(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139936
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】SiCN膜の形成方法及びプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/318 20060101AFI20241003BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20241003BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20241003BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01L21/318 B
H01L21/31 C
C23C16/455
C23C16/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050889
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】古屋 治彦
(72)【発明者】
【氏名】李 金望
(72)【発明者】
【氏名】松木 信雄
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
5F058
【Fターム(参考)】
4K030AA06
4K030AA09
4K030AA16
4K030AA18
4K030BA29
4K030BA36
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4K030BA38
4K030BA41
4K030BB12
4K030FA01
4K030HA01
4K030JA03
4K030JA09
4K030JA10
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4K030KA05
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5F045AD07
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5F058BF37
5F058BF38
5F058BG01
5F058BG10
5F058BH16
(57)【要約】
【課題】前駆体ガスのSi-C結合を基板上に形成する膜に継承できる。
【解決手段】(a)処理容器内に基板を準備する工程と、(b)処理容器内に、Si-N結合及びSi-C結合を有する前駆体ガスを含む第1のガスを供給して基板上に吸着層を形成する工程であり、吸着層の形成においてSi-N結合及びSi-C結合を活性化しない、該工程と、(c)処理容器内をパージする第1パージの工程と、(d)処理容器内に水素ガスを含む第2のガスと、VHF波又はUHF波の電力とを供給してプラズマを生成し、基板をプラズマにさらして吸着層と反応させることによりSiCN膜を形成する工程であり、SiCN膜は吸着層の少なくともSi-C結合及びSi-N結合の一部を継承する、該工程と、(e)処理容器内をパージする第2パージの工程とを備え、(b)~(e)の工程を繰り返す、SiCN膜の形成方法が提供される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)処理容器内に基板を準備する工程と、
(b)前記処理容器内に、Si-N結合及びSi-C結合を有する前駆体ガスを含む第1のガスを供給して基板上に吸着層を形成する工程であり、前記吸着層の形成においてSi-N結合及びSi-C結合を活性化しない、該工程と、
(c)前記(b)の工程の後に前記処理容器内をパージする第1パージの工程と、
(d)前記処理容器内に水素ガスを含む第2のガスと、VHF波又はUHF波の電力とを供給してプラズマを生成し、前記基板を前記プラズマにさらして前記吸着層と反応させることによりSiCN膜を形成する工程であり、前記SiCN膜は前記吸着層の少なくともSi-C結合及びSi-N結合の一部を継承する、該工程と、
(e)前記(d)の工程の後に前記処理容器内をパージする第2パージの工程と、を備え、
前記(b)の工程~前記(e)の工程を繰り返す、SiCN膜の形成方法。
【請求項2】
前記前駆体ガスは、Si-Si結合を有しない、
請求項1に記載のSiCN膜の形成方法。
【請求項3】
前記VHF波又はUHF波の周波数は、100MHz~3GHzの範囲内である、
請求項1に記載のSiCN膜の形成方法。
【請求項4】
前記(b)の工程及び前記(d)の工程において、前記処理容器内の圧力は10Pa~400Paの範囲内である、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のSiCN膜の形成方法。
【請求項5】
前記第2のガスは、不活性ガスを含む、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のSiCN膜の形成方法。
【請求項6】
前記不活性ガスは、Arガス、Heガス、N2ガスのうちの少なくとも一つから選択される、
請求項5に記載のSiCN膜の形成方法。
【請求項7】
前記(c)の工程の後であって前記(d)の工程の前に、(f)前記処理容器内を真空引きする工程をさらに備える、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のSiCN膜の形成方法。
【請求項8】
前記(c)の工程と前記(f)の工程とを所定回数繰り返し、前記(d)の工程を実行する、
請求項7に記載のSiCN膜の形成方法。
【請求項9】
前記前駆体ガスは、HMCTS、HMCTZ、TMSI、BTBAMS、BSBAMS、BTBAES、BTBAVSのうちの1つから選択される、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のSiCN膜の形成方法。
【請求項10】
前記基板の温度は450℃以下である、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のSiCN膜の形成方法。
