(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138739
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】中空部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 53/08 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
B29C53/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049393
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591285170
【氏名又は名称】株式会社チューブフォーミング
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】江藤 和也
(72)【発明者】
【氏名】入部 幸士
(72)【発明者】
【氏名】平澤 毅
【テーマコード(参考)】
4F209
【Fターム(参考)】
4F209AA03
4F209AA24
4F209AA28
4F209AA29
4F209AA32
4F209AA40
4F209AD16
4F209AG08
4F209AR06
4F209AR07
4F209AR11
4F209AR12
4F209NA22
4F209NB01
4F209NG03
4F209NH06
4F209NH18
4F209NM01
4F209NN01
4F209NW15
(57)【要約】
【課題】熱可塑性樹脂及び連続強化繊維を含む繊維強化熱可塑性樹脂により形成される中空部材の断面形状を変形する方法において、当該中空部材に適した方法を提供する。
【解決手段】マトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂及び連続強化繊維を含む繊維強化熱可塑性樹脂により形成される中空部材の製造方法であって、前記中空部材の母材である母材中空部材の一端又は両端を加工予定部と定義したとき、前記加工予定部を、前記マトリックス樹脂のガラス転移点より20℃以上高い所定温度に加熱する加熱ステップと、前記所定温度に加熱された前記加工予定部に対して、圧入部材を圧入することにより断面形状を変形させる圧入ステップと、を有することを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂及び連続強化繊維を含む繊維強化熱可塑性樹脂により形成される中空部材の製造方法であって、
前記中空部材の母材である母材中空部材の一端又は両端を加工予定部と定義したとき、
前記加工予定部を、前記マトリックス樹脂のガラス転移点より20℃以上高い所定温度に加熱する加熱ステップと、
前記所定温度に加熱された前記加工予定部に対して、圧入部材を圧入することにより断面形状を変形させる圧入ステップと、
を有することを特徴とする中空部材の製造方法。
【請求項2】
前記母材中空部材の軸方向と、前記連続強化繊維を構成する繊維の配向方向とのなす角度をαとしたとき、角度αは10度以上80度以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の中空部材の製造方法。
【請求項3】
前記母材中空部材は、シートワインディング法又はフィラメントワイディング法により製造されており、
前記フィラメントワイディング法を、単層内における繊維の交差が起こらない方法で実施する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の中空部材の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂が、フェノキシ樹脂である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の中空部材の製造方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂が、フェノキシ樹脂である、
ことを特徴とする請求項3に記載の中空部材の製造方法。
【請求項6】
前記加工予定部の圧入前の断面形状は円形であり、圧入後の断面形状は圧入前より径が大きい円形、又は圧入後の断面形状は円形とは異なる異形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の中空部材の製造方法。
【請求項7】
前記加工予定部の圧入前の断面形状は円形であり、圧入後の断面形状は圧入前より径が大きい円形、又は圧入後の断面形状は円形とは異なる異形状であることを特徴とする請求項3に記載の中空部材の製造方法。
【請求項8】
