(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140269
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂成形体及び樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 33/04 20060101AFI20241003BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20241003BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L33/04
C08K3/00
C08J5/18 CEY
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051329
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】桑原 彩香
(72)【発明者】
【氏名】北條 淳征
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA32
4F071AD04
4F071AD06
4F071AF30Y
4F071AF34
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4J002BG041
4J002BG042
4J002BG051
4J002BG061
4J002BG062
4J002DE106
4J002DE136
4J002DE146
4J002DJ016
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】光学特性、照明点灯時の青み及び拡散性に優れた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル系(共)重合体(X)と、ナノ粒子(Y)と、平均粒子径が1μm以上であり、架橋構造を有するアクリル系粒子(Z)と、を含有する樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系(共)重合体(X)と、
ナノ粒子(Y)と、
平均粒子径が1μm以上であり、架橋構造を有するアクリル系粒子(Z)と、
を含有する樹脂組成物。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系(共)重合体(X)100質量部に対し、前記ナノ粒子(Y)を0.01質量部~0.1質量部含有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル系(共)重合体(X)100質量部に対し、前記アクリル系粒子(Z)を0.01質量部~5質量部含有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記アクリル系粒子(Z)の平均粒子径が1μm~50μmである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記アクリル系粒子(Z)が中空粒子である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ナノ粒子(Y)の粒子径が10nm~80nmである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含有する樹脂成形体。
【請求項8】
JIS K7361-1に準拠して波長380nm~780nmの範囲にて測定した全光線透過率が71.7%~90%であり、JIS K7136に準拠して波長380nm~780nmの範囲にて測定したヘーズが20%~90%である、請求項7に記載の樹脂成形体。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂組成物を成形する工程を有する、樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂成形体及び樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天空を模倣した室内用の照明装置が販売されている。このような照明装置は、青空照明、天窓照明又は天空照明などと呼ばれ、室内の天井に設置されることが多い。照明装置が天空を模擬することにより自然環境が再現され、室内においても奥行き感のある天空や自然光を体験することができる。このような照明装置によれば、病院の待合室のような閉鎖的な空間であっても、該照明装置によって創り出される疑似天窓が来院者の気分を改善させる効果をもたらす。
【0003】
