(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139495
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】加工家禽卵、家禽卵および家禽用飼料
(51)【国際特許分類】
A23K 50/75 20160101AFI20241002BHJP
A23L 15/00 20160101ALI20241002BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20241002BHJP
A23K 20/20 20160101ALI20241002BHJP
A21D 13/80 20170101ALN20241002BHJP
【FI】
A23K50/75
A23L15/00 Z
A23L5/00 K
A23K20/20
A21D13/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050453
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】甲田 捺都美
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
4B032
4B035
4B042
【Fターム(参考)】
2B005DA02
2B150AA05
2B150AB08
2B150AE03
2B150AE04
2B150AE05
2B150AE08
2B150BE01
2B150BE04
2B150CA02
2B150CA03
2B150CD06
2B150CD10
2B150CD30
2B150CE02
2B150CE04
2B150CE05
2B150CE07
2B150CE09
2B150CF07
2B150DA43
2B150DC15
2B150DE01
2B150DE04
2B150DE15
2B150DH01
2B150DH35
4B032DB06
4B032DG02
4B032DK01
4B032DK12
4B032DK42
4B032DK45
4B032DK47
4B032DP08
4B032DP14
4B032DP23
4B032DP40
4B035LC16
4B035LG01
4B035LG43
4B035LP37
4B042AC09
4B042AC10
4B042AG06
4B042AH09
4B042AK01
(57)【要約】
【課題】従来から、顧客のニーズに合わせて機能性を高めた食品の開発が行われており、卵に関する技術分野においても、特定の成分を含有させることで機能性を持たせた技術が求められている。本技術はこのような状況に鑑みてなされたものであり、卵の使用時の起泡に着目し、起泡性が向上した家禽卵および加工家禽卵を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明者らは鋭意研究した結果、加工家禽卵等の家禽卵にマンガンを特定量以上含有させることが有用であることを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵の可食部100g当たりマンガンを40μg以上含む家禽卵。
【請求項2】
100g当たりマンガンを40μg以上含む加工家禽卵。
【請求項3】
家禽卵の卵黄および/又は卵白を用いて製造した、請求項2に記載の加工家禽卵。
【請求項4】
飼料1kg当たりマンガンを250mg以上含む家禽用飼料。
【請求項5】
前記マンガンが有機マンガン化合物として含まれている、請求項4に記載の家禽用飼料。
【請求項6】
請求項4に記載の家禽用飼料を給与した家禽により生産された家禽卵。
【請求項7】
請求項1若しくは請求項6に記載の家禽卵、又は請求項2に記載の加工家禽卵が用いられた卵含有食品用組成物。
【請求項8】
請求項1若しくは請求項6に記載の家禽卵、又は請求項2に記載の加工家禽卵が用いられた卵含有食品。
【請求項9】
請求項1若しくは請求項6に記載の家禽卵、又は請求項2に記載の加工家禽卵を起泡させる工程を含む卵含有食品の製造方法。
【請求項10】
請求項1若しくは請求項6に記載の家禽卵、又は請求項2に記載の加工家禽卵を用いた起泡方法。
