(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139872
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】複合物品の製造方法。
(51)【国際特許分類】
B29C 70/46 20060101AFI20241003BHJP
B32B 15/14 20060101ALI20241003BHJP
B32B 37/00 20060101ALI20241003BHJP
B29C 70/68 20060101ALI20241003BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20241003BHJP
B29C 65/48 20060101ALI20241003BHJP
F16B 11/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B29C70/46
B32B15/14
B32B37/00
B29C70/68
B29C70/42
B29C65/48
F16B11/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050803
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】篠浦 康隆
(72)【発明者】
【氏名】加地 暁
【テーマコード(参考)】
3J023
4F100
4F205
4F211
【Fターム(参考)】
3J023AA03
3J023BB02
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3J023GA01
4F100AB01C
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4F211TW06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、中空構造部を少なくとも一部に有する繊維強化樹脂物品を製造する方法に関する、有益な改良を提供する。
【解決手段】ワックスからなる可融コアの外側に、プリプレグと金属板を含む予備成形体をプレス金型内に配置し、加熱してプリプレグが硬化した繊維強化樹脂22と金属板2とが接着して一体化した硬化物を得、前記硬化物から前記可融コアを除去する中空構造を有する複合物品1の製造方法であって、繊維強化樹脂と金属の熱による収縮差または膨張差を吸収する凹凸構造を有する複合物品の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワックスからなる可融コアの外側に、プリプレグと金属板を含む予備成形体をプレス金型内に配置し、加熱してプリプレグが硬化した繊維強化樹脂と金属板とが接着して一体化した硬化物を得、前記硬化物から前記可融コアを除去する中空構造を有する複合物品の製造方法であって、繊維強化樹脂と金属板の熱による収縮差または膨張差を吸収する凹凸構造を有する複合物品の製造方法。
【請求項2】
前記金属板が、少なくとも一つの凹凸構造を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記金属板がアルミ板である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記金属板の厚さが0.5~3mmである請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記繊維強化樹脂と前記金属板とが接着剤で接着されている請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記金属板の面積が1000cm2以上である、実施形態1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記繊維強化樹脂と前記金属板との接着部分の幅が1~5cmである請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、複合物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂(FRP;Fiber Reinforced Plastic)は、自動車用の補強部材を含む様々な用途で使用されている。プリプレグをワックスからなるコアと共にプレス金型内で加熱して硬化させることにより、中空構造部を有する繊維強化樹脂物品を製造する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
その繊維強化樹脂物品の中でも、繊維強化樹脂と金属からなる複合物品において、それぞれの特徴を有する各材料を適材適所に配置することは、軽量であり、かつ必要な強度、剛性を設計する上で重要な技術である。