【請求項11】
(g)前記処理容器内に窒素ガスを含む第3のガスと、VHF波又はUHF波の電力とを供給してプラズマを生成し、前記基板を前記プラズマにさらして改質する改質工程をさらに備える、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のSiCN膜の形成方法。
【請求項12】
前記(g)の工程は、前記(b)の工程~前記(e)の工程を繰り返す間に、所定の頻度で実行される、
請求項11に記載のSiCN膜の形成方法。
【請求項13】
処理容器と、制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記請求項1~請求項13のいずれか1項に記載のSiCN膜の形成方法を制御するプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、SiCN膜の形成方法及びプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1は、基板表面に炭化ケイ素膜を堆積させるための方法を開示している。該方法は、例えば気相カルボシラン前駆体の使用を含み、ALD(Atomic Layer Deposition)法によるプラズマエンハンスト原子層堆積(PEALD)プロセスを採用する。該方法は、600℃未満、例えば約23℃と約200℃の間、または約100℃の温度で実施されてもよいことが記載されている。
【0003】
例えば、特許文献2、3は、ALD堆積プロセス又はサイクリックCVD堆積プロセスから選択される堆積法を用いて、ケイ素含有膜を形成する方法を開示している。該方法は、基材を反応器に配置し、これを例えば700℃に加熱し、Si-N結合、Si-Si結合、及びSi-H2基を有する少なくとも1種のシラン系前駆体を導入し、未反応物をパージし、還元剤(水素プラズマ)を与えて前駆体と反応させてケイ素含有膜を堆積し、未反応物をパージすることを繰り返すことを開示している。
【0004】
例えば、特許文献4は、窒化シリコン膜を基板上に低温で形成する方法を開示している。該方法は、不安定なSi-N結合、Si-C結合またはN-C結合を有する前駆体ガス分子を含むガスを供給すること、不安定な前記結合を優先的に断ち切って基板上に前駆体材料層を形成することを開示している。また、基板上に前駆体材料層を形成する際に、活性化された前駆体ガス分子が、前記1つまたは複数の反応部位のところで基板の表面と結合すること、および、前駆体材料層上でプラズマ処理プロセスを実行して、共形の窒化シリコン膜を形成することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012/0122302号明細書
【特許文献2】特開2014-013888号公報
【特許文献3】特開2015-15465号公報
【特許文献4】特開2015-507362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、前駆体ガスのSi-C結合を基板上に形成する膜に継承することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一の態様によれば、(a)処理容器内に基板を準備する工程と、(b)前記処理容器内に、Si-N結合及びSi-C結合を有する前駆体ガスを含む第1のガスを供給して基板上に吸着層を形成する工程であり、前記吸着層の形成においてSi-N結合及びSi-C結合を活性化しない、該工程と、(c)前記(b)の工程の後に前記処理容器内をパージする第1パージの工程と、(d)前記処理容器内に水素ガスを含む第2のガスと、VHF波又はUHF波の電力とを供給してプラズマを生成し、前記基板を前記プラズマにさらして前記吸着層と反応させることによりSiCN膜を形成する工程であり、前記SiCN膜は前記吸着層の少なくともSi-C結合及びSi-N結合の一部を継承する、該工程と、(e)前記(d)の工程の後に前記処理容器内をパージする第2パージの工程と、を備え、前記(b)の工程~前記(e)の工程を繰り返す、SiCN膜の形成方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
一の側面によれば、前駆体ガスのSi-C結合を基板上に形成する膜に継承することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係るプラズマ処理装置の構成例を示す断面模式図。
【
図2】Si-C結合を有する前駆体ガスと膜への結合の継承を説明するための図。
【
図4】一実施形態に係るSiCN膜の形成方法の一例を示すフローチャート。
【
図5】一実施形態に係るSiCN膜の形成方法及びその変形例の一例を示す図。
【
図6】SiCN膜の組成と圧力依存の実験結果の一例を示す図。
【
図7】SiCN膜の膜中の炭素濃度と膜密度の関係を示す図。
【
図8】SiCN膜のXPSの測定結果の一例を示す図。
【
図9】H
2プラズマとN
2プラズマの実験結果の一例を示す図。
【
図10】実験に用いたSiCN膜の形成方法の一例を示すフローチャート。
【
図11】実験に用いたSiCN膜の形成方法の一例を示す図。
【
図12】実験結果のSiCN膜の膜中の炭素濃度と膜密度の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0011】
[プラズマ処理装置]
本実施形態に係る成膜方法を実行するプラズマ処理装置の構成例について、
図1を参照して説明する。
図1は、一実施形態に係るUHF波のプラズマ源を備えたプラズマ処理装置1の構成例を示す図である。
【0012】
プラズマ処理装置1は、処理容器10とプラズマ源2とを備える。処理容器10は、気密に構成されたアルミニウム等の金属材料からなる略円筒状であり、接地されている。プラズマ源2は、処理容器10内にUHF波の電力を導入してプラズマを形成する。処理容器10の天壁10aは、金属製の本体部に、複数の放射機構42に繋がる誘電体部材(以下、誘電体窓56という。)が嵌め込まれて構成されている。これにより、プラズマ源2は天壁10aの複数の誘電体窓56を介して処理容器10内にUHF波を導入するようになっている。
