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  • 特開-容器入り表面熟成チーズの製造方法 図1
  • 特開-容器入り表面熟成チーズの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139423
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】容器入り表面熟成チーズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/14 20060101AFI20241002BHJP
   A23C 19/068 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
A23C19/14
A23C19/068
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050357
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 達也
(72)【発明者】
【氏名】徳本 順子
(72)【発明者】
【氏名】山住 弘
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC30
4B001BC08
4B001BC14
4B001BC99
4B001EC99
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、加熱殺菌型の容器入り表面熟成チーズの製造方法において、特別な装置を必要とすることなく容器中の酸素濃度を低減し、加熱殺菌後の保存中の表面熟成チーズの品質劣化を抑制する製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】本発明は、容器入り表面熟成チーズの製造方法であって、カビによる表面熟成チーズを容器に入れて密閉する工程と、密閉された容器入り表面熟成チーズをカビ生成条件下で静置する工程と、前記容器入り表面熟成チーズをレトルト釜に入れ加熱する殺菌工程と、を含む前記製造方法を提供する。また、当該製造方法により製造された加熱殺菌型の容器入り表面熟成チーズを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器入り表面熟成チーズの製造方法であって、
カビによる表面熟成チーズを容器に入れて密閉する工程と、
密閉された容器入り表面熟成チーズをカビ生成条件下で静置する工程と、
前記容器入り表面熟成チーズをレトルト釜に入れ加熱する殺菌工程と、
を含む前記製造方法。
【請求項2】
前記カビ生成条件下で静置する工程が、2~30℃で30分間以上静置する工程である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記カビ生成条件下で静置する工程が、2~30℃で1時間以上静置する工程である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記容器内の表面熟成チーズの重量が60~120gである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記表面熟成チーズがカマンベールチーズである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記密閉工程は、ガス置換がされていない状態で行われる工程である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記容器内の表面熟成チーズの表面積(cm)に対する表面熟成チーズ以外の部分の体積(cm)の比が0.19~0.90(cm)である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2で製造された容器入り表面熟成チーズ。
【請求項9】
前記表面熟成チーズを容器に入れて密閉する工程と、
密閉された容器入り表面熟成チーズをカビ生成条件下で静置する工程と、
前記容器入り表面熟成チーズをレトルト釜に入れ加熱する殺菌工程と、
を含む容器内のトリメチルピラジンの生成を抑制する方法。
【請求項10】
前記表面熟成チーズを容器に入れて密閉する工程と、
密閉された容器入り表面熟成チーズをカビ生成条件下で静置する工程と、
前記容器入り表面熟成チーズをレトルト釜に入れ加熱する殺菌工程と、
