(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139258
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20241002BHJP
H01G 13/00 20130101ALI20241002BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
H01G13/00 351A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050119
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】服部 雄太
【テーマコード(参考)】
4F071
5E082
【Fターム(参考)】
4F071AA45
4F071AA46
4F071AA88
4F071AC09
4F071AD02
4F071AE11
4F071AE12
4F071AE22
4F071AG28
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F071BC14
4F071BC16
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC38
5E082BC39
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082LL02
5E082MM13
5E082MM21
5E082PP09
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、ポリエステルフィルムの表面の微細な凹凸を制御され高い平滑性を有し、傷つき防止性に優れ、また、ポリエステルフィルムの長尺化に対応し生産性を向上でき、更にセラミックグリーンシート製造時のセラミックグリーンシートの薄膜化に対応できる、ポリエステルフィルムを提供することにある。
【解決手段】
ポリエステルフィルムの一方の表面(A)が、結晶核剤およびポリブチレンテレフタレートを含み、前記表面(A)が、以下の(1)及び(2)を満足する、ポリエステルフィルム。
(1)平均表面粗さ(Sa)が2.0~10nmであること。
(2)50nm以上の突起個数割合が0.2%以下であること。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの一方の表面(A)が、結晶核剤およびポリブチレンテレフタレートを含み、前記表面(A)が、以下の(1)及び(2)を満足する、ポリエステルフィルム。
(1)平均表面粗さ(Sa)が2.0~10nmであること。
(2)50nm以上の突起個数割合が0.2%以下であること。
【請求項2】
前記結晶核剤が、下記一般式(I)で表される脂肪酸金属塩である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
(CH3(CH2)nCOO)mM (I)
(上記式(I)中、nは4以上の整数であり、MはNa,Ca又はLiである。また、mは、MがNa又はLiの場合は1、Caの場合は2である。)
【請求項3】
前記脂肪酸金属塩の融点が、140℃以上220℃以下である、請求項2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記ポリエステルフィルムが3層構成のポリエステルフィルムである、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記ポリエステルフィルムの中間層が、再生ポリエステル原料を50質量%以上含有する、請求項4に記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記ポリエステルフィルムの一方の表面(A)の反対側の面に、表面層Cを有する、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記表面層Cが平均粒径の異なる2種類以上の粒子を含む、請求項6に記載のポリエステルフィルム。
【請求項8】
前記平均粒径の異なる2種類以上の粒子の平均粒径の差の最大値が0.1μm以上である、請求項7に記載のポリエステルフィルム。
【請求項9】
前記ポリエステルフィルムの一方の表面(A)上に離型層を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項10】
積層セラミックコンデンサーの製造工程においてセラミックグリーンシートの支持体として用いられる、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項11】
自動車セラミックコンデンサーの製造工程においてセラミックグリーンシートの支持体として用いられる、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサーの製造工程において使用される工程用離型フィルムの支持体に好適なポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の電装化やスマートフォンの高機能化等に伴い、積層セラミックコンデンサー(Multi-Layered-Ceramic-Capacitor;MLCC)の小型化及び高容量化が進んでいる。
積層セラミックコンデンサーは、次のようにして製造される。
まず、離型フィルム上にか、セラミック成分及びバインダー樹脂を含むセラミックスラリーを塗工し、乾燥することでセラミックグリーンシート(誘電体シート)を作製し、これに電極をスクリーン印刷法等により印刷して内部電極とし、乾燥した後に印刷済のセラミックグリーンシートを離型フィルムから剥離し、このようなグリーンシートを多数積層させる。積層させたグリーンシートをプレスして一体化させた後、個々のチップに切断する。
その後、焼成炉で内部電極及び誘電体層を焼結させ、積層セラミックコンデンサーが製造される。
【0003】
MLCCの小型化及び高容量化に際して、セラミックグリーンシートの薄膜化が進んでいる。セラミックグリーンシートの薄膜化が0.5μm(乾燥後の厚み)以下と更に進行するとキャリアフィルムとしての離型フィルムの表面に微小な突起があれば、これに起因して、セラミックグリーンシートにピンホール等が発生する。このため当該離型フィルムには、更に高度な表面平滑性が求められている。
【0004】
従来、この種の離型フィルムの支持体として、特許文献1には、第1の面と第2の面とを有する基材と、前記基材の前記第1の面側に設けられた平滑化層と、前記平滑化層の前記基材と反対の面側に設けられた剥離剤層とを有し、前記平滑化層は、重量平均分子量が950以下の熱硬化性化合物を含む平滑化層形成用組成物を加熱して硬化させることにより形成されており、前記剥離剤層の外表面の算術平均粗さRa1が8nm以下であり、かつ、前記剥離剤層の外表面の最大突起高さRp1が50nm以下であることを特徴とするセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、表面の平滑性に優れ、特にフィルム表面の微細な欠点が少ない離型用ポリエステルフィルムとして、深さ0.5μm以上の窪み欠点数が5個/m2以下であり、少なくとも片面の表面の中心線平均粗さSRaが15~35nm、十点平均粗さSRzが1000nm以下である離型用ポリエステルフィルムが開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、ポリエステルフィルムを巻き取ってなるポリエステルフィルムロールであって、前記ポリエステルフィルムに存在するスラック欠点が、100m2あたり5個未満である、ポリエステルフィルムロールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-177093号公報
【特許文献2】特開2013-7054号公報
