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特開2024-138931ファラデー回転子及び光アイソレータの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138931
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ファラデー回転子及び光アイソレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20241002BHJP
   G02B 1/11 20150101ALI20241002BHJP
   G02B 27/28 20060101ALI20241002BHJP
   B08B 3/02 20060101ALI20241002BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B1/11
G02B27/28 A
B08B3/02 Z
B08B3/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049660
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 光人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 聡明
【テーマコード(参考)】
2H149
2H199
2K009
3B201
【Fターム(参考)】
2H149AA24
2H149AB26
2H149BA02
2H149DA02
2H149DB38
2H149FA43Y
2H149FB06
2H149FC02
2H149FD25
2H149FD28
2H199AA02
2H199AA13
2H199AA23
2H199AA46
2K009AA02
3B201AA46
3B201BB01
3B201BB82
3B201BB92
(57)【要約】
【課題】ファラデー回転子として使用するチップの両光透過面に反射防止膜を蒸着するが、光透過面にパーティクルが残存していると、蒸着後の反射防止膜の反射防止能が低下するので、蒸着の前後に、特に蒸着前に、パーティクルを効率的に排除できるファラデー回転子の製造方法を提供する。
【解決手段】ファラデー回転子として使用する略方形平板を単結晶円形ウェーハから切出す切断工程と、略方形平板を洗浄する工程と、前記略方形平板の光透過面に反射防止膜を形成する反射防止膜形成工程と、を含むファラデー回転子の製造方法において、前記略方形平板を洗浄する工程で、熱リン酸溶液中に略方形平板を浸漬させて付着したパーティクルを溶解除去する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファラデー回転子として使用する略方形平板を単結晶円形ウェーハから切り出す切断工程と、前記略方形平板を洗浄する洗浄工程と、前記略方形平板の光透過面に反射防止膜を形成する反射防止膜形成工程と、を含むファラデー回転子の製造方法であって、
前記洗浄工程が、前記略方形平板を熱リン酸溶液中に浸漬させることを含むことを特徴とするファラデー回転子の製造方法。
【請求項2】
前記熱リン酸溶液の濃度が50~89質量%であり、かつ、温度が100℃~170℃である、請求項1に記載のファラデー回転子の製造方法。
【請求項3】
前記熱リン酸溶液の温度が120℃~150℃である、請求項2に記載のファラデー回転子の製造方法。
【請求項4】
前記略方形平板の前記熱リン酸溶液中への浸漬時間が1~10分間である、請求項1に記載のファラデー回転子の製造方法。
【請求項5】
前記略方形平板の前記熱リン酸溶液中への浸漬が、前記反射防止膜形成工程を行う前に少なくとも1回行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載のファラデー回転子の製造方法。
【請求項6】
偏光子とファラデー回転子と検光子を含んで構成される光アイソレータの製造方法であって、
前記ファラデー回転子が、請求項1に記載の方法で作製されることを特徴とする光アイソレータの製造方法。
【請求項7】
前記熱リン酸溶液の濃度が50~89質量%であり、かつ、温度が100℃~170℃である、請求項6に記載の光アイソレータの製造方法。
【請求項8】
前記熱リン酸溶液の温度が120℃~150℃である、請求項7に記載の光アイソレータの製造方法。
【請求項9】
前記略方形平板の前記熱リン酸溶液中への浸漬時間が1~10分間である、請求項6に記載の光アイソレータの製造方法。
