(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139413
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】無線アクセスネットワークおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
H04W 24/04 20090101AFI20241002BHJP
H04W 92/12 20090101ALI20241002BHJP
H04W 16/06 20090101ALI20241002BHJP
H04W 52/38 20090101ALI20241002BHJP
H04W 16/18 20090101ALI20241002BHJP
【FI】
H04W24/04
H04W92/12
H04W16/06
H04W52/38
H04W16/18 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050337
(22)【出願日】2023-03-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年2月8日に一般社団法人電子情報通信学会、信学技報 アンテナ・伝播,Vol.122,No.378に掲載 令和5年2月17日に2022年度 電子情報通信学会 アンテナ・伝播研究会にて発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、Beyond 5G研究開発促進事業「Beyond 5Gのレジリエンスを実現するネットワーク制御技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100163186
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 裕吉
(72)【発明者】
【氏名】亀田 卓
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA26
5K067DD18
5K067EE06
5K067EE10
5K067EE53
5K067EE55
5K067GG08
5K067LL14
(57)【要約】
【課題】自然災害などで設備が部分的にダウンした場合に即座に自動的に無線セルを再構成して仮復旧することができる無線アクセスネットワークを提供する。
【解決手段】無線アクセスネットワーク100は、通信速度が遅く通信可能エリアが広い第1のアンテナ11およびアンテナ11よりも通信速度が速く通信可能エリアが狭い第2のアンテナ12を有する複数の無線子局10と、複数の無線子局10とフロントホール21を介して接続された収容局20と、収容局20とフロントホール22を介して接続された無線親局30とを備え、無線親局30が、自身が統括する無線セル100A内のユーザ端末の分布状況を把握し、複数の無線子局10のいずれかがダウンしたとき、当該ダウンした無線子局10に隣接する正常動作する無線子局10に対して、当該ダウンした無線子局10のエリアに向けて第2のアンテナ12の出力パワーを上げて電波を放射するよう指示して無線セル100Aを再構成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信速度が遅く通信可能エリアが広い第1のアンテナおよび前記第1のアンテナよりも通信速度が速く通信可能エリアが狭い第2のアンテナを有する複数の無線子局と、
前記複数の無線子局とフロントホールを介して接続された収容局と、
前記収容局とフロントホールを介して接続された無線親局とを備え、
前記無線親局が、自身が統括する無線セル内のユーザ端末の分布状況を把握し、前記複数の無線子局のいずれかがダウンしたとき、当該ダウンした無線子局に隣接する正常動作する無線子局に対して、当該ダウンした無線子局のエリアに向けて前記第2のアンテナの出力パワーを上げて電波を放射するよう指示して前記無線セルを再構成する、
ことを特徴とする無線アクセスネットワーク。
【請求項2】
前記無線親局が一定頻度でユーザ端末から現在位置情報の通知を受けてユーザ端末の分布状況を把握する、請求項1に記載の無線アクセスネットワーク。
【請求項3】
