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特開2024-139021食品の保存方法及びBacillus cereusの増殖抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139021
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】食品の保存方法及びBacillus cereusの増殖抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/3463 20060101AFI20241002BHJP
   A23L 3/3526 20060101ALI20241002BHJP
   A23L 3/3571 20060101ALI20241002BHJP
   A23L 3/3508 20060101ALI20241002BHJP
   A23L 3/3418 20060101ALI20241002BHJP
   A23L 9/20 20160101ALN20241002BHJP
【FI】
A23L3/3463
A23L3/3526 501
A23L3/3571
A23L3/3508
A23L3/3418
A23L9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049790
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】渡部 晶大
(72)【発明者】
【氏名】笠谷 聡
(72)【発明者】
【氏名】石井 千恵
【テーマコード(参考)】
4B021
4B025
【Fターム(参考)】
4B021LA01
4B021LP10
4B021LW02
4B021LW04
4B021LW10
4B021MC01
4B021MK02
4B021MK07
4B021MK20
4B021MK23
4B021MP01
4B025LB20
4B025LG26
4B025LG41
4B025LG52
4B025LK04
4B025LP01
4B025LP10
(57)【要約】
【課題】
食品の味や風味に影響を与えることなく、長期の保存を可能とする新規な食品の保存方法を提供すること。
【解決手段】
リゾチームとグリシンを含む食品を、酸素濃度が2体積%未満の条件で保存することを特徴とする、食品の保存方法、及び、リゾチームとグリシンを含み、ガス置換包装されたチルド食品に添加するための、Bacillus cereus増殖抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.001~0.02質量%のリゾチームと0.1~2.0質量%のグリシンを含む食品を、酸素濃度が2体積%未満の条件で保存することを特徴とする、食品の保存方法。
【請求項2】
前記食品が、さらに有機酸塩を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機酸塩がグルコン酸ナトリウムである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記食品が、さらに、グルコノデルタラクトンを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記食品がガス置換包装内に封入されている、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記食品がチルド条件で保存される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記食品が、卵加工品、洋菓子、和菓子、野菜加工品、畜肉加工品、魚肉加工品、惣菜から選ばれる1種類又は2種類以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
Bacillus cereusの増殖が阻害された条件下で食品を保存する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
リゾチームとグリシンを含む、ガス置換包装されたチルド食品に添加するための、Bacillus cereusの増殖抑制剤。
【請求項10】
