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特開2024-140150呈味素材含有油脂組成物とその製造方法、該呈味素材含有油脂組成物を含有するベーカリー生地、およびベーカリー食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140150
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】呈味素材含有油脂組成物とその製造方法、該呈味素材含有油脂組成物を含有するベーカリー生地、およびベーカリー食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20241003BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20241003BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20241003BHJP
   A21D 2/02 20060101ALI20241003BHJP
   A21D 10/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D13/00
A21D2/18
A21D2/02
A21D10/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051162
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城戸 裕喜
(72)【発明者】
【氏名】兼子 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】上野 学
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 茂夫
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DG02
4B026DH01
4B026DH02
4B026DH05
4B026DL01
4B026DL03
4B026DL05
4B026DP01
4B026DP03
4B026DP04
4B026DX05
4B032DB02
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK15
4B032DK18
4B032DK43
4B032DK54
4B032DK70
4B032DL11
4B032DP08
4B032DP16
4B032DP23
4B032DP25
4B032DP26
4B032DP33
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】製造時に増粘せず、均質に粉粒状の呈味素材が分散しており、経日的な離水が抑制され、ベーカリー食品の製造に用いると風味や食感が良好なベーカリー食品を得ることができる、呈味素材含有油脂組成物を提供する。
【解決手段】水分含有量が0.1~3.5質量%であり、呈味素材水溶液および粉粒状呈味素材を含有し、呈味素材の含有量が固形分として30.0~81.5質量%である、呈味素材含有油脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件1~3を全て満たす、呈味素材含有油脂組成物。
(条件1)水分の含有量が0.1~3.5質量%である。
(条件2)呈味素材水溶液、および、粉粒状呈味素材を含有する。
(条件3)呈味素材の含有量が固形分として30.0~81.5質量%である。
【請求項2】
呈味素材水溶液における呈味素材の濃度が16.0質量%以上である、請求項1に記載の呈味素材含有油脂組成物。
【請求項3】
呈味素材が、塩類、糖類から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載の呈味素材含有油脂組成物。
【請求項4】
さらに、澱粉類を含有する、請求項1又は2に記載の呈味素材含有油脂組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の呈味素材含有油脂組成物を含有するベーカリー生地。
【請求項6】
請求項5に記載のベーカリー生地の加熱処理品であるベーカリー食品。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の呈味素材含有油脂組成物の製造方法であって、下記工程1~3を全て含む呈味素材含有油脂組成物の製造方法。
(工程1)呈味素材水溶液を得る工程
(工程2)油相に呈味素材水溶液を加えて混合し、油中水型の乳化物を得る工程
(工程3)油中水型の乳化物に、粉粒状呈味素材を混合する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呈味素材含有油脂組成物とその製造方法、該呈味素材含有油脂組成物を含有するベーカリー生地、および該ベーカリー生地の加熱処理品であるベーカリー食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ベーカリー生地に粉粒状の呈味素材を分散させるために、粉粒状の呈味素材を分散させた油脂組成物が用いられることがある。
【0003】
このような油脂組成物を製造する場合、油脂組成物中に粉粒状の呈味素材を少量分散させる場合は特に問題とならないが、多量に分散させると粘度が上昇し、そぼろ状となってしまう。このような性状であると、油脂組成物中に粉粒状の呈味素材を均質に分散させることが困難であることに加えて、ベーカリー生地に油脂組成物を練り込むことが困難となり、粉粒状の呈味素材がベーカリー生地に均質に練り込まれなくなってしまう。そのため、そぼろ状とならず、粉粒状の呈味素材を多量にかつ均質に分散させた油脂組成物を得るための検討が従前より行われてきた。
【0004】
粉粒状の呈味素材を多量にかつ均質に分散させた油脂組成物を得る方法としては、例えば、特許文献1には、油脂中に乾燥食品素材及び/又は低水分含有食品が超微粒子状に分散していて、かつ広い温度範囲で可塑性を有することを特徴とする可塑性油脂組成物とその製造方法が開示されている。
特許文献2には、水分含量が1.5~8.5質量%で、少なくとも澱粉質原料および常温で流動性を有する油脂を含有してなることを特徴とする加熱処理済ペースト状食品基材とその製造方法が開示されている。
特許文献3には、油脂性原料100重量部に対し粉末素材が300重量部以上500重量部以下分散してなる可塑性油脂組成物の製造の際に、油脂性原料100重量部あたり粉末素材150重量部以下を配合していったんクリーミングまたはホイッピングした後、さらに残りの粉末素材を添加混合することを特徴とする可塑性油脂組成物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-039546号公報
【特許文献2】特開平10-000051号公報
