(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139322
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20241002BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241002BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241002BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241002BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241002BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20241002BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20241002BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/1391
H01M4/131
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050209
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 翔一
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ03
5H029DJ09
5H029EJ05
5H029HJ02
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA13
5H050EA12
5H050FA02
5H050GA02
5H050GA03
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】電池特性のバラつきを良好に抑制することが可能な全固体リチウムイオン電池の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化物系固体電解質を含む固体電解質層と、正極活物質を含む正極層と、負極層とを含む全固体リチウムイオン電池の製造方法であって、正極活物質を含む正極合材と固体電解質とをプレスして固体電解質層/正極層の圧粉体を複数個作製し、複数個の圧粉体の上に負荷をかけた状態で焼結させて焼成体を作製する焼成体作製工程と、焼成体の固体電解質層の表面に負極層を設けることで作製した積層体を密閉容器に入れて、所定の拘束圧をかけて全固体リチウムイオン電池を作製する電池作製工程とを含み、焼成体作製工程において、複数個の圧粉体はそれぞれ柱状に形成され、且つ、平面の上に、正三角形の3つの頂点の位置に1つずつ互いに離間して設けられており、圧粉体の上から30~92g/cm
2の負荷をかけた状態で焼結させる、全固体リチウムイオン電池の製造方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物系固体電解質を含む固体電解質層と、正極活物質を含む正極層と、負極層とを含む全固体リチウムイオン電池の製造方法であって、
前記正極活物質を含む正極合材と前記固体電解質とをプレスして固体電解質層/正極層の圧粉体を複数個作製し、前記複数個の圧粉体の上に負荷をかけた状態で焼結させて焼成体を作製する焼成体作製工程と、
前記焼成体の固体電解質層の表面に負極層を設けることで作製した積層体を密閉容器に入れて、所定の拘束圧をかけて全固体リチウムイオン電池を作製する電池作製工程と、
を含み、
前記焼成体作製工程において、前記複数個の圧粉体はそれぞれ柱状に形成され、且つ、平面の上に、正三角形の3つの頂点の位置に1つずつ互いに離間して設けられており、前記圧粉体の上から30~92g/cm2の負荷をかけた状態で焼結させる、全固体リチウムイオン電池の製造方法。
【請求項2】
前記焼成体作製工程において、前記複数個の圧粉体は、平面の上に、前記正三角形の3つの辺の中央位置にさらに1つずつ互いに離間して設けられている、請求項1に記載の全固体リチウムイオン電池の製造方法。
【請求項3】
前記焼成体作製工程において、前記複数個の圧粉体は、平面の上に、前記正三角形の重心位置にさらに1つ設けられている、請求項1に記載の全固体リチウムイオン電池の製造方法。
【請求項4】