【請求項11】
請求項1若しくは請求項6に記載の家禽卵、又は請求項2に記載の加工家禽卵を用いた卵含有食品の食感改良方法。
【請求項12】
請求項4又は5に記載の家禽用飼料を家禽に給与することを含む、卵の可食部100g当たりマンガン40μg以上含む家禽卵を生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、加工家禽卵、家禽卵、家禽用飼料、卵含有食品用組成物、卵含有食品、卵含有食品の製造方法、起泡方法、食感改良方法および家禽の飼育方法に関する。より詳しくは、マンガンを特定量含有する加工家禽卵、家禽卵又は家禽用飼料、これらを用いて製造した卵含有食品用組成物又は卵含有食品又はその製造方法、起泡方法、食感改良方法および家禽の飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、顧客のニーズに合わせて機能性を高めた食品の開発が行われており、卵に関する技術分野においても、特定の成分を含有させることで機能性を持たせた技術が知られている。
【0003】
例えば、下記非特許文献1は、マンガンを含有する家禽用飼料を産卵鶏に給餌することで、卵殻が強化された卵を生産できる技術を開示する。但し、当該技術は卵の使用方法の改善に着目するものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Dietary manganese supplementation affects mammillary knobs of eggshell ultrastructure in laying hens. Poultry Science, Vol.97, Issue4, pp.1253-1262,2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本技術はこのような状況に鑑みてなされたものであり、卵の使用時の起泡に着目し、起泡性が向上した家禽卵および加工家禽卵を提供することを主目的とする。起泡性が向上することで、目的の比重まで起泡させる時間(起泡時間)の短縮や、得られる卵含有食品の外観、食感の改良等様々な改質を実現し得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究した結果、加工家禽卵等の家禽卵にマンガンを特定量以上含有させることが有用であることを見出した。
【0007】
すなわち、本技術では、卵の可食部100g当たりマンガンを40μg以上含む家禽卵を提供する。
本技術では、100g当たりマンガンを40μg以上含む加工家禽卵を提供する。本技術に係る加工家禽卵において、家禽卵の卵黄および/又は卵白を用いて製造してもよい。
本技術では、飼料1kg当たりマンガンを250mg以上含む家禽用飼料を提供する。本技術に係る家禽用飼料において、前記マンガンが有機マンガン化合物として含まれていてもよい。
本技術では、本技術に係る家禽用飼料を給与した家禽により生産された家禽卵を提供する。
本技術では、本技術に係る加工家禽卵、又は本技術に係る家禽卵が用いられた卵含有食品用組成物および卵含有食品を提供する。
【0008】
次に、本技術では、本技術に係る加工家禽卵、又は本技術に係る家禽卵を起泡させる工程を含む卵含有食品の製造方法を提供する。
本技術では、本技術に係る家禽卵、又は本技術に係る加工家禽卵を用いた起泡方法を提供する。
本技術では、本技術に係る家禽卵、又は本技術に係る加工家禽卵を用いた卵含有食品の食感改良方法を提供する。
本技術では、本技術に係る家禽用飼料を家禽に給与することを含む、卵の可食部100g当たりマンガン40μg以上含む家禽卵を生産する方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本技術の好ましい実施形態について説明する。但し、以下に示す実施形態は本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、本技術は以下の好ましい実施形態のみに限定されず、本技術の範囲内で自由に変更することができる。
【0010】
<家禽卵>