【請求項10】
前記略方形平板の前記熱リン酸溶液中への浸漬が、前記反射防止膜形成工程を行う前に少なくとも1回行われる、請求項6~9のいずれか一項に記載の光アイソレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信に用いられる光アイソレータに関し、特に光アイソレータに用いられるファラデー回転子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光加工機や光計測機、光通信に用いられるレーザー光源は、出射したレーザー光が伝送路途中に設けられた部材表面で反射して、その反射光の一部がレーザー光源に戻って入射すると、レーザー発振が不安定になってしまう。このような反射戻り光を遮断するために、反射戻り光の偏光面を非相反で回転させるファラデー回転子を用いた光アイソレータが用いられる。
【0003】
光アイソレータは主に、偏光子、検光子、ファラデー回転子、及びファラデー回転子を磁化しファラデー回転角を誘起する永久磁石より構成され、光源と光伝送部品との間に設けられ、光伝送部品の方に進む光だけを透過させ、光源方向に向かう反射戻り光を遮断するものである。
【0004】
例えば、偏波依存型の光アイソレータの構造は、入射側に偏光子が設けられ、出射側には検光子が設けられている。すなわち、ファラデー回転子は、偏光子と検光子との間に配置され、入射した光の偏光軸を45度回転させるものである。また、偏光子と検光子は、互いに透過偏光軸の相対角度が45度に配置されている。
【0005】
光アイソレータに入射した光は、偏光子を経て、ファラデー回転子を通過するが、このときその偏光面が45度回転される。この回転により、光の偏光面が検光子の偏光面と一致するので、光は検光子を通過することができる。一方、反射光は逆方向から光アイソレータに至り、検光子を通過し、ファラデー回転子を通過するが、ファラデー回転子により更にその偏光面が45度回転され、偏光子の偏光面と直交するので、偏光子を通過することができなくなる。よって反射光はレーザー光源に戻れないので、レーザー発振に悪影響を与えない。
【0006】
光通信では、光アイソレータのファラデー回転子として、ビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶のような磁気をもった材料が用いられるため、これから微粒子(以下「パーティクル」ということがある。)を除去するために、極めて高度な洗浄が要求されている。
【0007】
ファラデー回転子の製造においては、単結晶育成後の円形ウェーハを、ダイシングソーなどの切断装置で、要求仕様に合わせて決められた寸法、一般に一辺が11mm~15mmの正方形のチップに切断加工する。そして、その後の加工工程で、チップの両側に反射防止膜を形成するが、良い品質の反射防止膜を形成するためには、反射防止膜を蒸着する前に、チップの表面に付着しているパーティクルを、洗浄により完全に除去することが極めて重要である。
【0008】
前記切断加工では、通常ダイシング装置が用いられるが、ダイヤモンド砥粒を埋め込んだブレードで切断を行う際に、ワーク自体の切削粉が発生し、また、ラップや研磨加工においても、ワーク自体の微粉が発生して、これらがパーティクルとしてチップの表面に付着する。チップの洗浄方法としては、多数のチップを洗浄治具に取り付け、超音波洗浄装置内において、ポリエチレンアルカリ洗剤や純水を用いて洗浄することが一般的である。
【0009】
上記のような問題に対して、特許文献1では、超音波洗浄機によるファラデー回転子の洗浄を、500G(ガウス)以上の磁束密度の磁場の中に設置した状態で超音波を当てて行う方法が記載されている。しかしながら、このような磁場の中で超音波を当てて洗浄しても、完全にパーティクルを除去することは難しく、そのため、高品質な反射防止膜を蒸着・形成することは難しかった。
【0010】
また、特許文献2では、チップ形状に加工したファラデー回転子の側面部分を樹脂層で覆い保護した上で、超音波洗浄機により洗浄する方法が記載されている。しかしながら、この方法では、側面部からのパーティクルの付着は防げるものの、他部から付着したパーティクルは、超音波による洗浄では完全に除去することができないため、高品質な反射防止膜の蒸着・形成は難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007-121992号公報
