(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139988
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】コンタクトレンズの保管方法
(51)【国際特許分類】
G02C 7/04 20060101AFI20241003BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241003BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20241003BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20241003BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241003BHJP
C08F 18/08 20060101ALI20241003BHJP
C08F 8/12 20060101ALI20241003BHJP
A61K 31/7088 20060101ALN20241003BHJP
G02C 13/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
G02C7/04
A61P27/02
A61K47/32
A61K9/06
A61K48/00
C08F18/08
C08F8/12
A61K31/7088
G02C13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050962
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】万代 修作
(72)【発明者】
【氏名】風呂 千津子
(72)【発明者】
【氏名】金森 祐哉
(72)【発明者】
【氏名】磯部 潤
【テーマコード(参考)】
2H006
4C076
4C084
4C086
4J100
【Fターム(参考)】
2H006BB03
2H006BB05
2H006BB08
2H006DA08
2H006DA09
4C076AA09
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4C084MA28
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4C084NA03
4C084NA13
4C084ZA331
4C086AA01
4C086AA02
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4C086MA02
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4C086MA58
4C086NA03
4C086NA13
4C086ZA33
4J100AG04P
4J100AN14Q
4J100BA03H
4J100CA04
4J100DA32
4J100FA03
4J100FA28
4J100HA09
4J100HB39
4J100HC09
4J100JA33
4J100JA34
(57)【要約】
【課題】形状の変化がなく、薬剤保持性に優れたコンタクトレンズの保管方法。
【解決手段】薬剤を含むコンタクトレンズの保管方法であって、前記コンタクトレンズがポリビニルアルコールの凍結融解ハイドロゲルを含み、前記凍結融解ハイドロゲルが前記薬剤を含み、前記コンタクトレンズを保存液中に浸漬させて-10℃以下で保管する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を含むコンタクトレンズの保管方法であって、
前記コンタクトレンズがポリビニルアルコールの凍結融解ハイドロゲルを含み、前記凍結融解ハイドロゲルが前記薬剤を含み、
前記コンタクトレンズを保存液中に浸漬させて-10℃以下で保管する、保管方法。
【請求項2】
前記コンタクトレンズの乾燥質量に対して、前記保存液の質量が10~500倍である請求項1記載の保管方法。
【請求項3】
前記コンタクトレンズを前記保存液中に浸漬させた後、1℃/分以上の冷却速度で-10℃以下まで冷却し、-10℃以下で保管する請求項1又は2記載の保管方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を含むコンタクトレンズの保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
治療のための薬剤を含むコンタクトレンズを装着することで眼中の患部に薬剤を長期間に渡って送出できる様、薬剤の徐放性を有するコンタクトレンズが検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、コンタクトレンズを保管する場合には、コンタクトレンズを保存液中に浸漬させて保管している。これは薬剤を含むコンタクトレンズも同様で、保存液中に浸漬させて保管している。しかし、薬剤を含むコンタクトレンズを保存液中に浸漬させて保管した場合、コンタクトレンズ中の薬剤が保存液中に徐々に溶出して含有量が低下し、使用時に十分な量の薬剤を患部に届けることができないという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、薬剤を含むコンタクトレンズを保存液中に浸漬させて保管する際の薬剤の溶出を抑制し、薬剤の含有量を維持できる保管方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
通常、コンタクトレンズを保管する際は、コンタクトレンズの変形を避ける為、凍結を避けて保管することになっている。一般社団法人日本コンタクトレンズ協会が発行している視力補正用及び非視力補正用コンタクトレンズの添付文書及び表示に関する自主基準においても、添付文書例に保管方法として、凍結を避け室温で保存する旨が記載されている。
本発明者らは鋭意検討の結果、ポリビニルアルコールの凍結融解ハイドロゲルを含むコンタクトレンズにおいては、凍結状態で保管しても変形することがないこと、そして、保存液中で-10℃以下で保管することで薬剤の溶出が抑制され、薬剤の含有量を維持でき、使用時に十分な量の薬剤を徐放できることを見出した。
【0007】
本発明は以下の態様を有する。
[1]薬剤を含むコンタクトレンズの保管方法であって、
前記コンタクトレンズがポリビニルアルコールの凍結融解ハイドロゲルを含み、前記凍結融解ハイドロゲルが前記薬剤を含み、
前記コンタクトレンズを保存液中に浸漬させて-10℃以下で保管する、保管方法。
