(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139785
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】細胞構造体製造用容器、細胞構造体製造用容器の製造方法、細胞構造体の製造方法、及び細胞構造体製造用容器に用いられる基材
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20241003BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/00 C
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136077
(22)【出願日】2021-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100207240
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】広井 佳臣
(72)【発明者】
【氏名】廣飯 美耶
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康平
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐揮
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA08
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029GA03
4B029GB09
4B029GB10
(57)【要約】
【課題】細胞構造体の作製の操作性及び量産性を向上させるため、複数の均一な細胞構造体を大量に作製することができる細胞構造体製造用容器であって、簡便な方法で得ることができる細胞構造体製造用容器の提供。
【解決手段】基材と、前記基材の表面に形成された、細胞構造体を作製することが可能な下地膜とを有する細胞構造体製造用容器であって、
前記基材の前記表面は、複数の第1領域と、前記複数の第1領域の各々を囲む第2領域とを有し、
前記下地膜を形成する下地膜形成剤を前記第1領域及び前記第2領域を含む前記基材の表面全体に一括で提供した場合、前記表面に存在する複数の前記第1領域の各々は、前記第1領域の表面に前記下地膜を形成することができる下地膜形成能を有している、細胞構造体製造用容器である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面に形成された、細胞構造体を作製することが可能な下地膜とを有する細胞構造体製造用容器であって、
前記基材の前記表面は、複数の第1領域と、前記複数の第1領域の各々を囲む第2領域とを有し、
前記下地膜を形成する下地膜形成剤を前記第1領域及び前記第2領域を含む前記基材の表面全体に一括で提供した場合、前記表面に存在する複数の前記第1領域の各々は、前記第1領域の表面に前記下地膜を形成することができる下地膜形成能を有している、細胞構造体製造用容器。
【請求項2】
前記基材は凹凸形状を有し、前記第1領域は基材の凸部であり、前記第2領域は基材の凹部である、請求項1に記載の細胞構造体製造用容器。
【請求項3】
前記下地膜はカチオン性の下地膜である、請求項1又は2に記載の細胞構造体製造用容器。
【請求項4】
前記第1領域の表面に形成された前記カチオン性の下地膜の領域において、細胞構造体を形成する、請求項3に記載の細胞構造体製造用容器。
【請求項5】
前記下地膜形成剤が、下記式(I)で表されるモノマーから誘導される繰り返し単位を含むポリマーを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の細胞構造体製造用容器。
【化1】
[式中、
U
a1及びU
a2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、R
a1は、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、R
a2は、炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表す]
【請求項6】
前記凸部が、同一形状である、請求項2~5のいずれか1項に記載の細胞構造体製造用容器。
【請求項7】
前記凸部の辺の最大長さが、0.1~2mmである、請求項6に記載の細胞構造体製造用容器。
【請求項8】
前記凹部において、隣り合う前記凸部と前記凸部との間の最大長さが、0.01~0.2mmである、請求項2~7のいずれか1項に記載の細胞構造体製造用容器。
【請求項9】
前記凸部高さが、0.01~1mmである、請求項2~7のいずれか1項に記載の細胞構造体製造用容器。
【請求項10】
前記下地膜形成剤が、さらに細胞接着性物質を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の細胞構造体製造用容器。
【請求項11】
前記下地膜形成剤が、前記式(I)で表されるモノマーから誘導される繰り返し単位を含むポリマーと、細胞接着性物質とを含む、請求項5に記載の細胞構造体製造用容器。
【請求項12】
前記ポリマーと、前記細胞接着性物質の質量比が、100:0.1~100:100である、請求項11に記載の細胞構造体製造用容器。
【請求項13】
基材の表面に細胞構造体を作製することが可能な下地膜を形成する工程を含む、細胞構造体製造用容器の製造方法であって、
前記基材の前記表面は、複数の第1領域と、前記複数の第1領域の各々を囲む第2領域とを有し、
前記下地膜を形成する下地膜形成剤を前記第1領域及び前記第2領域を含む前記基材の表面全体に一括で提供した場合、前記表面に存在する複数の前記第1領域の各々は、前記第1領域の表面に前記下地膜を形成することができる下地膜形成能を有している、細胞構造体製造用容器の製造方法。
【請求項14】
前記下地膜を形成する工程が、前記下地膜形成剤を前記第1領域及び前記第2領域を含む前記基材の表面全体に一括で提供することを含む、請求項13に記載の細胞構造体製造用容器の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の細胞構造体製造用容器の製造方法により得られる細胞構造体製造用容器を用い、さらに細胞を播種する工程を含む、細胞構造体の製造方法。
【請求項16】
基材と、
前記基材の表面に形成された、細胞構造体を作製することが可能な下地膜とを有する細胞構造体製造用容器に用いられる基材であって、
前記基材の前記表面は、複数の第1領域と、前記複数の第1領域の各々を囲む第2領域とを有し、
前記下地膜を形成する下地膜形成剤を前記第1領域及び前記第2領域を含む前記基材の表面全体に一括で提供した場合、前記表面に存在する複数の前記第1領域の各々は、前記第1領域の表面に前記下地膜を形成することができる下地膜形成能を有している、基材。
【請求項17】
前記基材は凹凸形状を有し、前記第1領域は基材の凸部であり、前記第2領域は基材の凹部である、請求項16に記載の基材。
【請求項18】
前記凸部が、同一形状である、請求項17に記載の基材。
【請求項19】
前記凸部の辺の最大長さが、0.1~2mmである、請求項18に記載の基材。
【請求項20】
前記凹部において、隣り合う前記凸部と前記凸部との間の最大長さが、0.01~0.2mmである、請求項17~19のいずれか1項に記載の基材。