前記無線親局が配下の無線子局から当該無線子局の通信可能エリアにあるユーザ端末の在圏情報を取得してユーザ端末の分布状況を把握する、請求項1に記載の無線アクセスネットワーク。
【請求項4】
前記無線親局が、前記再構成した無線セルに関して前記第2のアンテナで通信可能なエリアを示したサービスエリアマップを作成し、前記無線子局の第1のアンテナを通じて当該サービスエリアマップを無線セルの全域に配信する、請求項1ないし3のいずれか一つに記載の無線アクセスネットワーク。
【請求項5】
通信速度が遅く通信可能エリアが広い第1のアンテナおよび前記第1のアンテナよりも通信速度が速く通信可能エリアが狭い第2のアンテナを有する複数の無線子局と、
前記複数の無線子局とフロントホールを介して接続された収容局と、
前記収容局とフロントホールを介して接続された無線親局とを備えた無線アクセスネットワークの制御方法であって、
前記無線親局が、自身が統括する無線セル内のユーザ端末の分布状況を把握し、前記複数の無線子局のいずれかがダウンしたとき、当該ダウンした無線子局に隣接する正常動作する無線子局に対して、当該ダウンした無線子局のエリアに向けて前記第2のアンテナの出力パワーを上げて電波を放射するよう指示して前記無線セルを再構成する、
ことを特徴とする無線アクセスネットワークの制御方法。
【請求項6】
前記無線親局が一定頻度でユーザ端末から現在位置情報の通知を受けてユーザ端末の分布状況を把握する、請求項5に記載の無線アクセスネットワークの制御方法。
【請求項7】
前記無線親局が配下の無線子局から当該無線子局の通信可能エリアにあるユーザ端末の在圏情報を取得してユーザ端末の分布状況を把握する、請求項5に記載の無線アクセスネットワークの制御方法。
【請求項8】
前記無線親局が、前記再構成した無線セルに関して前記第2のアンテナで通信可能なエリアを示したサービスエリアマップを作成し、前記無線子局の第1のアンテナを通じて当該サービスエリアマップを無線セルの全域に配信する、請求項5ないし7のいずれか一つに記載の無線アクセスネットワークの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線アクセスネットワークおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年商用化が始まった第5世代移動通信システム(5G)により無線通信の高速・大容量、低遅延、多数端末接続がもたらされた。今後、Beyond 5G(B5G)さらにその先の6Gになると帯域幅の広いミリ波帯(主に28GHz帯)さらにはテラヘルツ波帯(主に300GHz帯)の利用がますます進み、超高速・大容量、超低遅延、超多数同時接続がもたらされると予想される。
【0003】
ミリ波帯やテラヘルツ波帯は非常に広い帯域が確保できる一方、電波の減衰が大きいため通信可能エリアが限られるといった難点がある。したがって、B5Gや6Gの次世代無線アクセスネットワークは、ミリ波帯やテラヘルツ波帯のみで構成するのではなく、帯域は狭いがより遠くまで通信可能な周波数帯などの性質の異なる複数の通信システムを組み合わせる異種無線統合ネットワーク(ヘテロジニアスネットワーク)の形態になると考えられる。このようなヘテロジニアスネットワークに関して、本願発明者はこれまで、高い信頼性で通信を行う技術や通信効率を上げる技術を開示してきた(例えば、特許文献1、2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-76900号公報
【特許文献2】特開2016-100606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、無線通信ネットワークは単なる通信基盤から社会基盤となり、より一層不可欠な存在になっている。今後、超高速・大容量、超低遅延、超多数同時接続を特徴とするB5G、さらにその先の6Gの時代には、サイバー空間とフィジカル空間がネットワークで密接に連携したSociety 5.0の社会に変貌する。この社会を維持するには、毎年各地で発生する集中豪雨災害はもとより、数百年に一度発生する首都直下や南海トラフなどの巨大広域災害まで、様々な災害レベルに対応できるようにネットワークのレジリエンスを向上する必要性がある。特に、頻発・深刻化する自然災害に対するレジリエンス向上は喫緊の課題である。