さらに、グルコン酸ナトリウム、及びグルコノデルタラクトンを含む、請求項9に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品の保存方法に関する。より詳細には、リゾチームとグリシンを含む食品を、ガス酸素濃度が2体積%未満の条件で保存することを特徴とする、食品の保存方法に関する。また、リゾチームとグリシンを含む、ガス置換包装されたチルド食品に添加するための、Bacillus cereusの増殖抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、チルド状態で長期保存が可能な調理済食品の需要が増加している。こうした調理済食品のための保存剤や包装などの保存技術の開発も活発に行われている。
【0003】
長期保存のための包装としては、包装内のガス環境を食品の品質保持のために最適化したMA(Modified Atmosphere)包装が知られている。保存料を添加した食品をMA包装内に封入すればより長期の保存が可能になる。例えば、有機酸塩、グリシン、及びビタミンB1を含む食品を、MA包装容器内に封入し、チルド状態で保存することを特徴とする、食品の保存方法が報告されている(特許文献1)。しかしながら、この方法で使用されるビタミンB1は、静菌力はあるが、食品の味や風味に悪影響を与えるという問題がある。また、グリシンはBacillus subtilis等には強い阻害作用を有するものの、食品の保存上問題となるBacillus属微生物のうち、Bacillus cereusに対する阻害作用が低いことが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
食品の風味を損なわない保存剤として、糖アルコールとリゾチームからなる食品の日持ち向上剤が知られている(特許文献2)。しかしながら、この日持ち向上剤は、30℃でBacillus subtilisやStaphylococcus aureusの増殖を抑制することが報告されているが、Bacillus cereusに対する効果は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-233144号
【特許文献2】特開2003-204776号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】駒形ほか、“グリシンによる微生物の生育阻害” 食衛誌、1968、Vol.9、No.4、p289-294
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、食品の味や風味に影響を与えることなく、長期の保存を可能とする新規な食品の保存方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、リゾチームとグリシンを含む食品を、酸素濃度が2体積%未満の条件で保存することにより、長期の保存が可能であることを見出した。特に、低酸素濃度の条件で保存することにより、リゾチームとグリシンを含むことだけでは抑制することができないBacillus cereusの増殖抑制が可能になることを見出した。
【0009】
本発明は上記の知見に基づくものであり、以下の[1]~[10]に関する。
[1]0.001~0.02質量%のリゾチームと0.1~2.0質量%のグリシンを含む食品を、酸素濃度が2体積%未満の条件で保存することを特徴とする、食品の保存方法。
[2]前記食品が、さらに有機酸塩を含む[1]に記載の方法。
[3]前記有機酸塩がグルコン酸ナトリウムである[2]に記載の方法。
[4]前記食品が、さらに、グルコノデルタラクトンを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記食品がガス置換包装内に封入されている、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記食品がチルド条件で保存される、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記食品が、卵加工品、洋菓子、和菓子、野菜加工品、畜肉加工品、魚肉加工品、惣菜から選ばれる1種類又は2種類以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]Bacillus cereusの増殖が阻害された条件下で食品を保存する、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]リゾチームとグリシンを含む、ガス置換包装されたチルド食品に添加するための、Bacillus cereusの増殖抑制剤。
