(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140136
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】貴金属ナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/24 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B22F9/24 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051140
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 峻平
(72)【発明者】
【氏名】赤池 寛人
(72)【発明者】
【氏名】飯島 遥
(72)【発明者】
【氏名】椎木 弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 陽二郎
(72)【発明者】
【氏名】小西 康裕
【テーマコード(参考)】
4K017
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017AA04
4K017BA02
4K017CA08
4K017DA03
4K017DA09
4K017EJ01
4K017EK08
4K017FB01
4K017FB03
4K017FB07
(57)【要約】
【課題】酵母を用いて生成した貴金属ナノ粒子を、低コストで効率的に酵母から分離することが可能な貴金属ナノ粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】貴金属イオンを含む溶液に酵母を加えて撹拌して、前記酵母の表面に貴金属を吸着させる貴金属吸着工程と、貴金属が吸着された前記酵母に還元剤を加えて、前記酵母の表面に前記貴金属のナノメートルサイズの粒子である貴金属ナノ粒子を生成させるナノ粒子化工程と、を有し、前記還元剤は、ヒドロキシルアミン、アスコルビン酸、ギ酸、過酸化水素のうち、少なくとも1種を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属イオンを含む溶液に酵母を加えて撹拌して、前記酵母の表面に貴金属を吸着させる貴金属吸着工程と、
貴金属が吸着された前記酵母に還元剤を加えて、前記酵母の表面に前記貴金属のナノメートルサイズの粒子である貴金属ナノ粒子を生成させるナノ粒子化工程と、を有し、
前記還元剤は、ヒドロキシルアミン、アスコルビン酸、ギ酸、過酸化水素のうち、少なくとも1種を含むこと、を特徴とする貴金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ナノ粒子化工程は、前記貴金属吸着工程の完了後、48時間以内に行うこと、を特徴とする請求項1に記載の貴金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記ナノ粒子化工程は、表面に貴金属が吸着した前記酵母または前記還元剤を、30℃以上、100℃未満の範囲にすること、を特徴とする請求項1または2に記載の貴金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記酵母は、サッカロマイセス属、ジゴサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、デバリオマイセス属のうち、いずれか1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の貴金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記貴金属は、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムのうち、いずれか1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の貴金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記貴金属ナノ粒子は、平均粒子径が1nm以上、100nm以下の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の貴金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記ナノ粒子化工程は、pH-3~4の酸性で行うこと、を特徴とする請求項1または2に記載の貴金属ナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、貴金属イオンを含む溶液から貴金属ナノ粒子を生成させる貴金属ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貴金属(Au,Ag,Pt,Pd,Rh,Ir,Ru,Os)をナノサイズの粒子状にした貴金属ナノ粒子は、触媒、バイオセンサー、メモリ、医療材料、抗菌材料などの分野での利用が増大しつつある。こうした貴金属ナノ粒子の安定した供給源として、貴金属を含む廃棄物が着目されている。