【0013】
ただし、処理容器10の天壁10aは、金属製の本体部に、複数の放射機構42に繋がる誘電体部材が嵌め込まれている構成に限らない。例えば、基板Wに対向する天壁10aの面を覆うように誘電体部材を設け、1つの放射機構42からUHF波の電力を導入してもよいし、基板Wに対向する天壁10aの面に所定のガスをシャワー状に供給するシャワー構造を有する構成としてもよい。また、理容器10内に導入する電力は、UHF波に限らずVHF波の電力であってもよい。VHF波又はUHF波の周波数は、100MHz~3GHzの範囲内である。
【0014】
プラズマ処理装置1は制御装置130を有する。制御装置130は、例えばコンピュータであり、プログラム格納部(図示せず)を有している。プログラム格納部には、プラズマ処理装置1における半導体ウェハを一例とする基板Wの処理を制御するプログラムが格納されている。なお、上記プログラムは、例えばコンピュータ読み取り可能なハードディスク(HD)、フレキシブルディスク(FD)、コンパクトディスク(CD)、マグネットオプティカルデスク(MO)、メモリーカード等のコンピュータに読み取り可能な記憶媒体に記録されていたものであって、その記憶媒体から制御装置130にインストールされたものであってもよい。
【0015】
処理容器10内には、基板Wを水平に支持する載置台11が、処理容器10の底部中央に絶縁部材12aを介して立設された筒状の支持部材12により支持された状態で設けられている。載置台11及び支持部材12を構成する材料は、例えば、表面をアルマイト処理(陽極酸化処理)したアルミニウム等の金属や内部に高周波用の電極を有した絶縁性材料(セラミックス等)である。
【0016】
また、図示はしていないが、載置台11には、温度制御機構、基板Wの裏面に熱伝達用のガスを供給するガス流路、基板Wを搬送するために昇降する昇降ピン等が設けられている。さらに、基板Wを静電吸着するための静電チャックが設けられていてもよい。
【0017】
載置台11には、整合器13を介してRFバイアス電源14が電気的に接続されている。このRFバイアス電源14から載置台11にRFバイアス電力が供給されることにより、基板W側にプラズマ中のイオンが引き込まれ、膜質改善や面内均一性に寄与する。
【0018】
処理容器10の底部側方には排気管15が接続されており、この排気管15には真空ポンプを含む排気装置16が接続されている。この排気装置16を作動させることにより、処理容器10内を排気することができ、処理容器10内を減圧して所定の圧力に設定することができる。また、処理容器10の側壁10bには、基板Wの搬出入を行うための搬入出口17と、この搬入出口17を開閉するゲートバルブ18とが設けられている。
【0019】
また、プラズマ処理装置1は、処理容器10の天壁10aから処理容器10内に所定のガスを吐出するための第1のガスシャワー部21と、天壁10aと載置台11の間の位置からガスを導入する第2のガスシャワー部22を有する。
【0020】
なお、第1のガスシャワー部21及び第2のガスシャワー部22は、
図1では便宜的に径方向にずらした位置に表示しているが、同一円上に交互に設けられている。第1のガスシャワー部21は、第1のガス供給部81からガスライン83を通って運ばれたガスを天壁10aの裏面から供給する。第2のガスシャワー部22は、処理容器10の天壁の裏面から垂下するノズルを有し、第2のガス供給部82からガスライン84を通って運ばれたガスをノズル先端から天壁10aと載置台11の間の位置に供給する。
【0021】
プラズマ源2は、複数経路に分配してUHF波を出力するUHF波出力部30と、UHF波出力部30から出力されたUHF波を伝送するUHF波伝送部40とを有する。UHF波出力部30は、UHF波電源と、UHF波発振器と、アンプと、分配器とを有する。UHF波電源は、UHF波発振器に対して電力を供給する。UHF波発振器は、所定周波数のUHF波を例えばPLL発振させる。アンプは、発振されたUHF波を増幅する。分配器では、UHF波の損失ができるだけ起こらないように、入力側と出力側のインピーダンス整合を取りながらアンプで増幅されたUHF波を分配する。なお、UHF波の周波数は、300MHz~3GHzの範囲内である。
【0022】
UHF波伝送部40は、複数のアンプ部41と、アンプ部41に対応して設けられた複数の放射機構42とを有する。放射機構42は、例えば、天壁10aの中央に1個、該中央のものを中心とした円周上に等間隔で6個、合計7個、配置されている。なお、本例では、中心の放射機構42と外周の放射機構42との間の距離と、外周の放射機構42間の距離とは等しくなるよう、これらは配置されている。
【0023】
アンプ部41は、分配器にて分配されたUHF波を各放射機構42に導く。放射機構42は、同軸管51を有する。同軸管51は、筒状の外側導体51a及びその中心に設けられた棒状の内側導体51bからなる同軸状のUHF波伝送路を有する。放射機構42は、アンプ部41で増幅されたUHF波を、同軸管51に給電する給電アンテナ(図示せず)を有する。さらに、放射機構42は、負荷のインピーダンスをUHF波電源の特性インピーダンスに整合させるチューナと、同軸管からのUHF波を処理容器10内に放射するアンテナ部とを有する。
【0024】
アンテナ部は、同軸管51の下端部に設けられており、処理容器10の天壁10aの金属部分に嵌め込まれている。アンテナ部は、誘電体窓56を有し、誘電体窓56を透過したUHF波により、処理容器10内の誘電体窓56の直下部分に表面波プラズマが生成される。
【0025】
複数の誘電体窓56は天井部の中央に一つと、外周部に6つ設けられている。複数の誘電体窓56のそれぞれは、独立してプラズマ源2から供給されるUHF波電力を制御できる。外周部の誘電体窓56から供給されるUHF波電力は、中央部の誘電体窓56から供給されるUHF波電力よりも高くてもよいし、同じであってもよい。
【0026】
なお、プラズマ処理装置1は、処理容器10内にイオントラップ機能を備え、後述する水素プラズマ(H2プラズマ)では水素ラジカルを基板に照射するようにしてもよい。
【0027】
[SiCN膜形成の概要]