【0006】
上記問題に鑑み、本発明は、自然災害などで設備が部分的にダウンした場合に即座に自動的に無線セルを再構成して仮復旧することができる無線アクセスネットワークを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に従うと、通信速度が遅く通信可能エリアが広い第1のアンテナおよび前記第1のアンテナよりも通信速度が速く通信可能エリアが狭い第2のアンテナを有する複数の無線子局と、前記複数の無線子局とフロントホールを介して接続された収容局と、前記収容局とフロントホールを介して接続された無線親局とを備え、前記無線親局が、自身が統括する無線セル内のユーザ端末の分布状況を把握し、前記複数の無線子局のいずれかがダウンしたとき、当該ダウンした無線子局に隣接する正常動作する無線子局に対して、当該ダウンした無線子局のエリアに向けて前記第2のアンテナの出力パワーを上げて電波を放射するよう指示して前記無線セルを再構成する、ことを特徴とする無線アクセスネットワークが提供される。
【0008】
本発明の別の局面に従うと、通信速度が遅く通信可能エリアが広い第1のアンテナおよび前記第1のアンテナよりも通信速度が速く通信可能エリアが狭い第2のアンテナを有する複数の無線子局と、前記複数の無線子局とフロントホールを介して接続された収容局と、前記収容局とフロントホールを介して接続された無線親局とを備えた無線アクセスネットワークの制御方法であって、前記無線親局が、自身が統括する無線セル内のユーザ端末の分布状況を把握し、前記複数の無線子局のいずれかがダウンしたとき、当該ダウンした無線子局に隣接する正常動作する無線子局に対して、当該ダウンした無線子局のエリアに向けて前記第2のアンテナの出力パワーを上げて電波を放射するよう指示して前記無線セルを再構成する、ことを特徴とする無線アクセスネットワークの制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、自然災害などで設備が部分的にダウンした場合に即座に自動的に無線セルを再構成して仮復旧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る無線アクセスネットワークの概略構成図である。
【
図2】
図1の無線アクセスネットワークの無線セル再構築の様子を示す模式図である。
【
図3】竜巻による無線地上設備の被災状況を示す模式図である。
【
図4】ユーザ当たりの通信容量に係るパラメータを説明する図である。
【
図5】被災RUを隣接RUで救済する救済シナリオを示す図である。
【
図6】救済されなかった被災RUのユーザが被災地から避難所などへ移動するシナリオを示す図である。
【
図7】各シーンにおけるユーザ当たりの通信容量の累積確率分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本発明を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。また、図面に描かれた各部材の寸法、細部の詳細形状などは実際のものとは異なることがある。
【0012】
≪無線アクセスネットワークの構成例≫
図1は、本発明の一実施形態に係る無線アクセスネットワークの概略構成図である。本実施形態に係る無線アクセスネットワーク(Radio Access Network、以下、RANと称することがある。)100は、複数の無線子局10と、収容局20と、無線親局30とを備えている。
図1に示したRAN100は、B5Gネットワークにおける一つの無線セル100Aを構成する。B5Gネットワークはこのような無線セル100Aが複数集まって構成される。
【0013】
無線子局(Radio Unit、以下、RUと称することがある。)10は、2種類の異なる周波数帯の電波を使って図略のユーザ端末(User Equipment、以下、UEと称することがある。)と無線交信を行う。具体的には、RU10は、Sub6帯オムニアンテナ11およびミリ波帯MIMOアンテナ12の2種類のアンテナを備えている。Sub6帯オムニアンテナ11は、Sub6帯と呼ばれる3.6GHz~4.1GHzの3.7GHz帯および4.5GHz~4.6GHzの4.5GHz帯の電波でUEと無線交信を行う。ミリ波帯MIMOアンテナ12は、ミリ波帯と呼ばれる27.0GHz~29.5GHz(うち28.2GHz~29.1GHzは非割り当て)の28GHz帯の電波でUEと無線交信を行う。なお、上記は現在割り当てられている周波数帯を列挙したのであって、本発明は上記周波数帯に限定されるものではない。今後、Sub6帯およびミリ波帯に新たな周波数帯が割り当てられる可能性がある点に留意すべきである。