【特許文献3】特開2004-129578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、ベーカリー生地の製造においては、最終的に得られるベーカリー食品をよりソフトな食感にするため、あるいは、練り込み性向上等の理由で、油脂組成物として、マーガリンやファットスプレッド等の油中水型乳化油脂組成物が用いられることがある。しかし、ソフトさと風味の改良を両立させるために、油中水型乳化油脂組成物に対して、食塩や砂糖等の粉粒状の呈味素材を多量に分散させようとした場合、分散させた粉粒状の呈味素材が、油脂組成物中の水分を吸って増粘してしまい、少ない添加量であっても容易にそぼろ状になってしまい、均質な油脂組成物を得ることが不可能になってしまうという問題があった。
【0007】
また、得られる油脂組成物は、保管時に経日的に離水が発生してしまい、離水した水分によって油中水型乳化油脂組成物表面に斑点模様が現れ、製品価値が低下してしまうという問題があった。特に、保管時の温度が常温(25℃)に近い場合に、この問題の発生が顕著であった。
【0008】
引用文献1に記載の方法では、食塩や砂糖等の、超微粒子状でない、粉粒状の呈味素材が分散した油脂組成物とすることができないことに加え、粉粒状の呈味素材を多量に分散させた場合、油脂組成物の製造時に増粘してしまうという問題や、得られた油脂組成物が経日的に離水してしまうという問題は解決できなかった。
引用文献2に記載の方法は、常温で流動性を有する油脂を用いるため、得られた油脂組成物は、油分分離を起こしやすいことに加え、経日的に離水しやすく、特に保管時の温度が常温に近い場合、より離水しやすいという問題があった。
引用文献3に記載の方法は、クリーミングで生じた気泡内に粉粒状の呈味素材が保持されるため、一定の増粘防止効果および離水防止効果は得られるが十分ではなかった。
【0009】
このように、従前より知られた方法では、製造時の増粘が抑制され、経日的な離水が抑制された、粉粒状の呈味素材が多量に分散し、かつ、水分を含有する油脂組成物を得ることは困難であった。
【0010】
よって、本発明の課題は、以下の1)乃至3)を達成することができる呈味素材含有油脂組成物を提供することにある。
1)製造時に増粘せず、均質に粉粒状の呈味素材が分散している。
2)経日的な離水が抑制される。
3)風味や食感が良好なベーカリー食品を得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、粉粒状の呈味素材を分散させる油脂組成物として、呈味素材の水溶液を含有し、かつ、低水分の油中水型乳化油脂組成物を使用することで、粉粒状の呈味素材を多量に分散させた場合でも、製造時の増粘が抑制され、経日的な離水が抑制された油脂組成物が得られることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は以下の内容を含む。
<1>下記条件1~3を全て満たす、呈味素材含有油脂組成物。
(条件1)水分の含有量が0.1~3.5質量%である。
(条件2)呈味素材水溶液、および、粉粒状呈味素材を含有する。
(条件3)呈味素材の含有量が固形分として30.0~81.5質量%である。
<2>呈味素材水溶液における呈味素材の濃度が16.0質量%以上である、<1>に記載の呈味素材含有油脂組成物。
<3>呈味素材が、塩類、糖類から選ばれる1種又は2種以上である、<1>又は<2>に記載の呈味素材含有油脂組成物。
<4>さらに、澱粉類を含有する、<1>~<3>のいずれかに記載の呈味素材含有油脂組成物。
<5><1>~<4>のいずれかに記載の呈味素材含有油脂組成物を含有するベーカリー生地。
<6><5>に記載のベーカリー生地の加熱処理品であるベーカリー食品。
<7><1>~<4>のいずれかに記載の呈味素材含有油脂組成物の製造方法であって、下記工程1~3を全て含む呈味素材含有油脂組成物の製造方法。
(工程1)呈味素材水溶液を得る工程
(工程2)油相に呈味素材水溶液を加えて混合し、油中水型の乳化物を得る工程
(工程3)油中水型の乳化物に、粉粒状呈味素材を混合する工程
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下の1)乃至3)を達成する呈味素材含有油脂組成物を提供することができる。
1)製造時に増粘せず、均質に粒粉状の呈味素材が分散している。
2)経日的な離水が抑制される。
3)風味や食感が良好なベーカリー食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0015】
[呈味素材含有油脂組成物]
まず、本発明の呈味素材含有油脂組成物(以下、単に「本発明の油脂組成物」ともいう。)について説明する。
【0016】
本発明の呈味素材含有油脂組成物は、下記条件1~3を全て満たすことを特徴とする。
(条件1)水分の含有量が0.1~3.5質量%である。
(条件2)呈味素材水溶液、及び、粉粒状呈味素材を含有する。
(条件3)呈味素材の含有量が固形分として30.0~81.5質量%である。
【0017】
以下、まずは、本発明の呈味素材含有油脂組成物が満たす各条件について説明する。
【0018】
<条件1>
本発明の油脂組成物が満たす条件1は、本発明の油脂組成物中の水分に関する。
【0019】
本発明の油脂組成物は、水分を0.1~3.5質量%含有する。
本発明の油脂組成物中の水分の含有量は、製造時に増粘してしまうことを抑制できるという観点や、経日的な離水が抑制されやすくなるという観点から、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、その上限は、好ましくは3.3質量%以下、より好ましくは3.2質量%以下、さらに好ましくは3.0質量%以下である。したがって一実施形態において、本発明の油脂組成物中の水分の含有量は0.2~3.3質量%であることが好ましく、0.3~3.2質量%であることがより好ましく、0.5~3.0質量%であることがさらに好ましい。
【0020】
本発明の油脂組成物中の水分の含有量は、水道水やミネラルウォーター等の水のほかに、後述の呈味素材、油脂、澱粉類、その他の原材料に含まれる水分も合計した値である。
【0021】
なお、本発明の油脂組成物は、上記水分が乳化している乳化油脂組成物であってもよく、乳化していなくてもよい。
【0022】
<条件2>
本発明の油脂組成物が満たす条件2は、呈味素材に関する。
【0023】
本発明の油脂組成物は、呈味素材水溶液、および、粉粒状呈味素材を含有する必要がある。
【0024】
水と比較して濃度の高い、呈味素材水溶液を含有することで、本発明の油脂組成物中に分散させた粉粒状呈味素材が吸水しにくくなるため、製造時に増粘することを抑制できる。また、経日的な離水も抑制することができる。
【0025】