【特許文献2】特許2849655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ファラデー回転子の材料自体が絶縁体であるため、切断工程や研磨加工などで発生するワーク自体のパーティクルはチップに付着しやすいが、上記のような超音波による洗浄方法は、洗浄前に付着していたパーティクルをチップから完全に除去することができていない。そして、そのような完全に除去できていない状況で、チップ上に反射防止膜を蒸着すると、付着したパーティクルの上に反射防止膜が施されるため、そのパーティクルが何らかの原因により脱落する際に、反射防止膜が破損してしまうという大きな問題があった。
【0013】
また、ファラデー回転子の洗浄は、超音波洗浄装置のみによる洗浄で仕上げることができず、溶剤等をつけた綿棒やクリーニングペーパーでパーティクルを拭き取る作業が必要となっているため、作業効率が悪い。そのため、ファラデー回転子の洗浄作業の効率改善が求められている。
【0014】
本発明は、前述のような問題に鑑みてなされたものであり、ファラデー回転子に反射防止膜を蒸着した際に、反射防止膜として高品質な膜を蒸着・形成することが可能なファラデー回転子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、熱リン酸溶液中にファラデー回転子チップを浸漬させてパーティクルを溶解除去することで、超音波洗浄機では不完全であったパーティクルの除去が可能となり、その後の反射防止膜の蒸着で高品質な反射防止膜を得ることができることを見出し、以って本発明に至った。
【0016】
よって、本発明は、下記のファラデー回転子、及び光アイソレータの製造方法を提供する。
[1]ファラデー回転子として使用する略方形平板を単結晶円形ウェーハから切り出す切断工程と、前記略方形平板を洗浄する洗浄工程と、前記略方形平板の光透過面に反射防止膜を形成する反射防止膜形成工程と、を含むファラデー回転子の製造方法であって、
前記洗浄工程が、前記略方形平板を熱リン酸溶液中に浸漬させることを含むことを特徴とするファラデー回転子の製造方法。
[2]前記熱リン酸溶液の濃度が50~89質量%であり、かつ、温度が100℃~170℃である、前記[1]のファラデー回転子の製造方法。
[3]前記熱リン酸溶液の温度が120℃~150℃である、前記[2]のファラデー回転子の製造方法。
[4]前記略方形平板の前記熱リン酸溶液中への浸漬時間が1~10分間である、前記[1]のファラデー回転子の製造方法。
[5]前記略方形平板の前記熱リン酸溶液中への浸漬が、前記反射防止膜形成工程を行う前に少なくとも1回行われる、前記[1]~[4]のいずれかに記載のファラデー回転子の製造方法。
[6]偏光子とファラデー回転子と検光子を含んで構成される光アイソレータの製造方法であって、
前記ファラデー回転子が、前記[1]に記載の方法で作製されることを特徴とする光アイソレータの製造方法。
[7]前記熱リン酸溶液の濃度が50~89質量%であり、かつ、温度が100℃~170℃である、前記[6]に記載の光アイソレータの製造方法。
[8]前記熱リン酸溶液の温度が120℃~150℃である、前記[7]に記載の光アイソレータの製造方法。
[9]前記略方形平板の前記熱リン酸溶液中への浸漬時間が1~10分間である、前記[6]に記載の光アイソレータの製造方法。
[10]前記略方形平板の前記熱リン酸溶液中への浸漬が、前記反射防止膜形成工程を行う前に少なくとも1回行われる、前記[6]~[9]のいずれかに記載の光アイソレータの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のファラデー回転子の製造方法によれば、ファラデー回転子に付着しているワーク自体のパーティクルの除去が可能となり、高品質な反射防止膜を蒸着・形成したファラデー回転子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1の態様は、ファラデー回転子として使用する略方形平板を単結晶円形ウェーハから切り出す切断工程と、前記略方形平板を洗浄する洗浄工程と、前記略方形平板の光透過面に反射防止膜を形成する反射防止膜形成工程と、を含むファラデー回転子の製造方法であって、
前記洗浄工程が、前記略方形平板を熱リン酸溶液(加熱したリン酸溶液)中に浸漬させることを含むことを特徴とするファラデー回転子の製造方法である。
【0019】
前記製造方法において、その製造対象であるファラデー回転子は、特に限定されるものではなく、例えば、YFe12(YIG)、YAl12(YAG)、TbGa12(TGG)等のビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶で構成される。ファラデー回転子の光透過両面には、反射防止膜が施されることが多く、本発明の前記製造方法はその場合に適用されることが好適である。