例えば、特許文献1には、廃棄物由来の貴金属溶出液に酵母を加えて貴金属を吸着させた後、貴金属が吸着された酵母に還元剤を加えて貴金属ナノ粒子を生成する貴金属回収方法が開示されている。
また、例えば特許文献2や特許文献3には、化学還元剤を用いずに微生物を反応場として金属ナノ粒子を作製する手法として、微生物独自の還元作用、いわゆるバイオミネラリゼーションを利用して金属ナノ粒子を生成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2023-004079号公報
【特許文献2】特開2018-035413号公報
【特許文献3】特開2017-020100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1~3に開示されているような、酵母を用いた貴金属ナノ粒子の製造方法では、生成される貴金属ナノ粒子の多くが、酵母の内部で生成されることが確認されている。即ち、酵母の表面で貴金属イオンは吸着されるが、時間の経過に伴って貴金属イオンが酵母の細胞壁内部に取り込まれた後に貴金属イオンの還元が開始されることによって、酵母の細胞壁内部で貴金属ナノ粒子が生成すると考えられている。
【0005】
このように、酵母の内部に貴金属ナノ粒子が取り込まれると、貴金属ナノ粒子を酵母から分離する際に、酵母の細胞壁を破壊して細胞構成物と貴金属ナノ粒子とを分離する工程が必要となる。しかしながら、物理的に細胞壁を破壊する場合、貴金属ナノ粒子と細胞構成物が強固に結合、混合してしまうため、分離が非常に困難であるという課題があった。一方、化学的に細胞壁を破壊する場合、例えば酵母に対するザイモリアーゼ等といった高価な酵素を用いる必要があり、分離に係るコストが高くなるという課題があった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、酵母を用いて生成した貴金属ナノ粒子を、低コストで効率的に酵母から分離することが可能な貴金属ナノ粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態の貴金属ナノ粒子の製造方法は、以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1の貴金属ナノ粒子の製造方法は、貴金属イオンを含む溶液に酵母を加えて撹拌して、前記酵母の表面に貴金属を吸着させる貴金属吸着工程と、貴金属が吸着された前記酵母に還元剤を加えて、前記酵母の表面に前記貴金属のナノメートルサイズの粒子である貴金属ナノ粒子を生成させるナノ粒子化工程と、を有し、前記還元剤は、ヒドロキシルアミン、アスコルビン酸、ギ酸、過酸化水素のうち、少なくとも1種を含むこと、を特徴とする。
【0008】
(2)本発明の態様2は、態様1の貴金属ナノ粒子の製造方法において、前記ナノ粒子化工程は、前記貴金属吸着工程の完了後、48時間以内に行うこと、を特徴とする。
【0009】
(3)本発明の態様3は、態様1または2の貴金属ナノ粒子の製造方法において、前記ナノ粒子化工程は、表面に貴金属が吸着した前記酵母または前記還元剤を、30℃以上、100℃未満の範囲にすること、を特徴とする。
【0010】
(4)本発明の態様4は、態様1から3のいずれか1つの貴金属ナノ粒子の製造方法において、前記酵母は、サッカロマイセス属、ジゴサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、デバリオマイセス属のうち、いずれか1種または2種以上を含むことを特徴とする。
【0011】
(5)本発明の態様5は、態様1から4のいずれか1つの貴金属ナノ粒子の製造方法において、前記貴金属は、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムのうち、いずれか1種または2種以上を含むことを特徴とする。
【0012】
(6)本発明の態様6は、態様1から5のいずれか1つの貴金属ナノ粒子の製造方法において、前記貴金属ナノ粒子は、平均粒子径が1nm以上、100nm以下の範囲であることを特徴とする。
【0013】
(7)本発明の態様7は、態様1から6のいずれか1つの貴金属ナノ粒子の製造方法において、前記ナノ粒子化工程は、pH-3~4の酸性で行うこと、を特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酵母を用いて生成した貴金属ナノ粒子を、低コストで効率的に酵母から分離することが可能な貴金属ナノ粒子の製造方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る貴金属ナノ粒子の製造方法を段階的に示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した一実施形態である貴金属ナノ粒子の製造方法について図面を参照して説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る貴金属ナノ粒子の製造方法を段階的に示したフローチャートである。
