(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138780
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム、および、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20241002BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C08L67/02
C08J5/18 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049454
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】佐子川 広一
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA45
4F071AA88
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC12
4J002CF07W
4J002CF07X
(57)【要約】
【課題】 ポリブチレンテレフタレート樹脂が本来的に有する性能を維持しつつ、たるみやシワ等の外観不良が抑制されたポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム、および、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの製造方法の提供。
【解決手段】 全質量を100質量部としたとき、ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量が95質量部以上であるポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムであって、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂は、その組成が実質的に同一であり、かつ、固有粘度が異なる2種以上のポリブチレンテレフタレート樹脂の混合物である、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全質量を100質量部としたとき、ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量が95質量部以上であるポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムであって、
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂は、その組成が実質的に同一であり、かつ、固有粘度が異なる2種以上のポリブチレンテレフタレート樹脂の混合物である、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム。
【請求項2】
前記混合物に含まれるポリブチレンテレフタレート樹脂のうち、少なくとも2種の固有粘度の差が0.10dL/g以上である、請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム。
【請求項3】
前記混合物に含まれるポリブチレンテレフタレート樹脂のうち、少なくとも2種が、それぞれ、ポリブチレンテレフタレート樹脂の総量を100質量部に対し、10質量部以上ずつ含む、請求項1または2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム。
【請求項4】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの厚みが、5~200μmである、請求項1または2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム。
【請求項5】
前記混合物の固有粘度が0.80~1.40dL/gである、請求項1または2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム。
【請求項6】
前記混合物に含まれるポリブチレンテレフタレート樹脂のうち、少なくとも2種の固有粘度の差が0.10dL/g以上であり、
前記混合物に含まれるポリブチレンテレフタレート樹脂のうち、少なくとも2種が、それぞれ、ポリブチレンテレフタレート樹脂の総量を100質量部に対し、10質量部以上ずつ含み、
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの厚みが、5~200μmであり、
前記混合物の固有粘度が0.80~1.40dL/gである、請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム。
【請求項7】
少なくとも2種のポリブチレンテレフタレート樹脂の混合物を押出成形して、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムを製造する方法であって、
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムは、全質量を100質量部としたとき、ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量が95質量部以上であり、
ポリブチレンテレフタレート樹脂が、樹脂の組成が実質的に同一であり、かつ、固有粘度が異なる2種以上のポリブチレンテレフタレート樹脂の混合物である、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムが請求項1、2または6に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムである、請求項7に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム、および、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂を主成分とするポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムは、機械的強度、耐薬品性および電気絶縁性等に優れており、また、優れた耐熱性、成形性、リサイクル性を有していることから、使用環境が高温である場合や、電圧がかかる部分に用いられる場合など、高い性能が要求される分野で使用されることがある。
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、融点が224℃程度と高く、かつ、結晶性も高いので、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムは、高い耐熱性、高い機械強度、および、高い電気絶縁性が得られる。
一方、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、結晶性が高いことから、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム製膜する際に、溶融状態からフィルム形状に押出した後、冷却固化させる工程において、溶融状態時の密度と結晶の密度差が大きく、固化の際に大きく寸法が変わり、この寸法変化が得られるポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムのたるみやシワを惹起しやすい。
【0003】
これらの課題を克服するため、ポリブチレンテレフタレート樹脂に、非晶性の樹脂成分や、結晶性樹脂であっても、結晶化度の低い成分を配合することでたるみやシワの少ない平滑なポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムを得ることが検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、「ポリブチレンテレフタレート成形用組成物のシートまたはポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの伸長時のネッキングを低減するために、ポリブチレンテレフタレート成形用組成物の添加剤として220℃未満の融点を有する熱可塑性ポリマーを使用する方法。」が提案されている。
