(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139873
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】自動積層装置及び熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/38 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B29C70/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050804
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺田 一行
【テーマコード(参考)】
4F205
【Fターム(参考)】
4F205AA11
4F205AA28
4F205AA29
4F205AA32
4F205AA34
4F205AA40
4F205AC03
4F205AD16
4F205AH17
4F205AH31
4F205AH59
4F205AK03
4F205HA14
4F205HA23
4F205HA34
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HK03
4F205HK04
4F205HK25
4F205HK28
(57)【要約】
【課題】熱可塑性樹脂複合材テープを自動積層し、熱可塑性樹脂複合材シートを得ることができ、品質の低下を抑制しつつ、高い生産性で成形品を得ることが実現できる自動積層装置を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と強化繊維を含む熱可塑性樹脂複合材テープを自動的に積層して熱可塑性樹脂複合材シートを製造する自動積層装置であって、熱可塑性複合材テープの熱可塑性樹脂を加熱する手段(A)、手段(A)とは別の、熱可塑性樹脂複合材テープの強化繊維を加熱する手段(B)、熱可塑性樹脂複合材テープを積層する手段(C)、積層された熱可塑性樹脂複合材テープを加圧する手段(D)を備える自動積層装置による。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と強化繊維を含む熱可塑性樹脂複合材テープを自動的に積層して熱可塑性樹脂複合材シートを製造する自動積層装置であって、
熱可塑性複合材テープの熱可塑性樹脂を加熱する手段(A)、
手段(A)とは別の、熱可塑性樹脂複合材テープの強化繊維を加熱する手段(B)、
前記熱可塑性樹脂複合材テープを積層する手段(C)、及び
積層された熱可塑性樹脂複合材テープを加圧する手段(D)を備える
自動積層装置。
【請求項2】
前記手段(B)として、レーザー光による加熱手段を含む請求項1に記載の自動積層装置。
【請求項3】
前記レーザー光の波長が800~2500nmである請求項2に記載の自動積層装置。
【請求項4】
前記手段(A)として、輻射熱及び熱伝導のうちの少なくとも1つの加熱手段を含む請求項1または2に記載の自動積層装置。
【請求項5】
前記輻射熱及び熱伝導のうちの少なくとも1つの加熱手段として、赤外線ヒーター、熱風及び熱板から選ばれる少なくとも1つの加熱手段を含む請求項4に記載の自動積層装置。
【請求項6】
さらに熱可塑性樹脂複合材テープの温度を制御する手段(E)を備える請求項1または2に記載の自動積層装置。
【請求項7】
前記手段(E)として、温度を検知する手段と加熱装置の出力を調整する手段とを含む請求項6に記載の自動積層装置。
【請求項8】
前記手段(E)が、熱可塑性樹脂複合材テープとテーブルの間に設けられている請求項6に記載の自動積層装置。
【請求項9】
熱可塑性樹脂と強化繊維を含む熱可塑性樹脂複合材テープを積層する熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法であって、
熱可塑性樹脂複合材テープ中の熱可塑性樹脂を加熱する工程(A)、
工程(A)とは別の熱可塑性樹脂複合材テープ中の強化繊維を加熱する工程(B)、
熱可塑性樹脂複合材テープを積層する工程(C)、及び
積層された熱可塑性樹脂複合材テープを加圧する工程(D)
を有する熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法。
【請求項10】
前記工程(B)として、レーザー光による加熱工程を含む請求項9に記載の熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法。
【請求項11】