[2]前記コンタクトレンズの乾燥質量に対して、前記保存液の質量が10~500倍である[1]記載の保管方法。
[3]前記コンタクトレンズを前記保存液中に浸漬させた後、1℃/分以上の冷却速度で-10℃以下まで冷却し、-10℃以下で保存する[1]又は[2]記載の保管方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、薬剤を含むコンタクトレンズを保存液中に浸漬させて保管する際の薬剤の溶出を抑制し、薬剤の含有量を維持できるコンタクトレンズの保管方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、「ハイドロゲル」とは、重合体の分子鎖同士が物理的又は化学的に架橋されて形成された網目構造を有し、この網目構造に水を取り込んで膨潤する構造体である。
「ポリビニルアルコールの凍結融解ハイドロゲル」とは、ポリビニルアルコール(以下、「PVOH」とも記す。)の水溶液について凍結と融解(解凍)を繰り返すことで形成されたハイドロゲルである。PVOHの水溶液について凍結と融解を繰り返すと、PVOHの分子鎖間に水素結合による物理的架橋点が形成され、ハイドロゲルとなる。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0010】
本発明の保管方法により保管されるコンタクトレンズは、薬剤を含むPVOHの凍結融解ハイドロゲルを含む。
【0011】
〔凍結融解ハイドロゲル〕
凍結融解ハイドロゲルは、PVOHを含む。
PVOHは、ビニルアルコール単位を含む重合体であり、典型的には、ビニルエステル系単量体単位を含む重合体のケン化物である。PVOHは、ビニルエステル系単量体単位を含んでいてもよい。
PVOHは、未変性のPVOHであってもよく、変性PVOHであってもよい。薬剤の徐放性の点では、変性PVOHが好ましい。
【0012】
<未変性PVOH>
未変性PVOHは、ビニルアルコール単位及びビニルエステル系単量体単位以外の他の単量体単位を含まないPVOHである。未変性PVOHは、ビニルアルコール単位のみからなるか、又はビニルアルコール単位とビニルエステル系単量体単位とからなる。
未変性PVOHは、通常、ビニルエステル系モノマーを重合し、さらにそれをケン化することにより製造することができる。
【0013】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、トリフロロ酢酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられる。なかでも、好ましくは炭素数3~20、より好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルであり、殊に好ましくは酢酸ビニルである。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0014】
ビニルエステル系モノマーの重合は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより行うことができる。なかでも、反応熱を効率的に除去できる溶液重合を還流下で行うことが好ましい。溶液重合の溶媒としては、通常はアルコールが用いられ、好ましくは炭素数1~3の低級アルコールが用いられる。
【0015】
得られた重合体のケン化についても、従来行われている公知のケン化方法を採用することができる。すなわち、重合体をアルコール又は水/アルコール溶媒に溶解させた状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行うことができる。
前記アルカリ触媒としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートを用いることができる。
【0016】
通常、無水アルコール系溶媒下、アルカリ触媒を用いたエステル交換反応が、反応速度の点や脂肪酸塩等の不純物を低減できるなどの点で好適に用いられる。ケン化反応の反応温度は、通常20~60℃である。反応温度が低すぎると、反応速度が小さくなり反応効率が低下する傾向があり、高すぎると反応溶媒の沸点以上となる場合があり、製造面における安全性が低下する傾向がある。なお、耐圧性の高い塔式連続ケン化塔などを用いて高圧下でケン化する場合には、より高温、例えば、80~150℃でケン化することが可能であり、少量のケン化触媒も短時間、高ケン化度のものを得ることが可能である。
【0017】
また、ケン化後、得られた未変性PVOHを、洗浄液で洗浄することが好ましい。かかる洗浄液としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類が挙げられ、洗浄効率と乾燥効率の観点からメタノールが好ましい。
【0018】
洗浄された未変性PVOHは、連続式又はバッチ式にて熱風などで乾燥される。乾燥温度は、通常、50~150℃である。乾燥温度が高すぎると、未変性PVOHが熱劣化する傾向があり、乾燥温度が低すぎると、乾燥に長時間を要する傾向がある。乾燥時間は、通常、1~48時間である。乾燥時間が長すぎると、未変性PVOHが熱劣化する傾向があり、乾燥時間が短すぎると、乾燥が不十分となったり、高温乾燥を要したりする傾向がある。乾燥後の未変性PVOHに含まれる溶媒の含有量は、通常、0~10重量%であり、特に好ましくは0.1~5重量%、さらに好ましくは0.1~1重量%である。
【0019】
未変性PVOHの平均ケン化度は、95モル%以上であることが好ましく、96モル%以上であることがより好ましく、97モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であってもよい。平均ケン化度が前記下限値以上であれば、ゲル化しやすく、ゲルの溶出率を低減できる傾向がある。
平均ケン化度は、JIS K 6726:1994の3.5に準じて測定される。
なお、凍結融解ハイドロゲルとする前と後で、PVOHの平均ケン化度は変化しない。凍結融解ハイドロゲルを再溶解することで、PVOHの平均ケン化度を測定できる。
【0020】
未変性PVOHの平均重合度は、一般的に水溶液の粘度で示すことができる。
未変性PVOHの4質量%水溶液の20℃における粘度は、5~100mPa・sであることが好ましく、13~70mPa・sであることがより好ましく、17~40mPa・sであることがさらに好ましい。粘度が前記下限値以上であれば、ゲル化しやすく、ゲルの溶出率を低減できる傾向があり、一方、粘度が前記上限値以下であれば、PVOH水溶液の扱いやすさと、薬物の放出性がより優れる傾向がある。
粘度は、JIS K 6726:1994の3.11.2に準じて測定される。
