(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139419
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ブロックオレフィン変性ポリビニルアルコールおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 299/00 20060101AFI20241002BHJP
C08F 8/12 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C08F299/00
C08F8/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050352
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】森岡 俊文
(72)【発明者】
【氏名】兼田 顕治
【テーマコード(参考)】
4J100
4J127
【Fターム(参考)】
4J100CA31
4J100HA09
4J100HB39
4J100HC12
4J100HE13
4J100HG01
4J100JA21
4J100JA51
4J127AA04
4J127BA041
4J127BB021
4J127BB101
4J127BB161
4J127BC021
4J127BC151
4J127BD031
4J127BG051
4J127BG05Y
4J127FA43
(57)【要約】
【課題】親水基を有した状態で、疎水性の素材との優れた親和性を有するブロックオレフィン変性ポリビニルアルコールを提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコール系樹脂由来の構造単位とα-メチルスチレン基を有するポリオレフィン樹脂由来の構造単位とを有する、ブロックオレフィン変性ポリビニルアルコール。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂由来の構造単位とα-メチルスチレン基を有するポリオレフィン樹脂由来の構造単位とを有する、ブロックオレフィン変性ポリビニルアルコール。
【請求項2】
前記α-メチルスチレン基を有するポリオレフィンが、末端にα-メチルスチレン基を有するポリエチレンである、請求項1記載のブロックオレフィン変性ポリビニルアルコール。
【請求項3】
ビニルアルコールモノマー単位とエチレンモノマー単位の合計に対するエチレンモノマー単位の含有量が1~20モル%である、請求項2記載のブロックオレフィン変性ポリビニルアルコール。
【請求項4】
重量平均分子量が1万~100万である、請求項1~3のいずれか一項に記載のブロックオレフィン変性ポリビニルアルコール。
【請求項5】
リビング重合で得られたポリビニルエステル系樹脂とα-メチルスチレン基を有するポリオレフィン樹脂との反応物をケン化して得られる、ブロックオレフィン変性ポリビニルアルコールの製造方法。
【請求項6】
前記ポリビニルエステル系樹脂がコバルトリビング制御剤を用いたリビング重合で得られたポリ酢酸ビニル末端コバルト錯体である、請求項5記載のブロックオレフィン変性ポリビニルアルコールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロックオレフィン変性ポリビニルアルコールに関し、さらに詳しくは、親水基を有した状態で、疎水性の素材との優れた親和性を有するブロックオレフィン変性ポリビニルアルコールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィルムや繊維の一般的な素材としては疎水性の樹脂素材が用いられる。しかし、医療用や工業用の濾過、分離等の種々の水性液体の処理に用いる多孔質膜を形成するための素材としては高い親水性が求められ、疎水性の樹脂素材に親水性の材料をコーティングしたり、高い親水性の樹脂とアロイ化する検討が行われてきた(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-29926号公報
【特許文献2】特開平5-202240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、疎水性の素材に親水性の材料をコーティングした場合、素材への親和性が低く密着力が不足し、使用中に親水性の材料が脱落することがあり、また、疎水性の素材と親水性の材料をアロイ化した場合、親和性の低さから互いに排斥が起こり、混合相が不安定化したり、局在化が発生し、所定の形状に成形できなかったり、十分な親水性が得られないことがあった。
【0005】