前記複数個の圧粉体はそれぞれ円柱状に形成されている、請求項1に記載の全固体リチウムイオン電池の製造方法。
【請求項5】
前記酸化物系固体電解質は、組成式1:LiαAxMyO4(組成式1において、AはGe、SiまたはTi、MはV、PまたはAs、3.25≦α≦3.75、0.30≦x≦0.75、且つ、0.25≦y≦0.70である。)
で表され、
前記正極活物質は、組成式2:LiaNibCocMndO2(組成式2において、1.00≦a≦1.08、0.33≦b≦0.90、且つ、b+c+d=1.0である。)
で表される、請求項1~4のいずれか一項に記載の全固体リチウムイオン電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。該電池の中でも、エネルギー密度が高いという観点から、リチウムイオン電池が注目を浴びている。また、車載用等の動力源やロードレベリング用といった大型用途におけるリチウム二次電池についても、エネルギー密度や電池特性の向上が求められている。
【0003】
LISICON型酸化物系固体電解質は、Liイオンを伝導する固体材料として、次世代の全固体電池用固体電解質として期待されている。また、異なる価数のイオンと置換することでLi欠損や過剰Liの導入が可能であり、様々な元素と組み合わせた材料を作製することができる利点も有する。
【0004】
非特許文献1は、LISICON型固体電解質であるLi3.5Ge0.5V0.5O4と、Ni-Co-Mn三元系正極活物質であるNCM111(Ni、Co及びMnを1:1:1の組成比で含む正極活物質)を組み合わせて、スパークプラズマ焼結で共焼結したセルを作製した結果、安定した充放電挙動を示すセル用焼結体を作製することができたことを開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Toyoki Okumura, Tomonari Takeuchi, and Hironori Kobayashi, All-Solid-State Batteries with LiCoO2-Type Electrodes: Realization of an Impurity-Free Interface by Utilizing a Cosinterable Li3.5Ge0.5V0.5O4 Electrolyte, ACS Appl. Energy Mater. (2021), 4, 1, 30-34.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
不燃性の酸化物系固体電解質を用いた酸化物系全固体リチウムイオン電池は、従来のリチウムイオン電池と比較して非常に安全性が高く、信頼性が向上した次世代の電池として注目されている。
【0007】
酸化物系全固体電池は、固体電解質層、正極層及び負極層を含んでおり、通常、固体電解質層と正極層とを互いにプレスして圧粉体とした後、負極層を固体電解質層側の表面に設けることで作製される。構成材料となる固体電解質層、正極層及び負極層について、それぞれ同様のものを用いて酸化物系全固体電池を作製した場合、同様の電池特性が得られるはずである。しかしながら、作製された酸化物系全固体電池によって電池性能にバラつきが生じる問題があった。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、電池特性のバラつきを良好に抑制することが可能な全固体リチウムイオン電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記知見を基礎にして完成した本発明は以下の(1)~(5)で規定される。
(1)酸化物系固体電解質を含む固体電解質層と、正極活物質を含む正極層と、負極層とを含む全固体リチウムイオン電池の製造方法であって、
前記正極活物質を含む正極合材と前記固体電解質とをプレスして固体電解質層/正極層の圧粉体を複数個作製し、前記複数個の圧粉体の上に負荷をかけた状態で焼結させて焼成体を作製する焼成体作製工程と、
前記焼成体の固体電解質層の表面に負極層を設けることで作製した積層体を密閉容器に入れて、所定の拘束圧をかけて全固体リチウムイオン電池を作製する電池作製工程と、
を含み、
前記焼成体作製工程において、前記複数個の圧粉体はそれぞれ柱状に形成され、且つ、平面の上に、正三角形の3つの頂点の位置に1つずつ互いに離間して設けられており、前記圧粉体の上から30~92g/cm2の負荷をかけた状態で焼結させる、全固体リチウムイオン電池の製造方法。