[10]さらに、グルコン酸ナトリウム、及びグルコノデルタラクトンを含む、[9]に記載の剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、チルド食品等の調理済食品の風味を損なうことなく長期に保存することができる。本発明は、卵焼きやカスタードクリーム、錦糸卵などの卵加工品;生クリームやホイップクリームなどを使用した洋菓子;餡や餅などを使用した和菓子;調味のされていないサラダを含む野菜加工品;畜肉加工品;魚肉加工品及び惣菜などの繊細な風味を特徴とするチルド食品等の調理済食品の保存に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.食品の保存方法
本発明は、リゾチームとグリシンを含む食品を、酸素濃度が2体積%未満の条件で保存することを特徴とする、食品の保存方法に関する。
【0012】
食品中のリゾチームの含有量(質量%)は、好ましくは0.001~0.02%、より好ましくは0.0025~0.016%、さらに好ましくは0.005~0.01%である。
【0013】
食品中のグリシンの含有量(質量%)は、好ましくは0.1~2.0%、より好ましくは0.3~1.8%、さらに好ましくは0.5~1.5%である。
【0014】
食品中のリゾチームとグリシンの含有量比(質量比)は、限定するものではないが、リゾチーム:グリシンが1~20:100~2000、好ましくは1~8:120~720、より好ましくは1~2:100~300、さらに好ましくは1~2:150~250がよい。
【0015】
前記食品は、さらに有機酸塩を含んでいてもよい。
【0016】
前記有機酸塩は、食品に通常使用される有機酸塩であれば特に限定されず、例えば、グルコン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、乳酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酒石酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、グルコン酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、酒石酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、ソルビン酸カルシウム、グルコン酸カリウム、乳酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、酒石酸カリウム、ソルビン酸カリウム等が挙げられる。これらのうち、特にグルコン酸ナトリウムが好ましい。これは、グルコン酸ナトリウムが、他の有機酸塩と比較して静菌性は弱いものの、食味への影響が少なく、チルド食品等の調理済食品の風味を損なうことがないためである。
【0017】
本発明において、食品における有機酸塩の含有量(質量%)は、好ましくは0.01~1.0%、より好ましくは0.025~0.5%、さらに好ましくは0.05~0.25%である。
【0018】
前記食品は、さらにグルコノデルタラクトンを含んでいてもよい。また、有機酸塩とグルコノデルタラクトンを両方含んでいてもよい。
【0019】
食品中のグルコノデルタラクトンの含有量(質量%)は、好ましくは0.01~1.0%、より好ましくは0.025~0.5%、さらに好ましくは0.04~0.25%である。
【0020】
前記食品は、本発明の目的を損なわない範囲で、食品に通常使用される他の担体や添加物を含んでいてもよい。例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、溶剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、抗酸化剤、矯味剤、着色剤、緩衝剤、流動性促進剤等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0021】
本発明において、食品は保存が必要な食品であれば特に限定されないが、特に「チルド食品」が好ましい。「チルド食品」とは、チルド状態で保存することを企図して製造販売される食品を意味する。
【0022】
本明細書において、「チルド」とは、低温での冷蔵を意味し、例えば、10℃以下、好ましくは5℃以下、より好ましくは0℃~5℃での冷蔵を意味する。
【0023】
本発明の食品の保存方法は、食品の味や風味に与える悪影響が少ないため、例えば、卵焼きやカスタードクリーム、錦糸卵などの卵加工品;生クリームやホイップクリームなどを使用した洋菓子;餡や餅などを使用した和菓子;調味のされていないサラダを含む野菜加工品;畜肉加工品;魚肉加工品及び惣菜などの繊細な風味を特徴とするチルド食品等の調理済食品などに好適に使用される。
【0024】