そこで親水性の材料に疎水性の構造を一部組み入れることで、疎水性の素材と親水性の材料の親和性を向上させ、上記の問題の解決が試みられてきた。しかし、親水性の材料に疎水性の構造を組み入れると、疎水性の素材との親和性は向上するものの、目的とする親水性の付与についてはその効果が低下していた。
【0006】
そこで、本発明ではこのような背景の下において、親水基を有した状態で、疎水性の素材との優れた親和性を有するブロックオレフィン変性ポリビニルアルコールを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
しかるに本発明者等は、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、ポリビニルアルコール系樹脂にα-メチルスチレン基を有するポリオレフィン樹脂をブロック的に導入することで、親水基を有した状態で、疎水性の素材との優れた親和性を有する材料となる可能性を見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1]
ポリビニルアルコール系樹脂由来の構造単位とα-メチルスチレン基を有するポリオレフィン樹脂由来の構造単位とを有する、ブロックオレフィン変性ポリビニルアルコール。
[2]
前記α-メチルスチレン基を有するポリオレフィンが、末端にα-メチルスチレン基を有するポリエチレンである、[1]記載のブロックオレフィン変性ポリビニルアルコール。
[3]
ビニルアルコールモノマー単位とエチレンモノマー単位の合計に対するエチレンモノマー単位の含有量が1~20モル%である、[2]記載のブロックオレフィン変性ポリビニルアルコール。
[4]
重量平均分子量が1万~100万である、[1]~[3]のいずれかに記載のブロックオレフィン変性ポリビニルアルコール。
[5]
リビング重合で得られたポリビニルエステル系樹脂とα-メチルスチレン基を有するポリオレフィン樹脂との反応物をケン化して得られる、ブロックオレフィン変性ポリビニルアルコールの製造方法。
[6]
前記ポリビニルエステル系樹脂がコバルトリビング制御剤を用いたリビング重合で得られたポリ酢酸ビニル末端コバルト錯体である、[5]記載のブロックオレフィン変性ポリビニルアルコールの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のブロックオレフィン変性ポリビニルアルコールは、親水基を有した状態で、疎水性の素材との優れた親和性を有する材料となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例品・比較例品におけるエチレン変性率と水接触角との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態の例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
なお、本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」または「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
本発明において「X以上」(Xは任意の数字)または「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」または「Y未満であることが好ましい」旨の意も包含する。
【0013】
また、本発明において「主とする」とは、対象物中の最も多い構成をさし、通常、対象物中の50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、殊に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
本発明において、「(メタ)アクリル」とはアクリルまたはメタクリルを、「(メタ)アクリレート」とはアクリレートまたはメタクリレートをそれぞれ意味するものである。
本発明において「フィルム」とは「テープ」や「シート」をも含めた意味である。
【0014】
<<ブロックオレフィン変性ポリビニルアルコール>>
本発明の一実施形態に係るブロックオレフィン変性ポリビニルアルコール(以下、「本ブロック変性PVA」と称する場合がある)は、ポリビニルアルコールがブロック的にポリオレフィンに変性されたものであり、通常ポリビニルアルコールの主鎖の末端がポリオレフィンに変性されたものである。なお、ポリビニルアルコールを単に「PVA」と称する場合もある。
【0015】
本ブロック変性PVAは、PVA系樹脂由来の構造単位、およびα-メチルスチレン基を有するポリオレフィン樹脂由来の構造単位を含有し、これらの構造単位を主として有することが好ましい。