ところで、昼間に地上から見える空が青いのは、太陽光が、該太陽光の波長よりも十分に小さい分子に衝突することで、短波長の青い光が長波長の赤い光よりも強く散乱されるためである(レイリー散乱)。青空照明は、この現象を利用したものであり、一般的に、透明樹脂にレイリー散乱を発生させ得るナノ粒子を分散させて得られる媒質が用いられる。特許文献1では、自然な青空を再現できる拡散体及び該拡散体を用いた照明装置が提案されている。特許文献1に記載の拡散体は、媒質と該媒質中に存在するナノ粒子とを含み、特定のパラメータを有する。また、特許文献2では、太陽光の拡散を再現する拡散体が提案されている。特許文献2に記載の拡散体は、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)と、特定の粒子径を有するナノ粒子としてTiO2やZnOとを含み、特定のパラメータを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/240933号
【特許文献2】国際公開第2009/156348号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2に記載の拡散体において、媒質は、レイリー散乱を起こすナノ粒子を含み、該ナノ粒子が散乱機能と拡散機能を併せ持つと考えられる。しかし、ナノ粒子に、散乱機能に加えて拡散機能を持たせる場合、十分な拡散性を得るためには、ナノ粒子を多量に添加する必要がある。その結果、該拡散体を用いた照明装置においては、照明点灯時の青みが低減し、照明点灯時に白みが生じるという課題があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明の目的は、光学特性、照明点灯時の青み及び拡散性に優れた樹脂組成物並びに樹脂成形体を提供することにある。また、本発明の目的は、前記樹脂成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下を要旨とする。
[1](メタ)アクリル系(共)重合体(X)と、ナノ粒子(Y)と、平均粒子径が1μm以上であり、架橋構造を有するアクリル系粒子(Z)と、を含有する樹脂組成物。
[2]前記(メタ)アクリル系(共)重合体(X)100質量部に対し、前記ナノ粒子(Y)を0.01質量部~0.1質量部含有する、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記(メタ)アクリル系(共)重合体(X)100質量部に対し、前記アクリル系粒子(Z)を0.01質量部~5質量部含有する、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4]前記アクリル系粒子(Z)の平均粒子径が1μm~50μmである、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]前記アクリル系粒子(Z)が中空粒子である、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]前記ナノ粒子(Y)の粒子径が10nm~80nmである、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物を含有する樹脂成形体。
[8]JIS K7361-1に準拠して波長380nm~780nmの範囲にて測定した全光線透過率が71.7%~90%であり、JIS K7136に準拠して波長380nm~780nmの範囲にて測定したヘーズが20%~90%である、[7]に記載の樹脂成形体。
[9][1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物を成形する工程を有する、樹脂成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光学特性、照明点灯時の青み及び拡散性に優れた樹脂組成物並びに樹脂成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例において照明点灯時の青み及び拡散性の評価に使用したブラックボックスを示す図である。
【
図2】前記ブラックボックスにLED光源と樹脂成形体を設置した様子を示す図である。
【
図3】
図2に示すブラックボックスを、紙面正面側から観察したときの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0011】
本発明において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」と「メタクリル」の一方又は双方を意味する。したがって、「(メタ)アクリル系」は、「アクリル系」と「メタクリル系」の一方又は双方を意味する。また、本発明において、「(共)重合体」は、「重合体」と「共重合体」の一方又は双方を意味する。
【0012】
本発明において、「単量体(モノマー)」は、未重合の化合物を意味し、「繰り返し単位」は、単量体が重合することによって形成される、該単量体に由来する単位を意味する。繰り返し単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、重合体(ポリマー)を処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
【0013】
本発明において、「質量%」は、対象物(全体量:100質量%)中に含まれる所定成分の含有割合を示す。