本発明の方法は、特定のガスで包装内が置換されて流通や保存されている食品に適応しやすいため、ソーセージやから揚げを含む畜肉加工品;焼き魚を含む魚肉加工品及びパスタ、点心、調味済みサラダ、揚げ物、煮物を含む惣菜などのガス置換包装食品に好適に使用される。
【0025】
本発明は、真空包装されて流通されている食品に容易に適応することが可能なため、ハムやサラダチキンを含む畜肉加工品;風味かまぼこを含む魚肉加工品、及び黒豆、伊達巻、栗きんとんを含むおせち料理、ハンバーグ、点心、調理済みサラダ、煮物、おでんを含む惣菜などの真空包装食品等に好適に使用される。
【0026】
本発明の方法では、上述の食品を酸素濃度が2体積%未満の条件下で保存する。保存の際の酸素濃度は、好ましくは1.5体積%未満、より好ましくは1体積%未満である。酸素濃度の調整は、例えば、食品を入れた容器や包装内のガスの酸素濃度が低いガスでの置換、食品の真空包装、食品を入れた容器や包装内に脱酸素剤を入れることにより行うことができる。
【0027】
好ましくは、酸素濃度の調整には、ガス置換包装(MA(Modified Atmosphere)包装)を利用する。MA包装とは、包装内の空気を、他のガス(例えば、窒素、二酸化炭素(炭酸ガス)、アルゴン、ヘリウム等あるいはこれらの混合気)に置換して保存に最適な雰囲気にする包装方法であり、この包装により、食品等の品質保持期限を延長することができる。
【0028】
ガス置換包装のための包装としては、ガスバリア性又は酸素バリア性を有するフィルムや容器を用いた包装などが挙げられる。包装材の素材としては、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、エチレンビニルアルコール、ポリアクリルニトリルなどのプラスチック類;アルミニウム、スチール、アルミナ、シリカなどの金属、及びアルミ/PET、アルミ/CPP、アルミ蒸着PET/LDPE、OPP又はPET/アルミ蒸着CPP、シリカ蒸着PET/LDPEなどの複合材料などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0029】
換言すれば、本発明の保存方法は、ガス置換包装された食品、特にガス置換包装されたチルド食品に好適に適用することができる。また、酸素濃度調整では、脱酸素剤などを用いてもよく、食品をその包装内に脱酸素剤を含んだまま販売等してもよい。
【0030】
本発明の保存方法によれば、Bacillus cereus(セレウス菌)の増殖を抑制した状態で食品を保存することができる。Bacillus cereusは、土壌細菌のひとつで、土壌、ほこり、水中に広く分布し、食中毒菌としても知られている。Bacillus cereusは芽胞をつくる桿菌であり、この芽胞は熱や乾燥に強い抵抗性を有することから、加熱調理された食品でも生き残り、食中毒の原因となり得る。
【0031】
本発明の方法は、このセレウス菌の増殖を、リゾチームとグリシンを共存させた状態で、ガス置換包装技術と組み合わせることにより、好適に抑制することができる。
【0032】
本発明の方法によれば、チルド保存条件において、食品1g当たりの一般的なセレウス菌の増殖を、10℃で12日間の保管時点において、1000CFU/g未満、好ましくは10CFU/g未満まで抑制することができる。
【0033】
本発明の方法により、特に、低酸素濃度の条件で保存することにより、リゾチームとグリシンを含むだけでは抑制することができないBacillus cereusの増殖抑制が可能になる理由については、定かではないが、以下のように推定される。すなわち、リゾチームは、細菌の細胞壁の構成成分であるペプチドグリカンを加水分解することが知られており、グリシンは、アラニンの代わりにペプチドグリカン前駆体に取り込まれることで、細胞壁の合成を阻害することが知られている。一方、酸素や硝酸塩などの電子受容体が存在しない環境下では、Bacillus cereusを含む複数の細菌が発酵によりエネルギーを獲得するが、発酵によるエネルギー獲得は、呼吸によるエネルギー獲得と比較して、ATP合成の効率が悪くなることが知られている。つまり、リゾチームとグリシンの効果により、Bacillus cereusは、細胞壁の合成のために、より多くのATPを必要とするが、このBacillus cereusを酸素のような電子受容体の少ない環境下に置くことで、十分なATPの合成ができず、結果として、Bacillus cereusの増殖が抑制されると推定される。
【0034】
2.Bacillus cereusの増殖抑制剤
