(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013863
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】真空チャンバー及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
C23C14/24 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116266
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白倉 瑞穂
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA09
4K029BA62
4K029BC07
4K029BD01
4K029CA01
4K029CA05
4K029DA01
(57)【要約】
【課題】内部を減圧可能に構成され、補強部材が壁面上に設けられる真空チャンバーにおいて、削れ粉の発生を抑制する。
【解決手段】内部を減圧可能なチャンバーと、チャンバーの壁面に沿って設けられる補強部材125と、補強部材125を壁面に取り付ける取付具127と、補強部材125とチャンバーの境界部に設けられる粉塵飛散防止部材129と、を備えることを特徴とする真空チャンバー。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を減圧可能なチャンバーと、
前記チャンバーの壁面に沿って設けられる補強部材と、
前記補強部材を前記壁面に取り付ける取付具と、
前記補強部材と前記チャンバーの境界部に設けられる粉塵飛散防止部材と、を備えることを特徴とする真空チャンバー。
【請求項2】
前記補強部材は、前記壁面に沿って延びるリブ部材であることを特徴とする請求項1に記載の真空チャンバー。
【請求項3】
前記取付具は、前記リブ部材と前記壁面の内部を挿通されるネジ部品であることを特徴とする請求項2に記載の真空チャンバー。
【請求項4】
前記粉塵飛散防止部材は、前記補強部材と前記チャンバーの間に介在する潤滑剤であることを特徴とする請求項1に記載の真空チャンバー。
【請求項5】
前記潤滑剤は、グリースであることを特徴とする請求項4に記載の真空チャンバー。
【請求項6】
前記粉塵飛散防止部材は、前記補強部材と前記チャンバーの境界部を覆う液体ガスケットであることを特徴とする請求項1に記載の真空チャンバー。
【請求項7】
前記粉塵飛散防止部材は、前記補強部材と前記チャンバーの境界部を覆うテープ部材であることを特徴とする請求項1に記載の真空チャンバー。
【請求項8】
前記チャンバーは、チャンバー本体の開口部を塞ぎ、前記チャンバー本体に対して開閉可能に構成される蓋部を含み、
前記壁面は、前記蓋部の面であることを特徴とする請求項1に記載の真空チャンバー。
【請求項9】
前記蓋部に対して接続されるシリンダー機構を更に備え、
前記シリンダー機構のストロークの変動により、前記蓋部は前記チャンバー本体に対して回転して開閉されることを特徴とする請求項8に記載の真空チャンバー。
【請求項10】
前記補強部材は、前記補強部材が取り付けられる前記壁面に垂直な方向から見たときに、前記チャンバーより外側に延びる延長部を有し、
前記シリンダー機構は、前記補強部材の前記延長部を介して、前記蓋部に対して接続されることを特徴とする請求項9に記載の真空チャンバー。
【請求項11】
内部を減圧可能なチャンバーと、
前記チャンバーの壁面に沿って設けられる補強部材と、
前記補強部材を前記壁面に取り付ける取付具と、
前記補強部材と前記チャンバーの接触部に塗布された潤滑剤と、を備えることを特徴とする真空チャンバー。
【請求項12】
前記補強部材と前記チャンバーの接触部を覆うテープ部材を備えることを特徴とする請求項11に記載の真空チャンバー。
【請求項13】
基板を収容する収容室と、
前記収容室から搬入される基板に対して加熱処理を行う加熱室と、
前記加熱室から搬入される基板に対して成膜処理を行う成膜室と、
を備える成膜装置であって、
前記加熱室は、請求項1~12のいずれか1項に記載の真空チャンバーであることを特徴とする成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバー及び成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
成膜装置においては、内部を減圧可能に構成される複数のチャンバーを備える装置が知られている。例えば、有機EL表示装置などの電子デバイスの製造装置は、基板の前処理が行われる加熱室、基板に成膜処理を行う成膜室等を備える。
【0003】
上述のチャンバーは、内部が真空の状態と大気圧の状態とに切り替えられて使用されるため、真空状態と大気圧状態との圧力差によりチャンバーは変形を繰り返す。そこで、チャンバーの強度向上を目的として、チャンバーの壁面にリブ等の補強部材が設けられることがある。特許文献1には、内部を真空状態と大気圧状態に切り替え可能なチャンバーの強度向上を目的として、補強部材がチャンバーの外壁面にボルトで取り付けられている構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、チャンバーに補強部材を設けた構成であっても、成膜装置の稼働時にチャンバーの変形を完全に抑制することは非常に困難であり、チャンバーと補強部材は少なからず変形する。このとき、補強部材とチャンバーがこすれて両部材が削られることで、細かい粒状の削れ粉が発生することがある。削れ粉が風に舞うなどして飛散すると、削れ粉がチャンバー内に入り込み、チャンバー内の基板等に付着して製造不良が発生するなどの問題が生じうる。
