IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

特開2024-138891ヒドロキシアパタイト多孔構造体及びその製造方法
<>
  • 特開-ヒドロキシアパタイト多孔構造体及びその製造方法 図1
  • 特開-ヒドロキシアパタイト多孔構造体及びその製造方法 図2
  • 特開-ヒドロキシアパタイト多孔構造体及びその製造方法 図3
  • 特開-ヒドロキシアパタイト多孔構造体及びその製造方法 図4
  • 特開-ヒドロキシアパタイト多孔構造体及びその製造方法 図5
  • 特開-ヒドロキシアパタイト多孔構造体及びその製造方法 図6
  • 特開-ヒドロキシアパタイト多孔構造体及びその製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138891
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ヒドロキシアパタイト多孔構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/32 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
C01B25/32 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049607
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 啓
(57)【要約】
【課題】 簡便な方法で得られ、生体適合性に優れたヒドロキシアパタイトからなる多孔構造体及びその製造方法の提供。
【解決手段】 c面配向した薄片状の粒子片同士をその辺部と面部とを突き合わせて固着させてなる薄片集合組織を表層部に有するヒドロキシアパタイトからなる多孔構造体が開示される。その製造方法は、α-TCPからなる粉体を含む成形体を塩酸水溶液に浸漬し酸加水分解する工程を経る。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシアパタイトからなる多孔構造体であって、
c面配向した薄片状の粒子片同士をその辺部と面部とを突き合わせて固着させてなる薄片集合組織を表層部に有することを特徴とする多孔構造体。
【請求項2】
網目状に空間の形成された網目状組織を前記表層部の下部に有することを特徴とする請求項1記載の多孔構造体。
【請求項3】
α-TCPからなる粉体を含む成形体を塩酸水溶液に浸漬し酸加水分解し、
c面配向したヒドロキシアパタイトからなる薄片状の粒子片同士をその辺部と面部とを付き合わせて固着させてなる薄片集合組織を表層部に有する多孔構造体とすることを特徴とする多孔構造体の製造方法。
【請求項4】
前記成形体は、ゲル体であることを特徴とする請求項3記載の多孔構造体の製造方法。
【請求項5】
前記成形体は、α-TCPからなる前記粉体をアルギン酸ナトリウム水溶液と混合し、塩化カルシウム水溶液に曝しながらゲル化させて成形しさらに乾燥させて得ることを特徴とする請求項4記載の多孔構造体の製造方法。
【請求項6】
前記塩酸水溶液のpHは2~4であることを特徴とする請求項3乃至5のうちの1つに記載の多孔構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシアパタイトからなる多孔構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシアパタイト(HA)は、c軸方向に成長しやすく、六角柱状又は板状の結晶粒となる。しかしながら、一般的には、大きな結晶粒にまでは成長せず、結晶粒を水熱処理して針状の比較的大きな結晶粒としている。
【0003】
例えば、特許文献1では、c面を選択的に成長させた一次結晶の集合体からなる針状の多結晶HAの製造方法を開示している。カルシウムと錯体を形成するヒドロキシカルボン酸類又はアミノカルボン酸類から選択される添加剤を含み、Ca(カルシウム)/P(リン)の比を3.0以上に調整したリン酸カルシウム質のスラリー又は溶液を沸点以上の温度、例えば、165℃で飽和水蒸気圧下、水熱処理するとしている。
【0004】
また、特許文献2では、c面配向した板状HA単結晶の製造方法を開示している。Ca2+イオン、PO 3-イオン、尿素及びウレアーゼを含む酸性水溶液を調製して容器に入れ、外気と気液接触した状態にて保持すると、ウレアーゼによる尿素の加水分解による水溶液のpH上昇に従ってHAの結晶核が生成し、a軸及びb軸方向に結晶成長する。そして、水溶液に浮上している析出物を水溶液から分離採取し、120℃程度で水熱処理すると、板状HA単結晶が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-236806号公報
【特許文献2】特開2010-208896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、生体適合性に優れる多孔性を有するHAが各種生体材料に用いられている。そこで、上記したような、結晶成長させたHAを集合させて多孔構造体に成形することが考慮される。ここで、より簡便にHAからなる多孔構造体を得られる方法が求められた。