この手法はたるみやシワの少ない平滑なポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムを得るには有効ではあるが、高融点で耐熱性の高いポリブチレンテレフタレート樹脂にあえて融点の低い熱可塑性ポリマーを加えているため、せっかくの耐熱性が若干ながら低下してしまう。
また、他の非晶性樹脂や結晶性を下げた結晶性樹脂を配合させた場合でも、耐熱性の他、透明性や風合いが変わってしまうなど、ポリブチレンテレフタレート樹脂のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムを得る目的で製膜しているにも関わらず狙いとは少し違ったポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムとなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、ポリブチレンテレフタレート樹脂が本来的に有する性能を維持しつつ、たるみやシワ等の外観不良が抑制されたポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム、および、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、固有粘度が異なる2種のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>全質量を100質量部としたとき、ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量が95質量部以上であるポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムであって、
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂は、その組成が実質的に同一であり、かつ、固有粘度が異なる2種以上のポリブチレンテレフタレート樹脂の混合物である、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム。
<2>前記混合物に含まれるポリブチレンテレフタレート樹脂のうち、少なくとも2種の固有粘度の差が0.10dL/g以上である、<1>に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム。
<3>前記混合物に含まれるポリブチレンテレフタレート樹脂のうち、少なくとも2種が、それぞれ、ポリブチレンテレフタレート樹脂の総量を100質量部に対し、10質量部以上ずつ含む、<1>または<2>に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム。
<4>前記ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの厚みが、5~200μmである、<1>~<3>のいずれか1つに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム。
<5>前記混合物の固有粘度が0.80~1.40dL/gである、<1>~<4>のいずれか1つに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム。
<6>前記混合物に
含まれるポリブチレンテレフタレート樹脂のうち、少なくとも2種の固有粘度の差が0.10dL/g以上であり、前記混合物に含まれるポリブチレンテレフタレート樹脂のうち、少なくとも2種が、それぞれ、ポリブチレンテレフタレート樹脂の総量を100質量部に対し、10質量部以上ずつ含み、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの厚みが、5~200μmであり、前記混合物の固有粘度が0.80~1.40dL/gである、<1>~<5>のいずれか1つに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム。
<7>少なくとも2種のポリブチレンテレフタレート樹脂の混合物を押出成形して、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムを製造する方法であって、
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムは、全質量を100質量部としたとき、ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量が95質量部以上であり、
ポリブチレンテレフタレート樹脂が、樹脂の組成が実質的に同一であり、かつ、固有粘度が異なる2種以上のポリブチレンテレフタレート樹脂の混合物である、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの製造方法。
<8>前記ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムが<1>~<6>のいずれか1つに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムである、<7>に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、たるみやシワ等の外観不良が抑制されたポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム、および、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの製造方法を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書におけるフィルムは、シートの形状をしているものを含む趣旨である。また、「フィルム」とは、長さと幅に対して、厚さが薄く、概ね、平らな成形体をいう。また、本明細書における「ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム」は、単層であっても多層であってもよく、好ましくは単層である。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2022年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0010】
本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムは、全質量を100質量部としたとき、ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量が95質量部以上であるポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムであって、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂は、その組成が実質的に同一であり、かつ、固有粘度が異なる2種以上のポリブチレンテレフタレート樹脂の混合物であることを特徴とする。
このような構成とすることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂が本来的に有する性能を維持しつつ、たるみやシワ等の外観不良が抑制されたポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムが得られる。
本実施形態においては、全質量を100質量部としたとき、ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量が95質量部以上であるフィルムとすることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂が本来的に有する機械強度、耐熱性、絶縁性の特性を高いレベルでバランス良く発揮させることができる。また、固有粘度の異なる2種以上のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂の分子量分布に幅を持たせることができる。すなわち、通常は、フィルムの製造に際し、1種のみのポリブチレンテレフタレート樹脂を用いるが、この場合、ポリブチレンテレフタレート樹脂の分子量分布がシャープになる傾向にある。そうすると、製膜の際にTダイにわずかな隙間などができ、この部分から、他の部分よりも多くのポリブチレンテレフタレート樹脂が押し出されてしまい、ムラなどが生じると推測される。本実施形態においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂の分子量分布を広くすることにより、低分子量のポリブチレンテレフタレート樹脂と高分子量のポリブチレンテレフタレート樹脂が混在することとなり、高分子量のポリブチレンテレフタレート樹脂の結晶性樹脂としての性能は維持した上で、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム内での結晶配置の規則性に乱れが生じ、冷却固化する際の寸法変化を小さくできると推測される。