【請求項21】
前記凸部高さが、0.01~1mmである、請求項17~20のいずれか1項に記載の基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞構造体製造用容器、細胞構造体製造用容器の製造方法、細胞構造体の製造方法、及び細胞構造体製造用容器に用いられる基材に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞構造体又は細胞凝集塊(スフェロイドまたは細胞塊ともいう)は、細胞同士が自己集合し、三次元的に凝集化した細胞集合体であり、生体様構造が構築されることから、細胞の機能を長期間維持でき、生理的機能が向上することが報告されている。そのため、細胞凝集塊の、創薬研究における、又は細胞治療や再生治療における利用についての期待が高まっている。
【0003】
それに伴い、細胞構造体又は細胞凝集塊を簡便かつ迅速に、均一かつ大量に作製できる組織工学技術の開発が再生医療の実用化や創薬試験の効率化のための重要課題とされているが、従来の細胞低接着性培養皿(例えば、マルチウェルプレート)を用いた浮遊細胞のランダムな凝集化現象を利用する方法では1ウェルに1個のスフェロイドしか形成しないため、操作性及び量産性に優れないという課題があった。
【0004】
本発明者らは、接着細胞の自発的な集合(自己集合化)を誘導するコーティング剤と、同コーティング剤でコーティングされていることを特徴とする細胞培養容器を用いた細胞凝集塊の作製について報告した(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の記載内容は、細胞構造体の作製において、操作性や量産性を向上させるという観点からは、十分であるとはいえなかった。
特許文献1は、複数の均一な細胞構造体を大量に作製することができる細胞構造体製造用容器を、簡便な方法で得ようとすると、改良の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、細胞構造体の作製の操作性及び量産性を向上させるため、複数の均一な細胞構造体を大量に作製することができる細胞構造体製造用容器であって、簡便な方法で得ることができる細胞構造体製造用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、接着細胞の自発的な集合(自己集合化)を誘導するコーティング剤を、基材の表面全体に一括で提供した場合、コーティング膜を形成することができるコーティング膜形成能を基材表面の複数箇所に持たせることで、該コーティング膜形成能を有する細胞構造体製造用容器が、前述の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を包含するものである。
[1] 基材と、
前記基材の表面に形成された、細胞構造体を作製することが可能な下地膜とを有する細胞構造体製造用容器であって、
前記基材の前記表面は、複数の第1領域と、前記複数の第1領域の各々を囲む第2領域とを有し、
前記下地膜を形成する下地膜形成剤を前記第1領域及び前記第2領域を含む前記基材の表面全体に一括で提供した場合、前記表面に存在する複数の前記第1領域の各々は、前記第1領域の表面に前記下地膜を形成することができる下地膜形成能を有している、細胞構造体製造用容器。
[2] 前記基材は凹凸形状を有し、前記第1領域は基材の凸部であり、前記第2領域は基材の凹部である、[1]に記載の細胞構造体製造用容器。
[3] 前記下地膜はカチオン性の下地膜である、[1]又は[2]に記載の細胞構造体製造用容器。
[4] 前記第1領域の表面に形成された前記カチオン性の下地膜の領域において、細胞構造体を形成する、[3]に記載の細胞構造体製造用容器。
[5] 前記下地膜形成剤が、下記式(I)で表されるモノマーから誘導される繰り返し単位を含むポリマーを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の細胞構造体製造用容器。
【化1】
[式中、
U
a1及びU
a2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、R
a1は、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、R
a2は、炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表す]
[6] 前記凸部が、同一形状である、[2]~[5]のいずれかに記載の細胞構造体製造用容器。
[7] 前記凸部の辺の最大長さが、0.1~2mmである、[6]に記載の細胞構造体製造用容器。
[8] 前記凹部において、隣り合う前記凸部と前記凸部との間の最大長さが、0.01~0.2mmである、[2]~[7]のいずれかに記載の細胞構造体製造用容器。
[9] 前記凸部高さが、0.01~1mmである、[2]~[7]のいずれかに記載の細胞構造体製造用容器。
[10] 前記下地膜形成剤が、さらに細胞接着性物質を含む、[1]~[9]のいずれかに記載の細胞構造体製造用容器。
[11] 前記下地膜形成剤が、前記式(I)で表されるモノマーから誘導される繰り返し単位を含むポリマーと、細胞接着性物質とを含む、[5]に記載の細胞構造体製造用容器。
[12] 前記ポリマーと、前記細胞接着性物質の質量比が、100:0.1~100:100である、[11]に記載の細胞構造体製造用容器。
[13] 基材の表面に細胞構造体を作製することが可能な下地膜を形成する工程を含む、細胞構造体製造用容器の製造方法であって、
前記基材の前記表面は、複数の第1領域と、前記複数の第1領域の各々を囲む第2領域とを有し、
前記下地膜を形成する下地膜形成剤を前記第1領域及び前記第2領域を含む前記基材の表面全体に一括で提供した場合、前記表面に存在する複数の前記第1領域の各々は、前記第1領域の表面に前記下地膜を形成することができる下地膜形成能を有している、細胞構造体製造用容器の製造方法。
[14] 前記下地膜を形成する工程が、前記下地膜形成剤を前記第1領域及び前記第2領域を含む前記基材の表面全体に一括で提供することを含む、[13]に記載の細胞構造体製造用容器の製造方法。
[15] [14]に記載の細胞構造体製造用容器の製造方法により得られる細胞構造体製造用容器を用い、さらに細胞を播種する工程を含む、細胞構造体の製造方法。
[16] 基材と、
前記基材の表面に形成された、細胞構造体を作製することが可能な下地膜とを有する細胞構造体製造用容器に用いられる基材であって、
前記基材の前記表面は、複数の第1領域と、前記複数の第1領域の各々を囲む第2領域とを有し、
前記下地膜を形成する下地膜形成剤を前記第1領域及び前記第2領域を含む前記基材の表面全体に一括で提供した場合、前記表面に存在する複数の前記第1領域の各々は、前記第1領域の表面に前記下地膜を形成することができる下地膜形成能を有している、基材。
[17] 前記基材は凹凸形状を有し、前記第1領域は基材の凸部であり、前記第2領域は基材の凹部である、[16]に記載の基材。
[18] 前記凸部が、同一形状である、[17]に記載の基材。
[19] 前記凸部の辺の最大長さが、0.1~2mmである、[18]に記載の基材。
[20] 前記凹部において、隣り合う前記凸部と前記凸部との間の最大長さが、0.01~0.2mmである、[17]~[19]のいずれかに記載の基材。