【特許文献3】特開2018-90803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来は、フィルムの表面の状態を、使用する粒子の種類や平均粒径、添加量等を調整することで、微細な凹凸を形成させ制御していた。しかしながら、現在はセラミックグリーンシートの薄肉化に伴い、更に精密な凹凸制御が要求されており、従来の粒子を用いたフィルム表面の状態の制御では限界があった。
そのため、精密なフィルム表面の凹凸設計が可能であり、かつ、原料切替ロスが少なく、長時間連続生産が可能で、生産性向上に貢献できるポリエステルフィルムが必要とされている。
【0009】
そこで、本発明の目的は、ポリエステルフィルムの表面の微細な凹凸が制御され、高い平滑性を有し、傷つき防止性に優れ、また、ポリエステルロールの長尺化に対応し生産性を向上でき、更にセラミックグリーンシート製造時のセラミックグリーンシートの薄膜化に対応できる、ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記実情に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、特定の構成からなるポリエステルフィルムを用いれば、上記課題を容易に解決できることを知見し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の[1]~[11]を提供するものである。
【0011】
[1]ポリエステルフィルムの一方の表面(A)が、結晶核剤およびポリブチレンテレフタレートを含み、前記表面(A)が、以下の(1)及び(2)を満足する、ポリエステルフィルム。
(1)平均表面粗さ(Sa)が2.0~10nmであること。
(2)50nm以上の突起個数割合が0.2%以下であること。
[2]前記結晶核剤が、下記一般式(I)で表される脂肪酸金属塩である、上記[1]に記載のポリエステルフィルム。
(CH3(CH2)nCOO)mM (I)
(上記式(I)中、nは4以上の整数であり、MはNa,Ca又はLiである。また、mは、MがNa又はLiの場合は1、Caの場合は2である。)
[3]前記脂肪酸金属塩の融点が、140℃以上220℃以下である、上記[2]に記載のポリエステルフィルム。
[4]前記ポリエステルフィルムが3層構成のポリエステルフィルムである、上記[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
[5]前記ポリエステルフィルムの中間層が、再生ポリエステル原料を50質量%以上含有する、上記[4]に記載のポリエステルフィルム。
[6]前記ポリエステルフィルムの一方の表面(A)の反対側の面に、表面層Cを有する、上記[1]~[5]のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
[7]前記表面層Cが平均粒径の異なる2種類以上の粒子を含む、上記[6]に記載のポリエステルフィルム。
[8]前記平均粒径の異なる2種類以上の粒子の平均粒径の差の最大値が0.1μm以上である、上記[7]に記載のポリエステルフィルム。
[9]前記ポリエステルフィルムの一方の表面(A)上に離型層を有する、上記[1]~[8]のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
[10]積層セラミックコンデンサーの製造工程においてセラミックグリーンシートの支持体として用いられる、[1]~[9]のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
[11]自動車セラミックコンデンサーの製造工程においてセラミックグリーンシートの支持体として用いられる、[1]~[9]のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリエステルフィルムの表面の微細な凹凸が制御され、高い平滑性を有することから傷つき防止性に優れ、また、ポリエステルロールの長尺化に対応し生産性を向上でき、更にセラミックグリーンシート製造時のセラミックグリーンシートの薄膜化に対応できる、ポリエステルフィルムを提供できる。
また、本発明のポリエステルフィルムは、極めて優れた表面平滑性を有することから、例えば、積層セラミックコンデンサーの製造工程において、セラミックグリーンシートの支持体として用いることで、本発明のポリエステルフィルム表面の微細な凹凸によってセラミックグリーンシートに欠陥が生じるおそれが少ないという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ポリエステル樹脂中における、結晶核剤を用いたことによる、熱力学的にみたポリエステルの結晶化メカニズム(推定)を示す。
【
図2】ポリエステルフィルム製造時における、結晶核剤を用いたことによる表面の凹凸の形成メカニズム(推定)を示す。
【
図3】実施例1で得られたポリエステルフィルムの一方の表面(A)の表面状態を示す。
【
図4】実施例2で得られたポリエステルフィルムの一方の表面(A)の表面状態を示す。
【
図5】実施例3で得られたポリエステルフィルムの一方の表面(A)の表面状態を示す。
【
図6】比較例2で得られたポリエステルフィルムの一方の表面(A)の表面状態を示す。
【
図7】比較例3で得られたポリエステルフィルムの一方の表面(A)の表面状態を示す。
【
図8】参考例1で得られたポリエステルフィルムの一方の表面(A)の表面状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において、数値の記載に関する「A~B」という用語は、「A以上B以下」(A<Bの場合)又は「A以下B以上」(A>Bの場合)を意味する。また、本発明において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0015】
[ポリエステルフィルム]
本発明のポリエステルフィルムは、一方の表面(A)が結晶核剤を含み、該表面(A)が、以下の(1)及び(2)を満足することを特徴とする。
(1)平均表面粗さ(Sa)が2.0~10nmであること。
(2)50nm以上の突起個数割合が0.2%以下であること。
【0016】
本発明において、ポリエステルフィルムの一方の表面(A)とは、例えば、積層セラミックコンデンサーの製造工程において、セラミックグリーンシートの支持体として用いる際に、セラミックグリーンシートを積層する面側のことをいう。ポリエステルフィルムの一方の表面(A)が、上記(1)及び(2)を満たすことにより、セラミックグリーンシートの薄膜化に対応することができ、積層コンデンサーを好適な状態で製造することができる。また、ポリエステルフィルムの一方の表面(A)は、セラミックグリーンシートの支持体として用いる観点から、後述の離型層を設ける表面として好適である。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムは、上記の構成を有することにより、ポリエステルフィルムの表面の微細な凹凸が制御され、高い平滑性を有することから傷つき防止性に優れ、また、ポリエステルフィルムの長尺化に対応し生産性を向上でき、更にセラミックグリーンシート製造時のセラミックグリーンシートの薄膜化に対応できる。
本発明のポリエステルフィルムが当該効果を得られる理由は、以下のように推定できる。
すなわち、ポリエステルフィルムの一方の表面(A)が、下記一般式(I)で表される結晶核剤を含むことで、ポリエステルフィルムの製造時に、該結晶核剤が、溶融しているポリエステル原料中で、ポリエステルが凝集することを抑制し、均一に存在させることができると考えられる。更に、
図1に示す様に、ポリエステルフィルム中でのポリエステルの結晶化の速度を大きくすることができることから、形成する結晶の大きさを小さくすることができる。このため、本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの表面の微細な凹凸を制御することができ、その結果、ポリエステルフィルムの一方の表面(A)が上記(1)及び(2)を満たすことができ、高い平滑性を有し、かつ傷つき防止性に優れたポリエステルフィルムとすることができる。
また、本発明のポリエステルフィルムは、上記の構成を有することにより、ポリエステルフィルム製造時にシワやピンホールの発生を抑制することができ、ポリエステルフィルムの長尺化に対応できるため、生産性を向上させることができる。
