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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013986
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】磁気検出器
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/02 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
G01R33/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116491
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】板淵 史栞
(72)【発明者】
【氏名】河野 剛健
【テーマコード(参考)】
2G017
【Fターム(参考)】
2G017AA01
2G017AC09
2G017BA05
(57)【要約】
【課題】検出回路の出力値が直流磁場の影響を受けにくくすることにより磁気検出性能を向上できる磁気検出器を提供すること。
【解決手段】磁気検出器1,2は、励磁電流IINが供給された際に磁場の強さに対応して磁化変化を生じる感磁体11、および、感磁体11に巻回され感磁体11の磁化変化により生じる誘導電圧を出力する検出コイル12を備えるマグネトインピーダンスセンサ素子10と、検出コイル12の一端に接続され、サンプリングスイッチがオン動作の際の検出コイル12の出力電圧を保持するサンプルホールド回路22,32と、サンプルホールド回路22,32の出力側に接続される増幅回路24,33と、増幅回路24,33の出力側に接続される後段ハイパスフィルタ25,35とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁電流が供給された際に磁場の強さに対応して磁化変化を生じる感磁体、および、前記感磁体に巻回され前記感磁体の前記磁化変化により生じる誘導電圧を出力する検出コイルを備えるマグネトインピーダンスセンサ素子と、
前記検出コイルの一端に接続され、サンプリングスイッチがオン動作の際の前記検出コイルの出力電圧を保持するサンプルホールド回路と、
前記サンプルホールド回路の出力側に接続される増幅回路と、
前記増幅回路の出力側に接続される後段ハイパスフィルタと、
を備える、磁気検出器。
【請求項2】
前記サンプルホールド回路の出力側に接続される前段ハイパスフィルタをさらに備え、
前記増幅回路は、前記前段ハイパスフィルタの出力側に接続される、請求項1に記載の磁気検出器。
【請求項3】
前記サンプルホールド回路は、前記サンプリングスイッチのオン動作中における前記検出コイルの出力電圧変動を保持し、
前記増幅回路は、前記前段ハイパスフィルタの出力に対して積分処理を行うと共に増幅処理を行い、かつ、前記積分処理によって前記出力電圧変動をオフセット成分に変換し、
前記後段ハイパスフィルタは、前記オフセット成分を除去する、請求項2に記載の磁気検出器。
【請求項4】
前記サンプルホールド回路は、前記サンプリングスイッチのオンオフ動作によりアクイジション時間およびセトリング時間の少なくとも一方における出力電圧変動を保持し、
前記増幅回路は、前記前段ハイパスフィルタの出力に対して積分処理を行うと共に増幅処理を行い、かつ、前記積分処理によって前記出力電圧変動をオフセット成分に変換し、
前記後段ハイパスフィルタは、前記オフセット成分を除去する、請求項2に記載の磁気検出器。
【請求項5】
前記増幅回路の出力側と前記検出コイルの一端とは、非接続であって、帰還回路を有しない、請求項2に記載の磁気検出器。
【請求項6】
前記増幅回路の出力側と前記検出コイルの一端とを接続し、ローパスフィルタにより構成される帰還回路をさらに備える、請求項1に記載の磁気検出器。
【請求項7】
前記帰還回路は、前記ローパスフィルタを通過する所定の周波数帯域の帰還電流により生じる帰還磁場により前記マグネトインピーダンスセンサ素子に印加される外部磁場の一部を相殺し、前記誘導電圧および前記帰還電流により生じる帰還電圧を合算した合算電圧を前記サンプルホールド回路に保持させ、
前記後段ハイパスフィルタは、前記増幅回路の出力に含まれる成分であって、前記帰還電流により生じる前記帰還電圧の成分を除去する、請求項6に記載の磁気検出器。
【請求項8】
前記後段ハイパスフィルタは、
LCRの少なくとも2つの要素により構成される回路、
オペアンプを有するハイパスフィルタ回路、
デジタル変換した後にデジタル信号処理を実行する信号処理部、
前記増幅回路の出力から、前記増幅回路の出力に対してローパスフィルタを介して得られた成分を減算する処理部、
前記増幅回路の出力のうち直流成分を基準電圧として前記増幅回路に付与するように構成された基準電圧補正部、
のいずれか1つにより構成される、請求項1~7のいずれか1項に記載の磁気検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、感磁体としてのアモルファス磁性ワイヤおよび検出コイルを用いて、検出対象磁場の強さを検出する磁気検出器が開示されている。アモルファス磁性ワイヤは、マグネトインピーダンス効果(MI効果)を生じる性質を有する。すなわち、アモルファス磁性ワイヤは、励磁電流が供給された際に、アモルファス磁性ワイヤに作用する磁場の強さに対応して磁化変化を生じる性質を有する。より詳細には、アモルファス磁性ワイヤは、作用する磁場の強さに対応して円周方向の透磁率が変化することにより、インピーダンスが変化する。アモルファス磁性ワイヤに検出コイルが巻回されており、検出コイルは、アモルファス磁性ワイヤの磁化変化により生じる誘導電圧を出力する。
【0003】
アモルファス磁性ワイヤに供給する励磁電流は、例えば、パルス電流または高周波電流とされる。アモルファス磁性ワイヤにパルス電流または高周波電流が供給されると、電流の立ち上がりのタイミングに、アモルファス磁性ワイヤには、作用する磁場の強さに対応した磁化変化が生じる。このとき、検出コイルには、アモルファス磁性ワイヤにおける磁化変化に起因する誘導電圧が発生する。
【0004】
