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特開2024-139350液状膜濃縮乳及び液状膜濃縮乳の製造方法
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  • 特開-液状膜濃縮乳及び液状膜濃縮乳の製造方法 図1
  • 特開-液状膜濃縮乳及び液状膜濃縮乳の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139350
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】液状膜濃縮乳及び液状膜濃縮乳の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 3/033 20060101AFI20241002BHJP
   A23C 9/142 20060101ALI20241002BHJP
   A23C 1/00 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
A23C3/033
A23C9/142
A23C1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050244
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 祐子
(72)【発明者】
【氏名】柴 真由美
(72)【発明者】
【氏名】萩野谷 美穂
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】郷田 雅之
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001BC08
4B001BC99
4B001EC53
4B001EC99
(57)【要約】
【課題】本発明は、限外ろ過膜などの膜処理で製造した高タンパク、高固形分濃度の膜濃縮乳において、冷蔵保存中の増粘やゲル化の進行が抑制された、従来に無い物性を有する液状の膜濃縮乳およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】原料乳を膜処理により濃縮した液状の膜濃縮乳を121℃以上140℃以下の温度範囲で2秒間以上加熱する加熱殺菌工程を備えることを特徴とする液状膜濃縮乳の製造方法を提供する。また、膜処理による濃縮倍率が4倍以上5倍以下である前記製造方法や、膜処理が限外ろ過膜による処理である前記製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料乳を膜処理により濃縮した液状の膜濃縮乳を121℃以上140℃以下の温度範囲で2秒間以上加熱する加熱殺菌工程を含むことを特徴とする液状膜濃縮乳の製造方法。
【請求項2】
膜処理による濃縮倍率が4倍以上5倍以下である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
膜処理が限外ろ過膜による処理である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
膜濃縮乳は無脂乳固形分を18.5重量%以上含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
膜濃縮乳はタンパク質を12.0重量%以上含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
原料乳が脱脂乳である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
原料乳は膜処理前にpH調整工程を経ていない原料乳である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項8】
乳飲料、発酵乳、デザート、クリーム又はチーズの製造に用いられる液状膜濃縮乳である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の製造方法によって製造された液状膜濃縮乳。
【請求項10】
無脂乳固形分を18.5重量%以上、タンパク質を12.0重量%以上含み、