本発明において、特に断らない限り、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、「A以上B以下」であることを意味する。
【0014】
<樹脂組成物(M)>
本発明に係る樹脂組成物(M)は、少なくとも、(メタ)アクリル系(共)重合体(X)と、ナノ粒子(Y)と、平均粒子径が1μm以上であり、架橋構造を有するアクリル系粒子(Z)(以下、単に「アクリル系粒子(Z)」ともいう)と、を含有する。樹脂組成物(M)が、上記成分を含有することにより、樹脂組成物の白みが抑制され、結果として、光学特性、照明点灯時の青み及び拡散性に優れた樹脂成形体を得ることができる。
【0015】
[(メタ)アクリル系(共)重合体(X)]
(メタ)アクリル系(共)重合体(X)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチルの単独重合体や、(メタ)アクリル酸メチルと1種類以上のビニル系単量体との共重合体(以下、「(メタ)アクリル酸メチル系共重合体」ともいう)が挙げられる。該(メタ)アクリル酸メチル系共重合体としては、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル単位を50質量%以上含む共重合体等が挙げられる。(メタ)アクリル系(共)重合体(X)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
これらの(メタ)アクリル系(共)重合体(X)の中でも、光学特性、機械特性、耐熱性、及び透明性に優れることから、メタクリル酸メチル単独重合体、又はメタクリル酸メチル単位を50質量%以上含む共重合体(メタクリル酸メチル系共重合体)が好ましい。メタクリル酸メチル系共重合体としては、メタクリル酸メチル単位を60質量%以上含む共重合体がより好ましく、メタクリル酸メチル単位を70質量%以上含む共重合体がさらに好ましい。
【0017】
前記ビニル系単量体は、(メタ)アクリル酸メチルと共重合可能な単量体であり、かつ該(メタ)アクリル酸メチル以外の単量体であれば特に限定されるものではない。ビニル系単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸ノルボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアダマンチル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ノルボルニルメチル、(メタ)アクリル酸メンチル、(メタ)アクリル酸フェンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸シクロデシル、(メタ)アクリル酸4-t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸トリメチルシクロヘキシル等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、ビニル系単量体として、アクリル酸メチル及びメタクリル酸メチルを例示しているが、これは、(メタ)アクリル系(共)重合体(X)が、アクリル酸メチルとメタクリル酸メチルとの共重合体であってもよいことを意図するものである。
【0018】
[ナノ粒子(Y)]
ナノ粒子(Y)は、太陽光の波長よりも十分小さく、レイリー散乱を起こす粒子径を有するものであれば特に限定されない。このようなナノ粒子(Y)としては、TiO2、Al2O3、ZnO2、及びSiO2等が挙げられる。ナノ粒子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。一般的に、これらのナノ粒子は、分散性を担保する目的で、溶剤に分散した形態で使用されることが多い。本実施形態においても、樹脂組成物及び樹脂成形体中におけるナノ粒子(Y)の分散性を向上させる観点から、ナノ粒子(Y)を溶剤に分散させた分散液として、すなわち、ナノ粒子分散体(ナノ粒子含有ゾル)として添加することが好ましい。
ナノ粒子分散体としては、テイカ(株)製のHTD-710T(商品名、TiO2-IPA分散体、固形分濃度:40質量%、粒子径:15nm~50nm)、及びHTD-711Z(商品名、ZnO2-IPA分散体、固形分濃度:45質量%、粒子径:20nm~30nm);並びにCIKナノテック(株)製のRTTMIBK20wt%-H36(商品名、TiO2-MIBK分散体、固形分濃度:20質量%、粒子径:36nm)等が挙げられる。
【0019】
ナノ粒子(Y)と前記(メタ)アクリル系(共)重合体(X)との屈折率差が大きい場合、ナノ粒子(Y)の粒子径及び/又は添加量によって、得られる樹脂組成物及び樹脂成形体が白みを生じる場合がある。そのため、樹脂組成物及び樹脂成形体の透明性、白み低減、並びにナノ粒子の凝集抑制の観点から、ナノ粒子(Y)の粒子径は1nm~100nmが好ましく、10nm~80nmがより好ましい。なお、本発明において、ナノ粒子(Y)の粒子径は、X線回折装置を用いてXRDピーク強度及びピークの半値幅を測定し、Scherrer法を適用することにより算出した結晶子径を意味する。
【0020】
