(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139166
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】プラスチックの分解方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/16 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
C08J11/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049985
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】福本 和貴
(72)【発明者】
【氏名】近藤 晃
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA08
4F401AA09
4F401AA10
4F401CA70
4F401CB08
4F401CB09
4F401EA43
4F401EA48
4F401FA01Z
(57)【要約】
【課題】プラスチックを原料として、有用な低分子の有機物を効率よく得ることができる
プラスチックの分解方法を提供する。具体的には、プラスチックを原料として分解反応を
行い、結晶性メタロシリケートの結晶性を維持したまま、プラスチックの炭化が抑制され
つつ、分解物、特に低分子の有機物を収率よく得ることができるプラスチックの分解方法
を提供する。
【解決手段】結晶性メタロシリケート及び亜臨界又は超臨界状態の水酸基を有さない処理
媒体の存在下で、プラスチックを加熱して分解することを特徴とするプラスチックの分解
方法により解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性メタロシリケート及び亜臨界又は超臨界状態の水酸基を有さない処理媒体の存在
下で、プラスチックを加熱して分解することを特徴とするプラスチックの分解方法。
【請求項2】
前記加熱温度が300℃以上550℃以下である、請求項1に記載のプラスチックの分
解方法。
【請求項3】
前記結晶性メタロシリケートが、ゼオライト及び/又はガロシリケートを含む、請求項
1又は2に記載のプラスチックの分解方法。
【請求項4】
前記結晶性メタロシリケートがMFI構造を有する、請求項1又は2に記載のプラスチ
ックの分解方法。
【請求項5】
前記分解で得られる分解物が炭素数2以上12以下の有機物を45wt%以上含む、請
求項1又は2に記載のプラスチックの分解方法。
【請求項6】
前記分解で得られる分解物が、ベンゼン、トルエン及びキシレンからなる群の少なくと
も1種類以上を1wt%以上含む、請求項1又は2に記載のプラスチックの分解方法。
【請求項7】
前記プラスチックがポリエチレン及び/又はポリプロピレンを含む、請求項1又は2に
記載のプラスチックの分解方法。
【請求項8】
前記処理媒体が二酸化炭素である、請求項1又は2に記載のプラスチックの分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチックの分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油由来のプラスチックは、優れた加工性、耐熱性、導電性、透明性、耐薬品性などか
ら様々な用途に使用されている一方で、その廃棄量は世界全体で年々増加している。廃プ
ラスチックは、性質の異なるプラスチックが混在していることや異物に汚染されているこ
となどもあって、PETボトルなどマテリアルリサイクルの進んでいる一部のプラスチッ
クを除き、使用後は焼却や埋立処理されているのが現状である。そのため、廃プラスチッ
クを化学原料として再利用するケミカルリサイクルが求められている。ケミカルリサイク
ルの方法としては、無酸素状態でプラスチックを加熱分解する熱分解法や触媒を用いた接
触分解法などが挙げられるが、その一つとして超臨界域の処理媒体とプラスチックを混合
し、分解する超臨界分解法が近年注目されている。超臨界分解法は処理媒体を熱媒として
直接プラスチックに浸透して昇温するため、プラスチックの加熱ムラを抑制し、好ましく
ない重炭素質の生成を低減できるという利点がある。特許文献1では、ポリオレフィンを
反応器内で超臨界域の水と接触、反応せしめ、油化する方法について開示されている。ま
た、特許文献2ではプラスチックなどの有機物質を水素活性化金属からなる金属触媒及び
酸化剤の存在下で亜臨界水または超臨界水を接触させ、水素を含むガスに変換する方法が
示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06―279762号公報
【特許文献2】特開2009-30071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で得られる生成物は主に炭素数が10~30程度のパラフィン、オレフィン
系炭化水素であり、得られた生成物を直接使用する場合は燃料などに用途が限定され、ナ
フサクラッカーの原料として使用する場合も得られた生成物のナフサ分の選択率が悪いと
いった課題がある。
特許文献2に開示される技術は生成物として、水素やメタンなどの軽質な炭化水素系ガ
スが得られ、得られた軽質炭化水素系ガスの用途は限られる、という課題がある。また、
高温状態の水を用いるため、使用できる触媒は耐水性を有するものに限られる。
より経済性のあるプラスチックのケミカルリサイクルを実現するためには、プラスチッ
クを需要の高い化学品に直接誘導することやナフサクラッカーの原料となる成分への高選
択的な変換など、プラスチックから有用な化学品を効率よく製造する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、結晶性メタロシリケートおよ
