(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139573
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】赤外線センサモジュール
(51)【国際特許分類】
G01J 1/02 20060101AFI20241002BHJP
G01J 5/02 20220101ALI20241002BHJP
G01J 1/06 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
G01J1/02 B
G01J5/02 J
G01J1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050573
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】松岡 豪
(72)【発明者】
【氏名】徳尾 聖一
【テーマコード(参考)】
2G065
2G066
【Fターム(参考)】
2G065BA02
2G065BA36
2G065BB46
2G065BC01
2G065BC35
2G065BE08
2G066BA11
2G066BA55
2G066BC00
(57)【要約】
【課題】小型で高精度な赤外線検出が可能な赤外線センサモジュールが提供される。
【解決手段】赤外線センサモジュール(10)は、赤外線領域の光を検出する量子型赤外線センサ(11)と、量子型赤外線センサに電気的に接続される信号処理部(21)と、信号処理部と接触して配置される熱伝導部(15)と、量子型赤外線センサと、信号処理部と、熱伝導部と、を樹脂で一体的に封止する封止部(14)と、を備え、量子型赤外線センサの受光面(13)及び熱伝導部の一部は、封止部から露出し、熱伝導部は、樹脂より熱伝導率の高い材料で構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線領域の光を検出する量子型赤外線センサと、
前記量子型赤外線センサに電気的に接続される信号処理部と、
前記信号処理部と接触して配置される熱伝導部と、
前記量子型赤外線センサと、前記信号処理部と、前記熱伝導部と、を樹脂で一体的に封止する封止部と、を備え、
前記量子型赤外線センサの受光面及び前記熱伝導部の一部は、前記封止部から露出し、
前記熱伝導部は、前記樹脂より熱伝導率の高い材料で構成される、赤外線センサモジュール。
【請求項2】
前記封止部から露出した前記熱伝導部の一部に接触して配置される光学部材を備える、請求項1に記載の赤外線センサモジュール。
【請求項3】
前記光学部材は、前記受光面の視野を制限する視野制限部である、請求項2に記載の赤外線センサモジュール。
【請求項4】
前記信号処理部と前記熱伝導部は、熱膨張係数が、2×10-6/K~10×10-6/Kである、請求項1から3のいずれか一項に記載の赤外線センサモジュール。
【請求項5】
前記量子型赤外線センサ及び前記熱伝導部は、前記信号処理部の主面の上に配置される、請求項1から3のいずれか一項に記載の赤外線センサモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は赤外線センサモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、赤外線センサは、物体の表面温度の非接触での検知、物体の存在検知、大気中のガス濃度の測定など各種の用途に使われている。例えば非接触で表面温度を正確に検知するためには、被測定物以外の対象物から放射される赤外線を受光しないように、赤外線センサの視野角を制限することが重要である。例えば特許文献1は、封止用樹脂に、赤外線の進入位置から受光面に向けて幅広になる逆テーパ状に形成された視野制限部を有する赤外線センサを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、赤外線センサによる赤外線の検出では、外部からの熱隔離が重要であるとともに、輻射の影響を低減するために、共に用いられる光学部材(例えば視野制限部など)との熱結合が重要である。また、赤外線センサは、検出信号を処理して測定値(例えば物体の表面温度、ガス濃度など)を算出する信号処理部と一体化された赤外線センサモジュールとして提供されることがある。特許文献1は、信号処理部と一体化された場合の赤外線センサの構成について開示するものでない。
【0005】
赤外線センサモジュールにおいても、赤外線センサと共に用いられる光学部材などとの熱結合が重要である。従来、例えば
図3に示すように、平面視で視野制限部を囲むように金属層を基板に設けて、赤外線センサと光学部材との間の熱伝導を高める構成が用いられている。しかし、従来構成では、サイズの大きい信号処理部の外側で光学部材(
図3において視野制限部)と金属層とを接触させる必要があり、赤外線センサモジュールの小型化が難しかった。
【0006】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、小型で高精度な赤外線検出が可能な赤外線センサモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本開示の一実施形態に係る赤外線センサモジュールは、
赤外線領域の光を検出する量子型赤外線センサと、
前記量子型赤外線センサに電気的に接続される信号処理部と、
前記信号処理部と接触して配置される熱伝導部と、
前記量子型赤外線センサと、前記信号処理部と、前記熱伝導部と、を樹脂で一体的に封止する封止部と、を備え、
前記量子型赤外線センサの受光面及び前記熱伝導部の一部は、前記封止部から露出し、
前記熱伝導部は、前記樹脂より熱伝導率の高い材料で構成される。