更に、本発明のポリエステルフィルムの一方の表面(A)が、上記の構成を有することにより、表面の凹凸によるピンホールの発生を抑制できることから、セラミックグリーンシートの薄膜化に対応することができ、積層コンデンサーを好適な状態で製造することができる。
【0018】
以上のように、本発明のポリエステルフィルムは、上記の構成を有することにより、さらに精密なフィルム表面の凹凸形状の制御が可能となり、積層セラミックコンデンサーの製造に好適に用いることができ、特に、厚み(乾燥後)が0.5μm以下の薄膜のセラミックグリーンシート成形が必要となる場面においても、好適に用いることができる。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムを巻き取ってなるポリエステルフィルムロールとして保管することができる。
該ポリエステルフィルムロールは、紙管、金属管、プラスチック管等のコアに巻き取られたポリエステルフィルムロールであり、幅0.2m以上であることが好ましく、0.3m以上であることがより好ましく、1.0m以上であることが特に好ましく、1.5m以上であることが最も好ましい。フィルムの幅の上限は、特に限定されないが、取り扱い性の観点から好ましくは2.3m以下であり、より好ましくは2.0m以下である。
また、該ポリエステルフィルムロールに巻き取られる本フィルムの長さは、特に限定されないが、好ましくは1000m以上、より好ましくは6000m以上、更に好ましくは12000m以上である。
更に、本フィルムの厚さは、好ましくは9μm以上38μm以下、より好ましくは9μm以上32μm以下、その中でも特に9μm以上25μm以下である。
【0020】
(表面特性)
本発明においてポリエステルフィルムの一方の表面(A)は、以下の(1)及び(2)を満足することを特徴とする。
(1)平均表面粗さ(Sa)が2.0~10nmであること。
(2)50nm以上の突起個数割合が0.2%以下であること。
【0021】
(1)平均表面粗さ(Sa)
本発明において、ポリエステルフィルムの一方の表面(A)の平均表面粗さ(Sa)は、2.0~10nmであることを要する。
ポリエステルフィルムの一方の表面(A)の平均表面粗さ(Sa)が10nmより大きくなると、ポリエステルフィルム表面の微細な凹凸によってピンホール等の欠陥が生じやすくなり、傷つき防止性が低下し、また、ポリエステルフィルムロールの長尺化及びセラミックグリーンシートの薄膜化に対応できない。一方で、平均表面粗さ(Sa)が2.0nmより小さくなると、フィルム表面が極端に平坦化しすぎて、フィルムの滑り性が低下し、傷がつきやすくなるため、傷つき防止性が低下し、また、ポリエステルフィルムの長尺化に対応できない。
本発明においてポリエステルフィルムの一方の表面(A)の表面平均粗さ(Sa)は、傷つき防止性の向上並びにポリエステルフィルムの長尺化及びセラミックグリーンシートの薄膜化の対応の観点から、2.0~8nmが好ましく、2.5~8nmがより好ましく、3.0~8nmが更に好ましい。
【0022】
平均表面粗さ(Sa)とは、面粗さパラメーター(ISO 25178)の一つであり、二次元のRaを三次元に拡張したもので、表面形状曲面と平均面で囲まれた部分の体積を測定面積で割ったものであり、以下の式(i)から求められる。
表面をXY面,高さ方向をZ軸とした時、A:定義された領域(画像全体とする)、Z(x,y):画像点(x,y)の高さ0の面からの高さとすると、以下の式(1)ように表される。
【0023】
【0024】
(2)50nm以上の突起個数割合
本発明において、ポリエステルフィルムの一方の表面(A)は、50nm以上の突起個数割合が0.2%以下である。さらに好ましくは0.1%以下、その中でも特に0.0%である。
突起個数が上記の範囲内であることで、より高平滑な表面を有するポリエステルフィルムを得ることができ、傷つき防止性を低下させ、また、ポリエステルフィルムの長尺化及びセラミックグリーンシートの薄膜化に対応することができる。
なお、突起個数は、具体的には実施例に記載の方法により測定することが可能である。
【0025】
本発明において、ポリエステルフィルムの一方の表面(A)の表面特性は、例えば結晶核剤の種類及び含有量の調整、ポリブチレンテレフタレート(PBT)の含有量の調整やポリエステルフィルム製造時における冷却ロールの条件を制御することで、調整することができる。
【0026】
(最大山高さ(Sp))
本発明において、ポリエステルフィルムの一方の表面(A)の最大山高さ(Sp)は、200nm以下であることが好ましい。ポリエステルフィルムの一方の表面(A)の最大山高さ(Sp)が200nm以下であると、ポリエステルフィルム表面の微細な凹凸によるピンホール等の欠陥が生じ難く、傷つき防止性が向上し、また、ポリエステルフィルムの長尺化及びセラミックグリーンシートの薄膜化に対応することができる。
本発明においてポリエステルフィルムの一方の表面(A)の最大山高さ(Sp)は、傷つき防止性の向上並びにポリエステルフィルムの長尺化及びセラミックグリーンシートの薄膜化の対応の観点から、190nm以下が好ましく、180nm以下がより好ましい。また、最大山高さ(Sp)の下限については特に制限はされないが、ポリエステルフィルムの巻取り性を向上させる観点から、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、15nm以上が更に好ましい。
【0027】
最大山高さ(Sp)とは、面粗さパラメーター(ISO 25178)の一つであり、表面の平均面からの高さの最大値を表し、以下の式(ii)ように表される。
【0028】
【0029】
また、本発明において、ポリエステルフィルムの一方の表面(A)の平均表面粗さ(Sa)と最大山高さ(Sp)との関係Sp/Saは50以下が好ましく、40以下がより好ましく、30以下が更に好ましい。
平均表面粗さ(Sa)と最大山高さ(Sp)との関係Sp/Saが50以下であることにより、平均表面粗さ(Sa)を高く、最大山高さ(Sp)を低い状態のバランスで調整でき、薄膜のセラミックグリーンシートを成形し易くできるため、セラミックグリーンシートの薄膜化に対応させることができる。
また、平均表面粗さ(Sa)と最大山高さ(Sp)との関係Sp/Saの下限については特に限定されないが、高Saかつ低Spのバランスで調整する観点から、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、その中でも特に10以上がよい。
【0030】
(結晶核剤)
本発明において用いられる結晶核剤は、ポリエステル樹脂の結晶化を促進させ、ポリエステルフィルム表面の凹凸を制御し、ポリエステルフィルムの一方の表面(A)が上記(1)及び(2)を満足させる観点から下記一般式(I)で表される脂肪酸金属塩であることが好ましい。
(CH3(CH2)nCOO)mM (I)
(上記式中、nは4以上の整数であり、MはNa,Ca又はLiである。また、mは、MがNa又はLiの場合は1、Caの場合は2である。)
【0031】
上記一般式(I)において、Mは脂肪酸金属塩中の金属イオンを示し、Na、Ca又はLiのいずれかであり、Naであることが好ましい。金属イオンがNa、Ca又はLiのいずれかであることにより、ポリエステルフィルム製造時の熱滞留による、ポリエステル樹脂の分子量の低下を抑制することができ、ポリエステルフィルムの長尺化に対応することができる。
【0032】
また、上記一般式(I)において、nは4以上の整数であり、6以上35以下が好ましく、8以上33以下がより好ましく、10以上30以下が更に好ましく、15以上28以下であることがより更に好ましい。一般式(I)において、nが上記範囲内であることにより、結晶核剤とポリエステル樹脂との相溶性を向上させることができ、ポリエステルフィルムの長尺化及びセラミックグリーンシートの薄膜化に対応することができる。
上記一般式(I)で表される脂肪酸金属塩において、脂肪酸の具体例としては、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、モンタン酸等の脂肪酸が挙げられ、その中でも、モンタン酸が好ましい。