び亜臨界又は超臨界状態の水酸基を有さない処理媒体の存在下でプラスチックを分解させ
ることで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
[1]結晶性メタロシリケート及び亜臨界又は超臨界状態の水酸基を有さない処理媒体の
存在下で、プラスチックを加熱して分解することを特徴とするプラスチックの分解方法。
[2]前記加熱温度が300℃以上550℃以下である、上記[1]に記載のプラスチッ
クの分解方法。
[3]前記結晶性メタロシリケートが、ゼオライト及び/又はガロシリケートを含む、上
記[1]又は[2]に記載のプラスチックの分解方法。
[4]前記結晶性メタロシリケートがMFI構造を有する、上記[1]~[3]のいずれ
かに記載のプラスチックの分解方法。
[5]前記分解で得られる分解物が炭素数2以上12以下の有機物を45wt%以上含む
、上記[1]~[4]のいずれかに記載のプラスチックの分解方法。
[6]前記分解で得られる分解物が、ベンゼン、トルエン及びキシレンからなる群の少な
くとも1種類以上を1wt%以上含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載のプラスチ
ックの分解方法。
[7]前記プラスチックがポリエチレン及び/又はポリプロピレンを含む、上記[1]~
[6]のいずれかに記載のプラスチックの分解方法。
[8]前記処理媒体が二酸化炭素である、上記[1]~[7]のいずれかに記載のプラス
チックの分解方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのプラスチックを原料として、有用な低
分子の有機物を効率よく得ることができるプラスチックの分解方法を提供することを目的
とするものである。具体的には、プラスチックを原料として分解反応を行い、結晶性メタ
ロシリケートの結晶性を維持したまま、プラスチックの炭化が抑制されつつ、分解物、特
に低分子の有機物を収率よく得ることができるプラスチックの分解方法を提供することが
できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係るプラスチック分解で用いられるバッチ式の分解装置を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るプラスチック分解で用いられる半流通式の分解装置を示す模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るプラスチック分解で用いられる半流通式の分解装置を構成する反応管を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、以下の説明は、本発明の実施態
様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定され
ない。また、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値
として含むことを意味する。
【0010】
<プラスチックの分解方法>
本発明のプラスチックの分解方法は、結晶性メタロシリケートと、亜臨界又は超臨界状
態の水酸基を有さない処理媒体の存在下で、プラスチックを分解し有機物を得ることを特
徴とする。
【0011】
<処理媒体>
亜臨界又は超臨界状態の水酸基を有さない処理媒体(例えば、これに限られないが、超
臨界状態の二酸化炭素やオクタンなどの超臨界状態の炭化水素が挙げられる。)を用いる
ことで、プラスチックを効率的に分解させることができる。本発明で亜臨界又は超臨界状
態の水酸基を有さない処理媒体を用いる優位性としては以下の点が挙げられる。
1)亜臨界又は超臨界流体は界面張力が小さく、また液体に比べて低粘性、高拡散性であ
るため形状や性質が多種多様であるプラスチックに対して良好に浸透することができる。
2)動粘度が気体、液体よりも小さいためわずかな温度差による熱対流が起こりやすく、
プラスチックを均一に加熱し、過熱による固形物の生成を抑制することができる。3)熱
伝達率が気体よりも大きいため、結晶性メタロシリケートなどのミクロ孔で発熱反応や吸
熱反応が生じた際に速やかに加熱もしくは除熱を行い、反応温度を安定させることができ
る。4)低極性有機物に対する溶解度が気体よりも大きいため、結晶性メタロシリケート
などの固体触媒表面で有機物生成を伴う化学反応が起こる場合に生成物が都度処理媒体に
溶解するため、好ましくない触媒表面でのコーキングを抑制することができる。5)結晶
性メタロシリケートに含まれる3価の元素は高温下で水や水が生成する反応場に曝すとそ
の一部が脱離してしまい、触媒活性が低下することが知られているが、水酸基を有さない
処理媒体であれば安定的に運用することができる。
【0012】
1つの実施形態として、処理媒体が二酸化炭素である場合には以下の優位性が挙げられ
る。
1)二酸化炭素は無極性であるため、低極性の有機物を良好に溶解することができる。
2)二酸化炭素はそれ自体の活性が低いため、水やアルコールを処理媒体として用いた場
合と異なり、処理媒体自体が反応し、望ましくない含酸素化合物を生成することを抑制す
ることができる。3)二酸化炭素は常圧、常温に戻すことで気化するため、処理媒体の分
離が容易である。そのため水を処理媒体として用いた場合と異なり、廃水処理が不要とな
る。4)安価な不活性処理媒体として二酸化炭素と窒素が挙げられるが、二酸化炭素は窒
素と比較して熱容量が大きいため、熱媒としてプラスチックを昇温させる性能に優れる。
5)二酸化炭素は窒素と比較してガス爆発の予防対策としての効果が大きいため、安全性