前記加工予定部の圧入前の断面形状は円形であり、圧入後の断面形状は圧入前より径が大きい円形、又は圧入後の断面形状は円形とは異なる異形状であることを特徴とする請求項4に記載の中空部材の製造方法。
【請求項9】
前記加工予定部の圧入後の断面における外周長の最大値をPLmax、前記加工予定部の圧入前の断面における外周長をPLpreと定義したとき、
PLmaxをPLpreで除した拡管率は、1.00倍超1.30倍以下である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の中空部材の製造方法。
【請求項10】
前記加工予定部の圧入後の断面における外周長の最大値をPLmax、前記加工予定部の圧入前の断面における外周長をPLpreと定義したとき、
PLmaxをPLpreで除した拡管率は、1.00倍超1.30倍以下である、
ことを特徴とする請求項3に記載の中空部材の製造方法。
【請求項11】
前記加工予定部の圧入後の断面における外周長の最大値をPLmax、前記加工予定部の圧入前の断面における外周長をPLpreと定義したとき、
PLmaxをPLpreで除した拡管率は、1.00倍超1.30倍以下である、
ことを特徴とする請求項4に記載の中空部材の製造方法。
【請求項12】
前記加工予定部の圧入後の断面における外周長の最大値をPLmax、前記加工予定部の圧入前の断面における外周長をPLpreと定義したとき、
PLmaxをPLpreで除した拡管率は、1.00倍超1.30倍以下である、
ことを特徴とする請求項6に記載の中空部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂及び連続強化繊維を含む繊維強化熱可塑性樹脂により形成される中空部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FRP(Fiber Reinforced Plastics)製のパイプは、優れた力学的特性、軽量性及び耐食性を有することから、配管、フレーム部材、シャフト部材等の様々な用途で、パイプ材として広く利用されている。これらのパイプ材は、通常単体で使用されることは無く、他のパイプ,部材と連結して使用される。
FRPパイプの連結手段として、パイプ先端にネジ加工を施すことによりネジ継手を形成する方法が知られている。また、パイプ材を連結部に圧入した後、接着剤等で結合する差し込み方式なども知られている。
【0003】
ネジ継手を形成する方法は、一般的にパイプ先端を切削加工して、ネジ山を加工する必要があるため、加工コストが高く、繊維の切断や減肉により継手部が強度低下する問題がある。そのため、FRPパイプの連結には差し込み方式が採用される場合が多い。
ここで、差し込み方式の場合、継手部の要求特性に応じて多種多様な継手形状が存在することから、パイプ先端の形状の自由度を担保することが求められる。
【0004】
特許文献1には、継手要素とFRPパイプの接合部が正六角形状で、パイプの接合部の内面の正六角形状部分の角の頂部から直管部に至る間をテーパ形状とし、そのテーパの傾斜角を10°以下とした繊維強化樹脂製駆動力伝達用シャフトにおいて、マンドレルを用いて当該シャフトを製造する方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、熱可塑性樹脂パイプと金属パイプの接合方法であって、熱可塑性樹脂パイプを予め加熱して膨張させ、膨張した熱可塑性樹脂パイプ内に融点以上に加熱した金属パイプを差し込み、差し込み後に熱可塑性樹脂パイプを冷却して収縮させることで、熱可塑性樹脂パイプと金属パイプを密着させて接合する方法が開示されている。
【0006】
特許文献3には、オレフィン系樹脂をマトリックス樹脂とし、連続繊維系炭素繊維を強化繊維としたテープ状プリプレグを積層したCFRTPパイプにおいて、パイプ先端部を融点以上に加熱した後に分割金型で加圧して、絞り加工する方法が開示されている。
【0007】
特許文献4には、繊維強化熱可塑性樹脂パイプで、所望の形状のマンドレルをパイプに挿入した状態でパイプを加熱しながらパイプ両端を引張ることでパイプを絞り加工し、マンドレル形状に沿った形に変形させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4-307225号公報
【特許文献2】特開平5-185521号公報
【特許文献3】特開2020-157643号公報
【特許文献4】特開2022-143816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の方法は、連結部の形状に合わせた形状のマンドレルが必要となり、連結部の形状毎にマンドレルを準備する必要があるため、製造コストが増大する。かかる観点から、パイプ先端の形状を自由に熱変形可能な熱可塑性樹脂によって成形されたFRTP(Fiber Reinforced Thermo Plastics)パイプの利用が望ましいが、高強度・高剛性を備え、簡易的かつ高精度にパイプ先端形状を変形できるFRTPパイプの加工技術は未だ提案されていない。