【0014】
Sub6帯オムニアンテナ11は、ミリ波帯MIMOアンテナ12と比べて通信速度は遅いものの無指向でカバレッジが広いという特徴を有する。Sub6帯オムニアンテナ11の通信可能エリア11Aは、アンテナの設置環境や出力パワーによるが概ね半径数百メートルの範囲である。一方、ミリ波帯MIMOアンテナ12は、Sub6帯オムニアンテナ11と比べてカバレッジは狭いが通信速度は速いという特徴を有する。ミリ波帯MIMOアンテナ12の通信可能エリア12Aは、アンテナの設置環境や出力パワーによるが概ね半径数十メートルの範囲である。ミリ波帯MIMOアンテナ12はそれ自体が複数のアンテナで構成されており、これら複数のアンテナで通信可能エリア12Aにある複数のUEとMIMO(Multi Input Multi Output)通信ができるほか、ビームフォーミング技術により個々のUEに対して電波を絞ってビーム12Bを放射して高スループットの通信を行うことができる。
【0015】
上記のような2種類のアンテナの通信可能エリアや通信速度などの特性の違いを活かして、RU10は、平常時の出力パワーにおいて、隣接するRU10間でSub6帯オムニアンテナ11の通信可能エリア11Aが部分的に重畳し、ミリ波帯MIMOアンテナ12の通信可能エリア12Aは重畳しないように分散配置されて無線セル100Aが構成される。
図1では便宜のためRU10はすべてSub6帯オムニアンテナ11およびミリ波帯MIMOアンテナ12を備えているとしたが、実際はミリ波帯に比べてSub6帯の電波は遠方まで届くため、Sub6帯オムニアンテナ11はミリ波帯MIMOアンテナ12よりも少なく配置することになる。このように、無線セル100Aは、スモールセルとしての個々のRU10が複数集まってできた一つのヘテロジニアスB5G無線セルである。無線セル100Aの大きさは概ね半径数百~数キロメートルである。
【0016】
各RU10は、光ファイバーおよび電源ケーブルなどからなるフロントホール21を介して収容局20に接続されている。便宜のため、
図1では一部のフロントホール21のみ図示している。
図1では収容局20が無線セル100Aの中央に配置されているように描いているが、収容局20は任意の場所に配置可能である。収容局20はさらにフロントホール22を介して無線親局30に接続されている。収容局20はフロントホール上の無線信号を分配、合成する装置である。したがって、すべてのRU10、特にすべてのSub6帯オムニアンテナ11は無線セル100A内において同じ信号を送受信することができ、また、一部のRU10、例えばアップリンクで使用されるRU10は他のRU10と異なる信号を送受信することができる。無線セル100Aは、Sub6帯とミリ波のキャリアアグリゲーションにより、超高速、大容量、低遅延の無線通信が可能になる。また、無線セル100A内ではRU間の干渉がなく、また、ハンドオーバー制御も不要である。
【0017】
無線親局30は、DU(Distributed Unit)31およびCU(Central Unit)32を備えている。DU31は、RU側、すなわちネットワーク下流に置かれ、信号の変復調、MAC(Media Access Control)層の通信制御などを行う。なお、本実施形態ではDU31は無線親局30内に配置されているものとしたが、収容局20さらにはRU10に配置されていてもよい。CU32は、ネットワーク上流に置かれ、図略のバックホールを介してB5Gネットワークのコアネットワークに接続されている。CU32は、DU31やRU10の制御、パケットの暗号化などを行うPDCP(Packet Data Convergence Protocol)、UEの無線リソース管理などの行うRRM(Radio Resource Management)やRRC(Radio Resource Control)の処理などを行う。