に優れる。6)二酸化炭素の臨界温度は窒素の臨界温度よりも高いため、貯蔵に必要なエ
ネルギーが少ない。7)二酸化炭素を処理媒体としてプラスチックを分解した際に生成し
たメタンやエタンなどの軽質炭化水素は、燃焼させることで水と二酸化炭素になるため、
水を分離することで処理媒体として容易に再利用することができる。
【0013】
また、別の実施形態として、処理媒体が炭化水素の場合には以下の優位性が挙げられる
。
1)炭化水素はプラスチックを分解した際の生成物に含有されるため、蒸留などにより
生成物から容易に分離することができ、処理媒体としてリサイクルすることができる。2
)炭化水素は酸素原子を含まないため、水やアルコールを処理媒体として用いた場合と異
なり、処理媒体自体が反応した場合も、望ましくない含酸素化合物を生成することが無い
。
【0014】
なお、ここで「超臨界状態の二酸化炭素」とは、圧力が二酸化炭素の臨界圧力以上であ
り、かつ温度が臨界温度以上である二酸化炭素を指す。二酸化炭素の臨界圧力は7.38
MPaであり、臨界温度は31.1℃である。また、「亜臨界状態の二酸化炭素」とは圧
力が二酸化炭素の臨界圧力以上であり、かつ温度がわずかに臨界温度未満である状態の二
酸化炭素、或いは圧力がわずかに二酸化炭素の臨界圧力未満であり、かつ温度が臨界温度
以上である状態の二酸化炭素、又は温度が臨界温度未満及び圧力が臨界圧力未満ではある
が、これに近い状態の二酸化炭素を指す。
【0015】
また、ここで「超臨界状態の炭化水素」とは、圧力が臨界圧力以上であり、かつ温度が
臨界温度以上である状態の炭化水素を指す。炭化水素の臨界圧力、臨界温度は炭化水素の
種類によって異なる。また、「亜臨界状態の炭化水素」とは圧力が炭化水素の臨界圧力以
上であり、かつ温度がわずかに臨界温度未満である状態の炭化水素、或いは圧力がわずか
に炭化水素の臨界圧力未満であり、かつ温度が臨界温度以上である状態の炭化水素、又は
温度が臨界温度未満及び圧力が臨界圧力未満ではあるが、これに近い状態の炭化水素を指
す。
【0016】
<プラスチックを加熱して得られた分解物>
本発明において、プラスチックを加熱して得られた分解物として有機物を指す。有機物
の炭素数は特に限定されないが、炭素数が2以上12以下の有機物を45wt%以上含む
ことが好ましい。より好ましくは50wt%以上であり、さらに好ましくは60wt%以
上である。また上限はなく、100wt%でもよい。
前記炭素数が2以上12以下の有機物(以下、低分子有機物と表すことがある)とは、
炭素数が2から12の、飽和脂肪族炭化水素、不飽和脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素を
指す。上記範囲内の炭素数を有する炭化水素は化学品原料としての需要が多い。本発明で
得られる分解物としては以上の定義に当てはまるものの範囲で特に限定されないが、例え
ばエタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカ
ン、ウンデカン、ドデカンなどの飽和脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン
、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロウンデカン、
シクロドデカンなどの環状構造を持つ飽和脂肪族炭化水素;エチレン、プロピレン、ブテ
ン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン
などの不飽和脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、エ
チルベンゼン、エチルトルエン、トリエチルベンゼンなどの芳香族炭化水素が挙げられる
。また上記の炭化水素に分岐や官能基があってもよい。
本発明の分解物は、化学品原料としての需要が高いベンゼン、トルエン及びキシレンか
らなる群の少なくとも1種類以上を1wt%以上含むと好ましく、3wt%以上含むとよ
り好ましく、5wt%含むとさらに好ましい。また、上限はなくこれらが100wt%で
あってもよい。
【0017】
<原料>
本発明で原料として用いられるプラスチックとしては、本発明の効果を奏するものであ
れば特に制限はなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジ
エン、ポリ4-メチル-1-ペンテンなどのポリオレフィン;ポリスチレン、ポリメタク
リル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロ
ニトリル、エチレンビニルアルコール共重合樹脂などの付加重合ポリマー;ポリカーボネ
ート、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエー
テルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどの重縮合ポリマーが挙げられる。また、こ
れらのプラスチックは共重合していてもよい。また、これらのプラスチックは混合してい
てもよく、その形態もフィルム、チューブなど成形加工されたものであってもよい。また
、これらのプラスチックのうち、低分子の有機物の収率を上げる観点からポリオレフィン
及び/又はポリスチレンが含まれていることが好ましい。
【0018】
ポリオレフィン及び/又はポリスチレンの含有量は特に限定されないが、低分子有機物
の収率が高くなるという観点からプラスチック中にポリオレフィン及び/又はポリスチレ
ンを30wt%以上含むことが好ましく、50wt%以上含むことがより好ましく、70
wt%以上含むことがさらに好ましい。また上限は特に限定されず、全てポリオレフィン
及び/又はポリスチレンであってもよい。
ポリオレフィンの中でも、産業・家庭廃棄物として多く排出されているポリエチレン及