前記レーザー光の波長が800~2500nmである請求項10に記載の熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法。
【請求項12】
前記工程(A)として、輻射熱及び熱伝導のうちの少なくとも1つの加熱工程を含む請求項9または10に記載の熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法。
【請求項13】
前記輻射熱及び熱伝導のうちの少なくとも1つの加熱工程として、赤外線ヒーター、熱風及び熱板から選ばれる少なくとも1つの加熱工程を含む請求項12に記載の熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法。
【請求項14】
さらに熱可塑性樹脂複合材テープの温度を制御する工程(E)を有する請求項9に記載の熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法。
【請求項15】
前記工程(E)として、温度を検知する工程と加熱装置の出力を調整する工程とを含む請求項14に記載の熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂と強化繊維を含む熱可塑性樹脂複合材テープを自動的に積層して熱可塑性樹脂複合材シートを製造する自動積層装置及び熱可塑性樹脂と強化繊維を含む熱可塑性樹脂複合材テープを積層する熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリプレグ等の強化繊維を含む熱可塑性複合材料を成形して得た成形品は、軽量で優れた機械特性を有するため、スポーツ、レジャー用途から自動車や航空機等の産業用途まで幅広く用いられている。
【0003】
熱可塑性樹脂複合材シートの成形方法としては、例えば、テープ状熱可塑性樹脂複合材シートをレーザーなどで加熱し、熱可塑性樹脂複合材シートを配置し、加圧しながら冷却して成形品を得る積層成形法が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、2つの加熱装置を備えているが、その加熱方式は両方とも輻射熱もしくは熱伝導によるもので、その加熱装置の1つは熱可塑性樹脂複合材テープではなく、被貼り付け面を温めている。被貼り付け部周辺を広く加熱するので、既に配置されている熱可塑性樹脂複合材シートの樹脂の酸化劣化が進む。また、輻射や熱伝導により表面のみを加熱するため熱可塑性樹脂複合材テープの内側と外側の温度差が生まれ冷却しても残留応力が発生する。
内側と外側の温度差を緩和するために輻射もしくは熱伝導での加熱を強くすると外側がより溶融し樹脂が流れテープ搬送が困難になる。
【0006】
本発明は、熱可塑性樹脂複合材テープを自動積層し、熱可塑性樹脂複合材シートを得ることができ、品質の低下を抑制しつつ、高い生産性で成形品を得ることが実現できる自動積層装置を提供することを目的とする。また、本発明は、熱可塑性樹脂複合材テープを積層して得られる熱可塑性樹脂複合材シートの品質の低下を抑制しつつ、熱可塑性樹脂複合材シートを成形して得る成形品を高い生産性で成形品を得ることができる熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法を提供することを目的とする。なお、本発明の各実施形態により解決される課題は、本明細書中に明示的または黙示的に開示される場合がある。
また、エンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックといった樹脂流動開始温度が高い樹脂を用いた熱可塑性樹脂複合材テープを使用した場合にレーザー出力を上げる必要がある。さらに成形速度を上げようとするとさらに出力を上げる必要があり、急激な加熱は樹脂の炭化につながり成形できないことがある。逆に出力を下げると積層間の融着が不十分で機械特性の低下につながる。そのような場合に樹脂を炭化させることなく、かつ積層間の融着が十分な積層が可能な自動積層装置を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]熱可塑性樹脂と強化繊維を含む熱可塑性樹脂複合材テープを自動的にテーブルに積層して熱可塑性樹脂複合材シートを製造する自動積層装置であって、熱可塑性複合材テープの熱可塑性樹脂を加熱する手段(A)、手段(A)とは別の、熱可塑性樹脂複合材テープの強化繊維を加熱する手段(B)、前記熱可塑性樹脂複合材テープを積層する手段(C)、及び積層された熱可塑性樹脂複合材テープを加圧する手段(D)を備える自動積層装置。
【0008】