【0016】
上記PVA系樹脂は、ポリビニルエステル系樹脂をケン化することで得られ、PVA系樹脂由来の構造単位には、ビニルアルコールモノマー単位が含まる。また、上記ポリオレフィン樹脂由来の構造単位には、エチレンモノマー単位が含まれる。
【0017】
本ブロック変性PVAにおいて、ビニルアルコールモノマー単位とエチレンモノマー単位の合計に対するエチレンモノマー単位の含有量(以下、「エチレン変性率」とする)は、1~20モル%であることが好ましく、より好ましくは2~18モル%、さらに好ましくは5~15モル%である。エチレンモノマー単位の含有量がかかる範囲内であると、疎水性の素材との親和性を保持しつつ、高い親水性を発現することができる。
本ブロック変性PVAのエチレンモノマー単位の含有量は、例えば、後記実施例に記載のエチレン変性率の算出方法で測定することができる。
【0018】
本ブロック変性PVAの平均ケン化度は、通常95モル%以上であり、好ましくは97モル%以上、より好ましくは99モル%以上である。平均ケン化度が低すぎると、親水性が低下する傾向があり、平均ケン化度の上限は100モル%である。なお、上記の平均ケン化度は、JIS K 6726に準拠して測定される。
【0019】
本ブロック変性PVAの重量平均分子量は、1万~100万であることが好ましく、より好ましくは2万~50万、さらに好ましくは3万~40万、特に好ましくは4万~30万である。重量平均分子量がかかる範囲内であると、加工性と耐水性のバランスにより優れる。
本ブロック変性PVAの重量平均分子量は、例えば、後記実施例に記載の方法で測定することができる。
【0020】
本ブロック変性PVAの分散度は、1~10であることが好ましく、より好ましくは1~5、さらに好ましくは1~3である。
本ブロック変性PVAの分散度は、例えば、後記実施例に記載の方法で測定することができる。
【0021】
本ブロック変性PVAの水接触角は58°以上であることが好ましく、より好ましくは59°以上、さらに好ましくは60°以上である。上限は通常150°であり、好ましくは90°以下である。
本ブロック変性PVAの水接触角は、例えば、後記実施例に記載の方法で測定することができる。
【0022】
本ブロック変性PVAは同程度のオレフィンモノマー単位を有するランダムオレフィン変性PVAに比べ、水接触角が高く、多くの親水基を有しながら、疎水性材料との親和性が高くなると考えられる。
【0023】
<<ブロックオレフィン変性PVAの製造方法>>
本ブロック変性PVAは、リビング重合で得られたポリビニルエステル系樹脂とα-メチルスチレン基を有するポリオレフィン樹脂との反応物をケン化して得ることができる。
【0024】
具体的には、(1)α-メチルスチレン基を有するポリオレフィン樹脂と、リビング重合で得られたポリビニルエステル系樹脂とを準備する工程、(2)α-メチルスチレン基を有するポリオレフィン樹脂とビニルエステル系樹脂との反応物を得る工程、(3)かかる反応物をケン化する工程を有する。以下、各工程につき説明する。
【0025】
<工程(1)について>
まず、α-メチルスチレン基を有するポリオレフィン樹脂と、リビング重合で得られたポリビニルエステル系樹脂とを、必要に応じて調製し準備する。
【0026】
[α-メチルスチレン基を有するポリオレフィン樹脂]
α-メチルスチレン基を有するポリオレフィン樹脂におけるポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なかでもPVAの変性が容易な点でポリエチレンが好ましく用いられる。
【0027】
また、α-メチルスチレン基を有するポリオレフィン樹脂は、末端にα-メチルスチレン基を有するポリエチレンであることが好ましい。ポリオレフィン樹脂が末端にα-メチルスチレン基を有するポリエチレンであることでPVA系樹脂にブロック的に導入することが容易となる傾向がある。
【0028】
PVA系樹脂はポリビニルエステル系樹脂をケン化することで得られるが、ポリオレフィンの末端に不飽和基を有するα-メチルスチレン基を有することで、ポリビニルエステル系樹脂の末端との反応性を向上させることができる。
【0029】
不飽和基を有するα-メチルスチレン基を末端に有するポリオレフィンとしては、1,3-ジイソプロペニルベンゼン末端ポリエチレンが好ましく挙げられる。
【0030】
[リビング重合したポリビニルエステル系樹脂]
ポリビニルエステル系樹脂は、通常、ビニルエステル系モノマーを重合することで得られる。かかるポリビニルエステル系樹脂はケン化することによりPVA系樹脂となる。