樹脂組成物(M)中のナノ粒子(Y)の含有量は、(メタ)アクリル系(共)重合体(X)100質量部に対して、0.01質量部~0.1質量部が好ましい。ナノ粒子(Y)の含有量が上記範囲であれば、ナノ粒子(Y)が十分にレイリー散乱を起こすことができる。ナノ粒子(Y)の含有量は、0.01質量部~0.09質量部がより好ましく、0.01質量部~0.07質量部がさらに好ましい。
【0021】
[アクリル系粒子(Z)]
アクリル系粒子(Z)は、平均粒子径が1μm以上であり、架橋構造を有する。アクリル系粒子(Z)は、樹脂組成物及び樹脂成形体において拡散性を付与する役割を担う。樹脂成形体の透明性及び白み低減の観点から、アクリル系粒子(Z)は、メタクリル酸メチル単位を含むことが好ましい。アクリル系粒子(Z)としては、積水化成品工業(株)製のMBX-5(商品名、屈折率:1.495、平均粒子径:5μm)及びSMX-5R(商品名、屈折率:1.555、平均粒子径:5μm);綜研化学(株)製のMX-300(商品名、屈折率:1.49、平均粒子径:3μm)及びMX-500L(商品名、屈折率:1.49、平均粒子径:5μm)等が挙げられる。
【0022】
なお、本発明において、アクリル系粒子(Z)の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求められる体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(D50)である。アクリル系粒子(Z)の平均粒子径は、得られる樹脂組成物及び樹脂成形体が優れた平滑性及び優れた外観を有する観点から、50μm以下であることが好ましい。
【0023】
アクリル系粒子(Z)は、架橋重合体から形成されているシェルと、該シェルに囲まれた中空部と、を備えた中空粒子であってもよい。該シェルは1つの層から構成されていてもよく、複数の層から構成されていてもよい。中空粒子は比重が小さいため、質量当たりの粒子数が多くなる傾向にあり、樹脂組成物及び樹脂成形体に、効率よく拡散性を付与することができる。そのようなアクリル系粒子(Z)としては、例えば、積水化成品工業(株)製のMBP-8(商品名、平均粒子径:8μm)を挙げることができる。
【0024】
十分な拡散性を得る観点から、樹脂組成物(M)中のアクリル系粒子(Z)の含有量は、前記(メタ)アクリル系(共)重合体(X)100質量部に対して0.01質量部~5質量部が好ましく、0.05質量部~4質量部がより好ましく、0.07質量部~3質量部がさらに好ましく、0.1質量部~2質量部が特に好ましい。
【0025】
[各種添加剤]
樹脂組成物(M)は、熱線遮熱性、低着色性、及び可視光領域の全光線透過率を損なわない範囲で、各種添加剤をさらに含有することができる。添加剤の具体例としては、離型剤、滑剤、可塑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤、重合禁止剤、充填剤、顔料、染料、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤、蛍光剤、及び連鎖移動剤等が挙げられる。
【0026】
<樹脂成形体>
本発明に係る樹脂成形体は、上述した本発明に係る樹脂組成物(M)を含有するため、照明点灯時の青み及び拡散性に優れる。なお、本発明に係る樹脂成形体は、本発明に係る樹脂組成物を成形することにより得られる。
【0027】
本発明の一実施形態に係る樹脂成形体において、JIS K7361-1(プラスチック-透明材料の全光線透過率の試験方法-第1部:シングルビーム法)に準拠して波長380nm~780nmの範囲にて測定した全光線透過率は、71.7%~90%であることが好ましい。全光線透過率は、透明性を表す指標であり、全光線透過率が71.7%以上である樹脂成形体は、透明性により優れ、照明点灯時の白みを抑制しやすい。また、全光線透過率が90%以下であれば、照明点灯時の青みにより優れた樹脂成形体となる。樹脂成形体の全光線透過率は、72.0%以上がより好ましく、72.5%以上がさらに好ましい。また、樹脂成形体の全光線透過率は、89%以下がより好ましい。
【0028】
樹脂成形体の全光線透過率を上記範囲に制御する方法としては、例えば、(メタ)アクリル系(共)重合体(X)の屈折率nAとアクリル系粒子(Z)の屈折率nZとの屈折率差が0.2以下となるように、(メタ)アクリル系(共)重合体(X)及びアクリル系粒子(Z)の種類又は配合量を制御する方法が挙げられる。
【0029】
また、本発明の一実施形態に係る樹脂成形体において、JIS K7136(プラスチック-透明材料のヘーズの求め方)に準拠して波長380nm~780nmの範囲にて測定したヘーズは、20%~90%であることが好ましい。ヘーズは、曇価や濁度などと呼ばれ、光の拡散度合いを表す指標である。ヘーズが90%以下である樹脂成形体は、透明性により優れ、青空照明のように透明性が要求される用途に好適に用いることができる。
【0030】
樹脂成形体のヘーズを上記範囲に制御する方法としては、例えば、(メタ)アクリル系(共)重合体(X)の屈折率nAとアクリル系粒子(Z)の屈折率nZとの屈折率差が0.2以下となるように、(メタ)アクリル系(共)重合体(X)及びアクリル系粒子(Z)の種類又は配合量を制御する方法が挙げられる。
