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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139726
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】新規飼料添加用乳酸菌
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20241002BHJP
   A23K 30/18 20160101ALI20241002BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23K30/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024041158
(22)【出願日】2024-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2023049196
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】591079487
【氏名又は名称】広島県
(71)【出願人】
【識別番号】391009877
【氏名又は名称】雪印種苗株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠野 雅徳
(72)【発明者】
【氏名】小林 寿美
(72)【発明者】
【氏名】山根 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】福馬 敬紘
(72)【発明者】
【氏名】西川 明宏
(72)【発明者】
【氏名】河野 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】谷口 大樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】本間 満
(72)【発明者】
【氏名】北村 亨
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 菜月
【テーマコード(参考)】
2B150
4B065
【Fターム(参考)】
2B150AA02
2B150AC06
2B150EA03
2B150EA05
2B150EB04
2B150EB05
4B065AA01X
4B065BC02
4B065BC03
4B065CA43
(57)【要約】
【課題】ラクトバチルス・ブクネリIWT192株(NITE P-01268)よりも、更なる低温増殖性能、低温発酵性に優れ、発酵安定化に必要なpHの低下を迅速に進めることができる、新規飼料添加用乳酸菌を提供すること。
【解決手段】低温増殖性能を有する乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタス。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温増殖性能を有する乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタス。
【請求項2】
酸性領域における増殖性能を有する、請求項1に記載の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタス。
【請求項3】
酵母に対する生育阻害性能を有する、請求項1に記載の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタス。
【請求項4】
ペディオコッカス・イノピナタスIWT669株(NITE P-03828)、ペディオコッカス・イノピナタスIWT685株(NITE P-03829)、ペディオコッカス・イノピナタスIWT687株(NITE P-03830)からなる群より少なくとも1つ選択される、請求項1に記載の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタス。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスを含有する飼料。
【請求項6】
請求項1~4の何れか1項に記載の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスを含有する発酵飼料。
【請求項7】
請求項1~4の何れか1項に記載の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスを含有する飼料調製用添加剤。
【請求項8】
請求項1~4の何れか1項に記載の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスを含有する発酵飼料調製用添加剤。
【請求項9】
請求項1に記載の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスと発酵飼料材料を用いることを特徴とする発酵飼料の調製方法。
【請求項10】
前記発酵飼料材料が飼料用イネである、請求項9に記載の発酵飼料の調製方法。
【請求項11】
ペディオコッカス・イノピナタスIWT669株(NITE P-03828)、ペディオコッカス・イノピナタスIWT685株(NITE P-03829)、ペディオコッカス・イノピナタスIWT687株(NITE P-03830)からなる群より少なくとも1つ選択される、乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温増殖性能や酸性領域における増殖性能や酵母に対する生育阻害性能を有する乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタス、新規乳酸菌株、それを含有する飼料、サイレージ、飼料調製用添加剤または発酵飼料調製用添加剤、および当該添加剤を用いる発酵飼料の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の畜産は輸入飼料への依存度が高いため、近年の不安定な世界情勢によって大きな影響を受けており、畜産物を安定供給するためには、飼料自給率のさらなる向上が大きな課題となっている。そこで国産のイネや飼料用米を用いた発酵飼料の研究開発がすすめられ、畜産の現場でも利用されている。
また、国産発酵飼料や地域食品製造副産物等を活用した完全混合飼料(Total Mixed Ration、以下「TMR」という。)の利用促進が図られており、寒冷地や寒冷期においても高品質な発酵飼料を、安定して貯蔵できる技術が求められている。さらに、これらの安定貯蔵技術は、国外の飼料生産現場でも要望されている。
【0003】
サイレージは、嫌気条件下で乳酸菌の力を巧妙に利用して調製される家畜の貯蔵飼料である。乳酸菌はその発酵品質のみならず、栄養価値や反芻家畜の生理代謝に影響を及ぼす決め手となるが、サイレージ材料の草に共生する酪酸菌、好気性細菌、カビおよび酵母などの微生物は、乳酸菌の発酵を競合的に阻害し、サイレージの品質の劣化や栄養損失を招く原因となる。例えば、特許文献1には、乳酸生成能が高く、好気性細菌及び酪酸菌等の増殖を抑制することができるサイレージ調製用乳酸菌が開示されている。
寒冷期や寒冷・高標地域において調製されたサイレージおよび発酵TMRは、乳酸発酵が緩慢で低乳酸高pH型となる場合が多く、貯蔵中に酪酸菌、大腸菌群およびカビ等の有害微生物が増殖し、栄養成分の低下、カビ毒などの有害物質による家畜の生産性低下、および衛生管理面などから解決すべき重要な課題となっている。
牧草を円柱状に成形しラップして調製するロールベールサイレージは、その開封後、フレッシュTMRや発酵TMRとして二次利用する場合や、小規模畜産農家において、給与までに一定期間好気条件下で管理せざるを得ない場合も多いことから、開封後の二次発酵による変敗防止の技術への要望が高い。特に、近年開発された高糖分含量飼料用イネ「たちすずか」・「つきすずか」・「つきことか」については、晩生や極晩生のため寒冷地などでは収穫適期には低温環境であることから、乳酸発酵が緩慢となる場合が知られており、カビ発生や二次発酵の原因微生物の1つと考えられる酵母の増殖が顕著となる問題が生じている。
【0004】
本発明者らは、これらの課題に対して、飼料添加用乳酸菌として活用できる乳酸菌を見出し、ラクトバチルス・ブクネリ(Lactobacillus buchneri、属変更に伴い現在は、レンチラクトバチルス・ブクネリ:Lentilactobacillus buchneri)IWT192株(NITE P-01268)として報告している(特許文献2)。
