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特開2024-139840セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法
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  • 特開-セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法 図1
  • 特開-セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139840
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01C 1/18 20060101AFI20241003BHJP
   C04B 7/44 20060101ALI20241003BHJP
   B01D 53/56 20060101ALI20241003BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C01C1/18 A
C04B7/44 ZAB
B01D53/56 220
B01D53/78
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050759
(22)【出願日】2023-03-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翔平
【テーマコード(参考)】
4D002
4G112
【Fターム(参考)】
4D002AA12
4D002AC05
4D002BA02
4D002DA35
4D002EA07
4D002FA06
4D002FA10
4G112KA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】セメント製造時の排ガス二酸化窒素を利用した、環境負荷低減可能な、硝酸アンモニウムの製造方法の提供。
【解決手段】排ガス中の二酸化窒素を水と接触させてNOx含有液とする二酸化窒素回収工程、還元性触媒と該NOx含有液を接触させてアンモニアを生成する還元反応工程、アンモニアを廃熱ガスで気化するアンモニア回収工程、アンモニア回収後の残部を固液分離して水酸化鉄と未利用の残部のNOxとを分離する固液分離工程、分離された硝酸態亜硝酸態窒素含有液とNOx含有液とを、気化回収したアンモニアと接触させて硝酸アンモニウムを調製する中和工程、還元反応工程で使用するマグネタイトは、硫酸化鉄と水酸化ナトリウム水溶液とを反応させて固液分離して得られ、該固液分離での該硫酸ナトリウム水溶液は電気透析により水酸化ナトリウムと硫酸とに分離され、該水酸化ナトリウムを上記マグネタイトの調製に循環使用する触媒製造工程を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント排ガス中の二酸化窒素を水と接触させ、水に二酸化窒素を吸収させて硝酸態・亜硝酸態窒素含有液として該二酸化窒素を回収する、二酸化窒素回収工程(1)、
次いで還元鉄及びマグネタイトと、前記二酸化窒素回収工程(1)で得られた硝酸態・亜硝酸態窒素含有液の全部または一部とを酸性条件下で接触させて、水酸化鉄とアンモニアを生成する還元反応工程(2)、
次いで、前記還元反応工程(2)で生成したアンモニアを、セメント製造工程からの廃熱ガスを利用して蒸留して気化させて回収する、アンモニア回収工程(3)、
前記アンモニア回収工程(3)でアンモニアを回収した後の残部を固液分離して、該アンモニア回収工程(3)を経た上記還元反応工程(2)からの水酸化鉄と未利用の残部の硝酸態・亜硝酸態窒素とを固液分離する固液分離工程(4)、
前記固液分離工程(4)で分離された硝酸態・亜硝酸態窒素含有液と、上記二酸化窒素回収工程(1)で得られ上記還元反応工程(2)に導入されなかった残部の硝酸態・亜硝酸態窒素含有液とを、前記アンモニア回収工程(3)で気化回収したアンモニアと接触させて、硝酸アンモニウムを調製する中和工程(5)、及び、
上記還元反応工程(2)で使用するマグネタイトは、硫酸化鉄と水酸化ナトリウム水溶液とを反応させて生成したマグネタイトと硫酸ナトリウム水溶液とを固液分離して調製され、当該硫酸ナトリウム水溶液は電気透析により水酸化ナトリウムと硫酸とに分離され、得られた水酸化ナトリウムを、前記硫酸化鉄と反応させるマグネタイトの調製に循環使用する、触媒製造工程(7)を備えること
を特徴とする、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の硝酸アンモニウムの製造方法において、上記触媒製造工程(7)で得られた硫酸は、上記還元反応工程(2)を酸性条件とするために用いるか、及び/又は、マグネタイトを調製した後の未反応の水酸化ナトリウムと反応させて硫酸ナトリウムとし、上記触媒製造工程(7)で固液分離された硫酸ナトリウム水溶液とともに上記電気透析に循環利用することを特徴とする、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の硝酸アンモニウムの製造方法において、上記触媒製造工程(7)で、マグネタイトを調製する際に生成される水素は、セメントを製造時の燃焼原料として循環利用することを特徴とする、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の硝酸アンモニウムの製造方法において、更に、上記中和工程(5)で調製された硝酸アンモニウムを造粒する造粒工程(6)を備えることを特徴とする、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の硝酸アンモニウムの製造方法において、上記固液分離工程(4)で分離された水酸化鉄は、空気にさらされることにより酸化水酸化鉄となり、該酸化水酸化鉄はセメント原料として用いられることを特徴とする、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法。
【請求項6】
