(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139367
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】浮遊選鉱方法および、銅の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/00 20060101AFI20241002BHJP
C22B 15/00 20060101ALI20241002BHJP
C22B 7/04 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C22B1/00 101
C22B15/00
C22B7/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050270
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】サンバルフンデウ デルゲルマー
(72)【発明者】
【氏名】攝津 理仁
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA09
4K001BA12
4K001CA03
(57)【要約】
【課題】銅スラグの浮遊選鉱の操業を有効に管理することができる浮遊選鉱方法を提供する。
【解決手段】浮遊選鉱方法であって、浮選槽内にて、銅製錬で発生して銅を含有する銅スラグが混ぜ合わされたパルプについて浮遊選鉱を操業するに際し、前記パルプに発生するフロスが浮選槽から排出される速度に関するフロス速度情報を取得すること、並びに、前記フロス速度情報に基づいて浮遊選鉱の操業を管理することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮遊選鉱方法であって、
浮選槽内にて、銅製錬で発生して銅を含有する銅スラグが混ぜ合わされたパルプについて浮遊選鉱を操業するに際し、
前記パルプに発生するフロスが浮選槽から排出される速度に関するフロス速度情報を取得すること、並びに、前記フロス速度情報に基づいて当該操業を管理することを含む、浮遊選鉱方法。
【請求項2】
前記フロス速度情報を、フロスの経時的な撮影により得られるフロス画像情報から取得することを含む、請求項1に記載の浮遊選鉱方法。
【請求項3】
前記操業に際し、浮選槽の周囲に設置した撮像装置を用いて、前記フロス画像情報を取得することを含む、請求項2に記載の浮遊選鉱方法。
【請求項4】
前記操業の管理が、前記フロス速度情報に基づいて、浮選槽に対するパルプの流入量及び/又は流出量を調整することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の浮遊選鉱方法。
【請求項5】
前記操業に先立ち、前記銅スラグについて、浮選槽からのフロス排出速度と浮鉱の銅品位との関係に関する銅品位情報を取得し、
前記操業に際し、さらに銅品位情報に基づいて浮遊選鉱の操業を管理することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の浮遊選鉱方法。
【請求項6】
前記銅スラグの銅含有量が、6質量%~13質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の浮遊選鉱方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載の浮遊選鉱方法を用いて、前記銅スラグから銅を回収する、銅の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書は、浮遊選鉱方法および、銅の回収方法に関する技術を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
鉱石から鉱物を分離させるには、浮遊選鉱法が用いられる。浮遊選鉱法では、たとえば、前工程で微細化された鉱石を水等の液体と混合してパルプ(泥漿)とし、このパルプを浮選槽内に貯留させる。パルプはスラリーと称されることもある。そして、浮選槽内のパルプに、フロスを発生させるための起泡剤等の薬剤を添加して撹拌すると、フロスが鉱物を付着しながら浮上する。このようにして浮上した鉱物はフロスとともに、浮選槽から溢流等により排出させて回収される。
【0003】
浮遊選鉱法の操業管理の多くの部分は一般に、作業者の目視により得られた情報に基づいて行われる。一方、近年は、浮選槽内に発生するフロスを撮影するフロスカメラ等の機器を使用し、それによる情報を用いて操業を管理することが検討されている。
【0004】