【0033】
本発明において、結晶核剤として用いる脂肪酸金属塩の融点は、140℃以上220℃以下が好ましく、150℃以上210℃以下がより好ましく、160℃以上200℃以下が更に好ましい。脂肪酸金属塩の融点が220℃以下であることにより、ポリエステルフィルム表面の最大山高さ(Sp)が大きくなりすぎることを抑制でき、また、融点が140℃以上であることにより、ポリエステルフィルムの一方の表面(A)上に微細な凹凸を形成させることができる。そのため、上記(1)及び(2)を満足しやすくでき、傷つき防止性の向上並びにポリエステルフィルムの長尺化の対応及びセラミックグリーンシートの薄膜化の対応をし易くできる。
本発明において、脂肪酸金属塩の融点は、TG-DTAにより測定をすることができ、具体的には実施例の方法により測定される。
【0034】
結晶核剤の配合量は、ハンドリングを向上させる観点から、フィルムに対して、質量割合で、2000ppm以上が好ましく、3000ppm以上28000ppm以下がより好ましく、5000ppm以上25000ppm以下が更に好ましく、その中でも特に5000ppm以上20000ppm以下がより更に好ましい。
【0035】
上記の結晶核剤は、単独で用いてもよく、また2種類以上を併用してもよい。
【0036】
(ポリエステル)
本発明においてポリエステルとは、ポリエステルフィルムの原料となるポリエステルのことをいい、主鎖に連続してエステル結合を有する高分子化合物をいう。本発明においてポリエステルは、ホモポリエステルであってもよく、共重合ポリエステルであってもよく、具体的には、ジカルボン酸成分とジオール成分とを重縮合反応させることによって得られるポリエステルを挙げることができる。
【0037】
なお、本発明においては、ジカルボン酸成分を100モル%としたとき、芳香族ジカルボン酸又は脂肪族ジカルボン酸を50モル%よりも多く含有するポリエステルを使用することが好ましい。
【0038】
前記ジカルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸及び4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸や、例えばアジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、シクロヘキサンジカルボン酸及びこれらのエステル誘導体等の脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。
【0039】
前記ジオール成分としては、例えばエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート及びスピログリコール等を挙げることができる。
【0040】
上記ポリエステルがホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。
前記芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等を挙げることができ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、及び1,4-シクロヘキサンジメタノール等を挙げることができる。
代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等を例示することができる。
【0041】
一方、上記ポリエステルが共重合ポリエステルの場合は、30モル%以下の第三成分を含有した共重合体であることが好ましい。第三成分とは、ポリエステルを構成するジカルボン酸成分の主成分となる化合物と、ジオール成分の主成分となる化合物以外の成分であり、ポリエチレンテレフタレートではテレフタル酸及びエチレングリコール以外の成分である。
共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、例えばイソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸及びオキシカルボン酸等の一種又は二種以上を挙げることができる。
共重合ポリエステルのグリコール成分としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びネオペンチルグリコール等の一種又は二種以上を挙げることができる。
【0042】
また、上記ポリエステルとしては、80モル%以上、好ましくは90モル%以上が、エチレンテレフタレート単位であるポリエチレンテレフタレートや、エチレン-2,6-ナフタレート単位であるポリエチレン-2,6-ナフタレート等が好ましい。
【0043】
≪ポリブチレンテレフタレート≫
本発明においては、微細な凹凸形状を付与する観点から、表面層Aには結晶核剤とともにポリブチレンテレフタレートを併用する必要がある。
本発明におけるポリブチレンテレフタレートを主体とするポリエステルは、ブチレンテレフタレート単位のみからなるホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を80モル%以上、中でも90モル%以上、さらには95モル%以上含有する共重合体であってもよい。
本発明においては、ブチレンテレフタレート単位を90モル%以上含有する共重合体であることが好ましく、中でもホモポリブチレンテレフタレートであることが好ましい。ブチレンテレフタレート単位の含有量が80モル%以上であると、十分な結晶化速度が得られ、結晶核剤と組み合わせたときに所望する凹凸形状を形成しやすい。
本発明では、結晶核剤、あるいはポリブチレンテレフタレート(PBT)単独では得られない凹凸形状を、両者を併用することで得ることが可能となる。
そのメカニズムの詳細は不明であるが、両者ともに結晶化速度が速く、さらには両者の結晶化速度の差により、高平滑なレベルを維持しながら、それでいて、広範囲に凹凸形状を調整できる利点を有すると推察している。
【0044】
≪ポリエステル重縮合触媒≫
上記ポリエステルを重縮合する際の重縮合触媒としては、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物等が挙げられる。これらの中では、アンチモン化合物及びチタン化合物の少なくともいずれかが好ましく、とりわけ、チタン化合物を用いて得られるポリエステルを使用することが好ましい。
したがって、ポリエステルフィルムは、アンチモン化合物及びチタン化合物の少なくともいずれかを含むことが好ましく、ポリエステルフィルムは、チタン化合物を含むことがより好ましい。
前記チタン化合物を使用することで、フィルム中に当該チタン化合物に由来する金属含有凝集体、いわゆる粗大異物の個数を低減化することができ、高い表面平滑性、とりわけ、少なくとも片面の最大山高さ(Sp)が小さい本フィルムを得ることができる。
【0045】
本フィルムの最外層(「表面層」ともいう、例えば、ポリエステルフィルムの一方の表面(A)等、離型層が積層される表面層)を構成するポリエステルは、その重縮合触媒としてチタン化合物を使用することが好ましい。
当該最外層中に当該チタン化合物に由来するチタン元素含有量が3ppm以上40ppm以下であることが好ましく、4ppm以上35ppm以下であることがより好ましい。
上記範囲内であれば、ポリエステルの製造効率を低下させることなく、触媒起因の異物を低減化することができる。
また、ポリエステルフィルムが積層構成のポリエステルフィルムの場合、生産性の観点から、後述の中間層を構成するポリエステルは、その重縮合触媒としてチタン化合物を使用しないことが好ましい。
また、同様の観点から、本フィルムの最外層中のアンチモン化合物の含有量は100ppm以下であることが好ましい。
例えば、後述する表面層Aは、アンチモン化合物及びチタン化合物の少なくともいずれかを含み、表面層Aにおけるアンチモン化合物の含有量が100ppm以下であることが好ましい。この際、表面層Aはアンチモン化合物を含有しなくてもよい。
【0046】
≪ポリエステルの極限粘度(IV)≫