なお、凍結融解ハイドロゲルとする前と後で、PVOHの平均重合度は変化しない。凍結融解ハイドロゲルを再溶解することで、PVOHの平均重合度を測定できる。
【0021】
<変性PVOH>
変性PVOHは、典型的には、ビニルアルコール単位と、変性基を有する単位とを含む。変性基を有する単位は、ビニルアルコール単位及びビニルエステル系単量体単位以外の単位である。変性PVOHは、ビニルエステル系単量体単位を含んでいてもよい。
変性PVOHは、ビニルエステル系モノマーと他の不飽和単量体との重合体をケン化したり、PVOHを後変性したりすることにより製造することができる。
【0022】
変性基としては、カチオン性基、アニオン性基及びノニオン性基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。カチオン性基としては、例えばジアリルジメチルアンモニウム塩基、(3-メタクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム塩基、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド等の第4級アンモニウム塩基、スルホニウム基、オキソニウム基、ホスホニウム基が挙げられる。アニオン性基としては、例えばカルボキシ基及びその塩、スルホ基及びその塩、リン酸基及びその塩が挙げられる。ノニオン性基としては、例えばアセト酢酸エステル基、アセタール基、ウレタン基、エーテル基、リン酸エステル基、オキシアルキレン基、アルキレン基、アミド基、シラノール基、エポキシ基、オレフィン基、ジオール基が挙げられる。
変性基としては、上記の中でも、アニオン系薬剤との親和性が高く、アニオン系薬剤の徐放性が良好となる点で、カチオン性基が好ましい。
【0023】
変性PVOHの一例として、共重合変性PVOHが挙げられる。
共重合変性PVOHは、ビニルエステル系単量体と、ビニルエステル系単量体と共重合可能な他の不飽和単量体とを共重合させ、得られた共重合体をケン化することにより製造することができる。
【0024】
ビニルエステル系単量体と共重合可能な他の不飽和単量体としては、カチオン性基、アニオン性基及びノニオン性基からなる群から選ばれる少なくとも1種の変性基を有する不飽和単量体が好ましく、カチオン性基を有する不飽和単量体が特に好ましい。
アニオン性基を有する不飽和単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和カルボン酸類又はその塩;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の多価カルボン酸のカルボキシ基の一部がエステル化されたエステル(不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル等);エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;が挙げられる。
カチオン性基を有する不飽和単量体としては、例えばN-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアリルトリメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。
ノニオン性基を有する不飽和単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和カルボン酸類のカルボキシ基の全てがエステル化されたエステル(不飽和ジカルボン酸のジアルキルエステル等);アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;アルキルビニルエーテル類;ジメチルアリルビニルケトン;N-ビニルピロリドン;塩化ビニル;塩化ビニリデン;ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル;ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート;ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド;ポリオキシエチレン(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル)エステル;ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等のポリオキシアルキレンビニルエーテル;ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン等のポリオキシアルキレンアリルアミン;ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等のポリオキシアルキレンビニルアミン;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類又はそのアシル化物、ビニルエチレンカーボネート;2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン;グリセリンモノアリルエーテル;3,4-ジアセトキシ-1-ブテン等のビニル化合物;酢酸イソプロペニル;1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、ビニレンカーボネート、アセト酢酸ビニル等が挙げられる。
これらの不飽和単量体は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
上記の中でも、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、マレイン酸モノメチルが好ましい。
【0025】
ビニルエステル系単量体と他の不飽和単量体との合計100モル%に対する他の不飽和単量体の割合は、0.5~20モル%が好ましく、0.8~10モル%がより好ましい。他の不飽和単量体の割合が前記範囲内であれば、変性PVOHの変性量が後述する好ましい範囲内となりやすい。
【0026】
重合以降の製造方法としては前述の未変性PVOHと同様の方法で、変性PVOHを得ることができる。
【0027】
変性PVOHの他の例として、後変性PVOHが挙げられる。
後変性PVOHは、未変性PVOHを後変性することにより製造することができる。後変性では、典型的には、未変性PVOHのビニルアルコール単位のOH基の部分に変性基が導入される。
