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  • 特開-含ニッケル酸化鉱石の製錬方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014004
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】含ニッケル酸化鉱石の製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/02 20060101AFI20240125BHJP
   C22B 5/12 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C22B23/02
C22B5/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116526
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 純一
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001AA19
4K001BA02
4K001CA03
4K001CA11
4K001DA05
4K001GA01
4K001GA02
4K001GA13
4K001HA09
4K001KA02
4K001KA07
(57)【要約】
【課題】CO発生量が低減され、かつニッケル回収率の高い含ニッケル酸化鉱石の製錬方法を提供する。
【解決手段】本発明は、含ニッケル酸化鉱石の製錬方法であって、含ニッケル酸化鉱石を含む原料に、還元剤として水素を供給しながら還元処理を行う水素還元工程S2と、還元処理により得られた還元物を熔融処理する熔融工程S3と、熔融処理により得られた熔融物からスラグを分離し、ニッケルを含むメタルを回収する回収工程S4と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含ニッケル酸化鉱石の製錬方法であって、
前記含ニッケル酸化鉱石を含む原料に、還元剤として水素を供給しながら還元処理を行う水素還元工程と、
前記還元処理により得られた還元物を熔融処理する熔融工程と、
前記熔融処理により得られた熔融物からスラグを分離し、ニッケルを含むメタルを回収する回収工程と、を有する、
含ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項2】
前記含ニッケル酸化鉱石は、鉄品位が5質量%以上30質量%以下である、
請求項1に記載の含ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項3】
前記含ニッケル酸化鉱石を含む原料を、300℃以上1200℃以下の温度で熱処理する予熱処理工程をさらに有し、
前記熱処理により得られた熱処理物である含ニッケル酸化鉱石を前記水素還元工程における還元処理に供する、
請求項1に記載の含ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項4】
前記熔融工程での熔融処理時における前記還元物を含む熔融処理物中のMgO/SiO質量比が0.5以上0.7以下である、
請求項1に記載の含ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルを含む酸化鉱石(含ニッケル酸化鉱石)の製錬方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気候変動問題解決に向けて、2015年のCOP21で「パリ協定」が採択され、これにより産業革命前の世界平均気温に比べプラス2℃より低く保つべく各国が最大限の努力を講じることとなった。2021年には、IPCC(International Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)の第6次報告書にて、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と明記され、その後COP26では「世界の平均気温の上昇を産業革命前の世界平均気温に比べプラス1.5℃に抑える努力を追求することを決意する」ことが合意された。
【0003】