本技術に係る家禽卵は、卵の可食部100g当たりマンガンを40μg以上含む。本技術における家禽卵は、家禽の卵であり、割卵前のものをいう。本技術における卵の可食部は、家禽卵の卵殻を除いた残りの部分であり、卵殻とは家禽卵の最外側の強固な卵膜である。また、本技術におけるマンガンの量は、マンガン元素単体の量であり、マンガンを含む化合物の量ではない。本発明における家禽卵、加工家禽卵、家禽用飼料に含まれる金属元素量は、JIS G 1258に定めるICP発光分析法によって測定した値である。
【0011】
本技術に係る家禽は、鶏、ウズラ、七面鳥、アヒル、ガチョウ等、家畜として飼育される鳥類であり、好ましくは鶏である。
【0012】
本技術に係る家禽卵は、卵の可食部100g当たりマンガンを40μg以上含む。好ましくは42μg以上、より好ましくは50μg以上、60μg以上、65μg以上、68μg以上としてもよい。マンガンの含有量の上限は特に制限されないが、例えば、250μg以下、230μg以下、220μg以下、210μg以下、200μg以下等の範囲を適宜、選択し得る。マンガンの量をこの範囲にすることで、本技術に係る加工家禽卵の起泡性がより向上する。この結果、目的の比重まで起泡させる時間がより短縮されたり、得られる卵含有食品のボリュームがより向上したり、ふんわり感/しっとり感が向上したり、歯切れがより良好になり得る。
【0013】
本技術に係る家禽卵へのマンガンの導入方法は、特に制限されるものではなく、例えば、マンガンを含有する家禽用飼料を給与した家禽により生産する方法、注射等の手段によりマンガンを補給した家禽により生産する方法、注射等の手段により家禽卵に直接マンガンを導入する方法等、任意の方法を用いることができる。特別な設備、技術を必要としないため、マンガンを含有する家禽用飼料を給与した家禽により生産する方法が好ましい。
【0014】
<加工家禽卵>
本技術に係る加工家禽卵は、100g当たりマンガンを40μg以上含む。本技術における加工家禽卵は、家禽卵の一次加工品を指す。家禽卵の一次加工品としては、例えば、家禽卵を割卵して卵殻等を取り除いて得られる全卵、それを分画して得られる卵黄、卵白、また、これらを均一に混ぜた液卵(全卵液、卵黄液、卵白液)、前記液卵を殺菌処理した殺菌液卵、前記液卵を急速に凍結させた凍結卵、前記液卵から水分を除去し粉体状やフレーク状にした乾燥卵、前記液卵中の水分を減少させた濃縮卵等が挙げられる。
【0015】
本技術に係る加工家禽卵のマンガンの含有量は、前述の家禽卵における卵の可食部100g当たりの好適なマンガンの含有量と同様である。
【0016】
本技術に係る加工家禽卵へのマンガンの導入方法は、加工家禽卵へマンガンを導入できる方法であれば、特に制限されるものではなく、例えば、マンガンを含有する家禽用飼料を給与した家禽により生産された家禽卵を用いて製造する方法、注射等の手段によりマンガンを補給した家禽により生産された家禽卵を用いて製造する方法、注射等の手段により家禽卵に直接マンガンを導入した家禽卵を用いて製造する方法、割卵した家禽卵にマンガンを添加して製造する方法等、任意の方法を用いることができる。特別な設備、技術を必要としないため、マンガンを含有する家禽用飼料を給与した家禽により生産された家禽卵を用いて製造する方法、又は、割卵した家禽卵にマンガンを添加して製造する方法が好ましい。
【0017】
本技術に係る加工家禽卵は、使用する用途に応じて、家禽卵の卵黄と卵白両方を用いて製造してもよく、分離させた卵黄又は卵白を用いて製造してもよい。好ましくは、卵黄と卵白両方を含む加工家禽卵である。
【0018】
本技術の1つの態様として、100g当たり二価の金属元素を1.8×10-7mol以上添加された加工家禽卵とすることでも、起泡性が向上し得る。例えばマンガンであれば、100g当たり40μgの加工家禽卵となるように添加された加工家禽卵である。後述する比較例1-1を参照すると、通常の鶏卵には、100g当たり30μgのマンガンが含まれているため、100g当たり10μg以上のマンガンが添加されると、100g当たり40μgの加工家禽卵になる。すなわち、100g当たり二価の金属元素を1.8×10-7mol以上添加された加工家禽卵である。本技術における二価の金属元素の量は、前述のマンガンと同様に、二価の金属元素単体の量であり、二価の金属元素を含む化合物の量ではない。