[2]前記手段(B)として、レーザー光による加熱手段を含む[1]に記載の自動積層装置。
[3]前記レーザー光の波長が800~2500nmである[2]に記載の自動積層装置。
[4]前記手段(A)として、輻射熱及び熱伝導のうちの少なくとも1つの加熱手段を含む[1]から[3]のいずれかに記載の自動積層装置。
[5]前記輻射熱及び熱伝導のうちの少なくとも1つの加熱手段として、赤外線ヒーター、熱風及び熱板から選ばれる少なくとも1つの加熱手段を含む[3]に記載の自動積層装置。
[6]さらに熱可塑性樹脂複合材テープの温度を制御する手段(E)を備える[1]から[5]のいずれかに記載の自動積層装置。
[7]前記手段(E)として、温度を検知する手段と加熱装置の出力を調整する手段とを含む[1]から[6]のいずれかに記載の自動積層装置。
[8]前記手段(E)が、熱可塑性樹脂複合材テープとテーブルの間に設けられている[7]に記載の自動積層装置。
【0009】
[9]熱可塑性樹脂と強化繊維を含む熱可塑性樹脂複合材テープを積層する熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法であって、熱可塑性樹脂複合材テープ中の熱可塑性樹脂を加熱する工程(A)、工程(A)とは別の熱可塑性樹脂複合材テープ中の強化繊維を加熱する工程(B)、熱可塑性樹脂複合材テープを積層する工程(C)、及び積層された熱可塑性樹脂複合材テープを加圧する工程(D)を有する熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法。
【0010】
[10]前記工程(B)として、レーザー光による加熱工程を含む[9]に記載の熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法。
[11]前記レーザー光の波長が800~2500nmである[10]に記載の熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法。
[12]前記工程(A)として、輻射熱及び熱伝導のうちの少なくとも1つの加熱工程を含む[9]から[11]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法。
[13]前記輻射熱及び熱伝導のうちの少なくとも1つの加熱工程として、赤外線ヒーター、熱風及び熱板から選ばれる少なくとも1つの加熱工程を含む[12]に記載の熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法。
[14]さらに熱可塑性樹脂複合材テープの温度を制御する工程(E)を有する[9]から[13]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法。
[15]前記工程(E)として、温度を検知する工程と加熱装置の出力を調整する工程とを含む[14]に記載の熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱可塑性樹脂複合材シートを自動積層による成形に適用することができ、品質の低下を抑制しつつ成形品を高い生産性を実現できる自動積層装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の自動積層装置の一例を示した図である。
【
図2】
図2は、本発明の自動積層装置の一例を示した図である。
【
図3】
図3は、本発明の自動積層装置の一例を示した図である。
【
図4】
図4は、本発明の自動積層装置の一例を示した図である。
【
図5】
図5は、本発明の自動積層装置の一例を示した図である。
【
図6】
図6は、本発明の自動積層装置の一例を示した図である。
【
図7】
図7は、輻射熱又は熱伝導による熱可塑性樹脂の加熱を示す模式図である。
【
図8】
図8は、レーザー光による強化繊維及び熱可塑性樹脂の加熱を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[自動積層装置]
本発明の自動積層装置は、熱可塑性樹脂と強化繊維を含む熱可塑性樹脂複合材テープを自動的に積層して熱可塑性樹脂複合材シートを製造する自動積層装置であって、熱可塑性複合材テープの熱可塑性樹脂を加熱する手段(A)、手段(A)とは別の、熱可塑性樹脂複合材テープの強化繊維を加熱する手段(B)、前記熱可塑性樹脂複合材テープを積層する手段(C)、及び積層された熱可塑性樹脂複合材テープを加圧する手段(D)を備える。
【0014】