請求項1記載のセメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法において、上記中和工程(5)で調製された硝酸アンモニウムは、硝酸アンモニウム及び硝酸態・亜硝酸態窒素含有液中に含まれ、当該含有液を、廃熱ガスを用いて170~180℃に加熱蒸留して硝酸アンモニウムを濃縮させるともに、残存する硝酸態・亜硝酸態窒素を気化させて上記中和工程(5)に循環させ、濃縮した硝酸アンモニウムに、上記アンモニア回収工程(3)で気化したアンモニアの一部を添加して、濃縮した硝酸アンモニウムに混在する未反応の硝酸態・亜硝酸態窒素と反応させて硝酸アンモニウムの純度を向上させ、冷却することで結晶化硝酸アンモニウムを得ることを特徴とする、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法に関し、特にセメント工場で発生する二酸化窒素を高効率で回収して、簡易的且つ有効に環境負荷の低減を図ることができるとともに、当該硝酸アンモニウムの調製の過程で用いる触媒の調製についても環境負荷を抑制することができる、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、セメント製造において、石炭、重油、リサイクル燃料を燃焼させて発生した排ガスは、セメント原料の乾燥に利用された後、含有される集塵を集塵工程にて回収して系外へ排出されている。
系外に排出される排ガス中には、二酸化炭素や微量の塩化物の他に、燃料の燃焼等による窒素酸化物(以下「NOx」と表記する)も多く含まれており、NOxは、酸性雨等の環境負荷や、呼吸器系等、人体に悪影響を与えるものとなっている。
【0003】
このような問題点を踏まえ、セメント工場では窒素成分の少ない燃料の選出や、脱硝剤を用いたNOx排出規制などにより、NOx排出量を減らす提案がされている。
【0004】
特許第5100432号公報(特許文献1)には、セメント工場におけるNOxの脱硝技術として、尿素やアルコールを用いたSCR法が提案されており、具体的には、脱硝剤と、窒素酸化物を含む排ガスを接触させて、該排ガスを脱硝させる排ガスの処理方法であって、前記脱硝剤として、油を含む水溶性の廃液、灰を水洗して生じる廃液、アルコール類を含む廃液、及び、セメントもしくはコンクリート工場で生じる廃液からなる群より選ばれる1種または2種以上の廃液と、尿素を混合してなる脱硝剤を用い、前記廃液の種類及び前記廃液と尿素の質量割合を、特定の条件を満たすように定める排ガスの処理方法が提案されている。
【0005】
しかし、かかる方法は、脱硝反応の最適温度を800℃以上としており、尿素噴霧域を通過した熱ガスは脱硝されることはなく、そうすると400ppm程度のNOxが大気に排出されているものと推測することができる。
【0006】
また、特開2003-175315号公報(特許文献2)には、酸素及び窒素酸化物を含む高温ガス中の窒素酸化物を吸収する窒素酸化物吸収剤であって、アルカリ土類元素の酸化物又は水酸化物と、遷移元素の酸化物との混合物を含み、前記アルカリ土類元素がバリウム(Ba)及び/又はストロンチウム(Sr)であり、前記遷移元素が銅(Cu)及び/又は鉄(Fe)であることを特徴とした窒素酸化物吸収剤が提案されている。
【0007】
更にまた、特許第5963405号公報(特許文献3)には、被処理ガス中の被処理ガス成分であるNOxをオゾン酸化し、このオゾン酸化の後の被処理ガス中のNOx成分が吸収液との混合接触によって亜硝酸を生じ、該亜硝酸が転化することにより発生するNOxの気相への放散を、前記吸収液中に予め添加されたオゾンにより抑制または防止するNOxを含有する被処理ガスの脱硝方法であって、前記被処理ガス成分に対する前記被処理ガス中に供給のオゾンのモル比を、0.1から2倍の範囲とすると共に、前記被処理ガス成分を吸収する前記吸収液中に、1ppm以上、飽和濃度以下のオゾンを予め添加し、前記オゾンが供給された前記被処理ガスと、前記オゾンが添加された吸収液との混合接触が、気液分離機能を有する繊維状の多孔質体内で行われ、前記多孔質体の下方で前記気液分離が行われることを特徴とするNOxを含有する被処理ガスの脱硝方法が開示されている。
【0008】
上記従来の特許文献2の方法は、高温ガス条件下(300~600℃)で実施されるものであり、セメント工場での適用は、セメント燃焼排ガスに集塵が混在しているため、処理が困難である。
また、上記従来の特許文献3の方法は、常温でNOxを水で回収する方法であるが、回収した亜硝酸をオゾン等を用いて酸化することが必要であり、工程が複雑になりコストが高く、実際のセメント工場での導入は難しい。
【0009】
このように、従来の方法では、セメント工場において発生する排ガス中のNOxの脱硝は限られた温度域でしか実施することができなかったり、工程が複雑になっており、回収したNOxを有効的に再利用できていない。また、排ガス中のNOxを利用して、十分な環境負荷低減が図られた硝酸アンモニウムの製造方法が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第5100432号公報
【特許文献2】特開2003-175315号公報
【特許文献3】特許第5963405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記問題を解決し、セメント工場においてセメント製造中に発生する廃ガス中の二酸化窒素を、簡易的且つ高効率で脱硝処理することができ、大気中への排出を抑制して、環境負荷を低減することが可能な、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法を提供することである。
【0012】
また、セメント排ガス中の二酸化窒素を、セメント製造過程で排出される廃熱ガスを利用して、硝酸アンモニウムに製造するとともに、硝酸アンモニウムを製造する過程で使用する触媒の製造においても環境負荷の低減を図るとともに、得られる残渣をセメント製造時に有効に用いることができる、セメント工場等に適した、環境負荷の低減に優れた循環サイクルを形成することを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(I)本発明のセメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法は、
セメント排ガス中の二酸化窒素を水と接触させ、水に二酸化窒素を吸収させて硝酸態・亜硝酸態窒素含有液として該二酸化窒素を回収する、二酸化窒素回収工程(1)、
次いで還元鉄及びマグネタイトと、前記二酸化窒素回収工程(1)で得られた硝酸態・亜硝酸態窒素含有液の全部または一部とを酸性条件下で接触させて、水酸化鉄とアンモニアを生成する、還元反応工程(2)、
次いで、前記還元反応工程(2)で生成したアンモニアを、セメント製造工程からの廃熱ガスを利用して蒸留して気化させて回収する、アンモニア回収工程(3)、
前記アンモニア回収工程(3)でアンモニアを回収した後の残部を固液分離して、該アンモニア回収工程(3)を経た上記還元反応工程(2)からの水酸化鉄と未利用の残部の硝酸態・亜硝酸態窒素とを固液分離する、固液分離工程(4)、