本開示のSiCN膜の形成方法では、プラズマ処理装置1にてALD法によるプラズマエンハンスト原子層堆積(PEALD)プロセスを実行する。
【0028】
原料ガスである前駆体ガスは、第2のガスシャワー部22から供給される。例えば、SiCN膜を形成する場合、第2のガスシャワー部22からSi-N結合及びSi-C結合を有する前駆体ガスを含む第1のガスを供給して基板W上に吸着層を形成する。吸着層を形成する工程では、電力を供給せず、プラズマを用いない。基板Wにより近い位置に前駆体ガスを供給することにより前駆体ガスの解離を抑制し、基板Wに前駆体ガスを吸着させる。また、吸着層を形成する工程では、Si-N結合及びSi-C結合を活性化しない。よって、吸着層のSi-N結合及びSi-C結合は切断されない。
【0029】
前駆体ガスは、HMCTS、HMCTZ、TMSI、BTBAMS、BSBAMS、BTBAES、BTBAVSのうちの1つから選択されてもよい(
図3参照)。前駆体ガスは、少なくともSi-N結合及びSi-C結合を有していればよく、Si-Si結合を有しなくてよい。
【0030】
第1のガスは、Heガス等のキャリアガスを含んでよい。また、第1のガスは、Arガス等の不活性ガスを希釈ガスとして含んでよい。第1のガスに含まれるキャリアガス及び希釈ガスは、第1のガスシャワー部21から供給してよい。ただし、第1のガスに含まれる希釈ガスは、第2のガスシャワー部22から供給してもよい。
【0031】
H2ガス(水素ガス)を含む第2のガスは、第1のガスシャワー部21から供給される。UHF波の電力を供給し、H2ガスを、プラズマにより活性化(プラズマ励起)させる。また、任意でRFバイアス電源14からRFバイアス電力を供給してもよい。前駆体ガスに含まれるSi-C結合以外のCはSiと切れやすい集団Rに入っている。基板Wをプラズマ励起状態のH2ガス(H2プラズマ)にさらして吸着層と反応させることにより、H2プラズマは集団Rの結合を切断することができる。これにより、SiCN膜の特性を低下させる集団Rを吸着層から脱離させながら、吸着層の少なくともSi-N結合及びSi-C結合の一部をSiCN膜に継承させる。係る方法によれば、基板Wの温度を450℃以下の低温に制御した状態でSiCN膜を形成することができ、更にSi-C結合をSiCN膜に継承させることにより膜質を向上させることができる。
【0032】
第2のガスは、不活性ガスを含んでよい。不活性ガスは、Arガス、Heガス、N2ガスのうちの少なくとも一つから選択されてよい。第2のガスに含まれる不活性ガスは、第1のガスシャワー部21及び/又は第2のガスシャワー部22から供給してよい。
【0033】
前駆体ガスを含む第1のガスを供給して基板W上に吸着層を形成する工程と、H2ガスを含む第2のガスを供給して基板WをH2プラズマにさらして吸着層と反応させ、SiCN膜を形成する工程との間には、パージ工程を有する。
【0034】
パージ工程では、Arガス等の不活性ガスを第1のガスシャワー部21及び/又は第2のガスシャワー部22から供給する。前駆体ガスを含む第1のガスを処理容器10内に供給して基板W上に吸着層を形成する工程(以下、「吸着層を形成する工程」という。)の前に行うパージ工程を第2パージの工程という。H2ガスを含む第2のガスを供給してH2プラズマにさらして吸着層と反応させてSiCN膜を形成する工程(以下、「SiCN膜を形成する工程」という。)の前であって、かつ吸着層を形成する工程の後に行うパージ工程を第1パージの工程という。
【0035】
第1パージの工程及び第2パージの工程では、処理容器10内のガスをArガス等を供給することにより置換し、前工程で供給したガスを排気装置16により処理容器10外に排気する。
【0036】
第1パージの工程、吸着層を形成する工程、第2パージの工程、SiCN膜を形成する工程は繰り返し実行される。これにより、
図1のプラズマ処理装置1を使用してALD法により、基板Wを450℃以下に制御した状態で基板W上にSiCN膜を成膜することができる。
【0037】
[SiCN膜の低温成膜]
SiN膜は、電子デバイスの製造工程で使用されるフッ酸等のエッチングの液体に晒されると削れてしまう。そこで、近年、電子デバイスの製造工程において、ウェットエッチング耐性が高い膜としてSiCN膜が使用されている。特にデバイスの高集積化に伴い、ウェットエッチング耐性が高いSiCN膜を、低温(例えば、450℃以下)で成膜することが求められている。
【0038】
図2(a)の右側に示すように、成膜時の基板温度が600℃以上では、ガスに含まれるSiはCと結合し、成膜中にSi-C結合が形成され、膜質が向上した所望のSiCN膜を形成することができる。
【0039】
一方、
図2(a)の左側に示すように、基板温度が600℃より低い(例えば450℃)場合、ガスに含まれるSiは優先的に処理容器10内のNと結合するため、SiとCを低温状態で結合させることは難しく、Si-C結合の低温合成は進まない。このため、所望なSiCN膜が形成できず、膜質も向上しないという課題がある。特に、プラズマを使用するとイオンエネルギーにより、Si-C結合が切れてしまうため、最終的には吸着層の組成にCはなくなりほぼSiN膜になってしまう。
【0040】
そこで、本実施形態のSiCN膜の形成方法では、Si-C結合のある前駆体ガスを使用して前駆体ガスのSi-C結合を壊さずにSiCN膜に継承させる。さらにSi-C結合だけでなくSi-N結合のある前駆体ガスを使用して前駆体ガスのSi-N結合を壊さずにSiCN膜に継承させる。前駆体ガス中のSi-C結合及びSi-N結合をSiCN膜に継承させるため、前駆体ガスは、下記の特徴(1)~(3)のある原料ガスを使用する。
(1)Si-C結合がある。
(2)Si-N結合がある。
(3)Si-C結合及びSi-N結合以外のCはSiと切れやすい集団(「R」、「R'」等、集合Rで示すことがある。)に入っている。
【0041】
(3)については、例えば、Si-NH-R,Si-NR2,Si-NRR'の「R」、「R'」中にSi-C結合及びSi-N結合以外のCが入っている。例えば、CH3等の、SiCN膜に良くない影響を与えるカーボンを含む集合は、Siと切れ易い集団Rに入っている。
【0042】