本発明は、Bacillus cereusの増殖抑制剤も提供することができる。本発明のBacillus cereusの増殖抑制剤は、リゾチームとグリシンを含み、ガス置換包装されたチルド食品に添加して使用される。
【0035】
本発明のBacillus cereusの増殖抑制剤は、さらに有機酸、好ましくははグルコン酸ナトリウムを含んでいてもよい。また、前記剤はさらにグルコノデルタラクトンを含んでいてもよい。
【0036】
本発明のBacillus cereusの増殖抑制剤が添加される食品やガス置換包装については、「1.食品の保存方法」に記載したとおりである。
【0037】
本発明のBacillus cereusの増殖抑制剤は、食品中のリゾチーム及びグリシンの含有量(質量%)が、「1.食品の保存方法」に記載した含有量(質量%)、あるいは含有量比(質量比)となるように食品に添加される。有機酸(好ましくははグルコン酸ナトリウム)及びグルコノデルタラクトンについても、同様に、「1.食品の保存方法」に記載した含有量(質量%)となるように食品に添加される。
【0038】
本発明のBacillus cereusの増殖抑制剤の使用(添加)により、チルド保存条件において、食品1g当たりの一般的なセレウス菌の増殖を、10℃で12日間の保管時点において、1000CFU/g未満、好ましくは10CFU/g未満まで抑制することができる。
【実施例0039】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
<培地の調製>
無菌的に調製したTrypticase Soy Broth(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製)にリゾチーム・グリシン製剤(他にグルコン酸ナトリウム、グルコノデルタラクトンを含む)であるアミカノンTM-SR(三菱ケミカル株式会社製)を、リゾチームの終濃度が0.032質量%、グリシンの終濃度が5.7質量%となるように混合し、このうち190μLをマイクロプレートのセルに分注した。さらに、分注した混合液のうち95μLを別のセルに分注し、Trypticase Soy Broth95μLと等量混合した。この操作を繰り返し、混合液を2、4、8、16、32、64倍希釈し、培地とした。
【0041】
<菌液の調製と接種>
Bacillus cereus NBRC15305を標準寒天培地(日水製薬株式会社製)にて35℃で24時間培養後、リン酸緩衝生理食塩水で1.0×107CFU/mLとなるように希釈し、菌液とした。この菌液をマイクロプレート上の培地95μLに5μLずつ分注し、混合した。
【0042】
<封入体の作製>
培地と菌液を分注したマイクロプレートを脱酸素剤アネロパック・ケンキ(株式会社スギヤマゲン製)と共にパウチ袋(中)(株式会社スギヤマゲン製)に入れ、クリップにて封をし、封入体を作製した。作製した封入体は、封入24時間後に封入体内の雰囲気の酸素濃度を測定し、酸素濃度が1体積%未満であることを確認した。
【0043】
<培養と判定>
作製した封入体を35℃で48時間培養した。培養後の封入体からマイクロプレートを取り出し、目視で菌の発育を確認した。菌の発育は、菌の混濁又は沈殿が認められない場合、沈殿があっても沈殿塊の直径が1mm未満で1個の場合を、発育が認められなかったと判定した。発育が認められなかった最小の濃度を最小発育阻止濃度(MIC)とした。結果を表1に示す。
【0044】
[比較例1]
<培地の調製>
無菌的に調製したTrypticase Soy Brothにリゾチームのみを終濃度0.04質量%となるように混合し、このうち190μLをマイクロプレートのセルに分注した。さらに、分注した混合液のうち95μLを別のセルに分注し、Trypticase Soy Broth95μLと等量混合した。この操作を繰り返し、混合液を2、4、8、16、32、64倍希釈し、培地とした。
【0045】
<菌液の調製と接種>
Bacillus cereus NBRC15305を標準寒天培地(日水製薬株式会社製)にて35℃で24時間培養後、リン酸緩衝生理食塩水で1.0×107CFU/mLとなるように希釈し、菌液とした。この菌液をマイクロプレート上の培地95μLに5μLずつ分注し、混合した。
【0046】
<封入体の作製>
培地と菌液を分注したマイクロプレートをパウチ袋(中)(株式会社スギヤマゲン製)に入れ、クリップにて封をし、封入体を作製した。作製した封入体は、封入24時間後に封入体内の雰囲気の酸素濃度を測定し、大気中の酸素濃度と相違が無いことを確認した。
【0047】
<培養と判定>
