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特開2024-139403リチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139403
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】リチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20241002BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050319
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】杉本 貴志
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA11
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB12
5H050EA15
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA06
5H050HA10
5H050HA13
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】サイクル特性が改良される電池を構成可能なリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】多孔質炭素材料と前記多孔質炭素材料に担持された硫黄とを含む複合材料、金属源および液媒体を混合して、前記金属源に由来する金属化合物が付着した第1修飾複合材料を得ることと、前記第1修飾複合材料を熱処理して、金属硫化物が付着した第2修飾複合材料を得ることと、を含むリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質炭素材料と前記多孔質炭素材料に担持された硫黄とを含む複合材料、金属源および液媒体を混合して、前記金属源に由来する金属化合物が付着した第1修飾複合材料を得ることと、
前記第1修飾複合材料を熱処理して、前記金属源に由来する金属硫化物が付着した第2修飾複合材料を得ることと、を含み、
前記金属源は、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Zr、In、Sn、Nb、Mo、Ta及びWからなる群から選択される特定金属の少なくとも1種を含むリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記第1修飾複合材料を得ることは、前記複合材料、前記金属源および前記液媒体を含む混合物を加圧下で熱処理して、前記金属化合物を前記複合材料の表面に析出させることを含む請求項1に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記加圧下での熱処理は、前記液媒体の沸点以上の温度で行う請求項2に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記加圧下での熱処理は、密閉系で行う請求項3に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記第1修飾複合材料を得ることは、前記複合材料、前記金属源および前記液媒体を含む混合物のpHを調整して、前記金属化合物を前記複合材料の表面に析出させることを含む請求項1に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記第1修飾複合材料を得ることは、前記複合材料、前記金属源および前記液媒体を含む混合物に硫黄源を添加して、前記金属化合物を前記複合材料の表面に析出させることを含む請求項1に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記第1修飾複合材料を得ることは、混合物のpHを調整することを更に含む請求項6に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記多孔質炭素材料は、ピーク細孔径が0.5nm以上10nm以下である請求項1から7のいずれか1項に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記多孔質炭素材料は、体積平均粒径が0.5μm以上20μm以下である請求項1から7のいずれか1項に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記多孔質炭素材料は、アスペクト比が1以上3以下である請求項1から7のいずれか1項に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記第1修飾複合材料の熱処理は、前記液媒体の少なくとも一部を除去して乾燥物を得ることを含む請求項1に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【請求項12】
前記第1修飾複合材料の熱処理は、前記乾燥物を50℃以上400℃以下で熱処理することを更に含む請求項11に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【請求項13】
多孔質炭素材料と、前記多孔質炭素材料に担持された硫黄と、特定金属を含む金属硫化物と、を含むリチウム硫黄電池用正極活物質であり、
誘導結合プラズマ発光分光分析法で測定される前記リチウム硫黄電池用正極活物質における前記特定金属の質量基準の含有率に対する、
X線光電子分光法により測定される前記リチウム硫黄電池用正極活物質の表面近傍における炭素、硫黄、酸素、窒素及び特定金属の合計量に対する特定金属の質量比率の比が0.3以上であり、
前記特定金属は、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Zr、In、Sn、Nb、Mo、Ta及びWからなる群から選択される少なくとも1種を含むリチウム硫黄電池用正極活物質。
【請求項14】
前記多孔質炭素材料は、ピーク細孔径が0.5nm以上10nm以下である請求項13に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質。
【請求項15】
前記多孔質炭素材料は、体積平均粒径が0.5μm以上20μm以下である請求項13に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質。
【請求項16】
前記多孔質炭素材料は、アスペクト比が1以上3以下である請求項13に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質。
【請求項17】
前記正極活物質は、誘導結合プラズマ発光分光分析法で測定される前記リチウム硫黄電池用正極活物質における前記特定金属の質量基準の含有率に対する、X線光電子分光法により測定される前記リチウム硫黄電池用正極活物質の表面近傍における炭素、硫黄、酸素、窒素及び特定金属の合計量に対する特定金属の質量比率の比が0.5以上である請求項13に記載のリチウム硫黄電池用正極活物質。
【請求項18】
前記正極活物質は、誘導結合プラズマ発光分光分析法で測定される前記リチウム硫黄電池用正極活物質における前記特定金属の質量基準の含有率に対する、X線光電子分光法により測定される前記リチウム硫黄電池用正極活物質の表面近傍における炭素、硫黄、酸素、窒素及び特定金属の合計量に対する特定金属の質量比率の比が0.7以上である請求項17に記載のリチウム硫黄電池用正極活物質。
【請求項19】
前記金属硫化物は、硫化亜鉛を含む請求項13に記載のリチウム硫黄電池用正極活物質。
【請求項20】
前記リチウム硫黄電池用電極活物質は、X線回折パターンにおいて、硫化亜鉛の(111)面に由来するピークに対する(220)面に由来するピークの強度比が0.42以上である請求項19に記載のリチウム硫黄電池用正極活物質。
【請求項21】
前記リチウム硫黄電池用正極活物質における前記特定金属の含有率が、0.1質量%以上20質量%以下である請求項13に記載のリチウム硫黄電池用正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム硫黄電池は、単位質量当たりのエネルギー密度が高い二次電池であり、例えばメソ孔内に硫黄を配置したメソポーラス炭素-硫黄複合物が用いられている。リチウム硫黄電池は従来のリチウムイオン電池より軽い電池として、例えば、電気自動車などの大型動力機器用途、ドローンなどの航空用途への搭載が期待されている。これらの用途においてはサイクル容量維持率の改善、充放電容量の向上等が求められている。
【0003】