【0010】
特許文献2は、非強化タイプの熱可塑性樹脂パイプや短繊維強化熱可塑性樹脂パイプにおけるパイプ先端部の加工方法等に限定されており、高強度・高剛性を有する連続繊維強化熱可塑性樹脂パイプに適した加工方法は開示されていない。
【0011】
特許文献3は、絞り加工の際に、パイプ周方向の繊維に座屈や蛇行が生じることから、加工後のパイプ先端部の強度が強度低下する問題がある。また、そもそもオレフィン系樹脂は炭素繊維との密着性に乏しく、CFRTPパイプとしての強度が低いという問題がある。
【0012】
特許文献4の方法は、パイプ両端を引っ張り、絞り加工する方法であるため、形状を変形できる位置がパイプ中央に限定される。したがって、パイプ端部を継手部の形状に合わせた形状に変形させることができない。
【0013】
本発明は、熱可塑性樹脂及び連続強化繊維を含む繊維強化熱可塑性樹脂により形成される中空部材の断面形状を変形する方法において、当該中空部材に適した方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る中空部材の製造方法は、(1)マトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂及び連続強化繊維を含む繊維強化熱可塑性樹脂により形成される中空部材の製造方法であって、前記中空部材の母材である母材中空部材の一端又は両端を加工予定部と定義したとき、前記加工予定部を、前記マトリックス樹脂のガラス転移点より20℃以上高い所定温度に加熱する加熱ステップと、前記所定温度に加熱された前記加工予定部に対して、圧入部材を圧入することにより断面形状を変形させる圧入ステップと、を有することを特徴とする。
【0015】
(2)前記母材中空部材の軸方向と、前記連続強化繊維を構成する繊維の配向方向とのなす角度をαとしたとき、角度αは10度以上80度以下である、ことを特徴とする上記(1)に記載の中空部材の製造方法。
【0016】
(3)前記母材中空部材は、シートワインディング法又はフィラメントワイディング法により製造されており、前記フィラメントワイディング法を、単層内における繊維の交差が起こらない方法で実施する、ことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の中空部材の製造方法。
【0017】
(4)熱可塑性樹脂が、フェノキシ樹脂である、ことを特徴とする上記(1)乃至(3)のうちいずれか一つに記載の中空部材の製造方法。
【0018】
(5)前記加工予定部の圧入前の断面形状は円形であり、圧入後の断面形状は圧入前より径が大きい円形、又は圧入後の断面形状は円形とは異なる異形状であることを特徴とする上記(1)乃至(4)のうちいずれか一つに記載の中空部材の製造方法。
【0019】
(6)前記加工予定部の圧入後の断面における外周長の最大値をPLmax、前記加工予定部の圧入前の断面における外周長をPLpreと定義したとき、PLmaxをPLpreで除した拡管率は、1.00倍超1.30倍以下である、ことを特徴とする上記(1)乃至(5)のうちいずれか一つに記載の中空部材の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、熱可塑性樹脂及び連続強化繊維を含む繊維強化熱可塑性樹脂により形成される中空部材の断面形状を変形する方法において、当該中空部材に適した方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】加工予定部の加熱方法を図示した工程図である。
【
図3】圧入部材の圧入方法を図示した工程図である(圧入途中)。
【
図4】圧入部材の圧入方法を図示した工程図である(圧入完了時)。
【
図5】中空部材の型抜き方法を図示した工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、マトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂及び連続強化繊維を含む繊維強化熱可塑性樹脂により形成される中空部材の製造方法であって、中空部材の母材である母材中空部材の一端又は両端を加工予定部と定義したとき、前記加工予定部を、前記マトリックス樹脂のガラス転移点より20℃以上高い所定温度に加熱する加熱ステップと、前記所定温度に加熱された前記加工予定部に対して、圧入部材を圧入することにより断面形状を変形させる圧入ステップと、を有する。
【0023】
(母材中空部材について)