後変性の方法としては、例えば、未変性PVOHをアセト酢酸エステル化、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、リン酸エステル化、オキシアルキレン化、又は酸と脱水縮合する方法が挙げられる。アセト酢酸エステル化の方法としては、未変性PVOHの水酸基とアセト酢酸エステルとをエステル交換反応させる方法、未変性PVOHとジケテンとを反応させる方法等が挙げられる。
後変性PVOHとしては、水への溶解性の点から、アセト酢酸エステル化された変性PVOHが好ましい。
【0028】
変性PVOHとしては、上述の変性PVOHのいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合したものを用いてもよい。また、変性PVOHとして、上述の変性PVOHのいずれか1種以上と未変性PVOHとを混合したものを用いてもよい。
【0029】
変性PVOHの変性量は、変性基の性質によっても異なるが、0.1~30モル%であることが好ましく、0.5~20モル%であることがより好ましく、1~10モル%であることがさらに好ましい。変性量が前記下限値以上であれば、凍結融解ハイドロゲルの架橋密度が低くなり、凍結融解ハイドロゲルの表面近くに存在する薬剤だけでなく凍結融解ハイドロゲル内部に存在する薬剤も溶出しやすい傾向がある。変性量が前記上限値以下であれば、凍結融解ハイドロゲルを患部に適用した直後の薬剤の急速な溶出が抑制される傾向がある。
変性量は、変性PVOHを構成する全単位100モル%に対する変性基の割合である。
変性量は、NMRや滴定により測定される。
なお、凍結融解ハイドロゲルとする前と後で、変性PVOHの変性量は変化しない。凍結融解ハイドロゲルを再溶解することで、変性PVOHの変性量を測定できる。凍結融解ハイドロゲルを再溶解する方法としては、高温高圧での溶解が挙げられる。
【0030】
変性PVOHの平均ケン化度は、95モル%以上であることが好ましく、96モル%以上であることがより好ましく、97モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であってもよい。平均ケン化度が前記下限値以上であれば、ゲル化しやすく、ゲルの溶出率を低減できる傾向がある。
平均ケン化度は、JIS K 6726:1994の3.5に準じて測定される。
なお、凍結融解ハイドロゲルとする前と後で、変性PVOHの平均ケン化度は変化しない。凍結融解ハイドロゲルを再溶解することで、変性PVOHの平均ケン化度を測定できる。
【0031】
変性PVOHの平均重合度は、一般的に水溶液の粘度で示すことができる。
変性PVOHの4質量%水溶液の20℃における粘度は、5~100mPa・sであることが好ましく、13~70mPa・sであることがより好ましく、17~40mPa・sであることがさらに好ましい。粘度が前記下限値以上であれば、ゲル化しやすく、ゲルの溶出率を低減できる傾向があり、一方、粘度が前記上限値以下であれば、PVOH水溶液の扱いやすさと、薬物の放出性がより優れる傾向がある。
粘度は、JIS K 6726:1994の3.11.2に準じて測定される。
なお、凍結融解ハイドロゲルとする前と後で、変性PVOHの平均重合度は変化しない。凍結融解ハイドロゲルを再溶解することで、変性PVOHの平均重合度を測定できる。
【0032】
<薬剤>
薬剤としては、特に制限は無く、治療しようとする疾患に応じ、公知の薬剤のなかから適宜選定できる。
薬剤は、例えば、核酸、タンパク質、炭水化物(多糖等)、その他の有機化合物、無機化合物、又はこれらの2以上の組み合わせであってよい。
【0033】
眼科疾患に適用される薬剤の例としては、特に限定するものではないが、抗感染症剤(抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗原虫剤等)、血管新生抑制剤(抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)剤等)、抗炎症剤、眼圧降下剤、抗悪性腫瘍剤、麻酔剤、自律神経剤、ステロイド(コルチコステロイド等)、抗ヒスタミン剤、肥満細胞安定化剤、免疫抑制剤、有糸分裂阻害剤等が挙げられる。
【0034】
抗菌剤の非限定的な例としては、バシトラシン、クロラムフェニコール、シプロフロキサシン、エリスロマイシン、モキシフロキサシン、ガチフロキサシン、ゲンタマイシン、レボフロキサシン、スルファセタミド、ポリミキシンB、バンコマイシン、トブラマイシン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
抗ウイルス剤の非限定的な例としては、トリフルリジン、ビダラビン、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、フォスカーネット、ガンシクロビル、フォルミビルセン、シドフォビル、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
抗真菌剤の非限定的な例としては、アンフォテリシンB、ナタマイシン、フルコナゾール、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
抗原虫剤の非限定的な例としては、ポリミキシンB、ネオマイシン、クロトリマゾール、ミコナゾール、ケトコナゾール、プロパミジン、ポリヘキサメチレンビグアニド、クロルヘキシジン、イトラコナゾール、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0035】
抗炎症剤の非限定的な例としては、任意の公知のステロイド性抗炎症剤(SAIDs)、任意の公知の非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)、又はそれらの組み合わせが挙げられる。SAIDsの非限定的な例としては、デキサメタゾン、プレドニゾロン、フルオロメトロン、ロテプレドノール、メドリゾン、リメキソロン等のグルココルチコイドが挙げられる。NSAIDsの非限定的な例としては、ジクロフェナク、フルルビプロフェン、ケトロラック、ブロモフェナク、ネパフェナク、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0036】
抗悪性腫瘍剤の非限定的な例としては、当該分野で周知の化学療法剤が挙げられる。
麻酔剤の非限定的な例としては、アミノアミド、アミノエステル、又はそれらの組み合わせが挙げられる。アミノアミドの非限定的な例としては、リドカイン、プリロカイン、メピバカイン、ロピバカイン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。可能なアミノエステルの非限定的な例としては、ベンゾカイン、プロカイン、プロパラカイン、テトラカイン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0037】
