(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140153
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】架橋性樹脂組成物、耐熱性架橋物、耐熱性架橋樹脂成形体及び耐熱性架橋樹脂成形品、並びに、シラン架橋性樹脂組成物及び耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 25/08 20060101AFI20241003BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20241003BHJP
C08K 5/3447 20060101ALI20241003BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20241003BHJP
C08L 101/10 20060101ALI20241003BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20241003BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241003BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20241003BHJP
C08J 3/22 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L25/08
C08K5/13
C08K5/3447
C08K5/14
C08L101/10
C08K3/013
C08L101/00
C08J3/24 A CES
C08J3/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051167
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】芦川 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】千葉 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】桜井 貴裕
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AA18
4F070AB08
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4F070GB06
4F070GC05
4J002AA003
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4J002AE043
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4J002BB023
4J002BB043
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4J002DJ049
4J002DK009
4J002EJ016
4J002EK008
4J002EU117
4J002EX008
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4J002FD019
4J002FD076
4J002FD077
4J002FD148
4J002GJ02
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】高度な耐熱性を発現しながらも端末加工性及び耐タック性に優れた耐熱性架橋物及び耐熱性架橋樹脂成形体を製造可能な架橋性樹脂組成物、この組成物を用いた、耐熱性架橋物、耐熱性架橋樹脂成形体及び耐熱性架橋樹脂成形品、更にシラン架橋性樹脂組成物及び耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びスチレン-酢酸ビニル共重合体から選択される少なくとも1種を含み、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン-酢酸ビニル共重合体を含まないベース樹脂と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤とを有する架橋性樹脂組成物、その耐熱性架橋物及び耐熱性架橋樹脂成形体、この耐熱性架橋樹脂成形体を含む耐熱性架橋樹脂成形品、並びに、シラン架橋性樹脂組成物及び耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びスチレン-酢酸ビニル共重合体から選択される少なくとも1種を含み、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン-酢酸ビニル共重合体を含まないベース樹脂と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤とを有する、架橋性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ベース樹脂100質量%のうち、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びスチレン-酢酸ビニル共重合体から選択される少なくとも1種の合計含有率が3~50質量%である、請求項1に記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ベース樹脂が前記スチレン-酢酸ビニル共重合体を含む、請求項1に記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ベース樹脂100質量部に対して有機過酸化物0.01~5質量部を含有する、請求項1に記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ベース樹脂100質量部に対して、該ベース樹脂にグラフト化結合したシランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒0.01~0.5質量部とを含有する、請求項1に記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項6】
前記ベース樹脂100質量部に対して、無機フィラー0.5~200質量部を含有する、請求項5に記載の架橋性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の架橋性樹脂組成物の耐熱性架橋物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の架橋性樹脂組成物の耐熱性架橋樹脂成形体。
【請求項9】
請求項8に記載の耐熱性架橋樹脂成形体を含む、耐熱性架橋樹脂成形品。
【請求項10】
前記架橋樹脂成形体を導体の被覆層として有する請求項9に記載の耐熱性架橋樹脂成形品。
【請求項11】
スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びスチレン-酢酸ビニル共重合体から選択される少なくとも1種を含み、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン-酢酸ビニル共重合体を含まないベース樹脂100質量部に対して、無機フィラー0.5~200質量部と、有機過酸化物0.01~0.5質量部と、前記ベース樹脂にグラフト化反応しうるグラフト化反応部位及びシラノール縮合可能な反応部位を有するシランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒0.01~0.5質量部と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤とを溶融混合して、シラン架橋性樹脂組成物を得る工程(1)を有する、シラン架橋性樹脂組成物の製造方法であって、
前記工程(1)を行うに当たって、下記工程(a)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には前記工程(1)が下記工程(a)及び工程(c)を有し、一方、下記工程(a)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には前記工程(1)が下記工程(a)、工程(b)及び工程(c)を有し、
下記工程(a)及び工程(b)の少なくとも一方で、前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤及び前記ベンゾイミダゾール系酸化防止剤を混合する、シラン架橋性樹脂組成物の製造方法。
工程(a):前記ベース樹脂の全部又は一部と、前記無機フィラーと、前記シランカ
ップリング剤と、前記有機過酸化物とを、前記有機過酸化物の分解温度
以上の温度において、溶融混合して、シランマスターバッチを調製する
工程
工程(b):前記ベース樹脂の残部と、前記シラノール縮合触媒とを溶融混合して、
触媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前記触媒マ
スターバッチとを溶融混合する工程
【請求項12】
下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有する、耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法であって、
工程(1):スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びスチレン-酢酸ビ
ニル共重合体から選択される少なくとも1種を含み、エチレン-(メタ
)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン-酢酸ビニル共重合体を含
まないベース樹脂100質量部に対して、無機フィラー0.5~200
質量部と、有機過酸化物0.01~0.5質量部と、前記ベース樹脂に
グラフト化反応しうるグラフト化反応部位及びシラノール縮合可能な反
応部位を有するシランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮
合触媒0.01~0.5質量部と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤
と、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤とを溶融混合して、シラン架橋性
樹脂組成物を得る工程
工程(2):前記工程(1)で得られたシラン架橋性樹脂組成物を成形して、成形体
を得る工程
工程(3):前記工程(2)で得られた成形体と水とを接触させて、耐熱性シラン架
橋樹脂成形体を得る工程
前記工程(1)を行うに当たって、下記工程(a)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には前記工程(1)が下記工程(a)及び工程(c)を有し、一方、下記工程(a)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には前記工程(1)が下記工程(a)、工程(b)及び工程(c)を有し、
下記工程(a)及び工程(b)の少なくとも一方で、前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤及び前記ベンゾイミダゾール系酸化防止剤を混合する、耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
工程(a):前記ベース樹脂の全部又は一部と、前記無機フィラーと、前記シランカ
ップリング剤と、前記有機過酸化物とを、前記有機過酸化物の分解温度
以上の温度において、溶融混合して、シランマスターバッチを調製する
工程
工程(b):前記ベース樹脂の残部と、前記シラノール縮合触媒とを溶融混合して、
触媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前記触媒マ
スターバッチとを溶融混合する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋性樹脂組成物、その耐熱性架橋物及び耐熱性架橋樹脂成形体、並びに、耐熱性架橋樹脂成形品に関する。また、本発明は、シラン架橋性樹脂組成物及び耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器分野や産業分野に使用される、絶縁電線、ケーブル、コード、光ファイバー心線又は光ファイバーコード(光ファイバーケーブル)等の配線材に設けられる被覆層(絶縁体、シース等)として、また、パッキン、シート等の各種成形品として、種々の樹脂成形品又はゴム成形品が使用されている。このような成形品には、用途や使用形態に応じて種々の特性、例えば、機械的強度や耐熱性が求められている。特に、配線材の被覆層等については、安全性や信頼性の観点から、耐熱性は重要な要求特性とされている。
ここで、樹脂成形品やゴム成形品においては、樹脂若しくはゴムを架橋させて架橋成形品とすることが耐熱性を高める代表的な技術として多用されている。このような樹脂又はゴムを架橋して形成した樹脂成形体として、例えば、特許文献1には、「スチレン-酢酸ビニル共重合体1~40重量部とエチレン-酢酸ビニル共重合体単独もしくは他の熱可塑性樹脂との混合物99~60重量部からなる樹脂成分100重量部に無機物粉末50~500重量部及び所望量の発泡剤、架橋剤を夫々添加した組成物を加熱して架橋発泡せしめることを特徴とする無機物高充填合成樹脂発泡体」が記載されている。また、特許文献2には、架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブルにおいて「架橋ポリエチレン絶縁体の外周に設けられる外部半導電層」として、「スチレン-酢酸ビニルブロック共重合体と酢酸ビニル含量10~60重量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体の混合物に導電性カーボンブラックを含有し、しかも上記混合物中におけるスチレンの含量が5~40重量%であると共に組成物中における導電性カーボンブラックの含量が30重量%以上である樹脂組成物により形成した」ものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58-168632号公報
【特許文献2】特開昭61-118909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂成形品等、特に耐熱用途に用いられる樹脂成形品、例えば配線材は、近年、適用装置等の高性能化等に伴って、使用条件や適用条件等によっては、使用中に一時的に200℃程度にまで加熱、昇温することがあり、従来に比して高度な耐熱性が求められる。例えば、175℃での使用に耐えうる(一時的に200℃程度まで上昇しうる)絶縁電線には、上記温度にも耐えうる被覆層(樹脂成形品)が求められる。
【0005】
ところで、特許文献2に記載された樹脂組成物で形成した外部半導電層は、架橋ポリエチレン絶縁体から剥離が極めて容易であるとされている。しかし、特許文献2に記載された樹脂組成物で形成した架橋被覆層を、ポリエチレン絶縁体の外周ではなく、例えば導体の外周に設けた絶縁電線では、絶縁電線の敷設や配線する際の端末加工(皮むき加工等ともいう。)において、架橋被覆層を導体等から皮むき(剥離)しにくく導体等の表面に架橋被覆層の切断カス(破断カス)が残存し、しかも架橋被覆層の切断作業では架橋被覆層の切断端面に絶縁被覆層の線状体ないし毛状体(ヒゲということがある。)が残存する(端末加工性に劣る)という問題が生じることを新たに見出した。このような切断カスやヒゲが残存すると、絶縁電線の敷設、配線後に接触不良を起こす。
また、特許文献1又は2に記載された樹脂成形体は、互いに接触した状態(例えば、樹脂成形体で形成した被覆層有する配線材をボビンに巻き取った状態)で経時すると、密着若しくは接着しやすく(タック性を発現して)、引き離す際に接着跡が残って接触表面の外観を損なう(耐タック性に劣る)という問題が生じることも見出した。