[21] 前記凸部高さが、0.01~1mmである、[17]~[20]のいずれかに記載の基材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、細胞構造体の作製の操作性及び量産性を向上させるため、複数の均一な細胞構造体を大量に作製することができる細胞構造体製造用容器であって、簡便な方法で得ることができる細胞構造体製造用容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1Aは、細胞構造体製造用容器に用いられる基材の一例を示す模式図である。
【
図2A】
図2Aは、細胞構造体製造用容器に用いられる基材の他の一例を示す模式図である。
【
図3A】
図3Aは、細胞構造体製造用容器の製造から細胞構造体の製造までの一連の流れを説明するための模式図である。
【
図3B】
図3Bは、細胞構造体製造用容器の製造から細胞構造体の製造までの一連の流れを説明するための模式図である。
【
図3C】
図3Cは、細胞構造体製造用容器の製造から細胞構造体の製造までの一連の流れを説明するための模式図である。
【
図3D】
図3Dは、細胞構造体製造用容器の製造から細胞構造体の製造までの一連の流れを説明するための模式図である。
【
図4A】
図4Aは、実施例1において、下地膜形成剤を基材表面に提供した際の基材表面の様子を撮影した写真である。
【
図4B】
図4Bは、実施例2において、下地膜形成剤を基材表面に提供した際の基材表面の様子を撮影した写真である。
【
図4C】
図4Cは、実施例3において、下地膜形成剤を基材表面に提供した際の基材表面の様子を撮影した写真である。
【
図4D】
図4Dは、実施例4において、下地膜形成剤を基材表面に提供した際の基材表面の様子を撮影した写真である。
【
図5A】
図5Aは、実施例1の細胞接着確認試験において、観察開始から24時間後における基材表面における細胞の様子を撮影した写真である。
【
図5B】
図5Bは、実施例2の細胞接着確認試験において、観察開始から24時間後における基材表面における細胞の様子を撮影した写真である。
【
図5C】
図5Cは、実施例3の細胞接着確認試験において、観察開始から24時間後における基材表面における細胞の様子を撮影した写真である。
【
図5D】
図5Dは、実施例4の細胞接着確認試験において、観察開始から24時間後における基材表面における細胞の様子を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(細胞構造体製造用容器)
本発明の細胞構造体製造用容器は、基材と、基材の表面に形成された下地膜とを有する。
基材表面に下地膜が形成された領域において、細胞構造体を作製することができる。
【0013】
<基材>
基材の表面は、複数の第1領域と、複数の第1領域の各々を囲む第2領域とを有する。
ここで、基材表面に存在する複数の第1領域の各々は、下地膜形成能を有している。この下地膜形成能とは、下地膜を形成する下地膜形成剤を基材の表面に提供した場合、基材表面に下地膜を形成することができる能力をいう。
このように、基材表面に存在する複数の第1領域の各々に下地膜形成能を持たせることで、下地膜形成剤を第1領域及び第2領域を含む基材の表面全体に一括で提供した場合に、基材表面に存在する複数の第1領域の各々において、下地膜を確実に形成させることができる。
【0014】
本発明では、基材側に下地膜形成能を持たせたことが特徴の一つである。従来の方法、例えば、上記特許文献1に記載の方法で、複数の細胞構造体を作製しようとすると、特許文献1の[0067]で記載されているような細胞付着抑制能を持つコーティング膜が塗布された基材上に、インクジェット法等を用いて、接着細胞の自発的な集合(自己集合化)を誘導するコーティング剤(本発明でいう下地膜形成剤に対応、以下、下地膜形成剤ともいう)をスポット状に塗布する必要がある。この際、基材上の所定の位置に下地膜形成剤が塗布されるよう、塗布は制御されたうえ精度よく行われる必要がある。
しかし、本発明によれば、基材側に下地膜形成能を持たせているため、下地膜形成剤を基材上に配するのに特に制御する必要はなく高い精度も求められない。単に下地膜形成剤を基材の表面全体に一括提供すればよい。また、本発明では、基材表面の第1領域上に下地膜が形成された領域、つまり基材と下地膜の2層構成の領域において、細胞構造体の作製が可能である。一方、上記特許文献1では、基材上に、細胞付着抑制能を持つコーティング膜が形成され、さらにその上に下地膜形成剤による膜が形成された3層構成の領域において、細胞構造体が作製される。したがって、本発明によれば、少ない層数からなる細胞構造体製造用容器において、細胞構造体を作製することができる。
よって、本発明の細胞構造体製造用容器は、従来の細胞構造体製造用容器にくらべ、複数の細胞構造体を大量に作製することができる細胞構造体製造用容器を簡便な方法で得ることができる。
【0015】
<<第1領域と第2領域>>
上述したように、基材表面に第1領域は複数存在する。そして、第2領域は、複数の第1領域の各々を囲むようにして、基材表面に存在する。
基材表面に存在する複数の第1領域の各々は、下地膜形成能を有している。
本発明では、第1領域における下地膜形成能が第2領域に比べ高くなるように基材が作製されていれば、どのような態様で第1領域と第2領域が形成されていても構わないが、例えば、基材の好ましい実施態様として、第1領域と第2領域の下地膜形成能の違いを、基材形状の違いにより生じさせている基材が挙げられる。
さらに、第1領域と第2領域の違いが基材の形状で表れている基材の好ましい実施態様として、基材形状が凹凸形状であり、基材の凸部を第1領域として、基材の凹部を第2領域として作製された基材が挙げられる。これにより、第1領域における下地膜形成能を第2領域に比べ高くすることができる。
【0016】
<<凹凸形状の基材>>
基材の好ましい実施態様として、基材の第1領域及び第2領域の形状が凹凸形状の基材について以下説明する。
図1A~
図1C(以下、まとめて
図1ともいう)は、細胞構造体製造用容器に用いられる基材の模式図を表す。基材の大まかな外形は、円柱である。円柱の上面の中心から下面近くに渡って逆テーパー状の四角柱状の孔が開けられており、孔の底(底面)に、凹凸形状が形成されている。
図1で示される基材1は、凹凸形状で形成された底面3とその底面を囲む側壁2を有する。底面3は、表面4を有する。ここで、「表面」とは、下地膜形成剤が一括提供される面をいう。表面4は、第1領域5と第2領域6を有する。
図1Bは、底面3における第1領域と第2領域を含む領域を取り出して表した模式図である。
図1Bで示す領域の大きさは、下記実施例で使用した基材を例にとると、5.5mm×5.5mmの面積である。外周部の第2領域を除くと、5.3mm×5.3mmの面積に、第1領域である凸部が、9×9個形成されている。
それぞれの凸部は、略四角形状の同一形状で形成されている。ここで、略四角形状とは、四角形だけでなく、角部が、面取りまたは丸められた形状の四角形であってもよい。
図1で示される凸部の略四角形状の辺の長さ(
図1中のg)は、下記実施例を例にとると、0.5mmである。
また、同様に下記実施例を例にとると、凹部において、隣り合う凸部と凸部との間の底面の最大長さ(
図1中のh)は、0.1mmである。
また、同様に下記実施例を例にとると、凸部高さ(
図1中のi)は、0.1mmである。本発明において、凸部の高さとは、凹部の底面から、凸部までの距離をいう。
図1中のjは、基材の底面の厚みを示す。
【0017】