【0008】
(2)本開示の一実施形態として、(1)において、
前記封止部から露出した前記熱伝導部の一部に接触して配置される光学部材を備える。
【0009】
(3)本開示の一実施形態として、(2)において、
前記光学部材は、前記受光面の視野を制限する視野制限部である。
【0010】
(4)本開示の一実施形態として、(1)から(3)のいずれかにおいて、
前記信号処理部と前記熱伝導部は、熱膨張係数が、2×10-6/K~10×10-6/Kである。
【0011】
(5)本開示の一実施形態として、(1)から(4)のいずれかにおいて、
前記量子型赤外線センサ及び前記熱伝導部は、前記信号処理部の主面の上に配置される。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、小型で高精度な赤外線検出が可能な赤外線センサモジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る赤外線センサモジュールの構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、視野制限部を備える赤外線センサモジュールの構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、赤外線センサモジュールの従来構成を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係る赤外線センサモジュールが説明される。各図中、同一又は相当する部分には、同一符号が付されている。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0015】
(赤外線センサモジュール)
図1は、本実施形態に係る赤外線センサモジュール10の構成を示す。赤外線センサモジュール10は、量子型赤外線センサ11と、信号処理部21と、熱伝導部15と、封止部14と、を備える。
図1は、これらの構成要素を含む赤外線センサモジュール10の断面を示す断面図である。構成要素の詳細については後述する。本実施形態において、赤外線センサモジュール10は基板12をさらに備える。基板12は、例えば信号処理部21の入出力をパッケージの入出力に接続する再配線基板であってよい。基板12は、例えばSi又はGaAs等で形成されてよい。
【0016】
本実施形態において、赤外線センサモジュール10は非接触で測定対象の温度を測定する非接触温度測定装置の部品として用いられる。赤外線センサモジュール10は、測定対象から入射する赤外線のエネルギー量(赤外線量)を量子型赤外線センサ11で検出し、信号処理部21が検出した赤外線量に基づいて測定対象の温度を算出する。ここで、赤外線センサモジュール10は特定の用途での使用に限定されない。別の例として赤外線センサモジュール10は、二酸化炭素などのガス濃度を測定するNDIR(Non-Dispersive InfraRed)方式のガスセンサの部品として用いられてよい。NDIR方式のガスセンサは、ガスの種類によって吸収される赤外線の波長が異なることを利用し、吸収された赤外線量を検出することにより被検出ガスの濃度を測定する。また、赤外線センサモジュール10は、例えば水分計測器、炎検知器などに使用されてよい。
【0017】
(量子型赤外線センサ)
量子型赤外線センサ11は、半導体に赤外線が照射されるとその光量子によって発生する電子又は正孔を利用して、赤外線領域の光(赤外線)を検出するセンサである。量子型赤外線センサ11は、熱型赤外線センサに比べて、高感度で応答速度が速い。量子型赤外線センサ11は、受光した赤外線量に応じた信号を出力する。出力する信号は例えば電流値であってよい。量子型赤外線センサ11の受光波長は2μm~12μmであってよい。さらなる小型化を可能にするため、例えばInSb、InGaAs、InAs、AlInSb又はInAsSbなどの材料を含む量子型赤外線センサ11が用いられてよいが、量子型赤外線センサ11の材料は特定のものに限定されない。ただし、量子型赤外線センサ11は、材料としてインジウム及びガリウムの少なくとも1つ並びにヒ素及びアンチモンの少なくとも1つを含み、少なくともP型半導体とN型半導体の2種類の層からなるダイオード構造を有することが好ましい。
【0018】
(信号処理部)
信号処理部21は、量子型赤外線センサ11が検出した赤外線量に応じた信号を取得して、測定対象の温度を算出する。また、信号処理部21は量子型赤外線センサ11の検出のタイミングなどを制御してよい。信号処理部21は、読み込むプログラムに応じた機能を実行する汎用のプロセッサ及び特定の処理に特化した専用のプロセッサの少なくとも1つを含んでよい。専用のプロセッサは、特定用途向けIC(ASIC:Application Specific Integrated Circuit)を含んでよい。
【0019】
本実施形態において、信号処理部21はASICで構成され、量子型赤外線センサ11に比べてサイズが大きい。また、信号処理部21は、量子型赤外線センサ11と電気的に接続されている。つまり、信号処理部21は量子型赤外線センサ11と金属の配線で接続されている。接続の手法は特定のものに限定されず、例えばリードフレームが用いられてよい。信号処理部21と量子型赤外線センサ11との間では熱伝導率が高い。
【0020】
(封止部)
封止部14は、樹脂材料で構成されており、量子型赤外線センサ11と、信号処理部21と、熱伝導部15と、を樹脂で一体的に封止する。封止部14は、例えばエポキシ樹脂等の樹脂材料で形成されてよい。封止部14を構成する材料は、エポキシ樹脂等の樹脂材料の他にフィラー、不可避的に混在する不純物などを含んでいてよい。フィラーとしては、例えばシリカ等が好適に用いられる。封止部14の樹脂は熱伝導率が0.3から4W/m・K程度と低く、量子型赤外線センサ11を、赤外線センサモジュール10の外部の空間などから熱隔離することができる。