この乳酸菌は、低温増殖性能、低温発酵性に優れ、乳酸と酢酸を多く産生するという特徴があり、酢酸を産生することによって飼料の変敗の原因となる酵母レベルを抑制することができる。しかし、一方で酢酸は弱酸であるため、発酵を安定化させるのに必要なpHの低下が思うように進まない傾向があった。
また低温発酵性に優れるとはいえ、冬場などの寒冷期における発酵遅延の発生があるほか、夏場における高水分の材料を原料とするサイレージ調製に、発酵不良が生じる事例も確認されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-196860号公報
【特許文献2】特許第6762535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、本発明者が先に報告した上記のラクトバチルス・ブクネリIWT192株(NITE P-01268)よりも、更なる低温増殖性能、低温発酵性に優れ、発酵安定化に必要なpHの低下を迅速に進めることができる、新規飼料添加用乳酸菌の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、飼料調製用優良乳酸菌のスクリーニングの中から、低温増殖性能、低温発酵性、酸性領域における増殖性能や酵母に対する生育阻害性能に優れた乳酸菌株を見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0008】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.低温増殖性能を有する乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタス。
2.酸性領域における増殖性能を有する、1.に記載の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタス。
3.酵母に対する生育阻害性能を有する、1.に記載の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタス。
4.ペディオコッカス・イノピナタスIWT669株(NITE P-03828)、ペディオコッカス・イノピナタスIWT685株(NITE P-03829)、ペディオコッカス・イノピナタスIWT687株(NITE P-03830)からなる群より少なくとも1つ選択される、1.に記載の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタス。
5.1.~4.の何れか1項に記載の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスを含有する飼料。
6.1.~4.の何れか1項に記載の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスを含有する発酵飼料。
7.1.~4.の何れか1項に記載の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスを含有する飼料調製用添加剤。
8.1.~4.の何れか1項に記載の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスを含有する発酵飼料調製用添加剤。
9.1.に記載の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスと発酵飼料材料を用いることを特徴とする発酵飼料の調製方法。
10.前記発酵飼料材料が飼料用イネである、9.に記載の発酵飼料の調製方法。
11.ペディオコッカス・イノピナタスIWT669株(NITE P-03828)、ペディオコッカス・イノピナタスIWT685株(NITE P-03829)、ペディオコッカス・イノピナタスIWT687株(NITE P-03830)からなる群より少なくとも1つ選択される、乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタス。
【発明の効果】
【0009】
本発明の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスは、4℃環境下において分離・選抜された特徴ある菌株であり、低温増殖性能に優れる。これにより、低温環境下においても乳酸や酢酸等の有機酸産生増加による発酵促進効果が得られ、良質な畜産飼料を生産することが可能となる。
また、本発明の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスは、酸性領域における増殖性能を有するため、乳酸や酢酸などの有機酸蓄積に伴う飼料の酸性化を経ても増殖が抑制され難いことから、良質なサイレージの指標であるpH4.2以下に飼料のpHを速やかに低下させ、飼料の安定貯蔵を可能とする。
さらに、本発明の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスは、飼料栄養価の品質保持能力が高いので、牛等の家畜の摂取量が安定化し健康を維持することができる。さらに、サイレージ等の発酵飼料を開封し好気下においた時の二次発酵や、飼料として供給後に生じるTMRの二次発酵等、飼料の二次発酵やカビの発生も抑制できるので、家畜の飼養ならびに衛生管理に大きく寄与するという新たな効果も得られるため有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例2における基準株JCM12518、乳酸菌IWT192株、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株の1℃における低温増殖性能を示す図である。
図2】実施例2における基準株JCM12518、乳酸菌IWT192株、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株の4℃における低温増殖性能を示す図である。
図3】実施例2における基準株JCM12518、乳酸菌IWT192株、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株の10℃における低温増殖性能を示す図である。
図4】実施例4における基準株JCM12518と新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株のpH5.0での増殖性能を示す図である。
図5】実施例4における基準株JCM12518と新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株のpH4.5での増殖性能を示す図である。
図6】実施例4における基準株JCM12518と新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株のpH4.0での増殖性能を示す図である。
図7】実施例4における基準株JCM12518と新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株のpH3.9での増殖性能を示す図である。
図8】実施例6における20℃の温度条件下で28日間貯蔵し、開封した後の発酵TMR品温の変化を示す図である。
図9】実施例6における5℃の温度条件下で28日間貯蔵し、開封した後の発酵TMR品温の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、優れた低温増殖性能、酸性領域における増殖性能を有し、さらに、酵母に対する生育阻害性能をも有する、良質な発酵飼料の製造に適した性質を有する乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスに関するものであり、特に、新規のペディオコッカス・イノピナタスの菌株に関するものである。
また本発明は、前記菌株を含有してなる飼料調製用添加剤、前記菌株を添加することを特徴とするサイレージ等の発酵飼料やその製造方法に関する。
以下、本発明について詳細に説明する。
(新規な乳酸菌の菌株)
本発明における新規乳酸菌の菌株は、優れた低温増殖性能、酸性領域における増殖性能を有し、さらに、酵母に対する生育阻害性能をも有するものである。
本発明の新規乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスのうち、IWT669株、IWT685株、IWT687株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、令和 5年 4月21日付にて受託されており、その受託番号は、それぞれNITE P-03828、NITE P-03829、NITE P-03830である。