結合エネルギーは、Si-Nが400kJ/mol程度、Si-NH-RのN-Rが200~300kJ/mol程度であり、N-RがSi-Nより切れやすい。このため、吸着層がH2プラズマと反応することにより、Si-NH-RのSi-Nが残り、Rが切れてSi-C結合及びSi-N結合は継承され、SiCN膜に良くない影響を与える集合R中のCは除去される。
【0043】
Si-C結合を継承しない場合、
図2(c)に示すように、吸着層はSi-C結合を含まず、基板Wの温度を450℃以下に制御した状態でSiCN膜を形成することはできない。一方、Si-C結合を継承した場合、
図2(d)に示すように、吸着層はSi-C結合を含み、膜質が高いSiCN膜を形成することができる。さらに、
図1のプラズマ処理装置1を用いてプラズマ密度の高い高周波プラズマを使用することで、膜質をさらに向上させることができる。なお、高密度プラズマによって膜質を高めるためには、VHF波又はUHF波の周波数が100MHz~3GHzの範囲内の高周波プラズマを使用する。
【0044】
以上のように、本実施形態のSiCN膜の形成方法では、吸着層のSi-C結合がSiCN膜に継承される。また、吸着層のSi-N結合もSiCN膜に継承される。係る方法によれば、基板Wの温度を450℃以下に制御した状態で高密度、かつ、高エッチング耐性を有するSiCN膜を形成することができる。
【0045】
上記の特徴(1)~(3)のある前駆体ガスとしては、以下が一例として挙げられる。
・Aminosilanes:
RIRIIN-R2-xSiHx-NRIIIRIV(xは0~1の整数、RはCnHm基、RI,RII,RIII,RIVは同じ又は異なるCnHm基又はH)。RI,RII,RIII,RIVはSi-C結合及びSi-N結合以外のCはSiと切れやすい集団Rの一例である。
・Silazanes:
環状[-(CH3)2Si-NH-]n,環状[-(CH3)SiH-NH-]n,環状[-(CH3)SiH-N(CH3)-]n,例えばn=4~6。
【0046】
2、2、4、4、6、6-ヘキサメチルシクロトリシラザン(
図3(a) HMCTS参照)、線状(CH
3)
3Si-NH-Si(CH
3)
3,(CH
3)
3Si-[NH-Si(CH
3)
2]
n-Si(CH
3)
3,例えばn=1~3は、Si-C結合及びSi-N結合を含む前駆体ガスの一例である。なお、Si-C結合があれば、一部又は全てのCH
3がHやC
xH
yに変更しても良い。
・Silyl imidazoles:
trimethylsilylimidazole(
図3(c) TMSI参照)。
【0047】
前駆体ガスは、HMCTS(
図3(a))、HMCTZ(
図3(b))、TMSI(
図3(c))、BTBAMS(
図3(d))、BSBAMS(
図3(e))、BTBAES(
図3(f))、BTBAVS(
図3(g))のうちの1つから選択されてもよい。
【0048】
[SiCN膜の形成方法]
一実施形態のSiCN膜の形成方法について、
図4及び
図5を参照しながら説明する。
図4は、一実施形態に係るSiCN膜の形成方法の一例を示すフローチャートである。
図5(a)は、一実施形態に係るSiCN膜の形成方法の一例を示す図である。
図5(b)は、一実施形態に係るSiCN膜の形成方法の変形例を示す図である。
【0049】
SiCN膜の形成方法は、例えば、
図1のプラズマ処理装置1にて実行される原子層堆積(ALD)プロセスであり、制御装置130により制御される。
図4に示す一実施形態に係るSiCN膜の形成方法では、ステップS1において、制御装置130は、ゲートバルブ18を開き、搬入出口17からプラズマ処理装置1の処理容器10内に基板Wを搬入し、載置台11に載置する。
【0050】
次に、ステップS3において、制御装置130は、処理容器10内をパージする(
図5(a)パージ工程 ST1)。制御装置130は、例えば、Arガス等の不活性ガスを処理容器10内に供給し、0.1秒~60秒の間、排気装置16にて排気しつつ処理容器10内をパージするように制御する。これにより、処理容器10内のガスを排気することにより、処理容器10内のコンディションが整えられる。このパージ工程は、後述する繰り返し処理の2回目以降、「H
2プラズマ処理工程(ST4)」の後であって、かつ「前駆体ガス吸着工程(ST2)」の前に処理容器10内をパージする第2パージの工程の一例である。「前駆体ガス吸着工程(ST2)」は、「吸着層を形成する工程」の一例であり、「H
2プラズマ処理工程(ST4)」はSiCN膜を形成する工程」の一例である。
【0051】
次に、ステップS5において、制御装置130は、前駆体ガスを含む第1のガスを処理容器10内に供給し、基板Wに吸着させる(
図5(a) ST2)。例えば、前駆体ガスは、TMCTSを供給し、第1のガスに含まれる前駆体ガス以外のガスとして、例えば、Arガス、Heガス、N
2ガスのうちの少なくとも1つを処理容器10内に0.1秒~60秒の間供給する。これにより、プリカーサを基板Wに吸着させ、Si-N結合及びSi-C結合を有する吸着層を基板W上に形成する。
【0052】
次に、ステップS7において、制御装置130は、処理容器10内をパージする(
図5(a)パージ工程 ST3)。制御装置130は、例えば、Arガス等の不活性ガスを処理容器10内に供給し、0.1秒~60秒の間、排気装置16にて排気しつつ処理容器10内をパージするように制御する。これにより、処理容器10内のガスを排気することにより、処理容器10内のコンディションが整えられる。このパージ工程は、「吸着層を形成する工程(ST2)」の後であって、かつ「H
2プラズマ処理工程(ST4)」の前に処理容器10内をパージする第1パージの工程の一例である。
【0053】
次に、ステップS9において、制御装置130は、H
2ガスを含む第2のガスを処理容器10内に供給し、UHF波の電力を供給し、基板WをH
2プラズマにさらして吸着層と反応させてSiCN膜を形成する(
図5(a) ST4)。例えば、第2のガスとしてH
2ガスを供給し、さらに、例えばArガス、Heガス、N
2ガスのうちの少なくとも1つを処理容器10内に0.1秒~60秒の間供給する。これにより、H
2ガスを含む第2のガスを供給してH