前記固液分離工程(4)で分離された硝酸態・亜硝酸態窒素含有液と、上記二酸化窒素回収工程(1)で得られ上記還元反応工程(2)に導入されなかった残部の硝酸態・亜硝酸態窒素含有液とを、前記アンモニア回収工程(3)で気化回収したアンモニアと接触させて硝酸アンモニウムを調製する、中和工程(5)、及び、
上記還元反応工程(2)で使用するマグネタイトは、硫酸化鉄と水酸化ナトリウム水溶液とを反応させて生成したマグネタイトと硫酸ナトリウム水溶液とを固液分離して調製され、当該硫酸ナトリウム水溶液は電気透析により水酸化ナトリウムと硫酸とに分離され、得られた水酸化ナトリウムを、前記硫酸化鉄と反応させるマグネタイトの調製に循環使用する、触媒製造工程(7)を備えること
を特徴とする、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法である。
【0014】
(II)好適には、上記(I)の本発明のセメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法において、上記触媒製造工程(7)で得られた硫酸は、上記還元反応工程(2)を酸性条件とするために用いるか、及び/又は、マグネタイトを調製した後の未反応の水酸化ナトリウムと反応させて硫酸ナトリウムとし、上記触媒製造工程(7)で固液分離された硫酸ナトリウム水溶液とともに上記電気透析に循環利用することを特徴とする、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法である。
【0015】
(III)更に好適には、上記(I)又は(II)の本発明のセメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法において、上記触媒製造工程(7)で、マグネタイトを調製する際に生成される水素は、セメントを製造時の燃焼原料として循環利用することを特徴とする、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法である。
【0016】
(IV)更に好適には、上記(I)又は(II)の本発明のセメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法において、更に、上記中和工程(5)で調製された硝酸アンモニウムを造粒する造粒工程(6)を備えることを特徴とする、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法である。
【0017】
(V)更に好適には、上記(I)又は(II)の本発明のセメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法において、上記固液分離工程(4)で分離された水酸化鉄は、空気にさらされることにより酸化水酸化鉄となり、該酸化水酸化鉄はセメント原料として用いられることを特徴とする、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法である。
【0018】
(VI)好適には、上記(I)の本発明のセメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法において、上記中和工程(5)で調製された硝酸アンモニウムは、硝酸アンモニウム及び硝酸態・亜硝酸態窒素含有液中に含まれ、当該含有液を、廃熱ガスを用いて170~180℃に加熱蒸留して硝酸アンモニウムを濃縮させるともに、残存する硝酸態・亜硝酸態窒素を気化させて上記中和工程(5)に循環させ、濃縮した硝酸アンモニウムに、上記アンモニア回収工程(3)で気化したアンモニアの一部を添加して、濃縮した硝酸アンモニウムに混在する未反応の硝酸態・亜硝酸態窒素と反応させて硝酸アンモニウムの純度を向上させ、冷却することで結晶化硝酸アンモニウムを得ることを特徴とする、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の硝酸アンモニウムの製造方法により、セメント工場から排出される排ガス中の二酸化窒素を高効率で脱硝することが可能となり、環境的にも優れ、また回収した硝酸態・亜硝酸態窒素は、特に酸化処理をすることなく還元処理を行うことができ、最終生成物として得られる硝酸アンモニウムはセメント製造の原料となる石灰石鉱山の発破剤等として有効活用することができる、環境的に優れた循環再生サイクルを生み出すことが可能となる。
【0020】
更に、セメント製造工程で排出される廃熱ガスは、還元性触媒であるマグネタイトを製造するため及びアンモニアを気化するための熱源として使用できるため、セメント製造工程での廃熱ガスを有効利用することも可能となる。
更に、硝酸アンモニウムを製造する過程で使用する還元性触媒の製造においても環境負荷の低減を図ることができるとともに、得られる残渣をセメント製造時に有効に用いることができる、セメント工場等に適した、環境負荷の低減に優れた循環サイクルを形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のセメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法の概要の一例を示すフロー図である。
図2図1中の触媒製造工程(7)を示す一例の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を、図1及び図2を参照しながら以下の好適例により説明するが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本発明のセメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法は、
セメント排ガス中の二酸化窒素を水と接触させ、水に二酸化窒素を吸収させて硝酸態・亜硝酸態窒素含有液として該二酸化窒素を回収する、二酸化窒素回収工程(1)、
次いで還元鉄及びマグネタイトと、前記二酸化窒素回収工程(1)で得られた硝酸態・亜硝酸態窒素含有液の全部または一部とを酸性条件下で接触させて、水酸化鉄とアンモニアを生成する、還元反応工程(2)、
次いで、前記還元反応工程(2)で生成したアンモニアを、セメント製造工程からの廃熱ガスを利用して蒸留して気化させて回収する、アンモニア回収工程(3)、
前記アンモニア回収工程(3)でアンモニアを回収した後の残部を固液分離して、該アンモニア回収工程(3)を経た上記還元反応工程(2)からの水酸化鉄と未利用の残部の硝酸態・亜硝酸態窒素とを固液分離する、固液分離工程(4)、
前記固液分離工程(4)で分離された硝酸態・亜硝酸態窒素含有液と、上記二酸化窒素回収工程(1)で得られ上記還元反応工程(2)に導入されなかった残部の硝酸態・亜硝酸態窒素含有液とを、前記アンモニア回収工程(3)で気化回収したアンモニアと接触させて、硝酸アンモニウムを調製する、中和工程(5)、及び、