【0031】
<樹脂組成物(M)及び樹脂成形体の製造方法>
本発明に係る樹脂組成物(M)の製造方法としては、原料である重合性組成物(M2)を重合する方法が挙げられる。該重合性組成物(M2)は、本発明に係る樹脂組成物(M)を得るための原料の一態様であり、少なくとも、後述する原料組成物(M1)及びラジカル重合開始剤と、前記ナノ粒子(Y)と、前記アクリル系粒子(Z)と、を含有する組成物である。また、本発明に係る樹脂成形体の製造方法は、本発明に係る樹脂組成物(M)を成形する工程を有する。
【0032】
[重合法]
重合性組成物(M2)の重合法としては、例えば、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法及び分散重合法が挙げられる。これらの中でも、生産性の点から塊状重合法が好ましく、塊状重合法の中でもキャスト重合法(注型重合法)がより好ましい。
【0033】
キャスト重合法としては、例えば、以下に説明するセルキャスト法及び連続キャスト法が挙げられる。板状の形態を有する樹脂成形体を得る場合、対向する2枚のガラス板又は金属板(SUS板)と、その縁部に配置された軟質樹脂チューブ等のガスケットと、から形成された空間を鋳型とする。次いで、重合性組成物(M2)(後述するシラップを含んでいてもよい)を前記鋳型に注入し、加熱・重合処理することによって重合を完結させ、樹脂組成物(M)を得る。そして、鋳型から、該樹脂組成物(M)の成形体である樹脂成形体を取り出す(セルキャスト法)。
あるいは、同一方向に同一速度で所定の間隔をもって対向して走行する2枚のステンレス製エンドレスベルトと、その両側辺部に配置された軟質樹脂チューブ等のガスケットと、から形成された空間を鋳型とする。次いで、前記エンドレスベルトの一端から連続的に、重合性組成物(M2)(後述するシラップを含んでいてもよい)を前記鋳型に注入し、加熱・重合処理することによって重合を完結させ、樹脂組成物(M)を得る。そして、エンドレスベルトの他端から連続的に、樹脂組成物(M)の成形体である樹脂成形体を取り出す(連続キャスト法)。
鋳型の空隙の間隔をガスケットの太さ(直径)で適宜調整することにより、所望の厚みを有する樹脂成形体を得ることができる。樹脂成形体の厚みは、通常、0.1mm~50mmの範囲に設定される。
【0034】
[重合性組成物(M2)]
上記のとおり、本発明の一態様における重合性組成物(M2)は、少なくとも、原料組成物(M1)と、ラジカル重合開始剤と、前記ナノ粒子(Y)と、前記アクリル系粒子(Z)とを含有する。
【0035】
(原料組成物(M1))
原料組成物(M1)は、前記重合性組成物(M2)の構成成分であり、前記(メタ)アクリル系(共)重合体(X)の原料成分でもある。すなわち、原料組成物(M1)は、アクリル酸メチル単独からなる組成物、メタクリル酸メチル単独からなる組成物、又は(メタ)アクリル酸メチルと1種類以上のビニル系単量体とを含む組成物である。ビニル系単量体としては、上述したものを用いることができる。原料組成物(M1)中の(メタ)アクリル酸メチルと、ビニル系単量体との含有比率は、特に限定されるものではない。例えば、最終的に得られる(メタ)アクリル系(共)重合体(X)中に、該(メタ)アクリル系(共)重合体(X)の総質量を100質量%として、(メタ)アクリル酸メチルを50質量%以上100質量%以下、前記ビニル系単量体を0質量%以上50質量%以下含むように適宜設定すればよい。
【0036】
光学特性、機械特性、耐熱性、及び透明性の観点から、原料組成物(M1)は、メタクリル酸メチルを50質量%以上含む組成物が好ましく、メタクリル酸メチルを60質量%以上含む組成物がより好ましく、メタクリル酸メチルを70質量%以上含む組成物がさらに好ましい。
【0037】
上記のとおり、原料組成物(M1)は、(メタ)アクリル系(共)重合体(X)の原料となる単量体から構成される組成物であるが、メタクリル酸メチルを含む重合体を含んでいてもよい。具体的には、原料組成物(M1)は、後述する重合体(a)を、予め含むことができる。原料組成物(M1)が重合体(a)を含むことにより、重合性組成物(M2)は粘性を有する液体となる。その結果、重合時間の短縮が可能となり、生産性を向上することができる。なお、本発明において、単量体組成物と重合体(a)を含む原料組成物(M1)の構成成分を「シラップ」という。シラップを得る方法としては、例えば、原料組成物(M1)に重合体(a)を溶解させる方法、又は原料組成物(M1)に公知のラジカル重合開始剤を添加し、該原料組成物(M1)の一部を予め重合させて重合体(a)とする方法が挙げられる。
【0038】
具体的に、重合性組成物(M2)の一態様である、シラップを含む重合性組成物(M2)としては、下記重合体(a)と下記単量体組成物(m)とを含む組成物が挙げられる。
重合体(a):重合体(a)の総質量に対して、メタクリル酸メチル単位を50質量%以上100質量%未満と、前記1種類以上のビニル系単量体を0質量%超え50質量%以下とを含む重合体、又は、メタクリル酸メチル単位100質量%からなる重合体。