検出コイルに生じる誘導電圧を検出するために、検出コイルには、検出回路が接続されている。特許文献1には、検出回路が、サンプルホールド回路、増幅回路を備える構成が開示されている。サンプルホールド回路は、励磁電流の供給のタイミングに対応してオン動作するサンプリングスイッチ、および、サンプリングスイッチのオン動作の際の出力を保持するためのホールドコンデンサを備える。増幅回路は、サンプルホールド回路の出力側に接続されている。
【0005】
特許文献2には、検出回路が、サンプルホールド回路、増幅回路、帰還回路を備える構成が開示されている。帰還回路は、増幅回路の出力端子と検出コイルの一端とを接続し、磁気的に負帰還をかけるように構成されている。そのため、アモルファス磁性ワイヤに磁場の直流成分が作用している状態において、検出コイルに帰還電流が流れることになり、磁場の直流成分を相殺することが可能な帰還磁場を発生させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-258517号公報
【特許文献2】特許第5924503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気検出性能のさらなる高性能化が求められており、特に、地磁気や強磁性を持つ物質などの大きな直流磁場(例えば、数百μT)下において、微小な交流磁場(例えば、数nT)を検知したいという要望がある。
【0008】
ここで、特許文献1,2に開示の検出回路の出力値は、直流磁場の大きさによって変動することが発見された。直流磁場の大きさが大きいほど、検出回路の出力値が大きな値となる傾向がある。そこで、検出回路の出力値が、直流磁場の影響を受けにくくすることが望まれる。
【0009】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、検出回路の出力値が直流磁場の影響を受けにくくすることにより磁気検出性能を向上できる磁気検出器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、励磁電流が供給された際に磁場の強さに対応して磁化変化を生じる感磁体、および、前記感磁体に巻回され前記感磁体の前記磁化変化により生じる誘導電圧を出力する検出コイルを備えるマグネトインピーダンスセンサ素子と、
前記検出コイルの一端に接続され、サンプリングスイッチがオン動作の際の前記検出コイルの出力電圧を保持するサンプルホールド回路と、
前記サンプルホールド回路の出力側に接続される増幅回路と、
前記増幅回路の出力側に接続される後段ハイパスフィルタと、
を備える、磁気検出器にある。
【発明の効果】
【0011】
上記磁気検出器によれば、直流磁場の影響を受けたオフセット成分が増幅回路の出力に含まれるとしても、後段ハイパスフィルタによって当該オフセット成分を除去することができる。従って、検出回路の出力値は、直流磁場の影響を受けたオフセット成分を含まなくできる。その結果、検出回路は、直流磁場の影響を受けにくくなり、微小な交流磁場を高精度に検出することができる。
【0012】
以上のごとく、上記態様によれば、検出回路の出力値が直流磁場の影響を受けにくくすることにより磁気検出性能を向上できる磁気検出器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1における磁気検出器の構成を示す図。
図2】(a)は実施形態1における磁気検出器のうち後段ハイパスフィルタを備えない構成において理想的挙動を示す図。(b)は実施形態1における磁気検出器のうち後段ハイパスフィルタを備えない構成において実際の挙動を示す図。(c)は実施形態1における磁気検出器の挙動を示す図。
図3】サンプルホールド回路の動作を説明する図。
図4図2の(b)(c)における検出回路の出力値に関し、直流磁場との関係について示す図。
図5】実施形態2における磁気検出器の構成を示す図。
図6】(a)は実施形態2における磁気検出器のうち後段ハイパスフィルタを備えない構成において理想的挙動を示す図。(b)は実施形態2における磁気検出器のうち後段ハイパスフィルタを備えない構成において実際の挙動を示す図。(c)は実施形態2における磁気検出器の挙動を示す図。
図7図6の(b)(c)における検出回路の出力値に関し、直流磁場との関係について示す図。
図8】実施形態1の第1変形態様における磁気検出器の構成を示す図。
図9】実施形態1の第2変形態様における磁気検出器の構成を示す図。
図10】実施形態1の第3変形態様における磁気検出器の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
磁気検出器は、磁場の強さを検出する目的であれば、種々適用可能である。例えば、磁気検出器は、電子コンパス、異物検知センサ、磁気ポジショニングシステムなどに用いることができる。
【0015】
前記磁気検出器において、前記マグネトインピーダンスセンサ素子を構成する前記感磁体は、磁性ワイヤ、特に、アモルファス磁性ワイヤを用いることができる。なお、前記感磁体は、励磁電流が供給された際に磁場の強さに対応して磁化変化を生じる性質を有すれば、アモルファス磁性ワイヤ以外を適用することもできる。また、前記感磁体に供給される前記励磁電流は、例えば、パルス電流または高周波電流などの周期的な電流を適用することができる。
【0016】
第一の態様として、前記磁気検出器は、前記サンプルホールド回路の出力側に接続される前段ハイパスフィルタをさらに備え、前記増幅回路は、前記前段ハイパスフィルタの出力側に接続される態様とすることができる。
【0017】
この場合、前記磁気検出器は、マグネトインピーダンスセンサ素子と、サンプルホールド回路と、前段ハイパスフィルタと、増幅回路と、後段ハイパスフィルタとを備える構成となる。前段ハイパスフィルタを備えることにより、直流磁気の影響成分の全てを取り除くことができると考えた。しかしながら、前段ハイパスフィルタを介したとしても、前段ハイパスフィルタにより直流磁気の影響成分の全てを取り除くことができず、前段ハイパスフィルタを通過した成分の中に、直流磁場の影響成分が含まれていることが分かった。ただし、前段ハイパスフィルタを通過した成分に含まれる直流磁場の影響成分は、後段ハイパスフィルタによって取り除くことができる。従って、検出回路の検出値には、直流磁場の影響成分が含まれていない状態とすることができる。
【0018】
特に、前記サンプルホールド回路は、前記サンプリングスイッチのオン動作中における前記検出コイルの出力電圧変動を保持し、前記増幅回路は、前記前段ハイパスフィルタの出力に対して積分処理を行うと共に増幅処理を行い、かつ、前記積分処理によって前記出力電圧変動をオフセット成分に変換し、前記後段ハイパスフィルタは、前記オフセット成分を除去すると良い。