作製した封入体を35℃で48時間培養した。培養後の封入体からマイクロプレートを取り出し、目視で菌の発育を確認した。菌の発育は、菌の混濁又は沈殿が認められない場合、沈殿があっても沈殿塊の直径が1mm未満で1個の場合を、発育が認められなかったと判定した。発育が認められなかった最小の濃度を最小発育阻止濃度(MIC)とした。結果を表1に示す。
【0048】
[比較例2]
リゾチームの代わりに、グリシンを終濃度6.4質量%となるように無菌的に調製したTrypticase Soy Brothに混合したこと以外は比較例1と同様に、培地の調製、菌液の調製と接種、封入体の作製、培養と判定を行なった。結果を表1に示す。
【0049】
[比較例3]
リゾチームの代わりに、アミカノンTM-SRをリゾチームの終濃度が0.032質量%、グリシンの終濃度が5.7質量%となるように無菌的に調製したTrypticase Soy Brothに混合したこと以外は比較例1と同様に、培地の調製、菌液の調製と接種、封入体の作製、培養と判定を行なった。結果を表1に示す。
【0050】
[比較例4]
アミカノンTM-SRを混合せず、無菌的に調製したTrypticase Soy Brothのみを培地として用いたこと以外は実施例1と同様に、培地の調製、菌液の調製と接種、封入体の作製、培養と判定を行なった。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1の結果から、リゾチームとグリシンと低酸素濃度の包装を組み合わせた実施例1は、大気雰囲気の包装でリゾチーム又はグリシンを単独で使用した比較例1及び比較例2では阻止できなかった、B.cereus NBRC15305の発育を阻止していた。
【0053】
実施例1は、リゾチームとグリシンの濃度が各々比較例3の4分の1以下であるにもかかわらず、B.cereus NBRC15305の発育を阻止した。また、低酸素濃度の包装でリゾチームとグリシンを使用しなかった比較例4では、B.cereus NBRC15305の良好な発育が見られた。
【0054】
[実施例2]
<カスタードクリームの作製>
薄力粉13.8g、グラニュー糖36.9g、アミカノンTM-SR3.0gを混合し、次いで液卵65.4gを添加し、混合した。これに牛乳180.9gを添加し、さらに混合した。この混合物を電子レンジ内に移し、700Wで20秒間加熱後に取り出し、混合した。加熱した混合物をふたたび電子レンジ内に移し、700Wで20秒間加熱後に取り出し、混合した。この混合物の電子レンジ内での700W・20秒間の加熱と混合を、加熱時間の合計が180秒間になるまで繰り返した。合計180秒間加熱後の混合物を冷蔵庫内で冷却し、これをカスタードクリームとした。なお、カスタードクリーム中のリゾチームの濃度は0.005質量%、グリシンの濃度は0.89質量%であった。
【0055】
<包装体の作製>
得られたカスタードクリーム25gを専用のトレーに取り分け、トレーシーラーT100(ムルチバック社製)にて包装体内の雰囲気の酸素濃度が1体積%未満、二酸化炭素濃度が20体積%程度、残りが窒素となるようにガス置換包装した。作製した包装体は、包装12日後に包装体内の雰囲気の酸素濃度を測定し、酸素濃度が1体積%未満であることを確認した。
【0056】
<菌液の調製と接種>
B.cereus NBRC15305を標準寒天培地にて35℃で24時間培養後、リン酸緩衝生理食塩水で1.0×102CFU/mLとなるように希釈し、菌液とした。得られた包装体に、この菌液を終濃度1.0CFU/g程度になるように接種し、10℃で12日間保管した。
【0057】
<生菌数の測定と評価>
保管12日後のカスタードクリーム10gをストマッカー袋に入れ、このストマッカー袋にリン酸緩衝生理食塩水90mLを加え、60秒間ストマッキングし、これを試料懸濁液とした。試料懸濁液を必要に応じてリン酸緩衝生理食塩水で段階希釈後、卵黄加NGKG寒天培地に塗布し、30℃で24時間培養した。なお、卵黄加NGKG寒天培地は、NGKG寒天基礎培地(日水製薬株式会社製)に20質量%卵黄液を10質量%の割合で混合し、シャーレに分注して作製した。寒天培地上に生育した周縁不規則で白色の光沢のない外観で、周囲の培地が濁った赤色であるコロニーの数をセレウス菌数とし、下記基準で評価した。結果を表2に示す。
◎:セレウス菌数1.0×101CFU/g未満
〇:セレウス菌数1.0×101CFU/g以上1.0×103CFU/g未満
△:セレウス菌数1.0×103CFU/g以上1.0×105CFU/g未満
×:セレウス菌数1.0×105CFU/g以上
【0058】
[比較例5]
<カスタードクリームの作製>