本発明において、凸部や凹部のサイズは、用いる細胞や基材の種類、細胞構造体の所望のサイズ等に応じて、適宜設定することができる。
例えば、凹部(溝)のサイズは、溝幅を狭く深くすると、下地膜形成剤を基材の表面全体に一括提供した際、第2領域である凹部において気泡を発生しやすくして、凹部に下地膜を形成させないようにすることができるため、できるだけ狭く深くする方が好ましい。ただし、加工限界があるため、その点も考慮する必要がある。尚、加工技術の点からは、凹部の幅:深さは、例えば1:3~1:0.5の範囲(具体的には1:2、1:1など)で形成させてよい。
【0018】
本発明では、本発明の効果が得られれば、特に、凸部の形状や、凸部と凹部のサイズに制限はない。
例えば、凸部の形状としては、略円形状に加え、略三角形状、略四角形状、略五角形状、略六角形状等の略多角形状が挙げられるが、中でも製造上の容易性から略四角形状であることが好ましい。また、基材表面上に複数存在する第1領域のそれぞれは、ほぼ同じ形状のほぼ同じ大きさの凸部形状であることが好ましい。これにより、複数の均一な大きさの細胞構造体を形成しやすいからである。
凸部の略四角形状の辺の最大長さは、本発明の効果が得られる限り特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、0.1~2mmであることが好ましく、0.3~2mmであることがより好ましい。
凹部において、隣り合う凸部と凸部との間の底面の最大長さは、本発明の効果が得られる限り特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、0.01~0.2mmであることが好ましく、0.05~0.2mmであることがより好ましい。
凸部高さは、本発明の効果が得られる限り特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、0.01~1mmであることが好ましく、0.05~1mmであることがより好ましい。
【0019】
基材の材質としては、疎水性(水の接触角が≧90°)を示すものであることが好ましい。
また、基材の材質としては、凹凸形状の加工のしやすさから、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリスチレン(PS)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)、ポリスルホン(PSF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン(PU)、エチレンビニルアルコール(EVAL)、ポリエチレン(PE)、ポリエステル、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)、テフロン(登録商標)等が挙げられる。中でも、成形加工性と細胞培養の観察のしやすさのための透明性という観点から、ポリスチレン(PS)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)がより好ましい。
【0020】
<下地膜>
基材表面に下地膜が形成された領域において、細胞構造体を作製することができる。
下地膜は、下地膜形成剤により形成される。
下地膜は、細胞構造体を作製することができれば、用いられる下地膜形成剤の種類に特に制限はなく適宜選択することができるが、下地膜がカチオン性の下地膜となるような下地膜形成剤を用いることが好ましい。
ここで、「カチオン性の膜」とは、電荷密度をゼータ電位測定装置等で測定したときに測定値が0mVより大きくなる膜をいう。
下地膜形成剤の好ましい実施態様としては、下記式(I)で表されるモノマーから誘導される繰り返し単位を含むポリマーを含む下地膜形成剤が挙げられる。
【0021】
【化2】
[式中、
U
a1及びU
a2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、R
a1は、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、R
a2は、炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表す]
【0022】
下地膜形成剤は、上記特定のポリマーの他に、溶媒を含むことができる。また、下地膜形成剤は、必要に応じて細胞接着性物質を含むこともできる。
【0023】
<<ポリマー>>
下地膜形成剤に含まれるポリマーとしては、好ましくは、上記式(I)表されるモノマーから誘導される繰り返し単位を含むポリマーである。
上記ポリマーは、上記式(I)で表されるカチオン性モノマーと共に、下記式(II)で表されるアニオン性モノマーを重合することで得られるポリマーであることが好ましい。
【化3】
[式中、
R
bは、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表す]
【0024】
本明細書において、他に定義のない限り、「炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基」としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基又は1-エチルプロピル基が挙げられる。
【0025】
Ra1及びRbは、それぞれ独立して、水素原子及びメチル基から選ばれることが好ましい。
Ua1及びUa2は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基及びn-ブチル基から選ばれることが好ましいが、メチル基又はエチル基であることが好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0026】
本明細書において、他に定義のない限り、「炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキレン基」としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、1-メチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、ジメチルエチレン基、エチルエチレン基、ペンタメチレン基、1-メチル-テトラメチレン基、2-メチル-テトラメチレン基、1,1-ジメチル-トリメチレン基、1,2-ジメチル-トリメチレン基、2,2-ジメチル-トリメチレン基、1-エチル-トリメチレン基等が挙げられる。これらの中で、Ra2としてはエチレン基及びプロピレン基から選ばれることが好ましい。
【0027】
したがって、上記式(I)で表されるカチオン性モノマーとしては、2-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノメチルメタクリレートなどが挙げられ、2-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレートが好ましい。
上記式(II)で表されるアニオン性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられ、メタクリル酸が好ましい。
【0028】
前記ポリマー中の式(I)で表されるモノマー由来の単位/式(II)で表されるモノマー由来の単位のモル比が、100/0~50/50である。好ましくは98/2~50/50である。より好ましくは98/2~60/40であり、特に好ましくは98/2~70/30である。