図1に示される量子型赤外線センサ11の構成例では、基板12も熱伝導率の低い材料を用いることによって、量子型赤外線センサ11を外部から熱隔離する効果をさらに高めることができる。ここで、量子型赤外線センサ11の受光面13及び熱伝導部15の一部は、封止部14から露出している。
図1の例では、封止部14の上面から受光面13及び熱伝導部15の一部が露出している。
【0021】
(熱伝導部)
熱伝導部15は、樹脂より熱伝導率の高い材料で構成される。熱伝導部15は、例えば熱伝導率が200W/m・K程度と高いアルミに代表される金属で構成されてよいし、金属めっきが施された樹脂、あるいは熱伝導率が150W/m・K程度のSiに代表される半導体材料で構成されてもよい。また、熱伝導部15が、例えばメモリチップなどの信号処理部21と異なる集積回路であってよい。さらには量子型赤外線センサ11を熱伝導部15と共用、すなわち量子型赤外線センサ11が熱伝導部15として機能してもよい。また、熱伝導部15は信号処理部21と接触して配置される。そのため、
図1に矢印で示すように、熱伝導率が高い経路が形成される。ここで、熱伝導部15と信号処理部21とが接触するとは、直接的な接触だけでなく、熱を伝える部材を間に挟んで配置されることによって熱伝導が阻害されない状態を含む。つまり、接触には、例えば熱伝導部15と信号処理部21との物理的な(直接的な)接触だけでなく、例えば接着剤又はグリスなどを介しての接触なども含まれる。また、接合部の安定性確保のために、熱伝導部15と信号処理部21との熱膨張係数が近いことが望ましく、この観点から両者の材料は同じ、例えばSi(熱膨張係数(以降標記省略)4×10
-6/K)同士、あるいはGaAs(5.4×10
-6/K)どうしで構成されることが好適である。もしくは、Si又はGaAsと熱膨張係数の近い材料、例えば、Si、GaAs、アルミナ(8×10
-6/K)、炭化ケイ素(4.8×10
-6/K)などが望ましい。例えば信号処理部21と熱伝導部15は、熱膨張係数が、2×10
-6/K~10×10
-6/Kである。
【0022】
ここで、赤外線センサモジュール10は、用途に応じた光学部材23をさらに備える構成であってよい。本実施形態では、被測定物以外の対象物から放射される赤外線を受光しないように、光学部材23として視野制限部が用いられる。視野制限部は、受光面13の視野、特に視野角を制限する。
図2は、視野制限部を備える赤外線センサモジュール10の構成例を示す。視野制限部は、赤外線を透過させない材料(例えば樹脂又は金属)で構成され、受光面13の部分にテーパ状に形成された開口部22を有する。また、例えば赤外線センサモジュール10がNDIR方式のガスセンサの部品として用いられる場合に、光学部材23はミラー又はレンズ又は光学フィルタなどであり得る。上記のように、量子型赤外線センサ11が高精度に赤外線を検出するために、光学部材23との熱結合が重要である。本実施形態に係る赤外線センサモジュール10の構成では、熱伝導部15及び信号処理部21を介する熱伝導率が高い経路が形成されている。そのため、光学部材23を、封止部14から露出した熱伝導部15の一部に接触させて配置することによって、量子型赤外線センサ11と光学部材23とを熱結合させることができる。ここで、光学部材23と熱伝導部15とが接触するとは、直接的な接触だけでなく、熱を伝える部材を間に挟んで配置されることによって熱伝導が阻害されない状態を含む。つまり、接触には、例えば光学部材23と熱伝導部15との物理的な(直接的な)接触だけでなく、例えば接着剤又はグリスなどを介しての接触なども含まれる。また、光学部材23と熱伝導部15とが接触するとは、熱伝導部15の露出部分に熱伝導が阻害されない保護層が形成されており、保護層を介して接続されることが含まれる。
【0023】
例えば赤外線センサモジュール10が熱伝導部15を備えない場合には、
図2で熱伝導部15が示されている領域にも封止部14の樹脂が配置されることになる。この場合に、熱伝導率が高い経路が形成されず、封止部14と光学部材23との接触面で輻射が生じる。輻射の影響によって、量子型赤外線センサ11は被測定物以外の対象物から放射される赤外線を受光するため、測定精度が低下する。本実施形態に係る赤外線センサモジュール10は、このような輻射の影響がないため、高精度な赤外線検出が可能である。
【0024】
また、本実施形態に係る赤外線センサモジュール10では、封止部14に積み重ねるように光学部材23を配置することが可能である。したがって、
図3の従来構成のように信号処理部21の外側で光学部材23と金属層とを接触させる必要がない。よって、本実施形態に係る赤外線センサモジュール10は小型化が可能である。特に
図2に示すように、量子型赤外線センサ11及び熱伝導部15が信号処理部21の主面24の上に配置される構成によって、幅方向(左右方向)のサイズも小さくすることが可能になり、小型化の効果を高めることができる。ここで、主面24は信号処理部21の面のうちで面積が最も大きい面であって、基板12から遠い方の面である。
【0025】
以上のように、本実施形態に係る赤外線センサモジュール10は、上記の構成によって、小型で高精度な赤外線検出が可能である。
【0026】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。
【符号の説明】
【0027】
10 赤外線センサモジュール
11 量子型赤外線センサ
12 基板
13 受光面
14 封止部
15 熱伝導部
21 信号処理部
22 開口部
23 光学部材
24 主面