上記に関連して、例えば特許文献1には、リチウムポリスルフィドを吸着する硫化鉄を含む正極材料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2021-531228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の一態様は、サイクル特性が改良される電池を構成可能なリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様は、多孔質炭素材料と前記多孔質炭素材料に担持された硫黄とを含む複合材料、金属源および液媒体を混合して、前記金属源に由来する金属化合物が付着した第1修飾複合材料を得ることと、前記第1修飾複合材料を熱処理して、金属硫化物が付着した第2修飾複合材料を得ることと、を含むリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法である。前記金属源は、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Zr、In、Sn、Nb、Mo、Ta及びWからなる群から選択される特定金属の少なくとも1種を含む。
【0007】
一態様において、リチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法は、多孔質炭素材料と前記多孔質炭素材料に担持された硫黄とを含む複合材料、金属源および液媒体を含む混合物を加圧下で熱処理して、前記金属源に由来する金属化合物を前記複合材料の表面に析出させ、前記金属化合物が付着した第1修飾複合材料を得ることと、前記第1修飾複合材料を熱処理して、前記金属源に由来する金属硫化物が付着した第2修飾複合材料を得ることと、を含んでいてよい。
【0008】
一態様において、リチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法は、多孔質炭素材料と前記多孔質炭素材料に担持された硫黄とを含む複合材料、金属源および液媒体を含む混合物のpHを調整して、前記金属源に由来する金属化合物を前記複合材料の表面に析出させ、前記金属化合物が付着した第1修飾複合材料を得ることと、前記第1修飾複合材料を熱処理して、前記金属源に由来する金属硫化物が付着した第2修飾複合材料を得ることと、を含んでいてよい。
【0009】
一態様において、リチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法は、多孔質炭素材料と前記多孔質炭素材料に担持された硫黄とを含む複合材料、金属源および液媒体を含む混合物に硫黄源を添加して、前記金属源に由来する金属化合物を前記複合材料の表面に析出させ、前記金属化合物が付着した第1修飾複合材料を得ることと、前記第1修飾複合材料を熱処理して、前記金属源に由来する金属硫化物が付着した第2修飾複合材料を得ることと、を含んでいてよい。
【0010】
第2態様は、多孔質炭素材料と前記多孔質炭素材料に担持された硫黄とを含む複合材料と、特定金属を含む金属硫化物と、を含むリチウム硫黄電池用正極活物質である。リチウム硫黄電池用正極活物質は、誘導結合プラズマ発光分光分析法で測定される前記リチウム硫黄電池用正極活物質における前記特定金属の質量基準の含有率に対する、エネルギー分散型分光法により測定される前記リチウム硫黄電池用正極活物質の表面近傍における炭素、硫黄、酸素、窒素及び特定金属の合計量に対する特定金属の質量比率の比が0.3以上である。そして前記特定金属は、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Zr、In、Sn、Nb、Mo、Ta及びWからなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様によれば、サイクル特性が改良される電池を構成可能なリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1に係る電極活物質のX線回折スペクトルの一例を示す図である。
図2】実施例2に係る電極活物質のX線回折スペクトルの一例を示す図である。
図3】実施例3に係る電極活物質のX線回折スペクトルの一例を示す図である。
図4】実施例4に係る電極活物質のX線回折スペクトルの一例を示す図である。
図5】比較例1に係る電極活物質のX線回折スペクトルの一例を示す図である。
図6】比較例2に係る電極活物質のX線回折スペクトルの一例を示す図である。
図7】実施例1に係る電極活物質の走査電子顕微鏡画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、数値範囲として例示された数値をそれぞれ任意に選択して組み合わせることが可能である。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、リチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示すリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法に限定されない。
【0014】
リチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法
リチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう)は、多孔質炭素材料及び多孔質炭素材料に担持された硫黄を含む複合材料、金属源および液媒体を混合して、金属源に由来する金属化合物が付着した第1修飾複合材料を得る第1修飾工程と、第1修飾複合材料を熱処理して、金属源に由来する金属硫化物が付着した第2修飾複合材料を得る第2修飾工程と、を含む。製造方法は、第1修飾工程と第2修飾工程に加えて、必要に応じてその他の工程をさらに含んでいてもよい。
【0015】
液媒体の存在下で、硫黄が担持された多孔質炭素材料を含む複合材料の表面に、金属源に由来する金属を含む金属化合物を析出させることで、金属化合物が表面に均一に付着した複合材料である第1修飾複合材料が得られる。得られる第1修飾複合材料を熱処理することで、金属源に由来する金属硫化物が複合材料の表面に均一に付着した第2修飾複合材料が得られる。表面に配置される金属硫化物によって、リチウム硫黄電池の放電時に生成する多硫化リチウムの多孔質炭素材料からの流出を抑制することができる。これにより、リチウム硫黄電池のサイクル特性が改善される。これは例えば、複合材料の表面に存在する金属硫化物が、リチウムイオンは通過させつつ、電解液の通過を抑制することができるためと考えることができる。
【0016】
第1修飾工程では、複合材料と、金属源と、液媒体とを混合して混合物を得て、金属源に由来する金属化合物が複合材料の表面に析出した第1修飾複合材料を得る。混合物の調製に用いる複合材料は、購入して準備してもよく、所望の複合材料を常法により調製して準備してもよい。複合材料は、例えば多孔質炭素材料と硫黄との混合物を熱処理することで調製することができる。
【0017】
複合材料の調製に用いられる多孔質炭素材料は、その形状が略球状等であってよい。また、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素が凝集した略球状であってもよい。また、多孔質炭素材料は、例えば体積平均粒径が0.5μm以上50μm以下であってよく、1μm以上、又は2μm以上であってよく、また40μm以下、又は30μm以下であってよい。多孔質炭素材料の体積平均粒径が前記範囲内であると、塗布ムラが少ない電極を作製できる傾向がある。なお、多孔質炭素材料の体積平均粒径(D50)は、体積基準の粒度分布において、小径側からの体積累積50%に対応する粒径として測定される。なお、体積基準の粒度分布は、レーザー回折式粒径分布測定装置によって測定される。
【0018】
多孔質炭素材料は、アスペクト比(長径/短径)が例えば1以上3以下であってよい。多孔質炭素材料の長径及び短径は、光学顕微鏡、電子顕微鏡等から得られる画像から長径と短径の長さを算出する方法、あるいは画像式粒度分布測定装置を用いることで測定される。具体的には例えば、レーザー回折式粒径分布測定装置にて体積平均粒径D50を測定し、走査電子顕微鏡(SEM)画像から測定される長径と短径の算術平均値である粒径が、D50の0.1倍から1.5倍である多孔質炭素材料粒子を任意に30個以上50個以下で選択し、それぞれの粒子のアスペクト比を算出し、それらの算術平均値として、多孔質炭素材料のアスペクト比が算出される。アスペクト比は、日本工業規格(JIS Z8900-1:2008)に則り、粒子の最大長径と最大長径に直交する幅である短径を測定し、長径と短径の比をそれぞれ求め、その算術平均値をアスペクト比とする。例えばImage Jといったソフトウェアを用いて自動解析することができる。