5℃で14日間保存後のみかけ粘度が100P未満である液状膜濃縮乳。
【請求項11】
無脂乳固形分を18.5重量%以上、タンパク質を12.0重量%以上含み、
5℃で14日間保存後のゲル-ゾル転移温度が25℃未満である液状膜濃縮乳。
【請求項12】
原料乳を膜処理により濃縮した液状の膜濃縮乳を121℃以上140℃以下の温度範囲で2秒間以上加熱する加熱殺菌工程を含むことを特徴とする、液状膜濃縮乳の冷蔵保存時の増粘抑制方法。
【請求項13】
原料乳を膜処理により濃縮した液状の膜濃縮乳を121℃以上140℃以下の温度範囲で2秒間以上加熱する加熱殺菌工程を含むことを特徴とする、液状膜濃縮乳の冷蔵保存時のゲル化抑制方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状膜濃縮乳及び液状膜濃縮乳の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、膜濃縮法を用い、固形分濃度及びタンパク質含量が高い濃縮乳は、冷蔵保存中に増粘やゲル化が進行することが知られている。このような物性の変化は、原料として他の食品製造に使用する際の、工程適性やハンドリング性を損ね、特殊な製造設備が必要になる、作業性が悪い、歩留まりが低くなるなどの問題を引き起こすおそれがあった。
膜濃縮法を用いる液状濃縮乳の製造方法として以下に示す技術が知られている。
特許文献1は、加熱殺菌により発生する風味の劣化と物性の変化とを抑制することを課題とし、その解決方法として、加熱殺菌工程は、直接加熱法を用いて液状の乳製品を80℃以上120℃以下の温度に加熱し、この範囲の温度に加熱された液状の乳製品を2秒以上30秒以下の時間で保持することにより液状の乳製品を殺菌し、冷却工程は、加熱殺菌工程により殺菌された液状の乳製品を間接冷却法を用いて冷却する方法が開示され、脱脂乳の濃縮には逆浸透膜(RO膜)が使われている。
特許文献2には、液状膜濃縮乳を主成分とする発酵乳製造用の原料乳の製造方法が開示されている。ここで、液状膜濃縮乳(MPC)は、脱脂乳を調製し、冷却した後、リン酸を用いて脱脂乳のpHを5.7に調整する酸性化処理をしてから限外ろ過膜(UF膜)処理して濃縮倍率で3.2倍に濃縮して濃縮液を調製し、その後pH6.7に中和され、タンパク質の濃度が12.9重量%、全固形分濃度が19.9重量%、脂質の濃度が0.5重量%、灰分の濃度が1.3重量%、乳糖の濃度が5.2重量%の液状膜濃縮乳(MPC)が得られたことが開示されている。そして、前記MPCには、水及び乳糖が添加されて、全固形分15重量%、タンパク質濃度は9.7%に薄められた後に130℃、2秒間加熱殺菌され、発酵乳の製造に用いられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2019/004149号パンフレット
【特許文献2】特許第7102094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、加熱殺菌による風味の劣化や物性の変化を防ぐために、膜処理後の殺菌を比較的低温で行うことを特徴としており、高タンパク、高固形分濃度の膜濃縮乳の冷蔵保存における増粘に関する検討はされていない。また、RO膜による膜濃縮乳の利用を前提としており、UF膜等のRO膜以外の分離膜を利用して、水分以外の成分である乳糖や灰分等も低減された成分組成の膜濃縮乳についての検討もされていない。
特許文献2においては、液状MPCは、膜処理前にpH調整により酸性化処理がされていることから工程が複雑であること、また、Ca量が低減されており、乳の特長的な栄養素を損失しているものである。さらにまた、液状MPCに水及び乳糖を添加して薄めてから殺菌し、発酵乳の製造に用いることから、液状MPCそのものでの冷蔵保存は行われておらず、その増粘の課題は生じない。
以上より、本発明は、UF膜などの膜処理で製造した高タンパク、高固形分濃度の液状膜濃縮乳において、冷蔵保存中の増粘やゲル化の進行が抑制された、従来に無い物性を有する液状の膜濃縮乳およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、膜濃縮工程後の液状膜濃縮乳の殺菌工程において、従来の殺菌条件よりも高い殺菌強度(121℃2秒間以上)で加熱殺菌することで、高タンパク、高固形分濃度の膜濃縮乳を冷蔵保存する時に生じる増粘やゲル化の進行が抑制されることを見出し本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成を有する。