自律神経剤の非限定的な例としては、アセチルコリン、カルバコール、ピロカルピン、フィゾスチグミン、エコチオフェート、アトロピン、スコポラミン、ホモトラピン、シクロペントレート、トロピカミド、ジピベフリン、エピネフリン、フェニレフリン、アプラクロニジン、ブリモニジン、コカイン、ヒドロキシアンフェタミン、ナファゾリン、テトラヒドロゾリン、ダピプラゾール、ベタキソロール、カルテオロール、レボブノロール、メチプラノロール、チモロール、ベポタスチンベシル酸塩、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0038】
抗ヒスタミン剤の非限定的な例としては、フェニラミン、アンタゾリン、ナファゾリン、エメダスチン、レボカルバスチン、クロモリン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
肥満細胞安定化剤の非限定的な例としては、ロドキサミド、ペミロラスト、ネドクロミル、オロパタジン、ケトチフェン、アゼラスチン、エピナスチン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0039】
薬剤としては、ゲルへ吸着しやすく放出を制御しやすい点から、アニオン系薬剤、両性薬剤又はカチオン性薬剤が好ましい。
アニオン系薬剤は、アニオン性基を有し、水中で負電荷を示す薬剤である。
アニオン系薬剤の非限定的な例としては、核酸、トラニラスト、アシタザノラスト水和物、クロモグリク酸ナトリウム、グルタチオン、プラノプロフェン、ブロムフェナクナトリウム、ジクロフェナクナトリウム、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
薬剤としての核酸としては、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドが挙げられる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、アンチセンス核酸とも称され、標的遺伝子の転写産物又は標的転写産物の少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な(すなわち、相補的な)塩基配列を含み、主にアンチセンス効果により標的遺伝子の転写産物の発現又は標的転写産物のレベルを抑制し得る、一本鎖オリゴヌクレオチドを指す。
アンチセンス効果によってその発現が抑制され、変更され、あるいは改変される標的遺伝子又は標的転写産物は特に限定されないが、例えば、核酸複合体を導入する生物由来の遺伝子、例えば、様々な疾患においてその発現が増加している遺伝子が挙げられる。また、標的遺伝子の転写産物は、標的遺伝子をコードするゲノムDNAから転写されるmRNAであり、さらにまた、塩基修飾を受けていないmRNA、プロセシングされていないmRNA前駆体などを含む。標的転写産物は、mRNAだけでなく、miRNAなどのノンコーディングRNA(non-coding RNA、ncRNA)も含み得る。さらに一般的には、転写産物は、DNA依存性RNAポリメラーゼによって合成される任意のRNAであってよい。一実施形態では、標的転写産物は、例えば、転移関連肺腺癌転写産物1(metastasis associated lungadenocarcinoma transcript 1、malat1)ノンコーディングRNA、スカベンジャー受容体B1(scavenger receptor B1、SR-B1) mRNA、又はDMPK(dystrophia myotonica-protein kinase) mRNAであってもよい。遺伝子及び転写産物の塩基配列は、例えばNCBI(米国国立生物工学情報センター)データベースなどの公知のデータベースから入手できる。
アニオン系薬剤と他の薬剤とを併用してもよい。
【0040】
両性薬剤は、アニオン性基及びカチオン性基を有し、水中での電荷がゼロとなる薬剤である。眼科用薬のオロパタジンは単一の正に荷電した三級アミン基、及び単一の負に荷電したカルボン酸基を有するので、ゼロの正味電荷を有するとみなされる。
両性薬剤の非限定的な例としては、塩酸レボカバスチン、アンレキサノクス、オロパタジン、ロメフロキサシン塩酸塩、オフロキサシン、ノルフロキサシン、レボフロキサシン、トスフロキサシン、ピレノキシン、ラパマイシン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
両性薬剤と他の薬剤とを併用してもよい。
【0041】
カチオン性薬剤は、カチオン性基を有し、水中で正電荷を示す薬剤である。
一例では、カチオン性薬剤はポリマーである。例となるカチオン性ポリマーとしては、複数のアルギニン及び/又はリジン基を含む抗菌性ペプチドであるイプシロンポリリジン(εPLL)、ポリコート(polyquat)等が挙げられる。
他の一例では、カチオン性薬剤は、3個の窒素原子に共有結合した中心炭素原子を含み、1個の窒素原子と中心炭素との間に二重結合を有する、正に荷電した基であるグアニジウム基を含む。少なくとも1つのグアニジウム基を含む眼科用途に典型的な有益な薬剤としては、抗ヒスタミン薬、例えばエピナスチン及びエメダスチン;緑内障薬、例えばアプラクロニジン及びブリモニジン;グアニン誘導体抗ウイルス薬、例えばガンシクロビル及びバルガンシクロビル;アルギニン含有抗菌性ペプチド、例えばデフェンシン及びインドリシジン;並びにビグアナイド系抗菌剤、例えばクロルヘキシジン、アレキシジン、及びポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)が挙げられる。
眼科用途の他のカチオン性薬剤としては、ケトチフェン、カチオン性ステロイド、メチル硫酸ネオスチグミン、塩酸オキシブプロカイン、硝酸ナファゾリン、塩酸ナファゾリン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、塩酸ピロカルピン、臭化ジスチグミン、ヨウ化エコチオパート、エピネフェリン、酒石酸水素エピネフェリン、塩酸カルテオロール、塩酸ベフノロール、リパスジルが挙げられる。
カチオン系薬剤と他の薬剤とを併用してもよい。
【0042】
凍結融解ハイドロゲルは、必要に応じて、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、PVOH及び薬剤以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