こうした国際的な動きの中、日本政府は2016年に「温暖化ガス排出量1990年度比で2030年26%削減、2050年80%削減」を目標として設定し、さらに2020年に「2050年に排出量実質ゼロ」、2021年に「2030年度に2013年度比46%削減」とする目標を新たに掲げ、日本国内においても温暖化ガス排出量削減の動きは加速している。
【0004】
非鉄製錬業においても目標値に沿った排出量削減と2050年のカーボンニュートラルプロセスへの転換が求められており、低エネルギーや化石燃料使用量が少ない新プロセスの開発が行われている。
【0005】
例えば、フェロニッケル製錬業においては、現在、エルケム法が主流となっている。エルケム法は、酸化ニッケルを含むサプロライト鉱石をロータリーキルン方式のドライヤーで予備乾燥し、さらにロータリーキルンにて徐々に昇温しながら結晶水まで脱水した後に、鉱石中では3価で存在している鉄を2価まで還元し、その後、電気炉にてほぼ全量のニッケルと一部の鉄をメタルに還元して合金として得るプロセスである。ところが、エルケム法では、ドライヤーで予備乾燥する工程、並びにロータリーキルンで還元する工程において、微粉炭や重油等の化石燃料のバーナーを使用しており、また、還元剤及び熱源として石炭を使用していることから、多量のCO発生を伴う。なお、CO発生量は、およそ22.4tCO2/tNiと示されている。
【0006】
このようなCO発生量の低減策として考えられているのが、水素による還元である。ニッケル酸化物単独では、水素により容易に還元されてメタルになることが知られている。しかしながら、サプロライトやリモナイトという含ニッケル酸化鉱中のニッケルの水素還元においては、還元度が10%~70%程度であり、エルケム法の95%以上という値より大幅に低い。これは、ニッケルがOlivine相((Mg,Fe)SiO)やMagnesiowustite相((Mg,Fe)O)中に広く分散し、かつ活量が低いことによる。そのため、単純に水素で還元するだけではニッケル回収率が低く、工業的に成立しない。
【0007】
水素還元時のニッケル回収率の向上策として、ナトリウム化合物添加法が提案されている。ところが、その化合物の添加量が莫大であり、薬剤コストが高すぎて工業的に成立しないという問題がある。
【0008】
特許文献1には、シャフト炉に装入された酸化鉄を還元することで還元鉄を製造する還元鉄の製造方法について開示されている。具体的には、水素ガスを90体積%以上含有する還元ガスと窒素ガスとを含み、かつ加熱された混合ガスをシャフト炉に吹き込むことによって酸化鉄を還元する方法が示されている。しかしながら、上述したように、ニッケルの水素還元においては、還元度が10%~70%程度と従来法であるエルケム法の95%以上に対して大幅に低い。含ニッケル酸化鉱石の製錬におけるCO発生量削減への水素還元法の適用は困難性を有しており、水素還元法を適用してもニッケル回収率が高く、コストが工業的に見合う方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開公報2021/230307号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、CO発生量が低減され、かつニッケル回収率の高い含ニッケル酸化鉱石の製錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、含ニッケル酸化鉱石に対して水素還元処理を行い、その後、得られた還元物に対して熔融処理を行うことで、ニッケルの還元率を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
(1)本発明の第1の発明は、含ニッケル酸化鉱石の製錬方法であって、前記含ニッケル酸化鉱石を含む原料に、還元剤として水素を供給しながら還元処理を行う水素還元工程と、前記還元処理により得られた還元物を熔融処理する熔融工程と、前記熔融処理により得られた熔融物からスラグを分離し、ニッケルを含むメタルを回収する回収工程と、を有する、含ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0013】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記含ニッケル酸化鉱石は、鉄品位が5質量%以上30質量%以下である、含ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0014】