【0019】
多孔質炭素材料は、ピーク細孔径が例えば0.5nm以上10nm以下であってよく、1.5nm以上、2.0nm以上、又は2.5nm以上であってよく、また8nm以下、6nm以下、又は4nm以下であってよい。多孔質炭素材料のピーク細孔径が前記範囲内であると、金属源と硫黄との反応が適度に抑制され、リチウム硫黄電池における充放電容量の低下をより効果的に抑制できる傾向がある。ここで、ピーク細孔径は、窒素ガス吸脱着測定で得られる窒素吸着等温線から、急冷固体密度汎関数法(QSDFT法)で求められる細孔分布曲線において、最大のピークを示す細孔直径を意味する。
【0020】
多孔質炭素材料は、比表面積が例えば1000m/g以上であってよく、好ましくは1500m/g以上、2000m/g以上、または2500m/g以上であってよい。比表面積は、例えば3500m/g以下、又は3300m/g以下であってよい。多孔質炭素材料の比表面積は、BET(Brunauer Emmett Teller)理論に基づくBET法で測定される。具体的には、例えば、窒素ガスを用いる多点法で測定される。
【0021】
多孔質炭素材料は、細孔容積が、例えば0.8ml/g以上4ml/g以下であってよく、1.0ml/g以上、又は1.2ml/g以上であってよく、また3ml/g以下、2.5ml/g以下、又は2.3ml/g以下であってよい。特に0.5nm以上4.0nm以下の直径を有する細孔の細孔容積が前記範囲内であることが好ましい。多孔質炭素材料の細孔容積が前記範囲内であると、多孔質炭素材料の細孔内に多くの硫黄を詰められることができるためリチウム硫黄電池のエネルギー密度を高くできる傾向がある。多孔質炭素材料の細孔容積は、例えば窒素ガス吸脱着測定によって測定される。
【0022】
多孔質炭素材料における炭素の含有率は、例えば、80質量%以上であってよく、好ましくは90質量%以上、または95質量%以上であってよく、実質的に炭素のみからなるものであってもよい。ここで「実質的に」とは、不可避的に混入する他の元素を排除しないことを意図している。
【0023】
多孔質炭素材料として具体的には、例えば、カーボンナノチューブ、グラフェン、又は樹脂、石油系ピッチ若しくは植物を原料とする化合物を炭化及び賦活して得られる炭素材料等を挙げることができる。多孔質炭素材料は、少なくとも活性炭を含んでいてよい。多孔質炭素材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
複合材料は多孔質炭素材料に担持される硫黄を含む。硫黄は少なくとも一部が、多孔質炭素材料が有する細孔内に配置されていてよく、多孔質炭素材料の表面に配置されていてもよい。多孔質炭素材料に担持される硫黄の純度は、例えば50質量%以上であってよく、90質量%以上、又は100質量%以下であってよい。
【0025】
複合材料として表面に硫黄が配置される多孔質炭素材料を用いることで、複合材料の表面に金属硫化物がより均一に配置され、放電時に生成する多硫化リチウムの多孔質炭素材料からの流出をより効果的に抑制することができる。
【0026】
複合材料における硫黄の含有量は、例えば多孔質炭素材料に対して100質量%以上500質量%以下であってよく、150質量%以上、又は200質量%以上であってよい。
【0027】
複合材料は、多孔質炭素材料と硫黄を含む混合物を熱処理することで調製することができる。混合物は、多孔質炭素材料及び硫黄に加えて、必要に応じてリン、ホウ素、窒素、などを含む化合物、遷移金属、高分子化合物等をさらに含んでいてもよい。混合物の熱処理は、例えば密閉容器中で100℃以上450℃以下の熱処理温度で行うことができる。熱処理の温度は、100℃以上、又は400℃以下であってよい。熱処理時の圧力は、大気圧以上であってよく、ゲージ圧として15MPa以下であってよい。熱処理の時間は、例えば1時間以上72時間以下であってよく、1.5時間以上、又は36時間以下であってよい。
【0028】
第1修飾工程における複合材料と金属源と液媒体とを含む混合物における複合材料の含有量は、混合物の全質量に対して例えば1質量%以上70質量%以下であってよく、5質量%以上、7質量%以上または10質量%以上であってよく、また50質量%以下、または40質量%以下であってよい。複合材料の含有量が前記範囲内であれば、より効率的に湿式分散処理することができる。
【0029】
混合物を構成する金属源に含まれる金属は、チタン(Ti)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)及びタングステン(W)からなる群から選択される少なくとも1種の特定金属を含んでいてよく、少なくともZnを含んでいてよい。前記の特定金属は、硫黄と反応することで、リチウムイオンを透過しつつ、電解液を通さない金属硫化物を形成すると考えられる。金属源は、特定金属の単体、合金、特定金属を含む化合物等を含んでいてよい。特定金属を含む化合物としては、硫酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩等の金属塩、酸化物、窒化物、炭化物、硼化物、硫化物、リン化物、複合酸化物、複合酸窒化物等を挙げることができる。金属源として用いる特定金属を含む化合物の純度は、例えば30質量%以上であってよく、60質量%以上、又は90質量%以上であってよい。特定金属を含む化合物の純度は、例えば100質量%未満であってよい。
【0030】
金属源は、後述する液媒体に可溶な物質であってよい。液媒体に可溶な金属源を用いることでより効率的に修飾複合材料を得ることができる。ここで液媒体に可溶であるとは、室温(例えば、25℃)又は熱処理の温度における100gの液媒体に対する溶解度が0.01g以上であることを意味する。溶解度は0.02g以上であってもよい。
【0031】
複合材料と金属源と液媒体とを含む混合物における金属源の含有量は、混合物の全質量に対して例えば0.1質量%以上50質量%以下であってよく、1質量%以上、1.5質量%以上、2質量%以上、又は3質量%以上であってよく、また30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下であってよい。金属源の含有量が前記範囲内であれば、複合材料に金属源を均質に添加することができる。
【0032】
混合物は、複合材料の含有量に対する金属源の含有量の質量比が、例えば0.1質量%以上20質量%以下であってよく、0.5質量%以上、1質量%以上、又は15質量%以下であってよい。複合材料に対する金属源の質量比が前記範囲内であると、リチウム硫黄電池のエネルギー密度の低下を抑制しつつ、リチウム硫黄電池用の正極材料を作製できる傾向がある。
【0033】
複合材料と金属源と液媒体とを含む混合物を構成する液媒体は、金属源の少なくとも一部を溶解可能な物質であればよく、少なくとも水を含んでいてよい。液媒体が水を含む場合、液媒体における水の含有量は液媒体の総質量に対して、20質量%以上であってよく、40質量%以上、又は60質量%以上であってよい。また液媒体における水の含有量は、100質量%以下、又は100質量%未満であってよい。液媒体は水以外の液媒体を含んでいてもよい。水以外の液媒体としては、例えばエタノール等の水溶性有機溶剤が挙げられる。
【0034】
複合材料と金属源と液媒体とを含む混合物における液媒体の含有量は、例えば混合物の全質量に対して例えば10質量%以上99質量%以下であってよく、20質量%以上、または30質量%以上であってよく、また95質量%以下、または90質量%以下であってよい。液媒体の含有量が前記範囲内であれば、より効率的に湿式分散処理することができる。
【0035】
複合材料と金属源と液媒体とを含む混合物のpHは、例えば1以上14以下であってよく、好ましくは1.5以上、又は2以上であってよく、また好ましくは、13.5以下、7以下、又は5以下であってよい。混合物のpHは、金属源の種類に応じて設定してもよい。
【0036】
混合物は複合材料と金属源と液媒体とを混合することで得られる。混合物を得る混合方法は通常用いられる湿式分散処理方法から適宜選択すればよい。具体的には、プロペラ型撹拌機を使用する方法、ビーズを使用する方法、ホモジナイザーを使用する方法等が挙げられる。混合時の温度は、例えば0℃以上100℃以下であってよい。また混合時間は、例えば1分以上72時間以下であってよい。
【0037】
第1修飾工程では、金属源に由来する金属化合物が表面に析出した第1修飾複合材料を得る。析出する金属化合物としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属硫化物、金属リン酸化物、金属ホウ酸化物等を挙げることができる。金属化合物の析出方法としては、混合物の熱処理、混合物を構成する液媒体のpH調整、混合物からの液媒体の除去、析出する金属化合物を構成するイオンのイオン濃度の調整等を挙げることができる。