例えば凍結融解ハイドロゲルが眼科疾患の治療に用いられる場合、眼科疾患用の製剤(点眼剤等)における薬剤以外の配合成分として公知の成分を含有させることができる。
例えば凍結融解ハイドロゲルがコンタクトレンズに用いられる場合、コンタクトレンズにおける薬剤以外の配合成分として公知の成分(酸化防止剤、安定化剤、防腐剤、浸透圧調整整剤等)を含有させることができる。
他の成分は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
凍結融解ハイドロゲルにおいて、PVOHの含有量は、凍結融解ハイドロゲルの総質量に対し、5~60質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましい。PVOHの含有量が前記下限値以上であれば、レンズの強度がより優れる傾向がある。PVOHの含有量が前記上限値以下であれば、酸素透過性がより優れる傾向がある。
【0044】
凍結融解ハイドロゲルにおいて、薬剤の含有量は、薬剤の投与量、放出量等を考慮して設定される。
薬剤の含有量は特に限定するものではないが、例えば、凍結融解ハイドロゲルの総質量に対し、0.1~20質量%の範囲で設定することができる。また、PVOHに対し、0.2~80質量%の範囲で設定することができる。
【0045】
凍結融解ハイドロゲルの飽和水分率は、50~90質量%であることが好ましく、60~88質量%であることがより好ましい。飽和水分率が前記下限値以上であれば、酸素透過性がより優れる傾向がある。飽和水分率が前記上限値以下であれば、ゲルの強度がより優れる傾向がある。
凍結融解ハイドロゲルの飽和水分率は、37℃の精製水に24時間浸漬させた凍結融解ハイドロゲルの水分率である。飽和水分率は、乾燥重量法により測定され、下記式で算出される。凍結融解ハイドロゲルの乾燥は、140℃1時間の条件で行われる。
飽和水分率={(浸漬後の質量)-(乾燥後の質量)}/(浸漬後の質量)×100
【0046】
凍結融解ハイドロゲルの37℃における圧縮弾性率は、0.1~500kPaであることが好ましく、1~400kPaであることがより好ましく、3~300kPaであることがさらに好ましい。圧縮弾性率が前記下限値以上であれば、装着感がより優れる傾向がある。圧縮弾性率が前記上限値以下であれば、装着感がより優れる傾向がある。
圧縮弾性率は、熱機械分析(TMA法)により測定される。
凍結融解ハイドロゲルの圧縮弾性率は、後述する凍結融解サイクルの繰り返し回数、PVOHのケン化度、重合度等によって調節できる。例えば、凍結融解サイクルの繰り返し回数が増えるにつれて、圧縮弾性率が高くなる傾向がある。
【0047】
<凍結融解ハイドロゲルの製造方法>
凍結融解ハイドゲルの製造方法としては、水、PVOH及び薬剤を含有する組成物を調製し、前記組成物を-5℃以下の温度に降温して凍結し、凍結した前記組成物を5℃以上の温度に昇温して融解するサイクル(以下、「凍結融解サイクル」とも記す。)を繰り返す方法が挙げられる。凍結融解処理を複数段階に分けて行ってもよく、各段階の間に乾燥工程を設けてもよい。各段階の間に乾燥工程を設けることで透明性の高いハイドロゲルとすることができる。
【0048】
凍結融解ハイドロゲルの原料の組成物は、水、PVOH及び薬剤を混合することにより調製できる。
組成物中のPVOHの含有量は、組成物の総質量に対し、5~30質量%であることが好ましく、10~20質量%であることがより好ましい。PVOHが前記下限値以上であれば、ゲル強度がより優れる傾向がある。PVOHが前記上限値以下であれば、酸素透過性がより優れる傾向がある。
組成物中の水の含有量は、組成物の総質量に対し、60~95質量%であることが好ましく、70~90質量%であることがより好ましい。
【0049】
組成物の凍結温度は、物理架橋のしやすさの点から、-5℃以下が好ましく、-10℃以下がより好ましい。
凍結後、凍結した組成物を融解する前に、組成物を凍結温度で保持することが好ましい。凍結温度での保持時間は、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。凍結温度での保持時間の上限は特に限定されないが、例えば24時間である。
組成物の融解温度は、物理架橋のしやすさの点から、5℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。
融解後、次回の凍結融解サイクルで組成物を凍結する前に、組成物を融解温度で保持することが好ましい。融解温度での保持時間は、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。融解温度での保持時間の上限は特に限定されないが、例えば24時間である。
1回の凍結融解サイクルによっても凍結融解ハイドロゲルを得ることができるが、強度が充分高い凍結融解ハイドロゲルが得られる点で、凍結融解サイクルを2回以上繰り返すことが好ましく、3回以上繰り返すことがより好ましい。凍結融解サイクルを繰り返す回数の上限は特に限定されないが、例えば20回である。
【0050】
凍結融解処理を複数段階に分けて行う場合、各段階の間で乾燥工程を入れてもよい。各段階の凍結融解処理の条件は前述の凍結融解処理と同様に行われ、凍結融解ハイドロゲルが得られる。
乾燥工程では、ハイドロゲルを乾燥して含水率を75%以下とすることが好ましく、60%以下にすることがより好ましく、50%以下にすることが特に好ましい。次段階の凍結融解処理を行う前の含水率を75%以下とすればよく、一旦、10%以下まで大きく乾燥したのち、加湿により含水率を調整してもよい。含水率を75%以下にすると、コンタクトレンズとした時のポリビニルアルコールハイドロゲルの溶出量が少なく、透明性が高くなる傾向がある。含水率の下限としては10%以上が好ましく、20%以上が特に好ましく、30%以上が殊に好ましい。
含水率は、ハイドロゲルの質量に対する水の質量の割合である。含水率は、ハイドロゲルの質量とハイドロゲルを140℃1時間の条件で乾燥させた後の質量(乾燥後の質量)から下記式により算出される。
含水率(質量%)=(ハイドロゲルの質量-乾燥後の質量)/ハイドロゲルの質量×100
【0051】
〔コンタクトレンズ〕
コンタクトレンズは、凍結融解ハイドロゲルを含む。
コンタクトレンズは、凍結融解ハイドロゲルのみからなるものであってもよく、凍結融解ハイドロゲルと他のレンズ材料とからなるものであってもよい。
凍結融解ハイドロゲルが不透明又は半透明である場合には、コンタクトレンズの光軸が通る領域を他のレンズ材料で構成することが好ましい。
【0052】
他のレンズ材料としては、例えば、コンタクトレンズの分野で公知のレンズ材料を使用できる。他のレンズ材料は、ハイドロゲルであってもよい。