【0019】
二価の金属元素の添加量は、例えば、2.2×10-7mol以上、3.65×10-7mol以上、5.45×10-7mol以上、6.35×10-7mol以上、6.9×10-7mol以上、1.0×10-6mol以上、2.0×10-6mol以上の範囲を適宜選択することができる。二価の金属元素の添加量の上限は特に制限されないが、例えば、4.0×10-6mol以下、3.65×10-6mol以下、3.45×10-6mol以下、3.3×10-6mol以下、3.1×10-6mol以下、3.1×10-6mol以下、3.1×10-6mol以下等の範囲で適宜選択してもよい。
【0020】
また、二価の金属元素の種類としては、マンガン(Mn)、銅(Cu)、又は鉄(Fe)等の遷移金属元素並びにマグネシウム(Mg)等のアルカリ土類金属等が挙げられる。好ましくは遷移金属元素であり、より好ましくはマンガンである。
【0021】
<家禽用飼料>
本技術に係る家禽用飼料は、飼料1kg当たりマンガンを250mg以上含む。好ましくは280mg以上、300mg以上、400mg以上、500mg以上、550mg以上、600mg以上の範囲で調整し得る。また、飼料1kg当たりのマンガンの含有量の上限は特に制限されないが、例えば、3000mg以下、2700mg以下、2500mg以下、2000mg以下、1500mg以下、1200mg以下の範囲で調整できる。本技術に係る家禽用飼料のマンガンの含有量をこの範囲にすることで、家禽に給与した場合に、給与された家禽により卵の可食部100g当たりマンガン40μg以上含む家禽卵を好適に生産することが期待できる。
【0022】
本技術に係る家禽用飼料において、マンガンを規定範囲に含有させる方法は、特に限定されず、例えば、ミネラルとして家禽用飼料に添加してもよいし、マンガンの含有量の多い飼料の原料を多く配合させることで調整しても良い。また、マンガンは、有機マンガン化合物として含んでいてもよく、無機マンガン化合物として含んでいてもよく、これらを組み合わせて含んでもよい。マンガンの家禽の体内への吸収性を向上させる観点からは、本技術の家禽用飼料は少なくとも有機マンガン化合物を含むことが好ましい。有機マンガン化合物としては、例えば、アミノ酸やペプチドなどの有機分子と結合しているもの(例えば、「バイオプレックスマンガン」(オルテック・ジャパン社製))を用いることができる。
【0023】
本技術に係る飼料には、本技術の効果を阻害しない限り、一般的に飼料に使用されている任意の原料を配合することができる。例えば、トウモロコシ、マイロ、大麦、小麦、ライ麦等の穀類;フスマ、ヌカ等の糟糠類;大豆粕、ナタネ粕などの植物性油粕類;魚粉、肉骨粉等の動物性飼料;オリゴ糖等の糖類;動物性油脂や植物性油脂等の油脂;ビタミンB1およびビタミンE等の各種ビタミン類;食塩、ケイ酸等のマンガンを含まないミネラル類;アミノ酸類;有機酸類等の原料を配合することができる。
【0024】
飼料の原料の混合には、公知の手段を用いればよく、例えば、一軸又は二軸ミキサー、ボールカッター、サイレントカッター等の裁断混合機、粉砕混合機等を用いることができる。各飼料の原料はすべて同時に混合してもよく、一部の原料をあらかじめ混合した後に残りの原料を混合する等、複数回に分けて混合してもよい。各飼料原料は、混合前に粉砕・解砕等の前処理を行ったりすることも可能である。
【0025】
本技術に係る飼料の形態は、特に制限されず、給餌する対象、飼育期間等に合わせて適宜選択することができる。例えば、マッシュ飼料、ペレット飼料、クランブル飼料、エキスパンダー飼料、フレーク飼料等の形態を好適に使用し得る。これらの形態の飼料を、単独、若しくはそれらを混合したものを使用してもよい。ここで、マッシュ飼料は、穀類原料を粉砕したものに粉状の原料や液体原料を混ぜ合わせたもの、ペレット飼料は、マッシュ飼料に水蒸気等により水分を加えて加熱調湿し加圧成形したもの、クランブル飼料は、ペレット飼料を荒砕きしたもの、エキスパンダー飼料は、水蒸気を加え高い圧力で押出造粒したもの、フレーク飼料は、穀類原料に水蒸気等により水分を加えて加熱調湿しロールでフレーク状にしたものである。
【0026】