【0012】
本発明の新規乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスの菌学的性質として、「良質な発酵飼料の製造に適した性質」を挙げることができ、具体的には、優れた低温増殖性能を挙げることができる。
ここで、優れた低温増殖性能は、酸産生能と生残性であり、乳酸等の有機酸を多く含む良質な発酵飼料を、低温環境下で製造する上で必須な性質である。なお、本発明における低温とは、0℃以上10℃以下を意味する。本発明における低温としては、0℃以上5℃(±1℃)以下の温度範囲がさらに好適である。また、本発明における優れた酸産生能とは、効率の良い乳酸発酵能力、代謝性の高いL型乳酸生成能を有することを意味する。
さらに、新規乳酸菌株である乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株は、発酵飼料の発酵過程における好気性細菌、大腸菌群、酵母及びカビなどの有害微生物の増殖を抑制する効果を発揮するものである。
本発明の新規乳酸菌株である乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株は、発酵飼料の原料や発酵飼料、具体的には、牧草・飼料作物サイレージなどの分離源の希釈液を寒天培地に塗布し、低温条件(概略4℃)、嫌気条件で菌株を分離培養した後、低温増殖性能や生理生化学的性質などを調べることで、選抜した新規な乳酸菌株である。
【0013】
本発明における新規乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスは、優れた低温増殖性能に加えて、酸性領域における増殖性能を有するものである。本発明における酸性領域とは、pH5以下の領域を意味する。
サイレージ等の発酵飼料の品質を下げる大きな原因の1つに酪酸発酵が挙げられる。良質なサイレージ等の発酵飼料を得るためには、酪酸菌の活動をできるだけ抑制することが重要であるが、酪酸発酵を抑制する方法の1つとしてpHを4.2以下とすることが知られている。後述する実施例において具体的に示すとおり、乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスの基準株「JCM12518」は、pH4.5において、その増殖が大きく抑制されるため、酪酸発酵のリスクを回避することが難しい。すなわち、本発明における新規の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスは、酸性領域における増殖性能に優れているため、サイレージ等の発酵飼料のpHを速やかに4.2以下とすることが可能となり、結果として酪酸発酵を抑制して発酵飼料の品質を安定化させるという優れた効果を発揮するものである。
【0014】
(発酵飼料およびその調製方法)
本発明のサイレージ等の発酵飼料は、本発明の新規乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスを含有するものである。
そのサイレージ等の発酵飼料の調製方法について、以下説明する。
本発明において、サイレージ等の発酵飼料を製造する際に、発酵飼料原料に本発明の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスを添加することにより、低温環境下においても高品質の発酵飼料を得ることができる。
本発明においては、本発明の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスを発酵飼料原料に添加することが必須である。添加の方法としては、原料中に偏りなく、好ましくは均一になるように行うことが望ましい。例えば、本発明の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスを水に懸濁し噴霧する方法、混合撹拌する方法、などで行うことができる。本発明の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスの添加量としては、原料1gに対して10~10菌数レベル(10~10CFU/g、CFUはコロニー形成単位を示す)で添加することが望ましい。具体的には10~10菌数レベル(10~10CFU/g)で添加することがより望ましい。なお、本発明の新規乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスの添加時期は、サイレージ等の発酵飼料の発酵を開始する前に行うことが望ましいが、発酵の途中の段階で添加を行ってもよい。
上記発酵としては、通常のサイレージ等の発酵飼料の発酵と同様の条件で行うことができ、嫌気条件で、外気温において30日以上で行うものである。具体的には、サイロを用いる通常の方法、ロールベールサイレージ法、フレコンバック法、などで行うことができる。
本発明の新規乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスを添加したサイレージ等の発酵によって得られる発酵飼料は、低pHであり、乳酸含量が多い良質の発酵飼料であり、発酵飼料の発酵過程における大腸菌群、酵母及びカビなどの有害微生物の増殖が抑制された好適なものである。なお、具体的に、製造される発酵飼料としては、サイレージ、TMR発酵飼料等を挙げることができる。
本発明のサイレージ等の発酵飼料の調製方法は、本発明の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスを用いるものであるが、中でも、本発明の新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株のみならず、基準株JCM12518の何れか1種または2種以上を用いることが好ましい。
【0015】
(発酵飼料調製用添加剤)
本発明の新規乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスは、これを含有してなるサイレージ等の発酵飼料調製用添加剤の形態にして提供することができる。発酵飼料調製用添加剤の形態としては、本発明の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスを、凍結乾燥状態にして粉末状の形態、賦形剤等と混ぜて固形にした形態、カプセルに充填する形態、液体アンプルの形態、などを挙げることができる。好ましくは、凍結乾燥製剤の形態が好適である。
発酵飼料調製用添加剤の使用形態としては、直接発酵飼料の原料に添加することもできるが、好ましくは、水等に溶解したものを用いることが望ましい。
また、本発明の発酵飼料調製用添加剤の使用量としては、原料1gに対して、本発明の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスを10~10菌数レベル(10~10CFU/g)で添加することが望ましい。具体的には、本発明の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスを10~10菌数レベル(10~10CFU/g)で添加することがより望ましい。
【実施例0016】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術範囲はこれらにより限定されるものではない。
<実施例1>
新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株の分離と同定
(1)菌株の分離
TMRサンプル10gを滅菌蒸留水100mLに懸濁後、ホモジナイザ(Pro・Media SH-IIM、株式会社エルメックス製)で1分間均質化処理し、抽出液を得た。本抽出液をMRS(de Man、Rogosa、Sharpe)寒天培地(Difco製)に塗布し、アネロパック・ケンキ(三菱ガス化学株式会社製)による嫌気条件下において4℃で10日間培養し、形成した単一コロニーを菌株として分離した。分離後、得られたコロニーを3回培養純化した。
各コロニーから得た19菌株について、16S rRNA遺伝子を解読することにより、ペディオコッカス・イノピナタス(Pediococcus inopinatus)と同定した。
取得菌株を、MRS液体培地において4℃で21日間培養し、培養液の600nmの光学密度やpHを測定することにより、各菌体の低温増殖性能を評価した。また、稲発酵粗飼料にこれらの乳酸菌をスターターとして添加し、5℃で8ヶ月間貯蔵することにより、低温時のサイレージ発酵促進能を評価した。これらの結果より、低温時の増殖性能や発酵促進能に優れた乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株を選抜した。