【0018】
なお、無線親局30は、無線セル100A以外の別の無線セル、例えば、無線セル100Aに隣接する一または複数の無線セルに接続されることがある。すなわち、無線親局30は複数の無線セルを統括することがある。その場合、隣接する無線セル間で干渉がないようRUの送受信が制御される。
【0019】
DU31およびCU32はハードウェアで構成可能であるほか、汎用サーバーやクラウド上で動くソフトウェアとして実現することもできる。ソフトウェアにより仮想化(NFV:Network Function Virtualization)された無線親局30は仮想基地局と言うことができる。このような仮想化された無線親局30のソフトウェアが動作するサーバーなどは無線セル100Aのエリア内にある必要はなく、無線セル100Aから遠く離れた箇所に配置されていてもよい。
【0020】
≪障害発生時の無線セル再構成≫
本実施形態に係るRAN100では、無線セル100A内のRU10が自然災害や機器故障などでダウンした場合、正常動作している別のRU10の通信可能エリアが、ダウンしたRU10の通信可能エリアをカバーするように拡張する、すなわち、ダウンしたRU10を正常動作している別のRU10が救済することで無線セル100Aが再構成され、ダウンしたRU10と無線交信していたUEが引き続き無線セル100A内で高速・大容量、低遅延の通信を維持できるようになっている。このような無線セルの再構成を可能にするために、無線親局30(具体的にはCU32)は、個々のRU10の設置位置、搭載しているアンテナの種類や出力能力、平常時の出力パワーで通信可能なエリア、最大パワーで通信可能なエリアなどの静的情報を保持するとともに、平時において個々のRU10の動作状況や無線セル100A内のUEの分布状況などの動的情報を取得している。
【0021】
動的情報のうちRU10の動作状況については、無線親局30は常時RU10と通信していることから、RU10から一定期間レスポンスがなければ無線親局30はそのRU10がダウンしていると判断することができる。UEの分布状況の把握については、1)UEが自ら自身の現在位置情報を無線親局30に通知する、2)無線親局30が配下のRU10から当該RU10の通信可能エリアにUEが存在していることを示す情報であるUEの在圏情報を取得する、の2通りある。1の方法は、スマートフォンに代表されるUEはGPSなどの測位機能を有しており、自身の現在位置を知ることができることから、その位置情報を一定頻度でUEから無線親局30に通知するというものである。この方法によると、UEが自身の位置情報を通知する仕組みの導入が必要となるが、無線親局30は各UEの正確な位置情報を把握することができるというメリットがある。一方、2の方法は、RU10は自身の通信可能エリア内にUEがどのくらいあるか把握していることから、そのUEの在圏情報をRU10から一定頻度で無線親局に通知するというものである。この方法によると、UEの正確な位置情報までは把握することができないが、UEに新たな仕組みを導入することなくRAN100側の仕組みのみでUEの在圏情報を取得してUEの分布状況を把握できるというメリットがある。
【0022】
図2は、
図1の無線アクセスネットワークの障害仮復旧時の状態を示す図である。便宜のため、
図2ではRU10のSub6帯の通信可能エリアの図示を省略している。
図2に示したように、無線セル100A内のRU10(図中の×印を付けたRU)がダウンすると、正常動作する隣接RU10がミリ波帯MIMOアンテナ12の出力パワーを上げて、ダウンしたRU10のエリアに向けてビーム12Bを拡張放射し、隣接RU10のミリ波帯通信可能エリア12AがダウンしたRU10のエリアをカバーするよう拡張する。
【0023】