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステルの極限粘度(IV)は0.50dL/g以上であることが好ましく、0.55dL/g以上であることがより好ましく、0.60dL/g以上であることが更に好ましい。
本発明において、ポリエステルフィルムを構成するポリエステルとして極限粘度(IV)が0.50dL/g以上のポリエステルを使用することで、ポリエステルを混練中のせん断応力が増大し、ポリエステル樹脂中の結晶核剤が高分散し易く、ポリエステルフィルムの一方の表面(A)の表面特性を、上記の範囲にし易くすることができる。また、ポリエステルの極限粘度(IV)の上限は、結晶核剤の流動性の観点から、1.00dL/g以下が好ましく、0.85dL/g以下がより好ましく、0.75dL/g以下が更に好ましい。
【0047】
また、上記と同様の観点から、本発明のポリエステルフィルムが積層構造の場合、表面層、具体的には本フィルムの最外層(例えば、ポリエステルフィルムの一方の表面(A)等、離型層が積層される表面層)を構成するポリエステルの極限粘度(IV)は0.50dL/g以上であることが好ましく、0.55dL/g以上であることがより好ましく、0.60dL/g以上であることが更に好ましい。また、表面層を構成するポリエステルの極限粘度(IV)の上限は、結晶核剤の流動性の観点からから、1.00dL/g以下が好ましく、0.85dL/g以下がより好ましく、0.75dL/g以下が更に好ましい。
【0048】
なお、「本フィルムを構成するポリエステルの極限粘度(IV)」とは、極限粘度(IV)が異なる2種以上のポリエステルを使用する場合には、これら混合樹脂の極限粘度(IV)を意味するものとする。
【0049】
(ポリエステルフィルムの構成)
本発明においてポリエステルフィルムは、単層のポリエステルフィルムでもよく、2以上の層を有する積層構成のポリエステルフィルムでもよい。
例えば、単層のポリエステルフィルムの場合、9μm以上38μm以下のフィルム厚みとして、結晶核剤とポリブチレンテレフタレートとを所定の配合比率とすることにより、適度なライン速度にすることで、徐冷時間を確保することが可能となり、フィルム表面の結晶核剤とポリブチレンテレフタレートとの結晶化速度の差を利用して、所望する凹凸形状を形成することができる。
本発明においてポリエステルフィルムは、一方の表面(A)の表面特性を上記範囲に制御し易い観点から、2以上の層を有する積層構成のポリエステルフィルムが好ましく、3層構成のポリエステルフィルムがより好ましい。
また、本発明において、ポリエステルフィルムが2以上の層を有する積層構成のポリエステルの場合、表面層A、中間層B及び表面層Cから構成されるA/B/C構成の3層構成が好ましい。
【0050】
本発明において、ポリエステルフィルムが2以上の層を有する積層構成のポリエステルフィルムの場合、表面層Aが、上記の結晶核剤およびポリブチレンテレフタレート(PBT)を含有することが好ましい。ここで、前記の表面層Aは、本発明におけるポリエステルフィルムの一方の表面(A)を形成する表面層であり、積層構成のポリエステルフィルムにおいて、表面層Aが上記結晶核剤およびポリブチレンテレフタレート(PBT)を含有することにより、ポリエステルフィルムの一方の表面(A)の表面特性を、上記範囲に制御し易く、傷つき防止性の向上並びにポリエステルフィルムの長尺化の対応及びセラミックグリーンシートの薄膜化の対応をし易くできる。
【0051】
表面層Aにおける前記結晶核剤の含有量は、傷つき防止性の向上並びにポリエステルフィルムの長尺化及びセラミックグリーンシートの薄膜化の対応の観点から、質量割合で、2000ppm以上が好ましく、3000ppm以上28000ppm以下がより好ましく、5000ppm以上25000ppm以下が更に好ましく、その中でも特に5000ppm以上20000ppm以下がより更に好ましい。
【0052】
表面層Cは、表面層Aとは反対側の面に形成される表面層である。すなわち、本発明のポリエステルフィルムは、表面層A、つまりポリエステルフィルムの一方の表面(A)とは反対側の面に、表面層Cを有することが好ましい。
表面層Cは、表面層Aよりも平均表面粗さ(Sa)及び最大山高さ(Sp)のいずれかが同等以上であることが好ましく、表面層Cの平均表面粗さ(Sa)が10nm以上又は最大山高さ(Sp)が50nm以上であることが好ましい。表面層Cの平均表面粗さ(Sa)及び最大山高さ(Sp)が上記の範囲であることにより、表面層Cに取扱い性を向上させるために必要な粗面を具備することができる。
【0053】
表面層Cは、本フィルムの取り扱い性及び傷つき防止性を向上させる観点から、粒子を含むことが好ましい。
前記粒子としては、例えばシリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム及び酸化チタン等の無機粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン-アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子等の架橋高分子並びにシュウ酸カルシウム及びイオン交換樹脂等の有機粒子を挙げることができる。これらの中では、架橋子分子、シリカ、炭酸カルシウム及び酸化アルミニウムが好ましい。また、有機粒子の架橋高分子の組成としては、ジビニルベンゼン重合体、エチルビニルベンゼンージビニルベンゼン共重合体、スチレンージビニルベンゼン共重合体、スチレン-エチルビニルベンゼン-ジビニルベンゼン共重合体、エチレングリコールジメタクリレート重合体、スチレン-エチレングリコールジメタクリレート共重合体、メチルメタクリレート-ジビニルベンゼン共重合体等の架橋高分子粒子が挙げられ、更に架橋高分子粒子は3成分以上の系から構成されるものを用いてもよく、ジビニルベンゼン、メチルスチレン、メタクリル酸及びスチレンの共重合体であることが好ましい。
表面層Cにおいて、上記粒子は単体でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
粒子の平均粒径は、本フィルムの取り扱い性及び傷つき防止性を向上させる観点から、0.1~1.5μmが好ましく、0.1~1.2μmがより好ましく、0.2~1.0μmが更に好ましい。
【0055】
また、粒子は、粒度分布が狭い略均一な平均粒径を有する(いわゆる単分散性を有する)粒子であることが特に好ましい。
粒度分布が狭い略均一な平均粒径を有する粒子としては、該粒子の粒度分布において、累積個数が10%となる粒子径をD10、累積個数が50%となる粒子径をD50、累積個数が90%となる粒子径をD90としたときに、(D90-D10)/D50が0.4以下となる粒子が好ましく、0.2以下となる粒子が特に好ましい。
係る関係式(D90-D10)/D50は、D50を基準とした粒子径のバラツキを示すものであり、(D90-D10)/D50が0.4以下の粒子は、D90とD10との差が小さいシャープな粒度分布を有するものであり、本フィルムに対して、優れた取り扱い性を維持しながら、極めて高い平滑性を付与することができ、傷つき防止性を向上し易くできる。
前記粒子の粒度分布は、レーザー回折式測定装置によって測定される。
【0056】
表面層Cは、本フィルムの取り扱い性及び傷つき防止性を向上させる観点から、平均粒径の異なる2種類以上の粒子を含むことが好ましい。
また、平均粒径の異なる2種類以上の粒子の平均粒径の差の最大値は、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上が更に好ましく、0.3μm以上がより更に好ましい。平均粒径の差が0.1μm以上であることで、ポリエステルフィルム表面の滑り性を向上し易く、本フィルムの取り扱い性及び傷つき防止性を向上し易くできる。
また、平均粒径の差の最大値の上限としては、凹凸によるピンホールの発生を抑制し、ポリエステルフィルムロールの長尺化に対応する観点から、1.5μm以下が好ましく、1.2μm以下が好ましく、1.0μm以下が更に好ましい。
【0057】
なお、ポリエステルフィルムがA/B/C構成の3層構成の場合、表面層Cは、表面層Aよりも、平均表面粗さ(Sa)及び最大山高さ(Sp)のいずれもが同等以下であることが好ましく、表面層Cの平均表面粗さ(Sa)が10nm以上又は最大山高さ(Sp)が50nm以上であることが好ましい。