2プラズマにさらして吸着層と反応させ、Si-C結合及びSi-N結合を継承させてSiCN膜を形成する。また、Si-C結合及びSi-N結合以外のCが入っている集合Rは、H
2プラズマ中のイオンエネルギーにより切断される。これにより、吸着層がH
2プラズマと反応することにより、Si-NH-RのSi-Nが残り、集合Rが切れて集合Rに含まれるCは除去される。この結果、SiCN膜は前駆体ガスからSi-C結合及びSi-N結合を継承し、膜質が高いSiCN膜を形成することができる。
【0054】
次に、ステップS11において制御装置130は、設定回数に到達したかを判定し、設定回数nに到達するまで、ステップS3~S9を繰り返し、ステップS11において設定回数に到達したと判定すると本処理を終了する。
【0055】
(変形例)
図5(b)は、一実施形態のSiCN膜の形成方法の変形例を示す。
図5(b)のステップST1、ST2、ST3-1、ST4のそれぞれは、
図5(a)のステップST1、ST2、ST3、ST4のそれぞれと同じ処理を行う。本変形例では、これらのステップSTに加えて、
図5(a)にはないステップST3-2の処理を行う。
【0056】
すなわち、ST3-1のパージ工程の後であってST4のH
2プラズマ処理工程の前にST3-2の処理容器10内を真空引きする工程をさらに行ってもよい。真空引き工程では、パージガスの供給を停止し、排気装置16により処理容器10内の圧力を所望の真空度になるように制御する。ステップST1、ST2、ST3-1、ST3-2、ST4の工程を設定回数(例えば100回等)繰り返してよい(
図5(b)の(1)の繰り返し)。この場合、ステップST1、ST2、ST3-1、ST3-2、ST4の工程を1回繰り返す毎に、ステップST3-1、ST3-2を所定回数(例えば2回等)繰り返してよい(
図5(b)の(2)の繰り返し)。
【0057】
なお、
図5(a)及び(b)に示すSiCN膜の形成方法におけるプロセス条件は、以下である。ただし、以下に示すプロセス条件は一例であり、これに限られるものではない。
【0058】
[実験1]
上述したSiCN膜の形成方法にて形成されたSiCN膜の膜質について、圧力、および、前駆体ガスのガス種を変更して実験を行った。
【0059】
<プロセス条件>
第1のガス:HMCTS、HMCTZ、BTBAS-MS、TMSI(前駆体ガス)
第2のガス:H2ガス、Arガス、Heガス、N2ガスのうちの少なくとも1つ
基板温度:100℃~450℃
処理容器内の圧力:10Pa~400Pa
天壁10aと載置台11との間のギャップ:10mm~100mm
UHF波の周波数:40MHz~3GHz
UHF波のパワー:50W~5000W
【0060】
[実験結果]
図6~
図9を参照しながら、SiCN膜の形成方法にて形成されたSiCN膜の膜質について説明する。
図6は、
図4のSiCN膜の形成方法により前駆体ガスとしてHMCTSを用いて形成したSiCN膜の組成と圧力依存の実験結果の一例を示す図である。
【0061】
図6の横軸は、処理容器10内の圧力を示し、縦軸は、形成したSiCN膜の組成を示す。処理容器10内の圧力は、少なくとも前駆体を含む第1のガスにより吸着層を形成する工程及びSiCN膜を形成する工程において、20Pa、40Pa、133Paに設定した。
【0062】
この結果、20Pa、40Pa、133Paのいずれの圧力においても、膜中にC(カーボン)が含まれることが分かった。
図4のSiCN膜の形成方法では、集合R中のCは成膜中に除去されるため、膜中にCが存在することから、前駆体ガスに含まれるSi-C結合がSiCN膜に継承されたことが分かった。
【0063】
また、20Pa、40Pa、133Paのいずれの圧力においても、膜中にN(窒素)が含まれることが分かった。つまり、前駆体ガスに含まれるSi-N結合がSiCN膜に継承されたことが分かった。
【0064】
また、処理容器10内の圧力によってSiCN膜に含まれるCの濃度が変わった。
図6に示す結果から処理容器10内が20Pa程度の低圧になるとイオンエネルギーが強い状態で基板Wに衝突するため、Si-C結合が切られる確率が高くなることがわかった。
【0065】
図7は、HMCTS、及び、他の前駆体ガスを用いて
図4のSiCN膜の形成方法により形成したSiCN膜の膜中の炭素濃度と膜密度の関係を示す図である。
【0066】
図7の横軸は、前駆体ガスの種類別の処理容器10内の圧力を示し、左側縦軸は、形成したSiCN膜の膜中の炭素濃度を示す、また、右側縦軸は形成したSiCN膜の膜密度を示す。処理容器10内の圧力は、少なくとも前駆体を含む第1のガスにより吸着層を形成する工程及びSiCN膜を形成する工程において、20Pa、40Paに設定した。
【0067】
この結果、いずれの前駆体ガスを用いても20Paに比べて40Paの方が膜中の炭素濃度が大きくなることがわかった。
図4のSiCN膜の形成方法では、集合R中のCは成膜中に除去されるため、膜中にCが存在することから、前駆体ガスに含まれるSi-C結合がSiCN膜に継承されたことが分かった。
【0068】
また、いずれの前駆体ガスを用いても圧力を低圧(20Pa)にすると、膜中の炭素濃度が減少し、膜密度が低下することがわかった。
【0069】
よって、前駆体を含む第1のガスにより吸着層を形成する工程及びSiCN膜を形成する工程において、処理容器10内の圧力は10Pa~400Paの範囲内に制御することが好ましい。これにより、前駆体ガスに含まれる少なくともSi-C結合及びSi-N結合の一部を継承することができる。この結果、SiCN膜中にSi-C結合があることで膜質の高いSiCN膜を形成することができる。また、上記圧力帯の中で適切な圧力に制御した上で、よりイオンエネルギーを小さくしてSi-C結合を壊さないようにすることが好ましい。更に、UHF波の周波数は、40MHz以上を使用し、高密度プラズマを生成することが好ましい。これにより、SiCN膜の膜質をより高めることができる。
【0070】
図8は、
図4のSiCN膜の形成方法により前駆体ガスとしてHMCTSを用いて形成したSiCN膜をX線光電子分光法(XPS)により測定したXPSスペクトルを示す図である。
図8の実験では、上記プロセス条件を用いて