上記還元反応工程(2)で使用するマグネタイトは、硫酸化鉄と水酸化ナトリウム水溶液とを反応させて生成したマグネタイトと硫酸ナトリウム水溶液とを固液分離して調製され、当該硫酸ナトリウム水溶液は電気透析により水酸化ナトリウムと硫酸とに分離され、得られた水酸化ナトリウムを、前記硫酸化鉄と反応させるマグネタイトの調製に循環使用する、触媒製造工程(7)を備える、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法である。
【0024】
図1に示すように、セメント工場ではセメントを製造するにあたり、一般的には、各原料を粉砕する原料粉砕工程、粉砕された原料を焼成してセメントクリンカを製造するクリンカ焼成工程、その後セメントクリンカを粉砕して粉砕セメントクリンカと石膏とを混合するセメント仕上げ工程を経てセメントを製造している。
【0025】
セメントクリンカを製造するためには、燃料を焼成して、焼成温度を約1300~1500℃として、セメントキルンでセメント原料を焼成してセメントクリンカを製造している。
燃料には、廃棄物の有効利用の観点より、家庭ごみ、下水汚泥、廃酸・廃アルカリ、廃プラスチック、乾燥汚泥、廃白土、木くず、再生油、ASR、PKS等の廃棄物を利用して燃焼させ、得られた熱源をセメントクリンカ焼成工程の熱源として用いている。
また、セメント原料としても、窒素含有廃棄物、例えば石炭灰、一般焼却灰、建設発生土、燃え殻、汚泥、鋳物砂、製鋼ダスト、徐冷スラグ等の廃棄物を、原料として用いることも可能である。
【0026】
ここで、排ガスとは、これらの廃棄物を焼成して排出される排ガス等であり、例えばクリンカ焼成工程で使用されてセメントダスト等のダストやCO等が多く含まれているガスを意味するものである。
排ガスには、種々のダストが含まれており、当該排ガス中のダストを、例えば電気集塵機にて回収して、排ガスを冷却、例えば約30℃まで冷却する。
当該冷却した排ガス中のNOx量は、例えば300~400ppmであるが、本発明においては、下記のNOx回収工程(1)にて排ガス中のNOxを回収することで、例えば、NOx回収工程前の排ガス中に含まれるNOx量が350ppmであった場合には、NOx回収工程(1)適用後の排気中に含まれるNOx量が28ppmまで低減させることが可能となる。
【0027】
セメント製造工程から排出される燃焼ガス等の排ガス中のダストが回収され冷却された排ガス、例えば40℃以下に冷却された排ガスを、NOx(二酸化窒素等)回収工程(1)に導入して、水と接触させる。
当該NOx回収工程(1)は、水によるNOx吸収除去プロセスを利用する回収工程である。
【0028】
具体的には、ダスト回収後に冷却した排ガスを水と接触させて、排ガス中に含有されるNOxを水と接触させることでNOxを水に吸収させ、当該NOxを硝酸態・亜硝酸態窒素含有液として回収する。
例えば、熱交換器を用いて間接的に熱回収するとともに、NOxと水とを反応させてNOxを硝酸態・亜硝酸態窒素とすることができる。
【0029】
回収対象となるセメント排ガス中のNOxは次の式(ア)で示されるような平衡関係を有する。
2NO→2NO←→N ・・・(ア)
また、以下の反応式(イ)に示されるように、NOが水と接触することにより、硝酸態・亜硝酸態窒素を生成することとなる。
2NO+HO→HNO+HNO ・・・(イ)
(N+HO→HNO+HNO
【0030】
得られた硝酸態・亜硝酸態窒素含有液中の((HNO+HNO)/含有液)体積比は、特に限定されないが、例えば、0.01~0.15、好ましくは0.01~0.08を例示することができる。
当該NOx回収工程は、上記したように、NOx吸収液として水を用いるもので、化学品等の薬液を使用しないため、コストを低く抑えることができ、含有液を硝酸溶液として回収・再利用できることが可能となる。
【0031】
また本発明においては、亜硝酸を硝酸に酸化させるための工程、例えば亜硝酸をオゾン等により硝酸とする工程等をあらためて設ける必要がなく、次の還元工程(2)で亜硝酸、硝酸の両方を還元することが可能であるため、反応プロセスの短縮につなげることができる。
【0032】
次いで、上記NOx回収工程(1)で生成した硝酸態・亜硝酸態窒素含有液の全部または一部を次の還元反応工程(2)に導入して(図1の主製造工程の矢印)処理する。
かかる還元反応工程(2)に導入される硝酸態・亜硝酸態窒素含有液は、上記NOx回収工程(1)で生成した硝酸態・亜硝酸態窒素含有液の全部または一部とすることができ、一部とする場合には残部の硝酸態・亜硝酸態窒素含有液は下記中和工程(5)に導入されることが可能である。
一例として、上記NOx回収工程(1)で生成した硝酸態・亜硝酸態窒素含有液中、40容積%、好ましくは38容積%、より好ましくは35容積%程度の硝酸態・亜硝酸態窒素含有液を、次の還元反応工程(2)には導入せず、別途分離させて、下記中和工程(5)に導入することができる。
【0033】
還元反応工程(2)は、還元作用を有する触媒と硝酸態・亜硝酸態窒素含有液とを、酸性条件下、例えば下記触媒製造工程(7)のバイポーラ膜電気透析により生成された硫酸を添加して酸性条件下として接触させて反応させ、硝酸態・亜硝酸態窒素含有液中の硝酸態・亜硝酸態窒素をアンモニアとする工程である。
【0034】
還元反応工程(2)で使用する還元作用を有する触媒としては、硝酸態窒素をアンモニアに還元できる市場で入手し得る磁性材料を用いることができ、例えば、スピネルフェライト系(R-Fe)、六方晶フェライト(R-Fe1219)、ガーネットフェライト系(R-Fe12)、R-M-B、R-M-B等を例示することができる。
上記構造式中R1,R2,R3,Mは以下のものを例示できる。
:Fe,Mn,Ni,Cu,Zn、
:Ba,Sr,Pb、
:Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu、
M:Fe,Fe-Co
【0035】
特に、還元作用を有する触媒としては、磁性材料中、マグネタイト及び/又は還元鉄粉(例;JIP 300R、JFEスチール株式会社製)等を好適に用いることができ、かかるマグネタイト、還元鉄粉は市販で入手し得る任意のものを使用することも、または、例えばセメント工場から排出される廃熱ガスを有効利用して調製したマグネタイトを使用することも可能であり、本発明においては、マグネタイトは、かかるセメント工場からの排ガスを利用して調製されるマグネタイトを利用する(触媒製造工程(7))ことが望ましい。
ここで廃熱ガスとは、排ガスとは異なり、セメント製造工程で、セメントキルンの外側で温められた、セメントダスト等と含まない空気等の熱ガスを意味するものである。