【0031】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、トリフロロ酢酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられる。なかでも炭素数3~20が好ましく、より好ましくは炭素数4~10、さらに好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステル、殊に好ましくは酢酸ビニルである。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0032】
上記重合反応は、リビングラジカル重合で行われることが好ましく、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の公知のラジカル重合開始剤とリビングラジカル制御剤としてコバルト触媒を併用して重合することが好ましい。
ラジカル重合開始剤としては、アゾ系重合開始剤が好ましく、より好ましくは2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)である。また、コバルト触媒としては二価の有機コバルト錯体が好ましく、より好ましくはコバルトアセチルアセトナートである。
【0033】
ラジカル重合開始剤の添加量は、ビニルエステル系モノマーとラジカル重合開始剤の初期仕込み合計量に対して0.00001~0.2モル%であることが好ましく、より好ましくは0.00005~0.02モル%、さらに好ましくは0.0001~0.002モル%質量部である。
【0034】
リビングラジカル制御剤の添加量は、ビニルエステル系モノマーとリビングラジカル制御剤の初期仕込み合計量に対して0.00001~0.1モル%であることが好ましく、より好ましくは0.00005~0.01モル%、さらに好ましくは0.0001~0.001モル%である。
【0035】
重合温度としては、0~60℃であることが好ましく、より好ましくは10~50℃である。重合時間としては重合温度との関係で変動するため特に限定されるものではなく重合率が10%以上になるまで重合することが好ましく、より好ましくは重合率が15%以上、さらに好ましくは20%以上である。
【0036】
リビング重合したポリビニルエステル系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル末端コバルト錯体が特に好ましい。
【0037】
また、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記ビニルエステル系モノマー以外に他の不飽和単量体と重合することもできる。
なお、上記PVA系樹脂における他の不飽和単量体の導入量は、通常、20モル%以下、好ましくは10モル%以下、特に好ましくは5モル%以下である。下限値は0モル%である。
【0038】
上記他の不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノまたはジアルキルエステル等、(メタ)アクリロニトリル等のニトリル類、(メタ)アクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、3,4-ジアセトキシブテン等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0039】
<工程(2)について>
上記準備した、リビング重合で得られたポリビニルエステル系樹脂(以下「ポリビニルエステル系樹脂成分」と称することがある)と、α-メチルスチレン基を有するポリオレフィン樹脂(以下「ポリオレフィン樹脂成分」と称することがある)を反応させることで反応物を得る。
上記ポリビニルエステル系樹脂成分、とりわけリビングラジカル制御剤を用いてリビング重合されたポリビニルエステル系樹脂は、末端に重合活性基を有するため、不飽和基を有するα-メチルスチレン基を末端に有するポリオレフィンと反応性が高い。
【0040】
ポリビニルエステル系樹脂成分とポリオレフィン樹脂成分との反応温度としては、20~80℃が好ましく、より好ましくは30~70℃、さらに好ましくは40~60℃である。
【0041】
反応時間としては、反応温度との関係で変動するため特に限定されるものではないが、通常10分~5時間であり、好ましくは30分~2時間である。
【0042】
必要に応じてジニトロベンゼン等の反応停止剤を加えて反応を停止させてもよい。
【0043】
<工程(3)について>
上記工程(2)で得られた反応物をケン化するが、ケン化方法としては特に制限されるものではなく公知の任意の方法でケン化することができる。すなわち、ポリビニルエステル系重合体をアルコールまたは水/アルコール溶媒に溶解させた状態で、アルカリ触媒または酸触媒を用いて行うことができる。