ここで、本発明における呈味素材としては、食品に使用できるものであって、水に溶解あるいは分散するものであれば特に制限されず、例えば、精製塩・並塩・岩塩・海塩・湖塩・天日塩・藻塩・フレーク塩・塩化ナトリウムなどの食塩や塩化カリウム等の塩類、上白糖・三温糖・ショ糖・ブドウ糖・果糖・乳糖・グラニュー糖・含蜜糖・黒糖・麦芽糖・てんさい糖・きび砂糖・粉糖・液糖・異性化糖・転化糖・酵素糖化水あめ・異性化水あめ・ショ糖結合水あめ・フラクトオリゴ糖・大豆オリゴ糖・ガラクトオリゴ糖・乳果オリゴ糖・キシロース・トレハロース・ラフィノース・ラクチュロース・パラチノースオリゴ糖などの単糖、二糖、オリゴ糖、多糖や、ソルビトール・キシリトール・マルチトール・エリスリトール・マンニトール・ラクチトール・還元麦芽糖水あめ・還元乳糖・還元水あめなどの糖アルコール等の糖類、サッカリンナトリウム・アスパルテーム・アセスルファムカリウム・スクラロース・ステビア・ネオテーム・甘草・グリチルリチン・グリチルリチン酸塩・ジヒドロカルコン・ソーマチン・モネリン等の高甘味度甘味料、乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、ミルクパウダー、ココアパウダー、カカオマス、コーヒー等を挙げることができる。
【0026】
本発明においては、これらの中から選ばれる1種または2種以上の呈味素材を用いることができる。また、本発明に用いられる呈味素材の形状は特に制限されず、例えば、粉粒状、液状、ゲル状、ペースト状等のものを用いることができる。
【0027】
本発明に用いられる呈味素材は、呈味素材中の水分の含有量が15質量%以下であるものが好ましく、10質量%以下であるものがより好ましい。
【0028】
本発明の油脂組成物が含有する、呈味素材水溶液とは、上記1種または2種以上の呈味素材が溶解した水溶液、あるいは、液糖や液状の糖アルコール等の、上記呈味素材のうち液状のものを指す。
【0029】
なお、本発明においては、一定の呈味素材が溶解していれば、例えば、飽和食塩水にさらに食塩が分散している液体のような、飽和濃度を超えたものも、呈味素材水溶液として扱うものとする。
【0030】
また、本発明の油脂組成物が含有する、粉粒状呈味素材とは、上記呈味素材のうち粉粒状のものを指す。
【0031】
本発明の油脂組成物においては、製造時の増粘を抑制しやすくなるという観点や、経日的な離水を抑制しやすくなるという観点、本発明の油脂組成物を用いたベーカリー食品の風味が良好なものとなるという観点から、呈味素材が、塩類、糖類から選ばれる1種または2種以上であることが好ましく、塩類であることがより好ましい。
【0032】
なお、上記呈味素材水溶液中の呈味素材と、粉粒状呈味素材とは、同一であってもよく、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0033】
本発明の油脂組成物が含有する呈味素材水溶液においては、分散している粉粒状呈味素材が吸水することをより抑制し、製造時の増粘を抑制できるという観点や、経日的な離水をより抑制できるという観点から、用いた呈味素材の種類によっても異なるが、呈味素材水溶液中の呈味素材の濃度が16.0質量%以上であることが好ましい。
【0034】
なお、上記呈味素材水溶液の濃度の上限値は、用いた呈味素材の種類によっても異なるが、呈味素材水溶液を調製することができる範囲であれば特に制限されず、呈味素材の20℃における飽和濃度が16.0質量%以上であるものについては、呈味素材の20℃における飽和濃度であることが好ましい。
【0035】
従って、具体的な呈味素材水溶液の好ましい濃度は、用いた呈味素材が食塩や塩化カリウムである場合は、16.0質量%以上であることが好ましく、17.5質量%以上であることがより好ましく、20.0質量%以上であることがさらに好ましい。
【0036】
用いた呈味素材がショ糖である場合は、50.0質量%以上であることが好ましく、55.0質量%以上であることがより好ましく、60.0質量%以上であることがさらに好ましい。
【0037】
また、呈味素材水溶液が2種以上の呈味素材を含有する場合は、それらの呈味素材の合計量を用いて呈味素材水溶液の濃度を算出することとし、その濃度が16.0質量%以上であることが好ましい。
【0038】
<条件3>
本発明の油脂組成物が満たす条件3は、呈味素材の含有量に関する。
【0039】
本発明の油脂組成物中の呈味素材の含有量は、固形分として30.0~81.5質量%である。
【0040】
本発明の油脂組成物においては、均質に粉粒状呈味素材が分散しやすくなるという観点や、経日的な離水が抑制されやすくなるという観点、本発明の油脂組成物を用いたベーカリー食品の風味が良好なものになるという観点から、呈味素材の含有量は、固形分として、好ましくは32.0質量%以上、より好ましくは36.0質量%以上、さらに好ましくは40.0質量%以上であり、その上限は、好ましくは75.0質量%以下、より好ましくは70.0質量%以下、さらに好ましくは65.0質量%以下である。したがって一実施形態において、本発明の油脂組成物中の呈味素材の含有量は、固形分として32.0~75.0質量%であることが好ましく、36.0~70.0質量%であることがより好ましく、40.0~65.0質量%であることがさらに好ましい。
【0041】
上記の本発明の油脂組成物中の呈味素材の含有量は、呈味素材水溶液中の呈味素材と、粉粒状呈味素材とを合計した固形分の量である。なお、本発明における固形分とは、水分以外の成分を指す。
【0042】
また、均質に粉粒状呈味素材が分散しやすくなるという観点から、本発明の油脂組成物中の呈味素材の含有量のうち、固形分として好ましくは90.0~99.9質量%、より好ましくは92.0~99.9質量%、さらに好ましくは95.0~99.9質量%、特に好ましくは97.0~99.9質量%が粉粒状呈味素材である。
【0043】
本発明の油脂組成物に粉粒状呈味素材を含有させる方法としては、例えば、(i)油脂に粉粒状呈味素材を分散させた後、呈味素材水溶液を添加、混合して含有させる方法や、(ii)水相が呈味素材水溶液である、油中水型の乳化形態をとる乳化物を準備した後、該乳化物と粉粒状呈味素材とを混合して含有させる方法等が挙げられる。
【0044】
本発明の油脂組成物が、多量の粉粒状呈味素材を分散させているにも関わらず、製造時に増粘せず、経日的な離水が抑制されている理由は明らかではないが、本発明者らは、呈味素材水溶液を含有し、かつ、低水分の油脂組成物とすることで、分散している粉粒状呈味素材が吸水したり、分散している粉粒状呈味素材が水分に溶解したりすることを防止できるためであると推測している。
【0045】
<油脂>
本発明の呈味素材含有油脂組成物に用いることのできる油脂は、食用油脂であれば特に制限されず、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、ハイエルシン菜種油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、米油、ごま油、落花生油、キャノーラ油、カポック油、月見草油、オリーブ油、シア脂、サル脂、コクム脂、イリッペ脂、カカオ脂等の植物油脂や、乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物油脂、ならびにこれら植物油脂および動物油脂に水素添加、分別およびエステル交換から選ばれる1種または2種以上の処理を施した加工油脂等が挙げられる。本発明の油脂組成物においては、これらの中から選ばれる1種または2種以上の油脂を用いることができる。