【0006】
そこで、本発明は、内部を減圧可能に構成され、補強部材がチャンバーの壁面上に設けられる真空チャンバーにおいて、削れ粉の飛散を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の真空チャンバーは、
内部を減圧可能なチャンバーと、
前記チャンバーの壁面に沿って設けられる補強部材と、
前記補強部材を前記壁面に取り付ける取付具と、
前記補強部材と前記チャンバーの境界部に設けられる粉塵飛散防止部材と、を備えることを特徴とする真空チャンバー。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、内部を減圧可能に構成され、補強部材がチャンバーの壁面上に設けられる真空チャンバーにおいて、削れ粉の飛散を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例に係る成膜装置の一部を示す模式図である。
【
図3】比較例と実施例に係る補強部材の取付構成を示す模式的断面図である。
【
図4】変形例に係る補強部材の取付構成を示す模式的断面図である。
【
図6】実施例に係る有機EL表示装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。すなわち、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
【0011】
本発明は、内部を減圧可能に構成される真空チャンバー、及びその真空チャンバーを備える成膜装置に関するものである。本発明は、例えば、基板の表面に各種材料を堆積させて成膜を行う装置に適用することができる。基板の材料としては、ガラス、高分子材料のフィルム、シリコンウェハ、金属などの任意の材料を選択でき、基板は、例えば、ガラス基板上にポリイミドなどのフィルムが堆積された基板であってもよい。また、蒸着材料として、有機材料、金属製材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料が選択されてもよい。本発明の技術は、具体的には、有機電子デバイス(例えば、有機発光素子、薄膜太陽電池)、光学部材などの製造装置に適用可能である。以下、本発明を電子デバイスの製造装置に適用した場合を例に説明するが、本発明はこれに限られず、種々の真空チャンバーや成膜装置に適用可能である。
【0012】
(実施例)
<成膜装置の構成>
図1は、本発明の実施例に係る成膜装置1の一部構成を概略的に示した模式図である。成膜装置1は、成膜処理される基板3が収容される収容室11と、基板3に加熱処理を行う加熱室(仕込み室)12と、基板3の被処理面に成膜処理を行う成膜室13と、を備える。加熱室12や成膜室13は、内部を減圧可能に構成される真空チャンバーである。
基板3は、基板3の被処理面が鉛直方向を向くように基板キャリア5に保持された状態で、搬送ロボット等の搬送手段によって、基板キャリア5と一体的に収容室11から加熱室12、加熱室12から成膜室13へと搬送される。
【0013】
収容室11には、未処理状態の基板3が、基板キャリア5に保持された状態で複数収容されている。基板キャリア5は、基板3の被処理面が露出した状態で基板3を保持するマスク一体型キャリアである。基板キャリア5は、基板3を複数枚保持できる構成であっても良いし、1枚のみ保持できる構成であっても良い。
【0014】
加熱室12は、ヒータ等の加熱手段を備え、成膜処理に先立って、基板3に対する薄膜の密着性を高めること等を目的とした加熱処理が行われる。また、加熱室12は、排気機構が設けられており、チャンバー内の圧力を調整可能に構成されている。収容室11の内部は大気圧状態であるため、基板3が収容室11から加熱室12へと搬送されるとき、加熱室12の内部は収容室11にあわせて大気圧状態にされる。
【0015】
成膜室(蒸着装置)13では、蒸発源に収納された蒸着材料がヒータによって加熱されて蒸発し、基板上に蒸着される。加熱室12から成膜室13に搬送された基板3は、成膜処理が施された後、成膜室13から搬出される。成膜処理は、成膜室13の内部が真空の状態で行われるため、加熱室12から成膜室13に基板3が搬送される際は、両チャンバーの内部は予め真空状態にされる。なお、異なる材料によって薄膜を形成できるように、成膜装置としては成膜室が複数設けられる構成が一般的である。
【0016】
上述の通り、成膜装置1の稼働時、基本的に収容室11は大気圧状態であり、成膜室13は真空状態である。一方、加熱室12は、収容室11から基板3が搬入される際は大気圧状態とされ、成膜室13へ基板3が搬出される際は真空状態とされる。このように、加熱室12は大気圧状態と真空状態が頻繁に繰り返されるため、他のチャンバーと比較して加熱室12には内部の圧力状態の変化による負荷が頻繁に作用する。
【0017】
本実施例では、
図1を参照して、電子デバイスの製造装置の構成について説明したが、本発明を適用する構成はこれに限定されず、他の種類の装置やチャンバーを有し多孔性や、これらの装置やチャンバーの配置が変わった構成でも良い。例えば、電子デバイスの製造装置は、インラインタイプでなくクラスタタイプであってもよい。また、本発明の成膜室は真空蒸着によって所望のパターンの薄膜(材料膜)を形成する構成としたが、スパッタリング装置やCVD(Chemical Vapor Deposition)装置により成膜処理が行われる構成としても良い。