単量体組成物(m):単量体組成物(m)の総質量に対して、メタクリル酸メチルを50質量%以上100質量%未満と、前記1種類以上のビニル系単量体を0質量%超え50質量%以下とを含む単量体組成物、又は、メタクリル酸メチル100質量%からなる単量体組成物。
【0039】
(ラジカル重合開始剤)
前記重合性組成物(M2)を重合して樹脂組成物(M)を得る反応においては、ラジカル重合開始剤を使用してもよい。ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等の公知のアゾ化合物;並びにt-ヘキシルパーオキシピバレート、ベンゾイルパーオキサイド及びラウロイルパーオキサイド等の公知の有機過酸化物が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、必要に応じて、ラジカル重合開始剤と共に、アミン及びメルカプタン等の公知の重合促進剤を併用することができる。
重合性組成物(M2)中のラジカル重合開始剤の含有量は、特に限定されるものではなく、当業者が周知技術に従い適宜設定することができる。ラジカル重合開始剤の含有量は、通常、原料組成物(M1)100質量部に対して、0.01質量部~0.5質量部である。
【0040】
重合性組成物(M2)を重合する際の重合温度は特に限定されるものでなく、当業者が周知技術に従い適宜設定することができる。重合温度は、通常、使用するラジカル重合開始剤の種類に応じて20℃~150℃の範囲で適宜設定される。また、重合性組成物(M2)の重合は、必要に応じて多段階の温度条件で行うことができる。
【0041】
(ナノ粒子(Y))
樹脂組成物(M)の製造において、重合性組成物(M2)中に含まれる前記ナノ粒子(Y)の含有量は特に限定されるものではない。ただし、前記(メタ)アクリル系(共)重合体(X)に対するナノ粒子(Y)の含有量と同様に、原料組成物(M1)100質量部に対して、0.01質量部~0.1質量部であることが好ましい。より好ましい範囲等についても、前記(メタ)アクリル系(共)重合体(X)に対するナノ粒子(Y)の含有量と同様である。
【0042】
(アクリル系粒子(Z))
重合性組成物(M2)中に含まれる前記アクリル系粒子(Z)の含有量は特に限定されるものではない。ただし、前記(メタ)アクリル系(共)重合体(X)に対するアクリル系粒子(Z)の含有量と同様に、原料組成物(M1)100質量部に対して、0.01質量部~5質量部が好ましく、0.05質量部~4質量部がより好ましく、0.07質量部~3質量部がさらに好ましく、0.1質量部~2質量部が特に好ましい。
【0043】
なお、ナノ粒子(Y)及びアクリル系粒子(Z)は、そのまま原料組成物(M1)と混合してもよい。あるいは、予めナノ粒子(Y)及びアクリル系粒子(Z)を適当な有機溶剤に分散させて分散体とした後、該分散体を原料組成物(M1)と混合してもよい。
【実施例0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
[各成分の略号及び詳細]
実施例及び比較例で使用した各成分の略号及び詳細は、以下のとおりである。
MMA:メタクリル酸メチル(三菱ケミカル(株)製)
HPP:t-ヘキシルパーオキシピバレート(日油(株)製)
ナノ粒子(Y)含有ゾル:HTD-711Z(商品名、テイカ(株)製、IPA分散体、ZnO2粒子濃度:45質量%、粒子径:20~30nm)
ナノ粒子(Y)含有ゾル:HTD-710T(商品名、テイカ(株)製、IPA分散体、TiO2粒子濃度:40質量%、粒子径:15~50nm)
アクリル系粒子(Z):MBX-5(商品名、積水化成品工業(株)製、屈折率:1.495、平均粒子径:5μm)
アクリル系粒子(Z):MBP-8(商品名、積水化成品工業(株)製、中空粒子、平均粒子径:8μm)
シリコーン系粒子:トスパール120(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、平均粒子径:2μm)
シリコーン系粒子:トスパール145(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、平均粒子径:4.5μm)
【0046】
[評価方法]
実施例及び比較例における評価は、以下の方法により実施した。
【0047】
(1)全光線透過率
透明性の指標となる全光線透過率(平衡入射光束に対する全透過光束の割合)を、積分球式光線透過率測定装置(機種名:NDH4000、日本電色工業(株)製)を用いて、以下のように測定した。JIS K7361-1に準拠して、樹脂成形体の試験片(縦:50mm×横:50mm、厚さ:5mm)に平行光を入射し、波長380nm~780nmの範囲における全光線透過率(Tt)を測定した。試験片3点を用いて、各試験片につき1回測定を行い、その平均値を全光線透過率(%)とした。
【0048】
(2)ヘーズ
拡散性の指標となるヘーズ(平衡入射光束に対する拡散透過光束の割合)を、積分球式光線透過率測定装置(機種名:NDH4000、日本電色工業(株)製)を用いて、以下のように測定した。JIS K7136に準拠して、樹脂成形体の試験片(縦:50mm×横:50mm、厚さ:5mm)に平行光を入射し、波長380nm~780nmの範囲におけるヘーズを測定した。試験片3点を用いて、各試験片につき1回測定を行い、その平均値をヘーズ(%)とした。