他のレンズ材料の非限定的な例としては、Polymacon、Ocufilcon D、Etafilcom、Omafilcon A、Nelfilcon、 Hilafilcom B、Lotrafilcon B、 Senofilcon A、Galyfilcon A、Netrafilcon A、Lidofilcon B、Bufilcon A、Deltafilcon A、Phemfilcon、Hioxifilcon A、Perfilcon A、Methafilcon A等が挙げられる。
【0053】
凍結融解ハイドロゲルと他のレンズ材料とからなるコンタクトレンズの形態例として、(1)レンズ状の他のレンズ材料に凍結融解ハイドロゲルが埋め込まれた形態、(2)レンズ状の他のレンズ材料と凍結融解ハイドロゲルとが積層された形態、(3)レンズ状の他のレンズ材料に凍結融解ハイドロゲルが点在している形態等が挙げられる。
【0054】
上記(1)の形態において、他のレンズ材料に埋め込まれる凍結融解ハイドロゲルは1つでも2つ以上でもよい。凍結融解ハイドロゲルの一部がコンタクトレンズの表面(例えば角膜や結膜との接触面)に露出していてもよい。
凍結融解ハイドロゲルは、コンタクトレンズの光軸が通る領域以外の領域に配置されることが好ましい。この場合、凍結融解ハイドロゲルの形状は、環状、半円形状、三日月形状、アーチ状等であってよい。
【0055】
凍結融解ハイドロゲルと他のレンズ材料とからなるコンタクトレンズは、公知の方法(例えば特表2012-511395号公報に記載の方法)を参照して製造できる。例えば、コンタクトレンズの型の中に凍結融解ハイドロゲルを配置し、液状のレンズ材料前駆体を注入し、注入したレンズ材料前駆体を硬化させることで、上記(1)の形態のコンタクトレンズを製造できる。
【0056】
コンタクトレンズは、眼科疾患の治療に用いることができる。コンタクトレンズを装着すると、コンタクトレンズの凍結融解ハイドロゲルから涙液へ薬剤が徐々に溶出する。
眼科疾患の非限定的な例としては、眼(皮膚、眼瞼、結膜又は涙液排出系を含む)の感染症、眼窩蜂巣炎、涙腺炎、麦粒腫、眼瞼炎、結膜炎、角膜炎、角膜浸潤、潰瘍、眼内炎、全眼球炎、ウイルス性角膜炎、真菌性の角膜炎眼部帯状疱疹、ウイルス性結膜炎、ウイルス性網膜炎、ぶどう膜炎、斜視、網膜の壊死、強膜炎、ムコール菌症、涙管炎、アカントアメーバ角膜炎、トキソプラズマ症、ジアルジア症、リーシュマニア症、マラリア、蠕虫感染、緑内障が挙げられる。
【0057】
〔保管方法〕
本発明の保管方法では、上記コンタクトレンズを保存液中に浸漬させて-10℃以下で保管する。
従来のコンタクトレンズは通常、保存液に浸漬させて室温で保管される。薬剤を含むコンタクトレンズでも同様の方法で保管されるが、保管されている間に薬剤が保存液に溶出し、薬剤がコンタクトレンズ中に残らず、コンタクトレンズを装着しても、十分な量の薬剤を患部に届けられなかった。
これに対し、本発明の保管方法では、コンタクトレンズを保存液中に-10℃以下で保管することで、薬剤の保存液への溶出を抑えることができ、薬剤保持性に優れる。保管温度は-15℃以下がより好ましく、-18℃以下がさらに好ましい。保管温度が-10℃より高いと、薬剤の溶出を十分に抑えることができないおそれがある。保管温度の下限は特に定められないが通常、-50℃以上である。
保管温度が-10℃以下であることで薬剤の溶出が抑制される理由は明らかではないが、保管温度を-10℃以下とすることで凍結融解ハイドロゲル中の水が結晶化し、また凍結融解ハイドロゲル中のPVOHが疑似架橋点を有する網目構造となっているため、水の結晶は微小かつ緻密に存在する。これにより凍結融解ハイドロゲル中の薬剤の移動が抑制され、溶出が少なくなると推測される。-10℃を超える温度で保管した場合は、凍結融解ハイドロゲル中の水の結晶化が十分に進まず、溶出が多くなる。また、薬剤が凍結融解ハイドロゲル中に均一に存在するため、中心部の薬剤は溶出するまでの移動距離が長く、溶出が抑制されると推測される。
また、凍結融解ハイドロゲルを含まないコンタクトレンズを-10℃以下で保管した場合、凍結によって形状が変化して装着性が低下したり、装着時に像が乱れたりするところ、凍結融解ハイドロゲルを含むコンタクトレンズでは、ハイドロゲルの製造時に凍結と融解を繰り返していることから、-10℃以下で保管しても形状が変化することがない。
また、凍結融解ハイドロゲルを含まないコンタクトレンズに薬剤を含有させるには、コンタクトレンズに成形した後、薬剤を含む溶液に浸漬して含有させる必要があり、薬剤はコンタクトレンズの表面付近に局在化するため、-10℃以下で保管したとしても、その降温時、昇温時の短時間に薬剤の多くが保存液へ溶出する。
【0058】
保存液としては、コンタクトレンズの保存液として公知のものであってよい。保存液は、典型的には、緩衝液を含む。保存液は、防腐剤、等張化剤、界面活性剤、増粘剤、湿潤材、安定化剤、消毒剤等をさらに含んでいてもよい。緩衝液としては、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液等が挙げられる。防腐剤としては、メチルパラベン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸カリウム、チメロサール、硝酸フェニル水銀、ホウ酸塩等が挙げられる。等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ホウ酸等が挙げられる。湿潤剤としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、トレハロース、ヒアルロン酸等が挙げられる。安定剤としては、エデト酸塩等が挙げられる。消毒剤としては、塩酸ポリヘキサニド、塩化ポリドロニウム等が挙げられる。
【0059】
コンタクトレンズを保管する際のコンタクトレンズの乾燥質量に対する保存液の質量は10~500倍が好ましく、50~300倍がより好ましく、100~200倍がさらに好ましい。保存液が10倍未満であると、コンタクトレンズが保存液に十分に浸されないことがあり、500倍より大きいと、保管中の薬剤の溶出が多くなる傾向がある。
【0060】
コンタクトレンズを保存液中に浸漬させた後、-10℃以下に冷却する際の冷却速度は1℃/分以上の速度で冷却されることが好ましい。冷却速度が1℃/分より小さいと冷却中に薬剤が保存液中に溶出することがある。
【0061】
コンタクトレンズは保管後の薬剤保持性を以下の溶出試験において評価することができる。薬剤の24時間後の累積溶出割合が、保管前の薬剤の担持量の10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。24時間後の累積溶出割合が前記下限値以上であれば、薬剤保持性に優れる。