【0038】
一態様において、製造方法は、第1修飾工程が混合物を熱処理する第1熱処理工程を含む第1の製造方法であってよい。第1熱処理工程では、得られる混合物を密閉下、加圧状態で熱処理を行ってよい。これにより第1修飾複合材料を得ることができる。液媒体の存在下で、複合材料に含まれる硫黄と金属源とを反応させることで、例えば金属硫化物を含む付着物が複合材料の表面に析出して第1修飾複合材料が形成される。また、液媒体中で金属硫化物を析出させることで、複合材料の表面に均一に金属硫化物を析出させることができる。
【0039】
第1熱処理工程は密閉下で行われてよい。具体的には、耐圧性を有する密閉容器中で、混合物を加熱することで行うことができる。第1熱処理工程における加圧条件は、液媒体の第1熱処理工程における蒸気圧であってよい。例えば液媒体が水であり、第1熱処理工程の温度が230℃である場合は絶対圧として2.8MPaとなる。加圧条件はその他にも例えば2.0MPa以上15MPa以下であってよく、4.7MPa以上、又は7.4MPa以下であってよい。
【0040】
第1熱処理工程の温度は、例えば液媒体の沸点以上の温度であればよい。第1熱処理工程は、混合物を所定の温度にまで昇温する昇温工程と、所定の温度を所定の時間維持する維持工程と、を含んでいてよい。昇温工程における昇温速度は、昇温中の最高温度が目的とする温度を越えないように調整すればよく、例えば1℃/分以上20℃/分以下であってよい。第1熱処理工程における所定の熱処理温度は、例えば120℃以上300℃以下であってよく、150℃以上、又は200℃以上であってよく、また270℃以下、又は250℃以下であってよい。維持工程における所定の時間は、例えば、30分以上であってよく、1時間以上、又は3時間以上であってよい。維持工程の所定時間は、例えば72時間以下であってよく、48時間以下、又は24時間以下であってよい。維持工程における所定の熱処理時間は上述の温度範囲にて設定した温度に到達した時点を開始時間とし、降温のための操作を行った時点を終了時間とする。
【0041】
第1熱処理工程の雰囲気は、例えば大気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等のいずれであってもよい。
【0042】
第1熱処理工程は、上述の維持工程に続いて、得られる第1修飾複合材料を含む分散液の温度を降温する冷却工程を有してよい。冷却工程は、降温のための操作を行った時点を開始とし、50℃以下まで冷却された時点を終了とする。降温速度は、例えば1℃/分以上10℃/分以下であってよい。
【0043】
第1の製造方法は、得られる第1修飾複合材料を混合物から分離する分離工程を更に含んでいてもよく、必要に応じて、さらに精製工程を含んでいてよい。分離工程では、例えば、第1修飾複合材料を含む混合物を固液分離に付することで、第1修飾複合材料を取り出してよい。精製工程では、第1修飾複合材料を純水等で洗浄してよい。取り出した第1修飾複合材料は、例えば、加熱乾燥、真空脱気、自然乾燥、又はこれらの組み合わせにより乾燥させてよい。
【0044】
第1の製造方法は、第1修飾複合材料を熱処理して、金属源に由来する金属硫化物が複合材料の付着した第2修飾複合材料を得る第2修飾工程を含む。第2修飾工程において、金属硫化物が付着した複合材料である第1修飾複合材料を再熱処理することで、硫黄の状態がより安定な第2修飾複合材料として、表面に金属硫化物が付着した複合材料を得ることができる。第2修飾複合材料が含む金属硫化物は、特定金属を含む金属硫化物であってよく、少なくとも硫化亜鉛を含んでいてよい。第1の製造方法の第2修飾工程における熱処理は、第1修飾複合材料に付着している液媒体の少なくとも一部を除去して乾燥物を得ることを含んでいてよい。
【0045】
第1の製造方法の第2修飾工程における熱処理は、第1修飾複合材料を所定の温度にまで昇温する昇温工程と、所定の温度を所定の時間維持する維持工程と、を含んでいてよい。昇温工程における昇温速度は、例えば1℃/分以上20℃/分以下であってよい。熱処理における所定の熱処理温度は、例えば100℃以上450℃以下であってよく、120℃以上、又は150℃以上であってよく、また430℃以下、又は400℃以下であってよい。維持工程における所定の時間は、例えば、30分以上であってよく、1時間以上、又は3時間以上であってよい。維持工程の所定時間は、例えば72時間以下であってよく、48時間以下、又は24時間以下であってよい。維持工程における所定の熱処理時間は上述の温度範囲にて設定した温度に到達した時点を開始時間とし、降温のための操作を行った時点を終了時間とする。熱処理の雰囲気は、例えば大気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等のいずれかであってよい。
【0046】
第2修飾工程における熱処理は、上述の維持工程に続いて第1修飾複合材料の温度を降温する冷却工程を有してよい。冷却工程は、降温のための操作を行った時点を開始とし、50℃以下まで冷却された時点を終了とする。降温速度は、例えば1℃/分以上10℃/分以下であってよい。
【0047】
一態様において、製造方法は、第1修飾工程が混合物を構成する液媒体のpHを調整するpH調整工程を含む第2の製造方法であってよい。液媒体のpHを調整することで溶解度が低下した金属化合物が複合材料の表面に析出して、金属化合物が表面に付着した複合材料である第1修飾複合材料が得られる。液媒体中で金属化合物を析出させることで、複合材料の表面に均一に金属化合物を析出させることができる。pH調整工程で析出する金属化合物としては、例えば金属水酸化物、金属酸化物、金属硫化物、金属リン酸化物、金属ホウ酸化物等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。
【0048】
pH調整工程では、液媒体のpH調整により金属源に由来する金属を含む金属化合物を析出できればよい。具体的には例えば、塩基性化合物または酸性化合物を混合物に添加して液媒体のpHを調整してもよい。pH調整に用いる塩基性化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類の水酸化物などの水酸化塩、アンモニア水溶液等が挙げられる。また、酸性化合物としては、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。pH調整工程におけるpHの調整幅は、例えば2以上14以下であってよく、好ましくは2.5以上、又は13.5以下であってよい。pH調整工程は、例えば液媒体のpHを上昇させてよく、好ましくは1以上、又は2以上上昇させてよい。pHの上昇幅は、12以下であってよい。また、pH調整工程は、例えば液媒体のpHを低下させてよく、好ましくは1以上、又は2以上低下させてよい。pHの低下幅は、14以下であってよい。
【0049】
液媒体のpHを調整した後には、金属化合物を析出させる析出工程を含んでいてもよい。析出工程では、混合物を撹拌しながら金属化合物を析出させてもよいし、静置状態で金属化合物を析出させてもよい。析出工程における温度は、例えば0℃以上100℃以下であってよく、好ましくは10℃以上、又は90℃以下であってよい。析出工程における析出時間は、例えば1分以上72時間以下であってよく、好ましくは5分以上、又は48時間以下であってよい。
【0050】
第2の製造方法は、得られる第1修飾複合材料を混合物から分離する分離工程を更に含んでいてもよく、必要に応じて、さらに精製工程を含んでいてよい。分離工程では、例えば、第1修飾複合材料を含む混合物を固液分離に付することで、第1修飾複合材料を取り出してよい。精製工程では、第1修飾複合材料を純水等で洗浄してよい。取り出した第1修飾複合材料は、例えば、加熱乾燥、真空脱気、自然乾燥、又はこれらの組み合わせにより乾燥させてよい。
【0051】
第2の製造方法は、第1修飾複合材料を熱処理して、金属源に由来する金属硫化物が複合材料の付着した第2修飾複合材料を得る第2修飾工程を含む。第2修飾工程において、金属化合物が付着した複合材料である第1修飾複合材料を熱処理することで、例えば金属化合物と複合材料に含まれる硫黄とが反応して金属硫化物が生成し、金属硫化物が付着した複合材料である第2修飾複合材料が得られる。第2修飾複合材料が含む金属硫化物は、特定金属を含む金属硫化物であってよく、少なくとも硫化亜鉛を含んでいてよい。第2の製造方法の第2修飾工程における熱処理は、第1修飾複合材料に付着している液媒体の少なくとも一部を除去して乾燥物を得ることを含んでいてよい。
【0052】