【0007】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、簡便な方法で得られ、生体適合性に優れたヒドロキシアパタイトからなる多孔構造体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるヒドロキシアパタイトからなる多孔構造体は、c面配向した薄片状の粒子片同士をその辺部と面部とを突き合わせて固着させてなる薄片集合組織を表層部に有することを特徴とする。
【0009】
かかる特徴によれば、薄片状の粒子片によって区切られた空間を有する空孔率の高い薄片集合構造、いわゆるカードハウス構造を表層部に有し、空孔度に対する強度に優れ、生体適合性に優れるのである。
【0010】
上記した発明において、網目状に空間の形成された網目状組織を前記表層部の下部に有することを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、薄片状に発達する前の網目状の空間を形成された網目状組織により、表層部とは異なる強度及び空孔率を有し、傾斜材を与えることになるのである。
【0011】
また、本発明によるヒドロキシアパタイトからなる多孔構造体の製造方法は、α-TCPからなる粉体を含む成形体を塩酸水溶液に浸漬し酸加水分解し、c面配向したヒドロキシアパタイトからなる薄片状の粒子片同士をその辺部と面部とを付き合わせて固着させてなる薄片集合組織を表層部に有する多孔構造体とすることを特徴とする。
【0012】
かかる特徴によれば、いわゆるカードハウス構造を表層部に有し、生体適合性に優れる多孔構造体を水熱処理のような加温プロセスを用いることなく、簡便に得られるのである。
【0013】
上記した発明において、前記成形体は、ゲルの乾燥体であることを特徴としてもよい。更に、前記成形体は、α-TCPからなる前記粉体をアルギン酸ナトリウム水溶液と混合し、塩化カルシウム水溶液に曝しながらゲル化させて成形しさらに乾燥させて得ることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、生体適合性に優れる多孔構造体を形状に依存することなく、簡便に得られるのである。
【0014】
上記した発明において、前記塩酸水溶液のpHは2~4であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、生体適合性に優れる多孔構造体を安定して簡便に得られるのである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明による多孔構造体の図である。
図2】本発明による多孔構造体のSEM写真である。
図3】カードハウス構造を示す図である。
図4】粒子片の粉末X線回折法による回折プロファイルである。
図5】多孔構造体の中央部付近のSEM写真である。
図6】圧縮試験の結果を示す表である。
図7】比較例である、α-TCP粉体から得られたHAのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明による1つの実施例であるヒドロキシアパタイト(HA)からなる多孔構造体及びその製造方法について、図1乃至図5を用いて説明する。
【0017】
図1に示すように、多孔構造体1は、典型的には、薄片集合組織からなる表層部1aとその下部の網目状組織からなる中央部1bとからなるように、構造差を有する傾斜材料としての粒状体であり、例えば、略球形とされる。なお、後述するように、中央部1bまで表層部1aと同様に薄片集合組織とすることも可能である。
【0018】
図2に示すように、表層部1aは、c面配向した薄片状(板状)の粒子片2によって形成される薄片集合組織を有する。つまり、粒子片2は、a面よりも広いc面を有し、c面を主面とする平板状体となっている。かかる薄片集合組織は、粒子片2の辺部(周縁部)と他の粒子片2の面部(平面部)とを突き合せるようにして接続し固定した、薄片状の粒子片によって区切られた空間を有する空孔率の高い、いわゆるカードハウス構造と称されるような多孔構造を形成している。つまり、粒子片2は、その主面同士を重ねることなく固着されているのである。粒子片2は、単結晶HAによる六方晶の結晶構造にもとづく板状体である。
【0019】
また、図3に示すように、粒子片2は部分的にガセット板のような構造を取る。例えば、粒子片2-1は、その辺部2-1rと粒子片2-2の面部2-2fとを突き合わせている。そして、粒子片2-3がその辺部2-3fの対向する位置のそれぞれを粒子片2-1の面部2-1fと粒子片2-2の面部2-2fに接続している。つまり、粒子片2-1と粒子片2-2との接続角度を間に入った粒子片3-3で固定している構造である。多孔構造体1は、後述するように高い機械的強度を得ているが、このような構造がその要因となっているものと考えられる。
【0020】
さらに、図4に示すように、粉末X線回折法によって得た粒子片2のX線回折プロファイルによると、c面(0,0,2)に由来する2θ=25~27°付近に最も強度の強いピークを有し、a面(3,0,0)に由来する31~32.5°付近にも明確なピークを有していることが判る。つまり、粒子片2は、a面よりもc面を広くした結晶であると考えられ、上記した通りc面配向していると言える。