を含む表面熟成チーズのステイル臭を抑制する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は容器入り表面熟成チーズの製造方法及び該製造方法により製造された表面熟成チーズに関する。特に、加熱殺菌型の容器入り表面熟成チーズの製造方法及び該製造方法により製造された加熱殺菌型の容器入り表面熟成チーズに関する。
【背景技術】
【0002】
加熱殺菌型の容器入り表面熟成チーズは、保存中に風味が劣化することが知られており、このため、一般に、ガス置換等で保存容器内の酸素濃度を低減することによりチーズの風味改善や保存安定性向上が提案されている(非特許文献1、2)、
容器内の酸素を低減する方法を採用し、表面熟成チーズの風味改善や保存安定性向上を目的とした製造方法として以下に示す文献が知られている。
特許文献1には、カマンベールチーズなどのカビによる表面熟成タイプのチーズの製造方法において、熟成後、ガスバリア性のある包装容器に入れ、炭酸ガスを充満させてから密閉し、温度6~8℃でさらに17日間熟成させることで新規な風味を有するカマンベールチーズを提供する方法が開示されている。
特許文献2には、チーズの包装において、透明包装体内に不活性ガスと脱酸素剤を併存させることにより残存酸素を脱酸素剤に急速に吸収させて無酸素状態にし、これによりチーズの酸化防止とカビの発生防止を同時にできる、チーズの品質保持方法について開示されている。
また、レトルト処理を行う加熱殺菌型の容器入りチーズの製造方法として以下に示す方法が知られている。
特許文献3には、容器入りチーズのレトルト殺菌方法として、チーズを容器に入れ樹脂フィルムで密閉し、レトルト釜に入れて殺菌する圧力を一定時間保持する工程と、レトルト釜を冷却しながら常圧まで減圧する工程を含む方法により、ラインアウト品が少なく製造安定性の向上を目的とする方法が開示されている。
特許文献4には、原料乳にEMC及び/又はLMB(乳脂部分分解物)を添加してチーズカードを形成し、熟成して得られたカマンベールチーズをレトルト処理することで、フラン類とピラジン類の相乗効果によりコク味を強化したカマンベールチーズの製造方法が開示されている。
特許文献1及び特許文献2の技術は、容器内のガスを置換するために専用の装置を導入する必要があり経済的ではなく、また工程が複雑化するという問題がある。また、これらの技術はレトルト殺菌処理との組み合わせについては検討されていない。
特許文献3及び特許文献4の技術は、容器入りチーズのレトルト殺菌処理については検討されているが、レトルト殺菌処理に伴う課題やレトルト殺菌処理前に容器内の酸素を低減する必要性については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-256685号公報
【特許文献2】特開平1-137937号公報
【特許文献3】特開2020-54240号公報
【特許文献4】特開2014-236674号公報
【0004】
【非特許文献1】現代チーズ学,株式会社食品資材研究会,3.7チーズの包装技術,p235-250(2010)
【非特許文献2】チーズを科学する,NPO法人 チーズプロフェッショナル協会,第9章チーズと包装技術の関わり,p187-211(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで容器入りチーズの製造方法は、特別な装置により容器内のガス置換を行って容器内の酸素濃度を低減する方法や、容器入りチーズのレトルト殺菌などの加熱殺菌方法については知られているものの、加熱殺菌型の容器入り表面熟成チーズの製造方法において、加熱殺菌に伴う課題についての開示はなく、また、酸素の低減処理とレトルト殺菌処理を組み合わせた製造方法については知られていなかった。さらにまた、容器内の酸素をどの程度低減すれば保存性が向上するのかについても明らかではなく、製造工程の効率化や品質の安定化を達成するためには、保存性を改善するような容器内酸素濃度の見極めが不可欠であった。
本発明は、加熱殺菌型の容器入り表面熟成チーズの製造方法において、特別な装置を必要することなく、容器中の酸素濃度を低減し、加熱殺菌後の保存中の表面熟成チーズの品質劣化を抑制するための製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、カビによる表面熟成チーズを容器に充填して密閉した後、レトルト殺菌する前に、表面熟成チーズをそのまま密閉された容器内で静置して、カビによる容器内の酸素消費作用を利用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成を有する。