【0017】
(2)菌株の性質
上記の培養物から分離した菌株について、菌学的諸性質や生理的・生化学的性質等を調べた。主要な菌学的性質を、ペディオコッカス・イノピナタスの基準株「JCM12518」と併せて、下記表1に示す。
【0018】
【表1】
表1中の生育温度は、MRS液体培地で21日間(4℃)、2日間(30℃)培養した際の光学密度600数値で評価(+:0以上1.0未満、++:1.0以上3.0未満)した。糖資化性については、陽性を+、陰性を-で示した。
【0019】
表1に示すとおり、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株は、ペディオコッカス・イノピナタスの基準株JCM12518と16S rRNA遺伝子と類似性がそれぞれ99.9%、100%、99.8%一致しており、これらの分離株はペディオコッカス・イノピナタスと同定できた。
また、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株は、「実施例2」において詳細に説明するように、基準株JCM12518と概略4℃の低温増殖性能に大きな違いがある。
さらに、API50CHキット(シスメックス・ビオメリュー株式会社製)による糖資化性解析において(30℃、48時間培養)、新規乳酸菌IWT669株は基準株JCM12518と、メチル-α-D-マンノピラノサイド、D-ラクトース、D-スクロース、D-ツラノースの資化性が異なっており、新規乳酸菌IWT669株に顕著にD-ラクトースとD-ツラノースの利用性が認められた。
新規乳酸菌IWT685株は、基準株JCM12518と、D-ラクトースとD-ツラノースの資化性が異なっており、乳酸菌IWT685株に顕著にこれらの2糖の利用性が認められた。
新規乳酸菌IWT687株は、基準株JCM12518と、メチル-α-D-マンノピラノサイド、アミグダリン、アルブチン、D-マルトース、D-スクロース、D-ツラノースの資化性が異なっており、新規乳酸菌IWT687株に顕著にD-ツラノースの利用性が認められた。
以上のことから、本発明の新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株は新規な乳酸菌株であると決定した。
【0020】
<実施例2>
新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株の低温増殖性能の確認試験
次いで、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株の低温増殖性能を詳細に検討した。
乳酸菌は次の5つの乳酸菌を使用した。
「IWT192株」:ラクトバチルス・ブクネリ(Lactobacillus buchneri)IWT192株(NITE P-01268)
「IWT669株」:ペディオコッカス・イノピナタス(Pediococcus inopinatus)IWT669株(NITE P-03828)
「IWT685株」:ペディオコッカス・イノピナタス(Pediococcus inopinatus)IWT685株(NITE P-03829)
「IWT687株」:ペディオコッカス・イノピナタス(Pediococcus inopinatus)IWT687株(NITE P-03830)
「JCM12518」:ペディオコッカス・イノピナタス(Pediococcus inopinatus)JCM12518
上記の乳酸菌を、製造メーカー推奨手順により調製したMRS液体培地(Difco製)を用いて、30℃、24時間前培養した。試験開始時に、本前培養物を新たな同液体培地に初発菌数5.0×10CFU/mLで接種し、1℃と4℃において21日間、また、10℃において5日間、それぞれ静置培養した。菌体の増殖については、培養終了後の培養液を十分に懸濁した培養懸濁液の600nmの光学密度を測定することにより評価した。光学密度600測定にはスペクトロフォトメーター(SmartSpec Plus、バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社製)を用いた。
1℃と4℃における培養懸濁液の600nmの光学密度の値(独立した3回の試験結果の平均値)に基づき、以下のように増殖強度を設定した。
「+」:0以上、1.0未満(光学密度600値)
「++」:1.0以上、3.0未満(光学密度600値)
また、10℃における培養懸濁液の600nmの光学密度の値(独立した3回の試験結果の平均値)に基づき、以下のように増殖強度を設定した。
「+」:0以上、0.7未満(光学密度600値)
「++」:0.7以上、3.0未満(光学密度600値)
低温増殖性能の結果を、図1(1℃)、図2(4℃)、図3(10℃)にそれぞれまとめて示す。
【0021】
図1(1℃試験結果)、図2(4℃試験結果)、図3(10℃試験結果)に示すとおり、本発明の新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株は、1℃、4℃、10℃それぞれにおいて増殖強度「++」と判定され、基準株JCM12518の増殖強度「+」と比較して、低温増殖性能に優れることが確認された。さらに、本発明者らが先に報告した乳酸菌IWT192株には、1℃における増殖が認められないことから、本発明の新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株が極めて優れた低温増殖性能を有することが確認された。
【0022】
<実施例3>
新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株の低温時のサイレージ発酵促進効果の確認
次いで、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株の低温時のサイレージ発酵促進効果について詳細に検討した。
乳酸菌IWT192株、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株を使用した。
汎用型微細断飼料収穫機ワゴンタイプ(SMW5200、株式会社タカキタ製)を用いて飼料用イネ「たちすずか」を収穫後(理論切断長11mm)、試験開始まで脱気密封条件で1次保管したサンプルを原料草とした。原料草に各乳酸菌株をそれぞれ添加(原料草1gあたりに乳酸菌を1×10CFU添加)し、小規模サイレージ発酵試験法(パウチ法)により5℃の温度条件下で8ヶ月間貯蔵した(貯蔵開始日:2018年10月22日)。本パウチ法では、パウチ袋(飛竜N-9、旭化成パックス株式会社製)に原料草を100g入れ、業務用卓上密封包装機(SQ-202、シャープ株式会社製)を用いて脱気密封することで稲発酵粗飼料を作製した。
貯蔵後の発酵飼料の品質を解析するために、稲発酵粗飼料サンプル10gに、滅菌蒸留水100mLを加えて混合した。十分に混合後、ホモジナイザ(Pro・Media SH-IIM、株式会社エルメックス製)で5分間処理し、懸濁液を得た。滅菌蒸留水を用いて本懸濁液の段階希釈系列(10~10倍希釈)を作成し、乳酸菌数(CFU/g新鮮物)とクロストリジア菌数(CFU/g新鮮物)を測定した。乳酸菌数については、MRS寒天培地(Difco製)を利用し、30℃の嫌気条件下(アネロパック・ケンキ、三菱ガス化学株式会社製)で1週間培養後、培地上に形成されたコロニー数を計測した。
クロストリジア菌数の測定については、上記の段階希釈系列を75℃で15分間加熱処理した後、クロストリジア測定用培地「ニッスイ」(日水製薬株式会社製)を利用し、30℃の嫌気条件下(アネロパック・ケンキ、三菱ガス化学株式会社製)で1週間培養後、培地上に形成されたコロニー数を計測した。
サンプルのpH測定と有機酸分析は以下の通り実施した。上述の懸濁液をろ紙(定量濾紙No.5A、アドバンテック東洋株式会社製)を用いてろ過処理し、抽出液を得た。pH測定にはpHメーター(SevenExcellence S400、メトラー・トレド株式会社製)を用いた。有機酸分析については、抽出液をイオン交換樹脂(Amberlite IR120H+、東京有機化学工業株式会社製)を用いて処理し、ポアサイズ0.45μmフィルター(DISMIC-13HP、アドバンテック東洋株式会社製)を用いてろ過処理したサンプルを用いた。乳酸含量(質量%新鮮物)と酢酸含量(質量%新鮮物)をHPLC有機酸分析システム(日本分光株式会社製)でそれぞれ測定した。