第2の製造方法の第2修飾工程における熱処理は、第1修飾複合材料を所定の温度にまで昇温する昇温工程と、所定の温度を所定の時間維持する維持工程と、を含んでいてよい。昇温工程における昇温速度は、例えば1℃/分以上20℃/分以下であってよい。熱処理における所定の熱処理温度は、例えば50℃以上450℃以下であってよく、100℃以上、又は150℃以上であってよく、また400℃以下、又は350℃以下であってよい。維持工程における所定の時間は、例えば、30分以上であってよく、1時間以上、又は3時間以上であってよい。維持工程の所定時間は、例えば72時間以下であってよく、48時間以下、又は24時間以下であってよい。維持工程における所定の熱処理時間は上述の温度範囲にて設定した温度に到達した時点を開始時間とし、降温のための操作を行った時点を終了時間とする。熱処理の雰囲気は、例えば大気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等のいずれであってよい。
【0053】
第2修飾工程における熱処理は、上述の維持工程に続いて第1修飾複合材料の温度を降温する冷却工程を有してよい。冷却工程は、降温のための操作を行った時点を開始とし、50℃以下まで冷却された時点を終了とする。降温速度は、例えば1℃/分以上10℃/分以下であってよい。
【0054】
一態様において、製造方法は、第1修飾工程が混合物に硫黄源を添加する硫黄源添加工程を含む第3の製造方法であってよい。混合物に硫黄源を添加することで溶解度が低下した金属化合物が複合材料の表面に析出して、金属化合物が表面に付着した複合材料である第1修飾複合材料が得られる。液媒体中で金属化合物を析出させることで、複合材料の表面に均一に金属化合物を析出させることができる。硫黄源添加工程で析出する金属化合物としては、例えば金属硫化物、金属水酸化物、金属酸化物等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。
【0055】
混合物に添加する硫黄源は、例えば硫化物イオンを生成可能な化合物であってよい。硫黄源として具体的には例えば、硫化水素、二硫化炭素、二硫化ケイ素、硫化窒素、硫化リン、硫化ヒ素等が挙げられる。硫黄源の添加量は、混合物を構成する金属源に含まれる金属イオンの含有量に対する硫化物イオン換算の添加量として、例えば0.5倍モル以上であってよく、好ましくは0.8倍モル以上であってよい。硫黄源の硫化物イオン換算の添加量は、例えば3.0倍モル以下であってよく、好ましくは2.5倍モル以下、又は2.0倍モル以下であってよい。
【0056】
硫黄源添加工程は、混合物のpHを調整することを更に含んでいてもよい。pHの調整は、硫黄源の添加開始に先立って行ってもよく、硫黄源の添加中に並行して行ってもよい。またpHの調整は、硫黄源の添加に伴う混合物のpH変動を抑制してもよい。混合物のpHの調整は、具体的には例えば、塩基性化合物または酸性化合物を混合物に添加して行うことができる。pH調整に用いる塩基性化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類の水酸化物などの水酸化塩、アンモニア水溶液等が挙げられる。また、酸性化合物としては、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。pHの調整におけるpHの調整幅は、例えば2以上14以下であってよく、好ましくは2.5以上であってよい。pHの調整は、例えば混合物のpHを上昇させてよく、好ましくは1以上、又は2以上上昇させてよい。また、pHの調整は、例えば混合物のpHを低下させてよく、好ましくは1以上、又は2以上低下させてよい。さらにpHの調整は、例えば混合物のpH変動を抑制してもよく、硫黄源の添加に伴うpH変動を、例えば13.5以下に抑制してよく、好ましくは12以下に抑制してよい。
【0057】
硫黄源を添加した後には、金属化合物を析出させる析出工程を含んでいてもよい。析出工程では、混合物を撹拌しながら金属化合物を析出させてもよいし、静置状態で金属化合物を析出させてもよい。析出工程における温度は、例えば0℃以上100℃以下であってよく、好ましくは10℃以上、又は90℃以下であってよい。析出工程における析出時間は、例えば1分以上72時間以下であってよく、好ましくは5分以上、又は48時間以下であってよい。
【0058】
第3の製造方法は、得られる第1修飾複合材料を混合物から分離する分離工程を更に含んでいてもよく、必要に応じて、さらに精製工程を含んでいてよい。分離工程では、例えば、第1修飾複合材料を含む混合物を固液分離に付することで、第1修飾複合材料を取り出してよい。精製工程では、第1修飾複合材料を純水等で洗浄してよい。取り出した第1修飾複合材料は、例えば、加熱乾燥、真空脱気、自然乾燥、又はこれらの組み合わせにより乾燥させてよい。
【0059】
第3の製造方法は、第1修飾複合材料を熱処理して、金属源に由来する金属硫化物が複合材料の付着した第2修飾複合材料を得る第2修飾工程を含む。第3の製造方法における第2修飾工程の詳細は、第1の製造方法における第2修飾工程と同様である。
【0060】
リチウム硫黄電池用電極活物質
リチウム硫黄電池用電極活物質は、多孔質炭素材料及び多孔質炭素材料に担持される硫黄を含む複合材料と、複合材料の表面に配置される特定金属を含む金属硫化物と、を含む。リチウム硫黄電池用正極活物質は、誘導結合プラズマ発光分光分析法で測定されるリチウム硫黄電池用正極活物質における特定金属の質量基準の含有率(Ci)に対する、エネルギー分散型X線分光法により測定されるリチウム硫黄電池用正極活物質の表面近傍における炭素、硫黄、酸素、窒素及び特定金属の合計量に対する特定金属の質量比率(Cx)の比(Cx/Ci)が0.3以上である。ここで特定金属は、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Zr、In、Sn、Nb、Mo、Ta及びWからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。好ましくは、特定金属は少なくともZnを含んでいてよい。すなわち、金属硫化物は、少なくとも硫化亜鉛を含んでいてよい。
【0061】
リチウム硫黄電池用電極活物質は、複合材料の表面の少なくとも一部が金属硫化物に被覆された被覆複合材料を含んでいてよく、被覆複合材料は、例えば、上記製造方法における第2修飾複合材料であってよい。複合材料の表面に金属硫化物が配置されていることで、リチウム硫黄電池の充放電時に生成する多硫化リチウムの多孔質炭素材料からの流出をより効果的に抑制することができる。金属硫化物の存在は、例えばX線回折(XRD)スペクトル、透過電子顕微鏡(TEM)によって検出することができる。例えば特定金属が亜鉛の場合、XRD測定において28.5°付近にZnSの(111)面に由来するピークが存在することでZnSの存在を確認することができる。また、TEM観察によって、電子線回折像における回折点から、ZnSの(111)面を帰属することもできる。
【0062】
リチウム硫黄電池用電極活物質においては、複合材料の表面に金属硫化物が配置されている。複合材料の表面における金属硫化物の配置状態は、例えばリチウム硫黄電池用電極活物質に含まれる特定金属の総含有量に対するリチウム硫黄電池用電極活物質の表面の部分領域内に存在する特定金属の含有量の比(以下、特定金属の分散指数ともいう)によって評価することができる。分散指数の値が大きいほど、特定金属が複合材料の表面全体により均一に分散して存在していることになる。
【0063】
リチウム硫黄電池用電極活物質に含まれる特定金属の総含有量は、リチウム硫黄電池用正極活物質について、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法で測定される特定金属の質量基準の含有率(Ci)として評価することができる。
【0064】
また、炭素、硫黄及び特定金属を含んで構成されるリチウム硫黄電池用電極活物質の表面近傍における炭素、硫黄、酸素、窒素及び特定金属の各含有量は、エネルギー分散型分光法(EDX)法により評価することができる。すなわち、リチウム硫黄電池用電極活物質の表面に存在する特定金属の含有量は、エネルギー分散型X線(EDX)分光法により測定されるリチウム硫黄電池用正極活物質の表面近傍における炭素、酸素、窒素、硫黄及び特定金属の合計質量に対する特定金属の質量比率(Cx)で評価することができる。SEM-EDXの測定条件は粒子の大きさによって適切な設定が異なるが、観察領域に少なくとも粒子が100個以上、好ましくは500個以上、より好ましくは1000個以上存在する倍率であってよい。例えばD50が2μm程度の場合は倍率として1500倍を選択することができる。
【0065】