本実施形態の貴金属ナノ粒子の製造方法では、例えば電子機器の回路基板(貴金属の含有材料)から貴金属を分離させて回収し、回収した貴金属をナノ粒子化する一連の手順を説明する。
電子機器の回路基板は、例えば、はんだ付け箇所や配線にAu、Agなどの貴金属が含まれている。なお、本実施形態における貴金属とは、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムの8元素をいう。
【0018】
本実施形態の貴金属ナノ粒子の製造方法では、まず、貴金属イオンを含む溶液(以下、貴金属溶液と称する)を用意する。こうした貴金属溶液は、例えば、はんだ付け箇所や配線に金、銀、白金などの貴金属が用いられている電子機器の回路基板を塩酸および過酸化水素水で処理した後、王水で溶解することにより得ることができる。特に廃回路基板などのリサイクル原料を用いることにより、低コストで貴金属溶液を得ることができる。
【0019】
このようにして得られた貴金属溶液に、酵母を加えて攪拌し、貴金属溶液に含まれる貴金属イオンを酵母の表面に吸着させる(貴金属吸着工程S1)。貴金属吸着工程S1では、貴金属溶液に酵母を加えて撹拌すればよい。この貴金属吸着工程S1によって、貴金属溶液に含まれる貴金属イオンと酵母とが接触することにより、貴金属イオンが酵母の表面に吸着される。
【0020】
貴金属吸着工程S1における酵母の添加量は、貴金属溶液に含まれる貴金属の質量の0.004倍以上、39倍以下の範囲にすればよい。貴金属溶液に含まれる貴金属の質量は、ICP発光分光分析装置や吸光光度計などを用いて予め測定しておけばよい。
【0021】
貴金属吸着工程S1で用いられる酵母は、貴金属イオンを吸着できる酵母であればいずれの酵母でもよい。本実施形態で適用可能な酵母は、例えば、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、トルロプシス属(Torulopsis)、ジゴサッカロマイセス属(Zygosaccharomyces)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、ピチア属(Pichia)、ヤロウィア属(Yarrowia)、ハンセヌラ属(Hansenula)、クルイウェロマイセス属(Kluyveromyces)、デバリオマイセス属(Debaryomyces)、ゲオトリクム属(Geotrichum)、ウィッケルハミア属(Wickerhamia)、フェロマイセス属(Fellomyces)、スポロボロマイセス属(Sporobolomyces)の酵母であり、この中でも特にサッカロマイセス属、ジゴサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属やデバリオマイセス属に属する酵母が好ましい。
【0022】
サッカロマイセス属の酵母は出芽酵母の代表的な酵母であって、例えば、S. bayanusであり、S. boulardiiであり、S. bulderiであり、S. cariocanusであり、S. cariocusであり、S. cerevisiaeであり、S. chevalieriであり、S. dairenensisであり、S. ellipsoideusであり、S. florentinusであり、S. kluyveriであり、S. martiniaeであり、S. monacensisであり、S. norbensisであり、S. paradoxusであり、S. pastorianusであり、S. spencerorumであり、S. turicensisであり、S. unisporusであり、S. uvarumであり、S. zonatusであり得る。
【0023】
ジゴサッカロマイセス属は耐塩性の酵母であって、味噌や醤油などから分離される酵母であり、例えばZ. rouxiiであり得る。シゾサッカロマイセス属の酵母は分裂酵母であり、例えばS. cryophilusであり、S. japonicusであり、S. octosporusであり、S. pombeであり得る。また、好ましい酵母として受託番号NITE BP-01780(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター)で寄託されたデバリオマイセス属の酵母(Debaryomyces hansenii)も例示できる。
【0024】
貴金属吸着工程S1で用いられる酵母は、生菌でもよく、また貴金属イオンの還元機能が発揮される限り死菌であってもよい。
【0025】
貴金属溶液に酵母を加えた液体のpHや温度は特に限定されるものではない。例えば、pHは-3以上、7以下の強酸性~中性であればよい。また、温度は10℃以上、45℃以下、好ましくは20℃以上、35℃以下である。
【0026】
また、貴金属吸着工程S1を行う時間は、貴金属溶液に酵母を加えてから攪拌を行う時間として、例えば、4時間以下の範囲であればよい。攪拌時間が4時間を超えると、貴金属溶液に含まれる貴金属イオンが酵母の内部にまで入り込んでしまう懸念がある。
【0027】
次に、酵母を加えた貴金属溶液を濾過等で固液分離した後、固相(貴金属イオンが表面に付着した酵母)をイオン交換水や純水で洗浄する。洗浄は、例えば、洗浄水を交換して3回程度行うことが好ましい。