測定条件は以下の通りである。なお、「質量%新鮮物」は、飼料全質量中の成分含量を意味する。
カラム:Shodex Rspak KC-811(8mm×300mm:昭和電工株式会社製)
カラム温度:60℃
移動相:3mmoL過塩素酸水溶液
反応液:BTB水溶液(0.2mmoLブロモチモールブルー-8mmoLリン酸水素二ナトリウム-2mmoL水酸化ナトリウム)
送液速度:1.2mL/min
検出波長:450nm
試験区の反復は3とした。統計解析は一元配置分散分析後にTukey法による多重比較検定を行った。
結果を下記表2にまとめて示す。
【0023】
【表2】
【0024】
表2に示すように、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株、乳酸菌IWT192株各添加区では、無添加区と比べて有意なpH低下が認められた。詳しくは、無添加区と新規乳酸菌IWT669株区間のp値は「<0.05」、無添加区と新規乳酸菌IWT685株区間のp値は「<0.05」、無添加区と新規乳酸菌IWT687株区間のp値は「<0.05」、無添加区と乳酸菌IWT192株区間のp値は「<0.05」であった。
本発明の新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株は、本発明者が上記特許文献2により開示した乳酸菌IWT192株よりもpHの低下が顕著、すなわち、乳酸菌IWT192株区と各新規乳酸菌区間のp値は「<0.05」であることから、低温での発酵能力は、本発明の新規乳酸菌3株がさらに優れることが確認された。
また、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株区では、無添加区及び乳酸菌IWT192株区と比較して、有意な乳酸含量の増加が確認された一方、乳酸菌IWT192株区では、無添加区と比較して有意な乳酸含量の増加は認められなかった。詳しくは、無添加区と各新規乳酸菌区間のp値は「<0.05」、乳酸菌IWT192株区と各新規乳酸菌区間のp値は「<0.05」であった。
さらに新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株区では乳酸菌数の増加が顕著である。詳しくは、無添加区と各新規乳酸菌区間のp値は「<0.05」、新規乳酸菌IWT669株区と乳酸菌IWT192株区間のp値は「<0.05」、新規乳酸菌IWT685株区と乳酸菌IWT192株区間のp値は「<0.05」、新規乳酸菌IWT687株区と乳酸菌IWT192株区間のp値は「<0.05」であったことから、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株は、低温での増殖・生存・発酵能力において、乳酸菌IWT192株よりもさらに優れることが確認された。
また本発明の新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株は、酢酸産生は基準株JCM12518と同程度であり、低温での発酵能力が優れるが、酢酸産生には影響しないことが確認された。
そして、発酵飼料中のタンパク質などの栄養成分の分解に関係するクロストリジア菌数の抑制効果については、無添加区と比較した場合に新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株区で菌数の低減が見られ、新規乳酸菌IWT685株は特に顕著、詳しくは、p値は「<0.05」であることも確認された。
【0025】
<実施例4>
新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株の酸性pH領域における増殖性能の確認試験
次いで、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株の酸性pH領域における増殖性能について詳細に検討した。
-80℃で冷凍保管していた基準株JCM12518株、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株、を白金耳で一部掻き取り、ねじ口試験管に5mLずつ分注後、121℃で15分間オートクレーブ滅菌したMRS液体培地(Difco製)に懸濁し、30℃で48時間培養した菌体を前培養菌体として用いた。
使用した培地はpH未調整のMRS液体培地および、1Nの塩酸でpHを5.0、4.5、4.0、3.9に調製したのち、蒸留水で規定濃度までメスアップ後、121℃、15分間オートクレーブ滅菌した液体培地の4種類とした。
4種の液体培地を96穴マイクロプレート(Thermo Scientific社製)に200μLずつ分注後、前培養菌体を1容量%植菌した。植菌後、96穴マイクロプレートの上部を丁寧にシールし、96穴マイクロプレートリーダー(Thermo fisher製、varioskanFlash)を用いて、30℃、70時間培養し、1時間ごとに光学密度600を測定することで、増殖性能を確認した。
試験の反復は3とした。マイクロプレートリーダーで測定する光学密度600は、各乳酸菌株の凝集性や分散性によって変化することから、各々の菌株のpH未調整のMRS培地で培養した70時間後の光学密度600を100%として、pH5.0、4.5、4.0、3.9での増殖性能を評価した。
pH5.0、4.5、4.0、3.9での増殖性能に関する評価結果を、図4~7に示す。
【0026】
図4に示すとおり、基準株JCM12518は、培養時間70時間で、pH未調整のMRS液体培地の最終光学密度600の79%と増殖性能が低下するのに対して、本発明の新規乳酸菌IWT669株は89%、IWT687株は87%、IWT685株は84%と、最低でも基準株JCM12518を上回る増殖性能を維持しており、pH5.0において増殖性能が高いことが確認された。
図5に示すとおり、基準株JCM12518は、pH未調整のMRS液体培地の最終光学密度600の40%程度と増殖性能が大きく低下するのに対して、本発明の新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株は、70%程度と増殖性能を維持しており、pH4.5においても増殖性能が高いことが確認された。
図6に示すとおり、基準株JCM12518は、pH未調整のMRS液体培地の最終光学密度600の20%程度と増殖性能が極めて低下するのに対して、本発明の新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株は、25~35%と増殖性能を維持しており、pH4.0においても増殖性能が高いことが確認された。
図7に示すとおり、基準株JCM12518は、pH未調整のMRS液体培地の最終光学密度600の14%程度と増殖性能が極めて低下するのに対して、本発明の新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株は、16~32%と増殖性能を維持しており、pH3.9においても増殖性能が高いことが確認された。
【0027】
<実施例5>
新規乳酸菌IWT685株の発酵TMRにおける添加効果の確認試験
次いで、新規乳酸菌IWT685株の発酵TMRにおける添加効果について詳細に検討した。
乳酸菌は、新規乳酸菌IWT685株と、上記特許文献2に報告された乳酸菌IWT192株を使用した。
TMR原料として、トウモロコシフレーク、フスマ、大豆粕、チモシー乾草、塩化ナトリウムおよび炭酸カルシウムを用いた(粗飼料と濃厚飼料のそれぞれの水分を除いた質量の比率=3:7、水分40%)。TMR原料に各乳酸菌株をそれぞれ添加(原料1gあたりに各乳酸菌を1×10CFU)し、小規模サイレージ発酵試験法(パウチ法)により25℃の温度条件下で30日間貯蔵した。
本パウチ法では、パウチ袋(味噌用ガス抜きバルブ付規格袋、有限会社ムラマツ合成社製)にTMR原料を260g入れ、卓上型ノズル式脱気シーラー(V-301、富士インパルス株式会社製)を用いて密封することで発酵TMRを作製した。サンプルのpH測定と有機酸分析は以下の通り実施した。発酵TMR100gを蒸留水500mLに24時間冷蔵浸漬し、ろ過(定量濾紙No.5A、アドバンテック東洋株式会社)して得た抽出液を用いて調査した。pH値は、pHメーター(D-71、株式会社堀場製作所製)を用いて測定し、乳酸含量(質量%新鮮物)、酢酸含量(質量%新鮮物)、エタノール含量(質量%新鮮物)は、高速液体クロマトグラフィー(LC-2030C、株式会社島津製作所製)を用いてそれぞれ測定し、その結果を下記表3に示した。
高速液体クロマトグラフィーの分析条件は以下のとおりである。
カラム:HPX-87H(BIO RAD社製)