【0062】
溶出試験:
コンタクトレンズを24well細胞培養プレートに入れ、1000μLのリン酸緩衝生理食塩水(以下、「PBS」とも記す。)を添加し、37℃で15分静置した後、前記PBSを全量採取し、次いで、新たな1000μLのPBSを添加し、37℃で15分静置した後(計30分後)、前記PBSを全量採取し、次いで、新たな1000μLのPBSを添加し、37℃で30分静置した後(計1時間後)、前記PBSを全量採取する。これを繰り返し、最初にPBSを添加してから15分後、30分後、1時間後、4時間後、8時間後、24時間後に採取したPBSを測定サンプルとし、高速液体クロマトグラフィ(以下、「HPLC」とも記す。)により前記薬剤の溶出量を求め、24時間までの累積溶出量を算出する。
【実施例0063】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。「部」は「質量部」を示す。
【0064】
〔製造例1:カチオン性基含有PVOHの製造〕
還流冷却機、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応缶に、メタノール20部、酢酸ビニル100部、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの65%水溶液0.7部を仕込み、開始剤としてアセチルパーオキサイドを用い、窒素気流下で加熱還流させ重合を開始した。ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの65%水溶液2.7部を重合開始直後から5時間かけて滴下し、重合率71%となった時点で重合禁止剤としてm-ジニトロベンゼンを投入し、重合を終了した。続いてメタノール蒸気を吹き込む方法により、未反応モノマーを系外に除去し、共重合体のメタノール溶液を得た。次いで、該溶液をメタノールで希釈して濃度32%に調整して、ニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を、共重合体の酢酸ビニル単体に対して20ミリモルとなる量を加えてケン化を行った。生成した固形物を濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的物であるカチオン性基である4級アンモニウム塩基を有するPVOHを得た。得られたカチオン性基含有PVOHの平均ケン化度は99.4mol%であり、4%水溶液粘度は25.9mPa・s、4級アンモニウム変性量は1mol%であった。
【0065】
〔製造例2:薬剤含有ハイドロゲルコンタクトレンズの製造〕
上記で得られたカチオン性基含有PVOHを精製水に攪拌しながら添加し、90℃に昇温して1時間攪拌して完全に溶解させた。攪拌しながら室温まで徐冷した後、精製水を加えてPVOHの濃度が15質量%となるように調整し、オートクレーブ中で120℃、30分間滅菌処理した。室温に冷却後、PVOHの水溶液にモデル薬剤として核酸をPVOHに対し0.8質量%混合し、薬剤含有PVOH溶液を得た。核酸としては、Malat1アンチセンスであってCdsTdsAdsGdsTdsTdsCdsAdsCdsTdsGdsAdsAdsTdsGdsCdで示されるオリゴヌクレオチド(式中、各核酸塩基はA=アデニン、T=チミン、G=グアニン、C=シトシンで示され、各糖部分はd=2’-デオキシリボースで示され、各ヌクレオシド間結合はs=ホスホロチオエートで示される。)を用いた。
得られた薬剤含有PVOH溶液をDIA11mm、B.C.(ベースカーブ)6.5のコンタクトレンズ型に注入し、オス型とメス型で挟み込み、-20℃で2時間凍結させ、20℃で1時間溶解する工程を5回繰り返し、コンタクトレンズ状の薬剤含有ハイドロゲルを作成した。コンタクトレンズメス型を外しオス型の上でハイドロゲルを40℃のオーブン内で1時間乾燥したのち、60℃、100%RHの恒温恒湿機内で吸湿させ、ハイドロゲルの含水率を40%に調整した。再度、ハイドロゲルをコンタクトレンズ型に挟み、-20℃、2時間の凍結と20℃、1時間の融解を5回繰り返し、薬剤含有PVOH凍結融解ハイドロゲルのコンタクトレンズを得た。コンタクトレンズ1枚あたりの薬剤担持量は422μgであった。
【0066】
〔実施例1〕
密閉可能な容器に製造例2で得られたコンタクトレンズと、保存液としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を1mL(コンタクトレンズの乾燥質量に対して約150倍の質量)を入れ、PBSが漏れ出ないよう密閉し、直ちに-1℃/min以上の冷却速度で-20℃まで冷却し、冷凍庫内で-20℃で72時間保管した。
保管後、容器を冷凍庫から取り出し、10分間で室温まで加温した後、コンタクトレンズを容器から取り出し、コンタクトレンズの薬剤保持性を溶出試験で評価した。その結果を表1に示す。
溶出試験はコンタクトレンズを24well細胞培養プレートに入れ、1000μLのPBSを添加し、37℃で15分静置した後、前記PBSを全量採取し、次いで、新たな1000μLのPBSを添加し、37℃で15分静置した後(計30分後)、前記PBSを全量採取し、次いで、新たな1000μLのPBSを添加し、37℃で30分静置した後(計1時間後)、前記PBSを全量採取した。これを繰り返し、最初にPBSを添加してから15分後、30分後、1時間後、4時間後、8時間後、24時間後に採取したPBSを測定サンプルとし、高速液体クロマトグラフィ(以下、「HPLC」とも記す。)により前記薬剤の溶出量を求め、24時間までの累積溶出量を算出した。
保管前のコンタクトレンズの薬剤担持量(μg)に対する24時間までの累積溶出量(μg)の質量百分率を算出し、その値を「溶出割合」とした。
【0067】
〔比較例1〕
密閉可能な容器に製造例2で得られたコンタクトレンズと、保存液としてPBSを1mL(コンタクトレンズの乾燥質量に対して約150倍の質量)を入れ、PBSが漏れ出ないよう密閉し、室温(20℃)で72時間保管した。
保管後、コンタクトレンズを容器から取り出し、コンタクトレンズの薬剤保持性を実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
-20℃で保管した実施例1は、溶出試験において24時間後までの薬剤の累積溶出量が担持量の39%で、薬剤はコンタクトレンズ中に十分保持されていて薬剤保持性に優れており、また保存後のコンタクトレンズに形状の変化は見られず、優れた保管方法であった。
室温で保管した比較例1では、24時間後までの薬剤の累積溶出量が担持量の3%で、コンタクトレンズ中に薬剤はほとんど残っていないことが分かった。