(3)本発明の第3の発明は、第1の発明において、前記含ニッケル酸化鉱石を含む原料を、300℃以上1200℃以下の温度で熱処理する予熱処理工程をさらに有し、前記熱処理により得られた熱処理物である含ニッケル酸化鉱石を前記水素還元工程における還元処理に供する、含ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0015】
(4)本発明の第3の発明は、第1の発明において、前記熔融工程での熔融処理時における前記還元物を含む熔融処理物中のMgO/SiO質量比が0.5以上0.7以下である、含ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、CO発生量が低減され、かつニッケル回収率の高い含ニッケル酸化鉱石の製錬方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】含ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れの一例を示す工程図である。
図2】実施例で用いた試験装置の模式図である。
図3】実施例で回収した試料の写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」ともいう)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
本実施の形態に係る方法は、ニッケルを含有する酸化鉱石(含ニッケル酸化鉱石)からニッケルを分離回収する製錬方法である。
【0020】
原料となる含ニッケル酸化鉱石としては、特に限定されず、例えば、サプロライト鉱、リモナイト鉱等が挙げられる。含ニッケル酸化鉱石は、構成成分として、酸化ニッケル(NiO)と、酸化鉄(Fe)とを含有する。
【0021】
また、含ニッケル酸化鉱石は、鉄品位が5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。鉄品位が5質量%未満であると、水素還元工程S2での水素還元処理において還元される鉄量が少なくなり、熔融工程S3での熔融処理に際して還元剤として寄与する鉄メタルが少なくなり、ニッケルの還元率が向上せず、ニッケル回収率が低下する可能性がある。また、鉄品位が30質量%を超えると、回収されるニッケルメタル(合金)のニッケル品位の低下やスラグ量の増加を招く可能性がある。
【0022】
具体的に、図1は、本実施の形態に係る含ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れの一例を示す工程図である。この方法は、含ニッケル酸化鉱石を含む原料に還元剤として水素を供給しながら還元処理を行う水素還元工程S2と、水素還元処理により得られた還元物を熔融処理する熔融工程S3と、熔融処理により得られた熔融物からスラグを分離し、ニッケルを含むメタルを回収する回収工程S4と、を有することを特徴としている。
【0023】
また、水素還元工程S2に先立ち、含ニッケル酸化鉱石を含む原料を特定の温度で熱処理する予熱処理工程S1をさらに設けるようにしてもよい。
【0024】
このように、含ニッケル酸化鉱石に対して還元剤として水素を用いた還元処理(水素還元処理)を施し、その後、得られた還元物に対して熔融処理を施すようにすることで、含ニッケル酸化鉱石に含まれるニッケルを効果的に還元でき、高いニッケル回収率でニッケルを含むメタルを回収することができる。
【0025】
[予熱処理工程]
必須の態様ではないが、本実施の形態に係る方法では、含ニッケル酸化鉱石を含む原料を特定の温度で熱処理する予熱処理工程S1を設けることができる。なお、予熱処理工程S1を設けて原料に対して熱処理を行った場合には、得られた熱処理物を次工程の水素還元工程S2における還元処理に供する。
【0026】
具体的に、予熱処理工程S1では、含ニッケル酸化鉱石を含む原料を、300℃以上1200℃以下の温度に昇温して熱処理する。熱処理は、続く水素還元処理の工程(水素還元工程S2)、さらに還元物を熔融する工程(熔融工程S3)に先立って行う前処理である。このように、含ニッケル酸化鉱石に対して熱処理を施すことによって、その含ニッケル酸化鉱石に含まれる結晶水を除去することができる。
【0027】
熱処理は、上述したように300℃以上1200℃以下の温度条件で行う。熱処理の温度が1200℃を超えると、次の水素還元工程S2における水素還元処理の際に、含ニッケル酸化鉱石に含まれる鉄メタルが生成する前にファイアライトスラグが生成する可能性がある。ファイアライトスラグが生成すると、熔融工程S3において還元剤として寄与する鉄メタルの量が減少してニッケルの還元率が向上しない可能性がある。一方で、熱処理の温度が300℃未満であると、水素還元工程S2での還元反応、あるいは含ニッケル酸化鉱石に含まれる結晶水の除去が妨げられ、ニッケルの還元率が低下する可能性がある。