特に、ポリブチレンテレフタレート樹脂の射出成形品などでは、添加剤などで調整できるが、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムは、成形時に気泡が混ざると流動ムラの原因になるので添加剤などを配合しなくて成形できる点で価値が高い。
【0011】
本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムは、全質量を100質量部としたとき、ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量が95質量部以上である。このような構成とすることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂が本来的に有する優れた性能を有するポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムが得られる。
本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムにおけるポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量は、フィルムの全質量を100質量部としたとき、96質量部以上であることが好ましく、97質量部以上であることがより好ましく、98質量部以上であることがさらに好ましく、99質量部以上であることが一層好ましく、上限は、100質量部である。
【0012】
本実施形態で用いるポリブチレンテレフタレート樹脂は、その組成が実質的に同一であり、かつ、固有粘度が異なる2種以上のポリブチレンテレフタレート樹脂の混合物である。
ここで2種以上のポリブチレンテレフタレート樹脂の組成が実質的に同一であるとは、2種以上のポリブチレンテレフタレート樹脂の構成単位および/または原料モノマーが実質的に同一であることをいう。構成単位および/または原料モノマーが実質的に同一とは、例えば、構成単位および/または原料モノマーの95質量%以上が同じであることをいい、さらには、96質量%以上が同じであることが好ましく、97質量%以上が同じであることがより好ましく、98質量%以上が同じであることがさらに好ましく、99質量%以上が同じであることが一層好ましい。本実施形態においては、上限は、構成単位および/または原料モノマーの100質量%が同じであってもよい。
より好ましくは、本実施形態で用いる2種以上のポリブチレンテレフタレート樹脂は、それぞれ、末端基を除く全構成単位のうち、下記に構造を示すブチレンテレフタレート単位の割合が95質量%以上であることが好ましく、96質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることが一層好ましく、99質量%以上であることがより一層好ましく、上限は、100質量%であってもよい。
【化1】
【0013】
本実施形態で用いるポリブチレンテレフタレート樹脂は、固有粘度が異なる2種以上のポリブチレンテレフタレート樹脂の混合物である。固有粘度が異なる2種以上のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂の分子量分布が大きくなり、外観に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムが得られる。
具体的には、前記混合物に含まれるポリブチレンテレフタレート樹脂のうち、少なくとも2種の固有粘度の差が0.10dL/g以上であることが好ましく、0.20dL/g以上であることがより好ましく、0.30dL/g以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、フィルムの外観がより向上する傾向にある。また、前記混合物に含まれるポリブチレンテレフタレート樹脂のうち、少なくとも2種の固有粘度の差の上限は、例えば、2.00dL/g以下であることが好ましく、1.50dL/g以下であることがより好ましく、1.00dL/g以下であることがさらに好ましく、0.50dL/g以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの機械的強度等がより向上する傾向にある。
なお、本実施形態においては、3種以上のポリブチレンテレフタレート樹脂を含んでいてもよく、3種以上含む場合、混合物のうちの2種のポリブチレンテレフタレート樹脂が上記範囲を満たしていればよく、混合物のうちの含有量が1番目と2番目に多い2種のポリブチレンテレフタレート樹脂が上記範囲を満たしていることが好ましい。
【0014】
本実施形態で用いるポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、それぞれ独立に、0.50dL/g以上であることが好ましく、0.60dL/g以上であることがより好ましく、0.65dL/g以上であることがさらに好ましく、0.75dL/g以上であることが一層好ましく、また、2.00dL/g以下であることが好ましく、1.80dL/g以下であることがより好ましく、1.50dL/g以下であることがさらに好ましく、1.45dL/g以下であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの機械的強度がより向上する傾向にある。また、前記上限値以下とすることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂の流動性が向上し、より外観に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムが得られる傾向にある。
【0015】
本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂のブレンド形態として、固有粘度が0.5~1.25dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂(a1)と、固有粘度が1.00~2.00dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂(a2)をブレンドしたものが好ましい。前記ブレンド比(質量比)としては、(a1):(a2)が1~60:99~40であることが好ましく、10~60:90~40であることがより好ましく、20~60:80~40であることがさらに好ましく、30~60:70~40であることが一層好ましい。
特に、2種のポリブチレンテレフタレート樹脂が、固有粘度の差が上記範囲を満たしつつ、上記(a1)と(a2)の差を満たすことが好ましい。
【0016】
本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂の混合物の固有粘度は、0.80dL/g以上であることが好ましく、0.90dL/g以上であることがより好ましく、1.10dL/g以上であることがさらに好ましく、1.15dL/g以上であることが一層好ましく、1.20dL/g以上であることがより一層好ましく、1.25dL/g以上であることがさらに一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂の外観がより向上する傾向にある。前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の混合物の固有粘度の上限は、1.40dL/g以下であることが好ましく、さらには1.35dL/g以下、1.30dL/g以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、必要以上に成形時の樹脂圧が高くならず、製膜機を安定に維持することができる。なお、時間当たりの吐出量を下げることで前記樹脂圧を下げることもできるが、生産性が低下する傾向にあるため、固有粘度を上記上限値以下とすることが好ましい。