【0021】
一方、図5に示すように、表層部1aの下部である中央部1bは、多結晶ヒドロキシアパタイトに網目状に空間を与えた網目状組織を有する。中央部1bにおいても表層部1aと同様の板状組織も含まれるが、粒子片2の接続構造とは異なり連続した網状組織となっている。かかる構造は、表層部1aのカードハウス構造のような、ヒドロキシアパタイトをc面配向した薄片状(板状)の粒子片2に成長させる前段階の組織構造と考えられる。
【0022】
ここで、例えば、HAを人工骨として利用する場合、HA自身に骨形成機能はないため、骨に癒合させるためには、主として液性成分である骨形成環境(骨芽細胞や骨形成因子等)をその表面近傍に取り込むことが重要となる。多孔構造体1によれば、表層部1aにカードハウス構造を備えることから高い気孔率でありながら一定の機械強度を有し、骨形成環境を良好に取り込むことができ、骨への癒合性に優れる。つまり、生体適合性に優れるのである。
【0023】
また、多孔構造体1は、上記したように粒状体とできて、骨の欠損部等に充填されるように用いることで、欠損部等の形状に合わせて密着性よく配置できる。加えて、多孔構造体1は、後述するように機械的な強度に優れることから、荷重を負荷される部位への適用にも適する。
【0024】
次に、多孔構造体1の製造方法について説明する。多孔構造体1は、ゲル化を経て所望の形状に成形したα-TCP(単斜晶のリン酸三カルシウム)を酸性水溶液中で加水分解させ溶解と析出とを同時進行させることで製造できる。具体的には以下の通りである。
【0025】
まず、α-TCPの粉体と濃度1%のアルギン酸ナトリウム水溶液を混合してスラリーを得る。なお、スラリー中のα-TCPの質量比は50%以下とする。次いで、スラリーを滴下し、濃度1%の塩化カルシウム水溶液に曝しながらゲル化し、例えば、球状に成形されたゲルビーズを得る。なお、ゲル化ビーズを得る方法は他の方法であってもよい。得られたゲルビーズを60℃で24時間保持して乾燥させる。これにより、球状に成形したα-TCPのゲル体としての成形体を得る。
【0026】
α-TCPの成形体は、例えばpH2.5に調整して室温から40℃の範囲内に保たれた酸性水溶液に浸漬され静置又は振盪される。浸漬する時間はここでは24時間とした。浸漬時間を短くするとカードハウス構造を有する表層部1aの厚さをより薄くかつ最中央部がα-TCPのままとなり得る。一方、一定時間を超えると、所定の表層部1aの厚さと中央部1bの厚さとなるが、更に、長い時間では、全体がカードハウス構造となり得る。
【0027】
なお、酸性水溶液は超純水に塩酸を添加することでpHを調整することが好ましい。塩酸以外の酸を用いることもできるが、HAの析出を阻害する元素(例えば、マグネシウム、亜鉛など)を含まない酸とすべきである。なお、酸性水溶液のpHは、二酸化炭素の大気からの混入や大気への脱離、計測機の誤差による揺らぎを許容し、pH2~pH4、好ましくは、pH2~pH3の範囲内とする。また、α-TCPの成形体を浸漬して溶解させたときのpHを6以上とするような混合比であることが望ましく、例えば、α-TCPの成形体と酸性水溶液との質量比を20:1(500g:25g)とする。
【0028】
この浸漬の間にα-TCPは酸加水分解によって溶解されるとともに析出されてHAとなる。α-TCPが溶解されると、酸性水溶液中のリン酸及びカルシウムの濃度を上昇させpHを6程度まで変化させる。そして溶解されたα-TCPが析出することで、HAとなる。得られた沈殿物を吸引ろ過し、洗浄するとHAからなる多孔構造体1を得ることができる。なお、溶解と析出は同時進行していると思われ、α-TCPの成形体の形状をほぼ維持したまま多孔構造体1となる。
【0029】
α-TCPの酸加水分解では、以下の3通りの反応が生じているものと考えられる。
a)Ca(PO+4HO→2CaHPO・2HO+Ca(OH)
b)3Ca(PO+7HO→CaHPO・5HO+Ca(OH)
c)(10-z)Ca(PO+3(2+n-z)H
→3Ca10-z(HPO(PO6-z(OH)2-z・nH
+2(1-z)HPO
【0030】
溶解させたときにpHの数値が大きくなることから、α-TCPの成形体の表面では、これらの反応式のうち、a)及びb)が優位に進行しているものと推察される。本実施例では加水分解に加えて酸によるα-TCPの溶解や、加水分解で生じたリン酸-水素カルシウム二水和物(DCPD)の溶解も生じ得て、一部をイオン化させているものと考えられる。加えて、酸によってリン及びカルシウムの濃度も高くなっていると考えられる。これらはいずれもHAの析出を促進させるものであり、これらによってα―TCPの溶解が進行しても、同時に生じるHAの析出により、成形体の形状を維持できるものと考えられる。
【0031】
一方で、HAの析出ではCa(OH)を消費し、また、c)の反応式によってもHAの析出を生じ得る。つまり、HAを析出することでpHの値を下げることになる。
【0032】