<卵含有食品および卵含有食品用組成物>
本技術に係る卵含有食品および卵含有食品用組成物は、前述の本技術に係る家禽卵若しくは本技術に係る家禽用飼料を給与した家禽により生産された家禽卵、又は本技術に係る加工家禽卵を用いて好適に製造することができる。
【0027】
ここで「卵含有食品」は、一般的に家禽卵を原料とする各種食品であれば、とくに制限されるものではなく、例えば、ベーカリー製品、天ぷら、とんかつ等の揚げ物類、マヨネーズ等の調味料類、アイスクリーム類、プリン、茹で卵、温泉卵、卵焼き、目玉焼き、卵豆腐、茶碗蒸し、オムレツ、ハンバーグ、かに玉、卵スープ、親子丼、オムライス等が挙げられる。ベーカリー製品としては、スポンジケーキ、シフォンケーキ、バターケーキ、カステラ、パンケーキ、ホットケーキ、蒸しパン、マフィン、ケーキドーナツ、クッキー、ビスケット、クラッカー、マドレーヌ、フィナンシェ、シュー、パイ等の菓子類、パン、イーストドーナツ、ピザ、中華まんじゅう等のパン類、お好み焼、たこ焼、明石焼等の和風スナック類が挙げられる。
【0028】
本技術に係る卵含有食品は、本技術に係る家禽卵若しくは本技術に係る家禽用飼料を給与した家禽により生産された家禽卵、又は本技術に係る加工家禽卵を用いて製造されるため、起泡性が向上する。結果として、目的の比重まで起泡させる時間を短縮でき、また、得られる卵含有食品の外観、食感の改良が期待できる。このため、起泡して製造される卵含有食品に用いられることが好ましく、きめ細やかな気泡が求められ、また、ふんわりした食感が求められる、起泡して製造されるベーカリー製品に用いられることがより好ましく、スポンジケーキに用いられることがさらに好ましい。起泡して製造されるベーカリー製品としては、スポンジケーキ、シフォンケーキ、バターケーキ、カステラ、パンケーキ、ホットケーキ、蒸しパン、マフィン、ケーキドーナツ等が挙げられる。
【0029】
本技術に係る卵含有食品は、本技術に係る家禽卵若しくは本技術に係る家禽用飼料を給与した家禽により生産された家禽卵、又は本技術に係る加工家禽卵、又は後述する本技術に係る卵含有食品用組成物を製造原料の一部又は全部として製造することで得られる。例えば、本技術に係る上記の家禽卵等を原料としてそのまま調理してもよいし、他の製造原料と混合して用いてもよい。家禽卵の場合には、割卵して卵殻を取り除いた中身(卵黄および/又は卵白)を卵含有食品の他の製造原料と混合して用いてもよい。
【0030】
本技術に係る卵含有食品用組成物は、本技術に係る家禽卵若しくは本技術に係る家禽用飼料を給与した家禽により生産された家禽卵、又は本技術に係る加工家禽卵が用いられた、前述の卵含有食品を製造するために用いる組成物であり、製造対象や該製造対象の製造工程に合わせて粉体状、液体状、固体状等、任意の形態を選択することができる。なお、家禽卵の場合には割卵して卵殻を取り除いた中身(卵黄および/又は卵白)を用いて製造される。
【0031】
本技術に係る卵含有食品用組成物は、前述の卵含有食品を製造するために用いる組成物であれば、特に制限されるものではなく、例えば、本技術に係る家禽卵若しくは本技術に係る家禽用飼料を給与した家禽により生産された家禽卵、又は本技術に係る加工家禽卵が用いられた液卵(全卵液、卵黄液、卵白液)に、砂糖などの糖質を加えた加糖液卵や食塩を加えた加塩液卵、増粘剤やpH調整剤、色素、などを加えた液卵等が挙げられる。これらは、殺菌処理、凍結処理、粉体化処理などの処理が施されていてもよい。
【0032】
本技術に係る卵含有食品用組成物の形態は、特に制限されるものでは無いが、例えば、本技術に係る卵含有食品の製造原料の一部又は全部を混合した粉体状のいわゆるミックスや、ドウ状又はバッター状、液状の生地等の形態が挙げられる。
【0033】
本技術に係る卵含有食品用組成物は、卵含有食品の場合と同様に、起泡して製造される卵含有食品用組成物であることが好ましく、きめ細かな気泡が求められ、また、ふんわりした食感が求められる、起泡して製造されるベーカリー製品用組成物であることがより好ましく、スポンジケーキ用組成物であることがさらに好ましい。
【0034】
<使用方法>