手段(A)と、手段(A)とは異なる手段(B)を備えることにより、熱可塑性樹脂複合材テープの内側と外側から加熱され、熱可塑性樹脂複合材テープの温度が厚み方向に渡って均一に加熱することができ、また、温度制御もしやすくなる。
【0015】
なお、手段(A)と手段(B)は、手段(B)において強化繊維の加熱と同時に、又は強化繊維の加熱に続いて、熱可塑性樹脂複合材テープを加熱した後、熱可塑性樹脂を手段(A)により熱可塑性樹脂複合材テープを加熱しても、熱可塑性樹脂複合材テープの外側と内側を加熱することができるため、いずれの順番であってもよい。また、熱可塑性樹脂を加熱する手段(A)と強化繊維を加熱する手段(B)は同時に行われていてもよいが、加熱手段は異なるものである。
【0016】
以下、本発明の自動積層装置について説明する。なお、以下の説明において例示される図の寸法、機器の構成等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0017】
<手段(A)>
手段(A)は、熱可塑性樹脂を加熱する手段である。この手段(A)は熱可塑性樹脂複合材シートを外側から加熱できるものであればどのような方式であってもよい。例えば、手段(A)としては、輻射熱及び熱源からの直接的な熱伝導のうちの少なくとも1つの加熱手段が挙げられる。具体的には、熱板、赤外線ヒーター及び熱風のうちの少なくとも1つの加熱手段があげられる。手段(A)ではそれぞれの放出される熱量は調整できるようにしておくことが好ましい。
【0018】
手段(A)が輻射熱もしくは熱源からの直接的な熱伝導である場合、熱可塑性樹脂複合材シートを外側から効果的に加熱することができる。
手段(A)における加熱温度としては熱可塑性樹脂複合材シートの樹脂原料の結晶性樹脂であればガラス転移温度から融点の間、非晶性原料であればガラス転移温度からガラス転移温度+100℃以下に制御できる加熱手段とすることが好ましい。
【0019】
<手段(B)>
手段(B)は手段(A)とは別で強化繊維を加熱する手段である。手段(B)は、前述の通り、強化繊維を加熱する際に、又は強化繊維の加熱に続いて熱可塑性樹脂も加熱されるものであってもよいが、熱可塑性樹脂よりも主として強化繊維が加熱される手段である。
【0020】
そのような手段(B)としては、レーザー光による加熱手段を含むものが好ましい。手段(B)がレーザー光による加熱手段である場合、このレーザー光は800~2500nmの波長であることが好ましい。800~2500nmの波長の光は通常、樹脂を透過して強化繊維を加熱することができる。さらに加熱された強化繊維の熱が樹脂に伝わり、熱可塑性樹脂複合材シートを内側から加熱することもできる。また、レーザー光の波長は、900nm以上がより好ましく、1000nm以上がさらに好ましく、一方、2000nm以下がより好ましく、1500nm以下がさらに好ましい。前記下限値以上であることで強化繊維を加熱することができる一方で、前記上限値以下であることで熱可塑性樹脂が直接的に加熱されないため効率よく強化繊維を加熱することができる。
また、強化繊維を加熱する強化繊維を加熱する手段(B)に用いられるレーザー光の出力は、0.5kW以上が好ましく、1kW以上がより好ましく、3kW以上がさらに好ましく、一方で25kW以下が好ましく、15kW以下がより好ましく、12kW以下がさらに好ましい。前記上限値以下であることで余分な熱を発生させ樹脂を焦がすことがなく、前記下限値以上であることで強化繊維を加熱することができる。
【0021】
この手段(B)はレーザー光による加熱手段に限られるものではなく、熱可塑性樹脂複合材シート内の強化繊維を局所的に加熱できる加熱源を持つものであればよい。
強化繊維を加熱する強化繊維を加熱する手段(B)2に用いられるレーザー光の波長は、800nm以上が好ましく、900nm以上がより好ましく、1000nm以上がさらに好ましく、一方で2500nm以下が好ましく、2000nm以下がより好ましく、1500nm以下がさらに好ましい。前記下限値以上であることで強化繊維が加熱でき、前記上限値以下であることで熱可塑性樹脂が加熱されないため効率よく強化繊維を加熱できる。
また、強化繊維を加熱する強化繊維を加熱する手段(B)に用いられるレーザー光の出力は、0.5kW以上が好ましく、1kW以上がより好ましく、3kW以上がさらに好ましく、一方で25kW以下が好ましく、15kW以下がより好ましく、12kW以下がさらに好ましい。前記上限値以下であることで余分な熱を発生させ樹脂を焦がすことがなく、前記下限値以上であることで強化繊維を加熱することができる。
【0022】
<手段(C)>
加熱された熱可塑性樹脂複合材テープは、手段(C)によって積層される。具体的には手段(C)はロボットアームにより積層されることが好ましい。