【0028】
そして、固液分離後の貴金属イオンが表面に付着した酵母(固相)に還元剤を加えて、貴金属ナノ粒子を生成させる(ナノ粒子化工程S2)。
ナノ粒子化工程S2で用いる還元剤としては、ヒドロキシルアミン(NH2OH)、L-アスコルビン酸、ギ酸(CH2O2)、過酸化水素(H2O2)のうち、少なくとも1種を含むものを用いる。
【0029】
ヒドロキシルアミンは化学的に不安定な結晶体であるため、水溶液の状態で用いる。
また、ギ酸は、濃度が90質量%以上のものであっても、水溶液であってもよい。
【0030】
本実施形態では、ナノ粒子化工程S2で用いる還元剤として、ヒドロキシルアミン塩酸塩の水溶液を用いている。
【0031】
ナノ粒子化工程S2は、前工程である貴金属吸着工程S1の完了後、48時間以内に開始することが好ましい。24時間以内に開始することがより好ましい。貴金属吸着工程S1の完了後、48時間を超えてからナノ粒子化工程S2を開始すると、酵母の内部に取り込まれる貴金属イオンが多くなりすぎる懸念がある。また、酵母自身の還元性によって貴金属イオンが還元されて、ナノサイズよりも粒径の大きな貴金属の粗大粒子が生成される懸念がある。
【0032】
ナノ粒子化工程S2は、貴金属イオンが表面に付着した酵母に還元剤を加えた後、例えば、2時間以下の範囲で攪拌を行えばよい。2時間を超えて行っても、貴金属イオンの還元がそれ以上進まず、また、還元されて析出する貴金属がナノサイズよりも粒径の大きな貴金属の粗大粒子となる懸念がある。
【0033】
また、ナノ粒子化工程S2おいては、表面に貴金属が吸着した酵母や還元剤の液温を、30℃以上、100℃未満の範囲にすることが好ましい。ナノ粒子化工程S2におけるこれらの温度が30℃以上、100℃未満の範囲にすることで、還元剤の還元性を低下させることなく、かつ、還元剤を沸騰させることなく、貴金属イオンを効率的に還元させることができる。ナノ粒子化工程S2における液体のpHは酸性であればよく、例えば、pHは-3以上、4以下の強酸性~弱酸性であればよい。
【0034】
このように、ナノ粒子化工程S2を経た酵母の表面には、例えば、平均粒子径が1nm以上、100nm以下の範囲である貴金属ナノ粒子が還元生成される。こうした貴金属ナノ粒子は、ほぼ全てが酵母の表面に形成され、酵母の内部には殆ど生成されない。
【0035】
この後、貴金属ナノ粒子が表面に生成した酵母と還元剤とを濾過等で固液分離した後、固相(貴金属ナノ粒子が表面に生成した酵母)にイオン交換水や純水を加えて撹拌することにより、酵母と貴金属ナノ粒子とを容易に分離することができる。
【0036】
以上のように、実施形態の貴金属ナノ粒子の製造方法では、貴金属イオンを吸着させた酵母に、ヒドロキシルアミン、アスコルビン酸、ギ酸、過酸化水素のうち、少なくとも1種を含む還元剤を添加して貴金属イオンを還元させることによって、貴金属が酵母の表面に選択的に還元生成され、酵母の内部には殆ど生成されない。
【0037】
これにより、貴金属還元後の酵母を撹拌水洗するなど簡易な方法で、生成した貴金属ナノ粒子と酵母とを分離することができる。このため、従来のように、酵母の細胞壁を高価な酵素を用いて分解して、酵素の内部に生成した貴金属を取り出すといった高コストで手間のかかる分離工程が必要無い。よって、酵素を用いて、貴金属溶液から貴金属ナノ粒子を低コストで効率的に回収することが可能になる。
【0038】
以上、本発明の実施形態を説明したが、こうした実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0039】
本発明の効果を検証した。
(本発明例1)
貴金属溶液として、塩化金酸の水溶液(濃度:1.88mM/L)を用意した。また、酵母を水に分散させた酵母懸濁液(酵母種:Saccharomyces cerevisiae)、濃度:3.0×108cells/L)を用意した。そして、貴金属溶液40mLに酵母懸濁液1.3mLを添加し、室温(25℃)で2時間攪拌することで、酵母の表面に金イオンを吸着させた(貴金属吸着工程)。
【0040】
この後、遠心分離機によって5分間遠心分離を行い、沈殿物(金イオンを吸着した酵母)を分離した。そして、この沈殿物Aに超純水を添加して遠心分離を行ってから沈殿物Aを分離する洗浄を3回繰り返した。その後、洗浄後の沈殿物Aを超純水100mLに分散させることで、表面に金イオンが吸着された酵母の分散液Aを得た。
【0041】
そして、貴金属吸着工程の完了後1時間以内に、超純水340mLに、上述した酵母の分散液A20mL、および還元剤としてヒドロキシルアミン塩酸塩水溶液(濃度:5質量%)40mLを入れて、液温を80℃に保って1時間攪拌した(ナノ粒子化工程)。なお、ヒドロキシルアミン塩酸塩水溶液を添加後の液性は、pH3.4であった(添加前はpH4.9)。
【0042】
この後、遠心分離機によって5分間遠心分離を行い、沈殿物(表面に金ナノ粒子が生成された酵母)を分離した。そして、この沈殿物Bに超純水を添加して遠心分離を行ってから沈殿物Bを分離する洗浄を3回繰り返した。その後、洗浄後の沈殿物Bを超純水100mLに分散させることで、表面に金ナノ粒子が生成された酵母の分散液Bを得た。