(2)前記焼成体作製工程において、前記複数個の圧粉体は、平面の上に、前記正三角形の3つの辺の中央位置にさらに1つずつ互いに離間して設けられている、(1)に記載の全固体リチウムイオン電池の製造方法。
(3)前記焼成体作製工程において、前記複数個の圧粉体は、平面の上に、前記正三角形の重心位置にさらに1つ設けられている、(1)または(2)に記載の全固体リチウムイオン電池の製造方法。
(4)前記複数個の圧粉体はそれぞれ円柱状に形成されている、(1)~(3)のいずれかに記載の全固体リチウムイオン電池の製造方法。
(5)前記酸化物系固体電解質は、組成式1:LiαAxMyO4(組成式1において、AはGe、SiまたはTi、MはV、PまたはAs、3.25≦α≦3.75、0.30≦x≦0.75、且つ、0.25≦y≦0.70である。)
で表され、
前記正極活物質は、組成式2:LiaNibCocMndO2(組成式2において、1.00≦a≦1.08、0.33≦b≦0.90、且つ、b+c+d=1.0である。)
で表される、(1)~(4)のいずれかに記載の全固体リチウムイオン電池の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電池特性のバラつきを良好に抑制することが可能な全固体リチウムイオン電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池の模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る円柱状の圧粉体の外観模式図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る円柱状の圧粉体の平面上での配置例を示す模式図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る円柱状の圧粉体の平面上での別の配置例を示す模式図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る円柱状の圧粉体の平面上での更に別の配置例を示す模式図である。
【
図6】(A)実施例1に係る圧粉体の配置構成の平面模式図である。(B)実施例1に係る圧粉体の配置構成の側面模式図である。
【
図7】比較例1に係る圧粉体の配置構成の平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0013】
<全固体リチウムイオン電池>
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池は、酸化物系固体電解質を含む固体電解質層と、正極活物質を含む正極層と、負極層とを含む。当該全固体リチウムイオン電池は
図1に示すような構成とすることができる。
【0014】
(固体電解質層)
本実施形態の固体電解質層の組成は特に限定されないが、例えば、組成式1:LiαAxMyO4(組成式1において、AはGe、SiまたはTi、MはV、PまたはAs、3.25≦α≦3.75、0.30≦x≦0.75、且つ、0.25≦y≦0.70である。)で表される酸化物系固体電解質を含む。本実施形態の酸化物系固体電解質は、LISICON型固体電解質であるLiαGexVyO4の母材料、または当該母材料に、Si、Ti、PまたはAsを置換してなる組成を有している。このような構成によれば、酸化物系固体電解質を構成する元素の種類が多くなり、活性化エネルギーが低減するため、良好なイオン伝導度を有する酸化物系固体電解質が得られる。この結果、全固体リチウムイオン電池の容量がより大きくなる。
なお、本発明において、酸化物系固体電解質とは、リチウムイオンの対アニオンとして、中心元素に酸素原子が配位結合したオキソ酸イオンを骨格に有する固体電解質を指す。
【0015】
本実施形態の酸化物系固体電解質は、上記組成式1において、αが3.25未満であると、キャリア濃度が低いためイオン伝導度が低下するという問題が生じるおそれがある。また、αが3.75超であると、単一相合成が困難となる問題が生じるおそれがある。本実施形態の酸化物系固体電解質は、上記組成式1において、3.40≦α≦3.70であるのが好ましい。
【0016】
本実施形態の酸化物系固体電解質は、上記組成式1において、xが0.30未満であると、イオン伝導性の低いLi4GeO4相が生じるおそれがある。また、xが0.75超であると、結晶格子が大きくなるためLiサイト間距離が長くなり、イオン伝導度が低下するおそれがある。本実施形態の酸化物系固体電解質は、上記組成式1において、0.40≦x≦0.60であるのが好ましい。
【0017】