【0058】
中間層Bは、最も厚みの厚い主層として機能させることが好ましく、コストダウンするために、粒子を実質的に含まないか、或いは、少なくとも表面層Cよりも低濃度で粒子を含むことが好ましい。
中間層Bに用いられる粒子としては、上述の中間層Cで用いられる粒子と同様の物が挙げられ、好ましい範囲も同様である。
なお、「実質的に含有しない」とは、意図して含有しないという意味であり、具体的には、粒子の含有量(粒子濃度)が200ppm以下、より好ましくは150ppm以下のことを指す。
【0059】
本発明において、ポリエステルフィルムの中間層Bは、再生ポリエステル原料を、50質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することが好ましく、90質量%以上含有することが更に好ましく、100質量%であることがより更に好ましい。中間層Bが再生ポリエステル原料を上記範囲で含有することにより、例えばCO2排出量を削減することができ、環境への負荷低減に寄与することができる。
【0060】
また、本発明のポリエステルフィルムは次の(X)に示した表面層A及び/又は表面層Cを備える構成が特に好ましい。
係る構成を採用することで、ポリエステルフィルムが、優れたハンドリング性と表面平滑性を具備することができる。
【0061】
(X)特に好ましい実施形態
(1)前記A/B/Cの構成において、表面層Aがチタン化合物、脂肪酸金属塩である結晶核剤およびポリブチレンテレフタレート(PBT)を含む形態
(2)前記(1)において、表面層Cが粒子を含む形態
(3)前記(1)、(2)のいずれかにおいて、表面層Cが、アンチモン化合物及び/又はチタン化合物を含み、該アンチモン化合物の含有量が100ppm以下である形態
(4)前記(1)~(3)の何れかにおいて、表面層Cの粒子は、累積個数が10%となる粒子径をD10、累積個数が50%となる粒子径をD50、累積個数が90%となる粒子径をD90としたときに、(D90-D10)/D50が0.4以下である形態
(5)前記(4)において、前記結晶核剤は、脂肪酸ナトリウム塩である形態。
【0062】
上記(X)では、表面層A及び表面層Cそれぞれにおいて、チタン化合物を触媒として重縮合されたポリエステルを使用することで触媒起因の異物を低減化することができ、高い表面平滑性を具備させることができる。
【0063】
(ポリエステルフィルムの製造方法)
以下、本フィルムの製造方法の一例を示す。
まず、公知の方法により、原料、例えばポリエステルチップを押出機に供給し、それぞれのポリマーの融点以上に加熱し、溶融ポリマーをダイから押し出し、回転冷却ドラム上でポリマーのガラス転移点以下の温度となるように冷却固化し、実質的に非晶状態の未配向シートを得るようにすればよい。
【0064】
次に、当該未配向シートを、一方向にロール又はテンター方式の延伸機により延伸する。この際、延伸温度は、通常25~120℃、好ましくは35~100℃であり、延伸倍率は通常2.5~7倍、好ましくは2.8~6倍である。
【0065】
次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸する。この際、延伸温度は通常50~140℃であり、延伸倍率は通常3.0~7倍、好ましくは4.5倍以上であり、より好ましくは4.5~5.0倍である。
【0066】
そして、引き続き180~220℃の温度で緊張下又は30%以内の弛緩下で熱固定処理を行い、二軸配向フィルムとしての本発明のポリエステルフィルムを得ることができる。この熱固定処理は、温度の異なる2段以上の工程で行ってもよい。
また、熱固定処理の後に冷却ゾーンにて冷却を行ってもよい。冷却温度は、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)より高い温度であることが好ましく、より具体的には、100~160℃の範囲であることが好ましい。この冷却は、温度の異なる2段以上の工程で行ってもよい。
なお、前記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。
上記延伸条件との組み合わせにより、表面層の層厚みを厚くすることで結晶化をさらに促進させることにより、凹凸形状を調整することもできる。さらに、表面層の層厚みを厚くしながら、延伸倍率を上げることで、突起をさらに形成しやすくすることも可能である。
例えば、本フィルムの厚さが9μm以上38μm以下であり、三層構成からなる場合、表面層の層厚みを0.5μm~5μmの範囲で調整することにより、所望する凹凸形状に調整することができる。
【0067】
ここで、本発明のポリエステルフィルムの製造方法において、ポリエステル原料を溶融押出工程における、熱力学的にみたポリエステルの結晶化メカニズム及び凹凸の形成メカニズムについては以下のように推察される。
熱力学的にみたポリエステルの結晶化メカニズムは、下記式(B)より次の通り考察される。
ΔG=-NΔg+Aσ (B)
上記式(B)中、ΔGは結晶核形成、Nは結晶核の体積、Δgは融解自由エネルギー、Aは結晶の繰り返し単位数、σは自由エネルギーを表す。
ポリエステル中に結晶核剤を配合した場合、
図1に示すように、一次結晶核の生成に必要なエネルギー障壁が低くなるため、結晶化速度が大きくなる。そのため、ポリエステルフィルム内に多数の一次結晶核を形成できるため、それに伴い、結晶サイズが小さくなるものと推察される。
また、凹凸の形成メカニズムについては、次の通り考察される。
結晶核剤を含むポリエステル原料が溶融押出され、口金からキャスティングドラムに密着する際に、大気側とキャスティングドラムに密着する側とではフィルムの表面状態が異なることに着目した。
図2に示すように、キャスティングドラムと密着する側のポリエステルフィルム表面は、急冷されることにより、結晶の成長が抑制され、形成される結晶の大きさが小さくなることから、縦延伸及び横延伸を経ても凹凸が形成されにくいと推定される。
一方で、キャスティングドラムと密着していない大気側のフィルム表面は、徐冷されることにより、結晶の成長が促進され、形成される結晶の大きさが大きくなるため、縦延伸を得て横延伸した後には微小な凹凸が形成されると推定される。
【0068】
(離型層)
本発明のポリエステルフィルムは、少なくとも片面に離型層を有する形態で使用することが可能である。
当該離型層は、ポリエステルフィルムの一方の表面(A)の面側に積層されることが好ましい。
すなわち、本発明のポリエステルフィルムにおいて、ポリエステルフィルムの一方の表面(A)上に離型層を有することが好ましい。
したがって、例えばA/B/C構成の場合には、表面層A側の表面に離型層が積層され、離型層/A/B/Cの構成となる。
ポリエステルフィルムの一方の表面(A)側に離型層を積層することで、離型層上に超薄層セラミック層を積層してセラミックグリーンシートを成型する際にピンホール等の発生が起こりにくく好ましい。
【0069】
前記離型層は、直接又は他の層を介してポリエステルフィルムに積層される。
他の層としては、例えば、本フィルムへの密着性を改良するための易接着コート層の他、帯電防止層やブロッキング防止層等を挙げることができる。
【0070】
前記離型層は、離型剤を含む離型剤組成物から形成されるが、良好な離型性能を得る観点から、とりわけ、該離型剤組成物中にシリコーン樹脂を含有することが好ましい。具体的には、硬化型シリコーン樹脂を主成分とするタイプや、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂等の有機樹脂とのグラフト重合等による変性シリコーンタイプ、或いはフルオロシリコーン樹脂等を含有することが好ましい。
【0071】
前記硬化型シリコーン樹脂としては、付加型、縮合型等の熱硬化型や紫外線硬化型等の電子線硬化型等、既存の何れの硬化反応タイプでも用いることができ、また複数種類の硬化型シリコーン樹脂を併用して使用してもよい。
また、離型層を形成する際の硬化型シリコーン樹脂の塗工形態にも特に制限は無く、有機溶剤に溶解している形態、水系エマルジョンの形態、無溶剤の形態の何れであってもよい。