本技術に係る卵含有食品の製造方法は、本技術に係る家禽卵若しくは本技術に係る家禽用飼料を給与した家禽により生産された家禽卵、又は本技術に係る加工家禽卵を用いること含む。好ましくは、これらの家禽卵又は加工家禽卵を起泡させる工程を含む。これにより、目的の比重まで起泡させる時間の短縮や、得られる卵含有食品の外観、食感の改良等様々な改質を実現し得る。
【0035】
家禽卵等を起泡させる方法としては、これらの家禽卵又は加工家禽卵をそのまま単独で起泡させてもよいし、卵含有食品の他の製造原料の一部又は全部と混合してから起泡させてもよい。例えば、家禽卵又は加工家禽卵をグラニュー糖などの糖質と混合し、起泡させることができる。
【0036】
また、スポンジケーキ等のケーキ類生地の製造方法には、卵黄と卵白を別々に泡立てて作る「別立て法」、全卵を泡立てて作る「共立て法」、およびすべての原料を同時に合わせて泡立てる「オールインミックス法」があるが、家禽卵又は加工家禽卵の全卵を用いてもよいし、卵黄を用いてもよいし、卵白を用いてもよい。好ましくは、家禽卵又は加工家禽卵の全卵を用いることである。
【0037】
また、本技術は、前述の本技術に係る家禽卵若しくは本技術に係る家禽用飼料を給与した家禽により生産された家禽卵、又は本技術に係る加工家禽卵を用いることを含む、起泡方法である。前述の本技術に係る家禽卵若しくは本技術に係る家禽用飼料を給与した家禽により生産された家禽卵、又は本技術に係る加工家禽卵は、起泡性が向上しているため、一般の家禽卵を用いて起泡を行う場合と比べ、起泡時間を短縮し得る。
【0038】
さらには、本技術は、前述の本技術に係る家禽卵若しくは本技術に係る家禽用飼料を給与した家禽により生産された家禽卵、又は本技術に係る加工家禽卵を用いることを含む、卵含有食品の食感改良方法である。一般の家禽卵を用いた卵含有食品と比べ、ふんわりした食感となる、又はしっとりとした食感となる等、卵含有食品の食感を改良することができる。
【0039】
<家禽の飼育方法>
本技術は、前述の本技術に係る家禽用飼料を家禽に給与することを含む、家禽の飼育方法である。本技術に係る家禽用飼料を家禽に給与した場合に、給与された家禽により卵の可食部100g当たりマンガン40μg以上含む家禽卵を生産することが期待できる。なお、本技術に係る家禽用飼料の家禽への給与方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を好適に使用することができる。また、本技術は、前述の本技術に係る家禽用飼料を家禽に給与することによる、卵の可食部100g当たりマンガン40μg以上含む家禽卵を生産する方法である。本技術において、飼育の全期間にわたって本技術に係る飼料のみを給餌することもできるが、産卵期間の一部期間又は全期間のみ本技術の飼料を給餌することが可能であり、他の飼料と併用してもよい。馴化期間を考えると、産卵期間の1週間以上にわたって本技術に係る飼料を給餌することが好ましく、産卵期間の2週間以上にわたって給餌することがより好ましい。
【実施例0040】
以下、具体的な実施例に基づいて、本技術について詳しく説明する。なお、本技術は、以下に示す実施例の内容に、何ら限定されるものではない。
【0041】
<スポンジケーキの製造>
下記表1に示す原料を用いて、2通りの方法でスポンジケーキを製造した。但し、原料として用いる全卵については、各評価試験の目的に応じて用いる卵を変更した。
(1)少量試作
(a)全卵とグラニュー糖を、ハンドミキサーの高速で6分間、低速で1分間ミキシングし、泡立てた(起泡工程)。
(b)バターと牛乳をあわせ、50℃以上になるように湯煎で加温した。
(c)(a)に小麦粉を加え、ヘラを用いて左右合計60回混合した。
(d)(c)の一部を別のボウルに移し、(b)を加え、ヘラを用いて左右合計20回混合した。
(e)(c)の残りを(d)に加え、左右合計15回混合し、生地を得た。
(f)得られた生地をマフィンカップに20g入れ、170℃で10分間焼成した。
【0042】
(2)起泡工程のミキシング時間を一定にした試験(時間一定)
(a)全卵とグラニュー糖を、ミキサーの高速で8分30秒間、中速で1分30秒間ミキシングし、泡立てた(起泡工程)。
(b)バターと牛乳をあわせ、50℃以上になるように電子レンジで加温した。
(c)ミキサーの低速で混合しながら(a)に小麦粉を加え、その後ミキサーの低速で3分間混合した。