<1>
原料乳を膜処理により濃縮した液状の膜濃縮乳を121℃以上140℃以下の温度範囲で2秒間以上加熱する加熱殺菌工程を備えることを特徴とする液状膜濃縮乳の製造方法。
<2>
膜処理による濃縮倍率が4倍から5倍である<1>に記載の製造方法。
<3>
膜処理が限外ろ過膜による処理である<1>又は<2>に記載の製造方法。
<4>
膜濃縮乳は無脂乳固形分を18.5重量%以上含む、<1>又は<2>に記載の製造方法。
<5>
膜濃縮乳はタンパク質を12.0重量%以上含む、<1>又は<2>に記載の製造方法。
<6>
原料乳が脱脂乳である<1>又は<2>に記載の製造方法。
<7>
原料乳は膜処理前にpH調整工程を経ていない原料乳である<1>又は<2>に記載の製造方法。
<8>
乳飲料、発酵乳、デザート、クリーム又はチーズの製造に用いられる液状膜濃縮乳である、<1>又は<2>に記載の製造方法。
<9>
<1>又は<2>に記載の製造方法によって製造された液状膜濃縮乳。
<10>
無脂乳固形分を18.5重量%以上、タンパク質を12.0重量%以上含み、
5℃で14日間保存後のみかけ粘度が100P未満である液状膜濃縮乳。
<11>
無脂乳固形分を18.5重量%以上、タンパク質を12.0重量%以上含み、
5℃で14日間保存後のゲル-ゾル転移温度が25℃未満である液状膜濃縮乳。
<12>
原料乳を膜処理により濃縮した液状膜濃縮乳を121℃以上140℃以下の温度範囲で2秒間以上加熱する加熱殺菌工程を備えることを特徴とする、液状膜濃縮乳の冷蔵保存時の増粘抑制方法。
<13>
原料乳を膜処理により濃縮した液状膜濃縮乳を121℃以上140℃以下の温度範囲で2秒間以上加熱する加熱殺菌工程を備えることを特徴とする、液状膜濃縮乳の冷蔵保存時のゲル化抑制方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法は、膜濃縮法を用いて調製した高タンパク、高固形分含量の液状の膜濃縮乳を、高い殺菌強度(加熱温度及び時間)で加熱することにより、その後の冷蔵保存中に生じる液状膜濃縮乳の増粘やゲル化の進行を抑制することができる。したがって、当該液状膜濃縮乳は、増粘やゲル化が抑制されるという従来にない物性を有することから、これを利用した様々な製品の製造工程でハンドリング性に優れ、生産性の向上に寄与することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】膜濃縮乳の加熱殺菌温度と冷蔵保存時の粘度経時変化の関係を示すグラフである。
図2】膜濃縮乳の加熱殺菌温度と冷蔵保存時のゲル-ゾル転移温度経時変化の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、原料乳を膜処理により濃縮した液状の膜濃縮乳を121℃以上140℃以下の温度範囲で2秒間以上加熱する加熱殺菌工程を備えることを特徴とする液状膜濃縮乳の製造方法に係る発明である。
本発明において膜濃縮乳とは、生乳、牛乳又は特別牛乳などから乳脂肪分を除去した脱脂乳を原料乳とし、分離膜を用いた方法により濃縮した液状の膜濃縮乳である。
以下、本発明の液状膜濃縮乳の製造方法について詳しく説明する。
【0009】
(原料乳)
本発明において膜処理を行う原料乳は、例えば生乳、牛乳、特別牛乳、脱脂乳などが挙げられ、典型的には脱脂乳である。脱脂乳は、生乳、牛乳又は特別牛乳などを加熱した後、遠心分離機により乳脂肪分を除去することにより得られる。本発明の原料乳は、膜処理する前に、必要に応じて加熱殺菌することもできる。この場合、原料乳を加熱殺菌後、55℃以下に冷却してから膜処理することが好ましい。
また、前記原料乳は膜処理前に、pH調整工程を経ていない原料乳であることが好ましい。pH調整工程を必要とすると、工程が増え製造工程が煩雑となり、また、pH調整剤等の配合により液状膜濃縮乳の用途が限定的となるという問題点があるからである。
【0010】
(膜処理)
本発明において膜処理に用いられる分離膜としては、脱脂乳などの原料乳を濃縮できる膜であればよく、RO膜、ナノろ過膜(NF膜)、UF膜や精密ろ過膜(MF膜)が挙げられ、このうちでもUF膜が好ましい。UF膜の分画分子量としては、例えば、1kDa以上80kDa以下が好ましい。