【0023】
手段(C)によって熱可塑性樹脂複合材テープが積層されるテーブル上のテープが配置される被貼付け部に、熱可塑性樹脂複合材テープを直接積層してもよく、型が配置されていてもよく、すでに熱可塑性樹脂複合材テープが配置されていてもよい。型が配置されている場合は型に熱可塑性樹脂複合材テープが配置される。すでに型に熱可塑性樹脂複合材シートが配置されている場合は、すでに配置されている熱可塑性樹脂複合材シートの上にさらに熱可塑性樹脂複合材テープが配置されてもよい。特に熱可塑性樹脂複合材シートの上にさらに熱可塑性樹脂複合材テープを配置する場合、すでに配置されている熱可塑性樹脂複合材シートを加熱することなく新たに熱可塑性樹脂複合材テープを配置できるため、新たに配置する熱可塑性樹脂複合材シートをレーザー光で加熱する方法が好ましい。
【0024】
<手段(D)>
手段(D)は、積層された熱可塑性樹脂複合材テープを加圧する手段である。この手段(D)により熱可塑性樹脂複合材テープを被貼付部に圧着することができる。
【0025】
手段(D)は、加圧ロールによって行われることが好ましい。加圧ロールの材質や形状及び寸法は特に限定されるものではなく適宜設計すればよいが、弾力性があるものや温度制御に優れるものが推奨される。
【0026】
<手段(E)>
本発明の自動積層装置は、熱可塑性樹脂複合材テープの温度を制御する手段(E)を備えることが好ましい。
【0027】
この手段(E)は、温度を測定する手段として非接触の温度計やサーモグラフィーなどが含まれ、供給される熱可塑性樹脂複合材テープの温度を測定することが好ましい。これらの場所の温度を検知することで熱可塑性樹脂複合材テープの温度を正確に知ることができる。温度制御手段では熱可塑性樹脂複合材テープの温度を測定する手段と、熱可塑性樹脂を加熱する手段(A)と強化繊維を加熱する手段(B)の少なくともどちらかの出力を変化させる出力調整手段を有することが好ましい。なお、この熱可塑性樹脂複合材テープの温度を測定する手段としては、熱可塑性樹脂複合材テープそのものの温度を直接的に測定する手段であってもよいし、熱可塑性樹脂複合材テープと熱的に平衡なテーブル等の温度を測定することで間接的に熱可塑性樹脂複合材テープの温度を測定する手段であってもよい。
【0028】
<搬送部>
本発明の自動積層装置は通常、搬送部が備えられている。この搬送部はボビンなどに巻かれた熱可塑性樹脂複合材テープが送り出され成形面に対し、平行に供給されるようにロールなどを備えている。
搬送用のロールの位置は任意で、折れ曲りや裏返ることなく搬送できればどのようなものであってもよい。
搬送ロールの材質や形状および寸法は特に限定されるものではなく、適宜設計すればよいが、金属ロール、樹脂製ロール、コムロール、シリコンロール、セラミックロールなどがあげられる。
【0029】
<熱可塑性樹脂テープ>
熱可塑性樹脂複合材テープとしては、特に限定されず、熱可塑性樹脂と強化繊維を含む熱可塑性樹脂複合材料を例示できる。熱可塑性樹脂複合材料の具体例としては、強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させたプリプレグ、強化繊維と熱可塑性樹脂フィルムとが積層された積層材を例示できる。
【0030】
(強化繊維)
強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維を例示できる。なかでも、剛性、強度の観点から、炭素繊維が好ましい。強化繊維としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系を例示できる。
また、炭素繊維であることで、より効率よくレーザー光を吸収し、熱に変換することができるため好ましい。
【0031】
強化繊維を複数本束ねてサイジング剤を付着させることにより、強化繊維束とすることができる。
強化繊維束としては、工業的規模における生産性及び力学特性に優れる点から、3,000~60,000本の強化繊維(フィラメント)からなるトウが好ましい。
【0032】
優れた引張強度を有する成形品が得られやすい点では、強化繊維束のストランド強度は、4000MPa以上が好ましく、5000MPa以上がより好ましい。
成形品に十分な剛性が発現しやすい点では、強化繊維束のストランド弾性率は、200GPa以上が好ましく、230GPa以上がより好ましい。強化繊維の表面及び内部の黒鉛結晶サイズが小さくなり、繊維断面方向の強度及び繊維軸方向の圧縮強度の低下が抑制されやすい点では、強化繊維束のストランド弾性率は、380GPa以下が好ましく、350GPa以下がより好ましい。強化繊維束のストランド弾性率の下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば200~380GPaが好ましい。
