトラック・ベル社製のMT3300EXIIを用いることができ、溶媒を純水とし、屈折率を1.33とすることができる。
【0032】
(製造方法)
上述したような金属粉末を製造するには、たとえば、はじめに銅粉末又は銅合金粉末を準備する。銅粉末又は銅合金粉末は、購買等により既に作製されたものを入手して準備することもできるが、アトマイズ法その他の種々の方法により作製してもよい。
【0033】
銅粉末は、主として、銅製の銅含有粒子を含むものであり、銅含有量が99.9質量%以上(純度が3N以上)であることが好ましい。また、銅合金粉末は、主として、銅合金製の銅含有粒子を含むものである。銅合金粉末としては、銅含有量が80質量%以上、さらに85質量%以上、さらに90質量%以上、さらに99質量%以上であり、銅以外に合金元素として、Al、Cr、Fe、Ni、Nb、P、Si、Zn及びZrからなる群から選択される一種以上を含有するものを使用する場合がある。
【0034】
銅粉末又は銅合金粉末は、必要に応じて篩別等により粒度を調整し、平均粒子径D50が10μm~150μmであることが好ましい。この平均粒子径D50は、金属粉末について先述した平均粒子径D50と同義であり、同様の方法により測定可能である。
【0035】
銅粉末又は銅合金粉末は、酸素を含む場合がある。銅粉末又は銅合金粉末の酸素含有量が500質量ppm以上である場合は、次に述べる熱保持層の形成に先立って、銅粉末又は銅合金粉末の酸素を除去して酸素含有量を低減する処理を施すことが好ましい。酸素除去処理は、たとえば、酸を使用した洗浄などの方法がある。
【0036】
その後、上記の銅粉末又は銅合金粉末中の銅含有粒子に、その周囲の少なくとも一部を被覆する熱保持層を形成するため、熱保持層形成処理を施す。熱保持層形成処理として具体的には、クロム酸化物を含有する熱保持層を形成する場合、たとえば、銅粉末又は銅合金粉末を、0.1~5.0%濃度で液温が室温~80℃の二クロム酸水溶液に浸漬し、5分~180分の攪拌、濾過及び水洗を順次に行うことで、その銅含有粒子に対してクロメート処理を施すことができる。銅含有粒子に付着するクロム含有量は、二クロム酸カリウム水溶液の濃度や処理時間、温度を変更することで増減させることができる。
【0037】
図2に示すような表面処理粒子13を含む金属粉末を製造する場合、さらにその後、熱保持層形成処理後の金属粉末に対し、熱保持層の周囲の少なくとも一部を被覆する還元層を形成するための処理を施す。
【0038】
ここでは、たとえば、ボールミル又は乳鉢を用いて、熱保持層形成処理後の金属粉末を、還元層用の炭素系材料等と混合させることができる。あるいは、熱保持層形成処理後の金属粉末を液体の炭素系材料に浸漬等によって接触させた後に、窒素等の不活性雰囲気の下、たとえば400℃~1000℃の温度に2時間~12時間にわたって加熱することで、熱保持層の周囲に還元層を形成してもよい。あるいは、炭素系材料を用いて、化学的気相成長法(CVD)によって還元層を形成することもできる。炭素系材料としては、カーボンブラック、コールタール、ピッチ、コークス、有機化合物等を挙げることができる。
【0039】
このとき、金属粉末の酸素含有量に応じた適切な炭素含有量になるように調整しながら、熱保持層の周囲に還元層を形成することが望ましい。
【0040】
以上に述べたようにすることで、銅含有粒子及び熱保持層、さらには還元層を含む金属粉末を製造することができる。
【実施例0041】
次に、上述したような積層造形用金属粉末を試作し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0042】
(実施例1)
5質量%の二クロム酸カリウム水溶液に上記の銅粉を浸漬し、銅粉の銅含有粒子の周囲を熱保持層で被覆して金属粉末を作製した。
【0043】
(実施例2)
1質量%の二クロム酸カリウム水溶液に上記の銅粉を浸漬し、銅粉の銅含有粒子の周囲を熱保持層で被覆して金属粉末を作製した。
【0044】
(実施例3)
5質量%の二クロム酸カリウム水溶液に上記の銅粉を浸漬して、銅粉の銅含有粒子の周囲を熱保持層で被覆した後、コールタール溶液に浸漬し、その後、800℃で熱処理をすることで、熱保持層の周囲に還元層が形成された金属粉末を作製した。
【0045】
(比較例1)
表面処理を行わず、上記の銅粉をそのまま金属粉末とした。
【0046】
(評価)
上記の各金属粉末について、先述した方法により、金属粉末の平均粒子径D50、クロム含有量、熱保持層の被覆率、炭素含有量及び、酸素含有量は、表1に示すとおりであった。実施例1~3の金属粉末は、先に述べた方法により分析を行い、金属粉末にはクロム酸化物のCr2O3が含まれていることを確認した。
【0047】
また、各金属粉末の効果を確認するため、造形機を用いて金属粉末を使用して、20mm角の立方体状の造形物を作製し、この造形物に対して密度及び導電率の評価を行った。造形機はAconity3D社製の型番Aconity MIDIであり、出力を500Wとし、走査速度を400mm/secとした。
【0048】
上記の造形物の密度としては、光学顕微鏡で観察した像に対し、空孔がどの程度の面積を占めるかの割合を測定することで相対密度を求めた。相対密度は、式:相対密度=((造形物の面積-空孔の面積)/造形物の面積)×100(%)より算出した。なお、銅合金粉を用いて製造した金属粉末で造形物を作製する場合も同様の計算を行うことができる。
【0049】
導電率は、フィッシャーインストルメンツ製のシグマプローブSPM350を用いて、渦電流を造形物に流し、その渦電流の電流値から導電率を算出した。
【0050】
それらの結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
比較例1の造形物は密度が99%であり、導電率が87%IACS程度と低かったが、同じ条件の造形で作製した実施例1の造形物は99%超の密度で、97%IACSを達成したため、表面処理の効果があることを確認した。また、実施例2及び3でも、導電率が高い造形物を作製することができた。
【0053】
以上より、先述した金属粉末は、比較的高い導電率を有する造形物を作製できるものであることがわかった。