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折検出器(RID-20A、株式会社島津製作所製)
移動相:0.01規定硫酸
送液速度:0.6mL/分
原物ロス測定は以下の通り実施した。
発酵前後のパウチを含めた重量を測定し、以下の計算式により原物ロス(g)を算出した。
原物ロス(g)=「発酵前重量(g)」-「発酵後重量(g)」
試験区の反復は3とした。統計解析は一元配置分散分析後にTukey法による多重比較検定を行った。
【0028】
【表3】
【0029】
表3に示すとおり、新規乳酸菌IWT685株、乳酸菌IWT192株の各添加区では、無添加区と比べて有意なpH低下が認められた。詳しくは、無添加区と新規乳酸菌IWT685株区間のp値は「<0.05」であり、無添加区と乳酸菌IWT192株区間のp値は「<0.05」であった。
本発明の新規乳酸菌IWT685株は、本発明者が上記特許文献2により開示した乳酸菌IWT192株よりも、pHの低下が顕著、詳しくは、新規乳酸菌IWT685株区と乳酸菌IWT192株区間のp値は「<0.05」であることから、発酵TMRにおける発酵能力は、新規乳酸菌IWT685株がさらに優れることが確認された。
また、新規乳酸菌IWT685株区は、無添加区及び乳酸菌IWT192株区と比較して、有意な乳酸含量の増加が確認された一方、乳酸菌IWT192株区では、無添加区と比較して有意な乳酸含量の増加は認められなかった。詳しくは、無添加区と新規乳酸菌IWT685株区間のp値は「<0.05」、新規乳酸菌IWT685株区と乳酸菌IWT192株区間のp値は「<0.05」であった。
また、新規乳酸菌IWT685株区の酢酸産生は、無添加区及び乳酸菌IWT192株区と比較して、顕著に増加しておらず、発酵TMRでの発酵能力が優れるが、酢酸産生には影響しないことが確認された。
発酵飼料中に存在する酵母がエタノールの産生に関与するが、エタノール含量を測定した結果、新規乳酸菌IWT685株区では未検出であった。
さらに、新規乳酸菌IWT685株区では、原物ロス量が最も低く、発酵による原物ロスの抑制が顕著である。詳しくは、無添加区と新規乳酸菌IWT685株区間のp値は「<0.05」、新規乳酸菌IWT685株区と乳酸菌IWT192株区間のp値は「<0.05」であった。
以上のことから、新規乳酸菌IWT685株は、発酵TMRにおける乳酸発酵を顕著に促進して速やかなpH低下をもたらすことにより、原物ロス量を低く抑えることが可能であることが明らかとなった。
【0030】
<実施例6>
新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株の発酵TMRにおける添加効果の確認試験
次いで、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株の発酵TMRにおける添加効果について詳細に検討した。
乳酸菌は、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株と基準株JCM12518に加えて、上記特許文献2に報告された乳酸菌IWT192株を使用した。
TMR原料として、トウモロコシフレーク、フスマ、大豆粕、チモシー乾草、塩化ナトリウムおよび炭酸カルシウムを用いた(粗飼料と濃厚飼料のそれぞれの水分を除いた質量の比率=3:7、水分45%)。TMR原料に各乳酸菌株をそれぞれ添加(原料1gあたりに各乳酸菌を1×10CFU)し、小規模サイレージ発酵試験法(パウチ法)により20℃の温度条件下で28日間貯蔵した。同様に、上記TMR原料(水分50%)を用いて、5℃でも28日間貯蔵した。
本パウチ法では、パウチ袋(味噌用ガス抜きバルブ付規格袋、有限会社ムラマツ合成社製)にTMR原料を260g入れ、卓上型ノズル式脱気シーラー(V-301、富士インパルス株式会社製)を用いて密封することで発酵TMRを作製した。サンプルのpH測定と有機酸分析は以下の通り実施した。発酵TMR100gを蒸留水500mLに24時間冷蔵浸漬し、ろ過(定量濾紙No.5A、アドバンテック東洋株式会社製)して得た抽出液を用いて調査した。pH値は、pHメーター(D-71、株式会社堀場製作所製)を用いて測定し、乳酸含量(質量%新鮮物)、と酢酸含量(質量%新鮮物)、エタノール含量(質量%新鮮物)は、高速液体クロマトグラフィー(LC-2030C、株式会社島津製作所製)を用いて、上記実施例5と同じ条件でそれぞれ測定し、20℃の温度条件下で28日間貯蔵した結果を下記表4に、5℃の温度条件下で28日間貯蔵した結果を下記表5に示した。
試験区の反復は3とした。統計解析は一元配置分散分析後にTukey法による多重比較検定を行った。
開封後のサイレージの発熱試験については、上記小規模サイレージ発酵試験法により作成した発酵TMRをパウチ袋(味噌用ガス抜きバルブ付規格袋、有限会社ムラマツ合成社製)に230g入れた。パウチ袋内中心部に上部から温度計(RTR-05B1、株式会社ティアンドデイ)を差し込み、25℃で5日間静置して100分毎に品温を測定し、各試験区の品温の平均値を算出した。
20℃の温度条件下で28日間貯蔵し、開封した後の発酵TMR品温の変化を図8に、5℃の温度条件下で28日間貯蔵し、開封した後の発酵TMR品温の変化を図9に示す。
【0031】
【表4】
【表5】
【0032】
・20℃の温度条件下で28日間貯蔵した結果
表4に示すとおり、各試験区のpH値について、高値の順に列挙すると、乳酸菌IWT192株区、基準株JCM12518区、各新規乳酸菌区(IWT685株、IWT669株、IWT687株)となった。新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株、基準株JCM12518株は、本発明者が上記特許文献2により開示した乳酸菌IWT192株よりも、pHの低下が顕著、詳しくは、乳酸菌IWT192株区と各添加区間のp値は「<0.05」であることから、発酵TMRにおける発酵能力は、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株、基準株JCM12518がさらに優れることが確認された。基準株JCM12518株区と新規乳酸菌IWT669株区間のp値は「<0.05」、基準株JCM12518株区と新規乳酸菌IWT687株区間のp値は「<0.05」であることから、これらの新規乳酸菌株は基準株JCM12518と比較して、pHの低下が顕著であった。
また、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株、基準株JCM12518株区は、乳酸菌IWT192株区と比較して、有意な乳酸含量の増加が確認された。詳しくは、乳酸菌IWT192株区と新規乳酸菌IWT669株区間のp値は「<0.05」、乳酸菌IWT192株区と新規乳酸菌IWT685株区間のp値は「<0.05」、乳酸菌IWT192株区と新規乳酸菌IWT687株区間のp値は「<0.05」、乳酸菌IWT192株区と基準株JCM12518株区間のp値は「<0.05」であった。
また、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株、基準株JCM12518株区の酢酸産生は、乳酸菌IWT192株区と比較して、顕著に増加しておらず、発酵TMRでの発酵能力が優れるが、酢酸産生には影響しないことが確認された。
さらに、発酵飼料中に存在する酵母がエタノールの産生に関与するが、エタノール含量を測定した結果、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株区では未検出であった。
発酵飼料のpHが顕著に低下し、乳酸が顕著に増加した場合であっても、サイレージを開封し好気下においた時に、サイレージ品温の上昇を伴う二次発酵により、サイレージ品質が悪化する場合がある。この二次発酵はサイレージ中に生存した酵母等の活性化によるものとされる。
図8に示すとおり、本試験においてpHが顕著に低下、乳酸が顕著に増加した新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株、基準株JCM12518株区において、基準株JCM12518株区のみに発酵TMR品温の上昇が確認され、品質悪化をもたらす二次発酵が認められた。以上のことから、各新規乳酸菌は優れた発酵促進効果を有するだけでなく、二次発酵抑制にも寄与することが明らかとなり、基準株JCM12518株よりも好適であった。
新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株による発酵TMRにおける有用な添加効果は、酵母に対する生育阻害性能や酸性領域における増殖性能などの優れた発酵機能によるものと考えられる。