本実施形態の酸化物系固体電解質は、上記組成式1において、yが0.25未満であると、元素置換による活性化エネルギー低減の効果が弱いため、イオン伝導度の向上効果が小さいおそれがある。また、yが0.70超であると、Li4VO4などの不純物相が生成し、イオン伝導度が低下するおそれがある。本実施形態の酸化物系固体電解質は、上記組成式1において、0.30≦y≦0.60であるのが好ましい。
【0018】
本実施形態の酸化物系固体電解質の平均粒径は特に限定されないが、0.01~100μmであってもよく、0.1~100μmであってもよく、0.1~50μmであってもよい。
【0019】
本実施形態の酸化物系固体電解質は以下のようにして作製することができる。
まず、アルゴンガスまたは窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気のグローブボックス内で所定の組成となるように原料を秤量する。ここで用いる各原料は、例えば、LiOH・H2O、GeO2、V2O5、SiO2、TiO2、H3PO4、H3AsO3等が挙げられる。
【0020】
次に、乳鉢などにより、5~30分混合して混合粉を作製する。このとき、混合粉の平均粒径が5~40μmとなるような時間だけ混合することが好ましい。
【0021】
次に、当該混合粉をアルミナ製匣鉢にのせ、600~1000℃で1~20時間焼成することで、組成式1:LiαAxMyO4(組成式1において、AはGe、SiまたはTi、MはV、PまたはAs、3.25≦α≦3.75、0.30≦x≦0.75、且つ、0.25≦y≦0.70である。)で表される、本実施形態の酸化物系固体電解質を作製することができる。
【0022】
本実施形態の酸化物系固体電解質によって形成されたリチウムイオン電池の固体電解質層の平均厚みについては特に限定されず、目的に応じて適宜設計することができる。本実施形態の固体電解質層の平均厚みは、例えば、50μm~500μmであってもよく、50μm~100μmであってもよい。
【0023】
(正極層)
本実施形態の正極層に含まれる正極活物質の組成は特に限定されないが、例えば、組成式2:LiaNibCocMndO2(組成式2において、1.00≦a≦1.08、0.33≦b≦0.90、且つ、b+c+d=1.0である。)で表される。より具体的には、本実施形態の正極層は、上記組成式2で表される正極活物質と、本実施形態の酸化物系固体電解質とを混合してなる正極合材を層状に形成したものを用いることができる。正極層における正極活物質の含有量は、例えば、50質量%以上99質量%以下であることが好ましく、55質量%以上75質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
本実施形態の正極活物質は、Ni比率が0.60≦b≦0.90であるのが好ましい。このようにNi比率の高いハイニッケルNCM正極活物質を用いた場合、一般的に全固体リチウムイオン電池の容量が高くなる。また、このような観点から、上記組成式2において、0.80≦b≦0.90であるのがより好ましい。本実施形態の正極活物質は、上記組成式2を満たすものであれば特に限定されず、公知の正極活物質を用いることができる。
【0025】
Ni比率が0.60≦b≦0.90と高いハイニッケルNCM正極活物質は、従来、固体電解質と反応してLiイオンが伝導しない反応物を生成してしまい、電池として働かなくなる問題があったが、このようなハイニッケルNCM正極活物質と上記組成式1で表される酸化物系固体電解質とが反応物を生成しない。このため、上記組成式1で表される酸化物系固体電解質を固体電解質層に、上記組成式2で表されるハイニッケルNCM正極活物質を正極層にそれぞれ備えた全固体リチウムイオン電池によれば、高容量を実現した酸化物系全固体電池が得られる。
【0026】
正極合材は、さらに導電助剤を含んでもよい。当該導電助剤としては、炭素材料、金属材料、または、これらの混合物を用いることができる。導電助剤は、例えば、炭素、ニッケル、銅、アルミニウム、インジウム、銀、コバルト、マグネシウム、リチウム、クロム、金、ルテニウム、白金、ベリリウム、イリジウム、モリブデン、ニオブ、オスニウム、ロジウム、タングステン及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含んでもよい。導電助剤は、好ましくは、導電性が高い炭素単体、炭素、ニッケル、銅、銀、コバルト、マグネシウム、リチウム、ルテニウム、金、白金、ニオブ、オスニウム又はロジウムを含む金属単体、混合物又は化合物である。炭素材料としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、デンカブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、活性炭等を用いることができる。