式(II)のモル比が50以下であると、ポリマーのアニオン性による細胞の接着力低下を抑制できる。
【0029】
上記ポリマーは、式(I)/式(II)で表されるモノマーと共に、さらに2つ以上の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーとを重合することで得られるポリマーであってもよい。
2つ以上の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーとは、具体的には、2つ以上の炭素-炭素二重結合を有するモノマーであり、例えば多官能アクリレート化合物、多官能アクリルアミド化合物、多官能ポリエステル、又はイソプレン化合物などが挙げられる。
【0030】
好ましい具体例としては下記式(III)~(V)で表されるモノマーが挙げられる。
【化4】
【化5】
【化6】
【0031】
式中、Rc及びRdは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Reは、炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し、nは1~50の数を表す。これらの中で、式(III)で表されるモノマーであることが好ましい。
【0032】
上記ポリマー全体に対する式(III)~(V)で表されるモノマーのモル比は、好ましくは0~50%であり、さらに好ましくは2~25%である。
式(III)~(V)のモル比が50%以下であると、過度な架橋による高分子量化による製造中の固形分のゲル化を抑制でき、製造を容易にできる。
【0033】
Rc及びRdは、それぞれ独立して、水素原子及びメチル基から選ばれることが好ましい。
Reはメチレン基、エチレン基及びプロピレン基から選ばれることが好ましく、エチレン基が最も好ましい。
nは1~50の数であるが、nは1~30の数であることが好ましく、nは1~10の数であることが好ましい。
【0034】
上記ポリマー全体に対する式(II)で表されるモノマーの占めるモル%の値と、調製工程時のモノマー仕込み量全体に対する式(II)で表される単量体の占めるモル%の値の差は、0~10モル%である。本発明に係るポリマーは後述する製造方法により、モノマー仕込み比と、製造されたポリマーの実測値との差が少なく、0~10モル%であり、さらに好ましくは0~8モル%である。
【0035】
ポリマーの数平均分子量(Mn)は、20,000~1,000,000であり、50,000~800,000であることがさらに好ましい。
ポリマーの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、1.01~10.00であり、1.2~8.0であることが好ましく、1.4~6.0であることが好ましく、1.5~5.0であることが好ましく、1.6~4.5であることが好ましい。
数平均分子量(Mn)と数平均分子量(Mn)は、例えば実施例に記載のGel Filtration Chromatographyにより求めることができる。
【0036】
上記ポリマーを細胞構造体製造の下地膜として利用することで、例えば、細胞を接着させた後に剥離させて細胞凝集塊を形成させることが可能である。なお細胞構造体とは、細胞が凝集した結果形成する構造体を示し、球状やリング状などのように形状が限定されない。従来の細胞低接着プレート上での非接着培養により作製される細胞凝集塊と比較し、接着面積の規定による細胞凝集塊のサイズ調整(任意の大きさの細胞凝集塊が製造できる)などの点でメリットがある。
国際公開第2020/040247号公報に記載の内容は、参照として本発明に援用することができる。
【0037】
<<<ポリマーの製造方法>>
ポリマーは、熱重合法により製造することができる。例えば、上記式(I)のモノマーと、必要に応じて上記式(II)、さらに必要に応じて2つ以上の炭素-炭素不飽和結合を有するモノマー(式(III)~(V)で表されるモノマー等)と、ラジカル重合開始剤を有機溶媒に溶解し、混合物とした後、リフラックス温度とした有機溶媒に対して滴下重合することでポリマーを合成することができる。得られたポリマーを再沈殿、透析により精製してもよい。
【0038】
上記ポリマーの製造において使用する有機溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの炭素原子数1~4の脂肪族アルコール溶媒、トルエンなどの芳香族炭化水素溶媒あるいはその混合溶媒が挙げられる。
【0039】
上記式(I)のモノマーの重合反応を効率的に進めるためには、ラジカル重合開始剤を使用することが望ましい。
ラジカル重合開始剤の例としては、ジメチル1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-65、富士フイルム和光純薬(株)製)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN、富士フイルム和光純薬(株)製)、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n水和物(VA-057、富士フイルム和光純薬(株)製)、2,2’-(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)(VAm-110、富士フイルム和光純薬(株)製)などのアゾ重合開始剤が挙げられる。
重合開始剤の添加量としては、重合に用いられるモノマーの合計質量に対し、0.05質量%~5質量%である。
重合開始剤の使用は、重合反応の効率化のみならず、末端官能基の修飾による重合体物性の調整が可能となる。
【0040】
<<細胞接着物質>>
下地膜形成剤は、上記ポリマーの他に、細胞接着性物質を含むことができる。
細胞接着性物質を含むことにより、細胞の接着、伸展、増殖及び分化を促進することができる。
細胞接着性物質を含むことにより、下地膜に対する細胞のより均一な接着が実現でき、良質な細胞構造体を製造することが可能となる。
細胞接着性物質としては、細胞外基質(ECM)タンパク質、糖タンパク質、ペプチドなどの生物由来物質や、合成化合物(低分子、高分子)等の公知の物質を使用することができるが、生物由来物質でない化合物、例えば合成化合物(低分子、高分子)であることが好ましい。低分子とは、例えば重量平均分子量が2,000以下の化合物であり、高分子とは、例えば重量平均分子量が2,000以上であり、上限は例えば1,000,000である。
【0041】
細胞外基質(ECM)タンパク質の例としては、コラーゲン(例えばメルク社のI型コラーゲン(品番C9791、C7661、C1809、C2249、C2124)、II型コラーゲン(品番C9301)、IV型コラーゲン(品番C0543、C5533)、エラスチン(例えばメルク社品番:E1625、E6527)、フィブロネクチン(例えばメルク社品番F1141、F0635、F2518、F0895、F4759、F2006)、ラミニン(例えばメルク社品番:L6724、L2020、L4544)、ラミニン断片(例えばマトリクソーム社製:892011)、ビトロネクチン(例えばVTN-N(ギブコ社)、Vitronectin,Human, Recombinant,Animal Free(PeproTech社)、メルク社品番:V0132、V9881、V8379、08-126、SRP3186)が挙げられる。
【0042】