前記アルカリ触媒としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートを用いることができる。
通常、無水アルコール系溶媒下、アルカリ触媒を用いたエステル交換反応が反応速度の点や脂肪酸塩等の不純物を低減できるなどの点で好適に用いられる。
ケン化工程は、抽出工程(反応溶液から反応物を抽出)後に行うことが得られる本ブロック変性PVAの純度の点から好ましい。
【0044】
かかる反応物のケン化により、本ブロック変性PVAを得ることができる。
【0045】
<その他の成分>
なお、本ブロック変性PVAには、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の成分として、他の樹脂成分、重合禁止剤、酸化防止剤、腐食防止剤、架橋促進剤、紫外線吸収剤、可塑剤、顔料、安定化剤、充填剤等の各種添加剤、金属、および樹脂粒子等を配合することができる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いることができる。また、構成成分の製造原料等に含まれる不純物等が少量含有されていてもよい。
【0046】
上記その他の成分の含有量は、本ブロック変性PVAに対して20質量%以下であることが好ましく、特に好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。下限値は通常0質量%である。
【0047】
<用途>
本ブロック変性PVAは、親水基を有した状態で、疎水性の素材との優れた親和性を有することから、医療用や工業用など様々な分野で幅広い用途に用いることができる。例えば抗血栓性材料や膜ファウリング防止材等が挙げられる。
また、本ブロック変性PVAは親水性素材の表面疎水化や、非相容ポリマーの相容化剤としての応用も期待できる。
【実施例0048】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」、「%」とあるのは、質量基準を意味する。
【0049】
実施例・比較例で得られたPVAのエチレン変性率、数平均分子量、重量平均分子量、分散度、および水接触角の測定方法は下記の通りである。その結果を下記表1に示す。
【0050】
(エチレン変性率の算出)
1H-NMR(ブルカージャパン社製、Ascend NMR 400)で、ビニルエステルの主鎖メチンに由来するピーク(4.9~5.1ppm)とエチレンに由来するピーク(1.2~1.4ppm)の積分比の対比から算出したエチレンモノマー単位の変性率をエチレン変性率とする。
【0051】
(数平均分子量、重量平均分子量、分散度(分子量分布)の測定)
PVAの数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)の測定は、高速GPC装置(島津製作所社製、HLC-8420GPC)を使用した。測定条件は下記の通りである。
・カラム:昭和電工社製GPC標準カラム「HFIP-806M」2本直列接続
・標準試料:ポリメチルメタクリレート
・溶媒および移動相:トリフルオロ酢酸ナトリウム-HFIP溶液(濃度5mM)
・流量:サンプルライン1.0mL/min、リファレンスライン0.5mL/min
・温度:40℃
・試料溶液濃度:10mg/10mL(非水系0.2μLフィルターでろ過)
・注入量:50μL
・検出器:RI
【0052】
(水接触角の測定)
得られたPVAを用いて4%水溶液を調製し、それをPETフィルム上に流延した後に25℃で1週間乾燥させ、厚さ100μmのフィルムを得た。
フィルムを25℃55%RHにて1週間調湿した後、協和界面科学社製DropMaster DM-500を用いて、フィルム表面に水滴を垂らした際の水滴の接触角を測定した。接触角は、水滴を垂らしてから2秒後の画像を解析ソフトウェアFAMASにて自動測定した。なお、測定は各サンプル10回測定し、最大/最小値を除く8点の平均値を求めた。
【0053】
<実施例1>
下記の各工程を経ることによりブロックオレフィン変性PVAを作製した。
【0054】
[ポリ酢酸ビニルのリビングラジカル重合]
撹拌翼を備えたフラスコに酢酸ビニル200gとリビング制御剤としてコバルト(II)アセチルアセトナート0.08gを投入して30分間窒素バブリングを行った後、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)0.26gを添加し、さらに30分間窒素バブリングした。窒素雰囲気下で撹拌しながら昇温し、反応溶液の温度が30℃となるように調整して重合させ、重合率が23%に達したところで冷却して重合を停止し、ポリ酢酸ビニル末端コバルト錯体の酢酸ビニル溶液を得た。