<1>
容器入り表面熟成チーズの製造方法であって、
カビによる表面熟成チーズを容器に入れて密閉する工程と、
密閉された容器入り表面熟成チーズをカビ生成条件下で静置する工程と、
前記容器入り表面熟成チーズをレトルト釜に入れ加熱する殺菌工程と、
を含む前記製造方法。
<2>
前記カビ生成条件下で静置する工程が、2~30℃で30分間以上静置する工程である<1>に記載の製造方法。
<3>
前記カビ生成条件下で静置する工程が、2~30℃で1時間以上静置する工程である<1>に記載の製造方法。
<4>
前記容器内の表面熟成チーズの重量が60~120gである<1>又は<2>に記載の製造方法。
<5>
前記表面熟成チーズがカマンベールチーズである<1>又は<2>に記載の方法。
<6>
前記密閉工程は、ガス置換がされていない状態で行われる工程である<1>又は<2>に記載の製造方法。
<7>
前記容器内の表面熟成チーズの表面積(cm)に対する表面熟成チーズ以外の部分の体積(cm)の比が0.19~0.90(cm)である<1>又は<2>に記載の製造方法。
<8>
<1>又は<2>で製造された容器入り表面熟成チーズ。
<9>
前記表面熟成チーズを容器に入れて密閉する工程と、
密閉された容器入り表面熟成チーズをカビ生成条件下で静置する工程と、
前記容器入り表面熟成チーズをレトルト釜に入れ加熱する殺菌工程と、
を含む容器内のトリメチルピラジンの生成を抑制する方法。
<10>
前記表面熟成チーズを容器に入れて密閉する工程と、
密閉された容器入り表面熟成チーズをカビ生成条件下で静置する工程と、
前記容器入り表面熟成チーズをレトルト釜に入れ加熱する殺菌工程と、
を含む表面熟成チーズのステイル臭を抑制する方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、カビによる表面熟成チーズを容器に充填して密閉した後、容器ごとレトルト殺菌する前に、表面熟成チーズを密閉された容器内でそのまま静置することにより、容器内の酸素を低減できるため、特別なガス置換装置を必要とすることがなく、これまでのチーズの製造ラインを特段変更する必要がない。また、容器内の酸素を低減してからレトルト殺菌するため、殺菌後のチーズを保存する場合の品質劣化を長期間にわたって実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】保存期間におけるトリメチルピラジン(Trimethylprazine)の変化について、ガス置換処理の有無による差を表す図である。
図2】チーズの大きさの違いによる容器内中の酸素濃度の経時変化を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(容器入り表面熟成チーズの製造方法)
本発明の容器入り表面熟成チーズの製造方法は、表面熟成チーズを準備し、前記チーズを容器に入れ、容器の開口部を樹脂フィルムなどで密封する工程(単に容器密閉工程ということがある)と、前記密閉された容器入り表面熟成チーズをカビ生成条件下で静置する工程(単に静置工程ということがある)と、容器入り表面熟成チーズをレトルト釜に入れ加熱する殺菌工程(単にレトルト殺菌工程ということがある)と、を含むことを特徴とする。
【0010】
(表面熟成チーズ)
本発明における表面熟成チーズとは、カード表面にカビが生育して熟成が進行するようなチーズをいい、カマンベールやブリーなどの白カビチーズや青カビチーズが挙げられる。
本発明において表面熟成チーズは公知の方法により製造することができる。典型例として白カビチーズを例にその製造方法を説明する。
本発明の白カビチーズは、乳を原料とし、殺菌後、これにレンネットと乳酸菌スターターを添加して凝固させ、カードを生成させた後、カードとホエーを分離し、そして白カビの胞子を含有する懸濁液を噴霧し、カードを、熟成させることによって製造することができる。本発明の白カビチーズの製造に用いられる乳原料は、牛乳、山羊乳、羊乳等の乳であって、脂肪率1.0~4.0%に調整された乳が用いられる。この乳を常法に従って殺菌後、レンネットと乳酸菌スターターを添加する。
【0011】