【0018】
<加熱室の構成>
図2(a)、(b)を参照して、本実施例に係る加熱室12の詳細構成について説明する。
図2(a)は、本実施例に係る加熱室12の外観を示す模式図であり、上蓋部123が閉じた状態を示している。
図2(b)は、本実施例に係る加熱室12の外観を示す模式図であり、上蓋部123が開いた状態を示している。
【0019】
加熱室12は、本体部(チャンバー本体)121と、本体部121に対して開閉可能な上蓋部123と、上蓋部123の上面に沿って設けられるリブ部材125と、を備える。すなわち、加熱室12は、本体部121と上蓋部123により構成されるチャンバーに、補強部材であるリブ部材125が設けられている構成である。また、加熱室12と収容室11の間、加熱室12と成膜室13の間には、加熱室12と他のチャンバーを接続するゲートバルブ31が設けられている。更に、加熱室12は、土台33によって下方から支持されている。
【0020】
ゲートバルブ31は、ディスク(弁体)とボディ(弁胴)により構成される。ゲートバルブ31は、本体部121の連通口121aの周囲に設けられ、ディスクの移動によって基板3が通過するための通路が開閉される。該通路が開通された状態で、基板3は搬送手段により加熱室12の連通口(出入口)121aを通って、本体部121の内部に搬入出される。加熱室12は、該通路が閉鎖された状態で、不図示の排気機構によって室内の圧力を調整することにより、真空状態と大気圧状態とを切替可能に構成されている。
【0021】
本体部121は、上側に開口部121bを有し、作業者は必要に応じて、開口部121bから手を入れて加熱室12内部のメンテナンス等を行うことができる。また、上蓋部123は、本体部121に対して開閉可能に設けられ、基板3の加熱処理時、開口部121bは上蓋部123により塞がれる。上蓋部123が閉じられると、開口部121bを囲むように設けられたOリングがつぶされて、加熱室12の密閉性が保たれる。本実施例において、上蓋部123は、開閉時の操作性を考慮して比較的軽量なアルミ合金により形成されている。
【0022】
上述の通り、加熱室12は大気圧状態と真空状態が繰り返し切り替えられるため、内部の圧力状態の変化により上蓋部123は変形する。そこで、加熱室12には、上蓋部123の強度を向上する補強部材として、リブ部材125が設けられる。リブ部材125は、上蓋部123が閉じた状態において、上蓋部123の上面に当たる取付面123aに沿って設けられ、加熱室12の外側に位置する。上蓋部123の取付面123aに垂直な方向から見たときに、リブ部材125は縦に2本、横に2本それぞれ交差するように上蓋部123の一端から他端まで延びている。
【0023】
本実施例のリブ部材125は、強度を考慮してSUS等のステンレス鋼により形成される。このように、上蓋部123とリブ部材125が異なる材料により形成される場合、溶接により両部材を接続することは困難である。そこで、本実施例においては、リブ部材125を上蓋部123に取り付ける取付具として、複数のボルト127が設けられている。ボルト127は、リブ部材125と上蓋部123に挿通され、リブ部材125を上蓋部123に取り付ける。なお、リブ部材125を上蓋部123に取り付ける取付具は、上述のネジ部品に限られず、種々の取付具を使用することができる。
【0024】
上蓋部123は、取付面123aに対して平行に延びる回転軸線を中心に回転することで、本体部121に対して開閉される。本実施例においては、本体部35aと可動部35bを有するシリンダー35により、上蓋部123が開閉される。シリンダー35は、可動部35bが、本体部35aに対して直進移動することにより、ストロークが変動して伸縮するシリンダー機構であり、可動部35bは略鉛直方向に直進移動する。
【0025】
リブ部材125は、取付面123aに垂直な方向から見たときに上蓋部123に対して外側に、上蓋部123の回転軸線と直交する方向に延びる延長部125aを有する。延長部125aは可動部35bに接続され、シリンダー35の可動部35bの移動によって、上蓋部123とリブ部材125が一体的に回転する。このような構成とすることで、補強部材が上蓋部123の開閉機構の構成部材としても機能する。また、リブ部材125は、上蓋部123の開閉機構を担うため、延長部125aが変形しないように上蓋部123よりも高強度な材料で形成されている。なお、作業者の安全性向上のため、上蓋部123が意図せず閉じることを防ぐ支柱等のストッパを更に設ける構成としても良い。
【0026】
<リブ部材の取付構成>
図3(a)、(b)を参照して、リブ部材125の上蓋部123に対する取付構成について詳細を説明する。
図3(a)は、比較例のリブ部材125の取付構成を示す模式的断面図であり、
図3(b)は、本実施例のリブ部材125の取付構成を示す模式的断面図である。
【0027】
上述の通り、加熱室12は、チャンバー内部の圧力状態が繰り返し変化するため、上蓋部123を含むチャンバー全体が繰り返し変形する。このとき、
図3(a)に示す比較例のように、リブ部材125と上蓋部123が直接接触している構成においては、チャンバー変形時にリブ部材125と上蓋部123が摺接して、両部材が削られることで細かい粒状の削れ粉51が発生することがある。上蓋部123の開閉時に、削れ粉51が加熱室12の内部に入り込むと、基板に削れ粉51が付着して製造不良が発生するなどの問題が生じうる。そこで、本願発明者らは、削れ粉51の発生や飛散を防止するため、リブ部材125と上蓋部123の境界部に粉塵飛散防止部材を設けることを着想した。