しかし、上述の高度な耐熱性、端末加工性及びタック性については、特許文献1及び2では何ら検討されていない。
【0006】
本発明は、高度な耐熱性を発現しながらも端末加工性及び耐タック性に優れた耐熱性架橋物及び耐熱性架橋樹脂成形体を製造可能な架橋性樹脂組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、上述の優れた特性を有する耐熱性架橋樹脂成形体を含む耐熱性架橋樹脂成形品を提供することを課題とする。
更に、本発明は、高度な耐熱性を発現しながらも端末加工性及び耐タック性に優れた耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法、及びこの耐熱性シラン架橋樹脂成形体を製造可能なシラン架橋性樹脂組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、架橋樹脂成形体において、耐熱性を更に高めながらも、端末加工性と耐タック性とを実現、改善できないという問題について、引き続き検討を進めたところ、樹脂組成物に含まれるベース樹脂、特にエチレン-酢酸ビニル共重合体と酸化防止剤とが、耐熱性、端末加工性及び耐タック性の優劣に影響することを突き止めた。この知見に基づいて更に検討を続けた結果、架橋樹脂成形体を形成するベース樹脂として、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン-酢酸ビニル共重合体を含ませずにスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びスチレン-酢酸ビニル共重合体から選択される少なくとも1種を含むベース樹脂を採用したうえで、このベース樹脂に対してヒンダードフェノール系酸化防止剤とベンゾイミダゾール系酸化防止剤とを併用することにより、耐熱性、端末加工性及び耐タック性を一挙に改善して、高度な耐熱性と端末加工性と耐タック性とを鼎立した耐熱性架橋物及び耐熱性架橋樹脂成形体を実現できることを見出した。本発明者らはこの知見に基づき更に検討を重ね、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
<1>スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びスチレン-酢酸ビニル共重合体から選択される少なくとも1種を含み、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン-酢酸ビニル共重合体を含まないベース樹脂と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤とを有する、架橋性樹脂組成物。
<2>前記ベース樹脂100質量%のうち、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びスチレン-酢酸ビニル共重合体から選択される少なくとも1種の合計含有率が3~50質量%である、<1>に記載の架橋性樹脂組成物。
<3>前記ベース樹脂が前記スチレン-酢酸ビニル共重合体を含む、<1>又は<2>に記載の架橋性樹脂組成物。
<4>前記ベース樹脂100質量部に対して有機過酸化物0.01~5質量部を含有する、<1>~<3>のいずれか1項に記載の架橋性樹脂組成物。
<5>前記ベース樹脂100質量部に対して、このベース樹脂にグラフト化結合したシランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒0.01~0.5質量部とを含有する、<1>~<3>のいずれか1項に記載の架橋性樹脂組成物。
<6>前記ベース樹脂100質量部に対して、無機フィラー0.5~200質量部を含有する、<5>に記載の架橋性樹脂組成物。
<7>上記<1>~<6>のいずれか1項に記載の架橋性樹脂組成物の耐熱性架橋物。
<8>上記<1>~<6>のいずれか1項に記載の架橋性樹脂組成物の耐熱性架橋樹脂成形体。
<9>上記<7>に記載の耐熱性架橋物又は<8>に記載の耐熱性架橋樹脂成形体を含む、耐熱性架橋樹脂成形品。
<10>前記架橋樹脂成形体を導体の被覆層として有する<9>に記載の耐熱性架橋樹脂成形品。
【0009】
<11>スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びスチレン-酢酸ビニル共重合体から選択される少なくとも1種を含み、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン-酢酸ビニル共重合体を含まないベース樹脂100質量部に対して、無機フィラー0.5~200質量部と、有機過酸化物0.01~0.5質量部と、前記ベース樹脂にグラフト化反応しうるグラフト化反応部位及びシラノール縮合可能な反応部位を有するシランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒0.01~0.5質量部と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤とを溶融混合して、シラン架橋性樹脂組成物を得る工程(1)を有する、シラン架橋性樹脂組成物の製造方法であって、
前記工程(1)を行うに当たって、下記工程(a)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には前記工程(1)が下記工程(a)及び工程(c)を有し、一方、下記工程(a)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には前記工程(1)が下記工程(a)、工程(b)及び工程(c)を有し、
下記工程(a)及び工程(b)の少なくとも一方で、前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤及び前記ベンゾイミダゾール系酸化防止剤を混合する、シラン架橋性樹脂組成物の製造方法。
工程(a):前記ベース樹脂の全部又は一部と、前記無機フィラーと、前記シランカ
ップリング剤と、前記有機過酸化物とを、前記有機過酸化物の分解温度
以上の温度において、溶融混合して、シランマスターバッチを調製する
工程
工程(b):前記ベース樹脂の残部と、前記シラノール縮合触媒とを溶融混合して、
触媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前記触媒マ
スターバッチとを溶融混合する工程
<12>下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有する、耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法であって、
工程(1):スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びスチレン-酢酸ビ
ニル共重合体から選択される少なくとも1種を含み、エチレン-(メタ
)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン-酢酸ビニル共重合体を含
まないベース樹脂100質量部に対して、無機フィラー0.5~200
質量部と、有機過酸化物0.01~0.5質量部と、前記ベース樹脂に
グラフト化反応しうるグラフト化反応部位及びシラノール縮合可能な反
応部位を有するシランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮
合触媒0.01~0.5質量部と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤
と、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤とを溶融混合して、シラン架橋性
樹脂組成物を得る工程
工程(2):前記工程(1)で得られたシラン架橋性樹脂組成物を成形して、成形体
を得る工程
工程(3):前記工程(2)で得られた成形体と水とを接触させて、耐熱性シラン架
橋樹脂成形体を得る工程
前記工程(1)を行うに当たって、下記工程(a)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には前記工程(1)が下記工程(a)及び工程(c)を有し、一方、下記工程(a)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には前記工程(1)が下記工程(a)、工程(b)及び工程(c)を有し、
下記工程(a)及び工程(b)の少なくとも一方で、前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤及び前記ベンゾイミダゾール系酸化防止剤を混合する、耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
工程(a):前記ベース樹脂の全部又は一部と、前記無機フィラーと、前記シランカ
ップリング剤と、前記有機過酸化物とを、前記有機過酸化物の分解温度
以上の温度において、溶融混合して、シランマスターバッチを調製する
工程
工程(b):前記ベース樹脂の残部と、前記シラノール縮合触媒とを溶融混合して、
触媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前記触媒マ
スターバッチとを溶融混合する工程
【発明の効果】
【0010】
本発明は、高度な耐熱性を発現しながらも端末加工性及び耐タック性に優れた耐熱性架橋物及び耐熱性架橋樹脂成形体を製造可能な架橋性樹脂組成物を提供できる。また、本発明は、上述の優れた特性を有する耐熱性架橋樹脂成形体を含む耐熱性架橋樹脂成形品を提供できる。
更に、本発明は、高度な耐熱性を発現しながらも端末加工性及び耐タック性に優れた耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法、及びこの耐熱性シラン架橋樹脂成形体を製造可能なシラン架橋性樹脂組成物の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、成分の含有量、物性等について、数値範囲を示して説明する場合において、数値範囲の上限値及び下限値を別々に説明するときは、いずれかの上限値及び下限値を適宜に組み合わせて、特定の数値範囲とすることができる。一方、「~」を用いて表される数値範囲を複数設定して説明するときは、数値範囲を形成する上限値及び下限値は、特定の数値範囲として「~」の前後に記載された特定の組み合わせに限定されず、各数値範囲の上限値と下限値とを適宜に組み合わせた数値範囲とすることができる。なお、本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本発明において、「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタアクリルのいずれか一方又は両方を表す。例えば、「(メタ)アクリル酸エステル」というときは、アクリル酸エステル及びメタアクリル酸エステルのいずれか一方又は両方を表す。
【0012】
[[架橋性樹脂組成物]]
本発明の架橋性樹脂組成物は、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びスチレン-酢酸ビニル共重合体から選択される少なくとも1種を含み、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン-酢酸ビニル共重合体を含まないベース樹脂と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤とを有している。
この架橋性樹脂組成物は、後述する架橋反応処理により、少なくともベース樹脂が架橋しうる組成物であればよく、適用する架橋法に応じて、上記成分に加えて、架橋法に必須の成分又は好適な成分を更に含有していることが好ましい。
【0013】
本発明の架橋性樹脂組成物は、適宜の架橋法で架橋されることによって、高度な耐熱性を発現しながらも端末加工性及び耐タック性に優れた耐熱性架橋物及び耐熱性架橋樹脂成形体を実現できる。そのため、高度な耐熱性、優れた端末加工性及び優れた耐タック性を鼎立する耐熱性樹脂成形品を製造できる。例えば、被覆層を形成する材料として本発明の架橋性樹脂組成物を用いて上記耐熱性架橋物の管状成形体又は耐熱性架橋樹脂成形体を被覆層として形成することにより、高度な耐熱性と優れた端末加工性及び耐タック性とを兼ね備えた配線材を製造できる。
このように、本発明の架橋性樹脂組成物は、耐熱性架橋物及び耐熱性架橋樹脂成形体、特に配線材の被覆層を形成する材料として好適であり、例えば、自動車用絶縁電線、特に、UL規格におけるUL175℃用の耐熱老化性試験に合格し、175℃での使用に耐える高度な耐熱性が要求される絶縁電線(被覆層の温度が一時的に200℃程度まで上昇しうる絶縁電線)の被覆層を形成する材料として好適である。
【0014】
本発明の架橋性樹脂組成物は、後述する電子線架橋法、有機過酸化物架橋法、シラン架橋法等の公知の樹脂架橋法によって、架橋を予定されている組成物である。本発明において、電子線架橋法、有機過酸化物架橋法、又はシラン架橋法に好適に適用可能な架橋性樹脂組成物を、それぞれ、電子線架橋性樹脂組成物、過酸化物架橋性樹脂組成物、又はシラン架橋性樹脂組成物ということがある。
【0015】
電子線架橋性樹脂組成物は、上記ベース樹脂、ヒンダードフェノール系酸化防止剤及びベンゾイミダゾール系酸化防止剤に加えて、架橋助剤及び/又は有機過酸化物を含有することが好ましい。
過酸化物架橋性樹脂組成物は、上記ベース樹脂、ヒンダードフェノール系酸化防止剤及びベンゾイミダゾール系酸化防止剤に加えて、有機過酸化物を含有することが好ましく、更に架橋助剤を含有することがより好ましい。一方、過酸化物架橋性樹脂組成物は、通常、シラノール縮合触媒を含有してなく、更にシランカップリング剤も含有していない。シラノール縮合触媒を含有していないとは、例えば、ベース樹脂100質量部に対して0.001質量部以下で含有する態様を包含する。また、過酸化物架橋性樹脂組成物に含有させないシランカップリング剤は、ベース樹脂とグラフト化反応させてシラン架橋構造を形成するためのシランカップリング剤をいい、例えば、無機フィラー等の表面処理剤として用いるシランカップリング剤を包含しない。シランカップリング剤を含有していないとは、シラン架橋構造を形成するためのシランカップリング剤を、例えば、ベース樹脂100質量部に対して0.5質量部以下で含有する態様を包含する。
【0016】
シラン架橋性樹脂組成物は、上記ベース樹脂、ヒンダードフェノール系酸化防止剤及びベンゾイミダゾール系酸化防止剤に加えて、ベース樹脂にグラフト化結合したシランカップリング剤及びシラノール縮合触媒を含有することが好ましく、更に無機フィラーを含有することがより好ましい。すなわち、本発明のシラン架橋性樹脂組成物は、無機フィラーを含有しない形態と、無機フィラーを含有する形態(好ましい形態のシラン架橋性樹脂組成物ということがある。)との2形態を包含する。本発明において、無機フィラーを含有しないとは、無機フィラーを不可避的に含有されることを除外するものではなく、例えば、ベース樹脂100質量部に対して無機フィラーを0.5質量部未満の割合であれば含有していてもよい。
【0017】
シランカップリング剤がグラフト化結合したベース樹脂(シラン架橋性樹脂、シラングラフト樹脂ともいう。)は、後述するシランカップリング剤とベース樹脂とから形成され、シランカップリング剤とベース樹脂とがグラフト化反応してなる樹脂である。このシラン架橋性樹脂において、シランカップリング剤のグラフト化反応量(グラフト化結合量)は、特に限定されない。通常、後述する工程(1)に示す配合量でシランカップリング剤とベース樹脂とを反応させて得られるグラフト化反応量であればよい。
シラン架橋性樹脂は、適宜に合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。シラン架橋性樹脂は、ベース樹脂とシランカップリング剤とを有機過酸化物の分解温度以上の温度で反応させることにより、得られる。具体的な反応条件としては、特に制限されないが、有機過酸化物の含有量を後述する範囲に設定したうえで後述する工程(1)又は工程(a)の溶融混合条件が好適に挙げられる。シラン架橋性樹脂の市販品としてはリンクロン(商品名、三菱化学社製)等が挙げられる。