【0046】
以下、本発明においては「植物油脂および動物油脂に水素添加、分別およびエステル交換から選ばれる1種または2種以上の処理を施した加工油脂」を、単に「加工油脂」と記載する。
【0047】
上記加工油脂を製造するための水素添加、分別およびエステル交換は、従前より知られた方法により行うことができ、これらの処理の後、精製を行ってもよい。
なお、分別については溶剤分別であってもよく、ドライ分別であってもよい。
エステル交換についてはリパーゼ等の酵素触媒を用いてもよく、ナトリウムメトキシド等の化学的触媒を用いてもよい。本発明においては、本発明の油脂組成物中に粉粒状呈味素材を均質に分散させやすくなるという観点から、ランダムエステル交換であることが好ましい。
以下、本発明における加工油脂を製造するための水素添加、分別、およびエステル交換についても同様である。
【0048】
本発明においては、多量の粉粒状呈味素材を均質に含有させやすくなるという観点や、経日的な離水が抑制されやすくなるという観点から、本発明の油脂組成物中の油脂の含有量は、好ましくは15.0質量%以上又は16.0質量%以上、より好ましくは18.0質量%以上、さらに好ましくは20.0質量%以上であり、その上限は、好ましくは70.0質量%以下、より好ましくは60.0質量%以下、さらに好ましくは50.0質量%以下である。したがって一実施形態において、本発明の油脂組成物中の油脂の含有量は15.0~70.0質量%であることが好ましく、18.0~60.0質量%であることがより好ましく、20.0~50.0質量%であることがさらに好ましい。
【0049】
また、本発明の油脂組成物においては、そぼろ状となってしまうことを防ぎ、多量の粉粒状呈味素材を均質に分散させやすくなるという観点や、本発明の油脂組成物を用いたベーカリー食品の風味や食感をより良好なものにしやすくなるという観点から、本発明の油脂組成物中の油脂の含有量1質量部に対する、固形分としての呈味素材の含有量が、好ましくは0.4質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは0.6質量部以上、0.7質量部以上又は0.8質量部以上であり、その上限は、好ましくは4.0質量部以下、より好ましくは3.0質量部以下、さらに好ましくは2.5質量部以下である。したがって一実施形態において、本発明の油脂組成物中の油脂の含有量1質量部に対する、固形分としての呈味素材の含有量は0.4~4.0質量部であることが好ましく、0.5~3.0質量部であることがより好ましく、0.6~2.5質量部であることがさらに好ましい。
【0050】
本発明の油脂組成物においては、油脂組成物中に多量の粉粒状呈味素材を均質に分散させやすくなるという観点や、経日的な離水が生じにくくなるという観点から、油脂として、パーム分別軟部油を70~100質量%含む油脂配合物のエステル交換油脂(以下、「エステル交換油脂(A)」という。)を含有することが好ましい。
【0051】
本発明におけるパーム分別軟部油としては、例えば、パーム油を分別して得られる低融点部であるパームオレインや、パームオレインをさらに分別して得られる低融点部であるパームスーパーオレイン等が挙げられ、これらの中から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0052】
エステル交換油脂(A)の製造に用いられるパーム分別軟部油としては、これらの中でも、ヨウ素価が52~70であるパーム分別軟部油を用いることが好ましく、ヨウ素価が52~60であるパーム分別軟部油を用いることがより好ましい。
【0053】
油脂のヨウ素価の測定方法としては、従前知られた方法を用いることができ、例えば、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.3.4.1(2013)」に記載の方法で測定することができる。
【0054】
本発明の油脂組成物に好ましく用いられるエステル交換油脂(A)は、パーム分別軟部油70~100質量%とその他の油脂とを合わせて100質量%とした油脂配合物をエステル交換することにより得られるものであり、好ましくは、パーム分別軟部油100質量%からなる油脂配合物をエステル交換することにより得られるものである。
【0055】
エステル交換油脂(A)の製造に用いられるその他の油脂としては、パーム分別軟部油以外の、本発明の油脂組成物に用いることのできる油脂であれば特に制限されない。
【0056】
本発明の油脂組成物においては、含有する油脂中のエステル交換油脂(A)の含有量が、好ましくは5.0質量%以上、より好ましくは7.5質量%以上、さらに好ましくは10.0質量%以上、12.5質量%以上又は15.0質量%以上であり、その上限は、好ましくは49.5質量%以下である。したがって一実施形態において、本発明の油脂組成物において油脂中のエステル交換油脂(A)の含有量は5.0~49.5質量%であることが好ましく、7.5~49.5質量%であることがより好ましく、10.0~49.5質量%であることがさらに好ましい。
【0057】
また、本発明の油脂組成物においては、特に常温付近で保管した場合でも、離水が生じにくくなるという観点や、ベーカリー食品生地の捏ね上げ温度付近で適度に油脂結晶が存在し、本発明の油脂組成物がベーカリー食品生地中に含有されやすくなり、ベーカリー食品の風味や食感が良好なものとなりやすくなるという観点から、25℃における固体脂含量(以下、「SFC-25℃」という。)が好ましくは10%以上、より好ましくは12%以上、さらに好ましくは15%以上であり、その上限は、好ましくは35%以下、より好ましくは32%以下、さらに好ましくは30%以下、28%以下、26%以下又は25%以下である。したがって一実施形態において、本発明の油脂組成物のSFC-25℃は10~35%であることが好ましく、12~32%であることがより好ましく、15~30%であることがさらに好ましい。
【0058】
本発明の油脂組成物のSFC-25℃は、従前より知られた方法を用いて測定することができる。例えば、本発明の油脂組成物を、アステック株式会社製「SFC-2000R」を用いて、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.2.9(2013)」に記載の方法により測定することができる。
なお、本発明の油脂組成物が水分を含む場合は、上記測定値を油脂量に換算した値を、SFC-25℃とすることができる。
【0059】
<澱粉類>
本発明の油脂組成物は、粉粒状呈味素材とともに含有させることで、本発明の油脂組成物中に多量の分粒状呈味素材をより均質に分散させやすくなるという観点から、さらに澱粉類を含有することが好ましい。
【0060】