【0049】
(3)青み及び拡散性
図1に示すようなブラックボックスを用意した。
図2に示すように、該ブラックボックスの底部の一辺にLED光源Aを15個設置し、さらに、該ブラックボックスの上部一面に樹脂成形体Bの試験片(縦:300mm×横:600mm、厚さ:5mm)を設置した。
図3は、
図2に示すブラックボックスを、紙面正面側から観察したときの断面図である。
図3に示すように、LED光源Aと樹脂成形体Bの試験片とのなす角度が30°となる測定箇所Xにおける光源の透けを目視で評価し、拡散性の指標とした。また、LED光源A点灯時の該測定箇所Xにおける樹脂成形体の青みを目視で評価した。なお、測定箇所Xは、
図2に示すブラックボックスの紙面奥行方向(
図1中、Dの方向)にライン状に存在するものであり、青み及び拡散性は、この測定箇所Xが存在するライン上において評価した。青み及び拡散性は、それぞれ以下に示す基準(ランク)により評価した。
(評価基準)
AA:青み又は拡散性が特に優れる
A :青み又は拡散性が優れる
B :青み又は拡散性が不足している
【0050】
[実施例1]
(1)シラップの製造
冷却管、温度計及び攪拌機を備えた反応器(重合釜)に、単量体組成物(m)としてのMMA100質量部を供給し、窒素ガスをバブリングしながら15分間撹拌した後、反応器の内温が60℃となるまで攪拌しながら昇温した。次いで、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.1質量部を該反応器に添加し、混合物を100℃になるまで攪拌しながら昇温した後、13分間保持した。次いで、反応器の内温が室温になるまで冷却することによりシラップを得た。シラップ中の重合体(a)の含有率は20質量%であった。
【0051】
(2)注型重合
上記シラップ94質量部に対して、メタクリル酸メチル6質量部と、ナノ粒子(Y)含有ゾルとしてのHTD-711Zを0.1質量部(ZnO2は0.045質量部)と、アクリル系粒子(Z)としてのMBX-5を0.5質量部と、ラジカル重合開始剤としてのHPPを0.4質量部と、を撹拌しながら添加して溶解したものを重合性組成物(M2)とした。
対向して配置した2枚のSUS板の端部に、2枚のSUS板の空隙間隔が一定になるように軟質樹脂製ガスケットを設置して、鋳型を作製した。次いで、該鋳型の中に、前記重合性組成物(M2)を流し込み、軟質樹脂製ガスケットで封止し、80℃まで昇温して40分間保持した。さらに130℃まで昇温して30分間保持し、重合性組成物(M2)を重合させることにより、樹脂組成物(M)を得た。その後、室温まで冷却し、SUS板を取り除いて、厚さ5mmの板状の樹脂成形体を得た。得られた樹脂成形体について、全光線透過率の測定、ヘーズの測定、及び青みと拡散性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0052】
[実施例2~8]
重合性組成物(M2)の組成を表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様に樹脂組成物(M)及び樹脂成形体を製造し、得られた樹脂成形体について、全光線透過率の測定、ヘーズの測定、及び青みと拡散性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0053】
[比較例1~2]
アクリル系粒子(Z)を使用しなかった以外は、それぞれ実施例1又は4と同様に樹脂組成物(M)及び樹脂成形体を製造し、得られた樹脂成形体について、全光線透過率の測定、ヘーズの測定、及び青みと拡散性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0054】
[比較例3~4]
平均粒子径が1μm以上であり、架橋構造を有する粒子として、アクリル系粒子(Z)に替えて、それぞれシリコーン系粒子であるトスパール120又は145を表1に示す組成で使用した以外は、実施例1と同様に樹脂組成物(M)及び樹脂成形体を製造した。得られた樹脂成形体について、全光線透過率の測定、ヘーズの測定、及び青みと拡散性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
表1から、以下のことが分かる。
実施例1~8に係る樹脂成形体は、(メタ)アクリル系(共)重合体(X)と、ナノ粒子(Y)と、平均粒子径が1μm以上であり、架橋構造を有するアクリル系粒子(Z)とを含むため、照明点灯時の青み及び拡散性に優れていた。
一方で、アクリル系粒子(Z)を含まない、比較例1~2に係る樹脂成形体は、ヘーズが低いか、又は透明性が不十分であり、拡散性に劣っていた。また、平均粒子径が1μm以上であり、架橋構造を有する粒子としてシリコーン系粒子を含有する比較例3~4に係る樹脂成形体は、透明性が不十分であり、かつ照明点灯時の青みが劣っていた。比較例4に係る樹脂成形体では、さらに拡散性も劣っていた。