たとえば特許文献1には、浮選槽からフロスが溢れる速度を測定するカメラ画像分析システムや、フロスの高さを測定するレーザー測定器を使用することが記載されている。また、この特許文献1には、フロスの高さと浮選セルへの供給ガス流量との間、及び、フロス速度と当該供給ガス流量との間には相関関係が存在し、これを用いて最適な供給ガス流量を算出することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2014/0110311号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、銅鉱石から銅を取り出す銅製錬では、自溶炉もしくは転炉等にて、銅から分離された残滓ないし鉱滓として銅スラグが発生する。銅スラグは、その大部分が、たとえば酸化鉄や酸化ケイ素等の不純物からなるものであり、銅カラミと称されることもある。
【0007】
銅スラグには、不純物が多く含まれるが、銅もある程度少量ながら化合物等の形態で含まれる場合がある。銅のロスを減らすとの観点から、かかる銅スラグは廃棄せずに、そこから銅を取り出す処理を施すことが望ましい。そのような銅スラグに対する処理のなかで、浮遊選鉱法を用いることができる。
【0008】
但し、銅スラグは、シリカ(Si)を含む脈石や硫化鉱物が成分となる銅鉱石とは異なり、主成分が鉄や銅等の化合物であることが多い。このため、銅スラグの浮遊選鉱の操業に際しては、銅鉱石の浮選選鉱に比べ、肉眼でフロスの性状等を適正に確認することが難しく、作業者の目視に代わる有効な管理手法の確立が望まれる。
【0009】
この明細書では、銅スラグの浮遊選鉱の操業を有効に管理することができる浮遊選鉱方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この明細書で開示する浮遊選鉱方法は、浮選槽内にて、銅製錬で発生して銅を含有する銅スラグが混ぜ合わされたパルプについて浮遊選鉱を操業するに際し、前記パルプに発生するフロスが浮選槽から排出される速度に関するフロス速度情報を取得すること、並びに、前記フロス速度情報に基づいて当該操業を管理することを含むものである。
【発明の効果】
【0011】
上記の浮遊選鉱方法によれば、銅スラグの浮遊選鉱の操業を有効に管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一の実施形態の浮遊選鉱方法で用いることができる浮選装置を示す概略断面図である。
【
図2】実施例のフロス排出速度及び浮鉱中の銅品位の経時変化を表すグラフである。
【
図3】実施例のフロス排出速度と浮鉱中の銅品位との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、上述した浮遊選鉱方法の実施の形態について詳細に説明する。
一の実施形態の浮遊選鉱方法では、銅スラグを対象とする。銅スラグは、不純物を含むが、銅も含有するものである。
【0014】
浮遊選鉱は、上記の銅スラグを液体と混ぜ合わせてパルプとし、当該パルプを浮選槽に貯留させて行う。ここで、銅スラグは、主成分が銅鉱石とは異なり、鉄や銅の化合物であること等に起因して、パルプに発生するフロスの色彩の変化が乏しく、それを肉眼で確認することが難しい。このことが、銅スラグの浮遊選鉱の適切な操業管理を困難にしていた。
【0015】
これに対し、銅スラグの浮遊選鉱では、パルプに発生するフロスが浮選槽から排出される速度(「フロス排出速度」ともいう。)と、それにより得られる浮鉱の銅品位との間に相関関係があることが、新たな知見として得られた。かかる知見の下、この実施形態では、浮選槽からのフロス排出速度に関するフロス速度情報を取得し、そのフロス速度情報に基づいて浮遊選鉱の操業を管理する。それにより、たとえば、浮鉱の銅品位の低下を抑制しながら、浮遊選鉱を行うこと等により、銅スラグの浮遊選鉱の操業を有効に管理することができる。銅スラグに浮遊選鉱を行うことにより、銅スラグ精鉱が得られる。
【0016】
(銅スラグ)
浮遊選鉱の対象は銅スラグである。銅スラグは、銅製錬にて銅鉱石から銅を取り出す過程で銅から分離されて発生した残滓ないし鉱滓であり、銅カラミとも称され得る。
【0017】
銅製錬では一般に、銅鉱石の選鉱によって銅を濃縮した銅精鉱に対し、自溶炉での溶錬及び、転炉を用いた製銅を順次に行った後、それにより得られる粗銅を精製で純銅として、銅を取り出す。このうち、自溶炉や転炉でマットもしくは粗銅から分離した残滓として銅スラグが得られることがある。但し、浮遊選鉱の対象とする銅スラグは、銅製錬で発生して銅を含有するものであれば、これに限らない。
【0018】