なお、強化繊維束のストランド強度及びストランド弾性率は、ASTM D4018に準拠した方法で測定される。
【0033】
強化繊維束を配向させることで強化繊維基材とすることができる。
強化繊維基材の形態としては、連続した強化繊維束を一方向に引き揃えた一方向連続繊維形態、連続した強化繊維束を用いた平織、綾織、朱子織、ノンクリンプファブリック(NCF)、三次元織物等の織物形態、強化繊維束を用いたコンティニュアスストランドマットやチョップドストランドマット等を例示できる。織物の配列を保持するため、強化繊維等によるステッチや、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂繊維の溶着等の固定方法を適用することができる。
【0034】
強化繊維基材中の強化繊維の割合は、強化繊維基材の総質量に対して、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0035】
強化繊維が十分に収束して成形材料の製造時に毛羽が発生しにくく、力学特性に優れた成形品が得られやすい点では、強化繊維基材のサイジング剤付着率は、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましい。また、強化繊維基材のサイジング剤付着率は、5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下がさらに好ましい。強化繊維基材のサイジング剤付着率の下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば0.1~5.0質量%が好ましく、0.2~3.0質量%がより好ましく、0.2~1.5質量%がさらに好ましい。
【0036】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂を例示できる。なかでも、熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、又はポリエーテルケトンケトン樹脂を含むことが好ましい。熱可塑性樹脂としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて、公知の熱硬化性樹脂、充填剤、熱安定剤、酸化防止剤、老化防止剤、難燃剤、顔料等の各種添加剤を熱可塑性樹脂に含有させてもよい。
熱可塑性複合材料の製造方法は、特に限定されず、溶融させた熱可塑性樹脂を強化繊維基材に含浸させてもよく、熱可塑性樹脂を形成するモノマーや低分子量体を強化繊維基材に含浸させた後に重合してもよく、強化繊維基材上に熱可塑性樹脂を配置した積層体であってもよい。
【0038】
熱可塑性樹脂複合材テープの製造方法は、特に限定されず、公知の方法を採用できる。例えば、引き抜き法により引き抜き用金型を用いることにより行える。溶融温度は、樹脂の種類や混合比率、添加剤の有無や種類に応じて適宜調整できる。冷却は、例えば、冷却されたロール等の冷却機に接触させる方法を例示できる。
【0039】
積層効率の点では、熱可塑性樹脂複合材テープの厚さは、0.015mm以上が好ましく、0.040mm以上がより好ましい。加熱効率の点では、成形材料の厚さは、0.5mm以下が好ましく、0.35mm以下がより好ましい。熱可塑性樹脂複合材テープの厚さの下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば0.015~0.5mmが好ましく、0.040~0.35mmがより好ましい。
【0040】
熱可塑性樹脂複合材テープの配置の容易さから熱可塑性樹脂複合材テープの幅は、0.3mm以上500mm以下が好ましく、5mm以上30mm以下が特に好ましい。
【0041】
強度の点から、熱可塑性樹脂複合材テープの繊維体積含有率(Vf)は、20~75体積%が好ましく、40~65体積%がより好ましい。
【0042】
<熱可塑性樹脂複合材シート>
熱可塑性樹脂複合材シートは、熱可塑性樹脂複合材テープを複数積層することで得ることができる。
得られた熱可塑性樹脂複合材シートを用いて成形体を製造することができる。また熱可塑性樹脂複合材テープを型に直接貼り付けることで得られる熱可塑性樹脂複合材シートを直接成形体とすることもできる。得られた成形体は、熱可塑性樹脂複合材シートが厚み方向に均一に加熱されて配置されているので、残留応力が少なく、ソリや歪みが少ない。また、過剰に加熱されていないので樹脂劣化が少なく成形体としての物性低下が少ない。