【0019】
サンプリングスイッチのオン動作と検出コイルの出力との関係によって、前段ハイパスフィルタを通過した成分の中に、直流磁場の影響成分(オフセット成分)が含まれる状態になってしまう。このような構成であっても、後段ハイパスフィルタによって、確実にオフセット成分を除去することができる。
【0020】
また、前記サンプルホールド回路は、前記サンプリングスイッチのオンオフ動作によりアクイジション時間およびセトリング時間の少なくとも一方における出力電圧変動を保持し、前記増幅回路は、前記前段ハイパスフィルタの出力に対して積分処理を行うと共に増幅処理を行い、かつ、前記積分処理によって前記出力電圧変動をオフセット成分に変換し、前記後段ハイパスフィルタは、前記オフセット成分を除去すると良い。
【0021】
サンプリングスイッチのオンオフ動作によって、前段ハイパスフィルタを通過した成分の中に、直流磁場の影響成分(オフセット成分)が含まれる状態になってしまう。このような構成であっても、後段ハイパスフィルタによって、確実にオフセット成分を除去することができる。
【0022】
そして、第一の態様の前記磁気検出器においては、前記増幅回路の出力側と前記検出コイルの一端とは、非接続であって、帰還回路を有しない。
【0023】
第二の態様として、前記磁気検出器は、前記増幅回路の出力側と前記検出コイルの一端とを接続し、ローパスフィルタにより構成される帰還回路をさらに備える態様とすることができる。この場合、前記磁気検出器は、マグネトインピーダンスセンサ素子と、サンプルホールド回路と、増幅回路と、帰還回路と、後段ハイパスフィルタとを備える構成となる。
【0024】
この構成によれば、例えば、大きな直流磁場下において微小な交流磁場を検出したい場合において、マグネトインピーダンスセンサ素子が直流磁場の影響を受けにくくなり微小な交流磁場による影響によって誘導電圧を出力することができる。従って、マグネトインピーダンスセンサ素子の検出範囲を有効活用できる。
【0025】
特に、この構成においては、前記帰還回路は、前記ローパスフィルタを通過する所定の周波数帯域の帰還電流により生じる帰還磁場により前記マグネトインピーダンスセンサ素子に印加される外部磁場の一部を相殺し、前記誘導電圧および前記帰還電流により生じる帰還電圧を合算した合算電圧を前記サンプルホールド回路に保持させる。そこで、前記後段ハイパスフィルタは、前記増幅回路の出力に含まれる成分であって、前記帰還電流により生じる前記帰還電圧の成分を除去するようにすると良い。
【0026】
また、上記の第一の態様および第二の態様の磁気検出器において、前記後段ハイパスフィルタは、LCRの少なくとも2つの要素により構成される回路、オペアンプを有するハイパスフィルタ回路、デジタル変換した後にデジタル信号処理を実行する演算処理部、前記増幅回路の出力から、前記増幅回路の出力に対してローパスフィルタを通過して得られた所定の周波数帯域の成分を減算する処理部、前記増幅回路の出力のうち直流成分を基準電圧として、前記増幅回路に与える基準電圧補正部、のいずれか1つにより構成することができる。いずれの構成であっても、直流磁場の影響を抑制することができる。なお、LCRの少なくとも2つの要素により構成される回路には、例えば、CR回路、RL回路、LC回路、RLC回路などが含まれる。
【0027】
(実施形態1)
1-1.磁気検出器1の構成
実施形態1における磁気検出器1の構成について、図1を参照して説明する。図1に示すように、本形態の磁気検出器1は、マグネトインピーダンスセンサ素子10(以下において、「MIセンサ素子」という。)と、検出回路20とを備える。
【0028】
MIセンサ素子10は、MIセンサ素子10に作用する磁場BINの強さに対応した電圧を出力するように構成されている。MIセンサ素子10は、感磁体11と、検出コイル12とを備える。
【0029】
感磁体11は、励磁電流IINが供給された際に、感磁体11に作用する磁場BINの強さに対応して磁化変化を生じる。詳細には、感磁体11は、励磁電流IINとしてパルス電流または高周波電流が供給された際に、作用する磁場BINの強さに対応して円周方向の透磁率が変化することにより、インピーダンスが変化する。つまり、感磁体11に磁場BINが作用している状態において、感磁体11に励磁電流IINが供給されると、感磁体11は、磁化変化を生じる。感磁体11は、例えば、磁性ワイヤ、特に、アモルファス磁性ワイヤを適用する。
【0030】
検出コイル12は、感磁体11に巻回されている。感磁体11に磁場BINが作用しており、励磁電流IINが供給されると、感磁体11の磁化変化により、検出コイル12には誘導電圧が生じる。従って、検出コイル12は、感磁体11の磁化変化により生じる誘導電圧を出力する。
【0031】
検出回路20は、MIセンサ素子10に電気的に接続し、感磁体11に作用する磁場BINの強さを検出するように構成される。検出回路20は、励磁回路21、サンプルホールド回路22(図1中「S/H」)、前段ハイパスフィルタ23(図1中「HPF1」)、プリアンプ24、後段ハイパスフィルタ25(図1中「HPF2」)、バッファアンプ26、および、基準電圧生成アンプ27を備える。
【0032】
励磁回路21は、感磁体11に励磁電流IINとしてのパルス電流または高周波電流を供給する。さらに、励磁回路21は、励磁電流IINの供給に同期して、検出コイル12の誘導電圧をホールドするための信号S1を出力する。サンプルホールド回路22は、検出コイル12の一端に接続され、サンプリングスイッチおよびホールドコンデンサを備えて構成される。サンプルホールド回路22のサンプリングスイッチは、励磁回路21から出力された信号S1に基づいて、オンオフ動作を行う。そして、サンプルホールド回路22は、サンプリングスイッチがオン動作の際の検出コイル12の出力電圧を保持する。
【0033】
前段ハイパスフィルタ23は、サンプルホールド回路22の出力側に接続され、所定の周波数帯域より高い周波数帯域の信号を抽出する。前段ハイパスフィルタ23は、例えば、LCRの少なくとも2つの要素により構成される回路や、微分回路などのオペアンプを用いた回路などの公知のハイパスフィルタ回路を適用することができる。さらに、前段ハイパスフィルタ23は、前述の回路の他にも目的の機能を発揮することができれば、他の構成を適用することもできる。