ここで、EDX分光法で測定される表面近傍とは、同一の測定条件であっても、測定対象の元素に依って異なる深さとなる。例えば、炭素、硫黄等について数μm(10-6mオーダー)の深さまで検出される測定条件であっても、金属化合物については数百nm(10-7mオーダー)の深さまでしか検出されないと考えられる。そうすると、リチウム硫黄電池用電極活物質の表面近傍に金属化合物がある程度の厚みを有して局在している場合には、金属化合物に含まれる金属原子の含有量が、炭素、硫黄等に比べて少ない含有量として検出されることになる。従って、リチウム硫黄電池用電極活物質について、特定金属の分散指数(Cx/Ci)を評価すると、特定金属がリチウム硫黄電池用電極活物質の表面近傍に均一に分布している場合には1に近い値となる。一方、特定金属がリチウム硫黄電池用電極活物質の表面近傍で局在している場合には、均一に分布している場合に比べて小さい値となる。
【0066】
リチウム硫黄電池用電極活物質において、特定金属の分散指数は0.3以上であってよく、好ましくは0.5以上、又は0.7以上であってよい。また、特定金属の分散指数は1.2以下であってよい。特定金属の分散指数が前記範囲内であると、リチウム硫黄電池の放電時に生成する多硫化リチウムの多孔質炭素材料からの流出をより効果的に抑制することができる傾向がある。なお、特定金属の分散指数は、任意の3領域について測定した測定値の算術平均値として評価される。
【0067】
リチウム硫黄電池用電極活物質が金属硫化物として硫化亜鉛を含む場合、X線回折(XRD)パターンにおいて、硫化亜鉛の(111)面に由来するピークの強度に対する(220)面に由来するピークの強度の強度比が0.42以上であってよく、好ましくは0.421以上、又は0.422以上であってよい。また、ピークの強度比は0.5以下であってよい。XRDパターンにおけるピークの強度比が前記範囲内であると、サイクル維持率がより改善する傾向がある。ここで、硫化亜鉛の(111)面に由来するピークは、28.5°付近に観察され、(220)面に由来するピークは、47.5°付近に観察される。
【0068】
リチウム硫黄電池用電極活物質に含まれる特定金属の含有率は、例えば0.1質量%以上30質量%以下であってよく、0.5質量%以上、又は20質量%以下であってよい。また、リチウム硫黄電池用電極活物質は、複合材料の含有量に対する金属硫化物の含有量の質量比が、例えば0.15質量%以上30質量%以下であってよく、0.75質量%以上、又は40質量%以下であってよい。さらにリチウムイオン電池用電極活物質は、硫黄の総含有量に対する金属硫化物の含有量の質量比が、例えば0.2質量%以上60質量%以下であってよく、1質量%以上、又は30質量%以下であってよい。特定金属の含有量が前記範囲内であると、リチウム硫黄電池の放電時に生成する多硫化リチウムの多孔質炭素材料からの流出をより効果的に抑制することができる傾向がある。
【0069】
リチウム硫黄電池用正極
リチウム硫黄電池用正極(以下、単に「正極」ともいう)は、集電体と、集電体上に配置される正極活物質層とを備える。正極活物質層は、上述したリチウム硫黄電池用電極活物質を含んでいてよい。正極は、例えば上述のリチウム硫黄電池用電極活物質と、液媒体と、結着剤と、導電助剤等とを含む電極組成物を、集電体上に塗布し、その後乾燥及び加圧成形して、集電体上に正極活物質層を形成することで製造される。
【0070】
液媒体は、有機溶剤、水等を用途に応じて使用してよい。有機溶剤としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド系溶剤、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、ヘプタン等の炭化水素系溶剤、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキソラン等のエーテル系溶剤、ジエチレントリアミン等のアミン系溶剤、エステル系溶剤等を挙げることができる。有機溶剤は1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。液媒体の含有率は、電極組成物の総質量に対して例えば10質量%以上90質量%以下であってよい。
【0071】
結着剤は、例えば電極活物質と導電助剤などとの付着、及び集電体に対する電極組成物の付着を助ける材料である。結着剤の例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブチレンゴム、フッ素ゴム、様々な共重合体などが挙げられる。結着剤の含有率は、電極組成物の総質量に対して例えば0.05質量%以上50質量%以下であってよい。
【0072】
導電助剤は、例えば正極組成物層の電気伝導性を向上させる材料である。導電助剤としては、例えば、修飾グラフェン、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維、グラフェン、カーボンナノチューブなどの炭素材料などが挙げられる。導電助剤の含有率は、電極組成物の総質量に対して例えば0.5質量%以上30質量%以下であってよい。
【0073】
集電体の例としては、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン等の金属、銅、ステンレススチール等の表面をカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理した複合材料、炭素箔などが挙げられる。重さの軽いリチウム硫黄電池を製造する場合は、例えば、アルミニウム、炭素箔は軽量な集電体として好ましい。集電体は、その表面に微細な凹凸を形成することによって正極組成物層などの接着力を高めることもできる。またフィルム、シート、箔、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体等、多様な形態が可能である。集電体の厚みは例えば3μm以上500μm以下であってよい。
【0074】
既述のリチウム硫黄電池用電極活物質を含んで形成される正極活物質層は、空隙の少ない緻密な層として形成されてよい。正極における正極活物質層の空隙率は、例えば75%以下であってよく、好ましくは60%以下、55%以下、又は50%以下であってよい。正極活物質層の空隙率の下限は、例えば1%以上であってよい。正極活物質層の空隙率は、正極組成物層を構成する材料から算出される正極組成物層の理論密度と出正極組成物層をプレスした際に測定した厚みから算出されるプレス密度との比から算出してもよい。あるいは正極活物質層の断面SEM画像から所定の範囲を指定し、画像解析ソフトで空隙部分の面積比率を測定することにより算出してもよい。
【0075】
リチウム硫黄二次電池
リチウム硫黄電池は、上記リチウム硫黄電池用正極を備える。リチウム硫黄電池は、リチウム硫黄電池用正極と、負極と、正極と負極の間に配置される電解質等を備えて構成される。リチウム硫黄電池は、必要に応じてセパレータを備えてもよい。電解質は、リチウム硫黄電池用正極、負極及びセパレータ中に含まれていてよい。
【0076】
負極
リチウム硫黄電池を構成する負極としては、公知のものを用いればよい。負極を構成する負極材料としては、例えば、Li金属、Li-Si合金、Li-Al合金、Li-In合金、チタン酸リチウム(例えば、LiTi12およびLiTi)、リチウムチタン複合酸化物(例えば、LiTi5-xMn12;0<x≦0.3)、LiC(x≦6)等であってよい。これらの負極材料はリチウムの一部が他のアルカリ金属に置換されていてもよい。負極材料としては、Li金属、Li-Si合金、Li-Al合金、Li-In合金、LiC(x≦6)等が好ましい。これらの材料であれば、リチウム硫黄電池から高い電圧を取り出すことができる。
【0077】
セパレータ
セパレータは公知の材料を用いればよく、例えば、多孔性のポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。また、公知のセパレータをコーティングして使用してもよい。
【0078】
電解質
電解質は、リチウム塩を含んでいればよく、従来のリチウムイオン電池に用いられているリチウム塩から適宜選択すればよい。リチウム塩は、例えばフッ素元素を有するアニオンを含んでいてよい。フッ素元素を有するアニオンを含むリチウム塩として具体的には、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiSOCF、LiN(SOCF(LiTFSI)、LiN(SOF)(LiFSI)などを挙げることができる。また、電解質は、硝酸リチウム、LiClO等のフッ素元素を含まないリチウム塩を含んでいてもよい。電解質はこれらの中から1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0079】