【0028】
また、熱処理の温度は、400℃以上1000℃以下の範囲とすることがより好ましい。好ましくはこのような温度範囲で熱処理を施すことで、含ニッケル酸化鉱石に含まれる結晶水の大部分を効果的に除去できるとともに、エネルギーコストの増加を抑えることができる。
【0029】
[水素還元工程]
本実施の形態に係る方法は、含ニッケル酸化鉱石を含む原料に、還元剤として水素を供給しながら還元処理(水素還元処理)を行う水素還元工程S2を有する。なお、上述した予熱処理工程S1を設けて、原料の含ニッケル酸化鉱石を熱処理する場合には、得られた熱処理物に対して水素還元処理を行う。
【0030】
このように、含ニッケル酸化鉱石に対して水素還元処理を施すことで、含ニッケル酸化鉱石中のニッケルを金属に還元するとともに、3価で存在する鉄の大部分あるいは全てを2価の酸化物に、さらにその鉄の一部を金属まで還元する。
【0031】
水素を還元剤とした用いた還元処理によれば、カーボンニュートラルな還元剤による処理となり、従来の技術に比べて、CO発生量を効果的に低減することができる。ところが、上述したように一般的には、含ニッケル酸化鉱石に対する水素還元処理では、エルケム法に比べてニッケルメタルへの還元率が低い。この点、本実施の形態に係る方法では、含ニッケル酸化鉱石に対して水素還元処理を行ったのち、得られた還元物に対して熔融処理(熔融工程S3)を行うようにしていることから、ニッケルの還元率を向上させることができる。熔融工程S3における反応機構については、後で詳述する。
【0032】
水素還元処理において供給する水素量は、例えば、含ニッケル酸化鉱石を含む原料と水素とを反応容器内で向流(すなわち、原料の流れる方向と水素が流れる方向が正反対)に接触させて反応させる場合では、含ニッケル酸化鉱石中の鉄とニッケルとを還元するのに必要な水素量の1.2倍当量以上とすることが好ましい。供給する水素量が、上述した必要な水素量の1.2倍未満であると、還元が不十分となる可能性がある。なお、供給する水素量の上限は、特に限定されず、水素の供給コスト、反応容器内での原料と水素とが接触する形態(すなわち反応効率)等を考慮して、適宜設定することが好ましい。
【0033】
[熔融工程]
熔融工程S3では、水素還元処理を施して得られる還元物を、例えば電気炉等に装入して、熔融処理する。このように、得られた還元物(水素還元物)に対して熔融処理を行うことで、ニッケルの還元率を向上させることができる。
【0034】
ここで、ニッケルは鉄よりも還元されやすいことから、水素還元物に対して熔融処理を施すことで、水素還元処理を経ても未反応のまま残存した酸化ニッケルと、還元された鉄メタルとが接触し、下記の式[1]で示すような酸素置換反応が生じて、酸化ニッケルからニッケルメタルへと還元される。つまり、鉄の還元物である鉄メタルを還元剤として有効に作用させて、酸化ニッケルを還元することができる。
Fe+NiO → Ni+FeO ・・・式[1]
【0035】
すなわち、水素還元した後の試料は固体状態であるため、上記の式[1]の反応は非常に進みにくいが、水素還元物を熔融することでスラグ中のメタルが移動し易くなり、式[1]の反応が促進されることになる。これにより、ニッケルのメタル化率が高まり、熔融工程S3での処理を経て回収されるニッケルの回収率を向上させることができる。
【0036】
熔融処理では、水素還元物を熔融させることができればその温度条件は特に限定されないが、例えば、1400℃以上1600℃以下であることが好ましい。熔融温度を1400℃以上とすることで、良好な性状のスラグを得ることができ、スラグとメタルとを効率よく分離することができる。また、熔融温度を1600℃以下とすることで、熔融炉を構成する耐火物の損耗や、エネルギーコストを抑制することができる。
【0037】
ここで、上述したように、本実施の形態に係る方法において用いる原料の含ニッケル酸化鉱石としては、鉄品位が5質量%以上30質量%以下であること好ましい。鉄品位が5質量%未満であると、水素還元工程S2における還元時に還元される鉄量が少なくなり、熔融工程S3での熔融時に還元剤として寄与する鉄メタルが少なくなり、ニッケルの回収率が下がる可能性がある。
【0038】