製品に要求される特性は様々であり、ある部位は金属の特性を有し、ある部位は繊維強化樹脂物品の特性を有することで一つの製品で要求特性に対応することが可能となることから、複合物品による製品設計は単一材料による設計に比べて、軽量化、高強度化といった優れた性能を発揮することがある。
【0005】
しかし、金属と繊維強化樹脂の線膨張係数は大きく異なり、繊維強化樹脂が成形される温度から常温への変化、あるいは製品が使用される温度への変化により、金属と繊維強化樹脂の収縮・膨張差によって、複合物品では金属と繊維強化樹脂の接着部分で剥離が発生する。
剥離した構造物では設計された機能を満たせなくなることや、剥離した隙間から物質の漏洩、または脱落が起こりえることから、複合成形品の設計において接着性を保つことは非常に重要である。
【0006】
本発明は、繊維強化樹脂と金属を含む中空部を有する複合物品の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の目的には、異種材料が組み合わされた複合物品を異種材料間の接着を損なうことなく中空部を有する複合物品を得ることが含まれる。
本発明の各実施形態により解決される課題は、本明細書中に明示的または黙示的に開示される場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様では、ワックスからなる可融コアの外側に、プリプレグと金属板を含む予備成形体をプレス金型内に配置し、加熱してプリプレグが硬化した繊維強化樹脂と金属板とが接着して一体化した硬化物を得、前記硬化物から前記可融コアを除去する中空構造を有する複合物品の製造方法であって、繊維強化樹脂と金属の熱による収縮差または膨張差を吸収する凹凸構造を有する複合物品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ワックスからなる可融コアの外側に、プリプレグと金属板を含む予備成形体をプレス金型内に配置し、加熱してプリプレグが硬化した繊維強化樹脂と金属板とが接着して一体化した硬化物を得、前記硬化物から前記可融コアを除去する、中空構造を有する複合物品の製造方法であって、繊維強化樹脂と金属との熱による収縮差または膨張差を吸収する凹凸構造を有し、繊維強化樹脂と金属板との接着部が剥離しない複合物品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、繊維強化樹脂と金属板からなる複合成形品を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、凹凸を有する可融コアを示す斜視図である。
【
図3】
図3は、凹凸を有する曲げ加工された金属板を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、プリプレグ予備成形体を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、実験例1で用いられる成形時の模式図である。
【
図7】
図7は、実験例1で用いられる成形時の材料を(a)~(e)にて個別に示した模式図である。
【
図8】
図8は、実験例2で用いられる成形時の模式図である。
【
図9】
図9は、実験例2で用いられる成形時の材料を(a)~(e)にて個別に示した模式図である。
【
図10】
図10は、実験例1で得られた複合成形品の収縮による変形(a)、および実験例2で得られた複合成形品の収縮による変形(b)を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
プリプレグと金属板をワックスからなるコアと共にプレス金型内に配置して加熱して硬化させる際に、プリプレグ、金属板の1つ以上が凹凸構造を有することにより、繊維強化樹脂と金属板との熱による収縮差または膨張差を凹凸の変形により吸収することによって、異種材料間の接着が保たれ、中空構造部を少なくとも一部に有する金属と繊維強化樹脂を含む複合物品を製造する。
一般に熱硬化性樹脂からなる繊維強化樹脂の成形温度が常温よりも高く、成形後に成形品は常温に冷却されることから、金属板と繊維強化樹脂との複合成形品を考えた場合、線膨張係数が繊維強化樹脂と比べて大きい金属は、収縮量が繊維強化樹脂に比べて大きくなる。ただし、熱硬化性樹脂の種類や厚さによっては、線膨張係数が、金属に比べ熱硬化性樹脂が大きくなる場合もある。
成形物とした後、成形物の温度が下がる際、金属板と熱硬化性樹脂の硬化物との収縮量の差が接着部において応力を生じることとなり、接着剤の接着強度よりも収縮により発生する応力が上回ることで接着部の剥離といった接着不具合が生じる。