電解質は有機溶剤を含んでいてもよい。有機溶剤としては、カーボネート系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、アミド系溶剤、ニトリル系溶剤、含硫黄溶剤を用いてもよく、また上記有機溶剤の一部の元素をフッ素に置換した有機溶剤を用いてもよい。有機溶剤としては、例えば、プロピオンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等のカーボネート系溶剤、1,3-ジオキソラン、1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、ギ酸メチル、酢酸メチル、γ-ブチルラクトン等のエステル系溶剤、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤、スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3-プロパンサルトン等の含硫黄溶剤などを挙げることができる。
【0080】
本開示に係る発明は、例えば以下の態様を包含してよい。
[1] 多孔質炭素材料と前記多孔質炭素材料に担持された硫黄とを含む複合材料、金属源および液媒体を混合して、前記金属源に由来する金属化合物が付着した第1修飾複合材料を得ることと、前記第1修飾複合材料を熱処理して、金属硫化物が付着した第2修飾複合材料を得ることと、を含み、前記金属源は、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Zr、In、Sn、Nb、Mo、Ta及びWからなる群から選択される特定金属の少なくとも1種を含むリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【0081】
[2] 前記第1修飾複合材料を得ることは、前記複合材料、前記金属源および前記液媒体を含む混合物を加圧下で熱処理して、前記金属化合物を前記複合材料の表面に析出させることを含む[1]に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【0082】
[3] 前記加圧下での熱処理は、前記液媒体の沸点以上の温度で行う[2]に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【0083】
[4] 前記加圧下での熱処理は、密閉系で行う[2]または[3]に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【0084】
[5] 前記第1修飾複合材料を得ることは、前記複合材料、金属源および液媒体を含む混合物のpHを調整して、前記金属化合物を前記複合材料の表面に析出させることを含む[1]に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【0085】
[6] 前記第1修飾複合材料を得ることは、前記複合材料、金属源および液媒体を含む混合物に硫黄源を添加して、前記金属化合物を前記複合材料の表面に析出させることを含む[1]に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【0086】
[7] 前記第1修飾複合材料を得ることは、混合物のpHを調整することを更に含む[6]に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【0087】
[8] 前記多孔質炭素材料は、ピーク細孔径が0.5nm以上10nm以下である[1]から[7]のいずれかに記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【0088】
[9] 前記多孔質炭素材料は、体積平均粒径が0.5μm以上20μm以下である[1]から[8]のいずれかに記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【0089】
[10] 前記多孔質炭素材料は、アスペクト比が1以上3以下である[1]から[9]のいずれかに記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【0090】
[11] 前記第1修飾複合材料の熱処理は、前記液媒体の少なくとも一部を除去して乾燥物を得ることを含む[1]から[10]のいずれかに記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【0091】
[12] 前記第1修飾複合材料の熱処理は、前記乾燥物を50℃以上400℃以下で熱処理することを更に含む[11]に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質の製造方法。
【0092】
[13] 多孔質炭素材料と、前記多孔質炭素材料に担持された硫黄と、特定金属を含む金属硫化物と、を含むリチウム硫黄電池用正極活物質であり、誘導結合プラズマ発光分光分析法で測定される前記リチウム硫黄電池用正極活物質における前記特定金属の質量基準の含有率に対する、X線光電子分光法により測定される前記リチウム硫黄電池用正極活物質の表面近傍における炭素、硫黄、酸素、窒素及び特定金属の合計量に対する特定金属の質量比率の比が0.3以上であり、前記特定金属は、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Zr、In、Sn、Nb、Mo、Ta及びWからなる群から選択される少なくとも1種を含むリチウム硫黄電池用正極活物質。
【0093】
[14] 前記多孔質炭素材料は、ピーク細孔径が0.5nm以上10nm以下である[13]に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質。
【0094】
[15] 前記多孔質炭素材料は、体積平均粒径が0.5μm以上20μm以下である[13]又は[14]に記載のリチウム硫黄電池用電極活物質。
【0095】
[16] 前記多孔質炭素材料は、アスペクト比が1以上3以下である[13]から[15]のいずれかに記載のリチウム硫黄電池用電極活物質。
【0096】
[17] 前記金属硫化物は、硫化亜鉛を含む[13]から[16]のいずれかに記載のリチウム硫黄電池用正極活物質。
【0097】
[18] 前記リチウム硫黄電池用電極活物質は、X線回折パターンにおいて、硫化亜鉛の(111)面に由来するピークに対する(220)面に由来するピークの強度比が0.42以上である[17]に記載のリチウム硫黄電池用正極活物質。
【0098】
[19] 前記リチウム硫黄電池用正極活物質における前記特定金属の含有率が、0.1質量%以上20質量%以下である[13]から[18]のいずれかに記載のリチウム硫黄電池用正極活物質。
【0099】
[20] 前記正極活物質は、誘導結合プラズマ発光分光分析法で測定される前記リチウム硫黄電池用正極活物質における前記特定金属の質量基準の含有率に対する、X線光電子分光法により測定される前記リチウム硫黄電池用正極活物質の表面近傍における炭素、硫黄、酸素、窒素及び特定金属の合計量に対する特定金属の質量比率の比が0.5以上である[13]から[19]のいずれかに記載のリチウム硫黄電池用正極活物質。
【0100】
[21] 前記正極活物質は、誘導結合プラズマ発光分光分析法で測定される前記リチウム硫黄電池用正極活物質における前記特定金属の質量基準の含有率に対する、X線光電子分光法により測定される前記リチウム硫黄電池用正極活物質の表面近傍における炭素、硫黄、酸素、窒素及び特定金属の合計量に対する特定金属の質量比率の比が0.7以上である[13]から[20]のいずれかに記載のリチウム硫黄電池用正極活物質。
【実施例0101】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0102】
実施例1
ZnS含有硫黄-炭素正極活物質の製造
多孔質炭素材料(ATエレクトロード株式会社製、AP20-0001HC)12gと硫黄粉末18g(重量比で40:60の割合)とを混合して混合物を得た。得られた混合物を耐圧容器に収容し、150℃で3時間熱処理して、硫黄-炭素複合体として複合材料を得た。使用した多孔質炭素材料の物性を表1に示す。なお、Quantachrome社製「Novatouch」を用いて窒素吸着等温線の測定、BET比表面積、およびQSDFT法(急冷固体密度汎関数法)による細孔径分布の解析を行った。また、アスペクト比については、以下のようにして算出した。
【0103】
アスペクト比の算出