浮遊選鉱に供する銅スラグの銅(Cu)含有量は、典型的には6質量%~13質量%であるが、この範囲内に限らない。このような銅スラグは廃棄せずに、ここで述べる浮遊選鉱を含む処理を施して、そこに含まれる銅を回収することが、銅のロスを減らすという観点で望ましい。その他、銅スラグには、銅や鉄、珪素が酸化物等の化合物の形態で含まれ得る。不純物として、たとえば、鉄はFe3O4として32質量%~41質量%、ケイ素はSiO2として20質量%~24質量%含まれることがある。
【0019】
上記のような銅スラグに浮遊選鉱を含む処理を施して、銅スラグ精鉱を回収することにより、限られた資源である銅を有効に活用することができ、環境保護に寄与することができる。
【0020】
(浮遊選鉱)
浮遊選鉱を行うには、上述したような銅スラグを、水もしくは石灰水等の液体と混ぜ合わせてパルプ(泥漿ないしスラリー)とし、このパルプを浮選槽に貯留させる。また、浮選槽には、フロスを形成するための起泡剤や銅化合物の捕収力を高める捕収剤等を添加する。
【0021】
そして、浮選槽に大気を強制的に給気し又は自給式で給気して、フロスをそれとともに浮上した浮鉱とともに回収する。このとき、浮選槽からフロスを自然に溢流させることにより排出させることで、フロスとともに浮上した浮鉱を回収することができる。
【0022】
浮遊選鉱には、たとえば、
図1に示すような複数個の浮選槽2を有する浮選装置1を用いることがある。この浮選装置1は、上流側(
図1では右側)から下流側(
図1では左側)に向かって並べて配置された複数個の浮選槽2を備えるものであり、それらの浮選槽2は隣り合うものどうしで連通されている。なお、
図1では二個の浮選槽2を示しているが、多くの浮選装置1では、三個以上の多数個の浮選槽2が直列に連結されている。
【0023】
この浮選装置1では、隣り合う浮選槽2の相互は、それらの間に設けられてパルプPの通流が可能な連通部3により連結されている。そして、各連通部3には、上流側の浮選槽2から下流側の浮選槽2へのパルプPの流れを制御するバルブ4が設けられている。このバルブ4を上下に移動させる等して操作することにより、パルプPが下流側に流れて、浮選槽2内のフロス層FLを変動させることができる。フロス層FLは、浮選槽2内のパルプ表面PS上に形成されるフロスFの高さ方向の領域であり、ここでは溢流部分であるオーバーリップOLとパルプ表面PSとの間の領域としている。
【0024】
ところで、銅スラグは、主に銅や鉄の化合物が含まれること等に起因して、液体と混ぜ合わせたパルプが黒ずんだ色彩を呈する場合がある。そのようなパルプの場合、通常の銅鉱石の浮遊選鉱時に比べ、肉眼によっては色彩の変化を確認し難いことから、作業者の目視では浮遊選鉱の操業を適正に管理することが困難である。
【0025】
そこで、この実施形態では、フロス速度情報を取得し、このフロス速度情報に基づいて操業を管理する。
図1に例示する浮選装置1では、パルプ表面PS上に形成されるフロスFがオーバーリップOLから溢流して浮選槽2から排出される際のフロスFの速度を確認し、これをフロス速度情報として操業管理に用いることができる。
【0026】
これは、フロス排出速度と、フロスとともに回収される浮鉱の銅品位との間に相関関係があるという新たな知見に基づくものである。この知見によると、フロス排出速度が上昇すると、浮鉱中の銅品位が低下して不純物が多くなる傾向がある。このため、フロス速度情報を参照し、フロス排出速度が適切な値になるように各種条件を調整して操業を管理することにより、安定した銅品位の浮鉱が得られる。それにより、肉眼でのパルプ性状の確認が難しい銅スラグの浮遊選鉱を行う際に、その操業を有効に管理することができる。
【0027】
また、フロス速度情報に基づいて操業を管理すれば、作業員による目視の確認作業の負荷が軽減され又は当該作業が不要になり、さらには自動で管理できる可能性があり、人件費を含むコストの低減も見込まれる。その上、作業員の技能によらず、安定した操業が可能になる。
【0028】
フロス速度情報等のフロスの情報は、オンライン分析装置により取得することも可能であるが、フロス画像情報から取得することが、比較的安価な装置やソフトにて高い精度を得られる点で好ましい。フロス画像情報は、いわゆるフロスカメラ等の撮像装置を用いて、浮選槽内で発生するフロスを経時的に撮影して、フロス画像を得ることにより取得することができる。このとき、フロスを連続的に撮影してもよいが、所定の時間の経過に伴うフロス性状の変化が把握可能であれば、時間間隔が一定又は不定の断続的な撮影であってもかまわない。
【0029】
フロスを撮影する場合、浮選槽の周囲に撮像装置を設置することができる。