【0043】
[熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法]
本発明の熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法は、熱可塑性樹脂と強化繊維を含む熱可塑性樹脂複合材テープを積層する熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法であって、熱可塑性樹脂複合材テープ中の熱可塑性樹脂を加熱する工程(A)、前記工程(A)とは別の熱可塑性樹脂複合材テープ中の強化繊維を加熱する工程(B)、熱可塑性樹脂複合材テープを積層する工程(C)、及び積層された熱可塑性樹脂複合材テープを加圧する工程(D)を有する。また、本発明の熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法は、さらに、熱可塑性樹脂複合材テープの温度を制御する工程(E)を有することが好ましい。
【0044】
本発明の熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法は、前述の本発明の自動積層装置を用いることにより実施することができる。このため、本発明の熱可塑性樹脂複合材シートの製造方法における工程(A)~(E)の各工程は、それぞれ、本発明の自動積層装置における手段(A)~(E)の各手段に対応する。従って、工程(A)~(E)の好ましい条件等はいずれも、手段(A)~(E)の好ましい条件等に準じて定めることができる。
【0045】
[自動積層装置の具体例]
[
図1]
図1は本発明の自動積層装置の一例を示している。この自動積層装置では熱可塑性樹脂複合材テープ17を搬送する搬送部11、熱可塑性樹脂複合材テープの熱可塑性樹脂を加熱する手段14(手段(A)に該当)、強化繊維を加熱する手段12(手段(B)に該当)、熱可塑性樹脂複合材テープが積層されるテーブル16及び積層された熱可塑性樹脂複合材テープを加圧する加圧ロール13を備えている。
[
図2]
図2は
図1の自動積層装置における2つの加熱手段の配置を変更し、加熱手段22、24とした例である。
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図3]
図3は
図1の自動積層装置に対して温度制御手段38を追加した例である。
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図4]
図4は
図2の自動積層装置に対して温度制御手段48を追加した例である。
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図5]
図5は
図3の自動積層装置に対して温度制御手段の配置を変更し、温度制御手段58とした例である。
[
図6]
図5は
図4の自動積層装置に対して温度制御手段の配置を変更し、温度制御手段68とした例である。
【0046】
[まとめ]
以上説明したように、本発明の自動積層装置は、手段(A)と手段(B)を有することにより熱可塑性樹脂複合材シートの内側と外側(表面)から加熱することができる。
熱可塑性樹脂複合材シートの内側と外側(表面)から加熱できることによって、温度制御が容易になり熱可塑性樹脂複合材シートの層間密着性を上がることができるとともに過加熱による樹脂劣化(炭化)を防ぐことができる。
特に積層効率を上げるために厚い熱可塑性樹脂複合材シートを使用するときに有効で、容易に厚みのある成形体を高い生産性で製造することができる。
【0047】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0048】
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図1~6]
11、21、31、41、51、61 搬送部
12、22、32、42、52、62 加熱手段(手段(B)に該当)
13、23、33、43、53、63 加圧ロール
14、24、34、44、54、64 加熱手段(手段(A)に該当)
15、25、35、45、55、65 搬送ロール
16、26、36、46、56、66 テーブル
17、27、37、47、57、67 熱可塑性樹脂複合材シート
38、48、58、68 温度制御手段
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図7、8]
71 輻射熱又は熱伝導
72、82 熱可塑性樹脂
73、83 加熱された樹脂
74、84 強化繊維
85 レーザー光