なお、シラン架橋性樹脂組成物において、シランカップリング剤は、少なくとも一部がベース樹脂にグラフト化結合していればよく、グラフト化結合していないシランカップリング剤が含まれていてもよい。また、無機フィラーを含有する好ましい形態のシラン架橋性樹脂組成物において、シランカップリング剤は、無機フィラーと結合していてもよい。すなわち、この形態のシラン架橋性樹脂組成物は、無機フィラーと結合若しくは解離したシランカップリング剤とベース樹脂とがグラフト化結合(グラフト化反応)したシラン架橋性樹脂を、無機フィラーとともに、含有している。
本発明のシラン架橋性樹脂組成物は、後述する本発明のシラン架橋性樹脂組成物の製造方法以外にも、上記各成分を適宜に混合して調製することができる。
【0018】
上記各架橋性樹脂組成物における各成分の含有量については、後述する。
【0019】
[[耐熱性架橋物及び耐熱性架橋樹脂成形体]]
本発明の耐熱性架橋物は、本発明の架橋性樹脂組成物を架橋反応処理して得られる架橋物であり、耐熱性、端末加工性及び耐タック性をバランスよく発現する。この耐熱性架橋物は、形状のない(成形されていない)バルク状態であってもよく、成形した状態(成形体)であってもよい。本発明において、架橋物というときは、通常、バルク状態の架橋物と成形状態の架橋物とを含む意味で用いるが、特に成形状態の架橋物をバルク状態の架橋物と区別するときは耐熱性架橋樹脂成形体という。
本発明の架橋性樹脂組成物を架橋反応させる方法(架橋法)は、特に制限されず、公知の樹脂架橋法、例えばポリオレフィン等の架橋反応を適用できる。例えば、電子線架橋法、有機過酸化物架橋法、シラン架橋法が挙げられ、耐熱性、端末加工性及び耐タック性を高い水準でバランスよく兼備する架橋物を、特殊な設備を要せずに高い生産性で製造できる点で、シラン架橋法が好ましい。
本発明において、電子線架橋法とは、架橋性重合体組成物に電子線を照射して樹脂、エラストマー等の重合体を架橋させる方法をいう。一方、有機過酸化物架橋法とは、化学架橋法の1つであり、架橋触媒として有機過酸化物を含有する架橋性重合体組成物を有機過酸化物の分解温度以上の温度に加熱して有機過酸化物から生じるラジカルによって重合体同士を直接架橋反応させる方法をいう。また、有機過酸化物架橋法とは別の化学架橋法であるシラン架橋法とは、架橋剤としてのシランカップリング剤がグラフト化反応したシラン架橋性重合体、及びシラノール縮合触媒を含有する架橋性重合体組成物と、水分とを接触させることにより、シランカップリング剤をシラノール縮合反応させてシランカップリング剤を介して重合体を架橋させる方法をいう。このシラン架橋法に用いるシラン架橋性重合体組成物は無機フィラーを含有していることがより好ましい。
【0020】
本発明の耐熱性架橋物は、少なくともベース樹脂(を構成する(共)重合体等)が直接又は架橋剤若しくは架橋助剤等を介して架橋した架橋構造を有しており、高度な耐熱性と優れた端末加工性及び耐タック性を鼎立する。架橋構造は、架橋反応(架橋法)の種類によって異なり、明確かつ一概に規定できるものではない。
本発明において、耐熱性架橋物(耐熱性架橋樹脂成形体)について、電子線架橋法による架橋物を電子線架橋物(耐熱性電子線架橋樹脂成形体)、有機過酸化物架橋法による架橋物を過酸化物架橋物(耐熱性過酸化物架橋樹脂成形体)、シラン架橋法による架橋物をシラン架橋物(耐熱性シラン架橋樹脂成形体)という。
【0021】
電子線架橋物は、ベース樹脂が直接架橋した架橋構造を有している。
過酸化物架橋物は、ベース樹脂が、直接架橋した架橋構造、好ましくは架橋助剤等を介して架橋した架橋構造を有している。
シラン架橋物は、ベース樹脂が、シランカップリング剤又はそのシラノール縮合物を介した架橋構造を有しており、耐熱性、端末加工性及び耐タック性をバランスよく発現する。シラン架橋物は、上記架橋構造の一部に無機フィラーが組み込まれていることが好ましい。このような架橋構造を有するシラン架橋物は、後述するように、ベース樹脂同士の(無機フィラーを介さない)架橋構造と無機フィラーを巻き込んだ架橋構造とをバランスよく構築して、耐熱性、端末加工性及び耐タック性を高い水準でバランスよく発現する。
【0022】
本発明の耐熱性架橋樹脂成形体は、本発明の架橋性樹脂組成物を所定の形状及び寸法に成形した後に架橋反応処理して得られる架橋樹脂成形体である。特にシラン架橋樹脂成形体は、本発明のシラン架橋性樹脂組成物を成形した後にシラン架橋(シラノール縮合反応)させて得られる架橋樹脂成形体(シラン架橋性樹脂組成物のシラノール縮合物からなる成形体)である。
本発明の架橋樹脂成形体は、用途等に応じて、適宜の形状及び寸法に成形されている。
【0023】
上記各耐熱性架橋物における各成分の含有量については、後述する。
【0024】
以下に、本発明に用いる各成分について説明する。
各成分は、それぞれ、1種又は2種以上を用いることができる。
なお、本発明及び本明細書において、単に、樹脂というときは、シランカップリング剤がグラフト化反応していない樹脂を意味する。
【0025】
[ベース樹脂]
本発明のシラン架橋性組成物は、そのベースとなる樹脂として、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びスチレン-酢酸ビニル共重合体から選択される少なくとも1種のスチレン共重合体を含み、任意成分としてスチレン共重合体以外の重合体を含んでいてもよい。ただし、ベース樹脂は、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン-酢酸ビニル共重合体を含んでいない。本発明において、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン-酢酸ビニル共重合体を含んでいないとは、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン-酢酸ビニル共重合体を積極的に含有又は混合しないことを意味し、本発明の作用効果を損なわない範囲であれば不可避的に含有又は混合されることを除外するものではない。本発明の作用効果を損なわない範囲としては、例えば、ベース樹脂100質量中における、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン-酢酸ビニル共重合体の合計含有率が0.5質量%以下の範囲が挙げられる。
【0026】
ベース樹脂(重合体)は架橋可能な部位を有している。特に架橋法としてシラン架橋法を採用する場合、ベース樹脂は、有機過酸化物から発生するラジカルによって、後述するシランカップリング剤のグラフト化反応部位とグラフト化反応可能な部位を主鎖中又はその末端に有するものが好ましい。架橋可能な部位及びグラフト化反応可能な部位としては、例えば、炭素鎖の不飽和結合部位や、水素原子を有する炭素原子が挙げられる。なお、シラン架橋性樹脂組成物は、上述のようにシラン架橋性樹脂を含んでいる。
本発明において、重合体は、単独重合体及び共重合体を包含し、特に断らない限り、樹脂を意味するが、エラストマー及びゴムをも包含する。
なお、本発明において、ベース樹脂がエラストマー(ゴムを含む)を含有する場合においても、便宜上、樹脂組成物、樹脂成形体等と称するが、本発明の技術的範囲からエラストマー組成物及びエラストマー成形体を排斥するものではない。
【0027】
<スチレン共重合体>
本発明においては、スチレン共重合体として、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びスチレン-酢酸ビニル共重合体の1種以上を用いる。耐熱性、端末加工性及び耐タック性を高い水準でバランスよく鼎立できる点で、ベース樹脂は、スチレン-酢酸ビニル共重合体を含んでいることが好ましい。
スチレン共重合体は、スチレン化合物と(メタ)アクリル酸エステル化合物及び/又は酢酸ビニル化合物との共重合体であればよく、スチレンブロックと、(メタ)アクリル酸エステルブロック又は酢酸ビニルブロックとを有するブロック共重合体(スチレンブロック共重合体ともいう。)であることが好ましい。なお、(メタ)アクリル酸エステルブロックは酢酸ビニルを含んでいてもよく、酢酸ビニルブロックは(メタ)アクリル酸エステルを含んでいてもよい。
スチレンブロック共重合体としては、特に制限されず、AB型ブロック共重合体、ABA型ブロック共重合体、BAB型ブロック共重合体等が挙げられるが、AB型ブロック共重合体が好ましい。なお、スチレンブロック共重合体は、Aブロック及びBブロックのいずれにも相当しないCブロックを有していてもよい。ここで、Aはスチレンブロックを示し、Bは(メタ)アクリル酸エステルブロック又は酢酸ビニルブロックを示す。
【0028】
スチレン共重合体を形成するスチレン化合物としては、スチレン及びスチレン誘導体が挙げられ、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-ブチルスチレン、イソプロペニルトルエン等が挙げられる。なかでも、スチレンが好ましい。スチレン共重合体に含まれるスチレン化合物は1種でも2種以上でもよい。
スチレン共重合体を形成する(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、特に制限されないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基としては、炭素数1~12のアルキル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸メチル、メタリル酸エチル、メタリル酸プロピルが好ましい。(メタ)アクリル酸アリールエステルのアリール基としては、炭素数6~10のアリール基が好ましい。スチレン共重合体に含まれる(メタ)アクリル酸エステル化合物は1種でも2種以上でもよい。
スチレン共重合体を形成する酢酸ビニル化合物としては、酢酸ビニル及び酢酸ビニル誘導体が挙げられるが、通常、酢酸ビニルが用いられる。スチレン共重合体に含まれる酢酸ビニル化合物は1種でも2種以上でもよい。
スチレン共重合体は、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル及び酢酸ビニルのいずれにも相当しないその他の成分を含んでいてもよい。
【0029】
スチレン共重合体は、未変性共重合体であってもよく、変性共重合体であってもよい。変性共重合体としては、酸変性共重合体等が挙げられる。変性共重合体において変性される成分は、スチレン化合物に由来する構成成分、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構成成分及び酢酸ビニル化合物に由来する構成成分のいずれでもよい。
【0030】
スチレン共重合体中におけるスチレン化合物に由来する構成成分(スチレン成分ともいう。)の含有量は、特に制限されず、例えば、50~97質量%とすることができ、70~90質量%であることが好ましく、80~90質量%であることがより好ましい。スチレン成分の含有量の測定方法は、例えばNMR等の適宜の方法で測定でき、市販品を使用する場合、カタログ値とすることができる。スチレン共重合体中における(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構成成分の含有量及び酢酸ビニル化合物に由来する構成成分の含有量は、上記スチレン成分の含有量を考慮して適宜に決定される。
スチレン共重合体の重量平均分子量は、特に制限されず、用途等に応じて適宜に設定できる。
スチレン共重合体の粘度(25℃)は、特に制限されず、例えば、0.5~5.0Pa・sとすることができ、1.5~4.0Pa・sであることが好ましい。ここでスチレン共重合体の粘度とは、スチレン共重合体を30%スチレン溶液に溶解させた際の溶液の粘度を指す。粘度の測定方法はJIS Z 8803(2011)に基づいて測定することが出来る。
【0031】
ベース樹脂は、スチレン共重合体を1種又は2種以上を含んでいてもよい。
スチレン共重合体は、適宜に合成してもよく、市販の共重合体を用いてもよい。市販されているスチレン共重合体としては、例えば、モディパー(登録商標)S、モディパー(登録商標)Mシリーズ(いずれも、日油社製)等を挙げることができる。
【0032】
<エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体>
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、エチレン化合物と(メタ)アクリル酸エステル化合物との共重合体であり、ブロック共重合体、ランダム共重合、交互共重合体等を含む。エチレン化合物としては、特に制限されないが、通常、エチレンが用いられる。(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、特に制限されず、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルのアルキル基としては、炭素数1~12のものが好ましい。エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、例えば、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-アクリル酸ブチル共重合体(EBA)の各樹脂が挙げられる。
【0033】
<エチレン-酢酸ビニル共重合体>
エチレン-酢酸ビニル共重合体は、エチレン化合物と酢酸ビニル化合物との共重合体であり、ブロック共重合体、ランダム共重合、交互共重合体等を含む。エチレン-酢酸ビニル共重合体としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)が挙げられる。
【0034】
<スチレン共重合体以外の重合体>
ベース樹脂に含まれる、スチレン共重合体以外の重合体としては、特に制限されず、架橋性樹脂組成物又は架橋性エラストマー組成物に通常用いられる重合体(樹脂又はエラストマー)を特に制限されることなく用いることができる。例えば、ポリオレフィン樹脂、酸変性樹脂、エチレンゴム、スチレン系エラストマー、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレン、オイル等が挙げられる。
なかでも、ポリオレフィン、スチレン系エラストマー及び/又はオイルをスチレン共重合体と併用することが、耐熱性、端末加工性及び耐タック性の点で、好ましい。
【0035】
(ポリオレフィン樹脂)
ポリオレフィン樹脂としては、エチレン性不飽和結合を有する化合物(オレフィン化合物)を重合又は共重合して得られる重合体からなる樹脂であれば特に限定されるものではなく、従来の樹脂組成物に使用されている公知のものを使用することができる。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-α-オレフィン共重合体、酸共重合成分を有する共重合体等の各樹脂が挙げられる。
【0036】
- ポリエチレン樹脂 -
ポリエチレン樹脂(PE)としては、エチレン成分を主成分とする重合体からなる樹脂であれば特に限定されず、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)の各樹脂が挙げられる。中でも、直鎖型低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンの各樹脂が好ましい。
【0037】
- ポリプロピレン樹脂 -
ポリプロピレン樹脂(PP)としては、プロピレン成分を主成分とする重合体からなる樹脂であれば特に限定されず、例えば、プロピレンの単独重合体のほか、ランダムポリプロピレン及びブロックポリプロピレンの各樹脂が挙げられる。
【0038】
- エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂 -
エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂としては、好ましくは、エチレンと炭素数3~12のα-オレフィン(スチレン化合物を除く。)との共重合体(ただし、上述のポリエチレン及びポリプロピレンに含まれるものを除く。)からなる樹脂が挙げられる。例えば、エチレン-プロピレン共重合体樹脂(ただし、ポリプロピレンに含まれるものを除く、)、エチレン-ブチレン共重合体樹脂、及びシングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン-α-オレフィン共重合体樹脂等が挙げられる。
【0039】
- 酸共重合成分を有する共重合体樹脂 -
酸共重合成分を有する共重合体樹脂における酸共重合成分を導く化合物としては、特に限定されず、(メタ)アクリル酸等のカルボン酸化合物等が挙げられる。酸共重合成分を有する共重合体樹脂としては、特に制限されないが、例えば、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体からなる樹脂が挙げられる。
【0040】
(酸変性共重合体樹脂)
酸変性共重合体樹脂は、上記共重合体又は各樹脂を、不飽和カルボン酸化合物(単に不飽和カルボン酸ともいう。)又はその無水物により変性した(共)重合体の樹脂が挙げられる。酸変性ポリオレフィン樹脂における不飽和カルボン酸による変性量は、特に限定されないが、(変性前の)樹脂に対して、0.1~2.0質量%が好ましく、0.2~1.0質量%がより好ましい。
上記不飽和カルボン酸(無水物を含む。)としては、特に制限されず、上記共重合体等と反応(例えばラジカル付加反応)しうる不飽和結合を有するカルボン酸が好適に挙げられる。この不飽和カルボン酸は、カルボキシ基を1つ有するものでも2つ以上有するものでもよい。好ましい不飽和カルボン酸としては、具体的には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、及びフマル酸、及びこれらの金属塩若しくは有機塩、更には、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フマル酸等の不飽和カルボン酸無水物等が挙げられる。上記共重合体を変性する不飽和カルボン酸は1種でも2種以上でもよい。不飽和カルボン酸としては無水マレイン酸若しくはアクリル酸が好ましい。
【0041】
(エチレンゴム)
エチレンゴムとしては、エチレン性不飽和結合を有する化合物を共重合して得られる共重合体からなるゴム(エラストマーを含む。)であれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。エチレンゴムとしては、好ましくは、エチレンとα-オレフィンとの二元共重合体ゴム、エチレンとα-オレフィンとジエンとの三元共重合体ゴム等が挙げられる。三元共重合体を構成するジエン化合物は、共役ジエン化合物であっても非共役ジエン化合物であってもよいが、非共役ジエン化合物が好ましい。
α-オレフィンとしては、炭素数3~12の各α-オレフィンが好ましい。共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等の各化合物が挙げられ、ブタジエン化合物等が好ましい。非共役ジエン化合物の具体例としては、例えば、ジシクロペンタジエン(DCPD)、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4-ヘキサジエン等の各化合物が挙げられる。
二元共重合体ゴムとしては、エチレン-プロピレンゴム(EPM)が好ましく、三元共重合体ゴムとしては、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が好ましい。
【0042】
(スチレン系エラストマー)
スチレン系エラストマーは、分子内に芳香族ビニル化合物に由来する構成成分を有する重合体からなるエラストマーをいう。このようなスチレン系エラストマーとしては、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのブロック共重合体及びランダム共重合体、又は、それらの水素添加物等が挙げられる。具体的には、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、水素化SIS、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、水素化SBS、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、水素化スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)、水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム(HNBR)等が挙げられる。
【0043】
(アクリルゴム)
アクリルゴム(エチレン-アクリルゴムともいう。)としては、構成成分として、少なくともエチレンとアクリル酸アルキルエステルとを共重合して得られるゴムが挙げられる。アクリル酸アルキルエステルとしては、特に制限されず、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等が挙げられる。
アクリルゴムとしては、エチレンとアクリル酸アルキルエステルとの二元共重合体、これにさらにカルボキシ基を含有する共重合成分を共重合させた三元共重合体等の各共重合体ゴムを好適に使用することができる。カルボキシ基を含有する共重合成分としては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等が挙げられる。
【0044】
(フッ素ゴム)
フッ素ゴムとしては、特に限定されるものではなく、従来、各種ゴム成形体に使用されている通常のものを使用することができる。フッ素ゴムとしては、主鎖又は側鎖にフッ素原子を含有する、単独重合体若しくは共重合体のゴムが挙げられる。フッ素ゴムは、通常、フッ素原子を含有する単量体(モノマー)を(共)重合することにより、得られる。
このようなフッ素ゴムとしては、特に限定されるものではないが、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレン等のパーフルオロ炭化水素、及び、フッ化ビニリデン等の部分フッ素炭化水素等の含フッ素モノマー同士の共重合体ゴム、更にはこれらの含フッ素モノマーとエチレン及び/又はプロピレン等の炭化水素(オレフィン化合物)の共重合体ゴムが挙げられる。具体的には、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体ゴム(FEPM)、テトラフルオロエチレン-フッ化(例えばヘキサフルオロ)プロピレン共重合体ゴム、テトラフルオロエチレン-パーフルオロビニルエーテル共重合体ゴム(FFKM)、フッ化ビニリデンゴム(FKM、例えば、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体ゴム)等が挙げられる。これらのフッ素ゴムの中でも、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体ゴム、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体ゴムが好ましく、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体ゴムがより好ましい。
【0045】
(シリコーンゴム)
シリコーンゴムは、ポリシロキサン構造を有する重合体(オルガノポリシロキサン)からなるゴムであればよく、ゴム組成物等に通常用いられるものを特に制限されることなく用いることができる。シリコーンゴムとしては、メチルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルビニルポリシロキサン、フェニルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等の各種シリコーンゴムが挙げられる。シリコーンゴムは、液状シリコーンゴム、ミラブル型シリコーンゴム等のいずであってもよい。
【0046】
(塩素化ポリエチレン)
塩素化ポリエチレンとしては、ポリエチレン主鎖に結合する水素原子が塩素原子で置換されているポリエチレンであれば特に限定されず、例えば、エチレン(共)重合体を塩素化して得られるもの等が挙げられる。塩素化ポリエチレンの重量平均分子量は、特に制限されず、特性や用途等に応じて適宜に設定できる。
塩素化ポリエチレンは、非結晶性、半結晶性及び結晶性のいずれでもよいが、非結晶性であることが好ましい。本発明においては、示差走査熱量計にて測定される融解熱量が5J/g未満のものを非結晶性とする。塩素化ポリエチレンの塩素含有量は、特に制限されず適宜に設定され、例えば、20質量%以上とすることができ、30%以上38%未満であることが好ましい。
【0047】
(オイル)
ベース樹脂が含有してもよいオイルとしては、ポリオレフィン樹脂等に用いられる可塑剤又はゴムの鉱物油軟化剤としてのオイルが挙げられる。このようなオイルとしては、特に限定されないが、有機油又は鉱物油が挙げられ、例えば、大豆油、パラフィンオイル、ナフテンオイル、アロマオイルが挙げられ、パラフィンオイル又はナフテンオイルが好ましく、パラフィンオイルがより好ましい。
【0048】
(ベース樹脂の組成)
ベース樹脂は、上記スチレン共重合体、スチレン共重合体以外の重合体を合計で100質量%となる含有率で含有していればよく、目的とする耐熱性架橋物等の物性、用途等に応じて、適宜に設定される。
ベース樹脂100質量%中における、スチレン共重合体の合計含有率は、特に制限されず、例えば、1~70質量%とすることができ、優れた端末加工性及び耐タック性を維持しながら耐熱性を更に高めることができる点で、3~50質量%であることが好ましく、5~40質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることが更に好ましい。ベース樹脂100質量%中における、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体の含有率、及びスチレン-酢酸ビニル共重合体の含有率は、ぞれぞれ、特に制限されず、スチレン共重合体の上記合計含有率等を考慮して適宜に決定され、例えば、上記合計含有量の範囲とすることができる。
【0049】
ベース樹脂は、上述のように、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン-酢酸ビニル共重合体を含んでいない。
【0050】
ベース樹脂100質量%中における、ポリオレフィン樹脂の総含有率は、特に制限されず、スチレン共重合体の上記合計含有率等を考慮して適宜に決定される。例えば、耐熱性、端末加工性及び耐タック性をバランスよく鼎立できる点で、0~80質量%であることが好ましく、10~60質量%であることがより好ましく、20~50質量%であることが更に好ましい。ベース樹脂100質量%中における、ポリエチレン樹脂の含有率は、特に制限されず、ポリオレフィン樹脂の上記総含有率等を考慮して適宜に決定され、例えば、耐熱性、端末加工性及び耐タック性をバランスよく鼎立できる点で、0~80質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましく、20~40質量%であることが更に好ましい。また、ベース樹脂100質量%中における、ポリプロピレン樹脂、エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂の含有率は、それぞれ、ポリオレフィン樹脂の上記総含有率等を考慮して適宜に設定され、例えば、0~30質量%とすることができる。
本発明において、ベース樹脂は、酸共重合成分を有する共重合体樹脂を含んでいてもよいが、特に端末加工性及び耐タック性の点で含んでいないことが好ましい。本発明において、酸共重合成分を有する共重合体樹脂を含んでいないとは、当該成分を含有しない態様と、本発明の作用効果を損なわない範囲であれば当該成分を含有していてもよい態様とを包含する。本発明の作用効果を損なわない範囲は、耐熱性架橋物等の組成等によって一義的ではないが、例えば、ベース樹脂100質量%中において、0.5質量%以下の範囲が挙げられる。
【0051】
ベース樹脂100質量%中における、スチレン系エラストマーの含有率は、スチレン共重合体の上記合計含有率等を考慮して適宜に決定される。例えば、0~60質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましい。ベース樹脂100質量%中における、オイルの含有率は、スチレン共重合体の上記合計含有率等を考慮して適宜に決定される。例えば、0~40質量%であることが好ましく、5~30質量%であることがより好ましい。
【0052】
ベース樹脂100質量%中における、酸変性樹脂、エチレンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンの含有率は、それぞれ、スチレン共重合体の上記合計含有率等を考慮して適宜に設定され、例えば、0~30質量%とすることができる。
【0053】
<酸化防止剤>
酸化防止剤(老化防止剤ともいう。)としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とベンゾイミダゾール系酸化防止剤とを併用する。両者を併用することによって、優れた端末加工性及び耐タックを低下させることなく、耐熱性を更に高めることができる。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール構造を有する酸化防止剤であれば特に限定されない。例えば、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート](商品名:イルガノックス1010、BASF社製)、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル(商品名:イルガノックス1076、BASF社製)等が挙げられる。
ベンゾイミダゾール系酸化防止剤としては、特に限定されず、ベンゾイミダゾール化合物、その金属塩が挙げられ、例えば、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾールの亜鉛塩(商品名:ノクラックMBZ、大内新興化学工業社製)、2-メチルメルカプトベンゾイミダゾール又はその亜鉛塩、1,3-ジヒドロ-1-フェニル-2H-ベンズイミダゾール-2-チオン又はその亜鉛塩等が挙げられる。
【0054】
<その他の成分>
本発明の架橋性樹脂組成物は、ベース樹脂及び酸化防止剤に加えて、本発明の目的を損なわない範囲において、樹脂組成物に一般的に使用される添加剤等の各種成分(その他の成分という。)等を含有することができる。その他の成分としては、例えば、無機フィラー、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤及びベンゾイミダゾール系酸化防止剤を除く。)、滑剤、金属不活性剤、可塑剤、難燃剤、難燃助剤等を挙げることができる。また、適用する架橋法の種類等により、更に、架橋剤、架橋助剤、架橋触媒、架橋促進剤等を適宜含有することが好ましい。
架橋性樹脂組成物が含有してもよいその他の成分はそれぞれ1種でも2種以上でもよい。
【0055】
(無機フィラー)
本発明の架橋性樹脂組成物は無機フィラーを含有することも好ましい。特に、シラン架橋性樹脂組成物は、架橋物の耐熱性を更に改善できるうえ外観にも優れる点で、無機フィラーを含有すること(好ましい形態のシラン架橋性樹脂組成物)が好ましく、シランカップリング剤のシラノール縮合可能な反応部位と水素結合若しくは共有結合等又は分子間結合により化学結合しうる部位を表面に有する無機フィラーを含有することがより好ましい。このような化学結合しうる部位としては、特に制限されないが、OH基(水酸基、含水若しくは結晶水の水分子、カルボキシ基等のOH基)、アミノ基、SH基等が挙げられる。