上記のように乳にレンネットおよび乳酸菌スターターを添加して乳を凝固させてカードが生成すると、常法に従って、カードのカッテング、カードのモールド充填後ホエーの排出、塩漬による風味付け、白カビの胞子を含有する懸濁液の噴霧、カードの熟成という工程を経ることにより白カビチーズが出来る。熟成は、通常のナチュラルチーズを製造する時と同様に、温度10~20℃、湿度75~95%の雰囲気下で、チーズの種類によっても異なるが、15~50日間程度行う。熟成を開始して10日目位で、カビが成長し、飽和状態に達してマット(以下カビマットという)が形成される。本発明では、このカビマットが形成された以降、好ましくはカビマットが形成されて2~3日目以降において、5日間以上30日間以内熟成する。
カビの胞子を形成する菌体としては、ペニシリュウム カゼイコラム(P.caseicolum)、ペニシリュウム カマンバーティ(P.camemberti)、ペニシリュウム ロックフォルティ(P.roqueforti)、ムコール ラセモーサス(Mucor racemosus) 等を挙げることができる。
また、スターター乳酸菌としては、LDスターターや、高温性乳酸菌等を挙げることができ、これらの乳酸菌の一種以上が用いられる。
【0012】
前記表面熟成チーズの形状や大きさは特に制限はないが、形状としては円筒形が好まししい。容器に収容されるチーズの重量としては、60~120gが好ましい。また、円筒形のチーズは、直径でカットされた半円筒形状や、中心より放射状にカットされたポーションタイプの形状であってもよい。
【0013】
(容器密閉工程)
本発明の容器入り表面熟成チーズの製造方法は、上記のようにして準備された表面熟成チーズを開口部を有する容器に入れ、前記開口部を樹脂フィルムなどで密封する密閉工程を不含む。前記密閉工程は、容器内が窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガス等のガスで容器内の酸素が置換されていない状態で行われることが好ましい。本発明では、この後に続く静置工程によって容器内の酸素を除去あるいは低減することができるため、事前に容器内の酸素をガス置換で除く必要が無いからである。
表面熟成チーズを収納する容器としては、ガスバリア性を備え、密閉可能な容器で、レトルト釜で加熱殺菌可能であることが望ましく、任意の材質、任意の形状のものを使用することができる。材質としては具体的には、ポリ塩化ビニリデン、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリアクリルニトリル、ナイロン等の材質の一種以上で構成されているプラスチック容器、あるいは金属製、ガラス製の容器である。また、ポリプロピレンやポリエチレンのような材質で、完全なガスバリア性を有していなくても、一定の厚さがあって酸素消費により酸素濃度の低下をもたらすものであれば前記ガスバリア性の材料と同等に使用することができる。形状としては、具体的には、収容する表面熟成チーズの形状に合わせ、円筒形状、半円筒形状、箱型、袋状などの開口容器が挙げられる。容器内にチーズを収容した後に行う密閉処理は、例えばプラスチック製容器の場合は、フィルムなどの熱圧着や接着剤による密封(シール)処理が挙げられる。
【0014】
容器とチーズの好ましい形状の組み合わせは、チーズが円筒形状の場合、容器はチーズより一回り大きな円筒形状であり、チーズが半円筒形状の場合は、容器はチーズより一回り大きな半円筒形状であることが好ましい。また、円筒形状や半円筒形状のチーズは、全体として円筒形状、半円筒形状であればよく、中心から放射状に切り分けた個装のポーションタイプの集合であってもよい。また、収容されるチーズは、包装紙又は包装フィルムにより包装されていてもよい。
容器とチーズの好ましい大きさの関係は、カビに覆われたチーズ表面積(重量に依存する)及び容器内のチーズ以外の部分(ヘッドスペースともいう)の体積の比率が、効率よくカビによる酸素消費が行われる範囲であることが好ましい。カビに覆われたチーズ表面積当たりのヘッドスペース体積比率があまりに小さいと、前記静置時間を多く設定する必要があるからである。例えば、カマンベールチーズの重量が60~120gの円筒形の場合、チーズ表面積は104~158cmとなり、容器内のヘッドスペースは、30~93cmであることが好ましい。ここから算出される、チーズ表面積当たりのヘッドスペース体積比率の好ましい範囲は0.19~0.9(cm)である。チーズ表面積当たりのヘッドスペース体積比率がこのような範囲内であれば、容器内の酸素低下速度も所望以上(例えば7%/h以上)となるからである。
【0015】
(静置工程)
本発明の容器入り表面熟成チーズの製造方法は、上述の密閉された容器入り表面熟成チーズをカビ生成条件下で静置する工程を含む。