びポリプロピレン、同様の理由でポリスチレンから選ばれる少なくとも一種を含むことが
好ましい。すなわち、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンのどれか一つを含ん
でいてもよく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンのどれか二つもしくは全て
を含んでいてもよい。
【0019】
<結晶性メタロシリケート>
本発明の結晶性メタロシリケートは、触媒として用いられる。結晶性メタロシリケート
は特に限定されず、例えばゼオライト、ガロアルミノシリケート、ガロシリケート、ボロ
シリケート、チタノシリケート、バナドシリケート、アルミノフェリシリケート、フェリ
シリケートなどが挙げられる。中でも触媒活性が高いことから好ましくはゼオライト、ガ
ロアルミノシリケート、ガロシリケート、ボロシリケートが挙げられ、さらに好ましくは
ゼオライト、ガロシリケートが挙げられる。
【0020】
<結晶性メタロシリケートの構造>
本発明で用いられる結晶性メタロシリケートの骨格構造は、特に限定されず、国際ゼオ
ライト学会(International Zeolite Association;
以降これを「IZA」と呼ぶ。)が規定するアルファベット大文字3個のコードで表すも
のとして、例えば、LTA構造、FAU構造、MFI構造、MWW構造、BEA構造、C
HA構造などが挙げられる。中でも触媒活性が高いことから、好ましくはMFI構造、M
WW構造、CHA構造が挙げられ、さらに好ましくはMFI構造が挙げられる。
【0021】
<結晶性メタロシリケートの形状>
結晶性メタロシリケートはそのまま触媒として反応に用いてもよいし、反応に不活性な
物質やバインダーを用いて成形して、あるいはこれらを混合して反応に用いてもよい。成
形体とすることで触媒の強度や耐摩耗性を向上することができる。バインダーの成分とし
ては、特に限定されないが、アルミナや粘土などが挙げられる。
【0022】
<結晶性メタロシリケートの組成>
結晶性メタロシリケートのSiO2/M2O3(ただし、MはAl、Ga、B、Ti、
V、Feなどの3価の元素を示し、これらの元素は単独であってもよいし複数組み合わせ
ていてもよい。)モル比は、触媒に十分な耐久性を付与できる点から下限は5以上が好ま
しく、10以上であるとさらに好ましい。また、上限は2000以下が好ましく、100
0以下であるとさらに好ましい。SiO2/M2O3モル比が上記上限以下であることで
、プラスチックの分解率が向上する。
【0023】
<結晶性メタロシリケートのカチオン種>
本発明で用いられる結晶性メタロシリケート骨格中のイオン交換サイトは、通常プロト
ンやアンモニウムなどのカチオンが存在し、それぞれプロトン型、アンモニウム型と呼称
されている。本発明ではプロトン型でもアンモニウム型でもよいが、プロトン型が好適に
用いられる。アンモニウム型を焼成してプロトン型としてもよい。また、イオン交換サイ
トの一部が周期表第Ia族のNaやK、周期表IIa族のMg、Ca、周期表IIIb族
のB、Al、Ga、遷移元素のTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、
Moなどといった金属元素に交換されていてもよい。中でも触媒活性が高いことからB、
Ga、Fe、Co、Ni、Cu、Znが好ましく、B、Ga、Znがさらに好ましい。ま
た、これらの元素は単独で用いてもよいし複数組み合わせて用いてもよい。イオン交換の
手法は液相イオン交換法や固相イオン交換法が挙げられる。
【0024】
<結晶性メタロシリケートへの担持>
また、結晶性メタロシリケートを担体として、周期表第Ia族のNaやK、周期表II
a族のMgやCa、周期表IIIb族のB、Al、Ga、遷移元素のTi、V、Cr、M
n、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Moなどといった金属元素を担持してもよく、中で
も触媒活性が高いことからB、Ga、Fe、Co、Ni、Cu、Znが好ましく、B、G
a、Znがさらに好ましい。また、これらの元素は単独で用いてもよいし複数組み合わせ
て用いてもよい。金属を担持する場合は、含浸担持法、イオン交換法、析出沈殿法、ポア
フィリング法、incipient-wetness法、スプレー担持法などを用いるこ
とが可能であり、そのほか、物理混合法や共沈法などが用いられる。中でも含浸担持法や
イオン交換法は、簡便でプロセスの負荷が低いため好ましい。また、含浸担持法で調製す
る場合は担持金属の吸着速度の差を利用して金属分布を均一分布型、egg shell
型、egg white型、egg yolk型になるようにしてもよい。
【0025】
<加熱温度>
プラスチックを加熱して分解する際の反応器内の温度は、本発明の効果を奏する範囲で
あれば特に限定されないが、300℃以上550℃以下の範囲であることが好ましい。反
応器内の温度が300℃以上であると、十分にプラスチックの分解反応が進む。以上の観
点から反応器内の温度は、350℃以上であることがより好ましく、400℃以上である
ことがさらに好ましく、425℃以上であることが特に好ましい。一方、上限値について
は、炭素数2以上の有機物の収率を高く維持する点から500℃以下であることがより好
ましく、475℃以下であることがさらに好ましい。
【0026】
<反応圧力>
プラスチックを分解する際の反応圧力は、本発明の効果を奏する範囲であれば特に限定
されないが、処理媒体が二酸化炭素の場合は5.0MPa以上50MPa以下の範囲であ
ることが好ましい。分解圧力が5.0MPa以上であると、二酸化炭素の密度は常圧の数
十倍になるためプラスチック分解物を良好に溶解することができる。以上の観点から分解