図1に示すような上方側に開口部5がある浮選槽2の場合、撮像装置11は、開口部5の上方側に設置することで、開口部を通して浮選槽2内のフロスFを撮影することが可能である。
【0030】
フロス画像情報からフロス速度情報を取得するには、フロス画像情報に対して画像解析を行うことができる。具体的には、画像解析はOCS-4Dソフトを使用して行うことがある。この場合、撮影箇所や明るさ等を調整することができる。
【0031】
フロス速度情報に基づく浮遊選鉱の操業管理の一例としては、フロス速度情報に応じて、浮選槽へのパルプの流入量及び/又は、浮選槽からのパルプの流出量を調整することが挙げられる。
図1に例示する浮選装置1では、バルブ4を上下に移動させることにより、浮選槽に対するパルプPの流入量や流出量を変更することができる。
【0032】
このような浮遊選鉱を操業するには、その操業に先立って、浮遊選鉱の対象とする銅スラグについて、たとえば浮遊選鉱の実験をすること等により、浮選槽からのフロス排出速度と浮鉱の銅品位との関係に関する銅品位情報を予め取得しておくことが望ましい。
【0033】
この場合、浮遊選鉱の操業時に、たとえば、フロス速度情報を参照してフロス排出速度を監視し、その間に、銅品位情報のフロス排出速度と銅品位との関係より、所望の銅品位の浮鉱が得られないと推定されるほどフロス排出速度が速くなったときは、
図1の浮選装置1では下流側のバルブ4を上昇させて、当該浮選槽2からのパルプPの流出量を増大させ、当該浮選槽2内のフロス層FLの高さを低くすることができる。あるいは、銅品位情報のフロス排出速度と銅品位との関係より、過剰に高い銅品位の浮鉱になると推定されるほどフロス排出速度が遅いときは、下流側のバルブ4を下降させることにより、フロス層FLの高さを高くして、当該浮選槽2からのパルプPの流出量を減少させればよい。下流側のバルブ4の操作に加えて又は変えて、上流側のバルブ4で、当該浮選槽2へのパルプPの流入量を変更してもよい。このような操業管理により、所期した銅品位の浮鉱を得ることができる。
【0034】
(銅の回収)
以上に述べた浮遊選鉱方法は、銅スラグからの銅の回収に用いることができる。
【0035】
銅の回収では、銅製錬で発生した銅スラグは、必要に応じて磨鉱や分級を経た後、一回以上の浮遊選鉱が行われる。浮遊選鉱を一回行う場合はその浮遊選鉱で、あるいは複数回行う場合はそれらのうちの少なくとも一回の浮遊選鉱で、先述した実施形態の浮遊選鉱方法を採用することができる。複数回の場合は、少なくとも一回目の浮遊選鉱において、ここで述べた実施形態を採用することが好ましい。銅含有量がある程度多い銅スラグを対象とする浮遊選鉱で特に、フロス排出速度と銅品位との間に強い相関関係が認められ、一回目の浮遊選鉱は銅含有量が多い銅スラグを対象とするからである。
【0036】
浮遊選鉱で得られて銅が濃縮した浮鉱は、銅製錬に戻して溶錬及び製銅等に供することが可能であり、それにより、その銅成分の多くが純銅に含まれる。このようにして銅スラグ中の銅を有効に回収することができて、銅のロスの低減を実現することができる。
【実施例0037】
次に、上述したような浮遊選鉱方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであって、これに限定されることを意図するものではない。
【0038】
図1に示すような浮選装置を用いて、銅スラグのサンプルについて浮遊選鉱の試験を行った。サンプルの化学組成を表1に示す。
【0039】
【0040】
浮選槽の開口部の上方側には、撮像装置としてフロスカメラ(Metso社製のVisioFroth)を設置し、それによって試験の間、浮選槽内のフロスを3時間にわたって連続的に観察した。フロスカメラで撮影した画像は、画像解析ソフト(OCS-4D)で解析し、フロス排出速度の算出に用いた。また、浮選槽から溢流したフロスを30分おきに採取し、そこに含まれる浮鉱中の銅品位を確認した。
【0041】
その結果を
図2及び3に示す。
図2中、「Y velоcity」及び「velоcity」は、垂直方向のフロス排出速度を意味する。また、
図2及び3中、銅品位は、質量基準の割合で示している。
【0042】
図2より、時間の経過に伴い、フロス排出速度が上昇しているところ、それに応じて、浮鉱中の銅品位が低下していることがわかる。これは、フロス排出速度が速くなると、浮鉱中の不純物含有量が増加することに起因している。また、
図3からもわかるように、フロス排出速度と銅品位との間には相関関係があるといえる。
【0043】
この結果から、先述したように、フロス速度情報に基づいて各種の調整ないし設定を行うことにより、銅スラグの浮遊選鉱の操業を有効に管理できる可能性が示唆された。