【0043】
以上のようにして得られた酵母の分散液BのTEM像を
図2に示す。
図2によれば、酵母の表面だけに生成した金ナノ粒子(黒い点状のもの)が付着し、酵母の内部には金ナノ粒子は生成していないことが確認できた。これにより、酵母の分散液Bに含まれる酵母には、金ナノ粒子が生成されていることが確認できた。
【0044】
(本発明例2)
還元剤としてギ酸水溶液(濃度:5質量%)40mLを入れて、液温を80℃に保って1時間攪拌したこと以外は、本発明例1と同様の手順で行った。ギ酸水溶液(還元剤)の添加後のpHは2.38であった。以上のようにして得られた酵母の分散液のTEM像を
図3に示す。
図3によれば、酵母の表面だけに生成した金ナノ粒子(黒い点状のもの)が付着し、酵母の内部には金ナノ粒子は生成していないことが確認できた。
【0045】
(本発明例3)
還元剤として過酸化水素水溶液(濃度:5質量%)40mLを入れて、液温を80℃に保って1時間攪拌したこと以外は、本発明例1と同様の手順で行った。過酸化水素水溶液(還元剤)の添加後のpHは3.77であった。以上のようにして得られた酵母の分散液のTEM像を
図4に示す。
図4によれば、酵母の表面だけに生成した金ナノ粒子(黒い点状のもの)が付着し、酵母の内部には金ナノ粒子は生成していないことが確認できた。
【0046】
(本発明例4)
還元剤としてアスコルビン酸水溶液(濃度:5質量%)40mLを入れて、液温を80℃に保って1時間攪拌したこと以外は、本発明例1と同様の手順で行った。アスコルビン酸水溶液(還元剤)の添加後のpHは2.87であった。以上のようにして得られた酵母の分散液のTEM像を
図5に示す。
図5によれば、酵母の表面だけに生成した金ナノ粒子(黒い点状のもの)が付着し、酵母の内部には金ナノ粒子は生成していないことが確認できた。
【0047】
(比較例1)
還元剤としてアスコルビン酸ナトリウム水溶液(濃度:5質量%)40mLを入れて、液温を80℃に保って1時間攪拌したこと以外は、本発明例1と同様の手順で行った。アスコルビン酸水溶液(還元剤)の添加後のpHは6.65であった。以上のようにして得られた酵母の分散液のTEM像を
図6に示す。
図6によれば、酵母の表面には金ナノ粒子が生成しておらず、酵母の内部のコントラストが高くなったことから、金ナノ粒子が酵母の内部に生成して凝集しているものと考えられる。
【0048】
(比較例2)
還元剤として水素化ホウ素ナトリウム水溶液(濃度:5質量%)40mLを入れて、液温を室温(25℃)に保って1時間攪拌したこと以外は、本発明例1と同様の手順で行った。水素化ホウ素ナトリウム水溶液(還元剤)の添加後のpHは10.3であった。以上のようにして得られた酵母の分散液(比較例2)のTEM像を
図7に示す。
【0049】
図7によれば、酵母の表面には金ナノ粒子が生成しておらず、酵母の内部のコントラストが高くなったことから、金ナノ粒子が酵母の内部に生成して凝集しているものと考えられる。
【0050】
(比較例3)
還元剤としてギ酸ナトリウム水溶液(濃度:5質量%)40mLを入れて、液温を80℃に保って1時間攪拌したこと以外は、本発明例1と同様の手順で行った。ギ酸ナトリウム水溶液(還元剤)の添加後のpHは7.6であった。以上のようにして得られた酵母の分散液(比較例3)中の酵母細胞の断面TEM像を
図8に示す。
【0051】
図8によれば、酵母の表面には金ナノ粒子が生成しておらず、酵母の細胞壁内部、および原形質部分で金ナノ粒子が生成されていることが明瞭に確認できる。
【0052】
(比較例4)
貴金属溶液として、塩化金酸の水溶液(濃度:100ppm)を40mL用意した。そして、この塩化金酸の水溶液に含まれる金の質量の20倍の質量の酵母(酵母種:Saccharomyces cerevisiae)を加えて、10分間撹拌することで、酵母の表面に金イオンを吸着させた。
【0053】
この後、遠心分離機によって5分間遠心分離を行い、沈殿物(金イオンを吸着した酵母)を分離した。そして、この沈殿物Cに超純水を添加して遠心分離を行ってから沈殿物Cを分離する洗浄を3回繰り返して、金イオンを吸着した酵母(比較例3)を得た。その後、この酵母(比較例3)に還元剤を加えることなく、室温(25℃)で9日間、空気中で静置した。以上のようにして得られた酵母(比較例4)のSEM像を
図9に示す。
【0054】
図9によれば、酵母の長期間静置によって、酵母の表面には酵母自体の分泌物による還元作用で金粒子が析出しているが、析出した金粒子はナノサイズよりも大きく凝集した三角形や六角形のプレート状の金粒子であった。よって、酵母自体の還元作用では、金イオンから金ナノ粒子を形成することはできないことが確認された。
本発明の貴金属ナノ粒子の製造方法は、酵母を用いて貴金属溶液から貴金属を回収する際に、酵素などコストの高い材料を用いて酵母の細胞壁を破壊することなく、生成された貴金属ナノ粒子と酵母とを分離することができる。これにより、触媒、バイオセンサー、メモリ、医療材料、抗菌材料などの分野での利用が増大しつつある貴金属ナノ粒子を、貴金属を含む廃回路基板などを原料にして低コストで製造することを可能にする。従って、産業上の利用可能性を有する。