【0020】
前記製造方法は、ファラデー回転子として使用する略方形平板を洗浄する洗浄工程の一つにおいて、前記略方形平板を熱リン酸溶液中に浸漬させて、切断加工や研磨加工等によりチップ表面に発生付着したワーク自体のパーティクルを溶解除去することを特徴とするものである。
【0021】
前記略方形平板を前記熱リン酸溶液中に浸漬させる際の、熱リン酸溶液の温度は、通常、100℃~170℃であり、好ましくは、110~160℃、さらに好ましくは、120℃~150℃である。熱リン酸溶液の温度が170℃を超えると、沸騰が激しくなり、前記略方形平板の溶解速度が速くなり、膜厚の調整が難しくなる。一方、100℃未満では、パーティクルの溶解速度が遅くなり、作業性が悪化する可能性が高くなる。
【0022】
前記熱リン酸溶液のリン酸(HPO)濃度は、通常、50~89質量%であり、好ましくは、70~89質量%、さらに好ましくは、80~89質量%である。熱リン酸溶液の濃度が89質量%を超えると、前記略方形平板の溶解速度が速くなり、膜厚の調整が難しくなる。一方、熱リン酸溶液の濃度が50質量%未満であると、パーティクルの溶解速度が遅くなり、作業性が悪化する可能性が高くなる。
【0023】
前記略方形平板を前記熱リン酸溶液中に浸漬させる時間は、通常、1~10分間であり、好ましくは、2~8分間、さらに好ましくは、3~6分間である。10分間を超えると、前記略方形平板が溶解されすぎてしまう可能性がある。一方、1分間未満であると、パーティクルの溶解が不十分となる可能性がある。
【0024】
前記熱リン酸溶液の溶媒は、典型的には水であるが、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール)などの溶媒を使用することもできる。これらの溶媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
前記製造方法において、前記略方形平板の前記熱リン酸溶液中への浸漬は、前記反射防止膜形成工程を行う前に少なくとも1回行うことが望ましい。前記略方形平板の光透過面に反射防止膜を形成した後では、パーティクルの溶解が不十分となり、本発明の効果を十分に享受することはできない。
【0026】
本発明の第2の態様は、偏光子とファラデー回転子と検光子を含んで構成される光アイソレータの製造方法であって、
前記ファラデー回転子が、本発明の第1の態様に係る製造方法で作製されることを特徴とする光アイソレータの製造方法である。
【0027】
前記光アイソレータの製造方法において、その製造対象である光アイソレータは特に限定されるものではなく、一般的には偏光子と検光子とファラデー回転子、及びファラデー回転子を磁気的に飽和させるための永久磁石、を含んで構成される。
【0028】
前記光アイソレータの製造方法では、前述した本発明のファラデー回転子の製造方法を適用してファラデー回転子を得、その後は、従来の方法に従って光アイソレータが製造される。その具体的態様の一例として、例えば、以下のようにして、光アイソレータが製造される。
すなわち、通例、一辺が11mm~15mmの正方形に、ダイシング装置によりウェーハから切り出されたファラデー回転子チップは、前述した本発明の第1の態様に基づく洗浄工程を含む種々の工程を経た後、ファラデー回転子として作製され、次いで、その光透過方向の両側に、前記ファラデー回転子と一辺が同サイズの正方形の偏光子と、検光子を一つずつ重ねた後、例えば、一辺が0.5mmの正方形に、ダイシング装置によりさらに刻まれる。その後、磁石が、光の透過方向に対して平行な磁界を印加するように配置される。また、必要に応じて、波長板、フィルタ等の要素を追加し、通常、筐体内に入れられて、デバイスとして光アイソレータが製造される。
【0029】
偏光子と検光子は直線偏光板であり、通常は金属微粒子を分散させたガラス平板であり、その偏光機構は金属微粒子内の伝導電子の共鳴吸収によるものである。また、偏光子と検光子は互いに素材も形状も同じとすることが一般的で、光の入射側に入れる場合が偏光子、反射や透過側に入れる場合が検光子、といいわけている。磁石は、特に限定されないが、例えば、SmCo系磁石、NdFeB系磁石が用いられる。磁石の形状は、中空形状であり、円筒形状であることが通常であり、モノリスの磁石を用いてもよいし、複数の磁石から所望の形状にしてもよい。