また、熔融処理に際して、熔融対象である還元物を含む熔融処理物中のMgO/SiO質量比が0.5以上0.7以下であることが好ましい。MgO/SiO質量比が0.5未満、あるいは0.7を超えるような場合では、いずれもスラグ融点の上昇を招く可能性がある。なお、熔融処理において、MgO/SiO質量比が上述した範囲となるように、処理対象の原料を調製することが好ましい。
【0039】
[回収工程]
回収工程S4では、熔融処理により得られた熔融物からスラグを分離し、ニッケルを含むメタル(合金)を回収する。例えば電気炉等で還元物を熔融して得られた熔融物は、比重によって、スラグが上層に、メタルが下層に、それぞれ分離(比重分離)される。スラグから分離したニッケルを含むメタルついては、炉の側壁に設けられたメタルホールからタッピング等の操作を行うことによって、効率的に回収することができる。
【0040】
なお、上述した予熱処理工程S1、水素還元工程S2、熔融工程S3、及び回収工程S4のすべて、あるいはそのうちの複数の工程の処理を、一つの炉を使用し、炉内の異なる範囲で区分けして実行することができる。あるいは、バッチ式で行ってもよい。例えば、シャフト炉又は溶鉱炉を使用して、上側の層から順に、予熱処理工程S1の処理、水素還元工程S2の処理、熔融工程S3の処理、回収工程S4の処理を行う範囲にそれぞれ分け、最終的に、炉底部の熔体が貯められる部分においてスラグとメタルとを比重分離するようにしてもよい。
【実施例0041】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
図2の模式図に示す試験装置を用い、下記表1の組成の含ニッケル酸化鉱石(サプロライト)をアルミナるつぼに装入し、窒素中で800℃に昇温した後、濃度100%の水素を流しながら120分間保持して還元処理(水素還元処理)を行った。水素還元処理後、得られた試料(還元物試料)を回収した。供給した水素量は、含ニッケル酸化鉱石中のニッケルと鉄を還元するのに必要な量に対して10倍以上の大過剰量とした。また、るつぼ内の試料厚さは、予備試験により求めた試料底部まで水素が拡散する厚さとした。
【0043】
【表1】
【0044】
回収した還元物試料を、少量のフラックス(SiO)と共にアルミナるつぼに装入し、窒素中で1550℃に昇温して還元物試料を熔融させた。30分間保持して熔融処理を施した後、冷却し、生成したスラグとボタン状に生じたメタルとを回収した。なお、フラックスであるSiOは、スラグの熔融温度を低下させてスラグ中のメタル(ニッケルメタル)の沈降を促すために添加した。また、フラックスの添加量は、還元物を含む熔融処理する試料中のMgO/SiO質量比が0.6になる量とした。
【0045】
図3に回収した試料の状態を示した写真図を示す。図3の写真図に示すように、スラグが熔融しており、目視でスラグ中にメタルは確認できなかった。メタルはボタン状に塊化して得られていることがわかる。
【0046】
また、下記表2に、得られたメタルの重量とICPによる化学分析から算出されたメタル化率の結果を示す。表2に示すように、得られたニッケルのメタル化率は90%以上と高い値であった。なお、メタル化率は、原料の含ニッケル酸化鉱石に含まれていたニッケル(又は鉄)の質量に対する、回収されたニッケルメタル(又は鉄メタル)の質量の百分率で示される。
【0047】
【表2】
【0048】
また、下記表3に、水素還元処理後(熔融処理前)の還元物試料を化学分析して算出されたメタル化率を示す。表2に示したように、下記の表3に示す結果と比べて、ニッケルメタル化率が大幅に増加したとともに、鉄のメタル化率が低下していた。この結果から、上記の式[1]の反応が生じていることが確認できる。
【0049】
【表3】
【0050】
表2、3に示す結果からわかるように、含ニッケル酸化鉱石からのニッケルの回収において、水素還元処理後に熔融処理を施すことで、その水素還元処理による、すなわちカーボンニュートラルな還元剤による還元によっても、例えば90%以上の高いニッケル回収率を達成できることが確認された。
【0051】
[比較例1]
比較例1では、実施例1と同様にして含ニッケル酸化鉱石に対して800℃の温度で水素還元した。その後、得られた還元物試料を振動ミルにて粉砕し、ブロムメタノール法にてメタル分の分析を行った。すなわち、比較例1では、水素還元後に熔融処理を行わなかった。
【0052】
その結果は、上記の表3に示したとおり、ニッケルのメタル化率は約5%であった。なお、これらメタルを全て回収しても工業的に成り立たないものであった。
図1
図2
図3