無機フィラーとしては、樹脂組成物にフィラーとして通常用いられるものを特に限定されることなく用いることができる。無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ベーマイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミニウムウイスカ、水和ケイ酸アルミニウム、水和ケイ酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、タルク等の水酸基若しくは結晶水を有する化合物のような金属水和物が挙げられる。また、窒化ほう素、シリカ(結晶質シリカ、非晶質シリカ等)、カーボンブラック、クレー(焼成クレー)、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボン、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛等が挙げられる。
無機フィラーは、上記した中でも、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、シリカが好ましく、高度な難燃性を発揮し、かつ耐熱性への影響を抑えるという点で、水酸化マグネシウムが好ましい。
【0056】
無機フィラーは、通常、粉体若しくは粒子として含有される。このときの平均粒径は、特に制限されないが、0.2~10μmが好ましく、0.3~8μmがより好ましく、0.4~5μmが更に好ましく、0.4~3μmが特に好ましい。平均粒径は、無機フィラーをアルコールや水で分散させて、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置等の光学式粒径測定器によって求められる。
無機フィラーは、各種表面処理剤で表面処理されたものを用いることもできる。
無機フィラーは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0057】
(ヒンダードフェノール系酸化防止剤及びベンゾイミダゾール系酸化防止剤以外の酸化防止剤)
ヒンダードフェノール系酸化防止剤及びベンゾイミダゾール系酸化防止剤のいずれにも相当しない酸化防止剤としては、例えば、アミン酸化防止剤、硫黄酸化防止剤(ただし、2-メルカプトベンズイミダゾール及びその金属塩を除く。)等が挙げられる。
(滑剤)
滑剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン化合物、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミドが挙げられ、シリコーン化合物が好ましい。滑剤の、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物中の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲に設定され、例えば、ベース樹脂100質量部に対して0~5質量部とすることができる。
【0058】
(有機過酸化物)
架橋性樹脂組成物を有機過酸化物架橋法又はシラン架橋法により架橋させる場合、架橋性樹脂組成物は有機過酸化物を1種又は2種以上含有することが好ましい。有機過酸化物は、熱分解によりラジカルを発生して、触媒として、樹脂同士の架橋反応、又はシランカップリング剤と樹脂とのラジカル反応によるグラフト化反応を生起させる働きをする。
有機過酸化物としては、特に制限はなく、ラジカル重合反応又は従来のシラン架橋法に用いられるものを特に制限されずに用いることができる。このような有機過酸化物としては、例えば、一般式:R1-OO-R2、R3-OO-C(=O)R4、R5C(=O)-OO(C=O)R6で表される化合物が好ましい。ここで、R1~R6は各々独立にアルキル基、アリール基又はアシル基を表す。各化合物のR1~R6のうち、いずれもアルキル基であるもの、又は、いずれかがアルキル基で残りがアシル基であるものが好ましい。
【0059】
有機過酸化物の分解温度は、特開2016-121203号公報に記載の方法で測定した分解温度として、80~195℃であるのが好ましく、125~180℃であるのが特に好ましい。
このような有機過酸化物としては、例えば、特開2016-121203号公報の段落[0036]に記載の有機過酸化物が挙げられ、この記載はここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。なかでも、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン(パーヘキサ25B)、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3が好ましい。
【0060】
(シランカップリング剤)
本発明において、架橋性樹脂組成物を電子線架橋法により架橋させる場合、電子線架橋性樹脂組成物は架橋剤としてシランカップリング剤を1種又は2種以上含有することが好ましい。一方、架橋性樹脂組成物をシラン架橋法により架橋させる場合、シラン架橋性樹脂組成物は架橋剤としてシランカップリング剤を1種又は2種以上含有する。なお、このシランカップリング剤はベース樹脂にグラフト化結合している。
シランカップリング剤(シラン架橋性樹脂を形成する(グラフト化反応前の)シランカップリング剤を含む。)は、電子線の照射若しくは有機過酸化物の分解により生じたラジカルの存在下でベース樹脂のグラフト化反応可能な部位等にグラフト化反応しうるグラフト化反応部位(基又はエチレン性不飽和基等の官能基)を有している。シラン架橋性樹脂組成物に用いるシランカップリング剤は、更にシラノール縮合可能な反応部位として加水分解性シリル基(例えばアルコキシシリル基)を有しており、このシラノール縮合可能な反応部位は上記無機フィラーの化学結合しうる部位と反応しうることが好ましい。
【0061】
このようなシランカップリング剤としては、特に制限されず、従来、電子線架橋法又はシラン架橋法に使用されているシランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤としては、エチレン性不飽和基及び加水分解性シリル基(例えばアルコキシシリル基)を有するシランカップリング剤が好適に挙げられ、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニルアルコキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシシラン等が挙げられる。なかでも、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランが特に好ましい。
シランカップリング剤は、1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。また、そのままで用いても、溶媒等で希釈して用いてもよい。
【0062】
(シラノール縮合触媒)
架橋性樹脂組成物をシラン架橋法により架橋させる場合、架橋性樹脂組成物はシラノール縮合触媒を1種又は2種以上含有することが好ましい。シラノール縮合触媒は、ベース樹脂にグラフトしたシランカップリング剤のシラノール縮合可能な反応部位を水分の存在下で縮合反応を促進させる働きがある。この縮合反応により、シランカップリング剤、適宜に無機フィラーを介してベース樹脂が架橋される。
このようなシラノール縮合触媒としては、特に制限されず、例えば、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が挙げられる。有機スズ化合物としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物が挙げられる。
【0063】
(キャリア樹脂)
架橋性樹脂組成物をシラン架橋法により架橋させる場合、その製造において、シラノール縮合触媒との混合物を形成するための樹脂又はゴム(キャリア樹脂という。)を用いることが好ましい。すなわち、シラノール縮合触媒はキャリア樹脂に混合されて用いられることが好ましい。このようなキャリア樹脂としては、特に限定されないが、ベース樹脂で説明した成分を用いることができる。キャリア樹脂は、ベース樹脂との相溶性の点で、ベース樹脂を構成する成分の少なくとも1種であることが好ましく、ベース樹脂と同じ成分を含むことが好ましい。
【0064】
(架橋助剤)
架橋性樹脂組成物を電子線架橋法又は有機過酸化物架橋法により架橋させる場合、架橋性樹脂組成物は架橋助剤を1種又は2種以上含有していてもよい。架橋助剤としては、電子線架橋法又は有機過酸化物架橋法に通常用いられるものを特に制限されることなく用いることができる。通常、多官能性化合物が挙げられ、例えば、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アタクリレート系多官能性化合物、トリアリルシアヌレート等のアリル系多官能性化合物、マレイミド系多官能性化合物、ジビニル系多官能性化合物が挙げられる。
【0065】
(架橋性樹脂組成物の組成)
架橋性樹脂組成物中における、酸化防止剤の総含有量は、特に制限されないが、優れた端末加工性及び耐タックを損なうことなく高度な耐熱性を実現できる点で、ベース樹脂100質量部に対して、0.6~18.0質量部であることが好ましく、1.0~13.0質量部であることがより好ましく、2.0~9.0質量部であることが更に好ましい。
架橋性樹脂組成物中における、ヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量は、特に制限されず、上記総含有量等を考慮して適宜に決定される。例えば、耐熱性、端末加工性及び耐タック性を高い水準でバランスよく鼎立できる点で、0.1~3.0質量部であることが好ましく、0.3~2.5質量部であることがより好ましく、0.5~2.0質量部であることが更に好ましい。
架橋性樹脂組成物中における、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤の含有量は、特に制限されず、上記総含有量等を考慮して適宜に決定される。例えば、耐熱性、端末加工性及び耐タック性を高い水準でバランスよく鼎立できる点で、0.5~16.0質量部であることが好ましく、1.0~12.0質量部であることがより好ましく、2.0~8.0質量部であることが更に好ましく、2.0~6.0質量部であることが更に好ましい。
架橋性樹脂組成物において、ヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量とベンゾイミダゾール系酸化防止剤の含有量との質量比[ベンゾイミダゾール系酸化防止剤の含有量/ヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量]は、特に制限されず適宜に設定できる。例えば、質量比[ベンゾイミダゾール系酸化防止剤の含有量/ヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量]は、耐熱性、端末加工性及び耐タック性を高い水準でバランスよく鼎立できる点で、1.0~16.0とすることができ、1.5~8.0であることが好ましく、1.5~4.0であることが更に好ましい。
【0066】
架橋性樹脂組成物中における、無機フィラーの含有量は、特に制限されないが、例えば、耐熱性、端末加工性及び耐タック性をバランスよく鼎立できる点で、ベース樹脂100質量部に対して、0.1~300質量部であることが好ましく、0.5~200質量部であることがより好ましく、1.0~150質量部とすることが更に好ましく、3.0~100質量部とすることが特に好ましい。
【0067】
架橋性樹脂組成物において、有機過酸化物の含有量は、特に制限されず、架橋法等に応じて適宜に設定される。例えば、過酸化物架橋性樹脂組成物における、有機過酸化物の含有量は、ベース樹脂100質量部に対して、0.01~7質量部とすることができ、0.01~5質量部であることが好ましく、0.03~2質量部とすることがより好ましい。
一方、シラン架橋性樹脂組成物において、有機過酸化物は、通常、上記グラフト化反応時に分解している。シラン架橋性樹脂組成物の調製において、シランカップリング剤とベース樹脂とのグラフト化反応に有機過酸化物を用いる場合、有機過酸化物の使用量は、特に制限されないが、例えば、シランカップリング剤とベース樹脂とのグラフト化反応を効率よく生起、進行させることができる点で、ベース樹脂100質量部に対して、0.001~0.6質量部であることが好ましく、0.01~0.5質量部であることがより好ましく、0.05~0.2質量部であることが更に好ましい。
【0068】
架橋性樹脂組成物において、シランカップリング剤の含有量は、特に制限されず、架橋法等に応じて適宜に設定される。例えば、シラン架橋性樹脂組成物におけるシランカップリング剤の含有量は、特に制限されず、優れた端末加工性及び耐タックを損なうことなく、十分な架橋密度を構築して高度な耐熱性を実現できる点、更には外観不良及びブツの生成、及びシランカップリング剤の揮発等を抑えて優れた外観をも実現できる点で、ベース樹脂100質量部に対して、1~15質量部であることが好ましく、2~10質量部であることがより好ましく、3~6質量部であることが更に好ましい。ここで、シラン架橋性樹脂組成物において、シランカップリング剤はベース樹脂にグラフト化結合しているが、シランカップリング剤の上記含有量は、便宜上、ベース樹脂とグラフト化反応する前の質量で換算した含有量(ベース樹脂と併用されるシランカップリング剤の含有量)とする。
なお、上述のように、過酸化物架橋性樹脂組成物はシラン架橋構造を形成するためのシランカップリング剤を含有していない。
【0069】
シラン架橋性樹脂組成物中における、シラノール縮合触媒の含有量は、ベース樹脂100質量部に対して、0.01~5質量部である。シラン架橋性樹脂組成物がこの範囲でシラノール縮合触媒を含有すると、最終架橋反応としてのシラノール縮合反応を適度な速度で進行させてシラノール縮合反応による十分な架橋構造を構築しながらも外観不良及びブツの発生を抑制でき、端末加工性及び耐タック性を損なうことなく、外観特性と耐熱性とを両立したシラン架橋樹脂成形体を実現できる。シラン架橋樹脂成形体の外観特性と耐熱性とを高い水準でバランスよく両立できる点で、シラン架橋性樹脂組成物中における、シラノール縮合触媒の含有量は、ベース樹脂100質量部に対して、0.005~0.6質量部であることが好ましく、0.01~0.5質量部であることがより好ましく、0.03~0.3質量部であることが更に好ましい。
なお、上述のように、過酸化物架橋性樹脂組成物はシラノール縮合触媒を含有していない。
【0070】
架橋性樹脂組成物において、架橋助剤の含有量は、特に制限されず、架橋法等に応じて適宜に設定される。例えば、電子線架橋性樹脂組成物中における、架橋助剤の含有量は、ベース樹脂100質量部に対して、0.5~8質量部であることが好ましく、1~5質量部であることがより好ましい。また、過酸化物架橋性樹脂組成物中における、架橋助剤の含有量は、ベース樹脂100質量部に対して、0.1~3質量部であることが好ましく、0.3~2質量部であることがより好ましい。
【0071】
架橋性樹脂組成物中における、その他の成分における上記各成分以外の成分の総含有量、及び各成分の含有量は、特に制限されず、本発明の作用効果を損なわない範囲で、適宜に設定できる。
【0072】
(耐熱性架橋物、耐熱性架橋樹脂成形体の組成)
耐熱性架橋物及び耐熱性架橋樹脂成形体は、架橋性樹脂組成物を、適宜に成形した後に、架橋させて形成されるため、耐熱性架橋物及び耐熱性架橋樹脂成形体それぞれにおける上記各成分の含有量は、通常、架橋性樹脂組成物中における含有量と同じとなる。ただし、有機過酸化物及びシラノール縮合触媒は通常分解している。なお、シランカップリング剤の含有量はグラフト化反応及びシラノール縮合反応する前の含有量に換算した値、ベース樹脂及び架橋助剤の含有量は架橋する前の含有量に換算した値とする。
【0073】
[架橋性樹脂組成物の製造方法]
本発明の架橋性樹脂組成物は、上述の各成分、具体的には、(未架橋の)ベース樹脂、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤、好ましくは無機フィラー、適宜にその他の成分(各種添加剤)、更に架橋法に応じた各成分を、上述の含有量(混合量)にて、混合又は溶融混合して、調製することができる。