本発明における澱粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉などの小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉、米粉などのその他の穀粉類、アーモンド粉、ヘーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉、オーナッツ粉、松実粉などの堅果粉類、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉などの澱粉、これらの澱粉に酵素処理、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、微細化処理、グラフト化処理などから選ばれた1種または2種以上の処理を施した加工澱粉等を挙げることができる。本発明の呈味素材含有油脂組成物は、これらの中から選ばれる1種または2種以上を含有することができる。
【0061】
本発明の油脂組成物においては、多量の粉粒状呈味素材をより均質に分散させやすくなるという観点から、これらの澱粉類の中でも、小麦粉類を用いることが好ましい。さらに、本発明の油脂組成物を用いたベーカリー食品の風味が良好なものになるという観点から、小麦粉類の中でも、焙焼された小麦粉類を用いることがより好ましい。
【0062】
本発明の油脂組成物中の澱粉類の含有量は、好ましくは5.0質量%以上、より好ましくは7.0質量%以上又は8.0質量%以上、さらに好ましくは10.0質量%以上であり、その上限は、好ましくは30.0質量%以下、より好ましくは28.0質量%以下又は27.0質量%以下、さらに好ましくは25.0質量%以下である。したがって一実施形態において、本発明の油脂組成物中の澱粉類の含有量は5.0~30.0質量%であることが好ましく、7.0~27.0質量%であることがより好ましく、10.0~25.0質量%であることがさらに好ましい。
【0063】
<その他の原材料>
本発明の油脂組成物は、上述の水分、呈味素材、油脂、澱粉類のほかに、その他の原材料を含有することができる。
【0064】
本発明の油脂組成物に含有させ得るその他の原材料としては、一般的に油脂組成物に用いられる原材料であれば特に制限はなく、例えば、乳化剤、増粘安定剤、酵素類、酸化剤や還元剤、pH調整剤、着色料、着香料、食品保存料、日持ち向上剤、酸化防止剤、アミノ酸類、植物性蛋白や動物性蛋白、卵類およびその加工品、肉類・魚類・野菜類・果物類等のその他食品素材やその加工品、食品添加物等が挙げられる。
【0065】
本発明においては、これらの中から選ばれる1種または2種以上のその他の原材料を用いることができる。
【0066】
上記乳化剤としては、例えば、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、有機酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、レシチン、リゾレシチン等が挙げられる。
【0067】
上記増粘安定剤としては、例えば、キサンタンガム、グアーガム、アラビアガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、カラギーナン、アルギン酸、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ファーセルラン、ローカストビーンガム、ペクチン、カードラン、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ジェランガム、タラガントガム、カラヤガム、タラガム、トラガントガム、ゼラチン、デキストリン、寒天、デキストラン、白キクラゲ多糖等が挙げられる。
【0068】
上記酵素類としては、例えば、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、キシラナーゼ、ペントサナーゼ、プルラナーゼ等の細胞壁分解酵素、グルコースオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、パーオキシダーゼ、スルフィドリルオキシダーゼ等の酸化酵素、α-アミラーゼ、マルトース生成αーアミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、イソアミラーゼ、アミログルコシダーゼ等の澱粉分解酵素、プロテアーゼ、リパーゼ、リポキシゲナーゼ、ホスホリパーゼ、ホスホリラーゼ、トランスグルタミナーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、カタラーゼ等が挙げられ、市販の酵素製剤を用いることもできる。
【0069】
上記酸化剤や還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、臭素酸カリウム、ヨウ素酸カリウム等の酸化剤や、シスチン、酸性亜硫酸ソーダ、アンモニア、グルタチオン、亜硫酸、チオグルコール酸、過硫酸アンモニア、過硫酸カリウム等の還元剤等が挙げられる。
【0070】
本発明の油脂組成物中のその他の原材料の含有量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に制限されないが、10.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましい。なお、本発明の油脂組成物中のその他の原材料の含有量の下限値は0質量%である。
【0071】
<用途・特徴>
本発明の呈味素材含有油脂組成物は、食品用途に広く用いることができる。特に、本発明の油脂組成物は、ベーカリー生地への練込用、折込用の油脂組成物等として好ましく用いることができる。
【0072】
本発明の油脂組成物においては、得られるベーカリー食品の風味や食感を良好なものとできるという観点から、これらの用途の中でも、ベーカリー生地への練込用として用いることが好ましい。
【0073】
本発明の油脂組成物は、ベーカリー生地に好ましく含有させることができ、ベーカリー生地中に呈味素材を均質に含有させやすくなるという観点から、常温(25℃)において可塑性を有することが好ましい。
【0074】
また、本発明の油脂組成物は、経日的な離水が発生しにくいという特徴を有するため、常温(25℃)以下で保管することができ、好ましくは0~25℃で保管することができる。
【0075】
<呈味素材含有油脂組成物の製造方法>
本発明の呈味素材含有油脂組成物の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう。)は、上述の条件1~3を全て満たす呈味素材含有油脂組成物の製造方法であって、以下の工程1~3を全て含むことを特徴とする。
(工程1)呈味素材水溶液を得る工程
(工程2)油相に呈味素材水溶液を加えて混合し、油中水型の乳化物を得る工程
(工程3)油中水型の乳化物に、粉粒状呈味素材を混合する工程
【0076】
本発明の製造方法により得られる、上述の条件1~3を全て満たす呈味素材含有油脂組成物については、上述の[呈味素材含有油脂組成物]欄において説明したとおりである。
【0077】
以下、本発明の製造方法の好ましい一様態を示す。
【0078】
<<工程1>>
まず、本発明の製造方法の工程1について説明する。
【0079】
工程1において、呈味素材水溶液を得る。
【0080】
具体的には、水、好ましくは加熱した水に、呈味素材を加えて混合し、呈味素材水溶液を得る。工程1で得られる呈味素材水溶液の好ましい態様については、上述のとおりである。