圧力は5.5MPa以上であることがより好ましく、6.0MPa以上であることがさら
に好ましい。
【0027】
<反応時間>
プラスチックをバッチ式の分解装置で分解させる際の反応時間としては、本発明の効果
を奏する範囲で特に限定されないが、1分~300分、より好ましくは2分~150分、
さらに3分~100分、特に5分~60分の範囲であることが好ましい。反応時間がこの
範囲であると、過剰な分解や再結合が抑制され、油分の高い収率が維持される。なお、流
通式や半流通式の分解装置でプラスチックを分解させる場合、充填する結晶性メタロシリ
ケート量や分解して得られる目的生成物によって任意に反応時間を定めることができる。
【0028】
<水素化>
本発明のプラスチックの分解反応では、水素、水素供与可能な物質を加えてもよい。水
素、水素供与可能な物質を導入することで分解反応の生成物を連続的に水素化することが
できる。この際、亜臨界および超臨界流体は任意の割合で水素を溶解するだけでなく、分
解物と水素ガスの間で相分離が無く均一相を形成できるため、大きな反応速度を得られる
場合が多い。水素供与可能な物質は、水素を供与できる物質であれば特に限定されないが
、例えば、水;メタノール、エタノールなどのアルコール;ヘキサン、オクタンなどの炭
化水素;テトラリン、ジヒドロアントラセンなどの多環状炭化水素などが挙げられる。な
お、水やアルコールなどの水酸基を有する物質を添加する場合、その投入量の上限は溶媒
に対して5wt%であることが好ましい。投入量が上記上限値以下であることで結晶性メ
タロシリケートの活性が維持される。
【0029】
<助剤>
本発明のプラスチックの分解反応では、生成物と処理媒体の分子間相互作用を高めるた
めに1種類以上の助剤を加えてもよい。助剤には一般的に極性物質が用いられる。助剤と
しては、生成物と処理媒体の分子間相互作用を高める効果を有する物質であれば、特に限
定されないが、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール;
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケト
ン;酢酸、ギ酸などのカルボン酸;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル
、ギ酸エチルなどのエステル;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒド
ロフラン、メチルtert-ブチルエーテルなどのエーテル;アセトニトリル、アクリロ
ニトリルなどのニトリル;エチレンジアミン、ピリジンなどのアミンなどが挙げられる。
なお、水やアルコールなどの水酸基を有する物質を添加する場合、その投入量の上限は溶
媒に対して5wt%であることが好ましい。投入量が上記上限値以下であることで結晶性
メタロシリケートの活性が維持される。
【0030】
<装置>
次に、プラスチック分解装置を用いたプラスチックの分解方法を説明するが、装置など
はこれに限定されるものではない。
図1は本発明の一実施形態に係るプラスチック分解で用いられるバッチ式の分解装置を
示す模式図である。
図2は本発明の一実施形態に係るプラスチック分解で用いられる半流
通式の分解装置を示す模式図である。
図3は本発明の一実施形態に係るプラスチック分解
で用いられる半流通式の分解装置を構成する反応管を示す模式図である。図中、10aは
窒素ガスボンベ、10bは二酸化炭素ボンベ、11aと11bと11cと11dはバルブ
、12は高圧ポンプ、13は圧力計、14は樹脂や結晶性メタロシリケートといった固形
物の下流側への流出を防ぐための金属メッシュのフィルター、15は高圧容器、16は熱
電対を備えた温度コントローラー、17は電気炉、18は冷却器、19はガスバック、2
1aは窒素ガスボンベ、21bは二酸化炭素ボンベ、22aと22bと22cはバルブ、
23は高圧ポンプ、24は圧力計、25は予熱管、26は逆止弁、27は反応管、28は
熱電対を備えた温度コントローラー、29は電気炉、30は冷却器、31は背圧弁、32
は冷却トラップ瓶、33は湿式ガスメーター、34はガスバック、41は熱電対を挿入で
きるように3方向に開口部がある反応管、42は樹脂や結晶性メタロシリケートといった
固形物の下流側への流出を防ぐための金属メッシュのフィルター、43は固体のプラスチ
ックと結晶性メタロシリケートが直接接触することを防ぐための歯車状の仕切り板を備え
た金属棒である。
【0031】
<反応形態>
本発明のプラスチックの分解反応では反応形式は特に限定されるものではない。例えば
バッチ式、流通式、半流通式など、いずれの方法でも実施することができる。また、プラ
スチックの分解反応は一段反応であっても、多段反応であってもよい。多段反応の場合、
これに限られないが、亜臨界又は超臨界状態の処理媒体とプラスチックを混合して炭素数
10から40程度の有機物に粗分解する工程や亜臨界又は超臨界状態の処理媒体と不均一
触媒によって重縮合ポリマーを分解する工程を含んでもよい。これらの工程は組み合わせ
て使ってもよいし入れ替えて使ってもよい。
また、供給するプラスチックは固体状態でも予め加熱溶融されていてもよいが、反応温
度の変化や原料供給の脈動を抑制するために溶融されていることが好ましい。プラスチッ
クの溶融の方法は特に限定されないが、反応工程の前段に溶融層や押出機などを設けて、
予め所定の温度に保持して反応工程に供給することが好ましい。また、亜臨界又は超臨界
状態の処理媒体の存在下にプラスチックを供給するという観点から押出機の利用が特に好
ましい。
バッチ式の場合、以下二つの長所が挙げられる。1)簡便な装置構成でプラスチックを
分解することができる。2)装置内に堆積した固形残渣の抜き取りが容易である。