硫黄を含浸する前の多孔質炭素材料をカーボンテープ上にマウントして、電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、FLEXSEM1000II)を用いて多孔質カーボン材の形状観察を行った。観察条件は加速電圧5kV、倍率10000倍で実施。粒子形状が確認できる任意の粒子(SEMから観察される見た目で、長径と短径の算術平均がD50に対して0.1倍から1.5倍である47粒子)について、Image Jを用いてそれぞれアスペクト比を求め、その平均値を算出したところ、アスペクト比は1.15であった。
【0104】
粒度分布の測定
レーザー回折式粒径分布装置(Malvern社製MASTERSIZER 2000)を用いて体積基準の粒度分布を測定した。測定試料は、測定装置のレーザー強度が適正範囲内になるように、適量の炭素材料をエタノール溶媒170mL中に分散させた。撹拌処理は2500rpmで60秒間行った。体積平均粒径は、体積基準の粒度分布における小粒径側からの体積積算値が50%となる50%粒径D50として算出した。また、小粒径側からの体積積算値が10%および90%になる値として10%粒径D10および90%粒径D90を算出した。結果を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
前記複合材料4gと酸化亜鉛0.3gを混合した。酸化亜鉛と複合材料の混合物に純水8gを添加して混合し、酸化亜鉛と複合材料の分散物としてスラリーを得た。得られたスラリーを耐圧容器に収容し、密閉系で、230℃、3時間熱処理した。加熱処理したスラリーを吸引濾過して、ろ取物を50℃で30分乾燥させることで乾燥品を得た。上記乾燥品を密閉容器内に収容し、300℃で3時間熱処理することで、被覆複合材料として実施例1のZnS含有硫黄-炭素正極活物質を得た。
【0107】
実施例2
混合物に加える酸化亜鉛の添加量を0.15gに変更した以外は実施例1と同様の方法で、実施例2のZnS含有硫黄-炭素正極活物質を作製した。
【0108】
実施例3
混合物に加える酸化亜鉛の添加量を0.6gに変更した以外は実施例1と同様の方法で、実施例3のZnS含有硫黄-炭素正極活物質を作製した。
【0109】
実施例4
硫酸亜鉛七水和物(富士フィルム和光純薬(株))を1.05gに純水36gを添加し、硫酸亜鉛水溶液を得た。得られた溶液に前記複合材料4.0gを混合し、分散物のスラリーを得た。水酸化ナトリウム(富士フィルム和光純薬(株))を0.58gに純水40gを添加し、溶解して、水酸化ナトリウム水溶液を得た。前述得られた分散物スラリーに水酸化ナトリウム水溶液を添加し、10分間攪拌した。スラリーのpHは12.8から12.9であった。撹拌後、スラリーを吸引濾過して、濾取物を50℃で30分加熱する事で乾燥品を得た。蒸気乾燥品を密閉加熱内に収容し、300℃で3時間熱処理する事で、被覆複合材料として実施例4のZnS含有硫黄-炭素正極材料を得た。
【0110】
比較例1 硫黄-炭素正極活物質の製造
多孔質炭素材料(ATエレクトロード株式会社製、AP20-0001HC)12gと、硫黄粉末18g(重量比で40:60の割合)を混合した。多孔質炭素材料と硫黄粉末の混合物を耐圧容器に収容し、150℃で3時間熱処理した。その後、室温に戻したのち350℃で3時間熱処理することで比較例1の硫黄-炭素正極活物質を得た。
【0111】
比較例2
実施例1と同様の方法で硫黄-炭素複合体として複合材料を得た。前記得られた複合材料4.0gと硫化亜鉛(キシダ化学)0.36gを混合し、密閉容器内に収容し、300℃で3時間熱処理することで、比較例2のZnS含有硫黄-炭素正極活物質を得た。
【0112】
X線回折(XRD)分析
実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、比較例1、及び比較例2で製造されたZnS含有硫黄-炭素正極活物質に対してXRD分析(Rigaku社製、miniflex)を行った。図1から4に実施例1から4で製造されたZnS含有硫黄-炭素正極活物質についてのXRD分析結果を示す。また図5に比較例1の硫黄-炭素正極活物質についてのXRD分析結果を、図6に比較例2の正極活物質についてのXRD分析結果を示す。
【0113】
図1では、28.5°付近にZnSの(111)面に由来するピークが確認できることから、実施例1で製造されたZnSが添加された硫黄-炭素正極活物質では、結晶性のZnSが形成されていることが確認できた。また、47.5°付近にZnSの(220)面に由来するピークも確認できた。さらに56.5°付近にはZnSの(311)面に由来するピークも確認できた。
【0114】
ICP分析
上記で得られた正極活物質について誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により、正極活物質に含まれる特定金属であるZnの質量基準の含有率(Ci)を求めた。具体的には、硝酸を使用し、マイクロ波による加熱溶解をして試料を作製し、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(ICP-AES;Optima8300:Perkin Elmer社製)を用いて、Znの含有量を求めた。結果を表2に示す。
【0115】
表面組成分析
走査電子顕微鏡(SEM)/エネルギー分散型X線分析(EDX)装置(日立ハイテクノロジーズ社製;加速電圧5kV、倍率1500倍、スペクトルエリアのカウント数>2500000)により正極活物質の表面近傍における炭素、硫黄、酸素、窒素及び亜鉛の合計量に対する亜鉛の割合(Cx)を3箇所について求め、その算術平均を求めた。さらに特定金属の分散指数としてCx/Ciを求めた。結果を表2に示す。また、実施例1についてEDX分析に用いたSEM画像を図7に示す。
【0116】
リチウム硫黄二次電池用正極の製造
実施例1及び比較例1で製造した硫黄-炭素正極活物質を85質量部、カーボンブラックを10質量部、スチレンブタジエンゴム(SBR)/カルボキシメチルセルロース(CMC)/ポリビニルピロリドン(PVP)(SBR/CMC/PVP=2.0/2.5/0.5)を5質量部となるように混合して、正極スラリー組成物を作成した。
【0117】
得られた正極スラリー組成物を集電体に塗布して、50℃で30分間乾燥した。集電体はカーボンで被覆されたアルミニウム箔を用いた。乾燥品をロールプレス機で活物質層の密度が1.0g/cmになるようにプレスしたのち、所定のサイズに裁断する事により、実施例1のリチウム硫黄二次電池用正極を得た。
【0118】
非水電解液の作製
フルオロエチレンカーボネート(FEC)とジメチルカーボネート(DMC)を体積割合で71:100となるように混合して混合液を得た。得られた混合液にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)をその濃度が1.0mol/Lとなるように溶解させて、非水電解液を作製した。
【0119】
リチウム硫黄二次電池の組み立て
上記で得られた正極にリード電極を取り付け、多孔性ポリプロピレン(セルガード2400)からなるセパレータを配し、袋状のラミネートパックにそれらを収納した。収納後50℃で真空乾燥して各部材に吸着した水分を除去した。真空乾燥後、SUS箔上に配した負極の金属リチウムを、多孔性ポリプロピレンを介して正極と対向してラミネートパック内に配置し、上記で作製した非水電解液を注入、封止して、評価用電池としてのラミネートタイプのリチウム硫黄二次電池を得た。得られた評価用電池を用い、以下の電池特性の評価を行った。
【0120】
充放電サイクル容量維持率の評価
上記のように得られた評価用電池を25℃の恒温槽に設置し、サイクル容量維持率の評価試験を実施した。充放電電圧は1.0Vから3.0Vの範囲で実施した。放電電流は0.1C容量を取り出すときの電流値を流した。放電を開始した直後の2サイクル目の硫黄の質量あたりの放電容量Qcyc(2)を測定した。次いで充電と放電を繰り返し、30サイクル目の放電容量Qcyc(30)を測定した。得られたQcyc(2)でQcyc(30)を除して30サイクル後の容量維持率Pcyc(=100×Qcyc(30)/Qcyc(2))(%)を算出した。結果を表2に示す。
【0121】
【表2】
【0122】
実施例1から実施例4についてのZnS含有硫黄-炭素正極活物質を含む評価用電池では、比較例1に比べて、サイクル特性が向上した。比較例2については、サイクル特性が悪化していた。これは分散指数が低く、ZnSが偏析してしまったために被覆による硫黄と電解液との副反応を抑える効果が十分に得られなかったためと考えられる。また、実施例1から実施例4についてはZnSのピーク強度比(220/111)が比較例に比べて高かった。(220/111)が低い場合は、ZnSにおけるSのサイトの占有率が低く、構造内にS欠陥があると考えられる。そのため、充放電を繰り返した際にZnSの結晶構造が不安定化し、サイクル特性が低くなったと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7