【0034】
プリアンプ24は、前段ハイパスフィルタ23の出力側に接続される増幅回路である。プリアンプ24は、前段ハイパスフィルタ23の出力に対して積分処理を行うと共に増幅処理を行う。
【0035】
後段ハイパスフィルタ25は、プリアンプ24の出力側に接続され、所定の周波数帯域より高い周波数帯域の信号を抽出する。後段ハイパスフィルタ25は、例えば、LCRの少なくとも2つの要素により構成される回路や、微分回路などのオペアンプを用いた回路などの公知のハイパスフィルタ回路を適用することができる。さらに、後段ハイパスフィルタ25は、前述の回路の他にも目的の機能を発揮することができれば、他の構成を適用することもできる。
【0036】
バッファアンプ26は、後段ハイパスフィルタ25の出力側に接続される増幅回路である。バッファアンプ26は、後段ハイパスフィルタ25の出力に対して増幅処理を行う。バッファアンプ26の出力が、検出回路20の出力となる。基準電圧生成アンプ27は、MIセンサ素子10、サンプルホールド回路22、前段ハイパスフィルタ23、プリアンプ24、後段ハイパスフィルタ25、バッファアンプ26に対する基準電圧を生成する回路である。例えば、検出回路20の出力電圧が0V~5Vの範囲である場合には、基準電圧は、中央値である2.5Vとする。
【0037】
ここで、本形態の磁気検出器1は、プリアンプ24の出力側と検出コイル12の一端とは、非接続であって、帰還回路を有しない構成である。
【0038】
1-2.磁気検出器1の動作
次に、本形態の磁気検出器1の動作について図2図4を参照して説明する。ただし、本形態の磁気検出器1の動作を説明するために、比較のために、図1の後段ハイパスフィルタ25を備えない構成を参照する。詳細には、参照として、図2(a)を用いて、後段ハイパスフィルタ25を備えない構成において各部の出力の理想的挙動を説明し、図2(b)を用いて、後段ハイパスフィルタ25を備えない構成において各部の出力の実際の挙動を説明する。そして、図2(c)を用いて、本形態における各部の出力の挙動を説明する。図2(a)(b)(c)において、BIN、S1~S7は、図1に示す各部の出力を表す。
【0039】
1-2-1.図2(a)の説明
磁気検出器1において、後段ハイパスフィルタ25を備えない構成における理想的挙動について説明する。まず、図2(a)の第一段目に示すように、磁場BINとして、ゼロ状態から任意の磁場が付与された状態とする。図2(a)の第一段目においては、磁場BINとして、例えば、所定の直流磁場が付与された状態としている。図2(a)の第二段目に示すように、励磁回路21から、サンプルホールド回路22のサンプリングスイッチをオン動作させるための信号S1が、周期的に出力される。信号S1がオン信号の時にサンプリングスイッチがオン動作し、信号S1がオフ信号の時にサンプリングスイッチがオフ動作する。励磁回路21の信号S1は、感磁体11に供給する励磁電流IINと同期する。
【0040】
励磁電流IINが供給されるタイミングにて、励磁電流IINの立ち上がりの変化によって、感磁体11に作用している磁場BINの強さに対応して、感磁体11が磁化変化する。感磁体11の磁化変化によって、検出コイル12に誘導電圧が生じる。サンプルホールド回路22の入力S2(検出コイル12の出力に相当)は、図2(a)の第三段目に示すような挙動となる。
【0041】
そして、サンプルホールド回路22の出力S3は、図2(a)の第四段目に示すような挙動となることが理想的である。つまり、磁場BINが付与された後において、最初にサンプリングスイッチがオン動作を行うときに、サンプルホールド回路22の出力S3は、サンプルホールド回路22の入力S2の立ち上がりに倣って上昇する。その後は、サンプルホールド回路22の出力S3は、磁場BINが一定の直流磁場である間、一定値を維持する。
【0042】
そうすると、前段ハイパスフィルタ23の出力S4は、サンプルホールド回路22の出力S3の高周波成分を抽出するため、図2(a)の第五段目に示すような挙動となる。つまり、サンプルホールド回路22の出力S3が上昇する時には、前段ハイパスフィルタ23の出力S4も上昇する。その後、サンプルホールド回路22の出力S3が一定値となった後においては、前段ハイパスフィルタ23の出力S4は、徐々に低周波成分が除去され、時間経過後には基準電圧となる。
【0043】
プリアンプ24は、前段ハイパスフィルタ23の出力S4を積分処理し、かつ、増幅処理を行う。従って、前段ハイパスフィルタ23の出力S4が図2(a)の第五段目に示すような挙動の場合には、プリアンプ24の出力S5は、図2(a)の第六段目に示すように、前段ハイパスフィルタ23の出力S4と同様の挙動となる。そして、プリアンプ24の出力S5は、バッファアンプ26へ入力されることになるため、バッファアンプ26の出力S7は、図2(a)の第七段目に示すように、プリアンプ24の出力S5を増幅させた挙動となる。
【0044】
1-2-2.図2(b)の説明
次に、磁気検出器1において、後段ハイパスフィルタ25を備えない構成における実際の挙動について説明する。図2(b)の第一段目から第三段目に示すように、磁場BIN、励磁回路21からの信号S1、および、サンプルホールド回路22の入力S2は、図2(a)と同様である。
【0045】
サンプルホールド回路22の出力S3は、図2(a)の第四段目に示すような挙動とはならず、図2(b)の第四段目に示すような挙動となる。この第一の理由は、サンプルホールド回路22が、サンプリングスイッチのオン動作中における検出コイル12の出力電圧変動を保持するためである。第二の理由は、サンプルホールド回路22が、サンプリングスイッチのオンオフ動作によりアクイジション時間およびセトリング時間の少なくとも一方における出力電圧変動を保持するためである。
【0046】
これらの理由について、図3を参照して詳細に説明する。図3の上段に示すように、励磁回路21から出力される信号S1に基づいて、サンプリングスイッチがオンオフ動作を行うものとする。このとき、検出コイル12の出力であるサンプルホールド回路22の入力S2が、図3の中段の破線にて示すような挙動を示すものとする。
【0047】