流通式と半流通式の場合、供給したプラスチックが結晶性メタロシリケートに接する滞
留時間を厳密に制御することができるため、生成物が逐次的に分解、あるいは重炭素化す
るといった好ましくない反応を抑制することができる。
【実施例0032】
以下の実施例および比較例において本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら
によって限定されるものではない。
【0033】
<結晶性メタロシリケート調製>
<調製例1>
MFI構造のNH4型ガリウムシリケート粉末(エヌ・イー ケムキャット製、SiO
2/Ga2O3モル比=30、体積平均径=8.4μm)6.0gをガラス製の焼成管に
装填し、200mL/minの空気流通下、200℃で3時間乾燥後、500℃まで1時
間かけて昇温し、そのまま500℃で4時間保持した後、室温まで降温し、MFI構造の
H型ガリウムシリケート粉末(以降H-GaSi粉末とも記載)とした。
【0034】
<調製例2>
MFI構造のNH4型ゼオライト粉末(エヌ・イー ケムキャット製、SiO2/Al
2O3モル比=30、体積平均径=5.4μm)3.0gをガラス製の焼成管に装填し、
200mL/minの空気流通下、120℃で7時間乾燥後、500℃まで1時間かけて
昇温し、そのまま500℃で4時間保持した後、室温まで降温し、MFI構造のH型ゼオ
ライト粉末(以降H―ZSM-5粉末とも記載)とした。
【0035】
<調製例3>
硝酸ガリウム(III)n水和物(富士フイルム和光純薬製、品番072-02701
)1.72gに脱イオン水を11g加え、完全に溶解させた。この溶液を500mLビー
カーに入ったMFI構造のH型ゼオライト成形体(東ソー製、品番HSZ―840HOD
1A)10gに滴下し、その後均一な状態になるように軽く混合した。1.5時間含浸さ
せた後、110℃に設定したホットスターラーの上にビーカーを置き3時間乾燥させた。
得られた乾燥物をガラス製の焼成管に装填し、200mL/minの空気流通下、100
℃で7時間乾燥後、500℃まで2時間かけて昇温し、そのまま500℃で4時間保持し
た後、室温まで降温し、ガリウム元素を5wt%担持したMFI構造のゼオライト成形体
(以降Ga/ZSM-5成形体とも記載)とした。
【0036】
[実施例1]
プラスチック分解装置として、
図1に示すようなバッチ式の分解装置を用いた。圧力容
器15は、内径30mm、深さ80mm、内容量約56mL、最高使用温度500℃、最
高使用圧力50MPaのインコネル製据置型容器を用いた。なお、ガス回収時はバルブ1
1c以降の冷却管を外してガスバック19を接続した。
空の圧力容器を秤量し、その値を空の圧力容器重量とした。
原料である低密度ポリエチレン(以降LDPEとも記載)(Sigma-Aldric
h製、品番428043)6gと調製例1で得たH-GaSi粉末0.3gを圧力容器1
5へ入れて閉じた。原料と結晶性メタロシリケートの入った圧力容器15を秤量し、その
値を処理前の圧力容器重量とした。二酸化炭素ボンベ10bの最大圧で加圧して圧漏れが
無いことを確認してからゆっくり脱圧した。二酸化炭素で1MPaに加圧し、脱圧して常
圧に戻す操作を3回繰り返した後、常圧でガスを容器へ穏やかに約30秒流通させて内部
雰囲気を置換した。全てのバルブを閉め、容器を電気炉17にセットした。
毎分4℃の速度で所定温度(450℃)まで昇温し、所定温度手前から二酸化炭素を導
入して昇圧を開始し、所定条件(分解温度;450℃、分解圧力;30MPa)に達した
点から所定時間保持した(保持時間;15分)。保持終了後、電気炉17の電源を停止し
て容器を電気炉17から外して送風冷却した。容器内温が40℃以下になったらバルブ1
1cをゆっくり開き、ガス全量をガスバック19に回収して秤量した。内容物が入った圧
力容器15を秤量し、その値を処理後の圧力容器重量とした。容器を開けて液体状の回収
試料を取出し、秤量した。回収試料は結晶性メタロシリケートと液体であった。回収した
ガスは以下の条件によってGC-FIDで分析した。その結果、炭素数1から12までの
成分を示すピークを確認し、また炭素数13以上の成分を示すピークは全て検出下限以下
であった。そこで反応により得られたガスに含まれる低分子有機物量を以下の計算方法で
算出した。また、回収した液体はGC-FIDおよび以下の条件によって熱重量示差熱分
析装置(以降TG-DTAとも記載)で分析した。GC-FIDの結果、ベンゼン、トル
エン、キシレン合計の収率は11.3wt%であった。TG-DTA分析の結果、38℃
近辺から600℃近辺まで下に凸でブロードな形状のDTA曲線を示し、得られた回収液
が多成分系であることを確認した。そこで回収した液に含まれる低分子有機物を以下の計
算によって算出した。ガスおよび液それぞれの低分子有機物量の合計を生成した低分子有
機物量とした。その結果、生成した低分子有機物量は4.56gであり、原料であるLD
PEに対する割合は76wt%であった。
【0037】
<GC-FID分析>
装置:GC-2014 島津製作所
カラム:DB-5 Agilent Technology
(60m、0.25mm、1.0μm)
カラム温度条件:40℃で3分保持し、40℃から325℃まで10℃/minで昇温
後、325℃で5分保持
流量:1mL/min
検出:FID
試料注入量(液体):1μL
試料注入量(ガス):1mL
【0038】
<TG-DTA>
装置:日立ハイテクサイエンス STA300
試料容器:SiO2
充填試料量:10mg
温度条件:室温で30分保持した後30℃から600℃まで
10℃/minで昇温
雰囲気:窒素 200mL/min
【0039】
<ガスに含まれる低分子有機物量の算出>
ガスに含まれる低分子有機物量={(処理前の圧力容器重量)―(処理後の圧力容器重