【0081】
工程1で得られる呈味素材水溶液の濃度、すなわち呈味素材水溶液における呈味素材の濃度は、用いた呈味素材の種類によっても異なるが、16.0質量%以上であることが好ましい。呈味素材水溶液の濃度の上限値は、本発明の呈味素材含有油脂組成物が製造できる範囲であれば特に制限されないが、用いた呈味素材の20℃における飽和濃度が16.0質量%以上である場合は、20℃における呈味素材の飽和濃度であることが好ましい。
【0082】
従って、工程1で得られる呈味材水溶液の好ましい濃度は、例えば、用いた呈味素材が食塩や塩化カリウムである場合は、16.0質量%以上であることが好ましく、17.5質量%以上であることがより好ましく、20.0質量%以上であることがさらに好ましい。用いた呈味素材がショ糖である場合は、50.0質量%以上であることが好ましく、55.0質量%以上であることがより好ましく、60.0質量%以上であることがさらに好ましい。
【0083】
<<工程2>>
次に、本発明の製造方法の工程2について説明する。
【0084】
工程2において、油相に呈味素材水溶液を加えて混合し、油中水型の乳化物を得る。
【0085】
具体的には、まず、加熱融解させた油脂に、必要に応じて本発明の呈味素材含有油脂組成物のその他の原材料を加えて混合し、油相を得る。次に、得られた油相に、上述の工程1で得られた呈味素材水溶液を加えて混合し、油中水型の乳化形態をとる乳化物を得る。
【0086】
工程2で得られた、油中水型の乳化物は、殺菌処理することが好ましい。
【0087】
殺菌処理は、例えば、インジェクション式、インフージョン式等の直接加熱方式、あるいはプレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式を用いたUHT・HTST・低温殺菌、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等により行ってもよく、直火等の加熱調理によって行ってもよい。
【0088】
また、殺菌処理の温度は、好ましくは80~100℃、より好ましくは80~95℃、さらに好ましくは80~90℃である。
【0089】
また、殺菌処理後に、必要に応じて油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行ってもよい。
【0090】
本発明の製造方法においては、上述の工程2の後に、油中水型の乳化物を冷却することが好ましく、冷却可塑化することがより好ましい。
【0091】
上記冷却可塑化は、例えば、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーターなどの密閉型連続式掻き取りチューブラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機や、開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターの組み合わせ等により行うことができる。また、冷却可塑化の際に、例えば、ピンマシンなどの捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブ等を用いることもできる。
【0092】
冷却の速度は、急冷であってもよく、緩慢な冷却であってもよいが、急冷であることが好ましい。本発明における急冷とは、1℃/分以上の冷却速度での冷却を指し、緩慢な冷却とは、1℃/分未満の冷却速度での冷却を指す。
【0093】
<<工程3>>
次に、本発明の製造方法の工程3について説明する。
【0094】
工程3において、油中水型の乳化物に、粉粒状呈味素材を混合する。
【0095】
具体的には、上述の工程2で得られた、油中水型の乳化形態をとる乳化物、好ましくは、冷却可塑化された油中水型の乳化形態をとる乳化物に、粉粒状呈味素材、好ましくは粉粒状呈味素材と澱粉類、必要に応じて、その他の原材料を加えて混合し、均質に分散させる。
【0096】
なお、本発明の製造方法の工程3は、上述の冷却可塑化の際に、油中水型の乳化物に粉粒状の呈味素材などを加えて、冷却可塑化と工程3とを同時に行ってもよい。
【0097】
また、本発明の製造方法においては、油中水型の乳化物に、窒素や空気等のガスを含気させてもよく、含気させなくてもよい。また、粉粒状呈味素材を混合後に含気させてもよく、含気させなくてもよい。
【0098】
含気させる方法やタイミングは特に制限されず、例えば、(i)油中水型の乳化物を冷却可塑化中あるいは冷却可塑化後にガスを注入、混和、またはその両方を行って含気させる方法や、(ii)粉粒状呈味素材を混合するタイミングでガスを注入、混和、またはその両方を行って含気させる方法や、(iii)粉粒状呈味素材を混合し分散させた後に、ガスを注入、混和、またはその両方を行って含気させる方法等が挙げられる。
【0099】
上述の工程1~3を全て含む本発明の製造方法により、本発明の呈味素材含有油脂組成物を製造することができる。
【0100】
[ベーカリー生地]
次に、本発明のベーカリー生地について説明する。
【0101】
本発明のベーカリー生地は、上述の本発明の呈味素材含有油脂組成物を含有するものである。
【0102】
本発明の呈味素材含有油脂組成物を含有することで、ベーカリー生地に多量の粉粒状呈味素材を均質に含有させることができる。
【0103】
本発明におけるベーカリー生地の種類としては、特に制限されず、例えば、食パン生地、菓子パン生地、バラエティーブレッド生地、バターロール生地、ソフトロール生地、ハードロール生地、スイートロール生地、デニッシュ生地、ペストリー生地、フランスパン生地等のパン類の生地や、パイ生地、シュー生地、ドーナツ生地、バターケーキ生地、スポンジケーキ生地、ハードビスケット生地、ソフトビスケット生地、クッキー生地、タルト生地、ワッフル生地、スコーン生地等の菓子類の生地が挙げられる。
【0104】
本発明のベーカリー生地においては、本発明の呈味素材含有油脂組成物を用いて、より良好に粉粒状呈味素材をベーカリー生地中に分散させることができるという観点から、これらのベーカリー生地の中でも、パン類の生地であることが好ましく、食パン生地、菓子パン生地、バラエティーブレッド生地、バターロール生地、ソフトロール生地、ハードロール生地、スイートロール生地、フランスパン生地であることがより好ましい。
【0105】
本発明のベーカリー生地は、澱粉類を含有する。
【0106】
本発明のベーカリー生地に用いられる澱粉類は特に制限されず、上述の澱粉類の中から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0107】
本発明のベーカリー生地においては、澱粉類の中でも小麦粉類を、本発明のベーカリー生地に用いられる澱粉類中50質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することがより好ましく、全量が小麦粉であることがさらに好ましい。
【0108】
なお、上記「本発明のベーカリー生地に用いられる澱粉類」には、本発明の呈味素材含有油脂組成物中の澱粉類の量は含まないものとし、以下、本発明において同様である。