そうすると、サンプルホールド回路22の特性上、区間T1に示すように、サンプルホールド回路22は、サンプリングスイッチがオン動作した直後(サンプルモードに入った直後)から検出コイル12の出力電圧(サンプルホールド回路22の入力S2)の追跡を開始するまでの時間、すなわちアクイジション時間を有する。つまり、区間T1において、サンプルホールド回路22の出力S3は、サンプルホールド回路22の入力S2に近づいて行くための出力電圧変動を生じる。
【0048】
続いて、区間T2に示すように、サンプルホールド回路22は、サンプリングスイッチが残りのオン動作の間、検出コイル12の出力電圧(サンプルホールド回路22の入力S2)を追跡する。検出コイル12の出力電圧変動が生じているため、区間T2において、サンプルホールド回路22の出力S3は、検出コイル12の出力電圧変動に倣って変動する。
【0049】
続いて、区間T3において、サンプルホールド回路22は、サンプリングスイッチがオフ動作した直後において、追跡を終了して保持を開始するまでの遅延時間、すなわちアパーチャ時間を有する。
【0050】
続いて、区間T4において、ホールドモードに入ると、ホールドモードに入った時点からホールド値の誤差範囲内に落ち着く時点までのセトリング時間(整定時間)を有する。つまり、区間T4において、サンプルホールド回路22の出力S3は、出力電圧変動を生じる。区間T4の後は、サンプルホールド回路22の出力S3は、次のサンプルモードまでの間、ホールド値を保持する。
【0051】
まとめると、図3の中段に示すように、サンプルホールド回路22の出力S3は、サンプリングスイッチのオン動作中の区間T2における検出コイル12の出力電圧変動を保持するため変動する。さらに、サンプルホールド回路22の出力S3は、サンプリングスイッチのオンオフ動作によりアクイジション時間である区間T1およびセトリング時間である区間T4の少なくとも一方により変動する。
【0052】
図2に戻り説明を行う。上記理由により、図2(b)の第四段目に示すように、サンプルホールド回路22の出力S3は、磁場BINが一定であったとしても、一定とはならず変動する。特に、サンプルホールド回路22の出力S3の変動の大きさは、磁場BINの大きさに依存する。
【0053】
サンプルホールド回路22の出力S3は、前段ハイパスフィルタ23に入力される。図2(b)の第四段目および図3の中段に示すように、サンプルホールド回路22の出力S3は、サンプリングスイッチのオン動作中およびその近傍において、変動する。このようにサンプルホールド回路22の出力S3が変動する場合において、前段ハイパスフィルタ23は、サンプルホールド回路22の出力S3の高周波成分を抽出するため、図2(b)の第五段目および図3の下段に示すような挙動となる。
【0054】
つまり、図2(b)の第五段目および図3の下段に示すように、前段ハイパスフィルタ23の出力S4は、サンプリングスイッチがオン動作に切り替わる前は基準電圧(水平の細破線に示す電位)に一致するが、サンプリングスイッチがオン動作に切り替わった直後に変動し、その後に基準電圧に戻る動きをする。なお、図2(b)の第五段目および図3の下段においては、前段ハイパスフィルタ23の出力S4は、サンプリングスイッチがオン動作に切り替わった場合に、負の方向に変動する場合を図示するが、正の方向に変動する場合もある。
【0055】
そして、サンプリングスイッチがオフ動作に切り替わってから所定時間後において、前段ハイパスフィルタ23の出力S4は、再び基準電圧に一致する。このように、前段ハイパスフィルタ23の出力S4は、サンプリングスイッチのオン動作中およびその近傍において、基準電圧に対して正負非対称の過渡波形となる。
【0056】
つまり、時間経過後において、前段ハイパスフィルタ23の出力S4は、サンプルホールド回路22の出力S3が変動していない部分が基準電圧に一致するものの、サンプルホールド回路22の出力S3が変動している部分はそのまま変動した状態が維持される。特に、サンプルホールド回路22の出力S4は、変動する部分において、基準電圧に対して正負非対称の過渡波形となる。
【0057】
プリアンプ24は、前段ハイパスフィルタ23の出力S4を積分処理し、かつ、増幅処理を行う。従って、前段ハイパスフィルタ23の出力S4が図2(b)の第五段目および図3の下段に示すような基準電圧に対して正負非対称となる挙動の場合には、プリアンプ24の出力S5は、図2(b)の第六段目に示すように、時間経過後において、基準電圧からのオフセット成分が生成されてしまう。
【0058】
つまり、プリアンプ24は、積分処理によって、サンプリングスイッチがオン動作中における検出コイル12の出力電圧変動、および、サンプリングスイッチのオンオフ動作によりアクイジション時間およびセトリング時間の少なくとも一方における出力電圧変動を、基準電圧からのオフセット成分に変換することになる。
【0059】
そして、プリアンプ24の出力S5は、バッファアンプ26へ入力されることになるため、バッファアンプ26の出力S7は、図2(b)の第七段目に示すように、プリアンプ24の出力S5を増幅させた挙動となる。従って、バッファアンプ26の出力S7は、時間経過後において、基準電圧からのオフセット成分が残存した状態となる。
【0060】
ここで、図2(b)に示すように、直流磁場に対するバッファアンプ26の出力S7、すなわち検出回路20の出力は、図4の破線(b)に示すような関係となる。つまり、バッファアンプ26の出力S7は、直流磁場の大きさによって、基準電圧である2.5Vから異なるオフセット量となっている。線形の関係ではないが、概ね、直流磁場が大きいほど、バッファアンプ26の出力S7のオフセット成分が大きくなる関係を有する。
【0061】
1-2-3.図2(c)の説明
次に、本形態の磁気検出器1における各部の挙動について説明する。図2(c)の第一段目から第六段目に示すように、磁場BIN、励磁回路21からの信号S1、サンプルホールド回路22の入力S2、サンプルホールド回路22の出力S3、前段ハイパスフィルタ23の出力S4、プリアンプ24の出力S5は、図2(b)と同様である。また、本形態の磁気検出器1において、図3の上段、中段、下段に示す挙動についても同様である。
【0062】
本形態の磁気検出器1は、プリアンプ24の出力側であって、バッファアンプ26の入力側に、後段ハイパスフィルタ25を備える。後段ハイパスフィルタ25は、プリアンプ24の出力S5を入力する。後段ハイパスフィルタ25は、プリアンプ24の出力S5の高周波成分を抽出するため、図2(c)の第七段目に示すような挙動となる。つまり、後段ハイパスフィルタ25は、プリアンプ24の出力S5のうち時間経過後におけるオフセット成分を除去する。従って、後段ハイパスフィルタ25の出力S6は、時間経過後において、基準電圧に一致する。