薄力粉13.8g、グラニュー糖36.9gを混合し、次いで液卵65.4gを添加し、混合した。これに牛乳180.9gを添加し、さらに混合した。この混合物を電子レンジ内に移し、700Wで20秒間加熱後に取り出し、混合した。加熱した混合物をふたたび電子レンジ内に移し、700Wで20秒間加熱後に取り出し、混合した。この混合物の電子レンジ内での700W・20秒間の加熱と混合を、加熱時間の合計が180秒間になるまで繰り返した。合計180秒間加熱後の混合物を冷蔵庫内で冷却し、これをカスタードクリームとした。
【0059】
<包装体の作製>
得られたカスタードクリーム25gを専用のトレーに取り分け、トレーシーラーT100にて包装体内の雰囲気を調整せずに包装した。作製した包装体は、包装12日後に包装体内の酸素濃度を測定し、酸素濃度が大気中の酸素濃度と相違が無いことを確認した。
【0060】
<菌液の調製と接種>
B.cereus NBRC15305を標準寒天培地にて35℃で24時間培養後、リン酸緩衝生理食塩水で1.0×102CFU/mLとなるように希釈し、菌液とした。得られた包装体に、この菌液を終濃度1.0CFU/g程度になるように接種し、10℃で12日間保管した。
【0061】
<生菌数の測定と評価>
保管12日後のカスタードクリーム10gをストマッカー袋に入れ、このストマッカー袋にリン酸緩衝生理食塩水90mLを加え、60秒間ストマッキングし、これを試料懸濁液とした。試料懸濁液を必要に応じてリン酸緩衝生理食塩水で段階希釈後、卵黄加NGKG寒天培地に塗布し、30℃で24時間培養した。寒天培地上に生育した周縁不規則で白色の光沢のない外観で、周囲の培地が濁った赤色であるコロニーの数をセレウス菌数とし、下記基準で評価した。結果を表2に示す。
◎:セレウス菌数1.0×101CFU/g未満
〇:セレウス菌数1.0×101CFU/g以上1.0×103CFU/g未満
△:セレウス菌数1.0×103CFU/g以上1.0×105CFU/g未満
×:セレウス菌数1.0×105CFU/g以上
【0062】
[比較例6]
カスタードクリームにアミカノンTM-SR3.0gを混合したこと以外は、比較例5と同様に、カスタードクリームの作製、包装体の作製、菌液の調製と接種、生菌数の測定と評価を行なった。なお、カスタードクリーム中のリゾチームの濃度は0.005質量%、グリシンの濃度は0.89質量%であった。結果を表2に示す。
【0063】
[比較例7]
包装体内の酸素濃度が1%未満、二酸化炭素濃度が20体積%程度、残りが窒素となるように包装し、包装12日後に包装体内の雰囲気の酸素濃度が1体積%未満であることを確認したこと以外は、比較例5と同様に、カスタードクリームの作製、包装体の作製、菌液の調製と接種、生菌数の測定と評価を行なった。結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2の結果から、リゾチームとグリシンと低酸素濃度の包装を組み合わせた実施例2は、大気雰囲気の包装でリゾチームとグリシンを使用していない比較例5や大気雰囲気の包装でリゾチームとグリシンを使用した比較例6、低酸素濃度の包装でリゾチームとグリシンを使用していない比較例7よりもセレウス菌数の増加が大幅に少なかった。
【0066】
また、大気雰囲気の包装でリゾチームとグリシンを使用した比較例6は、大気雰囲気の包装でリゾチームとグリシンを使用していない比較例5とセレウス菌数の違いはあるものの、保管期間内の食品の安全を保つのに十分ではなかった。
【0067】
さらに、低酸素濃度の包装でリゾチームとグリシンを使用していない比較例7は、大気雰囲気の包装でリゾチームとグリシンを使用していない比較例5とセレウス菌数の大きな違いはなかった。
【0068】
よって、リゾチームとグリシンと低酸素濃度の包装を組み合わせた実施例2が、比較例5、比較例6及び比較例7よりもB.cereus NBRC15305の発育を阻止するのに有効であることが確認された。
【0069】
以上の結果より、本発明の食品の保存方法により、B.cereus NBRC15305の発育を阻止することができ、本発明の食品の保存方法が食品の長期保存を可能とすることが裏付けられた。また、本発明のBacillus cereusの増殖抑制剤により、Bacillus cereusの増殖が抑制されることが裏付けられた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、卵加工品、洋菓子、和菓子、野菜加工品、畜肉加工品、魚肉加工品、惣菜などを含むチルド食品などの調理済食品などの食品の保存に有用である。
【0071】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。