【0036】
本発明に用いる還元性触媒であるマグネタイトを調製するには、硫酸鉄と水酸化ナトリウムとを反応させて(反応式(エ)~(オ))得られたマグネタイトと硫酸ナトリウム水溶液とを固液分離することで調製することができる(触媒製造工程(7))。
硫酸鉄は、市場で入手し得るものを用いることができ、例えば、工業用の第一鉄1水塩(境化学工業社製)等を例示することができる。
また、水酸化ナトリウムも市場で入手し得るものを用いることができるが、本発明においては、例えば、下記するバイポーラ膜電気透析により(反応式(ウ))得られた水酸化ナトリウムを使用する。また、硫酸は、上記したように還元反応工程(2)に利用することができる。
NaSO+2HO→2NaOH+HSO・・・(ウ)
【0037】
バイポーラ膜電気透析は、硫酸ナトリウムを含む水溶液を電気透析して(上記反応式(ウ))、硫酸と水酸化ナトリウムとを生成する。かかる硫酸ナトリウムは、マグネタイトを調製する際の下記反応式(エ)で生成される硫酸ナトリウムを循環させてバイポーラ膜電気透析を行うものである。
また、かかるバイポーラ膜電気透析により得られた硫酸は、還元反応工程(2)を酸性条件下にするために使用することができるか、及び/又は、マグネタイトを調製した後の未反応の水酸化ナトリウムと反応させて硫酸ナトリウムとし、触媒製造工程(7)で固液分離された硫酸ナトリウム水溶液とともに上記電気透析に循環利用することができる。
またバイポーラ膜電気透析により得られた水酸化ナトリウムは、下記反応式(エ)に示す硫酸化鉄と反応させるマグネタイトの調製に使用する。
このように、触媒製造工程(7)においては、水酸化ナトリウムを循環させて利用することが可能となる。
【0038】
マグネタイトは、硫酸鉄及び上記反応式(ウ)で生成された水酸化ナトリウムを用いて、以下の反応式(エ)~(オ)のフェライト法により製造される。
かかる製造工程は、例えば廃熱ガス利用して200~250℃で、硫酸鉄と水酸化ナトリウムを、例えばpH8~13で反応させて製造するものである。
FeSO+2NaOH→Fe(OH)+2NaSO・・・(エ)
Fe(OH)→Fe+H+2HO・・・(オ)
得られたマグネタイトは、還元反応工程(2)で還元作用を有する触媒として用いられる。
【0039】
また、上記反応式(エ)~(オ)でマグネタイトを調製した後、未反応の水酸化ナトリウムが残存している場合には、未反応の水酸化ナトリウムに、上記バイポーラ膜電気透析(反応式(ウ))により得られた硫酸を添加して反応させて、硫酸ナトリウムを生成させ、当該硫酸ナトリウムを上記反応式(エ)で生成した硫酸ナトリウムとともに、バイポーラ膜電気透析処理することができる。
【0040】
マグネタイトの製造工程の概略の一例としては、以下のものを例示することができる。
硫酸鉄を水酸化ナトリウム水溶液中に含有させて、上記反応式(エ)~(オ)により生成した沈殿物をフィルタープレスでろ過後、セメント工場からの廃熱ガスを用いて、水を蒸発させるとともに乾燥させ、例えば一例として70℃で約30分間乾燥させ、次いで、ハンマーミル等の粗粉砕機にて粉砕し、磁気分離による回収を行い、振動スクリーンにてふるい分けを行い、粒度を0.5mm~2mmにして、マグネタイト粉砕物を調製することができる。
【0041】
得られたマグネタイトの化学組成は、蛍光X線測定装置(PRIMUS IV、株式会社リガク製)を用いて成分分析を行うことができ、例えば、以下の組成を有しているマグネタイト粉砕物を調製することができる。
Fe:68.3%、O:28.6%、C:1.2%、Mn:1.1%、Al:0.3%、S:0.3%、Si:0.2%
【0042】
また、得られたマグネタイト粉砕物を、更に微粉砕した後、粉末X線回析装置(パナリティカル社製、X’PartPowder)を用い、測定条件を、測定範囲:2θ=10~70°、ステップサイズ:0.017°、スキャンスピード:0.1012°/s、電圧:45kV、電流:40mAとしてX線回折測定を行って、マグネタイトであることを確認することができる。
具体的には、X線回析プロファイルについて、上記粉末X線回析装置に備えられた結晶構造解析用ソフトウエア(パナリティカル社製、X’Part High Score Plusversion 2.1b)を用い、マグネタイトであることを確認することが可能である。
【0043】
また上記反応(エ)~(オ)より生成された水素は、セメントを調製する際のバーナの熱源として循環利用することが可能である。
【0044】
上記還元反応工程(2)では、上記したように、硝酸態・亜硝酸態窒素を、上記触媒製造工程(7)で製造されたマグネタイト等の還元作用を有する触媒と酸性条件下で反応させてアンモニアを生成する。
例えば、NOx回収工程から導入された硝酸態・亜硝酸態窒素含有液中に、上記マグネタイトを還元する触媒を投入して、酸性条件下として還元反応を実施することで、硝酸態・亜硝酸態窒素の全部または一部をアンモニアとする。
一例として、「一部」とは、硝酸態・亜硝酸態窒素の90容積%、好ましくは93容積%を、アンモニアに変換させることを例示することができる。
また、還元反応を効率よく進行させるためには、酸素が硝酸態・亜硝酸態窒素含有液に入らないように平衡状態を維持することが望ましく、例えば密閉状態での実施や、不活性雰囲気下での実施とすることを例示できる。
【0045】
一例としては、例えば、上記触媒製造工程(7)で得られたマグネタイトと還元鉄とを質量比2:1の割合で、還元反応工程に導入された硝酸態・亜硝酸態窒素含有液に投入し、常温、酸性条件下で硝酸態・亜硝酸態窒素含有液のpHを1.0~6.0、好ましくはpHを1.0~4.0、より好ましくはpH1.0~2.0として、攪拌しながら例えば1~10時間、好ましくは3時間~10時間で、下記還元反応を実施する。
還元反応は、以下の式(カ)~(キ)で示される。
HNO+4Fe+5HO→NH+4Fe(OH) ・・・(カ)
HNO+3Fe+4HO→NH+3Fe(OH) ・・・(キ)
【0046】
上記反応式(カ)~(キ)の還元反応を酸性条件下で促進するための添加剤としては、水溶液のpH調整を酸性にすることを可能とし、本発明の処理に影響を与えないものであれば任意のものを用いることができ、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等が該当し、好ましくは硝酸を使用することができ、上記触媒製造工程(7)の電気透析により得られた硫酸を用いることが可能であり、循環利用の点から望ましい。
【0047】
更に好ましくは、上記還元処理中は、有効に還元処置が進行するように、ORP電極にて連続測定を行い、ORPが-500mV~-200mV、好ましくは-500mV~-400mVになるように調整することが望ましい。