図4のSiCN膜の形成方法によりSiCN膜を形成した。
【0071】
図8の横軸は、結合エネルギー(eV)を示し、縦軸は、XPSスペクトルの強度(CPS)を示す。図中の線Aは、処理容器10内を40Paに制御して形成したSiCN膜をBaseとして膜のXPSスペクトルの結合エネルギーの状態を示す。線Bは、処理容器10内を20Paに制御して形成したSiCN膜のXPSスペクトルの結合エネルギーの状態を示す。線Cは、処理容器10内を133Paに制御して形成したSiCN膜のXPSスペクトルの結合エネルギーの状態を示す。
【0072】
これによれば、線Cの処理容器10内が133PaのときのXPSスペクトルの結合エネルギーでは、測定したSiCN膜のSi-C結合を示すXPSスペクトルのピークが線AのBaseと同じように高い位置にあり、線AのBaseと同様にSiCN膜中に多くのSi-C結合が継承できていることがわかった。また、SiCN膜中のCの結合状態は主にSi-C結合であり、一部はC-C結合及び/又はC-H結合(図中C-C(H))であることがわかった。線CのSiCN膜のC-C(H)のピークは、線AのBaseよりも低く、Baseより更に膜質が良いことがわかった。
【0073】
一方、線BのXPSスペクトルのピークは、測定したSiCN膜のSi-C結合及びC-C(H)のいずれも低く、SiCN膜中に継承されるSi-C結合は線A及び線Cよりも少ないことがわかった。
図8に示す結果からも処理容器10内が20Pa程度の低圧になるとイオンエネルギーが強い状態で基板に衝突するため、Si-C結合が切られる確率が高くなることがわかった。
【0074】
図9は、
図4のSiCN膜の形成方法により前駆体ガスとしてHMCTSを用いて形成したSiCN膜の組成と膜特性の実験結果の一例を示す図である。
図9の実験では、上記プロセス条件を用いて
図4のSiCN膜の形成方法によりSiCN膜を形成した。
【0075】
図9は、成膜中の処理容器10内の圧力、SiCN膜の組成、組成比、RI、膜密度、WER(ウェットエッチレート)を示す。
図9の結果に示すように、
図4のSiCN膜の形成方法によれば、いずれの圧力においてもSiCN膜の組成、組成比に示すように前駆体ガスのSi-C結合及びSi-N結合をSiCN膜に継承できた。また、いずれの圧力においてもRIは概ね同じであり、変化はなかった。
【0076】
また、圧力が40Pa及び133Paの場合、SiCN膜中のCの含有率は、圧力が20Paのときの3倍以上の20%以上となった。よって、成膜時、処理容器10内の圧力は10Pa~400Paの範囲内に制御すればよいが、40Pa以上に制御することがより好ましいことがわかった。
【0077】
通常SiCN膜中のCの含有率が高くなるほど膜密度は低下する。膜密度が高いほど膜質は良くなる。例えばバッチ式の熱処理を行うALD装置では、SiCN膜中のCの含有率が12%程度になると膜密度は2.6程度になる。これに対して、
図4のSiCN膜の形成方法では、処理容器10内の圧力が40Pa及び133Paの場合、SiCN膜中のCの含有率が20%以上であっても膜密度(g/cm
3)は2.8以上であり高密度なSiCN膜を生成することができた。
【0078】
WER(ウェットエッチレート)は、フッ酸が0.5%の濃度で1分間に削れる量(Å/min)を示す。処理容器10内の圧力が20Pa、40Pa及び133Paのいずれの場合にも、SiCN膜はほぼ削れなかった。つまり、
図4のSiCN膜の形成方法により形成されたSiCN膜は、エッチング耐性(フッ酸耐性)も十分な膜特性を有していた。
【0079】
[実験2]
次に、SiCN膜の膜中の炭素濃度を制御する実験を行った。
図10は、本実験に用いたSiCN膜の形成方法の一例を示すフローチャートである。
図11は、本実験に用いたSiCN膜の形成方法の一例を示す図である。
【0080】
図10に示すSiCN膜の形成方法では、
図11のST1~ST4が第1設定回数繰り返される場合、第1設定回数よりも少ない第2設定回数に一度H
2プラズマ処理工程(ST4)の後に、パージ工程(ST5)を挟んでN
2プラズマ処理工程(ST6)を行う。N
2プラズマ処理は、処理容器10内にN
2ガスを含む第3のガスと、VHF波又はUHF波の電力とを供給してプラズマを生成し、基板WをN
2プラズマにさらして改質する改質工程の一例である。この改質工程は、
図11のST1~ST4の工程を繰り返す間に、所定の頻度で実行される。
【0081】
まず、ステップS1において、制御装置130は、ゲートバルブ18を開き、搬入出口17から基板Wを搬入し、載置台11に載置する。次に、ステップS3において、制御装置130は、処理容器10内をパージする(
図11 ST1)。例えば、Arガス等の不活性ガスを処理容器10内に供給し、0.1秒~60秒の間、排気装置16にて排気しつつ処理容器10内をパージするように制御する。これにより、処理容器10内のコンディションが整えられる。このパージ工程は、第2パージの工程の一例である。
【0082】
次に、ステップS5において、制御装置130は、前駆体ガスを含む第1のガスを処理容器10内に供給し、基板Wに吸着させる(
図11 ST2)。例えば、前駆体ガスは、TMCTSを供給し、第1のガスに含まれる前駆体ガス以外のガスとして、例えば、Arガス、Heガス、N2ガスのうちの少なくとも1つを処理容器10内に0.1秒~60秒の間供給する。これにより、プリカーサを基板Wに吸着させ、Si-N結合及びSi-C結合を有する吸着層が基板上に形成される。
【0083】
次に、ステップS7において、制御装置130は、処理容器10内をパージする(
図11 ST3)。例えば、Arガス等の不活性ガスを処理容器10内に供給し、0.1秒~60秒の間、排気装置16にて排気しつつ処理容器10内をパージするように制御する。これにより、処理容器10内のコンディションが整えられる。このパージ工程は、第1パージの工程の一例である。
【0084】
次に、ステップS9において、制御装置130は、H
2ガスを含む第2のガスを処理容器10内に供給し、UHF波の電力を供給し、基板WをH
2プラズマにさらして吸着層と反応させてSiCN膜を形成する(
図11 ST4)。例えば第2のガスとしてH