細胞接着性物質が、糖タンパク質であることが好ましい。具体的にはビトロネクチン、インテグリン、カドヘリン、フィブロネクチン、ラミニン、テネイシン、オスチオポンチン及び骨シアロタンパク質から選ばれることが好ましい。また、アミノ酸配列としてRGD配列を持つタンパク質であることが好ましい。
【0043】
ペプチドの例としては、ECMペプチド(Kollodis Bio Sciences社のMAPTrix(登録商標)、RGDペプチド(富士フイルム和光純薬社製:180-01531)が挙げられる。
【0044】
合成化合物(高分子)の例としては、ポリリジン(例えばメルク社製品:P4707、P4832、P7280、P9155,P6407,P6282,P7405,P5899)、ポリオルニチン(例えばメルク社品番P4975)が挙げられる。合成化合物(低分子)の例としてはアドヘサミン(例えば長瀬産業社製:AD-00000-0201)、合成環状RGDペプチド(例えばIRIS BIOTECH社製:LS-3920.0010)が挙げられる。
【0045】
下地膜形成剤中の、上記ポリマーと、細胞接着性物質の比(質量基準)は、細胞構造体が作製可能な下地膜形成剤が形成できれば特に制限はないが、例えば、100:0.1~100:100であることが好ましい。細胞接着性物質が0.1以上であると、細胞接着性が十分に発揮され、細胞接着性物質が100以下であると、細胞接着後の細胞の凝集(細胞凝集塊の形成)が容易にできる。
【0046】
<<溶媒>>
下地膜形成剤は、溶媒を含むことができる。
溶媒としては、上記ポリマーを溶解できるものであれば限定されないが、水を含む含水溶液であることが好ましい。
含水溶液とは、水、生理食塩水又はリン酸緩衝溶液などの塩含有水溶液、あるいは水又は塩含有水溶液とアルコールとを組み合わせた混合溶媒が挙げられる。
アルコールとしては、炭素原子数2~6のアルコール、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール(=ネオペンチルアルコール)、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール(=t-アミルアルコール)、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-3-ペンタノール、シクロペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、3,3-ジメチル-1-ブタノール、3,3-ジメチル-2-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、4-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンタノール及びシクロヘキサノールが挙げられ、単独で又はそれらの組み合わせの混合溶媒を用いてもよい。
含水溶液中の水の含有量は、例えば50質量%~100質量%、80質量%~100質量%、90質量%~100質量%である。
【0047】
さらに下地膜形成剤は、上記ポリマー、細胞接着性物質及び溶媒の他に、必要に応じて得られる下地膜の性能を損ねない範囲でその他の物質を添加することもできる。
その他の物質としては、pH調整剤、架橋剤、防腐剤、界面活性剤、容器又は基材との密着性を高めるプライマー、防カビ剤及び糖類等が挙げられる。
【0048】
(細胞構造体製造用容器の製造方法)
本発明の細胞構造体製造用容器の製造方法は、基材の表面に下地膜を形成する工程を含む。
製造方法で用いられる基材は、上述した通り、下記1)及び2)の特徴を有する。
1)基材の表面は、複数の第1領域と、複数の第1領域の各々を囲む第2領域とを有する。
2)表面に存在する複数の第1領域の各々は、下地膜形成能を有している。
【0049】
本発明の細胞構造体製造用容器の製造方法の好ましい実施態様としては、下記工程1~工程3を含む細胞構造体製造用容器の製造方法が挙げられる。
図3A~D(
図3A~
図3Dをまとめて
図3ともいう)は、細胞構造体製造用容器の製造から細胞構造体の製造までの一連の流れを説明するための模式図である。
以下、
図3のうち
図3A~Cを用いて、工程1~工程3について説明する。
【0050】
<工程1(
図3Aにおける(I)に対応>
凹凸形状の基材を用意する。
基材の素材、基材の凹凸の大きさについては、上述したとおりである。
【0051】
<工程2(
図3Bにおける(II)に対応>
下地膜形成剤を第1領域及び第2領域を含む基材の表面全体に一括で提供する。
より具体的には、例えば、下地膜形成剤として、式(I)で表されるモノマーから誘導される繰り返し単位を含むポリマー、必要に応じて細胞接着性物質、及び溶媒を含む水溶性ワニスを用意する。そして、該水溶性ワニス11を第1領域5及び第2領域6を含む基材1の表面4上に一括で提供する。
【0052】
本発明において、下地膜形成剤が提供される表面全体とは、複数の第1領域に下地膜形成剤が提供されていれば、必ずしも基材表面の100%である必要はない。
また、本発明において、下地膜形成剤を基材の表面全体に一括で提供するとは、第1領域にのみ選択的に提供するような場合は含まない。第1領域及び第2領域を問わず、両方の領域に無作為に下地膜形成剤が提供されれば、本発明の「表面全体に一括で提供」に該当する。
また、本発明において、下地膜形成剤を基材表面に提供するとは、表面上に下地膜形成剤が提供されれば、必ずしも下地膜形成剤が直接表面上に触れる場合を意図するものではない。つまり、例えば、第2領域に気泡が存在し、第2領域の基材表面に下地膜形成剤が直接接しない場合であっても、第2領域上にも下地膜形成剤が提供されており、第2領域をまたいで隣り合う第1領域上に下地膜形成剤が提供されていれば、本発明の「基材表面に下地膜形成剤が提供されている」に該当する。
図3Bの(II)では、下地膜形成剤である水溶性ワニス11を、第1領域5及び第2領域6を含む基材1の表面4上に一括で提供する様子を示している。
凹部のサイズや下地膜形成剤の塗布量を適宜調整することにより、
図3Bの(II)で示すように、第2領域6の凹部に気泡12(本発明では、泡噛みともいう)を生じさせ、第2領域6に下地膜を形成させないようにすることができる。
第2領域6に下地膜を形成させないようにするには、下地膜形成剤の塗布量は、少ない方が好ましい。塗布量が多いと、重力で凹部に下地膜形成剤が流れ込みやすくなるからである。
下地膜形成剤を基材表面に提供する方法としては、例えば、浸漬法を用いることができる。
基材表面が下地膜形成剤に浸漬するよう、ピペットやシリンジ等、或いは自動分注装置に付帯した注入ノズルを用いて過剰の圧力をかけないように下地膜形成剤を基材(容器)の表面に添加する方法が用いられる。
【0053】
<工程3(
図3Cにおける(III)に対応>
工程2で基材表面上に提供された下地膜形成剤のうち、過剰の下地膜形成剤は、ピペットやスポイト等の廃液ノズルで吸い取り、廃液に供する。
これにより、第1領域である凸部に選択的に下地膜形成剤からなる膜が形成される。
該下地膜形成剤からなる膜は、その後、乾燥工程に供してもよい。乾燥工程により、下地膜形成剤中の溶媒を取り除くことで、基材表面へ完全に固着する。
図3Cでは、例えば、上記式(I)で表されるモノマーから誘導される繰り返し単位を含むポリマー含む下地膜形成剤を用いて形成されたカチオン性の下地膜13が第1領域5の凸部上に形成されている様子が示されている。
【0054】