【0048】
次いで、上記還元反応工程(2)で得られたアンモニア及び硝酸態・亜硝酸態窒素含有液をアンモニア回収工程(3)に導入する(図1の主製造工程の矢印)。
次いで、アンモニア及び硝酸態・亜硝酸態窒素含有液を塩基剤でpH8.0~14.0、好ましくはpH10.0~14.0に調整した後、セメント工場からの廃熱ガスを用いて蒸留し、アンモニアを加熱気化して回収する(アンモニア回収工程(3))。
廃熱ガスは、下記中和工程(5)で調製した硝酸アンモニウムを加熱濃縮して結晶を析出させるのに用いた廃熱ガスを循環させて、当該アンモニア回収工程(3)におけるアンモニアの気化に適用することも可能である。
アンモニアを加熱気化する回収には、例えば、ストリッピング法を適用し、加熱温度を50~70℃とすることが望ましい。
【0049】
また、気化したアンモニアは、下記中和工程(5)にその一部が導入されるとともに、残部の気化アンモニアは、下記中和工程(5)で得られた硝酸アンモニウムを加熱濃縮した硝酸アンモニアに残存する硝酸態・亜硝酸態窒素と反応させて、硝酸アンモニウムの純度を向上するのに使用することができる。
【0050】
上記塩基性剤としては、水溶液のpH調整を塩基性にすることを可能とし、本発明の処理に影響を与えないものであれば任意のものを用いることができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムが例示でき、好ましくは水酸化ナトリウムを使用することができ、例えば上記触媒製造工程(7)の電気透析により得られた水酸化ナトリウムを用いることが可能であり、循環利用の点から望ましい。
【0051】
また、更に、上記反応式(カ)、(キ)により生成される残渣である水酸化鉄(II)は、アンモニア及び硝酸態・亜硝酸態窒素含有液とともに、アンモニア回収工程(3)に導入され、上記アンモニア回収工程(3)を経た後、残部を固液分離されて、上記還元反応工程(2)からの水酸化鉄と未利用の残部の硝酸態・亜硝酸態窒素とを固液分離される(固液分離工程(4))。
かかる上記固液分離工程(4)で分離された水酸化鉄は、空気にさらされることにより酸化水酸化鉄となり(下記反応式(ク))、該酸化水酸化鉄はセメント原料として再利用することが可能である。
4Fe(OH)+O→4FeO(OH)+2HO ・・・(ク)
【0052】
次いで、上記アンモニア回収工程(3)で気化回収したアンモニアの一部と、前記固液分離工程(4)で分離された硝酸態・亜硝酸態窒素含有液と、上記二酸化窒素回収工程(1)で得られ上記還元反応工程(2)に導入されなかった残部の硝酸態・亜硝酸態窒素含有液とを、中和工程(5)へ導入して接触反応させて硝酸アンモニウムを製造する(例えば純度78%)。
かかる中和工程(5)では、生成された硝酸アンモニウムと、硝酸アンモニウムの生成に使用されなかった余分の硝酸態・亜硝酸態窒素とを含む溶液が得られる。
例えば硝酸態窒素とアンモニアとの反応は、下記式(ケ)で表され、例えば濃度約78%の硝酸アンモニウム液を製造することができる。
HNO+NH→NHNO ・・・(ケ)
【0053】
このようにして得られた硝酸アンモニウム含有液を、廃熱ガスを用いて、必要に応じて加熱蒸留、例えば170~180℃に調整して蒸留することで、硝酸アンモニウムを濃縮させた懸濁液(例えば純度98%)を得るとともに、残像する硝酸態・亜硝酸態窒素(HNO+HNO)を揮発させる。該揮発させたHNO及びHNOは上記中和工程(5)に循環させて用いることが望ましい。
濃縮された硝酸アンモニウム含有懸濁液に、上記中和工程(5)に導入されなかった残部の気化したアンモニアガスを添加する。かかるアンモニアガスを添加することで、当該懸濁液(濃縮硝酸アンモニウム)は弱アルカリ性となり、該濃縮硝酸アンモニウムに残存する硝酸態・亜硝酸態窒素(HNO+HNO)との中和反応により、硝酸アンモニウムの純度を高めることが可能となり(例えば約100%)、これを冷却することで硝酸アンモニウムの結晶を析出させて単離する。
好ましくは、かかる処理は、下記造粒工程(6)の前に実施される。
【0054】
また、上記廃熱ガスは、硝酸アンモニアを濃縮析出させたのち、上記アンモニア回収工程(3)でのアンモニアの気化に用いることができる。
【0055】
次いで、上記硝酸アンモニウムを単離した後、市場で入手し得る任意の造粒機にて粒状硝酸アンモニウムが製造される(造粒工程(6))。
かかる造粒工程(6)では、固体の硝酸アンモニウムに軽油等を混合して、例えば爆薬や発破材等を製造する工程とすることができる。
【0056】
本発明の処理方法により、セメント排ガス中に含まれる二酸化窒素を硝酸アンモニウムに変換させて利用することができ、セメント排ガス中に含まれる二酸化窒素の含量を充分に低減させて脱硝が有効に実施できるとともに、硝酸アンモニウムを製造する過程で使用する還元性触媒の製造においても環境負荷を低減することができ、セメント製造時における廃熱ガスを利用することが可能となり、本発明の処理方法により得られる残渣をセメント製造時に有効に用いることができる、環境に優れた循環サイクルが形成されることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
セメント工場から排出される廃ガス中の二酸化窒素を高効率で脱硝することが可能となり、環境的に優れたた循環サイクルが形成できるため、セメントを製造するセメント工場にて本発明の処理方法を有効に適用することができる。

図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-09-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント排ガス中の二酸化窒素を水と接触させ、水に二酸化窒素を吸収させて硝酸態・亜硝酸態窒素含有液として該二酸化窒素を回収する、二酸化窒素回収工程(1)、
次いで還元鉄及びマグネタイトと、前記二酸化窒素回収工程(1)で得られた硝酸態・亜硝酸態窒素含有液の全部または一部とを酸性条件下で接触させて、水酸化鉄とアンモニアを生成する還元反応工程(2)、
次いで、前記還元反応工程(2)で生成したアンモニアを、セメント製造工程からの廃熱ガスを利用して蒸留して気化させて回収する、アンモニア回収工程(3)、
前記アンモニア回収工程(3)でアンモニアを回収した後の残部を固液分離して、該アンモニア回収工程(3)を経た上記還元反応工程(2)からの水酸化鉄と未利用の残部の硝酸態・亜硝酸態窒素とを固液分離する固液分離工程(4)、