2ガスを供給し、さらに、例えば、Arガス、Heガス、N2ガスのうちの少なくとも1つを処理容器10内に0.1秒~60秒の間供給する。これにより、H
2ガスを含む第2のガスを供給してH
2プラズマにさらして吸着層と反応させ、Si-C結合及びSi-N結合を継承させてSiCN膜を形成する。また、Si-C結合以外のCが入っている集合Rは、H
2プラズマ中のイオンエネルギーにより切断される。これにより、吸着層がH
2プラズマと反応することにより、Si-NH-RのSi-Nが残り、Rが切れてSi-C結合以外のCは除去される。この結果、SiCN膜の炭素はSi-C結合になり、膜質が高いSiCN膜を形成することができる。
【0085】
次に、ステップS13において制御装置130は、第1設定回数に到達したかを判定し、第1設定回数に到達しない場合、直ちにステップS3に戻り、ステップS3以降の処理を繰り返す。
【0086】
ステップS13において第1設定回数に到達し、ステップS15に進んだ場合、制御装置130は、処理容器10内をパージする(
図11 ST5)。例えば、Arガス等の不活性ガスを処理容器10内に供給し、0.1秒~60秒の間、排気装置16にて排気しつつ処理容器10内をパージするように制御する。これにより、処理容器10内のコンディションが整えられる。このパージ工程は、第3パージの工程の一例である。
【0087】
次に、ステップS17において、制御装置130は、N
2ガスを含む第3のガスを処理容器10内に供給し、UHF波の電力を供給し、基板をN
2プラズマにさらしてSiCN膜を改質する(
図11 ST6)。第3のガスにはN
2ガス以外のガスとして、例えば、Arガス、Heガス、N2ガスのうちの少なくとも1つを処理容器10内に0.1秒~60秒の間供給する。これにより、N
2ガスを含む第3のガスを供給して基板WをN
2プラズマにさらして吸着層と反応させ、SiCN膜を改質する。なお、N
2プラズマは、UHF波の電力に限るものではなく、例えば、VHF波の電力であってもよい。
【0088】
次に、ステップS19において、制御装置130は、第2設定回数に到達したかを判定する。第2設定回数は第1設定回数よりも少ない回数に設定されている。一例としては、第1設定回数は5~300回、第2設定回数は1~30回に設定されている。ただし、これに限らず、ステップS17は、ステップS3~S9の工程を繰り返す間に、所定の頻度で実行されてもよい。第2設定回数に到達していない場合、直ちにステップS3に戻り、ステップS3以降の処理を繰り返す。第2設定回数に到達したと判定すると本処理を終了する。
【0089】
上述したSiCN膜の形成方法にて形成されたSiCN膜の主なプロセス条件は以下の通りである。
【0090】
<プロセス条件>
第1のガス:THMCTS、HMCTZ、BTBAS-MS、TMSI(前駆体ガス)
第2のガス:H2ガス、及び、Arガス、Heガス、N2ガスのうちの少なくとも1つ
第3のガス:N2ガス
基板温度:100℃~450℃
処理容器内の圧力:10Pa~400Pa
天壁10aと載置台11との間のギャップ:10mm~100mm
UHF波の周波数:40MHz~3GHz
UHF波のパワー:50W~5000W
【0091】
[実験結果]
図12は、HMCTS、HMCTZ、BTBAS-MS、及び、TMSIの前駆体ガスを用いて
図10のSiCN膜の形成方法により形成したSiCN膜の膜中の炭素濃度と膜密度の関係を示す図である。
【0092】
図12の横軸は、前駆体ガスの種類別のN
2プラズマ処理による改質頻度を示し、左側縦軸は、形成したSiCN膜の膜中の炭素濃度を示す。また、右側縦軸は形成したSiCN膜の膜密度を示す。改質頻度は、H
2プラズマに対するN
2プラズマ処理の回数の比(第2設定回数/第1設定回数、
図10参照)として、0(N
2プラズマ処理なし)、1/50、1/8に設定した。第1設定回数は、
図11に示すH
2プラズマ処理工程(ST4)の繰り返し(1)の回数であり、第2設定回数は、N
2プラズマ処理工程(ST6)の繰り返し(2)の回数である。
【0093】
この結果、N2プラズマによる改質処理の頻度を変えることで、SiCN膜の膜中の炭素濃度を調整、制御することができることがわかった。
【0094】
また、N
2プラズマによる改質処理(
図10 S17)を行うことで、N
2プラズマによる改質処理を行わない場合に比べて、SiCN膜の膜質を改善することができる。これらによりSiCN膜の膜中の炭素濃度を所望な濃度に制御しつつ、膜質を維持することができることがわかった。
【0095】
以上に説明したように、第1及び第2実施形態のSiCN膜の形成方法によれば、前駆体ガスのSi-C結合を基板上に形成するSiCN膜に継承することができる。これにより、膜質の高いSiCN膜を形成することができる。また、周波数が100MHz~3GHzのVHF波又はUHF波によりプラズマ密度の高い高周波プラズマを生成することにより、SiCN膜の膜質を更に向上させることができる。
【0096】
更にN2プラズマによる改質処理を行うSiCN膜の形成方法によれば、SiCN膜中のC含有率を調整するために所定の頻度でN2プラズマ処理を実行する。これにより、SiCN膜中のNとCの濃度を調整と、SiCN膜の膜質を両立することができる。
【0097】
今回開示された実施形態に係るSiCN膜の形成方法及びプラズマ処理装置は、すべての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形及び改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0098】
本開示のプラズマ処理装置は、Capacitively Coupled Plasma(CCP)、Inductively Coupled Plasma(ICP)、Radial Line Slot Antenna(RLSA)、Electron Cyclotron Resonance Plasma(ECR)、Helicon Wave Plasma(HWP)のいずれのタイプの装置でも適用可能である。
【符号の説明】
【0099】
1 プラズマ処理装置
2 プラズマ源
10 処理容器
11 載置台
130 制御装置