【0109】
本発明のベーカリー生地中の本発明の油脂組成物の含有量は、本発明のベーカリー生地の種類によっても異なるが、例えば食パン生地である場合は、本発明のベーカリー生地に用いられる澱粉類100質量部に対し、30.0質量部以下であることが好ましく、20.0質量部以下であることがより好ましく、15質量部以下であることがさらに好ましい。また、0.5質量部以上であることが好ましく、1.0質量部以上であることがより好ましく、1.5質量部以上であることがさらに好ましい。
【0110】
本発明のベーカリー生地は、上記澱粉類、本発明の油脂組成物以外に、必要に応じて、一般的なベーカリー生地に用いられる、その他の原材料を配合することができる。
【0111】
本発明のベーカリー生地に配合させ得るその他の原材料としては、例えば、水、本発明の呈味素材含有油脂組成物以外の油脂や油脂組成物、イースト、イーストフード、糖類、高甘味度甘味料、乳化剤、増粘安定剤、酵素類、酸化剤や還元剤、pH調整剤、着色料、着香料、食品保存料、日持ち向上剤、酸化防止剤、アミノ酸類、デキストリン、乳や乳製品、チーズ類、酒類、膨張剤、無機塩類、食塩、ベーキングパウダー、カカオおよびその加工品、コーヒーおよびその加工品、ハーブ、植物性蛋白や動物性蛋白、卵類およびその加工品、肉類・魚類・野菜類・果物類・豆類やその加工品、苦味料、酸味料、調味料、香辛料、その他各種食品素材や食品添加物等を挙げることができ、これらの中から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0112】
本発明のベーカリー生地中のその他の原材料の含有量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に制限されない。水については、本発明のベーカリー生地の種類にもよるが、例えば、食パン生地の場合は、本発明のベーカリー生地に用いられる澱粉類100質量部に対して、水の含有量は20質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましい。また、100質量部以下であることが好ましく、90質量部以下であることがより好ましい。
【0113】
また、水以外のその他の原材料の含有量は、本発明のベーカリー生地に用いられる澱粉類100質量部に対し、100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましい。
【0114】
本発明のベーカリー生地の製造方法は特に制限されず、従前より知られたベーカリー生地の製造方法を用いることができる。例えば、パン類の生地の製造方法としては、中種法、直捏法、液種法、中麺法、湯種法等が挙げられ、菓子類の生地の製造方法としては、シュガーバッター法、フラワーバッター法、オールインミックス法、共立て法、別立て法等が挙げられる。これらの中でも、本発明のベーカリー生地においては、パン類の生地の製造方法により製造することが好ましく、パン類の生地の製造方法の中でも、中種法または直捏法により製造することがより好ましい。
【0115】
例えば、本発明のベーカリー生地を中種法で製造する場合は、本発明の呈味素材含有油脂組成物を、中種生地または本捏生地、あるいはその両方に含有させることで製造することができ、好ましくは本捏生地に含有させることで製造することができる。また、本発明のベーカリー生地を直捏法で製造する場合は、本発明の呈味素材含有油脂組成物を、ミキシング時の任意の段階でベーカリー生地に含有させることで製造することができる。
【0116】
なお、本発明の呈味素材含有油脂組成物をベーカリー生地に含有させる方法は特に制限されず、例えば、練り込んで含有させることができ、折り込んで含有させることができるが、練り込んで含有させることが好ましい。
【0117】
本発明のベーカリー生地は、製造の過程で、任意の形に成形してもよく、また、ベンチタイムやラックタイム、ホイロ等をとってもよい。
【0118】
また、得られた本発明のベーカリー生地は、成形前あるいは成形後に、冷蔵保管してもよく、冷凍保管してもよい。
本発明における冷蔵保管とは、0℃以上10℃以下で保管することを指し、本発明における冷凍保管とは、0℃未満で保管すること、好ましくは-30℃以上0℃未満で保管することを指す。
【0119】
[ベーカリー食品]
最後に、本発明のベーカリー食品について説明する。
【0120】
本発明のベーカリー食品は、上述の本発明のベーカリー生地の加熱処理品である。
【0121】
本発明のベーカリー食品は、本発明の呈味素材含有油脂組成物を用いることにより、均質に粉粒状呈味素材が含有されているため、風味が良好なものとなる。また、食感がソフトなものとなる。
【0122】
本発明のベーカリー食品を得るための加熱処理の方法としては特に制限されず、例えば、焼成、フライ、蒸し、蒸し焼き、電子レンジによる加熱等が挙げられ、これらを組み合わせて行ってもよい。
【0123】
本発明のベーカリー食品は、製造後に冷蔵保管してもよく、冷凍保管してもよい。また、冷蔵保管あるいは冷凍保管後に、再度加熱処理してもよい。
【0124】
また、本発明のベーカリー食品は、例えば、サンド、トッピング、塗布、包餡、注入、上掛け等により、その他の食品や食品素材と複合させてもよい。
【実施例0125】
以下、本発明を実施例によりさらに詳述するが、本発明はこれらの実施例により、何ら制限されるものではない。
【0126】
[エステル交換油脂の製造]
<エステル交換油脂(1)>
ヨウ素価57であるパームオレイン100質量部からなる油脂配合物を、ナトリウムメトキシドを用いてランダムエステル交換し、エステル交換油脂(1)を得た。エステル交換油脂(1)は、本発明の「エステル交換油脂(A)」にあたる。
【0127】
[呈味素材含有油脂組成物の製造]
表1に記載の配合に則り、以下の<呈味素材含有油脂組成物の製造方法>により、実施例1~7および比較例1~4の呈味素材含有油脂組成物を製造した。
また、参考例として、水分を含まない呈味素材含有油脂組成物を、表2に記載の配合に則り、以下の<参考例の製造方法>により製造した。
【0128】
【表1】
【0129】
【表2】
【0130】
<呈味素材含有油脂組成物の製造方法>
比較例1以外については、加熱した水に食塩を加えて混合し、呈味素材水溶液にあたる、食塩水溶液を得た。比較例1の油中水型乳化油脂組成物については、加熱した水を準備した。
【0131】
次に、加熱融解させた配合油脂に、上記食塩水溶液または加熱した水を加えて混合し、乳化させ、油中水型の乳化物を得た。得られた油中水型の乳化物を、急冷可塑化し、可塑性を有する油中水型の乳化物を得た。
【0132】
その後、上記で得られた、可塑性を有する油中水型の乳化物に、実施例5については粉粒状呈味素材にあたる食塩と、小麦粉とをあらかじめ混合したもの、実施例6~7および比較例4については食塩と焙焼小麦粉とをあらかじめ混合したもの、それ以外については食塩を加えてよく混合し、実施例1~7および比較例1~4の呈味素材含有油脂組成物を得た。
なお、実施例1~7が、本発明の呈味素材含有油脂組成物にあたる。