【0027】
全固体リチウムイオン電池の正極層の平均厚みについては特に限定されず、目的に応じて適宜設計することができる。全固体リチウムイオン電池の正極層の平均厚みは、例えば、1μm~100μmであってもよく、1μm~10μmであってもよい。
【0028】
(負極層)
全固体リチウムイオン電池の負極層は、特に限定されず、公知の全固体リチウムイオン電池用負極活物質を層状に形成したものであってもよい。また、当該負極層は、公知の全固体リチウムイオン電池用負極活物質と、固体電解質とを混合してなる負極合材を層状に形成したものであってもよい。負極層における負極活物質の含有量は、例えば、10質量%以上99質量%以下であることが好ましく、20質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
負極層は、正極層と同様に、導電助剤を含んでもよい。当該導電助剤は、正極層において説明した材料と同じ材料を用いることができる。負極活物質としては、例えば、炭素材料、具体的には、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛及び難黒鉛化性炭素等、または、その混合物を用いることができる。また、負極材としては、例えば、金属リチウム、金属インジウム、金属アルミ、金属ケイ素等の金属自体や他の元素、化合物と組み合わせた合金を用いることができる。
【0030】
全固体リチウムイオン電池の負極層の平均厚みについては特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。全固体リチウムイオン電池の負極層の平均厚みは、例えば、1μm~100μmであってもよく、1μm~10μmであってもよい。
【0031】
全固体リチウムイオン電池の負極層の形成方法については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。全固体リチウムイオン電池の負極層の形成方法としては、例えば、負極活物質粒子を圧縮成形する方法、負極活物質を蒸着する方法などが挙げられる。
【0032】
リチウムイオン電池を構成するその他の部材については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、正極集電体、負極集電体、及び、電池ケースなどが挙げられる。
【0033】
正極集電体の大きさ及び構造については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
正極集電体の材質としては、例えば、ダイス鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン合金、銅、金、ニッケルなどが挙げられる。
正極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、メッシュ状などが挙げられる。
正極集電体の平均厚みとしては、例えば、10μm~500μmであってもよく、50μm~100μmであってもよい。
【0034】
負極集電体の大きさ及び構造については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
負極集電体の材質としては、例えば、ダイス鋼、金、インジウム、ニッケル、銅、ステンレス鋼などが挙げられる。
負極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、メッシュ状などが挙げられる。
負極集電体の平均厚みとしては、例えば、10μm~500μmであってもよく、50μm~100μmであってもよい。
【0035】
電池ケースについては特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、従来の全固体電池で使用可能な公知のラミネートフィルムなどが挙げられる。ラミネートフィルムとしては、例えば、樹脂製のラミネートフィルム、樹脂製のラミネートフィルムに金属を蒸着させたフィルムなどが挙げられる。
電池の形状については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円筒型、角型、ボタン型、コイン型、扁平型などが挙げられる。