(d)(c)の一部を(b)に加え、ホイッパーでよく混合した。
(e)(c)の残りをミキサーの低速で30秒間混合し、その後(d)を加え、さらにミキサーの低速で30秒間混合し、生地を得た。
(f)得られた生地を6号丸形に300g入れ、170℃で23分間焼成した。
【0043】
(3)起泡工程の生地比重を一定にした試験(比重一定)
(a)全卵とグラニュー糖を、ミキサーの高速で、生地比重が0.225g/mLとなるように泡立てた(起泡工程)。
(b)バターと牛乳をあわせ、50℃以上になるように電子レンジで加温した。
(c)ミキサーの低速で混合しながら(a)に小麦粉を加え、その後ミキサーの低速で2分15秒間混合した。
(d)(c)の一部を(b)を加え、ホイッパーでよく混合した。
(e)(c)の残りをミキサーの低速で15秒間混合し、その後(d)を加え、さらにミキサーの低速で生地比重が0.440g/mLとなるように混合し、生地を得た。
(f)得られた生地を6号丸形に300g入れ、170℃で23分間焼成した。
【0044】
【0045】
<加工家禽卵の評価>
下記表2の実施例1-1の濃度になるように、鶏卵の全卵に硫酸マンガン(MERCK社製)を添加し加工家禽卵を調製した。なお、比較例1-1は、マンガン等のミネラル分を添加していない鶏卵の全卵である。各加工家禽卵のマンガンの含有量は、JIS G 1258に定めるICP発光分析法によって測定した。また、鶏卵の全卵100gに、3.0×10-6molのマンガン(実施例1-2)、マグネシウム(参照例1-1)、銅(参照例1-2)、鉄(II)(参照例1-3)の硫酸塩(すべてMERCK社製)を添加し、加工家禽卵を調製した。各加工家禽卵は、「(1)少量試作」に記載した方法に従ってスポンジケーキを製造した。
【0046】
各加工家禽卵を用いて製造したスポンジケーキは、レーザー体積計(装置名:Selnac-MinVM2100/ASTEX社製)を用いて体積を測定した。結果を表2に示す。
【0047】
【0048】
100g当たりマンガン40μg以上含む加工家禽卵を用いた実施例1―1および1-2に係るスポンジケーキでは、比較例1-1のスポンジケーキに比べ、ボリュームが大きいことが確認できた。
【0049】
また、全卵100gに二価の金属元素を3.0×10-6mol添加した実施例1-2、参照例1-1、参照例1-2、参照例1-3に係るスポンジケーキでは、比較例1-1のスポンジケーキに比べ、高さがあり、ボリュームが大きいことが確認できた。
【0050】
<家禽用飼料を給与した家禽により生産された家禽卵の評価>
下記表3に示す配合に基づいて、家禽用飼料(実施例2-1、2-2、比較例2-1の計3試験区分)を調製し、下記の条件で家禽(採卵鶏)へ給餌した。なお、調製した各飼料のマンガンはバイオプレックスマンガン(オルテック・ジャパン社製)用い、含有量は、JIS G 1258に定めるICP発光分析法によって測定した。
【0051】
(給餌試験条件)
試験期間 : 43日間
家禽 : 採卵鶏(給与開始時において383日齢)
羽数 : 各試験区について20羽
給餌方法 : 120g/羽/日を給与して残餌を回収
【0052】
試験区毎に日卵量、飼料要求率を測定した。日卵量は、1日分の総卵重量を家禽の羽数で割った値とした。飼料要求率は、全期間の総飼料摂取量を全期間の総卵重量で割って算出した。また、得られた家禽卵のマンガン量を、JIS G 1258に定めるICP発光分析法によって測定した。
【0053】
さらに、得られた家禽卵を用いて、「(2)時間一定」、「(3)比重一定」に記載した方法に従ってスポンジケーキを製造した。「(2)時間一定」で製造したスポンジケーキでは、レーザー体積計(装置名:Selnac-MinVM2100/ASTEX社製)を用いて体積を測定した。また、「(3)比重一定」で製造したスポンジケーキでは、(a)工程で比重が0.225g/mLとなる時間を測定した。さらに、すべてのスポンジケーキは、歯切れ、ふんわり感/しっとり感について、以下の評価基準に基づいて、訓練を受けた5名の専門パネルの合議によって0.5刻みの9段階で評価した。結果を表3に示す。
【0054】
[歯切れ]