【0063】
そして、後段ハイパスフィルタ25の出力S6は、バッファアンプ26へ入力されることになるため、バッファアンプ26の出力S7は、図2(c)の第八段目に示すように、後段ハイパスフィルタ25の出力S6を増幅させた挙動となる。従って、バッファアンプ26の出力S7は、時間経過後において、基準電圧に一致する。つまり、本形態におけるバッファアンプ26の出力S7は、図2(a)の第七段目に示すように、理想的挙動におけるバッファアンプ26の出力S7に一致する。
【0064】
ここで、図2(c)に示すように、直流磁場に対するバッファアンプ26の出力S7、すなわち検出回路20の出力は、図4の実線(c)に示すような関係となる。つまり、バッファアンプ26の出力S7は、直流磁場の大きさによらず、常に基準電圧である2.5Vとなる。
【0065】
1-3.効果
本形態の磁気検出器1によれば、直流磁場の影響を受けたオフセット成分がプリアンプ24の出力S5に含まれるとしても、後段ハイパスフィルタ25によって当該オフセット成分を除去することができる。従って、検出回路20の出力値は、直流磁場の影響を受けたオフセット成分を含まなくできる。その結果、検出回路20は、直流磁場の影響を受けにくくなり、微小な交流磁場を高精度に検出することができる。このように、本形態の磁気検出器1は、磁気検出性能を向上することができる。
【0066】
(実施形態2)
2-1.磁気検出器2の構成
実施形態2における磁気検出器2の構成について、図5を参照して説明する。なお、実施形態2において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0067】
図5に示すように、本形態の磁気検出器2は、MIセンサ素子10と検出回路30とを備える。検出回路30は、MIセンサ素子10に電気的に接続し、感磁体11に作用する磁場BINの強さを検出するように構成される。検出回路30は、励磁回路31、サンプルホールド回路32(図1中「S/H」)、プリアンプ33、帰還回路34、後段ハイパスフィルタ35(図1中「HPF2」)、バッファアンプ36、および、基準電圧生成アンプ37を備える。
【0068】
ここで、本形態における励磁回路31、サンプルホールド回路32、および、基準電圧生成アンプ37は、実施形態1における励磁回路21、サンプルホールド回路22、および、基準電圧生成アンプ27と同一である。
【0069】
プリアンプ33は、サンプルホールド回路32の出力側に接続される増幅回路である。プリアンプ33は、サンプルホールド回路32の出力に対して積分処理を行うと共に増幅処理を行う。
【0070】
帰還回路34は、プリアンプ33の出力側と検出コイル12の一端とを接続し、ローパスフィルタにより構成される。帰還回路34は、ローパスフィルタにより所定の周波数成分を抽出し、所定の周波数成分に関する帰還電流IFBにより帰還磁場BFBを発生させる。換言すると、帰還回路34は、ローパスフィルタを通過する所定の周波数帯域の帰還電流IFBにより帰還磁場BFBを発生させる。そして、帰還回路34は、発生させた帰還磁場BFBにより、MIセンサ素子10に印加される外部磁場BINの一部を相殺する。つまり、帰還回路34は、MIセンサ素子10において周波数選択的に磁場を負帰還する。この場合、MIセンサ素子10は、周波数選択的な磁場の負帰還により、所定の周波数帯域の磁場信号(直流を主とする低周波成分)を相殺し、相殺成分以外の交流信号に対してのみ応答することになる。
【0071】
後段ハイパスフィルタ35は、プリアンプ33の出力側に接続され、所定の周波数帯域より高い周波数帯域の信号を抽出する。後段ハイパスフィルタ35は、例えば、LCRの少なくとも2つの要素により構成される回路や、微分回路などのオペアンプを用いた回路などの公知のハイパスフィルタ回路を適用することができる。さらに、後段ハイパスフィルタ35は、前述の回路の他にも目的の機能を発揮することができれば、他の構成を適用することもできる。
【0072】
バッファアンプ36は、後段ハイパスフィルタ35の出力側に接続される増幅回路である。バッファアンプ36は、後段ハイパスフィルタ35の出力に対して増幅処理を行う。バッファアンプ36の出力が、検出回路30の出力となる。
【0073】
2-2.磁気検出器2の動作
次に、本形態の磁気検出器1の動作について図6および図7を参照して説明する。ただし、本形態の磁気検出器2の動作を説明するために、比較のために、図5の後段ハイパスフィルタ35を備えない構成を参照する。詳細には、参照として、図6(a)を用いて、後段ハイパスフィルタ35を備えない構成において各部の出力の理想的挙動を説明し、図6(b)を用いて、後段ハイパスフィルタ35を備えない構成において各部の出力の実際の挙動を説明する。そして、図6(c)を用いて、本形態における各部の出力の挙動を説明する。図6(a)(b)(c)において、BIN、S11、IFB、S12~S16は、図5に示す各部の出力を表す。
【0074】
2-2-1.図6(a)の説明
磁気検出器2において、後段ハイパスフィルタ35を備えない構成における理想的挙動について説明する。まず、図6(a)の第一段目に示すように、磁場BINとして、ゼロ状態から任意の磁場が付与された状態とする。図6(a)の第一段目においては、磁場BINとして、例えば、所定の直流磁場が付与された状態としている。図6(a)の第二段目に示すように、励磁回路31から、サンプルホールド回路32のサンプリングスイッチをオン動作させるための信号S11が、周期的に出力される。信号S11がオン信号の時にサンプリングスイッチがオン動作し、信号S11がオフ信号の時にサンプリングスイッチがオフ動作する。励磁回路31の信号S11は、感磁体11に供給する励磁電流IINと同期する。
【0075】
ここで、本形態の磁気検出器2は、帰還回路34を有する。帰還回路34において、プリアンプ33の出力S14から帰還電圧が発生し、帰還電圧と基準電圧との電位差に応じた帰還電流IFBが発生する。ただし、帰還電圧は、磁場BINに変化が生じた時点より、ローパスフィルタの時定数に応じた応答となる。帰還電圧は、時間経過後において、磁場BINに含まれる直流を主とする低周波成分に対して、磁気的に相殺することができる電圧となる。つまり、帰還電流IFBは、帰還電圧の上昇に伴って上昇し、図6(a)の第三段目に示すような挙動となる。