【0036】
<全固体リチウムイオン電池の製造方法>
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池の製造方法は、酸化物系固体電解質を含む固体電解質層と、正極活物質を含む正極層と、負極層とを含む全固体リチウムイオン電池の製造方法であり、焼成体作製工程と、電池作製工程とを含んでいる。また、焼成体作製工程の前に、正極活物質を含む正極合材及び固体電解質を準備する。当該正極合材及び固体電解質は、所望の全固体リチウムイオン電池の組成に基づき、上述の材料を適宜用いることができる。
【0037】
<焼成体作製工程>
焼成体作製工程では、正極活物質を含む正極合材と固体電解質とをプレスして固体電解質層/正極層の圧粉体を複数個作製し、複数個の圧粉体の上に負荷をかけた状態で焼結させて焼成体を作製する。
【0038】
正極活物質を含む正極合材と固体電解質とのプレスは、特に限定されないが、公知のプレス機によって300~400g/cm2の圧力をかけて行うことができる。正極活物質を含む正極合材と固体電解質とのプレスによって複数個作製される固体電解質層/正極層の圧粉体は、それぞれ柱状に形成されている。圧粉体は端面が円形の柱状(円柱状)、端面が多角形の柱状(角柱状)、その他端面が不定形の柱状であってもよい。当該圧粉体は、製造効率や応力集中を回避する観点から、円柱状であるのが好ましい。
【0039】
本発明の実施形態に係る圧粉体の具体例として、
図2に円柱状の圧粉体10の外観模式図を示す。このような円柱状の圧粉体10を例にして本発明の実施形態について説明するが、上述の通り、圧粉体の形状は柱状であるならば特にその形状は限定されずに後述の実施形態をとることができる。
【0040】
圧粉体10は、正極活物質を含む正極合材と固体電解質とのプレスによって形成されており、固体電解質層11及び正極層12が積層された構成(固体電解質層/正極層)を有している。圧粉体10の端面が正円であるのが最も好ましいが、正円でなくてもよく、楕円であってもよい。円柱状の圧粉体10の中心軸Lが圧粉体10の端面の円の重心Oを通る。当該中心軸Lが垂直方向に伸びるように圧粉体10が平面に載置される。
【0041】
圧粉体10は、
図3に示すように、平面13の上において正三角形14の3つの頂点の位置に1つずつ互いに離間して設けられている。圧粉体10は、その端面の円の重心Oが、正三角形14の3つの頂点の位置に重なるように設けることが好ましい。平面13は圧粉体10を安定して載せることができる平らな面であり、台座、ステージなど特に具体的な形態は限定されないが、焼結のために焼成炉に入れて加熱されるため、MgOまたはZrO
2セッターなどのセラミックス製のセッターの表面を、当該平面として用いることが特に好ましい。
【0042】
焼成体作製工程では、このように正三角形14の3つの頂点の位置に1つずつ互いに離間して設けた圧粉体10の上に30~92g/cm2の負荷をかけた状態で焼結させる。このような構成によれば、3個の柱状の圧粉体10がそれぞれ正三角形14の3つの頂点の位置に1つずつ互いに離間して設けられた状態で、30~92g/cm2の負荷がかけられているため、全ての圧粉体10に対し、非常に安定した均等な負荷がかかった状態で焼結を行うことができる。このため、いずれの圧粉体10を用いても同様な性能を有していることになり、電池特性にバラつきが生じることを抑制することができる。
【0043】
圧粉体10は、
図4に示すように、平面13の上において正三角形14の3つの頂点の位置に1つずつ互いに離間して設けられており、且つ、正三角形14の3つの辺の中央位置にさらに1つずつ互いに離間して設けられていてもよい。このような構成によれば、正三角形14の3つの頂点及び各辺の中央位置に1つずつの合計6個の圧粉体10に対し、一度に非常に安定した均等な負荷がかかった状態で焼結を行うことができる。このため、より多くの圧粉体に対して電池特性にバラつきが生じることを効率良く抑制することができる。
【0044】
圧粉体10は、
図5に示すように、平面13の上において正三角形14の3つの頂点の位置に1つずつ互いに離間して設けられており、且つ、正三角形14の重心位置Aにさらに1つ設けられていてもよい。このような構成によれば、正三角形14の3つの頂点及び重心位置Aに1つの合計4個の圧粉体10に対し、一度に非常に安定した均等な負荷がかかった状態で焼結を行うことができる。このため、より多くの圧粉体に対して電池特性にバラつきが生じることを効率良く抑制することができる。