母材中空部材は、熱可塑性樹脂及び連続強化繊維を含む繊維強化熱可塑性樹脂によって、成形されている。熱可塑性樹脂は、母材中空部材のマトリックス樹脂であり、ポリ塩化ビニル、フェノキシ樹脂、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン及びその変性物、変性ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレートなどの半芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステル、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンサルフェイド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリールエーテルケトンなど広く適用可能であるが、加工性の観点から、好ましくは非晶質熱可塑性樹脂であり、より好ましくはフェノキシ樹脂である。フェノキシ樹脂には、現場重合型フェノキシ樹脂、重合済みのフェノキシ樹脂を用いることができる。
【0024】
連続強化繊維とは、強化繊維を短繊維の状態に切断することなく、繊維束を連続した状態で引き揃えた繊維を意味する。連続強化繊維には、例えば、無機繊維、有機繊維、天然繊維を用いることができる。
無機繊維には、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維等を用いることができる。
有機繊維には、アラミド繊維、ポリエチレン繊維などを用いることができる。
天然繊維には、植物繊維、動物繊維を用いることができる。植物繊維には、麻、木綿、ケナフ、竹繊維などを用いることができる。麻には、リネン、ラミー、ヘンプ、フラックスなどを用いることができる。動物繊維には、シルク、羊毛等を用いることができる。
これらの繊維のうち1種を用いて連続強化繊維を構成してもよいし、2種以上を用いて連続強化繊維を構成してもよい。
【0025】
母材中空部材の製造方法には、シートワインディング法、フィラメントワインディング法を用いることが望ましい。
(シートワインディング法について)
連続強化繊維に熱可塑性樹脂を含侵させたプリプレグシートを準備し、この準備したプリプレグシートをマンドレルに巻き付けた後、さらに熱収縮テープを巻き付け、オーブンなどの加熱手段で加熱硬化させる。加熱硬化後に、マンドレルから脱芯することにより、母材中空部材を製造することができる。
プリプレグシートは、母材中空部材が複層構造となるようにマンドレルに巻かれていればよく、具体的な巻き数は中空部材の用途などに応じて適宜設定することができる。プリプレグシートは、強化繊維が一方向に引き揃えられた一方向プリプレグが好ましいが、メッシュ状であってもよい。
シートワインディング法は、プリプレグシートを単層単位で何層も重ねる方法であるため、後述する圧入処理を行ったときに、単層単位での位置ずれが許容される。したがって、圧入時に繊維が切断されにくく、加工が容易である。
【0026】
母材中空部材の軸方向と、連続強化繊維を構成する繊維の配向方向とのなす角度をαと定義したとき、この巻き付け角度αは、10度以上80度以下に設定することが望ましい。
巻き付け角度αが80度を超えると、繊維方向に対して拡管を行うこととなるために、後述する圧入処理がし難くなるほか、拡管時に強化繊維の不規則なズレや切断により、中空部材の周方向に亀裂が生じるおそれがあり、また、そもそも形状変形自体が困難である。特に、強化繊維として伸び率の小さい繊維(例えば、炭素繊維、ガラス繊維)を選択した場合には、かかる問題が生じやすい。
巻き付け角度αが10度未満になると、後述する圧入処理による拡管時に繊維長方向にシートが裂かれて、中空部材の軸方向に亀裂が生じるおそれがある。
【0027】
(フィラメントワインディング法)
連続強化繊維の束と、熱可塑性樹脂が貯留された樹脂槽を準備する。連続強化繊維の束を引き揃え、樹脂槽の中を通過させて樹脂を含侵させた後、回転するマンドレルにテンションを掛けながら、所定の角度で連続して巻き付ける。巻き付け後に、オーブンなどの加熱手段で加熱硬化させ、加熱硬化後にマンドレルから脱芯することにより、母材中空部材を製造することができる。
巻き付け角度αが、好ましくは10度以上80度以下である点については、シートワインディング法と同様であるから、詳細な説明を省略する。
樹脂が含侵された繊維束は、母材中空部材が複層構造となるようにマンドレルに巻かれていればよく、具体的な巻き数は中空部材の用途などに応じて適宜設定することができる。
【0028】