【0017】
なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、1,1,2,2-テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定するものとする。
【0018】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、その末端カルボキシル基量は適宜選択して決定すればよいが、通常、60eq/ton以下であり、50eq/ton以下であることが好ましく、30eq/ton以下であることがさらに好ましい。60eq/ton以下とすることにより、溶融成形時にガスを発生しにくくすることができる。末端カルボキシル基量の下限値は特に定めるものではないが、ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造の生産性を考慮し、通常、10eq/tonである。
なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、ベンジルアルコール25mLにポリアルキレンテレフタレート樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を用いて滴定により測定して得られた値をいう。末端カルボキシル基量を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法により行えばよい。
【0019】
本実施形態においては、また、混合物に含まれるポリブチレンテレフタレート樹脂のうち、少なくとも2種が、それぞれ、ポリブチレンテレフタレート樹脂の総量を100質量部に対し、1質量部以上(好ましくは10質量部以上)ずつ含むことが好ましい。このような構成とすることにより、得られるフィルムのポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム製膜した際のたるみやシワ軽減効果がより向上する傾向にある。
より具体的には、ポリブチレンテレフタレート樹脂の総量(混合物)100質量部に対し、少なくとも2種のポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量が、それぞれ、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましく、15質量部以上であることが一層好ましく、20質量部以上であることがより一層好ましく、25質量部以上であることがさらに一層好ましく、30質量部以上であることが特に一層好ましい。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂の総量(混合物)100質量部に対し、少なくとも2種のポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量が、それぞれ、90質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、75質量部以下であることがさらに好ましい。但し、ポリブチレンテレフタレート樹脂の総量が100質量部を超えることが無いことは言うまでもない。
ポリブチレンテレフタレート樹脂の混合物のブレンド形態として、混合物に含まれるポリブチレンテレフタレート樹脂のうち、1種の割合が25~50質量部であり、他の1種の割合が70~50質量部であり、他の1種または2種以上の合計が0~10質量部である混合物が挙げられる。
【0020】
本実施形態で用いるポリブチレンテレフタレート樹脂は、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で、テレフタル酸以外のジカルボン酸単位を含んでいてもよい。
ポリブチレンテレフタレート樹脂を構成するテレフタル酸以外のジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体が好ましく使用される。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル-2,2’-ジカルボン酸、ビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルフォン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルイソプロピリデン-4,4’-ジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、アントラセン-2,5-ジカルボン酸、アントラセン-2,6-ジカルボン酸、p-ターフェニレン-4,4’-ジカルボン酸、ピリジン-2,5-ジカルボン酸等が挙げられ、テレフタル酸が好ましく使用できる。
これらの芳香族ジカルボン酸は2種以上を混合して使用してもよい。これらは周知のように、遊離酸以外にジメチルエステル等をエステル形成性誘導体として重縮合反応に用いることができる。
なお、少量であればこれらの芳香族ジカルボン酸と共にアジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸や、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸および1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸を1種以上混合して使用することができる。
【0021】
ポリブチレンテレフタレート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物としては、1,4-ブタンジオール以外に、エチレングリコール、プロピレングリコール、へキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-メチルプロパン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール等の脂環式ジオール等、およびそれらの混合物等が含まれていてもよい。
なお、少量であれば、分子量400~6,000の長鎖ジオール、すなわち、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を1種以上共重合せしめてもよい。
また、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族ジオールも用いることができる。
また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
【0022】
本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムは、本実施形態の効果を阻害しない範囲内で、他の成分を含有することもできる。他の成分としては、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、耐候安定剤、滑剤、染顔料等の着色剤、触媒失活剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、結晶核剤、結晶化促進剤、他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等が挙げられる。
他の熱可塑性樹脂としては、変性ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂以外のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、1種でも2種以上であってもよい。
ただし、他の成分は、本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム100質量部に対し、総量が、5質量部以下であり、4質量部以下であることは好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることがさらに好ましく、1質量部いいかであることが一層好ましく、0.5質量部以下であることがより一層好ましく、0.1質量部以下であることがさらに一層好ましく、0.01質量部以下であることが特に一層好ましい。