本発明のカビ生成条件下は、密閉された容器内で表面熟成チーズのカビが生成するような温度及び時間であればよく、2~30℃で30分間以上が好ましく、より好ましくは2~30℃で1時間以上静置する工程である。また、時間の上限としては、上記温度下で熟成が進行しないような時間であればよく、例えば、48時間以下であればよく、好ましくは24時間以内であり、よりいっそう好ましくは8時間以内である。
このような静置により容器内の酸素はカビにより消費され、酸素濃度は低減する。レトルト殺菌時の容器内酸素濃度は、望ましくは15%以下が好ましく、さらに好ましくは10%以下であり、もっとも好ましくは5%以下である。少ないほどレトルト殺菌工程によるトリメチルピラジンなどのステイル臭の原因となる香気成分の生成を抑制することができるからである。
【0016】
(レトルト殺菌工程)
本発明の容器入りチーズの製造方法は、容器入りチーズをレトルト釜に入れ加熱することにより殺菌する工程、いわゆるレトルト殺菌を行う工程を含む。レトルト殺菌は、容器入りチーズの中心温度が90℃以上、望ましくは90℃以上100℃未満に加熱することが好ましい。
【0017】
上記本発明の製造方法により製造されたチーズは、トリメチルピラジンの生成が抑制され、またステイル臭(古臭い香り)が軽減されることから、本発明は、上記の容器密閉工程、静置工程及びレトルト殺菌工程を含む容器内のトリメチルピラジンの生成を抑制する方法であり、また、同工程を含む表面熟成チーズのステイル臭を抑制する方法とも言える。
また、本発明の別の態様は、上記の製造方法により製造された容器入り表面熟成チーズである。当該チーズは、加熱殺菌後の長期間にわたり、ステイル臭が少なく優れた風味を保持した表面熟成チーズといえる。したがって、保存安定性の高い加熱殺菌型の表面熟成チーズである。
以下、本発明を実施例にもとづき詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。
【実施例0018】
[実施例1]ガス置換の実施が風味に与える影響評価
1.試験方法
(1)サンプルの作製
カマンベールを適正な条件で熟成した。レトルト殺菌直前にチーズをガスバリア性のプラスチック製カップ型容器に導入し、トップフィルムを用いてシール(密閉)した。この時、カップ内の空気を窒素・二酸化炭素混合ガスで置換したものを「ガス置換有り(+)」水準とし、置換しないものを「ガス置換無し(-)」水準とした。シール後、すぐに容器ごとレトルト殺菌装置にて殺菌した(チーズ中心温度90℃以上)。レトルト殺菌後、容器入りカマンベールチーズ(サンプル)を10℃で保存した。
【0019】
(2)官能評価
容器入りカマンベールチーズの保存開始0か月、1か月、2か月、3か月、5か月、6か月後に各容器のトップフィルムを開封し、パネラー6名でサンプルを食し、ステイル強さを6名の総評として5段階で採点した(レベル1:弱~レベル5:強)。また、ステイル臭が無いものを「ノーマル」とした。
【0020】
(3)香気成分分析
(3-1)サンプル調製
保存開始0か月、2か月、5か月後に各容器のトップフィルムを開封し、チーズの一部をサンプリングし、フードプロセッサーで破砕後、サンプル袋に入れた。サンプル袋は測定開始まで-80℃で保管した。解凍後、サンプル袋より取り出した破砕チーズ0.2gを10mLバイアルに秤量し、セプタム付きスクリューキャップで栓をした。この時、バイアルに、内部標準物質trans-2-methyl-2-butenal 200ppmを1μL添加した。測定直前まで2.0℃に冷却したサンプルトレイで冷却しておき、動的ヘッドスペース法で香気成分の捕集、GC/MS測定を行った。各水準3個体(ただし0か月のみ各水準2個体)、n=3で行った。
【0021】
(3-2)GC-MS
動的ヘッドスペース(DHS)捕集条件、GC/MSでの分析条件を以下に示す。
<DHS>
捕集剤 Carbopak B&X/ShincarbonX×2+Tenax TA
パージガス Ultra pure N2
サンプル温度 25℃→25℃→80℃
パージ量 350mL→600mL→3000mL
パージガス流量 100mL/min
<GC>
PTV注入口 プログラム 10℃(TenaxTA), -40℃(Carbopak B&X/ShincarbonX)→240℃ 720℃/min
加熱脱着プログラム 30℃→240℃(TenaxTA) 又は 300℃(Carbopak B&X/ShincarbonX) 720℃/min
カラム DB-WAX UI 30 m x 0.25um x 0.25 mm i.d.