「歯切れ」は食品の噛み切りやすさを表し、「歯切れが良い」とは噛み切る際に抵抗が少ないことを意味する。
5 : 比較例2-1と比較して、非常に歯切れが良い
4 : 比較例2-1と比較して、歯切れが良い
3 : 比較例2-1と同等
2 : 比較例2-1と比較して、歯切れがやや悪い
1 : 比較例2-1と比較して、歯切れが悪い
【0055】
[ふんわり感/しっとり感]
「ふんわり感がある」とは口当たりが軽くやわらかく感じることを意味し、「しっとり感がある」とは食べ物が適度に潤っていて、口の中でやわらかく感じることを意味する。
5 : 比較例2-1と比較して、非常にふんわり感があり、且つ、非常にしっとりしている
4 : 比較例2-1と比較して、ふんわり感があり、しっとりしている
3 : 比較例2-1と同等
2 : 比較例2-1と比較して、ふんわり感がややない、又は、しっとり感がややない
1 : 比較例2-1と比較して、ふんわり感がない、又は、しっとり感がない
【0056】
【0057】
本技術に係る飼料1kg当たりマンガンを250mg以上含む家禽用飼料を家禽に給与することにより、卵の可食部100g当たりマンガン40μg以上含む家禽卵を生産できることが確認できた。また、飼料1kg当たりマンガンを80mg、645mg含む家禽用飼料を給与した場合の家禽卵のマンガン含有量は、卵の可食部100g当たりそれぞれ30μg、72μgであることから、非特許文献1に記載の飼料1kg当たりマンガン141mg含む飼料を給与した場合の家禽卵のマンガン含有量は、卵の可食部100g当たり35μg程度であることが推測され、本技術とは異なる。
【0058】
本技術に係る家禽用飼料を給与した家禽により生産された家禽卵を用いることで起泡時間が短縮されることが確認できた。さらに、得られる卵含有食品は、ボリュームが向上し、ふんわり感/しっとり感、歯切れがより良好になることが確認できた。
【0059】
なお、本技術では、以下の構成を取ることができる。
(1)卵の可食部100g当たり二価の金属元素40μg以上含む家禽卵。
(2)卵の可食部100g当たりマンガン40μg以上含む家禽卵。
(3)100g当たり二価の金属元素を1.8×10-7mol以上添加した加工家禽卵。
(4)100g当たりマンガン40μg以上含む加工家禽卵。
(5)100g当たりマグネシウムを1.8×10-7mol以上添加した加工家禽卵。
(6)100g当たり銅を1.8×10-7mol以上添加した加工家禽卵。
(7)100g当たり鉄を1.8×10-7mol以上添加した加工家禽卵。
(8)家禽卵の卵黄および/又は卵白を用いて製造した、(3)から(7)のいずれかに記載の加工家禽卵。
(9)飼料1kg当たりマンガンを250mg以上含む家禽用飼料。
(10)前記マンガンが有機マンガン化合物として含まれている、(9)に記載の家禽用飼料。
(11)(9)又は(10)に記載の家禽用飼料を給与した家禽により生産された家禽卵。
(12)(9)又は(10)に記載の家禽用飼料を給与した家禽を用いた起泡性を向上させた家禽卵の製造方法。
(13)ベーカリー製品用途である、(1)又は(2)若しくは(11)のいずれかに記載の家禽卵。
(14)(1)又は(2)若しくは(11)のいずれかに記載の家禽卵、又は(3)から(8)のいずれかに記載の加工家禽卵が用いられた卵含有食品用組成物。
(15)(1)又は(2)若しくは(11)のいずれかに記載の家禽卵、又は(3)から(8)のいずれかに記載の加工家禽卵が用いられた卵含有食品。
(16)(1)又は(2)若しくは(11)のいずれかに記載の家禽卵、又は(3)から(8)のいずれかに記載の加工家禽卵を起泡させる工程を含む卵含有食品の製造方法。
(17)(1)又は(2)若しくは(11)のいずれかに記載の家禽卵、又は(3)から(8)のいずれかに記載の加工家禽卵を用いた起泡方法。
(18)(1)又は(2)若しくは(11)のいずれかに記載の家禽卵、又は(3)から(8)のいずれかに記載の加工家禽卵を用いた起泡性を向上させる方法。
(19)(1)又は(2)若しくは(11)のいずれかに記載の家禽卵、又は(3)から(8)のいずれかに記載の加工家禽卵を用いた卵含有食品の食感改良方法。
(20)(9)又は(10)に記載の家禽用飼料を給与する家禽の飼育方法。