【0076】
サンプルホールド回路32の入力S12は、理想的には、図6(a)の第四段目に示すような挙動となる。磁場BINが変動する前においては、サンプルホールド回路32の入力S12は、ほぼ基準電圧程度となる。磁場BINの変動直後においては、サンプルホールド回路32の入力S12は、検出コイル12の誘導電圧によって大きな変動を生じる。磁場BINの変動した後に磁場BINに変化がない場合には、磁場BINの変動から時間経過後において、サンプルホールド回路32の入力S12は、ほぼ基準電圧程度となる。つまり、磁場BINが変動する前におけるサンプルホールド回路32の入力S12と、磁場BINに変化がない場合であって磁場BINの変動から時間経過後におけるサンプルホールド回路32の入力S12とは、ほぼ一致する挙動となる。
【0077】
そして、サンプルホールド回路32の出力S13は、図6(a)の第五段目に示すような挙動となることが理想的である。つまり、磁場BINの変動後において、最初にサンプリングスイッチがオン動作を行うときに、サンプルホールド回路32の出力S13は、サンプルホールド回路32の入力S12の立ち上がりに倣って上昇する。その後は、帰還電流IFBの作用によってサンプルホールド回路32が保持する電圧が徐々に小さくなるため、サンプルホールド回路32の出力S13は、時間経過後において基準電圧に一致する状態となる。
【0078】
プリアンプ33は、サンプルホールド回路32の出力S13を積分処理し、かつ、増幅処理を行う。従って、サンプルホールド回路32の出力S13が図6(a)の第五段目に示すような挙動の場合には、プリアンプ33の出力S14は、図6(a)の第六段目に示すように、サンプルホールド回路32の出力S13と同様の挙動となる。そして、プリアンプ33の出力S14は、バッファアンプ36へ入力されることになるため、バッファアンプ36の出力S16は、図6(a)の第七段目に示すように、プリアンプ33の出力S14を増幅させた挙動となる。
【0079】
2-2-2.図6(b)の説明
次に、磁気検出器2において、後段ハイパスフィルタ35を備えない構成における実際の挙動について説明する。図6(b)の第一段目から第三段目に示すように、磁場BIN、励磁回路21からの信号S11、および、帰還電流IFBは、同様である。
【0080】
サンプルホールド回路32の入力S12は、図6(a)の第四段目に示すような挙動とはならず、図6(b)の第四段目に示すような挙動となる。この理由は、帰還回路34が、検出コイル12の一端に接続されているためである。このことにより、帰還回路34は、検出コイル12による誘導電圧および帰還電流IFBにより生じる帰還電圧を合算した合算電圧をサンプルホールド回路32に保持させることになる。従って、サンプルホールド回路32の入力S12は、図6(b)の第四段目に示すように、帰還電流IFBの上昇に伴って上昇している。
【0081】
サンプルホールド回路32の出力S13は、図6(b)の第五段目に示すような挙動となる。サンプルホールド回路32の動作は、実施形態1において図3を用いて説明した動作と同様の動作を行う。つまり、サンプルホールド回路32の出力S13は、サンプルモードの初期において、アクイジション時間において変動する。その後、サンプルホールド回路32の出力S13は、サンプルモードの途中から、検出コイル12による誘導電圧および帰還電圧を合算した合算電圧を追跡する。そして、サンプルホールド回路32の出力S13は、サンプリングスイッチがオフ動作の後において、遅延時間およびセトリング時間を経てホールド値を保持する。
【0082】
従って、サンプルホールド回路32の出力S13は、図6(b)の第五段目に示すように、時間経過後において、帰還電圧の影響により基準電圧からオフセットした状態に対して、サンプリングスイッチがオンオフ動作に伴う変動が上乗せされている。
【0083】
プリアンプ33は、サンプルホールド回路32の出力S13を積分処理し、かつ、増幅処理を行う。従って、サンプルホールド回路32の出力S13が図6(b)の第五段目に示すような挙動の場合には、プリアンプ33の出力S14は、図6(b)の第六段目に示すように、時間経過後において、基準電圧からのオフセット成分が生成されてしまう。このように、プリアンプ33の出力S14には、時間経過後において、帰還電圧の成分がオフセット成分として生成される。
【0084】
さらに、プリアンプ33は、積分処理によって、サンプリングスイッチがオン動作中における検出コイル12の出力電圧変動、および、サンプリングスイッチのオンオフ動作によりアクイジション時間およびセトリング時間の少なくとも一方における出力電圧変動を、基準電圧からのオフセット成分に変換することになる。ただし、本形態においては、プリアンプ33の出力S14におけるオフセット成分は、帰還電圧の成分が相対的に大きく、サンプリングスイッチの動作による成分は相対的に小さい。
【0085】
そして、プリアンプ33の出力S14は、バッファアンプ36へ入力されることになるため、バッファアンプ36の出力S16は、図6(b)の第七段目に示すように、プリアンプ33の出力S14を増幅させた挙動となる。従って、バッファアンプ36の出力S16は、時間経過後において、基準電圧からのオフセット成分が残存した状態となる。
【0086】
ここで、図6(b)に示すように、直流磁場に対するバッファアンプ36の出力S16、すなわち検出回路30の出力は、図7の破線(b)に示すような関係となる。つまり、バッファアンプ36の出力S7は、直流磁場の大きさによって、基準電圧である2.5Vから異なるオフセット量となっている。直流磁場が大きいほど、バッファアンプ26の出力S7のオフセット成分が大きくなる線形の関係を有する。
【0087】
2-2-3.図6(c)の説明
次に、本形態の磁気検出器2における各部の挙動について説明する。図6(c)の第一段目から第六段目に示すように、磁場BIN、励磁回路21からの信号S11、帰還電流IFB、サンプルホールド回路32の入力S12、サンプルホールド回路32の出力S13、プリアンプ33の出力S14は、図6(b)と同様である。
【0088】
本形態の磁気検出器2は、プリアンプ33の出力側であって、バッファアンプ36の入力側に、後段ハイパスフィルタ35を備える。後段ハイパスフィルタ35は、プリアンプ33の出力S14を入力する。後段ハイパスフィルタ35は、プリアンプ33の出力S14の高周波成分を抽出するため、図6(c)の第七段目に示すような挙動となる。つまり、後段ハイパスフィルタ35は、プリアンプ33の出力S14のうち時間経過後におけるオフセット成分を除去する。従って、後段ハイパスフィルタ35の出力S15は、時間経過後において、基準電圧に一致する。