具体的には、無線親局30は、無線セル100A内でRU10がダウンしたことを検知すると、RU10の設置位置情報や通信可能エリア情報などの静的情報を参照して、正常動作しているRU10の中からダウンしたRU10の通信可能エリアをカバー可能なRU10を特定する。さらに、無線親局30は、上記の動的情報を参照して、ダウンする直前にそのRU10の通信可能エリアに存在していたUE、特にミリ波帯通信可能エリア12A内のUEの分布状況を特定し、カバー役のRU10がどの方向に向けてどの程度の出力パワーでビーム12Bを放射すべきかを決定する。そして、無線親局30は、カバー役のRU10に対してビーム12Bの拡張を指示する。例えば、ミリ波帯MIMOアンテナ12の出力パワーそのものを上げる、ミリ波帯MIMOアンテナ12の指向性を上げる、使用する周波数チャネルを制限して特定の周波数チャネルのみに電力を集中して通信するようにするといったことでビーム12Bが遠くまで届くようにすることができる。
【0024】
カバー役のRU10のミリ波帯通信可能エリア12Aを最大限まで拡張してもビーム12Bが届かないUEもあり得る。そのようなUEに対しては、広域をカバーするSub6帯の電波を使って、現時点においてミリ波帯で通信可能なエリアを示したサービスエリアマップを無線セル100A内に随時配信するようにしてもよい。すなわち、無線親局30は、無線セル100A内の各RU10の動作状態を常時把握していることから、RU10に障害が発生して無線セル100Aを再構成した場合には最新の通信可能エリアに係る情報をテキストデータや画像データなどでテキスト化あるいはビジュアル化してサービスエリアマップを作成し、それを配下のRU10のSub6帯オムニアンテナ11から無線セル100A全域に配信するようにしてもよい。さらに、無線親局30は、一定頻度で無線セル100Aにおける最新のUEの分布状況を把握しそれを更新していることから、サービスエリアマップに最新のUEの分布状況や各RU10の通信トラフィック情報を含めるようにしてもよい。これにより、カバー役のRU10によってもなお救済されずにミリ波帯通信可能エリア外にいるユーザに対して近くのミリ波帯通信可能エリアへの移動を促すことができる。なお、サービスエリアマップは障害発生時に限らず、平時においてもユーザからのリクエストに応じて、あるいはリクエストがなくても一定間隔でUEに配信するようにしてもよい。
【0025】
上述したように、ダウンしたRU10の通信可能エリアをそれに隣接するRU10の1個だけでカバーするように無線セル100Aを再構成すると、そのカバー役以外のRU10の通信可能エリア内のユーザ当たりの通信容量は最大のまま維持できるが、カバー役のRU10の通信可能エリア内ではユーザ当たりの通信容量が大きく低下してしまう。それを改善するために、ダウンしたRU10の通信可能エリアをそれに隣接する複数のRU10でカバーするようにする、あるいは、カバー役のRU10の通信可能エリアをさらにそれに隣接する別の一または複数のRU10でカバーするようにしてもよい。こうすることで、カバー役のRU10の通信可能エリア内のユーザだけ通信容量が低下するのではなく、無線セル100A全体でそれぞれのアプリケーションに求められるQoSを確保した上で公平性を担保した無線リソースの再割り当てが可能となる。
【0026】
≪無線セル再構成の効果≫
次に、自然災害で設備の一部が被災する事例を想定して無線セル再構成の効果を評価する。
図3は、竜巻による無線地上設備(RU)の被災状況を示す模式図である。
図3に示したように、12個のRU10が収容局20に収容された同じ構成の無線セル100A、100B,100Cが並んで配置されており、そこを竜巻が縦断して各無線セルにおける半数のRU10が被災してダウンしたと想定する。このような被災状況において、次の2つの要素を考慮して評価を行う。
(1)隣接する正常RUによる被災RUの救済をRUの通信可能エリアを拡張することにより通信を確保する。
(2)前述(1)で救済できないエリアについては、正常RUエリアへのユーザが移動することで通信を確保する。
【0027】
図4は、ユーザ当たりの通信容量に係るパラメータを説明する図である。
図3中の無線セル100Aを例にパラメータを説明する。RU当たりのシステム総データレートをC
RU、RU当たりのユーザ数を100(収容局当たり1200)とし、収容局当たりのシステム総データレートは一定とした。この条件において、まず通常時(
図4中(i)の状態)のユーザ当たりのデータレートC
uを簡単化のためにセル内の位置や通信環境の違いがないと仮定してC
u=0.01C
RUとした。
【0028】
次に、被災時(
図4中(ii)の状態)のユーザ当たりのデータレートC
uを以下のように想定する。被災RUが救済されない場合(