【0133】
<参考例の製造方法>
加熱融解させた配合油脂を急冷可塑化し、可塑性を有する油脂組成物を得た。
次いで、得られた可塑性を有する油脂組成物に、食塩を加えてよく混合し、水分を含まない呈味素材含有油脂組成物を得た。
【0134】
[評価1]
まず、呈味素材含有油脂組成物の製造時の増粘と、得られた呈味素材含有油脂組成物について評価した。
【0135】
実施例1~7および比較例1~4のそれぞれについて、上記呈味素材含有油脂組成物の製造方法における増粘の具合を、以下の評価基準に沿って評価した。
また、得られた実施例1~7および比較例1~4の呈味素材含有油脂組成物を目視により確認し、粉粒状呈味素材の分散の様子について、以下の評価基準に沿って評価した。各評価の結果を表3に示した。
製造時の増粘の評価、および粉粒状呈味素材の分散の評価の両方が○以上であるものを合格とした。
【0136】
-製造時の増粘の評価-
◎:全く増粘しなかった。
○:少し増粘したが、問題のない程度であった。
△:やや増粘していた。
×:激しく増粘していた。
【0137】
-粉粒状呈味素材の分散の評価-
◎:粉粒状呈味素材が均質に分散していた。
○:ムラはあるが、粉粒状呈味素材の分散は問題のない程度であった。
△:ムラが目立ち、粉粒状呈味素材の分散はやや悪かった。
×:粉粒状呈味素材の分散は非常に悪かった。または、呈味素材含有油脂組成物がそぼろ状となり、粉粒状呈味素材が分散していなかった。
【0138】
【表3】
【0139】
評価1の結果、実施例1~7の呈味素材含有油脂組成物は、製造時に増粘せず、粉粒状呈味素材である食塩も均質に分散していた。食塩の含有量が高い実施例3の呈味素材含有油脂組成物においては、分散に少しムラが見られたが問題のない程度であった。また、水分が高い実施例5および実施例7の呈味素材含有油脂組成物においては、他の呈味素材含有油脂組成物と比較して、少し製造時に増粘が見られたが問題のない程度であった。
対して、実施例3よりもさらに粉粒状呈味素材である食塩の含有量が高い比較例3の呈味素材含有乳化油脂組成物は、そぼろ状になってしまった。
実施例6よりもさらに水分の含有量が高い比較例4の呈味素材含有油脂組成物は、粉粒状呈味素材である食塩と、焙焼小麦粉を混合したタイミングでやや増粘してしまい、また、食塩の分散も悪かった。
【0140】
[評価2]
次に、呈味素材含有油脂組成物の経日的な離水の評価を行った。
【0141】
そぼろ状となってしまった比較例3を除く、実施例1~7および比較例1~2、4の呈味素材含有油脂組成物を、縦3cm、横3cm、高さ3cmのブロック状に成形し、プラスチックのポリカップにいれて、25℃で30日間静置した。
静置後の呈味素材含有油脂組成物の離水の様子を目視で確認し、以下の評価基準に沿って評価し、○以上の評価であるものを合格とした。評価結果は、表4に示した。
【0142】
-経日的な離水の評価-
◎:全く離水が生じていなかった。
○:離水がわずかに生じ、呈味素材含有油脂組成物の表面に少し斑点模様が見られたが、問題のない程度であった。
△:離水がやや生じており、呈味素材含有油脂組成物の表面に斑点模様も多く見られた。
×:激しく離水が生じていた。
【0143】
【表4】
【0144】
評価2の結果、実施例1~7の呈味素材含有油脂組成物は、経日的な離水が発生しなかった。
対して、比較例1および比較例4の呈味素材含有油脂組成物は、30日後に離水が生じた。特に、水分が高い比較例4の呈味素材含有油脂組成物は、激しく離水していた。
【0145】
[評価3]
最後に、呈味素材含有油脂組成物および参考例を用いたベーカリー食品の評価を行った。
表5に記載の配合表に則り、コントロール、参考例の呈味素材含有油脂組成物、実施例1~2、6、および比較例2の呈味素材含有油脂組成物を用いて、ベーカリー食品である食パンを、以下の<食パンの製造方法>(中種法)によって製造した。
製造した食パンを熟練したパネラー10人が喫食し、以下の評価基準に沿って採点した。その合計点で評価し、○以上の評価のものを合格とした。評価結果は、表6に示した。
なお、評価基準については、評価前にパネラー間ですり合わせを行い、パネラー間で評価基準に差が生じないようにしている。
【0146】
【表5】
【0147】
<食パンの製造方法>
中種生地の原材料である、強力粉(カメリア:日清製粉株式会社製)、イースト、イーストフード、および水をミキサーボウルに投入し、フックを使用して、低速で2分間、中速で2分間ミキシングし、中種生地を得た。この時の捏ね上げ温度は24℃であった。得られた中種生地を、温度28℃、相対湿度85%の恒温室で、4時間中種発酵させた。
【0148】
中種発酵が終了した中種生地を、再びミキサーボウルに投入し、さらに、本捏生地の原材料である、強力粉、上白糖、脱脂粉乳、水、コントロールの食パンは食塩、コントロールの食パン以外は、参考例、あるいは各実施例および比較例の呈味素材含有油脂組成物のうち一つを添加し、フックを使用して、低速で3分間、中速で3分間ミキシングした。ここで、さらにマーガリン(EZマーガリン:株式会社ADEKA製:呈味素材を含有しない)を投入し、低速で3分間、中速で3分間、高速で1分間ミキシングし、食パン生地を得た。得られた食パン生地の捏ね上げ温度は28℃であった。
【0149】
ここで、フロアタイムを20分間とった後、230gに分割・丸めを行った。次いで、ベンチタイムを20分間とった後、モルダー成形し、6本をU字にして3斤型プルマン型に入れ、38℃、相対湿度85%で50分間ホイロをとり、200℃に設定したオーブンで40分間焼成し、プルマン型の食パンを得た。
【0150】
-食パンの評価基準-
3点:コントロールの食パンと比較して、非常に風味が良好で、食感もソフトなものであった。
2点:コントロールの食パンと比較して、やや風味が良好で、食感もソフトなものであった。
1点:コントロールの食パンと同程度の風味・食感であった。
0点:コントロールの食パンと比較して、風味あるいは食感が劣っていた。
【0151】
-食パンの評価の表示方法-
◎:合計点が24~30点であった。
○:合計点が17~23点であった。
△:合計点が10~16点であった。
×:合計点が9点以下であった。
【0152】
【表6】
【0153】
評価3の結果、実施例1、2の呈味素材含有油脂組成物を用いた食パンは、コントロールの食パンと比較して、風味が良好で、食感もソフトなものとなっていた。実施例1と実施例2とを比較すると、実施例1の食パンの方が、より風味が良好であった。
実施例6の呈味素材含有油脂組成物を用いた食パンは、特に風味が良好なものとなっており、食感もソフトで、最も評価が高かった。
対して、粉粒状呈味素材である食塩の含有量が低い、比較例2の呈味素材含有油脂組成物を用いた食パンは、風味も食感も、コントロールの食パンと同程度であり、本発明の呈味素材含有油脂組成物を用いた食パンと比較して劣るものであった。
また、参考例の呈味素材含有油脂組成物を用いた食パンは、コントロールの食パンと比較してわずかに風味は良好なものの、本発明の呈味素材含有油脂組成物を用いた食パンよりは劣り、また、食感はソフトなものとはならなかった。