この時、金属板が平坦ではない場合、収縮は金属板が変形することで収縮による接着部への応力は、金属板が平坦であった場合に比べて低減され、接着部の破壊を抑制することができる。
【0011】
1.複合物品の製造方法
本発明の実施形態のひとつは繊維強化樹脂と金属板からなる複合物品の製造方法に関する。実施形態に係る複合物品の製造方法は、次の工程からなる。
(i)成形材料となる、金属板を所望の凹凸を有する形状へ曲げ加工する、またはプリプレグを所望の凹凸を有する形状に予備成形する、コアを所望の形状に加工する、接着剤を準備する、工程。
(ii)(i)で準備した材料を組み合わせ、プレス金型内に配置して加熱し、成形物を得る成形工程。
(iii)前記成形物から前記可融コアを除去することで、中空構造を有する複合物品を得るコア除去工程。
【0012】
以下、図面を参照しつつ、実施形態に係る複合物品の製造方法を詳細に説明する。本発明はこの一例に限るものではない
2.成形工程
成形工程は、ワックスからなる可融コアが内側に配置されたコア内包部が設けられたプリプレグ、および凹凸を有する金属板をプレス金型内に配置して加熱し、成形物を得る工程である。
【0013】
(金属の凹凸形状加工)
一般に金属板が提供される形態は様々であり、本発明において使用する金属板の凹凸形状を付与するにあたっては、板状の材料への曲げ加工による提供、押出による提供、鋳造による提供など、曲げ加工に限定するものではない。
金属の厚さは、0.5~3mmの範囲が好ましい。0.5mm以上であれば、複合物品の強度が高くでき、形状を維持しやすく、3mm以下であれば、繊維強化樹脂との収縮差を金属板の凹凸形状の変形で吸収し易くなる。
金属板の材質は、鉄、アルミ、ステンレス、銅など特に制限はないが、凹凸形状が変化しやすい点では、アルミが好ましい。
【0014】
金属板の凹凸形状は、剥離が起こりやすい辺に平行であり、辺全長に渡ってあると、金属板の収縮を吸収して、接着部の剥離を防ぎやすい。
また、凹凸形状は大きいほど、接着部の剥離を防ぎやすく、接着部間の距離より、凹凸形状の辺周長が長くなっている。
【0015】
本発明は、金属板の面積が1000cm2以上のものに適用されやすい。
面積が大きいほど、収縮差の影響が大きく、接着部にかかる応力が大きくなるが、本発明によれば、接着部の剥離を防ぎやすい。前記面積は、1000cm2以上が好ましく、1100cm2以上がより好ましく、1200cm2以上がさらに好ましい。
【0016】
(プリプレグ予備成形体)
プリプレグ予備成形体は、予めプレス金型の外で、プリプレグシートやトウプリプレグのようなプリプレグを主材料に用いて、ほぼ正味形状(near net shape)となるように作製される。
プリプレグシートが用いられる場合、プリプレグ予備成形体の一部または全部で、2枚以上のプリプレグシートが積層されてもよい。複数枚のプリプレグシートが積層された部分は、2枚以上の同種のプリプレグシートを含んでもよいし、互いに異なる2種以上のプリプレグシートを含んでもよく、その両方であってもよい。プリプレグシートを用いたプリプレグ予備成形体が、トウプリプレグで補強された部分を有していてもよい。プリプレグ予備成形体は、一部または全部が、トウプリプレグのみで形成されてもよい。
【0017】
プリプレグに用いられる繊維強化材は、連続繊維、チョップド繊維、織物、不織布、ノンクリンプファブリックなど様々である。
平行に並べられた複数の連続繊維束を繊維強化材として有するプリプレグシートは、一方向プリプレグ(UDプリプレグ)と呼ばれる。
連続繊維束からなる織物を繊維強化材として用いたプリプレグシートはクロスプリプレグと呼ばれる。
チョップド繊維束を堆積させて形成したマットを繊維強化材として用いたプリプレグシートはSMC(sheet molding compound)と呼ばれる。
トウプリプレグは、単一の連続繊維束を強化材として用いたプリプレグである。
繊維強化材に使用される繊維の例として、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維などが挙げられる。2種以上の繊維が併用されることもある。
【0018】
プリプレグに用いられる熱硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、ビニルエステル樹脂(エポキシアクリレート樹脂とも呼ばれる)、不飽和ポリエステル、ポリウレタン、フェノール樹脂である。2種以上の熱硬化性樹脂が混合されて用いられてもよい。
プリプレグにおける熱硬化性樹脂組成物の含有量は、限定するものではないが、例えば15~60質量%である。該含有量は、15~20質量%、20~25質量%、25~40質量%、40~50質量%、50~60質量%などであり得る。