図4中(ii)の「救済前」)には、その被災RUのユーザ当たりのデータレートC
uは0、隣接する正常動作しているRU(隣接RU)ではC
uのままである。一方、被災RUが隣接RUによって救済される場合(
図4中(ii)の「救済後」)の状態は以下のように考える。
・隣接RUと被災RUはユーザ数でリソース配分を行う。例えば時間分割、周波数分割などの手法を用いることを想定する。
図4中(ii)の状態の場合、一つの被災RUを一つの隣接RUが救済しているので、隣接RU分のリソースを被災RUと隣接RUで半分ずつ利用している。
・被災RUエリア内にいるユーザのデータレートは、隣接RUまでの距離減衰や狭帯域への電力集中などにより通信容量が1/5になるものと仮定する。
【0029】
以上の想定を踏まえると、救済後のユーザのデータレートは、隣接RUが0.5Cu、救済された被災RUが0.1Cuとなる。以降の各シーンにおけるユーザ当たりの通信容量の計算では、以上の想定を基にして算出する。
【0030】
次に、ユーザ当たりの通信容量を計算する4つのシーンについて説明する。シーン(1)は平時であり、
図3において竜巻による被害が発生する前の状態を示している。シーン(2)は発災時の状況であり、先に示した
図3の状況である。
【0031】
図5は、シーン(3)として救済時の状況を示している。これは、
図4で述べた被災RUを隣接RUが救済している状況を示している。図中の破線の丸はシーン(2)で示した被災RUの隣に被災していない隣接RUがある状態を示している。この被災RUと被災していない隣接RUの関係をみると、この例の場合ではどの無線セルにおいても被災RU6つのうち4つが隣接RUから救済を受けられる位置関係にいることがわかる。一方、破線の丸で囲まれていない被災RU(各無線セルあたり2つある。)は、このシーン(3)の状態では救済されないことがわかる。よって、シーン(3)において救済される割合(救済率)を0.67とした。破線の丸で囲まれた、救済される4つの被災RUとその隣接RUにおける各ユーザのデータレートは、
図4の(ii)中の「救済後」で計算された値を用いて通信容量を算出する。また、隣接RUによって救済されない2つの被災RUにおける各ユーザのデータレートは0であるとして通信容量を算出する。
【0032】
図6は、シーン(4)として移動時の状況を示している。これは、
図5のシーン(3)で救済されなかった被災RUのユーザが被災地から避難所などへの移動をすることを想定している。図中の矢印は救済されなかった被災RUのユーザが被災地から避難所などへの移動している状況を示している。この例では、当該被災RUのエリアから、最も近い正常動作をしている隣接RUへ移動していることを示している。正常RUから無線セル全域に最新のサービスエリアマップを配信することにより、被災RUエリアにいるユーザを隣接RUへと誘導することができる。移動するユーザはもともと当該被災RUにいたユーザの半分(ユーザ数50、移動率0.5)と仮定した。また、当該被災RUに最も近い正常動作の隣接RUはいずれも破線の丸で囲まれている、すなわちすでに他の被災RUのための救済動作をしている隣接RUであるとしている。
【0033】
このユーザの避難所への移動によって、以下のような状況になる。まず、当該RUのユーザの半分はそのまま残るため、ユーザデータレートは0のままである。次に、当該RUから移動したユーザは、救済動作中の隣接RUへ移動する。そのRUで収容するユーザ数は150に増えるため、各ユーザのデータレートは低下する。それに伴って、救済動作中の隣接RUとそのRUによって救済されている被災RUのリソース配分割合も変化するため、救済されている被災RUのデータレートも低下することになる。以上の状況を踏まえて、通信容量を算出する。
【0034】
図7は、各シーンにおけるユーザ当たりの通信容量の累積確率分布を示すグラフである。横軸はユーザ当たりの通信容量であり、その最大値はC
uである。縦軸は累積確率を示している。まず、シーン(1)の平時は、すべてのRUが動作しており、それぞれのユーザが等しくユーザ当たりの通信容量C
uが与えられていることを示している。次に、シーン(2)の発災時は、
図3に示したように各無線セルのRUの半数が被災している状態であるため、ユーザの半数はユーザ当たりの通信容量C