【0028】
図3(b)に示すように、本実施例においては、上蓋部123とリブ部材125の間に、潤滑剤としてグリース129が塗布される構成とした。グリース129が上蓋部123とリブ部材125の間に介在することにより、上蓋部123とリブ部材125間の摩擦係数が減少し、両部材が摺接したときに削れ粉51の発生を抑制することができる。更に、削れ粉51が発生したとしても、削れ粉51はグリース129内に取り込まれるため、削れ粉51が外へ飛散することを防止できる。
【0029】
以上のように、本実施例によれば、リブ部材等の補強部材がチャンバーの壁面に設けられている場合でも、削れ粉の発生を抑制し、飛散を防止することができる。ひいては、削れ粉が起因の基板の製造不良や装置の汚れ等の問題発生を抑制できる。
【0030】
(変形例)
次に、
図4(a)、(b)を参照して、本発明の変形例について説明する。
図4(a)は、変形例1に係るリブ部材125の取付構成を示す模式的断面図である。変形例1は、上述の実施例に対して、粉塵飛散防止部材としてテープ部材131が更に加えられた構成である。テープ部材131は、リブ部材125と上蓋部123の境界部全体を覆うように設けられる。このような構成とすることで、グリース129の外に飛び出た削れ粉51やグリース129自体が飛散することを防止できる。すなわち、粉塵飛散防止部材は、一種類に限らず複数種類を組み合わせて真空チャンバーに設けられても良い。
【0031】
図4(b)は、変形例2に係るリブ部材125の取付構成を示す模式的断面図である。変形例2は、上述の実施例に対して、粉塵飛散防止部材としてグリース129の代わりに液体ガスケット133が設けられた構成である。液体ガスケット133は、リブ部材125と上蓋部123の境界部全体を覆うように設けられるシリコンシーラントである。変形例2においては、リブ部材125と上蓋部123の間に潤滑剤等が介在していないため、削れ粉51の発生は抑制されない。しかしながら、境界部の全体が液体ガスケット133に覆われているため、削れ粉51は外に飛散することなく、液体ガスケット133、リブ部材125、上蓋部123の間に閉じ込められる。ひいては、変形例2によれば、潤滑剤をリブ部材125と上蓋部123の間に介在させることなく、削れ粉51の飛散を防止できる。
【0032】
なお、本発明の構成は上述の構成に限られたものではなく、上述の実施例に具現された発明と同一性を失わない範囲で種々の変更が可能である。例えば、真空チャンバーはグリース129を設けずにテープ部材131のみ設ける構成や、グリース129を塗布した上で液体ガスケット133を設ける構成としても良い。
【0033】
また、上述の実施例は、チャンバーの上蓋部の面に補強部材を設ける構成としたが、本発明は、チャンバーの本体部の外壁面や内壁面に補強部材が設けられる構成に適用しても良い。また、上述の実施例では、加熱室に本発明を適用した例について説明したが、成膜装置を構成するその他の真空チャンバーにも本発明を適用することができる。例えば、成膜室なども成膜装置の稼働と停止が繰り返されることにより、内部の圧力状態が変化するため、成膜室に本発明を適用することにより削れ粉の飛散を防止できる。
【0034】
<成膜室>
図5を参照して、成膜室13における成膜処理について、より詳細に説明する。成膜室13内には、成膜源としての蒸発源7が設けられている。基板キャリア5に保持された基板3の被処理面が下向きとなるように、これらは成膜室13内に位置決めされた状態で支持される。これにより、基板キャリア5に保持された基板3上に成膜が行われる。
【0035】
本実施例においては、真空蒸着による成膜(蒸着)が行われる。具体的には、蒸発源7から成膜材料が蒸発又は昇華し、基板3上に成膜材料が蒸着して基板3上に薄膜が形成される。蒸発源7については、公知技術であるので、その詳細な説明は省略する。例えば、蒸発源7は、坩堝等の成膜材料を収容する容器と、容器を加熱する加熱装置等により構成することができる。なお、成膜源は蒸発源7に限定されるものではなく、成膜源はスパッタリングによって成膜を行うためのスパッタリングカソードであってもよい。
【0036】
<電子デバイスの製造方法>
次に、本実施例に係る成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成を示し、有機EL表示装置の製造方法を例示する。
【0037】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図6(a)は有機EL表示装置700の全体図、
図6(b)は1画素の断面構造を表している。
【0038】
図6(a)に示すように、有機EL表示装置700の表示領域701には、発光素子を複数備える画素702がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域701において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例に係る有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子702R、第2発光素子702G、第3発光素子702Bの組み合わせにより画素702が構成されている。画素702は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組み合わせで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0039】