熱硬化性樹脂組成物には、様々な添加剤が添加され得る。例えば、反応性希釈剤、難燃剤、消泡剤、脱泡剤、離型剤、粒子状充填剤、着色剤、シランカップリング剤等である。
【0019】
プリプレグは、凹凸を有する金属板と、一部の面において接着剤を介して接着される。ここで、接着剤はFM300(Solvay社)の接着フィルムを用いることができるが、接着に用いられる接着剤はこれに限定されるものではない。
接着部の幅は1~5cmであることが好ましい。幅が1cm以上であれば、収縮差による応力より接着力が高くでき、剥離を防ぎやすく、5cm以下であれば剥離を防げて、構造の自由度を高められる。
【0020】
プリプレグは、製造すべき複合物品の中空構造部に形成される空洞に対応する位置に、可融コアが配置された状態となるように作製される。言い換えれば、硬化後に中空構造部となる部分に、可融コアが内側に配置されたコア内包部を設けた金属板とプリプレグ予備成形体が作製される。
例えば、
図1に示す、中空物品1を製造する場合には、以下に述べる手順で作製される。
【0021】
まず、
図2に示すように、複合物品1が内部に有する空洞と略同じ形状と寸法の可融コア10が準備される。可融コアは、成形工程の後に行われるコア除去工程で全体を融解させて除去できるように、ワックスで形成される。ワックスの詳細については後述する。次に、
図3に示すように、凹凸部を有する曲げ加工された金属板2を作製する。
【0022】
次いで、可融コア10の周囲に、
図4に示す形状のように、プリプレグシート20を配置し、
図5に示すように接着シート4を接着部に配置し、曲げ加工された金属板2を、接着シートを挟み、プリプレグシート20と相対する位置に配置することにより、ほぼ正味形状のプリプレグと金属からなる予備成形体が形成される。
【0023】
(硬化)
本明細書では、プリプレグ予備成形体を硬化させるときのプレス金型の温度を成形温度と呼ぶ。成形温度はプリプレグ予備成形体を好ましくは1時間以下、より好ましくは40分以下、更に好ましくは20分以下で硬化させ得る温度であればよい。
成形温度は例えば100℃以上であり、120℃以上、更には130℃以上であってもよい。成形温度が高い程、プリプレグ予備成形体の硬化に要する時間が短縮される。成形温度が160℃を超えるとワックスの選択肢が狭くなる。プレス金型の加熱に要する時間の短縮、および、エネルギー消費量の低減の観点から、成形温度は150℃以下、更には140℃以下とし得る。
【0024】
プレス金型の温度は、予備成形体の投入前から、プレス成型機が通常備える温度制御機構によって成形温度に保持される。
予備成形体が、下型102と上型104とからなるプレス金型100内に投入されたところを
図6に示す。また、この時の材料の模式図を
図7(a)凹凸部を有する曲げ加工された金属板2、(b)接着シート4、(c)外皮を備えた凹凸部を有する可融コア14、(d)プリプレグ予備成形体20、(e)凹凸を有する予備成形体30として示す。
プレス金型100が予め成形温度に保持されているので、予備成形体30と共にプレス金型100内に投入された直後から、可融コア10の温度上昇とそれに伴う膨張が始まる。このとき、可融コア10においてワックスが軟化または融解することは必須ではない。可融コア10が膨張することにより、予備成形体30はプレス金型100の内面に押し付けられる。別の言い方をすれば、型締め力に抗して可融コア10が膨張しようとすることでプレス金型100内に発生する圧力が、予備成形体に印加される。圧力が高いほど、プリプレグの硬化により形成される繊維強化樹脂はボイドの少ないものとなる。
【0025】
ここで、ワックスについて説明すると次の通りである。ワックスは軟化または融解するとき大きく膨張するので、予備成形体に高い圧力を印加したいときは、成形工程でワックスが軟化または融解することが好ましい。この場合、硬化の進行によりプリプレグ予備成形体の可塑性が失われる前に、ワックスの軟化に伴う膨張が始まることが必要となる。ワックスの軟化を早めるひとつの手段は、軟化温度を低くすることである。ワックスの軟化を早める他の手段は、プレス金型内に投入する前の予備加熱により、予め可融コアの温度をワックスの軟化温度に近づけておくことである。可融コアを予備加熱するときは、予備成形体ごとオーブンに入れればよい。これら二つの手段は同時に採用することができる。
【0026】
ワックスが軟化し始めてから融解して流動性の高い液体となるまでの時間は長い方が好ましい。この時間が十分に長いとき、ワックスが融解する前にプリプレグ予備成形体が硬化するので、融解したワックスがプリプレグ予備成形体とプレス金型の隙間に流れ込むことがない。
【0027】