量)}×(GC-FIDで検出されたメタンの量)/(GC-FIDで検出された全有機
物の量)
<液体に含まれる低分子有機物量の算出>
低分子有機物のうち最も炭素数の多いドデカンの標準サンプル(東京化成工業製、品番
S0284)をTG-DTAによって分析したところ、留出温度は140℃であった。そ
こで今回、回収した液体に含まれる低分子有機物割合はTG-DTAによって分析した際
の室温から140℃までの重量減少割合とした。
液体に含まれる低分子有機物量={(処理後の圧力容器重量)―(空の圧力容器重量)
―(投入した結晶性メタロシリケートの重量)}×(熱重量示差熱分析装置の分析で得ら
れた低分子有機物の割合)
【0040】
[実施例2]
実施例1において、反応温度を425℃、分解圧力を10MPa、反応時間を60分と
したこと以外は、実施例1と同様にして、反応させた。回収物は実施例1と同様に結晶性
メタロシリケートと液体であった。実施例1と同様の方法で分析したところ、ベンゼン、
トルエン、キシレン合計の収率は41.6wt%であった。また、実施例1と同様の方法
で生成した低分子有機物量を計算すると4.98gであり、原料であるLDPEに対する
割合は83wt%であった。
【0041】
[比較例1]
実施例1において、圧力容器15に結晶性メタロシリケートを投入しなかったこと以外
は、実施例1と同様にして、反応させた。回収物は液体であった。実施例1と同様の方法
で分析したところ、ベンゼン、トルエン、キシレン合計の収率は0.58wt%であった
。また、実施例1と同様の方法で生成した低分子有機物量を計算すると2.4gであり、
原料であるLDPEに対する割合は40wt%であった。
【0042】
[実施例3]
実施例1において、反応時間を120分としたこと以外は、実施例1と同様にして、反
応させた。回収物は実施例1と同様に結晶性メタロシリケートと液体であった。以下の条
件で回収した結晶性メタロシリケートをXRDで分析した。分析の結果、未使用の結晶性
メタロシリケートと同様のピーク形状を有していることを確認した。また、以下の条件で
結晶性メタロシリケートの結晶化度を評価したところ、100%であった。
【0043】
<XRD分析>
装置:PANalytical X‘Pert Pro MPD
X線源:Cu Kα
走査範囲:5°から50°
【0044】
<結晶性メタロシリケートの結晶化度>
結晶性メタロシリケートの結晶化度=100×(結晶部分のピーク面積)/{(結晶部
分のピーク面積)+(非晶部分の面積)}
【0045】
[比較例2]
プラスチック分解装置としては、実施例1と同様の装置を用いた。LDPE(前述)6
gと調製例2で得たH-ZSM-5粉末0.3gと予め窒素でバブリングさせた水20g
を圧力容器15へ入れて閉じた。窒素ガスボンベ10aの最大圧で加圧して圧漏れが無い
ことを確認してからゆっくり脱圧した。窒素で1MPa加圧し、脱圧して常圧に戻す操作
を3回繰り返した後、常圧でガスを容器へ穏やかに約30秒流通させて内部雰囲気を置換
した。全てのバルブを閉め、容器を電気炉17にセットした。毎分4℃の速度で所定温度
(450℃)まで昇温し、所定温度に達した点から所定時間(120分)保持した。保持
終了後、電気炉17の電源を停止して、容器を電気炉17から外して送風冷却した。容器
内温が40℃以下になったらバルブ11cをゆっくり開き、ガス全量をガスバック19に
回収した。容器を開けて回収試料を取出した。回収物は結晶性メタロシリケートと液体で
あった。なお、液体は水相・油相の二相構造であった。実施例3と同様の方法で結晶性メ
タロシリケートをXRD分析したところ、20°から30°付近で結晶性メタロシリケー
トの非晶部分に起因すると考えられるハローパターンを確認した。また、実施例3と同様
の方法で結晶性メタロシリケートの結晶化度を評価したところ、54%であった。
【0046】
[比較例3]
比較例2において、用いた結晶性メタロシリケートを調製例1で得たH-GaSi粉末
0.3gとしたこと以外は、比較例2と同様にして、反応させた。回収物は比較例2と同
様に結晶性メタロシリケートと二相構造を有する液体であった。実施例3と同様の方法で
結晶性メタロシリケートをXRD分析したところ、20°から30°付近で結晶性メタロ
シリケートの非晶部分に起因すると考えられるハローパターンを確認した。また、実施例
3と同様の方法で結晶性メタロシリケートの結晶化度を評価したところ、68%であった
。
【0047】
[実施例4]
プラスチック分解装置として、
図2に示すような半流通式の分解装置を用いた。反応管
41は、
図3に示すような内径7.3mm、長さ248mm、内容量約10mL、最高使
用温度450℃、最高使用圧力30MPaのインコネル製のものを用いた。また、内部の
金属棒43は外径2mm、長さ220mm、歯車状の仕切り板は流体の入口側から見て1
72mmのところに装着されており、形状は歯先円直径7mm、ピッチ1.3mmである
。
反応管41に原料であるポリプロピレン(Sigma-Aldrich製、品番182
389)2.5gを入れた後、反応管41に仕切り板を備えた金属棒43を挿入した。反
応管41の反対側から調製例3で得たGa/ZSM-5成形体0.9gを入れた。反応管
41を装置に接続し、窒素ガスボンベ21aの最大圧10MPa以上で加圧して圧漏れが
無いことを確認してからゆっくり脱圧した。二酸化炭素ボンベ21bで1MPaに加圧し
、脱圧して常圧に戻す操作を3回繰り返した後、常圧で二酸化炭素を装置へ穏やかに約3
0秒流通させて内部雰囲気を置換した。
装置内を二酸化炭素で置換後、入側のバルブ22bおよび背圧弁31を閉じた。予熱管
25および反応管27を電気炉29に入れて毎分10℃の速度で昇温を開始した。
昇温を開始するとともにバルブ22bを開いて装置内に二酸化炭素を導入し、毎分0.