図6(b)は、
図6(a)のB-B線における部分断面模式図である。画素702は、複数の発光素子からなり、各発光素子は、基板703上に、第1電極(陽極)704と、正孔輸送層705と、発光層706R、706G、706Bのいずれかと、電子輸送層707と、第2電極(陰極)708と、を有している。これらのうち、正孔輸送層705、発光層706R、706G、706B、電子輸送層707が有機層に当たる。また、本実施例では、発光層706Rは赤色を発する有機EL層、発光層706Gは緑色を発する有機EL層、発光層706Bは青色を発する有機EL層である。発光層706R、706G、706Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。
【0040】
また、第1電極704は、発光素子毎に分離して形成されている。正孔輸送層705と電子輸送層707と第2電極708は、複数の発光素子702R、702G、702Bで共通に形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極704と第2電極708とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極704間に絶縁層709が設けられている。更に、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層710が設けられている。
【0041】
図6(b)では正孔輸送層705や電子輸送層707は一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によっては、正孔ブロック層や電子ブロック層を備える複数の層で形成されてもよい。また、第1電極704と正孔輸送層705との間には第1電極704から正孔輸送層705への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、第2電極708と電子輸送層707の間にも電子注入層が形成することもできる。
【0042】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
【0043】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1電極704が形成された基板(マザーガラス)703を準備する。
【0044】
第1電極704が形成された基板703の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極704が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層709を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0045】
絶縁層709がパターニングされた基板703を粘着部材が配置された基板キャリアに載置する。粘着部材によって、基板703は保持される。第1の有機材料成膜装置に搬入し、反転後、正孔輸送層705を、表示領域の第1電極704の上に共通する層として成
膜する。正孔輸送層705は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層705は表示領域701よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0046】
次に、正孔輸送層705までが形成された基板703を第2の有機材料成膜装置に搬入する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板703の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層706Rを成膜する。
【0047】
発光層706Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層706Gを成膜し、更に第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層706Bを成膜する。発光層706R、706G、706Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域701の全体に電子輸送層707を成膜する。電子輸送層707は、3色の発光層706R、706G、706Bに共通の層として形成される。
【0048】
電子輸送層707まで形成された基板を金属性蒸着材料成膜装置で移動させて第2電極708を成膜する。
【0049】
その後プラズマCVD装置に移動して保護層710を成膜して、基板703への成膜工程を完了する。反転後、粘着部材を基板703から剥離することで、基板キャリアから基板703を分離する。その後、裁断を経て有機EL表示装置700が完成する。
【0050】
絶縁層709がパターニングされた基板703を成膜装置に搬入してから保護層710の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本実施例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【符号の説明】
【0051】
12…加熱室(真空チャンバー)、125…リブ部材(補強部材)、127…ボルト(取付具)、129…グリース(粉塵飛散防止部材)