【実施例0030】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0031】
[実施例1]
液相エピタキシャル法により、ビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶膜を直径3インチの円形のCa、Mg、Zr等を置換したガドリニウムーガリウムーガーネット基板(SGGG基板:サンゴバン社製)上に成長させた。続いて、両面研磨加工により、前記ビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶膜の厚さを0.4mmとし、かつ、両面を鏡面化した。
次に、外周刃式ダイシング装置にて、厚さ0.1mmのダイヤモンドブレード(#600)で切断加工を行い、11mm平方のチップを、1枚のビスマス置換希土類鉄ガーネット単結晶膜から20枚得た。
【0032】
得られたチップを120℃の熱リン酸水溶液中(富士フイルム和光純薬社製、製品コード162-02177、濃度:リン酸(HPO)85.0質量%、純水15.0質量%)に5分間浸漬させて、チップに付着している切削粉や研磨粉を溶解除去した後、超音波洗浄を行った。その後、真空蒸着装置にセットして、チップ表面に反射防止膜を蒸着し、ファラデー回転子を作製した。その後、蒸着した反射防止膜を光学顕微鏡にて観察し、反射防止膜の欠落箇所の個数(平均値)を求めたところ、0個であった。
【0033】
[実施例2]
熱リン酸溶液の温度を100℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、ファラデー回転子を作製した。その後、蒸着した反射防止膜を光学顕微鏡にて観察し、反射防止膜の欠落箇所の個数(平均値)を求めたところ、1個であった。
【0034】
[実施例3]
熱リン酸溶液の温度を100℃とし、浸漬時間を6分間にしたこと以外は、実施例1と同様にして、ファラデー回転子を作製した。その後、蒸着した反射防止膜を光学顕微鏡にて観察し、反射防止膜の欠落箇所の個数(平均値)を求めたところ、0個であった。
【0035】
[実施例4]
熱リン酸溶液の温度を150℃とし、浸漬時間を3分間にしたこと以外は、実施例1と同様にして、ファラデー回転子を作製した。その後、蒸着した反射防止膜を光学顕微鏡にて観察し、反射防止膜の欠落箇所の個数(平均値)を求めたところ、0個であった。
【0036】
[実施例5]
チップ表面に反射防止膜を蒸着・形成した後に120℃の熱リン酸溶液中に5分間浸漬させたこと以外は、実施例1と同様にして、ファラデー回転子を作製した。その後、蒸着した反射防止膜を光学顕微鏡にて観察し、反射防止膜の欠落箇所の個数(平均値)を求めたところ、3個であった。
【0037】
[比較例1]
切断加工により得られたチップを120℃の熱リン酸溶液中に浸漬させるステップを実施しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、ファラデー回転子を作製した。その後、蒸着した反射防止膜を光学顕微鏡にて観察し、反射防止膜の欠落箇所の個数(平均値)を求めたところ、10個であった。
【0038】
[比較例2]
熱リン酸溶液の代わりに、加熱することなく放置した14℃のリン酸溶液としたこと以外は、実施例1と同様にして、ファラデー回転子を作製した。その後、蒸着した反射防止膜を光学顕微鏡にて観察し、反射防止膜の欠落箇所の個数(平均値)を求めたところ、8個であった。
【0039】
(結果・考察)
実施例1~4では、反射防止膜を蒸着する前に、ファラデー回転子チップを熱リン酸溶液中に浸漬させて、同チップに付着している切削粉や研磨粉を溶解除去することで、蒸着後の反射防止膜の欠落による欠陥の発生を抑えることができた。また、実施例5からは、反射防止膜を蒸着した後にファラデー回転子を熱リン酸溶液中に浸漬させて、チップに付着している切削粉や研磨粉を溶解除去できることも明らかになった。
【0040】
一方、熱リン酸溶液中に浸漬させず超音波洗浄のみを行った比較例1、及び熱リン酸溶液でないリン酸溶液を用いた比較例2では、反射防止膜蒸着後の反射防止膜の欠落による欠陥個数が多く、実施例1~4と比較して結果が劣っていた。
【0041】
以上のように、特にファラデー回転子として使用するチップの光透過面に反射防止膜を蒸着する前に、熱リン酸溶液中にチップを浸漬させてチップに付着している切削粉や研磨粉を溶解除去することで、蒸着後の反射防止膜の欠落箇所がなく、高品質な反射防止膜が形成されることがわかった。
【0042】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。