【0072】
前記離型層を形成する離型剤組成物には、その他にも、必要に応じてバインダー、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、無機系有機系粒子、有機系潤滑剤、帯電防止剤、導電剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、染料及び顔料等が含有されてもよい。
【0073】
離型層の形成は、本フィルムに離型剤組成物をコーティングすることにより設けられ、フィルム製膜工程内で行うインラインコーティング、或いは、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、いわゆるオフラインコーティングのいずれを採用してもよい。
【0074】
本フィルム上に離型層を設ける方法としては、リバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート等、従来公知の塗工方式を挙げることができる。
【0075】
離型層を形成する際の硬化条件に関しては、特に限定されるわけではなく、オフラインコーティングにより離型層を設ける場合、通常、80℃以上で10秒間以上、好ましくは100~200℃で3~40秒間、より好ましくは120~180℃で3~40秒間を目安として熱処理を行うのがよい。
【0076】
また、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。
なお、活性エネルギー線照射による硬化のためのエネルギー源としては、公知の装置、エネルギー源を用いることができる。
【0077】
離型層の塗工量(乾燥後)は塗工性の面から、通常、0.005~5g/m2、好ましくは0.005~1g/m2、更に好ましくは0.005~0.1g/m2の範囲である。塗工量(乾燥後)が0.005g/m2未満の場合、塗工性の面より安定性に欠け、均一な塗膜を得るのが困難になる場合がある。
【0078】
一方、5g/m2を超えて厚塗りにする場合には離型層自体の塗膜密着性、硬化性等が低下する場合がある。
【0079】
なお、塗布量は、塗布した時間あたりの液質量(乾燥前)、塗工液不揮発分濃度、塗布幅、延伸倍率、ライン速度等から計算で求める。
【0080】
(用途)
本発明のポリエステルフィルムは、各種の離型用途に好適に用いることができる。例えばドライフィルムレジスト(DFR)用、多層回路基板用、積層セラミックコンデンサーのセラミックグリーンシート製造用等の各種離型・工程用途として使用できる。本フィルムは、離型用途、工程用途では、例えば支持体として使用され、例えば支持体上にセラミックスラリー等の様々な材料が塗布、積層等されるとよい。
【0081】
とりわけ、本発明のポリエステルフィルムは、前述したように、平滑性に優れている一方、それでいて、生産性向上に貢献できることから、積層セラミックコンデンサーの製造工程において、セラミックグリーンシートの支持体として好適に用いることができる。
【0082】
また、今後、電装化が進む自動車向け積層セラミックコンデンサーにおいては、とりわけ、当該コンデンサーの小型化・高容量化に伴い、使用するセラミックグリーンシートの薄膜化が進行していくと予測される。
したがって、とりわけ、本発明のポリエステルフィルムは、自動車向け積層セラミックコンデンサーに用いるセラミックグリーンシート用支持体として好適に用いることができる。
【実施例0083】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0084】
<ポリエステルの製造>
(1)ポリエステルAの製造
ジメチルテレフタレート100質量部及びエチレングリコール65質量部を、攪拌装置、昇温装置及び留出液分離塔を備えたエステル交換反応槽に仕込み、150℃に加熱してジメチルテレフタレートを溶融させた。
【0085】
次いで、得られるポリエステルに対する酢酸マグネシウムの添加量が0.09質量%となるように、酢酸マグネシウム四水塩のエチレングリコール溶液を添加した。
その後、常圧下で3時間かけて225℃まで昇温させ、更に225℃で1時間15分間攪拌保持すると共にメタノールを留去しながらエステル交換反応を行ない、実質的にエステル交換反応を終了してポリエステル低重合体(オリゴマー)を得た。
【0086】
次いで、前記オリゴマーを留出管を備えた攪拌機付き重縮合反応槽へ移送した。
得られるポリエステル樹脂分に対する酢酸マグネシウムの添加量が0.09質量%となるように、酢酸マグネシウム四水塩のエチレングリコール溶液を、移送後のオリゴマーに添加した。
その後、得られるポリエステルに対するリン酸の添加量が0.017質量%となるように、熱安定剤としてリン酸のエチレングリコール溶液を添加した。
【0087】
次いで、得られるポリエステルに対してチタン原子として4.5質量ppmとなるように、重縮合触媒であるテトラブチルチタネートのエチレングリコール溶液を、前記オリゴマーに添加した。
その後、101.3kPaから0.4kPaまで85分間で減圧し0.4kPaに保持するとともに、225℃から280℃まで2時間かけて昇温させ280℃で1.5時間保持して溶融重縮合反応を行い、極限粘度(IV)が0.63dL/gのポリエステルAを得た。
【0088】
(2)ポリエステルBの製造
上記ポリエステルAを固相重合し、極限粘度(IV)が0.70dL/gのポリエステルBを得た。
【0089】
(3)ポリエステルCの製造
上記ポリエステルAでテトラブチルチタネートを添加する代わりに、得られるポリエステル樹脂分に対してアンチモン原子として300質量ppmとなるように、重縮合触媒である三酸化アンチモンを添加したこと以外はポリエステルAと同様にして、極限粘度(IV)が0.63dL/gのポリエステルCを得た。
【0090】
(4)ポリエステルDの製造
上記ポリエステルAで、得られるポリエステルに対してチタン原子として210質量ppmとなるようにテトラブチルチタネートを添加したこと以外はポリエステルAと同様にして、極限粘度(IV)が0.63dL/gのポリエステルDを得た。
【0091】
(5)ポリエステルEの製造
上記のポリエステルD中に、脂肪酸金属塩の結晶核剤(クラリアント社製:Licomont NaV101(CH3(CH2)26COONa)、融点171℃)を10質量%添加し、ベント式二軸混練機を用いて練り込み、ポリエステルEを得た。
【0092】
(6)ポリエステルFの製造
三菱エンジニアリングプラスチックス製 ポリブチレンテレフタレート樹脂(ノバデュラン5007)を使用した。
【0093】
(7)ポリエステルGの製造
上記のポリエステルD中に、平均一次粒径0.05μmのアルミナ粒子を0.75質量%添加し、ベント式二軸混練機を用いて練り込み、ポリエステルGを得た。
【0094】
(8)ポリエステルHの製造
上記のポリエステルD中に、平均一次粒径0.3μmの有機粒子((D90-D10)/D50=0.46:ジビニルベンゼン・エチルスチレン・メタクリル酸・スチレン共重合物)を1.0質量%添加し、ベント式二軸混練機を用いて練り込み、ポリエステルHを得た。
【0095】
[実施例1]
ポリエステルDを50%、ポリエステルEを10%、ポリエステルFを40%の質量割合でブレンドした原料を表面層Aの原料とし、ポリエステルDが100%の原料を中間層Bの原料とし、ポリエステルDを70%、ポリエステルHを30%の質量割合でブレンドした原料を表面層Cの原料として、ベント付き押出機に供給し、290℃で溶融押出した後、表面層A、Cの原料を最外層(表面層)、中間層Bを中間層とする3種三層(A/B/C)の層構成で、押出条件で厚み構成比がA/B/C=1.5/28/1.5となるよう共押出し静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化して無定形フィルムを得た。この場合、表面層Cが冷却ロールと接する側である。
【0096】