また、下地膜に残存する不純物、未固着のポリマー等を無くすために、水及び電解質を含む水溶液から選ばれる少なくとも1種の溶媒で洗浄する工程を実施してもよい。洗浄は、流水洗浄又は超音波洗浄等が望ましい。電解質を含む水溶液は、PBS、生理食塩水(塩化ナトリウムのみを含むもの)、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水及びベロナール緩衝生理食塩水が好ましく、PBSが特に好ましい。
固着後は水、PBS及びアルコール等で洗浄しても下地膜は溶出せずに基材に強固に固着したままである。
下地膜の膜厚は、最大膜厚と最小膜厚が1~1000nmの範囲であり、好ましくは5~500nmの範囲である。
下地膜形成剤を基材表面に塗布し乾燥することにより、基材表面に複数存在する第1領域に下地膜を一度に形成することができる。特に本発明によれば、基材表面に複数存在する第1領域の形状をそれぞれ、同じ形及び大きさに揃えることができ、これにより、これら第1領域上に形成された下地膜において、均一なサイズの細胞構造体を作製することが可能となる。つまり、本発明により、複数の均一な細胞構造体を大量に作製することができる細胞構造体製造用容器を、簡便な方法で製造することができる。
【0055】
(細胞構造体の製造方法)
本発明の細胞構造体の製造方法は、本発明の細胞構造体製造用容器を用い、さらに細胞を播種する工程を含む。
【0056】
<細胞>
細胞とは、動物又は植物を構成する最も基本的な単位であり、その要素として細胞膜の内部に細胞質と各種の細胞小器官をもつものである。この際、DNAを内包する核は、細胞内部に含まれても含まれなくてもよい。例えば、本発明における動物由来の細胞には、精子や卵子などの生殖細胞、生体を構成する体細胞、幹細胞(多能性幹細胞等)、前駆細胞、生体から分離された癌細胞、生体から分離され不死化能を獲得して体外で安定して維持される細胞(細胞株)、生体から分離され人為的に遺伝子改変が成された細胞、生体から分離され人為的に核が交換された細胞等が含まれる。
生体を構成する体細胞の例としては、以下に限定されるものではないが、線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、赤血球、血小板、マクロファージ、単球、骨細胞、骨髄細胞、周皮細胞、樹状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、ニューロン、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞(たとえば、平滑筋細胞又は骨格筋細胞)、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、造血前駆細胞(例えば、臍帯血由来のCD34陽性細胞)、及び単核細胞等が含まれる。当該体細胞は、例えば皮膚、腎臓、脾臓、副腎、肝臓、肺、卵巣、膵臓、子宮、胃、結腸、小腸、大腸、膀胱、前立腺、精巣、胸腺、筋肉、結合組織、骨、軟骨、血管組織、血液(臍帯血を含む)、骨髄、心臓、心筋、眼、脳又は神経組織などの任意の組織から採取される細胞が含まれる。さらに当該体細胞は、幹細胞又は前駆細胞から分化誘導された細胞が含まれる。
【0057】
幹細胞とは、自分自身を複製する能力と他の複数系統の細胞に分化する能力を兼ね備えた細胞であり、その例としては、以下に限定されるものではないが、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、癌幹細胞、毛包幹細胞などが含まれる。多能性幹細胞としては、前記幹細胞のうち、ES細胞、胚性生殖幹細胞、iPS細胞が挙げられる。
前駆細胞とは、前記幹細胞から特定の体細胞や生殖細胞に分化する途中の段階にある細胞である。
癌細胞とは、体細胞から派生して無限の増殖能を獲得した細胞である。
細胞株とは、生体外での人為的な操作により無限の増殖能を獲得した細胞である。
これらの中でも、線維芽細胞、幹細胞、幹細胞の中でも多能性幹細胞がより好ましい。
【0058】
本発明の細胞構造体の製造方法の好ましい実施態様としては、上記工程3により得られた細胞構造体製造用容器を用い、下記工程4を経て細胞構造体を製造する製造方法が挙げられる。
以下、
図3のうち
図3Dを用いて、工程4について説明する。
【0059】
<工程4(
図3Dにおける(IV)に対応>
本発明の細胞構造体製造用容器を用い、細胞構造体を製造し得るサイズで、高密度にかつ好ましくは規則的に配された第1領域5の上に形成された下地膜13上に、細胞を播種する。
細胞の播種工程は、特に限定はなく、細胞の種類に応じて適切な公知の方法で行うことができる。
細胞を播種することにより、第1領域5の上に形成された下地膜13の領域において、細胞構造体14を作製することができる。
細胞構造体とは、細胞が立体的に凝集した結果、形成された構造体をいい、特に形状は限定されない。球状、半球状、リング状等、どの形状であってもよい。
カチオン性の下地膜を用いた場合には、細胞凝集塊(スフェロイド)を良好に作製することができる。
また、上記ポリマーを含む下地膜形成剤からなる下地膜を用いた場合には、球状の細胞凝集塊(スフェロイド)を良好に作製することができる。
本発明の細胞構造体製造用容器では、第1領域の各々のサイズが揃っているため、該第1領域の上に形成された下地膜に所定量の細胞を播種すると、均一なサイズの細胞構造体を作製することができる。
本発明の細胞構造体製造用容器では、下地膜形成剤を基材表面に提供した際、第2領域6の凹部の狭い溝に気泡12が生じやすいため、第2領域6における下地膜の形成は阻害されやすい。
また、凹部に下地膜が形成されているか否かにかかわらず、たとえ、凹部の溝に細胞が入ったとしても、溝幅が狭いため凹部に存在する細胞は、凸部上の細胞と勝手に集合する自己凝集が起こり、第1領域の凸部上に形成されている細胞構造体に取り込まれる傾向が強い。
つまり、本発明では、細胞構造体は第2領域において作製されにくくしており、細胞構造体の作製は、もっぱら第1領域において行われるように構成している。
したがって、大きさを揃え、規則的に配置した複数の第1領域上に下地膜を形成してなる本発明の細胞構造体製造用容器を用いると、第1領域の下地膜上の各々において、均一なサイズの細胞構造体を作製することができる。
【実施例0060】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0061】
<重量平均分子量の測定方法>
下記合成例に示す重量平均分子量はGel Filtration Chromatography(以下、GFCと略称する)による結果である。
(測定条件)
・装置:HLC-8320GPC(東ソー(株)製)
・GFCカラム:TSKgel G 6000+3000PWXL-CP
・流速:1.0mL/min
・溶離液:塩含有の水/有機混合溶媒
・カラム温度:40℃
・検出器:RI
・注入濃度:ポリマー固形分0.05質量%
・注入量:100μL
・検量線:三次近似曲線
・標準試料:ポリエチレンオキサイド(Agilent社製)×10種
【0062】
<合成例1>
メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)24.00g、メタクリル酸(東京化成工業(株)製)1.46g、エチレングリコールジメタクリレート(東京化成工業(株)製)5.09g、ジメチル 1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)0.31g、2-プロパノール111.09gを混合し、リフラックス温度とした2-プロパノール166.63gに対して滴下重合することでポリマーを合成した。反応生成物を貧溶媒であるヘキサンで再沈殿させ、析出物を濾過により回収し減圧乾燥させた。