混合方法としては、ゴム若しくは樹脂組成物の調製に通常採用される方法であれば、特に限定されない。例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、各種のニーダー等の各種混合装置を用いて混合することができる。溶融混合(混練ともいう。)の温度や時間などの混合条件は、特に限定されず、ベース樹脂の溶融温度以上の温度範囲内で適宜に設定できる。混合温度は、例えば、後述する工程(1)の溶融混合条件とすることが好ましい。なお、過酸化物架橋性樹脂組成物の調製に際しては、有機過酸化物の分解温度未満の温度に設定する。この分解温度未満の混合温度に設定すると、ベース樹脂等の架橋反応の生起、進行を抑制して、優れた外観を有する耐熱性架橋物を製造できる。
各成分の混合順は、特に制限されず、上記各成分を一度に(溶融)混合することもできるし、適宜の順で各成分を順次混合することもできる。
【0074】
シラン架橋性樹脂組成物の調製において、シラン架橋性樹脂を用いる態様においては、上述のように、シラン架橋性樹脂、シラノール縮合触媒、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤、好ましくは無機フィラー、適宜にその他の成分を、上述の含有量(混合量)にて、混合又は溶融混合して、調製することができる。このときの溶融混合する方法及び条件等は、後述する工程(1)又は工程(a)の方法及び条件等を採用できる。
一方、シラン架橋性樹脂組成物の調製時にベース樹脂とシランカップリング剤とをグラフト化反応させる態様においては、ベース樹脂、シランカップリング剤、有機過酸化物、シラノール縮合触媒、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤、好ましくは無機フィラー、適宜にその他の成分を上述の含有量(混合量)にて混合して、調製することができる。好ましくは、後述する好ましい形態のシラン架橋性樹脂組成物の製造方法(以下、本発明の好適なシラン架橋性樹脂組成物の製造方法ということがある。)において無機フィラーの混合を任意とする方法によって、製造することができる。
無機フィラーを含有する好ましい形態のシラン架橋性樹脂組成物は、無機フィラーを必須成分とすること以外は、上述のように、各成分を混合して調製することができるが、後述する本発明の好適なシラン架橋性樹脂組成物の製造方法で調製することが好ましい。
【0075】
[耐熱性架橋物及び耐熱性架橋樹脂成形体の製造方法]
本発明の耐熱性架橋物は、本発明の架橋性樹脂組成物を上述した架橋反応処理して調製することができる。
一方、本発明の耐熱性架橋樹脂成形体は、適宜の形状及び寸法に成形した後又は成形する前に、上述した架橋反応処理して、調製することができる。好ましくは、架橋反応処理前に成形する。成形方法及び成形条件は、成形後の形状や形態に応じて、適宜の方法及び条件が選択される。例えば、成形方法としては、押出成形機を用いた押出成形、射出成形機を用いた押出成形、その他の成形機を用いた成形が挙げられる。押出成形は、配線材の被覆層を形成する場合に、生産性、更には導体と共押出できる点等で、好ましい。
【0076】
架橋反応処理は、架橋法に応じて適宜の方法及び条件が選択される。
例えば、電子線架橋性樹脂組成物に対しては、好ましくは適宜の形状及び寸法に成形した後に、電子線を照射する。電子線の照射条件は、架橋性樹脂組成物(樹脂)を架橋反応させることができる限り特に制限されない。例えば、電子線の照射量は1~30Mradとすることでき、照射時の加速電圧は500~750keVとすることができる。
過酸化物架橋性樹脂組成物に対しては、好ましくは適宜の形状及び寸法に成形した後に、有機過酸化物の分解温度以上に加熱する。加熱条件は、過酸化物架橋性樹脂組成物が含有する有機過酸化物の分解温度以上であればよく、加熱時間も特に限定されない。加熱条件としては、例えば、後述する工程(1)の溶融混合条件を適用できる。
シラン架橋性樹脂組成物に対しては、好ましくは適宜の形状に成形した後に、水分と接触させる方法が好ましい。シラン架橋性樹脂組成物の成形方法及び成形条件、更に水との接触方法及び接触条件は、特に制限されず、後述する工程(2)及び工程(3)で説明する各方法及び各条件を適用できる。シラン架橋性樹脂組成物のシラン架橋法としては、後述する好ましい形態の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法(以下、本発明の好適な耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法ということがある。)において、無機フィラーを任意成分とする方法が好ましい。
【0077】
[本発明の好適なシラン架橋性樹脂組成物の製造方法及び本発明の好適な耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法]
以下に、本発明の好適なシラン架橋性樹脂組成物の製造方法、及び本発明の好適な耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法(両製造方法を併せて本発明の好適な製造方法ということがある。)について説明する。両製造方法は、組成物の調製時にベース樹脂とシランカップリング剤とをグラフト化反応させる態様である。
【0078】
工程(1):スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びスチレン-酢酸ビニル
共重合体から選択される少なくとも1種を含み、エチレン-(メタ)アクリ
ル酸エステル共重合体及びエチレン-酢酸ビニル共重合体を含まないベース
樹脂100質量部に対して、無機フィラー0.5~200質量部と、有機過
酸化物0.01~0.5質量部と、上記ベース樹脂にグラフト化反応しうる
グラフト化反応部位及びシラノール縮合可能な反応部位を有するシランカッ
プリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒0.01~0.5質量部
と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、ベンゾイミダゾール系酸化防止
剤とを溶融混合して、シラン架橋性樹脂組成物を得る工程
工程(2):工程(1)で得られたシラン架橋性樹脂組成物を成形して、成形体を得る工
程
工程(3):工程(2)で得られた成形体と水とを接触させて、耐熱性シラン架橋樹脂成
形体を得る工程
【0079】
上記工程(1)は、ベース樹脂の使用態様(配合態様)に応じて以下の工程を有する。
すなわち、この工程(1)を行うに当たって、下記工程(a)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には下記工程(1)が下記工程(a)及び工程(c)を有し、一方、下記工程(a)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には下記工程(1)が下記工程(a)、工程(b)及び工程(c)を有する。
工程(a):ベース樹脂の全部又は一部と、無機フィラーと、シランカップリング剤と、
有機過酸化物とを、有機過酸化物の分解温度以上の温度において、溶融混合
して、シランマスターバッチを調製する工程
工程(b):ベース樹脂の残部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒マスター
バッチを調製する工程
工程(c):シランマスターバッチと、シラノール縮合触媒又は触媒マスターバッチとを
溶融混合する工程
また、工程(1)において、ヒンダードフェノール系酸化防止剤及び前記ベンゾイミダゾール系酸化防止剤は、上記工程(a)及び工程(b)の少なくとも一方で混合される。
【0080】
本発明の好適な製造方法において、ベース樹脂として用いる各成分の混合量は、それぞれ、ベース樹脂の組成として説明した上記含有率と同じとする。また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤、シランカップリング剤、添加剤の混合量は、それぞれ、上述のシラン架橋性樹脂組成物中の含有量と同じとする。なお、無機フィラー、有機過酸化物及びシラノール縮合触媒の混合量は、それぞれ、ベース樹脂100質量部に対して、0.5~200質量部、0.01~0.5質量部及び0.01~0.5質量部とすること以外は、上述のシラン架橋性樹脂組成物中の含有量と同じである。
【0081】
本発明の好適な製造方法においては、工程(1)で得られる混合物に100質量部のベース樹脂が含有されていればよい。例えば、工程(a)において、ベース樹脂の全量(100質量部)が混合される態様と、ベース樹脂の一部が混合される態様とを含む。
工程(a)でベース樹脂の一部を混合する場合、その割合は、工程(a)と工程(b)で混合するベース樹脂100質量%のうち、60~95質量%であることが好ましく、70~85質量%であることがより好ましい。工程(b)で混合するベース樹脂の残部(キャリア樹脂)は、工程(a)で混合するベース樹脂の一部に応じて適宜に決定される。
なお、工程(a)でベース樹脂の一部を混合する場合、混合する成分は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0082】
無機フィラーは、その一部を工程(a)以外の工程、例えば工程(b)等で用いることもできるが、ベース樹脂同士の(無機フィラーを介さない)架橋構造と無機フィラーを巻き込んだ架橋構造とをバランスよく構築できる点で、その全量を工程(a)で用いることが好ましい。工程(b)で無機フィラーを用いる場合、その使用量は、特に制限されず、適宜に決定される。
各種の添加剤は、工程(a)及び工程(b)のいずれの工程で混合されてもよい。
【0083】
<工程(1)>
本発明の好適な製造方法においては、ベース樹脂と、シランカップリング剤と、無機フィラーと、有機過酸化物と、シラノール縮合触媒と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤と、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤とを上記の混合量で溶融混合して、混合物として好ましい形態のシラン架橋性樹脂組成物を調製する工程(1)を行う。
工程(1)、すなわち、ベース樹脂、シランカップリング剤、無機フィラー、有機過酸化物、シラノール縮合触媒、ヒンダードフェノール系酸化防止剤及びベンゾイミダゾール系酸化防止剤の溶融混合は、下記工程順(a)~(c)で、行われる。
ただし、酸化防止剤は、工程(c)の実施に際して含有されていればよく、いずれの工程で混合してもよく、工程(a)及び工程(b)の少なくとも一方で混合される。シランカップリング剤とベース樹脂とのグラフト化反応を阻害せず効率よく生起、進行させることができる点で、酸化防止剤は工程(b)で混合することが好ましい。なお、工程(a)で混合する場合、酸化防止剤の混合量は、ベース重合体100質量部に対して0.5質量部以下とすることが好ましい。
【0084】
(工程(a))
本発明の好適な製造方法においては、ベース樹脂の全部又は一部と、無機フィラーと、シランカップリング剤と、有機過酸化物と、適宜にその他の成分とを、上記の混合量で有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、シランマスターバッチ(シランMB)を調製する工程(a)を行う。この溶融混合により、シランカップリング剤とベース樹脂とがグフラフト化反応して、シランカップリング剤がグラフト化結合したシラン架橋性樹脂を含むシランMBを調製することができる。
【0085】
工程(a)において、上述の成分を溶融混合(溶融混練、混練りともいう。)する混合温度は、有機過酸化物の分解温度以上、好ましくは有機過酸化物の分解温度+(25~110)℃の温度であり、より好ましくは150~230℃であり、更に好ましくは175~210℃である。ここで、溶融混合温度の基準とする有機過酸化物の分解温度は常圧(約0.1MPa)環境下の温度である。上記混合温度であれば、上記成分が溶融し、有機過酸化物が分解、作用して必要なグラフト化反応が進行する。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。例えば、混合時間は1~25分とすることができ、好ましくは3~20分である。
【0086】
混合方法としては、ゴム、プラスチックの混合等に通常用いられる方法であれば、特に限定されない。混合装置としては、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等が用いられ、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等の密閉型ミキサーが好ましい。
ベース樹脂の混合方法も特に限定されない。例えば、予めベース樹脂を調製して用いてもよく、各成分をそれぞれ別々に用いてもよい。
【0087】
本発明の好適な製造方法において、工程(a)における各成分の混合順は特定されるものではなく、どのような順で上記成分を混合してもよい。例えば、上述の成分を一度に溶融混合することができ、また、特定の混合順で溶融混合することもできる。例えば、スチレン共重合体とシランカップリング剤とを予め混合(好ましくは工程(a-1)の混合と同様に混合)した後に残余の成分と溶融混合してもよく、また、下記工程(a-1)及び(a-2)により下記の混合順で混合することもできる。
工程(a-1):無機フィラー及びシランカップリング剤を混合して混合物を調製する工
程
工程(a-2):工程(a-1)で得られた混合物と、ベース樹脂の全部又は一部と、適
宜にその他の成分とを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温
度以上の温度において溶融混合する工程
【0088】
工程(a-1)において、無機フィラー及びシランカップリング剤を前混合することにより、無機フィラーに弱い結合で結合若しくは吸着したシランカップリング剤と、無機フィラーに強い結合で結合若しくは吸着したシランカップリング剤とをバランスよく形成することができる。ここで、無機フィラーとの弱い結合としては、水素結合による相互作用、イオン、部分電荷若しくは双極子間での相互作用、吸着による作用等が挙げられる。また、無機フィラーとの強い結合としては、無機フィラー表面の化学結合しうる部位との化学結合等が挙げられる。上述のシランカップリング剤がバランスよく形成されることにより、工程(a-2)での溶融混合時に、シランカップリング剤の揮発、更には未吸着のシランカップリング剤同士の縮合反応を、効果的に防止できる。その結果、より優れた外観を示しながらも、耐熱性が更に向上し、機械特性(引張強さ)にも優れたシラン架橋樹脂成形体を製造できる。
【0089】
工程(a-1)の混合方法及び混合条件は、特に制限されないが、公知の混合機、混練機等を用いて、通常、有機過酸化物の分解温度未満の温度、好ましくは10~60℃、より好ましくは室温近傍(20~25℃)で、数分~数時間程度、乾式又は湿式により、混合する方法及び条件が挙げられる。なかでも、有機過酸化物の分解温度未満の温度で乾式混合(ドライブレンド)することが好ましい。乾式混合のその他の条件は適宜に決定される。
【0090】
工程(a-1)においては、上記分解温度未満の温度が保持されている限り、ベース樹脂を混合することもできる。
有機過酸化物は、工程(a-2)の溶融混合の際に存在していればよく、工程(a-2)で混合されてもよいが、工程(a-1)で混合されることが好ましい。
【0091】
次いで、工程(a-1)で得られた混合物と、ベース樹脂の全部又は一部と、工程(a-1)で混合されていない残余の成分とを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度において、溶融混合して、シランMBを調製する(工程(a-2))。本工程における溶融混合においては、上述のシランカップリング剤の揮発、自己縮合を抑えながら、ベース樹脂同士の過剰な架橋反応(ゲルブツの発生)を防止することができる。
この工程(a-2)の溶融混合方法及び条件は、特に限定されず、上記工程(a)の溶融混合方法及び条件を適用できる。
【0092】