【0089】
そして、後段ハイパスフィルタ35の出力S15は、バッファアンプ36へ入力されることになるため、バッファアンプ36の出力S16は、図6(c)の第八段目に示すように、後段ハイパスフィルタ35の出力S15を増幅させた挙動となる。従って、バッファアンプ36の出力S16は、時間経過後において、基準電圧に一致する。つまり、本形態におけるバッファアンプ36の出力S16は、図6(a)の第七段目に示すように、理想的挙動におけるバッファアンプ36の出力S16に一致する。
【0090】
ここで、図6(c)に示すように、直流磁場に対するバッファアンプ36の出力S16、すなわち検出回路30の出力は、図7の実線(c)に示すような関係となる。つまり、バッファアンプ36の出力S16は、直流磁場の大きさによらず、常に基準電圧である2.5Vとなる。
【0091】
2-3.効果
本形態の磁気検出器2によれば、直流磁場の影響を受けたオフセット成分がプリアンプ33の出力S14に含まれるとしても、後段ハイパスフィルタ35によって当該オフセット成分を除去することができる。従って、検出回路30の出力値は、直流磁場の影響を受けたオフセット成分を含まなくできる。その結果、帰還電流IFBにより相殺することができる直流磁場の値において、検出回路30は、直流磁場の影響を受けにくくなり、微小な交流磁場を高精度に検出することができる。このように、本形態の磁気検出器2は、磁気検出性能を向上することができる。
【0092】
(実施形態1の第1変形態様)
実施形態1の第1変形態様の磁気検出器3について、図8を参照して説明する。検出回路40の後段ハイパスフィルタ25のみ相違する。ただし、本変形形態における後段ハイパスフィルタ25は、構成は異なるものの、実施形態1の後段ハイパスフィルタ25と同様の機能を有する。
【0093】
本変形態様における後段ハイパスフィルタ25は、A/Dコンバータ101、信号処理部102、D/Aコンバータ103を備える。A/Dコンバータ101が、プリアンプ24の出力をデジタル信号に変換し、信号処理部102が、オフセット成分を含むデジタル信号に対して補正処理を行い、D/Aコンバータ103が、補正後のデジタル信号をアナログ信号に変換する。
【0094】
つまり、本変形態様の後段ハイパスフィルタ25は、デジタル変換した後にデジタル信号処理を実行する信号処理部102により構成される。信号処理部102は、例えば、フーリエ変換を行い、所望の高周波成分のみを抽出し、抽出した変換結果に対して逆フーリエ変換を行うことにより、オフセット成分を除去した状態とすることができる。この場合、全てのオフセット成分が除去されてしまうため、基準電圧値の分をオフセットさせる必要がある場合には基準電圧値を補正値として加算すると良い。
【0095】
または、信号処理部102は、デジタル信号電圧と基準電圧との差を求め、その差をデジタル信号に対し、加算または減算する補正処理を行っても良い。さらに、信号処理部102は、FIRフィルタに代表されるデジタルフィルタ処理を行い、処理結果の平均値または、ある特定の時間におけるデジタル値を基準電圧として補正処理を行っても良い。
【0096】
本変形態様においても、実施形態1と同様の効果を奏する。なお、本変形態様における後段ハイパスフィルタ25は、LCRの少なくとも2つの要素により構成される回路などのハイパスフィルタ回路とは異なるが、ハイパスフィルタとして機能するため、ハイパスフィルタに含まれる概念として当該表現を用いる。以下の変形態様においても同様である。
【0097】
(実施形態1の第2変形態様)
実施形態1の第2変形態様の磁気検出器4について、図9を参照して説明する。検出回路50の後段ハイパスフィルタ25のみ相違する。ただし、本変形形態における後段ハイパスフィルタ25は、構成は異なるものの、実施形態1の後段ハイパスフィルタ25と同様の機能を有する。
【0098】
本変形態様における後段ハイパスフィルタ25は、ローパスフィルタ201、差動アンプ202(処理部に相当)を備える。ローパスフィルタ201は、プリアンプ24の出力に対して所定の周波数帯より低い周波数帯域の信号を抽出する。差動アンプ202は、プリアンプ24の出力から、プリアンプ24の出力に対してローパスフィルタ201を介して得られた成分を減算する。本変形態様においても、実施形態1と同様の効果を奏する。
【0099】
(実施形態1の第3変形態様)
実施形態1の第3変形態様の磁気検出器5について、図10を参照して説明する。検出回路60の後段ハイパスフィルタ25のみ相違する。ただし、本変形形態における後段ハイパスフィルタ25は、構成は異なるものの、実施形態1の後段ハイパスフィルタ25と同様の機能を有する。
【0100】
本変形態様における後段ハイパスフィルタ25は、基準電圧補正部301として機能する。基準電圧補正部301は、プリアンプ24の出力側に接続されており、プリアンプ24の出力のうち直流成分を基準電圧としてプリアンプ24などに付与するように構成されている。詳細には、基準電圧補正部301は、プリアンプ24の出力のうち直流成分を抽出する。基準電圧補正部301は、抽出した直流成分を基準電圧とするように、基準電圧生成アンプ27の基準電圧を補正する。基準電圧生成アンプ27は、補正された基準電圧を、MIセンサ素子10、サンプルホールド回路22、前段ハイパスフィルタ23、プリアンプ24、バッファアンプ26に対する基準電圧を付与する。
【0101】
本変形態様の検出回路60においては、プリアンプ24の出力は、バッファアンプ26の入力となる。本変形態様においても、実施形態1と同様の効果を奏する。
【0102】
(その他)
上記第1変形態様~第3変形態様は、実施形態2にも同様に適用できる。
【符号の説明】
【0103】
1,2,3,4,5 磁気検出器
11 感磁体
12 検出コイル
10 マグネトインピーダンスセンサ素子(MIセンサ素子)
22,32 サンプルホールド回路
23 前段ハイパスフィルタ
24,33 プリアンプ(増幅回路)
25,35 後段ハイパスフィルタ
34 帰還回路
IN 励磁電流
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10