本発明の膜濃縮工程における濃縮倍率は、3.0倍以上6.5倍以下とすればよいが、3.5倍以上6.0倍以下が好ましく、4.0倍以上5.5倍以下がより好ましく、4.0倍以上5.2倍以下がさらにいっそう好ましく、4倍以上5倍以下が最も好ましい。
【0011】
(膜濃縮乳の殺菌工程)
本発明の液状膜濃縮乳の殺菌工程は、所望の殺菌温度及び当該殺菌温度を保持できる加熱式の装置であればよく、例えばプレート式、チューブ式、掻き取り式、インジェクション式、インフュージョン式などの各殺菌装置を使用できる。
所望の殺菌温度及び殺菌時間は、液状膜濃縮乳を121℃以上140℃以下で2秒間以上が好ましく、121℃以上135℃以下で2秒間以上がさらに好ましく、121℃以上130℃以下で2秒間以上がよりいっそう好ましい。前記殺菌時間はさらに好ましくは4秒間以上である。また、殺菌時間の上限としては30秒間以内が好ましく、15秒間以内がさらに好ましく、10秒間以内がよりいっそう好ましく、6秒間以内がもっとも好ましい。
【0012】
本発明の膜濃縮乳は、無脂乳固形分を18.5重量%以上含むことが好ましい。また、タンパク質を12.0重量%以上含むことが好ましい。なお、これらの上限としては、無脂乳固形分は24重量%以下、タンパク質は19.0重量%以下であることが好ましい。また、脂肪分は3重量%以下であることが好ましく、1重量%以下がさらに好ましく、0.5重量%以下がさらにいっそう好ましく、含まないことがもっとも好ましい。また、膜濃縮後加熱殺菌される段階では、水で薄められていない膜濃縮乳であることが好ましい。
本発明の製造方法により、このような高タンパク、高固形分の液状膜濃縮乳であっても、上記条件で加熱殺菌することで、冷蔵保存時の増粘を抑制することが出来た意義は大きい。
【0013】
(冷蔵保存時の増粘抑制方法/ゲル化抑制方法)
本発明の液状膜濃縮乳の製造方法は、換言すれば、原料乳を膜処理により濃縮した液状膜濃縮乳を121℃以上140℃以下の温度範囲で2秒間以上加熱する加熱殺菌工程を備えることを特徴とする、液状膜濃縮乳の冷蔵保存時の増粘抑制方法とも言える。さらにまた、原料乳を膜処理により濃縮した液状膜濃縮乳を121℃以上140℃以下の温度範囲で2秒間以上加熱する加熱殺菌工程を備えることを特徴とする、液状膜濃縮乳の冷蔵保存時のゲル化抑制方法とも言える。
【0014】
(みかけ粘度)
本発明において液状膜濃縮乳の増粘の進行度合いは、みかけ粘度で評価することができる。みかけ粘度は、後述する実施例に示すようにB型粘度計を用いて測定することができる。本発明の液状膜濃縮乳は5℃で14日間保存した場合のみかけ粘度が100P未満であることが好ましく、95P未満がさらに好ましく、90P未満がよりいっそう好ましい。みかけ粘度やゲル-ゾル転移温度の評価時である「5℃で14日間保存後」の具体例としては、膜濃縮乳を加熱殺菌後、10℃以下に冷却して容器に充填した後5℃の冷蔵保管庫に入れる場合や、膜濃縮乳を容器に充填後、加熱殺菌し、10℃以下に冷却した後5℃の冷蔵保管庫に入れる場合が挙げられ、これらの場合は、5℃の冷蔵保管庫に入庫後(すなわち、品温が5℃になってから)14日間経過時が相当する。
【0015】
(ゲル-ゾル転移温度)
本発明において液状膜濃縮乳のゲル化の進行度合いは、動的粘弾性測定により評価することができる。具体的には、レオメーターを用いて、実施例に示す条件により貯蔵弾性率(G’),損失弾性率(G''),および力学的損失正接(tanδ)の温度依存性(温度範囲:7℃~50℃で昇温、速度:2℃/分)を測定し、tanδ=1になる温度をゲル-ゾル転移温度として算出し、ゲル化の進行度の指標に用いることができる。ゲル-ゾル転移温度は保存期間の経過とともに高くなる傾向にあるが、本発明の液状膜濃縮乳は、製造後5℃で14日間保存した場合のゲル-ゾル転移温度は25℃未満であることが好ましい。
【0016】
(用途)