フィラメントワインディング法により母材中空部材を製造する場合、巻き方は、ヘリカル巻きやインプレーン巻き、パラレル巻き、及びこれらの組み合わせであってもよい。ただし、単層内における繊維の交差が起こらないように、繊維束を巻き付けることが好ましい。交差が起こらないように、繊維束を巻き付けることで、拡管率を上げることができる。ここで、「交差」とは、母材中空部材を構成する個々の層を径方向から観察したとき、繊維がクロスして配設されていることを意味する。特に、パラレル巻きを中空部材の周方向に対して10°未満の角度で行うと拡管加工の難易度が高くなるため、当該巻き方はできるだけ避けて母材中空部材を製造することが望ましい。
シートワインディング法で説明したように、繊維破断の防止及び加工容易性の観点から、各層がずれ易い構造となっていることが望ましい。したがって、フィラメントワインディング法のうち交差状態が発生する巻き付け方法は、避けることが望ましい。
【0029】
ここで、母材中空部材の断面形状は、代表的には円形(真円以外の円を含む。以下、同様である)であるが、円形とは異なる異形状であってもよい。異形状は、正多角形(角部がR状の正多角形を含む)、非正多角形(角部がR状の非正多角形を含む)であってもよい。
断面が円形の母材中空部材を製造する場合、円柱状のマンドレルを準備して、これにプリプレグシートなどを巻き付ければよい。つまり、母材中空部材の目的断面形状に合わせた形状のマンドレルを準備して、母材中空部材を製造すればよい。
【0030】
(加熱ステップについて)
加熱ステップは、母材中空部材の加工予定部に対して行う。加工予定部は、母材中空部材の一端であってもよいし、両端であってもよい。加熱手段には、例えば、ヒートガン、非接触型の加熱リング、非接触型のスパイラルヒーター、管状炉及びヒータを備えた金型等を用いることができる。非接触型の加熱リング及びスパイラルヒーターは、遠赤外線加熱方式であってもよいし、ハロゲンランプ等であってもよい。
【0031】
加熱手段がヒートガンの場合、ヒートガンを加工予定部に近づけ、作動させることにより、加熱処理(非接触加熱)を行うことができる。
加熱手段がヒータを備えた金型の場合、金型を加工予定部に近接配置し、ヒータを作動させることにより、金型を介して加工予定部を加熱することができる。ここで、金型は、加工予定部の圧入後の形状に合わせた形状にしておくことが望ましい。これにより、拡管時に加工予定部が金型面に接触するため、加工精度を向上することができる。
【0032】
加熱手段による加工予定部の加熱温度は、所定温度に設定する必要がある。したがって、温度センサで加工予定部の温度を監視しながら、加熱処理を行うことが望ましい。温度センサには、例えば、赤外線放射温度計などの非接触型の温度センサを用いることができる。
【0033】
所定温度は、母材中空部材に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも20℃以上高い温度に設定する必要がある。加熱温度が低いと、加工予定部が適切に軟化しないため、圧入時の負荷が大きくなり、中空部材に亀裂が生成され易くなる。
なお、加工予定部の加熱温度が過度に高くなると、加工予定部が溶融して、圧入時に母材中空部材に加わる軸方向の負荷(摩擦抵抗)が過大になる。したがって、例えば、加工予定部の温度が、熱可塑性樹脂のガラス転移点より50℃超高い温度とならないように、加熱温度を調整することが望ましい。
【0034】
(圧入ステップについて)
所定温度に加熱した加工予定部に対して、圧入部材を圧入して、断面形状を変化させる。母材中空部材の両端が加工予定部である場合には、当該両端に圧入部材を圧入する必要がある。母材中空部材の一端が加工予定部である場合には、当該一端に圧入部材を圧入する必要がある。
変化後の断面形状は、圧入前の断面形状と相似であってもよいし、相似でなくてもよい。ただし、本実施形態の方法は圧入部材を圧入して拡管する方法であるから、変化後の断面の外周長が変化前の断面の外周長より短くなることはない。また、変化後の中空部材の軸方向長さは、変化前の母材中空部材の軸方向長さより長くなることはない。
【0035】
例えば、圧入前の断面形状が円の場合、圧入後の断面形状は圧入前より径が拡大した円であってもよいし、円とは異なる異形状であってもよい。異形状は、正多角形(角部がR状の正多角形を含む)、非正多角形(角部がR状の非正多角形を含む)であってもよい。ただし、圧入後の断面形状が円又は正多角形であれば、圧入部材を抜きやすい(言い換えると、型抜きが容易)ため、加工が容易である。
【0036】
圧入部材の種類は、加工目的に応じて、適宜選択すればよい。圧入部材には、例えば、治具、パイプ、継手部材を用いることができる。圧入部材の材種は、樹脂(例えば、熱可塑性樹脂)、金属、セラミックスであってもよいが、金属、セラミックスがより好ましく、比熱の大きなセラミックスが最も好ましい。また、圧入部材の表面は離型処理が行われていることが望ましく、離型処理には、シリコンやフッ素樹脂、セラミックスによるコーティングが含まれる。