【0045】
圧粉体10の端面の面積は特に限定されないが、0.5~1.0cm2であってもよい。圧粉体10の高さも特に限定されないが、0.03~0.06cmであってもよい。本発明の実施形態に係る焼成体作製工程では、複数個の圧粉体10を平面13上に載せ、上から重りで負荷をかけるため、いずれも高さが同じであることが、均等な負荷がかかるという観点から好ましい。また、均等な負荷がかかる及び単位面積当たりの負荷の制御が容易となるという観点から、複数個の圧粉体10はいずれも端面の面積が同じであることが好ましい。
【0046】
複数個の圧粉体10の上に一度に均一に負荷をかけるために、複数個の圧粉体10の上に平板を載せ、当該平板の上に重りを載せることが好ましい。また、当該平板は、特に限定されないが、焼結のために焼成炉に入れて加熱されるため、MgOまたはZrO2セッターなどのセラミックス製のセッターであることが好ましい。また、セッターを重りとして用いてもよい。このとき、複数個の圧粉体10の上には、後述のAu膜等の他には一体の平板状のセッターが重りを兼ねて載せられているのみである。
【0047】
平板の上に重りを載せることによって、複数個の圧粉体10にそれぞれ30~92g/cm2の負荷をかけることができる。重りの質量は特に限定されず、圧粉体10の個数、圧粉体10の上側の端面の表面積によって適宜設計することができる。また、圧粉体10の上に後述のAu膜及びセッターを載せる場合は、セッターの質量で負荷をかけるものとして、セッターの質量を調整する。なお、Au膜は重りの100分の1程度の質量であるため、当該負荷の計算においては無視してよい。複数個の圧粉体10にかける負荷は、45~65g/cm2であるのがより好ましい。
【0048】
圧粉体10と、その上下に設けるセッター等の平面との間には、それぞれセッター等の成分の拡散防止のために、貴金属膜を設けてもよい。当該貴金属膜は特に限定されないが、Au膜、Pt膜、Ir膜などを用いることが好ましい。
【0049】
焼結は、公知の焼成炉等を用いて行うことができ、700~800℃で2~12時間行うことが好ましい。
【0050】
<電池作製工程>
電池作製工程では、焼成体の固体電解質層の表面に負極層を設けることで作製した積層体を密閉容器に入れて、所定の拘束圧をかけて全固体リチウムイオン電池を作製する。ここで、密閉容器は大気と遮断するための容器であり、一般的に全固体リチウムイオン電池に用いられるものであれば特に限定されない。負極層の構成等は後述する。また、積層体を入れる密閉容器の材質や形状は特に限定されず、所望の全固体リチウムイオン電池の形状や大きさ等で適宜設計することができる。
【0051】
上述のようにして作製された全固体リチウムイオン電池について、所定の電池特性を評価することができる。全固体リチウムイオン電池の電池特性としては、放電容量、サイクル特性等が挙げられる。本発明の実施形態で作製される全固体リチウムイオン電池は、上述のようにして非常に安定した均等な負荷がかかった状態で焼結した複数の圧粉体からそれぞれ作製されている。このため、全固体リチウムイオン電池の電池特性にバラつきが生じることを効率良く抑制することができる。
【実施例0052】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0053】
<1.酸化物系固体電解質及び正極活物質の準備>
(実施例1~3、比較例1~2)
Li3.5Ge0.5V0.5O4の組成を有する酸化物系固体電解質、及び、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2の組成を有する正極活物質をそれぞれ準備した。
なお、正極活物質の組成評価は以下のようにして行った。すなわち、正極活物質のサンプル(粉末)を5gはかり取り、アルカリ溶融法で分解後、株式会社日立ハイテク製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)「PS7800」を用いて、組成分析を行った。酸素含有量は、Li及び金属成分の分析値に加え、不純物濃度、残留アルカリ量を、分析試料全量から差し引くことにより求め、当該酸素含有量から酸素の組成(Oz)のz値を算出した。
また、酸化物系固体電解質の組成評価は以下のようにして行った。すなわち、酸化物系固体電解質のサンプル(粉末)を0.5gはかり取り、種々の酸を用いて溶液化した後、株式会社日立ハイテク製の誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)「PS7800」を用いて、組成分析を行った。