このように、1)α-TCPの溶解を進行させることでpHを上昇させ、2)pHを上昇させることでHAの析出を促進させ、3)HAを析出させることでpHを低下させ、4)pHを低下させることでα-TCPの溶解を促進させる、といったよう反応のサイクルが生じ得る。このような1)~4)のサイクルが局所的に繰り返されることで、全体としてα-TCPの溶解とHAの析出が同時進行し、成形体の形状を維持したまま反応を進められるものと考えられる。
【0033】
また、ゲルを乾燥させて成形したα-TCPの場合は、乾燥によってα-TCPの粉体の密度を成形体の表面に比べて内部で高くしていると思われる。粉体の密度が高いと、HAの析出核を多数同時に形成し、ピニング効果もあって、結晶を大きく成長させることができない。他方、粉体の密度の低い表面では、これらの影響が小さいため、結晶を大きく成長させることができると考えられる。
【0034】
また、成形体の表面から上記した加水分解などの反応が開始されるはずである。表面近傍において早くHAとなった結晶は、α-TCPの溶解によって供給されるリン及びカルシウムを消費してより大きく成長できるものと考えられる。他方、酸性水溶液からの距離のある内部では、上記した溶解と析出とのサイクルは比較的遅く、その結果HAは比較的小さな結晶にまでしか成長しないと考えられる。
【0035】
以上のようなメカニズムで、多孔構造体1は、薄片集合組織からなる表層部1aとその下部の網目状組織からなる中央部1bとを形成することができると考えられる。
【0036】
このようにして、多孔構造体1を製造することができる。つまり、α-TCPからなる粉体を各種形状に成形した成形体を酸水溶液に浸漬し酸加水分解する簡便な製造方法で多孔構造体1を得ることができる。上記したように、α-TCPの成形体の形状をほぼ維持したまま多孔構造体1とできることから、比較的自由な形状で多孔構造体1を得ることができる。例えば、粒子状にしたゲルの多数を所望の形状となるように型に充填して成形体としたり、このような型にα-TCPの粉体を含むゾルを流し込んで乾燥させて成形体としたりすることもできる。なお、成形体としては、α-TCPの粉体を焼成したセラミックスなど、ゲルの乾燥体以外の成形体も用い得る。
【0037】
次に、多孔構造体1を上記した製造方法で製造して、その特性について調査した。ここでは、α-TCPの質量比を30%としたスラリーを3μLずつ滴下してゲルビーズとした上で、乾燥させてα-TCPの球状体を得た。さらに、密閉容器内の酸水溶液(40℃、pH2.5の塩酸水溶液)に球状体を浸漬して24時間振盪(5×10rpm)して多孔構造体1を得た。
【0038】
得られた多孔構造体1は、上記したようにカードハウス構造を示し、その気孔率を測定したところ、41.9%であった。
【0039】
また、多孔構造体1の溶解性についても評価した。詳細には、多孔構造体1を1個(スラリー3μL分)、0.1mLの1%アガロースゲルに含ませたところ、25日後においてもpHが7よりも小さく酸性側にあることが確認された。HAは溶解するとpHを上昇させて溶液をアルカリ性とする。例えば市販のHAの焼結粉体(HAP-100/太平化学作業株式会社製)を用いて同様にアガロースゲルに含ませると、pH7を超えた。つまり、多孔構造体1の溶解性は比較的低いものと言える。
【0040】
また、図6に示す様に、多孔構造体1とその焼結体、α-TCPの乾燥体のそれぞれについて圧縮破壊試験を行った。多孔構造体1については、実施例1~5で示した。α-TCPの乾燥体は、上記したゲルビーズの乾燥体であるα-TCPの球状体であり、比較例1~5で示した。また、多孔構造体1の焼結体は、加熱によってHAがα-TCPに転化しており、α-TCP焼結体として比較例6~10で示した。
【0041】
実施例1~5、比較例1~10のそれぞれの粒子について圧縮試験を行い、破壊されるまでの最大荷重を記録した。その結果、実施例1~5の多孔構造体は、比較例1~5のα-TCPの乾燥体に比べて6倍程度、比較例6~10のα-TCPの焼結体と同等の機械的強度を有することが判った。なお、比較例6~10のα-TCPの焼結体は、15%の気孔率であり、中実構造に近かった。また、カードハウス構造となる多孔構造体1の機械的な強度は、比較例6~10のような構造体よりも高く、気孔率を考慮すると、より高い比強度を得られると言える。このように機械的な強度を高くできるのは、特に中央部1bの網目状組織によるところが大きいものと考えられる。
【0042】
比較のため、図7に示すように、成形せずに粉体のままのα-TCPを上記と同様に酸性水溶液に浸漬し、HAを生成した。同図から、粉体のα-TCPにて同様の方法でHAを生成しても、多孔構造体となっていないことが判る。ここでは、板状のHAも観察されるもののC面が狭く、全体として細かい粒子状体となった。成形体に比べて酸水溶液との接触面積が大きく早く反応するために、粒子の成長が少なく細かく分かれたままHAの結晶になるものと考えられる。
【0043】
以上、本発明による代表的な実施例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0044】
1 多孔構造体
1a 表層部
1b 中央部(表層部の下部)
2 粒子片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7