【0055】
[ポリ酢酸ビニル末端コバルト錯体とα-メチルスチレン基を有するポリオレフィン樹脂との反応]
撹拌翼を備えたフラスコにトルエン80mLと1,3-ジイソプロペニルベンゼン末端ポリエチレン6.8gとを加え、30分間窒素バブリングした。その後、昇温して1,3-ジイソプロペニルベンゼン末端ポリエチレンをトルエンに溶解させた後、50℃に調整し、上記で調製したポリ酢酸ビニル末端コバルト錯体の酢酸ビニル溶液の全量を加え、1時間反応させた。
その後ジニトロベンゼン0.2gを加えて反応を停止し、酢酸水溶液(2%)100gを加えて分液操作で水層を除いて、有機層をエバポレーターで溶媒留去し、ポリ酢酸ビニル末端コバルト錯体と1,3-ジイソプロペニルベンゼン末端ポリエチレンとの反応物と、未反応の1,3-ジイソプロペニルベンゼン末端ポリエチレンの混合物を得た。
得られた混合物をメタノールで洗浄し、残存した酢酸ビニルをエバポレーターで留去した後、酢酸エチルに溶解させ、一晩静置した後にブフナー濾過によって未反応の1,3-ジイソプロペニルベンゼン末端ポリエチレンを除去し、ポリ酢酸ビニル末端コバルト錯体と1,3-ジイソプロペニルベンゼン末端ポリエチレンとの反応物を得た。
【0056】
[反応物のケン化]
フラスコに上記のポリ酢酸ビニル末端コバルト錯体と1,3-ジイソプロペニルベンゼン末端ポリエチレンとの反応物を加え、水酸化ナトリウムでケン化し、メタノールで洗浄後、50℃の真空乾燥機で8時間乾燥させて目的のブロックエチレン変性PVAを得た。
得られたブロックエチレン変性PVAは、重量平均分子量が25万、エチレン変性率が3モル%、ケン化度99がモル%であった。
【0057】
<実施例2>
コバルト(II)アセチルアセトナートを0.24g、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)を0.78gとした以外は実施例1と同様にして重合を実施し、重合率7%で重合を停止して、ポリ酢酸ビニル末端コバルト錯体の酢酸ビニル溶液を得た。
実施例1と同様に、1,3-ジイソプロペニルベンゼン末端ポリエチレン4.85gのトルエン200gの溶液に上記ポリ酢酸ビニル末端コバルト錯体の酢酸ビニル溶液を加えて反応させ、実施例1と同様にケン化反応を実施し、目的のブロックエチレン変性PVAを得た。
重量平均分子量が4.7万、エチレン変性率が10モル%、ケン化度が99モル%であった。
【0058】
<比較例1>
実施例1と同様にして酢酸ビニルを重合し、重合率22%で重合を停止し、1,3-ジイソプロペニルベンゼン末端ポリエチレンと反応させずに、実施例1と同様にケン化反応を実施し、未反応のPVAを得た。重量平均分子量が24万、エチレン変性率が0モル%、ケン化度が99モル%であった。
【0059】
<比較例2>
[ランダムエチレン変性PVAの作製]
オートクレーブに、酢酸ビニル460g、メタノール75gを仕込み、系内を窒素ガスで一旦置換した後、ついでエチレンで置換して、撹拌しながら、67℃まで昇温し、エチレンの分圧が1.0MPaとなるように圧入し、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.82gをメタノール10gに溶解させた溶液を加え、撹拌しながら、内温を67℃で4時間保つことにより、重合反応を行った。
その後、ソルビン酸0.082gをメタノール100gに溶解させた溶液を投入し、冷却して重合を停止した。減圧下、40℃で揮発分追い出しとメタノール添加を繰り返すことにより、未反応の酢酸ビニルを除去して、ランダムエチレン変性ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液を得た。
ついで、上記溶液を水酸化ナトリウムでケン化し、メタノールで洗浄後、100℃の熱風乾燥器中で8時間乾燥させてランダムエチレン変性PVAを得た。重量平均分子量が5.2万、エチレン変性率が7モル%、ケン化度が99モル%であった。
【0060】
【0061】
表1の結果より、エチレン変性率が多くなるに従い水接触角は大きくなるが、ランダムエチレン変性PVAである比較例2に比べ、ブロックエチレン変性PVAである実施例1,2は、
図1に示すように同程度のエチレン変性率である樹脂に比べ水接触角が大きいものであった。
そのため、実施例・比較例のエチレン変性率と水接触角との関係を
図1に示したように、本発明のブロックオレフィン変性PVAは、ランダムエチレン変性PVA等の同程度の親水基を有する樹脂に比べ、疎水性材料との親和性が高くなるものと考えられる。
本発明のブロックオレフィン変性PVAは親水基を有した状態で、疎水性の素材との優れた親和性を有することから、医療用や工業用など様々な分野での利用が大いに期待される。