【0023】
本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの厚みは、フィルムの強度の観点から5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましく、50μm以上であることが一層好ましく、80μm以上であることがより一層好ましい。また、本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの厚みは、フィルムとしての機能発現性の観点から、200μm以下であることが好ましく、180μm以下であることがさらに好ましく、150μm以下であることが一層好ましく、120μm以下であることがより一層好ましい。
【0024】
本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムは、単層フィルムであってもよいし、2層以上の多層フィルムであってもよい。多層フィルムの場合、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルム以外の層としては、印刷層、接着剤層、シーラント層、イロンフィルム、ポリプロピレンフィルム、はエチレン・酢酸ビニル共重合体フィルム等の結晶性フィルムである熱可塑性樹脂層等が例示される。
【0025】
本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムは、延伸フィルムであってもよいし、未延伸フィルムであってもよい。延伸フィルムの場合、一軸延伸フィルムであっても、二軸延伸フィルムであってもよい。
【0026】
本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムは、例えば、食品用包材等に用いられる。
【0027】
次に、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの製造方法について述べる。
本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの製造方法には特に制限はなく、一般的な製法から選択することができる。
具体例としては、少なくとも2種のポリブチレンテレフタレート樹脂の混合物を押出成形して、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムを製造する方法であって、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムは、全質量を100質量部としたとき、ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量が95質量部以上であり、ポリブチレンテレフタレート樹脂が、樹脂の組成が実質的に同一であり、かつ、固有粘度が異なる2種以上のポリブチレンテレフタレート樹脂の混合物である、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの製造方法が挙げられる。
製膜に際しては、Tダイ製膜法やインフレーション製膜方法などにより得ることができる。また必要に応じて延伸をかけることもできる。この延伸は製膜時に同工程中で実施することもできるし、一度ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムとして巻き取った後、後工程で延伸をかけることもできる。
本実施形態においては、固有粘度の異なる2種類以上のポリブチレンテレフタレート樹脂を混合するが、これは製膜時にそれぞれのペレットをドライブレンドで均一になるまで混合する方法でもよく、事前に単軸または2軸の混練機にてコンパウンドを施し、混合物のペレットとしてから製膜する方法でもよい。
【実施例0028】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0029】
実施例1~4
表1に示す固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂(テレフタル酸成分と1,4-ブタンジオール成分の重合体)のペレットを表1に示すブレンド比(表1のポリブチレンテレフタレート樹脂の比率は質量比率である)でドライブレンドした。ペレットブレンド物を押出機に投入し、以下の条件でTダイ製膜し、ポリブチレンテレフタレート樹脂を得た。
下記に示す押出機から、下記条件で、ポリブチレンテレフタレート樹脂をTダイからシート状に押出し、巻き取り機で引き取ることでポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムを作製した。押出機の吐出量とフィルムの引き取り速度を調節し、厚さ100μmのポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムを得た。紙管(菅の径は、4インチに巻き取り、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの巻取体を得た。
【0030】
<Tダイ製膜>
押出機:池貝製、FS40
スクリュー径φ40mm、L/D=25、単軸、フルフライト
ダイス:リップ巾、200mm
製膜条件:シリンダー250℃、ダイス250℃
冷却ロール温度:60℃設定
スクリュー回転数:40rpm
ペレットをバットに入れて、製膜前に熱風乾燥機にて120℃×8時間乾燥させてから押し出し機に投入した。
【0031】
<フィルム巻き外観評価>
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの巻取体に負荷をかけない状態で25℃、50%RH環境下に24時間静置後、巻き外観を観察した。観察は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。C以上を実用レベルとした。
A:たるみおよびシワが確認されなかった。
B:たるみはわずかに発生しているがCよりは軽微であり、明確なシワは確認されなかった。
C:たるみは明らかに発生しているが、明確なシワは確認されなかった。
D:たるみおよびシワが明確に発生した。
【0032】
比較例1、比較例2
表1に示す固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂(テレフタル酸成分と1,4-ブタンジオール成分の重合体)のペレットを押出機に投入し、他は、実施例1と同様にして、厚さ100μmのポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムを得た。実施例1と同様に、得られたフィルム巻き外観について評価した。
【0033】
【0034】
上記表1において、各成分の比率は質量比率である。
上記表1において、混合物の固有粘度とは、ポリブチレンテレフタレート樹脂の混合物の固有粘度を意味する。
上記表1において、固有粘度差は、ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度の差を示す。例えば、実施例1では、ポリブチレンテレフタレート樹脂A4の固有粘度(1.20dL/g)とポリブチレンテレフタレート樹脂A6の固有粘度(1.30dL/g)の差(0.10dL/g)である。
上記結果から明らかなとおり、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムは、しわやたるみが無く、フィルム巻き外観に優れていた(実施例1~4)。特に、2種のポリブチレンテレフタレート樹脂をバランスよくブレンドすることにより、より外観が向上した(実施例1、3、4と実施例2の比較)。さらに、2種のポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度差を大きくすることにより、より外観が向上した(実施例3、4と実施例1との比較)。
これに対し、1種のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いた場合、ポリブチレンテレフタレート樹脂の外観に劣っていた(比較例1、比較例2)。すなわち、ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの従来の問題点が発現されてしまった。