25MPaの速度で昇圧できるように高圧ポンプ23の流速を適宜調整した。
所定条件(分解温度;430℃、分解圧力;10MPa)に達した点から高圧ポンプ2
3の流速を2.5mL/minに設定し、背圧弁31をゆっくりと開いて所定の圧力を維
持した。背圧弁31から二酸化炭素が排出された時点を反応開始とし、所定時間保持して
(保持時間;60分)排出される液体をトラップ瓶32、ガスをガスバック34に回収し
た。保持終了後、流通を停止して背圧弁31を閉じた。その後予熱管25および反応管2
7を電気炉29から取り出し、送風冷却した。反応管内温が40℃以下になったら背圧弁
31を全開にして装置内の残圧を脱圧し、装置内に残留していたガス及び液体もトラップ
瓶32とガスバック34に回収した。装置内が常圧に戻った後にトラップ瓶32とガスバ
ック34を装置から取り外して秤量した。反応管27を装置から取り外し、内容物を回収
した。内容物は結晶性メタロシリケートだけであった。なお、反応管壁面にて樹脂が炭化
したと思われる固形物は目視で観測されなかった。また、回収したガスを実施例1と同様
の方法によってGC-FIDで分析した。回収したガスのGC-FID分析および回収し
たガス及び液体の重量測定の結果から、回収したガス及び液状の炭化水素の量は1.88
gであった。また、以下の方法で回収したガス及び液状の炭化水素の収率を求めたところ
、75.2wt%であった。
【0048】
<ガス及び液状の炭化水素の収率>
ガス及び液状の炭化水素の収率=100×(回収したガス及び液状の炭化水素の重量)
/(反応管に投入したポリプロピレンの重量)
【0049】
[比較例4]
プラスチック分解装置として、実施例4と同一の装置を用いた。
反応管41に原料であるポリプロピレン(Sigma-Aldrich社製、品番18
2389)2.5gを入れた後、反応管41に仕切り板を備えた金属棒43を挿入した。
反応管41の反対側から調製例3で得たGa/ZSM-5成形体0.9gを入れた。反応
管41を装置に接続し、窒素ガスボンベ21aの最大圧10MPa以上で加圧して圧漏れ
が無いことを確認してからゆっくり脱圧した。窒素で1MPaに加圧し、脱圧して常圧に
戻す操作を3回繰り返した後、常圧で窒素を装置へ穏やかに約30秒流通させて内部雰囲
気を置換した。
装置内を窒素で置換後、入側のバルブ22aおよび背圧弁31を閉じた。予熱管25お
よび反応管27を電気炉29に入れて毎分10℃の速度で昇温を開始した。
所定条件(分解温度;430℃)に達した点から背圧弁31をゆっくりと開いた。背圧
弁31を全開にした後にバルブ22aを開き窒素を流通させ、この時点を反応開始とし、
所定時間保持して(保持時間;60分)排出される液体をトラップ瓶32、ガスをガスバ
ック34に回収した。保持終了後、流通を停止して背圧弁31を閉じた。その後予熱管2
5および反応管27を電気炉29から取り出し、送風冷却した。反応管内温が40℃以下
になったら背圧弁31を全開にして装置内の残圧を脱圧し、装置内に残留していたガス及
び液体もトラップ瓶32とガスバック34に回収した。装置内が常圧に戻った後にトラッ
プ瓶32とガスバック34を装置から取り外して秤量した。反応管27を装置から取り外
し、内容物を回収した。内容物は結晶性メタロシリケートの他に、反応管壁面にて樹脂が
炭化したと思われる固形物が目視で観測された。また、回収したガスを実施例1と同様の
方法によってGC-FIDで分析した。回収したガスのGC-FID分析および回収した
ガス及び液体の重量測定の結果から、得られたガス及び液状の炭化水素の量は0.90g
であった。また、実施例4と同様の方法で回収したガス及び液状の炭化水素の収率を求め
たところ、36.0wt%であった。
【0050】
【0051】
表1の結果から明らかなように、H-GaSi存在下で超臨界二酸化炭素を用いたポリ
エチレンの分解反応では、結晶性メタロシリケートを入れなかった場合と比べて生成物に
おける低分子有機物およびベンゼン、トルエン、キシレンの収率が向上した。また、反応
温度、反応圧力、反応時間を変化することで生成物の割合を制御できることが明らかにな
った。
【0052】
【0053】
表2の結果から明らかなように、処理媒体として超臨界状態の二酸化炭素を選択した場
合は、反応後も結晶性メタロシリケートの結晶化度が100%を維持した。一方、処理媒
体として超臨界状態の水を選択した場合は、反応後の結晶性メタロシリケートの結晶化度
が低下した。
【0054】
【0055】
表3の結果から明らかなように、処理媒体として超臨界状態の二酸化炭素を選択した場
合は、窒素ガスを選択した場合と比較して、反応管壁面における固形物の生成が抑制され
るため、ガスおよび液状の炭化水素の収率が高くなった。