工程(a-2)において、シランカップリング剤とベース樹脂とがグラフト化反応する態様としては、少なくとも次のものが考えられる。すなわち、無機フィラーと弱い結合で結合若しくは吸着したシランカップリング剤が無機フィラーから脱離してベース樹脂にグラフト化反応する態様である。この態様から後述する工程(3)で形成される架橋構造は無機フィラーを組み込まず、通常、シランカップリング剤同士のシラノール縮合物を介する架橋構造となる。また、無機フィラーと強い結合で結合若しくは吸着したシランカップリング剤が無機フィラーとの結合若しくは吸着を保持した状態でベース樹脂にグラフト化反応する態様である。この態様から後述する工程(3)で形成される架橋構造は無機フィラーを組み込んでおり、無機フィラーを起点としてそれに結合したシランカップリング剤を介する架橋構造となる。上記両態様における架橋構造が混在することによって、シラン架橋樹脂成形体に無機フィラーを巻き込んだ架橋構造を含む高度に発達した架橋構造を構築できる。
【0093】
工程(a)では、添加剤等を混合することもできる。ただし、工程(a)においては、シラノール縮合触媒を実質的に混合しないことが好ましい。これにより、シランカップリング剤のシラノール縮合反応の生起を抑制できる。本発明において、「実質的に混合しない」とは、不可避的に存在するシラノール縮合触媒をも排除するものではなく、シラノール縮合反応を抑制できる範囲、例えば、ベース樹脂100質量部に対して0.01質量部以下の範囲であれば、存在していてもよいことを意味する。
【0094】
工程(a)で調製されたシランMBは、ベース樹脂、シランカップリング剤、無機フィラーの反応混合物を含有しており、後述の工程(2)により成形可能な程度にシランカップリング剤とベース樹脂とがグラフト化結合したシラン架橋性樹脂を含有している。ベース樹脂とグラフト化結合したシランカップリング剤は、そのシラノール縮合可能な反応部位で無機フィラーに結合若しくは吸着しているものを含んでいる。
シランMBは、ペレット又は粉末状とすることが好ましい。
【0095】
(工程(b))
本発明の好適な製造方法においては、工程(a)とは独立に、又は工程(a)に次いで、ベース樹脂の残部(キャリア樹脂)と、シラノール縮合触媒と、好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤と、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤とを溶融混合して、触媒マスターバッチ(触媒MB)を調製する工程(b)を行う。
キャリア樹脂と、シラノール縮合触媒、ヒンダードフェノール系酸化防止剤及びベンゾイミダゾール系酸化防止剤との混合割合は、特に限定されないが、好ましくは、工程(1)における上記混合量を満たすように、設定される。
工程(b)における溶融混合方法及び条件は、特に制限されず、上記工程(a)の溶融混合方法及び条件を適用できる。例えば、溶融混合温度は、ベース樹脂の溶融温度以上であればよく、120~200℃が好ましく、160~200℃がより好ましい。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。例えば、混合時間は1~25分とすることができ、好ましくは3~20分である。
工程(b)において、ベース樹脂の残部に代えて、又は、加えて他の樹脂をキャリア樹脂として用いることができる。キャリア樹脂が他の樹脂である場合、工程(a)においてグラフト化反応を促進させることができるうえ、成形中にブツが生じにくい。他の樹脂の混合量は、ベース重合体100質量部に対して、好ましくは1~60質量部、より好ましくは2~50質量部、更に好ましくは2~40質量部である。
触媒MBは、ペレット又は粉末状とすることが好ましい。
【0096】
(工程(c))
本発明の好適な製造方法においては、次いで、シランMBと、シラノール縮合触媒又は触媒MBとを溶融混合して、混合物を得る工程(c)を行う。好ましくはシランMBと触媒MBとを溶融混合する。
混合方法は、特に制限されないが、工程(a)の溶融混合と基本的に同様であり、少なくともベース樹脂が溶融する温度で混合する。工程(c)における混合条件は、特に制限されず、上記工程(a)の混合条件を適用できる。例えば、混合温度は、ベース樹脂又はキャリア樹脂の溶融温度に応じて適宜に選択され、例えば、80~250℃が好ましく、100~240℃がより好ましく、120~200℃が更に好ましい。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。
工程(c)の溶融混合においては、混合物の流動性(成形性)を保持可能な溶融混合方法及び条件を設定する。混合物中のシラン架橋性樹脂はシランカップリング剤がシラノール縮合していない未架橋体である。実際的には、工程(c)で溶融混合すると、一部架橋(部分架橋)は避けられないが、得られる混合物について成形性が保持されたものとする。例えば、シラノール縮合反応の生起又は進行を避けるため、シランMBとシラノール縮合触媒が混合された状態で高温状態に長時間保持されないことが好ましい。
工程(c)においては、シランMBとシラノール縮合触媒又は触媒MBとを溶融混合する前に、ドライブレンドすることが好ましい。ドライブレンドの方法及び条件は、特に限定されず、例えば、工程(a-1)での乾式混合及びその条件が挙げられる。
【0097】
このようにして、混合物として本発明の好ましい形態のシラン架橋性樹脂組成物が製造される。
このシラン架橋性樹脂組成物は、シラン架橋性樹脂、シラノール縮合触媒、無機フィラー、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤等を含有している。シラン架橋性樹脂において、シランカップリング剤のシラノール縮合可能な反応部位は、無機フィラーと結合若しくは吸着していてもよいが、シラノール縮合していない。したがって、シラン架橋性樹脂は、無機フィラーと結合若しくは吸着したシランカップリング剤とベース樹脂とがグラフト化結合したシラン架橋性樹脂と、無機フィラーと結合若しくは吸着していないシランカップリング剤とベース樹脂とがグラフト化結合したシラン架橋性樹脂とを含んでいる。
【0098】
<工程(2)>
本発明の好適な耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法においては、次いで、工程(1)で得られた混合物(本発明の好ましい形態のシラン架橋性樹脂組成物)を成形して、成形体を得る工程(2)を行う。
成形方法は、特に限定されず、目的とする製品の形態に応じて、適宜に選択される。成形方法としては、例えば、押出機を用いた押出成形、射出成形機を用いた押出成形、その他の成形機を用いた成形、後述するスパイラル成形が挙げられる。配線材を製造する場合、押出成形法が生産性、更には導体と共押出できる点等で好ましい。
成形条件(溶融混合条件)は、均一に混合して成形することができ、かつ本発明の好ましい形態のシラン架橋性樹脂組成物がシラノール縮合反応を生起しない条件であれば特に限定されず、例えば、工程(a)の溶融混合方法及び条件を適用できる。
押出成形機を用いる場合、押出成形機の温度は、ベース樹脂の種類、導体等の引取り速度の諸条件にもよるが、シリンダー部で140~200℃、ダイス部で約160~200℃程度にすることが好ましい。押出条件(成形条件)についても、適宜に決定することができる。例えば、押出成形における押出機のスクリュー回転数及び成形速度(線速)は、特に限定されず、押出機の特性若しくは性能、押出量(被覆量)等に応じて適宜に設定することができる。より具体的には、押出機の回転速度としては、通常、20~60rpmとすることができ、線速としては、通常、1~20m/minとすることができる。
【0099】
工程(2)は工程(c)と同時に又は連続して行うことができる。例えば、シランMBとシラノール縮合触媒若しくは触媒MBとを被覆装置(押出機)の直前でドライブレンド等により混合した後に被覆装置内で溶融混合(工程(c))して、又はシランMBとシラノール縮合触媒若しくは触媒MBとを別々に被覆装置に投入後に溶融混合(工程(c))し、次いで、導体等の外周面等に(共押出)成形(工程(2))する一連の工程を採用できる。
【0100】
このようにして、本発明の好ましい形態のシラン架橋性樹脂組成物の成形体(未架橋成形体)が得られる。この成形体は好ましい形態のシラン架橋性樹脂組成物と同様に、シラン架橋性樹脂の一部架橋は避けられないが、工程(2)で成形可能な成形性を保持する部分架橋状態にある。したがって、この発明の好ましい形態の耐熱性シラン架橋樹脂成形体は、工程(3)を実施することによって、架橋又は最終架橋された成形体とされる。
【0101】
<工程(3)>
本発明の好適な耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法においては、次いで、工程(2)で得られた成形体と水とを接触させて、本発明の好ましい形態の耐熱性シラン架橋樹脂成形体を製造する工程(3)を行う。工程(2)で得られた成形体は、シラン架橋樹脂が未架橋体であるため、本工程により、ベース樹脂にグラフト化結合しているシランカップリング剤のシラノール縮合可能な反応部位についてシラノール縮合反応(脱水縮合反応)を生起、進行(促進)させて、最終的にシラン架橋させる。こうして、シランカップリング剤がシラノール縮合して架橋したシラン架橋樹脂成形体を得ることができる。
未架橋成形体と水との接触は、通常の方法によって行うことができる。シラノール縮合反応は、水分存在下であれば、常温、例えば20~25℃程度の温度環境下で放置するだけでも進行するため、水と積極的に接触させる必要はない。シラノール縮合反応(架橋反応)を促進させる観点からは、未架橋成形体と水とを積極的に接触させることが好ましい。接触方法としては、シラン架橋法に通常適用される方法(条件)を挙げることができ、例えば、常圧環境下において接触させる方法が挙げられ、具体的には、飽和水蒸気雰囲気への暴露、高湿度環境への暴露、常温水若しくは温水(例えば、50~90℃)への浸漬、湿熱槽への投入、高温の水蒸気への暴露等が挙げられる。また、接触の際に水分を内部に浸透させるために圧力をかけてもよい。
【0102】
このようにして、本発明の好ましい形態の耐熱性シラン架橋樹脂成形体が製造される。
このシラン架橋樹脂成形体は、ベース樹脂(シラン架橋性樹脂)がシロキサン結合を介して縮合した架橋樹脂を含んでいる。また、シラン架橋樹脂成形体は無機フィラーを含有しており、この無機フィラーは架橋したベース樹脂のシランカップリング剤に結合していてもよい。したがって、シラン架橋樹脂は、複数のベース樹脂がシランカップリング剤により無機フィラーに結合若しくは吸着して、無機フィラー及びシランカップリング剤を介して結合(架橋)した架橋樹脂と、ベース樹脂にグラフト化結合しているシランカップリング剤のシラノール縮合可能な反応部位が加水分解して互いにシラノール縮合反応することにより、(無機フィラーを介することなく)シランカップリング剤(シロキサン結合)を介して架橋した架橋樹脂とを含んでいると考えられる。
【0103】
[耐熱性架橋樹脂成形品]
本発明の耐熱性架橋樹脂成形品は、本発明の耐熱性架橋物、好ましくは耐熱性架橋樹脂成形体を含む製品(半製品、部品、部材も含む。)であり、各種の樹脂成形品として用いることができ、好ましくは従来の樹脂成形品の代替品として用いることができる。本発明の耐熱性架橋樹脂成形品は、その一部(樹脂成形部)に本発明の耐熱性架橋物又は耐熱性架橋樹脂成形体を含む成形品であってもよく、本発明の耐熱性架橋樹脂成形体のみからなる成形品であってもよい。
本発明の耐熱性架橋樹脂成形品の用途としては、例えば、絶縁電線、ケーブル又は光ファイバーケーブル等の配線材の被覆材料、ゴム代替電線・ケーブルの材料、その他、耐熱電線部品、耐熱シート、耐熱フィルム等が挙げられる。また、モールド材、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、耐熱シート、耐熱フィルム、耐熱パッキン、ガスケット、クッション材、防震材が挙げられる。特に、本発明の耐熱性架橋樹脂成形体は、その優れた特性を利用して、自動車若しくは電車等の車両用絶縁電線の絶縁被覆層、キャブタイヤケーブルのシースとして、特に高度な耐熱性(例えば175℃での使用に耐えうる耐熱性)が求められる絶縁電線の被覆層として、好適に用いられる。
【0104】
<配線材>
本発明の耐熱性架橋樹脂成形品を配線材として適用する場合、通常、導体の被覆材料(絶縁体、シース)として本発明の耐熱性架橋樹脂成形体を用いる。
配線材としては、導体の外周に被覆層(シース)を有する配線材であって、この被覆層を、本発明の架橋性樹脂組成物を管状の層に成形、架橋して、本発明の耐熱性架橋樹脂成形体で形成した配線材が挙げられる。
【0105】
配線材は、被覆層が本発明の耐熱性架橋樹脂成形体又は本発明の好ましい形態の耐熱性シラン架橋樹脂成形体で形成されていること以外は、各種の電気・電子機器分野や産業分野に使用される通常のものと同じである。ここで、配線材の被覆層が複数層で構成されている場合、そのうちの少なくとも1層が本発明の耐熱性架橋樹脂成形体又は本発明の好ましい形態の耐熱性シラン架橋樹脂成形体で形成されていればよい。本発明の耐熱性架橋樹脂成形体又は本発明の好ましい形態の耐熱性シラン架橋樹脂成形体で形成される被覆層は、導体の外周面に直接又は他の層を介して設けられ、電線の種類、用途、要求特性等に応じて、他の層の有無、材料等が適宜に決定される。
導体としては、配線材の種類や用途等に応じて種々の導体、コアを用いることができる。このような導体、コアとしては、配線材に通常使用されるものを用いることができる。絶縁電線等の配線材に用いる導体としては、例えば、軟銅、銅合金若しくはアルミニウムの単線若しくは撚り線(抗張力繊維を縦添え若しくは撚り合わせたもの)等が挙げられる。また、裸線の他に、錫メッキしたものやエナメル被覆絶縁層を有するものを用いることもできる。ケーブル等の配線材に用いるコアとしては、例えば、光ファイバー心線、単一の絶縁電線からなる単心コア若しくは複数の絶縁電線を束ねた複心コア、更には、絶縁層で被覆若しくは絶縁テープで巻回された単一の絶縁電線若しくは複数の絶縁電線束等が挙げられる。導体の外径についても特に制限されず、配線材の種類、用途、特性等に応じて適宜に決定され、例えば、絶縁電線等については0.5~20mmとすることができ、各種ケーブルについては1.0~25mmとすることができる。導体は、その表面に、架橋被覆層以外の層、補強テープ等を有していてもよい。
本発明の耐熱性架橋樹脂成形体又は本発明の好ましい形態の耐熱性シラン架橋樹脂成形体で形成される被覆層の厚さは、特に限定されないが、通常、0.15~5mm程度である。
【0106】
配線材は、導体に外周面上で本発明の架橋性樹脂組成物又は本発明の好ましい形態のシラン架橋性樹脂組成物を輪環状の層(管状)に成形した後に、適宜の架橋法により架橋させて、製造することができる。
本発明の好ましい形態のシラン架橋性樹脂組成物を用いる場合、本発明の好ましい形態のシラン架橋性樹脂組成物を輪環状の層(管状)に成形した後に、水と接触させて架橋反応(シラノール縮合反応)させることにより、配線材を製造することができる。好ましくは、上述の本発明の好適な耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法において、成形工程(2)を、被覆装置(押出機)を用いて、本発明の好ましい形態のシラン架橋性樹脂組成物を導体の外周に共押出成形する工程とすることにより、製造できる。なお、上述の本発明の好適な耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法において、無機フィラーを混合しないことにより、本発明のシラン架橋性樹脂組成物(無機フィラー無含有)を導体の外周に共押出成形する工程として、本発明のシラン架橋性樹脂組成物(無機フィラー無含有)で形成した被覆層を有する配線材を製造できる。
【実施例0107】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0108】
実施例及び比較例に用いた各化合物の詳細を表1及び以下に示す。
<ベース樹脂>
(スチレン-酢酸ビニル共重合体)
モディパーSV10B(商品名):スチレン-酢酸ビニルブロック共重合体、スチレン含有率90質量%、日油社製
(スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体)