本発明の膜濃縮乳は、液状であり、乳が使用される様々な用途に利用することができる。本発明の膜濃縮乳は液状であっても保存による増粘が抑制され、ゲル化しないことから、例えば、そのままあるいは希釈して乳飲料としたり、他の原材料と調合して乳飲料として利用することができる。また、乳飲料の他に発酵乳、デザート、クリーム、チーズの原料、加工食品の原料など各種乳製品の原料として利用することができる。液状濃縮乳の粘度が高いと撹拌や、ポンプでの送液に適さないことがあるが、本発明の液状濃縮乳は14日間冷蔵保存しても増粘が抑制されゲル化の程度も軽微であることから、原料として利用される商品の種類や製造工程を選ばず、幅広く利用することができる。
以下、本発明を実施例をもって具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例0017】
[実施例1]膜濃縮乳の殺菌温度と冷蔵保存中の物性との関係
膜濃縮乳の殺菌温度が、冷蔵保存中の増粘及びゲル化に与える影響について調べた。
1.膜濃縮乳の製造方法
(1)脱脂乳の調製
生乳を50℃に加温後、ミルクセパレーターを用い、遠心分離して脂肪分を除くことにより脱脂乳を得た。得られた脱脂乳を、プレート式殺菌装置を用い、75℃まで昇温後、15秒間保持することにより殺菌し、その後50℃に冷却した。
(2)膜濃縮乳の調製
前記(1)で得られた脱脂乳を限外ろ過(UF)膜(分画分子量10kDa、有機材質、スパイラル型)を用いてクロスフローろ過により濃縮倍率5倍に濃縮し、膜濃縮乳を得た。このときの循環流について、温度は50℃、流量は6,000L/hとし、膜の上流部と下流部の差圧が0.1MPaとなるように制御した。膜濃縮乳の無脂乳固形分は21.7%、タンパク質含量は14.7%であった。
(3)膜濃縮乳の殺菌工程
得られた膜濃縮乳を、プレート式殺菌装置を用い、表1に示す各殺菌温度まで昇温後、当該温度に4秒間保持することにより殺菌し、直ちに10℃以下に冷却した。その後、前記殺菌済み膜濃縮乳を5℃で冷蔵保存し、以下に示す評価試験に供した。
【0018】
【表1】
【0019】
2.評価方法
5℃で冷蔵保存開始7日目、14日目、22日目の各膜濃縮乳についてみかけ粘度とゾル-ゲル転移温度を求め、殺菌温度と増粘及びゲル化の抑制の関係を評価した。
2-1.みかけ粘度の評価方法
各膜濃縮乳の5℃で冷蔵保存開始7日目、14日目、22日目のサンプルについてみかけ粘度を測定し、経時変化を確認した。各サンプルを、100mL容の遠沈管に90mL採取して保存した。測定前に10℃に調温し、B型粘度計(TVB-10、東機産業製)を用い、ロータ回転数30rpmで回転開始30秒後における粘度を測定した。
【0020】
2-2.ゲル化の進行度合いの評価方法
各膜濃縮乳の保存開始7日目、14日目、22日目のサンプルについて動的粘弾性を測定してゲル-ゾル転移温度を求め、ゲル化の進行度合いを評価した。ゲル-ゾル転移温度が高くなるほど、ゲル化が進行していると考えられる。
各サンプルについて、以下の測定機器及び測定条件で貯蔵弾性率(G’),損失弾性率(G''),および力学的損失正接(tanδ)の温度依存性(温度範囲:7℃~50℃で昇温、速度:2℃/分)を測定した。tanδ=1になる温度をゲル-ゾル転移温度とした。
(測定機器及び測定条件)
測定機器:レオメーター(MCR302、Anton Paar製)
治具:φ50mmコーンプレート(CP50-1)
ギャップ:0.100mm
歪み:0.5%
周波数:1Hz
【0021】
2-3.膜濃縮乳の成分値の測定
(1)無脂乳固形分
マイクロ波水分計(SMART 5 Turbo、CEM製)を用いて測定した。
(2)タンパク質含量
全窒素分析装置(スミグラフ NC-TRINITY、住化分析センター製)を用いて各膜濃縮乳の全窒素量を測定し、乳・乳製品に用いられる窒素-たんぱく質換算係数として、6.38を乗じることで算出した。
【0022】
3.試験結果
3-1.みかけ粘度の経時変化
結果を図1に示す。いずれの殺菌温度でも、保存期間が長くなるにつれて膜濃縮乳の粘度は高くなり増粘していた。しかし、121℃以上の温度で殺菌した膜濃縮乳(実施例1、実施例2)では、115℃で殺菌した比較例1よりも粘度が低く、増粘が抑制されていることが確認できた。
【0023】
3-2.ゲル-ゾル転移温度の経時変化
結果を図2に示す。いずれの比較例および実施例でも、保存期間が長くなるにつれてゲル-ゾル転移温度が高くなり、ゲル化が進行していた。しかし、より高い殺菌温度(実施例1、実施例2)では、比較例1よりもゲル-ゾル転移温度が低く、ゲル化の進行が抑制されていた。

図1
図2