軟化から融解までの時間が長いという点で、ワックスに好ましく配合されるワックスはポリオレフィンワックスである。ポリオレフィンワックスの典型例は、ポリエチレンワックスとポリプロピレンワックスである。ポリオレフィンワックスの好適例として、ポリエチレン樹脂の熱分解物である熱分解型ポリエチレンワックスと、ポリプロピレン樹脂の熱分解物である熱分解型ポリプロピレンワックスが挙げられる。
【0028】
一例において、可融コアには、成形温度よりも低い融点を有する第一ワックスからなる第一部分を外側に、第一ワックスと相容性を有さず、成形温度よりも高い融点を有する第二ワックスからなる第二部分を内側に設けることができる。プレス金型内で軟化して膨張する第一部分と、プレス金型内で軟化しない第二部分の体積比を調節することによって、プレス金型内に発生する圧力を制御することができる。
【0029】
第一ワックスにポリオレフィンワックスが配合されるとき、第二ワックスには、好ましくは、極性基を有する有機化合物を含有するワックスが配合される。理由は、炭化水素を主成分とするワックスと、極性基を有する有機化合物からなるワックスは、互いに相溶しないことが多いからである。極性基とは、水酸基、アミノ基、アミド基、カルボニル基、カルボキシル基、エステル基のような、炭素と酸素の結合または炭素と窒素の結合を含む官能基(エーテル基を除く)である。極性基を有する有機化合物を含有するワックスの典型例として、ヒドロキシ脂肪酸アミド、脂肪酸アミド、ヒドロキシ脂肪酸エステルおよび脂肪酸エステルから選ばれる一種以上の有機化合物を含有するワックスが挙げられる。
【0030】
(コア除去工程)
コア除去工程(iii)は、成形工程で得た硬化物から、成形工程で用いたコアを除去する工程である。
【0031】
硬化物の内側にあるワックスを全部排出させるには、例えばオーブン内で硬化物を加熱して、硬化物内のワックスを完全に融解させればよい。硬化物に、例えばドリルなどで穴をあければ、融解したワックスが排出される。
【0032】
ワックスの排出に要する時間を短くするには、硬化物に貫通孔を複数設け、一部の貫通孔を通して硬化物の内側に空気を流入させながら、他の貫通孔を通してワックスを外に流出させればよい。貫通孔は成形工程の後にドリルまたはホールソーを用いて設けてもよい。
【0033】
(放熱工程)
ワックス除去後に硬化物は常温、または温度管理された室内、恒温槽内において放熱され、最終的には常温にまで冷却される。冷却の過程では硬化物は、金属、あるいは繊維強化樹脂の線膨張率に応じて収縮をすることとなる。一般に、金属の線膨張率は繊維強化樹脂の線膨張率に比べて大きいため、金属板の収縮が繊維強化樹脂に比べて大きいこととなる。
金属板が平坦な場合、金属の収縮が繊維強化樹脂の収縮に比べて大きいことから収縮差が接着面に大きな応力を生み、接着の剥離を引き起こすこととなる。
一方で、金属板が凹凸を有している場合、平坦な金属板の場合と異なり、金属板の収縮は金属板自身の変形を起こし、接着面の応力が抑制され、接着の剥離を起こしにくい。
【0034】
3.複合物品
本発明の実施形態の他のひとつは、前記2.成形工程の項で具体例を参照して説明した、実施形態に係る複合物品の製造方法により製造される複合物品である。
図1に示す複合物品1は、全体がひとつの中空構造部からなり、その内部は空洞である。
【0035】
金属板と繊維強化樹脂からなる複合物品の材料間で分離が起こらないために接着剤による接合が行われる。前述のように、金属板と繊維強化樹脂の線膨張率が異なるため、硬化物の冷却による収縮長さには材料の間で差異が生じ、それら材料の界面に存在する接着部は収縮差による応力が発生する。この時、接着部の強度がその応力に比べて不足した時、接着部は破壊、剥離することとなる。破壊した接着部は設計された剛性を発揮できないといった理由から剥離の発生を避けなければならない。
【0036】
図10(a)、および(b)に示すように、収縮量が繊維強化樹脂に比べて大きい金属板が凹凸を有している場合、金属板の収縮量は金属板の面外の変形を生じることとなり、接着部への負担が軽減され、接着部の破壊を抑制することができる。この時の変形を、凹凸を有する中空複合成形品の収縮による変形31で示す。
一方、収縮量が繊維強化樹脂に比べて大きい金属板が平坦な場合、繊維強化樹脂との収縮差分は面内に起こり、その負担を接着部に与えることとなる。この時の変形を、凹凸を有しない複合物品の収縮による変形33で示す。
【0037】
金属板の凹凸は複合成形品の内側に凹み形状を有していても、外側に凸形状を有していても収縮量を吸収することができ、あるいは複合物品の内側に凹み、外側に凸形状の両方を有していても構わない。
【0038】
4.実験結果
(実験例1)
以下の手順にて、繊維強化樹脂からなる350mm×350mm×50mmの中空直方体を試作した。厚さ2mmのSMC(三菱ケミカル株式会社製STR120N131)を2枚所定形状に裁断するとともに、厚さ2mmのアルミを折り曲げて