【0037】
本実施形態の中空部材の製造方法によれば、軸方向及び周方向の強度及び剛性に優れる中空部材を提供することができる。
【0038】
図1~
図5の工程図を参照しながら、中空部材の製造方法の一実施形態について詳細に説明する。
図1は、圧入装置の部品図である。
図2は、加工予定部の加熱方法を図示した工程図である。
図3は、圧入部材の圧入方法を図示した工程図である(圧入途中)。
図4は、圧入部材の圧入方法を図示した工程図である(圧入完了時)。
図5は、中空部材の型抜き方法を図示した工程図である。
【0039】
図1を参照して、圧入装置は、ボルト付き治具11、拡管用治具13、押し込み用治具14を含む。ボルト付き治具11には、凹形状部11aが形成されており、この凹形状部11aの底面にはスタッドボルト11bが立設されている。スタッドボルト11bの寸法は、母材中空部材12の寸法よりも十分長く設定されている。拡管用治具13の先端には、ボルト付き治具11から離間するにしたがって拡径するテーパ部13aが形成されている。拡管用治具13の最先端部(言い換えると、テーパ部13aの最先端部)は、母材中空部材12の断面形状より小さくなっており、テーパ部13aの最後端部は、母材中空部材12の断面形状より大きくなっている。拡管用治具13の中央には、スタッドボルト11bを挿通するための貫通孔(不図示)が形成されている。拡管用治具13の形状は、目的とする中空部材の形状に合わせた形状であればよいが、断面形状が母材中空部材12と同一の形状から所望の形状(例えば正六角形)に連続的に変化しているものが好ましい。
【0040】
押し込み用治具14は、ナットであり、拡管用治具13の貫通孔を貫通して拡管用治具13から突出するスタッドボルト11bに対して、締結することができる。なお、押し込み用治具14は、ナットに限るものではなく、拡管用治具13を押し込むことができる他の押し込み手段であってもよい。例えば、ピストンロッドを伸長して、拡管用治具13を押し込む方法を押し込み手段としてもよい。
【0041】
母材中空部材12をボルト付き治具11の凹形状部11aにセットした状態で、母材中空部材12から突出するスタッドボルト11bに対して、拡管用治具13を挿通するとともに、押し込み用治具14を螺合させる。そして、
図2に図示するように、母材中空部材12の加工予定部12Sに対して、加熱処理を行う。加熱処理には、上述したように、ヒートガン、ヒータを備えた金型等を用いることができる。
【0042】
加工予定部12Sの温度が所定温度に到達したら、押し込み用治具14を回転させて、押し込み用治具14をボルト付き治具11に向かって螺進させる。押し込み用治具14は工具を用いて回転させることができる。
押し込み用治具14が螺進することにより、拡管用治具13のテーパ部13aに母材中空部材12の先端が当接し、拡管用治具13が母材中空部材12に圧入される。拡管用治具13が母材中空部材12に対して圧入されることにより、拡管処理が開始される(
図3参照)。なお、加工予定部12Sに対する加熱処理は、所定温度を下回らないように、拡管処理中も継続することが望ましい。
【0043】
加工予定部12Sの拡管処理が終了したら、押し込み用治具14の回転を停止して、加工予定部12Sを冷却する(
図4参照)。冷却手段は、自然放冷で構わないが、例えば、ブロワなどの強制的な冷却手段を用いることもできる。加工予定部12Sを冷却することにより、本工程における最終生産物である、中空部材20を製造することができる。冷却後に、拡管用治具13及び押し込み用治具14をスタッドボルト11bから抜き取り、中空部材20をボルト付き治具11から離型する(
図5参照)。
【0044】
なお、
図1~5の操作は本発明の拡管加工の一例であるので、圧入部材を圧入することにより母材中空部材12の断面形状を変形させるという工程を経るものであれば、手動であっても機械化されていてもよい。また、正確に所望の形状に加工できるように拡管部(加工予定部12S)の周囲に外型を設けたりしてもよい。
【0045】
図6は、離型後の中空部材の斜視図である。ここで、中空部材20の最大直径をR
max、圧入前の母材中空部材12の直径(言い換えると、中空部材20の拡管されていない箇所の直径)をR
preと定義する。なお、最大直径R
maxは、中空部材20の加工予定部12Sの直径の最大値である。
また、最大直径R
maxに対応する中空部材20の外周長さ(言い換えると、周方向の長さ)をPL
max、圧入前直径R
preに対応する中空部材20の外周長さ(言い換えると、周方向の長さ)をPL
preと定義する。
【0046】