【0033】
・5℃の温度条件下で28日間貯蔵した結果
表5に示すとおり、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株、乳酸菌IWT192株、基準株JCM12518株の各添加区では、無添加区と比べて有意なpH低下が認められた。詳しくは、無添加区と各添加区間のp値は「<0.05」であった。本発明の新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株、基準株JCM12518株は、本発明者が上記特許文献2により開示した乳酸菌IWT192株よりも、pHの低下が顕著、詳しくは、乳酸菌IWT192株区と各添加区間のp値は「<0.05」であることから、発酵TMRにおける発酵能力は、発酵温度5℃の低温条件においても新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株、基準株JCM12518が、さらに優れることが確認された。各試験区のpH値について、高値の順に列挙すると、無添加区、乳酸菌IWT192株区、基準株JCM12518区、各新規乳酸菌区(IWT685株、IWT669株、IWT687株)となった。
また、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株、基準株JCM12518株区は、無添加区及び乳酸菌IWT192株区と比較して、有意な乳酸含量の増加が確認された。詳しくは、無添加区と各添加区間のp値は「<0.05」、乳酸菌IWT192株区と各添加区間のp値は「<0.05」であった。一方、乳酸菌IWT192株区では、無添加区と比較して有意な乳酸含量の増加は認められなかった。各試験区の乳酸含量について、低値の順に列挙すると、無添加区、乳酸菌IWT192株区、基準株JCM12518区、各新規乳酸菌区(IWT685株、IWT669株、IWT687株)となった。以上のことから、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株は、発酵TMRにおける乳酸発酵を顕著に促進し、速やかなpH低下をもたらすことが明らかとなり、基準株JCM12518株よりも好適であった。
図9に示すとおり、無添加区、乳酸菌IWT192株区、新規乳酸菌IWT685株区の順に発酵TMR品温の上昇が生じ、新規乳酸菌IWT685株区において、無添加及び乳酸菌IWT192株区と比較して、酵母等の活性化が関与する二次発酵による発熱を抑制する効果が確認された。
新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株による発酵TMRにおける有用な添加効果は、低温増殖性能、酵母に対する生育阻害性能、酸性領域における増殖性能などの優れた発酵機能によるものと考えられる。本発明者が上記特許文献2により開示した乳酸菌IWT192株は、稲発酵粗飼料において二次発酵抑制効果が高いことが示されているが、本試験で供試した発酵TMRにおいては、新規乳酸菌IWT685株の方が優れた二次発酵抑制効果を有することが確認された。
【0034】
<実施例7>
新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株の酵母に対する生育阻害性能の確認
次いで、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株の酵母に対する生育阻害性能について詳細に検討した。
乳酸菌は、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株、基準株JCM12518株を使用した。
各供試乳酸菌株をイネジュース培地に植菌し20℃または10℃で2日間培養し、菌体を遠心分離(12,000rpm、5分間)およびポアサイズ0.22μmのフィルター(Millex GP、メルクミリポア社製)で除いた培養上清を用いた。
イネジュース培地は、冷凍していた飼料用イネ「たちすずか」100g(生重)と蒸留水300mLを混合し、ミキサーで十分に粉砕混合したのち、2重ガーゼで固形物を除去し、遠心(6,500rpm、15分間)後、ろ紙(定量濾紙No.2、アドバンテック東洋株式会社製)でろ過したろ液を115℃で20分間オートクレーブ滅菌することで作成した。試験には各供試乳酸菌株の培養前にポアサイズ0.22μmのフィルター(Millex GP、メルクミリポア社製)を通した5%Tween80液を培地に対して1/50添加して使用した。
酵母は次の6つの酵母を使用した。
「31株」:Torulaspora quercuum 31株(分離源:稲発酵粗飼料)
「86株」:Zygosaccharomyces bailii 86株(分離源:稲発酵粗飼料)
「302株」:Pichia membranifaciens 302株(分離源:稲発酵粗飼料)
「167株」:Torulaspora delbrueckii 167株(分離源:稲発酵粗飼料)
「LAY9株」:Pichia fermentans LAY9株(分離源:牧草)
「LAY18株」:Wickerhamomyces anomalus LAY18株(分離源:牧草)
前培養はPDB(Potato Dextrose Broth)培地(Difco製)5mLに酵母を1%植菌し、28℃で、振とう速度180rpmで2日間培養した培養液を用いた。
各供試乳酸菌株の培養上清100μLまたは培養をしていないイネジュース培地100μL(陽性対照区)と、2×PDB培地100μLを96穴マイクロプレートのウェルに混合し、前培養した各酵母を1%植菌した。96穴マイクロプレートの上部を丁寧にシールし、96穴マイクロプレートリーダー(Thermo fisher製、varioskanFlash)を用いて、30℃、48時間培養後の最終光学密度600を測定することにより、酵母の増殖性を判断した。Pichia membranifaciensは増殖速度が遅いことから、72時間培養とした。各酵母の増殖曲線は培養液の光学密度600を12時間ごとに測定することで作成した。反復は2または3とした。
20℃培養した各供試乳酸菌株の培養上清を使用した結果を表6に、10℃培養した各供試乳酸菌株の培養上清を使用した結果を表7に示す。
表6、7の「増殖率」は、陽性対照区であるイネジュース培地を加えたPDB培地での各酵母の48または72時間目の、最終光学密度600を100%として表記した数値である。
【0035】
【表6】
【表7】
【0036】
表6と表7に示すとおり、ペディオコッカス・イノピナタスは種として幅広い酵母に対する生育阻害性能を有していることが明らかとなった。また、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株は基準株JCM12518と比較して、いずれの酵母に対しても高い生育阻害性能を有しており、特にJCM12518は10℃低温下において酵母に対する生育阻害性能が顕著に弱まる結果であったが、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株は酵母に対する生育阻害性能を維持しており、低温下における酵母に対する生育阻害性能が優れていることも明らかとなった。
【0037】
<実施例8>
新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株のサイレージ中での酵母に対する生育阻害性能の確認
次いで、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株のサイレージ中での酵母に対する生育阻害性能について詳細に検討した。
乳酸菌は、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株を使用した。 汎用型微細断飼料収穫機ワゴンタイプ(SMW5200、株式会社タカキタ製)を用いて飼料用イネ「たちすずか」を収穫し(理論切断長11mm)、原料草とした。原料草に各乳酸菌株をそれぞれ添加(原料1gあたりに各乳酸菌を1×10CFU)し、小規模サイレージ発酵試験法(パウチ法)により5℃の温度条件下で185日間貯蔵した。本パウチ法では、パウチ袋(味噌用ガス抜きバルブ付規格袋、有限会社ムラマツ合成社製)に原料草を168g入れ、卓上型ノズル式脱気シーラー(V-301、富士インパルス株式会社製)を用いて密封することで稲発酵粗飼料を作製した。貯蔵後の発酵飼料の微生物菌数を解析するために、稲発酵粗飼料サンプル10gに滅菌蒸留水100mLを加えて混合した。十分に混合後、ホモジナイザ(Pro・Media SH-IIM、株式会社エルメックス製)で5分間処理し、懸濁液を得た。滅菌蒸留水を用いて本懸濁液の段階希釈系列(10~10倍希釈)を作成した。酵母菌数(CFU/g新鮮物)の測定には、酒石酸を添加してpHを3.5に調整したポテトデキストロース寒天培地「ニッスイ」(日水製薬株式会社製)を用いた。