モディパーMS10B(商品名):スチレン-メタクリル酸メチルブロック共重合体、スチレン含有率90質量%、日油社製
(ポリオレフィン樹脂)
LLDPE:エボリューSP0510(商品名)、直鎖型低密度ポリエチレン、プライムポリマー社製
SEBS:タフテックN504(商品名)、旭化成社製
オイル:ダイアナプロセスオイルPW90(商品名)、パラフィンオイル、出光興産社製
EVA:エバフレックス EV360(商品名)、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、三井・ダウ ポリケミカル社製
【0109】
<酸化防止剤>
ヒンダードフェノール系酸化防止剤:イルガノックス1010(商品名)、BASF社製
ベンゾイミダゾール系酸化防止剤:ノクラックMBZ(商品名)、大内新興化学工業社製
【0110】
<無機フィラー>
炭酸カルシウム:ソフトン1200(商品名)、備北粉化工業社製
フュームドシリカ:AEROSIL200(商品名)、日本アエロジル社製
水酸化マグネシウム:マグシーズFK621(商品名)、神島化学工業社製
<シランカップリング剤>
シランカップリング剤:KBM-1003(商品名)、ビニルトリメトキシシラン、信越化学工業社製
<架橋助剤>
TMPT:オグモントT200(商品名)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、新中村化学工業社製
TAIC:TAIC(商品名)、トリアリルイソシアヌレート、三菱ケミカル社製)
<有機過酸化物>
パークミルD(商品名):ジクミルパーオキサイド、日油社製
パーヘキサ25B(商品名):2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、日油社製
<シラノール縮合触媒>
ジオクチルスズジラウレート:アデカスタブOT-1(商品名)、ADEKA社製
【0111】
[実施例1~34及び比較例1~15]
実施例1~34及び比較例1~15は、表1~表4に示す成分を用いて、それぞれ実施した。具体的には、下記製造方法により、表1~表4に示す組成の架橋性樹脂組成物をそれぞれ調製し、これらを導体の外周面上に押出成形(押出被覆)し架橋させて形成した被覆層を有する絶縁電線を製造した。
表1~表4において、各例の混合量(含有量)に関する数値は特に断らない限り質量部を表す。また、各成分について空欄は対応する成分の混合量が0質量部であることを意味する。
【0112】
<実施例1~7及び比較例1~5>
下記電子線架橋法により、絶縁電線を製造した。
表1及び表4の「コンパウンド」欄に記載の成分を、同欄に示す質量比で、バンバリーミキサーに投入して120℃で10分溶融混合した後、材料排出温度140℃で排出し、フィーダールーダーを通して、電子線架橋性樹脂組成物のペレットをそれぞれ得た。
得られたペレットを用いて次のようにして絶縁被覆を形成して、電線前駆体を製造した。すなわち、得られたペレットを、L/D(スクリュー有効長Lと直径Dとの比)=24の40mm(スクリュー径)押出機(圧縮部スクリュー温度150℃、ヘッド温度180℃)に導入した。この押出成形機内にてペレットを溶融混合しつつ、1/0.8A導体の外周に肉厚1mmで被覆し、外径2.8mmの電線前駆体(未架橋)をそれぞれ得た。
次いで、電線前駆体(導体の外周に配置した電子線架橋性樹脂組成物)に、加速電圧750keVの電子線を照射量15Mradとなるように照射して、電子線架橋を実施した。
こうして、導体の外周面上に電子線架橋性樹脂組成物の管状成形体(耐熱性電子線架橋樹脂成形体)を被覆層として有する絶縁電線をそれぞれ製造した。
【0113】
<実施例8~10及び比較例6~10>
下記有機過酸化物架橋法により、絶縁電線を製造した。
表1及び表4の「コンパウンド」欄に記載の成分を、同欄に示す質量比で、バンバリーミキサーに投入して100℃で10分溶融混合した後、材料排出温度120℃で排出し、フィーダールーダーを通して、過酸化物架橋性樹脂組成物のペレットをそれぞれ得た。
得られたペレットを用いて次のようにして絶縁被覆を形成して、電線前駆体を製造した。すなわち、得られたペレットを、L/D=24の40mm(スクリュー径)押出機(圧縮部スクリュー温度150℃、ヘッド温度180℃)に導入した。この押出成形機内にてペレットを溶融混合しつつ、1/0.8A導体の外周に肉厚1mmで被覆し、外径2.8mmの電線前駆体(未架橋)をそれぞれ得た。
次いで、電線前駆体を、140℃、6MPaの加硫釜に2時間投入して、過酸化物架橋を実施した。
こうして、導体の外周面上に過酸化物架橋性樹脂組成物の管状成形体(耐熱性過酸化物架橋樹脂成形体)を被覆層として有する絶縁電線をそれぞれ製造した。
【0114】
<実施例11~24>
下記シラン架橋法により、絶縁電線を製造した。
各実施例において、ベース樹脂の一部(10質量%)を触媒MBのキャリア樹脂として用いた。
表1及び表2の「シランMB」欄に示す、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体又はスチレン-酢酸ビニル共重合体と、シランカップリング剤と、有機過酸化物とを、同欄に示す質量比で、回転刃式ミキサー(商品名、マゼラーPM)に投入して、室温(25℃)下、10rpmで、1分間攪拌(プレブレンド)した。次いで、得られたプレブレンド物と、表1及び表2の「シランMB」欄に示す、スチレン共重合体以外のベース樹脂と、酸化防止剤とを、同欄に示す混合量で、予め100℃に昇温したニーダー(容量75L)へ投入し、40rpmで5分間混合した後、更に30rpmで3分仕上げ混練(溶融混合)を行った。混合物の温度が有機過酸化物の分解温度以上である180~200℃に達したことを確認した後、フィーダールーダー及びペレタイザーを用いてペレット化することで、シランMBをそれぞれ得た(工程(a))。
【0115】
一方、表1及び表2の「触媒MB」欄に示す、キャリア樹脂、酸化防止剤及びシラノール縮合触媒を同欄に示す質量比で予め80℃に昇温したニーダー(容量75L)に順次投入し、30rpmで5分間混合した後、更に25rpmで3分仕上げ混練(溶融混合)を行った。混合物の温度が160℃程度に達し、キャリア樹脂が十分に溶融したことを確認した後、フィーダールーダー及びペレタイザーを用いてペレット化することで、触媒MBをそれぞれ得た(工程(b))。
【0116】
次いで、シランMBと触媒MBとを表1及び表2の「シランMB」欄及び「触媒MB」欄に示す質量比で、押出成形直前に、ステンレスミキサー(型番PM-100P、マゼラー社製)により、室温(25℃)下で2分間ドライブレンドして、ドライブレンド物をそれぞれ得た(工程(c)のドライブレンド工程)。
次いで、ドライブレンド物を、L/D=24の40mm(スクリュー径)押出機(圧縮部スクリュー温度150℃、ヘッド温度180℃)に導入し、溶融混合しながら(工程(c)の溶融混合工程)、1/0.8A導体の外側に肉厚1mmで被覆し、外径2.8mmの電線前駆体(未架橋)をそれぞれ得た(工程(2))。
得られた被覆導体を、60℃、相対湿度95RH%の環境下に24時間放置して、シラン架橋性樹脂組成物と水とを接触させた(工程(3))。
こうして、導体の外周面上にシラン架橋性樹脂組成物の管状成形体(耐熱性シラン架橋樹脂成形体)を被覆層として有する絶縁電線をそれぞれ製造した。
【0117】
<実施例25~34及び比較例11~15>
下記シラン架橋法により、絶縁電線を製造した。
各実施例において、ベース樹脂の一部(10質量%又は15質量%)を触媒MBのキャリア樹脂として用いた。
表3及び表4の「シランMB」欄に示す、無機フィラーとシランカップリング剤と有機過酸化物とを、同欄に示す質量比で、回転刃式ミキサー(商品名、マゼラーPM)に投入して、室温(25℃)下、10rpmで、1分間攪拌)した(工程(a-1))。
次いで、得られた混合物とベース樹脂と酸化防止剤とを、同欄に示す質量比で、予め100℃に昇温したニーダー(容量75L)に投入し、40rpmで5分間混合した後、更に30rpmで3分仕上げ混練(溶融混合)を行った。混合物の温度が有機過酸化物の分解温度以上である180~200℃に達したことを確認した後、フィーダールーダー及びペレタイザーを用いてペレット化することで、シランMBをそれぞれ得た(工程(a-2))。
【0118】
一方、表3及び表4の「触媒MB」欄に示す、キャリア樹脂、酸化防止剤及びシラノール縮合触媒を同欄に示す質量比で予め80℃に昇温したニーダー(容量75L)に順次投入し、30rpmで5分間混合した後、更に25rpmで3分仕上げ混練(溶融混合)を行った。混合物の温度が160℃程度に達し、キャリア樹脂が十分に溶融したことを確認した後、フィーダールーダー及びペレタイザーを用いてペレット化することで、触媒MBをそれぞれ得た(工程(b))。
【0119】
次いで、シランMBと触媒MBとを表3及び表4の「シランMB」欄及び「触媒MB」欄に示す質量比で、押出成形直前に、ステンレスミキサー(型番PM-100P、マゼラー社製)により、室温(25℃)下で2分間ドライブレンドして、ドライブレンド物をそれぞれ得た(工程(c)のドライブレンド工程)。
次いで、ドライブレンド物を、L/D=24の40mm(スクリュー径)押出機(圧縮部スクリュー温度150℃、ヘッド温度180℃)に導入し、溶融混合しながら(工程(c)の溶融混合工程)、1/0.8A導体の外側に肉厚1mmで被覆し、外径2.8mmの電線前駆体(未架橋)をそれぞれ得た(工程(2))。
得られた被覆導体を、60℃、相対湿度95RH%の環境下に24時間放置して、シラン架橋性樹脂組成物と水とを接触させた(工程(3))。
こうして、導体の外周面上に好ましい形態のシラン架橋性樹脂組成物の管状成形体(好ましい形態の耐熱性シラン架橋樹脂成形体)を被覆層として有する絶縁電線をそれぞれ製造した。
【0120】
製造した各絶縁電線について、下記試験を行い、各試験結果に基づいて総合評価した。その結果を表1~表4に示す。
【0121】
<評価1:機械特性(引張)試験>
製造した各絶縁電線から導体を抜き取った被覆層(管状試験片:内径0.8mm、外径2.8mm)について、JIS C 3005に基づき、標線間20mm、引張速度200mm/分の条件で、引張強さ(MPa)及び引張伸び(%)を測定した。
本試験は、被覆層の機械特性を評価する参考試験であり、以下の基準に当てはめて評価した。
引張強さは、20.0MPa以上のものを極めて優れているもの「A」、15.0MPa以上20.0MPa未満のものを優れているもの「B」、10.0MPa以上15.0MPa未満のものを良好なもの「C」、10.0MPa未満のものを不合格「D」とした。
引張伸びは、400%以上のものを非常に優れているもの「A」、300%以上400%未満のものを優れているもの「B」、200%以上300%未満のものを良好なもの「C」、200%未満のものを不合格「D」とした。
【0122】
<評価2:加熱老化試験>
本試験は、耐熱性架橋樹脂成形体が示す耐熱性のレベル(UL規格におけるUL175℃用の高度な耐熱性)を評価する試験であり、高温環境で加速劣化させた後の物性を評価した。
具体的には、上記<評価1:機械特性(引張)試験>で作製した管状試験片を、加熱温度200℃で168時間保持した。その後、保持後の管状試験片を用いて、JIS C 3005に基づき、標線間20mm及び引張速度200mm/分の条件で、保持後の引張強さ(MPa)及び保持後の引張伸び(%)を測定した。
本試験は、以下の基準に当てはめて評価した。
保持後の引張強さ(MPa)は、15.0MPa以上のものを極めて優れているもの「A」、12.5MPa以上15.0MPa未満のものを優れているもの「B」、10.0MPa以上12.5MPa未満のものを良好なもの「C」、10.0MPa未満のものを不合格「D」とした。
保持後の引張伸び(%)は、200%以上のものを非常に優れているもの「A」、150%以上200%未満のものを優れているもの「B」、100%以上150%未満のものを良好なもの「C」、100%未満のものを不合格「D」とした。
【0123】
<評価3:端末加工性試験>
製造した各絶縁電線について端末加工性(密着性及びヒゲの有無)を評価した。
具体的には、製造した各絶縁電線を、全自動電線切断皮剥機(キャスティングマシン、型番:C370A、小寺電子製作所社製)を用いて、被覆層を20mm取り除いた試験片を50本作製した。その後、被覆層を除去した後の被覆層切断面(輪環状切断面)、及び露出した導体の表面を顕微鏡で観察し、下記基準に当てはめて密着性及びヒゲの有無を評価した。
(密着性試験の評価基準)
本密着性試験は、全ての試験片(50本)において導体の表面に被覆層の切断カスが残残存していないもの(問題無く端末加工ができるもの)を非常に優れているとして「A」、導体の表面に被覆層の切断カスが残っている試験片が1本又は2本であったものを優れているとして「B」、導体の表面に被覆層の切断カスが残っている試験片が3本又は4本であったものを良好であるとして「C」、導体の表面に被覆層の切断カスが残っている試験片が5本以上であったものを不合格として「D」で表記した。
(ヒゲの有無試験の評価基準)
ヒゲの有無試験においては、各試験片において、被覆層を除去する際に刃を挿入した箇所(輪環状切断面)から被覆層材料の線状ないし毛状に延在(伸びて残存)している部分を「ヒゲ」として、そのヒゲの長さを測定した。次に、試験片ごとに最も長いヒゲをその試験片のヒゲの長さとし、50本の試験片のヒゲの長さの平均を求めた。
ヒゲの有無試験は、ヒゲの平均長さが0.10mm未満のものを非常に優れているとして「A」、ヒゲの平均長さが0.10mm以上0.30mm未満のものを優れているとして「B」、ヒゲの平均長さが0.30mm以上0.50mm未満のものを良好であるとして「C」、ヒゲの平均長さが0.50mm以上のものを不合格として「D」で表記した。
【0124】
<評価4:耐タック性試験>
製造した各絶縁電線について被覆層同士の表面の接着の有無、すなわちタック性を評価した。
具体的には、製造した各絶縁電線100mを、胴径300mmのプラスチックボビンに張力3.0Nで引張ながら巻き取り、ボビンごと40℃の恒温槽に24時間投入した。その後、ボビンを恒温槽から取り出して室温(25℃)に戻した後、絶縁電線を張力1.5N、速度6.0m/分で引き出して、タック性を評価した。
耐タック性試験は、絶縁電線(被覆層)同士が接着していなくスムーズに引き出すことができたものを優れているとして「A」、絶縁電線同士が接着しているものの引き出した後に被覆層表面に接着跡が残っていないものを良好であるとして「B」、絶縁電線同士が接着しており、引き出した後で被覆層表面に接着跡が残っているものを不合格として「D」で表記した。
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
表1~表4に示す結果から以下のことが分かる。
すなわち、ベース樹脂の組成を満たさず、又は酸化防止剤を含有しない比較例の架橋性樹脂組成物は、いずれも、高度な耐熱性と優れた端末加工性と優れた耐タック性とを兼ね備えた耐熱性架橋物及び耐熱性架橋樹脂成形体を製造できない。例えば、スチレン共重合体を含有しない架橋性樹脂組成物(比較例1、6及び11)は、いずれも、高度な耐熱性を示さない。一方、EVAを含有する架橋性樹脂組成物(比較例2、3、7、8、12及び13)は、スチレン共重合体を含有していても(比較例3、8及び13)、末端加工性及び耐タック性に劣る。更に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤及びベンゾイミダゾール系酸化防止剤の2種の酸化防止剤を含有しない架橋性樹脂組成物(比較例4、5、9、10、14及び15)は、いずれも、高度な耐熱性を示さない。
【0130】
これに対して、スチレン共重合体を含み、EVAを含まないベース樹脂に対してヒンダードフェノール系酸化防止剤とベンゾイミダゾール系酸化防止剤とを併用した実施例の架橋性樹脂組成物は、いずれも、高度な耐熱性を発現しながらも端末加工性及び耐タック性に優れた耐熱性架橋物及び耐熱性架橋樹脂成形体を製造できる。
架橋法(架橋性樹脂組成物)に着目すると、電子線架橋性樹脂組成物、過酸化物架橋性樹脂組成物、シラン架橋性樹脂組成物、好ましい形態のシラン架橋性樹脂組成物の順で、高度な耐熱性と優れた端末加工性と優れた耐タック性とをより高い水準でバランスよく鼎立できる。