このとき、最大外周長さPLmaxは、圧入前外周長さPLpreの1.00倍超1.30倍以下とすることが望ましい。言い換えると、最大外周長さPLmaxを圧入前外周長さPLpreで除した拡管率が、1.00超1.30以下となるように、拡管用治具13の形状及びサイズを調整しておくことが望ましい。拡管率が1.30を超えると、母材中空部材12に加わる変形負荷が過大となり、繊維配向の乱れによる強度低下の恐れや、中空部材20に割れが発生するおそれがある。
なお、本工程では、断面形状を円に保ちながら拡管する方法を例示しているから、最大外周長さPLmaxは、最大直径Rmaxに円周率を乗じることにより算出され、圧入前外周長さPLpreは、圧入前直径Rpreに円周率を乗じることにより算出される。
【0047】
加工予定部12Sにおける最小直径Rminが、圧入前直径Rpreより小さくなることはない。つまり、本実施形態の加工方法は、母材中空部材12の径を絞る工程がないため、中空部材周方向の繊維に座屈や蛇行が生じて、加工予定部12Sの強度低下を招くこともない。
【0048】
(実施例)
以下、実施例を示して、本発明について具体的に説明する。
加熱温度、圧入部材などが異なる複数のサンプルを準備し、それぞれについて圧入後の座屈、亀裂を評価した。母材中空部材に用いられるプリプレグシートには、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製の現場重合型フェノキシ樹脂をマトリックス樹脂とする熱可塑性炭素繊維プリプレグであるNS‐TEPreg(登録商標)を使用した。
【0049】
実施例1~7及び比較例1~2では、一方向プリプレグシート(樹脂重量含有率:35%)を用いたシートワインディング法により母材中空部材を成形した。実施例8~9及び比較例3では、トウプリプレグ(樹脂重量含有率:35%)を用いたフィラメントワイディング法により母材中空部材を成形した。実施例8の巻き方はパラレル巻きとした。実施例9及び比較例3の巻き方はヘリカル巻きとし、いずれも単層内において繊維が交差する巻き方とした。
【0050】
実施例1~3、実施例5~6、実施例8~9、比較例1及び比較例3では、プリプレグシートの巻き付け角度αを±45度とした。実施例4では、プリプレグシートの巻き付け角度αを±60度とした。実施例7及び比較例2では、プリプレグシートの巻き付け角度αを0度、90度とした。巻き付け角度αが±45度とは、「+45度で巻き付けた層と、-45度で巻き付けた層を交互に積層した」ことを意味する。「±」の意味は、他の実施例及び比較例でも同様である。実施例7及び比較例2の巻き付け角度αの表記は、0度で巻き付けた層と90度で巻き付けた層を交互に積層したことを意味する。
【0051】
母材中空部材は、160℃で120分間加熱することにより、マトリックス樹脂を重合させて重量平均分子量60000(GPC法、ポリスチレン標準換算)、ガラス転移点95℃(DSC法)のフェノキシ樹脂としたのち、拡管加工に供した。
拡管加工の際の加熱温度(加工予定部の温度)は、実施例2が120℃、実施例9が140℃、比較例1が110℃、他の実施例及び比較例が130℃とした。加熱手段には、ヒートガンを使用した。
【0052】
円筒形状の母材中空部材を、実施例1~4、実施例7~9及び比較例1~3では円柱状の拡管治具を用いて円筒形状の中空部材に拡管し、実施例5~6では円柱から六角柱に断面形状が連続的に変化する拡管治具を用いて正六角形の中空部材に拡管した。なお、実施例5~6は、正六角形に外接する円の直径を「拡管後パイプ外径」とした。正六角形の各辺の接線の交点間の距離を、「1辺の長さ」とした。
圧入による「座屈」、拡径による「亀裂」は、触診による凹凸の有無とLEDライトの照射による光漏れを目視で確認し、評価した。座屈が確認されなかったサンプルを〇で評価し、座屈が確認されたサンプルを×で評価した。亀裂が確認されなかったサンプルを〇で評価し、亀裂が確認されたサンプルを×で評価した。
【表1】
【0053】
実施例1~9はいずれも座屈、亀裂がなく、拡管することができた。比較例1は、加熱温度が低いため、圧入時に中空部材に亀裂が発生した。
実施例7及び比較例2を比較参照して、プリプレグシートの巻き付け角度αが10度以上80度以下の範囲を外れた場合でも、拡管率を小さくしておけば、亀裂が生じない中空部材を製造できることがわかった。
また、実施例9及び比較例3を比較参照して、単層内で繊維が交差する態様のヘリカル巻きであっても、拡管率を小さくしておけば、座屈及び亀裂のない中空部材を製造できることがわかった。
【0054】
(参考例)
上述の実施形態では、母材中空部材の一端又は両端を加工予定部としたが、中子を母材中空部材の内部に配設して、端部を避けた位置を加工予定部としてもよい。
【符号の説明】
【0055】
11 ボルト付き治具
11a 凹形状部
11b スタッドボルト
12 母材中空部材
13 拡管用治具
14 押し込み用治具
20 中空部材