サンプルのpH測定と有機酸分析は以下の通り実施した。稲発酵粗飼料サンプル100gを蒸留水500mLに24時間冷蔵浸漬し、ろ過(name="_Hlk158381625">定量濾紙No.5A、アドバンテック東洋株式会社製)して得た抽出液を用いて調査した。pHをpHメーター(D-71、株式会社堀場製作所製)で、乳酸含量(質量%新鮮物)、酢酸含量(質量%新鮮物)、エタノール含量(質量%新鮮物)は、高速液体クロマトグラフィー(LC-2030C、株式会社島津製作所製)を用いて、上記実施例5と同じ条件でそれぞれ測定した。
試験区の反復は3とした。統計解析は一元配置分散分析後にTukey法による多重比較検定を行った。
【0038】
【表8】
【0039】
表8に示すとおり、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株を添加することによって、無添加と比較して発酵品質の向上(pHの低下および乳酸含量の増加)だけではなく、酵母菌数が有意に低下(<0.05)あるいは未検出となることが明らかとなった。発酵飼料中に存在する酵母がエタノールの産生に関与するが、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株区では、無添加区と比べてエタノール含量が低い傾向を示した。また本発明の新規乳酸菌IWT669、IWT685、IWT687株区において、酢酸含量が無添加区よりも低いことが認められ、新規乳酸菌IWT685、IWT687株区ではその効果が顕著であった。以上のことから、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株は、酢酸産生を増強せず、低温での発酵能力、酵母に対する生育阻害性能、酸性領域における増殖性能に優れることが確認された。尚、表8に示す「a」、「b」、「ab」小文字アルファベットの異文字間にはTukey法における5%有意水準(<0.05)の差があることを示しており、本記述ではaとbの間に有意差があり、abはいずれの処理区とも有意差がないことを示している。
【0040】
<実施例9>
新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株、基準株JCM12518株の低温時のサイレージ発酵促進効果の確認
次いで、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株、基準株JCM12518株の低温時のサイレージ発酵促進効果について詳細に検討した。
乳酸菌IWT192株、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株、基準株JCM12518株を使用した。加えて、飼料用イネ向けの市販飼料調製用添加剤である畜草1号プラス(雪印種苗株式会社製)も使用した。
畜草1号プラスには、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum、属変更に伴い現在は、ラクチプランチバチルス・プランタラム)畜草1号株と、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)SBS-0001-S株の2種の菌株が含まれる。
飼料用イネ「たちすずか」を裁断機(シリンダーカッタ―SCR1900、株式会社IHIアグリテック社製)を用いて理論切断長2cmに裁断し、原料草とした。サイレージ調製は、ビニールフィルムによるラッピング法によって行った。具体的には、原料草400gに各乳酸菌株をそれぞれ添加(原料草1gあたりに各乳酸菌を1×10CFU添加)し、併せて二次発酵を誘発する酵母(LAY9、LAY18)を原料草1gあたりに合計1×10CFU添加して十分に混合撹拌した。本原料をパウチ袋(飛竜N-9、旭化成パックス株式会社製)1袋あたり100g入れ、業務用卓上密封包装機(SQ-303、旭化成パックス株式会社製)を用いて脱気密閉することで稲発酵粗飼料を作製した。
貯蔵後の発酵飼料の品質を解析するために、稲発酵粗飼料サンプル30gをストマフィルター(株式会社セントラル科学貿易社製)に量り取り、滅菌蒸留水を90mL加えた後、マスティケーターS型(株式会社セントラル科学貿易社製)にて1分間懸濁した。懸濁後、4℃で一晩静置し、サンプル中の水可溶性成分を水画分に移行させ、懸濁液を得た。
サンプルのpH測定と有機酸分析は以下の通り実施した。上述の懸濁液をろ紙(定量濾紙No.5A、アドバンテック東洋株式会社製)を用いてろ過処理し、抽出液を得た。pH測定にはpHメーター(F-73、株式会社堀場製作所製)を用いた。有機酸分析については、抽出液を純水で10倍希釈した後、ポアサイズ0.22μmのフィルター(Millex GP、メルクミリポア社製)を用いてろ過処理したサンプルを用いた。乳酸含量(質量%新鮮物)、酢酸含量(質量%新鮮物)、酪酸含量(質量%新鮮物)を高速液体クロマトグラフィー(LC-20AD、LC-30AD、SIL-30AC、CTO-20A、SPD-M20A、株式会社島津製作所製)を用いてポストカラム法で測定した。
高速液体クロマトグラフィーの分析条件は以下のとおりである。
カラム:TSKgel OApak-A(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折検出器(RID-20A、株式会社島津製作所製)
移動相:75mmoL硫酸水溶液
反応液:BTB水溶液(0.1mmoLブロモチモールブルー-7.5mmoLリン酸水素二ナトリウム)
検出波長:450nm
送液速度:0.8mL/分
試験区の反復は3とした。統計解析は一元配置分散分析後にTukey法による多重比較検定を行った。尚、表9に示す「a」、「b」、「c」、「d」、「cd」小文字アルファベットの異文字間にはTukey法における5%有意水準(<0.05)の差があることを示しており、本記述ではa、b、c、dの間に有意差があり、cdはcとdの処理区と有意差がないことを示している。
結果を下記表9にまとめて示す。
【0041】
【表9】
【0042】
表9に示すように、本発明の新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株区と、基準株JCM12518区は、無添加区、既存製品である畜草1号プラス区、乳酸菌IWT192株区と比較して有意なpH低下と有意な乳酸含量の増加が認められ、低温での発酵能力に優れることが確認された。加えて、新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株は基準株JCM12518と比較して乳酸含量が有意に高い、または高い傾向が認められており、4℃発酵条件下においてはより好適であることが認められた。
この結果より、本発明の新規乳酸菌IWT669株、IWT685株、IWT687株はもとより、基準株JCM12518とサイレージ材料を用いる、本発明のサイレージの調製方法は、「良質な発酵飼料」を生産できる点において、顕著に優れた方法であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスは、4℃環境下において分離・選抜された特徴ある菌株であり、低温増殖性能に優れることから、低温環境下においても乳酸や酢酸等の有機酸産生増加による発酵促進効果が得られ、良質な畜産飼料を生産することが可能となり有用である。
また、本発明の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスは、酸性領域における増殖性能を有するため、乳酸や酢酸などの有機酸蓄積に伴う飼料の酸性化を経ても増殖が抑制され難いことから、良質なサイレージの指標であるpH4.2以下に飼料のpHを速やかに低下させ、飼料の安定貯蔵を可能とする。
さらに、本発明の乳酸菌ペディオコッカス・イノピナタスは、酵母に対する生育阻害性能や飼料栄養価の品質保持能力が高いので、牛等の家畜の摂取量が安定化し健康を維持することができることに加えて、サイレージを開封し好気下においた時の二次発酵や、飼料として供給後に生じるTMRの二次発酵等、飼料の二次発酵やカビの発生も抑制できるので、家畜の飼養ならびに衛生管理に大きく寄与するという新たな効果も得られるため、産業上極めて有用である。
図1
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