GFCによるこのポリマーの重量平均分子量は350,000であった(以下、「合成例ポリマー1」と称す)。
【0063】
<調製例1>
上記合成例1で得られたポリマー0.0015gに、純水20.0g、Recombinant Human Vitronectin(Peprotech社)0.00030gを加えて十分に撹拌し、下地膜形成剤を調製した。
【0064】
<細胞構造体製造用容器に使用するための基材の作製例1>
図1に記載の基材の底面3の凹凸形状を転写できるような金型を作成する。
SYLGARD 184シリコーン・エラストマー(ダウコーニング社製)の主剤10.00gと硬化剤1.00gの比率で混合・撹拌し、作成した金型に流し込む。
減圧ポンプで泡抜きをおこなったあと100℃で1時間オーブンにて乾燥する。室温まで冷却してから金型からポリジメチルシロキサン(PDMS)の硬化物を取り出す。純水の中に硬化物を浸漬させ、120℃で15分間オートクレーブ滅菌処理を行う。
凸部を中心縦横距離が0.5mmで、4点の角部分から対角線上に内側に0.1mmを中心に半径0.1mmの円で描いた形状、それ以外の部分を溝部としてディンプル間距離が0.1mm、深さ0.1mmとすることで、凸部が81個を有する
図1に示すPDMS基材1を得た。
図1において、aの長さは直径(φ)=15mmであり、bの長さは7mmであり、cの長さは4mmであり、dの長さは5.5mmであり、eの長さは4.5mmであり、fの長さは7mmである。
また、
図1において、gの長さは0.5mmであり、hの長さは0.1mmであり、iの長さは0.1mmである。jの長さはiの0.1mmにさらに1mm以上の厚みを足したものとなる。
【0065】
<細胞構造体製造用容器に使用するための基材の作製例2>
図2に記載の基材の形状を転写できるような金型を作成する。
図2も、
図1と同様、
図2A~
図2Cをまとめて
図2という。
SYLGARD 184シリコーン・エラストマー(ダウコーニング社製)の主剤10.00gと硬化剤1.00gの比率で混合・撹拌し、作成した金型に流し込む。
減圧ポンプで泡抜きをおこなったあと100℃で1時間オーブンにて乾燥する。室温まで冷却してから金型からポリジメチルシロキサン(PDMS)の硬化物を取り出す。純水の中に硬化物を浸漬させ、120℃で15分間オートクレーブ滅菌処理を行う。
凸部を中心縦横距離が0.5mmで、4点の角部分から対角線上に内側に0.1mmを中心に半径0.1mmの円で描いた形状、それ以外の部分を溝部としてディンプル間距離が0.2mm、深さ0.2mmとすることで、凸部が64個を有する
図2に示すPDMS基材2を得た。
図2において、aの長さは直径(φ)=15mmであり、bの長さは7mmであり、cの長さは4mmであり、dの長さは5.8mmであり、eの長さは4.5mmであり、fの長さは7mmである。
また、
図2において、gの長さは0.5mmであり、hの長さは0.2mmであり、iの長さは0.2mmである。jの長さはiの0.2mmにさらに1mm以上の厚みを足したものとなる。
【0066】
<実施例1>
PDMS基材1に対して調製例1で作製した下地膜形成剤50μLを加えた。
この時の溝部における下地膜形成剤の塗布状態を下記表1に記載する。また、その時の基材表面の様子を撮影した写真を
図4Aに示す。
次に、基材上に提供した下地膜形成剤のうち過剰の下地膜形成剤は廃液した。その後、70℃のオーブンにてPDMS基材1を24時間乾燥した。
これにより、基材の凸部上に下地膜が形成された細胞構造体製造用容器1を得た。
【0067】
<実施例2>
PDMS基材1に対して調製例1で作製した下地膜形成剤200μLを加えた。
この時の溝部における下地膜形成剤の塗布状態を下記表1に記載する。また、その時の基材表面の様子を撮影した写真を
図4Bに示す。
次に、基材上に提供した下地膜形成剤のうち過剰の下地膜形成剤は廃液した。その後、70℃のオーブンにてPDMS基材1を24時間乾燥した。
これにより、基材の凸部上に下地膜が形成された細胞構造体製造用容器2を得た。
【0068】
<実施例3>
PDMS基材2に対して調製例1で作製した下地膜形成剤50μLを加えた。
この時の溝部における下地膜形成剤の塗布状態を下記表1に記載する。また、その時の基材表面の様子を撮影した写真を
図4Cに示す。
次に、基材上に提供した下地膜形成剤のうち過剰の下地膜形成剤は廃液した。その後、70℃のオーブンにてPDMS基材2を24時間乾燥した。
これにより、基材の凸部上に下地膜が形成された細胞構造体製造用容器3を得た。
【0069】
<実施例4>
PDMS基材2に対して調製例1で作製した下地膜形成剤200μLを加えた。
この時の溝部における下地膜形成剤の塗布状態を下記表1に記載する。また、その時の基材表面の様子を撮影した写真を
図4Dに示す。
次に、基材上に提供した下地膜形成剤のうち過剰の下地膜形成剤は廃液した。その後、70℃のオーブンにてPDMS基材2を24時間乾燥した。
これにより、基材の凸部上に下地膜が形成された細胞構造体製造用容器4を得た。
【0070】
【0071】
<細胞の調製>
細胞は、ヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADSC:セルソース(株)製)を用いた。細胞の培養には、低血清培地Mesenchymal Stem Cell Growth Medium 2(タカラバイオ(株)製:血清濃度2%)を用いた。細胞は、37℃/CO2インキュベーター内にて5%二酸化炭素濃度を保った状態で、直径10cmのシャーレ(培地10mL)を用いて2日間以上静置培養した。引き続き、本細胞をPBS溶液(富士フイルム和光純薬(株)製)3mLで洗浄した後、トリプシン-EDTA溶液(PromoCell社製)3mLを添加して室温で3分間静置し細胞を剥離した。上記の低血清培地を7mL添加して細胞を回収した。本懸濁液を遠心分離((株)トミー精工製、型番LC―230、200×g/3分、室温)後、上清を除き、上記の培地を添加して細胞懸濁液を調製した。
【0072】
<細胞接着確認試験>
実施例1~4で作製した細胞構造体製造用容器1~4に対して、細胞懸濁液を1.0×10
6cells/cm
2となるように100μL加えた。その後、5%二酸化炭素濃度を保った状態で、37℃/CO
2インキュベーター内にて静置した。タイムラプスイメージングデバイスCytoSMART Lux2(CytoSMART Technologies製)を用いて細胞の様子を観察した。
観察開始から24時間後における細胞構造体製造用容器内の細胞の様子を下記表2に記載する。また、その時の基材表面における細胞の様子を撮影した写真を
図5A~
図5D(
図5A~
図5Dをまとめて
図5ともいう)に示す。
【0073】
【0074】
図5で示すように、実施例の中でも、特に実施例1は良好な結果を示した。実施例1では、基板表面の第1領域である凸部にのみ下地膜が形成されていることが確認できた。また、該第1領域上の下地膜において、均一な細胞凝集塊(スフェロイド)が作製できていることが確認できた。尚、観察2日後の時点で、下地膜に接着した細胞の一部が下地膜から剥がれて凝集し、細胞凝集塊(スフェロイド)を形成していることが確認できた。