u、残り半数は通信容量0となっている。
【0035】
シーン(3)の救済時は、
図5に示したように被災RUを隣接RUが救済している状態であり、ユーザ当たりの通信容量が大きい順に以下のような分布となっている。
・ユーザ当たりの通信容量C
u:被災しておらずかつ救済動作もしていないRUに接続しているユーザ(全体の1/6、16.7%)
・ユーザ当たりの通信容量0.5C
u:救済動作をしている隣接RUに接続しているユーザ(全体の2/6、33.3%)
・ユーザ当たりの通信容量0.1C
u:救済されている被災RUエリアにいるユーザ(全体の2/6、33.3%)
・ユーザ当たりの通信容量0:救済されていない被災RUエリアにとどまっているユーザ(全体の1/6、16.7%)
【0036】
シーン(4)の移動時は、
図5のシーン(3)で救済されなかった被災RUのユーザが被災地から避難所などへの移動をすることを想定している。
図6で述べたように、当該被災RUに最も近い正常動作の隣接RUはいずれも他の被災RUのための救済動作をしている。救済動作をしている隣接RUに関連するユーザ当たりの通信容量もその影響を受けている。ユーザ当たりの通信容量が大きい順に以下のような分布となっている。
・ユーザ当たりの通信容量C
u:被災しておらずかつ救済動作もしていないRUに接続しているユーザ(全体の1/6、16.7%)、シーン(3)から変化なし
・ユーザ当たりの通信容量0.5C
u:救済動作をしている隣接RUに接続しているユーザ(全体の1/6、16.7%)、当該RU数は半分に減少するが、当該RUそれぞれのユーザ数は変化なし
・ユーザ当たりの通信容量0.4C
u:救済動作をしている上に、さらに他の被災RUからユーザが移動してきた隣接RUに接続しているユーザ(全体の1/4、25%)、当該RUではそれぞれのユーザ数が150に増加するため通信容量が低下
・ユーザ当たりの通信容量0.1C
u:救済されている被災RUに接続しているユーザ(全体の1/6、16.7%)、当該RU数は半分に減少するが、当該RUそれぞれのユーザ数は変化なし
・ユーザ当たりの通信容量0.08C
u:救済されている被災RUに接続しているユーザ、救済している隣接RUには他の被災RUからユーザが移動してきた状態(全体の1/6、16.7%)、当該RUそれぞれのユーザ数は変化ないものの、当該RUを救済している隣接RUのユーザ数が増えたため通信容量が低下
・ユーザ当たりの通信容量0:救済されていない被災RUエリアにとどまっているユーザ(全体の1/12、8.4%)
【0037】
次表は、各シーンにおける通信不能ユーザ割合とシステム帯域利用効率の比較をまとめたものである。
【0038】
【0039】
通信不能ユーザ割合を比較すると、シーン(2)からシーン(4)に移行するに従い、通信容量0のユーザ数が減ることがわかる。システム帯域利用効率はシーン(1)平時を基準としたすべてのユーザの通信容量の和の割合である。シーン(3)救済時には救済動作をしている隣接RUの利用効率が低下するため、シーン(2)発災時よりも低下するが、シーン(4)移動時では、より多くのユーザが隣接RUの通信エリアに移動するため、利用効率が若干改善することがわかる。さらに、正常RUの通信可能エリアや通信トラフィックさらにはUEの分布状況に関する最新情報を含むサービスエリアマップを被災RUの通信エリアにあるUEに配信することで、被災RUの通信エリアにいるユーザをあまり混雑していない隣接RUに効率的に誘導することができる。これにより、特定の隣接RUに通信負荷が集中するのを防いで、システム帯域利用効率がより改善されることが期待される。
【0040】
以上のように、本発明における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。また、上述の実施の形態は、本発明における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【符号の説明】
【0041】
100 無線アクセスネットワーク
100A 無線セル
10 無線子局
11 Sub6帯オムニアンテナ(第1のアンテナ)
12 ミリ波帯MIMOアンテナ(第2のアンテナ)
20 収容局
21 フロントホール
22 フロントホール
30 無線親局