前記固液分離工程(4)で分離された硝酸態・亜硝酸態窒素含有液と、上記二酸化窒素回収工程(1)で得られ上記還元反応工程(2)に導入されなかった残部の硝酸態・亜硝酸態窒素含有液とを、前記アンモニア回収工程(3)で気化回収したアンモニアと接触させて、硝酸アンモニウムを調製する中和工程(5)、及び、
上記還元反応工程(2)で使用するマグネタイトは、硫酸鉄と水酸化ナトリウム水溶液とを反応させて生成したマグネタイトと硫酸ナトリウム水溶液とを固液分離して調製され、当該硫酸ナトリウム水溶液は電気透析により水酸化ナトリウムと硫酸とに分離され、得られた水酸化ナトリウムを、前記硫酸鉄と反応させるマグネタイトの調製に循環使用する、触媒製造工程(7)を備えること
を特徴とする、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の硝酸アンモニウムの製造方法において、上記触媒製造工程(7)で得られた硫酸は、上記還元反応工程(2)を酸性条件とするために用いるか、及び/又は、マグネタイトを調製した後の未反応の水酸化ナトリウムと反応させて硫酸ナトリウムとし、上記触媒製造工程(7)で固液分離された硫酸ナトリウム水溶液とともに上記電気透析に循環利用することを特徴とする、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の硝酸アンモニウムの製造方法において、上記触媒製造工程(7)で、マグネタイトを調製する際に生成される水素は、セメントを製造時の燃焼原料として循環利用することを特徴とする、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の硝酸アンモニウムの製造方法において、更に、上記中和工程(5)で調製された硝酸アンモニウムを造粒する造粒工程(6)を備えることを特徴とする、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の硝酸アンモニウムの製造方法において、上記固液分離工程(4)で分離された水酸化鉄は、空気にさらされることにより酸化水酸化鉄となり、該酸化水酸化鉄はセメント原料として用いられることを特徴とする、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法。
【請求項6】
請求項1記載のセメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法において、上記中和工程(5)で調製された硝酸アンモニウムは、硝酸アンモニウム及び硝酸態・亜硝酸態窒素含有液中に含まれ、当該含有液を、廃熱ガスを用いて170~180℃に加熱蒸留して硝酸アンモニウムを濃縮させるともに、残存する硝酸態・亜硝酸態窒素を気化させて上記中和工程(5)に循環させ、濃縮した硝酸アンモニウムに、上記アンモニア回収工程(3)で気化したアンモニアの一部を添加して、濃縮した硝酸アンモニウムに混在する未反応の硝酸態・亜硝酸態窒素と反応させて硝酸アンモニウムの純度を向上させ、冷却することで結晶化硝酸アンモニウムを得ることを特徴とする、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
(I)本発明のセメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法は、
セメント排ガス中の二酸化窒素を水と接触させ、水に二酸化窒素を吸収させて硝酸態・亜硝酸態窒素含有液として該二酸化窒素を回収する、二酸化窒素回収工程(1)、
次いで還元鉄及びマグネタイトと、前記二酸化窒素回収工程(1)で得られた硝酸態・亜硝酸態窒素含有液の全部または一部とを酸性条件下で接触させて、水酸化鉄とアンモニアを生成する、還元反応工程(2)、
次いで、前記還元反応工程(2)で生成したアンモニアを、セメント製造工程からの廃熱ガスを利用して蒸留して気化させて回収する、アンモニア回収工程(3)、
前記アンモニア回収工程(3)でアンモニアを回収した後の残部を固液分離して、該アンモニア回収工程(3)を経た上記還元反応工程(2)からの水酸化鉄と未利用の残部の硝酸態・亜硝酸態窒素とを固液分離する、固液分離工程(4)、
前記固液分離工程(4)で分離された硝酸態・亜硝酸態窒素含有液と、上記二酸化窒素回収工程(1)で得られ上記還元反応工程(2)に導入されなかった残部の硝酸態・亜硝酸態窒素含有液とを、前記アンモニア回収工程(3)で気化回収したアンモニアと接触させて硝酸アンモニウムを調製する、中和工程(5)、及び、
上記還元反応工程(2)で使用するマグネタイトは、硫酸鉄と水酸化ナトリウム水溶液とを反応させて生成したマグネタイトと硫酸ナトリウム水溶液とを固液分離して調製され、当該硫酸ナトリウム水溶液は電気透析により水酸化ナトリウムと硫酸とに分離され、得られた水酸化ナトリウムを、前記硫酸鉄と反応させるマグネタイトの調製に循環使用する、触媒製造工程(7)を備えること
を特徴とする、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0023】
本発明のセメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法は、
セメント排ガス中の二酸化窒素を水と接触させ、水に二酸化窒素を吸収させて硝酸態・亜硝酸態窒素含有液として該二酸化窒素を回収する、二酸化窒素回収工程(1)、
次いで還元鉄及びマグネタイトと、前記二酸化窒素回収工程(1)で得られた硝酸態・亜硝酸態窒素含有液の全部または一部とを酸性条件下で接触させて、水酸化鉄とアンモニアを生成する、還元反応工程(2)、
次いで、前記還元反応工程(2)で生成したアンモニアを、セメント製造工程からの廃熱ガスを利用して蒸留して気化させて回収する、アンモニア回収工程(3)、
前記アンモニア回収工程(3)でアンモニアを回収した後の残部を固液分離して、該アンモニア回収工程(3)を経た上記還元反応工程(2)からの水酸化鉄と未利用の残部の硝酸態・亜硝酸態窒素とを固液分離する、固液分離工程(4)、
前記固液分離工程(4)で分離された硝酸態・亜硝酸態窒素含有液と、上記二酸化窒素回収工程(1)で得られ上記還元反応工程(2)に導入されなかった残部の硝酸態・亜硝酸態窒素含有液とを、前記アンモニア回収工程(3)で気化回収したアンモニアと接触させて、硝酸アンモニウムを調製する、中和工程(5)、及び、
上記還元反応工程(2)で使用するマグネタイトは、硫酸鉄と水酸化ナトリウム水溶液とを反応させて生成したマグネタイトと硫酸ナトリウム水溶液とを固液分離して調製され、当該硫酸ナトリウム水溶液は電気透析により水酸化ナトリウムと硫酸とに分離され、得られた水酸化ナトリウムを、前記硫酸鉄と反応させるマグネタイトの調製に循環使用する、触媒製造工程(7)を備える、セメント排ガス中の二酸化窒素を利用した硝酸アンモニウムの製造方法である。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0034