次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に、すなわちMD方向に3.4倍延伸した後、この縦延伸フィルムをテンターに導き、横方向、すなわちTD方向に120℃で4.6倍延伸し、テンター内の熱処理(固定)ゾーン1、2、冷却ゾーン3、4において、それぞれ215℃、205℃、150℃、110℃で熱処理を行った後、フィルムを6インチのプラスチック芯にロール状に巻き上げ、厚さ31μmのポリエステルフィルムを得た。
【0097】
[実施例2]及び[実施例3]
実施例1において、表面層Aの原料配合比率を表1の通り変更した以外は、実施例1と同様に製造し、ポリエステルフィルムを得た。
【0098】
[比較例1]~[比較例3]
実施例1において、表面層A及び表面層Cの原料配合比率を表1の通り変更した以外は、実施例1と同様に製造し、ポリエステルフィルムを得た。
【0099】
[参考例1]及び[参考例2]
実施例1において、表面層A及び表面層Cの原料配合比率を表1の通り変更した以外は、実施例1と同様に製造し、ポリエステルフィルムを得た。
得られた各フィルムの特性を下記表1に示す。
【0100】
<測定及び評価方法>
実施例及び比較例で用いた測定法及び評価方法は次のとおりである。測定及び評価結果は、表1にまとめた。
【0101】
(1)極限粘度(IV)
ポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(質量比)の混合溶媒100mLを加えて溶解させ、粘度(IV)測定装置(離合社製「VMS-022UPC・F10」)を用いて、30℃で測定した。
【0102】
(2)粒子の平均粒径及び粒度分布
走査型電子顕微鏡(HITACHI製、「S3400N」)を用いて、実施例及び比較例のポリエステルフィルムの表面層A側の表面より、粉体を観察した。
得られた画像データから粒子1個の大きさを測定し、10点の平均値を平均一次粒径とした。
また、粒子にフェノール/テトラクロロエタン=2/3の混合溶剤を添加した固形分0.03g/mLの分散液を調製し、当該分散液について、マイクロトラックベル社製「MT3300EXII」を用いてレーザー回折散乱法により、累積個数が10%となる粒子径D10、累積個数が50%となる粒子径D50及び累積個数が90%となる粒子径D90を測定し、(D90-D10)/D50を算出した。
【0103】
(3)結晶核剤の熱分析(TG-DTA)
DSC(株式会社日立ハイテクサイエンス製 型式:STA200RV AS)を用いて、室温から290℃まで、120℃/minの昇温速度で昇温した後、290℃で10分間保持した。
その過程において、結晶核剤の状態変化を確認し、200℃に到達した時点での結晶核剤の状態変化を観察した。
(判定基準)
A:200℃で融解した状態であったことを確認した。
B:200℃では未融解状態であったことを確認した。
【0104】
(4)平均表面粗さ(Sa)、最大山高さ(Sp)
表面粗さ測定器(アメテック株式会社製、「NewView」(登録商標))を用いて実施例及び比較例のポリエステルフィルムの表面層Aの表面を測定し、得られた表面のプロファイル曲線より、平均表面粗さ(Sa)、最大山高さ(Sp)を求めた。
【0105】
(5)突起個数の測定
白色干渉計(Bruker社製、「Contour」)を用いて、下記測定条件により実施例及び比較例のポリエステルフィルムの表面層Aの表面を測定し、突起高さが50nm未満の突起個数、50nm以上100nm未満の突起個数及び100nm以上の突起個数を測定した。
(測定条件)
・測定モード:VXIモード
・対物レンズ:20倍
・内部レンズ:0.55倍
・視野面積:586μm×460μm
【0106】
(6)傷つき防止性
フィルム表面のキズ欠陥に関して、実施例及び比較例のポリエステルをA4サイズの試料フィルムとし、「室内三波長蛍光灯下の透過光」及び「暗室でのハロゲンランプの反射光」で傷(微細な傷、傷状欠陥、ツブ状模様等)が目視で認識できるかを確認した。傷が確認できた場合は、その個数を求め、下記評価基準により判定を行った。
<評価基準>
A:室内三波長蛍光灯下の透過光又はハロゲンランプの反射光で確認できる深さ0.3μm以上のキズが0~4個。
B:室内三波長蛍光灯下の透過光又はハロゲンランプの反射光で確認できる深さ0.3μm以上のキズが5個以上。
【0107】
(7)セラミックグリーンシートの薄膜化対応
実施例及び比較例のポリエステルフィルムの表面層Aの表面の最大山高さ(Sp)が200nm以下であり、かつ100nm以上の突起個数が0個/mm2の場合を良好「A」、最大山高さ(Sp)が200nmを超える場合、又は100nm以上の突起個数が0個/mm2を超える場合を不良「B」と判定した。
例えば、厚みが0.5μm以下の薄膜のセラミックグリーンシートの成形加工において、最大山高さ(Sp)が200nmを超える場合に存在する高い突起により、ピンホールの発生等のリスクが高くなる傾向にある。
【0108】
(8)ポリエステルフィルムロールの長尺化対応
実施例及び比較例のポリエステルフィルムをロール状に12000m巻きにした際、シワ等が発生せず、長尺化対応可能な場合を良好「A」、シワ等が発生して、長尺化対応が困難な場合を不良「B」と判定した。
【0109】
【0110】
実施例1~3のポリエステルフィルムは、高い平滑性を有するとともに、結晶核剤とポリブチレンテレフタレート(PBT)を用いて、平均表面粗さ(Ra)を維持した状態で、最大山高さ(Sp)を従来(比較例1、2および参考例1,2)より、適度に粗面化することができており、それでいて、傷つき防止が良好であった。
【0111】
また、実施例1~3の結果により、表面層Aの表面が低Saかつ高Spを得るための調整には、表面層に用いる材料として、結晶核剤とポリブチレンテレフタレート(PBT)の組み合わせが必要であることがわかった。
更に、表面層Aがアンチモン化合物及び/又はチタン化合物を含み、該アンチモン化合物の含有量が100ppm以下であることが好ましいこと、表面層Aを構成するポリエステルの極限粘度(IV)が0.50dL/g以上であることが好ましいことが分かった。
【0112】
また、実施例1~3の表面層Aの表面の突起個数をみると、突起の大きさが大きくなるにつれて減少する傾向があることが分かる。また、実施例1~3と比較例3(粒子系)および参考例との突起個数を比較すると、50nm以上100nm未満の突起個数及び100nm以上の突起個数のいずれにおいても、比較例3、あるいは参考例の方が圧倒的に大きいことが確認された。また、実施例1~3と比較例2とのSa、Spを比較すると、比較例2の方が、平均粗さ(Sa)が低すぎて、かつ最大山高さ(Sp)が低いため、ポリエステルフィルムの長尺化が困難であることがわかった。
比較例1は粒子を添加しない、無粒子状態の表面を用いた例であるが、平滑すぎて、シワが入りやすく、ロール状にした際に長尺化の対応が困難であった。
本発明では、結晶化速度及び流動性の観点からPBTを選択している。
実施例1はPETとPBTとが拮抗している状態で、ブロックコポリマーの相分離のような状態であると推定される。実施例2はPBTが支配的で、高さのある微細突起が多い状態であると考えられる。これはPETよりもPBTの方が、結晶化速度が大きいため、PBT由来の結晶核がより大きくなったことに起因すると考えられる。
実施例3はPETが支配的であり、PBTあるいは結晶核剤の結晶化が大きく成長しなかったため、微細突起が多い状態であると推定される。
実施例1~3の各傾向はポリブチレンテレフタレートと他のポリエステル樹脂との量的な関係(配合比率)にも起因していると推察される。
以上より、ポリエステルフィルムの表面層Aに用いる結晶核剤とポリブチレンテレフタレート(PBT)を適切に選択することにより、結晶核剤の凝集を抑制すると共に、ポリエステルフィルム表面の平滑性を高いレベルで維持した状態で、凹凸形成の調整範囲を広くすることが可能であることが確認された。
本発明のポリエステルフィルムは、高い平滑性を有するとともに、生産性向上に伴い、ポリエステルフィルムの長尺化に対応可能となる利点を有する。更に、積層セラミックコンデンサーの製造工程において、セラミックグリーンシートの支持体として用いれば、均一な薄膜の誘電体層を形成することができる。とりわけ、自動車向け積層セラミックコンデンサーに用いるセラミックグリーンシート用支持体として好適に用いることができる。