図7(a)に示す凹凸構造とし、アルミとSMCの間に接着シート(Solvay社製FM300)を幅20mmで配置した、ほぼ正味形状の予備成形体を作製した。予備成形体を作製するとき、その内部には、別工程で準備した部分可融コアを配置した。
【0039】
部分可融コアは、高級脂肪酸エステルを含有する融点68℃の合成ワックス(伊藤製油株式会社製ITOHWAXE-70G)からなる可融部(可融コア)を、7μm厚のナイロン6製フィルムを用いて形成した外皮で覆ったもので、上記予備成形体の内部にちょうど収まる大きさの直方体となるように作製した。
【0040】
上記予備成形体を、
図6に示すように、その内側に包まれたコアとともに、予め成形温度と同じ温度に加熱した金型内に入れ、加熱及び加圧して硬化させた。また、この時の材料の模式図を
図7(a)凹凸部を有する曲げ加工された金属板2、(b)接着シート4、(c)外皮を備えた凹凸部を有する可融コア14、(d)プリプレグ予備成形体20、(e)凹凸を有する予備成形体30として示す。
【0041】
成形温度140℃、成形時間は10分間とした。成形完了後、硬化物を脱型し、繊維強化樹脂の一部分にドリルで2か所の穴を開け、穴を地面方向に向けた状態でコア材料のワックスの融点である68度以上に加熱することでワックスは容器に流れ込んだ。
【0042】
ワックスを硬化物内部から除去した後、常温に置き、数日間経過した状態の複合物品の接着部を確認すると、接着部に剥離は見られなかった。
図10(a)の概念図に示すように、アルミが変形して、アルミの熱による収縮を吸収したため、剥離は起こらなかったと考えられる。
【0043】
(実験例2)
厚さ2mmのアルミを平板のまま使用した以外は実験例1と同様にして中空構造を有する複合物品を得た。
ワックスを硬化物内部から除去した後、常温に置き、数日間経過した状態の複合物品の接着部を確認すると、接着部に剥離が見られた。
その状態を、
図10(b)に示す。
【0044】
以上、本発明を具体的な実施形態に即して説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に記載された各実施形態は、発明の効果が奏される範囲内で、様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。
【0045】
なお、中空構造としては広義としては水道管のような、いわゆるパイプ、チューブ構造も中空構造としてとらえられることがあるが、ここで述べる中空構造は外観から見て開口部が存在しない閉じた構造を指す。
【0046】
5.実施形態のまとめ
本発明の実施形態は以下を含むが、これらに限定されるものではない。
(実施形態1)ワックスからなる可融コアの外側に、プリプレグと金属板を含む予備成形体をプレス金型内に配置し、加熱してプリプレグが硬化した繊維強化樹脂と金属板とが接着して一体化した硬化物を得、前記硬化物から前記可融コアを除去する中空構造を有する複合物品の製造方法であって、繊維強化樹脂と金属の熱による収縮差または膨張差を吸収する凹凸構造を有する複合物品の製造方法。
(実施形態2)前記金属板が凹凸構造を有する、実施形態1に記載の製造方法。
(実施形態3)前記金属板がアルミ板である、実施形態1または2のいずれかに記載の製造方法。
(実施形態4)前記金属板の厚さが0.5~3mmである、実施形態1~3のいずれかに記載の製造方法。
(実施形態5)前記繊維強化樹脂と前記金属板とが接着剤で接着されている、実施形態1~4のいずれかに記載の製造方法。
(実施形態6)前記金属板の面積が1000cm2以上である、実施形態1~5のいずれかに記載の製造方法。
(実施形態7)前記繊維強化樹脂と前記金属板との接着部分の幅が1~5cmである実施形態1~6のいずれかに記載の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本明細書に開示された発明は、限定するものではないが、自動車、船舶、鉄道車両、航空機その他の輸送機器のための部品(構造部品を含む)や、自転車のフレーム、テニスラケットおよびゴルフシャフトを含む各種のスポーツ用品や、電気自動車のバッテリーケースを、繊維強化樹脂で製造するときに好ましく用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 複合物品
2 凹凸部を有する曲げ加工された金属板
3 凹凸部を有しない金属板
4 接着シート
10 可融コア
20 プリプレグ予備成形体
22 硬化した繊維強化樹脂
30 凹凸を有する予備成形体
31 凹凸を有する複合物品の金属板の収縮による変形
32 凹凸を有しない予備成形体
33 凹凸を有しない複合物品の金属板の収縮による変形
100 プレス金型
102 下型
104 凹凸を有する上型
105 凹凸を有しない上型