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0034】
還元反応工程(2)で使用する還元作用を有する触媒としては、硝酸態窒素をアンモニアに還元できる市場で入手し得る磁性材料を用いることができ、例えば、スピネルフェライト系(R-Fe)、六方晶フェライト(R-Fe1219)、ガーネットフェライト系(R-Fe12)、R-M-B等を例示することができる。
上記構造式中R ,R ,R ,Mは以下のものを例示できる。
:Fe,Mn,Ni,Cu,Zn、
:Ba,Sr,Pb、
:Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Eu,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu、
M:Fe,Fe-Co
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0038
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0038】
マグネタイトは、硫酸鉄及び上記反応式(ウ)で生成された水酸化ナトリウムを用いて、以下の反応式(エ)~(オ)のフェライト法により製造される。
かかる製造工程は、例えば廃熱ガス利用して200~250℃で、硫酸鉄と水酸化ナトリウムを、例えばpH8~13で反応させて製造するものである。
FeSO+2NaOH→Fe(OH) +NSO・・・(エ)
Fe(OH)→Fe +H+2HO・・・(オ)
得られたマグネタイトは、還元反応工程(2)で還元作用を有する触媒として用いられる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0044
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0044】
上記還元反応工程(2)では、上記したように、硝酸態・亜硝酸態窒素を、上記触媒製造工程(7)で製造されたマグネタイト等の還元作用を有する触媒と酸性条件下で反応させてアンモニアを生成する。
例えば、NOx回収工程から導入された硝酸態・亜硝酸態窒素含有液中に、上記マグネタイト等の還元作用を有する触媒を投入して、酸性条件下として還元反応を実施することで、硝酸態・亜硝酸態窒素の全部または一部をアンモニアとする。
一例として、「一部」とは、硝酸態・亜硝酸態窒素の90容積%、好ましくは93容積%を、アンモニアに変換させることを例示することができる。
また、還元反応を効率よく進行させるためには、酸素が硝酸態・亜硝酸態窒素含有液に入らないように平衡状態を維持することが望ましく、例えば密閉状態での実施や、不活性雰囲気下での実施とすることを例示できる。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0049
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0049】
また、気化したアンモニアは、下記中和工程(5)にその一部が導入されるとともに、残部の気化アンモニアは、下記中和工程(5)で得られた硝酸アンモニウムを加熱濃縮した硝酸アンモニウムに残存する硝酸態・亜硝酸態窒素と反応させて、硝酸アンモニウムの純度を向上するのに使用することができる。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0050
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0050】
上記塩基剤としては、水溶液のpH調整を塩基性にすることを可能とし、本発明の処理に影響を与えないものであれば任意のものを用いることができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムが例示でき、好ましくは水酸化ナトリウムを使用することができ、例えば上記触媒製造工程(7)の電気透析により得られた水酸化ナトリウムを用いることが可能であり、循環利用の点から望ましい。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0053
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0053】
このようにして得られた硝酸アンモニウム含有液を、廃熱ガスを用いて、必要に応じて加熱蒸留、例えば170~180℃に調整して蒸留することで、硝酸アンモニウムを濃縮させた懸濁液(例えば純度98%)を得るとともに、残する硝酸態・亜硝酸態窒素(HNO+HNO)を揮発させる。該揮発させたHNO及びHNOは上記中和工程(5)に循環させて用いることが望ましい。
濃縮された硝酸アンモニウム含有懸濁液に、上記中和工程(5)に導入されなかった残部の気化したアンモニアガスを添加する。かかるアンモニアガスを添加することで、当該懸濁液(濃縮硝酸アンモニウム)は弱アルカリ性となり、該濃縮硝酸アンモニウムに残存する硝酸態・亜硝酸態窒素(HNO+HNO)との中和反応により、硝酸アンモニウムの純度を高めることが可能となり(例えば約100%)、これを冷却することで硝酸アンモニウムの結晶を析出させて単離する。
好ましくは、かかる処理は、下記造粒工程(6)の前に実施される。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0054
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0054】
また、上記廃熱ガスは、硝酸アンモニウムを濃縮析出させたのち、上記アンモニア回収工程(3)でのアンモニアの気化に用いることができる。
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0057
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0057】
セメント工場から排出される廃ガス中の二酸化窒素を高効率で脱硝することが可能となり、環境的に優れた循環サイクルが形成できるため、セメントを製造するセメント工場にて本発明の処理方法を有効に適用することができる。
【手続補正12】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図1
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1