キャリアガス Helium
流量 1.7 mL/min (Constant Flow mode)
注入口スプリット比 3:02
CFT スプリッタ圧力 18.4 kPa (Constant Pressure mode)
オーブンプログラム 40℃(2 min)→5℃/min→250℃ (5min)
<MS>
イオン源温度 150℃
インターフェース温度 250℃
測定モード Scan mode (m/z 35-m/z 350)
【0022】
(3-3)データ解析
事前の検討から、保存中の品質劣化への関与が推定された複数成分を対象とし、定量用解析ソフトAgilent MassHunter MS定量分析Quant-My-Wayより、標的成分ピークと内部標準ピーク面積比を算出した。得られたデータをJMP14に供し、各成分で水準毎に平均、標準偏差を算出した。この結果、ガス置換有りの水準が無しの水準と比べピーク面積比が多い傾向が表れた成分について、ガス置換の有無と保存期間を因子とする2元配置分散分析を行った。
【0023】
2.試験結果
(1)官能評価
ガス置換無し水準(表中-)はガス置換有り水準(表中+)に比べ、早期からステイル(古臭い匂い)が発現した(表1)。
【0024】
【表1】
【0025】
(2)香気成分分析
ステイルの報告例がある、トリメチルピラジン(Trimethylprazine)について定量、評価した。保存期間とガス置換処理の有無を因子とした2元配置分散分析を実施した結果、交互作用はなく、ガス置換の主効果が認められた(図1)。
【0026】
[試験例2]容器内酸素濃度がチーズのステイル臭の強さに与える影響の評価
1.試験方法
(1)サンプル作製
カマンベールチーズを温度14℃、湿度75%の乾燥室で1日間乾燥し、温度14℃、湿度95%の熟成室で13日間熟成させた。レトルト殺菌直前にカマンベールチーズをガスバリア性のプラスチック製カップ型容器に導入し、トップフィルムを用いてシールした。シール後、密閉された容器内でカマンベールチーズをそれぞれ10℃で0時間、0.5時間、1.0時間、1.5時間、3.0時間、24時間静置した後、容器ごとレトルト殺菌を実施した。レトルト殺菌後、容器入りカマンベールチーズ(サンプル)は10℃で保存した。
【0027】
(2)官能評価
容器入りカマンベールチーズの保存開始1か月後、2か月後、3か月後、6か月後に容器のトップフィルムを開封し、パネラー6名でサンプルを食し、ステイルの強さを5段階で評価し、6名の平均値を求めた。
【0028】
(3) 酸素濃度測定
カップ型容器内の酸素濃度はCheckmate3(MOCON Europe社)を用いて測定した。
【0029】
2.試験結果
プラスチック製容器をシール(密閉)後、容器内における静置時間を0.5~24時間設けた水準(#3~7)では保存開始から6か月間にわたり、コントロール(#1)と同程度にステイルの強さを抑制することができた。さらに、カップ型容器内の酸素濃度を10%以下にした水準(#4~7)では、よりいっそうステイルの強さを抑制することができた(表2)。
【0030】
【表2】
【0031】
[試験例3]チーズの重量が静置工程における容器内酸素消費に与える影響
1.試験方法
(1)サンプル作製
カマンベールチーズを適正な条件で熟成した。熟成後のカマンベールチーズの重量に関し、115g、105g、95g、85g、75g、65gの6水準を設けた。各水準のカマンベールチーズをそれぞれガスバリア性のプラスチック製カップ型容器に導入し、トップフィルムを用いてシールした。この際、トップフィルムの内側に非破壊酸素濃度測定装置Fibox3-trace V3 (PreSens社)の酸素測定用センサチップSP-PSt3-NAU-D5を添付した。シール後、各密閉された容器入りカマンベールチーズを10℃で静置し、経時的に容器内の酸素濃度を測定した。
【0032】
2.試験結果
チーズの重量が大きいほど、容器内のチーズ以外の部分の体積(ヘッドスペース)が小さく、酸素低下速度が速いことがわかった。
【0033】
【表3】
図1
図2