【0054】
<2.圧粉体の作製>
(実施例1)
正極活物質と酸化物系固体電解質とバインダーとをこの順で50:50:5の質量比で混合し、スラリーの固形分が約55質量%となるようにアニソールを溶媒として加え、マゼルスターで400秒混合して正極合材スラリーとし、得られたスラリーの溶媒を室温で乾燥後、乳棒乳鉢で解砕して正極合材粉末を得た。
次に、仮プレスした酸化物系固体電解質の上に上述の正極合材粉末を約10mg載せ、333MPaでプレスして、固体電解質層/正極層の円柱状の圧粉体を作製した。円柱状の圧粉体は端面が0.6575cm
2の面積を有しており、高さは0.03cmであった。
このような構造の圧粉体を合計3個作製し、
図6(A)及び(B)に示すように配置した。
図6(A)は実施例1に係る圧粉体の配置構成の平面模式図である。
図6(B)は実施例1に係る圧粉体の配置構成の側面模式図である。
すなわち、まず、平面13を有するMgOセッター16を準備し、当該平面13上にAu膜15を設けた。
次に、Au膜15の平面の上に、圧粉体10を正三角形14の3つの頂点の位置に1つずつ互いに離間して設けた。このとき、正三角形14の各辺の長さは2cmであった。
次に、円柱状の圧粉体10の上にAu膜15を挿入した状態で、上面から重りの役割を有するMgOセッター17(60g)を載せ、電気炉内に入れて800℃で2時間焼結することで固体電解質層/正極層の焼成体を作製した。
【0055】
(実施例2)
実施例1に対し、上面に載せたMgOセッター17の質量が120gであった以外は全て同様の条件で固体電解質層/正極層の焼成体を作製した。
【0056】
(実施例3)
実施例1に対し、上面に載せたMgOセッター17の質量が180gであった以外は全て同様の条件で固体電解質層/正極層の焼成体を作製した。
【0057】
(比較例1)
実施例1と同様の方法によって、圧粉体10と同様の構成を有する円柱状の圧粉体20を合計5個作製し、
図7に示すように配置した。
図7は、比較例1に係る圧粉体の配置構成の平面模式図である。
具体的には、まず、平面23を有するMgOセッターを準備し、当該平面23上にAu膜を設けた。
次に、Au膜の平面の上に、圧粉体20を正四角形24の4つの頂点と重心位置に1つずつ互いに離間して設けた。このとき、正四角形24の各辺の長さは3cmであった。圧粉体20は、その端面の円の重心Oが、正四角形24の4つの頂点と重心位置にそれぞれ重なるように設けた。
次に、円柱状の圧粉体20の上にAu膜を挿入した状態で、上面から重りの役割を有するMgOセッター(60g)を載せ、電気炉内に入れて800℃で2時間焼結することで固体電解質層/正極層の焼成体を作製した。
【0058】
(比較例2)
実施例1に対し、上面に載せたMgOセッターの質量が230gであった以外は全て同様の条件で固体電解質層/正極層の焼成体を作製した。
【0059】
<3.全固体リチウムイオン電池の作製>
(実施例1~3、比較例1~2)
次に、焼成体の固体電解質層の負極側に、ポリマー固体電解質と金属Liとを圧着して負極層とした。このように作製した積層体を、大気を遮断するため密閉式SUS304製の電池試験セル(密閉容器)に入れて、0.4N・mの拘束圧をかけて全固体二次電池とした。このようにして、全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0060】
<4.充放電試験>
実施例1~3、比較例1~2の各全固体リチウムイオン電池について、それぞれ60℃において0.05Cで初回充放電することで、初回放電容量を評価した。
実施例1~3、比較例1~2は、それぞれ上述の全固体リチウムイオン電池を5体作製し、それぞれ当該充放電試験を行った。そして、初回放電容量の標準偏差を初回放電容量の平均値で除することで、初回放電容量における変動係数を算出した。
上記製造条件及び試験結果を表1に示す。
【0061】
【0062】
(評価結果)
実施例1~3は、いずれも全固体リチウムイオン電池の変動係数が4.5%以下と良好であった。このため、全固体リチウムイオン電池の電池特性にバラつきが生じることを効率良く抑制することができた。
比較例1、2は、全固体リチウムイオン電池の変動係数が6.1~7.1%と不良であった。このため、全固体リチウムイオン電池の電池特性にバラつきが生じた。
【0063】
以上により、本発明に係る全固体リチウムイオン電池の製造方法によれば、酸化物系全固体電池の電池特性にバラつきが生じることを良好に抑制することができることがわかった。